(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163169
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】生物学的試料の選択的標識による分析物検出
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20241114BHJP
C12Q 1/28 20060101ALI20241114BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20241114BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
G01N33/543 545D
C12Q1/28
C12Q1/68
C07K16/00 ZNA
C07K16/00
【審査請求】有
【請求項の数】27
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024149932
(22)【出願日】2024-08-30
(62)【分割の表示】P 2021545765の分割
【原出願日】2020-02-04
(31)【優先権主張番号】62/801,011
(32)【優先日】2019-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/801,009
(32)【優先日】2019-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】520428650
【氏名又は名称】アコヤ・バイオサイエンシズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・ミラー
(72)【発明者】
【氏名】ジュリア・ケネディ-ダーリング
(72)【発明者】
【氏名】イ・ジェン
(72)【発明者】
【氏名】クリフォード・シー・ホイト
(72)【発明者】
【氏名】ガジャラクシュミ・ダクシナムールティ
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、試料の選択的標識によって試料中の生物学的分析物を検出することである。
【解決手段】本発明は、第1の標的分析物を有する生物学的試料を第1の物質と接触させる工程であって、第1の物質が、第1の標的分析物と特異的に結合する第1の結合種及び結合種にコンジュゲートされた第1のオリゴヌクレオチドを含む、工程;第1の反応種及び第1の反応種にコンジュゲートされた第2のオリゴヌクレオチドを含む第2の物質と生物学的試料を接触させて、第2のオリゴヌクレオチドの少なくとも一部分を第1のオリゴヌクレオチドの少なくとも一部分にハイブリダイズさせる工程;並びに、生物学的試料を第1の標識種と接触させる工程であって、第1の標識種が、第1の反応種と反応して、生物学的試料において第1の標識種又はその誘導体を沈着させる、工程を含む、方法を特徴に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(i)第1の標的分析物を含む生物学的試料を第1の物質と接触させる工程であって、前記第1の物質が、前記第1の標的分析物と特異的に結合する第1の結合種及び前記結合種にコンジュゲートされた第1のオリゴヌクレオチドを含む、工程;
(ii)前記生物学的試料を第1の反応種及び前記第1の反応種にコンジュゲートされた第2のオリゴヌクレオチドを含む第2の物質と接触させて、前記第2のオリゴヌクレオチドの少なくとも一部分を前記第1のオリゴヌクレオチドの少なくとも一部分にハイブリダイズさせる工程;
(iii)前記生物学的試料を第1の標識種と接触させる工程であって、前記第1の標識種が、前記第1の反応種と反応して、前記生物学的試料において前記第1の標識種又はその誘導体を沈着させる、工程;
(iv)前記第1の標識種又はその誘導体の沈着後、前記第2の物質を前記生物学的試料から除去する工程;
(v)前記生物学的試料を第3の物質と接触させる工程であって、前記第3の物質が、前記生物学的試料中の第2の標的分析物と特異的に結合する第2の結合種、及び前記第2の結合種にコンジュゲートされた第3のオリゴヌクレオチドを含む、工程;
(vi)前記生物学的試料を第2の反応種及び前記第2の反応種にコンジュゲートされた第4のオリゴヌクレオチドを含む第4の物質と接触させて、前記第4のオリゴヌクレオチドの少なくとも一部分を前記第3のオリゴヌクレオチドの少なくとも一部分にハイブリダイズさせる工程;
(vii)前記生物学的試料を第2の標識種と接触させる工程であって、前記第2の標識種が、前記第2の反応種と反応して、前記生物学的試料において前記第2の標識種又はその誘導体を沈着させる、工程
を含む方法。
【請求項2】
前記第1の反応種が触媒物質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の反応種が酵素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酵素が西洋ワサビペルオキシダーゼを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の標識種が色素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の標識種が不活性チラミド又はその誘導体と色素のコンジュゲートを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記生物学的試料を前記第1の標識種と接触させる工程が、前記第1の標識種を活性チラミド又はその誘導体と色素のコンジュゲートへ変換することを含み、前記活性チラミド又はその誘導体が第2の物質のすぐ近くで前記生物学的試料と結合する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の結合種が抗体又は抗体断片を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のオリゴヌクレオチドが少なくとも10ヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のオリゴヌクレオチドが少なくとも10ヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1及び第2のオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列が少なくとも70%相補的である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第2のオリゴヌクレオチドが前記第1のオリゴヌクレオチドより多い数のヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記第2のオリゴヌクレオチドが、前記第1のオリゴヌクレオチドの配列の異なる部分と相補的である、複数の近接する非連続的なヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記第1及び第2の反応種が同じである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記第1及び第2の反応種それぞれが、酵素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第1及び第2の反応種それぞれが、西洋ワサビペルオキシダーゼを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記第1のオリゴヌクレオチドと前記第3のオリゴヌクレオチドが異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記第2のオリゴヌクレオチドと前記第4のオリゴヌクレオチドが異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記第1の標識種が第1の色素を含み、前記第2の標識種が前記第1の色素と異なる第2の色素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記第1の結合種が第1の抗体又は第1の抗体断片を含み、前記第2の結合種が第2の抗体又は第2の抗体断片を含み、前記第1の結合種及び前記第2の結合種が前記生物学的試料中の異なる第1の標的分析物及び第2の標的分析物と選択的に結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記第1のオリゴヌクレオチドがRNA塩基のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記第1のオリゴヌクレオチドがDNA塩基のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記第1のオリゴヌクレオチドが少なくとも1個の合成ヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記第1のオリゴヌクレオチドが完全に一本鎖である、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記第1のオリゴヌクレオチドが部分的に二本鎖である、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
前記色素が発色種又は蛍光種を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項27】
生物学的試料の第1の標的分析物と特異的に結合する第1の結合種及び前記第1の結合種にコンジュゲートされた第1のオリゴヌクレオチドを含む第1の物質;
前記生物学的試料の第2の標的分析物と特異的に結合する第2の結合種及び前記第2の結合種にコンジュゲートされた第2のオリゴヌクレオチドを含む第2の物質;
反応種及び前記反応種にコンジュゲートされた第3のオリゴヌクレオチドを含む第3の物質;
反応種及び前記反応種にコンジュゲートされた第4のオリゴヌクレオチドを含む第4の物質;
第1の標識種;並びに
第2の標識種
を含み、前記第1及び第2の標識種それぞれが、前記反応種と反応して、前記生物学的試料において、それぞれ、前記第1及び第2の標識種又はそれらの誘導体を沈着させる、試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は、2019年2月4日に出願された米国仮特許出願第62/801,011号及び2019年2月4日に出願された米国仮特許出願第62/801,009号の優先権を主張し、これらの米国仮特許出願のそれぞれの全内容は参照により本明細書に組み入れられている。
【0002】
この開示は、試料の選択的標識による試料中の生物学的分析物の検出に関する。
【背景技術】
【0003】
生物学的試料中の幅広い種類のタンパク質と選択的に結合するために抗体が用いられている。免疫組織化学的方法は、典型的には、色素コンジュゲート型抗体を相補的マーカーに結合させ、それにより、マーカーを色素で標識することを含む。色素標識からの蛍光放射の検出が、試料におけるマーカーの存在を明らかにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第10,126,242号
【特許文献2】米国特許第7,555,155号
【特許文献3】PCT特許公開番号WO2005/040769
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Fagetら、Methods Mol. Biol. 1318: 161~72頁(2015)
【非特許文献2】L. Jimenez及びD. Landgrebe、「Hyperspectral Data Analysis and Feature Reduction Via Projection Pursuit」、IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing、37巻、6号、2653~2667頁、1999年11月
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
この開示は、色素及び他の標識種を試料へ選択的に適用して、試料中の特定の標的分析物を同定及び定量化するための方法を特徴とする。同定及び/又は定量化後、追加の色素及び標識物質を試料に加えて、追加の特定の標的分析物を同定及び定量化することができる。そのような様式で、試料中の特定の標的分析物を選択的に同定及び定量化するために、一連の連続的な標識及び検出サイクルを実施することができる。
【0007】
方法は、複数の第1の物質を試料に結合させる工程により実施することができ、各第1の物質が、試料中の異なる標的分析物と特異的に結合する結合種、及び結合種にコンジュゲートされた異なる第1のオリゴヌクレオチドを含む。その後、第2の物質が導入され、それは、反応種にコンジュゲートされた第2のオリゴヌクレオチドを含む。第2のオリゴヌクレオチドは、第1の物質のうちの1つの第1のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズし、第2の物質を試料においてその第1の物質と会合した標的分析物に対応する位置に局在させる。反応種と導入される標識物質との間の反応は、標識物質をその標的分析物のすぐ近くに沈着させる。その後、第2の物質は、相対的に穏やかな条件下での脱ハイブリダイゼーションにより除去され得、第1の物質のそれぞれが試料と結合したままであることを保証する。引き続いて、異なる第2の物質が導入される追加の標識サイクルを実施することができ、異なる第2の物質のそれぞれが、反応種にコンジュゲートされた異なる第2のオリゴヌクレオチドを含む。特定の第1のオリゴヌクレオチドと相補的である第2のオリゴヌクレオチドを有する第2の物質を選択することにより、特定の標的分析物は、異なる標識物質で選択的に標識され得る。第2の物質が試料から除去される相対的に穏やかな条件は、第1の物質が試料と結合したままであり、かつ試料完全性が維持されることを保証する。
【0008】
一態様において、本開示は、以下の工程を含む方法を特徴とする:(i)第1の標的分析物を含む生物学的試料を第1の物質と接触させる工程であって、第1の物質が、第1の標的分析物と特異的に結合する第1の結合種及び結合種にコンジュゲートされた第1のオリゴヌクレオチドを含む、工程;(ii)第1の反応種及び第1の反応種にコンジュゲートされた第2のオリゴヌクレオチドを含む第2の物質と生物学的試料を接触させて、第2のオリゴヌクレオチドの少なくとも一部分を第1のオリゴヌクレオチドの少なくとも一部分にハイブリダイズさせる工程;(iii)生物学的試料を第1の標識種と接触させる工程であって、第1の標識種が、第1の反応種と反応して、生物学的試料において第1の標識種又はその誘導体を沈着させる、工程;(iv)第1の標識種又はその誘導体の沈着後、第2の物質を生物学的試料から除去する工程;(v)生物学的試料を第3の物質と接触させる工程であって、第3の物質が、生物学的試料中の第2の標的分析物と特異的に結合する第2の結合種、及び第2の結合種にコンジュゲートされた第3のオリゴヌクレオチドを含む、工程;(vi)第2の反応種及び第2の反応種にコンジュゲートされた第4のオリゴヌクレオチドを含む第4の物質と生物学的試料を接触させて、第4のオリゴヌクレオチドの少なくとも一部分を第3のオリゴヌクレオチドの少なくとも一部分にハイブリダイズさせる工程;(vii)生物学的試料を第2の標識種と接触させる工程であって、第2の標識種が、第2の反応種と反応して、生物学的試料において第2の標識種又はその誘導体を沈着させる、工程。
【0009】
本方法の実施形態は、以下の特徴の任意の1つ又は複数を含み得る。
【0010】
第1の反応種は、触媒物質、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素を含み得る。第1の標識種は色素を含み得る。第1の標識種は、不活性チラミド又はその誘導体と色素のコンジュゲートを含み得る。
【0011】
生物学的試料を第1の標識種と接触させる工程は、第1の標識種を活性チラミド又はその誘導体と色素のコンジュゲートへ変換することを含み、活性チラミド又はその誘導体が第2の物質のすぐ近くで生物学的試料と結合する。
【0012】
第1の結合種は、抗体又は抗体断片を含み得る。
【0013】
第1のオリゴヌクレオチド及び/又は第2のオリゴヌクレオチドは、少なくとも10ヌクレオチドを含み得る。第1及び第2のオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列は少なくとも70%相補的であり得る。第2のオリゴヌクレオチドは、第1のオリゴヌクレオチドより多い数のヌクレオチドを含み得る。
【0014】
第2のオリゴヌクレオチドは、第1のオリゴヌクレオチドの配列の異なる部分と相補的である、複数の近接する非連続的なヌクレオチド配列を含み得る。
【0015】
第1及び第2の反応種は同じであり得る。第1及び第2の反応種はそれぞれ、酵素、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼを含み得る。
【0016】
第1及び第3のオリゴヌクレオチドは異なり得る。第2及び第4のオリゴヌクレオチドは異なり得る。
【0017】
第1の標識種は第1の色素を含み得、第2の標識種は、第1の色素と異なる第2の色素を含み得る。
【0018】
第1の結合種は第1の抗体又は第1の抗体断片を含み得、第2の結合種は第2の抗体又は第2の抗体断片を含み得、第1及び第2の結合種は、生物学的試料中の異なる第1及び第2の標的分析物と選択的に結合することができる。
【0019】
第1のオリゴヌクレオチドは、RNA塩基のヌクレオチド配列及び/又はDNA塩基のヌクレオチド配列を含み得る。第1のオリゴヌクレオチドは少なくとも1個の合成ヌクレオチドを含み得る。第1のオリゴヌクレオチドは、完全に一本鎖、又は代替として、部分的に二本鎖であり得る。
【0020】
色素は、発色種又は蛍光種を含み得る。
【0021】
本方法の実施形態は又、明確に他に記述がない限り、たとえ異なる実施形態に関連して記載されている場合でも、特徴の任意の組合せを含む、本明細書に記載された他の特徴のいずれかを含み得る。
【0022】
別の態様において、本開示は、生物学的試料の第1の標的分析物と特異的に結合する第1の結合種及び第1の結合種にコンジュゲートされた第1のオリゴヌクレオチドを含む第1の物質;生物学的試料の第2の標的分析物と特異的に結合する第2の結合種及び第2の結合種にコンジュゲートされた第2のオリゴヌクレオチドを含む第2の物質;反応種及び反応種にコンジュゲートされた第3のオリゴヌクレオチドを含む第3の物質;反応種及び反応種にコンジュゲートされた第4のオリゴヌクレオチドを含む第4の物質;第1の標識種;並びに第2の標識種を含み、第1及び第2の標識種それぞれが、反応種と反応して、生物学的試料において、それぞれ、第1及び第2の標識種又はそれらの誘導体を沈着させる、試薬キットを特徴とする。
【0023】
試薬キットの実施形態は、明確に他に記述がない限り、たとえ異なる実施形態に関連して記載されている場合でも、特徴の任意の組合せを含む、本明細書に記載された特徴のいずれかを含み得る。
【0024】
他に定義がない限り、本明細書に用いられる全ての技術的及び科学的用語は、この開示が属する当業者により一般的に理解されているのと同じ意味をもつ。本明細書に記載されたものと類似した又は等価の方法及び材料が本明細書における主題の実施又は試験に用いることができるが、適切な方法及び材料は下に記載されている。本明細書で言及された全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、全体として参照により本明細書に組み入れられている。矛盾する場合、定義を含む本明細書が支配する。更に、材料、方法、及び例は、例証となるのみであり、限定することを意図するものではない。
【0025】
1つ又は複数の実施形態の詳細は、添付の図面及び下記の説明に示されている。他の特徴及び利点は、その説明、図面、及び特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】生物学的試料の分析のための一連の工程例を示す概略図である。
【
図2A】試料分析のための方法の工程を示す概略図である。
【
図2B】試料分析のための方法の工程を示す概略図である。
【
図2C】試料分析のための方法の工程を示す概略図である。
【
図2D】試料分析のための方法の工程を示す概略図である。
【
図3A】生物学的試料の分析のための一連の工程例を示すフローチャートである。
【
図3B】試料分析のための方法の工程を示す概略図である。
【
図3C】試料分析のための方法の工程を示す概略図である。
【
図3D】試料分析のための方法の工程を示す概略図である。
【
図3E】試料分析のための方法の工程を示す概略図である。
【
図4A】試料分析のための方法の工程を示す概略図である。
【
図4B】試料分析のための方法の工程を示す概略図である。
【
図4C】試料分析のための方法の工程を示す概略図である。
【
図4D】試料分析のための方法の工程を示す概略図である。
【
図4E】試料分析のための方法の工程を示す概略図である。
【
図5A】オリゴヌクレオチドの例を示す概略図である。
【
図5B】オリゴヌクレオチドの例を示す概略図である。
【
図5C】オリゴヌクレオチドの例を示す概略図である。
【
図5D】オリゴヌクレオチドの例を示す概略図である。
【
図6】マルチスペクトル画像化システムの例を示す概略図である。
【
図8A】異なる標識部分で標識された組織切片の画像である。
【
図8B】異なる標識部分で標識された組織切片の画像である。
【
図8C】異なる標識部分で標識された組織切片の画像である。
【
図8D】異なる標識部分で標識された組織切片の画像である。
【
図9A】異なるレポート物質及び標識部分で標識された組織切片の画像である。
【
図9B】異なるレポート物質及び標識部分で標識された組織切片の画像である。
【
図9C】異なるレポート物質及び標識部分で標識された組織切片の画像である。
【
図10A】異なる標識部分で標識された組織切片の画像である。
【
図10B】異なる標識部分で標識された組織切片の画像である。
【
図10C】異なる標識部分で標識された組織切片の画像である。
【
図10D】異なる標識部分で標識された組織切片の画像である。
【
図10E】異なる標識部分で標識された組織切片の画像である。
【
図10F】異なる標識部分で標識された組織切片の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
様々な図面における同様の参照記号は同様の要素を示す。
【0028】
序論
生物学的試料中の複数の標的分析物の分析は、現代の研究方法の重要な側面である。例えば、複数の疾患マーカーを同定及び定量化することにより、細胞における複雑な制御及び同時発現関係を解明することができ、そのことは、疾患進行のモデルの確証を可能にし、かつその進行の重要な局面に干渉し得る標的治療の開発を助ける。
【0029】
生物学的試料中の複数の標的分析物を同定及び定量化するために、様々な異なる技術が用いられている。例えば、複数の発現したバイオマーカー(例えば、抗原、ペプチド)をターゲットするための技術は、試料を1セットのプローブに曝露する工程を含み、そのプローブのそれぞれが、バイオマーカーの1つと特異的に結合し、かつ異なる色素種にコンジュゲートされている抗体を含む。試料中のN個の異なるバイオマーカーをターゲットするために、N個の異なる型のプローブが導入され、そのプローブのそれぞれが1つの型のバイオマーカーをN個の異なる色素のうちの1個で染色する。その後、異なるプローブ色素のそれぞれからの放射(例えば、蛍光)が測定されて、試料中のN個の異なるバイオマーカーを同定及び定量化する。
【0030】
そのような方法において、異なるプローブ色素のそれぞれからの放射は、識別されて、プローブによりターゲットされた異なるバイオマーカーのそれぞれを別々に同定及び定量化する。実際面では、これは、複数のバイオマーカーが分析され得る程度に有効限界を課し得、試料中のそのような色素の数が増加するにつれて、異なるプローブ色素に対応する放射測定を分離及び定量化することが次第に困難になり得るためである。例えば、蛍光放射測定を個々の成分色素放射スペクトルからの寄与へ分解するためのプローブ色素の戦略的選択及び相対的に洗練された方法を以てさえも、前述の方法は、試料中の約10個の異なるバイオマーカーの同時的多重化調査に限定され得る。
【0031】
標的分析物標識のための前述の免疫組織化学的方法は又、試料中の標的分析物のそれぞれを特異的に標識するために送達され得るプローブ色素の量によって制限され得る。プローブ色素は特定の抗体にコンジュゲートされているため、試料中の特定の位置にアプライされ得るプローブ色素の量は、その位置における分析物と結合する抗体に直接的に付着しているプローブ色素部分の数に直接的に依存する。それゆえに、ある特定の免疫組織化学的方法は、それらの標的分析物に対応する位置においてプローブ色素のより多い量を選択的に沈着させることにより特定の標的分析物から生じたシグナルを増幅するそれらの能力においていくらか、制限される。
【0032】
同定及び定量化することができる試料中の標的分析物の数を更に拡大するために、通常の組織化学的標識方法は、抗体除去工程を含むように改変することができる。例えば、試料分析の第1のラウンドにおいて、1セットのN個の異なる色素コンジュゲート型抗体を用いて、試料を標識することができ、N個の異なるプローブに対応するN個の異なるバイオマーカーが、N個の異なる色素からの放射を測定することにより、試料において同定及び定量化することができる。その後、N個の異なるプローブが試料から除去される抗体除去工程が実施され得る。引き続いて、新しいセットのM個の異なる色素コンジュゲート型抗体を用いて、試料を標識し、M個の抗体は、前のN個のプローブとは異なる標的分析物を標識する。この第2のセットのプローブのM個の異なる色素からの放射を測定することは、試料中の第2のセットのM個の異なるバイオマーカーの同定及び定量化をもたらす。この方法論は、抗体除去及び多重化標識の複数のサイクルで拡大することができる。
【0033】
しかしながら、結合したプローブ抗体を試料から除去するために用いられる調製用条件は、相対的に時間がかかり、攻撃的であり得、ある特定の型の試料の完全性に悪影響を与え得る。したがって、試料が損傷される前に実行することができるそのような標識及び抗体除去サイクルの数は制限され得る。更に、特定の抗体と試料中の対応するバイオマーカーとの間の結合の性質に依存して、各分析サイクル後に試料からプローブのそれぞれを完全に除去することは困難であり得る。プローブが試料から完全には除去されないならば、ある特定の量のそれの対応する色素標識が試料中に残存する。次の分析サイクルにおける残存する色素標識からの放射が、他のプローブにコンジュゲートされた色素からの放射に干渉し得、試料中のある特定のバイオマーカーの不正確な定量化をもたらす。したがって、効果的に実施することができる多重化標識及び検出の数は、色素コンジュゲート型の抗体に基づいたプローブが試料から除去され得る程度によって制限され得る。
【0034】
ある特定の通常の分析手順において、色素クエンチング方法を用いて、試料中の残留する抗体にコンジュゲートされた色素から生じたシグナルを消失させる。しかしながら、これらの方法も又、実行するのに困難でかつ時間がかかり得る。例えば、残留する抗体にコンジュゲートされた色素からの寄与を完全に消失させる色素クエンチング試薬をアプライし、かつなお、次にアプライされる抗体にコンジュゲートされた色素により発生したシグナルに干渉せず、かつまた、試料の生化学的、構造的、及びスペクトル的特性に過度の影響を及ぼさないことは至難の業であり得る。
【0035】
この開示は、生物学的試料中の標的分析物の多重化標識、同定、シグナル増幅、及び定量化を実施するための方法を特徴とする。方法は、標的分析物標識、検出、及び試料中の抗体-バイオマーカー結合を破壊することのない、標識過程に関与したある特定の作用物質の除去の複数サイクルを実施するために用いることができる。それどころか、標識過程に関与した作用物質の除去は、相対的に穏やかな条件下で作用物質を脱ハイブリダイズすることにより実施され、試料完全性を保存し、かつ各標識及び検出サイクル中の作用物質の除去がほぼ完全であることを保証する。結果として、種標識の交差はほとんど起こらないか、全く起こらない。それどころか、試料中の各標的分析物が、異なる標識種で選択的に標識され得、各標識種の沈着が、特定の標的分析物の位置に特異的に対応する試料の領域に高度に拘束される。
【0036】
標的分析物の分析
この開示は、生物学的試料中の複数の標的分析物を同定及び定量化するための様々な異なる分析方法論を記載する。
図1は、試料分析の1つの方法を実行するための一連の工程例を示すフローチャート100である。第1の工程102において、標的分析物を含む生物学的試料が、標的分析物と特異的に結合する第1の物質と接触する。この第1の工程は、
図2Aに概略的に図示されている。
図2Aにおいて、生物学的試料202は標的分析物210を含む。試料202は第1の物質204と接触する。第1の物質204は、標的分析物210と特異的に結合する結合種206、及び結合種206にコンジュゲートされている第1のオリゴヌクレオチド208を含む。このようにして、第1の物質204は、標的分析物210に対応する試料中の位置に特異的に局在する。
【0037】
本明細書で用いられる場合、用語「接触させる」及び「接触させること」は、物質、種、部分、又は他の要素を、試料、又は別の物質、種、部分、若しくは要素と、その2つが互いに相互作用するように、会合させることを意味する。例えば、試料202は、第1及び第2の物質、標識種、並びにレポート物質と「接触する」時、これらの物質及び種は、それらが試料と相互作用するほど近くで試料と会合し、試料と、又はすでに試料と接触し、結合し、ハイブリダイズし、及び/若しくはその中に沈着している他の物質、種、部分、及び要素と結合することができる。
【0038】
図1に戻って、次の工程104において、試料は、第1の物質と会合する第2の物質と接触する。この工程は、
図2Bに概略的に図示されている。
図2Bにおいて、第2の物質216は試料202と接触する。第2の物質216は、反応種214にコンジュゲートされた第2のオリゴヌクレオチド212を含む。第2のオリゴヌクレオチド212は、第1のオリゴヌクレオチド208と少なくとも部分的に相補的であり、その結果、第1及び第2のオリゴヌクレオチドはハイブリダイズする。このようにして、第2の物質216は、試料において第1の物質204と同じ位置、及びそれゆえに、標的分析物210に対応する位置に局在する。
【0039】
図1に再び戻って、工程106において、試料は標識種と接触する。標識種は、工程104からの第2の物質の反応種と反応し、標識種を試料において第2の物質に近接した位置に沈着させる。この工程は、
図2Cに概略的に図示されており、その工程において、標識種218は試料と接触する。
図2Cに示されているように、標識種218は、矢印220により表された反応において、反応種214と反応する。その反応は、標識種218又はその誘導体を試料において第2の物質216に近接した位置222、及びそれゆえに、標的分析物210に近接した位置に沈着させる。このようにして、沈着した標識種218(又はその誘導体)は、標的分析物210と空間的に共局在する。
【0040】
再び
図1を参照して、工程106における標識種又はその誘導体の沈着後、標識種は工程108において検出されて、試料202中の標的分析物210を同定及び/又は定量化する。標識種又はその誘導体の検出後、フローチャート100に示された手順は終了する。
【0041】
前述の手順及び本明細書に記載された他の方法は、生物学的試料202中の幅広い種類の異なる分析物210を同定及び定量化するために用いることができる。分析物210の例には、抗原、ペプチド、タンパク質、及び他のアミノ酸含有部分が挙げられるが、それらに限定されない。分析物210の追加の例には、DNA塩基、RNA塩基、DNA塩基とRNA塩基の両方、及び合成塩基を含有するオリゴヌクレオチドを含む、オリゴヌクレオチド、核酸断片、並びに脂質が挙げられるが、それらに限定されない。
【0042】
本明細書に記載された方法は、生物学的試料中の多くの異なる臨床的に関連したバイオマーカー、特に、腫瘍組織、腫瘍微小環境、他の疾患状態を代表する組織において発現しているバイオマーカーの同定及び定量化に適している。分析物210に対応するそのようなバイオマーカーの例には、Sox10、S100、汎サイトケラチン、PAX5、PAX8等の腫瘍マーカー;CD3、CD4、CD8、CD20、FoxP3、CD45RA、CD45LCA、CD68、CD163、CD11c、CD33、HLADR等の免疫細胞識別子;Ki67、グランザイムB等の活性化マーカー;TIM3、LAG3、PD1、PDL1、CTLA4、CD80、CD86、IDO-1、VISTA、CD47、CD26等のチェックポイント関連マーカーが挙げられるが、それらに限定されない。
【0043】
本明細書に記載された方法は、様々な異なる型の生物学的試料202を分析するために用いることができる。いくつかの実施形態において、生物学的試料202は、新鮮であり得、凍結され得、又は固定され得る。生物学的試料は、動物起源であり得、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、ヒツジ、サル、ウサギ、ミバエ、カエル、線形動物、又はマーモット由来である。生物学的試料は、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織切片、凍結組織切片、新鮮組織、(例えば、細針吸引又は他の技術により)対象から得られた細胞、培養細胞、生物学的組織、生物学的流体、ホモジネート、又は未知の生物学的試料を含み得る。
【0044】
ある特定の実施形態において、生物学的試料202は、表面上に固定化することができる。例えば、表面は、スライド、プレート、ウェル、チューブ、膜、又はフィルムであり得る。いくつかの実施形態において、生物学的試料202は、スライド上にマウントすることができる。ある特定の実施形態において、生物学的試料202は、アルデヒド、アルコール、酸化剤、水銀、ピクリン酸塩、HOPE固定剤、又は別の固定剤等の固定剤を用いて固定することができる。生物学的試料は、代替として又は追加として、熱固定を用いて固定され得る。固定は又、浸漬又は灌流によって達成することができる。
【0045】
いくつかの実施形態において、生物学的試料202は、凍結することができる。例えば、生物学的試料は、0℃未満、-10℃未満、-20℃未満、-30℃未満、-40℃未満、-50℃未満、-60℃未満、-70℃未満、又は-80℃未満で凍結することができる。
【0046】
ある特定の実施形態において、生物学的試料202は、3次元の形に固定化することができる。3次元の形には、例えば、凍結ブロック、パラフィンブロック、又は凍結液体を挙げることができる。例えば、生物学的試料202は、最適な切削温度コンパウンド中の凍結動物組織のブロックであり得る。組織のブロックは、凍結又は固定することができる。いくつかの実施形態において、組織のブロックは、上記で論じられているように、第1の物質により接触される表面であり得る表面を曝露するために切断することができる。
【0047】
いくつかの実施形態において、生物学的試料202がブロックに対応する場合、ブロックは、スライスされて、ブロックの連続切片を生じることができ、その連続切片のそれぞれが、本明細書に記載された方法により分析することができる。そのように行うことにより、試料中の1つ又は複数の標的分析物のアイデンティティ及び/又は量についての3次元情報(例えば、試料内の深さの関数としての情報)を得ることができる。
【0048】
一般的に、結合種206は、試料202中の特定の分析物をターゲットするように選択される。本明細書に記載された方法は、幅広い種類の異なる型の結合種を用いて実行することができる。例えば、試料202中の特定の抗原、ペプチド、タンパク質、又は他のアミノ酸含有種をターゲットするために、結合種206は、抗体又は抗体断片を含み得る。抗体又は抗体断片は、異なる型の抗体種のいずれか1つを含み得、その抗体種には、免疫グロブリンG(IgG)、免疫グロブリンM(IgM)、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一本鎖断片可変(scFv)抗体、ナノボディ、抗原結合断片(Fab)、及びダイアボディが挙げられるが、それらに限定されない。抗体及び抗体断片は、マウス、ラット、ウサギ、ヒト、ラクダ、又はヤギ起源であり得る。いくつかの実施形態において、抗体又は抗体断片は、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、ヒツジ、サル、ウサギ、ミバエ、カエル、線形動物、又はマーモットの抗原に対して産生され得る。ある特定の実施形態において、抗体又は抗体断片は、動物、植物、細菌、真菌、又は原生動物の抗原に対して産生され得る。
【0049】
様々な異なる結合機構は、試料202において結合種206と標的分析物210との間で起こり得る。いくつかの実施形態において、例えば、結合種206(例えば、抗体又は抗体断片)は、標的分析物210と可逆的に結合する。ある特定の実施形態において、結合種206は、標的分析物210と不可逆的に結合する。結合種206と標的分析物210との間の結合は、いくつかの実施形態において、1つ又は複数の共有結合の形成を介して起こり得る。代替として又は追加として、結合種206と標的分析物210は1つ又は複数の非共有結合性結合を介して結合する。1つ又は複数の固定剤は、共有結合性及び/又は非共有結合性結合の形成を促進するために用いることができる。
【0050】
試料202において結合種206と標的分析物210との間に起こる特異的な結合機構は、結合種206及び標的分析物210の性質に依存する。例えば、結合種206が抗体又は抗体断片であり、かつ標的分析物210が抗原である場合、結合は、抗原エピトープと抗体又は抗体断片のパラトープとの間で起こる。別の例として、結合種206が抗体又は抗体断片であり、かつ標的分析物210が脂質である場合、結合は、抗体又は抗体断片上の認識部位と脂質の頭部基(例えば、リン脂質頭部基)との間で起こり得る。
【0051】
一般的に、結合種206は、試料202中の標的分析物210と特定の感度で結合し、その感度とは、結合種206により正しく認識及び結合される、試料中の標的分析物210実体の統計的割合を指す。いくつかの実施形態において、標的分析物210に対する結合種206の感度は60%以上(例えば、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、99%以上)である。
【0052】
結合種206は又、一般的に、標的分析物210と特定の特異度で結合し、その特異度とは、結合種が生物学的試料中の他の標的分析物に優先して特定の標的分析物210と選択的に結合する、統計的比率又は効率を指す。いくつかの実施形態において、結合種206は、少なくとも60%(例えば、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%)の標的分析物210に対する特異度を有する。
【0053】
標的分析物210に対する結合種206の親和性は、一般的に、結合種206と標的分析物210との間の結合の強度を指し、解離定数Kdによって特徴づけることができる。いくつかの実施形態において、標的分析物210に対する結合種206の親和性は、10-4M以下(例えば、10-5M以下、10-6M以下、10-7M以下、10-8M以下、10-9M以下、10-10M以下、10-11M以下、10-12M以下、10-13M以下、10-14M以下)の解離定数によって特徴づけられる。
【0054】
いくつかの実施形態において、結合種206は、試料202中の標的分析物210の少なくとも20%(例えば、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%)と結合する。上記で論じられているように、一般的に、結合種206は試料202中の標的分析物210と選択的に結合する。本明細書で用いられる場合、「選択的結合」とは、試料202中の結合種206の少なくとも70%以上(例えば、80%以上、90%以上、95%以上)が、試料202中の他の種よりむしろ標的分析物210と結合していることを意味する。
【0055】
オリゴヌクレオチド及びハイブリダイゼーション
一般的に、第1のオリゴヌクレオチド208は、複数のヌクレオチドを含む。ヌクレオチドは、例えば、DNA塩基(例えば、A、C、G、T)、RNA塩基(例えば、A、C、G、U)、並びにDNA及び/又はRNA塩基についての任意の組合せを含み得る。第1のオリゴヌクレオチド208は又、DNAアナログ及び/又はRNAアナログを含む非天然(例えば、合成)ヌクレオチドを含み得る。そのような合成アナログの例には、ペプチド核酸、モルホリノ及びロックド核酸、グリコール核酸、並びにトレオース核酸が挙げられるが、それらに限定されない。
【0056】
第1のオリゴヌクレオチド208における塩基の配列は、一般的に、任意の配列であり得る。更に、一般的には、第1のオリゴヌクレオチド208におけるヌクレオチド及び他の部分は、天然及び/又は非天然(例えば、合成)の連結によりコンジュゲートされ得る。
【0057】
いくつかの実施形態において、第1のオリゴヌクレオチド208は、相補ヌクレオチドと高い信頼度で塩基対形成する能力がある1つ又は複数のヌクレオチドを含む。そのようなヌクレオチドの例には、7-デアザ-アデニン、7-デアザ-グアニン、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、2-デアザ-2-チオ-グアノシン、2-チオ-7-デアザ-グアノシン、2-チオ-アデニン、2-チオ-7-デアザ-アデニン、イソグアニン、7-デアザ-グアニン、5,6-ジヒドロウリジン、5,6-ジヒドロチミン、キサンチン、7-デアザ-キサンチン、ヒポキサンチン、7-デアザ-キサンチン、2,6ジアミノ-7-デアザプリン、5-メチル-シトシン、5-プロピニル-ウリジン、5-プロピニル-シチジン、2-チオ-チミン、及び2-チオ-ウリジンが挙げられるが、それらに限定されない。
【0058】
ある特定の実施形態において、第1のオリゴヌクレオチド208は、特殊核酸種の1つ又は複数の断片に対応し、又はそれらを含有し得る。例えば、第1のオリゴヌクレオチド208は、ロックド核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)、アンロックド核酸(UNA)、及び/又はモルホリノオリゴマーの1つ又は複数の断片に対応し、又はそれらを含有し得る。
【0059】
第1のオリゴヌクレオチド208の長さ(例えば、第1のオリゴヌクレオチド208におけるヌクレオチドの数)は、一般的に、第2のオリゴヌクレオチド212との効率的かつ選択的ハイブリダイゼーションを保証するために要求される通りに、選択することができる。いくつかの実施形態において、第1のオリゴヌクレオチド208は、少なくとも5(例えば、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、少なくとも50、少なくとも55、少なくとも60、少なくとも65、少なくとも70、少なくとも75、少なくとも80、少なくとも85、少なくとも90、少なくとも95、少なくとも100)ヌクレオチドを含み得る。
【0060】
いくつかの実施形態において、第1のオリゴヌクレオチド208は、5~30の間、5~25の間、5~20の間、10~20の間、10~30の間、10~50の間、10~70の間、10~100の間、20~50の間、20~70の間、20~100の間、30~50の間、30~70の間、30~100の間、40~70の間、40~100の間、50~70の間、50~100の間、60~70の間、60~80の間、60~90の間、又は60~100の間のヌクレオチドを有し得る。
【0061】
ある特定の実施形態において、第1のオリゴヌクレオチド208は、5以下(例えば、10以下、15以下、20以下、25以下、30以下、35以下、40以下、45以下、50以下、55以下、60以下、65以下、70以下、75以下、80以下、85以下、90以下、95以下、又は100以下)のヌクレオチドを有し得る。
【0062】
いくつかの実施形態において、第1のオリゴヌクレオチド208は、完全に一本鎖であり得る。代替として、ある特定の実施形態において、第1のオリゴヌクレオチド208は、少なくとも部分的に二本鎖であり得る。第1のオリゴヌクレオチド208の部分的二本鎖領域は、オリゴヌクレオチドの3'末端、オリゴヌクレオチドの5'末端、又はオリゴヌクレオチドの5'末端と3'末端の間にあり得る。
【0063】
図5Aは、2つの一本鎖領域504及び二本鎖領域502を含む第1のオリゴヌクレオチド208の概略図である。上記で論じられているように、二本鎖領域502は、第1のオリゴヌクレオチド208の3'末端、及び第1のオリゴヌクレオチド208の5'末端、又は3'末端と5'末端の間の中間位置に位置し得る。ある特定の実施形態において、第1のオリゴヌクレオチド208は、1つより多い二本鎖領域(例えば、2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、又は更により多い二本鎖領域)を含み得る。
【0064】
二本鎖領域は、
図5Aに示されているように、第1のオリゴヌクレオチド208の主要なオリゴヌクレオチド鎖508と結合(例えば、ハイブリダイズ)している副次的なオリゴヌクレオチド鎖506により形成され得る。代替として又は追加として、第1のオリゴヌクレオチド208は、一本鎖の第1のオリゴヌクレオチド208のフォールディングを可能にする二次構造を含み得る。一本鎖の異なる部分間の少なくとも部分的な相補性は、それらの部分がハイブリダイズするのを可能にして、一本鎖から1つ又は複数の二本鎖領域を形成する。
【0065】
第1のオリゴヌクレオチド208の1つ又は複数の二本鎖領域502は、それぞれ、及びまとめて、第1のオリゴヌクレオチド208における全長(例えば、ヌクレオチドの総数)に占めるある割合に渡って広がり得る。いくつかの実施形態において、例えば、二本鎖領域の1つ若しくは複数が個々に広がっているか、又は二本鎖領域の全部がまとめて、第1のオリゴヌクレオチド208の全長の1%以上(例えば、5%以上、10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、50%以上)に渡って広がっている。
【0066】
一般的に、第2のオリゴヌクレオチド212は、第1のオリゴヌクレオチド208について上で記載された任意の特徴を含み得る。第2のオリゴヌクレオチド212は、いくつかの実施形態において、第1のオリゴヌクレオチド208と同じ数のヌクレオチドを含み得る。代替として、ある特定の実施形態において、第2のオリゴヌクレオチド212は、異なる数のヌクレオチドを含み得る。
【0067】
第2のオリゴヌクレオチド212は、第1のオリゴヌクレオチド208と同じ又は異なる鎖構造を有し得る。すなわち、第2のオリゴヌクレオチド212は、第1のオリゴヌクレオチド208の構造とは無関係に、一本鎖、二本鎖、又は部分的二本鎖であり得る。第2のオリゴヌクレオチド212は、一般的に、第2のオリゴヌクレオチド212の全長の一部分に渡って広がる、第1のオリゴヌクレオチド208についての上記のように、任意の数の二本鎖領域を含み得る。
【0068】
上記で論じられているように、第2のオリゴヌクレオチド212は、第1のオリゴヌクレオチド208と塩基対形成によってハイブリダイズし、その結果、第1の物質204及び第2の物質216が、試料において標的分析物210の位置に共局在する。ハイブリダイゼーションの効率は、第1のオリゴヌクレオチドの配列と第2のオリゴヌクレオチドの配列の間での相補性の程度に、一部、関係する。本明細書で用いられる場合、2つの配列の配列が相補的であるパーセンテージは、2つの対応物がハイブリダイゼーション中ペア形成するように、他方の配列における相補的位置に相補的対応物を有する、2つの配列の短い方におけるヌクレオチドのパーセンテージを指す。いくつかの実施形態において、例えば、2つのオリゴヌクレオチドの配列は、少なくとも70%(例えば、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%)相補的である。
【0069】
本明細書で用いられる場合、用語「少なくとも部分的に相補的な」とは、2つのヌクレオチド配列が、それらがハイブリダイズするのに十分、相補的であることを意味する。一般的に、2つのヌクレオチド配列は、それらの配列が少なくとも50%相補的である場合には、少なくとも部分的相補的である。
【0070】
一般的に、第2のオリゴヌクレオチド212は、第1のオリゴヌクレオチド208の対応する結合領域とハイブリダイズする少なくとも1つの結合領域を含む。結合領域は、第2のオリゴヌクレオチドの3'末端、5'末端、又はその2つの末端の間の中間に位置することができる。第2のオリゴヌクレオチド212が複数の結合領域を含む場合、結合領域のいずれかが上記のように位置し得る。
【0071】
いくつかの実施形態において、第2のオリゴヌクレオチド212の結合領域は、第1のオリゴヌクレオチド208の3'末端と少なくとも部分的に相補的であり、かつそれとハイブリダイズする。ある特定の実施形態において、第2のオリゴヌクレオチド212の結合領域は、第1のオリゴヌクレオチド208の5'末端と少なくとも部分的に相補的であり、かつそれとハイブリダイズする。
図5Bは、それぞれの結合領域510a及び510bを有する、第1及び第2のオリゴヌクレオチド208及び212の概略図を示す。
図5Bにおいて、第2のオリゴヌクレオチドの結合領域510bは、第1のオリゴヌクレオチド208の3'又は5'末端と少なくとも部分的に相補的である。
【0072】
ある特定の実施形態において、第2のオリゴヌクレオチド212の結合領域510bは、第1のオリゴヌクレオチド208の中間領域と、少なくとも部分的に相補的であり、かつそれとハイブリダイズする。
図5Cは、第2のオリゴヌクレオチド212の結合領域510bが第1のオリゴヌクレオチド208の中間結合領域510と結合する、概略図を示す。
【0073】
いくつかの実施形態において、第2のオリゴヌクレオチド212の結合領域510bは、第1のオリゴヌクレオチド208全体と、少なくとも部分的に相補的であり、かつそれとハイブリダイズする。ある特定の実施形態において、第1のオリゴヌクレオチド208の結合領域510aは、第2のオリゴヌクレオチド全体と、少なくとも部分的に相補的であり、かつそれとハイブリダイズする。
【0074】
ある特定の実施形態において、第1及び第2のオリゴヌクレオチド208及び212の一方又は両方は、1つ又は複数の非結合領域により分離された複数の結合領域を含む。
図5Dは、第1及び第2のオリゴヌクレオチド208及び212を示す概略図であり、それらのオリゴヌクレオチドのそれぞれが、それぞれ、非結合領域512a及び512bにより分離された、それぞれ、複数の結合領域510a及び510bを含む。一般的に、結合領域のそれぞれは、第1及び第2のオリゴヌクレオチド208及び212並びにそれらのそれぞれの結合領域に関して上記で論じられている任意の特性を有し得る。
【0075】
非結合領域512a及び512bは、非相補的ヌクレオチド配列、及びヌクレオチドを含まないスペーサー部分を含む、様々な異なる連結種によって形成され得る。非結合領域512a~bは、同じ又は異なる幾何学的長さを有し得、結合領域510a~bは、同じ又は異なる長さ(例えば、同じ又は異なる数のヌクレオチド)を有し得る。各オリゴヌクレオチド(例えば、208及び/又は212)内において、結合領域及び非結合領域は、同じ又は異なる長さを有し得る。
【0076】
いくつかの実施形態において、結合種206は、第1の物質において複数の第1のオリゴヌクレオチド208にコンジュゲートされ得る。
図5Eは、結合種206が3つの第1のオリゴヌクレオチド208にコンジュゲートされている、第1の物質204を示す概略図である。一般的に、第1のオリゴヌクレオチド208のそれぞれは、同じヌクレオチド配列を有し、その結果、第2のオリゴヌクレオチド212が、第1のオリゴヌクレオチドのいずれともハイブリダイズすることができる。
図5Eにおいて3つの第1のオリゴヌクレオチドは結合種206にコンジュゲートされているが、より一般的には、2つ以上(例えば、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、8つ以上、又は更により多く)の第1のオリゴヌクレオチドが結合種206にコンジュゲートされ得る。1つより多い第1のオリゴヌクレオチドを結合種206にコンジュゲートすることにより、追加の反応種が、試料において標的分析物210の位置に選択的に沈着することができ、試料においてその位置のすぐ近くに沈着することができる標識種の割合及び量を増加させる。
【0077】
いくつかの実施形態において、第2の物質216の第2のオリゴヌクレオチド212は、複数の反応種214にコンジュゲートされる。
図5Fは、第2のオリゴヌクレオチド212が3つの反応種214にコンジュゲートされている第2の物質216を示す概略図である。3つの反応種は全て同じであり得、又は1つ若しくは複数が他のものとは異なり得る。
図5Fにおいて3つの反応種214が第2のオリゴヌクレオチド212にコンジュゲートされているが、より一般的には、2つ以上(例えば、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、7つ以上、8つ以上、又は更により多く)の反応種が第2のオリゴヌクレオチド212にコンジュゲートされ得る。1つより多い反応種を第2のオリゴヌクレオチド212にコンジュゲートすることにより、追加の反応種が、試料において標的分析物210の位置に選択的に沈着することができ、試料においてその位置のすぐ近くに沈着することができる標識種の割合及び量を増加させる。
【0078】
反応種及び標識種
上記で論じられているように、第2の物質216において、第2のオリゴヌクレオチド212は、標識種218と反応する反応種214にコンジュゲートされる。反応種214は、様々な異なる化学的又は生化学的種及び部分のいずれか1つ又は複数に対応し得る。いくつかの実施形態において、例えば、反応種214は、標識種218の反応を触媒する触媒物質に対応する。反応種214に対応し得る触媒物質の例には、酵素、遷移金属に基づいた有機金属部分、ペルオキシダーゼを含有する部分、及び光活性化可能種が挙げられるが、それらに限定されない。適切な酵素の例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)及びダイズペルオキシダーゼが挙げられるが、それらに限定されない。いくつかの実施形態において、反応種214は、ヘマチン等の、HRPを模倣することができるヘミン含有複合体を含み得る。
【0079】
一般的に、標識種218は少なくとも1つの標識部分を含む。様々な異なる標識部分は、試料202中の標的210を同定及び定量化するために用いられる方法論の性質に依存して、用いることができる。いくつかの実施形態において、例えば、標識種218は色素を含む。本明細書で用いられる場合、「色素」は、入射光と相互作用する部分であり、それから放射された光が、測定され、試料中の色素の存在を検出するために用いることができる。一般的に、色素は、蛍光部分、吸収性部分(例えば、発色部分)、若しくは光を放射する別の型の部分であり得、又は色素が存在する場合、試料を通過し若しくは試料から反射される入射光を改変し、その結果、試料からの透過光若しくは反射光における変化を測定することにより、色素の存在を決定することができる。
【0080】
ある特定の実施形態において、標識部分はハプテンを含み得る。ハプテンは、その後(又は同時に)、色素部分と結合して、試料からの放射光、透過光、又は反射光を測定することにより検出することができる標識部分を提供することができる。
【0081】
標識種218の標識部分が色素を含む場合、幅広い種類の異なる色素を用いることができる。例えば、色素は、フルオレセイン色素及び/又はローダミン色素等のキサンテンに基づいた色素であり得る。適切なフルオレセイン及びローダミン色素の例には、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、6-カルボキシフルオセイン(略語FAM及びFによって一般的に知られている)、6-カルボキシ-2',4',7',4,7-ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、6-カルボキシ-4'、5'-ジクロロ-2',7'-ジメトキシフルオレセイン(JOE又はJ)、N,N,N',N'-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA又はT)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX又はR)、5-カルボキシローダミン-6G(R6G5又はG5)、6-カルボキシローダミン-6G(R6G6又はG6)、及びローダミン110が挙げられるが、それらに限定されない。
【0082】
色素は又、シアニンに基づいた色素であり得る。そのような色素の適切な例には、色素Cy3、Cy5、及びCy7が挙げられるが、それらに限定されない。色素は又、クマリン色素(例えば、ウンベリフェロン)、ベンズイミド色素(例えば、Hoechst 33258等のHoechst色素のいずれか)、フェナンスリジン色素(例えば、テキサスレッド)、エチジウム色素、アクリジン色素、カルバゾール色素、フェノキサジン色素、ポルフィリン色素、ポリメチン色素(例えば、BODIPY色素のいずれか)、及びキノリン色素であり得る。
【0083】
色素が蛍光部分である場合、色素は、以下の非限定的例及び/又はその誘導体のいずれかに対応する部分であり得る:ピレン、クマリン、ジエチルアミノクマリン、FAM、フルオレセインクロロトリアジニル、フルオレセイン、Rl 10、JOE、R6G、テトラメチルローダミン、TAMRA、リサミン、ナフトフルオレセイン、テキサスレッド、Cy3、及びCy5。
【0084】
ある特定の実施形態において、色素は、1つ又は複数の量子ドットに基づいた種を含み得る。多くの異なるスペクトル帯での蛍光放射スペクトルを有する、量子ドットに基づいたフルオロフォアが利用可能であり、適切な量子ドットに基づいた色素は、本明細書に記載された方法において標識種として用いることができる。
【0085】
チラミドシグナル増幅
いくつかの実施形態において、反応種214は、第2の物質216と、及び、それゆえに、標的分析物210と近接する試料における位置に標識種218(又はその誘導体)を沈着させ得る酵素媒介性反応に関与する酵素である。標識種の酵素媒介性沈着の例として、反応種214は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、又はHRPの活性を模倣する別の種であり得る。HRPは、チラミドシグナル増幅(TSA)のための触媒物質として、本明細書に記載された方法に用いることができる。
【0086】
TSAを実行するために、標識種218は、チラミド種にコンジュゲートされた標識部分(例えば、上記のような色素)を含む。試料202が最初に標識種218と接触した時、チラミド種は不活性型である。しかしながら、HRPが、チラミド種の、試料202と結合する能力がある活性型への変換を触媒する。チラミド種のそれの活性型への変換後、その標識部分は、それが生成されている場所に近接した位置(例えば、第2の物質216及び標的分析物210の位置)において試料202と結合する。
図2Cは、標的分析物210に近接した位置222における標識種218(標識部分にコンジュゲートされた活性チラミド種を含み得る)の沈着を概略的に図示する。
【0087】
試料202へ導入されるチラミド含有標識種218の量、及び酵素媒介性活性化過程が継続する時間の量を調整することにより、試料202において沈着する標識種218の量を調節することができる。結果として、検出されかつ標識種218(及び、それゆえに、標的分析物210)に対応するシグナルが、「増幅」され得る。本開示の文脈において、増幅は、各標的分析物210への1つより多い標識種218の連結を指す。各結合抗体が単一標識種(例えば、単一フルオロフォア部分)にコンジュゲートされている免疫組織化学的標識方法に関して、TSA技術を用いて、試料において複数の標識種218(又はその誘導体)を沈着させて、単一標的分析物210に対応する測定可能なシグナルを発生させ、それにより、単一標識種から別な方法で測定されるシグナルに対して、単一標的分析物に対応する測定されるシグナルの振幅又は強度を増加させることができる。
【0088】
一般的に、試料において単一標的分析物210のすぐ近くで沈着し得る標識種218の数の比は、上記のTSA方法論を実行することにより、1:1を超えて、増加される。いくつかの実施形態において、例えば、比は、2:1以上(例えば、3:1以上、4:1以上、5:1以上、6:1以上、8:1以上、10:1以上、20:1以上、30:1以上、又は更により高く)である。
【0089】
増幅は、いくつかの重要な利点を提供する。第一に、標的分析物に対応する測定可能シグナルが、増幅の非存在下の場合より高い振幅又は強度をもつため、曝露時間及び測定時間が低減され得る。第二に、測定シグナルの振幅又は強度の増加により、試料中に相対的に低い濃度で存在し、及び、他の方法では増幅がなく、その対応する測定シグナルが相対的に弱いだろう標的分析物を、より高い信頼度で検出することができる。第三に、測定シグナルの振幅又は強度の増加により、組織自己蛍光の交絡効果についての補償がより容易であり、バックグラウンド自己蛍光シグナルに対する測定シグナルの検出も同様であり、さもなければ、測定シグナルの一部又は全部を曖昧にするだろう。
【0090】
増幅は又、異なる標的分析物に対応する測定シグナルを調整するために用いることができる。例えば、ある特定の分析物が他の分析物より有意に低い濃度で存在する試料において、低濃度の分析物に対応する測定シグナルの振幅又は強度は、それらが、より高い濃度で存在する試料中の他の標的分析物に対応するシグナルの振幅又は強度に、より接近して整合するように、増幅することができる。このようにして、測定シグナルのレンジ振幅又は強度が低減され得、その結果、測定シグナルを検出するために用いられる測定システムのダイナミックレンジも又、他の方法で増幅の非存在下で測定シグナルに用いられるだろうダイナミックレンジに対してより小さくあり得る。
【0091】
更に、試料中の低濃度分析物(例えば、非常に弱く発現したバイオマーカー)の存在は、同時発現分析、タンパク質制御評価、並びに、低濃度分析物とより高い濃度の分析物の両方が同時に検出及び可視化されないならばより困難になるだろう他の比較分析のために、より高い濃度の分析物と共に可視化することができる。
【0092】
反応種214が酵素又は他の触媒物質に対応する場合、その酵素又は触媒物質は、任意の様々な異なる型の反応によって、試料における標識種218の沈着を媒介することができる。いくつかの実施形態において、例えば(チラミドコンジュゲート型標識部分のHRP媒介性沈着に関するTSA等)、酵素又は触媒物質により媒介される反応は、酸化還元反応である。適切な酵素又は触媒物質媒介性反応の他の例には、脱プロトン化、脱離、ラジカル生成反応、脱保護、及び転位が挙げられるが、それらに限定されない。
【0093】
酸化還元反応(標識種218のHRP媒介性沈着に関するTSA等)について、様々な異なる酸化及び/又は還元剤を用いることができる。いくつかの実施形態において、例えば、酸化剤はH2O2である。様々な他の物質も又用いることができる。
【0094】
更に、いくつかの実施形態において、試料202における標識種218(又はその誘導体)の沈着は不可逆的であるが、ある特定の実施形態においては、試料202における標識種218の沈着は可逆的であり、かつ標識種218は、洗浄、標識種218を遊離するための1つ又は複数の化学反応、並びに標識種218の加熱及び放射線への曝露(例えば、光切断若しくは光イオン化又はスパッタリング)等の物理的方法等の方法により、沈着後、試料202から除去することができることに留意されたい。
【0095】
標識種218は、室温で48時間以上、試料202と安定的に結合することができる。いくつかの実施形態において、4℃で冷蔵された、標識種218で標識された試料は、少なくとも4週間までの間、安定であり得、-20℃又は-80℃で凍結された試料は、4ヶ月間以上までの間、標識種218と安定的に結合したままであり得る。
【0096】
標識種218と試料202との間の結合の安定性は、標識種218と試料202の両方の性質に依存して変わり得る。一般的に、試料202が室温と相対的に近くで又は室温より下で保存される場合、結合は、少なくとも48時間、安定である。例えば、ある特定の実施形態において、試料202が室温から約5℃以内で維持される場合、結合は少なくとも48時間、安定である。ある特定の実施形態において、試料202が、0℃から40℃の間(例えば、10℃から40℃の間、15℃から40℃の間、20℃から40℃の間、25℃から40℃の間、30℃から40℃の間、35℃から40℃の間、0℃から35℃の間、5℃から35℃の間、10℃から35℃の間、15℃から35℃の間、20℃から35℃の間、25℃から35℃の間、30℃から35℃の間、0℃から30℃の間、5℃から30℃の間、10℃から30℃の間、15℃から30℃の間、20℃から30℃の間、25℃から30℃の間、0℃から25℃の間、5℃から25℃の間、10℃から25℃の間、15℃から25℃の間、20℃から25℃の間、0℃から20℃の間、5℃から20℃の間、10℃から20℃の間、15℃から20℃の間、0℃から15℃の間、5℃から15℃の間、10℃から15℃の間、0℃から10℃の間、5℃から10℃の間、及び0℃から5℃の間)の温度で維持される場合、結合は少なくとも48時間、安定である。
【0097】
TSAの追加の方法及び態様は、例えば、Fagetら、Methods Mol. Biol. 1318: 161~72頁(2015)(その全内容は参照により本明細書に組み入れられている)に記載されている。
【0098】
多重分析
図1及び
図2Cを再び、参照して、標識種218が試料において検出された後、第2の物質216を任意で、試料から除去することができる。特に、第1のオリゴヌクレオチド208及び第2のオリゴヌクレオチド212がハイブリダイズしているため、第2の物質216の除去は、第1及び第2のオリゴヌクレオチドを脱ハイブリダイズすることを含む。上記で論じられているように、脱ハイブリダイゼーションは、一般的に、ある特定の免疫組織化学的方法において起こる試料からの抗体除去より、有意に穏やかな条件下で達成することができる。
【0099】
脱ハイブリダイゼーションは又、試料202に沈着している標識種218の量を調節するために(すなわち、増幅中に)用いることができる。より具体的には、第1及び第2のオリゴヌクレオチドの脱ハイブリダイゼーションは、反応種214と標識種218との間の反応(例えば、標識種218の酵素媒介性沈着等の触媒反応)を終了させ、それにより、試料における標識種218の沈着が起こる間の時間量を調節するために用いることができる。
【0100】
第1及び第2のオリゴヌクレオチドの脱ハイブリダイゼーションを達成するために様々な方法を用いることができる。いくつかの実施形態において、例えば、オリゴヌクレオチドの脱ハイブリダイゼーションは、オリゴヌクレオチドを、ジメチルスルホキシド(DMSO)及びホルムアミド等の1つ又は複数のカオトロピック試薬に曝露することにより、達成することができ、その場合、カオトロピック試薬のその溶液中でのモル濃度が、60%以上(例えば、70%以上、80%以上、90%以上)である。代替として、脱ハイブリダイゼーションは、試料202を洗浄することにより、試料202を加熱することにより、及び前述の技術の組合せにより、実施することができる。
【0101】
試料202における第1及び第2のオリゴヌクレオチドの脱ハイブリダイゼーション、続いて、脱ハイブリダイゼーション後に遊離の第2の物質216を除去するための洗浄工程は、第1の物質204が結合種206を通して標的分析物210と結合したままであり、かつ標識種218が標的分析物210のすぐ近くで試料202と結合したままである、試料202を生じる。事実上、脱ハイブリダイゼーションは、標識種218の存在が加えられた、
図2Aに示された状態と類似した状態に試料202を戻す。
図2Dは、第1及び第2のオリゴヌクレオチドの脱ハイブリダイゼーション並びに引き続いての遊離の第2の物質216の試料からの除去後の、概略形での試料202を示す。
【0102】
フローチャート100に示された工程の一部又は全部は、任意選択で、試料202中の第2(及び次の)の標的分析物210を選択的に同定及び定量化するために繰り返すことができる。具体的には、試料202を、試料202中の異なる標的分析物210と選択的に結合する結合種206、及び前の第1の物質の第1のオリゴヌクレオチドとは異なる第1のオリゴヌクレオチドを含む、別の第1の物質と接触させることができる。その後、試料を、反応種(例えば、上記の反応種のいずれか)、及び新しく加えられた第1の物質の第1のオリゴヌクレオチドと少なくとも部分的に相補的であり、かつそれとハイブリダイズする第2のオリゴヌクレオチドを含む、別の第2の物質と接触させることができる。
【0103】
追加の第2の物質の添加後、反応種と反応する新しい標識種が導入されて、新しく加えられた第1及び第2の物質に近接した、及びそれゆえに、新しく加えられた第1の物質が選択的に結合する第2の標的分析物210に近接した、試料における位置に新しい標識種(又はその誘導体)を沈着させることができる。新しく加えられた標識種に対応する測定されたシグナルは、試料中の第2の標的分析物210を同定及び定量化するために用いることができる。
【0104】
新しく加えられた第2の物質は再び、上記のように、第1及び第2のオリゴヌクレオチドの脱ハイブリダイゼーションにより試料から除去することができ、試料202中の複数の異なる標的分析物210を選択的に同定及び定量化するために追加のサイクルを繰り返して実施することができる。
【0105】
フローチャート100の工程の一部又は全部の各繰り返しは、分析サイクルと呼ばれ、一般的に、試料202中の異なる標的分析物210を選択的に同定及び定量化するために任意の数のサイクルを実施することができる。いくつかの実施形態において、例えば、そのようなサイクルの数はNであり、ただし、Nが2以上(例えば、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、10以上、12以上、15以上、又は更に多く)である。
【0106】
一般的に、分析のために試料中の異なる標的分析物210をターゲットする第1及び第2の物質の異なる組合せごとに、異なる標識種218が、試料において特定の標的分析物210のすぐ近くで選択的に沈着する。異なる標識種を選択することにより、異なる標的分析物は、異なる標識種から特定的に生じる試料からの測定された放射光、反射光、又は透過光への寄与を単離し、及び任意で定量化することにより、選択的に照合することができる。各種が異なる標的分析物へ効果的に「マッピング」されるため、特定の分析物の同定及び定量化は、それらの会合した標識種に対応する測定シグナルを単離することにより達成することができる。
【0107】
複数の標的分析物210も又、試料への異なる第1の物質及び第2の物質の添加を多重化することにより、分析することができる。
図3Aは、試料中のN個の異なる標的分析物を分析するための一連の工程例を示すフローチャート350である。一般的に、Nは2以上(例えば、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、10以上、12以上、15以上、又は更に多く)であり得る。
【0108】
第1の工程352において、試料は、N個の異なる第1の物質と接触する。N個の異なる第1の物質のそれぞれは、N個の異なる標的分析物の1個と特異的に結合する結合種、及びその結合物質にコンジュゲートされた固有の第1のオリゴヌクレオチドを含む。換言すれば、N個の第1の物質のそれぞれの結合物質及びコンジュゲートされた第1のオリゴヌクレオチドは、N個の第1の物質の中でのその他の第1の物質の結合物質及びコンジュゲートされた第1のオリゴヌクレオチドとは異なる。
【0109】
次に、工程354において、n個の標的分析物の1個が、分析に選択され、そのn番目の標的分析物を選択的に結合する第1の物質の第1のオリゴヌクレオチドと少なくとも部分的に相補的であり、かつそれとハイブリダイズする第2のオリゴヌクレオチドにコンジュゲートされた反応種を含む第2の物質を試料と接触させる。したがって、第2のオリゴヌクレオチドは、n番目の標的分析物(及び対応するn番目の第1の物質)に対応する位置で試料と結合する。
【0110】
その後、工程356において、その他(n-1個)の標識種の標識部分とは異なる標識部分を含むn番目の標識種と試料を接触させる。標識種はn番目の第2の物質の反応種と反応して、n番目の標識種を試料においてn番目の標的分析物のすぐ近くで沈着させる。
【0111】
次に、工程360において、n番目の第2の物質が、前に記載されているように、脱ハイブリダイゼーション及び洗浄により試料から除去される。工程362において、全てのN個の標的分析物が分析されたならば、手順は工程366で終了する。もしそうでないならば、N個の標的分析物の中の別のn番目の分析物が分析に選択され、手順は工程354へ戻る。
【0112】
前述の手順は、分析のためのN=3の標的分析物を含む試料について、
図3A~
図3Eに概略的に図示されている。
図3Bは、3つの異なる標的分析物310a~cを含む試料302を示す概略図である。試料302の分析の第1の工程において、3つの異なる第1の物質が試料と接触し、それぞれが、3つの標的分析物310a~cの異なる1つと特異的に結合する異なる結合種306a~cを有する。第1の物質、それぞれが、異なる第1のオリゴヌクレオチド308a~cを含む。
図3Aに示されているように、第1の物質のそれぞれを試料と接触させることが、第1の物質が、それらの結合種306a~cがマッチしている対応する標的分析物310a~cとのみ選択的に結合している、試料を生じる。
【0113】
分析の次の工程において、反応種314a、及び第1のオリゴヌクレオチド308aと少なくとも部分的に相補的である第2のオリゴヌクレオチド312aを含む第2の物質が試料と接触する。
図3Cに示されているように、第2のオリゴヌクレオチド312aは、第1のオリゴヌクレオチド308aとハイブリダイズし、この第2の物質を、標的分析物310aと結合した第1の物質と選択的に結合させる。第2のオリゴヌクレオチド312aと第1のオリゴヌクレオチド308b及び308cとの間の相補性の欠如のため、第2の物質は、標的分析物310bと結合した第1の物質とも標的分析物310cと結合した第1の物質とも結合しない。
【0114】
その後、
図3Cに示されているように、標識物質318aは試料と接触し、上記の様式で、反応物質314aと反応して、標識物質318a(又はその誘導体)を標的分析物310aのすぐ近くに選択的に沈着させる。標識物質318aの反応及び沈着は、
図3Cにおいて破線矢印320aにより概略的に図示されている。
【0115】
標識物質318aの沈着後、第2の物質(すなわち、第2のオリゴヌクレオチド312a及び反応物質314a)は、上記のように脱ハイブリダイゼーション及び洗浄により試料302から除去される。その結果生じた試料302は、
図3Dに概略的に示されている。異なる第1の物質のそれぞれは、対応する異なる標的分析物310aと結合したままであり、標的分析物310aのすぐ近くで沈着した標識物質318aも又、試料302と結合したままである。
【0116】
図3Cに図示され、かつフローチャート350の工程354~360に記載されたサイクルは、その後、まず、標的分析物310bと結合した第1の物質の第1のオリゴヌクレオチド308bと少なくとも部分的な相補性を通して選択的にハイブリダイズする第2のオリゴヌクレオチドを含む第2の物質を用いて、及びその後、標的分析物310cと結合した第1の物質の第1のオリゴヌクレオチド308cと少なくとも部分的な相補性を通して選択的にハイブリダイズする第2のオリゴヌクレオチドを含む第2の物質を用いて、繰り返される。各サイクルにおいて、異なる標識物質が試料と接触し、対応する標的分析物のすぐ近くで沈着する。
【0117】
3つの完全な標識サイクル後、試料302は、
図3Eに概略的に示されているように現れ、3つの異なる第1の物質のそれぞれがそれらの対応する標的分析物310a~cと結合したままであり、かつ3つの異なる標識物質318a~cが、それぞれ、3つの異なる標的分析物310a~cのそれぞれのすぐ近くで沈着したままである。
【0118】
一般的に、異なる標識物質318a~cのそれぞれは、上記の標識物質のいずれかと対応し得る。試料中の複数の標的分析物の分析を実行するために、標識物質は、一般的に、それらが異なる測定シグナルを発生するように選択される。例えば、標識物質のそれぞれが蛍光性又は発色性色素部分を含む実施形態において、その物質は、色素部分のそれぞれが異なるスペクトル的特性(例えば、吸収、放射)を有するように選択され、その結果、試料から放射され、試料を透過し、又は試料から反射された測定光が色素のそれぞれからの寄与へ分離され、試料中の標的分析物310a~cのそれぞれを別々に同定及び定量化するために用いることができる。
【0119】
レポート物質
レポート物質は、上記の方法に関連して用いることができる。一般的に、レポート物質は、標識部分と直接的又は間接的にコンジュゲートされたオリゴヌクレオチドを含む。本明細書に記載された方法に用いられるレポート物質は、上記の第1の物質の対応する第1のオリゴヌクレオチドと少なくとも部分的に相補的であり、かつそれとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含む。したがって、レポート物質のオリゴヌクレオチドは、一般的に、前に論じられた第1及び第2のオリゴヌクレオチドの任意の特徴を含み得る。更に、レポート物質は、上記の異なる型の標識部分のいずれか1つ又は複数を含み得る。
【0120】
レポート物質の使用は、本明細書に記載された手順へ様々な点に、及び様々な目的を達成するために、組み込むことができる。例えば、いくつかの実施形態において、レポート物質は、試料中の特定の標的分析物の存在を検証するために用いることができる。
図4Aは、
図3Aにおける試料302と類似して、3つの異なる標的分析物410a~cを含む試料402の概略図を示す。3つの異なる第1の物質は、それぞれ1つが異なる標的分析物のそれぞれと結合するように、試料302と選択的に結合している。第1の物質のそれぞれは、結合物質406a~c及び第1のオリゴヌクレオチド408a~cを含む。
【0121】
(例えば、フローチャート350の工程354においてのように)第2の物質を試料402へ導入する前に、試料を、試料402中の標的分析物410aの存在を検証するためにレポート物質450と接触させる。
図4Aに示されているように、レポート物質450は、オリゴヌクレオチド452にコンジュゲートされた標識部分454を含む。オリゴヌクレオチド452は、オリゴヌクレオチド408aと少なくとも部分的に相補的であり、かつレポート物質450が試料へ導入された時、オリゴヌクレオチド408aとハイブリダイズする。オリゴヌクレオチド452のヌクレオチド配列は、第1のオリゴヌクレオチド408b及び408cの配列と十分に非相補的であり、その結果、オリゴヌクレオチド452は、これらの第1のオリゴヌクレオチドのいずれともハイブリダイズしない。結合していないレポート物質450を洗い流した後、試料402中の残存するレポート物質450は、標的分析物410aを結合する第1の物質と選択的に結合している。
【0122】
試料402中の標的分析物410aの存在は、試料402から放射され、反射され、又はそれを透過した光を測定することにより検証することができる。特に、標識部分454に対応する測定された光の一部分検出することにより、試料402中の標的分析物410aの存在が検証され得る。任意で、試料402中の標的分析物410aの量も又、標識部分454に起因し得る測定されたシグナル寄与に基づいて定量化することができる。
【0123】
標的分析物410aが存在する試料402における位置は、更なる測定及び/又は物質の試料402への送達の関心対象となる領域を決定するために用いることができる。例えば、標的分析物410aが試料402の一部分のみに局在する場合には、その後の試料光の放射、反射、若しくは透過測定及び/又は物質の試料402への送達は、任意で、試料のその領域のみに限定することができる。
【0124】
代替として、標的分析物410aが試料中に存在しない場合、標的分析物410aと選択的に結合する第1の物質(すなわち、結合種406a及び第1のオリゴヌクレオチド408aを有する)は、試料402と結合しないだろう。結果として、レポート物質450も又、第1のオリゴヌクレオチド408aの非存在により試料402と結合せず、試料402からの測定される光は、標識部分454からの寄与を含まず、試料における標的分析物410aの非存在を示すだろう。結果として、試料を第2の物質及び標識種と接触させて、標識部分を標的分析物410aのすぐ近くに特異的に沈着させる工程は省略することができる。
【0125】
前述の例において、単一のレポート物質450が、試料中の単一の標的分析物410aを選択的に同定し、及び任意で定量化するために用いられる。しかしながら、類似した標識及び測定が、複数の異なるレポート物質を用いて実施することができ、その複数の異なるレポート物質のそれぞれが、各レポート物質450が特定の標的分析物410a~cをターゲットするように、
図4Aにおける第1のオリゴヌクレオチド408a~cの1つのみと選択的にハイブリダイズする異なるオリゴヌクレオチド及び異なる標識部分を含む。レポート物質のそれぞれが、連続的に、試料と接触し、測定され、及び除去され得るか、又は代替として、複数のレポート物質の群が、試料にアプライされ得る。試料からの測定された放射光、透過光、又は反射光が個々のレポート物質のそれぞれの標識部分からの寄与へ分解され得るという条件で、試料中の2つ以上(例えば、3つ以上、4つ以上、5つ以上、6つ以上、8つ以上、10個以上、又は更に多く)の異なる標的分析物の並行分析を実施することができる。
【0126】
レポート物質は又、一般的に、本明細書に記載された分析手順における任意の中間工程で用いることができる。例えば、
図3A~3Eに関連して記載された手順を参照して、レポート物質は、標的分析物310a~c(及び
図4Aにおける対応する標的分析物410a~c)のいずれかの存在を検証するために用いることができる。それらは、上記のように、1つ又は複数の第1の物質との試料の接触後、手順の任意の段階で導入することができる。
【0127】
いくつかの実施形態において、レポート物質は、試料中の標的分析物を同定及び定量化するために、標識種と共に、又はそれの代替物として用いることができる。
図4Bは、5つの異なる標的分析物410a~eを含む試料402の概略図を示す。試料は、5つの異なる第1の物質と接触しており、その5つの異なる第1の物質のそれぞれが、それらのそれぞれを5つの異なる標的分析物の1つと選択的に結合させる、異なる結合種406a~e及び異なる第1のオリゴヌクレオチド408a~eを有する。
【0128】
3つの分析サイクルも又、上で一般的に記載されているように、
図4Bにおける試料402で実施され、3つの異なる標的分析物のすぐ近くで標識部分を沈着させている。結果として、3つの異なる標識種418a~cが、試料においてそれぞれの標的分析物410a~cのすぐ近くで沈着している。
【0129】
更に、2つの異なるレポート物質が試料に導入されている。レポート物質のうちの第1のものは、オリゴヌクレオチド452d及び標識部分454dを含む。オリゴヌクレオチド452dは、第1のオリゴヌクレオチド408dと少なくとも部分的に相補的であり、かつ第1のオリゴヌクレオチド408dとハイブリダイズする。オリゴヌクレオチド452dは、その他の第1のオリゴヌクレオチドと有意にハイブリダイズするには、試料中のその他の第1のオリゴヌクレオチドのいずれとも十分に相補的ではない。同様に、第2のレポート物質のオリゴヌクレオチド452eは、第1のオリゴヌクレオチド408eと少なくとも部分的に相補的であり、かつ第1のオリゴヌクレオチド408eとハイブリダイズする。オリゴヌクレオチド452eは、試料402中のその他の第1のオリゴヌクレオチドのいずれとも十分に相補的ではない。
【0130】
標識種418a~c及びレポート物質(すなわち、標識種454d~e)における標識部分は、各標識種が異なるように選択され、したがって、異なるスペクトルの吸収、反射、又は放射特性を有する。試料402からの放射光、透過光、又は反射光を分析することにより、異なる標識部分のそれぞれからの寄与は、識別され、標的分析物410a~eへ選択的に起因することができる。このようにして、試料402中の標的分析物410a~eのそれぞれが同定及び定量化され得る。
【0131】
図4Bにおける試料402は、標識種及びレポート物質由来の標識部分の混合を含む。しかしながら、いくつかの実施形態において、レポート物質は、生物学的試料中の標的分析物の全部を標識し、かつそれらに対応するシグナルを検出するために用いることができる。
【0132】
例えば、
図4Cは、M個の異なる標的分析物410a … 410Mを含む試料402の概略図である。Mは一般的に、2以上(例えば、3以上、4以上、5以上、6以上、8以上、10以上、15以上、20以上、30以上、40以上、50以上、又は更により大きい)であり得る。試料を、上記のように、1セットの第1の物質410a … 410Mと接触させて、第1の物質の各1個をM個の標的分析物の異なる1個と選択的に結合させる。
【0133】
その後、レポート物質450a … 450Mを、第1の物質と選択的にハイブリダイズさせて、M個の標的分析物を標識する。各レポート物質は、M個の標的分析物のそれぞれが異なる標識部分で標識されるように異なる標識部分を含む。いくつかの実施形態において、レポート物質は、試料402へ一個ずつ(すなわち、連続的に)アプライされ、一度にレポート物質の1個のみが存在する試料から放射され、反射され、又は透過した光が、測定されて、その1つのレポート物質に対応する標的分析物を同定及び定量化する。
【0134】
しかしながら、ある特定の実施形態において、試料は、レポート物質の群(例えば、2つ以上のレポート物質の群、3つ以上のレポート物質の群、4つ以上のレポート物質の群、5つ以上のレポート物質の群、6つ以上のレポート物質の群、8つ以上のレポート物質の群、又は更により多いレポート物質の群)と接触し、各レポート物質が、試料中の標的分析物の1つと結合した第1の物質の1つのみと選択的ハイブリダイズする。試料中に存在する群の複数のレポート物質を有する試料から放射され、反射され、又は透過した光が測定され、レポート物質の標識部分のそれぞれからの寄与へ分解される。その後、これらの寄与は、群のレポート物質に対応する標的分析物のそれぞれを同定及び定量化するために用いることができる。
【0135】
その後、レポート物質の群は、前に論じられているように、脱ハイブリダイゼーションによって試料から除去することができ、異なるセットの標的分析物と結合した異なるセットの第1の物質と選択的にハイブリダイズするレポート物質の新しい群が導入される。新しい群は、前の群と比較して同じ数のレポート物質又は異なる数のレポート物質を含み得る。
【0136】
試料中の標的分析物の分析はこのようにして継続し、逐次的なレポート物質の群が、全てのM個の標的分析物が分析されるまで、ハイブリダイズし、検出され、及び除去される。
【0137】
いくつかの実施形態において、標的分析物を分析するためにレポート物質と標識部分の沈着(例えば、TSAによる)の両方を用いるハイブリッド分析ワークフローが実行され得る。そのような手順は、例えば、相対的に多数の標的分析物を含み、その標的分析物のうちの数個(例えば、それらのうちの1個から8個の間)が特に重要である試料について、用いることができる。ハイブリッド手順は又、相対的に多数の標的分析物を含み、かつその標的分析物の数個が弱く発現するか、又は他の方法では、測定するのが難しい標識後のシグナルを発生する試料についても有用である。特に重要な又は弱く発現した標的分析物に対応する測定シグナルの増幅は、ある特定の分析物に特に注意して、高度に多重化された試料特徴づけを達成するために用いることができる。
【0138】
そのような試料402の例は
図4Dに示されている。試料は、標的分析物410a … 410M、並びに410u、410v、及び410wを含む。これらの標的分析物の中で、410u~410wは特に重要である。
【0139】
ハイブリッド分析ワークフローの一例は、以下の通りである。試料402は、第1の物質404a … 404M及び404u~404wと接触する。これらの第1の物質のそれぞれは、標的分析物の1つと選択的に結合する異なる結合基、及び異なる第1のオリゴヌクレオチドを含む。
【0140】
第1の物質がそれらのそれぞれの標的分析物と選択的に結合し、かつ試料402において、それらに対応する位置に局在した後、標的分析物410a … 410Mは、
図4Cに関して上で記載された様式で、レポート物質450a … 450Mを用いて分析される。具体的には、レポート物質は、群になって又は個々に、試料402における第1の物質とハイブリダイズする。各レポート物質は、第1の物質404a … 404Mの第1のオリゴヌクレオチドの1つのみと少なくとも部分的に相補的である異なるオリゴヌクレオチド、及び異なる標識部分を含む。レポート物質450a … 450Mは、一つずつ(例えば、連続的に)又は2つ以上の群になって、試料とハイブリダイズすることができる。ハイブリダイゼーション後レポート物質を検出するために、試料から放射され、反射され、又は透過した光が測定され、それが複数の標識部分からの寄与を含む場合には、標識部分のそれぞれからの寄与へ分解される。各群のレポート物質に対応する標的分析物は同定され、及び任意で定量化され、その後、レポート物質の群が脱ハイブリダイゼーション及び洗浄により試料402から除去される。残りの標的分析物410a … 410Mの分析は、1つ又は複数の選択的レポート物質の群を対応する第1の物質404a … 404Mとハイブリダイズさせ、レポート物質に対応するシグナルを測定し、その後、別の分析サイクルのための調製において、レポート物質を除去することにより、同様の形式で実施される。
【0141】
次に、非常に重要な標的分析物410u~410wのそれぞれが、同様に分析される。
図4Eに概略的に示されているように、試料が、第1のオリゴヌクレオチド408uと選択的にハイブリダイズする第2のオリゴヌクレオチド412uを含む第2の物質と接触する。第2のオリゴヌクレオチド412uにコンジュゲートされているのは、反応種414uである。第2の物質のハイブリダイゼーション後、標識種418uは、試料と接触し、反応種414uと反応し、標的分析物410uに近接した試料中の位置で標識種418u(又はその誘導体)を沈着させる。標識種418uの沈着後、第2の物質(例えば、第2のオリゴヌクレオチド412u及び反応種414uを含む)が、脱ハイブリダイゼーション及び洗浄により試料から除去される。
【0142】
標的分析物410uを分析するために、試料から放射され、反射され、又は透過した光が測定され、標識種418uからの測定されたシグナルへの寄与が、標的分析物410uを同定し、及び任意で定量化するために、決定される。
【0143】
その後、標的分析物410uを分析するための上記の一連の工程が、標的分析物410v及び410wを分析するために繰り返され、標的分析物410v及び410wと特異的に結合した第1の物質と特異的にハイブリダイズする異なる第2のオリゴヌクレオチドを含む第2の物質が用いられる。
図4D及び
図4Eに示された例において、標的分析物410uについて記載された一連の工程の追加の2サイクルが、標的分析物410v及び410wを、それぞれ、分析するために実施される。
【0144】
キット及び組成物
本明細書に記載された物質、種、及び部分は、物質、種、及び部分を含む組成物を特徴とする様々なキットにおいて含まれ得る。一般的に、キットは、それぞれが組成物の形をとる1つ又は複数の試薬のパッケージである。本明細書に記載された異なる物質、種、及び部分のいずれかを特徴とする組成物は、本明細書に記載されているような標的分析物分析のために調製及び使用することができる。これらの組成物は、組成物を調製し、かつその組成物を試料分析に用いるための使用説明書等の他のフィーチャーと共に、プロダクトキットに含まれ得る。プロダクトキットは、様々な異なる容器に、封印され、又は別な方法で含有され得る。
【0145】
標識部分に対応する光学的シグナルの測定
図6は、試料の複数のスペクトル的に分解された画像を獲得するためのシステム600を示す概略図である。システム600は、本明細書に記載された標識部分の1つ又は複数を含む試料から放射され、透過し、及び/又は反射された光を測定することができる。測定された光は、一般的に、試料に存在する標識部分のそれぞれからの寄与を含み、システム600は、測定された光におけるコード化されたマルチスペクトル画像情報を分析し、その画像情報を分解して、試料中の標識部分のそれぞれからの測定された光への寄与を単離することができる。分解は、試料中の各標識部分について、試料内の位置の関数として1セットの振幅又は強度測定値を生じる。振幅又は強度測定値は、試料中の各位置における各標識部分の量、及びそれゆえに、各標的分析物の量を定量化するために用いることができる。
【0146】
光源602は、光622を光調整光学素子604へ提供する。光622は、例えばフィラメント源から発生した光等のインコヒーレント光であり得、又は光622は、レーザーにより発生した光等のコヒーレント光であり得る。光622は、連続波(CW)か又はタイムゲーティング化(すなわち、パルス)光のいずれかであり得る。更に、光622は、電磁スペクトルの選択された部分で提供され得る。例えば、光622は、スペクトルの中心波長、及び/又は紫外領域、可視領域、赤外領域、若しくは他の領域内に入る波長の分布を有し得る。
【0147】
光調整光学素子604は、光622をいくつかの様式で変換するように構成され得る。例えば、光調整光学素子604は、光622を、スペクトル的にフィルタリングして、そのスペクトルの選択された波長領域における出力光を提供することができる。代替として又は追加として、光調整光学素子は、光622の空間的分布及び光622の時間的特性を調整することができる。入射光624は、光調整光学素子604の要素の作用により光622から発生する。
【0148】
入射光624は、照明台606上にマウントされた試料608へ投射するように方向づけられる。台606は、試料608を固定するための手段、例えば、マウンティングクリップ又は他の締め付けデバイスを提供することができる。代替として、台606は、複数の試料608が貼り付けられる移動可能なトラック又はベルトを含み得る。ドライバー機構は、連続して、複数の試料を一つずつ、台606上の照明領域を通って平行移動するためにトラックを移動させるように構成され得、その照明領域上に入射光624が作用する。台606は更に、照明台606の固定位置に対して試料608を平行移動させるための平行移動軸及び機構を含み得る。平行移動機構は、手作業で操作することができ(例えば、ねじ棒)、又は電動駆動によって自動的に移動可能であり得る(例えば、モーター作動式ドライバー、圧電アクチュエータ)。
【0149】
入射光624に応答して、放射光626が、試料608から出現する。放射光626は、いくつかの様式で発生することができる。例えば、いくつかの実施形態において、放射光626は、試料608の中を透過した入射光624の一部分に対応する。他の実施形態において、放射光626は、試料608から反射された入射光624の一部分に対応する。なお更なる実施形態において、入射光624は、試料608によって吸収され得、放射光626は、入射光624に応答した試料608から(例えば、試料608における蛍光成分から)の蛍光放射に対応する。まだ更なる実施形態において、試料608は、発光であり得、入射光624の非存在下でさえも放射光626を生じ得る。いくつかの実施形態において、放射光626は、前述の機構の2つ以上によって生じた光を含み得る。
【0150】
光収集光学素子610は、試料608からの放射光626を受け取るように位置する。光収集光学素子610は、例えば、光626が発散している場合、放射光626を平行にするように構成され得る。光収集光学素子610は又、放射光626をスペクトル的にフィルタリングするように構成され得る。フィルタリング操作は、例えば、他の過程によって生じた光から、上記で論じられた機構の1つによって生じた放射光626の一部分を単離するために、有用であり得る。例えば、本明細書に記載された方法は、試料中の1つ又は複数の標識部分の蛍光スペクトルの正確な推定値を決定するために用いられる。光収集光学素子610は、放射光626の非蛍光成分(例えば、透過した及び/又は反射された入射光に対応する成分)をフィルタリングして取り除くように構成され得る。更に、光収集光学素子610は、実施形態における特定の目的のために、放射光626の空間的及び/又は時間的特性を改変するように構成され得る。光収集光学素子610は、放射光626を、検出器612に投射する出力光628へ変換する。
【0151】
検出器612は、出力光628を検出するように構成されたCCDセンサー等の1つ又は複数の要素を含む。いくつかの実施形態において、検出器612は、光628の空間的及び/又は時間的及び/又はスペクトル的特性を測定するように構成され得る。検出器612は、出力光628に対応し、かつ電気通信線630を介して電子制御システム614へ通信される電気シグナルを発生する。
【0152】
電子制御システム614は、プロセッサ616、ディスプレイデバイス618、及びユーザーインターフェイス620を含む。検出器612によって検出された出力光628に対応するシグナルを受信することに加えて、制御システム614は、検出器612の様々な特性を調整するように検出器612へ電気シグナルを送信する。例えば、検出器212がCCDセンサーを含む場合には、制御システム614は、CCDセンサーの曝露時間、アクティブエリア、ゲイン設定、及び他の特性を調節するように検出器612へ電気シグナルを送信することができる。
【0153】
電子制御システム614は又、光源602、光調整光学素子604、照明台606、及び光収集光学素子610と、それぞれ、電気通信線632、634、636、及び638を介して通信する。制御システム614は、システム600のこれらの要素のそれぞれへ、その要素の様々な特性を調整するように電気シグナルを提供する。例えば、光源602へ提供される電気シグナルは、光622の強度、波長、繰り返し率、又は他の特性を調整するために用いることができる。光調整光学素子604及び光収集光学素子610へ提供されるシグナルは、光の空間的特性を調整するデバイス(例えば、空間光変調器)の特性を設定するための、及びスペクトルフィルタリングデバイスを設定するためのシグナルを含み得る。照明台606へ提供されるシグナルは、例えば、台606に対する試料608の位置づけ及び/又は台606上での照明のための位置へ試料を移動させることを与え得る。
【0154】
制御システム614は、システム特性及びパラメータをディスプレイするための、並びに試料608の捕獲画像をディスプレイするためのユーザーインターフェイス620を含む。ユーザーインターフェイス620は、オペレーターのシステム600との相互作用及びそれの管理を促進するために提供される。プロセッサ616は、検出器612を用いて捕獲された画像データを保存するための記憶装置を含み、及び又、プロセッサ616に例えば上記で論じられたもの等の制御機能を実行させる、プロセッサ616への命令を具現化するコンピュータソフトウェアも含む。更に、ソフトウェア命令は、プロセッサ616に、検出器612により捕獲された画像を数学的に操作させ、かつシステム600により取得された画像を試料中の特定の標識種からの寄与へ分解する工程を実行させる。
【0155】
いくつかの実施形態において、光調整光学素子604は、フィルターホイール又は液晶スペクトルフィルター等の調整可能なスペクトルフィルター要素を含む。フィルター要素は、異なる光波長帯を用いて試料の照明を提供するように構成され得る。光源602は、スペクトル波長成分の広域分布を有する光622を供給することができる。この広域波長分布の選択された領域が、光調整光学素子604におけるフィルター要素により入射光624として通過することを許可され、試料608へ投射するように方向づけられる。引き続いて、光調整光学素子604におけるフィルター通過域の波長は、異なる波長を有する入射光624を提供するように変更される。スペクトル的に分解された画像は又、異なる波長の光を発生する複数の源要素を有する光源602を用いることにより、及び代替として、異なる波長を有する入射光624を提供するように異なる源要素をオンとオフを切り換えることにより、記録され得る。
【0156】
光収集光学素子610は、光調整光学素子604に関連して上記で論じられたものと類似した設定可能なスペクトルフィルター要素を含み得る。したがって、スペクトル分解が、試料608の励起側(例えば、光調整光学素子604による)及び試料608の放射側(例えば、光収集光学素子210による)で提供され得る。
【0157】
試料の複数の、スペクトル的に分解された画像を収集することの結果は、スタック中の各画像が特定の波長に対応する試料の2次元画像である「画像スタック」である。概念的には、画像のセットが、3次元マトリックスを形成するように可視化することができ、その場合、マトリックス次元の2つが画像のそれぞれの空間的長さ及び幅であり、3つ目のマトリックス次元がスペクトルインデックスである。このような理由により、スペクトル的に分解された画像のセットは、画像の「スペクトルキューブ(spectral cube)」と呼ぶことができる。本明細書で用いられる場合、そのような画像のセット(又は画像スタック若しくはスペクトルキューブ)における「ピクセル」は、画像のそれぞれについての共通の空間的位置を指す。したがって、画像セットにおけるピクセルは、そのピクセルに対応する空間的位置における、各画像に関連した値を含む。
【0158】
試料中の複数の標識種のそれぞれからの、マルチスペクトル画像スタックに含有される画像情報への寄与を単離するために、スペクトルアンミキシング(spectral unmixing)方法を用いることができる。スペクトルアンミキシングは、スペクトル的に異なる源から生じる画像における寄与を定量的に分離する技術である。例えば、試料は、3つの異なる型の標的分析物を含有し得、それぞれが標識種で標識されている。3つの異なる標識種はそれぞれ、異なる吸収スペクトルを有し得る。典型的には、標識種の個々の吸収スペクトルは、それらが用いられる前、又はそれらが測定され得る前にわかっている。照明下での試料の画像は、最も一般的な場合、3つの標識種のそれぞれからのスペクトル寄与を含有する。例えば複数の異なる蛍光標識種を含有する試料において、類似した状況が生じ、その複数の異なる蛍光標識種のそれぞれが、測定される蛍光放射に寄与する。
【0159】
スペクトルアンミキシングは、複数のスペクトル源からの寄与を含む1つ又は複数の画像を、試料内のスペクトル実体のそれぞれからの寄与に対応する1セットの成分画像(「アンミキシング化画像(unmixed images)」)へ分解する。したがって、試料が、それぞれが特定の標的分析物に特異的である3つの異なる標識種を含む場合には、試料の画像は、それぞれのアンミキシング化画像が主に色素の1つのみからの寄与を反映する、3つのアンミキシング化画像へ分離することができる。
【0160】
アンミキシング手順は、本質的に、画像を1セットのスペクトル固有状態へ分解することに対応する。多くの実施形態において、上記で論じられているように、その固有状態は予めわかっている。他の実施形態において、固有状態は、主成分分析等の技術を用いて決定され得ることがある。いずれの場合でも、いったん固有状態が同定されたならば、画像は、通常、画像全体における固有状態のそれぞれの相対的重み付けに対応する係数行列として、1セットの値を計算することにより分解され得る。その後、個々の固有状態のそれぞれの寄与が、分離されて、アンミキシング化画像セットを生じることができる。
【0161】
例として、x座標及びy座標を有する一連の2次元画像が、1セットの異なる励起波長λkにおいて試料を照射することにより、試料について測定され得る。上記のように、2次元画像は、組み合わされて3次元画像キューブI(x,y,k)を形成することができ、ただし、画像キューブの最初の2つのインデックスが座標方向を表し、3番目のインデックスが照明光の波長に対応するスペクトルインデックスである。単純にするために、試料の画像のそれぞれが2つの異なるスペクトル源F(λk)及びG(λk)からのスペクトル寄与を含有すると仮定すれば、3次元画像キューブI(x,y,k)における値は、以下により与えられ得る:
S(x,y,k)=a(x,y)・F(λk)+b(x,y)・G(λk) (1)
式中、λkが所定の波長(又は波長域)を示すために用いられている。関数a(x,y)及びb(x,y)は、試料における2つの異なるスペクトル源からのスペクトル寄与の空間的存在量を記載する。
【0162】
式(1)により、3次元画像キューブ中の任意の位置における(すなわち、任意の2次元ピクセル座標において、かつ特定の照明波長における)正味シグナルは、それぞれの相対的存在量によって重み付けされた2つの寄与の合計である。これは以下のように表現することができる:
I(λk)=aF(λk)+bG(λk) (2)
【0163】
関数F及びGは、システムについての「スペクトル固有状態」と名づけることができ、それらが試料中のスペクトル源についての純粋スペクトルに対応するからであり、それらが様々な割合で組み合わされて、試料の測定されたスペクトル画像を生じる。したがって、試料スペクトルは、2つのスペクトル源からの別々の寄与に対応する重み付けされた重ね合わせである。
【0164】
スペクトルF(λk)及びG(λk)がわかっている(又は推定することができる)場合には、式(2)は、スペクトルIが少なくとも2つの要素を含むという条件で(すなわち、少なくとも2つの波長λkについてのデータを有するという条件で)、a及びbについて解くために逆にすることができる。式(2)は、行列形式でI=EAと書き換えることができ、その結果、以下である:
A=E-1I (3)
式中、Aが成分a及びbを有する列ベクトルであり、Eが、列がスペクトル固有状態、すなわち、[F G]である行列である。
【0165】
式(3)を用いて、試料の測定されたスペクトル画像は、特定のピクセル位置において、純粋に源Fから生じた画像への寄与及び純粋に源Gから生じた画像への寄与を計算するために用いることができる。選択された画像における各ピクセル位置について(すなわち、Iにおける値x及びyの範囲に渡って)その過程が繰り返されて、源Fからのみの寄与を含む試料の画像、及び源Gからのみの寄与を含む試料の別の画像を生じることができる。
【0166】
上記の議論において、スペクトル源の数は2(すなわち、F及びG)である。しかしながら、一般的に、アンミキシング技術は、源のいかなる特定の数にも限定されない。例えば、試料は、一般的に、m個の異なるスペクトル源を含有し得る。データが収集される波長の数がn、すなわち、k=1…nである場合には、行列Eは、上記の議論においてのように、n×2行列の代わりに、n×m行列である。その後、アンミキシングアルゴリズムが、上記と同じ様式で用いられて、m個のスペクトル固有状態のそれぞれからの、画像における各ピクセル位置における特定の寄与を単離することができる。
【0167】
異なるスペクトル固有状態からの寄与の間を識別するアルゴリズムの能力を制限し得る1つの因子は、固有状態間のスペクトル識別の程度である。2つのスペクトル固有状態I1とI2等の2つのスペクトル間の相関は、以下のスペクトル角度θによって説明することができる:
【0168】
【0169】
θが2つのメンバーについて小さいスペクトルのセットは、それらの成分へ容易には分離されない。物理的には、これについての理由は以下のように容易に理解される:2つのスペクトルが辛うじて異なるだけならば、それぞれの相対的存在量を決定することはより困難である。
【0170】
スペクトル源F及びG(並びに、試料が2つより多く含む場合、他のスペクトル源)の純粋スペクトルを測定又は推定するためにいくつかの技術を用いることができる。一般的に、十分な精度のスペクトル固有状態を生じる任意の方法を用いることができる。いくつかの試料は、公開された参考資料において入手可能な既知のスペクトルがある色素又は他の化学的部分等のスペクトル源を含有し得る。代替として、1つ又は複数の測定システムを用いて源成分のスペクトルを直接、測定することが可能であり得る。いくつかの試料において、試料の特定の領域が唯一の1つの特定のスペクトル源を含むことがわかっている場合があり、その源のスペクトルは、試料の同定された領域のみに行われた測定から抽出することができる。
【0171】
様々なデータ分析技術も又、スペクトルアンミキシングとして成分スペクトルを決定するために用いることができ、例えば、主成分分析(PCA)であり、それは、画像キューブから最も多い直交スペクトル固有ベクトルを同定し、画像全体を通して各固有ベクトルの重み付けを示すスコア画像を生じる。これは、他の数学的処理と組み合わせて行われる場合があり、射影追跡、例えば、L. Jimenez及びD. Landgrebe、「Hyperspectral Data Analysis and Feature Reduction Via Projection Pursuit」、IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing、37巻、6号、2653~2667頁、1999年11月(その全内容は参照により本明細書に組み入れられている)に記載された技術等の低次元スペクトルベクトルを同定するための他の公知の技術がある。他の技術には、例えば、独立成分分析(ICA)及びエンドメンバー検出アルゴリズムが挙げられる。
【0172】
これらの技術は、典型的には、ライフサイエンスにおける適用によく適しているとはいえない。例えば、いくつかの技術は、高密度のスペクトル形及び十分定義された狭いピークを有するスペクトルを含有するスペクトル画像データセットのために最適化されている。いくつかの技術において、スペクトル範囲は、分析に用いられる個々のスペクトル特徴及びピークと比較して大きい。その後、ピークの存在又はピークの比率は、分離されるべき「エンドメンバー」を分類するために用いられ得る。残念なことに、生物学的試料における成分は、典型的には、そのような十分定義された狭いピークを有しない。
【0173】
これらの技術のいくつかは、最初の画像キューブ内のどこかに純粋な形で存在するスペクトルに関係した画像を生成する。ライフサイエンスにおける多くの場合、画像キューブに存在するシグナルスペクトルは成分の混合物である。関心対象となる成分が最初の画像キューブ内のどこかに純粋な形では存在しない場合には、これらの技術は、関心対象となる成分の存在量を正確に表す画像を生成する可能性は低い。
【0174】
「凸包(convex-hull)」アルゴリズムと呼ばれることがある、いくつかの技術があり、それは、何が真実のエンドメンバーであるかを、それらが画像中に純粋な形で存在しない場合でさえも推定するが、その有効性は、画像キューブ中のシグナルスペクトルがエンドメンバーにどれくらい近いかに依存する。
【0175】
固有状態の全部の経験的知識がない場合でもスペクトル固有状態(又はその表示)を抽出するために用いることができる1つの技術は、所定のピクセルについてのシグナルスペクトルI(λk)を考慮し、全てのスペクトルチャネルにおいて正定値である残りのシグナルを残しながら、第1のスペクトル源F(λk)の最大量をそれから引き算することを含む。すなわち、以下のように、各ピクセルについていわゆる「残余(remainder)スペクトル」Ua(λk)を定義し:
Ua(λk)=I(λk)-aF(λk) (5)
その時、あらゆるスペクトルチャネルにおいて非負値を有するUa(λk)と矛盾しない、パラメータaの最大値を選択する。その後、生じたスペクトルUa(λk)は、第1のスペクトル源Fによる寄与を消去されたシグナルスペクトルとして用いられる。上記で挙げられた厳格な非負基準に基づかず、測定システムにおけるショットノイズ又は検出器ノイズ等の考慮を説明するために、小さい負の分布を組み入れるいくつかの関連基準に基づいて、パラメータaの決定も又行い得る。スペクトル源Fの最大量を除去するための最適化基準の追加の例は、異なる誤差関数を用いることを含む。
【0176】
代替として、第2のスペクトル源Gによる測定されたスペクトルへの寄与を抽出しようと努める場合がある。式(5)と同様に、残余スペクトルは、以下のように各ピクセルについて計算することができる:
Ub(λk)=I(λk)-bG(λk) (6)
ただし、あらゆるスペクトルチャネルにおいて非負値を有するUb(λk)と矛盾しない、パラメータbの最大値を選択する。
【0177】
残余技術は、試料の1つ又は複数の追加の成分についてのスペクトルがわかっており、かつそれらのシグナルへの寄与を除去したい場合へ拡大することができる。そのような場合、残余スペクトルは、追加のスペクトルに基づき、かつ各スペクトルチャネルにおける正の残余と矛盾せずに、観察されたシグナルからそれぞれのそのような成分の寄与を引き算するように表現される。
【0178】
スペクトルアンミキシングの追加の態様は、米国特許第10,126,242号及び第7,555,155号、並びにPCT特許公開番号WO2005/040769(それぞれの全内容は参照により本明細書に組み入れられている)に記載されている。
【0179】
図7は、本明細書で開示されたシステム及び方法と共に用いられ得る、電子制御システム614の例を示す。電子制御システムは、1つ又は複数のプロセッサ702(例えば、
図6におけるプロセッサ616に対応する)、メモリ704、記憶装置706、及び相互接続のためのインターフェイス708を含み得る。プロセッサ702は、メモリ704又は記憶装置706に保存された命令を含む、電子制御システム614内での実行のための命令を処理することができる。例えば、命令は、分析のいずれかを実施し、及び本明細書に開示された工程を制御するようにプロセッサ702に指示することができる。
【0180】
メモリ704は、プロセッサ702についての実行可能命令、励起及び検出波動等のシステムのパラメータについての情報、並びに測定されたスペクトル画像情報を保存することができる。記憶装置706は、フロッピーディスクデバイス、ハードディスクデバイス、光学ディスクデバイス、又はテープデバイス、フラッシュメモリ若しくは他の類似した固体メモリデバイス、又はストレージエリアネットワークにおけるデバイス若しくは他の機器構成を含む一連のデバイス等のコンピュータ可読媒体であり得る。記憶装置706は、上記のプロセッサ702により実行され得る命令、及びメモリ704により保存され得る他の情報のいずれかを保存することができる。
【0181】
いくつかの実施形態において、電子制御システム614は、ディスプレイ716等の外部入力/出力デバイス上にグラフィカル情報を(例えば、GUI又はテキストインターフェイスを用いて)ディスプレイするためのグラフィックスプロセシングユニットを含み得る。グラフィカル情報は、本明細書に開示された、測定及び計算されたスペクトル及び画像等の情報のいずれかをディスプレイするためのディスプレイデバイス(例えば、CRT(ブラウン管)又はLCD(液晶ディスプレイ)モニター)によりディスプレイされ得る。ユーザーは、電子制御システム614へ入力を提供するために入力デバイス(例えば、キーボード、ポインティングデバイス、タッチスクリーン、音声認識デバイス)を用いることができる。
【0182】
本明細書に開示された方法は、電子制御システム614(並びにプロセッサ702及び616)によって、電子制御システム614において実行可能及び/又は解釈可能である1つ又は複数のコンピュータプログラムにおける命令を実行することにより実施することができる。これらのコンピュータプログラム(プログラム、ソフトウェア、ソフトウェアアプリケーション、又はコードとしても知られている)は、プログラマブルプロセッサのための機械命令を含み、高水準手続き型及び/若しくはオブジェクト指向プログラミング言語で、並びに/又はアセンブリ/機械言語で実装することができる。例えば、コンピュータプログラムは、上記のように、メモリ704内、記憶装置706内、及び/又は有形コンピュータ可読媒体に保存することができる命令を含有し、プロセッサ702(プロセッサ616)によって実行され得る。本明細書で用いられる場合、用語「コンピュータ可読媒体」は、機械命令を受け取る機械可読媒体を含む、機械命令及び/又はデータをプログラマブルプロセッサへ提供するために用いられる、任意のコンピュータプログラムプロダクト、装置、及び/又はデバイス(例えば、磁気ディスク、光学ディスク、メモリ、プログラマブルロジックデバイス(PLD)、ASIC、及び電子回路)を指す。
【0183】
一般的に、電子制御システム614は、上記の操作を実行するためにコンピューティングシステムに実装することができる。例えば、コンピューティングシステムは、バックエンドコンポーネント(例えば、データサーバーとして)若しくはミドルウェアコンポーネント(例えば、アプリケーションサーバー)若しくはフロントエンドコンポーネント(例えば、グラフィカルユーザーインターフェイスを有するクライアントコンピュータ)又はそれらの任意の組合せを含み得る。
【0184】
試薬及び条件
一般的に、本明細書に記載された様々な工程は、幅広い種類の条件下で、かつ異なる試薬を用いて、実行することができる。したがって、このセクションに記載された試薬及び条件は、適切な試薬及び条件の例を表すのみと理解されるべきである。
【0185】
典型的には、第1の物質は、PBS、PBS-T、TBS、TBS-T、水、食塩水、及びクレブスバッファーの1つ又は複数を含み得るバッファー溶液中での調製後、保存することができる。バッファー溶液は、任意で、1つ又は複数のブロッキング材料を含み得る。適切なブロッキング材料の例には、BSA、カゼイン、剪断サケ精子DNA、オリゴヌクレオチド、ラットIgG抗体、及びマウスIgG抗体が挙げられるが、それらに限定されない。
【0186】
第2の物質も又、バッファー溶液中での調製後、保存することができる。バッファーは、PBS、PBS-T、TBS、TBS-T、水、食塩水、及びクレブスバッファーの1つ又は複数を含み得る。バッファー溶液は、第1の物質を保存するために用いられたバッファー溶液と同じ、又は異なり得る。
【0187】
第1の物質と第2の物質との間、及び/又は第1の物質とレポート物質との間のハイブリダイゼーションを促進するために、第1と第2の物質(又は第1の物質とレポート物質)は、ハイブリダイゼーションバッファー中に浸漬され得る。適切なハイブリダイゼーションバッファーは、5%から20%の間の濃度で、DNA成分、タンパク質成分、界面活性剤、及び/又はカオトロピック試薬を含み得る。
【0188】
第1の物質と第2の物質との間、及び/又は第1の物質とレポート物質との間の脱ハイブリダイゼーションを促進するために、第1と第2の物質(又は第1の物質とレポート物質)は、脱ハイブリダイゼーションバッファー中に浸漬され得る。適切な脱ハイブリダイゼーションバッファーは、60%から90%の間の濃度で、DMSO及び/又はホルムアミド等のカオトロピック試薬を含み得る。
【0189】
第1の物質の試料中の標的分析物との結合を促進するために、第1の物質を、溶液中での試料へ、例えばピペッティングにより、層状にし、試料とインキュベートすることができる。インキュベーション後、結合していない第1の物質は、例えばPBS、PBS-T、TBS、TBS-T、水、食塩水、及びクレブスバッファーの1つ又は複数を含むバッファー溶液を用いて、試料から洗浄することができる。
【0190】
本明細書に記載されたハイブリダイゼーション、反応、結合、及び脱ハイブリダイゼーションの工程のいずれかについてのインキュベーション時間は、10分間以上(例えば、20分間以上、30分間以上、40分間以上、60分間以上、1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、5時間以上、6時間以上、8時間以上、10時間以上、16時間以上、20時間以上、24時間以上、48時間以上、7日間以上、30日間以上)であり得る。
【実施例0191】
生物学的試料中の複数の標的種を分析するための本明細書に記載された方法の効力を実証するために、いくつかの研究を行った。第1に、ヒト扁桃腺組織のFFPE試料を得た。第1の標識及び画像化サイクルにおいて、組織試料を、バイオマーカーPD-1を特異的にターゲットする抗体結合物質を含む第1の物質で標識した。その後、第2の物質を試料とインキュベートし、第1の物質とハイブリダイズさせた。第2の物質は、オリゴヌクレオチドにコンジュゲートされたHRP部分を含んだ。標識部分(Akoya Biosciences, Inc.社、Menlo Park、CAから入手できる、OPAL(登録商標)色素HX0046)を含む標識物質は、HRP媒介性TSAにより組織試料において沈着した。第2の物質の除去後、試料を画像化して、PD-1の存在を明らかにした。
【0192】
更に2回の分析サイクルを実施した。第2のサイクルにおいて、試料を、バイオマーカーPDL1を特異的にターゲットする抗体結合物質を含む第1の物質で標識し、標識部分(Akoya Biosciences, Inc.社から入手できる、OPAL(登録商標)色素HX043)を、HRP媒介性TSAにより沈着して、PDL1を標識した。第3のサイクルにおいて、試料を、バイオマーカーFOXP3を特異的にターゲットする抗体結合物質を含む第1の物質で標識し、標識部分(Akoya Biosciences, Inc.社から入手できる、OPAL(登録商標)色素HX031)を、HRP媒介性TSAにより沈着して、FOXP3を標識した。
【0193】
図8A~
図8Cは、それぞれ、組織試料におけるバイオマーカーPD-1、PDL1、及びFOXP3の分布及び相対的濃度を示す画像である。
図8Dは、試料内の全ての3つのマーカーの分布を示すオーバーレイ画像である。その画像から明らかなように、異なるバイオマーカーのそれぞれを、試料において、独立して同定及び定量化することができ、適用された標識部分が適切に選択された場合、交差チャネル干渉はほとんど又は全くなかった。
【0194】
HRP媒介性TSAによる増幅の効果を調べるために、扁桃腺組織のヒトFFPE切片を得て、15個より多い異なる第1の物質(それぞれが、異なるバイオマーカーをターゲットする結合物質を含む)を試料と結合させた。その後、対応するレポート物質を第1の物質とハイブリダイズさせ、異なるレポート物質のサブセットを有する試料の画像が得られた。その後、レポート物質を、上記のように、脱ハイブリダイゼーションにより試料から除去し、3つの異なるマーカー、すなわち、PD-1、PDL-1、及びFOXP3をターゲットする標識部分を、3つの別々のHRP媒介性TSA標識サイクルにおいて試料において沈着させた。その後、増幅された、マーカーPD-1、PDL-1、及びFOXP3に対応するシグナルを有する試料の画像が得られた。
【0195】
図9Aは、組織切片における、マーカーCD8、CD31、CD20、CD45RO、CD4、汎サイトケラチン(Pancytokeratin)、及びCD34の分布及び相対的濃度を示す画像であり、
図9Bは、組織切片における、CD11c、Ki67、PDL-1、E-カドヘリン、CD3、及びFOXP3の分布及び相対的濃度を示す画像である。PD-1、PDL-1、及びFOXP3による増幅されたシグナルは
図9Cの画像に示されている。
図9CにおけるPDL-1及びFOXP3に対応するシグナルは、
図9Bにおけるこれらのマーカーについての対応するシグナルより有意に高い強度である。第1の物質(第1のオリゴヌクレオチド)、レポート物質、及び第2の物質(第2のオリゴヌクレオチド)に対応するヌクレオチド配列は、下記のTable 1(表1)に示されている。
【0196】
【0197】
第2の物質の試料からの除去を実証するために、扁桃腺組織のFFPE切片を得て、3サイクルのHRP媒介性TSAに供して、標識部分を沈着させた。第1のサイクルにおいて、OPAL(登録商標)色素570(Akoya Biosciences, Inc.社)が、HRP媒介性TSAにより試料において沈着した。その後、第2の物質を試料から除去し、第2のサイクルを、第2の物質をハイブリダイズさせずに、それゆえに、試料中にHRP反応剤が存在せずに、OPAL(登録商標)色素690(Akoya Biosciences, Inc.社)を導入することにより行った。第3のサイクルにおいて、OPAL(登録商標)色素690が、HRP媒介性TSAにより沈着した。第2及び第3のサイクル後、試料画像が得られた。
【0198】
図10A及び
図10Dは、サイクル2及び3後の核染色画像を示し、
図10B及び
図10Eは、サイクル2及び3後のOPAL(登録商標)色素570画像を示し、
図10C及び10Fは、サイクル2及び3後のOPAL(登録商標)色素690画像を示す。
図10C及び
図10Fから明らかなように、第2の物質の完全な除去がサイクル1とサイクル2の間で達成された。
【0199】
前述の例について、OPAL(登録商標)色素570及び670についての標識プロトコールは以下の通りであった:
(a)組織を20%DMSOで3回、洗浄する。
(b)組織を200μlのハイブリダイゼーションバッファーと10分間、インキュベートする。10分後、組織を20%DMSOで(3×)、続いて1×CODEX(登録商標)アッセイバッファーで3×洗浄する。
(c)1×plus増幅希釈試薬中にそれぞれ、1:200及び1:400の比で希釈された、200μlのOPAL(登録商標)色素(O570又はO670)を加える。20分間、インキュベートする。
(d)20分後、組織を1×CODEX(登録商標)アッセイバッファーで洗浄する(3×)。DI水で洗浄し(3×)、20倍対物レンズで画像化する。
【0200】
OPAL(登録商標)色素780についての標識プロトコールは以下の通りであった:
(a)組織を20%DMSOで3回、洗浄する。組織を200μlのハイブリダイゼーションバッファーと10分間、インキュベートする。10分後、組織を20%DMSOで洗浄し(3×)、続いて1×CODEX(登録商標)アッセイバッファーで3×洗浄する。
(b)1×plus増幅希釈試薬中に1:50の比で希釈された200ulのTSA digを加える。15分間、インキュベートする。
(c)15分後、組織を1×CODEX(登録商標)アッセイバッファーで洗浄する。
(d)1×plus増幅希釈試薬中に1:50の比で希釈された200ulのOPAL 780を加える。1時間、インキュベートする。組織を1×CODEX(登録商標)アッセイバッファーで洗浄する(3×)。DI水で洗浄し(3×)、20倍対物レンズで画像化する。
【0201】
他の実施形態
この開示は、特定の実行を記載するが、これらは、本開示の範囲への限定としてではなく、むしろ、ある特定の実施形態における特徴の記載として解釈されるべきである。別々の実施形態という文脈において記載されている特徴は又、一般的に、単一の実施形態において組み合わせて実行することもできる。逆に、単一の実施形態という文脈において記載されている様々な特徴は又、複数の実施形態において別々に又は任意の適切な部分的組合せで、実行することもできる。更に、特徴は、ある特定の組合せに存在するように上で記載され、更に最初はそのようなものとして主張され得るとはいえ、主張された組合せからの1つ又は複数の特徴は、一般的に、その組合せから削除され得、その主張された組合せは、部分的組合せ又は部分的組合せのバリエーションに向けられ得る。
【0202】
本明細書に明確に開示された実施形態に加えて、記載された実施形態への様々な改変が、本開示の精神及び範囲から逸脱することなく、なされ得ることは理解されるだろう。したがって、他の実施形態は以下の特許請求の範囲の範囲内である。