(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163168
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂被覆シームレス缶及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 8/16 20060101AFI20241114BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B65D8/16
B32B15/09 A
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024149901
(22)【出願日】2024-08-30
(62)【分割の表示】P 2022524470の分割
【原出願日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2020089918
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内野 翔太
(72)【発明者】
【氏名】金澤 清太郎
(72)【発明者】
【氏名】足立 詩織
(72)【発明者】
【氏名】小原 功義
(72)【発明者】
【氏名】黒川 亙
(57)【要約】
【課題】レトルト殺菌のような高温高湿度条件下に曝された場合にも、白斑の発生が抑制され、製缶工程中の潤滑剤除去および成形歪みの緩和を目的とした加熱工程で缶全体が高温条件下に曝された場合にも、白筋等の白化の発生が抑制されていると共に、樹脂被覆の密着性にも優れたポリエステル樹脂被覆シームレス缶の製造方法を提供する。
【解決手段】内面及び/又は外面にポリエステル樹脂被覆が形成されてなるポリエステル樹脂被覆金属板を用い、絞り加工により浅絞り缶を成形する絞り成形工程、前記浅絞り缶を再絞りしごき加工により絞りしごき缶を成形する再絞りしごき成形工程、前記絞りしごき缶の全体を加熱する加熱工程、該加熱工程を経た絞りしごき缶の胴部外面に印刷を施す印刷工程、前記印刷缶の全体を加熱する乾燥・焼付け工程、及び該乾燥・焼付け工程を経た絞りしごき缶にネック加工・フランジ加工を行うネック・フランジ加工工程、を有するシームレス缶の製造方法において、前記絞り成形工程と前記再絞りしごき成形工程の間、前記絞りしごき缶の全体を加熱する加熱工程と前記印刷工程の間、或いはネック・フランジ加工工程の後の何れかに、シームレス缶としたときにネック部となる箇所を、185~230℃の温度となるように部分加熱を行う部分加熱工程を有し、前記部分加熱工程における加熱が高周波誘導加熱あり、加熱時間が2秒未満であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面及び/又は外面にポリエステル樹脂被覆が形成されてなるポリエステル樹脂被覆金属板を用い、絞り加工により浅絞り缶を成形する絞り成形工程、前記浅絞り缶を再絞りしごき加工により絞りしごき缶を成形する再絞りしごき成形工程、前記絞りしごき缶の全体を加熱する加熱工程、該加熱工程を経た絞りしごき缶の胴部外面に印刷を施す印刷工程、前記印刷缶の全体を加熱する乾燥・焼付け工程、及び該乾燥・焼付け工程を経た絞りしごき缶にネック加工・フランジ加工を行うネック・フランジ加工工程、を有するシームレス缶の製造方法において、
前記絞り成形工程と前記再絞りしごき成形工程の間、前記絞りしごき缶の全体を加熱する加熱工程と前記印刷工程の間、或いはネック・フランジ加工工程の後の何れかに、シームレス缶としたときにネック部となる箇所を、185~230℃の温度となるように部分加熱を行う部分加熱工程を有し、
前記部分加熱工程における加熱が高周波誘導加熱あり、加熱時間が2秒未満であることを特徴とするシームレス缶の製造方法。
【請求項2】
前記部分加熱工程が、ネック・フランジ加工工程の後で行われる請求項1記載のシームレス缶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂被覆シームレス缶及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、ポリエステル樹脂被覆の密着性に優れ、優れた耐食性及び耐レトルト性を有するポリエステル樹脂被覆シームレス缶及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂を金属板に被覆して成るポリエステル樹脂被覆金属板を用い、絞り加工、絞り加工・再絞り加工、絞り・しごき加工、薄肉化絞りしごき加工等の成形加工を施してなるシームレス缶が広く用いられている。
飲料や食品用途に用いられるシームレス缶においては、内容物を充填した後にレトルト殺菌処理が行われる。かかるレトルト殺菌処理は高温高湿度条件下で行われることから、缶底部等の水滴が付着した部分が結晶化して、白化を生じるレトルトブラッシング(白斑)と呼ばれる問題が生じていた。
かかるレトルトブラッシングの問題を解決するために、ポリエステル樹脂フィルムとして、ポリブチレンテレフタレートを含有する共重合ポリエステルを使用することが提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、耐レトルト性に優れるフィルムとして、融点が210~245℃、ガラス転移温度が60℃以上のポリエステル99~60重量%と、融点が180~223℃のポリブチレンテレフタレートを主体とするポリエステル1~40重量%のポリエステルフィルムにおいて、遊離モノマーが300ppm以下である金属貼合せ成形加工用延伸ポリエステルフィルムが記載されている。
また下記特許文献2には、フィルムを結晶化処理してもフィルムの白化が発生しない金属缶体及び缶蓋材用のラミネート金属板として、ポリエチレンテレフタレート系樹脂10~70重量%とポリブチレンテレフタレート系樹脂90~30重量%を配合し、2つ以上の融点ピークを有する金属ラミネート板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-330924号公報
【特許文献2】特開2008-143184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来技術に記載されたポリエチレンテレフタレート系樹脂(以下、「PET」ということがある)とポリブチレンテレフタレート系樹脂(以下、「PBT」ということがある)を配合したポリエステルフィルムにおいては、PBTの含有量が少ない場合には、レトルト殺菌処理等の殺菌処理や蒸煮処理のように、内容物充填後に高温高湿度条件下に曝された場合に、外面樹脂被覆の缶底部に発生するレトルトブラッシング等の白化を十分に抑制することができない。また、製缶工程中の潤滑剤除去および成形歪みの緩和を目的とした加熱工程で缶全体が高温条件下に曝された場合に、缶底部に線状に白化する白筋と呼ばれる外観不良の発生を十分に抑制することができない。その一方、PBTの含有量が多くなると、絞りしごき加工の際に樹脂被覆が削れ、金属露出を生じたり、印刷後の外観特性が低下するおそれがある。また、金属板との密着性が低下し、レトルト殺菌の際にネック部から樹脂被覆が剥離(デラミネーション)するという新たな問題が発生し、PBTを含有させるだけでは未だ十分満足するものではなかった。
【0006】
従って本発明の目的は、レトルト殺菌処理のような高温高湿度条件下に曝された場合にも、白斑の発生が抑制され、加熱工程で缶全体が高温条件下に曝された場合にも、白筋等の白化の発生が抑制されていると共に、樹脂被覆の密着性にも優れたポリエステル樹脂被覆シームレス缶及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、内面及び/又は外面にポリエステル樹脂被覆が形成されてなるポリエステル樹脂被覆金属板を用い、絞り加工により浅絞り缶を成形する絞り成形工程、前記浅絞り缶を再絞りしごき加工により絞りしごき缶を成形する再絞りしごき成形工程、前記絞りしごき缶の全体を加熱する加熱工程、該加熱工程を経た絞りしごき缶の胴部外面に印刷を施す印刷工程、前記印刷缶の全体を加熱する乾燥・焼付け工程、及び該乾燥・焼付け工程を経た絞りしごき缶にネック加工・フランジ加工を行うネック・フランジ加工工程、を有するシームレス缶の製造方法において、前記絞り成形工程と前記再絞りしごき成形工程の間、前記絞りしごき缶の全体を加熱する加熱工程と前記印刷工程の間、或いはネック・フランジ加工工程の後の何れかに、シームレス缶としたときにネック部となる箇所を、185~230℃の温度となるように部分加熱を行う部分加熱工程を有し、前記部分加熱工程における加熱が高周波誘導加熱あり、加熱時間が2秒未満であることを特徴とするシームレス缶の製造方法が提供される。
【0008】
本発明のシームレス缶の製造方法においては、前記部分加熱工程が、ネック・フランジ加工工程の後で行われること、が好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第一の態様の外面樹脂被覆シームレス缶においては、前述した外面ポリエステル樹脂被覆(以下、「外面樹脂被覆」ということがある)における上記比Im/Iuが1.0以上であることにより、レトルト殺菌処理等の殺菌処理や蒸煮処理のように、内容物充填後に高温高湿度条件下に曝された場合にも、外面樹脂被覆のレトルトブラッシング等の白化の発生や、製缶工程中の潤滑剤除去および成形歪みの緩和を目的とした加熱工程で缶全体が高温条件下に曝された場合にも、白筋等の白化の発生が防止されていると共に、ネック部の外面樹脂被覆の剥離の発生も有効に防止されており、耐熱水密着性に優れている。
また上記作用効果は、内面ポリエステル樹脂被覆(以下、「内面樹脂被覆」ということがある)の状態によっても判断でき、内面ポリエステル樹脂被覆における前記比Wm/Wuが0.85以下であること、最大縮径部におけるポリエステル樹脂被覆表面の前記配向指数MOuが2.40以下であること、顕微ラマン分光法による配向指数の比、MOm/MOuが2.10以上であることによっても、外面樹脂被覆の状態が良好であると判断することができる。
【0010】
すなわち、前述した通り、レトルトブラッシングや白筋等の外面樹脂被覆の白化を防止するためにはPBT配合量の多いポリステル樹脂を使用することが好適であるが、PBT配合量の多い樹脂被覆は結晶性が高いことから、製缶工程における樹脂被覆金属板の圧延方向である缶軸方向に配向結晶を生じ、金属板との密着性が低下する傾向がある。また、PBT配合量が多くなると、PET樹脂配合量が相対的に少なくなり、特にイソフタル酸の含有量の多いPET樹脂の配合量が少なくなることによって、金属板との密着性が低下する傾向がある。その一方、巻締加工等が施されるネック部にはリンクルインプレッション(巻締時につく疵)が生じやすいことから、レトルト殺菌処理等の高温高湿度条件下に曝されると、このリンクルインプレッションから水蒸気が侵入して、密着性に劣る樹脂被覆の剥離(「ネック部デラミネーション」ということがある)が生じると考えられる。また、シームレス缶の缶全体において、ネック部は、製缶工程中の絞りおよびしごき加工により、缶円周方向の樹脂皮膜の圧縮歪みが大きくなる領域であり、樹脂皮膜と金属板の間の密着が弱い傾向にあると考えられる。
これに対して、本発明の第一の態様のシームレス缶では、ネック部の外面樹脂被覆の配向結晶が、Im/Iuが上記範囲となるように崩されていることにより、外面樹脂被覆の金属板への密着性が向上され、リンクルインプレッションが形成されていたとしても水蒸気の侵入が有効に抑制されていると考えられる。その一方、シームレス缶のネック部以外の箇所では外面樹脂被覆の配向結晶化は維持されているため外面樹脂被覆によるバリア性が確保されており、優れた耐食性を有し、レトルトブラッシングや白筋等の白化の発生も有効に抑制されている。
【0011】
一方、内面樹脂被覆シームレス缶においても、缶胴最上部に巻締加工が施されたり、取扱いや異物巻き込みなどにより、外面樹脂被覆と同様にネック部に疵が発生する場合がある。このような疵が形成された状態でレトルト殺菌等の殺菌処理や蒸煮処理等に付されると、内圧や内容物の影響を受ける内面樹脂被覆において、外面樹脂被覆と同様に内面樹脂被覆の剥離(「疵デラミネーション」といことがある)を生じる場合がある。またネック部が、缶全体における他の領域と比較して、樹脂被覆と金属板の間の密着が弱い傾向にあることは、内面樹脂皮膜においても同様である。特に缶胴最上部から缶底までの缶全体の高さに対して、缶胴最上部から0~15%の距離内に缶胴に対して縮径率が15%以上の最大縮径部を有する場合に、内面ポリエステル樹脂被覆に疵デラミネーションが発生しやすい。
すなわち上記外面樹脂被覆シームレス缶の内面に、ポリエステル樹脂被覆が形成されているシームレス缶においても、内面樹脂被覆における比Wm/Wuが0.85以下となるように配向結晶が崩されていることにより、外面樹脂被覆と同様に、内面樹脂被覆の金属板への密着性が向上され、内容物充填後の殺菌処理や蒸煮処理等に付された場合にも、ネック部の内面樹脂被覆の剥離の発生が有効に防止されており、内面樹脂被覆の耐熱水密着性に優れ、優れた耐食性を有している。
【0012】
また内面樹脂被覆を構成するポリエステル樹脂の融点が250℃以上である、本発明の第二の態様の内面樹脂被覆シームレス缶においては、シームレス缶が内容品変敗防止のための殺菌処理を受ける前の状態において、前記配向指数MOuが3.60以下であること、前記配向指数MOmの比、MOm/MOuが1.80以上であること、シームレス缶が内容品変敗防止のための殺菌処理を受けた後の状態において、前記配向指数MOuが4.10以下であること、前記MOm/MOuが1.37以上であることにより、或いは内面樹脂被覆を構成するポリエステル樹脂の融点が220℃以下である本発明の第三の態様の内面樹脂被覆シームレス缶においては、殺菌処理後において、前記MOm/MOuが1.37以上であること、前記金属板が表面処理を施していないアルミニウム板であり、前記配向指数MOuが3.10以下であることにより、内面樹脂被覆の金属板への密着性が向上され、最大縮径部の縮径率が15%以上と大きい場合や、内容物充填後の殺菌処理や蒸煮処理等に付された場合においても、ネック部の内面樹脂被覆の剥離の発生が有効に防止されており、内面樹脂被覆の耐熱水密着性に優れ、優れた耐食性を有している。
【0013】
また本発明のシームレス缶の製造方法によれば、前述した特定のタイミングでシームレス缶のネック部となる部分の加熱を行うことにより、シームレス缶のネック部となる箇所の配向結晶を上記のように制御することが可能である。また、ネック部の加熱を高温条件で行うと、シームレス缶の仕上げニスのオーバーラップ部分にのみ、局所的に複数の微小な凹凸形状を有する、外観不良が発生するが、かかる部分加熱を185~230℃の範囲の温度で行うことにより、シームレス缶の仕上げニスのオーバーラップ部分に外観不良を生じることもなく、耐熱水密着性及び外観特性に優れたシームレス缶を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のシームレス缶の一例を示す側面図であり、右半分は側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(シームレス缶)
図1は本発明のシームレス缶の一例を示す図であり、全体を1で示すシームレス缶は、外面がストレートな直胴形状となっている胴部2と、胴部2の下部を閉じている底部3とを有している。胴部2の上部は、ネック加工(縮径加工)により縮径されたネック部(「縮径部」ということもある)4に連なっており、ネック部4の上端には、このネック部において最も縮径の割合が大きい部分である最大縮径部8を介して、フランジ部5が形成されている。またこのシームレス缶においては、シームレス缶胴部のX部分を拡大して示す断面図から明らかなように、金属板10の内外面に、外面樹脂被覆11及び内面樹脂被覆12が形成されている。また外面樹脂被覆11の上には、印刷層13及び仕上げニス層14が形成されている。
【0016】
[第一の態様]
本発明の第一の態様のシームレス缶においては、
図1に示すように、シームレス缶の缶胴最上部6(0%)から缶底部7(100%)までの缶全体の高さに対して、缶胴最上部6から0~15%の距離内の位置の少なくとも一部にネック加工によるネック部4を有しており、このネック部における最大縮径部8における、外面樹脂被覆のX線回折法による2Θ=15~19°の間にあるピーク強度の最大値を該測定部位における外面樹脂被覆の厚みで割った値Iu(cps/μm)と、缶胴最上部6から45~60%の距離内の位置(以下、この距離内にある位置の少なくとも一部にある箇所を「缶胴中央部」ということがある)における外面樹脂被覆のX線回折法による2Θ=15~19°の間にあるピーク強度の最大値を該測定部位における外面樹脂被覆の厚みで割った値Im(cps/μm)との比Im/Iuが1.0以上にあることが重要であり、特に1.0~4.5の範囲にあることが好適である。
ポリエステル樹脂被覆のX線回折法による2Θ=15~19°内には、PETおよびPBTの結晶性に関与するピークがあり、例えば面指数(0-11)および面指数(010)などの回折ピークがあり、本発明の外面樹脂被覆シームレス缶においては、ネック部付近の外面樹脂被覆のピーク強度の最大値Iuが胴部中央付近のピーク強度の最大値Imに比して小さく、ネック部の外面樹脂被覆の配向結晶が崩されていることがわかる。
【0017】
また前述した通り、外面樹脂被覆の上記配向結晶状態は、シームレス缶の内面樹脂被覆の状態によっても判断できる。すなわち、内面ポリエステル樹脂被覆における、最大縮径部8における内面ポリエステル樹脂被覆表面の顕微ラマン分光法による1730cm-1付近のピークの半値幅(FWHM)Wu(cm-1)と、缶胴最上部から45~60%の距離内の位置のポリエステル樹脂被覆表面の顕微ラマン分光法による1730cm-1付近のピークの半値幅(FWHM)Wm(cm-1)との、比Wm/Wuが0.85以下、特に0.59~0.70の範囲にあることが好適である。
ポリエステル樹脂被覆の顕微ラマン分光法によるPETの解析においては、1730cm-1付近にC=O伸縮振動に帰属するラマンバンドが発現され、PETは結晶化すると共鳴安定な平面構造をとるため、結晶化の進行に伴い測定されるC=Oバンドの幅は狭くなり、配向結晶が進むほどその半値幅は小さくなる。本発明の第一の態様のシームレス缶では、ネック部付近の内面樹脂被覆の半値幅Wuが胴部中央付近の半値幅Wmに比して大きく、ネック部の内面樹脂被覆の配向結晶が崩されていることがわかる。
【0018】
更に本発明の第一の態様のシームレス缶においては、最大縮径部8における内面ポリエステル樹脂被覆表面の顕微ラマン分光法による配向指数MOuが2.40以下、特に1.00~2.00の範囲であること、前記配向指数MOuに対する、缶胴最上部から45~60%の距離内の位置のポリエステル樹脂被覆表面の顕微ラマン分光法による配向指数MOmの比、MOm/MOuが2.10以上、特に2.50~5.00の範囲であること、が好適である。
上述した顕微ラマン分光法におけるPETの解析において、1615cm-1のバンドはC=C伸縮モードに起因するピークであり、配向に対して最も相関性が高く、一方632cm-1のバンドは配向の影響を受けることがないため内部標準バンドとすることができることから、1615cm-1におけるピーク強度の最大値I1615を、632cm-1におけるピークトップ強度I632で割ることにより、相対強度I1615/I632が求められる。この相対強度を缶高さ方向(Y)及び缶高さ方向に対して垂直方向(X)のそれぞれについて測定した相対強度の比Ix/Iyが上記配向指数MOとなり、これは非晶部を含めたPETの配向性を表わしている。
内面樹脂被覆のネック部における配向指数MOuが2.40以下であること、及びネック部における内面樹脂被覆は缶垂直方向(X)よりも缶高さ方向(Y)に配向が大きく、配向指数MOuに対する、缶胴中央部の配向指数MOmの比、MOm/MOuが2.10以上であることから、ネック部の内面樹脂被覆は缶胴中央部の内面樹脂被覆よりも配向が小さく、ネック部の内面樹脂被覆の配向が崩されていることがわかる。
従ってこのような配向結晶状態を有する第一の態様のシームレス缶の内面樹脂被覆は、後述する第二及び第三の態様のシームレス缶と同様に、レトルト殺菌処理等に付された場合にも、ネック部の内面樹脂被覆の剥離(疵デラミネーション)の発生が有効に防止されており、内面樹脂被覆の耐熱水密着性に優れ、優れた耐食性を有している。
【0019】
本発明の第一の態様のシームレス缶においては、缶胴最上部から15~60%の位置の径に対して、最大縮径部の縮径率が6%以下で縮径されることが好適である。上記値以下で縮径加工されることにより、ネック部における外面樹脂被覆の配向結晶の状態を好適に維持することが可能となる。
【0020】
[第二及び第三の態様]
本発明の第二の態様のシームレス缶は、内面樹脂被覆を構成するポリエステル樹脂の融点が250℃以上であり、シームレス缶が内容品変敗防止のための殺菌処理を受ける前の状態において、最大縮径部における内面ポリエステル樹脂被覆表面の顕微ラマン分光法による配向指数MOuが3.60以下であることが重要な特徴である。
また第二の態様においては、この内面樹脂被覆が、前記配向指数MOuに対する、缶胴最上部から45~60%の距離内の位置のポリエステル樹脂被覆表面の顕微ラマン分光法による配向指数MOmの比、MOm/MOuが1.80以上、特に1.90~4.50の範囲であること、シームレス缶が内容品変敗防止のための殺菌処理を受けた後(以下、「殺菌処理後」ということがある)の状態において、配向指数MOuが4.10以下、特に1.00~4.00の範囲であること、前記MOm/MOuが1.37以上、特に1.40~5.00の範囲であること、が好適である。
本発明の第三の態様のシームレス缶は、内面樹脂被覆を構成するポリエステル樹脂の融点が220℃以下であり、殺菌処理後の前記MOm/MOuが1.37以上、特に1.40~2.00の範囲であることが重要な特徴である。尚、第三の態様において、内面ポリエステル樹脂被覆として多層構成を採用する場合には、金属板側の下層を構成する樹脂の融点が220℃以下であればよい。
またこの態様においては、内面樹脂被覆が、前記配向指数MOuが3.10以下であること、特に1.40~2.00の範囲であることが好適である。
尚、本明細書において、「シームレス缶が内容品変敗防止のための殺菌処理を受ける前の状態」とは、前述した本発明の製造方法により製造された後内容品が充填されるまでの空の缶の状態を意味し、「シームレス缶が内容品変敗防止のための殺菌処理を受けた後の状態」とは、内容物充填後に行われるレトルト殺菌やパストライズ等の従来公知の殺菌処理を受けた内容物が充填された缶の状態を意味する。
【0021】
本発明の第二及び第三の態様のシームレス缶においては、内面樹脂被覆が上記特徴を有することから、金属板への密着性が顕著に向上されている。そのため、縮径率が15%以上、特に20%以上と縮径量が大きい最大縮径部を有する場合や、或いは表面処理の施されてない金属板を用いた場合であっても、内容物充填後に内容品の変敗防止のために行われる殺菌処理や蒸煮処理等に付された場合に、ネック部の内面樹脂被覆の剥離(疵デラミネーション)の発生が有効に防止されており、内面樹脂被覆の耐熱水密着性に優れ、優れた耐食性を有している。
【0022】
[金属板]
本発明では、金属板として従来シームレス缶の成形に使用されていた各種表面処理鋼板やアルミニウム等の軽金属板を使用することができる。
表面処理鋼板としては、冷間圧延鋼板を焼鈍後調質圧延あるいは二次冷間圧延し、亜鉛メッキ、錫メッキ、ニッケルメッキ、電解クロム酸処理、クロム酸処理、ジルコニウム化合物処理等の表面処理の一種または二種以上を行ったものを用いることができる。
軽金属板としては、所謂アルミニウム板の他に、アルミニウム合金板が使用される。具体的には「JIS H 4000」における3000番台、5000番台、6000番台のアルミニウム合金板を好適に使用することができる。これらの軽金属板は、リン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理、ジルコニウム処理等の無機系の表面処理が行われていることが望ましいが、本発明におけるポリエステル樹脂被覆は金属板との密着性に優れているため、上述のような表面処理を施していない無処理のアルミニウム板も好適に用いることができる。
金属板の素板厚は、金属の種類、容器の用途或いはサイズによっても相違するが、一般に0.10~0.50mmの厚みを有するのがよい。この内、表面処理鋼板の場合には、得られるシームレス缶の強度、成形性の観点から、0.10~0.30mmの厚みが好ましく、また軽金属板の場合には0.15~0.40mmの厚みを有するのがよい。
【0023】
[ポリエステル外面樹脂被覆]
本発明の第一の態様のシームレス缶において、外面樹脂被覆を構成するポリエステル樹脂としては、レトルトブラッシングおよび白筋の発生を抑制する見地から、ポリブチレンテレフタレート単独樹脂又はブチレンテレフタレート単位を主体とする共重合樹脂(以下、これらを合わせて「PBT」ということがある)を20~60質量%、特に45~55質量%の量で含有し、残余の成分が、ポリエチレンテレフタレート単独樹脂(PET)又はエチレンテレフタレート単位を主体とする共重合樹脂(例えば、イソフタル酸5モル%含有PETの場合は、「PETIA5」のように表記することがある)であることが好適である。上記範囲よりもPBTの含有量が少ない場合には、缶底部にレトルトブラッシングや白筋等の白化が発生し、外観特性が低下するおそれがある。その一方上記範囲よりもPBTが多いと、前述した通り、外面樹脂被覆の密着性が低下し、レトルト殺菌処理等によりネック部の外面樹脂被覆の剥離が生じるおそれがある。また絞りしごき加工の際に樹脂被覆が削れ、金属露出を生じるおそれがあると共に、印刷後の外観特性に低下するおそれがある。
PBTの共重合樹脂又はPETの共重合樹脂は、ブチレンテレフタレート単位又はエチレンテレフタレート単位を50モル%以上、特に80モル%以上の量で含有することが好適である。
【0024】
また共重合成分として、テレフタル酸成分以外のカルボン酸成分としては、これに限定されないが、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、p-β-オキシエトキシ安息香酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4’-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、ヘミメリット酸、1,1,2,2-エタンテトラカルボン酸、1,1,2-エタントリカルボン酸、1,3,5-ペンタントリカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸、ビフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸、ダイマー酸等を挙げることができる。
一方、1,4-ブタンジオール又はエチレングリコール以外のアルコール成分としては、これに限定されないが、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6-へキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビタン等を挙げることができる。
外面樹脂被覆としては、これに限定されないが、ポリエチレンテレフタレート樹脂中のイソフタル酸(IA)含有量は、2~15モル%であることが好ましく、特に5~13モル%であることが好ましい。また、ポリエステル樹脂皮膜中の、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリブチレンテレフタレート(PBT)がPET:PBT=80:20~40:60の質量比でブレンドして成るブレンド物から成ることが好適である。
【0025】
また本発明の第二及び第三のシームレス缶においては、外面樹脂被覆として第一の態様と同様の上記ポリエステル樹脂を使用することもできるが、最大縮径部の縮径率を15%以上とする場合には、エチレンテレフタレート単位を80モル%よりも多い量で含有するポリエステル樹脂を用いることが好適である。尚、エチレングリコール及びテレフタル酸以外の共重合成分としては、上述した共重合成分を使用することができる。
第二及び第三の態様のシームレス缶においては、好適には、後述する実施例のように、内面樹脂被覆と同様の外面樹脂被覆とすることが望ましい。
【0026】
ポリエステル樹脂は、溶媒としてフェノール/テトラクロロエタン混合溶媒を用いて測定した固有粘度(IV)が0.5~1.4dL/gの範囲にあることが好ましく、特に0.65~1.4dL/gの範囲にあることが好ましい。固有粘度が上記範囲よりも大きいと、樹脂を加熱溶融させた際の溶融粘度が極端に高くなり、金属板に樹脂を被膜する作業が困難となり、好ましくない。また、固有粘度が上記範囲よりも小さいと、絞り加工やしごき加工のような厳しい加工に耐えられず、フレーバー性や耐食性も劣り、好ましくない。
ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、30~80℃の範囲にあることが好ましく、特に、50~65℃の範囲にあることが好ましい。特に上記範囲よりもTgが高い場合には、加工性が低下するおそれがある。一方上記範囲よりもTgが低い場合には、耐レトルト白化性等が劣るおそれがある。
またポリエステル樹脂の融点(Tm)は、200~260℃の範囲にあることが好ましく、特に、215~235℃の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも融点が低い場合には、耐レトルト白化性が低下するおそれがある。
更にポリエステル樹脂には、それ自体公知の樹脂用添加剤、例えば、非晶質シリカなどのアンチブロッキング剤、二酸化チタン等の顔料、帯電防止剤、酸化防止剤、滑剤等を公知の処方によって配合することができる。
外面樹脂被覆の厚みは、これに限定されないが、5~20μmの範囲にあることが好ましい。また外面樹脂被覆は、
図1に示したように単層であってもよいが、2層以上の多層であってもよい。多層の場合は、少なくとも最下層以外の全ての層に、上述したPBTを含有する外面樹脂被覆であることが重要である。また多層の場合には、総厚みが上記範囲にあることが望ましい。
【0027】
[ポリエステル内面樹脂被覆]
本発明のシームレス缶において、内面樹脂被覆は、外面樹脂被覆と同様のポリエステル樹脂を使用することもできるが、絞りしごき加工における樹脂被覆の加工密着性や耐食性等の見地から、エチレンテレフタレート単位を主体とする共重合樹脂であることが好適である。
特に、ポリエチレンテレフタレート単独樹脂(ホモPET)又はエチレンテレフタレート単位を主体とする共重合樹脂(共重合PET)であることが好ましく、イソフタル酸を1~15モル%の量で含有する共重合PETを好適に使用することができる。
内面樹脂被覆においても、外見樹脂被覆と同様に、ポリエステル樹脂の融点(Tm)は、200~260℃の範囲にあることが好ましく、特に、215~235℃の範囲にあることが好ましい。上記範囲よりも融点が低い場合には、耐レトルト白化性が低下するおそれがある。
尚、第二の態様のシームレス缶においては、内面樹脂被覆として融点(Tm)が250℃以上のポリエステル樹脂を用いることが特徴であり、これにより安価でかつフレーバー特性に優れた容器性能を発現することが可能となる。
【0028】
内面樹脂被覆においても外面樹脂被覆と同様の範囲内にある固有粘度及びガラス転移温度を有し、従来公知の樹脂用添加剤を使用することができる。
また内面樹脂被覆の厚みは、これに限定されないが、10~30μmの範囲にあることが好ましい。
内面樹脂被覆は、単層又は多層のいずれであってもよいが、好適には、下層にイソフタル酸含有量が9~15モル%のPETIAを使用し、表層に下層よりもイソフタル酸含有量が少ないイソフタル酸含有量が9モル%以下のPETIA又はホモPETを使用することが特に望ましい。下層と表層の厚み比は、これに限定されないが、8:2~4:6の範囲にあることが好適である。
【0029】
(ポリエステル樹脂被覆金属板)
本発明の樹脂被覆シームレス缶の製造に用いるポリエステル樹脂被覆金属板は、上述したポリエステル樹脂を用い、押出ラミネート法、熱融着法、ドライラミネーション等、従来公知の方法により、ポリエステル樹脂被覆を金属板に被覆して製造することができる。加工性等の観点からは押出ラミネート法によりラミネートされていることが好適であるが、熱融着法やドライラミネーションにより耐食性に優れた二軸延伸ポリエステルフィルムをラミネートすることもできる。
ポリエステル樹脂から成る樹脂被覆は、内面及び外面の両方に形成されていることが好適であるが、いずれか一方のみにポリエステル樹脂被覆を形成し、他方を従来公知の塗料組成物から成る塗膜としてもよい。
【0030】
ポリエステル樹脂被覆の金属板への密着性を更に向上するために、接着プライマーを用いることもできる。
密着性と腐食性とに優れたプライマー塗料としては、エポキシフェノール系プライマー塗料、ポリエステルフェノール系プライマー塗料等、従来公知のプライマーを用いることができるが、衛生性の点からポリエステル樹脂と硬化剤としてm-クレゾールから誘導されたレゾール型フェノール樹脂から成るポリエステルフェノール系プライマー塗料を用いることが好ましい。
【0031】
(シームレス缶の製造方法)
本発明のシームレス缶は、上述したポリエステル樹脂が内面及び/又は外面に被覆された金属板を用いて、絞り加工により浅絞り缶を成形する絞り成形工程、前記浅絞り缶を再絞りしごき加工により絞りしごき缶を成形する再絞りしごき成形工程等の従来公知の成形方法で成形し、得られた絞りしごき缶の全体を加熱する加熱工程、該加熱工程を経た絞りしごき缶の胴部外面に印刷を施す印刷工程、前記印刷缶の全体を加熱する乾燥・焼付け工程、及び該乾燥・焼付け工程を経た絞りしごき缶にネック加工・フランジ加工を行うネック・フランジ加工工程、を経ることにより成形されるが、前述した通り、本発明においては、シームレス缶としたときにネック部となる箇所を、(a)絞り成形工程と、再絞りしごき成形工程の間、(b)加熱工程と印刷工程の間、(c)ネック・フランジ加工工程の後、の何れかのタイミングで、185~230℃、特に190~210℃の範囲の温度となるように部分加熱を行う部分加熱工程を有することが重要な特徴である。
これにより、ネック部以外の箇所のポリエステル樹脂被覆の配向結晶を低下させることなく、ネック部となる箇所のポリエステル樹脂被覆の配向結晶を低下させて、Im/Iu、Wm/Wu,MOm/MOu等を前述した範囲に調整することが可能となり、レトルト殺菌処理等の高温高湿度条件下に曝された場合にも、レトルトブラッシング等の白化の発生や、製缶工程中の潤滑剤除去および成形歪みの緩和を目的とした加熱工程で缶全体が高温条件下に曝された場合にも、白筋等の白化の発生が防止されていると共に、ネック部の樹脂被覆の剥離を有効に防止することができる。
【0032】
[絞り成形工程・再絞りしごき成形工程]
絞り成形工程及び再絞りしごき成形工程は、従来公知の方法により行うことができる。
絞り成形工程で、絞りポンチとダイスを用いて、絞り比(=ブランク径/ポンチ径)が1.4~1.8になるように絞り成形された浅絞り缶は、次いで再絞りしごき成形工程に付されるが、本発明においては、前述した通り、再絞りしごき成形工程に付される前に、この浅絞り缶のシームレス缶のネック部となる部分である浅絞り缶の缶高さに対して缶胴最上部から0~25%の位置を部分加熱してもよい(前記タイミング(a):加熱方法については後述)。
次いで行う再絞りしごき成形工程は、浅絞り缶の絞り比等によっては、再絞り工程を省略することができ、直接しごき加工を行ってもよい。また再絞りによる曲げ伸ばし加工(ストレッチ加工)が行われてもよい。好適には、再絞り加工及びしごき加工により側壁部の薄肉化を行う。薄肉化は、樹脂被覆金属板の素板厚の30~65%、特に34~42%の厚みになるように薄肉化されることが好適である。
【0033】
[加熱工程]
絞り成形及び再絞りしごき成形により得られたシームレス缶は、缶胴最上部をトリミングした後、成形時に使用された潤滑剤を除去すると共に、ポリエステル樹脂被覆の成形歪を緩和するために加熱処理に付される。この加熱処理は、樹脂被覆の融点(Tm)を基準として、一般にTm-5℃以上、特にTm-5~Tm+20℃の温度範囲で行う。加熱時間は、加熱方法によって異なり一概に規定できないが、一般に30~60秒の範囲であることが好ましい。
加熱方法としては、例えば熱風循環炉、赤外線加熱炉、高周波誘導加熱装置、誘電加熱装置等、従来公知の加熱手段を使用することができる。
加熱工程を経て冷却されたシームレス缶は、次いで印刷工程に付されるが、本発明においては、前述した通り、印刷工程に付される前に、この加熱処理済みシームレス缶のネック部となる部分(加熱済みシームレス缶の高さに対する缶胴最上部から0~15%の位置)を部分加熱してもよい(前記タイミング(b):加熱方法については後述)。
【0034】
[印刷工程及びネック・フランジ加工]
加熱処理に付されたシームレス缶は、次いでグラビア印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷等の従来公知の印刷方式により、缶胴部に印刷が施された後、焼き付け乾燥されることにより、印刷層が形成される。また印刷層の上には、印刷画像の疵つきなどを防止するために仕上げニス層が形成される。なお、印刷層は缶胴部中央のみならず、ネック加工される部分にも形成されていることが意匠性の点から好適である。
印刷層及び仕上げニス層が形成されたシームレス缶は、次いでネック加工(縮径加工)によりネック部が縮径されると共に、フランジ加工によりフランジ部が形成されて、シームレス缶として完成する。
ネック加工による縮径率は一般に5~25%の範囲であり、前述した外面樹脂被覆を有する第一の態様のシームレス缶においては6%以下であることが好ましく、前述した内面樹脂被覆を有する第二及び第三のシームレス缶においては15%以上の縮径率とすることもできる。尚、本明細書における縮径率は、下記式から算出される。
縮径率(%)=(D0-D1)/D0×100
式中、D0は、缶胴最上部から15~60%の位置内における缶胴の内径であり、D1は最大縮径部における缶胴の内径である。
【0035】
本発明においては、前述した通り、このシームレス缶の高さに対して缶胴最上部から0~15%の位置の部分を加熱して完成品とすることができる(前記タイミング(c):加熱方法については後述)。なお、ネック加工が施される領域の少なくとも一部分には、印刷層および仕上げニス層が含まれており、特に、顔料が印刷されている缶外面の巻き締め直下に疵が生じると、レトルト殺菌の際に、その疵を起点として剥離を生じやすい。
【0036】
[部分加熱工程]
上述したように、本発明においては、シームレス缶としたときにネック部となる部分を、前述した(a)~(c)の何れかのタイミングで、185~230℃、特に190~210℃の温度となるように部分加熱を行うことにより、外面樹脂被覆のIm/Iuの値、内面樹脂被覆のWm/Wu、MOu、MOm/MOuを上述した値に調整することができる。
部分加熱工程は、前記(a)~(c)の何れのタイミングで行ってもよいが、金属板との密着性を向上すべき部分であるネック部を完成品の状態で直接加熱することにより、配向結晶を効率よく制御できることから、特にネック・フランジ加工工程の後のシームレス缶で行う、前記タイミング(c)で行うことが好適である。
【0037】
加熱時間は、加熱温度や加熱方法により一概に規定することができないが、0.05~40秒の範囲にあることが望ましく、特に高周波誘導加熱による場合には、2.0秒未満、特に0.1~0.6秒の範囲で加熱することが好適である。
加熱は、上記温度条件を満足する限りその方法は限定されないが、特に高周波誘導加熱によることが好ましい。オーブンなどの他の加熱方式に対する利点としては、高周波誘導加熱では、金属板から加熱されるため金属板と樹脂被覆の界面を加熱することから、樹脂被覆と金属板の密着力を効率よく向上できること、設備の設置に必要なスペースが小さいこと、短時間で高温まで到達可能であること、特定の部位のみを加熱可能であることが挙げられる。
尚、本発明において部分加熱を高周波誘導加熱により行う場合は、シームレス缶のネック部となる部分のみを選択的に加熱し、上記温度は、金属板とフィルムの界面の到達温度であり、この到達温度に達するまでの時間を加熱時間とする。またオーブン加熱による場合は、上記温度はオーブン内の最高到達温度であり、この最高到達温度の保持時間を加熱時間とする。
【0038】
高周波誘導加熱は、これに限定されないが、周波数が10~200KHzの高周波が使用される。高周波誘導加熱には、それ自体公知の高周波誘導加熱コイルを備えた加熱装置を用いることができる。この加熱装置は一般に、高周波誘導加熱コイル、コイルと電源とを接続するための電極、コイルとシームレス缶との電磁結合を強めると共に、シームレス缶の加熱部分を規制する磁性部材、及びコイルを冷却するための冷却機構からなっている。
【0039】
このようにして完成された本発明のシームレス缶は、前述した通り、レトルト殺菌処理等のような高温高湿度条件に曝された場合でも、レトルトブラッシング等の白化の発生や、製缶工程中の潤滑剤除去および成形歪みの緩和を目的とした加熱工程で缶全体が高温条件下に曝された場合にも、白筋等の白化の発生が抑制されていると共に、ネック部の樹脂被覆の剥離が有効に防止されている。
【実施例0040】
本発明を以下の実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(実施例1~12、比較例1~5)
板厚0.26mmのアルミニウム板(A3104材番)を用い、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)およびイソフタル酸11モルを共重合したポリエチレンテレフタレート樹脂(PETIA11)を60:40の質量比でブレンドして成るポリエステル樹脂(ガラス転移温度56℃、融点I:218℃、融点II:232℃)からなる、厚み10μmのフィルムを外面樹脂被覆に、イソフタル酸(IA)を含有したポリエチレンテレフタレート樹脂からなる厚み12μmの2層フィルム(表層:ガラス転移温度79℃、融点247℃、下層:ガラス転移温度75℃、融点215℃)を内面樹脂被覆として、250℃に加熱した上記アルミニウム板に、ラミネートロールにより熱圧着させ内外面樹脂被覆アルミニウム板を得た。
得られた樹脂被覆アルミニウム板を、絞り成形機により、直径126.5mmの円形ブランクに打抜き、胴壁部の平均高さが38mmの浅絞りカップを形成した(絞り成形工程)。次いで前記浅絞りカップのしごき加工を行い(再絞りしごき成形工程)、得られた絞りしごき缶を設定温度190~210℃のオーブンで30~60秒間加熱した(加熱工程)。次いで缶胴部印刷層及び仕上げニス層を形成した(印刷工程)。その後、直径54.0mmの缶胴径から直径50.8mmへ縮径加工(縮径量5.9%)を行いネック部を成形した後、フランジ部を形成し(ネック・フランジ加工工程)、缶高さ133.215mmのシームレス缶を作成した。
【0042】
なお、部分加熱工程を、前記絞り成形工程と前記再絞りしごき成形工程の間(表1中、「a」で表記)、前記加熱工程と前記印刷工程の間(表1中、「b」で表記)、前記ネック・フランジ加工工程の後(表1中、「c」で表記)、のいずれかのタイミングで行った。表1に示す温度条件で、高周波誘導加熱装置にて、0.30秒加熱した。
【0043】
(実施例13~15、比較例6~7)
板厚0.27mmのアルミニウム板(A3104材番)を用い、ポリエチレンテレフタレート樹脂(ガラス転移温度80℃、融点254℃)からなる、厚み12μmのフィルムを、290℃に加熱した上記アルミニウム板の内面及び外面となる側に、ラミネートロールにより熱圧着させ内外面樹脂被覆アルミニウム板を得た。
得られた樹脂被覆アルミニウム板を、絞り成形機により、直径142.0mmの円形ブランクに打抜き、胴壁部の平均高さが33.5mmの浅絞りカップを形成した(絞り成形工程)。次いで前記浅絞りカップのしごき加工を行い(再絞りしごき成形工程)、得られた絞りしごき缶を設定温度190~210℃のオーブンで30~60秒間加熱した(加熱工程)。次いで缶胴部印刷層及び仕上げニス層を形成した(印刷工程)。その後、直径68.3mmの缶胴径から直径54.0mmへ縮径加工(縮径率20.9%)を行いネック部を成形した後、フランジ部を形成し(ネック・フランジ加工工程)、缶高さ122.2mmのシームレス缶を作成した。
部分加熱工程をネック・フランジ加工の後(表4中、「c」で表記)で行うと共に、表4に示す温度条件で、実施例1と同様に高周波誘導加熱を行った。
【0044】
(実施例16~19、比較例8~9)
板厚0.27mmのアルミニウム板(A3104材番)を用い、イソフタル酸(IA)を含有したポリエチレンテレフタレート樹脂からなる厚み12μmの2層フィルム(表層: ガラス転移温度79℃、融点247℃、下層: ガラス転移温度75℃、融点215℃、)を250℃に加熱した上記アルミニウム板の内面及び外面となる側に、ラミネートロールにより熱圧着させ内外面樹脂被覆アルミニウム板を得た。
得られた内面樹脂被覆アルミニウム板を、絞り成形機により、直径142.0mmの円形ブランクに打抜き、胴壁部の平均高さが33.5mmの浅絞りカップを形成した(絞り成形工程)。次いで前記絞りカップのしごき加工を行い(再絞りしごき成形工程)、得られた絞りしごき缶を設定温度190~210℃のオーブンで30~60秒間加熱した(加熱工程)。次いで缶胴部印刷層及び仕上げニス層を形成した(印刷工程)。その後、直径68.3mmの缶胴径から直径54.0mmへ縮径加工(縮径率20.9%)を行いネック部を成形した後、フランジ部を形成し(ネック・フランジ加工工程)、缶高さ122.2mmのシームレス缶を作成した。
部分加熱工程をネック・フランジ加工の後(表5中、「c」で表記)で行うと共に、表5に示す温度条件で、実施例1と同様に高周波誘導加熱を行った。
【0045】
(サンプルの作成)
実施例1~19、比較例1~9によって得られたシームレス缶の、最大縮径部、および缶胴最上部から約53%(缶胴中央部)の位置が中心となるように、短辺側を缶の高さ方向として、約4mm×横20mmのサンプルをそれぞれ切り出した。なお、サンプルは、板の圧延0°方向がサンプルの長辺側の中心となるように切り出した。
【0046】
(X線回折法による2Θ=15~19°の間にあるピーク強度の最大値)
全自動多目的水平型X線回折装置を使用し、上述した方法によって、切り出した実施例1~12及び比較例1~5のサンプルをステージに水平にセットし、短辺側をX線源及び検出器側に向け、長辺側は缶高さ方向に対して缶上部側を装置内部方向に向けて測定を行った。なお、外面樹脂被覆を上側として、サンプルにはアルミニウム板が残ったままサンプル中心付近の測定を行った。測定条件は以下に記載の通りである。
装置:(株)Rigaku社製 全自動多目的水平型X線回折装置 SmartLab
管球:ターゲット…Cu、出力…9kW
管電圧:40kV
管電流:20mA
スキャン軸:2Θ/Θ
走査範囲:15~30°
ステップ:0.02deg
【0047】
外面樹脂被覆についてポリエステル樹脂のX線回折角2Θ=15~19°の範囲を、回折角2Θに対しX線の入射角と反射角がそれぞれΘであり、入射角と反射角が常に等しくなるように保ちながら、回折角2Θを15~30°間走査し、反射法にてX線回折スペクトルの測定を行った。なお、測定に際しては、サンプルに油分が付着していると正しく解析が出来ないおそれがあるため、ピンセットなどを用いて、サンプルをステージ上に固定した。
2Θ=15°のピーク強度と2Θ=30°のピーク強度を直線で結びバックグラウンドとし、バックグラウンドを引いた、ネック部における外面樹脂被覆のX線回折法による2Θ=15~19°の間にあるピーク強度の最大値を求め、その値を、該測定部位における外面樹脂被覆の厚みで割った値Iu(cps/μm)を算出した。同様にバックグラウンドを引いた、缶胴中央部における外面樹脂被覆のX線回折法による2Θ=15~19°の間にあるピーク強度の最大値を求め、その値を、該測定部位における外面樹脂被覆の厚みで割った値Im(cps/μm)を算出した。これらの結果から、比Im/Iuを算出した。測定は125℃30分のレトルト殺菌前後で実施した。結果を表1及び2に示す。
【0048】
(内面樹脂被覆の顕微ラマン分光法による測定)
上述した方法によって、切り出した実施例4,9,12~19及び比較例1,4,6~9のサンプルをステージに水平にセットし、内面樹脂被膜を上側として、サンプルにはアルミニウムが残ったままサンプル中心付近の測定を行った。
A.半値幅の測定
使用装置及びその測定条件は以下の通りである。
装置:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製DXR2xi イメージング顕微ラマン
レーザー、分光器:波長532nm、5mW 非偏光、フルレンジグレーティング
アパーチャ:25μm共焦点ピンホール
検光子:なし
対物レンズ:×100
測定位置:試料表面(最表面フォーカス位置から深さ方向2μm以内の箇所を測定)
上記条件で1730cm-1付近のピークの半値幅Wを求めた。また、半値幅(FWHM)やピーク強度を求める際には、バックグランドを差し引いたピーク強度を利用した。測定は125℃30分のレトルト殺菌前後で実施した。結果を表3~5に示す。
【0049】
B.配向指数MOの測定
試料の高さ方向にレーザー偏光と検光子を揃えた場合と、試料の垂直方向に揃えた場合のそれぞれで、632cm-1付近のピークトップ強度に対する1615cm-1付近のピークトップ強度の比I1615/I632を求め、垂直方向に対する高さ方向の比(I1615/I632)yy/(I1615/I632)xxを配向指数MOとした以外は、Aと同様にして行った。結果を表3~5に示す。
【0050】
(外面樹脂被覆のネック部デラミ評価)
実施例1~12及び比較例1~5で得られた各シームレス缶に水充填した後、蓋を巻締め、殺菌温度130℃、殺菌時間30分の条件でレトルト殺菌処理を行った。
レトルト殺菌後のシームレス缶について、剥離の大小にかかわらず、巻締部直下にフィルムの浮きが発生した場合は剥離ありと評価し、90缶について剥離が発生した缶数を調べた。評価の基準は以下の通りである。結果を表1に示す(表中( )内の数値は発生缶数である)。
◎:剥離発生数0缶
〇:剥離発生数1~3缶
×:剥離発生数4缶以上
【0051】
(内面樹脂被覆のネック部疵デラミ評価)
実施例4,9,12~19及び比較例1,4,6~9で得られた各シームレス缶のネック部の内面樹脂被覆に、円周方向に1周分の切込みをカッターで入れた後、殺菌温度125℃、殺菌時間30分の条件でレトルト殺菌処理を行った。評価の基準は以下の通りである。結果を表3~5に示す。
〇:10缶中フィルム浮きを発生した缶数は0缶
×:10缶中フィルム浮きを発生した缶数1缶以上
【0052】
(仕上げニスオーバーラップ部外観評価)
実施例1~12及び比較例1~5で得られた各シームレス缶の仕上げニスのオーバーラップ部の外観を目視により観察した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
〇:異常なし
×:外観不良が発生
【0053】
(総合評価)
表1における総合評価の基準は下記の通りである。
〇:オーバーラップ部の外観評価及びレトルト後の樹脂被覆のネック部デラミ評価が、両方とも〇
×:オーバーラップ部の外観評価又はレトルト後の樹脂被覆のネック部デラミ評価の少なくとも一方が×
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
本発明のシームレス缶は、レトルト殺菌処理などの高温高湿度条件下に曝された場合でも、レトルトブラッシングの発生や、製缶工程中の潤滑剤除去および成形歪みの緩和を目的とした加熱工程で缶全体が高温条件下に曝された場合にも、白筋等の白化が有効に抑制されていると共に、ネック部における樹脂被覆の剥離も有効に防止されているため、レトルト殺菌処理や蒸煮処理等が必要な内容物を充填するための容器として好適に利用できる。
1 シームレス缶、2 胴部、3 底部、4 ネック部、5 フランジ部、6 缶胴最上部、7 缶底部、8 最大縮径部、10 金属板、11 外面樹脂被覆、12 内面樹脂被覆、13 印刷層、14 仕上げニス層。