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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163214
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】識別装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
G01N21/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024151204
(22)【出願日】2024-09-03
(62)【分割の表示】P 2022078799の分割
【原出願日】2022-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】加藤 成樹
(72)【発明者】
【氏名】島田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】内山 信三
(57)【要約】
【課題】 高S/Nと高スループットを両立した識別装置を提供する。
【解決手段】 物体の種類を識別する識別装置であって、物体を照明する照明部と、照明された物体からの反射光を測定するセンサと、センサによる測定結果に基づいて物体の種類を識別する処理部と、を有し、照明部は、物体を照明する照明光を走査する走査部と、走査部を制御する制御部と、を有し、制御部は、移動する物体を照明光が追従し、かつ、物体の表面上における照明光の位置を変化させるように、物体の位置に基づいて走査部を制御する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の種類を識別する識別装置であって、
前記物体を照明する照明部と、
照明された前記物体からの反射光を測定するセンサと、
前記センサによる測定結果に基づいて前記物体の種類を識別する処理部と、を有し、
前記照明部は、前記物体を照明する照明光を走査する走査部と、前記走査部を制御する制御部と、を有し、
前記制御部は、移動する前記物体を前記照明光が追従し、かつ、前記物体の表面上における前記照明光の位置を変化させるように、前記物体の位置に基づいて前記走査部を制御することを特徴とする識別装置。
【請求項2】
移動している前記物体を測定している間、前記照明光が前記物体の表面上において1点に留まらないように前記走査部を制御することを特徴とする請求項1に記載の識別装置。
【請求項3】
前記走査部は、前記物体の移動方向に前記照明光を走査しながら、前記移動方向に対して垂直な方向に前記照明光を走査することを特徴とする請求項1に記載の識別装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記物体の情報に基づいて前記照明光の走査条件を変更するように前記走査部を制御することを特徴とする請求項1に記載の識別装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記照明光の走査可能範囲において物体が複数存在した場合に、物体の情報に基づいて、測定対象の物体を決定することを特徴とする請求項1に記載の識別装置。
【請求項6】
前記物体の情報は、測定された前記物体の明度又は大きさを含むことを特徴とする請求項5に記載の識別装置。
【請求項7】
前記処理部は、事前に前記センサによって試料を測定して得られるデータを用いて前記物体の種類を識別することを特徴とする請求項1に記載の識別装置。
【請求項8】
移動する前記物体の位置又は速度を測定する測定部を有し、
前記制御部は、前記照明部が前記物体を照明している間に前記測定部によって測定された前記物体の位置又は速度に基づいて前記走査部を制御することを特徴とする請求項1に記載の識別装置。
【請求項9】
前記センサは、前記照明部により照明された前記物体からの散乱光を分光する分光部を有することを特徴とする請求項1に記載の識別装置。
【請求項10】
前記識別装置は、前記物体として樹脂の種類を識別することを特徴とする請求項1に記載の識別装置。
【請求項11】
前記走査部はガルバノスキャナを含むことを特徴とする請求項1に記載の識別装置。
【請求項12】
前記物体を移動させる移動部を有することを特徴とする請求項1に記載の識別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の種類を識別する識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車や電化製品などの構造部品や外装部品には量産性や部品コストの観点から樹脂成型部品が多用されている。近年の産業界では環境に配慮する必要に迫られ、これらの樹脂成型部品もリサイクルされ再利用されている。従来のリサイクルにおいては廃自動車や廃家電は様々なリサイクル工程で鉄やアルミなどを回収した後、10~100mm程度の大きさまで破砕され、様々な種類のプラスチックを含む残渣物として回収される。最終的には燃料として燃やされるサーマルリサイクルとして再利用されることが多い。
【0003】
これらの残渣物としてのプラスチックを再び樹脂成型部品の材料として利用する水平リサイクルをする試みも進められ、様々なプラスチックを含む残渣物から特定の種類のプラスチックを識別し選別する樹脂識別装置が開発されている。
【0004】
光を照射して非接触で樹脂種を特定する測定方法として、ラマン散乱を利用して樹脂種を特定する以下のような技術が開示されている。
【0005】
特許文献1には、ベルトコンベア上を流れる樹脂をラマン分光法で計測する際に照明光を平行移動させることで、樹脂を破損または変性させることなく強いラマン散乱信号を得ることが可能な樹脂識別装置が開示されている。励起用レーザ光の照射中に、励起用のレーザ光の対象物上のスポット径以上の範囲、好ましくはスポット径の2倍~3倍以上の範囲で、採光光学系を載置台の上面に対して平行移動させる。そうすることで、対象物の1か所に励起用レーザ光が集中して照射されることが無く、対象物が破損または変質することのない樹脂識別装置となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013‐36971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、高出力のレーザを照射しても樹脂を変性させることなくラマン計測による樹脂種別の識別が可能である。一般的にはラマン計測では非常に微弱な信号を計測する必要が有り、識別装置として構成するには高出力のレーザ光源を必要とする。しかし、装置搭載可能な安価なLDを光源として考えると、LD出力には限りが有る為、S/Nを向上させる必要がある。S/Nの高いラマン信号を得る為に、例えば、ベルト速度を落として、センサでの露光時間をより長くして信号強度を上げる、繰り返し平均でノイズを低減して計測する。
【0008】
一方、リサイクル工程において樹脂の残渣物は1t/hや2t/hと大量に発生することから、識別処理のスループットを上げることが要求され、ベルトコンベアの速度を大きくすることが望ましい。スループットの要求からベルトコンベアの速度を上げると、照明光直下をサンプルが存在する時間は短くなるのでラマン計測のための分光器の露光時間を確保することが出来ない、あるいは、繰り返し平均の回数が確保できない為、S/Nの確保は難しい。
【0009】
以上のように高S/Nと高スループットを両立して樹脂の選別をすることは難しいという問題が有った。
【0010】
そこで、本発明は、高S/Nと高スループットを両立した識別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の一側面としての識別装置は、物体の種類を識別する識別装置であって、前記物体を照明する照明部と、照明された前記物体からの反射光を測定するセンサと、前記センサによる測定結果に基づいて前記物体の種類を識別する処理部と、を有し、前記照明部は、前記物体を照明する照明光を走査する走査部と、前記走査部を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、移動する前記物体を前記照明光が追従し、かつ、前記物体の表面上における前記照明光の位置を変化させるように、物体の位置に基づいて前記走査部を制御する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高S/Nと高スループットを両立した識別装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】選別システムを示す図である。
図2】測定部30の詳細を示す図である。
図3】ガルバノスキャナで照明光を走査する様子を示す図である。
図4】走査領域400中で照明光を走査する様子を示す図である。
図5】複数のサンプルを走査領域内で測定するときの走査軌跡を示す図である。
図6】走査領域外の試料を測定する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の好ましい実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
図1は、選別システムの構成を示す図である。本実施形態の選別システムは、サンプル(物体)を移動するベルトコンベア1(移動部)を有し、ベルトコンベア1によって搬送されるサンプルの種類を識別する識別処理を行い、その識別結果に応じてサンプルを選別するシステムである。
【0016】
サンプル10、11は、金属を主に含む金属片、金属酸化物の結晶を主に含むセラミック片、金属酸化物の非晶質を含むガラス片、樹脂を主に含む樹脂片等である。多くの場合、サンプル10、11は家電ゴミや自動車などの産業廃棄物等がリサイクルにおける前工程としての破砕行程を経て、大きさが10~100mm程度平の大きさに破砕されている。
【0017】
ここで、本明細書における樹脂は、熱可塑性樹脂(プラスチック)や熱硬化性樹脂、ゴム、エラストマー、セルロース、紙、等を含む、有機物の重合体全般を意味する。
【0018】
なお、サンプル10、11はガラスや繊維等のフィラーや、難燃剤、可塑剤などの各種添加物を含む場合がある。
【0019】
本実施形態に係る選別システムは、樹脂片を構成する樹脂の種類、すなわち樹脂片の材種(材質、色など)を識別することに加えて、これらの添加物の有無や種類を識別することを含む。
【0020】
本実施形態の選別装置において、選別されるべきサンプルは不図示の定量切り出し装置や振動フィーダーなどでベルトコンベア1に投入され、ベルトコンベア1上をサンプルが流れてくる。ベルトコンベア1上にはベルトコンベアの流れの上流側から認識部2(測定部)、測定部3、選別部162が配置され、サンプル10は認識部2の下部、測定部3の下部を通過した後、ベルトコンベア1から投射され、選別部162の前面を通過する。
【0021】
認識部2は、例えば2次元の画像を一括で取得可能なエリアカメラや、2次元画像を再構成可能なラインカメラで取得したサンプルを含む2次元画像の画像処理を行う。例えば、認識部2は、画像処理の結果、サンプルの形状や大きさの情報から、時刻t0におけるサンプル10が存在する位置の座標をp1(x1,y1)として算出する。
【0022】
測定部3は図3に示すように、照明光50を走査するガルバノスキャナ41とガルバノスキャナ42(走査部)と、サンプルからのラマン散乱光(反射光)を測定する光学分光部30と、を有する。上記走査部を制御して照明光50の主光線を傾けることで、測定部3を基準にして照明光を50aや50bのように傾斜させ、照明光(計測点)を移動可能にしている。
【0023】
光学分光部30は図2に示すように、光源301とレンズ302(照明部)を有する。
光学分光部30は、光源301からのレーザ光をレンズ302、レンズ304を介して照明光50としてガルバノスキャナに構成されたミラーに照射する。レンズ302、レンズ304間にはダイクロイックミラー303が配置され、光源301の波長λを透過するようになっている。
【0024】
処理部140は、ガルバノスキャナを制御する制御部を有する。処理部140は予め調整、あるいは計測されたベルトコンベア1の速度Vと認識部2でサンプルを認識した時刻t0から、移動するサンプルの時刻t1における位置座標p1(x1,y1+V(t1-t0))を計算する。そして、処理部140は、ガルバノスキャナ41とガルバノスキャナ42が照明光50を走査可能な走査領域400にサンプル10が到達した時刻に、照明光50がサンプル10を照明するようにガルバノスキャナに制御指令を出力して制御する。そして、移動するサンプル10を照明光50が追従するようにガルバノスキャナを制御する。ガルバノスキャナ41とガルバノスキャナ42の2つを用いることで、照明光をベルトコンベア1(サンプル)の移動方向であるy軸方向と、y軸に対して垂直な方向のx軸方向に、走査することができる。
【0025】
具体的には図4に示すように、サンプル10が走査領域400のベルトコンベア1の移動の上流側の境界に到達した時点(10a)で照明光50aの位置に照明光を走査し、測定を開始する。ベルトコンベア1の移動に応じて速度Vで移動していく過程にサンプル上で軌跡60を描くようにサンプル10を照明してラマン計測をする。そして、サンプル10が走査領域400のベルトコンベア1の下流側境界に来た時(10b)に計測を完了する。ここで、照明光50aから50bまでの軌跡は、走査する照明光50の平均位置を示している。
【0026】
走査領域400のベルト移動方向の大きさをBとする。照明光50の位置はベルト移動方向と同一方向に変化し、照明光がサンプル10を追従するようT=B/Vの時間だけ照明し、かつ照明中はサンプル10表面上の1点にとどまることなく照明する。
【0027】
よって、照明光のエネルギーがサンプルの1点に集中せず、樹脂を変性させずラマン計測ができる。しかもベルトコンベアの速度を高速にすることが出来るので、識別のスループットを上げる為にサンプルを大量にベルトコンベア上に流しても、空間的に分離した状態で配置することが出来る。
【0028】
照明光50を走査しない従来の方式の場合であれば、サンプル10のベルト移動方向の大きさをaとして、t=a/Vの時間だけ照射することになる。
【0029】
一例としてベルトコンベアの速度を1m/s、サンプル10の大きさをリサイクル工程におけるサンプルの最小と想定される大きさ10mmとして、Bのスキャン領域を200mmと設定した場合について述べる。
【0030】
従来の照明光を固定した方式では、照明光を照明可能な時間tは10msであるのに対し、照明光50を走査してサンプルを追従しながら計測した場合には約200ms計測する時間が有る。よって、黒い反射光量の少ない樹脂については露光時間を延ばす、あるいは10msの露光時間で取得したデータを20回分平均化処理するなどで微弱なラマン信号のS/Nを向上させることが出来る。
【0031】
一方、本実施形態において照明光はサンプル10を測定している間、照明光50が一か所にとどまることが無いよう軌跡60のようなジグザグな軌跡を描く。そのため、照明光のエネルギーがサンプル10の広い領域に分散することで樹脂が測定中に変性することはない。
【0032】
光学分光部30においては、前述したように、照明光50はガルバノスキャナ41、ガルバノスキャナ42のミラー部41m、42mで反射された後、サンプルに照射される。
サンプルで反射された後、ラマン散乱は等方的に反射され、再びガルバノスキャナのミラー部41mと42mで反射され光学分光部30にラマン散乱光は戻ってくる。ラマン散乱光はサンプルの材料の物質に応じたラマンシフトを受ける。そのため、今度はダイクロイックミラー303で反射され、励起光カットフィルターとしてのバンドパスフィルター305でラマン散乱を受けた成分だけ透過し、分光素子306(分光部)で分光される。分光素子306で分光された波長毎に異なる回折角で回折された光束は、レンズ307で再び集光光となって、ラマンシフトを受けた波長毎の光がセンサアレイ308に構成される受光素子に受光される。受光素子から出力された信号はサンプルの物質に応じた特徴的な信号として処理部140に送られ、例えば、あらかじめ既知の材料のサンプルを測定して取得した材料特有の波形と比較され、材料が特定され、サンプルの種類が識別される。
【0033】
センサアレイ308からの信号(測定結果)は、例えば300fpsで処理部140に伝送される。計測はサンプル10が走査領域400のベルト移動の上流側の界面に到達した時点(10a)で開始するが、処理部140では300fpsでセンサアレイ308から伝送された信号群から測定に該当する信号を抽出して材料を特定する。該当する信号の抽出方法は、例えば、操作指令を出した時間を元に決定すればよい。
【0034】
処理部140でサンプルの種類を識別した結果、サンプル10が選別対象の材料だった場合には、サンプル10が選別部162を通過する時刻t2になった時点で、選別コントローラー161を経由して選別部162に開信号が送られる。そして、認識部2で計測したサンプル10の座標x1に相当する位置に有る選別部162の部分からエアが噴出され、サンプル10がエアで飛ばされることで回収箱72に回収される。サンプル10が選別対象でない場合には、サンプル10はベルトコンベア1から速度Vで投射され落下し、回収箱71で回収される。
【0035】
測定部3はサンプル10の計測が完了したら、次はサンプル11の計測を行い、その後は不図示の次々流れてくるサンプルを計測していくことになる。測定部3は、ガルバノスキャナ41とガルバノスキャナ42を回動させ照明光50の傾斜角を変えることで、サンプル11を測定するためのスタート地点に移動する。ガルバノスキャナは高速に照明光を走査することが出来るので、次の樹脂を測定するまでの移動時間が短時間で済み、次々に流れていくサンプルを測定できる。結果、計測時間が長く高S/Nのラマン計測でかつ、測定するサンプルの数が多くなることで高スループットに樹脂の選別が出来る。
【0036】
本実施形態において、認識部2はエリアセンサやラインカメラによる2次元画像を得て、画像処理によりサンプルの座標を求める方式として記載した。しかし、これにこだわることは無く例えば、光切断センサのような高さ情報から物体を認識するような方式も採用することは可能である。また、サンプルの一点に照明光が滞在しないような樹脂上の照明光の軌跡として、本実施例においてはジグザグ軌跡としたが、円運動や螺旋運動、四角を描くなどでも、樹脂の同一点に照明光がとどまることが無ければ同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0037】
また、本実施形態の構成において、認識部2でサンプルを含む2次元画像を取得するが、2次元画像にはサンプルの明度、すなわち拡散反射率に関する情報が含まれる。当業者の検討によればラマン散乱の光強度は拡散反射率と相関が有り、明度の高い白系のサンプルからのラマン散乱光は、明度の低い黒系のサンプルからのラマン散乱光より優位に大きい。換言すると、同じS/Nを得る為に必要な計測時間は白系のサンプル方が黒系サンプルより少なくて良い。
【0038】
以上の事実から、スループットの向上を目的として、より効率的にサンプルの識別を行う為に、白系の樹脂の計測時間を黒系の樹脂の測定時間より少なく設定することも効果的である。この場合、図5に示すように、黒系の樹脂10については位置10aから位置10bまで領域400をすべて移動する軌跡61に沿って計測をする走査条件で照明光を走査する。
【0039】
一方、白い樹脂は黒い樹脂に比較して例えば1/3の計測時間とする走査条件で照明光を走査する。例えば、照明光50の軌跡を階段状軌跡62のように走査する。これにより、横並びで明度の高い複数のサンプル12、13、14が位置12aから12b、位置13aから13b、位置14aから14bに移動しながら、これら3つのサンプル全数計測することもできる。もちろん、この場合も軌跡61と62は走査する照明光50の平均位置を示しており、照明光50の平均位置がそれぞれの軌跡上を移動しながら同時に樹脂上に軌跡60を描いて行くことは言うまでもない。このように、処理部は、物体の情報に基づいて照明光の走査条件を変更するように走査部を制御する制御部を有する。
【0040】
ところで、流れてくるサンプルは大きさも色も様々である。既に述べたようにサンプルは明度が高いほどラマン散乱強度は強く、明度が低いほどラマン散乱光は弱い。つまり明度が高いほど樹脂種を特定する識別の信頼性が高く、明度が低いほど樹脂種を特定する識別の信頼性は低い。回収される所望の種別の樹脂は純度が高いほど利用価値が高いのは言うまでもないが、明度が高い樹脂を多く回収した方が、平均した識別の信頼性が上がるので結果として回収した所望の樹脂の純度も上がるので好ましい。
【0041】
一方で領域400上を流れてくるサンプルは、実際にはランダムな配置でベルトコンベア1上を流れてくるので、ある確率で存在密度が高い状態になり、照明光50の走査が密度の高い樹脂群全てを順番に計測する時間が無いことも想定される。この場合はいずれかのサンプルの計測をスキップするよう処理部140からガルバノスキャナ41、42に指令を出せばよい。つまり、処理部140は、照明光の走査可能範囲において物体が複数存在した場合に、物体の情報に基づいて測定対象の物体を決定する。
【0042】
この時、認識部2で得た画像のそれぞれのサンプルの明度情報を元にして明度の高いサンプルを優先的に計測することで最終的に回収されたサンプルの純度を向上させることが出来る。さらに、認識部2で得たサンプルの形状情報を元に、大きさの大きいサンプルを優先的に計測することで最終的に得られる樹脂の回収量を上げることも効果的である。
【0043】
本実施形態においてはベルトコンベア1の速度は予め計測されたあるいは調整された速度Vであるとして、測定部3での照明光を追従する動作、選別部162での選別動作は時間を元にして指令を出す構成であった。しかし、例えば認識部2や測定部3の周辺にベルトの速度を直接測定するレーザドップラ速度計や画像相関型の変位計等を配置し、これらの測定器からのベルト移動量に関する測定値を処理部140に入力することもできる。これにより、計測したベルトの移動量をもとにガルバノスキャナ41、42に動作指令を出すことも出来、より正確な照明光の追従動作や選別部162での選別動作をすることも回収量を上げる為に効果的である。この場合、センサアレイ308から伝送された信号群から、サンプル上を照明している時の信号を抽出する方法として、それぞれの信号が生成された時刻のベルトの移動量に関する測定値を使用して決定することができる。これにより、より正確に、樹脂上に照明光50が滞在している時の信号を抽出することが出来る。
【0044】
信号の抽出に関しては、測定開始点に移動する直前や、指定時刻前に、例えば反射率の高く測定がサチレーションするサンプルなど、通常の計測時には想定されない既知の特定の特徴(特長)を示すサンプル(試料)を事前計測することも効果がある。例えば、図6に示すように、走査領域400の外でかつ測定部3で計測可能な位置に、蛍光が大きくセンサアレイ308で測定値がサチレーションする蛍光サンプル20を配置する。そして、照明光50を、サンプル10が走査領域400のベルト移動の上流側の界面に到達した位置10aに走査する直前や指定時刻前に、蛍光サンプル20を測定するよう50cに角度を変えて照明する動作を入れる。そうすれば後段の処理部140で計測データの抽出が簡易になる。処理部140ではセンサアレイ308から連続して転送されてくるデータから、各素子のレベルが最大値になっているデータが出現した直後データ、あるいは指定データ数後のデータをサンプルの材質判定に使用するべきデータとして抽出して処理すればよい。
【0045】
特徴的なデータを示すサンプルはこれに限らず、反射光が極めて少ないライトトラップや、複数の樹脂の特徴を同時に示すアロイ樹脂などでもよく、通常の測定で想定されない既知の特徴を示すサンプルであれば良い。
【0046】
以上説明したように、認識部2で認識した樹脂情報をもとに、ガルバノスキャナを例とした走査部で照明光の主光線角度を変えて平均位置がベルト移動方向に追従するように照明光を照明する。さらに、測定中は樹脂上の同一位置にとどまらないよう照明光を走査することで、速いベルト速度でもサンプルを追従しながら点計測のラマン分光をするので、ラマン分光による樹脂識別を高S/Nかつ高スループットに行うことが出来る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6