(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016312
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】人工毛髪用ポリエステル系中空繊維、その製造方法及びそれを含む頭飾製品
(51)【国際特許分類】
D01F 6/62 20060101AFI20240131BHJP
A41G 3/00 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
D01F6/62 303G
A41G3/00 Z
A41G3/00 A
D01F6/62 306C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020214531
(22)【出願日】2020-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】穴原 賢
【テーマコード(参考)】
4L035
【Fターム(参考)】
4L035AA05
4L035BB31
4L035DD05
4L035EE02
4L035EE14
4L035FF01
4L035FF08
4L035HH01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ヘアーアイロン等でカール形状を付与した後、冷却時間を経ず(クーリングフリー)とも、カールセット性が良好な人工毛髪用ポリエステル系中空繊維を提供する。
【解決手段】繊度20dtex以上、繊維断面の全面積に対する中空部の面積の割合である中空率が5~50%であって、無緊張状態で120℃に加熱すると3%以上の収縮率を示す人工毛髪用ポリエステル系中空繊維である。収縮形状が螺旋および/または正弦波状であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊度が20dtex以上、繊維断面の全面積に対する中空部の面積の割合である中空率が5~50%であって、無緊張状態で120℃に加熱すると3%以上収縮する人工毛髪用ポリエステル系中空繊維。
【請求項2】
収縮の形状が螺旋状及び/または正弦波状となる特請求項1に記載の人工毛髪用ポリエステル系中空繊維。
【請求項3】
人工毛髪繊維がポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルを含む群からなる1種以上のポリエステル樹脂100重量部と、臭素化エポキシ系難燃剤5重量部以上40重量部以下を含むポリエステル系樹脂組成物で構成される、請求項1又は2に記載の人工毛髪用ポリエステル系中空繊維。
【請求項4】
ポリエステル樹脂の固有粘度(IV値)が0.6以上1.2以下である、請求項1~3のいずれかに記載の人工毛髪用ポリエステル系中空繊維。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の人工毛髪用ポリエステル系中空繊維の製造方法であって、ポリエステル系樹脂樹脂組成物を中空用ノズルから溶融紡糸する溶融紡糸工程及び、溶融紡糸した紡出糸条を冷却する冷却工程を少なくともを含み、冷却工程は冷却風を紡出糸条の糸状が流れる方向と略垂直方向に流す、人工毛髪用ポリエステル系中空繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の人工毛髪用ポリエステル系中空繊維を含む頭飾製品。
【請求項7】
前記頭飾製品がへアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー及びドールヘアーからなる群で選ばれる一種である請求項6に記載の頭飾製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人毛の代替品として使用できる人工毛髪用ポリエステル系中空繊維、その製造方法及びそれを含む頭飾製品に関する。
【背景技術】
【0002】
かつら、ヘアーウィッグ、付け毛、ヘアーバンド、ドールヘアーなどの頭飾製品においては、従来、人毛が主に使用されてきたが、近年において、人毛の入手が困難になってきている。したがい、合成繊維を用いた人工毛髪用繊維、例えば、アクリル系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維などへの代替が進んでいる。中でも、人毛と同程度に、カールを付与することができる人工毛髪が提案されている(特許文献1)。特許文献1は、繊維断面中央部に5~50%の空隙を有することで、同一断面積の空隙を有しない繊維と比較して、ヘアーアイロンを用いてカールを付与する加熱に要する時間および、カール形状を保持するため冷却(クーリングと称す)時間を低減できる、カールセット性の良い人工毛髪用繊維が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の人工毛髪用繊維は、クーリング時間が短すぎるとカールセット性は低くなり、人毛と同等のカールセット性を得るためには、カールを付与するために時間を長くし、さらにクーリングを行わなければならず、クーリング自体の必要性は変わらないことから、課題が残っており改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、繊度が20dtex以上、繊維断面の全面積に対する中空部の面積の割合である中空率が5~50%であって、無緊張状態で120℃に加熱すると3%以上収縮する人工毛髪用ポリエステル系中空繊維に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、カール付与後にクーリングを行わなくても、カール形状を保持することができる、優れたカールセット性能を有する人工毛髪用ポリエステル系中空繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明の実施例1のカールセットを行った人工毛髪用ポリエステル系中空繊維の外観写真である。
【
図2】
図2は、本発明の比較例1のカールセットを行った人工毛髪用ポリエステル系繊維の外観写真である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例1の人工毛髪用ポリエステル系中空繊維を無緊張状態で120℃、30分間の熱処理を行った際の外観写真である。
【
図4】
図4は、本発明の比較例1の人工毛髪用ポリエステル系繊維を無緊張状態で120℃、30分間の熱処理を行った際の外観写真である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態の一つの人工毛髪用ポリエステル系中空繊維の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、繊維断面が中空部を有し無緊張状態で120℃に加熱すると3%以上収縮する人工毛髪用ポリエステル系中空繊維において、ヘアーアイロン等でカール付与する際、カール付与の時間を長くすることなくクーリングが不要な、カールセット性が優れることを見出し、本発明に至った。
【0009】
以下において、ヘアーアイロンセットとはヘアーアイロンでカール形状を付与することを意味する。また、クーリングを必要とせずにカール形状が付与できる性能をクーリングフリー性能と呼び、クーリングフリー性能を有する原綿をクーリングフリー原綿と呼ぶ。
【0010】
<繊維断面>
人工毛髪用ポリエステル系中空繊維断面に空隙である中空部を有し、繊維断面の全体面積に対する中空部面積の割合である中空率は5%以上50%以下であり、より好ましくは7%以上50%以下である。5%以下の場合、表面積の増加の効果が小さく十分なヘアアイロン等でのカールセット性が得られない。また、50%より大きい場合、繊維強度が不足し、ブラシや櫛を通した際に繊維が破断する恐れがある。
【0011】
繊維の断面形状は特に限定されないが、例えば円形、楕円形、また馬蹄形や多葉形などの異形断面が挙げられる。
【0012】
中空部の形状は特に限定しないが、多角形または円形が好ましく、多角形においては、四角形または五角形がより好ましい。
【0013】
<収縮>
本発明の人工毛髪用ポリエステル系中空繊維は、無緊張状態で120℃に加熱すると3%以上収縮する。収縮の形状は螺旋状及び/または正弦波状の収縮形状を示す。収縮形状の螺旋状とは、繊維を収縮させた後に繊維軸方向に繊維を観察した際に、繊維が円弧を描くように収縮している状態を表し、正弦波状とは、繊維を収縮させた後に繊維軸と垂直の方向から繊維を観察した際に、繊維が周期的な波形状となる状態を表す。当繊維の使用者がカールを付与するために用いるヘアーアイロン等は、通常120℃より高温のため、ヘアーアイロン等に巻き付け加温した際に螺旋状及び/または正弦波状に収縮しようとする力がヘアーアイロンの形状に沿うように働くことにより、容易にヘアーアイロン等でカール形状が付与され、クーリングフリー性能が得られると推定される。
【0014】
本発明の収縮する割合は、収縮率として、所定の温度で30分加熱保持前後の繊維の長さから、式(1)で求められる。
{1-(加熱後の繊維長さ/加熱前の繊維の長さ)}×100 (%) 式(1)
【0015】
<ポリエステル系繊維>
本発明の人工毛髪用ポリエステル系中空繊維の組成は、難燃性付与のためにポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とした共重合ポリエステルを含む群から選ばれる1種以上のポリエステル樹脂100重量部と、臭素系高分子難燃剤5重量部以上40重量部以下を含むポリエステル系樹脂組成物で構成される成分が挙げられる。
【0016】
ポリエステル樹脂は、ポリアルキレンテレフタレート及びポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルからなる群から選ばれる1種以上である。上記ポリアルキレンテレフタレートとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどが挙げられる。上記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とし、他の共重合成分を含有する共重合ポリエステルなどが挙げられる。本発明において、「主体」とは、80モル%以上含有することを意味し、「ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステル」は、ポリアルキレンテレフタレートを80モル%以上含有する共重合ポリエステルをいう。
【0017】
他の共重合成分としては、例えば、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スべリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの多価カルボン酸及びそれらの誘導体、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルなどのスルホン酸塩を含むジカルボン酸及びそれらの誘導体、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトン、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルなどが挙げられる。
【0018】
共重合ポリエステルは、安定性、操作の簡便性の点から、主体となるポリアルキレンテレフタレートに少量の他の共重合成分を含有させて反応させることにより製造するのが、好ましい。ポリアルキレンテレフタレートとしては、テレフタル酸及び/又はその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの重合体を用いることができる。上記共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの重合に用いるテレフタル酸及び/又はその誘導体(例えば、テレフタル酸メチル)と、アルキレングリコールとの混合物に、少量の他の共重合成分であるモノマーあるいはオリゴマー成分を含有させたものを重合させることにより製造してもよい。
【0019】
共重合ポリエステルは、主体となるポリアルキレンテレフタレートの主鎖及び/又は側鎖に上記他の共重合成分が重縮合していればよく、共重合の方法などには特別な限定はない。
【0020】
ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルの具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸及び5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルからなる群から選ばれる一種の化合物を共重合したポリエステルなどが挙げられる。
【0021】
ポリアルキレンテレフタレート及び上記ポリアルキレンテレフタレートを主体とする共重合ポリエステルは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、ポリエチレンテレフタレート;ポリプロピレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、ビスフェノールAのエチレングリコールエーテルを共重合したポリエステル;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、1,4-シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステル;ポリエチレンテレフタレートを主体とし、イソフタル酸を共重合したポリエステル;及びポリエチレンテレフタレートを主体とし、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルを共重合したポリエステルなどを単独又は2種以上組み合わせて用いることが好ましい。
【0022】
ポリエステル樹脂の固有粘度(IV値)は、特に限定されないが、0.6以上1.2以下であることが好ましく、0.65以上1.2以下であることがより好ましく、さらには0.65以上1.0以下が好ましい。固有粘度(IV値)が0.6以上であると、得られる繊維の機械的強度が低下せず、さらに紡糸時に中空形状を形成することが容易となる。また、固有粘度(IV値)が1.2以下であると、分子量が増大しすぎず、溶融粘度が高くなり過ぎることがなく、溶融紡糸が容易となるうえ、繊度も均一になりやすい。
【0023】
人工毛髪用ポリエステル系中空繊維は、人工毛髪に適するという観点から、単繊維繊度が20dtex以上150dtex以下であることが好ましく、より好ましくは25dtex以上120dtex以下であり、さらに好ましくは30dtex以上100dtex以下である。
【0024】
<製造方法>
(紡糸工程)
人工毛髪用ポリエステル系中空繊維の製造方法としては、特に限定されないが、溶融紡糸法が好ましい。また、中空形状の形成方法は繊維中に軸方向に連続した空隙を有する繊維を製造できればよく、特に限定されない。例えば、複数の孔を有するノズルからから、押し出した材料をノズル吐出孔直下で貼り合わせる方法などを用いることができる。複数の孔から押し出した材料を吐出孔直下で貼り合わせる方法としては、具体的には、ノズルのランド内に格子を設けて一度繊維を2つ以上に分断したのちにノズル直下で溶融樹脂を融着させて中空構造を形成する方法がなどを用いることができる。例えば、ポリエステル樹脂、臭素化エポキシ系難燃剤などの各成分をドライブレンドしたポリエステル樹脂組成物を、種々の一般的な混練機を用いて溶融混練してペレット化した後、溶融紡糸することにより作製することができる。混練機としては、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどが挙げられる。中でも、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。
【0025】
溶融紡糸は、例えば押出機、ギアポンプ、ノズルなどの温度を250℃以上300℃以下とし、溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒に通過させた後、ポリエステル樹脂のガラス転移点以下に冷却し、50m/分以上5000m/分以下の速度で引取ることにより紡出糸条(未延伸糸)が得られる。この工程において、上述のノズルを用いることで、中空を有する繊維が作製可能であり、設備負荷や生産性、断面形状制御の観点で、ノズルのランド内に格子を設けて一度繊維を2つ以上に分断したのちに熱融着させて中空を形成する方法が好ましい。なお、加熱筒の温度と長さ、冷却水槽の温度、冷却時間及び引取速度は、ポリエステル樹脂組成物の吐出量及びノズルの孔数によって適宜調整することができる。
【0026】
(冷却工程)
人工毛髪用ポリエステル系中空繊維を製造する際に、ポリエステル樹脂のガラス転移温度以下に冷却するために、ノズル孔から吐出した紡出糸条を冷却風により冷却することが好ましい。本工程により、無緊張状態で120℃に加熱した際に螺旋状及び/または正弦波状の収縮形状を得ることが可能となり、クーリングフリー性能を有する人工毛髪繊維を得ることができる。特に限定されないが、具体的には、紡糸工程で得られた紡出糸条に、冷却風を紡糸の糸状が流れる方向と略垂直方向に当てる方法が挙げられ、当該方法が簡便で安定した効果が得られることから好ましい。冷却風の風速は、繊維束の面で0.2m/sec~2.5m/secであることが好ましく、より好ましくは0.5m/sec~2.2m/sec以下、さらにより好ましくは0.7m/sec~2.0m/secである。紡糸糸条に当条件の冷却風を当てることで、複屈折に高度の異方性を持たせ、螺旋状及び/または正弦波状の収縮形態を実現することが可能となる。
【0027】
(延伸と熱処理工程)
紡出糸条(未延伸糸)は熱延伸されることが好ましい。延伸は、紡出糸条を一旦巻き取ってから延伸する2工程法と、紡出糸条を巻き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によって行ってもよい。熱延伸は、1段延伸法又は2段以上の多段延伸法で行われる。熱延伸における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0028】
(表面改質)
本発明の人工毛髪用繊維が原着されている場合、そのまま使用することができるが、原着されていない場合、染色することができる。染色に使用される顔料を含有させることにより、原着繊維を得ることができる。また、必要に応じて、助剤として、例えば耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、可塑剤、潤滑剤、耐候性及び難燃性などの各種添加剤を含有させることができる。さらに、繊維表面処理剤、柔軟剤などの油剤を使用し、触感、風合を調整して、より人毛に近い繊維を得ることができる。
【0029】
<頭飾製品>
頭飾製品としては、特に限定されないが、例えば、ヘアーウィッグ、かつら、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレードヘアー、ヘアーアクセサリー、ドールヘアーなどに使用可能である。また、本発明の人工繊維用ポリエステル系中空繊維を単独で人工毛髪として用いることもできるし、或いは、他の人工毛髪用繊維素材、人毛、獣毛などの天然繊維と組み合わせて頭飾製品として用いることもできる。なお、人工毛髪用繊維は、必ずしも全ての繊維が同一の繊度、断面形状、断面サイズ、中空形状、中空面積を有する必要はなく、異なる繊度、断面形状、断面サイズ、中空形状、中空面積、中空サイズを有する繊維が混在していてもよい。
【実施例0030】
実施例及び比較例で用いた測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。
【0031】
(単繊維繊度)
オートバイブロ式繊度測定器 「DENIER COMPUTER タイプDC-11」(サーチ社製)を使用して測定し、30個のサンプルの測定値の平均値を算出して単繊維繊度とした。
【0032】
(中空率)
繊維を長さ150mmの長さに切断し、切断した繊維0.7gを束ね、ゴム製チューブを通過させた後に80℃の熱をかけてチューブを収縮させて繊維束がズレないように固定した。その後、チューブの部分をカッターで輪切りにし、長さ5mmの断面観察用繊維束を作製した。この繊維束を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、「S-3500N」)にて400倍の倍率で撮影し、繊維断面写真を得た。この繊維断面写真からランダムに30本の繊維断面を選定し、画像解析装置(三谷商事株式会社製、画像解析ソフト「Win ROOF」)を用いて、空隙の面積、繊維断面の面積を計測し、空隙の面積/繊維断面の面積×100の数値を中空率とした。
【0033】
(カールセット性)
繊維を長さが63.5cmになるように切断し、得られた繊維長が63.5cmの繊維5.0gを束ね、ハックリングにて意図的に繊維間のズレを作り、繊維束の長さを70cmとした。その後、繊維束の中央を紐で括り、2つ折りにして紐の部分を固定し、毛先から30cmの部分をインシュロックで固定して、ヘアーアイロン加工用の繊維束を作製した。次に、180℃に加熱したヘアーアイロン(米国Belson Products社製、「GOLD N HOT Professional Ceramic Spring Curling Iron 1-1/4inch GH2150」)にて繊維束の先端を掴み、繊維束を固定している根元に巻き上げ、3秒間保持した後、ヘアーアイロンを繊維束から外し、即座にカールを付与した繊維束の端を固定しているインシュロックから繊維束の下端までの長さ(初期カール長さと称す)を計測した。この際クーリングは行わなかった。
【0034】
初期カール長さ及びカール巻きの強さに基づいてヘアーアイロンセット時のカールセット性を以下の基準にて判定した。
A:カールの巻き込みが強くスタイルに優れる
B:全体的にカールの巻き込みが弱く、カール系のスタイルとしては不満があるレベル
C:カールがつかず、スタイル付与ができないレベル
【0035】
(収縮率)
繊維120本を34cmの長さに切断し、上下それぞれ2cmの箇所にミシン糸で刻印した。その後120℃に保持したオーブン内に吊し、無緊張状態で30分間保持した。収縮率は30分保持前後の刻印した箇所の長さを測り、式(2)を用いて算出した。
{1-(加熱後の繊維長さ/加熱前の繊維の長さ)}×100 (%) 式(2)
【0036】
(実施例1)
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例にのみ限定されるものではない。実施例、比較例に使用した原料を以下に示す。特に入手先を指定していない試薬については一般の市販の試薬を使用した。
【0037】
ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート):A-12(EAST WEST製)臭素化エポキシ難燃剤: SR-T20000(阪本薬品工業株式会社製)
アンチモン酸ナトリウム:SA-A(日本精鉱株式会社製)
【0038】
水分量100ppm以下に乾燥したポリエチレンテレフタレート100重量部、臭素化エポキシ系難燃剤20重量部、アンチモン酸ナトリウム2重量部をドライブレンドした。得られた混合物を二軸押出機に供給して、280℃で溶融混練し、ペレット化した。得られたペレットを水分率100ppm以下に乾燥させた。次いで、乾燥したペレットを、溶融紡糸機に供給し、260℃でノズル孔を有する紡糸口金より溶融ポリマーを吐出し、繊維束が流れる方向と略垂直方向に、繊維流束面で1.0m/secの冷却風を吹き当てながらポリエチレンテレフタレートのガラス転移温度以下に冷却し、60~150m/分の速度で巻き取って紡出糸条(未延伸糸)を得た。得られた未延伸糸を3倍延伸し、200℃に加熱したヒートロールを用いて、熱処理を行い、単繊維繊度が約50dtex、繊維中空率20%のポリエステル系繊維(マルチフィラメント)を得た。当該繊維の収縮率および収縮形状を評価し、またカールセット性を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0039】
(実施例2)
溶融紡糸を270℃で行った以外は、実施例1と同様の操作で人工毛髪繊維を製造した。
【0040】
(実施例3)
冷却風の速度を0.5m/secとした以外は実施例1と同様の操作で人工毛髪繊維を製造した。
【0041】
(実施例4)
作成した繊維の繊度を65dtexとした以外は実施例1と同様の操作で人工毛髪繊維を製造した。
【0042】
(実施例5)
冷却風の速度を1.5m/secとした以外は実施例1と同様の操作で人工毛髪繊維を製造した。
【0043】
(比較例1)
紡糸のノズルを中空構造を有しない形状のノズルを使用した点以外は実施例1と同様の操作で中空部を有さない人工毛髪繊維を製造した。
【0044】
(比較例2)
糸条に冷却風を当てなかった点以外は実施例1と同様の操作で人工毛髪繊維を製造した。
【0045】
(比較例3)
紡糸のノズルを中空構造を有しない形状のノズルを使用し、さらに冷却風を当てず、未延伸糸を4倍延伸した点以外は実施例1と同様の操作で、中空部を有さない人工毛髪繊維を製造した。
【0046】
(比較例4)
溶融紡糸を290℃で行った以外は、実施例1と同様の操作で人工毛髪繊維を製造した。
【0047】
【0048】
表1から、特定の中空率を有する人工毛髪用ポリエステル系中空繊維は、無緊張状態で120℃で3%以上収縮し、特定の収縮形状を有するため、クーリングフリーな優れたカールセット性を有することが分かる。