(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163219
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】N-置換アミノ酸を含むペプチドの合成方法
(51)【国際特許分類】
C07K 1/06 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
C07K1/06
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024151276
(22)【出願日】2024-09-03
(62)【分割の表示】P 2023020564の分割
【原出願日】2018-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2017114073
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135242
【弁理士】
【氏名又は名称】江守 英太
(72)【発明者】
【氏名】野村 研一
(72)【発明者】
【氏名】村岡 照茂
(72)【発明者】
【氏名】棚田 幹將
(72)【発明者】
【氏名】江村 岳
(57)【要約】
【課題】 本発明は、N-置換アミノ酸またはN-置換アミノ酸類縁体を含むペプチドを高純度かつ高効率にて製造する、新規な方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明に係るN-置換アミノ酸又はN-置換アミノ酸類縁体を含むペプチドの製造方法は、
Fmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体、またはFmoc保護ペプチドを準備する工程、
Fmoc保護アミノ酸等のFmoc骨格を有する保護基を塩基で脱保護する工程、および
新たなFmoc保護アミノ酸等を添加して、アミド結合を形成する工程を含み、
ペプチドの製造が固相法によって行われる場合には、得られたペプチドを、TFAよりも弱酸となる条件下で固相から切り出すことを特徴とする。また、得られたペプチドの少なくとも1つの側鎖が、塩基性条件下では脱保護されずTFAよりも弱酸となる条件下で脱保護される保護基を有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのN-置換アミノ酸又はN-置換アミノ酸類縁体を含むペプチドの製造方法であって、
1)ペプチドを準備する工程であって、前記ペプチドを構成するアミノ酸またはアミノ酸類縁体の少なくとも1つの側鎖が、塩基性条件下では脱保護されず、水中でのpKaの値が1~5である弱酸とイオン化能YOTs値が正の値で水中でのpKaが5~14である溶媒を含む、弱酸溶液を用いる条件下で脱保護される保護基を有する工程、
2)前記保護基を、前記弱酸溶液を用いる条件下で脱保護する工程を含む、製造方法。
【請求項2】
工程1)で準備する前記ペプチドが、1つの反応点を有するアミノ酸残基又はアミノ酸類縁体残基をC末端側に含み、かつもう1つの反応点を有するアミノ酸残基、アミノ酸類縁体残基又はカルボン酸類縁体をN末端側に含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記1つの反応点と前記もう1つの反応点とを結合させ、前記ペプチドを環化させる工程をさらに含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記もう1つの反応点を有するアミノ酸残基、アミノ酸類縁体残基又はカルボン酸類縁体がN末端にあり、かつ前記結合がアミド結合である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記もう1つの反応点を有するアミノ酸残基、アミノ酸類縁体残基又はカルボン酸類縁体がN末端にあり、かつ前記結合が炭素-炭素結合である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項6】
工程1)において、前記保護基は、ヒドロキシ基、フェノール基、イミダゾール基、およびカルボン酸基から選択される少なくとも1つの官能基を保護している、請求項1から5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
側鎖の保護基が、pH1からpH7の範囲で脱保護される保護基であるか、又は10%以下のTFAにおいて脱保護される保護基である、請求項1から6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
側鎖の保護基が以下のa)~d)から選択される、請求項1から7のいずれかに記載の製造方法:
a)側鎖の保護基がSer、Thr、Hyp、及び、それらの誘導体の側鎖のヒドロキシル基の保護基である場合、以下の一般式で表わされるMOM骨格基、Bn骨格、Dpm骨格、Trt骨格、シリル骨格及びBoc骨格から選ばれるいずれかの保護基;
b)側鎖の保護基がTyr及びその誘導体の側鎖のヒドロキシル基の保護基である場合、以下の一般式で表わされるMOM骨格、Bn骨格、Dpm骨格、Trt骨格、シリル骨格、Boc骨格及びtBu骨格から選ばれるいずれかの保護基;
c)前記側鎖の保護基がHis及びその誘導体の側鎖のイミダゾール環の保護基である場合、以下の一般式で表わされるMOM骨格、Bn骨格及びTrt骨格から選ばれるいずれかの保護基;
d)前記側鎖の保護基がAsp、Glu、及び、それらの誘導体の側鎖のカルボン酸基の保護基である場合、以下の一般式で表わされるMOM骨格、Bn骨格、Dpm骨格、Trt骨格、tBu骨格、フェニル-EDOTn骨格及び保護をするカルボン酸基の炭素原子を3つのアルコキシ基が置換した骨格に変換したオルトエステル骨格から選ばれるいずれかの保護基;
<MOM骨格を有する保護基>
【化1】
(式中、
R1はHであり、R2はHであり、かつXはメチル、ベンジル、4-メトキシベンジル、2,4-ジメトキシベンジル、3,4-ジメトキシベンジル、または2-トリメチルシリルエチルであるか、
R1はメチルであり、R2はHであり、かつXはエチルであるか、
R1、R2、R3は、いずれもメチルであるか、または
R1とXは、一緒になって-CH
2-CH
2-CH
2-または-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-を形成し、かつR2はHであり
ここで、R1、R2、およびXのいずれかがメチルまたはエチルである場合、これらの基はさらにアルキル、ベンジル、またはアリールで置換されていてもよい。)
<Bn骨格を有する保護基>
【化2】
(式中、
R1~R5は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、またはハロゲンであり、かつR6およびR7はアルキルであるか、
R1、R2、R4、およびR5は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、またはハロゲンであり、R3はメトキシであり、かつR6およびR7はHであるか、
R1およびR3がメトキシであり、R2、R4、およびR5は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、またはハロゲンであり、かつR6およびR7はHであるか、または
R1、R4、およびR5は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、またはハロゲンであり、かつR2とR3は一緒になって-O-CH
2-O-を形成する。)
<Dpm骨格を有する保護基>
【化3】
(式中、
R1~R10は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、アルコキシ、またはハロゲンであるか、または
R1~R4およびR7~R10は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、アルコキシ、またはハロゲンであり、かつR5およびR6は一緒になって-O-または-CH
2-CH
2-を形成する。)
<Trt骨格を有する保護基>
【化4】
(式中、
R1~R15は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、アルコキシ、またはハロゲンであるか、
R1、R2、およびR4~R15は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、アルコキシ、またはハロゲンであり、かつR3は、メチルまたはメトキシであるか、
R1はClであり、かつR2~R15は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、アルコキシ、またはハロゲンであるか、または
R1~R4、およびR7~R15は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、アルコキシ、またはハロゲンであり、かつR5とR6は一緒になって-O-を形成する。)
<シリル骨格を有する保護基>
【化5】
(式中、
R1~R3は、それぞれ独立してアルキル、またはアリールである。)
<Boc骨格を有する保護基>
【化6】
(式中、
R1~R9は、それぞれ独立してH、アルキル、またはアリールである。)
<tBu骨格を有する保護基>
【化7】
(式中、
R1~R9は、それぞれ独立してH、アルキル、またはアリールである。)
<フェニル-EDOTn骨格を有する保護基>
【化8】
(式中、
R1~R3は、それぞれ独立して、H、またはメトキシである)。
【請求項9】
溶媒が、フルオロアルコールである、請求項1から8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
フルオロアルコールがTFE又はHFIPである、請求項1から9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
水中でのpKaの値が1~5である弱酸が、硫酸水素テトラメチルアンモニウム、シュウ酸、およびマレイン酸から選択される、請求項1から10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
製造されるペプチドが、5~30残基のアミノ酸および/またはアミノ酸類縁体を含む、請求項1から11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
製造されるペプチドが、2つ以上のN-置換アミノ酸又はN-置換アミノ酸類縁体を含む、請求項1から12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
N-置換アミノ酸が、N-アルキルアミノ酸であり、N-置換アミノ酸類縁体が、N-アルキルアミノ酸類縁体である、請求項1から13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
ペプチドを構成するアミノ酸またはアミノ酸類縁体の少なくとも1つの側鎖が有する保護基の脱保護方法であって、
前記ペプチドは、少なくとも1つのN-置換アミノ酸またはN-置換アミノ酸類縁体を含み、
前記保護基は、塩基性条件下では脱保護されず水中でのpKaの値が1~5である弱酸とイオン化能YOTs値が正の値で水中でのpKaが5~14である溶媒を含む、弱酸溶液を用いる条件下で脱保護される保護基であり、
当該保護基を、前記弱酸溶液を用いる条件下で脱保護する工程を含む、脱保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-置換アミノ酸を含むペプチドの合成において、高純度かつ高い合成効率にて合成することが可能なペプチドの新規な合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドは医薬品としてこれまでに40種以上が上市されている価値の高い化学種である(非特許文献1)。中でも、環状ペプチドやN-メチル化(もしくはN-アルキル化)された非天然型ペプチドは、脂溶性の向上による膜透過性の向上や、加水分解酵素への耐性獲得による代謝安定性の向上が見込まれている(非特許文献2)。最近、細胞内へ移行させたり、経口剤としたりするための鍵となるドラッグライク(薬らしさ:好ましくは、膜透過性と代謝安定性の両立を示す。)な環状ペプチドについての考察が進行している(非特許文献3、4)。また、ドラッグライクな環状ペプチドに必要とされる条件を明らかにした特許文献が公開され(特許文献1)、創薬におけるその重要性とその認知度が高まってきている。
【0003】
一方で、N-アルキルアミノ酸などに代表される非天然型アミノ酸を数多く含むペプチド合成法の開発の進捗は比較すると限定的である。多くが天然型ペプチドで確立された手法をそのまま非天然型ペプチドに適用している。
【0004】
ペプチドの合成法として、Fmoc法とBoc法が広く知られており、これらの多くの知見は、天然型ペプチドの合成法の開発から得られた。Fmoc基は酸に対して安定であるため、N末端のアミノ基をFmoc基で保護した場合、その脱保護反応はDBUやピペリジンといった塩基によって行う。そのため、ペプチド側鎖官能基の保護基として、例えば酸にて脱保護可能なものを利用し、N末端のアミノ基の選択的な脱保護を行ってペプチド鎖の伸長を行う。良く利用される保護基として、Fmoc法ではアミノ酸側鎖の保護基にはt-ブチル(tBu)基やトリチル(Trt)基など、トリフルオロ酢酸(TFA)程度の酸での脱保護が可能なものを採用でき、Boc法に比べて温和な条件にて、樹脂からのペプチドの切り出し工程や側鎖官能基の保護基の脱保護をおこなうことができる。
【0005】
しかしながら、比較的温和な条件での樹脂からの切り出し工程や側鎖官能基の保護基の脱保護を行えるFmoc法による固相合成法においても、TFAを用いた樹脂からの切り出し工程もしくは側鎖官能基に有する保護基の脱保護工程において、N-アルキル化されたペプチド合成には以下のような問題点があることが明らかになってきた。
【0006】
通常、Fmoc法にてペプチド合成を行った場合、樹脂からの切り出し工程や側鎖官能基の保護基の脱保護は、TFAを用いることが一般的である。多くの場合、樹脂からの切り出し反応と側鎖官能基の脱保護反応を、90%TFA水溶液を用いて、同時に行う。しかしながら、N-メチル化されたペプチド、特にN-メチルアミノ酸が連続している配列の場合には、オキサゾロニウム経由での酸加水分解が進行し、ペプチド鎖が切断されてしまう副反応が知られている(非特許文献5、6)。また、セリンやスレオニンといったβ-ヒドロキシ基を有するアミノ酸が配列中に含まれているペプチドの場合には、TFAを用いたこれらの工程において、酸加水分解だけでなく、N→Oアシルシフト反応も副反応として進行し、デプシペプチド化してしまう可能性があることが知られている(非特許文献7、8)。
【0007】
この酸を用いた切り出し工程および脱保護工程における加水分解の問題に対しては、低濃度のTFA溶液を用いて、反応時間を短く制御することで回避しようとする試みが行われている。例えばAlbericioらの報告によると、NMe-IB-01212と命名されたペプチドの固相合成の際、N-メチル化された環状ヘキサペプチドに含まれるアミノ基上のBoc基の脱保護をTFA-DCM(1:1)の溶液で行った場合、N-Me部位でのペプチドの分解が認められた。分解を避けるべく、より低濃度のTFAを用いたり、反応時間を最小限にしたりすることで改善を試みているものの、充分な改善には至っていない(非特許文献9)。そもそも、これまでのペプチド合成に汎用される保護基では、低濃度のTFA溶液での脱保護工程では、樹脂からの切り出し反応は満足できる速度にて進行する一方、側鎖の脱保護反応が進行しないか、進行が極端に遅い場合がある。
【0008】
また、高度にN-メチル化されたペプチドの加水分解と同じ反応機構で進行するN末端のAc-MePheの切断を防ぐために、FangらはTFAを用い、反応温度を4℃まで低下させてArg側鎖の保護基であるPbf基の脱保護を行っている(非特許文献10)。しかし温度を下げるこの方法においても、Ac-MePheの切断を完全に防ぎきることは難しく、目的物が極大となる時間で反応を停止させるに留まっている。
【0009】
さらに、脱保護時の問題点に加えて、伸長工程における低反応性の問題も知られている。新たに形成させるアミド結合のN末端がN-メチルアミノ酸である場合、その2級アミンの嵩高さによって、続くアミノ酸とのアミド形成反応(伸長反応)が十分に進行しない場合がある(非特許文献2、5)。
【0010】
この伸長工程での問題点に対しては、全く同じ反応条件を2度かそれ以上繰り返すことによって、未反応点を減らすという工夫がなされてきた(2度繰り返す方法はダブルカップリングと呼ばれている)。また、縮合するアミノ酸の活性化について、例えばより高活性な酸ハライドに替えることによって、縮合効率を改善しようと取り組まれてきた(非特許文献11)。しかしながら、ダブルカップリングのように同じ反応条件を繰り返し行う場合には、時間と試薬コストが2倍かそれ以上かかってしまうし、酸ハライドでの縮合を行う場合には、要事調製が必要であり、なおかつ生成した酸ハライドがペプチド合成の工程の間に安定に存在し得るかの点にも懸念が残る。また、反応によってHClやHFが発生してしまうため、脱保護反応が進行してしまう懸念があるという点も問題となりうる。
【0011】
その他の伸長工程での低反応性の改善策としては、樹脂のローディング量を下げることにより、固相上でのペプチド鎖どうしの密度を低減して縮合効率を上げたり、反応溶液を高濃度化する工夫が試されたりしてきた(非特許文献9)。また最近では、マイクロウェーブを照射することによって反応温度を上昇させて、縮合効率を改善しようとする取り組みもなされている(非特許文献12、13)。
【0012】
しかしながら、N-メチル化されたペプチド合成において、合成するペプチドの純度低下や収量低下、場合によっては目的物が全く得られなくなる懸念に対して、抜本的な解決策は報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開番号 WO 2013/100132 A1
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】S. R. Gracia, et al. Synthesis ofchemically modified bioactive peptides: recent advances,challenges anddevelopments for medicinal chemistry. Future Med. Chem., 2009, 1,1289.
【非特許文献2】J. Chatterjee, et al. N-Methylationof peptides: A new perspective inmedicinal chemistry. Acc. Chem. Res., 2008,41, 1331.
【非特許文献3】J. E. Bock, et al. Getting inShape: Controlling Peptide Bioactivityand Bioavailability Using ConformationalConstraints. ACS Chem. Biol., 2013, 8,488.
【非特許文献4】K. Jpsephson, et al. mRNA display:from basic principles tomacrocycle drug discovery. Drug Discovery Today,DOI:10.1016/j.drudis.2013.10.011
【非特許文献5】M. Teixido, et al. Solid-phasesynthesis and characterization ofN-methyl-rich peptides. J. Peptide Res.,2005, 65, 153.
【非特許文献6】J. Urban, et al. Lability ofN-alkylated peptides towards TFAcleavage. Int. J. Pept. Prot. Res., 1996, 47,182.
【非特許文献7】L. A. Carpino, et al. Dramaticallyenhanced N→O acyl migration during the trifluoroacetic acid-baseddeprotectionstep in solid phase peptide synthesis. Tetrahedron Lett., 2005, 46,1361.
【非特許文献8】H. Eberhard, et al. N→O-Acyl shiftinFmoc-based synthesis of phosphopeptides. Org. Biomol. Chem., 2008, 6, 1349.
【非特許文献9】E. Marcucci, et al. Solid-PhaseSynthesis of NMe-IB-01212, a HighlyN-Methylated Cyclic Peptide. Org. Lett.,2012, 14, 612.
【非特許文献10】W.-J. Fang, et al. Deletion ofAc-NMePhe1 From [NMePhe1]arodyn UnderAcidic Conditions,Part 1: Effects of Cleavage Conditions and N-TerminalFunctionality. PeptideScience Vol. 96, 97
【非特許文献11】L. A. Carpino, et al. StepwiseAutomated Solid Phase Synthesis ofNaturally Occurring Peptaibols Using FMOCAmino Acid Fluorides. J. Org. Chem.,1995, 60, 405.
【非特許文献12】H. Rodriguez, et al. A convenientmicrowave-enhanced solid-phasesynthesis of short chain N-methyl-rich peptides.J. Pept. Sci., 2010, 16, 136.
【非特許文献13】R. Roodbeen, et al. MicrowaveHeating in the Solid-Phase Synthesis ofN-Methylated Peptides: When Is RoomTemperature Better? Eur. J. Org. Chem.,2012, 7106.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、ドラッグライクなペプチドとなり得るN-アルキル化されたアミノ酸を含む環状ペプチドに注目し、このような特徴を有するペプチド化合物をパラレル合成する方法を検討した。その結果、ドラッグライクなペプチドとなり得るN-アルキル化されたアミノ酸を含む環状ペプチドにおいては、これまでのTFAによる合成方法では、上記の既知文献に記載の化合物において見出されていた課題が顕著となり、当該環状ペプチドが単離できない原因となることを見出した。具体的には、N-アルキル化されたアミノ酸を含むペプチドの場合には、TFAを用いた酸性条件での反応(固相からの切り出し工程もしくは側鎖官能基の保護基の脱保護)において、ペプチド鎖が切断されてしまう副反応が主反応となり、目的とするペプチドを得ることが困難となることを見出した。また、β-ヒドロキシ基を有するアミノ酸がペプチド中に含まれる場合には、同じくTFAを用いた酸性条件での反応において、N→Oアシルシフト反応が進行し、目的とするペプチドを得ることが困難となることを見出した。これらの問題点は、上記の既知文献の化合物において見出された課題であったが、本発明者は、さらに、他の多くのペプチドにおいても同様に観察される問題であることを見出した。これらの問題点に加え、さらに、β位に限らずヒドロキシ基を骨格内に有するアミノ酸を含むペプチドを、TFAを用いた酸性条件で反応を行った場合、そのヒドロキシ基がTFAエステル化してしまうという問題点も見出した。
【0016】
また、本発明者らは、ドラッグライクなペプチドとなり得るN-アルキル化されたアミノ酸を含むペプチド合成の工業化を考慮した場合、脱保護反応や伸長反応そのものだけでなく、その後処理工程および大量合成の点からも、これまでのTFAを用いる脱保護法では工業化の実現が著しく困難であることを見出した。例えばTFA/DCM溶液を濃縮によって溶媒留去する場合には、濃縮が進むにつれてTFA濃度が上昇してしまい、濃縮と同時に加水分解やN→O-アシルシフトなどの問題が起こり、結果的に目的化合物が得られない、もしくは著しい収率の低下の原因となる。また濃縮工程を低温下で行う必要性もでてくる。たとえTFAが低濃度であっても、目的物に対してTFAは大過剰に含まれているため、これらを中和して反応停止をしようとすると、加える塩基の量も大過剰となってしまい、大過剰の塩が目的のペプチドとともに残留することとなり、精製工程に煩雑さが加わる。さらに、TFAそのものはペプチドを効果的に溶解させる溶媒であるものの、TFA溶液を低濃度化してしまうと、ペプチドの溶解性の低下につながる。溶解性については工業化を考慮した場合のみならず、多くの異なるペプチド化合物を一挙に扱うパラレル合成では、一群のペプチドに対して高い溶解度を有する溶媒を選択する必要性がある。
【0017】
加えて、本発明者らは、これまで積極的な取り組みが行われていなかった、側鎖に保護基がついた官能基を有するFmoc-アミノ酸の保護基の立体的な大きさを低減することによる、反応性の向上にも着目した。例えばスレオニン(Thr)はヒドロキシル基を有するため、続くアシル化の際にアミノ基で選択的に反応を進行させるにはヒドロキシル基に対する保護基が必要となる。しかしながらβ-位に枝分かれした2級アルコールを側鎖官能基として有するため、その嵩高さからThrの保護体は縮合効率が比較的低い。Thrの保護基としてペプチド合成で一般的に用いられているのは、アセチル(Ac)基、tBu基、Trt基、ベンジル(Bn)基、t-ブチルジメチルシリル(TBS)基などであるが(Albert Isidro-Llobet, et al. Amino Acid-Protecting Groups.Chem.Rev., 2009, 109, 2455., 渡辺化学試薬カタログ Amino acids&chiral building blocks to new medicine 2012-14)、Trt基やTBS基に関してはその嵩高さのために、縮合効率が低下してしまう。また、酸での脱保護が可能なtBu基でも、脱保護には高濃度のTFA条件が必要となるため、既に述べた脱保護の際の問題点が顕在化する。その他の保護基については酸を用いて容易に外すことのできる保護基とはいえない。つまり、縮合効率を低減しない立体的に小さい保護基であり、なおかつ上記の酸加水分解やN→O-アシルシフトの問題を回避できる程度の酸によって容易に脱保護が可能な保護基を見出す必要がある。これと同じことは、β-位には枝分かれ部位を持たないものの、N-置換によって嵩高くなったN-メチルセリン(MeSer)や、その他ヒドロキシ基を官能基として有するアミノ酸の場合に広く該当する。
【0018】
すなわち、本発明は、N-置換されたアミノ酸を含むペプチドをパラレル合成していく中で顕著化することが見出された、TFAを用いた脱保護工程でのペプチドの酸加水分解やN→O-アシルシフト、ヒドロキシ基のTFAエステル化などの副反応の問題を軽減でき、かつペプチドの溶解性を担保した新規反応工程を見いだすことを課題とする。また、側鎖官能基に適切な保護基(伸長時の低反応性を改善する目的で保護基の嵩高さを低減するという観点と、本発明による脱保護条件にて脱保護可能であるという観点において適切な保護基)を用いることによって、N-置換されたアミノ酸を含むペプチドを高純度かつ高い合成効率にて得る方法を提供することを課題とする。
【0019】
つまり、様々な配列を持つN-置換されたアミノ酸を含むペプチド化合物をパラレル合成するにあたり、
(1)酸添加時(固相からの切り離し反応時および側鎖脱保護反応時)の加水分解、特にN-置換されたアミノ基に由来する加水分解を抑制するために必要な反応条件を見出すこと、
(2)酸添加時の実用的な後処理が可能となる反応条件を見出すこと、
(3)非天然型ペプチド化合物の特異な溶解性を考慮した溶媒を含む反応条件を見出すこと、
(4)非天然型ペプチド化合物が、ヒドロキシル基などの官能基を含む場合に、脱保護後の副反応(N→Oアシルシフトやヒドロキシル基と反応試薬との副反応(例えばTFAを試薬とした場合のTFAアシル化反応)を抑制すること、
を課題とする。
加えて、アミノ酸側鎖の各官能基に対して、上記4つの条件を満足する保護基を見出すことを課題とする。
さらに、N-置換されたアミノ酸を含むペプチド化合物の工業的な生産をも考慮し、特定の配列に対する最適化にも適用可能な製造方法を見出すことも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、N-置換されたアミノ酸を含む環状ペプチドの効率的な合成を実現させるために、既知文献に記載の化合物の合成に、TFAを用いた従来のペプチド合成法を用いた場合に見られた課題に加えて、一般的に実施される改良方法、例えば、TFAの濃度を低下させる方法、或いは、反応温度を低下させる方法では十分に解決することができなかった、加水分解やN→O-アシルシフトの進行の抑制、実用的な後処理法の確立、ヒドロキシル基がある場合のTFAエステル形成の抑制、ペプチドの溶解性を担保できる溶媒の選択といった数多くの課題を解決することができる新規な方法を見出した。当該新規な方法では、従来のペプチド合成で使用されていたTFAは全く使用されず、目的物を高い選択性で得ることに成功した。
【0021】
本発明の一つの態様では、固相からの切り出し工程にはTFAを使用せず、より弱い酸、例えば2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)やヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)といった酸を用いる。加えて、本発明の別の態様では、切り出し工程では脱保護されない側鎖官能基の保護基を用いる。TFEやHFIPなどのTFAより弱い酸を使用した切り出し工程では、TFAを用いる場合とは異なり、反応後の濃縮によってもアミド結合の加水分解などの副反応の速度は十分小さい。とりわけ、TFEやHFIPなどのTFAより弱い酸を使用した場合には、高度にN-置換されたアミノ酸を含むペプチドや、より副反応の生じやすい環化ペプチドでも副反応速度は小さい。このため、目的化合物を主生成物として得ることができる。本発明の別の態様では、切り出し工程では、(1)ペプチドの副反応(加水分解など)を抑制する一方で、固相からの切り出し反応が円滑に進行する、(2)濃縮などの後処理を行っても副反応の速度は十分に遅い、(3)脂溶性の高い非天然ペプチドに対しても高い溶解性を示す、(4)側鎖官能基の保護基を保持したまま切り出しが可能となる、という条件を満たす試薬を用いる。このような条件を満たす試薬を用いることで、N-置換アミノ酸を数多く含むペプチドの合成、特にN-アルキル基を数多く含むドラックライクなペプチドの合成が可能となる。このような条件を満たす試薬は、パラレル合成時のみならず、特定のペプチドを工業的に合成する場合にも利用することができる。
【0022】
本発明の一つの態様において、加水分解やN→O-アシルシフトを抑制し、目的の主反応である脱保護反応を促進できるように側鎖の保護基を脱保護できる、ペプチドの合成方法を提供する。加水分解やN→O-アシルシフトの進行には、酸の強度(プロトン濃度)のみが重要となる可能性がある。そこで、TFAなどの強酸の替わりに、酸性度を弱くした弱酸を用いることで、加水分解やN→O-アシルシフトの進行を抑制することができることを見出した。また、目的の脱保護が進行するには、酸の強度(プロトン濃度)に加え、保護されている官能基から、保護基がカチオン種(カルボカチオンやオキソニウムカチオン)として脱離する段階も重要となる場合がある。そこで、保護基がカチオン種として脱離する工程を促進する溶媒として、イオン化能を有する溶媒を使用することで、上記弱酸での脱保護が促進されることを見出した。
【0023】
加えて、特許文献1に記載のドラッグライクなペプチドの効率の高い合成法を確立するため、中性条件下でイオン化程度が小さい側鎖を有するアミノ酸の側鎖官能基、例えば、SerやThrのようなアミノ酸の側鎖官能基であるヒドロキシル基、その他ヒドロキシ基を側鎖内に有するアルキルアルコール基、Tyrのようなアミノ酸の側鎖官能基であるフェノール基、Hisのようなアミノ酸の側鎖官能基であるイミダゾール基、AspやGluのようなアミノ酸の側鎖官能基である側鎖カルボン酸、及び、ペプチド又はアミノ酸の主鎖のカルボン酸、の保護基として、樹脂から切り出す際の弱酸条件下では脱保護されず、上記の弱酸条件下では脱保護できる保護基を見出した。
【0024】
更に加えて、伸長反応の際に低反応性が懸念されるβ-ヒドロキシ-α-アミノ酸(例えばThr、Ser、及び、それらの誘導体)などのアミノ酸が保護基を有する場合に、上記の弱酸条件での脱保護が可能であり、かつ、伸長反応時の低い反応性を改善できる保護基を見出した。
【0025】
すなわち、本発明は次の通りである。
〔1〕 以下の工程:
1)以下のi)及びii)の官能基をそれぞれ少なくとも1つ有するアミノ酸(Fmoc保護アミノ酸)、以下のi)及びii)をそれぞれ少なくとも1つ有するアミノ酸類縁体(Fmoc保護アミノ酸類縁体)、又は、該Fmoc保護アミノ酸及び該Fmoc保護アミノ酸類縁体の両方又はいずれか一方を含むペプチド(Fmoc保護ペプチド)を準備する工程;
i)Fmoc骨格を有する少なくとも1つの保護基により保護されている主鎖のアミノ基、
ii)遊離の又は活性エステル化された少なくとも1つのカルボン酸基、
2)工程1)で準備されたFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドを固相に担持する工程、
3)固相に担持されたFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドのFmoc骨格を有する保護基を塩基で脱保護し、アミノ基を露出する工程、
4)新たなFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドを添加して、アミド結合を形成する工程、及び、
5)工程4)で得られたペプチドを、TFAよりも弱酸となる条件下で固相から切り出す工程、
を含む、少なくとも1つのN-置換アミノ酸又はN-置換アミノ酸類縁体を含むペプチドの製造方法。
〔2〕 前記工程4)で得られたペプチドを構成するアミノ酸またはアミノ酸類縁体の少なくとも1つの側鎖が、塩基性条件下では脱保護されず、かつ第1の酸で脱保護される保護基で保護されており、前記工程5)の前又は後で、該第1の酸にて該保護基を脱保護する工程をさらに含み、かつ
前記工程5)において、第2の酸を用いてペプチドを切り出す、〔1〕に記載の製造方法であって、
第1の酸および第2の酸がいずれもTFAよりも弱酸であり、かつ第1の酸の酸度が第2の酸の酸度よりも高い、製造方法。
〔3〕 以下の工程:
1)以下のi)及びii)の官能基をそれぞれ少なくとも1つ有するアミノ酸(Fmoc保護アミノ酸)、以下のi)及びii)の官能基をそれぞれ少なくとも1つ有するアミノ酸類縁体(Fmoc保護アミノ酸類縁体)、又は、該Fmoc保護アミノ酸及び該Fmoc保護アミノ酸類縁体の両方又はいずれか一方を含むペプチド(Fmoc保護ペプチド)を準備する工程;
i)Fmoc骨格を有する少なくとも1つの保護基により保護されている主鎖のアミノ基、
ii)遊離の又は活性エステル化された少なくとも1つのカルボン酸基、
2)Fmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドのFmoc骨格を有する保護基を塩基で脱保護し、アミノ基を露出する工程、
3)新たなFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドを添加して、アミド結合を形成する工程であって、この工程で得られるペプチドを構成するアミノ酸またはアミノ酸類縁体の少なくとも1つの側鎖が、塩基性条件下では脱保護されずTFAよりも弱酸となる条件下で脱保護される保護基を有する工程、及び、
4)前記側鎖の保護基を、TFAよりも弱酸となる条件下で脱保護する工程、
を含む、少なくとも1つのN-置換アミノ酸又はN-置換アミノ酸類縁体を含むペプチドの製造方法。
〔4〕 ペプチドの製造が固相法によって行われる、〔3〕に記載の製造方法。
〔5〕 前記工程3)で得られたペプチドを、前記工程4)の前又は後で前記工程4)で用いられる弱酸条件よりも更に弱酸となる条件下で固相から切り出す工程をさらに含む、〔4〕に記載の製造方法。
〔6〕 ペプチドの製造が液相法によって行われる、〔3〕に記載の製造方法。
〔7〕 〔1〕の工程4)又は〔3〕の工程3)が、
新たに添加したFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドのFmoc骨格を有する保護基を塩基で脱保護してアミノ基を露出する工程、および
更に新たなFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドを添加して、アミド結合を形成する工程をさらに含み、
これらの工程を1回または複数回繰り返す、〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の製造方法。
〔8〕 製造されたペプチドが、1つの反応点を有するアミノ酸残基又はアミノ酸類縁体残基をC末端側に含み、かつもう1つの反応点を有するアミノ酸残基、アミノ酸類縁体残基又はカルボン酸類縁体をN末端側に含む、〔1〕から〔7〕のいずれかに記載の製造方法。
〔9〕 前記1つの反応点と前記もう一つの反応点とを結合させ、前記ペプチドを環化させる工程をさらに含む、〔8〕に記載の製造方法。
〔10〕 前記もう1つの反応点を有するアミノ酸残基、アミノ酸類縁体残基又はカルボン酸類縁体がN末端にあり、かつ前記結合がアミド結合である、〔9〕に記載の製造方法。
〔11〕 前記もう1つの反応点を有するアミノ酸残基、アミノ酸類縁体残基又はカルボン酸類縁体がN末端にあり、かつ前記結合が炭素-炭素結合である、〔9〕に記載の製造方法。
〔12〕 TFAよりも弱酸となる条件下で行われる工程が、水中でのpKaの値が0~9である弱酸を、イオン化能Y
OTs値が正の値で水中でのpKaが5~14である溶媒に含む、弱酸溶液を用いて行われる、〔1〕から〔11〕のいずれかに記載の製造方法。
〔13〕 溶媒がフルオロアルコールである、〔12〕に記載の製造方法。
〔14〕 フルオロアルコールがTFE又はHFIPである、〔13〕に記載の製造方法。
〔15〕 側鎖の保護基が、pH1からpH7の範囲で脱保護される保護基であるか、又は10%以下のTFAにおいて脱保護される保護基である、〔2〕から〔14〕のいずれかに記載の製造方法。
〔16〕 側鎖の保護基が以下のa)~d)から選択される、〔2〕から〔15〕のいずれかに記載の製造方法:
a)側鎖の保護基がSer、Thr、Hyp、及び、それらの誘導体の側鎖のヒドロキシル基の保護基である場合、以下の一般式で表わされるMOM骨格基、Bn骨格、Dpm骨格、Trt骨格、シリル骨格及びBoc骨格から選ばれるいずれかの保護基;
b)側鎖の保護基がTyr及びその誘導体の側鎖のヒドロキシル基の保護基である場合、以下の一般式で表わされるMOM骨格、Bn骨格、Dpm骨格、Trt骨格、シリル骨格、Boc骨格及びtBu骨格から選ばれるいずれかの保護基;
c)前記側鎖の保護基がHis及びその誘導体の側鎖のイミダゾール環の保護基である場合、以下の一般式で表わされるMOM骨格、Bn骨格及びTrt骨格から選ばれるいずれかの保護基;
d)前記側鎖の保護基がAsp、Glu、及び、それらの誘導体の側鎖のカルボン酸基の保護基である場合、以下の一般式で表わされるMOM骨格、Bn骨格、Dpm骨格、Trt骨格、tBu骨格、フェニル-EDOTn骨格及び保護をするカルボン酸基の炭素原子を3つのアルコキシ基が置換した骨格に変換したオルトエステル骨格から選ばれるいずれかの保護基;
<MOM骨格を有する保護基>
【化1】
(式中、
R1はHであり、R2はHであり、かつXはメチル、ベンジル、4-メトキシベンジル、2,4-ジメトキシベンジル、3,4-ジメトキシベンジル、または2-トリメチルシリルエチルであるか、
R1はメチルであり、R2はHであり、かつXはエチルであるか、
R1、R2、R3は、いずれもメチルであるか、または
R1とXは、一緒になって-CH
2-CH
2-CH
2-または-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-を形成し、かつR2はHであり
ここで、R1、R2、およびXのいずれかがメチルまたはエチルである場合、これらの基はさらにアルキル、ベンジル、またはアリールで置換されていてもよい。)
<Bn骨格を有する保護基>
【化2】
(式中、
R1~R5は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、またはハロゲンであり、かつR6およびR7はアルキルであるか、
R1、R2、R4、およびR5は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、またはハロゲンであり、R3はメトキシであり、かつR6およびR7はHであるか、
R1およびR3がメトキシであり、R2、R4、およびR5は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、またはハロゲンであり、かつR6およびR7はHであるか、または
R1、R4、およびR5は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、またはハロゲンであり、かつR2とR3は一緒になって-O-CH
2-O-を形成する。)
<Dpm骨格を有する保護基>
【化3】
(式中、
R1~R10は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、アルコキシ、またはハロゲンであるか、または
R1~R4およびR7~R10は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、アルコキシ、またはハロゲンであり、かつR5およびR6は一緒になって-O-または-CH
2-CH
2-を形成する。)
<Trt骨格を有する保護基>
【化4】
(式中、
R1~R15は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、アルコキシ、またはハロゲンであるか、
R1、R2、およびR4~R15は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、アルコキシ、またはハロゲンであり、かつR3は、メチルまたはメトキシであるか、
R1はClであり、かつR2~R15は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、アルコキシ、またはハロゲンであるか、または
R1~R4、およびR7~R15は、それぞれ独立してH、アルキル、アリール、アルコキシ、またはハロゲンであり、かつR5とR6は一緒になって-O-を形成する。)
<シリル骨格を有する保護基>
【化5】
(式中、
R1~R3は、それぞれ独立してアルキル、またはアリールである。)
<Boc骨格を有する保護基>
【化6】
(式中、
R1~R9は、それぞれ独立してH、アルキル、またはアリールである。)
<tBu骨格を有する保護基>
【化7】
(式中、
R1~R9は、それぞれ独立してH、アルキル、またはアリールである。)
<フェニル-EDOTn骨格を有する保護基>
【化8】
(式中、
R1~R3は、それぞれ独立して、H、またはメトキシである)。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、N-置換アミノ酸を含むペプチドを高い合成効率にて高純度で得ることができる。
【0027】
例えば、側鎖に保護基を有するアミノ酸を含むペプチド配列の場合、
(1)本発明によって見出した、TFAに比べて弱酸である酸とイオン化能を示す溶媒との組み合わせによって、ペプチド鎖の酸加水分解や、β-ヒドロキシ-α-アミノ酸(例えば、Ser、Thr、及び、それらの誘導体)が含まれている配列において起こり得るN→O-アシルシフトやTFAエステル化などを最小限に抑制して脱保護でき、かつ
(2)当該アミノ酸をアミド結合形成反応にて伸長する際に、一般的なペプチド合成に用いられている保護基を有している場合に比べて、反応速度および反応効率を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、N-メチルアミノ酸を配列中に含む環状ペプチドの基本合成ルートを示す図である。
【
図2】
図2は、0.1M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液(2%TIPS)の脱保護条件下における、目的のペプチド(化合物131)、目的物の加水分解体(TM+H
2O)および目的物のHFIPによる加溶媒分解体(TM+HFIP)の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図3】
図3は、0.05M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液(2%TIPS)の脱保護条件下における、目的のペプチド(化合物131)、目的物の加水分解体(TM+H
2O)および目的物のHFIPによる加溶媒分解体(TM+HFIP)の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図4】
図4は、0.05M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液(2%TIPS)の脱保護条件下における、目的のペプチド(化合物133)および目的物のN→O-アシルシフト体の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図5】
図5は、0.05Mシュウ酸/HFIP溶液(2%TIPS)の脱保護条件下における、目的のペプチド(化合物131)、目的物の加水分解体(TM+H
2O)および目的物のHFIPによる加溶媒分解体(TM+HFIP)の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図6】
図6は、0.05Mマレイン酸/HFIP溶液(2%TIPS)の脱保護条件下における、目的のペプチド(化合物131)、目的物の加水分解体(TM+H
2O)および目的物のHFIPによる加溶媒分解体(TM+HFIP)の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図7】
図7は、0.05Mシュウ酸/HFIP溶液(2%TIPS)の脱保護条件下における、目的のペプチド(化合物133)および目的物のN→O-アシルシフト体の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図8】
図8は、0.05Mマレイン酸/HFIP溶液(2%TIPS)の脱保護条件下における、目的のペプチド(化合物133)および目的物のN→O-アシルシフト体の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図9】
図9は、0.05M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP(2%TIPS)の脱保護条件下における、目的のペプチド(化合物137)および目的物のHFIPによる加溶媒分解体(いずれかのアミド結合がHFIPによって加溶媒分解を受けたもの)の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図10】
図10は、0.05M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/TFE(2%TIPS)の脱保護条件下における、目的のペプチド(化合物137)および目的物のTFEによる加溶媒分解体(いずれかのアミド結合がTFEによって加溶媒分解を受けたもの)の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図11】
図11は、0.1M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液(2%TIPS)を脱保護条件とし、その溶液に塩基(DIPEA)を加えて反応を停止させた場合における、目的のペプチド(化合物135)の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図12】
図12は、0.1M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液(2%TIPS)を脱保護条件とし、その溶液に塩基(DIPEA)を加えて反応を停止させた場合における、目的のペプチド(化合物133)の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図13】
図13は、Fmoc-Thr(Trt)-OHを添加した場合における、目的のペプチド(化合物112)および目的のペプチドからThrが抜けたもの(化合物113)の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図14】
図14は、Fmoc-Thr(THP)-OHを添加した場合における、目的のペプチド(化合物114)の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。目的のペプチド(化合物114)からThrが脱落したもの(化合物113)は検出されなかった。
【
図15】
図15は、Fmoc-MeSer(DMT)-OH・0.75DIPEAを用いて合成を行った場合における、目的のペプチド(化合物115)および目的のペプチドからMeSerが抜けたもの(化合物116)の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図16】
図16は、Fmoc-MeSer(THP)-OH(化合物6)を用いて合成を行った場合における、目的のペプチド(化合物115)および目的のペプチドからMeSerが抜けたもの(化合物116)の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図17】
図17は、5%TFA/DCE(5%TIPS)の脱保護条件下における、目的のペプチド(化合物131)および目的物の加水分解体(TM+H
2O)の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図18】
図18は、5%TFA/DCE(5%TIPS)の脱保護条件下における、目的のペプチド(化合物133)、目的物のN→O-アシルシフト体、目的物の1つのヒドロキシル基がTFAエステル化した化合物および目的物の2つのヒドロキシル基がTFAエステル化した化合物の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図19】
図19は、5%TFA/DCE(5%TIPS)(0度)の脱保護条件下における、目的のペプチド(化合物133)、目的物のN→O-アシルシフト体、目的物の1つのヒドロキシル基がTFAエステル化した化合物および目的物の2つのヒドロキシル基がTFAエステル化した化合物の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図20】
図20は、5%TFA/DCE(5%TIPS)(25度)の脱保護条件下における、目的のペプチド(化合物133)、目的物のN→O-アシルシフト体、目的物の1つのヒドロキシル基がTFAエステル化した化合物および目的物の2つのヒドロキシル基がTFAエステル化した化合物の検出を示すLCMSで分析した結果を示す図である。
【
図21】
図21は、液相における伸長反応を含む合成法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ある態様において、本発明は以下の工程を含む、少なくとも1つのN-置換アミノ酸又はN-置換アミノ酸類縁体を含むペプチドの製造方法に関する。
1)以下のi)及びii)の官能基をそれぞれ少なくとも1つ有するアミノ酸(Fmoc保護アミノ酸)、以下のi)及びii)をそれぞれ少なくとも1つ有するアミノ酸類縁体(Fmoc保護アミノ酸類縁体)、又は、該Fmoc保護アミノ酸及び該Fmoc保護アミノ酸類縁体の両方又はいずれか一方を含むペプチド(Fmoc保護ペプチド)を準備する工程;
i)Fmoc骨格を有する少なくとも1つの保護基により保護されている主鎖のアミノ基、
ii)遊離の又は活性エステル化された少なくとも1つのカルボン酸基、
2)工程1)で準備したFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドを固相に担持する工程、
3)固相に担持したFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドのFmoc骨格を有する保護基を塩基で脱保護し、アミノ基を露出する工程、
4)新たなFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドを添加して、アミド結合を形成する工程、及び、
5)工程4)で得られたペプチドを、TFAよりも弱酸となる条件下で固相から切り出す工程。
【0030】
別の態様において、本発明は以下の工程を含む、少なくとも1つのN-置換アミノ酸又はN-置換アミノ酸類縁体を含むペプチドの製造方法に関する。
1)以下のi)及びii)の官能基をそれぞれ少なくとも1つ有するアミノ酸(Fmoc保護アミノ酸)、以下のi)及びii)の官能基をそれぞれ少なくとも1つ有するアミノ酸類縁体(Fmoc保護アミノ酸類縁体)、又は、該Fmoc保護アミノ酸及び該Fmoc保護アミノ酸類縁体の両方又はいずれか一方を含むペプチド(Fmoc保護ペプチド)を準備する工程;
i)Fmoc骨格を有する少なくとも1つの保護基により保護されている主鎖のアミノ基、
ii)遊離の又は活性エステル化された少なくとも1つのカルボン酸基、
2)Fmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドのFmoc骨格を有する保護基を塩基で脱保護し、アミノ基を露出する工程、
3)新たなFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドを添加して、アミド結合を形成する工程であって、この工程で得られるペプチドを構成するアミノ酸またはアミノ酸類縁体の少なくとも1つの側鎖が、塩基性条件下では脱保護されずTFAよりも弱酸となる条件下で脱保護される保護基を有する工程、及び、
4)前記側鎖の保護基を、TFAよりも弱酸となる条件下で脱保護する工程。
上記ペプチドの製造は、固相法によって行われていても、液相法によって行われていてもよい。
【0031】
本発明における「ペプチド」は、アミノ酸及び/又はアミノ酸類縁体がアミド結合あるいはエステル結合して形成されるペプチドであれば特に限定されないが、好ましくは5~30残基、より好ましくは7~15残基、さらに好ましくは9~13残基のペプチドである。本発明において合成されるペプチドは、1つのペプチドの中に、少なくとも1つ以上N-置換されているアミノ酸又はアミノ酸類縁体(N-置換アミノ酸ともいう)を含むものとし、好ましくは2つ以上、より好ましくは3つ以上、さらに好ましくは5つ以上のN-置換アミノ酸を含む。これらのN-置換アミノ酸は、ペプチド中に連続して存在していても、不連続に存在していてもよい。
本発明におけるペプチドは、直鎖ペプチドでも環状ペプチドでも良く、環状ペプチドであることが好ましい。
【0032】
本発明における「環状ペプチド」は、本発明の方法に従って直鎖ペプチドを合成した後に、環化することにより得ることができる。環化は、アミド結合のような炭素-窒素結合による環化、エステル結合やエーテル結合のような炭素-酸素結合による環化、チオエーテル結合のような炭素-硫黄結合による環化、炭素-炭素結合による環化、あるいは複素環構築による環化など、どのような形態であってもよい。特に制限されないが、アミド結合あるいは炭素‐炭素結合などの共有結合を介した環化が好ましく、側鎖のカルボン酸基とN末端の主鎖のアミノ基によるアミド結合を介した環化が特に好ましい。環化に用いられるカルボン酸基やアミノ基等の位置は、主鎖上のものでも、側鎖上のものでもよく、環化可能な位置にあれば、特に制限されない。
【0033】
本発明における「N-置換アミノ酸」とは、後述する「アミノ酸」又は「アミノ酸類縁体」のうち、主鎖アミノ基が、N-置換されているアミノ酸又はアミノ酸類縁体を意味し、N-メチル化などのN-アルキル化されているアミノ酸又はアミノ酸類縁体が好ましい。N-置換アミノ酸として具体的には、アミノ酸又はアミノ酸類縁体の主鎖アミノ基が、NHR基であって、Rは、置換されていてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、またはシクロアルキル基であるものか、またプロリンのようにN原子に結合した炭素原子とα位からの炭素原子が環を形成するものが挙げられる。置換されていてもよい各基の置換基は、特に制限されず、たとえばハロゲン基、エーテル基、ヒドロキシル基などが挙げられる。
このようなN-置換アミノ酸として具体的には、アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基などが好ましく用いられる。
【0034】
本発明における「アミノ酸」とは、α、βおよびγアミノ酸であり、天然型アミノ酸(本願では天然型アミノ酸とはタンパク質に含まれる20種類のアミノ酸を指す。具体的にはGly、Ala、Ser、Thr、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、His、Glu、Asp、Gln、Asn、Cys、Met、Lys、Arg、Proを指す。)に限定されず、非天然型アミノ酸であってもよい。α-アミノ酸の場合、L型アミノ酸でもD型アミノ酸でもよく、α,α-ジアルキルアミノ酸でもよい。アミノ酸側鎖の選択は特に限定されないが、例えば、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、シクロアルキル基が挙げられる。アミノ酸側鎖は、それぞれ置換基が付与されていてもよく、例えば、N原子、O原子、S原子、B原子、Si原子、P原子を含む任意の官能基の中から自由に選択される。置換基の数は特に限定されず、1つ、或は、2つ以上有していても良い。
【0035】
本発明における「アミノ酸類縁体」とは、好ましくはα-ヒドロキシカルボン酸を意味する。α―ヒドロキシカルボン酸の側鎖は、アミノ酸と同様に特に限定されないが、例えば、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アラルキル基、シクロアルキル基が挙げられる。α-ヒドロキシカルボン酸の立体構造はアミノ酸のL型に対応するものでもD型に対応するものでもよい。側鎖は特に限定されないが、例えば、N原子、O原子、S原子、B原子、Si原子、P原子を含む任意の官能基の中から自由に選択される。置換基の数は特に限定されず、1つ、或は、2つ以上有していても良い。例えば、S原子を有し、さらにアミノ基やハロゲン基などの官能基を有していてもよい。βやγ-アミノ酸の場合にも任意の立体配置が、α―アミノ酸の場合と同様に許容され、その側鎖の選択も特に制限なくα―アミノ酸の場合と同様である。
【0036】
本発明において合成されるペプチドを構成する「アミノ酸」、「アミノ酸類縁体」にはそれぞれに対応する全ての同位体を含む。「アミノ酸」、「アミノ酸類縁体」の同位体は、少なくとも1つの原子が、原子番号(陽子数)が同じで,質量数(陽子と中性子の数の和)が異なる原子で置換されたものである。本発明ペプチド化合物を構成する「アミノ酸」、「アミノ酸類縁体」に含まれる同位体の例としては、例えば、水素原子、炭素原子、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、フッ素原子、塩素原子が挙げられ、具体的には、例えば、2H、3H、13C、14C、15N、17O、18O、31P、32P、35S、18F、36Clが挙げられる。
【0037】
アミノ酸あるいはアミノ酸類縁体は、置換基を1つ、或は、2つ以上有していてもよい。そのような置換基として、例えば、O原子、N原子、S原子、B原子、P原子、Si原子、ハロゲン原子由来の置換基が挙げられる。
【0038】
ハロゲン由来の置換基としては、フルオロ(-F)、クロロ(-Cl)、ブロモ(-Br)、ヨウド(-I)などが挙げられる。
【0039】
O原子由来の置換基としては、ヒドロキシル(-OH)、オキシ(-OR)、カルボニル(-C=O-R)、カルボキシル(-CO2H)、オキシカルボニル(-C=O-OR)、カルボニルオキシ(-O-C=O-R)、チオカルボニル(-C=O-SR)、カルボニルチオ基(-S-C=O-R)、アミノカルボニル(-C=O-NHR)、カルボニルアミノ(-NH-C=O-R)、オキシカルボニルアミノ(-NH-C=O-OR)、スルホニルアミノ(-NH-SO2-R)、アミノスルホニル(-SO2-NHR)、スルファモイルアミノ(-NH-SO2-NHR)、チオカルボキシル(-C(=O)-SH)、カルボキシルカルボニル(-C(=O)-CO2H)が挙げられる。
【0040】
オキシ(-OR)の例としては、アルコキシ、シクロアルコキシ、アルケニルオキシ、アルキニルオキシ、アリールオキシ、ヘテロアリールオキシ、アラルキルオキシなどが挙げられる。
【0041】
カルボニル(-C=O-R)の例としては、ホルミル(-C=O-H)、アルキルカルボニル、シクロアルキルカルボニル、アルケニルカルボニル、アルキニルカルボニル、アリールカルボニル、ヘテロアリールカルボニル、アラルキルカルボニルなどが挙げられる。
【0042】
オキシカルボニル(-C=O-OR)の例としては、アルキルオキシカルボニル、シクロアルキルオキシカルボニル、アルケニルオキシカルボニル、アルキニルオキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、ヘテロアリールオキシカルボニル、アラルキルオキシカルボニルなどが挙げられる。
(-C=O-OR)
【0043】
カルボニルオキシ(-O-C=O-R)の例としては、アルキルカルボニルオキシ、シクロアルキルカルボニルオキシ、アルケニルカルボニルオキシ、アルキニルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、ヘテロアリールカルボニルオキシ、アラルキルカルボニルオキシなどが挙げられる。
【0044】
チオカルボニル(-C=O-SR)の例としては、アルキルチオカルボニル、シクロアルキルチオカルボニル、アルケニルチオカルボニル、アルキニルチオカルボニル、アリールチオカルボニル、ヘテロアリールチオカルボニル、アラルキルチオカルボニルなどが挙げられる。
【0045】
カルボニルチオ(-S-C=O-R)の例としては、アルキルカルボニルチオ、シクロアルキルカルボニルチオ、アルケニルカルボニルチオ、アルキニルカルボニルチオ、アリールカルボニルチオ、ヘテロアリールカルボニルチオ、アラルキルカルボニルチオなどが挙げられる。
【0046】
アミノカルボニル(-C=O-NHR)の例としては、アルキルアミノカルボニル、シクロアルキルアミノカルボニル、アルケニルアミノカルボニル、アルキニルアミノカルボニル、アリールアミノカルボニル、ヘテロアリールアミノカルボニル、アラルキルアミノカルボニルなどが挙げられる。これらに加えて、-C=O-NHR中のN原子と結合したH原子が、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルでさらに置換された化合物が挙げられる。
【0047】
カルボニルアミノ(-NH-C=O-R)の例としては、アルキルカルボニルアミノ、シクロアルキルカルボニルアミノ、アルケニルカルボニルアミノ、アルキニルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、ヘテロアリールカルボニルアミノ、アラルキルカルボニルアミノなどが挙げられる。これらに加えて-NH-C=O-R中のN原子と結合したH原子が、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルでさらに置換された化合物が挙げられる。
【0048】
オキシカルボニルアミノ(-NH-C=O-OR)の例としては、アルコキシカルボニルアミノ、シクロアルコキシカルボニルアミノ、アルケニルオキシカルボニルアミノ、アルキニルオキシカルボニルアミノ、アリールオキシカルボニルアミノ、ヘテロアリールオキシカルボニルアミノ、アラルキルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。これらに加えて、-NH-C=O-OR中のN原子と結合したH原子がアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルでさらに置換された化合物が挙げられる。
【0049】
スルホニルアミノ(-NH-SO2-R)の例としては、アルキルスルホニルアミノ、シクロアルキルスルホニルアミノ、アルケニルスルホニルアミノ、アルキニルスルホニルアミノ、アリールスルホニルアミノ、ヘテロアリールスルホニルアミノ、アラルキルスルホニルアミノなどが挙げられる。これらに加えて、-NH-SO2-R中のN原子と結合したH原子がアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルでさらに置換された化合物が挙げられる。
【0050】
アミノスルホニル(-SO2-NHR)の例としては、アルキルアミノスルホニル、シクロアルキルアミノスルホニル、アルケニルアミノスルホニル、アルキニルアミノスルホニル、アリールアミノスルホニル、ヘテロアリールアミノスルホニル、アラルキルアミノスルホニルなどが挙げられる。これらに加えて、-SO2-NHR中のN原子と結合したH原子がアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルでさらに置換された化合物が挙げられる。
【0051】
スルファモイルアミノ(-NH-SO2-NHR)の例としては、アルキルスルファモイルアミノ、シクロアルキルスルファモイルアミノ、アルケニルスルファモイルアミノ、アルキニルスルファモイルアミノ、アリールスルファモイルアミノ、ヘテロアリールスルファモイルアミノ、アラルキルスルファモイルアミノなどが挙げられる。さらに、-NH-SO2-NHR中のN原子と結合した2つのH原子はアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、およびアラルキルからなる群より独立して選択される置換基で置換されていてもよく、またこれらの2つの置換基は環を形成しても良い。
【0052】
S原子由来の置換基としては、チオール(-SH)、チオ(-S-R)、スルフィニル(-S=O-R)、スルホニル(-S(O)2-R)、スルホ(-SO3H)が挙げられる。
【0053】
チオ(-S-R)の例としては、アルキルチオ、シクロアルキルチオ、アルケニルチオ、アルキニルチオ、アリールチオ、ヘテロアリールチオ、アラルキルチオなどの中から選択される。
【0054】
スルフィニル(-S=O-R)の例としては、アルキルスルフィニル、シクロアルキルスルフィニル、アルケニルスルフィニル、アルキニルスルフィニル、アリールスルフィニル、ヘテロアリールスルフィニル、アラルキルスルフィニルなどが挙げられる。
【0055】
スルホニル(-S(O)2-R)の例としては、アルキルスルホニル、シクロアルキルスルホニル、アルケニルスルホニル、アルキニルスルホニル、アリールスルホニル、ヘテロアリールスルホニル、アラルキルスルホニルなどが挙げられる。
【0056】
N原子由来の置換基としては、アジド(-N3、「アジド基」ともいう)、シアノ(-CN)、1級アミノ(-NH2)、2級アミノ(-NH-R)、3級アミノ(-NR(R'))、アミジノ(-C(=NH)-NH2)、置換アミジノ(-C(=NR)-NR'R'')、グアニジノ(-NH-C(=NH)-NH2)、置換グアニジノ(-NR-C(=NR''')-NR'R'')、アミノカルボニルアミノ(-NR-CO-NR'R'')が挙げられる。
【0057】
2級アミノ(-NH-R)の例としては、アルキルアミノ、シクロアルキルアミノ、アルケニルアミノ、アルキニルアミノ、アリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、アラルキルアミノなどが挙げられる。
【0058】
3級アミノ(-NR(R'))の例としては、例えばアルキル(アラルキル)アミノなど、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルなどの中からそれぞれ独立して選択される、任意の2つの置換基を有するアミノ基が挙げられ、これらの任意の2つの置換基は環を形成しても良い。
【0059】
置換アミジノ(-C(=NR)-NR'R'')の例としては、N原子上の3つの置換基R、R'、およびR''が、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルの中からそれぞれ独立して選択された基、例えばアルキル(アラルキル)(アリール)アミジノなどが挙げられる。
【0060】
置換グアニジノ(-NR-C(=NR''')-NR'R'')の例としては、R、R'、R''、およびR'''が、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルの中からそれぞれ独立して選択された基、あるいはこれらが環を形成した基などが挙げられる。
【0061】
アミノカルボニルアミノ(-NR-CO-NR'R'')の例としては、R、R'、およびR''が、水素原子、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルの中からそれぞれ独立して選択された基、あるいはこれらは環を形成した基などが挙げられる。
【0062】
B原子由来の置換基としては、ボリル(-BR(R'))やジオキシボリル(-B(OR)(OR'))などが挙げられる。これらの2つの置換基RおよびR'は、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、ヘテロアリール、アラルキルなどの中からそれぞれ独立して選択されるか、あるいはこれらは環を形成してもよい。
【0063】
このように、本発明のアミノ酸あるいはアミノ酸類縁体には、通常低分子化合物にて利用されるO原子、N原子、S原子、B原子、P原子、Si原子、ハロゲン原子が含まれる様々な置換基を1つあるいは2つ以上有していてもよい。これら置換基はさらに別の置換基により置換されていてもよい。
【0064】
なお、本明細書において、本発明で合成されるペプチドを構成する「アミノ酸」、「アミノ酸類縁体」は、それぞれ、「アミノ酸残基」、「アミノ酸類縁体残基」ということもある。
【0065】
本発明において「Fmoc保護アミノ酸」および「Fmoc保護アミノ酸類縁体」とは、それぞれ以下のi)及びii)の官能基をそれぞれ少なくとも1つ有する、アミノ酸およびアミノ酸類縁体である:
i)Fmoc骨格を有する少なくとも1つの保護基により保護されている主鎖のアミノ基、
ii)遊離の又は活性エステル化された少なくとも1つのカルボン酸基。
【0066】
本発明における「Fmoc骨格を有する保護基」とは、Fmoc基またはFmoc基の構成骨格の任意の位置に任意の置換基が導入された基を意味する。Fmoc骨格を有する保護基として具体的には、例えば、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)基、2,7-ジ-tert-ブチル-Fmoc(Fmoc*)基、2-フルオロ-Fmoc (Fmoc(2F))基、2-モノイソオクチル-Fmoc (mio-Fmoc)基、2,7-ジイソオクチル-Fmoc (dio-Fmoc)基などが挙げられる。本発明においては、Fmoc骨格を有する保護基に代えて、塩基性条件もしくは塩基性を示す求核種(例えば、ピペリジンやヒドラジン)にて脱保護可能な保護基を利用することもできる。このような保護基として具体的には、例えば、2-(4-ニトロフェニルスルホニル)エトキシカルボニル (Nsc)基、(1,1-ジオキソベンゾ[b]チオフェン-2-イル)メチルオキシカルボニル(Bsmoc)基、(1,1-ジオキソナフト[1,2-b]チオフェン-2-イル)メチルオキシカルボニル(α-Nsmoc)基、1-(4,4-ジメチル-2,6-ジオキソシクロヘキシ-1-イリデン)-3-メチルブチル(ivDde)基、テトラクロロフタロイル (TCP)基、2-[フェニル(メチル)スルホニオ]エチルオキシカルボニルテトラフルオロボレート (Pms)基、エタンスルホニルエトキシカルボニル (Esc)基、2-(4-スルホフェニルスルホニル)エトキシカルボニル (Sps)基などが挙げられる。また、酸や塩基以外の脱保護が可能な保護基を利用することもできる。このような保護基として具体的には、例えば、パラジウム等の遷移金属触媒存在下での水素添加にて脱保護可能なベンジルオキシカルボニル (Z)基、パラジウム触媒とスカベンジャーとの組み合わせ(例えば、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(PPh3)4)とフェニルシランとの組み合わせ)にて脱保護可能なアリルオキシカルボニル (Alloc)基、アルキルチオールまたはアリールチオールと塩基との組み合わせにて脱保護可能なo-ニトロベンゼンスルホニル (oNBS, Ns)基、2,4-ジニトロベンゼンスルホニル (dNBS)基及びジチアスクシノイル (Dts)基、遷移金属触媒存在下での水素添加もしくは亜ジチオン酸ナトリウム(Na2S2O4)などの還元剤により還元的に脱保護可能なp-ニトロベンジルオキシカルボニル (pNZ)基などが挙げられる(参考文献:Amino Acid-Protecting Groups, Chem. Rev. 2009, 109, 2455-2504)。
【0067】
Fmoc法を用いる本発明においては、例えば、主鎖のアミノ基がFmoc基により保護され、必要に応じて側鎖の官能基がピペリジンやDBUなどの塩基性で切断されない保護基で保護され、かつ主鎖のカルボン酸基が保護されていない、Fmoc保護アミノ酸又はFmoc保護アミノ酸類縁体を好ましく用いることができる。Fmoc骨格を有する保護基で保護されたアミノ基と保護基のないカルボン酸基を有するFmoc保護アミノ酸又はFmoc保護アミノ酸類縁体もまた好ましく用いることができる。
【0068】
本発明において、Fmoc-保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドが側鎖の官能基を有する場合、該官能基は保護基で保護されていることが好ましい。側鎖の官能基が保護基で保護されている場合、任意の条件で脱保護可能な周知の保護基を用いることができる。このような保護基としては、塩基性条件下で切断されず、TFAよりも弱酸となる条件下で脱保護される保護基が好ましい。酸性で脱保護可能な保護基としては、例えば、pH1からpH7の範囲、好ましくはpH2からpH6の範囲で脱保護可能な保護基が挙げられる。あるいは、10%以下のTFAにおいて脱保護可能な保護基、もしくは、後述の構造をもつ保護基を用いることができる。本発明では、側鎖の保護基としては、周知の保護基を使用することができる。例えば以下の文献i)やii)の記載に保護基の中から上記条件を満たすものを側鎖の保護基として採用することもできる。
非特許文献i)Greene’s Protective Groups inOrganicSynthesis, Fourth Edition,
非特許文献ii)Chemical Reviews, 2009, 109(6),2455-2504.
【0069】
本発明の方法は、パラレル合成によるペプチド合成に利用できる。この場合、アミノ酸の側鎖に保護基は必ずしも必要ではないが、側鎖に保護基が必要な場合には、用いられる保護基が、本発明の脱保護条件下において速やかに脱保護されることが好ましい。側鎖の保護基は、24時間以内に50%が脱保護されることが好ましく、4時間以内に90%が脱保護されることが特に好ましい。このような条件を満たす保護基として、後述のTrt骨格、THP骨格、THF骨格、TBS骨格を有する保護基が好ましい。また、酸によって容易に脱保護でき、かつ伸長時に高い反応性を有するためには、官能基に直結する保護基側の原子に少なくとも1つ水素原子が置換している(Trt骨格の保護基よりも立体的に嵩の低い)保護基が好ましい。そのうち、水素以外の置換基が環を形成している保護基がより好ましく、特にTHP、THFが好ましい。
【0070】
本発明の方法は工業的なペプチド合成にも利用できる。この場合も、パラレル合成と同様に、必ずしもアミノ酸の側鎖に保護基を有する必要はないが、側鎖に保護基を有する場合には、パラレル合成と同様の保護基を有することが好ましい。合成されるペプチドの配列に脱保護時の加水分解及びN→O-アシルシフトの問題はないが、保護基の嵩高さによる伸長反応の問題がある場合には、脱保護時に一般的に用いられるTFAなどの強酸を用いてもよい。また、合成されるペプチドの伸長反応に問題がない場合は、嵩高い保護基を用いることもできる。
【0071】
本発明において「TFAよりも弱酸となる条件」として、好ましくは、水中でのpKaの値が0~9である弱酸を、イオン化能YOTs値が正の値で水中でのpKaが5~14である溶媒に含む、弱酸溶液を用いる条件が挙げられる。
【0072】
「水中でのpKaの値が0~9である弱酸」として、より好ましくは水中でのpKaが1~5の弱酸である。このような弱酸として具体的には、硫酸水素テトラメチルアンモニウム(水中でのpKa=2.0)、シュウ酸(水中でのpKa=1.23)、マレイン酸(水中でのpKa=1.92)などが挙げられる。TFAよりも弱酸となる条件を満たせば、溶媒に溶解させる弱酸の濃度は任意でよい。
【0073】
「イオン化能YOTs値が正の値で水中でのpKaが5~14である溶媒」として好ましくは、フルオロアルコールが挙げられる。フルオロアルコールとは、アルコールを構成する炭素原子のうちヒドロキシル基が結合している炭素原子以外の炭素原子にフッ素原子が結合したものの総称を意味する。本発明においては、2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェノールなど、ヒドロキシル基が芳香環に結合したものもフルオロアルコールに含まれる。フルオロアルコールとしては、2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)やヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)が好ましい。
【0074】
本発明においては、TFAよりも弱酸となる条件を満たせば、前記弱酸溶液にはさらに他の有機溶媒(例えば、ジクロロメタンや1,2-ジクロロエタンなど)やカチオン捕捉剤(例えば、トリイソプロピルシランなど)なども添加することができる。
【0075】
本発明においてFmoc保護アミノ酸またはFmoc保護アミノ酸類縁体がその側鎖に保護基を有する場合、側鎖の保護基として好ましくは以下のものを挙げることができる。
【0076】
側鎖の保護基がSer、Thr、Hyp、およびそれらの誘導体のヒドロキシル基の保護基である場合、以下の一般式で表されるMOM骨格、Bn骨格、Dpm骨格、Trt骨格、シリル骨格、またはBoc骨格を有する保護基が好ましい。
【0077】
【化9】
MOM骨格を有する保護基の代表例としては、MOM(R1=H,R2=H,X=Me)、EE(R1=Me,R2=H,X=Et)、MIP(R1=Me,R2=Me,X=Me)、THP(R2=H,R1とXの間で4つの炭素原子で環構造をもつもの)、THF(R2=H,R1とXの間で3つの炭素原子で環構造をもつもの)、SEM(R1=H,R2=H,X=2-トリメチルシリルエチル)などが挙げられる。骨格上の置換基のMeやEtについては他のアルキル基、ベンジル基、アリール基などで置換しているものも用いることができる。
【0078】
【化10】
Bn骨格を有する保護基の代表例としては、Pis(R6=Me,R7=Me,その他のR=H)、PMB(R3=OMe,その他のR=H)、DMB(R1=OMe,R3=OMe,その他のR=H)などが挙げられる。置換基のMeの替わりに他のアルキル基を用いてもよい。またベンゼン環上にアルキル基、アリール基、ハロゲン基などが置換していてもよい。
【0079】
【化11】
Dpm骨格を有する保護基の代表例としては、Dpm(すべてのR=H)が挙げられる。芳香環上にアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン基などが置換していてもよい。
また、R5とR6の間で架橋したもの、例えば酸素原子を介して架橋されたXan基や、炭素原子2つを介して架橋されたジベンゾスベリル基などを用いてもよい。
【0080】
【化12】
Trt骨格を有する保護基の代表例としては、Trt(すべてのR=H)、Mmt(R3=Me,その他のR=H)、Mtt(R3=OMe,その他のR=H)、Dmt(R3=OMe,R8=OMe,その他のR=H)、Clt(R1=Cl,その他のR=H)などが挙げられる。芳香環上にアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン基などが置換していてもよい。
また、R5とR6の間で架橋したもの、例えば酸素原子を介して架橋されたピキシル(Pixyl)基を用いることもできる。
【0081】
【化13】
シリル骨格を有する保護基の代表例としては、TBS(R1=Me,R2=Me,R3=tBu)などが挙げられる。このMeやtBuの替わりに、他のアルキル基、アリール基などが置換していてもよい。
【0082】
【化14】
Boc骨格を有する保護基の代表例としては、Boc(すべてのR=H)が挙げられるが、他のアルキル基、アリール基などが置換していてもよい。
【0083】
その他、以下に示す保護基を用いることもできる。
【化15】
【0084】
これらの保護基の中で、特にTHP、Trtが好ましい。またアミノ酸残基がSerである場合には、側鎖の保護基はTHP、Trtが特に好ましく、アミノ酸残基がThrである場合には、側鎖の保護基はTHPが特に好ましい。
【0085】
側鎖の保護基が例えばTyr、D-Tyr、Tyr(3-F)など、アリール基に置換したヒドロキシル基を有するアミノ酸の保護基である場合、例えば、以下の一般式で表されるMOM骨格、Bn骨格、Dpm骨格、Trt骨格、シリル骨格、Boc骨格、tBu骨格を有する保護基が好ましい。
【0086】
【化16】
MOM骨格を有する保護基の代表例としては、MOM(R1=H,R2=H,X=Me)、BOM(R1=H,R2=H,X=Bn)、EE(R1=Me,R2=H,X=Et)、THP(R2=H,R1とXの間で4つの炭素原子で環構造をもつもの)、THF(R2=H,R1とXの間で3つの炭素原子で環構造をもつもの)、SEM(R1=H,R2=H,X=2-トリメチルシリルエチル)などが挙げられる。骨格上の置換基のMeやEtについては他のアルキル基、ベンジル基、アリール基などで置換しているものも用いることができる。
【0087】
【化17】
Bn骨格を有する保護基の代表例としては、Pis(R6=Me,R7=Me,その他のR=H)、PMB(R3=OMe,その他のR=H)、DMB(R1=OMe,R3=OMe,その他のR=H)などが挙げられる。置換基のMeの替わりに他のアルキル基を用いてもよい。またベンゼン環上にアルキル基、アリール基、ハロゲン基などが置換していてもよい。
【0088】
【化18】
Dpm骨格を有する保護基の代表例としては、Dpm(すべてのR=H)が挙げられる。芳香環上にアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン基などが置換していてもよい。
また、R5とR6の間で架橋したもの、例えば酸素原子を介して架橋されたXan基や、炭素原子2つを介して架橋されたジベンゾスベリル基などを用いてもよい。
【0089】
【化19】
Trt骨格を有する保護基の代表例としては、Trt(すべてのR=H)、Mmt(R3=Me,その他のR=H)、Mtt(R3=OMe,その他のR=H)、Clt(R1=Cl,その他のR=H)などが挙げられる。芳香環上にアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン基などが置換していてもよい。
また、R5とR6の間で架橋したもの、例えば酸素原子を介して架橋されたピキシル(Pixyl)基を用いることもできる。
【0090】
【化20】
シリル骨格を有する保護基の代表例としては、TBS(R1=Me,R2=Me,R3=tBu)などが挙げられる。このMeやtBuの替わりに、他のアルキル基、アリール基などが置換していてもよい。
【0091】
【化21】
Boc骨格を有する保護基の代表例としては、Boc(すべてのR=H)が挙げられるが、他のアルキル基、アリール基などが置換していてもよい。
【0092】
【化22】
tBu骨格を有する保護基の代表例としては、tBu(すべてのR=H)が挙げられる。H以外のアルキル基、アリール基などが置換していてもよい。
【0093】
これらの保護基の中で、特にtBu、Pis、Trt、Clt、THP、THFが好ましい。またアミノ酸残基がTyr、D-Tyrである場合には、側鎖の保護基はtBu、Trt、Clt、THPが特に好ましく、アミノ酸残基がTyr(3-F)である場合には、側鎖の保護基はtBu、Pisが特に好ましい。
【0094】
側鎖の保護基が例えばHis、MeHisなど、側鎖にイミダゾールを有するアミノ酸の保護基である場合、例えば、以下の一般式で表されるMOM骨格、Bn骨格、Trt骨格を有する保護基を用いることが好ましい。
【0095】
【化23】
MOM骨格を有する保護基の代表例としては、MBom(R1=H,R2=H,X=4-メトキシベンジル)、2,4-DMBom(R1=H,R2=H,X=2,4-ジメトキシベンジル)、3,4-DMBom(R1=H,R2=H,X=3,4-ジメトキシベンジル)、EE(R1=Me,R2=H,X=Et)、THP(R2=H,R1とXの間で4つの炭素原子で環構造をもつもの)、THF(R2=H,R1とXの間で3つの炭素原子で環構造をもつもの)などが挙げられる。骨格上の置換基のMeやEtについては他のアルキル基、ベンジル基、アリール基などで置換しているものも用いることができる。
【0096】
【化24】
Bn骨格を有する保護基の代表例としては、Pis(R6=Me,R7=Me,その他のR=H)、PMB(R3=OMe,その他のR=H)、DMB(R1=OMe,R3=OMe,その他のR=H)などが挙げられる。置換基のMeの替わりに他のアルキル基を用いてもよい。またベンゼン環上にアルキル基、アリール基、ハロゲン基などが置換していてもよい。
【0097】
【化25】
Trt骨格を有する保護基の代表例としては、Trt(すべてのR=H)、Mmt(R3=Me,その他のR=H)、Mtt(R3=OMe,その他のR=H)、Clt(R1=Cl,その他のR=H)などが挙げられる。芳香環上にアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン基などが置換していてもよい。
【0098】
これらの中で、特にTrtが好ましい。またアミノ酸残基がHis、MeHisである場合には、側鎖の保護基はTrtが特に好ましい。
【0099】
また、例えば、主鎖のカルボン酸基を「遊離の又は活性エステル化されたカルボン酸基」として用いる場合にはAsp、Glu、およびその誘導体の側鎖のカルボン酸基の保護基として、また、Asp、Glu、およびその誘導体の側鎖のカルボン酸基を「遊離の又は活性エステル化されたカルボン酸基」として用いる場合には主鎖のカルボン酸基の保護基として、例えば、以下の一般式で表されるMOM骨格、Bn骨格、Dpm骨格、Trt骨格、tBu骨格、フェニル-EDOTn骨格を有する保護基を用いることができる。また、カルボン酸基由来の炭素原子に3つのアルコキシ基が結合したオルトエステル骨格を有する保護基もカルボン酸の保護基として用いることができる。これらの保護基を形成する炭素原子は置換されていてもよい。
【0100】
【化26】
MOM骨格を有する保護基の代表例としては、BOM(R1=H,R2=H,X=Bn)、THP(R2=H,R1とXの間で4つの炭素原子で環構造をもつもの)、THF(R2=H,R1とXの間で3つの炭素原子で環構造をもつもの)などが挙げられる。骨格上の置換基は他のアルキル基、ベンジル基、アリール基などで置換しているものも用いることができる。
【0101】
【化27】
Bn骨格を有する保護基の代表例としては、Pis(R6=Me,R7=Me,その他のR=H)、PMB(R3=OMe,その他のR=H)、DMB(R1=OMe,R3=OMe,その他のR=H)、ピペロニル(R2とR3に酸素原子が置換しており、その酸素原子どうしが1つの炭素原子で架橋されている構造で、その他のR=H)などが挙げられる。置換基のMeの替わりに他のアルキル基を用いてもよい。またベンゼン環上にアルキル基、アリール基、ハロゲン基などが置換していてもよい。
【0102】
【化28】
Dpm骨格を有する保護基の代表例としては、Dpm(すべてのR=H)が挙げられる。芳香環上にアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン基などが置換していてもよい。
また、R5とR6の間で架橋したもの、例えば炭素原子2つを介して架橋されたジベンゾスベリル基などを用いてもよい。
【0103】
【化29】
Trt骨格を有する保護基の代表例としては、Trt(すべてのR=H)、Mmt(R3=Me,その他のR=H)、Mtt(R3=OMe,その他のR=H)、Clt(R1=Cl,その他のR=H)などが挙げられる。芳香環上にアルキル基、アリール基、アルコキシ基、ハロゲン基などが置換していてもよい。
また、R5とR6の間で架橋したもの、例えば酸素原子を介して架橋されたピキシル(Pixyl)基を用いることもできる。
【0104】
【化30】
tBu骨格を有する保護基の代表例としては、tBu(すべてのR=H)、Mpe(R1=Me,R4=Me,そのほかのR=H)などが挙げられる。他のアルキル基、アリール基などが置換していてもよい。
【0105】
【化31】
フェニル-EDOTnとしては、(i)R1=R2=R3=OMe、(ii)R1=R2=OMe,R3=H、(iii)R1=R2=H,R3=OMe、もしくは(iv)R1=R2=R3=Hの置換基の組み合わせを有するものを用いることができる。
【0106】
【化32】
ジシクロプロピルメチル基を用いることもできる。
【0107】
これらの中では、特にtBu、Pis、Trtが好ましい。
【0108】
本発明において「Fmoc保護ペプチド」とは前記「Fmoc保護アミノ酸」および前記「Fmoc保護アミノ酸類縁体」の両方又はいずれか一方を含むペプチドを意味する。このようなペプチドとして、例えば、上述のFmoc保護アミノ酸とFmoc保護アミノ酸類縁体のいずれか又は両方を含めて2分子以上有しているジペプチドやオリゴペプチドが挙げられる。
【0109】
本発明の固相法によるペプチドの合成では、樹脂を用いてFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチド(Fmoc保護アミノ酸等ということがある)を固相に担持することができる。用いられる樹脂のFmoc保護アミノ酸等との結合に用いられる基(樹脂結合基)は、酸によるペプチドの切り出しが可能であれば特に限定されない。Fmoc保護アミノ酸等の担持量、担持率についても特に限定されない。本発明においては、例えば、トリチルクロリド樹脂(Trt樹脂)、2-クロロトリチルクロリド樹脂(Clt樹脂)、4-メチルトリチルクロリド樹脂(Mtt樹脂)、4-メトキシトリチルクロリド樹脂(Mmt)を用いることができる。樹脂は、特に、固相合成ハンドブック(メルク株式会社発行、平成14年5月1日発行)に記載されている酸感受性として「H(<5%TFAinDCM)」と判定されている樹脂結合基を有することが好ましく、用いられるアミノ酸側の官能基に合わせて適宜選択することができる。例えば、アミノ酸側の官能基としてカルボン酸(主鎖カルボン酸、もしくは、AspやGluに代表される側鎖カルボン酸)、又は、芳香環上のヒドロキシ基(Tyrに代表されるフェノール基)を用いる場合には、樹脂として、トリチルクロリド樹脂(Trt樹脂)もしくは2-クロロトリチルクロリド樹脂(Clt樹脂)を用いることが好ましい。アミノ酸側の官能基として脂肪族ヒドロキシ基(SerやThrに代表される脂肪族アルコール基)を用いる場合には、樹脂として、トリチルクロリド樹脂(Trt樹脂)、2-クロロトリチルクロリド樹脂(Clt樹脂)もしくは4-メチルトリチルクロリド樹脂(Mtt樹脂)を用いることが好ましい。
樹脂を構成するポリマーの種類についても特に限定されない。ポリスチレンで構成される樹脂の場合には、100-200meshもしくは200-400meshのいずれを用いても良い。また、架橋率についても特に限定されないが、1%DVB(ジビニルベンゼン)架橋のものが好ましい。
【0110】
Fmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体、或は、Fmoc保護ペプチドのC末端に位置するアミノ酸の遊離のカルボン酸基または活性エステル化されたカルボン酸基と樹脂結合基との化学反応により、Fmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体、またはFmoc保護ペプチドを樹脂に担持させる。このとき、遊離のカルボン酸は、アミノ酸又はアミノ酸類縁体の主鎖カルボン酸であってもよいし、側鎖カルボン酸(Asp等)でもよい。カルボン酸基の代わりに、Fmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドのC末端に位置するアミノ酸の、主鎖又は側鎖の遊離のOH基、或は、遊離のSH基を固相との担持に用いることもできる。
【0111】
固相に担持したFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドのFmoc骨格を有する保護基を塩基により脱保護し、アミノ基を露出する。ここで用いられる塩基は、特に限定されないが、ペプチド合成で一般に使用される脱保護剤を用いることができる(例えば、Amino Acid-Protecting Groups (Chem. Rev. 2009, 109, 2455-2504))。そのような脱保護剤としては、例えば、2級アミン、アミジン骨格を有する塩基、グアニジン骨格を有する塩基が好ましい。2級アミンとして具体的には、例えば、ピペリジン、モルホリン、ピロリジン及びピぺラジンが挙げられる。アミジン骨格を有する塩基として具体的には、例えば、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)及び1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]-5-ノネン(DBN)が挙げられる。グアニジン骨格を有する塩基として具体的には、例えば、1,1,3,3-テトラメチルグアニジンが挙げられる。
【0112】
前記露出したアミノ基と新たに添加したFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドの遊離の又は活性エステル化されたカルボン酸基とを縮合し、ペプチド結合を形成する。
【0113】
アミノ基とカルボン酸基を縮合するときの縮合剤としては、アミド結合を形成できるものであれば特に限定されず、ペプチド合成で一般に使用される縮合剤が好ましい(例えば、Peptide Coupling Reagents, More than a Letter Soup (Chem. Rev.2011,111, 6557-6602))。このような縮合剤として具体的には例えば、カルボジイミド骨格を有する縮合剤が挙げられる。例えば、カルボジイミド骨格を有する縮合剤は、活性エステルを形成できるヒドロキシ化合物と組合せて、縮合反応に用いることができる。カルボジイミド骨格を有する縮合剤としては、例えば、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSCI・HCl)などが挙げられる(例えば、WATANABE Chemicalのカタログ、Amino acids andchiralbuilding blocks to new medicine参照)。活性エステルを形成できるヒドロキシ化合物としては、例えば、1-ヒドロキシ-1H-ベンゾトリアゾール(HOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)、2-シアノ-2-(ヒドロキシイミノ)酢酸エチル(oxyma)、3,4-ジヒドロ-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン(HOOBtまたはHODhbt)、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシミド(HONB)、2,3,4,5,6-ペンタフルオロフェノール(HOPfp)、N-ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)、6-クロロ-1-ヒドロキシ-1H-ベンゾトリアゾール(Cl-HOBt)が挙げられる(例えば、WATANABE Chemicalのカタログ、Amino acids andchiralbuilding blocks to new medicine参照)。また、これらの骨格を有する塩、例えばoxymaのカリウム塩であるK-oxymaなども用いることができる。これらの中では特にHOBt、HOAt、oxyma、HOOBtが好ましい。中でも、DICとHOAtとを組み合わせて用いること、あるいはDICとoxymaとを組み合わせて用いることが好ましい。その他に、ホスホニウム系縮合剤・ウロニウム系縮合剤としてO-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HBTU)、O-(7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HATU)、N-[1-(シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ(モルホリノ)]ウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(COMU)、O-[(エトキシカルボニル)シアノメチレンアミノ]-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩(HOTU)、O-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムテトラフルオロホウ酸塩(TBTU)、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロホウ酸塩(TATU)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリ(ピロリジノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩(PyBOP)、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ-トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩(BOP)、ブロモトリ(ピロリジノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩(PyBroP)、クロロトリ(ピロリジノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩(PyCloP)、(7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロリン酸(PyAOP)、ブロモトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸(Brop)、3-(ジエトキシホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン(DEPBT)、N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(N-スクシンイミジル)ウロニウムテトラフルオロホウ酸(TSTU)、N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(N-スクシンイミジル)ウロニウムヘキサフルオロリン酸(HSTU)、O-(3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン-3-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロホウ酸塩(TDBTU)、テトラメチルチウロニウムS-(1-オキシド-2-ピリジル)-N,N,N’,N’-テトラフルオロホウ酸塩(TOTT)、O-(2-オキソ-1(2H)ピリジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロホウ酸(TPTU)のうちのいずれかと、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、トリエチルアミン(TEA)、2,4,6-トリメチルピリジン(2,4,6-コリジン)、2,6-ジメチルピリジン(2,6-ルチジン)のうちのいずれかの塩基とを組み合わせて縮合反応に利用することができる。特にHATUとDIPEAと組み合わせて用いること、あるいはCOMUとDIPEAとを組み合わせて用いることが好ましい。その他に、N,N’-カルボニルジイミダゾール(CDI)、1,1’-カルボニル-ジ-(1,2,4-トリアゾール)(CDT)、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウム塩化物(DMT-MM)、プロピルホスホン酸無水物(T3P)などの縮合剤を利用することもできる。
【0114】
本発明の製造方法は、新たに添加したFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドのFmoc骨格を有する保護基を塩基で脱保護してアミノ基を露出する工程、および
更に新たなFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドを添加して、アミド結合を形成する工程をさらに含む。これらの工程は1回または複数回繰り返してもよい。本発明の方法は、Fmoc骨格を有する保護基の脱保護と、次の新しいFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体又はFmoc保護ペプチドとの縮合反応を繰り返すことによって目的のペプチド配列を得ることが可能である。
【0115】
本発明を固相法にて実施する場合、目的のペプチドが得られた後、固相からの切り出しが行われる(切り出し工程)。また、切り出し工程を行う前にペプチドの構造変換や環化を行うことも可能である。本発明においては、切り出し時点で、保護基で保護されている側鎖官能基は脱保護されていても、されていなくてもよく、いくつかの保護基のうち一部のみが脱保護されていてもよい。側鎖官能基が保護されたまま、切り出し工程が行われることが好ましい。
【0116】
本発明の切り出し工程の反応条件として具体的には、弱酸となる条件が好ましく、特にTFAよりも弱酸となる条件が好ましい。このような弱酸として具体的には、水中でのpKaの値がTFAよりも高い値を示す酸が好ましい。より具体的には、pKaの値が0~15の範囲にあるものが好ましく、水中でのpKa値が6~15の範囲にあるものがより好ましい。本工程で用いられるTFAよりも弱酸となる酸としては、例えば、TFE、HFIPなどが挙げられる。弱酸をTFE/酢酸のように2つかそれ以上を任意の割合で組み合わせてもよい。またDCM、DCE、水などの任意の溶媒を任意の割合で混合してもよい。このような弱酸と溶媒の組み合わせとして、特にTFEとDCMの組み合わせが好ましい。切り出しに用いられる溶液には、他の有機溶媒や試薬(例えば、DIPEAなど)やカチオン捕捉剤(例えば、トリイソプロピルシランなど)などを添加してもよい。
【0117】
合成されたペプチドの側鎖の保護基を脱保護する前に切り出し工程を行う場合、切り出しに用いられる弱酸は、脱保護反応で用いられる酸よりも弱酸であることが好ましい。この場合、あらかじめTFAより弱酸となる酸度の異なる2種類の酸を準備しておき、より弱酸となる酸を切り出しに用いる。
合成されたペプチドの側鎖の保護基を脱保護した後に切り出し工程を行う場合、切り出しに用いられる弱酸は、TFAより弱酸であれば特に限定されない。
【0118】
本発明の側鎖の保護基の脱保護工程においては、加水分解やN→O-アシルシフトなどの副反応を低減させて望みの脱保護反応を選択的に行うことが可能である。側鎖の保護基の脱保護は、TFAよりも弱酸となる条件で行うことが好ましい。反応は任意の温度で行うことができ、0~40℃で行うことが好ましい。脱保護完結時もしくは脱保護途中で反応を停止する際に、例えばアンモニアや1級~3級アミンなどの塩基を用いることができる。また塩基性ヘテロ環化合物(例えばピリジンやイミダゾール、またそれらの類縁体)などを用いることもできる。
【0119】
本発明の製造方法で合成されたペプチドに、更に改変や修飾を加える場合、それらの工程は切り出し工程の前後いずれにおいても実施することができる。
【0120】
本発明の製造方法により製造されたペプチドは、1つの反応点を側鎖に有するアミノ酸残基又はアミノ酸類縁体残基をC末端側に含み、かつもう1つの反応点を有するアミノ酸残基、アミノ酸類縁体残基又はカルボン酸類縁体をN末端側に含む、ペプチドであることができる。このようなペプチドは、例えばC末端側の側鎖に1つの反応点を有するアミノ酸残基又はアミノ酸類縁体残基が含まれ、N末端側にもう1つの反応点を有するアミノ酸残基、アミノ酸類縁体残基又はカルボン酸類縁体が含まれるように、原料のFmoc保護アミノ酸、Fmoc保護アミノ酸類縁体及びFmoc保護ペプチドを選択することにより製造できる。
【0121】
このペプチドは、1つの反応点ともう1つの反応点とを結合させて環化することができる。本発明の製造方法は、このような環化工程を含み得る。具体的には、WO2013/100132の記載に基づいて環化工程を実施することができる。
【0122】
環化工程を、切り出し工程後に実施する場合は、切り出し工程により得られた反応溶液(切り出し溶液)を減圧下濃縮した残渣を環化工程に用いてもよく、切り出し溶液をそのまま環化工程に用いてもよい。
【0123】
本発明において、「カルボン酸類縁体」にはアミノ基とカルボキシル基とを同時に持ち、両者の間の原子数が3つ以上の化合物や、アミノ基を持たない様々なカルボン酸誘導体や、2残基~4残基から形成されるペプチドや、主鎖アミノ基がカルボン酸とのアミド結合などで化学修飾されたアミノ酸が含まれる。また、「カルボン酸類縁体」は、環化に使用できるホウ酸やホウ酸エステル部位を有していてもよい。また、「カルボン酸類縁体」は、二重結合部位や三重結合部位を有するカルボン酸でもよく、ケトンやハライドを有するカルボン酸でもよい。なお、これらの化合物も規定した官能基以外の部分は、置換されてもよく、例えば、アルキル基、アラルキル基、アリール基、シクロアルキル基、ヘテロアリール基、アルケニル基、アルキニル基などの中から選択(自由な置換基)される。
【0124】
環化工程は、上記2つの反応点を、例えば、アミド結合、ジスルフィド結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、チオエステル結合、または、炭素-炭素結合によって環化する工程を含むが、これに限定されない。
【0125】
アミド結合形成による環化は、例えば、N末端のアミノ酸残基、N末端のアミノ酸類縁体残基又はN末端カルボン酸類縁体の反応点(主鎖のアミノ基あるいは、側鎖に存在するアミノ基)と、側鎖に1つのカルボン酸を有するアミノ酸残基又はアミノ酸類縁体の反応点とでアミド結合を形成させることによる環化である。これらの反応において、縮合剤としては、上述のペプチド結合で用いられるものと同様のものを用いることができる。具体的には、例えばHATUとDIPEAの組み合わせ、COMUとDIPEAの組み合わせなどを用いて側鎖カルボン酸とN末端主鎖のアミノ基とを、または側鎖アミノ基とC末端主鎖のカルボン酸とを縮合することができる。この際、C末端側のカルボン酸の保護基と環化に供する側鎖のカルボン酸の保護基、もしくはN末端側の主鎖のアミノ基の保護基と環化に供する側鎖のアミノ基の保護基は、その直交性を考慮して選択することが好ましい。この一連のペプチド合成において好ましい保護基は前述のとおりである。
【0126】
炭素-炭素結合形成による環化は、例えば、N末端のアミノ酸残基、N末端のアミノ酸類縁体残基又はN末端カルボン酸類縁体の反応点と、側鎖に1つの反応点を有するアミノ酸残基又はアミノ酸類縁体の反応点とで炭素-炭素結合を形成させることによる環化である。具体的には、例えば、N末端のアミノ酸残基、N末端のアミノ酸類縁体残基又はN末端カルボン酸類縁体の反応点として、アルケニル基を選択し、側鎖に1つの反応点を有するアミノ酸残基又はアミノ酸類縁体残基の反応点としてアルケニル基を選択して、遷移金属を触媒とした炭素-炭素結合反応により環化反応を実施することができる。このとき、触媒として使用する遷移金属としては、例えば、ルテニウム、モリブデン、チタン、タングステンが挙げられる。例えば、ルテニウムを用いた場合は、メタセシス反応によって環化反応を実施することができる。また、例えば、N末端のアミノ酸残基、N末端のアミノ酸類縁体残基又はN末端カルボン酸類縁体の反応点、および側鎖に1つの反応点を有するアミノ酸残基又はアミノ酸類縁体残基の反応点として、アリールハライドおよびボロン酸もしくはボロン酸類縁体の組み合わせを採用し、遷移金属を触媒とした炭素-炭素結合反応により環化反応を実施することができる。このとき、触媒として使用する遷移金属としては、パラジウム、ニッケル、鉄が挙げられる。例えば、パラジウムを用いた場合は、鈴木反応によって環化反応を実施することができる。また、例えば、N末端のアミノ酸残基、N末端のアミノ酸類縁体残基又はN末端カルボン酸類縁体の反応点、および側鎖に1つの反応点を有するアミノ酸残基又はアミノ酸類縁体残基の反応点として、アルケニル基およびアリールハライドもしくはアルケニルハライドの組み合わせを採用し、遷移金属を触媒とした炭素-炭素結合反応により環化反応を実施することができる。このとき、触媒として使用する遷移金属としては、パラジウム、ニッケルが挙げられる。例えば、パラジウムを用いた場合は、Heck型の化学反応によって環化反応を実施することができる。また、例えば、N末端のアミノ酸残基、N末端のアミノ酸類縁体残基又はN末端カルボン酸類縁体の反応点、および側鎖に1つの反応点を有するアミノ酸残基又はアミノ酸類縁体残基の反応点として、アセチレン基およびアリールハライドもしくはアルケニルハライドの組み合わせを選択し、遷移金属を触媒とした炭素-炭素結合反応により環化反応を実施することができる。このとき、触媒として使用する遷移金属としては、パラジウム、銅、金、鉄が挙げられる。例えば、パラジウムと銅の組み合わせを用いた場合は、薗頭反応によって環化反応を実施することができる。
【0127】
本発明においては、得られた生成物を必要に応じて精製することができる。例えば、逆相カラムや、分子ふるいカラムなどのペプチドの一般的な精製方法を用いることができる。また、適切な溶媒を用いて結晶化や固化により精製することもできる。精製の前に減圧下濃縮をすることも可能である。
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例0128】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、下記の実施例に限定されるものではない。
【0129】
なお、実施例中では以下の略号を使用した。
DCM ジクロロメタン
DCE 1,2-ジクロロエタン
DMF N,N-ジメチルホルムアミド
DIC N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド
DIPEA N,N-ジイソプロピルエチルアミン
DBU 1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセ
ン
NMP N-メチル-2-ピロリドン
FA ギ酸
TFA トリフルオロ酢酸
TFE 2,2,2-トリフルオロエタノール
HFIP 1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピル
アルコール
HOAt 1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール
HOBt 1-ヒドロキシベンゾトリアゾール
WSCI・HCl 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)
カルボジイミド塩酸塩
TBME t-ブチルメチルエーテル
TIPS トリイソプロピルシラン
HATU O-(7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル
)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキ
サフルオロリン酸塩
【0130】
また、ペプチド合成及び、固相合成に用いる反応溶媒はペプチド合成用(渡辺化学、和光純薬から購入)を用いた。例えばDCM、DMF、NMP、2%DBUinDMF、20%ピペリジン in DMFなどである。また、水を溶媒として加えない反応では、脱水溶媒、超脱水溶媒、無水溶媒(関東化学、和光純薬などから購入)を用いた。
【0131】
LCMSの分析条件は、表1のとおりである。
【表1】
【0132】
実施例1.N-メチルアミノ酸を配列中に含む環状ペプチドの基本合成ルート
N-メチルアミノ酸を配列中に含む環状ペプチドの合成は、Fmoc法による固相合成を採用し、以下の5段階の工程による
図1に記載の合成ルートで行った。
A)ペプチド合成機を用いFmoc法によって、その側鎖のカルボン酸を2-クロロトリチルレジンに担持させたAspのN末端からペプチドを伸長する工程
B)2-クロロトリチルレジンからペプチドを切り出す工程
C)切り出したペプチドのAspの側鎖のカルボン酸(白丸ユニット)と、ペプチド鎖N末端(三角ユニット)のアミノ基とを縮合し、アミド結合によって環化する工程
D)ペプチド鎖に含まれる側鎖官能基の保護基を脱保護する工程
E)分取HPLCによって化合物を精製する工程。
【0133】
本実施例においては、特に記述がない限り、この基本合成ルートに基づいて環状ペプチドの合成を行った。
【0134】
ペプチド合成機によるペプチド合成に用いるFmoc-アミノ酸
本実施例に記載するペプチド合成において、ペプチド合成機による合成(前記工程A)には、以下のFmoc-アミノ酸を用いた。
【0135】
Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Thr(Trt)-OH、Fmoc-Ile-OH、Fmoc-Trp-OH、Fmoc-D-Tyr(tBu)-OH、Fmoc-D-Tyr(Clt)-OH、Fmoc-Ser(Trt)-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-His(Trt)-OH、Fmoc-MePhe-OH、Fmoc-MeAla-OH、Fmoc-MeGly-OH、Fmoc-MeLeu-OH、Fmoc-Phe(4-CF3)-OH、Fmoc-b-Ala-OH、Fmoc-b-MeAla-OH、Fmoc-Nle-OH、Fmoc-Met(O2)-OH、Fmoc-Phe(3-Cl)-OH、Fmoc-MeVal、およびFmoc-Val-OH。
これらは渡辺化学、Chempep社、またはChem-Impex社などから購入した。
【0136】
Fmoc-MeSer(DMT)-OH、Fmoc-MePhe(3-Cl)-OH、Fmoc-MeAla(4-Thz)-OH、Fmoc-Hyp(Et)-OH、およびFmoc-γEtAbu-OH、Fmoc-nPrGly-OH。
これらは、文献記載の方法にて合成した(文献:国際公開番号 WO2013/100132 A1)。
【0137】
Fmoc-Ser(THP)-OH(化合物1)、Fmoc-Thr(THP)-OH(化合物2)、Fmoc-MeSer(THP)-OH(化合物6)、Fmoc-MeHis(Trt)-OH(化合物7)、Fmoc-D-Tyr(THP)-OH(化合物8)、Fmoc-D-Tyr(Pis)-OH(化合物11)、Fmoc-Tyr(3-F,tBu)-OH(化合物13)、Fmoc-MePhe(4-Cl)-OH(化合物16)、およびFmoc-Tyr(3-F,Pis)-OH(化合物22)。
これらは以下のとおり合成した。なお、これらの合成したFmoc-アミノ酸は、ペプチド合成だけでなく、側鎖官能基の保護基もしくはC末端カルボン酸基の保護基の脱保護検討にも用いた。
【0138】
実施例1-1:
(2S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-((テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ)プロパン酸(化合物1、Fmoc-Ser(THP)-OH)の合成
【化33】
(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-ヒドロキシプロパン酸(Fmoc-Ser-OH、渡辺化学より購入、1.0g, 3.06mmol)とp-トルエンスルホン酸ピリジニウム(PPTS、0.038 g, 0.153 mmol)の混合物にトルエン(10 mL)を加えて、減圧下トルエンを留去することで共沸により含まれている水分を除去した。得られた残渣に超脱水テトラヒドロフラン(THF、6.1 mL)と3,4-ジヒドロ-2H-ピラン(1.9 mL, 21.3 mmol)を加え、窒素雰囲気下、50度にて4時間攪拌した。LCMS(SQDFA05)にて原料の消失を確認後、混合物を25度まで冷却し、酢酸エチル(6 mL)を加えた。続いて飽和塩化ナトリウム水溶液(6 mL)を加えて有機層を洗浄し、水層を酢酸エチル(6 mL)で抽出した。得られた全ての有機層を混合し、これをさらに飽和塩化ナトリウム水溶液(6 mL)にて2度洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥し、溶媒を減圧下留去した。
得られた残渣をテトラヒドロフラン(THF、12.2 mL)に溶解させ、次いでpH 8.0に調製した1.0 M リン酸緩衝液(12.2 mL)を加えた。この混合物を50度で3時間攪拌した。25度まで冷却した後、酢酸エチル(12.2 mL)を加え、有機層と水層を分離した。水層に酢酸エチル(12.2 mL)を加えて抽出を行った後、得られた全ての有機層を混合し、飽和塩化ナトリウム水溶液(12.2 mL)で2度洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧下留去し、さらにポンプにて減圧下、25度で30分乾燥させた。
得られた残渣をジクロロメタン(7 mL)に溶解させ、次いでヘプタン(16.6 mL)を加えた。制御した減圧下(~100 hPa)、ジクロロメタンのみを留去し、得られた混合物をろ過して固体を得た。このヘプタンでの洗浄操作を2度繰り返した。得られた固体をポンプにて減圧下、25度で2時間乾燥させ、1.40 gの残渣を得た。
得られた残渣にt-ブチルメチルエーテル(TBME、25mL)とpH 2.1の0.05 M リン酸水溶液(70 mL)を加えて、25度にて5分間攪拌した後、有機層と水層を分離した。水層にt-ブチルメチルエーテル(TBME、25mL)を加えて抽出した後、得られた全ての有機層を混合し、飽和塩化ナトリウム水溶液(25 mL)にて2度洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。残渣をポンプにて減圧下、25度で2時間乾燥させることで、(2S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-((テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ)プロパン酸(化合物1、Fmoc-Ser(THP)-OH、1.22 g, 30 mol%のt-ブチルメチルエーテル(TBME)が残留)を得た。得られたFmoc-Ser(THP)-OHは-25度の冷凍庫にて保存した。
LCMS(ESI)m/z=410.2(M-H)
-
保持時間:0.81分(分析条件SQDFA05)
【0139】
実施例1-2:
(2S,3R)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-((テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ)ブタン酸(化合物2、Fmoc-Thr(THP)-OH)の合成
【化34】
(2S,3R)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-ヒドロキシブタン酸 一水和物(Fmoc-Thr-OHの一水和物、東京化成より購入、5.0 g, 13.9 mmol)とp-トルエンスルホン酸ピリジニウム(PPTS、0.175 g, 0.70 mmol)の混合物にトルエン(50 mL)を加えて、減圧下トルエンを留去することで共沸により含まれている水分を除去した。得られた残渣に超脱水テトラヒドロフラン(THF、28 mL)と3,4-ジヒドロ-2H-ピラン(8.8 mL, 97 mmol)を加え、窒素雰囲気下、50度にて4時間攪拌した。LCMS(SQDFA05)にて原料の消失を確認後、混合物を25度まで冷却し、酢酸エチル(30 mL)を加えた。続いて飽和塩化ナトリウム水溶液(30 mL)を加えて有機層を洗浄し、水層を酢酸エチル(30 mL)で抽出した。得られた全ての有機層を混合し、これをさらに飽和塩化ナトリウム水溶液(30 mL)にて2度洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥し、溶媒を減圧下留去し、粗生成物を9.3 g得た。
得られた粗生成物のうち、4.65 gをテトラヒドロフラン(THF、30 mL)に溶解させ、次いでpH8.0に調製した1.0 M リン酸緩衝液(30 mL)を加えた。この混合物を50度で4時間攪拌した。25度まで冷却した後、酢酸エチル(30 mL)を加え、有機層と水層を分離した。水層に酢酸エチル(30 mL)を加えて抽出を行った後、得られた全ての有機層を混合し、飽和塩化ナトリウム水溶液(30 mL)で2度洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧下留去し、さらにポンプにて減圧下、25度で30分乾燥させた。
得られた残渣をジエチルエーテル(50 mL)に溶解させ、次いでヘプタン(50 mL)を加えた。制御した減圧下(~100 hPa)、ジエチルエーテルのみを留去し、得られた混合物をろ過して固体を得た。このヘプタンでの洗浄操作を2度繰り返した。得られた固体をポンプにて減圧下、25度で2時間乾燥させ、Fmoc-Thr(THP)-OHのナトリウム塩(2.80 g, 6.26 mmol)を得た。
得られた全量のFmoc-Thr(THP)-OHのナトリウム塩に酢酸エチル(50 mL)とpH 2.1の0.05 Mリン酸水溶液(140mL)を加えて、25度にて5分間攪拌した後、有機層と水層を分離した。水層に酢酸エチル(50 mL)を加えて抽出した後、得られた全ての有機層を混合し、飽和塩化ナトリウム水溶液(50mL)にて2度洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。残渣をポンプにて減圧下、25度で2時間乾燥させた後、得られた固体をt-ブチルメチルエーテル(TBME、50mL)に溶解させ、溶媒を減圧下留去した。さらにポンプにて減圧下、25度で1時間乾燥させることで、(2S,3R)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-((テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ)ブタン酸(化合物2、Fmoc-Thr(THP)-OH、2.70 g, 30mol%のt-ブチルメチルエーテル(TBME)が残留)をTHP保護上の不斉炭素に由来するジアステレオマーとして得た。得られたFmoc-Thr(THP)-OHは-25度の冷凍庫にて保存した。
LCMS(ESI)m/z=424.2(M-H)
-
保持時間:0.84分、0.85分(分析条件SQDFA05)
【0140】
実施例1-3:
(2S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)(メチル)アミノ)-3-((テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ)プロパン酸(化合物6、Fmoc-MeSer(THP)-OH)の合成
【化35】
(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)(メチル)アミノ)-3-ヒドロキシプロパン酸(Fmoc-MeSer-OH)は文献記載の方法にて合成した(文献:国際公開番号 WO 2013/100132 A1)。(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)(メチル)アミノ)-3-ヒドロキシプロパン酸(Fmoc-MeSer-OH、15 g、43.9mmol)のテトラヒドロフラン(88 mL)溶液に、p-トルエンスルホン酸ピリジニウム(PPTS、0.552 g, 2.197 mmol)と3,4-ジヒドロ-2H-ピラン(23.85mL)を加え、50度にて4時間攪拌した。混合物を25度まで冷却し、酢酸エチル(90 mL)を加えた。続いて飽和塩化ナトリウム水溶液(90 mL)にて有機層を洗浄し、水層を酢酸エチル(90 mL)で抽出した。得られた全ての有機層を混合し、これをさらに飽和塩化ナトリウム水溶液(90 mL)にて2度洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥し、溶媒を減圧下留去した。
得られた残渣のうち、15.0 gをテトラヒドロフラン(175 mL)に溶解させ、次いでpH 8.0に調製した1.0 M リン酸緩衝液(175 mL)を加えた。この混合物を50度で3時間攪拌した。25度まで冷却した後、酢酸エチル(175 mL)を加え、有機層と水層を分離した。水層に酢酸エチル(175 mL)を加えて抽出を行った後、得られた全ての有機層を混合し、飽和塩化ナトリウム水溶液(175 mL)で2度洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧下留去した。
得られた残渣をジクロロメタン(100 mL)に溶解させ、次いでヘプタン(250 mL)を加えた。制御した減圧下(~100 hPa)、ジクロロメタンのみを留去し、得られた混合物をろ過して固体を得た。このヘプタンでの洗浄操作を2度繰り返した。得られた固体をポンプにて減圧下、25度で2時間乾燥させた。
得られた残渣にt-ブチルメチルエーテル(TBME、250mL)とpH 2.1の0.05 M リン酸水溶液(700 mL)を加えて、25度にて5分間攪拌した後、有機層と水層を分離した。水層にt-ブチルメチルエーテル(TBME、250mL)を加えて抽出した後、得られた全ての有機層を混合し、飽和塩化ナトリウム水溶液(250 mL)にて2度洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。残渣をポンプにて減圧下、25度で2時間乾燥させることで、(2S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)(メチル)アミノ)-3-((テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ)プロパン酸(化合物6、Fmoc-MeSer(THP)-OH、9.0 g、30mol%のt-ブチルメチルエーテル(TBME)が残留)を得た。得られたFmoc-MeSer(THP)-OHは-25度の冷凍庫にて保存した。
LCMS(ESI)m/z=426.4(M+H)
+
保持時間:0.86分(分析条件SQDFA05)
【0141】
実施例1-4:
(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)(メチル)アミノ)-3-(1-トリチル-1H-イミダゾール-4-イル)プロパン酸(化合物7、Fmoc-MeHis(Trt)-OH)の合成
【化36】
3000 mLのフラスコに、(S)-3-(1H-イミダゾール-4-イル)-2-(メチルアミノ)プロパン酸塩酸塩(75 g、364.71 mmol)のジクロロメタン(1000 mL)溶液とジクロロジメチルシラン(51 g, 395.16 mmol)、トリエチルアミン(40 g, 395.30 mmol)を加えた。続いて、(クロロメタントリイル)トリベンゼン(Trt-Cl、111 g、398.17 mmol)のジクロロメタン(500 mL)溶液とトリエチルアミン(40 g, 395.30 mmol)を加えた。得られた反応溶液を加熱還流下、4時間攪拌し、さらに20度にて2時間攪拌した。反応溶液にメタノールを加えて反応を停止し、続いて減圧下、溶媒を留去した。トリエチルアミンでpHを8~8.5とし、125 gの固体を得た。
得られた固体に1,4-ジオキサン(1000mL)、炭酸カリウム(84 g、603.39 mmol)、水(1000mL)を加えた。さらに炭酸 (2,5-ジオキソピロリジン-1-イル) (9H-フルオレン-9-イル)メチル(Fmoc-OSu、102 g、302.38mmol)を加えて、0度にて2時間攪拌した。得られた反応溶液をジエチルエーテル(2000 mL)にて洗浄した後、酢酸を用いて溶液のpHを6~7に調整した。得られた固体をろ過することで、(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)(メチル)アミノ)-3-(1-トリチル-1H-イミダゾール-4-イル)プロパン酸(化合物7、Fmoc-MeHis(Trt)-OH、155 g)を得た。
LCMS(ESI)m/z=634.4(M+H)
+
保持時間:1.07分(分析条件SQDAA05)
【0142】
実施例1-5:
(2R)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-((テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ)フェニル)プロパン酸(化合物8、Fmoc-D-Tyr(THP)-OH)の合成
【化37】
(R)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸 (Fmoc-D-Tyr-OH, 渡辺化学より購入, 500 mg, 1.24mmol)と触媒量のパラトルエンスルホン酸ピリジニウム (PPTS, 15.6 mg, 0.062 mmol)にトルエン (5.0 mL)を加え、減圧下トルエンを留去することで共沸により含まれている水分を除去した。得られた残渣をテトラヒドロフラン (THF) (2.5 mL)に溶解させ、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン(785 μL, 8.68mmol)を加え、窒素雰囲気下、50度にて4時間攪拌した。反応液を25度に冷却し、酢酸エチル(3 mL)を加えた。続いて飽和食塩水(3 mL)を加えて有機層を洗浄し、水層を酢酸エチル(3 mL)で抽出した。得られた全ての有機層を混合し、これをさらに飽和食塩水(3mL)にて2度洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥し、溶媒を減圧下留去し、さらにポンプで減圧下乾燥させ596mgの残渣を得た。
得られた残渣 (300 mg)をテトラヒドロフラン (THF) (2.5 mL)に溶解させ、1.0 Mのリン酸水溶液 (pH 8.0, 2.5 mL)を加えて50度で3時間攪拌した。反応液に酢酸エチル(3 mL)を加え、有機層と水層を分離し、水層を酢酸エチル (3 mL)で抽出した。得られた全ての有機層を混合し、飽和食塩水 (3 mL)で2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させた後、溶媒を減圧下留去し、さらにポンプで減圧下30分乾燥させた。
得られた残渣をジクロロメタン (DCM) (2 mL)に溶解させ、ヘプタン (5 mL)を加えた。ジクロロメタン (DCM)のみをエバポレーターにより除去し、得られた白色固体をろ過により集めた。得られた白色固体に対して、同様の操作を2回繰り返した。そのようにして得られた白色固体をポンプで減圧下2時間乾燥させた。
上記の白色固体にt-ブチルメチルエーテル (TBME) (4.6 mL)と0.05 Mリン酸水溶液 (pH 2.1, 13 mL)を加え、25度で5分攪拌した。有機層を分離した後、水層をt-ブチルメチルエーテル (TBME) (4.6 mL)で抽出した。得られた有機層を集め、飽和食塩水 (4.6mL)で2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。得られた残渣を逆相クロマトグラフィー(Wakosil 25C18 10 g, 水/アセトニトリル)により精製することで(2R)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-((テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ)フェニル)プロパン酸(化合物8、Fmoc-D-Tyr(THP)-OH, 173 mg)をTHP保護上の不斉炭素に由来するジアステレオマーとして57%の収率で得た。
LCMS(ESI)m/z=488.4(M+H)
+
保持時間:0.92分(分析条件SQDFA05)
【0143】
実施例1-6:
2,2,2-トリクロロアセトイミド酸 2-フェニルプロパン-2-イル(化合物9)の合成
【化38】
2-フェニルプロパン-2-オール(Wako社より購入, 2.0 g, 14.7 mmol)のジエチルエーテル(Et
2O)溶液(4.8 mL)に1.9 M NaHMDSのテトラヒドロフラン(THF)溶液(850 μL, 1.62 mmol)を滴下により22度で加えた。反応液を同じ温度で20分攪拌した後、0度に冷却し、2,2,2-トリクロロアセトニトリル (1.47 mL, 14.7 mmol)を滴下しながら加えた。反応液を0度で10分攪拌した後、15度に昇温し、さらに1時間攪拌した。反応液をエバポレーターにより濃縮し、得られた残渣にヘキサン (1.8 mL)とメタノール (65 μL)を加え15度で15分攪拌した。得られた固体をろ過し、ヘキサン (2.0 mL)で3回洗浄し、2,2,2-トリクロロアセトイミド酸 2-フェニルプロパン-2-イル(化合物9)を4.19 g得た。更なる精製はせずにこのまま反応に用いた。
1H NMR(Varian 400-MR, 400 MHz, CDCl
3)δ 1.89 (6H, s), 7.28 (1H, m), 7.36(2H, m), 7.43 (2H,m), 8.20 (1H, brs)
【0144】
実施例1-7:
2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸 (R)-メチル(化合物10、Fmoc-D-Tyr-OMe)の合成
【化39】
窒素雰囲気下、(R)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-(tert-ブトキシ)フェニル)プロパン酸(Fmoc-D-Tyr(tBu)-OH、渡辺化学より購入、5.0 g、10.88 mmol)とメタノール(8.80 mL、218 mmol)の混合物に塩化チオニル(1.59 mL、21.76 mmol)を0度にて滴下した。得られた反応溶液を25度にて3時間攪拌し、続いて減圧下、溶媒を留去した。得られた残渣を酢酸エチルに溶解させ、溶液を飽和塩化ナトリウム水溶液にて2度洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥させ、ろ過にて固体を取り除き、減圧下、溶媒を留去し、2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸 (R)-メチル(化合物10、Fmoc-D-Tyr-OMe、4.50 g)を得た。
LCMS(ESI)m/z=418.3(M+H)
+
保持時間:0.81分(分析条件SQDFA05)
【0145】
実施例1-8:
(R)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-((2-フェニルプロパン-2-イル)オキシ)フェニル)プロパン酸 (化合物11,Fmoc-D-Tyr(Pis)-OH)の合成
【化40】
2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸 (R)-メチル (化合物10、Fmoc-D-Tyr-OMe,100 mg, 0.24 mmol) のテトラヒドロフラン(THF)溶液(240 μL)に別途調整した10M2,2,2-トリクロロアセトイミド酸 2-フェニルプロパン-2-イル(化合物9)のシクロヘキサン溶液 (60μL)と触媒量のボロントリフルオリド―エチルエーテル コンプレックス(BF
3-OEt, 4.55μL, 0.036 mmol)を0度にて滴下しながら加えた。反応液を25度で1時間攪拌した後、同量の10M2,2,2-トリクロロアセトイミド酸 2-フェニルプロパン-2-イル(化合物9)のシクロヘキサン溶液 (60μL)とボロントリフルオリド―エチルエーテルコンプレックス(BF
3-OEt,4.55 μL,0.036 mmol)を再び加え、反応液を25度でさらに30分攪拌した。反応液をジクロロメタン(DCM)で希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた。ジクロロメタンで抽出後、飽和食塩水で有機層を洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧下留去し、さらにポンプで乾燥させた。得られた残渣にジクロロメタン(DCM)/ヘキサン = 1/1の溶液を加え、ろ過により沈殿物を除去した。ろ液をエバポレーターにより濃縮し、得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(purif pack(登録商標) SIZE 20, ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、混合物として2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-((2-フェニルプロパン-2-イル)オキシ)フェニル)プロパン酸 (R)-メチル(Fmoc-D-Tyr(Pis)-OMe)を得た。
上述の得られた混合物をジクロロエタン(DCE) (535 μL)に溶解させ、水酸化トリメチルスズ(IV) (Me
3SnOH, 58.1 mg, 0.321 mmol)を加え、60度で7時間攪拌した。反応液に水酸化トリメチルスズ(IV) (Me
3SnOH, 29.1 mg, 0.161 mmol)をさらに加え、60度で15時間攪拌した。反応液をエバポレーターにより濃縮し、t-ブチルメチルエーテル (TBME、1mL)と0.05 Mリン酸水溶液 (pH 2.1, 2 mL)を加え、25度で5分攪拌した。有機層を分離した後、水層をt-ブチルメチルエーテル (TBME、1mL)で2回抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧下留去し、さらにポンプで乾燥させた。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(purif pack(登録商標) SIZE 20, ジクロロメタン/メタノール)で精製し、(R)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-((2-フェニルプロパン-2-イル)オキシ)フェニル)プロパン酸 (化合物11,Fmoc-D-Tyr(Pis)-OH,33 mg)を2段階収率39%で得た。
LCMS(ESI)m/z=522.4(M+H)
+
保持時間:1.00分(分析条件SQDFA05)
【0146】
実施例1-9:
2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸(S)-メチル(化合物12、Fmoc-Tyr(3-F)-OMe)の合成
【化41】
(S)-2-アミノ-3-(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸(H
2N-Tyr(3-F)-OH, Astatech社より購入、2.0 g, 10.0mmol)を10% 炭酸ナトリウム水溶液に溶かした後、滴下ロートで、炭酸 (2,5-ジオキソピロリジン-1-イル)(9H-フルオレン-9-イル)メチル (Fmoc-OSu,3.39 g, 10.0 mmol)の1.4-ジオキサン(35 mL)の溶液を0度で添加した。反応液を25度で40分攪拌した後、水(35mL)、ジエチルエーテル(70 mL)を加え、ジエチルエーテルで3回洗浄した。5N 塩酸水溶液で水層のpHを2~3に調整した後、酢酸エチルで3回抽出(100 mL×3)した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧下留去し、さらにポンプで乾燥させた。更なる精製はせずに得られた残渣(4.08 g)をそのまま次の反応に用いた。
上記の残渣(1.04 g)をメタノール(10 mL)に溶かし、チオニルクロライド(SOCl
2, 539μL, 7.38 mmol)を滴下しながら0度で加えた。反応液を60度で1時間攪拌した後、室温に冷却し、エバポレーターを用いて溶媒を留去した。得られた残渣に酢酸エチル、水を加え、酢酸エチルで2回抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧下留去し、さらにポンプで乾燥させた。得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(purif pack(登録商標) SIZE 200, ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸 (S)-メチル (化合物12、Fmoc-Tyr(3-F)-OMe, 900mg, 2.07 mmol)を2段階収率84%で得た。
LCMS(ESI)m/z=436.4(M+H)
+
保持時間:0.82分(分析条件SQDFA05)
【0147】
実施例1-10:
(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-(tert-ブトキシ)-3-フルオロフェニル)プロパン酸(化合物13、Fmoc-Tyr(3-F,tBu)-OH)の合成
【化42】
2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸(S)-メチル(化合物12、Fmoc-Tyr(3-F)-OMe, 300 mg, 0.689 mmol)のテトラヒドロフラン(THF)溶液(690 μL)に2,2,2-トリクロロアセトイミド酸 tert-ブチル (308 μL, 1.72 mmol)と触媒量のボロントリフルオリド―エチルエーテルコンプレックス(BF
3-OEt, 13.1μL,0.103 mmol)を0度にて滴下しながら加えた。反応液を25度で1時間攪拌した後、同量の2,2,2-トリクロロアセトイミド酸 tert-ブチル (308 μL,1.72 mmol)とボロントリフルオリドーエチルエーテルコンプレックス(BF
3-OEt,13.1 μL, 0.103 mmol)を再び加え、反応液を25度でさらに1時間攪拌した。反応液をジクロロメタン(DCM)で希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えた。ジクロロメタンで抽出後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、飽和食塩水で有機層を洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧下留去し、さらにポンプで乾燥させた。得られた残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(purif pack(登録商標) SIZE 60, ヘキサン/酢酸エチル)にて精製し、混合物として2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-(tert-ブトキシ)-3-フルオロフェニル)プロパン酸(S)-メチル (Fmoc-Tyr(3-F,tBu)-OMe)を得た。
上述の得られた混合物(40 mg)をジクロロエタン(DCE) (810 μL)に溶解させ、水酸化トリメチルスズ(IV) (Me
3SnOH,29.4mg, 0.163 mmol)を加え、60度で1時間攪拌した。反応液にギ酸 (15.35 μL, 0.407 mmol)を加えた後、逆相クロマトグラフィー(Wakosil25C18 10 g, 0.1% ギ酸水溶液/0.1% ギ酸アセトニトリル溶液)により精製することで(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-(tert-ブトキシ)-3-フルオロフェニル)プロパン酸(化合物13、Fmoc-Tyr(3-F,tBu)-OH, 27mg, 56.5μmol)を2段階収率93%で得た。
LCMS(ESI)m/z=478.3(M+H)
+
保持時間:0.94分(分析条件SQDFA05)
【0148】
実施例1-11:
ピロリジン-1,2-ジカルボン酸2-(2-フェニルプロパン-2-イル) (S)-1-((9H-フルオレン-9-イル)メチル) (化合物14、Fmoc-Pro-OPis)の合成
【化43】
2-フェニル-2-プロパノール(14.2g, 104 mmol)と脱水ジエチルエーテル(35 mL)との混合物を、窒素雰囲気下、室温にて1.9 M NaHMDS(テトラヒドロフラン溶液、0.85 mL、1.62 mmol)を3分以上かけて滴下し、その後室温にて30分間攪拌した。
続いて、反応液を0度に氷冷し、トリクロロアセトニトリル(11.5 mL, 115mmol)を5分以上かけて滴下した。混合物を0度にて10分間、その後氷浴から外して室温にてさらに1時間攪拌した。得られた混合物を0度に氷冷し、(S)-1-(((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)ピロリジン-2-カルボン酸(Fmoc-Pro-OH、42.3 g, 125 mmol)とジクロロメタン(100 mL)との混合物を15分かけて加えた。0度にて30分攪拌した後、ろ過し、ヘキサン-ジクロロメタン(5/1)溶液にて洗浄し、続いて減圧下、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン-酢酸エチル)にて精製し、ピロリジン-1,2-ジカルボン酸 2-(2-フェニルプロパン-2-イル) (S)-1-((9H-フルオレン-9-イル)メチル) (化合物14、Fmoc-Pro-OPis、26.3 g, 57.7 mmol)を得た。
LCMS(ESI)m/z=456.4(M+H)
+
保持時間:0.76分(分析条件SQDAA50)
【0149】
実施例1-12:
(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)(メチル)アミノ)-3-(4-クロロフェニル)プロパン酸(化合物16、Fmoc-MePhe(4-Cl)-OH)の合成
【化44】
(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(4-クロロフェニル)プロパン酸(Fmoc-Phe(4-Cl)-OH、170 g、402.96 mmol)のトルエン(2.5 L)溶液にパラホルムアルデヒド(48 g、1.60 mol)と10-カンファスルホン酸(CSA、4.6 g、19.83 mmol)を加え、110度にて16時間攪拌した。続いて反応溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1 L)にて2回、飽和塩化ナトリウム水溶液(1 L)にて2回洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥させ、固体をろ過にて取り除き、減圧下、溶媒を留去して160 gの4-(4-クロロベンジル)-5-オキソオキサゾリジン-3-カルボン酸 (S)-(9H-フルオレン-9-イル)メチルを得た。
同様の操作にて調製した別ロットと混合した4-(4-クロロベンジル)-5-オキソオキサゾリジン-3-カルボン酸 (S)-(9H-フルオレン-9-イル)メチル(230 g、530.10 mmol)のジクロロメタン(2.5 L)溶液にトリエチルシラン(881 g、7.58 mol)とトリフルオロ酢酸(TFA、2518 g、22.28 mol)を混合し、30度にて12時間攪拌した。続いて減圧下、溶媒を留去し、得られた残渣をジクロロメタン/ヘキサン(1/10, v/v)にて再結晶することにより、(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)(メチル)アミノ)-3-(4-クロロフェニル)プロパン酸(化合物16、Fmoc-MePhe(4-Cl)-OH、205 g)を得た。
LCMS(ESI)m/z=436.3(M+H)
+
保持時間:0.99分(分析条件SQDAA05)
【0150】
実施例1-13:
2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(3-フルオロ-4-((2-フェニルプロパン-2-イル)オキシ)フェニル)プロパン酸 (S)-メチル(化合物21、Fmoc-Tyr(3-F,Pis)-OMe)の合成
【化45】
2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(3-フルオロ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン酸(S)-メチル(化合物12、Fmoc-Tyr(3-F)-OMe、200 mg, 0.459 mmol)をTHF(460 μL)に溶かした後、別途調整した2,2,2-トリクロロアセトイミド酸 2-フェニルプロパン-2-イル(化合物9、322 mg, 1.15 mmol)と触媒量のボロントリフルオリド―エチルエーテルコンプレックス(BF
3-OEt, 8.73 μL, 0.069 mmol)を0度にて滴下しながら加えた。反応液を室温にて30分攪拌後、同量の2,2,2-トリクロロアセトイミド酸 2-フェニルプロパン-2-イル(322 mg, 1.15 mmol)と触媒量のボロントリフルオリドーエチルエーテルコンプレックス(BF
3-OEt, 8.73 μL, 0.069 mmol)を0度にて滴下しながら加えた。反応液を室温にて30分さらに攪拌した後、反応液をジクロロメタンで希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を氷冷下加えた。ジクロロメタンで抽出後、飽和食塩水で有機層を洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧下留去し、さらにポンプで乾燥させた。得られた残渣をジクロロメタン/ヘキサン=1/1(20mL, 10mL)で2回洗浄し、白色固体をろ過により除いた。得られたろ液を濃縮し、残渣をフラッシュカラムクロマトグラフィー(purif pack(登録商標) SIZE 20, ヘキサン/酢酸エチル, 0.1% ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA))にて精製し、2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(3-フルオロ-4-((2-フェニルプロパン-2-イル)オキシ)フェニル)プロパン酸 (S)-メチル(化合物21、Fmoc-Tyr(3-F,Pis)-OMe、210 mg, 0.379 mmol)を83%の収率で得た。
LCMS(ESI)m/z=554.4(M+H)
+
保持時間:1.09分(分析条件SQDFA05)
【0151】
実施例1-14:
(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(3-フルオロ-4-((2-フェニルプロパン-2-イル)オキシ)フェニル)プロパン酸(化合物22、Fmoc-Tyr(3-F,Pis)-OH)の合成
【化46】
2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(3-フルオロ-4-((2-フェニルプロパン-2-イル)オキシ)フェニル)プロパン酸 (S)-メチル(化合物21、Fmoc-Tyr(3-F, Pis)-OMe、210 mg, 0.379 mmol)をジクロロエタン(DCE) (1.26 mL)に溶解させ、水酸化トリメチルスズ(IV) (Me
3SnOH,137mg, 0.379 mmol)を加え、60度で3時間攪拌した。反応液をエバポレーターにより濃縮し、t-ブチルメチルエーテル (TBME、2.0mL)と0.05 Mリン酸水溶液 (pH 2.1, 4.0mL)を加え、25度で15分攪拌した。有機層を分離した後、水層をt-ブチルメチルエーテル(TBME 、1mL)で2回抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を減圧下留去し、さらにポンプで乾燥させた。得られた残渣を0.1% ギ酸アセトニトリル溶液で溶かし、15分攪拌した後、得られた溶液を逆相クロマトグラフィー(Wakosil 25C18 30 g, 0.1% ギ酸水溶液/0.1% ギ酸アセトニトリル)により精製することで(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-3-(3-フルオロ-4-((2-フェニルプロパン-2-イル)オキシ)フェニル)プロパン酸(化合物22、Fmoc-Tyr(3-F,Pis)-OH、190 mg, 0.352 mmol)を収率93%で得た。
LCMS(ESI)m/z=538.2(M-H)
-
保持時間:1.00分(分析条件SQDFA05)
【0152】
ペプチド合成機によるペプチド合成に用いるレジンとFmoc-アミノ酸との結合体の合成
ペプチド合成機によるペプチド合成に用いるレジンとFmoc-アミノ酸との結合体は、以下のとおり合成した。
【0153】
実施例1-15:
(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-オキソ-4-(ピペリジン-1-イル)ブタン酸-2-クロロトリチルレジン(化合物50、Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pip)の合成
【化47】
(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-オキソ-4-(ピペリジン-1-イル)ブタン酸-2-クロロトリチルレジン(化合物50、Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pip)は、文献記載の方法にて合成した(文献:国際公開番号 WO 2013/100132 A1)。
【0154】
本明細書では、ポリマーやレジンと化合物が結合した場合、ポリマーやレジン部位を○にて表記する場合がある。また、レジン部位の反応点を明確にさせる目的で、○に接続させて反応部位の化学構造を表記させる場合がある。例えば、上記の構造(Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pip(化合物50))では、レジンの2-クロロトリチル基がAspの側鎖カルボン酸とエステル結合を介して結合している。なお、pipとはピペリジンを意味し、上記の構造ではC末端のカルボン酸基がピペリジンとアミド結合を形成している。
【0155】
実施例1-16
Fmoc-Asp-piptBu(化合物51)の側鎖カルボン酸にてレジンと結合させた化合物(化合物52)の合成
【0156】
実施例1-16-1:
3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(4-(tert-ブチル)ピペリジン-1-イル)-4-オキソブタン酸(S)-tert-ブチル(化合物53、Fmoc-Asp(OtBu)-piptBu)の合成(なお、piptBuとは4-(tert-ブチル)ピペリジンを意味し、ここではC末端のカルボン酸基が4-(tert-ブチル)ピペリジンとアミド結合を形成していることを示している。)
【化48】
(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(tert-ブトキシ)-4-オキソブタン酸(10 g、24.30 mmol)と4-(tert-ブチル)ピペリジン塩酸塩(4.10 g、23.09mmol)と1-ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物(HOBt、3.61 g)をDMF(80 mL)に溶解し、0度にて1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSCI・HCl、5.59 g)を加え、0度にて30分間攪拌した。続いて、4-メチルモルホリン(2.54 mL)を加え、室温にて1時間攪拌した。反応溶液にヘキサン-酢酸エチル(1/1, v/v, 500 mL)を加え、有機層を飽和塩化アンモニウム水溶液で2回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和塩化ナトリウム水溶液で1回洗浄した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、固体をろ過にて取り除き、減圧下、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動層:ヘキサン-酢酸エチル)にて精製し、3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(4-(tert-ブチル)ピペリジン-1-イル)-4-オキソブタン酸 (S)-tert-ブチル(化合物53、Fmoc-Asp(OtBu)-piptBu、11.5 g、21.51 mmol)を得た。
LCMS(ESI)m/z=535.4(M+H)
+
保持時間:1.17分(分析条件SQDAA05)
【0157】
実施例1-16-2:
(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(4-(tert-ブチル)ピペリジン-1-イル)-4-オキソブタン酸(化合物51、Fmoc-Asp-piptBu)の合成
【化49】
3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(4-(tert-ブチル)ピペリジン-1-イル)-4-オキソブタン酸(S)-tert-ブチル(化合物53、Fmoc-Asp(OtBu)-piptBu、2.0 g、3.74 mmol)にトルエンを加え、減圧下、溶媒を留去することで、共沸によって含まれる水を取り除いた。得られた残渣をジクロロメタン(1.66 mL)に溶解し、カールフィッシャー測定にて、含まれる水分量が110 ppmであることを確認した。続いて、0度にて5分間攪拌し、トリフルオロ酢酸(TFA、1.66 mL)を0度にて滴下し、5分間攪拌した。反応溶液を室温に戻し、4時間攪拌を続けた。混合物を0度に冷却し、トリエチルアミン(3.1 mL)を滴下した。混合物をジクロロメタン(30 mL)にて希釈し、5%りん酸二水素ナトリウム水溶液(5% NaH
2PO
4aq、pH 4.4)にて洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、固体をろ過にて取り除いた後に、減圧下、20度にて溶媒を留去した。得られた残渣を
19FNMR測定(DMSO-d6)し、TFAの残留が確認されたため、残渣を再びジクロロメタン(30 mL)にて希釈し、5%りん酸二水素ナトリウム水溶液(5% NaH
2PO
4aq、pH 4.4)にて洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、固体をろ過にて取り除いた後に、減圧下、20度にて溶媒を留去し、(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(4-(tert-ブチル)ピペリジン-1-イル)-4-オキソブタン酸(化合物51、Fmoc-Asp-piptBu、1.73 g)を得た。
19FNMRにてTFAの残留が検出限界以下であることを確認した。
LCMS(ESI)m/z=479.4(M+H)
+
保持時間:1.00分(分析条件SQDAA05)
【0158】
実施例1-16-3:
(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(4-(tert-ブチル)ピペリジン-1-イル)-4-オキソブタン酸-2-クロロトリチルレジン(化合物52、Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-piptBu)の合成
【化50】
フィルター付きの反応容器に2-クロロトリチルクロライドレジン(1.60 mmol/g, 100-200mesh,1%DVB, 渡辺化学から購入、4.52g, 7.23 mmol)と脱水ジクロロメタン(72 mL)を入れ25度にて10分間振とうした。窒素圧をかけてジクロロメタンを除いた後、(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(4-(tert-ブチル)ピペリジン-1-イル)-4-オキソブタン酸(化合物51、Fmoc-Asp-piptBu、1.73 g)と脱水ジクロロメタン(72 mL)に脱水メタノール(1.17 mL, )およびジイソプロピルエチルアミン(DIPEA, 3.02 mL)を加えた混合液を反応容器に添加し、15分間振とうした。窒素圧をかけて反応液を除いた後、脱水ジクロロメタン(72 mL)に脱水メタノール(9.0 mL)とジイソプロピルエチルアミン(DIPEA, 3.02 mL)を加えた混合液を反応容器に添加し、90分間振とうした。窒素圧をかけて反応液を除いた後、ジクロロメタンを入れ、5分間振とうした。窒素圧をかけて反応液を除いた。このジクロロメタンでのレジンの洗浄を5回繰り返し、得られたレジンを減圧下で一晩乾燥させ、(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(4-(tert-ブチル)ピペリジン-1-イル)-4-オキソブタン酸-2-クロロトリチルレジン(化合物52、Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-piptBu、5.23 g)を得た。
得られたFmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-piptBu(化合物52、16.5mg)を反応容器に入れ、20%ピペリジン/DMF溶液 (1mL)を加え、25度にて30分間振とうした。反応混合液から30 μLを取りだし、これをDMF (2.97 mL)で希釈し、その吸光度(301.2 nm)を測定し(Shimadzu, UV-1600PC(セル長1.0 cm)を用いて測定)、Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-piptBu(化合物52)のローディング量を0.356 mmol/gと算出した。
なお、同様に合成したローディング量が異なる別ロットについてもペプチド合成に使用した。
【0159】
実施例1-17:
Fmoc-Asp-MeOctyl(化合物54)の側鎖カルボン酸にてレジンと結合させた化合物(化合物55)の合成
【0160】
実施例1-17-1:
3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(メチル(オクチル)アミノ)-4-オキソブタン酸(S)-tert-ブチル(化合物56、Fmoc-Asp(OtBu)-MeOctyl)の合成(なお、MeOctylとはN-メチルオクタン-1-アミンを意味し、ここではC末端のカルボン酸基がN-メチルオクタン-1-アミンとアミド結合を形成していることを示している。)
【化51】
300 mLのフラスコに(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(tert-ブトキシ)-4-オキソブタン酸(Fmoc-Asp(OtBu)-OH、8.00 g、19.44 mmol)とDMF(65mL)を加えて室温にて5分間攪拌した。続いて4-メチルモルホリン(2.57 mL)とO-(7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N′,N′-テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロリン酸塩(HATU、8.87 g、23.33mmol)を加えて、0度にて5分間攪拌した。さらに、N-メチルオクタン-1-アミン(3.35mL、18.47mmol)を2分間かけて滴下し、得られた反応溶液を0度にて30分間攪拌した。この反応溶液に、ヘキサン-酢酸エチル(1/1, v/v, 400 mL)を加え、水(400 mL)、飽和塩化アンモニウム水溶液(400 mL)、50%炭酸水素ナトリウム水溶液(400 mL)、水(400 mL×2)、飽和塩化ナトリウム水溶液(400 mL)にて洗浄した。得られた有機層を硫酸ナトリウムにて乾燥させ、固体を取り除き、減圧下、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン-酢酸エチル)にて精製し、3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(メチル(オクチル)アミノ)-4-オキソブタン酸 (S)-tert-ブチル(化合物56、Fmoc-Asp(OtBu)-MeOctyl、10.2 g、19.00 mmol)を得た。
LCMS(ESI)m/z=537.5(M+H)
+
保持時間:0.84分(分析条件SQDFA50)
【0161】
実施例1-17-2:
(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(メチル(オクチル)アミノ)-4-オキソブタン酸(化合物54、Fmoc-Asp-MeOctyl)の合成
【化52】
3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(メチル(オクチル)アミノ)-4-オキソブタン酸 (S)-tert-ブチル(化合物56、Fmoc-Asp(OtBu)-MeOctyl、8.1 g、15.09 mmol)にトルエンを加え、減圧下、溶媒を留去することで、共沸によって含まれる水を取り除いた。得られた残渣にジクロロメタン(脱水、6.7 mL)に溶解し、カールフィッシャー測定にて、含まれる水分量が380 ppmであることを確認した。続いて、0度にて5分間攪拌し、トリフルオロ酢酸(TFA、6.7 mL)を0度にて5分間かけて滴下し、その後5分間攪拌した。反応溶液を室温に戻し、4時間攪拌を続けた。混合物を0度に冷却し、トリエチルアミン(12.62 mL)を滴下した。混合物をジクロロメタン(100 mL)にて希釈し、5%りん酸二水素ナトリウム水溶液(5% NaH
2PO
4aq)にて洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、固体をろ過にて取り除いた後に、減圧下、20度にて溶媒を留去した。得られた残渣を
19FNMR測定(DMSO-d6)し、TFAの残留が確認されたため、残渣を再びジクロロメタンに溶解し、5%りん酸二水素ナトリウム水溶液(5% NaH
2PO
4aq)にて洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、固体をろ過にて取り除いた後に、減圧下、20度にて溶媒を留去し、(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(メチル(オクチル)アミノ)-4-オキソブタン酸(化合物54、Fmoc-Asp-MeOctyl、6.61 g、13.75 mmol)を得た。
19FNMRにてTFAの残留が検出限界以下であることを確認した。
LCMS(ESI)m/z=481.4(M+H)
+
保持時間:0.65分(分析条件SQDAA50)
【0162】
実施例1-17-3:
(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(メチル(オクチル)アミノ)-4-オキソブタン酸-2-クロロトリチルレジン(化合物55、Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-MeOctyl)の合成
【化53】
フィルター付きの反応容器に2-クロロトリチルクロライドレジン(1.60 mmol/g, 100-200mesh,1%DVB, 渡辺化学から購入、16.3g, 26.1 mmol)と脱水ジクロロメタン(261 mL)を入れ25度にて10分間振とうした。窒素圧をかけてジクロロメタンを除いた後、(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(メチル(オクチル)アミノ)-4-オキソブタン酸(化合物54、Fmoc-Asp-MeOctyl、6.28 g、13.07 mmol)と脱水ジクロロメタン(261 mL)に脱水メタノール(4.23 mL, )およびジイソプロピルエチルアミン(DIPEA, 10.9 mL)を加えた混合液を反応容器に添加し、15分間振とうした。窒素圧をかけて反応液を除いた後、脱水ジクロロメタン(261 mL)に脱水メタノール(32.4 mL)とジイソプロピルエチルアミン(DIPEA, 10.9 mL)を加えた混合液を反応容器に添加し、90分間振とうした。窒素圧をかけて反応液を除いた後、ジクロロメタン(261 mL)を入れ、5分間振とうした。窒素圧をかけて反応液を除いた。このジクロロメタンでのレジンの洗浄を2回繰り返し、得られたレジンを減圧下で一晩乾燥させ、(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(メチル(オクチル)アミノ)-4-オキソブタン酸-2-クロロトリチルレジン(化合物55、Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-MeOctyl、18.2 g)を得た。
ローディング量:0.366 mmol/g
なお、同様に合成したローディング量が異なる別ロットについてもペプチド合成に使用した。
【0163】
実施例1-18:
Fmoc-Asp-Pro-OPis(化合物57)の側鎖カルボン酸にてレジンと結合させた化合物(化合物58)の合成
【0164】
実施例1-18-1:
1-((S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(アリルオキシ)-4-オキソブタノイル)ピロリジン-2-カルボン酸(S)-2-フェニルプロパン-2-イル(化合物59、Fmoc-Asp(OAll)-Pro-OPis)の合成
【化54】
既に記載した方法にて調製したピロリジン-1,2-ジカルボン酸 2-(2-フェニルプロパン-2-イル)(S)-1-((9H-フルオレン-9-イル)メチル) (化合物14、Fmoc-Pro-OPis、20.0 g, 43.9 mmol)の脱水DMF(40 mL)溶液を水浴にて20度に冷却した。これに1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン(DBU、6.57mL, 43.9 mmol)を7分かけて滴下し、その後室温にて5分間攪拌した。続いて、反応液を0度に冷却し、ピリジン塩酸塩(5.07 g, 43.9 mmol)を加え、0度にて10分間攪拌した。その後、(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(アリルオキシ)-4-オキソブタン酸(Fmoc-Asp(OAll)-OH、17.35 g, 43.9 mmol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSCI・HCl、11.8 g, 61.4 mmol)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt、7.17g,52.7 mmol)の混合物を加え、さらにジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、7.6 mL, 43.9 mmol)を7分かけて0度にて滴下した。反応液を室温にて20分攪拌した。得られた反応液にヘキサン(50 mL)、ジエチルエーテル(50 mL)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(10 mL)、飽和塩化ナトリウム水溶液(50 mL)を加えて、水層をジエチルエーテルにて2度抽出した。得られた有機層をすべて合わせて、飽和塩化ナトリウム水溶液(50 mL)にて3度洗浄した後、硫酸ナトリウムにて乾燥した。減圧下、溶媒を除き、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動層:ヘキサン-酢酸エチル)にて精製し、1-((S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(アリルオキシ)-4-オキソブタノイル)ピロリジン-2-カルボン酸(S)-2-フェニルプロパン-2-イル(化合物59、Fmoc-Asp(OAll)-Pro-OPis、24.5 g, 40.1 mmol)を得た。
LCMS(ESI)m/z=611.4(M+H)
+
保持時間:1.03分(分析条件SQDFA05)
【0165】
実施例1-18-2:
(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-オキソ-4-((S)-2-(((2-フェニルプロパン-2-イル)オキシ)カルボニル)ピロリジン-1-イル)ブタン酸(化合物57、Fmoc-Asp-Pro-OPis)の合成
【化55】
1-((S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-(アリルオキシ)-4-オキソブタノイル)ピロリジン-2-カルボン酸(S)-2-フェニルプロパン-2-イル(化合物59、Fmoc-Asp(OAll)-Pro-OPis、24.16 g, 39.6 mmol)とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(Pd(PPh
3)
4、0.114 g, 0.099 mmol)とを300 mLのふた口フラスコに入れ、フラスコ内を窒素置換した。続いてジクロロメタン(40 mL)を加え、室温にて攪拌した後、水浴にて14度に冷却した。フェニルシラン(3.30mL,26.7 mmol)を5分かけて滴下し、反応液を窒素雰囲気下14~17度にて35分間攪拌した。続いて、SHシリカ(Fuji Silysia製、5 g)とメタノール(32.1 mL)とを加えた後、Kieselgel 60(15 g)を加えた。さらにメタノール(30 mL)、SHシリカ(Fuji Silysia製、5g)、Kieselgel 60(25 g)を加え、混合物を17~24度にて液相が無色となるまで攪拌した。得られた混合物をセライトろ過し、ジクロロメタン-メタノール(10/1, v/v)にて洗浄し、減圧下、溶媒を留去し、(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-オキソ-4-((S)-2-(((2-フェニルプロパン-2-イル)オキシ)カルボニル)ピロリジン-1-イル)ブタン酸(化合物57、Fmoc-Asp-Pro-OPis)の粗生成物(25.38 g)を得た。得られた粗生成物は精製せずに、続くレジンへの担持に用いた。
LCMS(ESI)m/z=571.3(M+H)
+
保持時間:0.88分(分析条件SQDFA05)
【0166】
実施例1-18-3:
(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-オキソ-4-((S)-2-(((2-フェニルプロパン-2-イル)オキシ)カルボニル)ピロリジン-1-イル)ブタン酸-2-クロロトリチルレジン(化合物58、Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-Pro-OPis)の合成
【化56】
フィルター付きの反応容器に2-クロロトリチルクロライドレジン(1.60 mmol/g, 100-200mesh,1%DVB, 渡辺化学から購入、47.8g, 76.48 mmol)と脱水ジクロロメタン(150 mL)を入れ25度にて35分間振とうした。窒素圧をかけてジクロロメタンを除いた後、調製した(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-オキソ-4-((S)-2-(((2-フェニルプロパン-2-イル)オキシ)カルボニル)ピロリジン-1-イル)ブタン酸(化合物57、Fmoc-Asp-Pro-OPis、21.94 g、38.4 mmol)の脱水ジクロロメタン(115 mL)に脱水メタノール(3.11 mL)およびジイソプロピルエチルアミン(DIPEA, 32.1 mL)を加えた混合液を反応容器に添加し、45分間振とうした。窒素圧をかけて反応液を除いた後、脱水ジクロロメタン(100 mL)に脱水メタノール(55 mL)とジイソプロピルエチルアミン(DIPEA, 25 mL)を加えた混合液を反応容器に添加し、90分間振とうした。窒素圧をかけて反応液を除いた後、ジクロロメタン(100 mL)を入れ、5分間振とうした。窒素圧をかけて反応液を除いた。このジクロロメタン(100 mL)でのレジンの洗浄を4回繰り返し、得られたレジンを減圧下で15時間半乾燥させ、(S)-3-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)-4-オキソ-4-((S)-2-(((2-フェニルプロパン-2-イル)オキシ)カルボニル)ピロリジン-1-イル)ブタン酸-2-クロロトリチルレジン(化合物58、Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-Pro-OPis、61.55 g)を得た。
得られたFmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-Pro-OPis(化合物58、12.3mg)を反応容器に入れ、DMF (0.2 mL)およびピペリジン (0.2 mL)を加え、25度にて30分間振とうした。反応容器にDMF (1.6mL)を加えた後、反応混合液から0.4 mLを取りだし、これをDMF (9.6 mL)で希釈し、その吸光度(301.2 nm)を測定した(Shimadzu, UV-1600PC(セル長1.0 cm)を用いて測定)。次の計算式により、Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-Pro-OPis(化合物58)のローディング量を0.3736 mmol/gと算出した。
(吸光度(301.2 nm)×1000×50)/(レジン重量(mg)×7800)=(0.717×1000×50)/(12.3×7800) = 0.3736 mmol/g
なお、同様に合成したローディング量が異なる別ロットについてもペプチド合成に使用した。
【0167】
実施例2.ペプチド合成機によるペプチドの化学合成(工程A~工程C)
特別な記載がない限り、上記の基本合成ルートでのペプチド合成は以下の方法にて行った。
【0168】
実施例2-1:自動合成機によるペプチド固相合成(工程A)
ペプチド合成機(Multipep RS; Intavis社製)を用いて、Fmoc法によりペプチド合成を行った。操作の詳細な手順については合成機に付属のマニュアルに従った。
【0169】
N末端がFmocで保護されたアスパラギン酸の側鎖のカルボン酸部位と結合した2-クロロトリチルレジン(1カラムあたり100 mg)と、各種Fmoc-アミノ酸(0.6 mol/L, Fmoc-MeHis(Trt)-OHの場合は0.5 mol/L)と1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HOAt)もしくはoxyma(0.375mol/L)のNMP溶液と、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)のN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(10%v/v)とを合成機にセットした。なお、Fmoc-アミノ酸がFmoc-Ser(THP)-OH(化合物1)、Fmoc-Thr(THP)-OH(化合物2)、またはFmoc-MeSer(THP)-OH(化合物6)である場合は、これらFmoc-アミノ酸はNMP溶液においてoxymaと共存させ、さらにモレキュラシーブス4A 1/8(和光純薬工業)もしくはモレキュラシーブス4A 1/16(和光純薬工業)を添加して合成機にセットした。
【0170】
Fmoc脱保護溶液としてジアザビシクロウンデセン(DBU)のDMF溶液(2%v/v)を用いた。レジンをDMFにて洗浄した後、Fmoc基を脱保護し、次いで新たなFmocアミノ酸との縮合反応を行った。これを1サイクルとして、このサイクルを複数回繰り返すことでレジン表面上にペプチドを伸長させた。
【0171】
実施例2-2:伸長したペプチドのレジンからの切り出し(工程B)
上記の方法によって伸長したペプチドのN末端のFmoc基の除去をペプチド合成機上にて行った後、レジンをDMFにて洗浄した。続いてDCMにてレジンを再膨潤させた後、レジンにTFE/DCM (1/1, v/v, 2mL)を加えて室温にて2時間振とうした。続いてチューブ内の溶液を合成用カラムでろ過することによりレジンを除き、残ったレジンをさらにTFE/DCM (1/1, v/v, 1 mL)にて2回洗浄した。得られた全ての切り出し溶液を混合し、減圧下濃縮した。
【0172】
実施例2-3:切り出したペプチドの環化(工程C)
切り出し後に減圧下濃縮した残渣をDMF/DCM (1/1, v/v, 8 mL)に溶解した。0.5 M O-(7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N,N-テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスフェート(HATU)/DMF溶液(用いたレジン上のモル数(ローディング量(mmol/g)に使用したレジン量(通常は0.10 g)をかけたもの)に対して1.5等量となる容量)と、DIPEA(用いたレジン上のモル数に対して1.8等量)を加え、室温にて2時間振とうした。その後、減圧下溶媒を留去した。目的の環状ペプチドの生成をLCMS測定によって確認した。
【0173】
以上の方法によって、後述する脱保護反応の検討に用いるペプチドPep1-Pep7を合成した。Pep1~Pep7の配列を表2-1に、構造を表2-2に、LCMSデータを表2-3に示す。以後で行う脱保護条件の検討(脱保護時にみられる加水分解やN→O-アシルシフトの不具合の程度、もしくは検討する溶液に共存させるペプチド)は、この過程において得られた環状ペプチドを含む残渣を用いて評価した。
【0174】
【0175】
【0176】
【0177】
実施例3.弱酸(水中でのpKaが0~9)と、溶媒(Y
OTs
値が正の値であり、弱酸性であり(水中でのpKaが5~14)、かつ求核性が低い溶媒)との弱酸溶液を用いた、ペプチドの側鎖官能基の保護基の脱保護(工程D)
【0178】
実施例3-1.Fmoc-アミノ酸の側鎖官能基の保護基の上記弱酸溶液による脱保護可能性
ペプチド合成に用いるFmoc-アミノ酸の側鎖官能基の保護基が、TFAよりも弱酸となる条件、すなわち水中でのpKaが0~9である弱酸を、YOTs値が正の値であり、弱酸性であり(水中でのpKaが5~14)、かつ求核性が低い溶媒に溶解した溶液中で脱保護可能かどうかを検討した。
【0179】
具体的には、弱酸として硫酸水素テトラメチルアンモニウム(pKa 2.0)を用い、また溶媒として、HFIP(YOTs値が3.82(文献値: Prog. Phys. Org. Chem. 1990, 17,121-158)、pKa9.30)を用いた。より具体的には、0.1M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液 (2%TIPS)もしくは0.05M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液 (2% TIPS)のいずれかの溶液を用いた。
【0180】
実施例3-1-1:0.1 M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液 (2% TIPS)の調製
0.1 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液(2% TIPS)は、HFIP(11.66 mL), TIPS (0.24 mL),DCE (0.10 mL)を混合した溶液から4 mLを抜き取り、これに68.5 mgの硫酸水素テトラブチルアンモニウムを溶解させて調製した。
【0181】
実施例3-1-2:0.05 M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液 (2% TIPS)の調製
0.05 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/ HFIP溶液(2% TIPS)は、HFIP(11.66 mL), TIPS (0.24 mL),DCE (0.10 mL)を混合した溶液から4 mLを抜き取り、これに34.3 mgの硫酸水素テトラブチルアンモニウムを溶解させて調製した。
【0182】
以下のmethod AもしくはmethodBによって、側鎖に保護基の付いたFmoc-アミノ酸、または側鎖に保護基の付いたアミノ酸残基を含むペプチドの脱保護を行った。
【0183】
実施例3-1-3:method A
側鎖に保護基の付いたFmoc-アミノ酸(4.0 umol)とペプチド(既に合成した環状ペプチドPep 1~Pep 6のいずれか(環化後の残渣);最大で3.66 umol)の混合物に対し、0.1 M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液 (2% TIPS) (0.20 mL)もしくは0.05 M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液 (2% TIPS) (0.40 mL)を加えて3分間振とうし、その後25度にて静置し、一定時間後にLCMS(FA05)を測定した。脱保護の進行は、脱保護体と被保護体のUVエリア比より算出した。
【0184】
実施例3-1-4:method B
側鎖に保護基の付いたアミノ酸残基を含むペプチド(既に合成した環状ペプチドPep 1~Pep 6のいずれか(環化後の残渣);最大で3.66 umol)に対し、0.1 M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP (2% TIPS) (0.20mL)もしくは0.05 M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP(2% TIPS) (0.40 mL)を加えて3分間振とうし、その後25度にて静置し、一定時間後にLCMS(FA05)を測定した。脱保護の進行は、脱保護体と被保護体のUVエリア比より算出した。
【0185】
method AおよびmethodBに用いたペプチドは、既に記載の方法によって伸長およびレジンからの切り出しをし、さらに既に記載の方法によって環化反応後、減圧下濃縮を行った残渣をジクロロメタンに溶解して試験管に10等分した後、溶媒を再び減圧下濃縮を行ったものを用いた。
【0186】
【0187】
脱保護後のFmoc-アミノ酸のLCMS測定結果は以下のとおりである。
Fmoc-Tyr(3-F)-OH (run3、run4、run15の脱保護生成物)
LCMS(ESI)m/z=422.3(M+H)+
保持時間:0.73分(分析条件SQDFA05)
Fmoc-MeHis-OH (run5の脱保護生成物)
LCMS(ESI)m/z=392.3(M+H)+
保持時間:0.47分(分析条件SQDFA05)
Fmoc-MeSer-OH (run8の脱保護生成物)
LCMS(ESI)m/z=342.3(M+H)+
保持時間:0.67分(分析条件SQDFA05)
Fmoc-Ser-OH (run10の脱保護生成物)
LCMS(ESI)m/z=328.2(M+H)+
保持時間:0.64分(分析条件SQDFA05)
Fmoc-Pro-OH (run11の脱保護生成物)
LCMS(ESI)m/z=338.3(M+H)+
保持時間:0.75分(分析条件SQDFA05)
Fmoc-D-Tyr-OH (run12~14の脱保護生成物)
LCMS(ESI)m/z=404.3(M+H)+
保持時間:0.72分(分析条件SQDFA05)
【0188】
【化57】
Pep 1(化合物101)の脱保護生成物(run1, run2の脱保護生成物、化合物131)
LCMS(ESI)m/z=1424.0(M+H)
+
保持時間:0.79分(分析条件SQDFA05)
【0189】
【化58】
Pep 2(化合物102)の脱保護生成物(run6の脱保護生成物、化合物132)
LCMS(ESI)m/z=1526.3(M+H)
+
保持時間:0.89分(分析条件SQDFA05)
【0190】
【化59】
Pep 3(化合物103)の脱保護生成物(run7の脱保護生成物、化合物133)
LCMS(ESI)m/z=1474.1(M+H)
+
保持時間:0.78分(分析条件SQDFA05)
【0191】
【化60】
Pep 5(化合物105)の脱保護生成物(run9の脱保護生成物、化合物135)
LCMS(ESI)m/z=1331.7(M+H)
+
保持時間:0.74分(分析条件SQDFA05)
【0192】
この結果から、これらの保護基は0.1 M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP (2% TIPS)もしくは0.05 M硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP (2% TIPS)の条件にて脱保護が進行することが確認できた。
【0193】
なお、側鎖の保護基は、TFE-DCM (1/1, v/v)溶液、もしくはTFE-DCM(1/1,v/v)/DIPEA(用いたレジンのローディング量に用いたレジン量をかけて出した理論量のモル数に対して1.8equiv.を添加)溶液を用いたペプチド切り出し条件では影響を受けない。よって、切り出し工程に続く、ペプチド主鎖のN末端とAsp側鎖のカルボン酸部位での分子内環化では、アミノ酸側鎖官能基は保護されたまま維持される。これにより、アミノ酸側鎖の官能基が求核種として作用する、望ましくない環化反応を抑制できる。
【0194】
3-2.Fmoc-アミノ酸の側鎖官能基の保護基を上記弱酸溶液で脱保護した際の、加水分解およびN→O-アシルシフト体生成の抑制可能性
【0195】
実施例3-2-1:
H-Ala-Trp-Nle-Trp-D-Tyr(tBu)-MeGly-MeAla-MePhe(3-Cl)-MeGly-nPrGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物(化合物101、Pep1)の、0.1 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/ HFIP溶液(2% TIPS)を脱保護条件として用いた脱保護
Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pip (化合物50、レジン担持量:0.342 mmol/g, 100 mg)をレジンとして用い、既に記載の方法にてH-Ala-Trp-Nle-Trp-D-Tyr(tBu)-MeGly-MeAla-MePhe(3-Cl)-MeGly-nPrGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物(化合物101)を合成した。環化後、減圧下濃縮を行った残渣をジクロロメタンに溶解して試験管に10等分した後、溶媒を再び減圧下濃縮を行った。
この10等分した1つの試験管に対し、0.1 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/ HFIP溶液(2% TIPS)(HFIP:11.66 mL, TIPS: 0.24 mL, DCE:0.10 mLを混合した溶液から4 mLを抜き取り、これに68.5mgの硫酸水素テトラメチルアンモニウムを溶解させたもの)を0.20 mL加えた。ラバーセプタムにて試験管に栓をし、3分間振とうしたのちに25度にて24時間静置し、LCMS(FA05)にて反応の確認を行ったところ、側鎖の脱保護(D-Tyr(tBu)のtBu基の脱保護)の完結が確認できた。またこのとき、目的の脱保護されたペプチド(化合物131)と、加溶媒分解体(ペプチドのいずれかのアミド結合が溶媒であるHFIPにて加溶媒分解されたもののマススペクトルを示す化合物)と、加水分解体(ペプチドのいずれかのアミド結合が水分にて加溶媒分解されたもののマススペクトルを示す化合物)の比は72:10:18であった(
図2)。なお、本実施例に記載の「TM+H
2O」とは、目的物のいずれかのアミド結合の1つが加水分解を受けた化合物を表し、「TM+HFIP」とは、目的物のいずれかのアミド結合の1つがHFIPによって加溶媒分解を受けた化合物を表す。
【0196】
図2のデータを以下に示す。
目的のペプチド(化合物131)
LCMS(ESI)m/z=1424.0(M+H)
+
保持時間:0.79分(分析条件SQDFA05)
加水分解体(TM+H
2O)
LCMS(ESI)m/z=1442.0(M+H)
+
保持時間:0.61分(分析条件SQDFA05)
HFIPによる加溶媒分解体(TM+HFIP)
LCMS(ESI)m/z=1592.0(M+H)
+
保持時間:0.69分、0.71分(分析条件SQDFA05)
【0197】
実施例3-2-2:
H-Ala-Trp-Nle-Trp-D-Tyr(tBu)-MeGly-MeAla-MePhe(3-Cl)-MeGly-nPrGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物(化合物101、Pep1)の、0.05 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/ HFIP溶液(2% TIPS)を脱保護条件として用いた脱保護
化合物101(Pep1)を合成した後、上記の操作において10等分した別の1つに対し、0.05 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/ HFIP溶液(2% TIPS)(HFIP:11.66 mL, TIPS: 0.24 mL, DCE:0.10 mLを混合した溶液から4 mLを抜き取り、これに34.3mgの硫酸水素テトラメチルアンモニウムを溶解させたもの)を0.40 mL加えた。ラバーセプタムにて試験管に栓をし、3分間振とうしたのちに25度にて24時間静置し、LCMS(FA05)にて反応の確認を行った。その結果、側鎖の脱保護(D-Tyr(tBu)のtBu基の脱保護)は81%進行し、このとき、目的の脱保護されたペプチド(化合物131)と、加溶媒分解体(ペプチドのいずれかのアミド結合が溶媒であるHFIPにて加溶媒分解されたもののマスを示す化合物)と、加水分解体(ペプチドのいずれかのアミド結合が水分にて加水分解されたもののマスを示す化合物)の比は93:3:4であった(
図3)。なお、「TM+H
2O」とは、目的物のいずれかのアミド結合の1つが加水分解を受けた化合物を表す。同様に、「TM+HFIP」とは、目的物のいずれかのアミド結合の1つがHFIPによって加溶媒分解を受けた化合物を表す。
【0198】
図3のデータを以下に示す。
目的のペプチド(化合物131)
LCMS(ESI)m/z=1424.1(M+H)
+
保持時間:0.79分(分析条件SQDFA05)
加水分解体
LCMS(ESI)m/z=1442.0(M+H)
+
保持時間:0.61分(分析条件SQDFA05)
HFIPによる加溶媒分解体
LCMS(ESI)m/z=1592.0(M+H)
+
保持時間:0.69分、0.71分(分析条件SQDFA05)
【0199】
後述の比較例のとおり、H-Ala-Trp-Nle-Trp-D-Tyr(tBu)-MeGly-MeAla-MePhe(3-Cl)-MeGly-nPrGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物(化合物101、Pep1)は、5% TFA/DCEの条件にて脱保護すると、25度で2時間半後には加水分解が87%進行してしまった。
これに対して、同じペプチド配列に対して、5% TFAの替わりに0.1 Mまたは0.05Mの硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP (2% TIPS)を用いることで、加水分解体(および加溶媒分解体)の生成を大幅に低減することができた。またこの結果は、TFAよりも弱酸となる条件を満たせば、弱酸の濃度を任意に調節できる可能性を示唆する。
【0200】
実施例3-2-3:
H-g-EtAbu-MeSer(DMT)-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser(Trt)-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物(化合物103、Pep3)の、0.05 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/ HFIP溶液(2% TIPS)を脱保護条件として用いた脱保護
Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pip (化合物50、ローディング:0.316 mmol/g, 100 mg)をレジンとして用い、既に記載の方法にてH-g-EtAbu-MeSer(DMT)-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser(Trt)-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物(化合物103、Pep3)を合成した。環化後、減圧下濃縮を行った残渣をジクロロメタンに溶解して試験管に10等分した後、溶媒を再び減圧下濃縮を行った。
この10等分した1つの試験管に対し、0.05 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/ HFIP溶液(2% TIPS)(HFIP:11.66 mL, TIPS: 0.24 mL, DCE:0.10 mLを混合した溶液から4 mLを抜き取り、これに34.3mgの硫酸水素テトラメチルアンモニウムを溶解させたもの)を0.40 mL加えた。ラバーセプタムにて試験管に栓をし、3分間振とうしたのちに25度にて静置し、4時間の段階でLCMS(SQDFA05)にて反応の確認を行った。その結果、側鎖の脱保護(MeSer(DMT)のDMT基の脱保護、およびSer(Trt)のTrt基の脱保護)の完結が確認できた。またこのとき、脱保護された目的のペプチド(化合物133、H-g-EtAbu-MeSer-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物)と、目的のペプチドのN→O-アシルシフト体(デプシペプチド)のLCでのUVエリア比は、96:4であった。反応開始から22時間、25度で静置した段階でLCMS(SQDFA05)の測定を行った結果は、脱保護された目的のペプチド(化合物133、H-g-EtAbu-MeSer-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物)と、目的のペプチドのN→O-アシルシフト体(デプシペプチド)のLCでのUVエリア比は、83:17であった(
図4)。
【0201】
図4のデータを以下に示す。
目的のペプチド(化合物133、H-g-EtAbu-MeSer-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物)
LCMS(ESI)m/z=1474.1(M+H)
+
保持時間:0.78分(分析条件SQDFA05)
N→O-アシルシフト体
LCMS(ESI)m/z=1474.1(M+H)
+
保持時間:0.64分(分析条件SQDFA05)
【0202】
後述のとおり、H-g-EtAbu-MeSer(DMT)-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser(Trt)-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物(化合物103、Pep3)は、5% TFA/DCEの条件にて脱保護すると、25度で2時間後にはN→O-アシルシフトが70%進行してしまった。
これに対し、同じペプチド配列に対して、5% TFAの替わりに0.05 Mの硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP (2% TIPS)を用いることで、N→O-アシルシフト体の生成を大幅に低減することができた。
【0203】
実施例3-2-4:
H-Ala-Trp-Nle-Trp-D-Tyr(tBu)-MeGly-MeAla-MePhe(3-Cl)-MeGly-nPrGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物(化合物101、Pep1)の、0.05 M シュウ酸/HFIP溶液(2% TIPS)を脱保護条件として用いた脱保護
化合物101(Pep1)を合成した後、上記の操作において10等分した別の1つに対し、0.05 M シュウ酸/ HFIP溶液(2%TIPS)(HFIP:11.66 mL, TIPS: 0.24 mL, DCE: 0.10 mLを混合した溶液から4 mLを抜き取り、これに18.0 mgのシュウ酸を溶解させたもの)を0.40 mL加えた。ラバーセプタムにて試験管に栓をし、3分間振とうしたのちに25度にて4時間静置し、LCMS(FA05)にて反応の確認を行った。その結果、側鎖の脱保護(D-Tyr(tBu)のtBu基の脱保護)は完結し、このとき、目的の脱保護されたペプチド(化合物131)と、加溶媒分解体(ペプチドのいずれかのアミド結合が溶媒であるHFIPにて加溶媒分解されたもののマスを示す化合物)と、加水分解体(ペプチドのいずれかのアミド結合が水分にて加水分解されたもののマスを示す化合物)の比は79:17:4であった(
図5)。なお、「TM+H
2O」とは、目的物のいずれかのアミド結合の1つが加水分解を受けた化合物を表す。同様に、「TM+HFIP」とは、目的物のいずれかのアミド結合の1つがHFIPによって加溶媒分解を受けた化合物を表す。
【0204】
図5のデータを以下に示す。
目的のペプチド(化合物131)
LCMS(ESI)m/z=1423.5(M+H)
+
保持時間:0.79分(分析条件SQDFA05)
加水分解体
LCMS(ESI)m/z=1441.5(M+H)
+
保持時間:0.61分(分析条件SQDFA05)
HFIPによる加溶媒分解体
LCMS(ESI)m/z=1591.5(M+H)
+
保持時間:0.68分、0.71分(分析条件SQDFA05)
【0205】
実施例3-2-5:
H-Ala-Trp-Nle-Trp-D-Tyr(tBu)-MeGly-MeAla-MePhe(3-Cl)-MeGly-nPrGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物(化合物101、Pep1)の、0.05 M マレイン酸/HFIP溶液(2% TIPS)を脱保護条件として用いた脱保護
化合物101(Pep1)を合成した後、上記の操作において10等分した別の1つに対し、0.05 M マレイン酸/ HFIP溶液(2% TIPS)(HFIP: 11.66 mL, TIPS: 0.24 mL,DCE:0.10 mLを混合した溶液から4 mLを抜き取り、これに23.2mgのシュウ酸を溶解させたもの)を0.40 mL加えた。ラバーセプタムにて試験管に栓をし、3分間振とうしたのちに25度にて4時間静置し、LCMS(FA05)にて反応の確認を行った。その結果、側鎖の脱保護(D-Tyr(tBu)のtBu基の脱保護)は完結し、このとき、目的の脱保護されたペプチド(化合物131)と、加溶媒分解体(ペプチドのいずれかのアミド結合が溶媒であるHFIPにて加溶媒分解されたもののマスを示す化合物)と、加水分解体(ペプチドのいずれかのアミド結合が水分にて加水分解されたもののマスを示す化合物)の比は81:12:7であった(
図6)。なお、「TM+H
2O」とは、目的物のいずれかのアミド結合の1つが加水分解を受けた化合物を表す。同様に、「TM+HFIP」とは、目的物のいずれかのアミド結合の1つがHFIPによって加溶媒分解を受けた化合物を表す。
【0206】
図6のデータを以下に示す。
目的のペプチド(化合物131)
LCMS(ESI)m/z=1423.5(M+H)
+
保持時間:0.79分(分析条件SQDFA05)
加水分解体
LCMS(ESI)m/z=1441.5(M+H)
+
保持時間:0.61分(分析条件SQDFA05)
HFIPによる加溶媒分解体
LCMS(ESI)m/z=1591.4(M+H)
+
保持時間:0.68分、0.71分(分析条件SQDFA05)
【0207】
実施例3-2-6:
H-g-EtAbu-MeSer(DMT)-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser(Trt)-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物(化合物103、Pep3)の、0.05 M シュウ酸/HFIP溶液(2% TIPS)を脱保護条件として用いた脱保護
化合物103(Pep3)を合成した後、上記の操作において10等分した別の1つに対し、0.05 M シュウ酸/ HFIP溶液(2%TIPS)(HFIP: 11.66 mL, TIPS: 0.24 mL, DCE: 0.10 mLを混合した溶液から4 mLを抜き取り、これに18.0 mgのシュウ酸を溶解させたもの)を0.40 mL加えた。ラバーセプタムにて試験管に栓をし、3分間振とうしたのちに25度にて4時間静置し、LCMS(SQDFA05)にて反応の確認を行った。その結果、側鎖の脱保護(MeSer(DMT)のDMT基の脱保護、およびSer(Trt)のTrt基の脱保護)の完結が確認できた。またこのとき、脱保護された目的のペプチド(化合物133、H-g-EtAbu-MeSer-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物)と、目的のペプチドのN→O-アシルシフト体(デプシペプチド)のLCでのUVエリア比は、86:14であった(
図7)。
【0208】
図7のデータを以下に示す。
目的のペプチド(化合物133、H-g-EtAbu-MeSer-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物)
LCMS(ESI)m/z=1473.5(M+H)
+
保持時間:0.78分(分析条件SQDFA05)
N→O-アシルシフト体
LCMS(ESI)m/z=1473.5(M+H)
+
保持時間:0.64分(分析条件SQDFA05)
【0209】
実施例3-2-7:
H-g-EtAbu-MeSer(DMT)-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser(Trt)-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物(化合物103、Pep3)の、0.05 M マレイン酸/HFIP溶液(2% TIPS)を脱保護条件として用いた脱保護
化合物103(Pep3)を合成した後、上記の操作において10等分した別の1つに対し、0.05 M マレイン酸/ HFIP溶液(2% TIPS)(HFIP: 11.66 mL, TIPS: 0.24 mL,DCE:0.10 mLを混合した溶液から4 mLを抜き取り、これに23.2mgのシュウ酸を溶解させたもの)を0.40 mL加えた。ラバーセプタムにて試験管に栓をし、3分間振とうしたのちに25度にて4時間静置し、LCMS(SQDFA05)にて反応の確認を行った。その結果、側鎖の脱保護(MeSer(DMT)のDMT基の脱保護、およびSer(Trt)のTrt基の脱保護)の完結が確認できた。またこのとき、脱保護された目的のペプチド(化合物133、H-g-EtAbu-MeSer-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物)と、目的のペプチドのN→O-アシルシフト体(デプシペプチド)のLCでのUVエリア比は、86:14であった(
図8)。
【0210】
図8のデータを以下に示す。
目的のペプチド(化合物133、H-g-EtAbu-MeSer-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物)
LCMS(ESI)m/z=1473.5(M+H)
+
保持時間:0.79分(分析条件SQDFA05)
N→O-アシルシフト体
LCMS(ESI)m/z=1473.5(M+H)
+
保持時間:0.64分(分析条件SQDFA05)
【0211】
これらの結果より、弱酸として硫酸水素テトラメチルアンモニウム(pKa 2.0)の替わりに、シュウ酸(pKa 1.23)やマレイン酸(pKa 1.92)を用いた場合でも、加水分解や加溶媒分解、N→O-アシルシフトを抑えながら脱保護を進行させることができた。
【0212】
実施例3-2-8:
H-Ala-Phe(4-CF3)-Trp-Trp-MeLeu-MeGly-MeGly-Pro-Hyp(Et)-Ser(Trt)-Asp-pip(tBu)のN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物(化合物107、Pep7)の、0.05 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP (2% TIPS)を脱保護条件として用いた脱保護と、0.05 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/TFE (2% TIPS)を脱保護条件として用いた脱保護との比較
Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-piptBu (化合物52、ローディング:0.356 mmol/g, 100 mg)をレジンとして用い、既に記載の方法にてH-Ala-Phe(4-CF3)-Trp-Trp-MeLeu-MeGly-MeGly-Pro-Hyp(Et)-Ser(Trt)-Asp-pip(tBu)のN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物(化合物107)を合成した。環化後、減圧下濃縮を行った残渣をジクロロメタンに溶解して試験管に10等分した後、溶媒を再び減圧下留去した。
この10等分した1つの試験管に対し、0.05 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP溶液 (2% TIPS) (HFIP:23.32 mL, TIPS: 0.48 mL,DCE: 0.20 mLを混合した溶液に205.8 mgの硫酸水素テトラメチルアンモニウムを溶解させたもの)を0.40 mL加えた。ラバーセプタムにて試験管に栓をし、25度にて4時間静置し、LCMS(FA05)にて反応の確認を行った。その結果、側鎖の脱保護(Ser(Trt)のTrt基の脱保護)は完結し、このとき、脱保護された目的のペプチド(化合物137)と、加溶媒分解体(ペプチドのいずれかのアミド結合が溶媒であるHFIPにて加溶媒分解されたもののマスを示す化合物)とのUVエリア比は53:47であった(
図9)。なお、「TM+HFIP」とは、目的物のいずれかのアミド結合の1つがHFIPによって加溶媒分解を受けた化合物を表す。
【0213】
【0214】
図9のデータを以下に示す。
目的のペプチド(化合物137)
LCMS(ESI)m/z=1492.1(M+H)
+
保持時間:0.90分(分析条件SQDFA05)
HFIPによる加溶媒分解体(いずれかのアミド結合がHFIPによって加溶媒分解を受けたもの)
LCMS(ESI)m/z=1660.1(M+H)
+
保持時間:0.78分(分析条件SQDFA05)
【0215】
10等分した他のもう1つの試験管に対し、0.05 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/TFE溶液 (2% TIPS) (TFE:23.32 mL, TIPS: 0.48 mL,DCE: 0.20 mLを混合した溶液に205.8 mgの硫酸水素テトラメチルアンモニウムを溶解させたもの)を0.40 mL加えた。ラバーセプタムにて試験管に栓をし、25度にて静置し、LCMS(FA05)にて反応の確認を行った。その結果、4時間後には側鎖の脱保護(Ser(Trt)のTrt基の脱保護)は96%進行し、このとき、加溶媒分解体(ペプチドのいずれかのアミド結合が溶媒であるTFEにて加溶媒分解されたもののマスを示す化合物)はLCMSにて検出限界以下であった。反応を20時間後に確認したところ、側鎖の脱保護(Ser(Trt)のTrt基の脱保護)は完結し、このとき、脱保護された目的のペプチド(化合物137)と、加溶媒分解体(ペプチドのいずれかのアミド結合が溶媒であるTFEにて加溶媒分解されたもののマスを示す化合物)とのUVエリア比は97:3であった(
図10)。なお、本実施例中に記載の「TM+TFE」とは、目的物(TM)がTFEによって溶媒和された化合物(任意のアミド結合の1つがTFEによって加溶媒分解を受けた化合物)を表す。
【0216】
図10のデータを以下に示す。
目的のペプチド(化合物137)
LCMS(ESI)m/z=1492.2(M+H)
+
保持時間:0.90分(分析条件SQDFA05)
TFEによる加溶媒分解体(いずれかのアミド結合がTFEによって加溶媒分解を受けたもの)
LCMS(ESI)m/z=1592.0(M+H)
+
保持時間:0.75分(分析条件SQDFA05)
【0217】
以上の結果は、弱酸を溶解させる溶媒としてHFIPの替わりにTFEを用いることが可能であることを示した。またこの結果は、YOTs値が正の値であり、溶媒自体が弱酸性であり(水中でのpKaが5~14)、かつ求核性が低いという条件を満たせば、任意の溶媒を用い得る可能性を示唆する。
【0218】
実施例3-2-9:
0.1 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/ HFIP溶液(2% TIPS)を脱保護条件として用いた脱保護、およびその溶液に塩基(DIPEA)を加えての反応停止
Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pip (化合物50、ローディング:0.342 mmol/g, 100 mg)をレジンとして用い、既に記載の方法にてH-Ala-Trp-Nle-Trp-Ser(Trt)-Gly-MeAla-MePhe(3-Cl)-MeGly-Pro-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物(化合物105、Pep5)を合成した。環化後、減圧下濃縮を行った残渣をジクロロメタンに溶解して試験管に10等分した後、溶媒を再び減圧下濃縮を行った。
この10等分した2つの試験管に対し、それぞれ0.1 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/ HFIP溶液(2% TIPS)(HFIP:11.66 mL, TIPS: 0.24 mL, DCE:0.10 mLを混合した溶液から4 mLを抜き取り、これに68.5mgの硫酸水素テトラブチルアンモニウムを溶解させたもの)を0.40 mL加えた。ラバーセプタムにて栓をし、3分間振とうしたのちに25度にて4時間静置し、LCMS(SQDFA05)にて反応の確認を行った。その結果、側鎖の脱保護(Ser(Trt)のTrt基の脱保護)は完結し、このとき、目的の脱保護されたペプチド(化合物135)以外の加媒分解体(ペプチドのいずれかのアミド結合が溶媒であるHFIPにて加溶媒分解されたもののマスを示す化合物)や、加水分解体(ペプチドのいずれかのアミド結合が水分にて加溶媒分解されたもののマスを示す化合物)のマスを示すピークは検出されなかった(
図11)。この反応混合物にそれぞれジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、14 μL, 硫酸水素テトラメチルアンモニウムに対して2等量)を加えて1つの試験管は25度にて18時間静置をし、もう1つの試験管は減圧下濃縮を行った。これらのLCMS(SQDFA05)を測定したところ、脱保護された目的のペプチド以外の加溶媒分解体や加水分解体のマスを示すピークは、この時点でも検出されなかった(
図11)。
【0219】
【0220】
図11のデータを以下に示す。
目的のペプチド(化合物135)
LCMS(ESI)m/z=1331.9(M+H)
+
保持時間:0.74分(分析条件SQDFA05)
【0221】
実施例3-2-10:
0.1 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/ HFIP溶液(2% TIPS)を脱保護条件として用いた脱保護、およびその溶液に塩基(DIPEA)を加えての反応停止
Fmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pip (化合物50、ローディング:0.316 mmol/g, 100 mg)をレジンとして用い、既に記載の方法にてH-g-EtAbu-MeSer(DMT)-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser(Trt)-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAspの側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した環状化合物(化合物103、Pep3)を合成した。環化後、減圧下濃縮を行った残渣をジクロロメタンに溶解して試験管に10等分した後、溶媒を再び減圧下濃縮を行った。
この10等分した2つの試験管に対し、それぞれに0.1 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/ HFIP溶液(2% TIPS)(HFIP:11.66 mL, TIPS: 0.24 mL, DCE:0.10 mLを混合した溶液から4 mLを抜き取り、これに68.5mgの硫酸水素テトラメチルアンモニウムを溶解させたもの)を0.40 mL加えた。ラバーセプタムにて試験管に栓をし、3分間振とうしたのちに25度にて4時間静置し、LCMS(FA05)にて反応の確認を行った。その結果、側鎖の脱保護(MeSer(DMT)のDMT基の脱保護、およびSer(Trt)のTrt基の脱保護)は完結し、脱保護された目的のペプチド(化合物133)と、目的のペプチドのN→O-アシルシフト体(デプシペプチド)のLCでのUVエリア比は、93:7であった。
この反応混合物にそれぞれジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、14 μL, 硫酸水素テトラメチルアンモニウムに対して2等量)を加えて1つの試験管は25度にて18時間静置をし、もう1つの試験管はDIPEAを加えた直後に減圧下濃縮を行った。これらのLCMS(FA05)を測定したところ、18時間静置したものに関しては目的ペプチドとそのN→O-アシルシフト体のUVエリア比は変化せず、減圧下濃縮を行ったものに関しては、目的ペプチドとそのN→O-アシルシフト体のUVエリア比は98:2となった(
図12)。
【0222】
図12に記載のデータを以下に示す。
目的のペプチド(化合物133)
LCMS(ESI)m/z=1474.1(M+H)
+
保持時間:0.78分(分析条件SQDFA05)
N→O-アシルシフト体
LCMS(ESI)m/z=1474.1(M+H)
+
保持時間:0.64分(分析条件SQDFA05)
【0223】
以上の結果は、脱保護反応終了後(もしくは反応を停止したい時)にDIPEAを加えることで、加水分解(加溶媒分解)やN→O-アシルシフトの問題を抑制した状態で後処理が可能であることを示した。
【0224】
実施例4.側鎖ヒドロキシル基の保護基としてTHP基を用いた場合のThrとMeSerの反応性
伸長反応時の低反応性が懸念されるThrとMeSerの側鎖ヒドロキシル基の保護基としてTHP基を用いた場合の反応性について以下の実験を行った。
【0225】
実施例4-1:
レジン上にて伸長したペプチドで、N末端にN-メチルアミノ基がある化合物(H-MePhe(3-Cl)-D-Tyr(tBu)-Trp-MePhe-Trp-MePhe-Ile-Asp(O-2-Cl-Trt-resin)-pipに対するFmoc-Thr(Trt)-OHとFmoc-Thr(THP)-OH(化合物2)の伸長反応性の比較評価
伸長反応性の比較評価は、立体障害によってアミノ基の反応性が低いMePhe(3-Cl)をN末端に有する配列にて行った。
Fmoc-MePhe(3-Cl)-D-Tyr(tBu)-Trp-MePhe-Trp-MePhe-Ile-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pip(化合物108)は既に記載の方法で調製したFmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pip (化合物50、ローディング:0.329 mmol/g, 100 mg)をレジンとして用い、既に記載の方法にて合成した。
得られたFmoc-MePhe(3-Cl)-D-Tyr(tBu)-Trp-MePhe-Trp-MePhe-Ile-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pip(化合物108)にジクロロメタン(600uL)を加え、30分静置してレジンを膨潤させた。液相を除いた後、続いてレジンをDMF(600uL)にて3度洗浄した。得られたレジンに2% DBU/DMF(v/v,600uL)を加えて20分間振とうさせ、液相を取り除いた。レジンをDMF(600uL)で3度洗浄した。
このレジンに対し、0.60 M Fmoc-Thr(Trt)-OH/0.375 MoxymaのNMP溶液(300 uL)と10%(v/v) DIC/DMF (300uL)とを混合した溶液、もしくは0.60 M Fmoc-Thr(THP)-OH(化合物2)/0.375 M oxymaのNMP溶液(300 uL)と10%(v/v)DIC/DMF (300uL)とを混合した溶液を加えて振とうした。振とう中、1時間、2時間、4時間の段階で反応中のレジンをそれぞれ~10mgずつ取り出し、取りだしたレジンをDMF(600uL)にて3度洗浄し、さらに2% DBU/DMF (v/v, 600uL)を加えて20分間振とうさせ、液相を取り除いた。レジンをDMF(600uL)で3度、さらにジクロロメタン(600uL)で3度洗浄した。
得られたレジンにTFE/DCM (1/1, v/v, 1 mL)を加えて10分間振とうし、レジンをろ過で取り除いた後に、液相を減圧下濃縮した。残渣をLCMS(分析条件SQDFA05)にて分析した。結果を表4に示す。
【0226】
【0227】
表中における未反応体/伸長体の比はLCのUVエリア比を示す。表中の未反応体はH-MePhe(3-Cl)-D-Tyr(tBu)-Trp-MePhe-Trp-MePhe-Ile-Asp-pip(化合物109)を意味し、伸長体は、H-Thr(Trt)-MePhe(3-Cl)-D-Tyr(tBu)-Trp-MePhe-Trp-MePhe-Ile-Asp-pip(化合物110:Fmoc-Thr(Trt)-OHを添加した場合)もしくはH-Thr(THP)-MePhe(3-Cl)-D-Tyr(tBu)-Trp-MePhe-Trp-MePhe-Ile-Asp-pip(化合物111:Fmoc-Thr(THP)-OH を添加した場合)を意味する。
【0228】
【化63】
未反応体(化合物109)
LCMS(ESI)m/z=1422.9(M+H)
+
保持時間:0.77分(分析条件SQDFA05)
【0229】
【化64】
伸長体(Thr(Trt))(化合物110)
LCMS(ESI)m/z=1766.2(M+H)
+
保持時間:0.92分(分析条件SQDFA05)
【0230】
【化65】
伸長体(Thr(THP))(化合物111)
LCMS(ESI)m/z=1608.1(M+H)
+
保持時間:0.80分(分析条件SQDFA05)
【0231】
実施例4-2:
H-b-MeAla-Ile-MeLeu-MeAla-MeLeu-Thr(PG)-MePhe-MeAla-MeLeu-MePhe-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pipを合成機にて合成した際の、Fmoc-Thr(Trt)-OHもしくはFmoc-Thr(THP)-OH(化合物2)の伸長反応性
立体障害によって反応性が低いMePheをN末端に有する配列、およびThrのアミノ基に対して立体的に嵩高いMeLeuをN末端に有する配列に対してThrを伸長することにより、伸長反応性を検討した。
H-b-MeAla-Ile-MeLeu-MeAla-MeLeu-Thr(PG)-MePhe-MeAla-MeLeu-MePhe-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pip(Thr側鎖のPGは保護基を表し、本実験ではTrt保護もしくはTHP保護を表す)は、既に記載の方法で調製したFmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pip(化合物50、100 mg)をレジンとして用い、既に実施例に記載のFmoc法によるペプチド合成法に従い、ペプチドの伸長を行った。その際に、Thrの伸長においてはFmoc-Thr(Trt)-OHもしくはFmoc-Thr(THP)-OH(化合物2)を用いた。
ペプチドの伸長後、N末端のFmoc基の除去をペプチド合成機上にて行った後、レジンをDMFおよびDCMにて洗浄した。
レジンをDCMにて再膨潤させた後、レジンにTFE/DCM (1/1, v/v, 2 mL)を加えて室温にて2時間振とうし、ペプチドのレジンからの切り出しを行った。続いてチューブ内の溶液を合成用カラムでろ過することによりレジンを除き、残ったレジンをさらにTFE/DCM (1/1, v/v, 1 mL)にて2回洗浄した。
切り出し後、Fmoc-Thr(Trt)-OHを用いた際には、続いて4N HCl/1,4-ジオキサン(19.5 uL)とTIPS (0.25 mL)とDCM (0.73 mL)を混合した溶液を用いて25度にて5分間振とうしてThr(Trt)のTrt基の脱保護をおこない、続いてDIPEA (24 uL)を加えることで酸の中和をし、LCMSにて伸長反応性を検討した。
【0232】
この生成物のLCMSの結果を
図13に示す。目的のペプチド(化合物112、H-b-MeAla-Ile-MeLeu-MeAla-MeLeu-Thr-MePhe-MeAla-MeLeu-MePhe-Asp-pip)と目的のペプチドからThrが抜けたもの(化合物113、H-b-MeAla-Ile-MeLeu-MeAla-MeLeu-MePhe-MeAla-MeLeu-MePhe-Asp-pip)が同じ保持時間0.69分において見られた。またMS(ネガティブモード)より、Thrが脱落したペプチドがおよそ30%含まれていた。
【0233】
【0234】
図13のデータを以下に示す。
目的物(化合物112、H-b-MeAla-Ile-MeLeu-MeAla-MeLeu-Thr-MePhe-MeAla-MeLeu-MePhe-Asp-pip)
LCMS(ESI)m/z=1373.6(M+H)
+
保持時間:0.69分(分析条件SQDAA50)
【0235】
【化67】
目的物-Thr(化合物113、H-b-MeAla-Ile-MeLeu-MeAla-MeLeu-MePhe-MeAla-MeLeu-MePhe-Asp-pip)
LCMS(ESI)m/z=1272.6(M+H)
+
保持時間:0.69分(分析条件SQDAA50)
【0236】
この生成物のLCMSの結果を
図14に示す。Fmoc-Thr(Trt)-OHを添加した場合とは対象的に、Fmoc-Thr(THP)-OHを添加した場合は、目的のペプチド(化合物114、H-b-MeAla-Ile-MeLeu-MeAla-MeLeu-Thr(THP)-MePhe-MeAla-MeLeu-MePhe-Asp-pip)からThrが脱落したもの(化合物113、H-b-MeAla-Ile-MeLeu-MeAla-MeLeu-MePhe-MeAla-MeLeu-MePhe-Asp-pip)は検出されなかった。なお、Fmoc-Thr(THP)-OH(化合物2)を用いた際には、レジンからの切り出し後に脱保護の操作を行わずに、切り出し溶液をそのままLCMS測定したため、Thr側鎖のTHP保護は残存したままであった。
【0237】
【0238】
図14のデータを以下に示す。
目的物(化合物114)
LCMS(ESI)m/z=1458.1(M+H)
+
保持時間:0.73分(分析条件SQDFA05)
【0239】
以上の結果より、一般的なペプチド合成にてThrを伸長する際に使用されているFmoc-Thr(Trt)-OHと比較してFmoc-Thr(THP)-OH(化合物2)の反応性は高いことが示された。特にN末端がN-アルキル化された嵩高いアミノ基を伸長する際には高い縮合効率が達成できることが示された。また続く伸長反応において、Thr(THP)のN末端アミノ基に対する嵩高いFmoc-アミノ酸(この場合はFmoc-MeLeu-OH)の伸長も問題なく進行することが確認できた。
【0240】
実施例4-2:
H-MeSer(PG)-MeVal-MeHis(Trt)-Tyr(3-F,tBu)-Pro-MeHis(Trt)-Pro-Trp-MePhe(4-Cl)-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-Pro-OPisを合成機にて合成した際の、Fmoc-MeSer(DMT)-OHもしくはFmoc-MeSer(THP)-OH(化合物6)を用いた場合の、MeSerの伸長反応性の確認
H-MeSer(PG)-MeVal-MeHis(Trt)-Tyr(3-F,tBu)-Pro-MeHis(Trt)-Pro-Trp-MePhe(4-Cl)-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-Pro-OPis(MeSer側鎖のPGは保護基を表し、本実験ではDMT保護もしくはTHP保護を表す)は、既に記載の方法で調製したFmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-Pro-OPis(化合物58、ローディング量0.3736 mmol/g、100 mg)をレジンとして用い、既に実施例に記載のFmoc法によるペプチド合成法に従い、ペプチドの伸長を行った。その際に、MeSerの伸長においてはFmoc-MeSer(DMT)-OHもしくはFmoc-MeSer(THP)-OH(化合物6)を用いた。
ペプチドの伸長後、N末端のFmoc基の除去をペプチド合成機上にて行った後、レジンをDMFおよびDCMにて洗浄した。
得られたレジンを減圧下乾燥させた後、それぞれのレジンを30 mgずつ取り出した。
取りだした各々30 mgのレジンをDCMにて再膨潤させた後、レジンにTFE/DCM (1/1, v/v, 2 mL)を加えて室温にて2時間振とうし、ペプチドのレジンからの切り出しを行った。続いてチューブ内の溶液を合成用カラムでろ過することによりレジンを除き、残ったレジンをさらにTFE/DCM (1/1, v/v, 1 mL)にて2回洗浄した。得られた全ての切り出し溶液を混合し、減圧下濃縮した。
得られた残渣に、既に記載の方法にて調製した0.05 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/ HFIP溶液(2% TIPS)を1.3mL加え、残渣を溶解させた後、室温にて1時間静置し、Tyr(3-F)の側鎖tBu保護以外の側鎖保護基(MeSer側鎖のDMT保護もしくはTHP保護、およびMeHis側鎖のTrt保護)および主鎖C末端のPis保護を脱保護し、LCMSを測定することで、反応の確認をおこなった。
【0241】
Fmoc-MeSer(DMT)-OH・0.75 DIPEAを用いて合成を行った場合のLCMSの結果を
図15に示す。目的のペプチド(化合物115、H-MeSer-MeVal-MeHis-Tyr(3-F,tBu)-Pro-MeHis-Pro-Trp-MePhe(4-Cl)-Asp-Pro-OH)と目的のペプチドからMeSerが抜けた化合物(化合物116、H-MeVal-MeHis-Tyr(3-F,tBu)-Pro-MeHis-Pro-Trp-MePhe(4-Cl)-Asp-Pro-OH)が同じ保持時間0.50分に見られた。
またMS(ネガティブモード)より、MeSerが抜けたペプチド(化合物116、H-MeVal-MeHis-Tyr(3-F,tBu)-Pro-MeHis-Pro-Trp-MePhe(4-Cl)-Asp-Pro-OH)が50%含まれていることが分かった。
【0242】
【0243】
図15のデータを以下に示す。
目的物(化合物115)
LCMS(ESI)m/z=1559.7(M+H)
+
保持時間:0.50分(分析条件SQDFA50)
目的物-MeSer(化合物116)
LCMS(ESI)m/z=1458.8(M+H)
+
保持時間:0.50分(分析条件SQDFA50)
【0244】
【0245】
これに対し、Fmoc-MeSer(THP)-OH(化合物6)を用いて合成を行った場合のLCMSの結果を
図16に示す。目的のペプチド(化合物115、H-MeSer-MeVal-MeHis-Tyr(3-F,tBu)-Pro-MeHis-Pro-Trp-MePhe(4-Cl)-Asp-Pro-OH)と目的のペプチドからMeSerが抜けた化合物(化合物116)が同じ保持時間0.50分において見られたものの、MS(ネガティブモード)より、MeSerが抜けたペプチド(化合物116、H-MeVal-MeHis-Tyr(3-F,tBu)-Pro-MeHis-Pro-Trp-MePhe(4-Cl)-Asp-Pro-OH)は10%以下であることが確認された。
【0246】
図16のデータを以下に示す。
目的物(化合物115)
LCMS(ESI)m/z=1559.7(M+H)
+
保持時間:0.50分(分析条件SQDFA50)
目的物-MeSer(化合物116)
LCMS(ESI)m/z=1458.7(M+H)
+
保持時間:0.50分(分析条件SQDFA50)
【0247】
以上の結果より、Fmoc-MeSer(DMT)-OHと比較してFmoc-MeSer(THP)-OH(化合物6)の反応性は高く、N末端がN-メチル化されたアミノ基に対する伸長の際には高い縮合効率が達成できることが示された。
【0248】
5.5% TFA中での環化したペプチドの脱保護(比較例)
【0249】
比較例1:
H-Ala-Trp-Nle-Trp-D-Tyr(tBu)-MeGly-MeAla-MePhe(3-Cl)-MeGly-nPrGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAsp側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した化合物(化合物101、Pep-1)の側鎖保護基の脱保護(D-Tyr(tBu)のtBu保護の脱保護)(5% TFA/DCE (5% TIPS)を用いた場合)
既に記載の方法にて合成したFmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pip(化合物50、レジン担持量0.373mmol/g、100 mg)を用いて、合成機上でペプチド伸長を行い、H-Ala-Trp-Nle-Trp-D-Tyr(tBu)-MeGly-MeAla-MePhe(3-Cl)-MeGly-nPrGly-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pipを得た。
続いてDCMにてレジンを再膨潤させた後、レジンにTFE/DCM (1/1, v/v, 2mL)を加えて室温にて2時間振とうし、ペプチドのレジンからの切り出しを行った。続いてチューブ内の溶液を合成用カラムでろ過することによりレジンを除き、残ったレジンをさらにTFE/DCM (1/1, v/v, 1 mL)にて2回洗浄した。得られた全ての切り出し溶液を混合し、減圧下濃縮した。
得られた残渣をDMF/DCM (1/1, v/v, 8 mL)に溶解し、O-(7-アザ-1Hベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N,N-テトラメチルウロニウム ヘキサフルオロホスフェート(HATU、21 mg)/DMF溶液(0.5 M)と、DIPEA(12 μL)/DMF(88 μL)溶液を加え、室温にて2時間攪拌した。LCMS測定(分析条件SQDFA05)にて反応の確認をし、H-Ala-Trp-Nle-Trp-D-Tyr(tBu)-MeGly-MeAla-MePhe(3-Cl)-MeGly-nPrGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAsp側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した化合物(化合物101、Pep-1)の生成を確認した。
LCMS(ESI)m/z=1480.0(M+H)
+
保持時間:0.93分(分析条件SQDFA05)
その後、減圧下溶媒を留去し、得られた残渣に5% TFA/DCE (5% TIPS) (8 mL, 含有水分量は<200 ppmであることをカールフィッシャー測定にて確認)を加えて2時間30分攪拌した。減圧下、溶媒を留去し、残渣のLCMS(FA05)測定を行ったところ、目的物であるH-Ala-Trp-Nle-Trp-D-Tyr-MeGly-MeAla-MePhe(3-Cl)-MeGly-nPrGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAsp側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した化合物(化合物131)と、その加水分解体(いずれかのアミド結合が加水分解されたもの)のMSが確認され、対応するUVエリアの比は13:87であった(
図17)。LCの測定結果を
図17に示す。なお、本実施例中に記載の「TM+H
2O」とは、目的物のいずれかのアミド結合の1つが加水分解を受けた化合物を表す。
【0250】
【0251】
図17のデータを以下に示す。
目的物(化合物131、H-Ala-Trp-Nle-Trp-D-Tyr-MeGly-MeAla-MePhe(3-Cl)-MeGly-nPrGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAsp側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した化合物)
LCMS(ESI)m/z=1424.0(M+H)
+
保持時間:0.79分(分析条件SQDFA05)
加水分解体(H-Ala-Trp-Nle-Trp-D-Tyr-MeGly-MeAla-MePhe(3-Cl)-MeGly-nPrGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAsp側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した化合物の、いずれかのアミド結合が加水分解されたもの)
LCMS(ESI)m/z=1442.0(M+H)
+
保持時間:0.61分(分析条件SQDFA05)
【0252】
この結果より、5% TFA/DCE (5% TIPS)を用いた脱保護においては、高度にN-メチル化されていて特にN-メチルアミノ酸が連続する配列を有する環状ペプチドの場合には、目的物のおよそ9割が加水分解され、目的物の取得が困難になることが確認された。
【0253】
比較例2:
H-g-EtAbu-MeSer(DMT)-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser(Trt)-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAsp側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した化合物(化合物103、Pep3)の側鎖保護基(MeSer側鎖のDMT保護およびSer側鎖のTrt保護)の脱保護(5%TFA/DCE(5% TIPS)を用いた場合)
既に記載の方法にて合成したFmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pip(化合物50、レジン担持量0.316mmol/g、100 mg)を用いて、合成機上でペプチド伸長を行い、H-g-EtAbu-MeSer(DMT)-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser(Trt)-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-pipを得た。
続いてDCMにてレジンを再膨潤させた後、レジンにTFE/DCM (1/1, v/v, 2mL)を加えて室温にて2時間振とうし、ペプチドのレジンからの切り出しを行った。続いてチューブ内の溶液を合成用カラムでろ過することによりレジンを除き、残ったレジンをさらにTFE/DCM (1/1, v/v, 1 mL)にて2回洗浄した。
ペプチドのレジンからの切り出し操作を2度繰り返し、得られた全ての切り出し溶液を混合し、減圧下濃縮した。
得られた残渣をDMF/DCM (1/1, v/v, 8 mL)に溶解し、O-(7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N,N-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU、18 mg)/DMF溶液(0.5 M)と、DIPEA(9.9 μL)/DMF(39.6 μL)溶液を加え、室温にて2時間攪拌した。LCMS測定(SQDFA05)にて反応の確認をしたところ、H-g-EtAbu-MeSer(DMT)-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser(Trt)-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAsp側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した化合物(化合物103、Pep3)からMeSerの側鎖のDMT保護が外れたものが70%(LCMS(ESI) m/z=1716.2 (M+H)
+、保持時間:1.06分)、MeSerの側鎖のDMT保護およびSerの側鎖のTrt保護の両方が外れたものが30%(LCMS(ESI) m/z=1474.1 (M+H)
+、保持時間:0.78分)確認された。割合はLCのUVエリア比によって算出した。その後、減圧下溶媒を留去し、残渣をジクロロメタンに溶解させ、試験管に10等分した。これらを減圧下濃縮し、ジクロロメタンを取り除いた。なお、上述の実施例において使用された「環化後の残渣」とは、この10等分した後に減圧濃縮して得られた残渣のことを指す。
このうちのひとつの試験管に5% TFA/DCE (5% TIPS) (0.8 mL, 含有水分量は32.5 ppm、カールフィッシャーにて測定)を加えて3分間振とうし、その後25度にて2時間静置した。減圧下、溶媒を留去し、残渣のLCMS(FA05)測定を行ったところ、目的物であるH-g-EtAbu-MeSer-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAsp側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した化合物(化合物133)と、目的物のN→O-アシルシフト体と、目的物の1つのヒドロキシル基がTFAエステル化したものと、目的物の2つのヒドロキシル基がTFAエステル化したもののUVエリア比は17:46:32:5であることが確認された。LCの測定結果を
図18に示す。
【0254】
【0255】
図18のデータを以下に示す。
目的のペプチド(化合物133、H-g-EtAbu-MeSer-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAsp側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した化合物)
LCMS(ESI)m/z=1473.8(M+H)
+
保持時間:0.79分(分析条件SQDFA05)
目的物のN→O-アシルシフト体(目的物の2つのヒドロキシル基のうち、いずれかもしくは両方でN→O-アシルシフトが進行した化合物)
LCMS(ESI)m/z=1473.8(M+H)
+
保持時間:0.62分(分析条件SQDFA05)
目的物の1つのヒドロキシル基がTFAエステル化した化合物
LCMS(ESI)m/z=1569.8(M+H)
+
保持時間:0.89分(分析条件SQDFA05)
目的物の2つのヒドロキシル基がTFAエステル化した化合物
LCMS(ESI)m/z=1665.9(M+H)
+
保持時間:0.99分(分析条件SQDFA05)
【0256】
この結果より、MeSerやSerなどのβ-ヒドロキシル基を有するアミノ酸を配列中に含む場合には、5% TFA/DCE (5%TIPS)を用いた脱保護においては、N→O-アシルシフトが進行してしまうことが確認された。またこの条件下での脱保護においては、2つの側鎖ヒドロキシル基のうちのどちらか、もしくは両方がTFAエステル化してしまうことが確認された。これらの望まない反応によって、目的物の取得が困難になることが確認された。
【0257】
N→O-アシルシフト体の生成やヒドロキシル基のTFAエステル化を抑制するのを目的とし、反応温度を0度に低下させた試験、およびTFA濃度を低下させた試験を行った。
【0258】
比較例3:
H-g-EtAbu-MeSer(DMT)-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser(Trt)-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAsp側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した化合物(化合物103、Pep3)の側鎖保護基(MeSer側鎖のDMT保護およびSer側鎖のTrt保護)の脱保護(5%TFA/DCE(5% TIPS)を用いて0度で行った場合)
上記環化後、10等分したうちのひとつの試験管に、5% TFA/DCE (5%TIPS) (0.8 mL, 含有水分量は36.6 ppm、カールフィッシャーにて測定)を0度にて加えて1分間振とうし、その後0度のまま4時間静置した。反応溶液のLCMS(FA05)測定を行ったところ、目的物であるH-g-EtAbu-MeSer-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAsp側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した化合物(化合物133)と、目的物のN→O-アシルシフト体と、目的物の1つのヒドロキシル基がTFAエステル化したものと、目的物のN→O-アシルシフト体の1つのヒドロキシル基がTFAエステル化したもののUVエリア比は56:12:21:11であることが確認された。LCの測定結果を
図19に示す。
【0259】
図19のデータを以下に示す。
目的のペプチド(化合物133、H-g-EtAbu-MeSer-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAsp側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した化合物)
LCMS(ESI)m/z=1473.7(M+H)
+
保持時間:0.78分(分析条件SQDFA05)
目的物のN→O-アシルシフト体(目的物の2つのヒドロキシル基のうち、いずれかもしくは両方でN→O-アシルシフトが進行した化合物)
LCMS(ESI)m/z=1473.7(M+H)
+
保持時間:0.65分(分析条件SQDFA05)
目的物の1つのヒドロキシル基がTFAエステル化した化合物
LCMS(ESI)m/z=1569.7(M+H)
+
保持時間:0.89分(分析条件SQDFA05)
目的物のN→O-アシルシフト体の1つのヒドロキシル基がTFAエステル化した化合物
LCMS(ESI)m/z=1569.7(M+H)
+
保持時間:0.73分(分析条件SQDFA05)
【0260】
比較例4:
H-g-EtAbu-MeSer(DMT)-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser(Trt)-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAsp側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した化合物(化合物103、Pep3)の側鎖保護基(MeSer側鎖のDMT保護およびSer側鎖のTrt保護)の脱保護(2%TFA/DCE (5% TIPS)を用いて25度で行った場合)
上記環化後、10等分したうちのひとつの試験管に、2% TFA/DCE (5%TIPS)(0.8 mL, 含有水分量は30.1 ppm、カールフィッシャーにて測定)を25度にて加えて1分間振とうし、その後室温にて4時間静置した。反応溶液のLCMS(FA05)測定を行ったところ、目的物であるH-g-EtAbu-MeSer-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAsp側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した化合物(化合物133)と、目的物のN→O-アシルシフト体と、目的物の1つのヒドロキシル基がTFAエステル化したものと、目的物の2つのヒドロキシル基がTFAエステル化したものと、目的物のN→O-アシルシフト体の1つのヒドロキシル基がTFAエステル化したもののUVエリア比は30:34:24:3:9であることが確認された。LCの測定結果を
図20に示す。
【0261】
図20のデータを以下に示す。
目的のペプチド(化合物133、H-g-EtAbu-MeSer-Hyp(Et)-Ile-MePhe(3-Cl)-Ser-Trp-Trp-Pro-MeGly-Asp-pipのN末端アミノ基とAsp側鎖カルボン酸とでアミド結合を形成した化合物)
LCMS(ESI)m/z=1473.8(M+H)
+
保持時間:0.78分(分析条件SQDFA05)
目的物のN→O-アシルシフト体(目的物の2つのヒドロキシル基のうち、いずれかもしくは両方でN→O-アシルシフトが進行した化合物)
LCMS(ESI)m/z=1473.8(M+H)
+
保持時間:0.65分(分析条件SQDFA05)
目的物の1つのヒドロキシル基がTFAエステル化した化合物
LCMS(ESI)m/z=1569.8(M+H)
+
保持時間:0.89分(分析条件SQDFA05)
目的物の2つのヒドロキシル基がTFAエステル化した化合物
LCMS(ESI)m/z=1665.7(M+H)
+
保持時間:0.99分(分析条件SQDFA05)
目的物のN→O-アシルシフト体の1つのヒドロキシル基がTFAエステル化した化合物
LCMS(ESI)m/z=1569.8(M+H)
+
保持時間:0.73分(分析条件SQDFA05)
【0262】
以上の結果より、N→O-アシルシフトの問題や化合物中に含まれるヒドロキシル基のTFAエステル化といった問題は、反応温度を低下させることや、より低濃度のTFA溶液を用いるだけでは完全には解決できなかった。
【0263】
実施例6.本発明のパラレル合成(固相法)への適用
【0264】
実施例6-1:
N末端のアミノ基とアスパラギン酸の側鎖カルボン酸基とでアミド環化したペプチド群の合成
C末端がアミド化(ピペリジン、4-(tert-ブチル)ピペリジン、N-メチルオクタン-1-アミンのいずれかにてアミド化)されているか、もしくはC末端にプロリンが結合しているアスパラギン酸の側鎖のカルボン酸基と、N末端の主鎖アミノ基とがアミド結合により環化したペプチド群を合成した。
【0265】
化合物50(化合物48(Fmoc-Asp-pip)を担持させた2-クロロトリチルレジン)もしくは化合物52(化合物51(Fmoc-Asp-piptBu)を担持させた2-クロロトリチルレジン)もしくは化合物55(化合物54(Fmoc-Asp-MeOctyl)を担持させた2-クロロトリチルレジン)もしくは化合物58(化合物57(Fmoc-Asp-Pro-OPis)を担持させた2-クロロトリチルレジン)のいずれか100mgを用い、Fmocアミノ酸として、Fmoc-MeVal-OH、Fmoc-MePhe(3-Cl)-OH(化合物15)、Fmoc-MePhe(4-Cl)-OH(化合物16)、Fmoc-MeHis(Trt)-OH(化合物7)、Fmoc-MePhe-OH、Fmoc-MeSer(DMT)-OH(化合物5)、Fmoc-MeSer(THP)-OH(化合物6)、Fmoc-MeAla-OH、Fmoc-nPrGly-OH(化合物20)、Fmoc-MeGly-OH、Fmoc-Hyp(Et)-OH(化合物18)、Fmoc-Pro-OH、Fmoc-Thr(THP)-OH(化合物2)、Fmoc-Ile-OH、Fmoc-Val-OH、Fmoc-Trp-OH、Fmoc-Tyr(3-F,tBu)-OH(化合物13)、Fmoc-Phe(4-CF3)-OH、Fmoc-Phe(3-Cl)-OH、Fmoc-Ser(Trt)-OH、Fmoc-Met(O2)-OH、Fmoc-b-Ala-OH、Fmoc-Ala-OH、Fmoc-Gly-OHなどを用いてペプチドの伸長を行った。(MeSerの伸長においてはPS-53, PS-54(表5-1)においてはFmoc-MeSer(DMT)-OH(化合物5)を用い、それ以外についてはFmoc-MeSer(THP)-OH(化合物6)を用いた。)既に実施例に記載のFmoc法によるペプチド合成法に従い、ペプチドの伸長を行った。ペプチドの伸長後、N末端のFmoc基の除去をペプチド合成機上にて行った後、レジンをDMFにて洗浄した。
【0266】
続いてDCMにてレジンを再膨潤させた後、レジンにTFE/DCM (1/1, v/v, 2mL)とジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、用いたレジン上のモル数(ローディング量(mmol/g)に使用したレジン量(通常は0.10 g)をかけたもの)に対して1.8等量となる容量)を加えて室温にて2時間振とうし、ペプチドのレジンからの切り出しを行った。続いてチューブ内の溶液を合成用カラムでろ過することによりレジンを除き、残ったレジンをさらにTFE/DCM (1/1, v/v, 1 mL)にて2回洗浄した。得られた全ての切り出し溶液を混合し、減圧下濃縮した。
【0267】
得られた残渣をDMF/DCM (1/1, v/v, 8 mL)に溶解し、0.5 M O-(7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N,N-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)/DMF溶液(用いたレジンのモル数(レジンのローディング量(mmol/g)に使用したレジン量(0.1 g)をかけたもの)に対して1.5等量となる容量)と、DIPEA(用いたレジンのモル数に対して1.8等量)を加え、室温にて2時間攪拌した。その後、減圧下溶媒を留去した。
【0268】
得られた残渣に対して、脱保護は以下のとおり行った。
配列中にTyr(3-F,tBu)を含む場合には、既に記載の方法にて調製した0.1 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/ HFIP溶液(2% TIPS)を2mL加え、残渣を溶解させた後、室温もしくは30度にて24時間静置した。配列中にTyr(3-F)を含まない場合には、既に記載の方法にて調製した0.05 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/ HFIP溶液(2% TIPS)を4mL加え、残渣を溶解させた後、室温にて4時間静置した。一定時間静置した後、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、70 μL)を加え、減圧下溶媒を留去した。
【0269】
減圧下、溶媒を留去した後、DMFに溶解した。不溶物をフィルターろ過にて取り除いた後、preparative-HPLCで精製し、標題のアミド環化した環状ペプチド(PS-1~PS-54)を得た。PS-1~PS-54の配列を表5-1に、構造を表5-2に、また、得られたペプチドのマススペクトルの値と液体クロマトグラフィーの保持時間と純度および収量を表5-3にそれぞれ示す。
【0270】
【0271】
【0272】
【0273】
実施例7.本発明の液相法への適用
液相法での伸長反応を含む合成を以下に示す。
【0274】
部分的な液相法への応用
液相でのFmoc-Ala-OSu(化合物152)とH-Trp-Nle-Trp-Ser(THP)-nPrGly-MePhe(3-Cl)-MeHis(Trt)-MeGly-Pro-Asp-Pro-OPis(化合物151)とのカップリングを含む、環状ペプチド(化合物154、H-Ala-Trp-Nle-Trp-Ser-nPrGly-MePhe(3-Cl)-MeHis-MeGly-Pro-Asp-Pro-OHの主鎖N末端のアミノ基とAspの側鎖カルボン酸基との間でアミド結合を形成した環状ペプチド)の合成
液相法での伸長反応を含む
図21に記載の合成ルートにて、ペプチドの合成を行った。
【0275】
実施例7-1:
H-Trp-Nle-Trp-Ser(THP)-nPrGly-MePhe(3-Cl)-MeHis(Trt)-MeGly-Pro-Asp-Pro-OPis(化合物151)の合成
【化73】
既に記載の方法にて合成したFmoc-Asp(O-Trt(2-Cl)-resin)-Pro-OPis(化合物58、ローディング量0.3736 mmol/g、200 mg)を使用し、既に実施例に記載のFmoc法によるペプチド合成法に従い、ペプチドの伸長を行った。ペプチドの伸長後、N末端のFmoc基の除去をペプチド合成機上にて行った後、レジンをDMFにて洗浄した。
続いてDCMにてレジンを再膨潤させた後、レジンにTFE/DCM (1/1, v/v, 4mL)とジイソプロピルエチルアミン(24 μL)を加えて室温にて2時間振とうし、ペプチドのレジンからの切り出しを行った。続いてチューブ内の溶液を合成用カラムでろ過することによりレジンを除き、残ったレジンをさらにTFE/DCM (1/1, v/v, 2 mL)にて2回洗浄した。得られた全ての切り出し溶液を混合し、減圧下濃縮して、標題の化合物(化合物151、H-Trp-Nle-Trp-Ser(THP)-nPrGly-MePhe(3-Cl)-MeHis(Trt)-MeGly-Pro-Asp-Pro-OPis、113.8 mg)を得た。精製は行わずに次の工程に用いた。
LCMS(ESI)m/z=1860.9(M+H)
+
保持時間:0.72分(分析条件SQDFA05)
【0276】
実施例7-2:
2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)プロパン酸 (S)-2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(化合物152、Fmoc-Ala-OSu)の合成
【化74】
(S)-2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)プロパン酸(Fmoc-Ala-OH、1.00g、3.21 mmol)と1-ヒドロキシピロリジン-2,5-ジオン(HOSu、0.554g、4.82 mmol)とジクロロメタン(6.4 mL)を窒素雰囲気下混合した。この混合物を0度に氷冷し、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSCI・HCl、0.924 g、4.82 mmol)を加え、得られた反応溶液を0度にて1時間、室温にて15時間攪拌した。続いて、減圧下、溶媒を留去し、得られた残渣を逆相シリカゲルクロマトグラフィー(0.1%ギ酸水溶液/0.1%ギ酸アセトニトリル溶液)にて精製し、2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)プロパン酸 (S)-2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(化合物152、Fmoc-Ala-OSu、1.05 g)を得た。
LCMS(ESI)m/z=409.3(M+H)
+
保持時間:0.80分(分析条件SQDFA05)
【0277】
実施例7-3:
2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)プロパン酸 (S)-2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(化合物152、Fmoc-Ala-OSu)とH-Trp-Nle-Trp-Ser(THP)-nPrGly-MePhe(3-Cl)-MeHis(Trt)-MeGly-Pro-Asp-Pro-OPis(化合物151)とのカップリングと、続く脱Fmoc反応
【化75】
得られたH-Trp-Nle-Trp-Ser(THP)-nPrGly-MePhe(3-Cl)-MeHis(Trt)-MeGly-Pro-Asp-Pro-OPis(化合物151、113.8 mg)のジクロロメタン(245 μL)溶液に、2-((((9H-フルオレン-9-イル)メトキシ)カルボニル)アミノ)プロパン酸 (S)-2,5-ジオキソピロリジン-1-イル(化合物152、Fmoc-Ala-OSu、26.2 mg)とジイソプロピルエチルアミン(DIPEA、12.8μL)を加え、25度にて1時間攪拌した。続いて、反応溶液にメチルアミン(40%メタノール溶液、11.9 μL)を加えて30分間攪拌した後、DBU(11.1 μL)を加えてさらに30分間攪拌した。得られた反応溶液を逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(0.1% ギ酸水溶液/0.1% ギ酸アセトニトリル溶液)にて精製を行い、得られたフラクションを凍結乾燥した。得られた残渣をジクロロメタンに溶解させ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と飽和塩化ナトリウム水溶液にて洗浄し、H-Ala-Trp-Nle-Trp-Ser(THP)-nPrGly-MePhe(3-Cl)-MeHis(Trt)-MeGly-Pro-Asp-Pro-OPis(化合物153、79.3 mg、0.041 mmol)を得た。
LCMS(ESI)m/z=1931.8(M+H)
+
保持時間:0.73分(分析条件SQDFA05)
【0278】
実施例7-4:
H-Ala-Trp-Nle-Trp-Ser-nPrGly-MePhe(3-Cl)-MeHis-MeGly-Pro-Asp-Pro-OHのN末端アミノ基とAsp側鎖のカルボン酸基とがアミド環化した化合物(化合物154)の合成(化合物153の環化反応と、続く脱保護反応)
【化76】
得られたH-Ala-Trp-Nle-Trp-Ser(THP)-nPrGly-MePhe(3-Cl)-MeHis(Trt)-MeGly-Pro-Asp-Pro-OPis(化合物153、79.3 mg、0.041 mmol)をDMF(20 mL)とジクロロメタン(20 mL)に溶解させ、HATU(17.2 mg、0.045mmol)とジイソプロピルエチルアミン(10.8 μL、0.062mmol)を加えて、25度にて2時間攪拌した。続いて、減圧下、溶媒を留去した後、0.05 M 硫酸水素テトラメチルアンモニウム/HFIP (2% TIPS)溶液(本実施例に既に記載の方法にて調製、8 mL)を加えて25度にて1時間静置した。得られた反応溶液にジイソプロピルエチルアミン(140 μL)を加え、減圧下、溶媒を留去した。得られた残渣を逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(0.1% ギ酸水溶液/0.1% ギ酸アセトニトリル溶液)にて精製を行い、得られたフラクションを凍結乾燥することで、H-Ala-Trp-Nle-Trp-Ser-nPrGly-MePhe(3-Cl)-MeHis-MeGly-Pro-Asp-Pro-OHのN末端アミノ基とAsp側鎖のカルボン酸基とがアミド環化した化合物(化合物154、59 mg、0.040 mmol、98%)を得た。
LCMS(ESI)m/z=1469.7(M+H)
+
保持時間:0.61分(分析条件SQDFA05)
【0279】
液相でのセグメントカップリングを含む上述のペプチド合成のとおり、本発明の合成法は液相法にも適用可能である。
本発明によれば、医薬品としての有用性が期待できるN-置換アミノ酸を含むペプチドを、高純度かつ高い合成効率にて合成することができる。本発明は、医薬品の原料となりうるN-置換アミノ酸を含むペプチドの工業的な生産の分野等において有用である。