(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163177
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】不快香味改善組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20241114BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20241114BHJP
A23C 9/152 20060101ALI20241114BHJP
A23L 2/02 20060101ALI20241114BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20241114BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20241114BHJP
A23L 2/42 20060101ALI20241114BHJP
A23C 9/13 20060101ALN20241114BHJP
A23F 3/16 20060101ALN20241114BHJP
A23L 2/52 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/20 E
A23C9/152
A23L2/02 A
A23L2/00 B
A23L2/38 P
A23L2/42 101
A23C9/13
A23F3/16
A23L2/52 101
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024150416
(22)【出願日】2024-09-02
(62)【分割の表示】P 2022018738の分割
【原出願日】2022-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 詩歩
(72)【発明者】
【氏名】明賀 博樹
(72)【発明者】
【氏名】角田 恒平
(57)【要約】
【課題】不快香味改善に有効な組成物を提供する。
【解決手段】特定の環状ケトン化合物(例えば式Bで表される化合物であって、式中、R
1はメチル基またはエチル基を表し、R
2は水素または炭素数2~4のアシル基を表し、R
3は水素、メチル基またはエチル基を表す。(ただし、R
1がメチル基、R
2が水素、R
3がメチル基である場合を除く。))
を有効成分として含有する不快香味改善組成物、当該不快香味改善組成物を消費財に添加することを含む消費財の不快香味改善方法、当該不快香味改善組成物を添加してなる消費財を提供し、消費財は飲食品であってよく、飲食品は乳および/または果汁を含むものであってよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記B群に記載の化合物から選択される少なくとも1種の環状ケトン化合物を有効成分として含有する、不快香味改善組成物。
(B群) 下記式Bで表される、フラノン骨格を有する環状ケトン化合物
【化1】
[式中、R
1はメチル基またはエチル基を表し、R
2は水素または炭素数2~4のアシル基を表し、R
3は水素、メチル基またはエチル基を表す。(ただし、R
1がメチル基、R
2が水素、R
3がメチル基である場合を除く。)]
【請求項2】
前記B群に属する化合物が、下記式B-1~B-4から選択される化合物である、請求項1に記載の不快香味改善組成物。
【化2】
【請求項3】
前記不快香味が、乳成分に由来する不快香味および/または果汁成分に由来する不快香味である、請求項1または2に記載の不快香味改善組成物。
【請求項4】
前記不快香味が、乳の光劣化臭または果汁の光劣化臭である、請求項1~3のいずれか1項に記載の不快香味改善組成物。
【請求項5】
さらに甘い香味の付与効果を奏する、請求項1~4のいずれか1項に記載の不快香味改善組成物。
【請求項6】
前記不快香味改善組成物が含む前記B群に記載の化合物のそれぞれに対応するケト-エノール互変異性体をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の不快香味改善組成物。
【請求項7】
前記不快香味改善組成物が式B-4の化合物を含む場合、5-エチル体を更に含む、請求項2に記載の不快香味改善組成物。
【請求項8】
下記B群に記載の化合物から選択される少なくとも1種の化合物を、消費財に添加可能な組成物に添加することを含む、不快香味改善組成物の製造方法。
(B群) 下記式Bで表される、フラノン骨格を有する環状ケトン化合物
【化3】
[式中、R
1はメチル基またはエチル基を表し、R
2は水素または炭素数2~4のアシル基を表し、R
3は水素、メチル基またはエチル基を表す。(ただし、R
1がメチル基、R
2が水素、R
3がメチル基である場合を除く。)]
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の不快香味改善組成物を消費財に配合することを含む、消費財の不快香味改善方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の不快香味改善組成物を、前記B群から選択される環状ケトン化合物の濃度として10ppb~1%の濃度範囲となる最終濃度で消費財に配合することを含み、前記消費財が飲食品である、請求項9に記載の消費財の不快香味改善方法。
【請求項11】
前記濃度範囲が10ppb~10ppmである、請求項10に記載の消費財の不快香味改善方法。
【請求項12】
前記飲食品が乳および/または果汁を含むものである、請求項10または11に記載の消費財の不快香味改善方法。
【請求項13】
請求項1~7のいずれか1項に記載の不快香味改善組成物を添加してなる消費財。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不快香味改善組成物に関し、詳しくは、特定の環状ケトン化合物を含有する不快香味改善組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品や香粧品など各種消費財に対する消費者の香りや味(本明細書では総じて香味ということもある)への要求は高度化しており、不快な香味を改善するための技術が複数提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、7-ドデセン酸、8-ドデセン酸、9-ドデセン酸または10-ドデセン酸を、飲食品に添加することにより、これらの飲食品に不必要な香気・香味を付与することなく、飲食品に有する不快味、特に酸味・苦味・渋味由来の不快味を低減し、飲食品の風味を改善することが提案されている。また、特許文献2には、クロロゲン酸を有効成分として含有することを特徴とするカゼイン又はコラーゲンのカゼイン臭又はコラーゲン臭の臭気抑制剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-188705号公報
【特許文献2】特開2003-210119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来用いられてきた不快香味改善のための素材では、各種不快香味の改善に十分に対応できておらず、不快香味を改善できる有用な素材の発見が課題となっていた。従って、本発明の課題は、不快香味の改善に有用な化合物を含む不快香味改善組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を鑑み鋭意研究したところ、特定の構造を有する環状ケトン化合物群が不快香味改善に有用であることを見出し、本発明に至った。
【0007】
かくして、本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
[1] 下記A群およびB群に記載の化合物から選択される少なくとも1種の環状ケトン化合物を有効成分として含有する、不快香味改善組成物。
(A群) 下記式Aで表される環状ケトン化合物
【0008】
【0009】
[式中、nは0または1を表し、破線は単結合または二重結合を表し、環上の前記破線が二重結合の場合、R1およびR2は一方がヒドロキシ基、もう一方が水素、メチル基またはエチル基であり、環上の前記破線が単結合の場合、R1およびR2は一方が環上の炭素と二重結合で結合した酸素、もう一方が水素、メチル基またはエチル基であり、R3およびR4はそれぞれ独立して水素、メチル基またはエチル基である。]
(B群) 下記式Bで表される、フラノン骨格を有する環状ケトン化合物
【0010】
【0011】
[式中、R1はメチル基またはエチル基を表し、R2は水素または炭素数2~4のアシル基を表し、R3は水素、メチル基またはエチル基を表す。(ただし、R1がメチル基、R2が水素、R3がメチル基である場合を除く。)]
[2] 前記A群が下記式Aaで表される化合物および下記式Abで表される化合物からなる群である、[1]に記載の香味改善組成物。
【0012】
【0013】
[式中、破線は単結合または二重結合を表し、環上の前記破線が二重結合の場合、Ra1はヒドロキシ基、Ra2は水素、メチル基またはエチル基であり、環上の前記破線が単結合の場合、Ra1は環上の炭素と二重結合で結合した酸素、Ra2は水素、メチル基またはエチル基であり、Ra3およびRa4はそれぞれ独立して水素、メチル基またはエチル基である。]
【0014】
【0015】
[式中、破線は単結合または二重結合を表し、環上の前記破線が二重結合の場合、Rb1はヒドロキシ基、Rb2は水素、メチル基またはエチル基であり、環上の前記破線が単結合の場合、Rb1は環上の炭素と二重結合で結合した酸素、Rb2は水素、メチル基またはエチル基であり、Ra3およびRa4はそれぞれ独立して水素、メチル基またはエチル基であり、Rb5は水素である。]
[3] 前記A群に属する化合物が、下記式A-1~A-10から選択される化合物である、[1]または[2]に記載の不快香味改善組成物。
【0016】
【0017】
[4] 前記B群に属する化合物が、下記式B-1~B-4から選択される化合物である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の不快香味改善組成物。
【0018】
【0019】
[5] 前記不快香味が、乳成分に由来する不快香味および/または果汁成分に由来する不快香味である、[1]~[4]のいずれかに1つに記載の不快香味改善組成物。
[6] 前記不快香味が、乳の光劣化臭または果汁の光劣化臭である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の不快香味改善組成物。
[7] さらに甘い香味の付与効果を奏する、[1]~[6]のいずれか1つに記載の不快香味改善組成物。
[8] 前記不快香味改善組成物が含む前記A群およびB群に記載の化合物のそれぞれに対応するケト-エノール互変異性体をさらに含む、[1]~[7]のいずれか1つに記載の不快香味改善組成物。
[9] 前記不快香味改善組成物が式B-4の化合物を含む場合、5-エチル体を更に含む、[4]に記載の不快香味改善組成物。
[10] 下記A群およびB群に記載の化合物から選択される少なくとも1種の化合物を、消費財に添加可能な組成物に添加することを含む、不快香味改善組成物の製造方法。
(A群) 下記式Aで表される環状ケトン化合物
【0020】
【0021】
[式中、nは0または1を表し、破線は単結合または二重結合を表し、環上の前記破線が二重結合の場合、R1およびR2は一方がヒドロキシ基、もう一方が水素、メチル基またはエチル基であり、環上の前記破線が単結合の場合、R1およびR2は一方が環上の炭素と二重結合で結合した酸素、もう一方が水素、メチル基またはエチル基であり、R3およびR4はそれぞれ独立して水素、メチル基またはエチル基である。]
(B群) 下記式Bで表される、フラノン骨格を有する環状ケトン化合物
【0022】
【0023】
[式中、R1はメチル基またはエチル基を表し、R2は水素または炭素数2~4のアシル基を表し、R3は水素、メチル基またはエチル基を表す。(ただし、R1がメチル基、R2が水素、R3がメチル基である場合を除く。)]
[11] [1]~[9]のいずれかに記載の不快香味改善組成物を消費財に配合することを含む、消費財の不快香味改善方法。
[12] [1]~[9]のいずれかに記載の不快香味改善組成物を、前記A群およびB群から選択される環状ケトン化合物の濃度として10ppb~1%の濃度範囲となる最終濃度で消費財に配合することを含み、前記消費財が飲食品である、[11]に記載の消費財の不快香味改善方法。
[13] 前記濃度範囲が10ppb~10ppmである、[11]に記載の消費財の不快香味改善方法。
[14] 前記飲食品が乳および/または果汁を含むものである、[12]または[13]に記載の消費財の不快香味改善方法。
[15] [1]~[9]のいずれか1つに記載の不快香味改善組成物を添加してなる消費財。
【発明の効果】
【0024】
本発明によって、不快香味の改善に有効な不快香味改善組成物を提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、具体例を挙げつつさらに詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味し、濃度(ppt、ppb、ppmなど)、%は特に断りのない限りそれぞれ質量濃度、質量%を表し、濃度とは特に断りのない限り最終濃度とする。
【0026】
[不快香味改善組成物]
本発明の一実施態様に係る不快香味改善組成物(本明細書では単に本発明の不快香味改善組成物ということもある)は、下記A~B群に示す式A~Bで表される化合物群(本明細書では、これらの化合物の1種について、または2種以上の総称として、単に「本件化合物」ということもある)を所定量含むものであり、各種消費財に添加してその消費財の不快香味を改善できるものである。本件化合物を得る手段は特に限定されず、市販のものを用いることが出来る。本明細書において、「添加」とは、ある対象に噴霧、滴下などによって単に加えること、およびある対象と混ぜ合わせることの、少なくとも1つを含む。
【0027】
A群とは、下記式Aで表される環状ケトン化合物である。
【0028】
【0029】
[式中、nは0または1を表し、破線は単結合または二重結合を表し、環上の前記破線が二重結合の場合、R1およびR2は一方がヒドロキシ基、もう一方が水素、メチル基またはエチル基であり、環上の前記破線が単結合の場合、R1およびR2は一方が環上の炭素と二重結合で結合した酸素、もう一方が水素、メチル基またはエチル基であり、R3およびR4はそれぞれ独立して水素、メチル基またはエチル基である。]
【0030】
さらに好ましくは、下記式Aaの化合物または下記式Abの化合物である。
【0031】
【0032】
[式中、破線は単結合または二重結合を表し、環上の前記破線が二重結合の場合、Ra1はヒドロキシ基、Ra2は水素、メチル基またはエチル基であり、環上の前記破線が単結合の場合、Ra1は環上の炭素と二重結合で結合した酸素、Ra2は水素、メチル基またはエチル基であり、Ra3およびRa4はそれぞれ独立して水素、メチル基またはエチル基である。]
【0033】
式Aaにおいて、好ましくは、Ra2~Ra4は少なくとも1箇所がメチル基またはエチル基でありその他は水素であり、さらに好ましくは、Ra2がメチル基またはエチル基であってRa3およびRa4は水素であるか、Ra2~Ra4のうち2箇所がメチル基であり、他の1箇所が水素である。
【0034】
【0035】
[式中、破線は単結合または二重結合を表し、環上の前記破線が二重結合の場合、Rb1はヒドロキシ基、Rb2は水素、メチル基またはエチル基であり、環上の前記破線が単結合の場合、Rb1は環上の炭素と二重結合で結合した酸素、Rb2は水素、メチル基またはエチル基であり、Ra3およびRa4はそれぞれ独立して水素、メチル基またはエチル基であり、Rb5は水素である。]
【0036】
式Abにおいて、好ましくは、Rb2~Rb4の少なくとも1箇所がメチル基またはエチル基であり、さらに好ましくは、環上の前記破線が単結合でありRb1が酸素、Rb2~Rb4の1箇所がメチル基またはエチル基でありその他は水素であり、より好ましくは、環上の前記破線が単結合でありRb1が酸素で、Rb2~Rb4の1箇所がメチル基でありその他は水素である。
【0037】
B群とは、下記式Bで表されるフラノン骨格を有する環状ケトン化合物である。
【0038】
【0039】
[式中、R1はメチル基またはエチル基を表し、R2は水素または炭素数2~4のアシル基を表し、R3は水素、メチル基またはエチル基を表す。(ただし、R1がメチル基、R2が水素、R3がメチル基である場合を除く。)]
【0040】
式Bにおいて、好ましくは、R1はメチル基である。
【0041】
式Aで表される化合物および式Bで表される化合物は、その立体異性体をいずれも含むものとする。本明細書ではそれぞれ、式Aで表される化合物の1種についてまたは2種以上の総称として単に式Aの化合物ということもある。式Bで表される化合物についても同様である。
【0042】
式Aの化合物および式Bの化合物のうち、好ましい具体例としては下記式A-1~A~10およびB-1~B-4の各化合物が挙げられる。前記式AaはA-1~A-5の各化合物を包含し、前記式Abは式A-8およびA-9の各化合物を包含する。A-1の化合物はシクロテン(cyclotene)(式Aにおいてnが0、環上の破線が二重結合、R1がヒドロキシ基、R2がメチル基、R3およびR4が水素である場合;式Aaにおいて環上の破線が二重結合、Ra1がヒドロキシ基、Ra2がメチル基、Ra3およびRa4が水素である場合)、A-2の化合物はエチルシクロペンテノロン(ethyl cyclopentenolone)(式Aにおいてnが0、環上の破線が二重結合、R1がヒドロキシ基、R2がエチル基、R3およびR4が水素である場合;式Aaにおいて環上の破線が二重結合、Ra1がヒドロキシ基、Ra2がエチル基、Ra3およびRa4が水素である場合)、A-3の化合物はメチルコリロン(methyl corylone))(式Aにおいてnが0、環上の破線が単結合、R1が酸素、R2およびR3がメチル基、R4が水素である場合;式Aaにおいて環上の破線が単結合、Ra1が酸素、Ra2およびRa3がメチル基、Ra4が水素である場合)、A-4の化合物は3,5-ジメチル-1,2-シクロペンタンジオン(3,5-dimethyl-1,2-cyclopentanedione)(式Aにおいてnが0、環上の破線が単結合、R1が酸素、R2およびR4がメチル基、R3が水素である場合;式Aaにおいて環上の破線が単結合、Ra1が酸素、Ra2およびRa4がメチル基、Ra3が水素である場合)、A-5の化合物は1,2-シクロペンタンジオン(1,2-cyclopentanedione)(式Aにおいてnが0、環上の破線が単結合、R1が酸素、R2、R3およびR4が水素である場合;式Aaにおいて環上の破線が単結合、Ra1が酸素、Ra2、Ra3およびRa4が水素である場合)、A-6の化合物は1,3-シクロペンタンジオン(1,3-cyclopentanedione)(式Aにおいてnが0、環上の破線が単結合、R1が水素、R2が酸素、R3およびR4が水素である場合)、A-7の化合物は2-メチル-1,3-シクロペンタンジオン(2-methyl-1,3-cyclopentanedione)(式Aにおいてnが0、環上の破線が単結合、R1がメチル基、R2が酸素、R3およびR4が水素である場合)、A-8の化合物は3-メチル-1,2-シクロヘキサンジオン(3-methyl-1,2-cyclohexanedione)(式Aにおいてnが1、環上の破線が単結合、R1が酸素、R2がメチル基、R3およびR4が水素である場合;式Abにおいて環上の破線が単結合、Rb1が酸素、Rb2がメチル基、Rb3およびRb4が水素である場合)、A-9の化合物は1,2-シクロヘキサンジオン(1,2-cyclohexanedione)(式Aにおいてnが1、環上の破線が単結合、R1が酸素、R2、R3およびR4が水素である場合;式Abにおいて環上の破線が単結合、Rb1が酸素、Rb2、Rb3およびRb4が水素である場合)、A-10の化合物は1,3-シクロヘキサンジオン(1,3-cyclohexanedione)(式Aにおいてnが1、環上の破線が単結合、R1が水素、R2が酸素、R3およびR4が水素である場合)と呼ばれることがあり、B-1の化合物はフラネオールアセテート(furaneol acetate)(式BにおいてR1がメチル基、R2が炭素数2のアシル基、R3がメチル基の場合)、B-2の化合物はフラネオールブチレート(furaneol butyrate)(式BにおいてR1がメチル基、R2が炭素数4のアシル基、R3がメチル基の場合)、B-3の化合物は4-ヒドロキシ-5-メチル-2(H)-フラン-3-オン(4-hydroxy-5-methyl-2(H)-furan-3-one)(式BにおいてR1がメチル基、R2が水素、R3が水素の場合)、B-4の化合物は2-エチル-4-ヒドロキシ-5-メチル-2(H)-フラン-3-オン(2-ethyl-4-hydroxy-5-methyl-2(H)-furan-3-one)(式BにおいてR1がメチル基、R2が水素、R3がエチル基の場合)と呼ばれることがある。
【0043】
【0044】
【0045】
式A-1~A-10およびB-1~B4の化合物のうち、特に好ましい例として、上記式A-1、A-2、A-3、A-4、A-8、A-9、B-1、B-2、B-3、B-4の各化合物が挙げられる。
【0046】
また、式Aの化合物および式Bの化合物の中には、ケト-エノール互変異性体が自然に存在しており、式Aの化合物または式Bの化合物を含有する不快香味改善組成物には当該互変異性体が含まれると考えられ、式Aの化合物とそのケト-エノール互変異性体との混合物、および式Bの化合物とそのケト-エノール互変異性体との混合物も不快香味改善効果を有する。また、当該ケト-エノール互変異性体を不快香味改善に用いてもよい。例えば、式A-1、式A-2、式A-3、式A-4、式A-5、式A-8、式A-9、式B-3、および式B-4の化合物の自然に存在するケト-エノール互変異性体は、式A-1の化合物のケト-エノール互変異性体として3-メチル-1,2-シクロペンタンジオン(3-methyl-1,2-cyclopentanedione)、式A-2の化合物のケト-エノール互変異性体として3-エチル-1,2-シクロペンタンジオン(3-ethyl-1,2-cyclopentanedione)、式A-3の化合物のケト-エノール互変異性体として2-ヒドロキシ-3,4-ジメチル-2-シクロペンテノン(2-hydroxy-3,4-dimethyl-2-cyclopentenone)、式A-4の化合物のケト-エノール互変異性体として2-ヒドロキシ-3,5-ジメチル-2-シクロペンテノン(2-hydroxy-3,5-dimethyl-2-cyclopentenone)、式A-5の化合物のケト-エノール互変異性体として2-ヒドロキシ-2-シクロペンテノン(2-hydroxy-2-cyclopentenone)、式A-8の化合物のケト-エノール互変異性体として2-ヒドロキシ-3-メチル-2-シクロヘキセノン(2-hydroxy-3-methyl-2-cyclohexenone)、式A-9の化合物のケト-エノール互変異性体として2-ヒドロキシ-2-シクロヘキセノン(2-hydroxy-2-cyclohexenone)、式B-3の化合物のケト-エノール互変異性体として2-メチル-3,4(2H,5H)-フランジオン(2-methyl-3,4(2H,5H)-furandione)、式B-4の化合物のケト-エノール互変異性体として2-エチル-5-メチル-3,4(2H,5H)-フランジオン(2-ethyl-5-methyl-3,4(2H,5H)-furandione)が存在する。
【0047】
式B-4についても、B-4の化合物である2-エチル-4-ヒドロキシ-5-メチル-2(H)-フラン-3-オンの市販品は5-エチル-4-ヒドロキシ-2-メチル-2(H)-フラン-3-オン(以下、5-エチル体ということもある)が含まれていることがあり、B-4の化合物と5-エチル体との混合物も不快香味改善効果を奏する。また、5-エチル体を不快香味改善に用いてもよい。
【0048】
本明細書において、「不快香味」とは、嗅覚を有する動物、代表的にはヒトが感じられる不快な香味であって、代表的には、硫黄様香味、揚げ油様香味が挙げられる。硫黄様香味とは、刺激的な感覚を含むこともある、不快なキャベツ様、玉ねぎ様、ニンニク様、大根の漬物様、肉様(腐敗感または加熱感を含むことがある)、卵様(卵黄臭、腐卵臭および/または卵白臭)、チーズ様、芋様、焦げ臭の1種以上を含むものであってよい。揚げ油様香味とは、揚げ物に使用した後の油のような香りであって、酸化した油の独特の油臭さを含む感覚を意味する。硫黄様香味および/または揚げ油様香味が不快香味となり得る例として、各種消費財中の成分相互作用による経時的な成分劣化または光もしくは熱による成分劣化によって生じる不快香味、口臭、体臭、および糞尿様臭などが挙げられ、本発明の不快香味改善組成物は、硫黄様香味および/または揚げ油様香味を含む不快香味に対して特に顕著な改善効果を有する。特に、本発明の不快香味改善組成物は、乳または果汁の光劣化臭の改善に好適に使用できる。当該劣化臭はメチオニンが硫黄様の不快香味の原因のひとつとして考えられているものである。
【0049】
また、「香味」とは、香りによって変化し得る1種または複数種の感覚、代表的には嗅覚と味覚などを含む感覚を意味する。
【0050】
「改善」とは、消費財から感じられる不快香味が、本発明の不快香味改善組成物を添加しない場合に比べて弱いまたは実質的に感じられない状態にすることを含み、好ましくは、さらに消費財の香味が、本発明の不快香味改善組成物を添加しない場合に比べて香味が付与され、その結果消費財の香味が改善されることも含む。
【0051】
不快香味の由来として知られている代表的な化合物として、メチオナール、メタンチオール、ジメチルジスルフィドおよびジメチルトリスルフィドが挙げられるが、これらに限定されない。特に、不快香味の改善が課題として知られている乳および果汁由来の不快臭については、光や熱などの刺激によって生じる不快臭の原因物質(乳や果汁中の成分が前記刺激や継時変化によって変化または相互作用して生じ得る各種化合物)と考えられているメチオナールなどが代表的な不快香味の由来物質となることがある。本明細書において「不快香味の由来化合物」とは、その化合物自体またはその化合物から分解や結合等で生成しうる化合物を含むものとする。
【0052】
消費財の不快香味は、消費財にもともと微量含まれている化合物に起因するほか、消費財に含まれる成分が、場合によっては光(日光や室内灯)や熱などの刺激に起因して、経時的に相互反応して生成した化合物に起因する場合もある。いかなる理論に拘泥されるものでもないが、例えば、乳や果汁については、(1)アミノ酸やタンパク質の分解に起因する風味劣化、(2)脂質の酸化(光酸化など)に起因する風味劣化の1種以上が一因と考えられている。例えば、乳においては、(1)の場合、乳中に含まれるメチオニンが、光で励起されたリボフラビンの作用により酸化されることでメチオナールが生成し、メチオナールがさらに分解されてメタンチオールになり、メタンチオールからはスルフィド類、ジスルフィド類、トリスルフィド類などがさらに生成され、このメチオナールやこの化合物から生成したジスルフィド類、トリスルフィド類の香りが混合されたものが、不快香味を形成していると考えられる。また、(2)の場合は、乳に含まれるリボフラビンの光励起により生成した活性酸素が乳に含まれる不飽和脂肪酸を過酸化脂質に酸化し、この過酸化脂質の分解で生じた揮発性アルデヒド、ケトン、アルコール等が不快香味を形成していると考えられる。(1)によって硫黄様香味、(2)によって揚げ油様香味を代表とする不快香味が生じるが、本発明の不快香味改善組成物によってその不快香味を改善することができる。
【0053】
本発明の不快香味改善組成物の例として、飲食品、香粧品、保健衛生品など各種消費財に添加できる、本件化合物を含む飲食品、香粧品または保健衛生品用の各種添加物が挙げられる。本発明の不快香味改善組成物は、不快香味改善可能な香味付与組成物として使用することもでき、このような使用も本発明の不快香味改善の用途に含まれるものとする。より具体的な例としては、各種消費財に添加できる、本件化合物を含む、香料組成物、各種動植物エキスまたは各種動植物原料の発酵品や加熱処理品などが挙げられるが、これらに限定されない。例えば香料組成物は、香料化合物を有効成分のひとつとするものであり、香料化合物は嗅覚を刺激する化合物であるが、香味は嗅覚刺激と味覚刺激が脳で統合された感覚と考えられており、嗅覚刺激は味覚を刺激する化合物(食塩、砂糖、グルタミン酸ナトリウムなど)と組み合わされて食全体の香味が形成されるため、香料組成物は飲食品の総合的な香味の改善に用いることができる。
【0054】
本発明の不快香味改善組成物は、本件化合物に加えて、溶媒、分散媒、本件化合物以外の香味付与成分、抗酸化成分などの補助成分など任意の他の成分(具体例は後述)を含み得るが、実質的に本件化合物のみからなるものであってもよい。本発明の不快香味改善組成物が本件化合物以外の成分も含む場合、当該不快香味改善組成物中の本件化合物の濃度は、不快香味改善組成物の添加対象や香気特性に応じて任意に決定できる。
【0055】
本発明の不快香味改善組成物中の本件化合物の濃度の例として、本発明の不快香味改善組成物が実質的に本件化合物およびその溶媒または分散媒(具体例は後述)のみを含む場合は、10ppb~99.9%の範囲内が例示でき、好ましい例として10ppm~99.9%の範囲内が挙げられる。
【0056】
本発明の不快香味改善組成物中の本件化合物の濃度の例として、特に本発明の不快香味改善組成物が本件化合物およびその溶媒または分散媒以外に香味付与可能な成分を含む場合には、当該不快香味改善組成物中の本件化合物の濃度(本件化合物を複数添加する場合はその合計濃度であることが好ましい)は、上述したように不快香味改善組成物の添加対象や香気特性に応じて任意に決定でき、消費財に不快香味改善効果が奏される濃度で添加可能なように適当な濃度にすればよい。例えば、不快香味改善組成物の全体質量に対して、100ppt~10%、好ましくは1ppb~10%、より好ましくは100ppb~10%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、0.1%、1%のいずれかとし、上限値を10%、1%、0.1%、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppbのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができるが、これらに限定されない。なお、不快香味改善組成物の処方などにも依存するが、不快香味改善組成物中の本件化合物の濃度を100ppt~10%とすると、本件化合物由来の香りが過度に突出することなく消費財への不快香味改善効果が得られる。本発明の不快香味改善組成物やその添加対象の香調などによっては、本件化合物を100ppt~10%の範囲外の濃度で添加してもよい。
【0057】
本発明の不快香味改善組成物において、本件化合物に加えてさらに含有し得る任意の他の成分の具体例として、各種類の香料化合物、香料組成物、油溶性色素類、ビタミン類、機能性物質、魚肉エキス類、畜肉エキス類、動植物エキス類、酵母エキス類、動植物タンパク質類、動植物蛋白分解物類、澱粉、デキストリン、糖類、アミノ酸類、核酸類、有機酸類、溶剤などを例示することができる。例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている天然精油、天然香料、合成香料などを挙げることができる。
【0058】
香料化合物のその他の例として、炭化水素化合物としては、α-ピネン、β-ピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5-ウンデカトリエンなどが挙げられる。
【0059】
アルコール化合物としては、ブタノール、ペンタノール、3-オクタノール、ヘキサノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、プレノール、2,6-ノナジエノールなどの飽和または不飽和アルコール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロール、テルピネオールなどのテルペンアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールが挙げられる。
【0060】
アルデヒド化合物としては、アセトアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、デカナール、(E)-2-ヘキセナールなどの飽和または不飽和アルデヒド、シトロネラール、ヒドロキシシトロネラール、シトラール、ミルテナール、ペリルアルデヒドなどのテルペンアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、アミルシンナムアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、ヘリオトロピン、p-トリルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドが挙げられる。
【0061】
ケトン化合物としては、2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、1-オクテン-3-オン、アセトインなどの飽和または不飽和ケトン、ジアセチル、2,3-ペンタンジオン、マルトール、エチルマルトール、シクロテン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンなどのジケトンおよびヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン、α-イオノン、β-イオノン、β-ダマセノンなどのテルペン分解物に由来するケトン、ラズベリーケトンなどの芳香族ケトンが挙げられる。
【0062】
フランまたはエーテル化合物としては、フルフリルアルコール、フルフラール、ローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピラン、エストラゴール、オイゲノール、1,8-シネオールなどが挙げられる。
【0063】
エステル化合物としては、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸イソアミル、2-メチル酪酸エチル、3-メチル酪酸エチル、イソ酪酸2-メチルブチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸アリル、ヘプタン酸エチル、カプロン酸エチル、イソ吉草酸イソアミル、ノナン酸エチルなどの脂肪族エステル、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ラバンジュリル、酢酸テルペニルなどのテルペンアルコールエステル、酢酸ベンジル、酪酸ベンジル、サリチル酸メチル、サリチル酸ベンジル、ケイ皮酸メチル、プロピオン酸シンナミル、安息香酸エチル、イソ吉草酸シンナミル、3-メチル-2-フェニルグリシド酸エチルなどの芳香族エステルが挙げられる。
【0064】
ラクトン化合物としては、γ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトン、7-デセン-4-オリド、2-デセン-5-オリドなどの飽和または不飽和ラクトンが挙げられる。
【0065】
酸化合物としては、酢酸、酪酸、オクタン酸、イソバレル酸、カプロン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和または不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0066】
含窒素化合物としては、ピリジン、アルキル置換ピラジン、アントラニル酸メチル、トリメチルピラジンなどが挙げられる。
【0067】
天然精油としては、スイートオレンジ、ビターオレンジ、プチグレン、レモン、ベルガモット、マンダリン、ネロリ、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ヒヤシンス、ライラック、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナム、エルダーフラワー、クラリセージなどが挙げられる。
【0068】
各種動植物エキスとしては、ハーブまたはスパイスの抽出物、コーヒー、緑茶、紅茶、またはウーロン茶などの各種茶抽出物や、乳または乳加工品およびこれらのリパーゼおよび/またはプロテアーゼなどの各種酵素分解物などが挙げられる。
【0069】
また、公知の不快香味改善に関係する素材と併用してもよく、そのような素材として、例えば、特開2021-171023号公報、特開2021-142111号公報、特開2021-108822号公報、特開2020-188705号公報、特開2018-87153号公報、特開2015-144621号公報、特許6009616号公報、特開2015-67558号公報、特許6158664号公報、特開2015-67557号公報、特開2014-240360号公報、特許6216543号公報、特開2014-34517号公報、特許5220942号公報、特開2013-143930号公報、特許5019659号公報、特開2013-21926号公報、特許4925488号公報、特開2012-80840号公報、特許5198533号公報、特開2012-80778号公報、特許6005333号公報、特開2012-34603号公報、特許5340238号公報、特開2011-103873号公報、特許4562049号公報、特開2011-223942号公報、特許5349399号公報、特開2011-103774号公報、特許4606505号公報、特開2008-253217号公報、特開2006-104257号公報、特許4391378号公報、特開2004-248611号公報、特許4216091号公報、特開2004-18829号公報、特開2003-210119号公報、特許3830137号公報、特開2003-96486号公報、特開平9-221429号公報、特許3431383号公報、特開平8-119843号公報に記載のものを採用してよい。
【0070】
特に好ましく併用できる動植物エキスとして、動植物エキスに適宜アミノ酸や糖類を加え加熱処理(例えば80~200℃、好ましくは100~180℃の範囲内)を施したもの(例えば、特開2018-102308号公報、特開2018-102309号公報、特開2018-102310号公報、特開2018-102307号公報、特開2017-51206号公報、国際公開2016/72114号、国際公開2016/72111号、国際公開2016/63394号、特開2015-112038号公報、特開2013-252111号公報、特開2013-252113号公報、特開2013-252112号公報、または特開2013-252114号公報などに記載のもの)が挙げられる。
【0071】
本発明の不快香味改善組成物は、上述した通り、本件化合物を公知の方法によって適切な溶媒や分散媒に添加して調製することができ、本発明の不快香味改善組成物の形態としては、本件化合物やその他成分を水溶性または油溶性の溶媒に溶解した溶液、乳化製剤、粉末製剤、その他固体製剤(固形脂など)などが好ましい。使用する溶媒や分散媒の種類に特に制限はないが、例えば以下に挙げるものを使用することができる。
【0072】
水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、2-プロパノール、メチルエチルケトン、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレートなどを例示することができる。これらのうち、飲食品へ使用する場合には、エタノールまたはプロピレングリコールが特に好ましい。油溶性溶媒としては、植物性油脂、動物性油脂、精製油脂類(例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの加工油脂や、トリアセチン、トリプロピオニンなどの短鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる)、ハーコリン、各種精油、トリエチルシトレートなどを例示することができる。
【0073】
また、乳化製剤とするためには、本件化合物を水溶性溶媒および乳化剤と共に乳化して得ることができる。本件化合物の乳化方法としては特に制限されるものではなく、従来から飲食品などに用いられている各種類の乳化剤、例えば、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、化工でん粉、ソルビタン脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸及びおよびその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼイン、キラヤサポニン、カゼインナトリウムなどの乳化剤を使用してホモミキサー、コロイドミル、回転円盤型ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化処理することにより安定性の優れた乳化液を得ることができる。これら乳化剤の使用量は厳密に制限されるものではなく、使用する乳化剤の種類などに応じて広い範囲にわたり変えることができるが、通常、本件化合物1質量部に対し、約0.01~約100質量部、好ましくは約0.1~約50質量部の範囲内が適当である。また、乳化を安定させるため、かかる水溶性溶媒液は水の他に、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、ショ糖、グルコース、トレハロース、糖液、還元水飴などの多価アルコール類の1種類または2種類以上の混合物を添加することができる。
【0074】
また、かくして得られた乳化液は、所望ならば乾燥することにより粉末製剤とすることができる。粉末化に際して、さらに必要に応じて、アラビアガム、トレハロース、デキストリン、砂糖、乳糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴などの糖類を適宜添加することもできる。これらの使用量は粉末製剤に望まれる特性などに応じて適宜に選択することができる。
【0075】
[不快香味改善組成物の製造方法]
本発明の一態様として、本件化合物を各種消費財に添加可能な任意の組成物に添加することを含む、不快香味改善組成物の製造方法が提供される。各種消費財に添加可能な組成物の例としては、飲食品、香粧品、保健衛生品に添加することが可能な溶剤、抗酸化剤、色素、およびその他添加物から選択される1種以上を含む組成物が例示できる。さらに、本発明の別の一態様として、本発明の不快香味改善組成物を他の香味付与組成物に添加することで、添加対象の香味付与組成物を不快香味改善組成物として製造することもできる。このように製造された本発明の不快香味改善組成物は、飲食品、香粧品、保健衛生品などの各種消費財の添加用組成物として、各種消費財の製造に用いることができる。
【0076】
[消費財の不快香味改善付与方法および消費財]
本発明の不快香味改善組成物を、飲食品、香粧品、保健衛生品などの各種消費財に添加することによって、不快香味の改善された消費財が製造される。そのため、本発明において、各種消費財の不快香味改善方法とは、不快香味の改善された消費財の製造方法ともいえる。不快香味改善組成物の各種消費財への添加タイミングは任意であり、不快香味改善組成物それ自体を飲食品、香粧品、保健衛生品などの各種消費財に添加してもよいし、1種または2種以上の他の香味付与組成物(例えば、水溶性香料組成物、乳化香料組成物、任意の香料化合物、天然精油(例えば、前掲の「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品香料」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」、および「合成香料 化学と商品知識」に記載される香料化合物)、から選択される1種以上)と併せて各種消費財に添加してもよい。
【0077】
本発明の不快香味改善組成物を添加可能な飲食品は特に限定されず、いかなる香味(風味ともいう)を有していてもよいが、香味の例として、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、みかん、カボス、スダチ、ハッサク、イヨカン、ユズ、シークワーサー、金柑などの各種柑橘風味;ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、アップル、チェリー、プラム、アプリコット、桃、パイナップル、バナナ、メロン、マンゴー、パパイヤ、キウイ、ペアー(洋ナシ)、ブドウ(グレープ、マスカット、巨峰など)、ライチ、パッションフルーツなどの各種フルーツ風味;ミルク、ヨーグルト、バター、カスタードなどの乳風味または乳風味を含む風味;バニラ風味;緑茶、抹茶、焙じ茶、紅茶、ウーロン茶、麦茶、コーン茶、そば茶、プーアル茶、ハーブティーなどの各種茶風味;コーヒー風味;コーラ風味;カカオ風味;ココア風味;スペアミント、ペパーミントなどの各種ミント風味;シナモン、カモミール、カルダモン、キャラウェイ、クミン、クローブ、コショウ、コリアンダー、サンショウ、シソ、ショウガ、スターアニス、タイム、トウガラシ、ナツメグ、バジル、マジョラム、ローズマリー、ローレル、ワサビ、山椒、ニンニク(ガーリック)などの各種スパイスまたはハーブ風味;アーモンド、カシューナッツ、クルミなどの各種ナッツ風味;ワイン、ブランデー、ウイスキー、ラム、ジン、リキュール、日本酒、焼酎、ビールなどの各種酒類(アルコール)風味;ニンジン、トマト、キュウリ、タマネギ、コーン(トウモロコシ)、ジャガイモ、などの野菜風味;鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの畜肉風味;魚介風味;野菜、畜肉、魚介などの出汁(ブイヨン)風味;コンソメ風味;カラメル風味;などの風味の1以上を有する飲食品が挙げられる。すなわち、上記風味の1種類のみを感じさせる飲食品でもよく、2種類以上の風味を感じさせる飲食品でもよく、その複数種類の風味が同類であっても異類であってもよく、例えば、前者の例としてフルーツ風味のうちバナナ、ピーチおよびアップル風味など複数のフルーツ風味を感じさせる飲食品(いわゆるミックスフルーツ風味)が挙げられ、後者の例として、レモンなどの柑橘風味および乳風味を感じさせる飲食品(シトラス風味の乳酸菌飲料など)や、ミント風味や柑橘風味とコーラ風味とを感じさせる飲食品(ミントまたはレモンフレーバーのコーラ飲料など)が挙げられるが、本発明の不快香味改善組成物によって不快香味を改善可能な任意の風味であってよい。
【0078】
より具体的な飲食品例としては、せんべい、あられ、おこし、餅類、饅頭、ういろう、あん類、羊かん、水羊かん、錦玉、ゼリー、カステラ、飴玉、ビスケット、クラッカー、ポテトチップス、クッキー、パイ、プリン、氷菓、アイスクリーム、アイスミルク、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、ワッフル、スポンジケーキ、ドーナツ、チョコレート、チューインガム、キャラメル、キャンディー、ピーナッツペーストまたはその他のペースト類、ホイップクリームなどの菓子または菓子素材類;パン、うどん、ラーメン、中華麺、すし、五目飯、チャーハン、ピラフ、餃子の皮、シューマイの皮、お好み焼き、たこ焼き、などのパン類、麺類、ご飯類、その他穀類;糠漬け、梅干、福神漬け、べったら漬け、千枚漬け、らっきょう、味噌漬け、たくあん漬け、および、それらの漬物の素、などの漬物類;サバ、イワシ、サンマ、サケ、マグロ、カツオ、クジラ、カレイ、イカナゴ、アユなどの魚類、スルメイカ、ヤリイカ、紋甲イカ、ホタルイカなどのイカ類、マダコ、イイダコなどのタコ類、クルマエビ、ボタンエビ、イセエビ、ブラックタイガーなどのエビ類、タラバガニ、ズワイガニ、ワタリガニ、ケガニなどのカニ類、アサリ、ハマグリ、ホタテ、カキ、ムール貝などの貝類、などの魚介類;鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉などの畜肉類;缶詰、煮魚、佃煮、すり身、水産練り製品(ちくわ、蒲鉾、あげ蒲鉾、カニ足蒲鉾など)、フライ、天ぷら、カレー、シチュー、ビーフシチュー、ハヤシライスソース、ミートソース、マーボ豆腐、ハンバーグ、餃子、釜飯の素、スープ類(コーンスープ、トマトスープ、コンソメスープなど)、肉団子、角煮、畜肉缶詰、野菜の煮物、筑前煮、おでん、鍋物、持ち帰り惣菜類、ラーメン、そば、うどん、そうめんなどの麺類およびそれに用いるスープ、野菜スープなどの動植物原料を用いた加工食品類;卓上塩、調味塩、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、もろみ、ひしお、ふりかけ、お茶漬けの素、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、中華の素、天つゆ、めんつゆ(昆布だしまたは鰹だしなど)、ソース(中濃ソース、トマトソースなど)、ケチャップ、焼肉のタレ、カレールー、シチューの素、スープの素、だしの素(昆布だしまたは鰹だしなど)、複合調味料、新みりん、唐揚げ粉・たこ焼き粉などのミックス粉、などの調味料類、これらの調味料類が添加された動物性または植物性だし風味飲食品;チーズ、ヨーグルト、バター、生クリームなどの乳製品;リンゴ、ぶどう、マンゴー、桃、柑橘類(グレープフルーツ、オレンジ、レモンなど)などの果汁、果肉、果粒、果皮などを用いた果実飲料;トマト、ピーマン、セロリ、ウリ、ニガウリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガス、ワラビ、ゼンマイなどの野菜や、これら野菜類を含む野菜系飲料、野菜スープなどの野菜含有飲食品;コーヒー、ココア、緑茶、紅茶、烏龍茶、清涼飲料、炭酸飲料、コーラ飲料、乳酸菌飲料、乳を含む飲料(ミルクティ、カフェオレなど)、果実または果汁入り飲料(レモンティやオレンジティなどのフルーツティーなど)などの嗜好飲料品;生薬やハーブを含む飲料;コーラ飲料スポーツドリンク、ハチミツ飲料、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンクなどの機能性飲料;各種酒類風味(ビール風味、梅酒風味、チューハイ風味など)のアルコールテースト飲料などのノンアルコール嗜好飲料類(ノンアルコールビール、ノンアルコールチューハイなど);ワイン、焼酎、泡盛、清酒、ビール、チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒、いわゆる「第三のビール」などを含むビールテイスト飲料(ビール風味飲料ともいう)、その他醸造酒(発泡性)、リキュール(発泡性)、またはこれらを含む、アルコール飲料類;などを挙げることができる。
【0079】
本発明の不快香味改善組成物の添加対象の飲食品の特に好適な例として、乳または果汁を含有する飲食品が挙げられる。乳を含有する飲食品の例としては、牛乳、ヤギ乳、羊乳、馬乳などに代表される乳自体、これらの乳を用いた各種乳製品が挙げられ、乳製品の具体例としては、成分調整乳、加工乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳、乳酸菌飲料、乳飲料、発酵乳(ヨーグルト等)、バター、チーズ、クリーム、アイスクリーム、練乳、粉乳、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、およびこれらを含むまたは用いて製造される各種飲料(ミルクティーなどの乳を含む各種茶飲料など)が挙げられるが、これらに限定されない。果汁の例としては、上述した各種果実(レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、マンダリン、みかん、カボス、スダチ、ハッサク、イヨカン、ユズ、シークワーサー、金柑などの各種柑橘風味や、リンゴ、ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、アップル、チェリー、プラム、アプリコット、桃、パイナップル、バナナ、メロン、マンゴー、パパイヤ、キウイ、ペアー(洋ナシ)、ブドウ(グレープ、マスカット、巨峰など)、ライチ、パッションフルーツなどの各種フルーツ風味)の果汁が挙げられ、特に、マンゴー、桃、ブドウ、リンゴ、オレンジ、みかんが好適である。
【0080】
本発明の不快香味改善組成物を添加可能な香粧品および保健衛生品は特に限定されず、いかなる香味を有していてもよい。より具体的な香粧品および保健衛生品の例として、オーデコロン、オードトワレ、オードパルファム、パルファムなどの香水類;シャンプー、リンス、整髪料(ヘアクリーム、ポマードなど)などのヘアケア製品類;ファンデーション、口紅、リップクリーム、リップグロス、化粧水、化粧用乳液、化粧用クリーム、化粧用ゲル、美容液、パック剤などの化粧品類;頭皮臭を抑制するための各種製剤(頭皮ケア剤など)、体臭抑制のための各種製剤(制汗スプレー、デオドラントシート、デオドラントクリーム、デオドラントスティックなど)、口臭抑制のための製剤(マウスウォッシュ、歯磨き剤、口臭防止効果を有するマスクなど)などのデオドラント製品類;無機塩類系、清涼系、炭酸ガス系、スキンケア系、酵素系、生薬系などの入浴剤類;サンタン製品、サンスクリーン製品などの日焼け化粧品類;フェイス用石鹸や洗顔クリームなどの洗顔料、ボディ用石鹸やボディソープ、洗濯用石鹸、洗濯用洗剤、消毒用洗剤、防臭洗剤、柔軟剤、台所用洗剤、清掃用洗剤などの保健衛生用洗剤類;ティッシュペーパー、トイレットペーパーなどの保健衛生材料類;室内や車内などの空間臭、糞尿臭などの各種不快臭抑制のための消臭剤類;ルームフレグランスなどの芳香剤類;などを挙げることができる。
【0081】
本発明の不快香味改善組成物の添加対象の香粧品および保健衛生品の特に好適な例として、不快臭の抑制に使用できる各種製品が挙げられ、香水類、ヘアケア製品類、デオドラント製品類、保健衛生用洗剤類、保健衛生材料類、消臭剤類などを例示できる。
【0082】
本発明の不快香味改善組成物を添加した飲食品、香粧品、保健衛生品などの各種消費財中の本件化合物の濃度は、消費財の香味や所望の効果の程度などに応じて任意に決定できる。
【0083】
飲食品であれば、飲食品の全体質量に対して、本件化合物の濃度として10ppt~1%の濃度範囲において、飲食品の不快香味を改善できることを発明者らは確認している。例えば、下限値を10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、0.1%のいずれか、上限値を1%、0.1%、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内でよいが、これらの濃度範囲に限定されない。濃度範囲の好ましい具体例として、1ppb~100ppm、1ppb~10ppm、10ppb~10ppm、10ppb~100ppmの範囲内が挙げられる。特に好ましくは1ppb~100ppm、さらに好ましくは10ppb~100ppmの範囲内であり、この範囲内では、特に本件化合物が式A-1~A-10およびB-1~B-4の各化合物である場合、不快香味が改善されるほか、消費財に好適な香味を付与することができる。なお、本発明の不快香味改善組成物の添加対象となる飲食品の香味特性、飲食品製造時の加工条件(温度、pHなど)、喫食時の温度などに依存するが、飲食品中の本件化合物の濃度が10ppt~1%の範囲内においては、化合物そのものの香気が過度に突出することなく、添加対象の飲食品の不快香味を改善することができる。例えば、本件化合物の種類に応じて、10ppt~1%の範囲の中で飲食品の全体質量に対する濃度を調整することができる。添加対象の飲食品の香味特性、飲食品製造時の加工条件(温度、pHなど)、喫食時の温度などによっては、本件化合物を、前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で添加してもよい。本段落で例示した濃度は、本件化合物を複数添加する場合はその合計濃度であることが好ましい。
【0084】
香粧品および保健衛生品については、本件化合物を任意の濃度で含有する香粧品または保健衛生品を製造し、不快香を呈する対象に添加することで、その物品の不快香を改善することができる。不快香を呈する対象の全体質量に対して、本件化合物の濃度として100ppt~10%の濃度範囲において、当該添加対象の不快香を改善することができることを発明者らは確認している。より具体的には、下限値を100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、0.1%、1%のいずれか、上限値を10%、1%、0.1%、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppbのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい濃度の例として、当該添加対象の全体質量に対して、本件化合物の濃度として、10ppb~100ppm、100ppb~100ppm、1ppm~100ppm、1ppm~0.1%、10ppm~0.1%の各範囲から、当該添加対象の香気特性に応じて選択することができるが、これらに限定されない。なお、当該対象の種類や香気にも依存するが、当該添加対象中の本件化合物の濃度が100ppt~10%において、化合物そのものの香気が過度に突出することなく、当該添加対象の不快香を改善することができる。当該添加対象の香気特性などによっては、本件化合物を、前記下限を下回る濃度または前記上限を上回る濃度で添加してもよい。本段落で例示した濃度は、本件化合物を複数添加する場合はその合計濃度であることが好ましい。
【実施例0085】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
[実施例1] 不快香味改善効果の確認1
市販品の乳酸菌飲料(pH3.6)を用意した。また、本件化合物の具体例として、式A-1~A-10および式B-1~B-4の各化合物の市販品を95%エタノールに溶解させて、任意の濃度の本件化合物のエタノール溶液を調製し、本発明の不快香味改善組成物とした(本発明品1-1~1-14)。
【0087】
【0088】
一方で、比較例として、市販品のフルフラールを95%エタノールに溶解させて、比較品の組成物を調製した(比較品1-1)。
【0089】
次いで、市販品の乳酸菌飲料に、本発明品1-1~1-14のそれぞれを本件化合物の濃度が10ppt、1ppm、1%となるように添加して、本発明の消費財の一態様である乳酸菌飲料を得た(本発明品1-15~1-56)。また、比較品1-1を市販品の乳酸菌飲料にフルフラールの濃度が1ppmとなるように添加して、比較品の乳酸菌飲料を得た(比較品1-2)。次いで市販品の乳酸菌飲料ならびに本発明品および比較品の乳酸菌飲料を、蓋つきの透明容器に入れて、以下の条件で光虐待に供した。
(光虐待条件)市販品、本発明品および比較品の各乳酸菌飲料を注入して蓋をした透明容器を、3.5万lux/h、10℃の環境下に静置し72時間光虐待(積算252万lux)した。
【0090】
光虐待処理後の市販品、本発明および比較品の乳酸菌飲料のヘッドスペースの香りについて官能評価を行った。官能評価では、本発明の不快香味付与組成物も比較品の組成物も添加していない光虐待後の市販の乳酸菌飲料(対照品1)と比べた本発明品1-15~1-56および比較品1-2の香りについて、経験年数10年以上のよく訓練されたパネリスト12人に評価させた。評価にあたっては、本発明品および比較品の香気の不快香について下記基準で点数付けさせるとともに、対照品1と異なると感じられた香味について自由にコメントさせた。
(基準)対照品と比べた不快香について
「大きく改善された」=4点
「改善された」=3点
「わずかに改善された」=2点
「改善が感じられなかった」=1点
「不快香がより強く感じられた」=0点
表2に、パネリスト12人の点数平均および代表的なコメントを示す。
【0091】
【0092】
表2に示すように、本件化合物の例である式A-1~A-10およびB-1~B-4の各化合物を有効成分として含有する不快香味改善組成物を添加することで、対照品に比べて不快香を改善できることが確認された。本発明品1-15~1-56はいずれも、対照品に比べて硫黄様や揚げ油様の不快香を感じにくいほか、対照品において当該不快香により損なわれてしまっていた良好な乳様香味が感じられて対照品に比べて香味が改善されていた。
【0093】
[実施例2] 不快香味改善効果の確認2
市販品の桃ジュース(果汁30%、pH3.5)を用意し、対照品2とした。また、市販品の乳酸菌飲料を桃ジュースに変えた以外は実施例1と同様にして、本発明品の桃ジュースを得た(本発明品2-1~2-42)。加えて、実施例1で調製したフルフラールのエタノール溶液(比較品1-1)を前記市販の桃ジュースにフルフラールの濃度が1ppmとなるように添加して、比較品の桃ジュースを得た(比較品2-1)。
【0094】
次いで、市販品、本発明品および比較品の桃ジュースを、実施例1と同じ以下の条件にて光虐待を行った。
(光虐待条件)市販品、本発明品および比較品の各桃ジュースを注入して蓋をした透明容器を、3.5万lux/h、10℃の環境下に静置し72時間光虐待(積算252万lux)した。
【0095】
そして、光虐待後の対照品2(市販品の桃ジュース)、本発明品2-1~2-42および比較品1-2の桃ジュースの光虐待品から感じられるヘッドスペースの香りについて、実施例1と同様に官能評価を行った。表3に、パネリスト12人の点数平均および代表的なコメントを示す。
【0096】
【0097】
表3に示すように、本件化合物の例である式A-1~A-10およびB-1~B-4の各化合物を有効成分として含有する不快香味改善組成物を添加することで、対照品に比べて不快香を改善できることが確認された。本発明品2-1~2-42はいずれも、対照品に比べて硫黄様の不快香を感じにくいほか、対照品において当該不快香により損なわれてしまっていた良好な桃様の果実香味が感じられて対照品に比べて香味が改善されていた。特に式Bの各化合物(式B-1~B-4の各化合物)の場合はフルーティな甘さが付与され、桃ジュースの香味は、式Aの各化合物(式A-1~A-10の各化合物)を添加した場合より優れていた。
【0098】
[実施例3] 不快香味改善効果の確認3
市販品の乳酸菌飲料に変えて市販のヨーグルトドリンク(pH4.1)を用い、本件化合物として式A-1、A-2、A-3、A-4、A-8、A-9、B-1、B-2、B-3、B-4の10種の各化合物のそれぞれを含有する不快香味改善組成物(本発明品1-1~1-4、1-8、1-9、1-11~1-14)を用い、これらの本件化合物の濃度を下記表4に示す濃度とした以外は実施例1と同様にして、本発明の乳風味飲料を調製した(本発明品3-1~3-40)。そして、実施例1と同じ条件で光虐待を行った。次いで、市販のヨーグルトドリンクの光虐待品(対照品3)の香味と比べた本発明品3-1~3-40の光虐待品の香味について、官能評価を行った。官能評価では、本件化合物を添加していない光虐待後の市販のヨーグルトドリンク(対照品3)を喫食した際に感じられた香味と比べた本発明品3-1~3-40を喫食した際に感じられた香味について、経験年数10年以上のよく訓練されたパネリスト12人に評価させた。評価にあたっては、本発明品の香味の不快香味について下記基準で点数付けさせるとともに、対照品3と異なると感じられた香味について自由にコメントさせた。
(基準)対照品と比べた不快香味について
「大きく改善された」=4点
「改善された」=3点
「わずかに改善された」=2点
「改善が感じられなかった」=1点
「不快香味がより強く感じられた」=0点
表4に、パネリスト12人の点数平均および代表的なコメントを示す。
【0099】
【0100】
表4に示すように、本件化合物の例である式A-1、A-2、A-3、A-4、A-8、A-9、B-1、B-2、B-3、B-4の10種の各化合物は、実施例1および2の飲食品に限らず、不快香味を改善できることが確認された。
【0101】
[実施例4] 不快香味改善効果の確認4
市販品のヨーグルトドリンクに代えて、市販品のミルクティー(pH6.8)、市販品のオレンジジュース(果汁100%、pH3.7)および市販品のマンゴージュース(果汁100%、pH3.7)を用意し、本件化合物として式A-1、A-2、A-3、A-4、A-8、A-9、B-1、B-2、B-3、B-4の10種の各化合物のそれぞれを含有する不快香味改善組成物(本発明品1-1~1-4、1-8、1-9、1-11~1-14)を用いこれらの本件化合物の濃度を市販品のミルクティー、オレンジジュースまたはマンゴージュースの全体質量に対して表5に示す通り1ppmとした以外は実施例3と同様にして、本発明のミルクティー(本発明品4-1~4-10)、本発明のオレンジジュース(本発明品4-11~4-20)および本発明のマンゴージュース(本発明品4-21~4-20)を調製した。そして、実施例1と同じ条件で光虐待を行った。次いで、市販品のミルクティーの光虐待品(対照品4-1)の香味と比べた本発明品4-1~4-10の香味、市販品のオレンジジュースの光虐待品(対照品4-2)の香味と比べた本発明品4-11~4-20の香味、および市販品のマンゴージュースの光虐待品(対照品4-3)の香味と比べた本発明品4-21~4-30の光虐待品の香味について、経験年数10年以上のよく訓練されたパネリスト12人による官能評価を行った。官能評価では、対照品と比べた本発明品の香味の不快香味について下記基準で点数付けさせるとともに、各対照品と異なると感じられた香味について自由にコメントさせた。
(基準)対照品と比べた不快香味について
「大きく改善された」=4点
「改善された」=3点
「わずかに改善された」=2点
「改善が感じられなかった」=1点
「不快香味がより強く感じられた」=0点
表5に、パネリスト12人の点数平均および代表的なコメントを示す。
【0102】
【0103】
表5に示すように、本件化合物の例である式A-1、A-2、A-3、A-4、A-8、A-9、B-1、B-2、B-3、B-4の10種の各化合物は、実施例1~3の飲食品に限らず、不快香味を改善できることが確認された。
【0104】
[実施例5] 不快香味改善効果の確認5
実施例1で使用した市販の乳酸菌飲料、並びに市販のマンゴージュース(果汁100%、pH3.7)およびブドウジュース(果汁100%、pH3.5)を用意し、実施例1と同じ蓋つきの透明容器に入れ、実施例1と同じ条件で光虐待した。そして、実施例3と同様にして、本件化合物として式A-1、A-2、A-3、A-4、A-8、A-9、B-1、B-2、B-3、B-4の10種の各化合物のそれぞれを含有する不快香味改善組成物(本発明品1-1~1-4、1-8、1-9、1-11~1-14)を用い、これらの本件化合物の濃度を下記表6に示す濃度になるように光虐待後の乳酸菌飲料、マンゴージュースまたはブドウジュースに添加して、本発明の乳酸菌飲料(本発明品5-1~5-10)、本発明のマンゴー飲料(本発明品5-11~5-20)および本発明のブドウ飲料(本発明品5-21~5-30)を得た。そして、得られた本発明の各飲料について、官能評価を行った。官能評価では、市販品の乳酸菌飲料の光虐待品(対照品5-1)の香味と比べた本発明品5-1~5-10の香味、市販品のマンゴージュースの光虐待品(対照品5-2)の香味と比べた本発明品5-11~5-20の香味、および市販品のブドウジュースの光虐待品(対照品5-3)の香味と比べた本発明品5-21~5-30の香味について、経験年数10年以上のよく訓練されたパネリスト12人に評価させた。評価にあたっては、本発明品の香味の不快香味について下記基準で点数付けさせるとともに、各対照品と異なると感じられた香味について自由にコメントさせた。
(基準)対照品と比べた不快香について
「大きく改善された」=4点
「改善された」=3点
「わずかに改善された」=2点
「改善が感じられなかった」=1点
「不快香味がより強く感じられた」=0点
表6に、パネリスト12人の点数平均および代表的なコメントを示す。
【0105】
【0106】
表6に示すように、本件化合物の例である式A-1、A-2、A-3、A-4、A-8、A-9、B-1、B-2、B-3、B-4の10種の各化合物は、実施例1~4の飲食品に限らず、不快香味を改善できることが確認された。
【0107】
[実施例のまとめ]
実施例1~5で示したように、本発明の不快香味改善組成物は、消費財に添加することで、当該消費財の不快香味を改善することができる。特に、硫黄様の香味を有する不快香味を改善するのに有用であるので、硫黄様香味が不快臭の原因となる物品、代表的には飲食品、口臭、体臭などの不快臭改善に有用である。