(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163285
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】プローブ、測定装置、及び測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 1/067 20060101AFI20241114BHJP
G01R 1/073 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G01R1/067 A
G01R1/073 D
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024157941
(22)【出願日】2024-09-12
(62)【分割の表示】P 2020010246の分割
【原出願日】2020-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100179280
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 育郎
(72)【発明者】
【氏名】今井 俊博
(72)【発明者】
【氏名】古谷 真一
(57)【要約】
【課題】測定値のばらつきを抑制することのできる測定方法を提供する。
【解決手段】ひずみゲージの電気的特性を測定する測定方法は、接触面を有するプローブであって、該接触面の最大高さRzが3μm以上且つ8μm以下であるプローブの前記接触面を前記ひずみゲージが有する端子であって酸化被膜が表面に形成された端子の該表面に接触させて前記ひずみゲージの電気的特性を測定することを含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひずみゲージの電気的特性を測定する測定方法であり、
接触面を有するプローブであって、該接触面の最大高さRzが3μm以上且つ8μm以下であるプローブの前記接触面を前記ひずみゲージが有する端子であって酸化被膜が表面に形成された端子の該表面に接触させて前記ひずみゲージの電気的特性を測定することを含む測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブ、測定装置、及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ひずみゲージの製造工程には、ひずみゲージの入力抵抗、出力抵抗や出力電圧を測定する測定工程が含まれる。この測定工程は、ひずみゲージが設計された電気的特性を備えているか否かを検査するために行われる。同様の測定工程は、回路基板を製品に実装する際などにも行われる。
【0003】
上記の測定工程では、例えば、プローブ(探針)をひずみゲージや回路基板の端子に接触させて、試験電流を流す。特許文献1は、プローブの一例を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
被測定物(ひずみゲージ、回路基板等)の端子にプローブを接触させて被測定物の電気的特性を測定する際、測定値にばらつきが生じ得る。即ち、同一の被測定物に対して同一の条件で行った複数回の測定の結果が、互いに同一とならないことがある。このような測定値のばらつきは、測定結果の信頼性に影響を及ぼすため、望ましくない。
【0006】
本発明は、測定値のばらつきを抑制することのできるプローブ、該プローブを備える測定装置、及び該プローブを用いる測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に従えば、
ひずみゲージの電気的特性を測定する測定方法であり、
接触面を有するプローブであって、該接触面の最大高さRzが3μm以上且つ8μm以下であるプローブの前記接触面を前記ひずみゲージが有する端子であって酸化被膜が表面に形成された端子の該表面に接触させて前記ひずみゲージの電気的特性を測定することを含む測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプローブ、該プローブを備える測定装置、及び該プローブを用いる測定方法によれば、測定値のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)はひずみゲージストリップの上面図である。
図1(b)は、ひずみゲージストリップに含まれるひずみゲージの上面図である。
図1(c)はひずみゲージ内に構成されたホイートストンブリッジの回路図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る測定装置の側面図である。
【
図3】
図3は、測定装置が備えるテーブルの斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る測定装置の、一部を省略した上面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係るプローブの側面図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る測定方法のフローチャートである。
【
図7】
図7(a)~
図7(d)は測定装置の動作を説明する図である。
図7(a)は、テーブルがワーク交換位置にある状態を示す。
図7(b)はテーブルがスタンバイ位置にある状態を示す。
図7(c)は、テーブルがワーク測定位置にある状態を示す。
図7(d)は、テーブルがマーキング位置にある状態を示す。
【
図8】
図8は、実施例1~11のプローブと比較例1~3のプローブについて、最大高さRz、及びばらつきの判定結果を示す表である。
【
図9】
図9(a)、
図9(b)、
図9(c)は、プローブの接触面と端子との接触状態の変化が接触抵抗に与える影響を説明するための説明図である。
【
図10】
図10(a)、
図10(b)、
図10(c)は、プローブの接触面と端子との接触状態の変化が接触抵抗に与える影響を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態>
本発明の実施形態のプローブ50、測定装置(インサーキットテスタ)100について、ひずみゲージストリップ900(
図1(a))に含まれる複数のひずみゲージの電気的特性(入力抵抗、出力抵抗、出力電圧等)を測定する場合を例として説明する。
【0011】
[ひずみゲージストリップ900]
被測定物であるひずみゲージストリップ900は、
図1(a)に示す通り、平面視略矩形のゲージベース910と、ゲージベース910上に形成された配線層920とを含む。
【0012】
ゲージベース910は、絶縁樹脂、例えばPI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等より形成されたフィルム状のシートとし得る。ゲージベース910の厚さは、一例として、20μm~30μm程度とし得る。ゲージベース910の四隅の各々には、ゲージベース910を厚さ方向に貫通するアライメント孔910hが形成されている。
【0013】
配線層920は、一例として、銅ニッケル合金により形成されている。配線層920は、5行×4列のマトリックス状に配置された複数のゲージパターンGP11~GP54を含む。配線層920の厚さは、一例として、3μm~5μm程度とし得る。
【0014】
ゲージパターンGP
11~GP
54の各々は、
図1(b)、
図1(c)に示す通り、4つの抵抗体R
1、R
2、R
3、R
4と、4つの端子T
A、T
B、T
C、T
Dと、これらを接続する配線Wとを含む。4つの抵抗体R
1~R
4、4つの端子T
A~T
D、及び配線Wによりホイートストンブリッジ回路が構成されている。
【0015】
ゲージベース910の一部分と、当該一部分の上に形成されたゲージパターンGP11~GP54により、ひずみゲージSG11~SG54がそれぞれ構成される。以下、ゲージパターンGP11~GP54を総称して、ゲージパターンGPmnと呼び、ひずみゲージSG11~SG54を総称して、ひずみゲージSGmnと呼ぶ。
【0016】
[測定装置100]
図2に示す通り、測定装置100は、ベース10と、ベース10に内蔵された駆動機構20と、駆動機構20によって移動可能に支持されたテーブル30と、ベース10の上面に配置されたプローブ保持機構40とを備える。プローブ保持機構40は、複数のプローブ50を保持している。
【0017】
測定装置100は更に、複数のプローブ50の各々と配線(不図示)で接続された測定実行部60と、プローブ保持機構40に隣接するマーキング機構70と、測定装置100の全体的な動作を制御する制御部CONTとを備える。
【0018】
以下においては、
図2の左右方向を測定装置100のスライド方向と呼び、
図2の奥行方向(紙面に直交する方向)を測定装置100の幅方向と呼ぶ。スライド方向は、駆動機構20がテーブル30を水平面に沿ってスライドさせる方向であり、幅方向は水平面内においてスライド方向に直交する方向である。また、
図2の上下方向、即ちスライド方向及び幅方向に直交する方向を上下方向と呼ぶ。スライド方向においては、
図2においてテーブル30が位置する側をワーク設置側と呼び、プローブ保持機構40が位置する側をワーク測定側と呼ぶ。
【0019】
ベース10は、中空の箱状であり、水平面に沿って広がる天板10tを有する。天板10tには、スライド方向に延びる長手の開口10A(
図2、
図4)が形成されている。
【0020】
駆動機構20は、テーブル30をスライド方向及び上下方向に移動させるための機構である。駆動機構20は、本体部21と、本体部21によって移動される支持部22とを有する。
【0021】
本体部21は、ベース10の内部に収容されて、天板10tの近傍に位置している。本体部21は、支持部22をスライド方向及び上下方向に移動可能な任意の機構であってよい。本体部21は、一例として、モータやピエゾアクチュエータを含む動力発生機構と、歯車、ベルト、チェーン、プーリ等を含む動力伝達機構とにより構成されている。
【0022】
支持部22は、上下方向に延びる柱状の構造である。支持部22は、本体部21の上面から、天板10tの開口部10Aを通って、天板10tの上方まで延びている。
【0023】
テーブル30は、
図3に示す通り、平面視略正方形の平板である。
【0024】
テーブル30の上面30uの四隅の各々には、上面30uから直立する円柱状のアライメントピン30pが設けられている。テーブル30の上面30uの周縁部には、各辺に沿って並ぶ複数の吸気孔30hが設けられている。複数の吸気孔30hの各々は、テーブル30内部の空気流路(不図示)、及びテーブル30に接続されて空気流路に連通した可撓性の吸気ホース(不図示)を介して、吸気装置(不図示)に接続されている。
【0025】
テーブル30の下面は、駆動機構20の支持部22の上端に固定されている。これによりテーブル30は、スライド方向及び上下方向に移動可能な状態で、駆動機構20に支持される。
【0026】
プローブ保持機構40は、複数のプローブ50を保持する長方体の治具41と、治具41を支持する4つの支持柱42とを有する。
【0027】
図4に示す通り、治具41には、治具41を上下方向に貫通する複数の保持孔41hがマトリックス状に形成されている。本実施形態では、複数の保持孔41hが80個(幅方向に5行×スライド方向に16列)形成されている。
【0028】
4つの支持柱42は、天板10tの上面から上方に延びて、治具41の下面の四隅に接続されている。幅方向に並ぶ2つの支持柱42は、開口10Aを幅方向に挟んでいる。
【0029】
複数のプローブ50の各々(
図5)は、一例としてタングステン、銅、プラチナ、金等の金属で形成されている。複数のプローブ50の各々は、一例として円柱形状を有する。プローブ50の一端部は、測定時にひずみゲージSG
mnの端子T
A~T
Dに接触する接触面50cである。
【0030】
接触面50cは一例として円形状である。接触面50cの直径は、一例として約0.1mm~1.2mm程度とし得る。接触面50cの表面粗さ(最大高さRz)は、3μm≦Rz≦8μmであることが好ましい。これにより、測定値のばらつきが抑制され、且つ測定時のひずみゲージの損傷が防止される。その理由は後述する。なお、本明細書及び本発明において、「最大高さRz」は、JIS B 0601-2001に準拠して定義、測定される最大高さRzを意味する。
【0031】
複数のプローブ50は、治具41の複数の保持孔41hにそれぞれが挿入されて、マトリックス状に配置される。
図2に示す通り、複数のプローブ50の各々は、接触面50cを下方に向け、且つ治具41を上下に貫通した状態で、保持孔41hの内部に収容される。
【0032】
図4に示す通り、治具41は、80個のプローブ50を保持して、5行×16列のマトリックス状に配置する。また、幅方向に並ぶ4つのプローブ50をプローブセット50S(
図4)と捉えると、治具41は、20個のプローブセット50Sを保持して、5行×4列のマトリックス状に配置する。各プローブセット50Sの4つのプローブ50は、測定時に、各ひずみゲージSG
mnの4つの端子T
A~T
Dに接触する(詳細後述)。
【0033】
測定実行部60は、プローブ50を用いてひずみゲージSGmnの入力抵抗、出力抵抗、及び出力電圧を測定する部分である。測定実行部60は、ベース10の内部に配置され、不図示の配線により、複数のプローブ50の各々に接続されている。
【0034】
測定実行部60は、電源61と、デジタルマルチメータ(DMM)62と、リレー回路(測定用回路)63とを含む。電源61は測定用の入力電圧を供給する。DMM62は、ひずみゲージSGmnの入力抵抗、出力抵抗、出力電圧等を測定する。リレー回路63は、電源61、DMM62、及び複数のプローブ50の各々を接続する回路である。リレー回路63の構成は、測定内容に応じて切り替え可能(変更可能)である。
【0035】
マーキング機構70は、測定実行部60が行った測定の結果に基づいて、所定のひずみゲージSGmnに印(マーク)を付すための機構である。マーキング機構70は、スライド方向において、治具41のワーク設置側に配置されている。
【0036】
マーキング機構70は、ペン先71tを有するペン71と、ペン71を幅方向及び上下方向に移動可能に保持するペン保持機構72とを有する。なお、マーキング機構70は、ペンを用いたものに限らず、針やカッターでマーキングするものであっても良い。
【0037】
ペン71は、ペン先71tを下方に向けて、ペン保持機構72に保持されている。ペン保持機構72は、ペン71を幅方向及び上下方向に移動可能な任意の機構であってよい。ペン保持機構72の一例は、エアスライダである。
【0038】
制御部CONTは、ベース10の内部に収容されている。制御装置CONTは、駆動機構20、測定実行部60、マーキング機構70に接続されており、これらと通信可能である。
【0039】
[測定方法]
プローブ50、測定装置100を用いたひずみゲージSG
mnの電気的特性(入力抵抗、出力抵抗、出力電圧等)の測定は、
図6のフローチャートに示す通り、ワーク設置工程S1、測定工程S2、マーキング工程S3を含む。
【0040】
ワーク設置工程S1においては、被測定物であるひずみゲージストリップ900を、測定装置100のテーブル30に設置する。ワーク設置工程S1は、具体的には例えば、次のように行う。
【0041】
まず、テーブル30を治具41から最も離れた位置(
図7(a)。以下、「ワーク設置位置」と呼ぶ)に移動させて、テーブル30上にひずみゲージストリップ900を設置する。この時、テーブル30の四隅のアライメントピン41pをゲージベース910の四隅のアライメント孔910hの内部にそれぞれ配置することで、ひずみゲージストリップ900のテーブル30に対する位置合わせを容易に行うことができる。
【0042】
次に、テーブル30の吸気孔30hを介した吸気を行ってひずみゲージストリップ900を吸引し、ひずみゲージストリップ900をテーブル30に固定する。吸気孔30hを介した吸引に加えて、又はこれに代えて、おもりを用いることもできる。具体的には例えば、額縁状の金属枠の底面に樹脂を貼り付けたおもりをひずみゲージストリップ900の周縁部に乗せて、ひずみゲージストリップ900の周縁部を上から押さえつけてもよい。
【0043】
ひずみゲージストリップ900をテーブル30の上面30uに密着させることで、換言すればひずみゲージストリップ900が平坦となるように保持することで、複数のプローブ50を複数のひずみゲージSGmnの端子TA~TDに均一な状態で接触させることができる。これにより測定工程S2における測定の精度をより高めることができる。
【0044】
測定工程S2においては、ひずみゲージストリップ900に含まれるひずみゲージSGmnの各々の電気的特性を、複数のプローブ50及び測定実行部60を主に用いて行う。測定工程S2は、具体的には例えば、次のように行う。
【0045】
まず、テーブル30を治具41の真下の位置(
図7(b)。以下、「スタンバイ位置」と呼ぶ)までスライドさせる。その後、テーブル30を、複数のプローブ50の接触面50cがひずみゲージストリップ900に接触する位置(
図7(c)。以下、「測定位置」と呼ぶ)まで上昇させて停止させる。
【0046】
テーブル30が測定位置で停止した状態においては、複数のプローブ50の各々は、ひずみゲージストリップ900の複数のひずみゲージSGmnの各々に接触する。具体的には、各プローブセット50Sに含まれる4つのプローブ50が、ひずみゲージSGmnの各々の端子TA~TDにそれぞれ接触する。接触圧(プローブ押し圧)は、一例として、1本のプローブ50あたり約60~約80gf(約850~約1150gf/mm2)程度とし得る。
【0047】
次に、測定実行部60が、ひずみゲージSGmnの各々について、入力抵抗、出力抵抗、出力電圧を測定する。具体的な測定方法は、一例として次の通りである。
【0048】
測定実行部60は、まず、次の工程によりひずみゲージSG11の測定を行う。
【0049】
(1)リレー回路63を用いて、電源61、端子TAに接触するプローブ50、端子TA、端子TC、端子TCに接触するプローブ50、及びDMM62を繋ぐ閉回路を構成し、ひずみゲージSG11の入力抵抗を測定する。
(2)リレー回路63を用いて、電源61、端子TBに接触するプローブ50、端子TB、端子TD、端子TDに接触するプローブ50、DMM62を繋ぐ閉回路を構成し、ひずみゲージSG11の出力抵抗を測定する。
(3)リレー回路63及びプローブ50を用いて、電源部61を端子TA、TCに接続し、DMM62を端子TB、TDに接続する。電源部61によりひずみゲージSG11に入力電圧Vinを与えた状態で、DMM62でひずみゲージSG11の出力電圧Voutを測定する(ゼロバランスの測定)。
【0050】
測定実行部60は、測定されたひずみゲージSG11の入力抵抗、出力抵抗、及び出力電圧を制御部CONTに送る。
【0051】
測定実行部60は、ひずみゲージSG11の測定が終了した後、リレー回路63を切り替えて、ひずみゲージSG12について同様の測定を行う。測定実行部60は、20個のひずみゲージSGmnの全てについて順番に同様の測定を行う。測定されたひずみゲージSGmnの各々の入力抵抗、出力抵抗、出力電圧は、制御部CONTに送られる。
【0052】
マーキング工程S3においては、マーキング機構70が、測定工程S2の測定結果に応じて、ひずみゲージSGmnの内の所定のひずみゲージにマーキングを行う。マーキング工程は、具体的には例えば、次のように行う。
【0053】
まず、テーブル30を、測定位置からスタンバイ位置まで降下させ、マーキング機構70の真下の位置(
図7(d)。以下、「マーキング位置」と呼ぶ)までスライドさせる。
【0054】
一方で、制御部CONTは、測定工程S2において測定実行部60から受け取ったひずみゲージSGmnの各々の測定値(入力抵抗、出力抵抗、出力電圧)を所定の基準値と比較し、各測定値が許容公差内であるか否かを判定する。
【0055】
制御部CONTは、複数のひずみゲージSGmnの内のいずれかにおいて、測定値が許容公差外である場合は、当該ひずみゲージをペン71の真下に配置する。スライド方向の位置合わせはテーブル30を移動することにより行われ、幅方向の位置合わせはペン保持機構72を移動することにより行われる。
【0056】
次いで制御部CONTは、ペン保持機構72を用いてペン71を降下させ、測定値が許容公差内ではないと判定したひずみゲージに印をつける。
【0057】
制御部CONTは、測定値が許容公差内ではないと判定されたひずみゲージのすべてに対してマーキングを行った後、テーブル30をワーク設置位置に戻す。
【0058】
その後は、測定済のひずみゲージストリップ900をテーブル30から取り外し、ワーク設置工程S1、測定工程S2、マーキング工程S3を繰り返す。
【0059】
[ドレッシング方法]
ここで、プローブ50の接触面50cに対してドレッシング(粗面化)を行い、接触面50cに所望の表面粗さを与えるドレッシング方法(粗面化方法)について説明する。
【0060】
測定装置100を用いたひずみゲージストリップ900の測定を継続的に行った場合、測定装置100のプローブ50において、接触面50cの表面粗さが低下する(最大高さRzが小さくなる)ことが観察されている。これは、接触面50cが測定の度に接触する端子TA~TDによって押圧され、接触面50cに平滑化が生じるためである。
【0061】
したがって、所定数のひずみゲージストリップ900の測定ごとに、又は所定時間経過ごとに(周期的に)、接触面50cのドレッシングを行い、接触面50cの最大高さRzを3μm≦Rz≦8μmの範囲に戻すことが好ましい。
【0062】
ドレッシングは、具体的には例えば、次のように行う。
【0063】
まず、テーブル30をワーク設置位置に移動し、平面視矩形のサンドペーパー(粗面化部材)を、テーブル30の上に設置する。アライメントピン30pを用いた位置合わせが可能となるよう、サンドペーパーの四隅にアライメント孔を設けてもよい。サンドペーパーは、ひずみゲージストリップ900と同一の寸法、厚さを有していてもよい。
【0064】
次に、サンドペーパーが設置されたテーブル30を、スタンバイ位置まで移動し、上昇させる。これにより、サンドペーパーが所定の圧力(一例としてプローブ1本あたり約60gf~約80gf程度とし得る)で接触面50cに押し付けられてサンドペーパーの粗さが接触面50cに転写され、接触面50cのドレッシングがなされる。テーブル30の上昇、降下を複数回繰り返して、サンドペーパーを接触面50cに複数回押し付けてもよい。
【0065】
その後、テーブル30をワーク設置位置に戻してサンドペーパーをクリーンクロス(清拭布)に置き換え、サンドペーパーと同様に、接触面50cに、一回、又は複数回押し付ける。クリーンクロスにエタノール等を染み込ませておいてもよい。
【0066】
清拭が完了した後は、テーブル30をワーク設置位置に戻してクリーンクロスを次の被測定物(ひずみゲージストリップ900)に置き換え、ひずみゲージSGmnの電気的特性の測定を再開する。
【0067】
[表面粗さ(最大高さRz)を3μm≦Rz≦8μmとすることの意義]
次に、本実施形態のプローブ50において、接触面50cの最大高さRzを3μm以上、且つ8μm以下とすることが好ましい理由を説明する。
【0068】
まず、接触面50cの最大高さRzを3μm以上とすることが好ましい理由は次の通りである。
【0069】
本発明の発明者は、プローブを用いてひずみゲージの電気的特性を測定する際に生じる測定値のばらつきを抑制する方法を鋭意研究し、プローブの接触面の表面粗さ(最大高さRz)に着目した。本発明の発明者の知見によれば、測定値のばらつきは、プローブの接触面とひずみゲージの端子との接触状態が、測定のたびにわずかに異なり、これにより接触面と端子との間に生じる接触抵抗が変化することに起因する。さらに本発明の発明者は、プローブの接触面の最大高さRzを3μm以上とすることで、プローブの接触面とひずみゲージの端子との接触状態を安定させることができ、接触抵抗の変化を十分に抑制することができることを見出した。
【0070】
本発明の発明者は、上記の知見に基づき、次の試験を行った。
【0071】
まず、同種類のプローブの接触面を番手の異なるやすりで処理して、接触面の最大高さRzが約3μm以上である実施例1~11のプローブと、接触面の最大高さRzが約3μm未満である比較例1~3のプローブをそれぞれ4つずつ準備した。また、サンプルひずみゲージを1つ用意した。
【0072】
実施例1~11のプローブ、及び比較例1~3のプローブはいずれも、タングステンにより形成されており、接触面は直径0.3mmの円形である。
【0073】
実施例1~11のプローブ、及び比較例1~3のプローブの各々の接触面の最大高さRzは
図8に示す通りである。
【0074】
実施例1~11のプローブ、及び比較例1~3のプローブの最大高さRzは、JISB0601-2001に準拠して測定した。
【0075】
また、サンプルひずみゲージは、
図1(b)に示す構造を有するものとした。サンプルひずみゲージの配線層の材質は銅ニッケル合金、厚さは約5μmとした。サンプルひずみゲージのゲージベースの材質はPI(ポリイミド)、厚さは約25μmとした。
【0076】
次に、実施例1のプローブを、1つのプローブセット50Sを構成するように測定装置100の治具41によって保持し、測定装置100を用いてサンプルひずみゲージの入力抵抗、出力抵抗の測定を、それぞれ3回ずつ行った。3回の測定において、プローブ押し圧は一定(プローブ一本あたり70gf)とした。その後、入力抵抗、出力抵抗の各々について3回の測定により得られた3つの測定値のばらつき(最大値と最小値の差分)を求めた。
【0077】
また、実施例2~実施例11の各プローブ、比較例1~3の各プローブについても、実施例1と同様にサンプルひずみゲージの入力抵抗、出力抵抗をそれぞれ3回ずつ測定し、入力抵抗、出力抵抗の各々について3つの測定値のばらつきを求めた。各実施例及び各比較例の測定において、サンプルひずみゲージは共通のものを使用した。
【0078】
測定の結果を
図8に示す。
図8においては、入力抵抗、出力抵抗ともに3つの測定値の間のばらつきが±1Ω未満であるものを〇で示している。一方で、入力抵抗、出力抵抗ともに3つの測定値の間のばらつきが±1Ω以上であるものを×で示している。
図8に示す通り、最大高さRzが3μm以上である実施例1~11においては測定値のばらつきは±1Ω未満に収まっており、最大高さRzが3μm未満である比較例1~3においては、測定値のばらつきが±1Ω以上となっている。
【0079】
なお、本発明の発明者の知見によれば、プローブの接触面の最大高さRzが小さい場合に測定値のばらつきが大きくなる理由の一つは、次の通りである。
【0080】
図9(a)にプローブの接触面CS1の簡略化した断面図を、
図10(a)にプローブの接触面CS2の簡略化した断面図をそれぞれ示す。接触面CS1の最大高さRzは、接触面CS2の最大高さRzよりも小さい。
図9(a)、
図10(a)において、点線L
11、L
21は、ひずみゲージの端子の表面の位置を示す。接触面CS1、CS2が点線L
11、L
21よりも下方に位置する部分は、接触面CS1、CS2が端子の表面を押し下げて端子の内部に埋まっている。即ち、接触面CS1、CS2が端子の表面に噛み込んでいる。
【0081】
図9(b)、
図10(b)に示すように、プローブが端子に対して微小角度θ
0だけ傾斜し、端子の表面が点線L
12、L
22で示す位置に移動すると、接触面CS1、CS2と端子の表面との接触面の広さは、概ね、
図9(b)、
図10(b)に示した太線の長さに応じた量だけ変化する。
図9(b)、
図10(b)から読み取れるように、プローブの端子に対する角度が変化した場合には、最大高さRzの小さい接触面CS1において接触面積の変化が大きく、接触抵抗の変化も大きい傾向にある。
【0082】
また、最大高さRzが小さい接触面CS1においては、プローブが端子に対して微小角度θ13を超えて傾斜すると、接触面CS1の一部が、点線L13で示す位置にある端子の表面から離れてしまい、接触面積が小さくなる。最大高さRzが大きい接触面CS2においても、プローブが端子に対して微小角度θ23を超えて傾斜すると、接触面CS2の一部が、点線L23で示す位置にある端子の表面から完全に離れてしまうが、角度θ23は、角度θ13よりも大きい。
【0083】
このように、端子に対するプローブの角度が変化した場合には、最大高さRzが比較的小さい接触面CS1において、最大高さRzが比較的大きい接触面CS2よりも、接触面積がより大きく変化し、接触抵抗がより大きく変化する傾向にある。
【0084】
また、
図9(c)、
図10(c)に示すように、プローブが端子から微小距離d
0だけ遠ざかり、端子の表面が点線L
14、L
24で示す位置に移動すると、接触面CS1、CS2と端子の表面との接触面は、概ね、
図9(c)、
図10(c)に示した太線の長さに応じた量だけ変化する。
図9(c)、
図10(c)から読み取れるように、プローブの端子に対する距離が変化した場合も、最大高さRzの小さい接触面CS1において接触面積の変化が大きく、接触抵抗の変化も大きくなる傾向にある。
【0085】
このように、プローブの接触面の最大高さRzが小さい場合には、端子に対する接触状態の変化に応じた接触面積、ひいては接触抵抗の変化量が大きくなり、測定値のばらつきも大きくなる傾向にある。
【0086】
なお、銅ニッケル合金で形成されたひずみゲージの端子には、通常、3μm程度か、これよりも薄い酸化被膜が形成されている。本発明の発明者の知見によれば、接触面の最大高さが3μmよりも大きい場合には、接触面の凸部(接触面の断面図においてミクロの山を形成する部分)が酸化被膜を突き破り、接触面のより多くの領域が、ひずみゲージの端子に直接的に接触する。このように、接触面のより多くの領域を、酸化被膜を介さずに端子に直接的に接触させることによっても、接触状態が安定し、接触状態の変化に応じた接触抵抗の変化量が抑制される。
【0087】
以上より、接触面50cの最大高さRzは3μm以上とすることが好ましい。これにより、測定値のばらつきを良好に抑制することができる。
【0088】
次に、接触面50cの最大高さRzを8μm以下とすることが好ましい理由は次の通りである。
【0089】
ひずみゲージは一般に、可撓性の誘電体により形成されたゲージベースの上に、抵抗体を含む導電性の配線層が形成された構造を有し、使用時には、金属等の導電体である起歪体にゲージベースを貼り付ける。すなわち、ゲージベースは、配線と起歪体とを絶縁する機能を果たす。
【0090】
ここで、ひずみゲージを用いたひずみの計測を良好に行うためには、配線層の抵抗体を、起歪体の伸縮に応じて良好に伸縮させる必要がある。そのため、絶縁性のみを考慮してゲージベースを厚くすることは現実的ではない。
【0091】
上記の点を考慮して、ひずみゲージは一般に、配線層の厚さが3~5μm程度であり、ゲージベースの厚さは25μm程度である。
【0092】
本発明の発明者の知見によると、プローブの接触面の最大高さが8μm以下では、プローブの接触面をひずみゲージの端子に接触させた際に、プローブの接触面の凸部がゲージベースを過度に傷つけることがない。したがって、ゲージベースの損傷により、ゲージベースの絶縁性能が低下し、ひずみゲージの性能劣化が生じ得ることが防止される。
【0093】
以上より、接触面50cの最大高さRzは8μm以下とすることが好ましい。
【0094】
本実施形態のプローブ50、測定装置100、及び測定方法の効果を以下にまとめる。
【0095】
本実施形態のプローブ50は、被測定物であるひずみゲージSGmnの端子TA~TDに接触する接触面の表面粗さ(最大高さRz)が、3μm以上である。したがって、端子TA~TDに対する接触状態の変化に応じた接触抵抗の変化が小さく、複数回の測定を行った場合に測定値のばらつきを抑制することができる。
【0096】
また、ひずみゲージSGmnの端子TA~TDには、一般的に3μm程度であるかこれよりも薄い酸化被膜が形成されているため、接触面の最大高さを3μm以上とすることで、酸化被膜を突き破って、接触面50cと端子TA~TDとを良好に接触させることができる。これにより、接触状態の変化に応じた接触抵抗の変化量を抑制し、測定値のばらつきを抑制することができる。
【0097】
本実施形態のプローブ50は、接触面50cの表面粗さ(最大高さRz)が8μm以下である。したがって、接触面50cと端子TA~TDとの接触によるゲージベース910の損傷が防止されている。また、端子TA~TDに接触痕が残ることも抑制される。
【0098】
即ち本実施形態のプローブ50は、接触面50cの表面粗さ(最大高さRz)を3μm以上とすることにより、接触面50cの端子TA~TDに対する接触状態を安定させて測定値のばらつきを抑制することができ、且つ接触面50cの表面粗さ(最大高さRz)を8μm以下とすることにより、測定時に生じ得るひずみゲージSGmnの損傷を防止できるものである。
【0099】
本実施形態の測定装置100は、測定値のばらつきが抑制された(即ち測定値の信頼性が高い)プローブ50を備えるため、1つのひずみゲージSGmnにつき1回の測定を行うのみで信頼性の高い測定値を得ることができる。したがって、1つのひずみゲージに対して複数回の測定を行って平均値を求めることで測定値の信頼性を高める必要のある従来の測定装置に比較して、測定時間を大きく短縮することができる。
【0100】
本実施形態の測定方法は、測定装置100を用いるため、測定装置100と同様の効果を生じる。また、所定のタイミングでプローブ50の接触面50cのドレッシング(粗面化)を行い、接触面50cの最大高さRzを3μm以上、8μm以下に維持するため、信頼性の高い測定を長期間、継続して行うことができる。
【0101】
<変形例>
上記実施形態のプローブ50、測定装置100、及び測定方法において、次の変形態様を用いることもできる。
【0102】
上記実施形態のプローブ50を、測定装置100とは独立して用いてもよい。具体的には例えば、作業者がプローブ50を操作してひずみゲージSGmnの端子TA~TDにプローブを接触させることにより、ひずみゲージSGmnの電気的特性を測定してもよい。
【0103】
上記実施形態のプローブ50は円柱形状を有し、接触面50cは円形であったが、これには限られない。プローブ50、接触面50cの形状は任意である。例えば接触面50cの形状は正方形や多角形であってもよい。
【0104】
また、被測定物は、ひずみゲージSGmnには限られない。具体的には例えば、PCBA(プリント回路基板アセンブリ)の電気的特性(回路抵抗等)の測定において、プローブ50を用いることができる。PCBAの端子も、一般に銅ニッケル合金で形成されており、3μm程度かこれよりも薄い酸化被膜が形成されている。
【0105】
被測定物は、その他、電気的特性を測定する必要のある任意の電気部品、電子部品等であってよい。
【0106】
上記実施形態の測定装置100においては、治具41には複数の保持孔41hが80個(幅方向に5行×スライド方向に16列)形成されていたがこれには限られない。治具41が有する保持孔41hの数及び配置、即ち治具41が保持するプローブ50の数及び配置は、測定装置100の設計に応じて任意に設定し得る。
【0107】
上記実施形態の測定装置100を適宜改変して、電気的特性を測定する必要のある任意の電気部品、電子部品等を測定するための測定装置とすることができる。具体的には例えば、テーブル30の構成や、治具41の構成を改変し得る。
【0108】
本発明の特徴を維持する限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【0109】
(付記)
上記実施形態及びその変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0110】
(項目1)
被測定物の電気的特性を測定するためのプローブであって、
前記被測定物に接触させる接触面を有し、
該接触面の最大高さRzが3μm以上且つ8μm以下であるプローブ。
【0111】
(項目2)
前記被測定物の、前記接触面と接触する部分に酸化被膜が形成されている項目1に記載のプローブ。
【0112】
(項目3)
前記被測定物はひずみゲージである項目1又は2に記載のプローブ。
【0113】
(項目4)
被測定物の電気的特性を測定するための測定装置であって、
項目1~3のいずれか一項に記載されたプローブと、
前記プローブを保持する治具と、
前記被測定物を保持して、該被測定物を前記プローブの前記接触面に接触させる被測定物移動機構とを備える測定装置。
【0114】
(項目5)
前記被測定物移動機構は、前記プローブの前記接触面と前記被測定物との間の接触圧力が850~1150gf/mm2となるように前記被測定物を前記プローブの前記接触面に接触させる項目4に記載の測定装置。
【0115】
(項目6)
前記プローブの前記接触面を粗面化するための粗面化部材を保持して、該粗面化部材を前記接触面に接触させる粗面化部材移動機構を備える項目4又は5に記載の測定装置。
【0116】
(項目7)
前記治具は、複数の前記プローブをマトリックス状に保持するように構成されており、前記被測定物移動機構は、マトリックス状に保持された前記複数のプローブを前記被測定物に同時に接触させるよう構成されている項目4~6のいずれか一つに記載の測定装置。
【0117】
(項目8)
被測定物の電気的特性を測定する測定方法であって、
項目1~3のいずれか一つに記載のプローブの前記接触面を前記被測定物に接触させて前記被測定物の電気的特性を測定することと、
前記接触面に粗面化処理を施すことを含む測定方法。
【0118】
(項目9)
前記粗面化処理を、所定数の前記被測定物の測定ごとに、又は所定時間が経過するごとに実行する項目8に記載の測定方法。
【符号の説明】
【0119】
10 ベース、20 駆動機構、30 テーブル、40 プローブ保持機構、50 プローブ、60、測定実行部、70 マーキング機構、100 測定装置、900 ひずみゲージストリップ、SGmn ひずみゲージ