(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163228
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】土壌還元消毒用資材、その製造方法及び土壌還元消毒方法
(51)【国際特許分類】
A01N 65/44 20090101AFI20241114BHJP
A01P 13/00 20060101ALI20241114BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20241114BHJP
A01N 63/32 20200101ALI20241114BHJP
A01N 63/38 20200101ALI20241114BHJP
A01N 63/20 20200101ALI20241114BHJP
C09K 17/32 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
A01N65/44
A01P13/00
A01P3/00
A01N63/32
A01N63/38
A01N63/20
C09K17/32 H
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024151478
(22)【出願日】2024-09-03
(62)【分割の表示】P 2022571616の分割
【原出願日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2020213165
(32)【優先日】2020-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】515067790
【氏名又は名称】イノチオホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】梅村 賢司
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 剛
(72)【発明者】
【氏名】宮地 めぐみ
(57)【要約】
【課題】土壌還元消毒方法を省力的かつ安価に行うことができるようにする。
【解決手段】本発明の土壌還元消毒用資材は、とうもろこしから糖化液又はスターチを製造する際に生じる副産物物と、酵母、乳酸菌及びトリコデルマ菌の少なくとも1種からなる非病原性の土壌病原菌とを備えている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
とうもろこしから糖化液又はスターチを製造する際に生じる副産物と、酵母、乳酸菌及びトリコデルマ菌の少なくとも1種からなる非病原性の土壌病原菌とを備えていることを特徴とする土壌還元消毒用資材。
【請求項2】
竹の粉砕物を備えている請求項1記載の土壌還元消毒用資材。
【請求項3】
前記粉砕物は発酵されている請求項2記載の土壌還元消毒用資材。
【請求項4】
とうもろこしからろ過助剤を用いて糖化液又はスターチを得る第1工程と、
前記ろ過助剤を含む副産物を得る第2工程と、前記副産物に酵母、乳酸菌及びトリコデルマ菌の少なくとも1種からなる非病原性の土壌病原菌を備えさせる第3工程とを備えていることを特徴とする土壌還元消毒用資材の製造方法。
【請求項5】
前記第2工程では、前記副産物に竹の粉砕物を混合する請求項4記載の土壌還元消毒用資材の製造方法。
【請求項6】
前記粉砕物は発酵されている請求項5記載の土壌還元消毒用資材の製造方法。
【請求項7】
前記第1工程は酵素糖化処理を含み、
前記第2工程は前記酵素糖化処理後の前記ろ過助剤を用いている請求項4乃至6のいずれか1項記載の土壌還元消毒用資材の製造方法。
【請求項8】
土壌に土壌還元消毒用資材を混和して混和土壌とする混和工程と、
前記混和工程後、前記混和土壌に灌水をする灌水工程と、
前記灌水工程後、前記混和土壌をシートで被覆し、前記混和土壌を含む前記土壌を還元状態とする還元工程とを備えた土壌還元消毒方法において、
前記土壌還元消毒用資材は、とうもろこしから糖化液又はスターチを製造する際に生じる副産物と、酵母、乳酸菌及びトリコデルマ菌の少なくとも1種からなる非病原性の土壌病原菌とを備えていることを特徴とする土壌還元消毒方法。
【請求項9】
前記土壌還元消毒用資材は、竹の粉砕物を備えている請求項8記載の土壌還元消毒方法。
【請求項10】
前記粉砕物は発酵されている請求項9記載の土壌還元消毒方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌還元消毒用資材、その製造方法及び土壌還元消毒方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エタノール水溶液を土壌還元消毒用資材とする土壌還元消毒方法が開示されている。また、非特許文献1には、グルタミン酸を製造する際に生じる糖含有珪藻土を土壌還元消毒用資材とする土壌還元消毒方法が開示されている。
【0003】
これらの還元消毒方法では、まず混和工程として、土壌に土壌還元消毒用資材を混和して混和土壌とする。そして、灌水工程として、混和工程後の混和土壌に灌水をする。この際、灌水によって土壌還元消毒用資材が含有するエタノールや糖が深層に浸透する。この後、還元工程として、灌水工程後の混和土壌をシートで被覆する。これによって土壌中の微生物(病原菌を含む。以下、同様。)が土壌還元消毒用資材に含まれるエタノールや糖によって急激に繁殖する。特に、晴天の場合には、地温の上昇が進むことにより、微生物の醗酵が促進される。こうして、土壌中の酸素濃度が低下し、処理した土壌ばかりでなく、灌水した水とともにエタノールや糖が下層へと移行した土壌においても還元状態となる。このため、土壌中の土壌病害虫を効果的に防除することができるとともに、雑草の発生を抑制できる。そして、還元消毒後の圃場の作土層では、作物の病害虫からの被害を回避できて収量及び品質の向上が実現し、かつ連作での栽培も可能となる。
【0004】
また、これらの還元消毒方法によれば、米糠やフスマを土壌還元消毒用資材とした従来の還元消毒方法に比べ、土壌の深層でも効果を示すとともに、異臭も抑制可能である。さらに、これらの消毒方法では、エタノール水溶液や糖含有珪藻土等を用いているに過ぎないことから、クロルピクリンを土壌消毒剤とする従来の消毒方法に比べて、作業者や消費者への安全性が高く、環境への負荷は低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】内閣府:SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「新規土壌還元消毒を主体としたトマト地下部病害虫防除体系マニュアル」、2020年(令和2年)12月5日検索、インターネット(URL:https://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/publication/files/3c76e50cabb029d829fed7e51e9cdbbb.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の土壌還元消毒方法は、土壌還元消毒用資材が比較的高価であることから、還元消毒のコストは高いという懸念がある。特に、上記特許文献1の還元消毒方法は、液体を土壌還元消毒用資材とするため、作業者が圃場で行う混和工程は重労働かつ長時間の作業となる。また、上記非特許文献1の糖含有珪藻土は、発明者らの確認によれば、全炭素量(%)がさほど多くない。このため、還元消毒方法において、糖含有珪藻土を土壌還元消毒用資材として用いる場合には、一定面積当たりで大量の土壌還元消毒用資材を使用する必要があり、還元消毒コストの低廉化と作業の省力化が困難である。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、土壌還元消毒方法を省力的かつ安価に行うことができるようにすることを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記課題解決のために鋭意研究し、とうもろこしから糖化液又はスターチを製造する際に生じる副産物が、土壌還元消毒用資材として用い得るものであることを発見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の土壌還元消毒用資材は、とうもろこしから糖化液又はスターチを製造する際に生じる副産物を備えていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の土壌還元消毒用資材の製造方法は、とうもろこしからろ過助剤を用いて糖化液又はスターチを得る第1工程と、
前記ろ過助剤を含む副産物を得る第2工程とを備えていることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明の土壌還元消毒方法は、土壌に土壌還元消毒用資材を混和して混和土壌とする混和工程と、
前記混和工程後、前記混和土壌に灌水をする灌水工程と、
前記灌水工程後、前記混和土壌をシートで被覆し、前記混和土壌を含む前記土壌を還元状態とする還元工程とを備えた土壌還元消毒方法において、
前記土壌還元消毒用資材は、とうもろこしから糖化液又はスターチを製造する際に生じる副産物を備えていることを特徴とする。
【0013】
澱粉を採取可能な植物原料としては、とうもろこしの他、キャッサバ、じゃがいも等の芋類、小麦等が知られている。これらの植物原料から糖化液又はスターチを製造する際には、糖化液由来の糖を含む副産物が必然的に生じる。日本国内において、澱粉はとうもろこし、じゃがいも、小麦等からほとんど製造されている。2006年の農水省から公表された資料(「でん粉及びでん粉原料用いも政策をめぐる現状と課題」平成18年2月農林水産省)によれば、澱粉は、とうもろこしにより約253万トン/年が製造され、じゃがいもにより約23万トン/年が製造され、小麦より約3万トン/年が製造されている。
【0014】
例えば、とうもろこしから糖化液やスターチを製造する方法は、一般的にウエットミリング法で行われており、途中の工程又は最終工程において、珪藻土等のろ過助剤を用いてろ過、精製されて製造される。原料のとうもろこしは様々な用途向けに効率的に利用されるが、途中の工程又は最終工程でろ過された、ろ過助剤を含む糖化液やスターチの副産物はほとんどが廃棄処分されている。
【0015】
このため、糖化液又はスターチのメーカは、従来生じていた廃棄コストが発生しないことになるため、土壌還元消毒用資材自体のコストを下げることが可能である。そして、この土壌還元消毒用資材を用いて土壌還元消毒方法を行えば、還元消毒コストを大幅に下げることが可能である。
【0016】
また、副産物は、糖化液又はスターチの製造工程では水分含量は比較的低い状態で発生し、粉末状又は粒状で入手可能である。このため、作業者が圃場での混和工程を容易に行い易く、作業者にとって省力化が可能である。
【0017】
しかも、発明者らの確認によれば、糖化液又はスターチを製造する際に生じる副産物は、上記非特許文献1の糖含有珪藻土よりも全炭素量(%)が多い。このため、還元消毒方法において、一定面積当たり、少ない量の土壌還元消毒用資材の使用でも足りる。この面において、還元消毒コストの低廉化と作業の容易化も実現できる。
【0018】
したがって、本発明の製造方法により、本発明の土壌還元消毒用資材を安価に製造することができる。
【0019】
本発明の土壌還元消毒方法では、まず混和工程として、土壌に土壌還元消毒用資材を混和して混和土壌とする。そして、灌水工程として、混和工程後の混和土壌に灌水をする。この際、灌水によって土壌還元消毒用資材が含有する糖が深層に浸透する。この後、還元工程として、灌水工程後の混和土壌をシートで被覆し、混和土壌を含む土壌を還元化する。シートとしては、ビニールフィルム、ポリオレフィンフィルム等を採用することができる。被覆は圃場において行うことができる。これにより、特に、晴天の場合には、地温の上昇が進むため、土壌中に生存する微生物が土壌還元消毒用資材に含まれる糖によって急激に繁殖し、微生物の醗酵が促進する。こうして、土壌中の酸素濃度が低下し、処理土壌ばかりでなく、灌水した水とともに糖が下層に移行した土壌でも還元状態となる。このため、土壌中の土壌病害虫に対し、殺虫及び殺菌効果を示すことで効果的に土壌消毒が可能となるとともに、雑草を抑制することもできる。そして、還元消毒後の圃場の作土層では、特に限定されるものではないが、線虫、青枯病菌、フザリウム病害、リゾクトニア病害、ピシウム病害、根こぶ病、半身萎凋病、フィトフトラ病害、ロゼリニア病害、キサントモナス病害、エルウィニア病害、シュードモナス病害、各種植物ウィルス病害等の土壌伝染性病害虫からの被害を回避でき、収量及び品質の向上が実現し、かつ連作での栽培も可能となる。
【0020】
また、本発明の土壌還元消毒方法によれば、米糠やフスマを土壌還元消毒用資材とした従来の還元消毒方法に比べ、深層への防除効果を示すとともに、全窒素量が少ないことから異臭の発生抑制も可能である。さらに、この還元消毒方法では、スターチを製造する際に生じる副産物を用いているに過ぎないことから、クロルピクリン等の土壌消毒剤を使用する従来の消毒方法に比べ、作業者や消費者への安全性は極めて高く、環境負荷も低い。
【発明の効果】
【0021】
本発明の土壌還元消毒用資材によれば、土壌還元消毒方法をより省力的かつ安価に行うことができる。換言すれば、本発明の土壌還元消毒方法はより省力的かつ安価に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
澱粉を採取可能な植物原料としては、とうもろこし、じゃがいも等の芋類又は小麦を採用することができる。特に、国内外とも、とうもろこしから糖化液やスターチが大量に製造されているため、とうもろこしを植物原料とすることが、コストダウンとともに、持続可能な社会の実現に貢献することができる。
【0023】
副産物は、ある程度の水分を含有していてもよいが、粉末状又は粒状であることが好ましい。粒状はペレットであってもよい。また、スターチメーカによって副産物が含有する糖には、グルコース、フラクトース等の単糖、マルトース、イソマルトース等の二糖、マルトトリオース、パノース、イソマルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース等のオリゴ糖、多糖(デキストリン)など、糖の種類とそれらの含有量には相違がある。なお、糖化液やスターチの製造時の副産物自体は、ロットによっても、含有する水分量や糖の種類と含量には多少の相違があるが、土壌中の微生物の炭素源となる限り、土壌消毒効果を発揮することが可能である。
【0024】
糖化液を製造する際に生じる副産物は、原液をろ過する際に用いるろ過助剤を含む場合が多い。また、スターチを製造する際に生じる副産物は、糖化液をろ過する際に用いるろ過助剤を含む場合が多い。ろ過助剤としては、珪藻土、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト等の他、活性炭、セルロース等を採用することができる。珪藻土、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト、ベントナイト、活性炭等は多孔質であることから、土壌に混合されることによって土壌の水分、養分又は非病原性の土壌微生物の保持力を高め、作物の収量及び品質の向上に繋がる。
【0025】
副産物は、乾物当たりの全炭素量が20.0%以上で、全窒素量が4.0%以下であることが好ましい。全炭素量及び全窒素量は、全炭素・全窒素分析装置(CNコーダー)によって測定が可能である。公知の糖含有珪藻土は、乾物当たり、全窒素量が0.4%(「トマト青枯病菌に対する糖含有珪藻土と糖蜜吸着資材を用いた土壌還元消毒の処理条件の検討」大谷洋子著、関西病虫研報(60):71-76(2018)原著論文)と報告されており、異臭は抑制可能であるものの、全炭素量が12%であり、全炭素量が低いことから、圃場での処理量が1トン~1.5トン必要になる。発明者らは、スターチの副産物は、乾物当たり、全炭素量が18.4%以上であり、全窒素量が2.19%以下であることが好ましいことを確認している。
【0026】
本発明の土壌還元消毒用資材は、とうもろこしから糖化液又はスターチを製造する際に生じる副産物以外の物を備えてもよい。例えば、ろ過前の浮遊性物質(suspended solid)等のろ物を備えていてもよい。
【0027】
特に、本発明の土壌還元消毒用資材は竹の粉砕物を備えていることが好ましい。このため、土壌還元消毒用資材の製造方法では、副産物に竹の粉砕物を混合することが好ましい。また、土壌還元消毒方法では、土壌還元消毒用資材が竹の粉砕物を備えていることが好ましい。発明者らの試験によれば、土壌還元消毒用資材が竹の粉砕物を備えておれば、土壌還元効果が高まる。竹の粉砕物は多孔質であることから、土壌中で蓄熱効果を発揮し、還元効果を向上させる可能性が考えられる。また、竹には乳酸菌が含まれており、還元化の種菌(スタータ)の役割を果たしている可能性もある。さらに、他の微生物資材と併用することで、多孔質な構造が微生物の成育場所となることで発酵が進むとともに、発酵で土壌の団粒化を促進し、土壌中の保水量が高まることで、発酵においてもプラスの影響を示すと考えられる。このため、竹の粉砕物自体は発酵されていることが好ましい。
【0028】
竹としては、マダケ(苦竹・真竹)、モウソウチク(孟宗竹)、ハチク(淡竹)、メダケ(女竹)、クロチク(黒竹)、ホテイチク(布袋竹)、シホウチク(四方竹)、トウチク(唐竹)、クマザサ(隈笹)、チシマザサ(千島笹)、ミヤコザサ(都笹)等を採用することができる。
【0029】
また、本発明の土壌還元消毒用資材は、非病原性の土壌微生物を備えていることが好ましい。この場合、土壌還元消毒用資材が備える非病原性の土壌微生物が土壌中での発酵の際の種菌となることで、還元消毒の期間の短縮が可能である。この非病原性の土壌微生物としては、酵母、乳酸菌及びトリコデルマ菌の少なくとも1種が好ましいが、特にこれらに制限されるものではない。また、還元消毒後にこれらの菌が生存した場合でも、土壌病原菌に対して、生育場所や栄養物を競合することにより発病抑制効果を示すとともに、土壌の団粒化作用によって作物の栽培により適した土壌を提供する。
【0030】
また、本発明の土壌還元消毒用資材は、転炉スラグを備えていることも好ましい。この場合、還元消毒後の土壌を中和することで、病害の抑制作用や微量要素の添加効果によって作物栽培に適した土壌を提供する。また、本発明の土壌還元消毒用資材は、農薬、肥料、微生物農薬、バイオスティミュラント等を併用してもよい。
【0031】
本発明の製造方法において、例えば、植物原料がとうもろこしである場合、第1工程は、(1)とうもろこしを水に浸漬する浸漬工程と、(2)水に浸漬したとうもろこしを粗砕し、粗砕物を得る粗砕工程と、(3)粗砕物から胚芽を分離し、第1残留物を得る胚芽分離工程と、(4)第1残留物を磨砕し、磨砕物を得る磨砕工程と、(5)磨砕物から繊維を分離し、第2残留物を得る繊維分離工程と、(6)第2残留物から蛋白質を分離し、糖化液を得る蛋白質分離工程と、(7)糖化液を脱水するとともに、ろ過助剤を用いたドラムフィルタによってろ過し、乾燥する脱水乾燥工程とからなり得る。浸漬工程では、コーンスティーブリカーが得られる。胚芽分離工程では、コーンジャームが得られる。繊維分離工程では、グルテンフィードが得られる。蛋白質分離工程では、グルテンミールが得られる。さらに、脱水後に物理的、化学的又は酵素的に反応させることで化工澱粉が得られ、脱水後に乾燥することでコーンスターチが得られる。
【0032】
この場合、本発明の製造方法における第2工程は、上記脱水乾燥工程の一部であり得るが、本発明の土壌還元消毒用資材は、第2工程の副産物の他、浸漬工程、粗砕工程、胚芽分離工程、磨砕工程、繊維分離工程、蛋白質分離工程又は他の脱水乾燥工程で生じる副産物を含んでもよい。
【0033】
また、植物原料がとうもろこしである場合、第1工程は、(1)とうもろこしから乳液を得る乳化処理と、(2)乳液を糊を得る糊化処理と、(3)糊を酵素によって液化して酵素液を得る酵素液化処理と、(4)酵素液を糖化してろ過前の原液を得る酵素糖化処理とからもなり得る。
【0034】
この場合、本発明の製造方法における第2工程は、酵素糖化処理後の原液をろ過助剤を用いてろ過することで行い得る。ろ過によって異性化糖等の糖化液を得ることができるが、本発明の土壌還元消毒用資材は、澱粉の糖化液の製造過程から生じる副産物である糖化粕から製造し得る。本発明の土壌還元消毒用資材は、第2工程の副産物の他、前工程で生じる副産物を含んでもよい。
【0035】
発明者らの確認によれば、本発明の土壌還元消毒方法は、混和工程において、土壌10アールに対し、土壌還元消毒用資材を200~2000kg混和することが好ましい。土壌10アールに対し、土壌還元消毒用資材を200kg未満混和するだけでは還元消毒効果が十分でないが、土壌還元消毒用資材を200kg以上混和すれば、十分な還元消毒効果が得られる。土壌10アールに対し、土壌還元消毒用資材が2000kgを超えて混和されると、土壌還元消毒用資材が過剰となり、コスト低廉の効果が小さくなる。
【0036】
(実施例及び比較例)
以下の土壌還元消毒用資材A1、B1及びC1を用意した。資材A1及び資材B1はとうもろこしからコーンスターチを製造する際に生じる粉末状又は粒状の副産物である。資材A1と資材B1とは、異なるコーンスターチメーカから入手したものである。資材C1は非特許文献1の糖含有珪藻土(味の素ヘルシーサプライ株式会社製「AHS糖含有珪藻土TH」)である。これらの現物当たりの全炭素量(%)、全窒素量(%)、水分量(%)及びC/N比を表1に示す。C/N比は、これらの全炭素量/全窒素量である。
【0037】
【0038】
また、資材A1とロットが異なる資材A2~A6と、資材B1とロットが異なる資材B2~B6とも用意した。これらの現物当たりの全炭素量(%)、全窒素量(%)、水分量(%)及びC/N比も表2、3に示す。
【0039】
【0040】
【表3】
表1~3から明らかなように、資材A1~6、B1~6は、資材C1よりも現物当たりの全炭素量が多いことがわかる。
【0041】
(試験1)
資材A1~6のいずれか(以下、資材Aという。)及び資材C1によって土壌還元消毒方法を実施した。まず、混和工程として、青枯病菌が例年多発する某市のトマト栽培ハウス圃場において、土壌10アールに対し、各資材A、C1を1000kg散布した。この際、資材Aは、粉末状又は粒状であるため、作業者が圃場で混和工程を容易に行い易く、作業性が省力された。
【0042】
この後、耕耘機によって表層から約20cmの深さの土壌と混和し、各混和土壌A、C1を得た。各混和土壌A、C1は還元消毒前の土壌と各資材A、C1とが混和されたものである。
【0043】
同日、灌水工程として、混和工程後、灌水チューブやかんがい設備を用いて各混和土壌A、C1を灌水した。灌水量は各混和土壌A、C1で等しくした。
【0044】
さらに同日、灌水工程後、還元工程として、各混和土壌A、C1を透明なビニールフィルムによって被覆した。これによって各混和土壌A、C1及びその下層の土壌(以下、土壌A、C1という。)では、生息する病害虫が資材A、C1の糖によって急激に繁殖する。また、天候のよい日には、透明なビニールフィルムの被覆によって地温の上昇が進み、各土壌A、C1中の微生物の醗酵が促進される。こうして、各土壌A、C1は、酸素濃度が低下して還元状態となる。還元工程を行ってから17日後、ビニールフィルムを除去し、還元消毒後の各土壌A、C1を表層から約20cmの深さで耕耘した。
【0045】
この際、米糠やフスマを土壌還元消毒用資材としていないことから、処理した土壌A、C1の深層でも病害虫への防除効果を示すとともに、異臭の発生の抑制も可能である。また、資材Aを用いた還元消毒方法では、スターチを製造する際に生じる粉末状又は粒状の副産物を用いているに過ぎないことから、クロルピクリン等の土壌消毒剤を使用する従来の消毒方法に比べ、安全性が高い。こうして、還元状態の各作土層A、C1を作った。
【0046】
各作土層A、C1を採取し、ジピリジル反応を測定した。目視によれば、各作土層A、C1では、土壌深度と、発色(二価鉄とジピリジンとの錯体形成による褐色化)の程度とが同等であった。
【0047】
また、トマト青枯病に対する防除効果を調べるため、還元消毒後47日後にトマトの発病株数を調査し、前年の発病株率と比較した。結果を表4に示す。
【0048】
【0049】
表4から明らかなように、発病株率から算出した防除効果は、資材Aによる処理区では、前年の発病株率が40.5%から4.4%になり、資材Cによる処理区では、前年の発病株率38.8%が4.0%となりいずれの処理区も高い発病抑制作用が認められた。
【0050】
(試験2)
線虫被害が例年発生する某市のハウス圃場において、資材Aを用い、上記試験1と同様、3週間の土壌還元消毒方法を行った。
【0051】
還元工程直後から7日後及び14日後の還元程度をジピリジル反応によって測定した結果、還元工程直後から14日後には土壌深度30cm以上で還元状態であることを示す呈色反応が認められた。
【0052】
また、深度別に土壌の表層から10~20cm、表層から20~30cm及び表層から30~60cmに分けた土壌について、還元消毒前後の土壌中の線虫密度(土壌20g当たりの線虫数)を測定した。測定は、ネグサレ線虫及びネコブ線虫を効率的に検出できるベルマン法を用いて実施した。資材投入の7日前の結果を表5に示し、還元工程終了21日後の結果を表6に示す。
【0053】
【0054】
【0055】
表5及び表6からわかるように、還元消毒前に検出された線虫は、還元工程終了21日後には土壌深度30cmまで検出限界以下となっている。また、深度30~60cmでネコブ線虫の密度は還元消毒前の10分の1以下にまで低下し、高い殺線虫効果が確認された。
【0056】
(試験3)
線虫被害が常発する某市のハウス圃場において、資材Aと、資材C1とを用い、上記試験1、2と同様、29日間の土壌還元消毒方法を実施した。
【0057】
還元工程18日後のジピリジル反応は、資材Aを用いた場合と、資材C1を用いた場合とで大差はなかった。
【0058】
試験2と同様、ベルマン法で線虫密度を測定した。資材Aを用い、還元工程11日前後の結果を表7に示し、還元工程18日後の結果を表8に示す。資材C1を用い、還元工程11日前後の結果を表9に示し、還元工程18日後の結果を表10に示す。還元工程11日前は、深度別に0~30cm及び30~60cmに分けた土壌について測定を行い、還元工程18日後は、0~20cm、20~40cm及び40~60cmに分けた土壌について測定した。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
表7~10からわかるように、還元処理前にネグサレ線虫やネコブ線虫が検出されていた土壌において、いずれの資材を用いるとしても、還元処理後には両線虫とも検出されなかった。このため、いずれの資材であっても、高い殺線虫効果が確認された。
【0064】
(試験4)
還元消毒前と還元消毒後との土壌中の生物多様性を調べることを目的として、(株)DGCテクノロジー社の分析装置を用い、有機物の分解活性の多様性と活性とを測定した。この結果、還元消毒前の生物多様性及び活性値に基づく偏差値が46.3であったのに対し、還元工程20日後におけるその偏差値は60.0であった。
【0065】
別の圃場において、土壌消毒剤であるディ・トラペックス(メチルイソチオシアネートとD-D油剤との混合剤)処理による消毒を行った。この場合、処理前の偏差値は62.2であったが、処理後の偏差値は42.6と低下した。土壌消毒剤による処理では、土壌中の微生物群を全て消毒又は殺菌してしまうのに対し、土壌還元消毒方法では、土壌の還元化によって青枯病菌や線虫をはじめとする好気性の土壌病原菌は殺菌するが、硝化菌のような嫌気性菌は生存できるため、微生物の多様性がある程度保持されたためと考えられる。
【0066】
土壌の2カ所のEC(電気伝導度、標準0.2dS/m)を還元消毒前後で比較した。この結果、ある場所では、還元消毒前のECは1.00であったが、還元消毒後のECは0.11と低下し、他の場所では、還元消毒前のECは0.44であったが、還元消毒後のECは0.11と低下した。
【0067】
この結果から、化学肥料の投下により塩類集積が発生しやすい圃場においては、還元消毒方法によって副次的な脱塩効果も期待できる。
【0068】
(試験5)
土壌還元消毒用資材A7、B7、C2を用意した。資材A7は資材A1~6とロットのみが異なるものであり、資材B7は資材B1~6とロットのみが異なるものであり、資材C2は資材C1とロットのみが異なるものである。これらの現物当たりの全炭素量(%)、全窒素量(%)及び水分量(%)を表11に示す。
【0069】
【0070】
資材A7、B7、C2を用いて各々土壌に還元消毒処理した時の還元化の程度を以下のように比較した。まず、イノチオ中央農業研究所の圃場の土壌20kgを塩ビ管(内径146mm×高さ800mm)に詰めた。次いで、塩ビ管中の土壌の上部に還元資材を均一となるように積み重ねた後、約1.67L(100L/m2相当)の水を加えた。そして、35°Cに設定した恒温室内にそれらを静置して還元処理を行った。
【0071】
塩ビ管は、詰めた土壌の30cmの深さと60cmの深さとに当たる部分から土壌を採取できる穴が空けられている。還元処理後から経時的にそれらの穴から土壌を採取した。1回当たり8gの土壌を採取し、そのうちの5gの土壌に1M酢酸ナトリウムバッファー(2.3%酢酸)を25mL加えて30分間振とうし、抽出液を抽出した。各抽出液に対して3000rpmで5分間の遠心分離を行い、得られたる上清1mLに対し、0.1%ジピリジル液1mLと、4.2M酢酸ナトリウム液0.75mLとを添加した。これらを必要に応じて蒸留水で希釈し、522nmの吸光度測定を行った。
【0072】
各土壌に対して16.7g(土壌10アールに対して資材1トン相当量)の各資材A7、B7、C2を用いて還元処理を行った。還元処理1、3、5日後において、深度30cm及び60cmの穴から処理後の土壌を採取し、土壌の還元程度を吸光度で比較した。対照として、水のみを土壌に加えて還元操作を施した試験区を設けた。本試験系においての経時的な522nmの吸光度の推移は、表12の通りである。
【0073】
【0074】
表12に示されるように、各資材A7、B7、C2で還元処理することで、処理3日後より深度30cm及び60cmの土壌の還元化が認められた。処理3日後の資材A7処理区や資材B7処理区では、資材C2処理区よりも還元化が進んでおり、全炭素量が多い方が還元化の速度は早かった。処理5日後は、処理3日後よりも還元化が進行し、特に60cmの深度の土壌での還元化が進んだ。
【0075】
(試験6)
資材Dとして、微生物としての酵母菌を含有する生物資材「五右衛門」(川合肥料(株))を用意した。土壌に対して16.7gの資材B7、C2で還元処理するとともに、資材B7に資材D0.25g(土壌10アールに対して資材15kg相当量)を混合した混合資材を用いて還元処理を行い、還元程度を比較した。処理3日後及び5日後の深度30cmの土壌の吸光度を測定した。結果を表13に示す。
【0076】
【0077】
表13に示されるように、資材B7、C2単独で処理するよりも、生物資材を併用処理することにより、還元化は進むとの結果であった。このように、生物資材を併用すれば、還元資材に含まれる糖を栄養源として速やかに増殖することから、土壌中で増殖可能な微生物をスタータとして還元処理時に添加すれば、還元工程直後から発酵が早急に始まることで還元消毒に要する期間の短縮が可能である。
【0078】
(試験7)
資材Eとして、トリコデルマ ハルジアナムを含有する生物資材「トリコデソイル」(アリスタ ライフサイエンス(株))、資材Fとして、バチルス属や土壌放線菌を含有する「オーレスC」((株)松本微生物研究所)、資材Gとして、シュードモナス ロデシアを含有する微生物農薬「マスターピース水和剤」(日本曹達(株))、資材Hとして、発酵した竹の粉砕物を成分とする「竹パウダー KAGUYA」((有)サンジェットアイ)を用意した。
【0079】
土壌に対し、対照の他、資材A7を16.7gで還元処理した。また、資材A7に資材Eを0.33g(土壌10アールに対して資材20kg相当量)混合した混合資材を用意し、土壌に対して混合資材を用いて還元処理した。さらに、資材A7に資材Eを0.33g(土壌10アールに対して資材20kg相当量)と、資材Hを0.33g(土壌10アールに対して資材20kg相当量)とを混合した混合資材を用意し、土壌に対して混合資材を用いて還元処理した。また、資材A7に資材Fを0.33g(土壌10アールに対して資材20kg相当量)混合した混合資材を用意し、土壌に対して混合資材を用いて還元処理した。さらに、資材A7に資材Fを0.33g(土壌10アールに対して資材20kg相当量)と、資材Hを0.33g(土壌10アールに対して資材20kg相当量)とを混合した混合資材を用意し、土壌に対して混合資材を用いて還元処理した。また、資材A7に資材Gを0.01g(土壌10アールに対して資材600g相当量)混合した混合資材を用意し、土壌に対して混合資材を用いて還元処理した。さらに、資材A7に資材Gを0.01g(土壌10アールに対して資材600g相当量)と、資材Hを0.33g(土壌10アールに対して資材20kg相当量)とを混合した混合資材を用意し、土壌に対して混合資材を用いて還元処理した。また、資材A7に資材Hを0.33g(土壌10アールに対して資材20kg相当量)混合した混合資材を用意し、土壌に対して混合資材を用いて還元処理した。
【0080】
処理5日後における深度30cmの土壌について、吸光度を測定した。この結果を表14に示す。
【0081】
【0082】
表14に示されるように、資材Fを加えることにより土壌の還元化が進んだが、資材Eや資材Gのように、生物資材を併用しても微生物の種類によっては、還元化が必ずしも進まない。一方、資材Hを単独で処理した場合の還元化の効果は大きくは無かったが、微生物資材との組合せによっては、還元化を進めることが可能である。つまり、土壌還元消毒用資材が竹の粉砕物を備えておれば、土壌還元効果が高まることがわかる。
【0083】
(試験8)
温室内の土壌を試験区として10m×15mに区割りし、資材A7を用いて試験区当たりの処理量を45~180kgで変更して還元化の比較を行った。この場合、土壌10アール当たりの処理量が300~1200kg、土壌10アール当たりの全炭素換算量が89~358kgとなる。
【0084】
耕耘機により、土壌散布した資材を表層から約20cmの深さの土壌とで混和した後、透明のビニールフィルムで被覆し、灌水チューブで10アール当たり150トン相当量の灌水処理を行った。灌水処理して14日後の土壌深度20cm及び40cmの土壌について、吸光度を測定した。測定した結果を表15に示す。
【0085】
【0086】
表15に示されるように、資材A7の処理量に応じて土壌の還元化が進んだ。深度40cmの還元度は、全炭素量換算として10アール当たり150kg以下では還元化が不十分であった。土壌の還元化は、資材の処理量以外に、土壌の性質(透水性、炭素吸着性、物理性、耕盤層の有無)によって異なるとともに、灌水処理量や還元処理開始からの日射量による地温等、環境条件によっても還元化程度は異なることが推測される。但し、安定して効果を示す資材処理量としては、全炭素量換算で10アール当たり180kg以上が必要と考えられる。
【0087】
以上のように、本発明の土壌還元消毒用資材によれば、土壌還元消毒方法を省力的かつ安価に行うことができる。換言すれば、本発明の土壌還元消毒方法は省力的かつ安価に行うことができる。
【0088】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は農地改良に利用可能である。