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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016309
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】固体分散体
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/496 20060101AFI20240131BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240131BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240131BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240131BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20240131BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240131BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
A61K31/496
A61P11/00
A61P43/00 105
A61K9/20
A61K47/26
A61K47/38
A61K47/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020211267
(22)【出願日】2020-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】000109831
【氏名又は名称】トーアエイヨー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西本 雄哉
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA36
4C076BB01
4C076CC15
4C076CC26
4C076DD38Q
4C076EE16Q
4C076EE33Q
4C076EE48Q
4C076FF02
4C076FF63
4C076GG01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC50
4C086GA07
4C086GA12
4C086GA14
4C086MA02
4C086MA34
4C086MA52
4C086NA03
4C086ZA59
4C086ZB21
(57)【要約】
【課題】ニンテダニブ由来の不純物含有量が少ないニンテダニブ含有固体分散体を提供すること。
【解決手段】以下の成分(a)及び(b)を含有する固体分散体。
(a)ニンテダニブ若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物
(b)糖アルコール、コポビドン及びヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の成分
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(a)及び(b)を含有する固体分散体。
(a)ニンテダニブ若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物
(b)糖アルコール、コポビドン及びヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の成分
【請求項2】
成分(b)として糖アルコールを含有する、請求項1に記載の固体分散体。
【請求項3】
糖アルコールとしてエリスリトール及びキシリトールからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有する、請求項2に記載の固体分散体。
【請求項4】
成分(b)としてコポビドン及びヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有する、請求項1に記載の固体分散体。
【請求項5】
成分(a)と成分(b)との質量比〔(a):(b)〕が3:1~1:10である、請求項1~4のいずれか1項に記載の固体分散体。
【請求項6】
成分(a)が非晶質である、請求項1~5のいずれか1項に記載の固体分散体。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の固体分散体を含有する医薬組成物。
【請求項8】
固形製剤である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
経口投与用製剤である、請求項7又は8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
(b)糖アルコール、コポビドン及びヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を担体として用いる、(a)ニンテダニブ若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を含有する固体分散体の製造方法。
【請求項11】
成分(a)を成分(b)と溶融混錬する溶融混錬工程と、当該溶融混錬工程で得られた溶融物を固化させる固化工程とを含む、請求項10に記載の固体分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体分散体に関する。詳細には、ニンテダニブ若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を含有する固体分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
ニンテダニブは下記式(1)で表される低分子チロシンキナーゼ阻害剤であり、特発性肺線維症、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患、進行性線維化を伴う間質性肺疾患の治療に効果を有し、エタンスルホン酸塩として製造販売されている(非特許文献1、2)。
【0003】
【化1】
【0004】
水難溶性化合物は医薬品とした場合に、吸収性が低く、バイオアベイラビリティが乏しくなる傾向にある。ニンテダニブはこのような水難溶性化合物であり、実際、バイオアベイラビリティは健常人男性で約4.69%と低いものである(非特許文献1、2)。また、ニンテダニブは凝集性を有することが示唆されている(非特許文献3)。
【0005】
一方、固体分散体は、不活性な担体中に薬物が分散した固体状態のものをいい、薬物の固体分散体化は、例えば、薬物の溶解性やバイオアベイラビリティを改善するため、苦味マスキングや徐放化などの放出制御のため、或いは凝集を抑えるなどして安定化するために用いられる技術である。
ニンテダニブの固体分散体としては、ポビドンと大豆レシチンを担体とした固体分散体(非特許文献4)や、ポビドンを担体とした固体分散体、シクロデキストリンを担体とした固体分散体(特許文献1)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2017/077551号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】オフェブカプセル 添付文書 2020年8月改訂(第3版)
【非特許文献2】オフェブカプセル インタビューフォーム 2020年8月改訂(第9版)
【非特許文献3】オーストラリアン・パブリック・アセスメント・レポート・フォー・ニンテダニブ・エシレート(Australian Public Assessment Report for Nintedanib esilate)、2016年2月発行
【非特許文献4】インターナショナル・ジャーナル・オブ・ナノメディシン(International Journal of Nanomedicine)、2018年、13巻、8379-8393ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者が検討したところ、ポビドンを担体として用いた場合には、固体分散体を製造する過程でニンテダニブ由来の不純物含有量が増大することがわかった。また、大豆レシチンは液体であり、ホットメルトエクストリュージョン法(以下、「HME法」ともいう。)に担体として用いるのに適するものではなく、大豆レシチンを担体とした広範な種類の製法による固体分散体の調製は困難であった。
【0009】
本発明の課題は、ニンテダニブ由来の不純物含有量が少ないニンテダニブ含有固体分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ニンテダニブ若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物に、糖アルコール、コポビドン及びヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を組み合わせて固体分散体とすることによって、ニンテダニブ由来の不純物含有量を低減できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の<1>~<11>を提供するものである。
<1> 以下の成分(a)及び(b)を含有する固体分散体。
(a)ニンテダニブ若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物
(b)糖アルコール、コポビドン及びヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の成分
【0012】
<2> 成分(b)として糖アルコールを含有する、<1>に記載の固体分散体。
<3> 糖アルコールとしてエリスリトール及びキシリトールからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有する、<2>に記載の固体分散体。
<4> 成分(b)としてコポビドン及びヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有する、<1>に記載の固体分散体。
<5> 成分(a)と成分(b)との質量比〔(a):(b)〕が3:1~1:10である、<1>~<4>のいずれかに記載の固体分散体。
<6> 成分(a)が非晶質である、<1>~<5>のいずれかに記載の固体分散体。
<7> <1>~<6>のいずれかに記載の固体分散体を含有する医薬組成物。
<8> 固形製剤である、<7>に記載の医薬組成物。
<9> 経口投与用製剤である、<7>又は<8>に記載の医薬組成物。
【0013】
<10> (b)糖アルコール、コポビドン及びヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を担体として用いる、(a)ニンテダニブ若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を含有する固体分散体の製造方法。
<11> 成分(a)を成分(b)と溶融混錬する溶融混錬工程と、当該溶融混錬工程で得られた溶融物を固化させる固化工程とを含む、<10>に記載の固体分散体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ニンテダニブ由来の不純物含有量が少ないニンテダニブ含有固体分散体を提供できる。
本発明の製造方法によれば、ニンテダニブ由来の不純物含有量が少ないニンテダニブ含有固体分散体を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔固体分散体〕
本発明において「固体分散体」とは、不活性な担体中に薬物が分散した固体状態のものをいう。
(成分(a))
本発明の固体分散体は、(a)ニンテダニブ若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を含有する。
ニンテダニブ(化学名:(3Z)-3-[({4-[N-メチル-2-(4-メチルピペラジン-1-イル)アセトアミド]フェニル}アミノ)(フェニル)メチリデン]-2-オキソ-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-6-カルボン酸メチル)は、下記式(1)で表される化合物である。
【0016】
【化2】
【0017】
ニンテダニブの塩は、薬学的に許容されるものであればよく、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、酒石酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩等の有機酸塩等が挙げられる。また、溶媒和物としては、水和物、アルコール和物が挙げられる。
【0018】
このような成分(a)の中でも、ニンテダニブのフリー体、ニンテダニブエタンスルホン酸塩が好ましく、ニンテダニブエタンスルホン酸塩がより好ましい。
【0019】
本発明において、固体分散体中のニンテダニブ若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物は、非晶質でも結晶の状態でもよい。成分(a)としては、溶解性を高める場合には非晶質のものが好ましい。成分(a)が非晶質の場合には成分(a)が高いエネルギー状態となり、投与後に消化管内で成分(b)とともに消化管液に溶解したときに過飽和状態を示し、これにより特に高い溶解性(溶出性)が期待できる。
本明細書において「非晶質」とは、固体分散体中の成分(a)の一部又は全部が非晶質状態であることをいい、固体分散体中に存在する成分(a)のうち95%以上が非晶質状態であることが好ましい。
非晶質化の判定は、粉末X線回折測定にて行うことができる。具体的には、実施例に記載の方法で判定すればよい。
【0020】
成分(a)の含有量は、不純物低減等の観点から、本発明の固体分散体中、10質量%以上75質量%以下が好ましく、15質量%以上65質量%以下がより好ましく、15質量%以上60質量%以下が更に好ましく、20質量%以上50質量%以下が更に好ましい。特に、不純物低減、非晶質化容易性の観点からは、25質量%以上40質量%以下が更に好ましく、25質量%以上30質量%以下が特に好ましい。
【0021】
(成分(b))
本発明の固体分散体は、(b)糖アルコール、コポビドン及びヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有する。成分(b)は、固体分散体中で担体として作用し且つニンテダニブ由来の不純物を生じにくくする。また、成分(b)は、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
糖アルコールとしては、不純物低減、非晶質化容易性の観点から、炭素数4~6の糖アルコールが好ましく、炭素数4~5の糖アルコールがより好ましく、炭素数4の糖アルコールが特に好ましい。糖アルコールとしては、例えば、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトールが挙げられる。糖アルコールの中では、不純物低減の観点から、エリスリトール、キシリトール、マンニトールが好ましく、エリスリトール、キシリトールがより好ましく、エリスリトールが特に好ましい。糖アルコールは、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
コポビドンは、1-ビニル-2-ピロリドンと酢酸ビニルとの共重合体であり、1-ビニル-2-ピロリドンと酢酸ビニルとの質量比は、好ましくは3:1~1:1である。コポビドンの重量平均分子量は、好ましくは45,000~70,000である。
ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルは、ヒプロメロースの酢酸及びモノコハク酸の混合エステルである。ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルとしては、第十七改正日本薬局方に記載のような、定量したときに、換算した乾燥物に対してメトキシ基:12.0~28.0%、ヒドロキシプロポキシ基:4.0~23.0%、アセチル基:2.0~16.0%及びスクシニル基:4.0~28.0%を含むものが好ましい。
【0024】
成分(b)としては、不純物低減、非晶質化容易性の観点からは、糖アルコールが好ましい。また、糖アルコールを用いた場合には、溶融混錬工程を低温で行った場合でも非晶質化が可能となる。一方、高温条件下での安定性の観点からは、コポビドン、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルが好ましい。また、コポビドン、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルを用いた場合には、溶融混錬工程を高温で行ったときでも不純物が増大しにくい。
【0025】
成分(b)の含有量は、不純物低減等の観点から、本発明の固体分散体中、25質量%以上90質量%以下が好ましく、35質量%以上85質量%以下がより好ましく、40質量%以上85質量%以下が更に好ましく、50質量%以上80質量%以下が更に好ましい。特に、不純物低減、非晶質化容易性の観点からは、60質量%以上75質量%以下が更に好ましく、70質量%以上75質量%以下が特に好ましい。
【0026】
固体分散体中の成分(a)と成分(b)との質量比〔(a):(b)〕は特に限定されないが、不純物低減、非晶質化容易性、最終製剤の小型化の観点から、3:1~1:10が好ましく、2:1~1:5がより好ましく、3:2~1:5が更に好ましく、1:1~1:4が更に好ましく、2:3~1:3が更に好ましく、1:2~1:3が特に好ましい。質量比〔(a):(b)〕を2:3以上とした場合及び1:2以上とした場合に不純物が特に低減される。
【0027】
成分(a)と成分(b)との含有量の合計は特に限定されないが、非晶質化容易性、最終製剤の小型化の観点から、本発明の固体分散体中、50質量%以上100質量%以下が好ましく、70質量%以上100質量%以下がより好ましく、90質量%以上100質量%以下が更に好ましく、95質量%以上100質量%以下が特に好ましい。
【0028】
本発明の固体分散体は、成分(a)~(b)の他に、担体(成分(b)を除く)及び添加剤からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含んでいてもよい。
成分(b)以外の担体としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドンなどのポリマー;レシチンなどの脂質;モノステアリン酸ソルビタンなどの界面活性剤等が挙げられる。
【0029】
添加剤は、医薬品に通常使用される添加剤であればよい。添加剤としては、賦形剤、流動化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、緩衝剤、増粘剤、安定化剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられる。賦形剤としては、乳糖、無水リン酸水素カルシウム等が挙げられる。結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポビドン等が挙げられる。崩壊剤としては、デンプン、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、タルク等が挙げられる。
【0030】
本発明の固体分散体は、そのまま又は上記以外の成分と組み合わせて医薬組成物とすることができる。
本発明の医薬組成物は、経口投与用製剤でも非経口投与用製剤でもよいが、好ましくは経口投与用製剤である。また、本発明の医薬組成物としては、固形製剤が好ましく、経口投与用固形製剤がより好ましい。
経口投与用固形製剤の剤形としては、例えば、顆粒剤、細粒剤、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、ドライシロップ剤等が挙げられる。これらの中でも、服用性、利便性、取り扱いやすさの観点から、顆粒剤、細粒剤、錠剤、カプセル剤が好ましく、顆粒剤、錠剤がより好ましい。錠剤としては、素錠、フィルムコーティング錠、糖衣錠、口腔内崩壊錠、チュアブル錠等が挙げられる。
経口投与用固形製剤の製造方法は、本発明の固体分散体を用いること以外は製剤分野における公知の製造方法と同様である。例えば顆粒剤は、本発明の固体分散体を整粒することによって、又は本発明の固体分散体及び添加剤(賦形剤、崩壊剤等)を混合して造粒し、得られた顆粒を整粒することによって製造できる。また錠剤は、本発明の固体分散体及び添加剤(賦形剤、崩壊剤、滑沢剤等)を混合した後、打錠することによって、又は本発明の固体分散体及び添加剤(賦形剤、崩壊剤等)を混合して造粒し、得られた顆粒に対して添加剤(賦形剤、滑沢剤等)を混合し、打錠することによって製造できる。
【0031】
〔固体分散体の製造方法〕
本発明の製造方法は、(b)糖アルコール、コポビドン及びヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の成分を担体として用いる、(a)ニンテダニブ若しくはその薬学的に許容される塩又はそれらの溶媒和物を含有する固体分散体の製造方法である。成分(a)及び(b)の使用量としては、固体分散体中の含有量や質量比が上記範囲となる量が好ましい。
本発明の製造方法によれば、HME法、スプレードライ法(以下、「SD法」ともいう。)等の製造方法の種類によらずニンテダニブ含有固体分散体を製造できる。この中では、HME法が好ましい。
【0032】
(SD法)
SD法による製造方法としては、成分(a)及び(b)(必要に応じて更に他の成分(添加剤や成分(b)以外の担体、以下同じ。))を有機溶媒等の溶媒に溶解又は分散させた後、得られた溶液又は分散液をスプレーして乾燥する方法が挙げられる。
【0033】
(HME法)
HME法による製造方法としては、成分(a)を成分(b)(必要に応じて更に他の成分)と溶融混錬する溶融混錬工程と、当該溶融混錬工程で得られた溶融物を固化させる固化工程とを含む方法が挙げられる。より具体的には、成分(a)及び(b)(必要に応じて更に他の成分)を混合して固形状組成物を得る混合工程と、得られた固形状組成物を溶融混錬する溶融混錬工程と、当該溶融混錬工程で得られた溶融物を固化させる固化工程とを含む方法が挙げられる。上記固形状組成物中の成分(a)及び(b)の含有量や質量比の範囲としては、固体分散体中の成分(a)及び(b)の含有量や質量比と同様の範囲が好ましい。
【0034】
ここで、HME法は、一般には、薬物や担体の溶融温度まで加熱して行われ、熱に不安定な薬物や高融点の薬物の固体分散体化には適さないとされている(アドバンスド・ドラッグ・デリバリーレビューズ(Advanced Drug Delivery Reviews)、2016年、100巻、85-101ページ)。しかるところ、成分(a)は融点300℃程度の高融点薬物であるにも拘らず、後記実施例に記載のとおり、本発明の製造方法によれば、驚くべきことにHME法の場合でも、ニンテダニブ由来の不純物含有量が少ないニンテダニブ含有固体分散体を低コストで製造できる。
また、本発明の製造方法がHME法の場合には、ニンテダニブ由来の不純物含有量が少ないニンテダニブ含有固体分散体を低コストで製造できるだけでなく、(1)成分(a)が結晶状態のもの、非晶質状態のものいずれも得ることができる。また、(2)無溶媒で製造可能なため、製造過程で溶媒や粒子が飛散するということがほとんどなく、溶媒や薬物に曝露されることなく安全に製造でき、しかも、爆発性物質の取り扱いが不要であり、環境負荷も軽減でき、更に(3)固体分散体中の成分分布が均一となりやすい。
【0035】
溶融混錬工程としては、具体的に、成分(a)と成分(b)を加熱しながら混錬押出する工程が挙げられる。溶融混錬工程は、慣用される溶融混錬装置(例えば2軸エクストルーダー)を用いて行うことができる。押出部の形状によって、棒状、シート状、顆粒状及びカプセル状など任意の形態の固体分散体が得られる。
溶融混錬工程の温度は通常成分(b)の融点又はガラス転移点以上であり、非晶質化容易性の観点からは、好ましくは90℃以上、より好ましくは100℃以上、更に好ましくは140℃以上、特に好ましくは170℃以上であり、また、不純物低減の観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは220℃以下、更に好ましくは200℃以下、特に好ましくは180℃以下である。具体的な範囲としては、不純物低減の観点からは、90℃以上250℃以下が好ましく、100℃以上220℃以下がより好ましく、100℃以上200℃以下が更に好ましく、100℃以上180℃以下が特に好ましい。一方、非晶質化させ且つ不純物を低減させる場合には、90℃以上250℃以下が好ましく、100℃以上220℃以下がより好ましく、140℃以上200℃以下が更に好ましく、170℃以上200℃以下が特に好ましい。
【0036】
溶融混錬時間は、装置に投入する組成物の総量に応じて適宜設定すればよいが、通常1~30分間、好ましくは1~10分間である。
【0037】
固化工程としては、例えば、溶融混錬工程で得られた溶融物を冷却する手法が挙げられる。冷却温度は、通常3~40℃である。
また、本発明の製造方法は、固化工程で得られた固化物を整粒する整粒工程を含んでいてもよい。
【実施例0038】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
本実施例において、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、コポビドン、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル、ポリビニルアルコール、ポビドンは、特に明示しない限り以下のものを使用した。
エリスリトール:エリスリトールT微粉(三菱ケミカルフーズ社製)、キシリトール:XYLISORB 700-X(ロケット社製)、ソルビトール:Parteck SI(メルク社製)、マンニトール:Pearlitol 200SD(ロケット社製)、コポビドン:Kollidon VA64(BASF社製)、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル:Shin-EtsuAQOAT AS-MMP(信越化学工業社製)、ポリビニルアルコール:Parteck MXP(メルク社製)、ポビドン:Kollidon K-30(BASF社製)
【0040】
(実施例1)
エリスリトールを担体とするニンテダニブエタンスルホン酸塩の固体分散体を、以下の工程1)~3)により得た。
1)混合工程:ニンテダニブエタンスルホン酸塩とエリスリトールを質量比1:1で混合して混合物100gを得た。
2)溶融混錬工程、冷却工程:上記1)で得られた混合物を、2軸エクストルーダー(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製Pharma11)により190℃で約4分間溶融混錬した後、20℃に冷却した。
3)整粒工程:上記2)で得られた混錬物を、乾式粉砕機(IKA社製Tube Mill control)を用いて整粒した。
【0041】
(実施例2~9、比較例1~4)
担体の種類、薬物と担体との質量比(合計量100g)、及び溶融混錬時の温度を表1に記載のものとした以外は実施例1と同様にして、ニンテダニブ固体分散体を製造した。
なお、溶融混錬時の温度は、実施例4以外は透明な固体分散体が得られる(ニンテダニブエタンスルホン酸塩が非晶質化したことを簡易的に判定する手法)温度又は250℃のどちらか低い方とした。
【0042】
【表1】
【0043】
(試験例1 非晶質化判定)
各実施例、比較例で得られた固体分散体について、粉末X線回折(XRD)測定法を用いて、ニンテダニブエタンスルホン酸塩の結晶に由来する回折ピークの有無を確認することで、非晶質化の有無を判定した。
XRDの測定は、リガク製MultiFlexにて、40kV及び30mAで生成されたCuKα放射線を使用し、角度範囲(2θ)3-45°、ステップ幅0.02°、スキャンスピード2°/minの設定で行った。
非晶質化の判定結果を表2に示す。表2中、「非晶質」は、ニンテダニブエタンスルホン酸塩が非晶質となったことを示し、「無」は非晶質とならなかったことを示す。
【0044】
(試験例2 不純物量測定)
各実施例、比較例の混合工程で得た混合物及び整粒工程で得た固体分散体それぞれについて、液体クロマトグラフィー(HPLC法)を用いて、ニンテダニブエタンスルホン酸塩標準溶液とのピーク面積の比からニンテダニブエタンスルホン酸塩由来の不純物量を算出した。また、固体分散体中のニンテダニブエタンスルホン酸塩由来不純物量から混合物中のニンテダニブエタンスルホン酸塩由来不純物量を差し引き、溶融混錬工程前後の不純物増加分を算出した。
結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示すとおり、糖アルコール、コポビドン又はヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルを担体とした場合(実施例1~9)に、ニンテダニブ由来の不純物が少ない固体分散体となった。