(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163258
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド及び液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/18 20060101AFI20241114BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
B41J2/18
B41J2/175 501
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024152713
(22)【出願日】2024-09-04
(62)【分割の表示】P 2020106019の分割
【原出願日】2020-06-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽平
(57)【要約】
【課題】液体流路での色材の沈降や異物の滞留を抑制しつつ、生産性に優れた液体吐出動作を実現することが可能な液体吐出装置を提供する。
【解決手段】液体吐出装置1000は、液体を収容可能な液体収容部2001と、液体を吐出可能な吐出口103を有する液体吐出部10と、液体収容部から液体を受け取り、所定の圧力範囲に制御した液体を液体吐出部に供給可能とする圧力制御手段202とを備える。さらに、液体吐出装置は、圧力制御手段によって圧力を制御された液体を液体吐出部と圧力制御手段との間で循環させつつ吐出口に液体を供給する第1循環手段と、液体収容部と圧力制御手段との間で液体を循環させる第2循環手段と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する吐出口を有する液体吐出部と、
液体を収容する液体収容部に接続され、前記液体収容部から液体を受け取る供給室と、前記液体吐出部と連通する負圧室と、前記供給室と前記負圧室との圧力差に応じて前記供給室と前記負圧室との連通状態を制御する圧力制御弁と、を含み、所定の圧力範囲に制御した液体を前記液体吐出部に供給する圧力制御手段と、
前記圧力制御手段によって圧力を制御された液体を前記液体吐出部と前記負圧室との間で循環させつつ前記吐出口に液体を供給する循環流路を含む循環手段と、
を備え、
前記圧力制御弁が前記供給室と前記負圧室との連通を閉じることで、前記循環流路と、前記供給室と、が流体的に分離され、
所定の方向に沿って往復走査を行うことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記液体収容部と前記液体吐出ヘッドとはチューブを介して連結されている、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記圧力制御弁は、前記供給室と前記負圧室とを連通させるオリフィスに対し進退可能に設けられ、前記供給室と前記負圧室との圧力差に応じて前記オリフィスとのギャップを変化させる、請求項1又は2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記負圧室は、当該負圧室の内部の圧力に応じて変位可能な受圧板を有し、
前記受圧板は、前記圧力制御弁を前記オリフィスから離間させる方向に押圧する押圧力を前記圧力制御弁に加える、請求項3に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記圧力制御弁は、付勢手段の付勢力によって前記オリフィスを閉塞させる方向に付勢され、前記付勢力と前記受圧板の前記押圧力の合力によって前記ギャップを変化させる、請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記負圧室の一部は、当該負圧室の圧力に応じて変位する可撓性部材により構成され、
前記受圧板は、前記可撓性部材と共に変位する、請求項4又は5に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記循環手段は、前記循環流路において液体を流動させるポンプを含む、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記液体吐出部は、前記吐出口と、前記吐出口に連通する液室と、前記液室に連通する供給流路と、前記液室に連通する回収流路と、を備える素子基板である、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
前記循環手段は、前記液室を経由する循環流を形成する、請求項8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項10】
前記循環手段は、前記液室を経由しない循環流を形成する、請求項8に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項11】
前記循環手段は、前記液体吐出部の圧力が一定の圧力を下回った際に、前記液体吐出部へと液体を供給して前記液体吐出部の圧力を補償する負圧補償手段を含む、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項12】
前記循環手段は、記録待機状態において液体を循環させる流量を、記録動作状態において液体を循環させる流量よりも増大させる、請求項1ないし11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項13】
前記吐出口から白インクを吐出する、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項14】
前記圧力制御手段と、前記循環手段と、フィルタと、を有する流路部材を備え、
前記流路部材は、前記液体収容部から供給される液体が前記フィルタを通過して前記供給室に流入するように構成されている、請求項1ないし12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体収容部と、
を備える液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド及び液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体吐出ヘッドを用いて記録を行う液体吐出装置では、液体吐出ヘッドや液体供給流路における液体の増粘、色材の沈降、泡や異物の滞留などに対する対策として、液体吐出ヘッドと液体収容部との間で液体を循環させる循環機構を備えたものが提案されている。
【0003】
特許文献1には、液体吐出ヘッド上に搭載した循環ポンプにより液体吐出ヘッド内で液体を循環させる液体吐出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の構成では、液体吐出ヘッド内の液体を循環ポンプによって循環させることにより、液体吐出ヘッド内での液体の増粘、色材の沈降、及び異物の滞留などを低減することが可能である。しかし、液体収容部から液体吐出ヘッド間の液体流路では、色材の沈降や異物の滞留が発生することがある。そのため、記録開始前には液体吐出ヘッドの吐出口から液体を吸引・排出させる吸引回復操作を長時間行う必要があり、多くの廃インクとダウンタイムが発生するという問題がある。このような問題は、白インクのような沈降性の激しいインクを用いる商業印刷用の液体吐出装置では、特に顕著になる。
【0006】
そこで、液体収容部内の液体を、供給チューブ、循環ポンプ、液体吐出ヘッド、回収チューブ、液体収容部の順で循環させる構成が考えられる。しかしこの構成では、液体吐出ヘッドの往復走査時に回収チューブが揺動して液体吐出ヘッド内に負圧変動が生じ、液体吐出ヘッドの吐出特性や吐出液滴量が不安定になる。このため、記録される画像にスジやムラが発生して画質が低下する虞がある。この画質への影響は、印刷生産性を高めるべく液体吐出ヘッドの走査速度を上げるほど顕著になる。
【0007】
このように、従来の技術では廃インク及びダウンタイムの削減と、高速かつ高画質な記録性能との両立は困難であった。
【0008】
本発明は、液体流路での色材の沈降や異物の滞留を抑制しつつ、生産性に優れた液体吐出動作を実現することが可能な液体吐出装置、および液体吐出ヘッドの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、液体を吐出する吐出口を有する液体吐出部と、液体を収容する液体収容部に接続されて前記液体収容部から液体を受け取る供給室と、前記液体吐出部と連通する負圧室と、前記供給室と前記負圧室との圧力差に応じて前記供給室と前記負圧室との連通状態を制御する圧力制御弁と、を含み、所定の圧力範囲に制御した液体を前記液体吐出部に供給する圧力制御手段と、前記圧力制御手段によって圧力を制御された液体を前記液体吐出部と前記負圧室との間で循環させつつ前記吐出口に液体を供給する循環流路を含む循環手段と、を備え、前記圧力制御弁が前記供給室と前記負圧室との連通を閉じることで、前記循環流路と、前記供給室と、が流体的に分離され、所定の方向に沿って往復走査を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、液体流路での色材の沈降や異物の滞留を抑制しつつ、生産性に優れた液体吐出動作を実現することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態における液体吐出装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態における液体吐出装置の循環経路を示す模式図である。
【
図3】記録時の循環経路の状態及びインクの流れを示す模式図である。
【
図4】高記録デューティ時の循環経路の状態及びインクの流れを示す模式図である。
【
図5】第2実施形態における液体吐出装置の循環経路を示す模式図である。
【
図6】液体吐出ヘッド内でインクの流れを逆転させた状態を示す模式図である。
【
図7】第2実施形態における変形例を示す模式図である。
【
図9】第2実施形態における循環ユニットを示す斜視図である。
【
図10】
図9に示す循環ユニットの分解斜視図である。
【
図12】
図10に示すヘッド循環ポンプの斜視図及び断面図である。
【
図14】
図6に示す循環ユニットのXIV-XIV線断面図である。
【
図17】圧力レギュレータの弁部流抵抗と弁開度との関係を示す図である。
【
図18】比較例における液体吐出装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。但し、本発明の範囲は特許請求の範囲によって定まるものであり、以下の記載は本発明の範囲を限定するものではない。また以下に記載されている形状、配置等は、本発明の範囲を限定するものではない。なお、本実施形態では、液体を吐出して記録媒体に記録を行う液体吐出装置として、インクジェット記録装置を例に採り説明する。よって、以下の説明では、インクジェット記録装置より吐出する液体をインクと称し、インクを吐出する液体吐出ヘッドを記録ヘッドと称す。
【0013】
[第1実施形態]
(記録装置の全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置1000(以下、単に記録装置という)の概略構成を示す模式図である。スライド軸1004により移動可能に支持されたキャリッジ1005には記録ヘッド1が搭載されている。キャリッジ1005は、不図示のキャリッジモータの駆動力により、スライド軸1004に沿ってプラテン1008上を往復移動する。記録媒体1007は、不図示の搬送ローラによってプラテン1008の上面まで搬送される。記録ヘッド1はプラテン1008の上面に支持されている記録媒体1007上を往復移動しながらインクを吐出する。記録媒体1007は、記録ヘッド1の往復移動に伴って、搬送ローラにより間欠的に搬送される。記録ヘッド1は、記録ヘッド1に対して電力及び吐出制御信号等を伝送する不図示の制御部に電気的に接続されている。記録装置1000は、制御部による制御の下、記録媒体1007の搬送動作に合わせて記録媒体1007上にインクを吐出する。このような記録ヘッド1の動作により、記録媒体1007に画像が記録される。なお、本実施形態における制御部は、CPU、ROM、RAM等を有するコンピュータによって構成され、CPUは、ROMに格納された制御プログラムに従い、RAMに格納されたデータなどを用いつつ種々の演算、制御などの処理を行う。また、RAMは、CPUの演算処理においてワークエリアとしても使用される。
【0014】
記録装置1000は、メインタンク2000と、メインタンク2000から供給されるインクを収容するサブタンク(液体収容部)2001と、記録ヘッド1とサブタンク2001を流体連通させる供給チューブ1001及び回収チューブ1002と、を含む。これらの構成要素は、記録装置1000において使用するインクの種類毎(インク色毎)に設けられている。本実施形態では、ブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4色のインクを使用するため、インク毎に上記の構成要素が設けられている。但し、
図1では、図示の簡略化のため、4色のうち、2色分のインクの供給チューブ1001と回収チューブ1002のみを示している。供給チューブ1001には供給ポンプ1003が接続されており、この供給ポンプ1003によってサブタンク2001から記録ヘッド1にインクが供給される。さらに、記録ヘッド1へ供給されたインクの一部は、差圧弁2004(
図2参照)及び回収チューブ1002を経由してサブタンク2001へと還流される。
【0015】
(記録ヘッドの概略構成)
次に、本実施形態における記録装置1000の記録ヘッド1の概略構成及び記録ヘッド1内に形成されるインク流路(液体流路)について説明する。
図2ないし
図4は、本実施形態における記録装置1000の1色分のインク流路及びインクの流れを示す模式図であり、
図2は記録待機状態を、
図3は記録動作状態を、
図4は高記録デューティで記録動作を行った状態をそれぞれ示している。なお、
図2ないし
図4では説明を簡略化するため、1色のインクが流動する流路のみを示しているが、実際には複数色分の循環経路が、各記録ヘッド1および記録装置1000の本体部に設けられている。
【0016】
まず、本実施形態における記録ヘッド1の概略構成を説明する。記録ヘッド1は、液体吐出部としての記録素子基板10と、記録素子基板10を支持する支持部材11と、支持部材11が固定される循環ユニット200とを有する。
【0017】
循環ユニット200は、液体収容部であるサブタンク2001からインクを受け取り、所定の圧力範囲に制御したインクを、支持部材11を介して記録素子基板10に供給する圧力制御機構としての機能を果すものであり、以下のような構成を有する。
【0018】
循環ユニット200は、フィルタ201と、圧力制御手段としての圧力レギュレータ202と、ヘッド循環ポンプ203と、負圧補償弁204と、これらを連通させる流路を有する。圧力レギュレータ202は、供給室2025と、オリフィス2028において液体連通可能な負圧室2026と、オリフィス2028を通過するインクの流抵抗を制御する圧力制御弁2027を有する。圧力制御弁2027は、オリフィス2028に対して進退可能に設けられており、ばねにより構成された付勢部材(付勢手段)2021の付勢力によって、オリフィス2028を閉塞する方向に付勢されている。
【0019】
供給室2025は、循環ユニット200の骨格をなすボディ206に形成された流路を介して供給チューブ1001及び回収チューブ1002に連通している。負圧室2026は、ボディ206に形成された流路を介してヘッド循環ポンプ203の排出口2038に連通し、かつ支持部材11内に形成される流路11cに連通している。負圧室2026は、その側面部が可撓性フィルム2023によって構成され、可撓性フィルム2023の内面には、受圧板2022が固定されている。受圧板2022には、圧力制御弁2027に設けられたシャフト2024の一端が付勢部材2021によって当接している。受圧板2022は、負圧室2026内の圧力変動に応じて可撓性フィルムと共に変位可能となっている。この受圧板2022の変位は、シャフト2024によって圧力制御弁2027に伝達される。これにより、圧力制御弁2027は、受圧板2022からの押圧力と付勢部材2021の付勢力との合力に応じて位置が変化し、オリフィス2028におけるインクの流抵抗を制御する。なお、フィルタ201は、供給ポンプ1003によってサブタンク2001から供給されるインクに含まれる塵埃や気泡などを除去する機能を有する。
【0020】
ヘッド循環ポンプ203は、液体を排出する排出口2038と、液体を吸引する吸引口2039とを有する。排出口2038は、流路を介して圧力制御手段としての圧力レギュレータ202に連通し、吸引口2039は支持部材11に形成された流路11dに連通している。ヘッド循環ポンプ203は、吸引口2039から吸引したインクを排出口2038から排出し、流路を介して圧力レギュレータ202に供給し、後述の第1循環経路R1におけるインクの循環流を形成する駆動源として機能する。
【0021】
負圧補償弁204は、ヘッド循環ポンプ203の排出口2038と吸引口2039とを連通する迂回経路R3に設けられている。負圧補償弁204は、その上流側と下流側との間に差圧が発生した場合に、開弁して迂回経路R3を連通させる。この負圧補償弁204は、記録デューティが高い画像を記録し続けた場合に、吐出口の下流側に発生する負圧上昇を抑制する機能を有する。なお、ここでいう記録デューティとは、記録媒体の単位領域に実際に付与されるインク量と、単位領域に付与可能な最大インク量との割合を意味し、記録デューティが高い程、単位領域に対するインクの付与量は多くなる。
【0022】
記録素子基板10には、インクを吐出する吐出口103が形成されると共に、吐出口103に連通する流路が形成されている。この流路は、吐出口103に連通する圧力室106と、圧力室106に連通する供給流路105a及び回収流路105b等により形成されている。なお、この記録素子基板10の構造については、後に
図8に基づいて詳細に説明する。
【0023】
支持部材11には、記録素子基板10と循環ユニット200とを連通させる流路11c、11dが形成されている。流路11cは、その一端部が連通口11aを介して循環ユニット200の流路に連通する一方、他端部が記録素子基板10に形成された開口109を介して供給流路105aに連通している。また、流路11dは、その一端部が連通口11bを介して循環ユニット200の流路に連通する一方、他端部が記録素子基板10に形成された開口109を介して回収流路105bに連通している。
【0024】
以上の構成を有する記録ヘッド1により、記録装置1000内には、循環ユニット200と、支持部材11と、記録素子基板10とを循環する第1循環流路R1が形成され、さらに、循環ユニットとサブタンクとを循環する第2循環流路R2が形成される。
【0025】
以下、第1循環流路R1及び第2循環流路R2におけるインクの流れについて、詳細に説明する。
【0026】
(第1循環流路におけるインクの流れ)
まず、第1循環流路R1内のインクの流れについて説明する。ヘッド循環ポンプ(第1ポンプ)203を駆動することによって、ヘッド循環ポンプ203の排出口2038から圧力レギュレータ202内の負圧室2026へインクが供給される。圧力レギュレータ202は所謂減圧型レギュレータ機構であり、圧力制御弁2027と付勢部材2021の働きによって、通過流量が変動した場合でも負圧室2026内の圧力を一定範囲内で安定化させる機能を有する。圧力制御動作の詳細については後述する。
【0027】
圧力レギュレータ202の負圧室2026で所定の微負圧範囲(-20~-1000mmAq以下が好ましい)に調圧されたインクは、負圧室2026を通過して支持部材11中に形成された流路11cを経由し、記録素子基板10内に形成された流路に流入する。この流路は前述のように供給流路105a、圧力室106、回収流路105bなどを有する。支持部材11の流路11cから供給流路105aに流入したインクは、
図2の矢印に示すように、圧力室106、回収流路105bを通過した後、支持部材11の流路11dを介して、再びヘッド循環ポンプ203に戻る。なお、圧力室106に流入したインクの一部は、吐出口103に供給される。
【0028】
このように記録ヘッド1内には、圧力レギュレータ202と記録素子基板10間を循環する、第1インク循環流(以下「ヘッド内循環流」ともいう)が生じる。このため、第1循環流路R1内におけるインク顔料の沈降は抑制される。さらに、泡、増粘インク及び異物等を記録素子基板10外へと排出することができるため、予備吐動作を行うことなく適正な吐出動作を行うことができ、信頼性の高い記録が可能になる。
【0029】
図2に示す記録ヘッド1において、第1循環経路R1内を流れるインク(液体)により形成される第1循環流は、記録素子基板10の圧力室106を通過するようになっている。この場合のインク流量は、適正な吐出動作を実現できる範囲に設定する。通常のインクジェット記録ヘッドにおいては吐出口103近傍の流路は数十μm以下の非常に微細なマイクロチャンネルであるので圧損が非常に大きい。そのため、あまり大きな流量を設定すると吐出口103における負圧が大きくなり過ぎて、吐出動作に適切なメニスカスを保持できなくなる虞がある。特に吐出口103間隔を300dpi以上の密度で配置した記録素子基板10では、インク流れの流量は全ての吐出口103において吐出を同時に行った際の吐出流量以下に設定することが好ましい。また、記録素子基板10または支持部材11内、またはその境界部にバイパス流路を形成し、圧力室106を経由せずに循環可能な経路を追加する構成を採ることも好ましい。
【0030】
ヘッド循環ポンプ203の形式としては、必要な流量と送液圧力を確保できれば容積型であっても非容積式であっても適用可能である。例えば、容積型であればダイヤフラム2031ポンプ、チューブポンプ、ピストンポンプ等が適用可能である。また、適用可能な非容積型のポンプとしては、例えば軸流式ポンプが挙げられる。また、駆動方式についてもモータ式、圧電式、ニューマチック式など複数の方式から好ましく選択することができる。但し、使用方法として記録ヘッド1上に搭載して高速に往復移動させることやコストを考えれば、小型軽量で部品点数が少ないポンプを選択することが好ましい。また圧力脈動も小さいポンプであればなお好ましい。このような特徴を備える好ましいポンプの例としては圧電型ダイヤフラム2031ポンプが挙げられる。あるいはまた、圧電素子や沸騰による発泡等により内圧が高周波で変移するポンプ室において、その前後に流抵抗差を設けた管路を接続することにより、流体慣性効果を発生させて送液するタイプのポンプであっても好ましく適用することができる。なお、本実施形態では、上述のヘッド循環ポンプ203と第1循環流路R1とにより第1循環手段が構成されている。
【0031】
(第2循環流路におけるインクの流れ)
次に、記録ヘッド1内に形成される第2循環流路R2内のインクの流れについて説明する。交換可能なメインタンク2000内のインクは、補充ポンプ2003によってサブタンク2001に供給され、その後、供給チューブ1001を介して記録ヘッド1の循環ユニット200に供給される。サブタンク2001は、大気連通口2002を有し、インク中の気泡を外部に排出することが可能である。また、サブタンク2001はインクを収容可能であるため、記録動作中にメインタンク2000を交換する間も記録動作を継続させることが可能になり、記録装置1000の利便性を高めることができる。
【0032】
補充ポンプ2003は、記録動作や吸引回復等、記録ヘッド1の吐出口103からインクを吐出(排出)することによって消費されたインクを補充する必要が生じた際、メインタンク2000からサブタンク2001へインクを移送する。サブタンク2001は、供給チューブ1001を介して記録ヘッド1にインクを供給可能なように接続されている。さらに、サブタンク2001は、回収チューブ1002を介して記録ヘッド1にからインクを回収可能なように接続されている。
【0033】
供給ポンプ(第2ポンプ)1003を駆動することによって、サブタンク2001内のインクは、
図2の矢印に示すように、供給チューブ1001及びフィルタ201を通過し、圧力レギュレータ202の供給室2025に流入する。供給室2025に流入したインクは、回収チューブ1002を経由してサブタンク2001へ戻される。このように、記録装置1000には、サブタンク2001から記録ヘッド1を経て再びサブタンク2001に戻る第2循環流(以下「タンク循環流」ともいう)を形成する第2循環経路R2が形成されている。このため、サブタンク2001、供給室2025、供給及び回収チューブ1002等からなる第2循環経路R2でのインク顔料の沈降は抑制される。なお、本実施形態では、上述の供給ポンプ1003と第2循環流路R2とにより第2循環手段が構成されている。
【0034】
また、回収チューブ1002上には差圧弁(第2圧力制御手段)2004が設けられている。この差圧弁2004は、その上流側と下流側との間に一定圧以上の差圧が発生した場合にのみ開弁し、回収チューブ1002におけるインクの流動を可能にする。差圧弁2004の下流側にはサブタンク2001が接続されているため、差圧弁2004の下流側にはサブタンク2001との水頭圧が付与される。また、差圧弁2004の上流側は、圧力レギュレータ202によって一定圧以上の圧力に保持されている。この差圧弁2004の上流側の圧力値は必ずしも正圧である必要は無く、圧力レギュレータ202の設計上、正常な圧力制御が可能な最低圧力以上であれば負圧であってもよい。差圧弁2004は、回収チューブ1002の下流側の位置、すなわち、サブタンク2001の近傍に取り付けることも可能である。但し、回収チューブ1002の摺動に伴うインクの揺動によって生じる圧力変動をより緩和するためには、記録ヘッド1に近い位置に設けることが好ましい。また、差圧弁2004を記録ヘッド1と回収チューブ1002とを連結させるジョイント針内に挿入する構成をとれば、圧力変動を抑制する上でより好ましい。
【0035】
なお、
図2に示す状態では、記録は行われていないため、圧力レギュレータ202内の圧力制御弁2027は閉じられている。従って、圧力レギュレータ202に供給されたインクは、一定圧以上の圧力で供給室2025を通過して、回収チューブ1002からサブタンク2001に還流する。
【0036】
以上説明したように本実施形態では、記録待機状態において、圧力レギュレータ202内の圧力制御弁2027を圧力境界として2つの循環流が形成される。
【0037】
すなわち、
1)圧力レギュレータ202と記録素子基板10との間に生じる第1循環流、
2)圧力レギュレータ202とサブタンク2001との間で生じる第2循環流、
の2つの循環流が形成される。
【0038】
このため、白インクのような沈降性の激しいインクであっても、色材の沈降に伴う濃度変化が抑制される。従って、本実施形態における記録装置1000では、記録再開時に吸引回復操作を行うことが不要になり、廃インクやダウンタイムが発生することはない。
【0039】
また、記録動作時に供給チューブ1001及び回収チューブ1002で発生するインク揺動による圧力変動は、いずれもレギュレータの作用によって十分に緩和されるため、第1循環流側に伝達されることはない。このため、記録ヘッド1の往復走査速度を上げて高速記録を行った場合にも、記録ヘッド1の吐出特性は安定しており、スジやムラの少ない高品質な画像を記録することができる。
【0040】
次に、記録動作を開始した際のインクの流動状態について説明する。
図3は、本実施形態における記録装置1000の1色分のインクの流動状態を示す模式図である。吐出によりインク量が減少すると、負圧室2026内の負圧が高まり、圧力レギュレータ202の受圧板2022が
図3における左方へと移動する。受圧板2022の移動に伴って圧力制御弁2027が左方へと移動し、オリフィス2028から離間する。その結果、吐出されたインクに相当する量のインクが、矢印A1に示すように、供給室2025から負圧室2026へと流入し、第1循環流へのインクの補充が行われる。この間も負圧室2026内の圧力は付勢部材2021の作用により、設定された微負圧に保たれており、第1循環流も継続されている。このため、非吐出状態にある吐出口103においても色材の沈降は発生せず、予備吐動作を実施しなくとも、吐出口103を常に吐出可能な状態に保つことができる。またこのとき、第2循環流も継続して維持されているため、サブタンク2001から記録ヘッド1の間でも色材の沈降は抑制される。従って、常に安定した濃度のインクを記録ヘッド1に供給することができる。
【0041】
高速記録をするためには、記録ヘッド1を高速で往復走査させる必要があり、それに伴って、供給チューブ1001及び/または回収チューブ1002内のインク揺動が増大する。しかしながら、本実施形態では、インクの揺動によって圧力制御弁2027に伝達される圧力変動は、負圧室には減衰された状態で伝達される。すなわち、
図3からも分るように、圧力制御弁2027に伝達された圧力変動は、圧力制御弁2027の受圧面積(S1)と受圧板2022の受圧面積(S2)の比(S1/S2)に従って減衰し、その減衰された圧力変動が負圧室2026に伝達される。このため、第1循環流では負圧変動を十分に小さくすることができ、吐出液滴量や吐出特性を安定させることができる。従って、スジやムラの無い高画質の記録を高速で実行することができる。
【0042】
また、記録動作を停止すると、再び圧力制御弁2027が閉じて、第2循環流と第1循環流の2つの流れは自律的に分離されるが、それぞれの循環流は引き続き維持されるため、色材の沈降は抑制される。
【0043】
図4は、高デューティで記録している際の状態を示す図である。前述のように、吐出口103への過剰な負圧印加を抑制する観点から、非記録時に記録素子基板10を通過するインクの流量は、全ての吐出口から同時にインクを吐出する時(全吐出時)の吐出流量よりも低く設定することが好ましい。全吐出により高記録デューティで記録動作が行われた場合には、
図4の圧力室106内に記載した矢印のように、供給流路105aからだけでなく、回収流路105bからも圧力室106へのインクのリフィルが発生する。ところが、本実施例ではヘッド循環ポンプ203として圧電ダイヤフラムポンプを用いており、このポンプは容積型ポンプであるため逆流は生じないようになっている。そのため、記録素子基板10の多数の吐出口103が高記録デューティで記録を続けると、回収流路105bの圧力が低くなっていき、やがて吐出口103へのインクのリフィル不足が生じる。この場合、吐出液滴の体積が設計よりも小さくなって画像が薄くなったり、あるいは掠れが生じたりする可能性がある。また、非記録状態の吐出口103が少数あった場合、その吐出口103ではインクの通過流量が大きく増大して負圧上昇や温度の異常低下が生じるためインクの吐出に影響が出て、画質の低下が生じる。
【0044】
このような高記録デューティで記録した際に生じる画質の低下を回避するため、本実施形態では、循環ユニット200に負圧補償弁(負圧補償手段)204が設けている。負圧補償弁204は、その上流側と下流側との差圧が設定した差圧以上になった場合に開となるように設計されている。高記録デューティでの記録が継続することにより、回収流路105bの圧力が過剰に低下した場合には、負圧補償弁204が開となり、圧力レギュレータ202からインクが供給されるため、負圧の過剰上昇が抑制される。このため、高記録デューティで記録を行った際にも安定したインク吐出を行うことが可能になり、高品質な画像を形成することができる。
【0045】
ここで
図2の記録待機状態を再度みると、負圧補償弁204及び迂回流路R3では循環流が発生していないことが分かる。この部分でのインク顔料の沈降を抑制するには、記録待機時にヘッド循環ポンプ203の流量を記録時よりも増大させ、ヘッド循環ポンプ203の吸引口2039の圧力を下げることが好ましい。これによって、負圧補償弁204を開くことができ、この部分での色材の沈降を抑制するインクの流れを発生できるので好ましい。但し、この操作によって記録素子基板10の圧力室106の圧力が低下し、設計通りの吐出駆動には適さなくなる可能性もあるが、吐出口103でのメニスカスが維持されている限りは、記録待機状態であるので問題はない。
【0046】
本実施形態は、記録素子基板10と圧力レギュレータ202の負圧室2026との間をインクが循環する第1循環流路R1と、圧力レギュレータ202の供給室2025とサブタンク2001との間をインクが循環する第2循環流路R2とを備える。これにより、負圧室2026と供給室2025との連通、遮断を行う圧力制御弁2027は、高速記録時にも負圧室2026を一定負圧に保つように吐出量に応じて開閉し、記録ヘッド1の走査時のチューブの揺動による圧力変動を十分に抑制することができる。このため、高速で高画質な記録が可能となる。一方、記録待機時には圧力制御弁2027は自律的に閉じるため、負圧が維持されたヘッド内の第1循環経路R1と、これとは圧力的に分離された第2循環経路が自律的に形成され、それぞれの経路で循環が停止することなく継続される。このため、白インクのような沈降性の激しいインクであっても、従来実施していた、大量のインク吸引による回復操作は不要となる。
【0047】
[第2実施形態]
図5及び
図6に本発明の第2実施形態における記録装置1000の、1色のインクに対応する流体経路を示す。第2実施形態と第1実施例との差異は、記録素子基板10内のインクの流動方向を切換えるために、循環ユニット200内に切換弁(切換手段)205を2つ備えたことである。
【0048】
本実施形態では切換弁205として三方弁を使用しているが、これに限定されない。切換弁205は、記録素子基板10内の流れ、特に圧力室106内の流れを反転させる機能があれば、
図5及び
図6に示した構成以外でもよい。例えば、スライド弁を用いた5方弁を適用することも可能である。切換弁205を用いる場合に考慮すべきことは、切換弁205の切換時における圧力制御弁2027の動作により、記録ヘッド1内の圧力が、吐出口103内にメニスカスを維持することが可能な負圧範囲を超えないようにすることである。この目的のためには、圧力制御弁2027の開閉動作におけるストロークを非常に短く設計するか、または「ロッカー弁」方式を用いることが好ましい。ロッカー弁方式の具体的構造については後述する。
【0049】
図5に示すように、2つの切換弁205のうち、図示の左側の切換弁205の1つのポートは圧力レギュレータ202に連通し、右側の切換弁205の1つのポートはヘッド循環ポンプ203に連通している。さらに、両切換弁205の残りの2つのポートは、いずれも、支持部材11の2つの流路11cと11cに選択的に連通する。すなわち、
図5に示す状態では、左側の切換弁205が流路11cに連通し、かつ流路11dとの連通は遮断されている。従って
図5に示す状態では、左側の切換弁は、圧力レギュレータ202の負圧室2026から流出するインクを支持部材11内の流路11cへと供給し、右側の切換弁205は支持部材11内の流路11dからヘッド循環ポンプ203へとインクを回収する。
【0050】
図6に、
図5に示す状態から切換弁205と流路11c、11dとの連通状態を切換えた状態を示す。ここでは、左側の切換弁205は流路11dに連通し、かつ流路11cとの連通は遮断されている。また、右側の切換弁205は流路11cと連通し、かつ流路11dとの連通は遮断されている。この場合、左側の切換弁205は、圧力レギュレータ202の負圧室2026から流出するインクを支持部材11内の流路11dへと供給し、右側の切換弁205は支持部材11内の流路11cからヘッド循環ポンプ203へとインクを回収する。なお、
図5及び
図6において、破線矢印は流路にインクが流れていない状態(遮断された状態)を示している。
【0051】
このように第2実施形態では、記録ヘッド1の圧力室106におけるインクの流動方向を逆転させるように切換えることが可能である。これは、次のようなことを目的としている。通常、記録素子基板10の圧力室106に直接連通している流路(独立連通孔104a、104b)の幅の寸法は数十μmであり、供給流路105aや回収流路105bよりも狭くなっている。このため、供給流路105a内に泡が発生または流入した場合、
図5に示す状態だけでインクの循環を行っている場合には、圧力室106を通過して泡を排出するのは困難である。この場合、
図6のように、圧力室106内のインクの流動方向を逆転させることで、供給流路105a内の泡を記録素子基板10外へ排出することが可能になる。
【0052】
なお、
図5及び
図6のいずれのヘッド内循環状態であっても、記録ヘッド1内の負圧は圧力レギュレータ202によって適正範囲に維持されているため、ヘッド内循環を継続しつつ記録動作を開始することが可能である。このように、本実施形態では、第1の実施形態によって実現される機能及び効果に加えて、泡や異物を記録素子基板10外へ排出しつつ記録動作を継続することができる。このため、記録装置1000のダウンタイムをさらに低減することが可能になる。
【0053】
[第2実施形態の変形例]
次に、上記第2実施形態における変形例を
図7に基づいて説明する。第2施形態では、
図6に示すように、圧力室106に連通する独立連通孔104aと104bに、供給流路105aと回収流路105bがそれぞれ独立した状態で連通している。これに対し、本変形例では、独立連通孔104a及び104bに単一の流路105cが連通する構成を備える。
【0054】
従って、本変形例では、支持部材11から供給されるインクのうち一部は独立連通孔104a、104bを介して圧力室106に供給されるが、流入したインクの多くは圧力室106を通過せずに流路105cを経て再び支持部材11へと流入する。つまり、本変形例では、圧力室106を通過しない第1循環経路が形成されることとなる。
【0055】
これによれば、ヘッド内循環流が、圧力室106及びこれに連通する独立連通孔104a、104b等の微小な部分を通過しないためインクの流動抵抗が低減され、記録ヘッド1における色材の沈降をより確実に回避することが可能になる。また、インクに含まれる泡や異物を、より確実に記録素子基板10外へ排出することができる。
【0056】
なお、記録待機時には圧力室106を通過する流れが形成されないため、圧力室106に連通する独立連通孔104a、104b内で顔料沈降が発生する可能性もある。しかし、上述したようにこの部分の寸法は小さいため、ごく少量の予備吐動作によってこの部分に沈降した色材を除去することができる。
【0057】
また、本変形例では、圧力室106を通過する循環流がないため、吐出口103における水分蒸発が抑制される。このため、ヘッド内循環を長期間継続してもインク全体の濃縮は抑制されるため、濃縮インクの排出処理を実施する回数も低減でき、廃インクをさらに削減できる。
【0058】
以下、上記実施形態における各部の構成をより具体的に説明する。なお、以下の説明では、上記第2実施形態の構成に基づいて説明を行うため、切換弁205を含んだ構成について述べるが、その他の構成については第1実施形態における各部の構成と同様である。
【0059】
(記録素子基板)
本実施形態における記録素子基板10の構成について説明する。
図8は記録素子基板10に形成される複数の吐出口103からなる吐出口列103Aの長手方向(Y方向)を横切る断面を示す斜視図である。記録素子基板10には、Siにより形成される基板107と感光性の樹脂により形成される吐出口形成部材102とが積層されている。基板107の裏面には蓋部材108が接合されている。基板107の一方の面側(図中、上面側)には記録素子111が形成されており、その裏面側(図中、下面側)には、吐出口列に沿って延在する供給流路105aおよび回収流路105bを構成する溝が形成されている。記録素子基板10の吐出口形成部材102には、4列の吐出口列が形成されている。
【0060】
各吐出口103に対応した位置には、液体を熱エネルギーにより発泡させるための発熱素子である記録素子111が配置されている。記録素子111は、基板107内部に設けられる電気配線(不図示)によって端子110と電気的に接続されている。そして、記録装置1000の制御部から、電気配線基板及びフレキシブル配線基板を介して入力されるパルス信号に基づいて発熱し、圧力室106内に充填されている液体を沸騰させる。この沸騰による発泡の力で液体を吐出口103から吐出する。
【0061】
供給流路105a及び回収流路105bは記録素子基板10に設けられた吐出口103列方向に延在する流路であり、それぞれ独立連通孔104a及び独立連通孔104bを介して圧力室106に連通している。蓋部材108には開口109が複数設けられている。本実施形態においては、供給流路105aの1本に対して3個、回収流路105bの1本に対して2個の開口109が所定の間隔を置いて蓋部材108に設けられている。それぞれの開口109は、
図5に示したように、支持部材11内の流路に連通している。蓋部材108は、供給流路105a及び回収流路105bの壁の一部を形成する蓋としての機能を有する。蓋部材108は、液体(インク)に対して十分な耐食性を有している物が好ましい。また、混色抑制の観点から、開口109の開口形状および開口位置には高い精度が求められる。蓋部材108は開口109により記録素子基板10の流路から支持部材11の流路へとピッチを変換するものであり、圧力損失を考慮すると、蓋部材108の厚さは薄いことが望ましい。このため蓋部材108の材質として、感光性樹脂材料やシリコン薄板を用い、フォトリソプロセスによって開口109を設けることが好ましい。
【0062】
次に、記録素子基板10内での液体の流れについて説明する。基板107と蓋部材108とによって形成される供給流路105a及び回収流路105bは、それぞれ、支持部材11の流路と
図5のように接続されている。ヘッド循環ポンプ203の駆動によって、供給流路105a内の液体は、独立連通孔104a、圧力室106、独立連通孔104bを経由して回収流路105bへと流れる(
図8の矢印Cで示す流れ)。この流れによって、吐出動作を休止している圧力室106において、記録素子基板10内のインクの沈降を抑制することができる。また同時に吐出口103からの蒸発によって生じる増粘インク、泡及び異物等を回収流路105bへ排出することができる。
【0063】
回収流路105bへ回収されたインクは、蓋部材108の開口109及び支持部材11の流路11c、11d(
図5参照)を通じてヘッド循環ポンプ203へ戻る。ここで、
図6に示すように切換弁205を切換えた場合には、記録素子基板10内の流れ方向は
図8の矢印Cとは逆方向に流れる。独立連通孔104aよりも大きい泡や異物等は、矢印Cの向きに循環流が生じていたとしても供給流路105aに滞留する。しかし、
図6のように逆方向に循環流を生じさせることで、供給流路105aに滞留した大きい泡や異物を開口109から記録素子基板10外へと排出することができる。
【0064】
(循環ユニット)
図9(a)及び(b)は1色分の循環ユニット200の具体的な構成例の外観を示す斜視図である。循環ユニット200は、内部にインク流路が設けられたボディ206に内蔵された圧力レギュレータ202及び切換弁205と、ボディ206に取り付けられたヘッド循環ポンプ203とを有する。本実施形態ではコストダウンのため、圧力レギュレータ202及び切換弁205はボディ206と一体化している。但し、ヘッド循環ポンプ203と同様、各々を個別にユニット化してボディ206に取り付けるようにすることも可能である。この場合は、ボディ206の形状によらず各ユニットを共通化できるというメリットが生まれる。
【0065】
図9(b)に示すように、ボディ206上部にはサブタンク2001からインクを受け取るジョイント孔206aと、サブタンク2001へとインクを戻すジョイント孔206bとが設けられている。また、ボディ206下部には、支持部材11を介してインクを記録素子基板10へ供給する孔206cと、記録素子基板10からインクを回収する穴206dが設けられている。
【0066】
図10(a)及び(b)は、循環ユニット200の分解図である。
図10(a)において、ボディ206の上部にはフィルタ室2060があり、ここにフィルタ201が挿入及び溶着されている。またフィルタ室2060の横には、負圧補償弁204が挿入されておいる。負圧補償弁204の下部は、ボディ206内部でポンプ供給口2061と連通している。ボディ206内部の流路構造については後述する。
【0067】
ボディ206の側面に設けられた供給室2025には、圧力制御弁2027、付勢部材2021、ばねホルダ2029がこの積層順で挿入される。付勢部材2021は圧力制御弁2027とばねホルダ2029の間で設計長さに圧縮され、圧力制御弁2027に対し一定の付勢力を加える。ばねホルダ2029は、付勢部材2021を固定する固定部材としての機能の他、供給室2025の蓋としての機能を有しており、ボディ206に溶着または接合される。
【0068】
ボディ206側面下部には切換室2053が2つ設けられており、それぞれにロッカー弁2051が挿入される。さらに切換室2053の全体を覆うように可撓性フィルム2023が、ボディ206及び2つのロッカー弁2051と接着または溶着などの手法によって接合されることにより、切換弁205が形成される。切換弁205の構造及び切換動作については後述する。
【0069】
図10(b)において、ボディ206の供給室2025の対向面側には負圧室2026が形成されている。この負圧室2026には、付勢部材2021、受圧板2022、可撓性フィルム2023がこの積層順で挿入される。付勢部材2021は、負圧室2026の底部と受圧板2022間で設計長さに圧縮され、受圧板2022に対し一定荷重を加える。可撓性フィルム2023は、ボディ206に溶着または接合される。この可撓性フィルムは、受圧板2022の動きを妨げないよう変形しつつ、負圧室2026の蓋としての機能を果す。またボディ206には、成形などの製造上の観点から、溝状の流路が形成されており、循環ユニット200の組立工程において、流路の開口部をカバーするようにシールフィルム208がボディ206に接着または溶着される。
【0070】
(切換弁)
図11(a)及び(b)は、
図9(a)におけるXI-XI線に沿って切換弁205を切断した断面を模式的に示す図である。ハウジング2036内に設けられた切換室2053内にロッカー弁2051が回転軸2054を支持点として回動可能に挿入されている。ロッカー弁2051には可撓性フィルム2052が溶着されている。この可撓性フィルム2052の端部は切換室2053の周縁部に渡って溶着されており、切換室2053をシールしている。ハウジング2036には、さらにカバー2059が可撓性フィルム2052を覆うように取り付けられている。カバー2059の内面(フィルムに対向する面)には、ロッカー弁2051の一端部近傍を付勢する付勢部材2057が取り付けられている。さらに、カバー2059の内面には、ロッカー弁2051の他端部近傍を押圧または離間可能に設置した押圧部材2058が、可撓性フィルム2052を介して取り付けられている。なお、
図10(a)においては付勢部材2057、押圧部材2058及びカバー2059は不図示となっている。
【0071】
本実施形態における切換弁205は、所謂ロッカー弁タイプの3方弁を使用している。
図11に示すように、ロッカー弁2051は付勢部材2057による付勢力に従って、回転軸2054を支点とした回転力が発生している。このため、ロッカー弁2051は、開閉ポート2056Lを閉塞すると共に、他方の開閉ポート2056Rを開放している。ここで
図11(b)に示すように、加圧エアにより、付勢部材2057の付勢力に打ち勝つように押圧部材2058を押し下げると、ロッカー弁2051は、開閉ポート2056Rを閉塞すると共に、他方の開閉ポート2056Lを開放する。このようにしてロッカー弁2051の位置によって、切換室2053の中央に設けられた共通ポート2055と、開閉ポート2056Lまたは2056Rとの連通関係を切換えることが可能である。
【0072】
なお、本実施形態ではロッカー弁2051の駆動方法として、ニューマチック式を採用したが、これに限らず、他の駆動方法を用いることも可能である。例えば、電磁コイルやモータを用いたメカ機構などを好ましく用いることも可能である。
【0073】
また、ロッカー弁2051以外にも、直動型の圧力制御弁2027を複数用いて三方弁を形成することもできる。但し、この場合には、圧力制御弁2027の開閉動作に伴って、インクの押出しや吸い込みが発生するため、ヘッド内流路内に圧力変化が生じて吐出口103のメニスカスに影響を及ぼすことがある。メニスカスの状態が異なると、吐出液滴体積が変わるため、その変化量が大きい場合には記録画像に濃度差が生じて画質の低下を招く虞がある。これを抑制するためには、弁のストロークをかなり小さくしたり、大きなバッファ室を設置したりすることが考えられる。しかしこの場合には、弁部の流抵抗が高くなるので強力な循環ポンプが必要になったり、循環ユニット200が大型化したりするというデメリットが懸念される。
【0074】
一方、本実施形態のようにロッカー弁2051を用いた場合は、切換動作時には押出しと吸込みが同時に発生するため、負圧変化は小さく、吐出口103内のメニスカスへの影響を抑制することができる。もっともロッカー弁2051においても、弁を開閉するばねなどの設計上の制約から、ロッカー弁2051の回転軸2054を必ずしも中心対称とすることができず、開閉時の圧力変化を1つの切換室内で十分に抑制できない場合も考えられる。しかしながら、本実施形態では
図5に示したように、吐出口103の上流側と下流側にそれぞれ切換弁205が配置されている。このため、同形状の切換弁205を用いて弁体の動きが逆位相になるように配置することによって、切換え時の体積変化を2つの切換室2053間で相殺することができる。よって、切換動作時におけるヘッド内循環流路(第1循環流路)内の負圧変化を十分に小さくすることができる。
【0075】
(ヘッド循環ポンプ)
図12(a)はヘッド循環ポンプ203の外観を示す図である。本実施形態においては、ヘッド循環ポンプ203として圧電ダイヤフラムポンプを用いている。一般的に、圧電ダイヤフラムポンプは、モータ式ダイヤフラム2031ポンプに比べて部品点数が少なく、小型軽量で静粛性が高く、圧力脈動が小さいという特徴を有する。このため、圧電ダイヤフラムポンプは、記録ヘッド1への搭載に適しているといえる。但し、ダイヤフラム2031の変位量が小さいため、自給式にすることが困難であること、及び泡が大量に混入した場合に送液量が低下すること等の課題が圧電ダイヤフラムポンプにはある。
【0076】
この観点から、循環ユニット200内では、
図16(a)に示すように、ヘッド内循環流Fがポンプ回収口2062へ入る前に鉛直方向(Z方向)において下方(Z2方向)に曲がるようになっている。これにより、記録素子基板10から排出された泡は、循環ユニット200の上方へ溜まるように誘導され、ヘッド循環ポンプ203に流入しくいようになっている。
【0077】
図12(a)に示すように、ヘッド循環ポンプ203は、片面に排出口2038及び吸引口2039が設けられている。排出口2038と吸引口2039は、循環ユニット200のボディ206に形成されたポンプ供給口2061とポンプ回収口2062にそれぞれ連通する。ここで、排出口2038は吸引口2039よりも鉛直方向(Z方向)における上方(Z1方向)に配置されているが、このようにするとヘッド循環ポンプ203内に、泡が混入した場合にも排出が容易であり、安定した流量を確保できるため好ましい。
【0078】
ヘッド循環ポンプ203への泡の侵入を抑制する他の対策としては、ポンプ回収口2062またはその前後にフィルタ201またはメッシュを泡トラップ材として設けることが挙げられる。この際には、フィルタ201における圧損が過大にならず、かつポンプ動作に支障が出る大きさの泡をトラップできるよう、フィルタ201の目粗さと面積を適宜設計する必要がある。
【0079】
また
図12(b)は、
図12(a)におけるXII-XII線における断面図である。図中、白抜き矢印はインクの流動方向を示している。ハウジング2036には2つの逆止弁2035、ポンプ駆動回路2040、及びダイヤフラム2031が取り付けられている。またダイヤフラム2031には、電極板2032、圧電素子2033が接合されている。
【0080】
ポンプ駆動回路2040は、本体制御部(不図示)に電気的に接続されている。またポンプ駆動回路2040は、圧電素子2033の駆動に必要な電圧を発生する昇圧回路を内蔵している。さらに、ポンプ駆動回路2040は、TAB2041を介して、圧電素子2033及び電極板2032に電気的に接続され、制御部からの信号に基づいて圧電素子2033と電極板2032との間に一定周波数で電位差を与えることができるようになっている。この電位差により、圧電素子2033には、
図12(b)における鉛直方向(X方向)への変位が発生し、これに伴って電極板2032とそれに接合されたダイヤフラム2031が変位する。
図12(b)において下方(X2方向)に向かってダイヤフラム2031が変位する際には、右側の逆止弁2035が開いてインクを吸引する。この時、左側の逆止弁2035は閉じている。逆に、
図12(a)において上方(X1方向)に向かってダイヤフラム2031が変位する際には、左側の逆止弁2035が開いてインクを排出する。この時、右側の逆止弁2035は閉じている。
【0081】
一般に、圧電素子2033は変位が数十μm程度と小さいが、この動作を数十~数百Hzで行うことで、数mL/min~数十mL/min程度の流量を発生することができる。またポンプの吐出圧または吸引圧も、数kPa~数十kPa程度を発生することができる。流量や圧力は、圧電素子2033やポンプ室2034のサイズ、圧電素子2033や電極板2032やダイヤフラム2031の厚さ、圧電素子2033に与える電圧/周波数、駆動波形(サイン波や矩形波)等により調整することができる。
【0082】
圧電素子2033と電極板2032と間の絶縁破壊電圧以下の範囲で、例えば数百Vの高電圧を印加することにより圧電素子2033の変位量を上げることができ、ポンプ流量と圧力を上げることができる。このため、高電圧への対策や、インク付着抑制などの観点から、
図12(b)に示す構造では、圧電素子2033を覆う位置までカバー2037が接合されている。また、ポンプ駆動回路2040を覆う位置までカバー2037を設ければより好ましい。
【0083】
図13(a)及び(b)はヘッド循環ポンプ203の分解斜視図である。上述のように、ハウジング2036を挟み込むように、一対の逆止弁2035がハウジング2036に取り付けられる。本実施形態では逆止弁2035は、その脚部をハウジング2036の穴に差し込むことで固定している。さらにハウジング2036のポンプ室2034に、ダイヤフラム2031、電極板2032、圧電素子2033がこの積層順で接合される。ダイヤフラム2031はインクに対する耐薬品性と圧電素子2033の変形に追従できる程度の剛性を持っていることが好ましい。従って、ダイヤフラム2031には、例えばPPSやPPEなどの樹脂を0.2~0.5mm程度の厚さに成形したものを好ましく用いることができる。ハウジング2036にはさらにポンプ駆動回路2040、圧電素子2033及び電極板2032をポンプ駆動回路2040に電気的に接続するTAB2041、及びカバー2037が取り付けられる。TAB2041はリード線と半田等で代用することも可能である。
【0084】
(圧力レギュレータ)
循環ユニット200内に設けられた圧力レギュレータ202の構造、及び圧力制御動作の詳細を説明する。
図14は、
図9(b)におけるXVI-XIV線断面図である。本実施形態に設けられる圧力レギュレータ202には、一般的な減圧型レギュレータを使用している。圧力レギュレータ202は、可撓性フィルム(可撓性部材)2023でシールされた負圧室2026を有している。負圧室2026は、ボディ206の一面に周縁部を接合した可撓性フィルム2023と、この可撓性フィルム2023に覆われたボディ206の壁部2063との間に形成される。可撓性フィルム2023の内面には、受圧板2022が固定されている。また、可撓性フィルム2023に覆われた壁部2063の中央部には、壁部2063を貫通するオリフィス2028が形成されている。また、ボディ206には、壁部2063を挟んで受圧板2022と対抗する位置に供給室2025が形成されている。
【0085】
受圧板2022は負圧室2026内の付勢部材(ばね)2021によって、受圧板2022が図の右側に移動する向き(即ち負圧室2026の体積が増える方向)に付勢されている。また、供給室2025内には、オリフィス2028の閉塞可能な圧力制御弁2027に設けられている。圧力制御弁2027にはシャフト2024が固定されており、このシャフト2024の一端が受圧板2022に当接可能となっている。この圧力制御弁2027、シャフト2024、及び受圧板2022は、ヘッド駆動時には一体となって動くようになっている。圧力制御弁2027は、供給室2025内の付勢部材(ばね)2021によって、圧力制御弁2027が図の右側に移動する向き(すなわち圧力制御弁2027がオリフィス2028を閉塞する方向)に付勢されている。
【0086】
圧力制御弁2027は、オリフィス2028との間のギャップを変化させて流抵抗を変化させるよう動作する。なお、インクの循環停止時には圧力制御弁2027はオリフィス2028と接触してギャップを閉塞し、オリフィス2028を流体的にシールする。圧力制御弁2027の材質としては、インクに対し十分な耐食性を有する、ゴムやエラストマーなどの弾性材料が好ましく用いられる。
【0087】
図14において、圧力制御弁2027はオリフィス2028よりも、図中、右側に設けられており、受圧板2022が左方へと移動するとオリフィス2028と圧力制御弁2027との間のギャップが縮小するようになっている。記録動作時にフィルタ201から供給室2025へ流入したインクは、圧力制御弁2027とオリフィス2028との間のギャップを通過する際に、そのギャップ部での圧損により圧力を低下させ、負圧室2026内へと流入する。その後、インクは負圧室2026から切換弁205(
図5参照)を経由して記録素子基板10へと供給される。
【0088】
負圧室2026内の圧力P2は、各部に加わる力の釣り合いを示す下記の関係式から決定される。
P2=P0-(P1Sv + k1x )/ Sd ・・・(式1)
ここで、
Sd:受圧板の受圧面積、Sv:圧力制御弁の受圧面積、
P0:大気圧、P1:負圧室内の圧力、
P2:供給室内の圧力[Pa]、k1:付勢部材の合成ばね定数、
x:ばね変位
式1の右辺第2項は常に正の値を取るため、圧力P2<圧力P0となり、圧力P2は負圧となる。
【0089】
付勢部材2021の力を変更することで、圧力P2を所望の制御圧力に設定することができる。付勢部材2021の力を変更するには、ばね定数Kかばね収納長を変更する。
【0090】
圧力制御弁2027とオリフィス2028との間のギャップ部の流抵抗をR、オリフィス2028を通過する流量をQとすると、次式が成立する。
P2=P1-QR・・・(式2)
【0091】
ここで、流抵抗Rと弁とオリフィス2028との間のギャップ(以降、「弁開度」と呼称する)が、例えば
図17のような関係になるように設計する。すなわち、弁開度の増大とともに流抵抗Rは低下する。(式1)と(式2)が同時に成立するように弁開度が決まることで、圧力P2が決定される。
【0092】
記録動作中に吐出流量が変化して、流量Qが瞬時的に増加した場合、それに応じたインク流量が供給室2025から負圧室2026へと供給されるので、回収チューブ1002の流抵抗が下がり、これに伴って供給ポンプ1003の負荷が低下する。その結果、供給室2025の圧力P1が減少するため、圧力制御弁2027を閉塞しようとする力P1Svは減少し、(式1)から圧力P2が瞬時的に上昇する。
【0093】
また(式2)からR=(P1-P2)/Qが導出される。ここで流量Q、圧力P2は増加し、圧力P1は低下しているので、流抵抗Rは低下することになる。Rが低下すると、
図17に示した関係から、弁開度が増加する。
図14から分かるように、弁開度が増加すると付勢部材(ばね)2021の長さは減少するため、自由長からの変位であるxは増加する。このため、ばねの作用力k1xは大きくなる。このため(式1)から圧力P2は瞬時的に減少する。逆に流量Qが減少して圧力P2が瞬時的に増加すると、上述とは逆の作用により、P2が瞬時的に減少する。これが瞬時的に繰り返されることで、流量Qに応じて弁開度が変化しつつ、(式1)と(式2)を両立する結果、負圧室2026内の圧力P2が自律的に一定に制御される。
【0094】
圧力P1が低下した場合には、圧力P2を一定にするために、(式2)から分かるようにRが小さくなる。すなわち、弁開度が大きくなる。しかしながら、
図17から分かるように、弁開度が大きくなっても、ある一定値以下の流抵抗(≒オリフィス2028の流抵抗)を下回る流抵抗Rを得ることはできない。このため、圧力レギュレータ202が安定して圧力P2を一定に制御するためには、常に一定以上のP1を供給室2025に印加する必要がある。このため、記録ヘッド1の最大吐出流量と圧力レギュレータ202の最低動作圧を基に、供給ポンプ1003の能力、供給チューブ1001やフィルタ201の圧損、及び差圧弁2004の開弁圧などを設計することが必要である。
【0095】
本実施形態においては、付勢部材2021であるばねは、2つの連成ばねとなっている。本実施形態のように2つの連成ばねの構成をとることで、以下のような好ましい付随的効果が得られる。
【0096】
すなわち、負圧室2026内において、受圧板2022とシャフト2024とは分離できるように構成されている。さらに受圧板2022とシャフト2024とが分離した状態であっても、負圧室2026内のばねによって、受圧板2022には負圧室2026内の容積を増大させる方向に付勢力が加えられるようになっている。このため、周囲の環境温度の変化によって、記録ヘッド1の流路内の泡が膨張したとしても、その泡の容積増分を負圧室2026の容積を増大させることによって吸収することができ、負圧室2026内には所定の負圧を発生させることが可能になる。このため、吐出口103からのインクの漏出を抑制することができる。
【0097】
しかし、所望の負圧値を満足させることが可能なばね力を有するものであれば、圧力調整機能に支障は生じないため、1つのばねだけを用いたり、あるいは3つ以上のばねを使用したりする構成であってもよい。
【0098】
(負圧補償弁)
負圧補償弁204は、記録デューティが高い画像を連続で記録し続けた際に、記録素子基板10の吐出口103の下流側となっている供給流路105aまたは回収流路105bに発生する負圧上昇を一定値以下に抑制し、画質を維持する機能を有する。本実施形態では負圧補償弁204として、
図16(a)に示すような、一般的な差圧弁を使用している。負圧補償弁204の内部には、圧力制御弁2041、オリフィス2042、及び圧力制御弁2041をオリフィス2042に当接させるように付勢する付勢部材(ばね)2043が内蔵されている。負圧補償弁204の上流と下流に一定以上の差圧が発生し、圧力制御弁2041を開く方向の圧力が、付勢部材2043による付勢力を上回った場合に、圧力制御弁2041が開くようになっている。
図16(a)は圧力制御弁2041が閉じている状態を示し、
図16(b)は圧力制御弁2041が開いた状態を示している。圧力制御弁2041の開弁圧は、ばねの付勢力と圧力制御弁2041の受圧面積によって所望の値に設定することができる。
【0099】
もっとも、一般的に差圧弁は、差圧弁を通過する流量が増大するに従って、その流抵抗が可変するため、差圧弁の下流側の圧力を常に一定範囲に維持する目的には適さない。記録ヘッド1の最大吐出流量が比較的小さい場合には、単純かつ小型な構造を有する差圧弁2004が負圧補償弁204としては適している。しかし、最大吐出流量が比較的大きい記録ヘッド1では、負圧補償弁204として圧力レギュレータ202と同構造のものを使用することが好ましい。但し、この場合には循環ユニット200のサイズが大きくなる虞がある。
【0100】
(循環ユニットにおけるインクの流れ)
図14~
図16には、本実施形態の循環ユニット200内に生じるヘッド内循環流(第1循環流)Eとタンク循環流(第2循環流)Fが矢印によって示されている。
図14は
図9(b)におけるXIV-XVI線断面図、
図15は
図14におけるXV-XV線断面図、
図16(a)及び(b)は、
図14におけるXVI-XVI線断面図である。なお、
図16(a)及び(b)では説明を容易にするため、切換室2053への連通口の連通状態を白丸と黒丸とで模擬的に示している。すなわち、白丸はロッカー弁2051によって連通口が開いた状態を、黒丸はロッカー弁2051によって連通口が閉じた状態をそれぞれ示している。
【0101】
図14及び
図15において、矢印Eで示したタンク循環流(第1循環流)は、フィルタ201を通過して、供給室2025に流入し、圧力制御弁2027及び付勢部材2021の周囲を通過した後、再び循環ユニット200からサブタンク2001へと還流する。このため、記録待機状態であってもサブタンク2001から供給室2025の間、及び供給室2025からサブタンク2001間では、インク流れによって色材の沈降が抑制される。
【0102】
高速記録時に発生する、供給チューブ1001及び/または回収チューブ1002内のインク揺動に伴う圧力変動は、前述したように(圧力制御弁2027の受圧面積(S1)と受圧板2022の受圧面積(S2)との比(S1/S2)に従って減衰する。
図14に示す構成では、この比を3%以下としており、タンク循環流側で発生する負圧変動は、ヘッド内循環流内では十分に小さく減衰される。このため、本実施形態の記録装置1000では、スジやムラのない高画質の記録を高速で行うことが可能である。
【0103】
図16(a)及び(b)において矢印Fで示したヘッド内循環流は、ヘッド循環ポンプ203の駆動によって、ポンプ供給口2061からボディ206内の流路を経由して、負圧室2026内に流入する。さらに、ヘッド内循環流は、受圧板2022とオリフィス2028間を通過した後、切換弁205を経由して循環ユニット200外へ流れる。その後は、
図5に示したように支持部材11及び記録素子基板10を通過して、再び循環ユニット200へと還流する。そして、再び切換弁205を通過してポンプ回収口2062へ戻る。
【0104】
図16(a)では、ヘッド内循環流が、負圧室2026の鉛直方向(Z方向)において上方(Z1)から下方(Z2)へと流動するように構成しているが、これは循環ユニット200の小型化を図るための一例である。沈降した色材は鉛直方向下方に堆積するため、沈降解消時間の短時間化を図ろうとする場合には、ヘッド内循環流は負圧室2026の鉛直方向の下方から上方へと流動するような構成を採ることが好ましい。
【0105】
図16(b)はロッカー弁2051を操作して、切換室2053への連通口の連通状態を
図16(a)とは逆にした状態を示している。このように連通口の連通状態を切換えることで、ヘッド内循環流Fを継続したまま、
図6に示したように、記録素子基板10内で逆方向の流れを発生させることができる。
【0106】
図16(a)に示す状態では、負圧補償弁204は閉じており、破線矢印F’で示した部分にはインクの流動は発生していない。従って、この領域で顔料沈降が発生する虞がある。この部分での顔料沈降が画質に影響を及ぼす場合には、ヘッド循環ポンプ203の流量を上げることによりポンプ回収口2062での圧力を低下させる。これにより、負圧補償弁204は開となり、ヘッド内循環流Fから分岐する支流F’が形成され、色材の沈降は抑制される。
【0107】
図16(a)は、記録待機状態であるので、圧力制御弁2027はオリフィス2028に当接しており、タンク循環流Eとヘッド内循環流Fはそれぞれ独立した循環流となっている。この時、ヘッド内循環流Fは、負圧室2026内で発生させた微負圧を起点とした負圧状態で流れている。またタンク循環流Eは、供給室2025においてヘッド内循環流よりも高圧の状態で流れている。タンク循環流Eの流量は、循環ユニット200からサブタンク2001への流れが停止しないように、ヘッド内循環流F及び記録ヘッド1の最大吐出流量よりも大きく設定することが好ましい。
【0108】
記録を開始することでヘッド内循環流の領域でインク体積が減少すると、圧力制御弁2027が開き、タンク循環流Eからヘッド内循環流Fへの支流が発生する。この時、タンク循環流とヘッド内循環流との間には圧力差が存在するが、オリフィス2028と圧力制御弁2027との間のギャップによる圧損差により、ヘッド内循環流内では吐出に適した負圧が安定して維持される。
【0109】
以上説明したように、本実施形態における記録装置1000では、高速で高画質な記録を行うことができ、白インクのような沈降性の激しいインクであっても、循環による沈降抑制作用により、回復操作の実施を大幅に削減することができる。このため、回復操作によって生じる廃インク量とダウンタイムを低減することが可能になる。
【0110】
(比較例)
図18は、本実施形態の比較例におけるインクジェット記録装置1000aの記録ヘッド及びインク経路を示す模式図である。本比較例と上記第1実施形態との相違点は、供給ポンプ1003の駆動力によって、インクが、記録素子基板10内を通過してサブタンク2001と記録ヘッド1の間を循環する1つの循環流路が形成されている点にある。すなわち比較例では、サブタンク2001から供給チューブ1001を介して圧力レギュレータ202に供給されたインクは、記録素子基板10を通過した後、回収チューブ1002を経て再びサブタンク2001へと戻る循環流路を形成されている。このように、比較例では、サブタンクと記録ヘッドを通過する1つの循環流を形成する構成となっており、これにより流路内での色材の沈降は抑制される。
【0111】
しかしながら、比較例では1つの循環流路によってインクの循環を行っている。このため、記録動作時のヘッドの往復走査によって供給チューブ1001及び回収チューブ1002内のインクが揺動すると、それに伴って発生するインクの圧力変動が記録素子基板10内に伝達されてしまうという新たな問題が発生する。すなわち、比較例の構成では、供給チューブ1001からの圧力変動は圧力レギュレータ202によって緩和されるが、回収チューブ1002側からの圧力変動は、緩和されることなく圧力室106に伝達されてしまう。そのため、記録ヘッドの吐出量や吐出特性が不安定になり、スジやムラなどが記録画像に発生し、画質が低下するという問題が生じる。このような問題は、記録ヘッド走査速度を上げるほど顕著になる。このように、比較例では色材の沈降は抑制できるものの、画質や生産性が低下するという新たな問題が生じる。
【0112】
これに対し、本実施形態の記録装置によれば、画質及び生産性を損なうことなく、流路内での色材の沈降を抑制することが可能になる。
【0113】
(他の実施形態)
上記実施形態では、記録ヘッドを往復走査させつつ記録を行うシリアル型の記録装置を例に採り説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明は、複数の記録素子をページ幅に相当する範囲に配列した長尺な記録ヘッドを備える所謂フルライン型の記録装置にも有効である。フルライン型の記録装置では、記録動作において記録ヘッドが移動しないため、シリアル型の記録装置のように、液体収容部と記録ヘッドとを連結するチューブの揺動による負圧変動は発生しない。しかし、記録ヘッドが大きい分だけ色材の沈降抑制に必要な循環流量が大きくなるため、循環ポンプの脈動が大きくなり易く、画質の低下が生じ易い。本発明は、圧力制御手段により圧力的に分離された2つの循環流を形成する構成を有しているため、本発明をフルライン型の記録装置に適用した場合には、循環ポンプの脈動が記録ヘッドに伝達されるのを抑制することが可能になる。このため、顔料沈降を抑制しつつ高速で高画質な記録を実現することができる。
【0114】
また、上記実施形態では、発熱素子が発する熱エネルギーにより液体を吐出する液体吐出ヘッドを及びこれを用いる液体吐出装置を示した。しかし、電気機械変換素子(ピエゾ)によって液体を吐出する液体吐出ヘッド及びこれを用いる液体吐出装置にも本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0115】
1 記録ヘッド(液体吐出ヘッド)
10 記録素子基板(液体吐出部)
103 吐出口
202 圧力レギュレータ(圧力制御手段)
203 ヘッド循環ポンプ(第1ポンプ)
1000 液体吐出装置(インクジェット記録装置)
1003 供給ポンプ(第2ポンプ)
2001 サブタンク(液体収容部)
R1 第1循環流路
R2 第2循環流路