(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163248
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】RNAの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20241114BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20241114BHJP
C12P 19/34 20060101ALI20241114BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20241114BHJP
【FI】
C12N15/10 Z ZNA
C12P1/04 Z
C12P19/34 Z
C12N15/10 Z
C12N1/21
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024152139
(22)【出願日】2024-09-04
(62)【分割の表示】P 2022179310の分割
【原出願日】2018-02-02
(31)【優先権主張番号】2017129988
(32)【優先日】2017-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(31)【優先権主張番号】P 2017063777
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】羽城 周平
(72)【発明者】
【氏名】安枝 寿
(72)【発明者】
【氏名】三橋 麻由
(72)【発明者】
【氏名】マシュコ,セルゲイ ヴラジミロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】クリロブ,アレクサンドル アレクサンドロヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】ロバノヴァ,ユリヤ セルゲエヴナ
(57)【要約】
【課題】RNAの製造方法を提供する。
【解決手段】リボヌクレアーゼIIIの活性が低下するように改変された、目的RNAの発現ユニットを有するコリネ型細菌を培地で培養し、目的RNAを発現させ、該細菌の菌体内に目
的RNAを蓄積すること、および前記菌体より目的RNAを採取することにより、目的RNAを製
造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的RNAの製造方法であって、
目的RNAの発現ユニットを有するコリネ型細菌を培地で培養し、目的RNAを発現させ、該細菌の菌体内に目的RNAを蓄積すること、および
前記菌体より目的RNAを採取すること、
を含み、
前記細菌が、非改変株と比較して、リボヌクレアーゼIIIの活性が低下するように改変
されている、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を用いた発酵法によるRNA(リボ核酸)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を利用したRNAの製造法としては、例えば、リボヌクレアーゼIII(RNaseIII)を欠損したエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)を宿主として、菌体内にRNAを蓄積す
る方法(非特許文献1)、φ6バクテリオファージの機能を利用し、シュードモナス・シリンガエ(Pseudomonas syringae)を宿主として、キャプシド内にRNAを蓄積する方法(
非特許文献2)、Escherichia coliを宿主として、tRNAの部分配列を融合したRNAを菌体
内に蓄積する方法(非特許文献3)、Escherichia coliを宿主として、siRNAをそれと結
合するタンパク質と複合体を形成させて製造する方法(非特許文献4)、ロドブルム属(Rhodovulum)細菌を宿主として、RNAを分泌生産する方法(特許文献1)、酵母を宿主と
して、酵母ミトコンドリア内にRNAを蓄積する方法(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2009/063969
【特許文献2】WO2010/084371
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tenllado F, et. al., Crude extracts of bacterially expressed dsRNA can be used to protect plants against virus infections. BMC Biotechnol. 2003 Mar 20;3:3.
【非特許文献2】Aalto AP, et. al., Large-scale production of dsRNA and siRNA pools for RNA interference utilizing bacteriophage phi6 RNA-dependent RNA polymerase. RNA. 2007 Mar;13(3):422-9.
【非特許文献3】Ponchon L, et. al., A generic protocol for the expression and purification of recombinant RNA in Escherichia coli using a tRNA scaffold. Nat Protoc. 2009;4(6):947-59.
【非特許文献4】Huang L, et. al., Efficient and specific gene knockdown by small interfering RNAs produced in bacteria. Nat Biotechnol. 2013 Apr;31(4):350-6.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、効率的なRNAの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、リボヌクレアーゼIII(RNaseIII)を欠損したコリネ型細菌でRNAを発現させることにより、RNAを効率的に製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
目的RNAの製造方法であって、
目的RNAの発現ユニットを有するコリネ型細菌を培地で培養し、目的RNAを発現させ、該細菌の菌体内に目的RNAを蓄積すること、および
前記菌体より目的RNAを採取すること、
を含み、
前記細菌が、非改変株と比較して、リボヌクレアーゼIIIの活性が低下するように改変
されている、方法。
[2]
前記リボヌクレアーゼIIIが、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質
である、前記方法:
(a)配列番号52に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号52に示すアミノ酸配列において、1~10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、リボヌクレアーゼIII
活性を有するタンパク質;
(c)配列番号52に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、リボヌクレアーゼIII活性を有するタンパク質。
[3]
リボヌクレアーゼIIIをコードする遺伝子の発現を低下させることにより、または該遺
伝子を破壊することにより、リボヌクレアーゼIIIの活性が低下した、前記方法。
[4]
リボヌクレアーゼIIIをコードする遺伝子を欠損させることにより、リボヌクレアーゼIIIの活性が低下した、前記方法。
[5]
前記細菌が、前記発現ユニットを、5コピー/cell以上のコピー数で有する、前記方法。
[6]
前記細菌が、前記発現ユニットを、70コピー/cell以上のコピー数で有する、前記方法。
[7]
前記細菌が、前記発現ユニットを含むベクターを有する、前記方法。
[8]
前記発現ユニットが、5’から3’方向に、コリネ型細菌で機能するプロモーター配列および目的RNAをコードする塩基配列を含む、前記方法。
[9]
前記プロモーター配列が、ファージ由来のプロモーターである、前記方法。
[10]
前記プロモーター配列が、F1プロモーターまたはT7プロモーターである、前記方法。
[11]
前記プロモーター配列が、下記(a)または(b)に記載のプロモーターである、前記方法:
(a)配列番号13または78に示す塩基配列を含むプロモーター;
(b)配列番号13または78に示す塩基配列に対して90%以上の同一性を有する塩基配列を含むプロモーター。
[12]
前記細菌が、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌である、前記方法。
[13]
前記細菌が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、前記方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】プラスミドpPBS4SΔrncの構築手順を示す図。
【
図2】rnc遺伝子欠損確認のためのアガロースゲル電気泳動図(写真)。
【
図3】プラスミドpVC7-sacBの構築手順を示す図。
【
図4】プラスミドpVC7-Pf1-U1Ainsertの構築手順を示す図。
【
図5】プラスミドの構築手順を示す図。(A)pVC7-Pf1-Hv-iap。(B)pVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1rev。
【
図6】rnc遺伝子の欠損によるRNA生産量の向上効果を示すアガロースゲル電気泳動図(写真)。
【
図7】RNA発現用プラスミドの高コピー数化によるRNA生産量の向上効果を示すアガロースゲル電気泳動図(写真)。
【
図8】プラスミドpL4440-Pt7-U1Ainsertの構築手順を示す図。
【
図9】プラスミドpL4440-Pt7-Hv-iap-Pt7revの構築手順を示す図。
【
図10】C. glutamicumでのF1プロモーター発現系とE. coliでのT7プロモーター誘導発現系によるRNA生産量の比較結果を示すアガロースゲル電気泳動図(写真)。
【
図11】プラスミドpPK4 XB-T7 terの構築手順を示す図。
【
図12】プラスミドpPK-T7lacの構築手順を示す図。
【
図13】プラスミドpPK-T7lac-vd-antiOlacの構築手順を示す図。
【
図14】プラスミドpVC54の構築手順を示す図。
【
図15】プラスミドpBS5t-ptrB*の構築手順を示す図。
【
図16】プラスミドpBS5t-ptrB*-2Terの構築手順を示す図。
【
図17】プラスミドpBS5t-ptrB*-T7polの構築手順を示す図。
【
図18】プラスミドpVC54-T7polの構築手順を示す図。
【
図19】C. glutamicumでのT7プロモーター誘導発現系によるRNA生産を示すアガロースゲル電気泳動図(写真)。レーン1~2および6~7:クローンA、レーン3~4および8~9:クローンB、レーン5:Century-Plus RNA Marker (Ambion AM7145)。
【
図20】プラスミドpPK4-T7polの構築手順を示す図。
【
図21】プラスミドpVC7-Pt7-Hv-iap-Pt7revの構築手順を示す図。
【
図22】C. glutamicumでのT7プロモーター誘導発現系によるRNA生産を示すアガロースゲル電気泳動図(写真)。
【
図23】高コピー数プラスミドpPK4H1によるRNA生産を示すアガロースゲル電気泳動図(写真)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の方法は、目的RNAの発現ユニットを有するコリネ型細菌を培地で培養すること
、および転写された目的RNAを採取すること、を含む目的RNAの製造方法であって、前記細菌がリボヌクレアーゼIIIの活性が低下するように改変されている、方法である。同方法
に用いられるコリネ型細菌を「本発明の細菌」ともいう。
【0011】
<1>本発明の細菌
本発明の細菌は、リボヌクレアーゼIIIの活性が低下するように改変された、目的RNAの発現ユニットを有するコリネ型細菌である。
【0012】
本発明の細菌は、目的RNAの発現ユニットの導入とリボヌクレアーゼIIIの活性低下とをコリネ型細菌に対して実施することにより得られる。本発明において、本発明の細菌を構築するための改変は、任意の順番で行うことができる。すなわち、本発明の細菌は、例えば、目的RNAの発現ユニットをコリネ型細菌に導入した後に、リボヌクレアーゼIIIの活性が低下するようにコリネ型細菌を改変することによって得ることができる。また、本発明の細菌は、例えば、リボヌクレアーゼIIIの活性が低下するようにコリネ型細菌を改変し
た後に、目的RNAの発現ユニットをコリネ型細菌に導入することによっても得ることがで
きる。本発明の細菌またはそれを構築する元になる細菌を「宿主」ともいう。
【0013】
本発明の細菌は、目的RNAを生産する能力(目的RNAの生産能)を有する。本発明の細菌
は、具体的には、少なくとも目的RNAの発現ユニットを有することに依拠して、目的RNAの生産能を有する。本発明の細菌は、例えば、目的RNAの発現ユニットの導入により、また
は目的RNAの発現ユニットの導入とリボヌクレアーゼIIIの活性低下との組み合わせにより、目的RNAの生産能を獲得したものであってよい。すなわち、本発明の細菌の構築に用い
られる、リボヌクレアーゼIIIの活性が低下するように改変される前の株は、目的RNAの発現ユニットを有すると仮定した場合に、目的RNAを生産することができてもよく、できな
くてもよい。
【0014】
本発明の細菌は、目的RNAの生産能を有する限り、任意の性質を有していてよい。本発
明の細菌は、例えば、目的RNAの発現ユニットを含むベクター以外の、プラスミド等のベ
クターを有していてもよく、有していなくてもよい。すなわち、例えば、本発明の細菌が本来的にプラスミドを有する場合、当該プラスミドをキュアリング(除去)してもよい。
【0015】
<1-1>目的RNAの生産能を有するコリネ型細菌
本発明において、「目的RNAの生産能を有する細菌」とは、培地で培養したときに、目
的RNAを発現し、回収できる程度に菌体内に蓄積する能力を有する細菌をいう。目的RNAの生産能を有する細菌は、非改変株よりも多い量の目的RNAを菌体内に蓄積することができ
る細菌であってよい。「非改変株」とは、リボヌクレアーゼIIIの活性が低下するように
改変されていない対照株をいう。すなわち、非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。また、目的RNAの生産能を有する細菌は、例えば、1 mg/L-培養液以上、2 mg/L-培養
液以上、5 mg/L-培養液以上、10 mg/L-培養液以上、20 mg/L-培養液以上、50 mg/L-培養
液以上、または100 mg/L-培養液以上の量で目的RNAを菌体内に蓄積することができる細菌であってもよい。
【0016】
本発明においては、コリネ型細菌を宿主として用いる。コリネ型細菌としては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、マイ
コバクテリウム(Mycobacterium)属、およびミクロバクテリウム(Microbacterium)属
等の属に属する細菌が挙げられる。
【0017】
コリネ型細菌として、具体的には、下記のような種が挙げられる。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム(Corynebacterium acetoglutamicum)
コリネバクテリウム・アルカノリティカム(Corynebacterium alkanolyticum)
コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)
コリネバクテリウム・クレナタム(Corynebacterium crenatum)
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)
コリネバクテリウム・リリウム(Corynebacterium lilium)
コリネバクテリウム・メラセコーラ(Corynebacterium melassecola)
コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(コリネバクテリウム・エフィシエンス)(Corynebacterium thermoaminogenes (Corynebacterium efficiens))
コリネバクテリウム・ハーキュリス(Corynebacterium herculis)
ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium divaricatum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium
flavum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・イマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・ロゼウム(Brevibacterium roseum)
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス(Brevibacterium thiogenitalis)
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(コリネバクテリウム・スタティオニス)(Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis))
ブレビバクテリウム・アルバム(Brevibacterium album)
ブレビバクテリウム・セリナム(Brevibacterium cerinum)
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム(Microbacterium ammoniaphilum)
【0018】
コリネ型細菌として、具体的には、下記のような菌株が挙げられる。
Corynebacterium acetoacidophilum ATCC 13870
Corynebacterium acetoglutamicum ATCC 15806
Corynebacterium alkanolyticum ATCC 21511
Corynebacterium callunae ATCC 15991
Corynebacterium crenatum AS1.542
Corynebacterium glutamicum ATCC 13020, ATCC 13032, ATCC 13060, ATCC 13869, FERM BP-734
Corynebacterium lilium ATCC 15990
Corynebacterium melassecola ATCC 17965
Corynebacterium efficiens (Corynebacterium thermoaminogenes) AJ12340 (FERM BP-1539)
Corynebacterium herculis ATCC 13868
Brevibacterium divaricatum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 14020
Brevibacterium flavum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 13826, ATCC 14067, AJ12418 (FERM BP-2205)
Brevibacterium immariophilum ATCC 14068
Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 13869
Brevibacterium roseum ATCC 13825
Brevibacterium saccharolyticum ATCC 14066
Brevibacterium thiogenitalis ATCC 19240
Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis) ATCC 6871, ATCC 6872
Brevibacterium album ATCC 15111
Brevibacterium cerinum ATCC 15112
Microbacterium ammoniaphilum ATCC 15354
【0019】
なお、コリネバクテリウム属細菌には、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが、現在コリネバクテリウム属に統合された細菌(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255(1991))も含まれる。また、コリネバクテリウム・スタティオニスには、従来コリネバクテ
リウム・アンモニアゲネスに分類されていたが、16S rRNAの塩基配列解析等によりコリネバクテリウム・スタティオニスに再分類された細菌も含まれる(Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 60, 874-879(2010))。
【0020】
これらの菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する
登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。また、これらの菌株は、例えば、各菌株が寄託された寄託機関から入手することができる。
【0021】
<1-2>目的RNAの発現ユニットの導入
本発明の細菌は、目的RNAの発現ユニットを有する。目的RNAの発現ユニットを有するコ
リネ型細菌は、目的RNAの発現ユニットをコリネ型細菌に導入することにより取得できる
。
【0022】
「目的RNA」とは、本発明の方法により製造されるRNAをいう。本発明においては、1種の目的RNAが製造されてもよく、2種またはそれ以上の目的RNAが製造されてもよい。
【0023】
目的RNAは、宿主に対して外来性であるRNAであれば、すなわち宿主のRNA以外のRNAであれば、特に制限されない。目的RNAは、目的RNAの使用用途等の諸条件に応じて、適宜選択できる。目的RNAは、例えば、天然に存在するRNAであってもよく、それらを改変したRNA
であってもよく、人工的にデザインしたRNAであってもよい。目的RNAは、例えば、微生物由来のRNAであってもよく、植物由来のRNAであってもよく、動物由来のRNAであってもよ
く、ウイルス由来のRNAであってもよい。目的RNAは、例えば、mRNA(messenger RNA)で
あってもよく、rRNA(ribosomal RNA)、tRNA(transfer RNA)、miRNA(micro RNA)、siRNA(small interfering RNA)、リボザイム(ribozyme)、RNAアプタマー等のノンコーディングRNAであってもよい。mRNAは、例えば、酵素、受容体、トランスポータ、抗体、
構造体、調節因子等の何らかの機能を有するタンパク質をコードするものであってもよく、それ自体は機能を有さないタンパク質をコードするものであってもよい。なお、ここでいう「タンパク質」という用語には、オリゴペプチドやポリペプチド等の、いわゆるペプチドも包含される。目的RNAは、例えば、上記のようなRNAの塩基配列を有するRNAであっ
てよい。また、目的RNAは、例えば、上記のようなRNAの塩基配列の部分配列を有するRNA
であってもよい。また、目的RNAは、例えば、上記のようなRNAの塩基配列やそれらの部分配列の相補配列を有するRNAであってもよい。また、目的RNAは、例えば、上記のようなRNAの塩基配列、それらの部分配列、またはそれらの相補配列のバリアント配列を有するRNAであってもよい。バリアント配列については、後述するリボヌクレアーゼIII遺伝子のバ
リアントについての記載を準用できる。また、目的RNAは、例えば、上記のようなRNAの塩基配列、それらの部分配列、それらの相補配列、およびそれらのバリアント配列から選択される2つまたはそれ以上の塩基配列を組み合わせて有していてもよい。目的RNAとして
、具体的には、ニジュウヤホシテントウ(Henosepilachna vigintioctopunctata)のアポトーシス阻害因子のmRNAの部分配列や、コロラドポテトビートル(Leptinotarsa decemlineata)の液胞中のATPaseを構成するサブユニットAとEのmRNAの部分配列が挙げられる。
【0024】
目的RNAは、例えば、一本鎖RNA(1分子のRNA鎖からなるRNA)であってもよく、二本鎖RNA(2分子のRNA鎖からなるRNA)であってもよい。二本鎖RNAは、単一の種類のRNA分子
からなる二本鎖(ホモ二本鎖)であってもよく、2種の異なるRNA分子からなる二本鎖(
ヘテロ二本鎖)であってもよい。二本鎖RNAとして、具体的には、例えば、或るRNA鎖とその相補鎖からなる二本鎖RNAが挙げられる。また、目的RNAは、例えば、1分子のRNA鎖と
1分子のDNA鎖からなる二本鎖であってもよい。目的RNAは、一本鎖の領域と二本鎖の領域の両方を含んでいてもよい。すなわち、例えば、一本鎖RNAは、分子内で部分的に二本鎖
構造(例えば、ステムループ構造)を形成していてもよい。また、例えば、二本鎖RNAは
、部分的に一本鎖構造を含んでいてもよい。
【0025】
目的RNAの長さは、特に制限されない。目的RNAの長さは、例えば、10残基以上、20残基以上、50残基以上、または100残基以上であってもよく、10000残基以下、5000残基以下、2000残基以下、1000残基以下、または500残基以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。
【0026】
「目的RNAの発現ユニット」とは、目的RNAを発現できるよう構成された遺伝子構造物をいう。目的RNAの発現ユニットは、5’から3’方向に、コリネ型細菌で機能するプロモ
ーター配列および目的RNAをコードする塩基配列を含む。プロモーター配列を単に「プロ
モーター」ともいう。目的RNAをコードする塩基配列を「目的RNAをコードする遺伝子」ま
たは「目的RNA遺伝子」ともいう。目的RNA遺伝子は、プロモーターの下流に、同プロモーターによる制御を受けて目的RNAが発現するよう連結されていればよい。また、目的RNAの発現ユニットは、コリネ型細菌で目的RNAを発現させるために有効な制御配列(オペレー
ターやターミネーター等)を、それらが機能し得るように適切な位置に有していてもよい。なお、本発明において、「目的RNA遺伝子の発現」、「目的RNA遺伝子の転写」、「目的RNAの発現」、「目的RNAの転写」は、互いに同義に用いることができる。目的RNAの発現
ユニットは、目的RNAの種類や転写態様等の諸条件に応じて適宜設計できる。
【0027】
目的RNAの転写態様は、目的RNAが得られる限り、特に制限されない。目的RNA遺伝子は
、例えば、一方向に(すなわち二本鎖の片方のストランドのみを鋳型として)転写されてもよく、双方向に(すなわち二本鎖のそれぞれのストランドを鋳型として)転写されてもよい。目的RNA遺伝子を双方向に転写することは、同遺伝子を挟んで逆向きに配置された
プロモーター(すなわち二本鎖のそれぞれのストランドにおいて同遺伝子の5’側に配置されたプロモーター)から同遺伝子を転写することにより実施できる。すなわち、目的RNAの発現ユニットは、そのような2つのプロモーターを含んでいてもよい。その場合、両
プロモーターは同一であってもよく、なくてもよい。目的RNA遺伝子を一方向に転写する
ことにより、典型的には、一本鎖RNAが得られる。目的RNA遺伝子を双方向に転写することにより、典型的には、二本鎖RNAが得られる。また、二本鎖RNAのそれぞれのストランドを個別の発現ユニットから転写することによっても、二本鎖RNAが得られる。
【0028】
目的RNA遺伝子は、例えば、クローニングにより取得することができる。クローニング
には、例えば、目的RNA遺伝子を含むゲノムDNAやcDNA等の核酸を利用することができる。また、目的RNA遺伝子は、例えば、その塩基配列に基づいて全合成することによっても取
得することができる(Gene, 60(1), 115-127 (1987))。取得した目的RNA遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。すなわち、目的RNA遺伝子を改変
することにより、そのバリアントを取得することができる。遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的の部位に目的の変
異を導入することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer,W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。あるいは、目的RNA遺伝子のバリアントを全合
成してもよい。また、取得した目的RNA遺伝子に対して、適宜、プロモーター配列の導入
等の改変を行い、目的RNAの発現ユニットを取得することができる。なお、目的RNAの発現ユニットの他の構成要素(例えば、プロモーター配列)や目的RNAの発現ユニット全体も
、目的RNA遺伝子と同様に取得することができる。
【0029】
目的RNA遺伝子を発現させるためのプロモーターは、宿主において機能するものであれ
ば特に制限されない。「宿主において機能するプロモーター」とは、宿主においてプロモーター活性、すなわち遺伝子の転写活性、を有するプロモーターをいう。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、目的RNA遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロ
モーターであってもよい。また、プロモーターは、遺伝子の発現について、誘導性(inducible)のものであってもよく、構成的(constitutive)なものであってもよい。
【0030】
プロモーターとしては、例えば、解糖系、ペントースリン酸経路、TCA回路、アミノ酸生合成系、細胞表層タンパク質の遺伝子のプロモーターが挙げられる。また、プロモーターとしては、下記のもの等の、より強力なプロモーターを用いてもよい。より強力なプロモーターとしては、例えば、人為的に設計変更されたP54-6プロモーター(Appl.Microbiol.Biotechnolo., 53, 674-679(2000))、酢酸、エタノール、ピルビン酸等で誘導でき
るpta、aceA、aceB、adh、amyEプロモーター、その他の強力なプロモーターであるcspB、SOD、tufプロモーター(Journal of Biotechnology 104 (2003) 311-323, Appl Environ Microbiol. 2005 Dec;71(12):8587-96.)、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、F1プロモーター、T7プロモーター、T5プロモーター、T3プロモーター、SP6プ
ロモーターが挙げられる。プロモーターとしては、特に、F1プロモーター、T7プロモーター、T5プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター等のファージ由来のプロモータ
ーが挙げられる。プロモーターとして、さらに特には、F1プロモーターやT7プロモーターが挙げられる。F1プロモーターの塩基配列を、配列番号13に示す。T7プロモーターの塩基配列を、配列番号78に示す。
【0031】
プロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得し利用してもよい。例えば、プロモーター領域内の-35、-10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(WO00/18935)。高活性型プロモーターとしては、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et al. Russian Federation Patent application 2006134574)やpnlp8プロモ
ーター(WO2010/027045)が挙げられる。プロモーターの強度の評価法および強力なプロ
モーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。
【0032】
プロモーターは、例えば、上記例示したプロモーターの塩基配列(例えば配列番号13および78の塩基配列)を有するプロモーターであってよい。また、プロモーターは、上記例示したプロモーターの塩基配列(例えば配列番号13および78の塩基配列)の保存的バリアントであってもよい。すなわち、例えば、上記例示したプロモーターは、そのまま、あるいは適宜改変して用いることができる。上記プロモーター名で特定されるプロモーターは、それぞれ、上記例示したプロモーターに加えて、それらの保存的バリアントを包含するものとする。例えば、「F1プロモーター」という用語は、配列番号13の塩基配列を有するプロモーターに加えて、その保存的バリアントを包含するものとする。また、例えば、「T7プロモーター」という用語は、配列番号78の塩基配列を有するプロモーターに加えて、その保存的バリアントを包含するものとする。プロモーターの保存的バリアントについては、後述するリボヌクレアーゼIII遺伝子の保存的バリアントに関する記載
を準用できる。例えば、プロモーターは、元の機能が維持されている限り、配列番号13または78の塩基配列に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有する塩基配列を有するプロモーターであってもよい。なお、プロモーターについての「元の機能」とは、その直下流に接続された遺伝子を所定の条件下で発現する機能をいう。「所定の条件下」とは、元のプロモーターがその直下流に接続された遺伝子を発現できる条件をいう。例えば、遺伝子は、F1プロモーターから構成的に発現できる。また、例えば、遺伝子は、T7 RNAポリメラーゼ、T5 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、またはSP6 RNAポリメラーゼ
の存在下でT7プロモーター、T5プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーターから誘
導的に発現できる。プロモーターの保存的バリアントは、例えば、元のプロモーターの80%以上、90%以上、または100%以上の転写活性を有していてよい。遺伝子の発現の有無や強度(転写活性)は、例えば、レポーター遺伝子を用いて確認することができる。
【0033】
目的RNA遺伝子の下流には、遺伝子の転写終結用のターミネーターを配置することがで
きる。ターミネーターは、宿主において機能するものであれば特に制限されない。ターミネーターは、宿主由来のターミネーターであってもよく、異種由来のターミネーターであってもよい。ターミネーターは、目的RNA遺伝子の固有のターミネーターであってもよく
、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。ターミネーターとして、具体的には、例えば、バクテリオファージBFK20のターミネーターが挙げられる。
【0034】
各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターに関しては、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。
【0035】
目的RNAの発現ユニットをコリネ型細菌に導入する手法は特に制限されない。「目的RNAの発現ユニットの導入」とは、目的RNAの発現ユニットを宿主に保持させることをいい、
具体的には、目的RNA遺伝子を発現可能に宿主に導入することであってよい。「目的RNAの発現ユニットの導入」には、特記しない限り、予め構築した目的RNAの発現ユニットを宿
主に一括して導入する場合に限られず、少なくとも目的RNA遺伝子が宿主に導入され、且
つ宿主内で目的RNAの発現ユニットが構築される場合も包含される。本発明の細菌におい
て、目的RNAの発現ユニットは、プラスミド等の染色体外で自律複製するベクター上に存
在していてもよく、染色体上に組み込まれていてもよい。すなわち、本発明の細菌は、例えば、ベクター上に目的RNAの発現ユニットを有していてよく、言い換えると、目的RNAの発現ユニットを含むベクターを有していてよい。また、本発明の細菌は、例えば、染色体上に目的RNAの発現ユニットを有していてよい。本発明の細菌は、目的RNAの発現ユニットを1コピーのみ有していてもよく、2またはそれ以上のコピーで有していてもよい。本発明の細菌が有する目的RNAの発現ユニットのコピー数は、例えば、5コピー/cell以
上、10コピー/cell以上、20コピー/cell以上、30コピー/cell以上、50コピー/cell以上、70コピー/cell以上、100コピー/cell以上、150コピー/cell以上、200コピー/cell以上、300コピー/cell以上、500コピー/cell以上、または1000コピー/cell以上であってもよく、2000コピー/cell以下、1500コピー/cell以下、1000コピー/cell以下、500コピー/cell以下、または300コピー/cell以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。本発明の細菌は、1種類の目的RNAの発現ユニットのみを有していてもよく、2またはそれ以上の種類の目的RNAの発現ユニットを有していてもよい。目的RNAの発現ユニットのコピー数および種類は、それぞ
れ、目的RNA遺伝子のコピー数および種類と読み替えてもよい。本発明の細菌が2つまた
はそれ以上の目的RNAの発現ユニットを有する場合、それら発現ユニットは、目的RNAを製造できるように本発明の細菌に保持されていればよい。例えば、それら発現ユニットは、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。また、それら発現ユニットは、複数の発現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持されていてもよい。
【0036】
目的RNAの発現ユニットは、例えば、目的RNAの発現ユニットを含むベクターを用いて宿主に導入できる。目的RNAの発現ユニットを含むベクターを「目的RNAの発現ベクター」ともいう。目的RNAの発現ベクターは、例えば、目的RNAの発現ユニットをベクターと連結することにより、構築することができる。また、例えば、ベクターがコリネ型細菌で機能するプロモーターを備える場合、目的RNAの発現ベクターは、当該プロモーターの下流に目
的RNA遺伝子を連結することによっても、構築することができる。目的RNAの発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同ベクターが導入された形質転換体が得られる、すなわち、目的RNAの発現ユニットを宿主に導入することができる。ベクターとしては、宿主
の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであるのが好ましい。ベクターのコピー数は、例えば、5コピー/cell以上、10コピー/cell以上、20コピー/cell以上、30コピー/cell以上、50コピー/cell以上、70コピー/cell以上、100コピー/cell以上、150コピー/cell以上、200コピー/cell以上、300コピー/cell以上、500コピー/cell以上、または1000コピー/cell以上であってもよく、2000コピー/cell以下、1500コピー/cell以下、1000コピー/cell以下、500コピー/cell以下、または300コピー/cell以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。また、形質転換体を選択す
るために、ベクターは抗生物質耐性遺伝子や栄養要求性相補遺伝子などのマーカーを有することが好ましい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するためのプロモーターやターミネーターを備えていてもよい。ベクターは、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等であってよい。コリネ型細菌で自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pHM1519(Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));pAM330(Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));これらを改良した薬剤耐性遺伝子を有する
プラスミド;pCRY30(特開平3-210184);pCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE
、およびpCRY3KX(特開平2-72876、米国特許5,185,262号);pCRY2およびpCRY3(特開平1-191686);pAJ655、pAJ611、およびpAJ1844(特開昭58-192900);pCG1(特開昭57-134500);pCG2(特開昭58-35197);pCG4およびpCG11(特開昭57-183799);pPK4(米国特許6,090,597号);pVK4(特開平9-322774);pVK7(特開平10-215883);pVK9(US2006-0141588);pVC7(特開平9-070291);pVS7(WO2013/069634)が挙げられる。また、コリネ
型細菌で自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pVC7のバリアントである、pVC7H1、pVC7H2、pVC7H3、pVC7H4、pVC7H5、pVC7H6、pVC7H7(いずれも本願実施例)も挙げられる。また、コリネ型細菌で自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pPK4のバリアントである、pPK4H1、pPK4H2、pPK4H3、pPK4H4、pPK4H5、pPK4H6(いずれも本願実施例)も挙げられる。
【0037】
また、目的RNAの発現ユニットは、例えば、人工トランスポゾン等のトランスポゾンを
使用して宿主の染色体上に導入できる。トランスポゾンが使用される場合は、相同組換えまたはそれ自身の転移能によって目的RNAの発現ユニットが染色体上に導入される。また
、目的RNAの発現ユニットは、その他、相同組換えを利用する導入法により宿主の染色体
上に導入できる。相同組換えを利用する導入法としては、例えば、直鎖状DNA、温度感受
性複製起点を含むプラスミド、接合伝達可能なプラスミド、または宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクター等を用いる方法が挙げられる。目的RNAの発現ユニッ
トは、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ目的RNAの発現ユニットの多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数
のコピーが存在する配列としては、反復DNA配列(repetitive DNA)、トランスポゾンの
両端に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。また、少なくとも目的RNA遺伝
子を染色体上に導入し、目的RNAの発現ユニットを染色体上に構築してもよい。例えば、
宿主の染色体上のプロモーター配列の下流に目的RNAを導入することにより、染色体上に
目的RNAの発現ユニットを構築することができる。なお、目的RNA遺伝子等の、目的RNAの
発現ユニットの一部の染色体への導入も、目的RNAの発現ユニット全体の染色体への導入
と同様に行うことができる。
【0038】
形質転換の方法は特に限定されず、一般に使用される方法、例えば、プロトプラスト法(Gene, 39, 281-286(1985))、エレクトロポレーション法(Bio/Technology, 7, 1067-1070(1989))、電気パルス法(特開平2-207791号公報)等を使用することができる。
【0039】
<1-3>リボヌクレアーゼIIIの活性低下
本発明の細菌は、リボヌクレアーゼIII(RNaseIII)の活性が低下するように改変され
ている。本発明の細菌は、具体的には、リボヌクレアーゼIIIの活性が非改変株と比較し
て低下するように改変されている。リボヌクレアーゼIIIの活性は、例えば、非改変株の
、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。すなわち、本発明の細菌は、例えば、リボヌクレアーゼIIIの活性が欠損(消失)するように改
変されていてもよい。リボヌクレアーゼIIIの活性が低下するようにコリネ型細菌を改変
することにより、同細菌の目的RNAの生産能を向上させることができる、すなわち、同細
菌による目的RNAの生産を増大させることができる。
【0040】
以下に、リボヌクレアーゼIIIおよびそれをコードする遺伝子について説明する。
【0041】
「リボヌクレアーゼIII」とは、二本鎖RNA等の特定のRNAを切断する反応を触媒する活
性を有するタンパク質をいう。リボヌクレアーゼIIIをコードする遺伝子を「リボヌクレ
アーゼIII遺伝子」ともいう。
【0042】
リボヌクレアーゼIII遺伝子としては、rnc遺伝子が挙げられる。rnc遺伝子にコードさ
れるタンパク質(リボヌクレアーゼIII)を「Rncタンパク質」ともいう。
【0043】
コリネ型細菌が有するrnc遺伝子等のリボヌクレアーゼIII遺伝子の塩基配列およびそれらにコードされるRncタンパク質等のリボヌクレアーゼIIIのアミノ酸配列は、例えば、NCBI(National Center for Biotechnology Information)等の公開データベースから取得
できる。C. glutamicum ATCC 13869株のrnc遺伝子の塩基配列、及び同遺伝子がコードす
るRncタンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号51および52に示す。すなわち
、リボヌクレアーゼIII遺伝子は、例えば、上記例示したリボヌクレアーゼIII遺伝子の塩基配列(例えば配列番号51に示す塩基配列)を有する遺伝子であってよい。また、リボヌクレアーゼIIIは、例えば、上記例示したリボヌクレアーゼIIIのアミノ酸配列(例えば配列番号52に示すアミノ酸配列)を有するタンパク質であってよい。「遺伝子またはタンパク質が塩基配列またはアミノ酸配列を有する」とは、特記しない限り、遺伝子またはタンパク質が当該塩基配列またはアミノ酸配列を含むことを意味し、遺伝子またはタンパク質が当該塩基配列またはアミノ酸配列からなる場合も包含する。
【0044】
リボヌクレアーゼIII遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したリボヌ
クレアーゼIII遺伝子(例えば配列番号51に示す塩基配列を有する遺伝子)のバリアン
トであってもよい。同様に、リボヌクレアーゼIIIは、元の機能が維持されている限り、
上記例示したリボヌクレアーゼIII(例えば配列番号52に示すアミノ酸配列を有するタ
ンパク質)のバリアントであってもよい。そのような元の機能が維持されたバリアントを「保存的バリアント」という場合がある。本発明において、「rnc遺伝子」という用語は
、上記例示したrnc遺伝子に限られず、その保存的バリアントを包含するものとする。同
様に、「Rncタンパク質」という用語は、上記例示したRncタンパク質に限られず、その保存的バリアントを包含するものとする。保存的バリアントとしては、例えば、上記例示したリボヌクレアーゼIII遺伝子やリボヌクレアーゼIIIのホモログや人為的な改変体が挙げられる。
【0045】
「元の機能が維持されている」とは、遺伝子またはタンパク質のバリアントが、元の遺伝子またはタンパク質の機能(活性や性質)に対応する機能(活性や性質)を有することをいう。すなわち、「元の機能が維持されている」とは、リボヌクレアーゼIII遺伝子に
あっては、遺伝子のバリアントが、元の機能が維持されたタンパク質(すなわちリボヌクレアーゼIII活性を有するタンパク質)をコードすることをいう。また、「元の機能が維
持されている」とは、リボヌクレアーゼIIIにあっては、タンパク質のバリアントが、リ
ボヌクレアーゼIII活性を有することをいう。
【0046】
リボヌクレアーゼIII活性は、酵素をその基質となるRNA(例えば二本鎖RNA)とインキ
ュベートし、酵素依存的なRNAの開裂を測定することにより測定できる。具体的には、リ
ボヌクレアーゼIIIの活性測定は、通常、以下のようにして行われる(Methods Enzymol. 2001;342:143-58.)。一つの例は、3Hで標識されたポリ(A-U)の合成基質(二本鎖状態)に対して、酵素(例えば、細胞の粗抽出液またはそれを部分精製した酵素)を加えて、35℃にて反応させ、その反応液をトリクロロ酢酸処理し、沈殿画分(高分子量の核酸が含まれる)中の放射能の反応時間に伴う減少度合いを測定するという方法である。すなわち
、放射能の減少度合いを基質の開裂の指標としてリボヌクレアーゼIIIの活性を算出でき
る。また、別の例は、32Pで放射能標識した二本鎖RNAを基質として、それを、酵素を含む反応液(30 mM Tris-HCl (pH8.0), 250 mM グルタミン酸カリウムまたは160 mM NaCl、5 mM スペルミジン、0.1 mM EDTA, 0.1 mM DTT)に添加し、37℃で5分間インキュベートし、終濃度10mMのMgCl2を添加してRNA分解反応を開始し、適宜、反応が進行した後に、等容積のEDTA-電気泳動用マーカー色素混液(EDTAの終濃度が20mM以上となる濃度のもの)を
添加して反応を停止させるという方法である。次いで、反応後のサンプルを、7 M尿素を
含むTBE緩衝液(89 mM Tris/Tris-borate, 2 mM EDTA)での15%(w/v)変性ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動に供し、そのゲルを放射線画像解析装置にかけて、分解されたRNAの断片を解析することで、リボヌクレアーゼIII活性を検出できる。
【0047】
以下、保存的バリアントについて例示する。
【0048】
リボヌクレアーゼIII遺伝子のホモログまたはリボヌクレアーゼIIIのホモログは、例えば、上記例示したリボヌクレアーゼIII遺伝子の塩基配列または上記例示したリボヌクレ
アーゼIIIのアミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって
公開データベースから容易に取得することができる。また、リボヌクレアーゼIII遺伝子
のホモログは、例えば、コリネ型細菌の染色体を鋳型にして、これら公知のリボヌクレアーゼIII遺伝子またはその周辺領域の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドを
プライマーとして用いたPCRにより取得することができる。
【0049】
リボヌクレアーゼIII遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したリボヌ
クレアーゼIIIのアミノ酸配列(例えば、配列番号52に示すアミノ酸配列)において、
1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。なお上記「1又は数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1~50個、1~40個、1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個を意味する。
【0050】
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、及び/又は付加は、タンパク質の機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間
で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸であ
る場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性
アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu
、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、Lys
からAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、Phe
からTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、又は付加には、遺伝子が由来する細菌の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
【0051】
また、リボヌクレアーゼIII遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示した
リボヌクレアーゼIIIのアミノ酸配列全体に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より
好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有す
るアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。尚、本明細書において、「相同性」(homology)は、「同一性」(identity)を意味する。
【0052】
また、リボヌクレアーゼIII遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示した
リボヌクレアーゼIII遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号51に示す塩基配列)の相補
配列又は同相補配列から調製され得るプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイ
ブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブ
リダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常
のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2~3回洗浄する条件を挙げることができる。
【0053】
上記プローブは、例えば、遺伝子の相補配列の一部であってよい。そのようなプローブは、公知の遺伝子の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、これらの塩基配列を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。プローブとしては、例えば、300 bp程度の長さのDNA断片を用いることができる。そのような場
合、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
【0054】
また、宿主によってコドンの縮重性が異なるので、リボヌクレアーゼIII遺伝子は、任
意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。すなわち、リボヌクレアーゼIII遺伝子は、遺伝コードの縮重による上記例示したリボヌクレアーゼIII遺伝子のバリアントであってもよい。
【0055】
2つの配列間の配列同一性のパーセンテージは、例えば、数学的アルゴリズムを用いて決定できる。このような数学的アルゴリズムの限定されない例としては、Myers and Miller (1988) CABIOS 4:11-17のアルゴリズム、Smith et al (1981) Adv. Appl. Math. 2:482の局所ホモロジーアルゴリズム、Needleman and Wunsch (1970) J. Mol. Biol. 48:443-453のホモロジーアライメントアルゴリズム、Pearson and Lipman (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. 85:2444-2448の類似性を検索する方法、Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877に記載されているような、改良された、Karlin and Altschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264のアルゴリズムが挙げられる。
【0056】
これらの数学的アルゴリズムに基づくプログラムを利用して、配列同一性を決定するための配列比較(アラインメント)を行うことができる。プログラムは、適宜、コンピュータにより実行することができる。このようなプログラムとしては、特に限定されないが、PC/GeneプログラムのCLUSTAL(Intelligenetics, Mountain View, Calif.から入手可能)、ALIGNプログラム(Version 2.0)、並びにWisconsin Genetics Software Package, Version 8(Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Drive, Madison, Wis., USAから入手可能)のGAP、BESTFIT、BLAST、FASTA、及びTFASTAが挙げられる。これらのプログラムを用いたアライメントは、例えば、初期パラメーターを用いて行うことができる。CLUSTALプログラムについては、Higgins et al. (1988) Gene 73:237-244、Higgins et al. (1989) CABIOS 5:151-153、Corpet et al. (1988) Nucleic Acids Res. 16:10881-90、Huang et al. (1992) CABIOS 8:155-65、及びPearson et al. (1994) Meth. Mol. Biol. 24:307-331によく記載されている。
【0057】
対象のタンパク質をコードするヌクレオチド配列と相同性があるヌクレオチド配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTヌクレオチド検索を、BLASTNプログラム、スコア
=100、ワード長=12にて行うことができる。対象のタンパク質と相同性があるアミノ酸
配列を得るために、具体的には、例えば、BLASTタンパク質検索を、BLASTXプログラム、
スコア=50、ワード長=3にて行うことができる。BLASTヌクレオチド検索やBLASTタンパ
ク質検索については、http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。また、比較を目的
としてギャップを加えたアライメントを得るために、Gapped BLAST(BLAST 2.0)を利用
できる。また、PSI-BLASTを、配列間の離間した関係を検出する反復検索を行うのに利用
できる。Gapped BLASTおよびPSI-BLASTについては、Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389を参照されたい。BLAST、Gapped BLAST、またはPSI-BLASTを利用する場合、例えば、各プログラム(例えば、ヌクレオチド配列に対してBLASTN、アミノ酸配列に対してBLASTX)の初期パラメーターが用いられ得る。アライメントは、手動にて行われてもよい。
【0058】
2つの配列間の配列同一性は、2つの配列を最大一致となるように整列したときに2つの配列間で一致する残基の比率として算出される。
【0059】
なお、上記の遺伝子やタンパク質のバリアントに関する記載は、その他の任意のタンパク質や目的RNA、およびそれらをコードする遺伝子にも準用できる。
【0060】
以下に、リボヌクレアーゼIII等のタンパク質(酵素)の活性を低下させる手法につい
て説明する。
【0061】
「タンパク質の活性が低下する」とは、同タンパク質の活性が非改変株と比較して低下することを意味する。「タンパク質の活性が低下する」とは、具体的には、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株と比較して低下することを意味する。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が低下するように改変されていない対照株を意味する。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には、各細菌種の基準株(type strain)が挙げられる。また、非改変株として、具体的には、コリネ
型細菌の説明において例示した菌株も挙げられる。すなわち、一態様において、タンパク質の活性は、基準株(すなわち本発明の細菌が属する種の基準株)と比較して低下してよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13032株と比較して低下してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum 2256株(ATCC 13869)と比較して低下してもよい。なお、「タンパク質の活性が低下する」ことには、同タンパク質の活性が完全に消失している場合も包含される。「タンパク質の活性が低下する」とは、より具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が低下していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が低下していることを意味してよい。すなわち、「タンパク質の活性が低下する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。なお、「タンパク質の細胞当たりの分子数が低下している」ことには、同タンパク質が全く存在していない場合も包含される。また、「タンパク質の分子当たりの機能が低下している」ことには、同タンパク質の分子当たりの機能が完全に消失している場合も包含される。タンパク質の活性の低下の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して低下していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0062】
タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させることにより達成できる。「遺伝子の発現が低下する」とは、同遺伝子
の発現が非改変株と比較して低下することを意味する。「遺伝子の発現が低下する」とは、具体的には、同遺伝子の細胞当たりの発現量が非改変株と比較して低下することを意味する。「遺伝子の発現が低下する」とは、より具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が低下すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が低下することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」ことには、同遺伝子が全く発現していない場合も包含される。なお、「遺伝子の発現が低下する」ことを、「遺伝子の発現が弱化される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0063】
遺伝子の発現の低下は、例えば、転写効率の低下によるものであってもよく、翻訳効率の低下によるものであってもよく、それらの組み合わせによるものであってもよい。遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のプロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域等の発現調節配列を改変することにより達成できる。発現調節配列を改変する場合には、発現調節配列は、好ましくは1塩基以上、より好ましくは2塩基以上、特に好ましくは3塩基以上が改変される。遺伝子の転写効率の低下は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより弱いプロモーターに置換することにより達成できる。「より弱いプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも弱化するプロモーターを意味する。より弱いプロモーターとしては、例えば、誘導型のプロモーターが挙げられる。すなわち、誘導型のプロモーターは、非誘導条件下(例えば、誘導物質の非存在下)でより弱いプロモーターとして機能し得る。また、発現調節配列の一部または全部を欠失させてもよい。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、発現制御に関わる因子を操作することによっても達成できる。発現制御に関わる因子としては、転写や翻訳制御に関わる低分子(誘導物質、阻害物質など)、タンパク質(転写因子など)、核酸(siRNAなど)等が挙げられる。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のコード領域に
遺伝子の発現が低下するような変異を導入することによっても達成できる。例えば、遺伝子のコード領域のコドンを、宿主においてより低頻度で利用される同義コドンに置き換えることによって、遺伝子の発現を低下させることができる。また、例えば、後述するような遺伝子の破壊により、遺伝子の発現自体が低下し得る。
【0064】
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊することにより達成できる。「遺伝子が破壊される」とは、正常に機能するタンパク質を産生しないように同遺伝子が改変されることを意味する。「正常に機能するタンパク質を産生しない」ことには、同遺伝子からタンパク質が全く産生されない場合や、同遺伝子から分子当たりの機能(活性や性質)が低下又は消失したタンパク質が産生される場合が包含される。
【0065】
遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子を欠失(欠損)させることにより達成できる。「遺伝子の欠失」とは、遺伝子のコード領域の一部又は全部の領域の欠失をいう。さらには、染色体上の遺伝子のコード領域の前後の配列を含めて、遺伝子全体を欠失させてもよい。タンパク質の活性の低下が達成できる限り、欠失させる領域は、N末端領域(タンパク質のN末端側をコードする領域)、内部領域、C末端領域(タンパク質のC末端側をコードする領域)等のいずれの領域であってもよい。通常、欠失させる領域は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。欠失させる領域は、例えば、遺伝子のコード領域全長の10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上の長さの領域であってよい。また、欠失させる領域の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。リーディングフレームの不一致により、欠失させる領域の下流でフレームシフトが生じ得る。
【0066】
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、終止コドン(ナンセンス変異)を導入すること、または1~2塩基の付加または欠失(フレームシフト変異)を導入すること等によっても達成できる(Journal of Biological Chemistry 272:8611-8617(1997), Proceedings of the National Academy of Sciences, USA 95 5511-5515(1998), Journal of Biological Chemistry 26 116, 20833-20839(1991))。
【0067】
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域に他の塩基配列を挿入することによっても達成できる。挿入部位は遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿入する塩基配列は長い方が確実に遺伝子を不活化することができる。また、挿入部位の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。リーディングフレームの不一致により、欠失させる領域の下流でフレームシフトが生じ得る。他の塩基配列としては、コードされるタンパク質の活性を低下又は消失させるものであれば特に制限されないが、例えば、抗生物質耐性遺伝子等のマーカー遺伝子や目的物質の生産に有用な遺伝子が挙げられる。
【0068】
遺伝子の破壊は、特に、コードされるタンパク質のアミノ酸配列が欠失するように実施してよい。言い換えると、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、タンパク質のアミノ酸配列を欠失させることにより、具体的には、アミノ酸配列を欠失したタンパク質をコードするように遺伝子を改変することにより、達成できる。なお、「タンパク質のアミノ酸配列の欠失」とは、タンパク質のアミノ酸配列の一部または全部の領域の欠失をいう。また、「タンパク質のアミノ酸配列の欠失」とは、タンパク質において元のアミノ酸配列が存在しなくなることをいい、元のアミノ酸配列が別のアミノ酸配列に変化する場合も包含される。すなわち、例えば、フレームシフトにより別のアミノ酸配列に変化した領域は、欠失した領域とみなしてよい。タンパク質のアミノ酸配列の欠失により、典型的にはタンパク質の全長が短縮されるが、タンパク質の全長が変化しないか、あるいは延長される場合もあり得る。例えば、遺伝子のコード領域の一部又は全部の領域の欠失により、コードされるタンパク質において、当該欠失した領域がコードする領域を欠失させることができる。また、例えば、遺伝子のコード領域への終止コドンの導入により、コードされるタンパク質において、当該導入部位より下流の領域がコードする領域を欠失させることができる。また、例えば、遺伝子のコード領域におけるフレームシフトにより、コードされるタンパク質において、当該フレームシフト部位がコードする領域を欠失させることができる。アミノ酸配列の欠失における欠失させる領域の位置および長さについては、遺伝子の欠失における欠失させる領域の位置および長さの説明を準用できる。
【0069】
染色体上の遺伝子を上記のように改変することは、例えば、正常に機能するタンパク質を産生しないように改変した破壊型遺伝子を作製し、該破壊型遺伝子を含む組換えDNAで
宿主を形質転換して、破壊型遺伝子と染色体上の野生型遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上の野生型遺伝子を破壊型遺伝子に置換することによって達成できる。その際、組換えDNAには、宿主の栄養要求性等の形質にしたがって、マーカー遺伝子
を含ませておくと、実験操作上、扱いやすい。破壊型遺伝子としては、遺伝子の全領域あるいは一部の領域を欠失した遺伝子、ミスセンス変異を含む遺伝子、ナンセンス変異を含む遺伝子、フレームシフト変異を含む遺伝子、トランスポゾンまたはマーカー遺伝子が挿入された遺伝子が挙げられる。破壊型遺伝子によってコードされるタンパク質は、生成したとしても、野生型タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下又は消失する。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、「Red
ドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))、Redドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. Bacteriol. 184: 5200-5203 (2002))とを組み合わせた
方法(WO2005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法などがある(米国特許第6303383号、
特開平05-007491号)。
【0070】
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN-メチル-N'
-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。
【0071】
上記のようなタンパク質の活性を低下させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
【0072】
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、それら複数のサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、それらのサブユニットをコードする複数の遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。また、タンパク質に複数のアイソザイムが存在する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、複数のアイソザイムの全ての活性を低下させてもよく、一部のみの活性を低下させてもよい。すなわち、例えば、それらのアイソザイムをコードする複数の遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。
【0073】
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
【0074】
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が低下したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が低下したことは、同遺伝子の転写量が低下したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が低下したことを確認することにより確認できる。
【0075】
遺伝子の転写量が低下したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を非改変株と比較することによって行うことが出来る。mRNAの量を評価する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR、マイクロアレイ、RNA-seq等が挙げられる(Molecular
Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001)
)。mRNAの量(例えば、細胞当たりのmRNAの分子数)は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0076】
タンパク質の量が低下したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことが出来る(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量(例えば、細胞当たりのタンパク質の分子数)は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
【0077】
遺伝子が破壊されたことは、破壊に用いた手段に応じて、同遺伝子の一部または全部の塩基配列、制限酵素地図、または全長等を決定することで確認できる。
【0078】
上記したタンパク質の活性を低下させる手法は、リボヌクレアーゼIIIの活性低下に限
られず、任意のタンパク質の活性低下および任意の遺伝子の発現低下に利用できる。
【0079】
<2>本発明の方法
上記のようにして得られる本発明の細菌を利用して、目的RNAを製造することができる
。本発明の方法は、本発明の細菌を培地で培養すること、および転写された目的RNAを採
取すること、を含む目的RNAの製造方法である。本発明の細菌を培地で培養することによ
り、目的RNAを転写させることができ、該細菌の菌体内に目的RNAを蓄積させることができる。すなわち、本発明の方法は、具体的には、本発明の細菌を培地で培養し、目的RNAを
転写させ、該細菌の菌体内に目的RNAを蓄積させること、および前記菌体より目的RNAを採取すること、を含む目的RNAの製造方法であってよい。
【0080】
本発明の細菌は、例えば、コリネ型細菌等の細菌の培養に通常用いられる培養条件に従って培養することができる。本発明の細菌は、例えば、炭素源、窒素源、無機イオンを含有する通常の培地で培養することができる。さらに、例えば、ビタミンやアミノ酸等の有機微量栄養素を必要に応じて添加することもできる。
【0081】
炭素源としては、例えば、グルコースおよびスクロースのような炭水化物類、酢酸のような有機酸類、アルコール類、その他を使用することができる。窒素源としては、例えば、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩、その他を使用することができる。無機イオンとしては、例えば、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン酸イオン、カリウムイオン、鉄イオン等を必要に応じて適宜使用することができる。培養は、例えば、pH5.0~8.5、15℃~37℃の適切な範囲にて好気的条件下で10時間~120時間実施すること
ができる。また、コリネ型細菌等の細菌によるL-アミノ酸生産における培養条件や、コリネ型細菌等の細菌によるタンパク質の分泌生産法における培養条件を参照することもできる(WO01/23591、WO2005/103278、WO2013/065869、WO2013/065772、WO2013/118544、WO2013/062029等)。また、目的RNAの発現のために誘導型プロモーターを用いる場合は、適宜、目的RNAの発現を誘導することができる。
【0082】
このような条件下で本発明の細菌を培養することにより、目的RNAが転写され、菌体内
に蓄積する。
【0083】
目的RNAが発現および蓄積したことは、例えば、菌体抽出物を含む画分を試料として電
気泳動を行い、目的RNAの分子量に相当するバンドを検出することにより確認することが
できる。
【0084】
目的RNAは、化合物を分離精製する適当な手法により、菌体から回収することができる
。そのような手法としては、例えば、遠心分離、塩析、エタノール沈殿、限外濾過、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニーティークロマトグラフィー、電気泳動が挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いてよい。具体的には、例えば、菌体を超音波などにより破砕し、遠心分離などによって菌体を除去して得られる上清から、イオン交換樹脂法などによって目的RNAを回収する
ことができる。回収される目的RNAは、フリー体、その塩、またはそれらの混合物であっ
てよい。また、回収される目的RNAは、タンパク質等の高分子化合物との結合物であって
もよい。すなわち、本発明における「目的RNA」という用語は、フリー体の目的RNA、その塩、それらとタンパク質等の高分子化合物との結合物、またはそれらの混合物を意味してよい。塩としては、例えば、アンモニウム塩やナトリウム塩が挙げられる。
【0085】
回収される目的RNAは、目的RNA以外に、例えば、菌体、培地成分、水分、及び細菌の代謝副産物等の成分を含んでいてもよい。目的RNAは、所望の程度に精製されていてもよい
。回収される目的RNAの純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
【実施例0086】
以下、実施例を参照して本発明をさらに更に具体的に説明するが、本発明はこれにより制限されるものではない。
【0087】
<1>Corynebacterium glutamicumのリボヌクレアーゼIII遺伝子欠損株の取得
C. glutamicum 2256株(ATCC13869株、以下、単に「2256株」ともいう)のリボヌクレ
アーゼIII(RNaseIII)ホモログ遺伝子(以下、「rnc遺伝子」ともいう)の破壊株を以下の手順で構築した。
【0088】
まず、既知のRNaseIIIとのアミノ酸配列の相同性に基づき、遺伝子データベース(GenBank)のC. glutamicum 2256株のゲノム配列情報(Accession No. AP017557)におけるREGION: 2115207..2115950に存在する領域がrnc遺伝子であると推定した。そこで、その遺伝子を欠損させるために必要な情報として、そのORF(オープンリーディングフレーム)領
域と、その上流領域と下流領域の各々約1,000塩基(1kb)のDNA塩基配列情報を遺伝子デ
ータベース(GenBank)から取得した。
【0089】
次に、2256株の菌体から、DNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN製)を用いてゲノムDNAを取得した。このゲノムDNAを鋳型として、配列番号1と2のプライマーを用いてrnc遺伝子の上流領域約1kbを含むDNA断片を、配列番号3と4のプライマーを用いてrnc遺伝子の
下流領域約1kbを含むDNA断片を、PrimeSTAR GXL DNA Polymerase(TAKARA BIO製)にてそれぞれPCR増幅して取得した。なお、PCR条件はメーカー推奨プロトコルに準じた。続いて、これらのDNA断片を、sacB遺伝子を搭載するプラスミドpBS4S(WO2005/113745およびWO2005/113744;C. glutamicumにおいては複製能を持たない)に以下の手順で連結した。具
体的には、pBS4Sを鋳型とし、配列番号5と6のプライマーを用いて、PrimeSTAR GXL DNA
PolymeraseにてPCR増幅を行い、pBS4Sの増幅断片を取得した。次いで、上記で取得したrnc遺伝子の上流領域と下流領域の両DNA断片とpBS4Sの増幅断片とを混合し、In-Fusion HD
Cloning Kit(クロンテック製)を使用してそれら3つの断片を連結した(
図1)。その反応液でエシェリヒア・コリJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)を形質転換し
、カナマイシン25μg/mlを含むLB寒天培地上に塗布し、37℃で一晩培養した。その後、寒天培地上に出現したコロニーから単一コロニーを分離し、カナマイシン耐性の形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを常法により抽出した。rnc遺伝子の上流領
域と下流領域のDNA断片を含むプラスミドを構造解析により同定し、それをpBS4SΔrncと
命名した(
図1)。
【0090】
このプラスミドはコリネ型細菌内で自律複製できないため、本プラスミドをコリネ型細菌へ導入した場合、極めて低頻度であるが、本プラスミドが遺伝的相同組換え反応により染色体に組み込まれ、カナマイシン耐性を示す形質転換株が出現する。そこで、電気パルス法により2256株を高濃度のプラスミドpBS4Δrncで形質転換し、カナマイシン25μg/ml
を含むCM-Dex寒天培地(グルコース 5g/L、ポリペプトン 10g/L、イーストエキストラク
ト 10g/L、KH2PO4 1g/L、MgSO4・7H2O 0.4g/L、FeSO4・7H2O 0.01g/L、MnSO4・7H2O 0.01g/L、尿素 3g/L、大豆加水分解物 1.2g/L、pH7.5(KOHにて調整)、寒天20g/L)に塗布し30℃で一晩培養した。その結果、数コロニーが出現した。この培地上に生育してきた株は、該プラスミドのrnc遺伝子近傍(上流領域あるいは下流領域)のDNA配列断片と2256株のゲノム上のrnc遺伝子近傍の領域との間で相同組換えを起こした結果、同ゲノム中に該プ
ラスミドに由来するカナマイシン耐性遺伝子およびsacB遺伝子が挿入されている株、いわゆる一回組み換え株である。
【0091】
次に、これらの一回組換え体を、カナマイシンを含まないCM-Dex培地(寒天を含まないこと以外はCM-Dex寒天培地と同一の組成)にて30℃で一晩培養した。培養液を適当に希釈した後に、カナマイシンを含まない10%(w/v)スクロース含有Dex-S10寒天培地(スクロー
ス 100g/L、ポリペプトン 10g/L、イーストエキストラクト 10g/L、KH
2PO
4 1g/L、MgSO
4
・7H
2O 0.4g/L、FeSO
4・7H
2O 0.01g/L、MnSO
4・4H
2O 0.01g/L、尿素 3g/L、大豆加水分解物 1.2g/L、ビオチン 10μg/L、pH7.5(KOHにて調整)、寒天20g/L)に塗布し、30℃で一晩培養した。その結果、数個のコロニーが出現した。これらの株は、2回目の相同組み換えによりsacB遺伝子が脱落することでスクロース非感受性となった株と考えられた。この様にして得られた株には、rnc遺伝子が欠損型に置き換わったものと野生型に戻ったもの
が含まれる。そこで、出現したコロニーをKOD FX NEO(TOYOBO製)を使用したコロニーPCRに供し、rnc遺伝子欠損株を選別した。配列番号7と8のプライマーを用いたPCR増幅に
よりそれらの株のrnc遺伝子領域の長さを分析した結果、2256株(野生型)のゲノムDNAを鋳型にしたものよりもPCR増幅でのDNA断片の長さが短い株が認められた。そこで、その内の1つの株をrnc遺伝子欠損株として選抜し、2256Δrncと命名した。なお、野生型rnc遺
伝子の場合のPCR増幅DNA断片の長さは約3 kbpであり、欠損型rnc遺伝子の場合のPCR増幅DNA断片の長さは約2 kbpである(
図2)。
【0092】
<2>内在性プラスミドのキュアリング
2256株は、内在性プラスミドpAM330を有する(Yamaguchi, Ryuji, et al. "Determination of the complete nucleotide sequence of Brevibacterium lactofermentum plasmid
pAM330 and analysis of its genetic information." Agricultural and biological chemistry 50.11 (1986): 2771-2778.)。プラスミドpVC7(特開1997-070291)にsacB遺伝
子を搭載したプラスミドpVC7-sacBを構築した。pVC7は、pAM330とエシェリヒア・コリ用
汎用ベクターであるpHSG399(TAKARA BIO製)のコンポジットプラスミドである。具体的
には、pBS4Sを鋳型として、配列番号9と10のプライマーを使用し、PrimeSTAR GXL DNA
PolymeraseにてPCR増幅し、sacB遺伝子の増幅断片を得た。また、pVC7を鋳型として、配列番号11と12のプライマーを使用し、KOD FX NEO(TOYOBO製)にてPCR増幅し、pVC7
の増幅断片を得た。両増幅断片を混合し、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック製)を使用して互いに連結した。次に、この反応溶液でエシェリヒア・コリJM109株のコンピ
テントセル(TAKARA BIO製)を形質転換し、クロラムフェニコール25μg/mlを含むLB寒天培地上に塗布して37℃で一晩培養した。その後、出現したコロニーから単一コロニーを分離した。こうして得られた形質転換体から常法によりプラスミドを抽出し、DNA配列解析
により目的とするプラスミドを確認し、これをpVC7-sacBと命名した(
図3)。2256株お
よび2256Δrnc株にpVC7-sacBを電気パルス法により導入し、クロラムフェニコール5μg/mlを含むCM-Dex寒天培地に塗布し30℃で一晩培養後、2256/pVC7-sacB株および2256Δrnc/pVC7-sacB株の形質転換体をそれぞれ複数個取得した。続いて、その中から、内在性プラスミドpAM330が除去された、2256ΔpAM330/pVC7-sacB株および2256ΔrncΔpAM330/pVC7-sacB株を取得した。さらに、これらの株をDex-S10寒天培地に塗布し、30℃にて一晩培養することで、pVC7-sacBが脱落しスクロース非感受性となった、2256ΔpAM330株および2256ΔrncΔpAM330株を取得した。
【0093】
<3>一方向転写用プラスミドpVC7-Pf1-U1Ainsertの構築
F1プロモーターの制御下で目的RNAとしてU1A結合配列を一方向に転写するためのプラスミドpVC7-Pf1-U1Ainsertを以下の手順で構築した。
【0094】
コリネ型細菌に感染するバクテリオファージBFK20由来のプロモーター配列(Accession
No. L13772)のプロモーター作用領域(配列番号13;以下、F1プロモーターと記す;Koptides, M., et al., (1992). Characterization of bacteriophage BFK20 from Brevibacterium flavum. Microbiology, 138(7), 1387-1391.)と、ターミネーター(ter)領域(配列番号14;Bukovska, G., et al., (2006). Complete nucleotide sequence and genome analysis of bacteriophage BFK20-a lytic phage of the industrial producer Brevibacterium flavum. Virology, 348(1), 57-71)を、さらに、目的RNAとして、核小体低分子リボ核タンパク質U1Aへの結合能を有するU1A結合配列(配列番号15(TはUに読み替えるものとする);Endoh, T., et al., (2008). Cellular siRNA delivery mediate
d by a cell-permeant RNA-binding protein and photoinduced RNA interference. Bioconjugate chemistry, 19(5), 1017-1024.)を選定し、U1A結合配列の転写ユニット(U1Ainsert RNA転写ユニット;配列番号16)のDNA配列を設計した(
図4)。U1Ainsert RNA
転写ユニットのDNA断片を、化学合成(ユーロフィンジェノミクス社)により作成した。
次に、そのDNA断片を鋳型として、配列番号17と18のプライマーを使用し、KOD FX NEO(TOYOBO製)にてPCR増幅し、U1Ainsert RNA転写ユニットの増幅断片を得た。また、pVC7を鋳型とし、配列番号19と20のプライマーを使用し、KOD FX NEO(TOYOBO製)にてPCR増幅し、pVC7の増幅断片を得た。そして、これらの増幅断片を混合し、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック製)を使用して互いに連結した。次に、この反応溶液でエシェリヒア・コリJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)を形質転換し、クロラムフェ
ニコール25μg/mlを含むLB寒天培地上に塗布して37℃で一晩培養した。その後、出現したコロニーから単一コロニーを分離し形質転換体を得た。得られた形質転換体から常法によりプラスミドを抽出した。DNA配列解析により目的とするプラスミドを同定し、それをpVC7-Pf1-U1Ainsertと命名した(
図4)。
【0095】
<4>双方向転写用プラスミドpVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1revの構築
F1プロモーターの制御下で目的RNAとしてHv-iap RNAを双方向に転写するためのプラス
ミドpVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1revを以下の手順で構築した。
【0096】
ニジュウヤホシテントウ由来のアポトーシス阻害因子IAPをコードするiap遺伝子由来cDNAの部分配列であるHv-iap(配列番号21)のDNA断片を、WO2010/140675に記載の情報をもとに、化学合成により作成した。そして、F1プロモーターの直後にHv-iap配列を連結したDNA配列を含むプラスミドの構築を以下のように実施した(
図5A)。まず、pVC7を鋳
型として、配列番号20と22のプライマーを使用し、KOD FX NEO(TOYOBO製)にてPCR
増幅し、pVC7のDNA断片を得た。また、配列番号16のDNA断片を鋳型とし、配列番号23と24のプライマーを使用し、PrimeSTAR HS(TAKARA BIO製)にてPCR増幅し、F1プロモ
ーター配列を含むDNA断片を得た。また、配列番号21のDNA断片を鋳型として、配列番号25と26のプライマーを使用し、PrimeSTAR HS(TAKARA BIO製)にてPCR増幅し、Hv-iap配列のDNA断片を得た。そして、これら3種の断片を混合し、In-Fusion HD Cloning Kit
(クロンテック製)にて、DNA断片を連結した。次に、この反応溶液でエシェリヒア・コ
リJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)を形質転換し、クロラムフェニコール25
μg/mlの耐性株を得た。得られた形質転換体から常法によりプラスミドを抽出した。DNA
配列解析により目的とするプラスミドを同定し、そのうちの1つをpVC7-Pf1-Hv-iapと命
名した(
図5A)。
【0097】
pVC7を鋳型として、配列番号20と27のプライマーを使用し、KOD FX NEO(TOYOBO製)にてPCR増幅し、pVC7のDNA断片を得た。また、配列番号16のDNA断片を鋳型とし、配
列番号28と29のプライマーを使用し、PrimeSTAR HS(TAKARA BIO製)にてPCR増幅し
、F1プロモーター配列の増幅断片を得た。両増幅断片を混合し、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック製)にて連結した。次に、この反応溶液でエシェリヒア・コリJM109株
のコンピテントセル(TAKARA BIO製)を形質転換し、クロラムフェニコール25μg/mlを含むLB寒天培地上に塗布して37℃で一晩培養した。その後、出現したコロニーから単一コロニーを分離した。得られた形質転換体から常法によりプラスミドを抽出した。DNA配列解
析により目的とするプラスミドを同定し、それをpVC7-Pf1revと命名した(
図5B)。
【0098】
次に、pVC7-Pf1revのF1プロモーターの下流に制限酵素サイトKpnIサイトおよびXhoIサ
イトを導入する為、pVC7-Pf1revを鋳型として、配列番号20と30のプライマーを使用
し、KOD-Plus- Mutagenesis Kit(TOYOBO製)を用いてインバースPCRを実施した。その後、増幅DNA断片をDpnI処理、リン酸化反応、およびセルフライゲーション反応に供して環
状化し、エシェリヒア・コリJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)に導入した。
菌体をクロラムフェニコール25μg/mlを含むLB寒天培地上に塗布して37℃で一晩培養した。その後、出現したコロニーから単一コロニーを分離した。得られた形質転換体から常法によりプラスミドを抽出した。DNA配列解析により目的とするプラスミドを同定し、それ
をpVC7-KpnI-XhoI-Pf1revと命名した(
図5B)。
【0099】
続いて、pVC7-Pf1-Hv-iapを鋳型として、配列番号31と32のプライマーを使用し、PrimeSTAR HS(TAKARA BIO製)にてPCRを実施し、KpnI制限酵素サイト―F1プロモーター領域―Hv-iap領域―XhoI制限酵素サイトをこの順に含むDNA断片を取得した。このDNA断片とpVC7-KpnI-XhoI-Pf1revをそれぞれ制限酵素KpnIおよびXhoIで切断し、MinElute PCR Purification Kit(キアゲン製)で精製した。両精製物を混合し、Ligation high Ver.2(TOYOBO製)を用いたライゲーション反応により互いに連結した。次に、この反応溶液でエシ
ェリヒア・コリJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)を形質転換し、クロラムフ
ェニコール25μg/mlの耐性株を得た。得られた形質転換体から常法によりプラスミドを抽出した。DNA配列解析により目的とするプラスミドを同定し、それをpVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1revと命名した(
図5B)。
【0100】
<5>目的RNAの生産
C. glutamicum 2256ΔpAM330株およびC. glutamicum 2256ΔrncΔpAM330株に、pVC7、pVC7-Pf1-U1Ainsert、およびpVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1revの各プラスミドを電気パルス法によ
り導入し、クロラムフェニコール5μg/mlを含むCM-Dex寒天培地上に塗布して、30℃で一
晩培養した。それにより、形質転換体2256ΔpAM330/pVC7株と2256ΔrncΔpAM330/pVC7株
、2256ΔpAM330/pVC7-Pf1-U1Ainsert株と2256ΔrncΔpAM330/pVC7-Pf1-U1Ainsert株、2256ΔpAM330/pVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1rev株と2256ΔrncΔpAM330/pVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1rev株をそれぞれ得た。
【0101】
上記で得られた各形質転換体のコロニーを、CM-Dex寒天培地(クロラムフェニコール5
μg/mlを含む)に塗布し、30℃で約16時間培養した。次に、培養菌体の一部を試験管培養に用いた。クロラムフェニコール(5 μg/ml)を含むCM-Dex培地(2 ml)にて30℃で24時間振とう培養した。その後、培養液200 μlをRNAprotect Bacteria Reagentにより処理し、上清を除去した。次に、15 mg/mlのリゾチーム(シグマ製)を含有するTE緩衝液225 μlを添加して室温で30分間反応させ、更に20 mg/mL proK(TAKARA BIO製) 25 μlを添加
して室温で30分間反応させ、次いで、TRIzol LS(サーモフィッシャーサイエンティフィ
ック製)を用いてRNAを抽出した。抽出したRNAをRNaseフリー水50 μlで溶解し、トータ
ルRNA溶液を調製した。得られたトータルRNA溶液について、Novex TBE Gels, 6%(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いてトータルRNA分析を実施した。すなわち
、各トータルRNA溶液1 μlをゲルのレーンへアプライし、非変性条件下でのポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)を実施した。
【0102】
その結果、2256ΔpAM330/pVC7-Pf1-U1Ainsert株と2256ΔrncΔpAM330/pVC7-Pf1-U1Ainsert株から抽出したトータルRNAを比較した場合、rnc遺伝子を欠損した株でのみ、予想さ
れる位置にU1Ainsert由来のRNAバンドが確認された(
図6)。同様に、2256ΔpAM330/pVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1rev株と2256ΔrncΔpAM330/pVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1rev株から抽出したト
ータルRNAを比較した場合でも、rnc遺伝子を欠損した株でのみ、予想される位置にHv-iap由来のRNAバンドが確認された(
図6)。よって、rnc遺伝子の欠損はCorynebacterium属
細菌を用いたRNA生産に有効であることが示された。
【0103】
<6>高コピー数版プラスミドの取得
2256/pVC7形質転換体60クローンを、クロラムフェニコール(5μg/ml)を含むCM-Dex培地で一晩培養した。培養液500μlを遠心(14,400×g, 2分)し、回収した菌体に、P1 buffer(キアゲン製)に15 mg/mlで溶解したニワトリ卵白由来リゾチーム(シグマアルドリ
ッチ製)を200μl添加し、37℃で30分反応させた。その後、QIAprep Spin Miniprep Kit
(キアゲン製)を用いて各クローンの菌体からプラスミドを抽出し、アガロース電気泳動に供してプラスミド量を比較した。その結果、1クローンからの抽出プラスミドは、他の
クローンから抽出したものよりも明らかに太いDNAバンドを示すことが観察された。そこ
で、そのプラスミドを改めて2256株へ導入し、形質転換体から同様にプラスミドを抽出して、その収量をアガロース電気泳動法にて解析した。上記と同様に、同プラスミドは対照となるpVC7に比べて明らかに太いDNAバンドを示し、すなわち、同プラスミドは、元のプ
ラスミドpVC7に比べて、コリネ型細菌の菌体内で高いコピー数で維持されるプラスミドであることが明らかとなった。このプラスミドをpVC7H1と命名した。
【0104】
得られたpVC7H1の変異点をDNAシーケンサーGenetic Analyzer 3500xl(アプライドバイオシステムズ製)にて解析した。その結果、pVC7H1においては、pVC7の全塩基配列6679 bpのうち、1172番目(制限酵素HindIIIの切断認識部位の5’末端から2つ目の塩基Aを+1とする)の塩基がシトシン(C)からアデニン(A)に置換していることが明らかとなった。以下、本変異を「C1172A」と記載する。よって、本変異がpVC7H1の高コピー数化の原因であることが明らかとなった。
【0105】
C1172A変異によりpVC7のコピー数が顕著に増加することが明らかとなったので、この領域について、表1に記載したこの領域の変異をそれぞれpVC7へ導入し、プラスミドのコピー数への影響を評価した。
【0106】
各変異型プラスミドは、KOD -Plus- Mutagenesis Kit(東洋紡社製)を用いて構築した。プラスミドpVC7を鋳型として、上記キットに添付の作成プロトコルに従い、配列番号33と34のプライマーを用いることでpVC7H2を、配列番号33と35のプライマーを用いることでpVC7H3を、配列番号36と37のプライマーを用いることでpVC7H4を、配列番号36と38のプライマーを用いることでpVC7H5を、配列番号33と39のプライマーを用いることでpVC7H6を、配列番号33と40のプライマーを用いることでpVC7H7を構築した(表1)。なお、全塩基配列はDNAシーケンサーにより正しいものであることを確認した
。
【0107】
【0108】
構築した各プラスミドを常法により2256ΔpAM330株へ形質転換した。選択培地としては、クロラムフェニコール(5 μg/ml)を含むCM-Dex寒天培地を使用した。いずれのプラスミドを形質転換した場合も、良好にコロニーを形成した。そこで、各プラスミドを保持するコロニーを同寒天培地に白金耳にて植菌し、30℃にて約一日培養した。その後、生育した各株の菌体(約2cm四方)を、クロラムフェニコール(5mg/L)を含むCM-Dex培地に植菌し、30℃にて終夜振とう培養した。
【0109】
保持するプラスミドを常法により培養液から抽出した。調製したプラスミド溶液の一部をアガロース電気泳動に供し、各プラスミドのDNAバンドを解析した。結果を表2に示す
。
【0110】
【0111】
その結果、当初得られたpVC7H1よりも明らかにコピー数が高い変異型プラスミドが得られた。その1つであるpVC7H2を以後の実験に使用した。なお、pVC7のコピー数が10コピー/cell程度、pVC7H1のコピー数が100コピー/cell程度、pVC7H2のコピー数が250コピー/cell程度であると考えられる。
【0112】
<7>高コピー数版プラスミドを使用したRNA生産
pVC7-Pf1-U1AinsertおよびpVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1revの高コピー数版を、以下の手順で構築した。具体的には、pVC7-Pf1-U1AinsertまたはpVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1revを鋳型として、pVC7H1変異導入用の配列番号33と41のプライマー、または、pVC7H2変異導入用の配列番号33と34のプライマーを用いて、KOD -Plus- Mutagenesis Kit(TOYOBO製)によるインバースPCRを実施した。その後、得られたDNA断片をDpnI処理、リン酸化反応、およびセルフライゲーション反応に供して環状化し、エシェリヒア・コリJM109株のコンピテン
トセル(TAKARA BIO製)を形質転換した。菌体をクロラムフェニコール(25μg/ml)を含むLB寒天培地上に塗布して37℃で一晩培養した。出現したコロニーから単一コロニーを分離した。得られた形質転換体から常法によりプラスミドを抽出した。DNA配列解析により
目的とするプラスミドを同定し、それらをpVC7H1-Pf1-U1Ainsert、pVC7H2-Pf1-U1Ainsert、pVC7H1-Pf1-Hv-iap-Pf1rev、そして、pVC7H2-Pf1-Hv-iap-Pf1revと命名した。
【0113】
次に、2256ΔrncΔpAM330株に、pVC7、pVC7-Pf1-U1Ainsert、pVC7H1-Pf1-U1Ainsert、 pVC7H2-Pf1-U1Ainsert、pVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1rev、pVC7H1-Pf1-Hv-iap-Pf1rev、pVC7H2-Pf1-Hv-iap-Pf1revの各プラスミドを電気パルス法により導入し、クロラムフェニコール(5μg/ml)を含むCM-Dex寒天培地に塗布し30℃で一晩培養した。それにより、形質転換体2256ΔrncΔpAM330/pVC7株、2256ΔrncΔpAM330/pVC7-Pf1-U1Ainsert株、2256ΔrncΔpAM330/pVC7H1-Pf1-U1Ainsert株、2256ΔrncΔpAM330/pVC7H2-Pf1-U1Ainsert株、2256ΔrncΔpAM330/pVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1rev株、2256ΔrncΔpAM330/pVC7H1-Pf1-Hv-iap-Pf1rev株、2256ΔrncΔpAM330/pVC7H2-Pf1-Hv-iap-Pf1rev株をそれぞれ得た。次いで、それらの株を
試験管にて培養し、それらの株が生産するRNAを評価した。各形質転換体のコロニーから
寒天培地上に培養した菌体の一部を、クロラムフェニコール(5μg/ml)を含むCM-Dex培
地(2 ml)に植菌し、30℃で24時間振とう培養した。その後、RNAprotect Bacteria Reagent処理を含めて上記の実施例と同様の手順で培養液200 μlからRNAを抽出し、最終的にRNAサンプルをRNaseフリー水50 μlに溶解して、トータルRNA溶液を調製した。得られたトータルRNA溶液について、Novex TBE Gels(6%)を用いた非変性条件下でのPAGEによるト
ータルRNA分析を実施した。その結果、U1Ainsert-RNAは、pVC7-Pf1-U1Ainsert<<pVC7H1-Pf1-U1Ainsert ≒ pVC7H2-Pf1-U1Ainsertの順に蓄積量が増大した(
図7)。同様にHv-iap-dsRNAも、pVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1rev<<<pVC7H1-Pf1-Hv-iap-Pf1rev<pVC7H2-Pf1-Hv-iap-Pf1revの順に蓄積量が増大した(
図7)。このことから、RNA転写用プラスミドのコ
ピー数を増大させることで、目的RNAの菌体内蓄積量が増加することが示された。
【0114】
<8>E. coliでのT7プロモーター誘導発現系によるRNA生産との比較
既報(Timmons, L., Court, D. L., & Fire, A. (2001). Ingestion of bacterially expressed dsRNAs can produce specific and potent genetic interference in Caenorhabditis elegans. Gene, 263(1), 103-112.)に記載の通り、rnc遺伝子欠損株であるエシ
ェリヒア・コリHT115(DE3)株にてT7 RNAポリメラーゼによるRNA生産系が報告されている
。そこで、C. glutamicum 2256ΔrncΔpAM330株でのF1プロモーター発現系によるRNA生産と、E. coliでのT7プロモーター誘導発現系によるRNA生産を比較した。
【0115】
そのために、T7プロモーターの制御下でU1A結合配列を一方向に転写するためのプラス
ミドpL4440-Pt7-U1AinsertおよびT7プロモーターの制御下でHv-iap RNAを双方向に転写するためのプラスミドpL4440-Pt7-Hv-iap-Pt7revを以下の手順で構築した。
【0116】
プラスミドpL4440(GEヘルスケア)を鋳型として、配列番号42と43のプライマーを使用し、KOD FX NEOにてPCRし、pL4440のDNA断片を得た。また、pVC7-Pf1-U1Ainsertを鋳型として、配列番号44と45のプライマーを使用し、PrimeSTAR HS(TAKARA BIO製)にてPCRし、U1Ainsert配列を含むDNA断片を得た。また、配列番号46のDNA鎖と配列番号47のDNA鎖(配列番号47のDNA鎖は配列番号46のDNA鎖の相補配列に相当する配列を有
する)とを混合して互いにアニーリングさせ、MinElute PCR Purification Kitで精製す
ることにより、T7ターミネーター配列のDNA断片を得た。これら3種のDNA断片を混合し、In-Fusion HD Cloning Kitを用いて互いに連結した。次に、この反応溶液でエシェリヒア
・コリJM109株のコンピテントセルを形質転換し、アンピシリン(100μg/ml)を含むLB寒天培地上に塗布して37℃で一晩培養した。その後、出現したコロニーから単一コロニーを分離した。得られた形質転換体から常法によりプラスミドを抽出した。DNA配列解析によ
り目的とするプラスミドを同定し、それらの内の1つをpL4440-Pt7-U1Ainsertと命名した
(
図8)。
【0117】
プラスミドpL4440を鋳型として、配列番号42と48のプライマーを使用して、KOD FX
NEOにてPCRし、pL4440のDNA断片を得た。また、プラスミドpVC7-Pt7-Hv-iap-Pt7rev(実施例<9>の(2-2)にて後述)を鋳型として、配列番号49と50のプライマーを使用し、KOD FX NEOにてPCRし、「Pt7-Hv-iap-Pt7rev」領域のDNA断片を得た。これらのDNA断片を混合し、In-Fusion HD Cloning Kitを用いて互いに連結した。次に、この反応溶液でエシェリヒア・コリJM109株のコンピテントセルを形質転換し、アンピシリン(100μg/ml)を含むLB寒天培地上に塗布して37℃で一晩培養した。その後、出現したコロニーから単一コロニーを分離した。得られた形質転換体から常法によりプラスミドを抽出した。DNA配列解析により目的とするプラスミドを同定し、それらの内の1つをpL4440-Pt7-Hv-iap-Pt7revと命名した(
図9)。
【0118】
E. coli HT115(DE3)株に、pL4440-Pt7-U1AinsertまたはpL4440-Pt7-Hv-iap-Pt7revを電気パルス法により導入し、形質転換体HT115(DE3)/pL4440-Pt7-U1Ainsert株およびHT115(DE3)/pL4440-Pt7-Hv-iap-Pt7rev株を得た。これらの株を試験管内のアンピシリン(100 μg/ml)を含むLB液体培地にて37℃で一晩振とう培養し、シード培養液を調製した。次に、シード培養液を、アンピシリン(100 μg/ml)を含むLB液体培地に対して50分の1の液量で添加して本培養を37℃で開始した。約3時間振とう培養した後に、終濃度1mMとなる
ようIPTGを添加して更に培養を継続し、IPTG添加後4時間後、8時間後、24時間後にサンプリングした。培養液200 μlを13,800×g, 2分間で遠心して集菌した。TRIzol(サー
モフィッシャーサイエンティフィック製)を用いてプロトコルに従ってRNAを抽出し、RNaseフリー水50 μlに溶解してトータルRNA溶液を調製した。比較のため、実施例<7>で
得たC. glutamicumのトータルRNA溶液を使用した。各1 μlのRNAサンプルとNovex TBE Gels(6%)を用いて非変性条件下でのPAGEを実施した。その結果、C. glutamicumでのF1プ
ロモーター発現系により生産されたU1Ainsert-ssRNA量は、E. coliでのT7プロモーター誘導発現系により生産されたU1Ainsert-ssRNA量よりも多かった(
図10)。同様に、C. glutamicumでのF1プロモーター発現系により生産されたHv-iap-dsRNA量は、E. coliでのT7
プロモーター誘導発現系により生産されたHv-iap-dsRNA量よりも多かった(
図10)。よって、C. glutamicum等のコリネ型細菌は、目的RNAの生産に有用であることが明らかとなった。
【0119】
<9>C. glutamicumでのT7プロモーター誘導発現系によるRNA生産
(1)ヘアピン構造RNAの製造
(1-1)ヘアピン構造RNA転写用プラスミドpPK-T7lac-vd-antiOlacの構築
T7プロモーターの制御下で目的RNAとしてヘアピン構造RNAを一方向に転写するためのプラスミドpPK-T7lac-vd-antiOlacを以下の手順で構築した。
【0120】
(1-1-1)pUC57-VDの構築
ジャガイモやせいもウイロイド(Potato spindle tuber viroid;PSTVd).125のゲノム配列(Mol Biol (Mosk). 2013 Jan-Feb;47(1):94-106.)に基づき、ヘアピン構造RNAをコードする配列番号53のDNA断片を化学合成により調製した。このDNA断片をpUC57(ATG Servis-Gen, St. Petersburg, Russia)にクローニングし、pUC57-VDを構築した。
【0121】
(1-1-2)pPK-T7lacの構築
まず、配列番号54と55のプライマーを用いたPCRにより、T7ターミネーター(T
T7)を含む断片(131 bp)をpET22b(+)(Novagen)から増幅した。次いで、この断片をKpnIとSalIで切断し、同じ制限酵素で線状化したpPK4(米国特許6,090,597)にクローニングし
た。構築したプラスミドをpPK4 XB
-T7 terと命名した(
図11)。
【0122】
次に、配列番号56と57のプライマーを用いたPCRにより、lacI-P
T7-Olac-MCS-T
T7のDNA領域を含む別の断片(1959 bp)をpET22b(+)から増幅した。この増幅断片をKpnIで切
断し、KpnIで線状化したpPK4 XB
-T7 terにクローニングした。構築したプラスミドをpPK-T7lacと命名した(
図12)。
【0123】
(1-1-3)pPK-T7lac-vd-antiOlacの構築
XbaIとXhoIを用いてDNA断片VD-aOlacをpUC57-VDから切り出し、T4DNAリガーゼを用いてpPK-T7lacにクローニングした。エレクトロポレーションによりライゲーション混合物でE. coli LE392株(Promega)のコンピテントセルを形質転換した。E. coli菌体用の標準的なエレクトロポレーション操作を実施した。菌体を37℃で1.5時間培養した後、50 μg/mlのカナマイシン(Km)を添加したLB寒天培地プレートに播種し、カナマイシン耐性(Km
r
)の形質転換体を得た。形質転換体からプラスミドを抽出し、目的のプラスミドを選択してpPK-T7lac-vd-antiOlacと命名した(
図13)。
【0124】
(1-2)T7 RNAポリメラーゼ発現用プラスミドpVC54-T7Polの構築
T7 RNAポリメラーゼ発現用プラスミドpVC54-T7Polを以下の手順で構築した。
【0125】
(1-2-1)pVC54の構築
pVC54の構築のため、pVC7(米国特許5,804,414)の配列番号58の領域(クロラムフェニコール耐性(Cmr)遺伝子のプロモーター領域とpAM330に由来する部位を含む)を以下
の手順で強力なプロモーターを含む領域で置換した。
【0126】
強力なプロモーターを含む配列番号58のDNA断片-A(161 bp)を化学合成により調製した。また、pVC7プラスミドを鋳型として、配列番号60(L54-Cm)と61(R55-Cm)のプライマーを用いたPCRにより、DNA断片-Bを増幅した。断片-Aと断片-Bを用いてオー
バーラッピングPCRを行い、得られたPCR断片を、それを挟む配列番号62(L54-hpa)と
61(R55-Cm)のプライマーを用いたPCRにより再度増幅した。次いで、増幅断片をHpaI
とNcoIで切断し、pVC7のHpaI-NcoI部位にライゲーションした。ライゲーション混合物でE. coli TG1株(Zymo Research)のコンピテントセルを形質転換し、Cm
rの形質転換体を得た。形質転換体からプラスミドを抽出し、目的のプラスミドを選択してpVC54と命名した
(
図14)。
【0127】
(1-2-2)pBS5t-ptrB*-T7polの構築
2256株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号63(x550)と64(x551)のプライマー
を用いたPCRにより、ptrB遺伝子とhemH遺伝子の一部を含むDNA断片(2021 bp)を増幅し
た。増幅断片をBglIIで切断し、pBS5t(WO2006/057450)のBamHI部位にクローニングした。得られたプラスミドをpBS5t-ptrB*と命名した(
図15)。同プラスミドはptrB遺伝子
の一部に唯一のNheI部位を含む。
【0128】
また、pAH162-λattL-Tc
R-λattR(BMC Biotechnology 2008, 8:63)を鋳型として、配列番号65(x553)と66(x554)のプライマーを用いたPCRにより、rrnBターミネータ
ー(TrrnB)とL3ターミネーター(tL3)を含む別のDNA断片(531 bp)を増幅した。増幅
断片をNheIで切断し、pBS5t-ptrB*のNheI部位にクローニングした。得られたプラスミド
をpBS5t-ptrB*-2Terと命名した(
図16)。同プラスミドはターミネーターTrrnBとtL3間に唯一のBamHI部位を含み、両ターミネーターはBglII部位で挟まれている。
【0129】
最後に、BamHIを用いてlacI-PlacUV5-gene1を含むDNA断片(4452 bp)をpAR1219(Proc
Natl Acad Sci U S A. 1984 Apr; 81(7): 2035-2039)から切り出し、pBS5t-ptrB*-2Terの唯一のBamHI部位にクローニングした。lacI-PlacUV5-gene1断片は、T7 RNAポリメラー
ゼをコードし、lacUV5プロモーター(PlacUV5)の制御下で発現するgene1を含む。gene1
がtL3を向いたプラスミドを選択してpBS5t-ptrB*-T7polと命名した(
図17)。
【0130】
(1-2-3)pVC54-T7polの構築
T7 RNAポリメラーゼ発現用プラスミドpVC54-T7Polを以下の手順でpVC54とpBS5t-ptrB*-T7polから構築した。
【0131】
まず、BglIIを用いてlacI-PlacUV5-gene1を含むDNA断片をpBS5t-ptrB*-T7polから切り
出した。次いで、このDNA断片をpVC54のBamHI部位にライゲーションし、pVC54-T7polを構築した(
図18)。
【0132】
(1-3)RNA生産C. glutamicumの構築
まず、電気的形質転換法によりpVC54-T7PolでC. glutamicum 2256ΔrncΔpAM330株を形質転換した。10 μg/mLのクロラムフェニコール(Cm)を添加したCM2G培地(5 g/L of glucose, 10 g/L of tryptone, 10 g/L of yeast extract, 5 g/L of NaCl, pH 7.0に調整
)にて30℃で24時間生育させ、形質転換体を選抜した。次いで、シングルコロニーアイソレーション法を実施し、pVC54-T7Polを有するC. glutamicum 2256ΔrncΔpAM330の独立した2クローンのコロニーを得た。これら2クローンをさらにpPK-T7lac-vd-antiOlacで形
質転換した。10 μg/mLのCmと25 μg/mlのKmを添加したCM2G培地にて30℃で24時間生育させ、形質転換体を選抜した。再度、シングルコロニーアイソレーション法を実施し、pVC54-T7PolとpPK-T7lac-vd-antiOlacを有するC. glutamicum 2256ΔrncΔpAM330(C. glutamicum 2256ΔrncΔpAM330/pVC54-T7Pol/pPK-T7lac-vd-antiOlacと命名した)の独立した2クローン(クローンAおよびBと命名した)のコロニーを得た。
【0133】
(1-4)C. glutamicumでのT7プロモーター誘導発現系によるRNA生産
C. glutamicum 2256ΔrncΔpAM330/pVC54-T7Pol/pPK-T7lac-vd-antiOlac株(クローンAおよびBのそれぞれ)を10 μg/mLのCmと25 μg/mlのKmを添加した5 mlのCM2G培地に植菌
し、32℃で一晩培養した。翌朝、同株を同一の新鮮な培地(5 ml)にOD600値が0.2~0.3
となるように植菌し、32℃で4~5時間培養した。この時点で、2 mMのIPTGを培養液に添加することにより誘導を実施した。誘導後、培養をさらに3時間および19時間継続し、培養
液のOD600値も測定した。次いで、1~2 mlの培養液をRNAprotect Bacteria Reagent(QIAGEN 76506)と製造元が推奨する通りに直ちに混合し、菌体ペレットを直ちに-70℃で凍結した。
【0134】
全てのサンプルを4℃で融解し、Trizol LS(Ambion 10296028)によるRNA単離操作を実施した。単離したトータルRNAを30 μlのDEPC処理水で希釈してトータルRNA溶液を調製し、Nanodrop spectrophotometerで溶液中のRNA濃度を測定し、次いで、溶液の一部を変性
尿素PAGE(5%)に供した。典型的には、各トータルRNA溶液3 μgをゲルのウェルにアプライした。電気泳動後、ethidium bromide(EthBr)でゲル内のRNAを染色した。その結果、IPTGで誘導したサンプルにおいて、目的のRNAバンド(VD related RNAs)が認められた(
図19)。すなわち、C. glutamicumでのT7プロモーター誘導発現系によるRNA生産が確認された。
【0135】
(2)Hv-iap RNAの生産
(2-1)T7 RNAポリメラーゼ発現用プラスミドpPK4-T7polの構築
T7 RNAポリメラーゼ発現用プラスミドpPK4-T7polを以下の手順で構築した。
【0136】
pVC54-T7polを鋳型として、配列番号67と68のプライマーとKOD FX NEOポリメラー
ゼを用いたPCRにより、T7 RNAポリメラーゼをコードするgene 1(T7pol)を含むDNA断片
を増幅した。また、プラスミドpPK4(米国特許6,090,597)として、配列番号69と70
のプライマーを用いたPCRにより、別のDNA断片を増幅した。両DNA断片を混合し、In-Fusi
on HD Cloning Kit(TAKARA BIO)を用いて互いに連結した。次いで、反応混合物でE. coli JM109のコンピテントセルを形質転換し、Km(50 μg/mL)を含むLB寒天培地に塗布し
、37℃で16時間培養してKm
Rの形質転換体を得た。それらの内、いくつかのコロニーを単
離し、形質転換体からプラスミドを抽出した。プラスミドのDNA配列の確認後、目的のプ
ラスミドを選択してpPK4-T7polと命名した(
図20)。
【0137】
(2-2)Hv-iap RNA転写用プラスミドpVC7-Pt7-Hv-iap-Pt7revの構築
T7プロモーターの制御下で目的RNAとしてHv-iap RNAを双方向に転写するためのプラス
ミドpVC7-Pt7-Hv-iap-Pt7revを以下の手順で構築した。
【0138】
(2-2-1)pVC7-Pt7-KpnI-XhoI-Pt7revの構築
pVC7を鋳型として、配列番号71と72のプライマーとKOD FX NEOを用いたPCRにより
、DNA断片-Nを増幅した。また、配列番号73のDNA断片-P(T7プロモーター(順方向)、KpnI制限サイト、XhoI制限サイト、およびT7プロモーター(逆方向)をこの順に含む)と配列番号74の別のDNA断片-Q(断片-Pの相補配列を含む)を化学合成により調製し
、両一本鎖DNA断片を混合してアニーリングさせ、DNA断片-Rを製造した。次いで、DNA断片-NとDNA断片-Rの両方をIn-Fusion HD Cloning Kitを用いて互いに連結した。反応混
合物でE. coli JM109のコンピテントセルを形質転換し、Cm(25 μg/ml)を含むLB寒天培地に塗布し、37℃で16時間培養してCm
Rの形質転換体を得た。それらの内、いくつかのコ
ロニーを単離し、形質転換体からプラスミドを抽出した。プラスミドのDNA配列の確認後
、目的のプラスミドを選択してpVC7-Pt7-KpnI-XhoI-Pt7revと命名した(
図21)。
【0139】
(2-2-2)pVC7-Pt7-Hv-iap-Pt7revの構築
配列番号75のDNA断片を鋳型として、配列番号76と77のプライマーを用いたPCRにより、DNA断片-S(KpnI制限サイト、Hv-iap、およびXhoI制限サイトをこの順に含む)を増幅した。次いで、DNA断片-SとpVC7-Pt7-KpnI-XhoI-Pt7revをそれぞれKpnIおよびXhoI
で切断し、MinElute PCR Purification Kit(Qiagen)で精製した。両精製物を混合し、Ligation high ver. 2(TOYOBO)を用いて互いに連結した。反応混合物でE. coli JM109のコンピテントセルを形質転換し、Cm(25 μg/ml)を含むLB寒天培地に塗布し、37℃で16
時間培養してCm
Rの形質転換体を得た。それらの内、いくつかのコロニーを単離し、形質
転換体からプラスミドを抽出した。プラスミドのDNA配列の確認後、目的のプラスミドを
選択してpVC7-Pt7-Hv-iap-Pt7revと命名した(
図21)。
【0140】
(2-3)RNA生産C. glutamicumの構築
エレクトロポレーションによりpPK4-T7polでC. glutamicum 2256ΔrncΔpAM330株を形
質転換した。Km(25 μg/ml)を含むCM-Dex寒天培地に菌体懸濁液を塗布し、30℃で16時
間培養して形質転換体を得た。続いて、形質転換体の1つにpVC7-Pt7-Hv-iap-Pt7revを導入した。Km(25 μg/ml)とCm(5 μg/ml)を含むCM-Dex寒天培地に菌体懸濁液を塗布し
、30℃で24時間培養して形質転換体を得た。そうして、最終的にC. glutamicum 2256ΔrncΔpAM330/pPK4-T7pol/pVC7-Pt7-Hv-iap-Pt7revを得た。
【0141】
(2-4)C. glutamicumでのT7プロモーター誘導発現系によるRNA生産
C. glutamicum 2256ΔrncΔpAM330/pPK4-T7pol/pVC7-Pt7-Hv-iap-Pt7revを試験管内のKm(25 μg/ml)とCm(5 μg/ml)を含むCM-Dex培地にて30℃で16時間生育させ、シード培養液を調製した。次いで、シード培養液を新鮮なCM-Dex培地に10分の1の液量で添加して本培養を30℃で開始した。6時間の培養後、培養液の一部をサンプリングし、培養液の残部に2 mMのIPTGを添加してさらに培養した。IPTG添加の3時間および27時間後に、培養
液の一部をサンプリングした。RNAprotect Bacteria Reagent処理を含めて上記の実施例
と同様の手順で培養液200 μlからRNAを抽出し、最終的にRNAサンプルをRNaseフリー水50
μlに溶解して、トータルRNA溶液を調製した。
【0142】
各トータルRNA溶液をNovex TBE gel(6%)にアプライし、RNA生産を解析した。その結
果、IPTG誘導の27時間後に得たサンプルにおいて、目的のRNAバンド(Hv-iap RNA)が認
められた(
図22)。すなわち、C. glutamicumでのT7プロモーター誘導発現系によるRNA生産が再度確認された。
【0143】
<10>pPK4の高コピー数版プラスミドの取得
プラスミドpPK4はE. coliで利用できるプラスミドpHSG399とC. glutamicum ATCC 13058が有するプラスミドpHM1519のコンポジットプラスミドであり、すなわち、pPK4は両細菌
で複製可能なシャトルベクターとして機能する(米国特許6,090,597)。
【0144】
表3に示す変異をそれぞれpPK4に導入し、プラスミドのコピー数への影響を評価した。
【0145】
各変異型プラスミドは、KOD -Plus- Mutagenesis Kit(東洋紡社製)を用いて構築した。プラスミドpPK4を鋳型として、上記キットに添付の作成プロトコルに従い、配列番号79と80のプライマーを用いることでpPK4H1を、配列番号81と82のプライマーを用いることでpPK4H2を、配列番号83と82のプライマーを用いることでpPK4H3を、配列番号84と82のプライマーを用いることでpPK4H4を、配列番号85と82のプライマーを用いることでpPK4H5を、配列番号86と82のプライマーを用いることでpPK4H6を構築した(表3)。なお、全塩基配列はDNAシーケンサーにより正しいものであることを確認した
。
【0146】
【0147】
構築したプラスミドのコピー数を実施例<5>と同様の手順で解析した。その結果、表3に示すpPK4の変異型プラスミドは、いずれも、C. glutamicumにおいて元のプラスミドpPK4よりも高いコピー数を示した。それらの内、pPK4H1が最大のコピー数を示し、そのコ
ピー数は宿主の染色体当たり約200コピーまたはそれ以上に達した。
【0148】
<11>pPK4H1を用いたRNA生産
U1A-RNAの発現系を以下の手順でプラスミドpPK4H1に組み込んだ。
【0149】
pVC7-Pf1-U1Ainsertを鋳型として、配列番号87と88のプライマーとKOD FX NEO(TOYOBO)を用いたPCR増幅により、U1Ainsert RNA転写ユニットの増幅断片を得た。また、pPK4H1を鋳型として、配列番号89と90のプライマーとKOD FX NEO(TOYOBO)を用いたPCR増幅により、pPK4H1の増幅断片を得た。これらの増幅断片を混合し、In-Fusion HD Cloning Kit(Clontech)を用いて互いに連結した。次いで、反応混合物でE. coli JM109のコンピテントセル(TAKARA BIO)を形質転換し、50 μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培
地に塗布し、37℃で一晩培養した。次いで、出現したコロニーから単一コロニーを分離し、形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを常法により抽出した。DNA配
列解析により目的とするプラスミドを同定し、それをpPK4H1-Pf1-U1Ainsertと命名した。
【0150】
電気パルス法によりC. glutamicum strain 2256ΔrncΔpAM330にプラスミドpPK4H1およびpPK4H1-Pf1-U1Ainsertをそれぞれ導入し、25 μg/mLのカナマイシンを含むCM-Dex寒天
培地に塗布し、30℃で一晩培養した。それにより、形質転換体2256ΔrncΔpAM330/pPK4H1株と2256ΔrncΔpAM330/pPK4H1-Pf1-U1Ainsert株を得た。
【0151】
各形質転換株について2コロニーを選択し、25 μg/mLのカナマイシンを含むCM-Dex寒
天培地に塗布し、30℃で約16時間培養した。次に、培養菌体の一部を試験管培養に用いた。25 μg/mLのカナマイシンを含むCM-Dex培地(2 ml)にて30℃で24時間振とう培養した
。その後、培養液200 μlをRNAprotect Bacteria Reagentにより処理し、上清を除去した。次に、15 mg/mlのリゾチーム(シグマ製)を含有するTE緩衝液225 μlを添加して室温
で30分間反応させ、更に20 mg/mL proK(TAKARA BIO製) 25 μlを添加して室温で30分間反応させ、次いで、TRIzol LS(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いてRNAを抽出した。抽出したRNAをRNaseフリー水50 μlで溶解し、トータルRNA溶液を調製し
た。得られたトータルRNA溶液について、Novex TBE Gels, 6%(サーモフィッシャーサイ
エンティフィック製)を用いてトータルRNA分析を実施した。すなわち、各トータルRNA溶液1 μlをゲルのレーンへアプライし、非変性条件下でのポリアクリルアミドゲル電気泳
動(PAGE)を実施した。
【0152】
その結果、2256ΔrncΔpAM330/pPK4H1-Pf1-U1Ainsert株でのみ、予想される位置にU1Ainsert由来のRNAバンドが確認された(
図23)。よって、先の実施例で用いたpVC7由来ベクターと異なるpHM1519由来ベクターを用いた場合でも、Corynebacterium属細菌を宿主として多量の目的RNAを上首尾に生産できた。