(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016327
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】潜水士監視方法及び潜水士監視システム
(51)【国際特許分類】
B63C 11/26 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
B63C11/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118350
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】591195031
【氏名又は名称】J-POWERジェネレーションサービス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000151449
【氏名又は名称】株式会社東京久栄
(74)【代理人】
【識別番号】100166073
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】福田 勇人
(72)【発明者】
【氏名】望月 直樹
(72)【発明者】
【氏名】國澤 弘
(57)【要約】
【課題】既存の水中作業システムと比較して複雑なものでなく、いつも迅速な救助が実施可能である、潜水士監視方法及び潜水士監視システムを提供する。
【解決手段】水中の潜水士(31,32)と水上の作業員である通信員(33)との通話を可能とする通話手段(1)と、該通話手段(1)によって伝達される潜水士(31,32)の呼吸音を、水上の作業員である通信員(33)が可視化する呼吸音可視化手段(2)とを備え、前記呼吸音可視化手段(2)が、潜水士(31,32)の呼吸音を音情報に変換し、該変換した音情報を呼吸音インジケーター(21,22)によって可視化し、該呼吸音インジケーター(21,22)によって可視化した音情報の強弱が、棒グラフ表記の長さの相違によって表示部(21A,22A)に示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の潜水士と水上の通信員との通話を可能とする通話手段と、
該通話手段によって伝達される潜水士の呼吸音を、水上の通信員が可視化する呼吸音可視化手段とを備え、
該呼吸音可視化手段によって、潜水士の呼吸音を可視化し、
該可視化した呼吸音が表示されている状態の強弱を確認することで、潜水士の状態を監視することを特徴とする、潜水士監視方法。
【請求項2】
前記呼吸音可視化手段が、潜水士の呼吸音を音情報に変換し、該変換した音情報を呼吸音インジケーターによって可視化するものであることを特徴とする、請求項1に記載の潜水士監視方法。
【請求項3】
水中の潜水士と水上の通信員との通話を可能とする通話手段と、
該通話手段によって伝達される潜水士の呼吸音を、水上の通信員が可視化する呼吸音可視化手段とを備えることを特徴とする、潜水士監視システム。
【請求項4】
前記呼吸音可視化手段が、潜水士の呼吸音を音情報に変換し、該変換した音情報を呼吸音インジケーターによって可視化するものであることを特徴とする、請求項3に記載の潜水士監視システム。
【請求項5】
前記呼吸音可視化手段が、潜水士の呼吸音を音情報に変換し、該変換した音情報を呼吸音インジケーターによって可視化し、
該呼吸音インジケーターによって可視化した音情報の強弱が、棒グラフ表記の長さの相違によって表示部に示されることを特徴とする、請求項3に記載の潜水士監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜水士監視方法及び潜水士監視システムに関し、詳細には、水中電話装置と潜水士への送気機構を備えた既存の水中作業システムを用いて、水中で作業を行う潜水士の状態をモニタリングし、危険を察知することを可能とする、潜水士監視方法及び潜水士監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
潜水士が水中で作業しているときに、潜水士に少しでも異変が発生すると、命に影響を及ぼす事故となる可能性があるので、種々の潜水士監視システムが提案されている。
例えば、体温、脈拍、血圧、呼吸数などの生命徴候を表すバイタルサインを、各種センサーを用いて監視することで、水中で作業を行う潜水士の状態を監視するシステムが、数多く提案されている。
【0003】
特許文献1には、潜水士が着用する潜水用マスクに、片目を撮像可能な内向き撮像部を備えることで、潜水士の眼部を撮像可能とした潜水士サポートシステムが開示されている。
該特許文献1に記載の潜水士サポートシステムは、作業中の潜水士の眼部を撮像可能とすることで、例えば瞳孔が開いている状態等を水上の監視員が確認した際に、潜水士に異変が発生したとして、直ちに最適な救助方法を選択して救助を実施するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
陸上で作業員のバイタルサインを測定し、監視することは、各種の小型センサーを作業員に設置し、有線や無線を使用してバイタルサインに関する全ての項目をモニリングすることで、容易に実施可能である。
これに対し、水中で作業員である潜水士の体温、脈拍、血圧等のバイタルサインを測定し、監視することは、水圧・防水・外部電源・水・潜水服・構造物などの多くの疎外要件に阻まれ、適当なセンサーや監視システムが無いのが現状であり、仮にセンサー類を新たに開発したとしても、既存の水中作業システムと比較して複雑になってしまう恐れがある。
【0006】
特許文献1に記載の発明は、潜水用マスクに撮像部を新たに備える必要があり、さらに、画像情報を伝送するケーブルを新たに水中に設置する必要もあるので、潜水用マスクと潜水士への送気システムを備えた既存の水中作業システムと比較すると複雑に成りがちである。
また、潜水士の眼部を撮像可能とすることで潜水士の異変を感知するものなので、水上のモニタで確認する画像が常に鮮明である必要がある。
そのため、機器のトラブルや通信障害等の要因で、画像が少しでも影響を受けていると、潜水士に異変が発生したとしても正確な画像の確認ができないため異変に気づかず、迅速な救助が実施できない恐れがある。
【0007】
したがって、本発明の解決しようとする課題は、既存の水中作業システムと比較して複雑なものでなく、いつも迅速な救助が実施可能である、潜水士監視方法及び潜水士監視システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題を解決するための手段は、下記のとおりである。
【0009】
第1に、
水中の潜水士と水上の通信員との通話を可能とする水中電話装置による通話手段と、
該通話手段によって伝達される潜水士の呼吸音を、水上の通信員が可視化する呼吸音可視化手段とを備え、
該呼吸音可視化手段によって、潜水士の呼吸音を可視化し、
該可視化した呼吸音が表示されている状態の強弱を確認することで、潜水士の状態を監視することを特徴とする、潜水士監視方法。
第2に、
前記呼吸音可視化手段が、潜水士の呼吸音を音情報に変換し、該変換した音情報を呼吸音インジケーターによって可視化するものであることを特徴とする、前記第1に記載の潜水士監視方法。
【0010】
第3に、
水中の潜水士と水上の通信員との通話を可能とする水中電話装置による通話手段と、
該通話手段によって伝達される潜水士の呼吸音を、水上の通信員が可視化する呼吸音可視化手段とを備えることを特徴とする、潜水士監視システム。
第4に、
前記呼吸音可視化手段が、潜水士の呼吸音を音情報に変換し、該変換した音情報を呼吸音インジケーターによって可視化するものであることを特徴とする、前記第3に記載の潜水士監視システム。
第5に、
前記呼吸音可視化手段が、潜水士の呼吸音を音情報に変換し、該変換した音情報を呼吸音インジケーターによって可視化し、
該呼吸音インジケーターによって可視化した音情報の強弱が、棒グラフ表記の長さの相違によって表示部に示されることを特徴とする、前記第3に記載の潜水士監視システム。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、水中電話装置と潜水士への送気機構を備えた既存の水中作業システムを用いて行う水中作業において、通話手段としての水中電話のマイクを用いることで、追加の専用センサーを設けることなく「呼吸」についてのバイタルチェックが現実的に可能であることが、潜水士の目線から見い出された。
そして、呼吸音可視化手段によって、「呼吸音+呼吸」を可視化することが、潜水士の監視システムとして極めて有効であると確認された。
【0012】
すなわち、既存の水中電話のスピーカーから聞こえる呼吸音は、複数の潜水士が作業をしている場合には、個々の潜水士の呼吸音を区別することができず、聴覚によって潜水士一人一人の呼吸の状態を監視することはできないが、各潜水士の呼吸音を各々可視化することで、容易に区別することが可能となる。
また、水上で監視する環境が、エアコンプレッサー等による騒音下であっても、目視には影響を受けないので、各個人の呼吸音を目視にて確実にモニタリングすることが可能となる。
特に、水中電話を用いて潜水士と会話を行う通信員は、潜水士との会話で潜水士の状態をチェックすることに加えて、呼吸の状態を目視により常時監視するので、危険な状態に通じる兆候を早期に把握することが可能となる。
【0013】
よって、本発明は、以下の効果を奏することができる。
【0014】
既存の水中電話装置による通話手段に、新たに呼吸音可視化手段を加えるだけで構成することができるので、既存の水中作業システムと比較して複雑なものでない。
また、通話手段によって伝達される潜水士の呼吸音を、水上の通信員が可視化する呼吸音可視化手段によって可視化して、潜水士の状態を監視するので、機器のトラブルや通信障害等の要因で可視化手段による表示が影響を受けたとしても、深刻な状況に陥る可能性は低く、いつも迅速な救助が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の潜水士監視システムの説明図である。
【
図2】本発明による潜水士監視システムの呼吸音可視化手段における動作の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ具体的に説明する。
ここで、添付図面において同一の部材には同一符号を付しており、また重複した説明は省略されている。
なお、ここでの説明は本発明が実施される一形態であることから、本発明は当該形態に限定されるものではない。
【実施例0017】
本実施例の潜水士監視システムは、
図1に示すとおり、既存の水中電話装置による通話手段1と、該通話手段1に連動する呼吸音可視化手段2とを備えている。
【0018】
図1には、2名の潜水士31,32が、取水口51の側面に接続された取水管52内を点検する様子が示されている。
該取水口51は、護岸から沖に60m程度離れた海底面に設置されている。
【0019】
符号53は、ポンプ場61と、ケーソン護岸62との間を接続する取水管であり、両端は伸縮管に接続されている。
該ポンプ場61は、護岸から陸地側に30~50m程度離れた地中に埋設され、取水した海水を供給するための送水管54が接続されている。
潜水士31,32は、ポンプ場61に設けた開口部63から進入する。
【0020】
図中、符号33は、潜水士31,32との作業状況を確認するために、水中電話装置(図示は省略)を用いて会話を行う通信員を示している。
符号34は、作業責任者を示している。
符号35は送気作業を行う送気員を、符号36は送気員兼救助員を示している。
【0021】
潜水士31にはエアーホース41が接続され、潜水士32にはエアーホース42が接続されている。
2本のエアーホース41,42には、作業車に設置された潜水用コンプレッサー43によって、十分な酸素を含むエアーが供給されている。
【0022】
通話手段1は、水中の各潜水士31,32と、水上の通信員33との通話を可能と水中電話装置によるものであり、図示は省略する有線によって接続されているが、無線接続のものを採用することもできる。
ここで、各潜水士31,32には、図示は省略するマイクとスピーカーが装備されている。
【0023】
呼吸音可視化手段2は、該通話手段1によって伝達される潜水士の呼吸音を、水上の作業員である通信員33等が可視化することを可能にするものである。
すなわち、呼吸音可視化手段2は、各潜水士31,32の呼吸音を音情報に変換し、該変換した音情報を、各々の呼吸音インジケーター21,22によって可視化するものである。
本実施例では、2名の潜水士31,32に対応して、呼吸音インジケーター21,22によって可視化した音情報の強弱は、棒状の表示部21A,22Bに点灯する光源の長さ(高さ)の相違によって示されている。
なお、表示部の形状は、棒状に限定されず、円形状であっても良いし、波状であっても良い。
【0024】
ここで、呼吸音インジケーター21,22は、通話手段1である水中電話装置への外部取付型として構成することができる他に、通話手段1である水中電話装置への内蔵型として構成することもできる。
呼吸音インジケーター21,22を外部取付型として構成する場合には、例えば、USB電源を利用して接続することで、簡易にセッティンすることが可能となる。
【0025】
次に、前記の水中の潜水士31,32と水上の通信員33との通話を可能とする通話手段1と、該通話手段1によって伝達される潜水士31,32の呼吸音を、水上の通信員33が可視化する呼吸音可視化手段2とを備え潜水士監視システムによる、潜水士監視方法について説明する。
【0026】
二人で1組の潜水士31,32が、ポンプ場61の開口部63から内部に進入し、直径が3.3mで、長さ合計が約124mとなる取水管52,53の内部の水中を、約70分の作業時間を目安に、最大水深が14.5mとなる環境下、潜水状態で各所を点検すると共に写真撮影を行うことで作業を実施する。
ここで、水上の通信員33は、潜水士31,32が各々有する水中電話を利用した会話を通じて、各潜水士31,32の状況を把握している。
この際、各潜水士31,32の呼吸音は、呼吸音可視化手段2の呼吸音インジケーター21,22によって音情報として変換され、表示部21A,22Aに点灯する棒状光の長さ(高さ)の相違によって、強弱がリアルタイムで、各表示部21A,22Aにおいて、常時可視化されている。
【0027】
各潜水士31,32の状態を監視する通信員33は、常に、呼吸音インジケーター21の表示部21Aと、呼吸音インジケーター22の表示部22Aとを視認し、通話手段1によって会話しつつも、各人の表示部21A,22Aに表示される棒状光によるインジケーターの長さ(高さ)を意識している。
【0028】
図2に示すように、各潜水士31,32の呼吸音は、呼吸音可視化手段2の呼吸音インジケーター21,22によって、表示部21A,22Aにおいて、黒色の棒状の塗りつぶし部分で示されるインジケーターの長さ(高さ)表示により、強弱が客観的に示されている。
すなわち、インジケーターの長さが長いほど(高いほど)呼吸音が強く、短い(低い)場合には呼吸音が弱いことを示している。
【0029】
図2中の(A)~(D)では、表示部21Aに潜水士31の呼吸音が示され、表示部22Aに潜水士32の呼吸音が示されている。
【0030】
図2中の(A)では、表示部21Aのインジケーターが全体の四分の三より高く表示され、潜水士31が会話及び呼吸をしていることが確認できる。
また、表示部22Aのインジケーターは全体の四分の一程度を示しており、潜水士32が通常の呼吸をしていることが確認できる。
【0031】
図2中の(B)では、表示部21Aのインジケーターが全体の七分の一程度の位置で表示され、潜水士31の呼吸音が弱いことが確認できる。
また、表示部22Aのインジケーターは全体の四分の三以上を示しており、潜水士32が会話及び呼吸をしていることが確認できる。
【0032】
図2中の(C)では、表示部21Aのインジケーターが全体の八分の一程度の位置で表示され、潜水士31の呼吸音が更に弱くなっていることが確認できる。
また、表示部22Aのインジケーターは全体の二分の一程度を示しており、潜水士32が通常の呼吸をしていることが確認できる。
【0033】
図2中の(D)では、表示部21Aのインジケーターが全体の八分の一程度の位置で表示され、潜水士31の呼吸音について弱い状態が継続していることが確認できる。
したがって、通信員33は、潜水士31のバイタルデータが通常とは異なる傾向を示しているので異変が生じたと判断し、潜水士32に潜水士31の救助を要請する等の迅速な救助活動を実施することが可能となる。
なお、表示部22Aのインジケーターは全体の四分の三程度を示しており、潜水士32が会話及び呼吸をしていることが確認できる。