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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163309
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】防眩フィルム及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/02 20060101AFI20241114BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20241114BHJP
【FI】
G02B5/02 B
G09F9/00 313
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024158761
(22)【出願日】2024-09-13
(62)【分割の表示】P 2023062916の分割
【原出願日】2021-05-14
(31)【優先権主張番号】P 2020086226
(32)【優先日】2020-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】葛原 満広
(72)【発明者】
【氏名】岩田 行光
(72)【発明者】
【氏名】辻本 淳
(72)【発明者】
【氏名】村上 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】古井 玄
(57)【要約】
【課題】防眩性に優れ、かつ、反射散乱光を抑制し得る防眩フィルムを提供する。
【解決手段】防眩層を有する防眩フィルムであって、前記防眩フィルムは凹凸表面を有し、前記凹凸表面は、三次元算術平均粗さSaが0.3μm以上であり、三次元平均山間隔Smpが10μm以下である、防眩フィルム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防眩層を有する防眩フィルムであって、前記防眩フィルムは凹凸表面を有し、前記凹凸表面は、三次元算術平均粗さSaが0.30μm以上であり、三次元平均山間隔Smpが10.00μm以下であり、
前記凹凸表面の標高の振幅スペクトルに関して、空間周波数がそれぞれ0.005μm-1、0.010μm-1、0.015μm-1に対応する振幅の合計をAM1と定義した際に、AM1が0.070~0.400μmである、防眩フィルム。
【請求項2】
Sa/Smpが0.05以上である、請求項1に記載の防眩フィルム。
【請求項3】
前記凹凸表面の三次元スキューネスSskが0.60以下である、請求項1又は2に記載の防眩フィルム。
【請求項4】
JIS K7136:2000のヘイズが60~98%である、請求項1~3の何れかに記載の防眩フィルム。
【請求項5】
前記防眩層が、バインダー樹脂及び粒子を含む、請求項1~4の何れかに記載の防眩フィルム。
【請求項6】
前記防眩層の厚みをT、前記粒子の平均粒子径をDと定義した際に、D/Tが0.20~0.96である、請求項5に記載の防眩フィルム。
【請求項7】
前記粒子の平均粒子径Dが1.0~5.0μmである、請求項5又は6に記載の防眩フィルム。
【請求項8】
前記バインダー樹脂100質量部に対して、前記粒子を40~200質量部含む、請求項5~7の何れかに記載の防眩フィルム。
【請求項9】
前記粒子が有機粒子である、請求項5~8の何れかに記載の防眩フィルム。
【請求項10】
前記防眩層が、さらに無機微粒子を含む、請求項5~9の何れかに記載の防眩フィルム。
【請求項11】
前記バインダー樹脂100質量部に対して、前記無機微粒子を40~200質量部含む、請求項10に記載の防眩フィルム。
【請求項12】
前記バインダー樹脂が、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物及び熱可塑性樹脂を含む、請求項5~11の何れかに記載の防眩フィルム。
【請求項13】
透明基材上に前記防眩層を有し、前記防眩層の前記透明基材とは反対側の表面が前記凹凸表面である、請求項1~12の何れかに記載の防眩フィルム。
【請求項14】
前記防眩層上にさらに反射防止層を有し、前記反射防止層の表面が前記凹凸表面である、請求項1~13の何れかに記載の防眩フィルム。
【請求項15】
表示素子上に、請求項1~14の何れかに記載の防眩フィルムの前記凹凸表面側の面が前記表示素子とは反対側を向くように配置してなり、かつ前記防眩フィルムを最表面に配置してなる画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩フィルム及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビ、ノートPC、デスクトップPCのモニター等の画像表示装置の表面には、照明及び人物等の背景の映り込みを抑制するための防眩フィルムが設置される場合がある。
【0003】
防眩フィルムは、透明基材上に表面が凹凸形状である防眩層を有する基本構成からなる。このような防眩フィルムとしては、例えば、特許文献1~4等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-234554号公報
【特許文献2】特開2009-86410号公報
【特許文献3】特開2009-265500号公報
【特許文献4】国際公開番号WO2013/015039
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~4のような従来の防眩フィルムは、反射像がぼやける程度の防眩性を付与するものであり、照明及び人物等の背景の映り込みを十分に抑制することが困難なものであった。
一方、防眩層の表面凹凸の粗さの程度を大きくすることにより、映り込みを十分に抑制し、防眩性を高めることができる。しかし、単に表面凹凸の粗さの程度を大きくすると、反射散乱光が強くなり、画像表示装置のコントラストが損なわれるという問題があった。
【0006】
本発明は、防眩性に優れ、かつ、反射散乱光を抑制し得る防眩フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の[1]~[2]の防眩フィルム及び表示装置を提供する。
[1]防眩層を有する防眩フィルムであって、前記防眩フィルムは凹凸表面を有し、前記凹凸表面は、三次元算術平均粗さSaが0.30μm以上であり、三次元平均山間隔Smpが10.00μm以下である、防眩フィルム。
[2]表示素子上に、前記[1]に記載の防眩フィルムの前記凹凸表面側の面が前記表示素子とは反対側を向くように配置してなり、かつ前記防眩フィルムを最表面に配置してなる画像表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の防眩フィルム及び画像表示装置は、防眩性に優れ、かつ、反射散乱光を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の防眩フィルムの一実施形態を示す概略断面図である。
図2】防眩層に入射した光の挙動を説明するための模式図である。
図3】本発明の画像表示装置の一実施形態を示す断面図である。
図4】凹凸表面の標高の振幅スペクトルの算出手法を説明するための図である。
図5】凹凸表面の標高の振幅スペクトルの算出手法を説明するための図である。
図6】実施例1の防眩フィルムの空間周波数と振幅との関係を示す図である。
図7】比較例1の防眩フィルムの空間周波数と振幅との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。
なお、本明細書において、AA~BBの表記は、AA以上BB以下であることを意味する。
【0011】
[防眩フィルム]
本発明の防眩フィルムは、防眩層を有する防眩フィルムであって、前記防眩フィルムは凹凸表面を有し、前記凹凸表面は、三次元算術平均粗さSaが0.30μm以上であり、三次元平均山間隔Smpが10.00μm以下であるものである。
【0012】
図1は、本発明の防眩フィルム100の断面形状の概略断面図である。
図1の防眩フィルム100は、防眩層20を備え、凹凸表面を有している。なお、図1では、防眩層20の表面が防眩フィルムの凹凸表面である。また、図1の防眩フィルム100は、透明基材10上に防眩層20を有している。また、図1の防眩層20は、バインダー樹脂21及び有機粒子22を有している。
なお、図1は模式的な断面図である。すなわち、防眩フィルム100を構成する各層の縮尺、各材料の縮尺、及び表面凹凸の縮尺は、図示しやすくするために模式化したものであり、実際の縮尺とは相違している。図2図3も同様である。
【0013】
本発明の防眩フィルムは、Saが0.30μm以上であり、Smpが10.00μm以下である凹凸表面を有するものであれば、図1の積層構成(透明基材上に防眩層を有する積層構成)に限定されない。例えば、防眩フィルムは、防眩層の単層構造であってもよいし、透明基材及び防眩層以外の層(例えば、反射防止層、防汚層等)を有するものであってもよい。防眩層上に他の層を有する場合、当該他の層の表面が防眩フィルムの凹凸表面となっていればよい。
防眩フィルムの好ましい実施形態は、透明基材上に防眩層を有し、防眩層の透明基材とは反対側の表面が防眩フィルムの凹凸表面であるものである。
【0014】
<透明基材>
防眩フィルムは、防眩フィルムの製造の容易性、及び、防眩フィルムの取り扱い性の観点から、透明基材を有することが好ましい。
【0015】
透明基材としては、光透過性、平滑性、耐熱性を備え、機械的強度に優れたものであることが好ましい。このような透明基材としては、ポリエステル、トリアセチルセルロース(TAC)、セルロースジアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリウレタン及び非晶質オレフィン(Cyclo-Olefin-Polymer:COP)等のプラスチックフィルムが挙げられる。透明基材は、2枚以上のプラスチックフィルムを貼り合わせたものであってもよい。
上記の中でも、機械的強度及び寸法安定性の観点からは、延伸加工、特に二軸延伸加工されたポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)が好ましい。TAC、アクリルは光透過性及び光学的等方性の観点で好適である。また、COP、ポリエステルは耐候性に優れる点で好適である。
【0016】
透明基材の厚みは、5~300μmであることが好ましく、20~200μmであることがより好ましく、30~120μmであることがさらに好ましい。
防眩フィルムを薄膜化したい場合は、透明基材の厚さの好ましい上限は60μmであり、より好ましい上限は50μmである。また、透明基材がポリエステル、COP、アクリル等の低透湿性基材の場合には、薄膜化のための透明基材の厚さの好ましい上限は40μmであり、より好ましい上限は20μmである。大画面の場合であっても、透明基材の厚みの上限が前述した範囲であれば、歪みを生じにくくさせることができる点でも好適である。
透明基材の厚みは、デジマチック標準外側マイクロメーター(ミツトヨ社、品番「MDC-25SX」)などで測定できる。透明基材の厚みは、任意の10点を測定した平均値が上記数値であればよい。
【0017】
透明基材の表面には、接着性向上のために、コロナ放電処理等の物理的な処理や化学的な処理を施したり、易接着層を形成してもよい。
【0018】
<凹凸表面>
防眩フィルムは凹凸表面を有し、該凹凸表面は、Saが0.30μm以上であり、Smpが10.00μm以下であることを要する。防眩層上に他の層を有さない場合は、防眩層の表面が当該凹凸表面の条件を満たせばよい。なお、防眩層上に他の層を有する場合には、当該他の層の表面が当該凹凸表面の条件を満たせばよい。
【0019】
《Sa、Smp》
Saが0.30μm以上であり、Smpが10.00μm以下である凹凸表面は、標高の高い山が狭い間隔で存在していることを示している。このように、標高の高い山が狭い間隔で存在している場合、主に下記(z1)~(z5)の理由により、優れた防眩性を示すとともに、反射散乱光を抑制することができると考えられる。
【0020】
(z1)隣接する山の距離が近いため、任意の山の表面で反射した反射光の多くは、隣接する山に入射する。そして、隣接する山の内部で全反射を繰り返して、最終的に、観測者200とは反対側に進行する(図2の実線のイメージ)。
(z2)任意の山の急斜面に入射した光の反射光は、隣接する山に関わらず、観測者200とは反対側に進行する(図2の破線のイメージ)。
(z3)隣接する山の距離が近いため、正反射光を生じる略平坦な領域が少ない。
(z4)少ない割合で存在する略平坦な領域で反射した反射光は、隣接する山にぶつかりやすい。このため、略平坦な領域で反射した反射光の角度分布は、所定の角度に偏らず、略均等な角度分布となる。
(z5)任意の山の緩い斜面に入射した光の反射光は、観測者200側に進行する(図2の一点鎖線のイメージ)。山の緩い斜面の角度分布は均等であるため、当該反射光の角度分布も特定の角度に偏らずに均等となる。
【0021】
まず、上記(z1)~(z3)より、反射散乱光を抑制でき、ひいては所定のレベルで防眩性を良好にし得ると考えられる。
さらに、上記(z4)及び(z5)より、微量な反射散乱光が生じたとしても、当該反射散乱光の角度分布を均等にすることができる。反射散乱光が微量であっても、当該反射散乱光の角度分布が特定の角度に偏っていると、反射光として認識されてしまう。このため、上記(z4)及び(z5)より、防眩性を極めて良好にすることができる。
また、上記(z1)~(z5)より、観測者に反射散乱光をほとんど感じなくすることができるため、防眩フィルムに漆黒感を付与することができ、ひいては画像表示装置に高級感を付与することができる。
【0022】
Saは、上述した効果(防眩性、反射散乱光の抑制、漆黒感)をより発揮しやすくする観点から、0.40μm以上であることが好ましく、0.50μm以上であることがより好ましく、0.55μm以上であることがさらに好ましい。
Saが大きくなりすぎると、映像の解像度が低下する傾向がある。また、Saが大きくなりすぎると、凹凸表面とは反対側から入射した光(主として映像光)の中で、凹凸表面で全反射する光の割合が増加し、透過率が低下する傾向がある。このため、Saは1.00μm以下であることが好ましく、0.80μm以下であることがより好ましく、0.70μm以下であることがさらに好ましい。
【0023】
なお、本明細書で示す構成要件において、数値の上限の選択肢及び下限の選択肢がそれぞれ複数示されている場合には、上限の選択肢から選ばれる一つと、下限の選択肢から選ばれる一つとを組み合わせ、数値範囲の実施形態とすることができる。例えば、Saの場合、0.30μm以上、0.30~1.00μm、0.30~0.80μm、0.40~1.00μm、0.40~0.80μm、0.50~1.00μm、0.50~0.70μm、0.55~1.00μm、0.50~0.70μm等の数値範囲の実施形態が挙げられる。
【0024】
本明細書において、Sa、Smp及びSsk等の表面形状に関する数値、並びに光学物性(ヘイズ、全光線透過率等)は、16箇所の測定値の平均値を意味する。
本明細書において、16の測定箇所は、測定サンプルの外縁から1cmの領域を余白として、該余白よりも内側の領域に関して、縦方向及び横方向を5等分する線を引いた際の、交点の16箇所を測定の中心とすることが好ましい。例えば、測定サンプルが四角形の場合、四角形の外縁から1cmの領域を余白として、該余白よりも内側の領域を縦方向及び横方向に5等分した点線の交点の16箇所を中心として測定を行い、その平均値でパラメータを算出することが好ましい。なお、測定サンプルが円形、楕円形、三角形、五角形等の四角形以外の形状の場合、これら形状に内接する四角形を描き、該四角形に関して、上記手法により16箇所の測定を行うことが好ましい。
【0025】
また、本明細書において、Sa、Smp及びSsk等の表面形状に関する数値、並びに光学物性(ヘイズ、全光線透過率等)等の各種のパラメータは、特に断りのない限り、温度23±5℃、湿度40~65%で測定したものとする。また、各測定の開始前に、対象サンプルを前記雰囲気に30分以上晒してから測定を行うものとする。
【0026】
Saのバラツキ(標準偏差σ)は、上述した効果(防眩性、反射散乱光の抑制、漆黒感)の面内での均等性の観点から、0.090μm以下であることが好ましく、0.070μm以下であることがより好ましく、0.050μm以下であることがさらに好ましい。
なお、Saのバラツキの下限は特に限定されないが、通常は0.010μm以上であり、好ましくは0.020μm以上である。
本明細書において、各種のパラメータのバラツキ(標準偏差σ)は、上述した16箇所の測定値のバラツキを意味する。
【0027】
Smpは、上述した効果(防眩性、反射散乱光の抑制、漆黒感)をより発揮しやすくする観点から、8.00μm以下であることが好ましく、6.00μm以下であることがより好ましく、4.50μm以下であることがさらに好ましく、3.50μm以下であることがよりさらに好ましい。
Smpが小さくなりすぎると、隣接する山の下部が重なり、角度の大きな斜面が消失し、上記(z2)の作用が低下する可能性がある。このため、Smpは1.00μm以上であることが好ましく、1.50μm以上であることがより好ましく、2.00μm以上であることがさらに好ましい。
【0028】
Smpのバラツキ(標準偏差σ)は、上述した効果(防眩性、反射散乱光の抑制、漆黒感)の面内での均等性の観点から、3.00μm以下であることが好ましく、2.00μm以下であることがより好ましく、1.00μm以下であることがさらに好ましく、0.50μm以下であることがよりさらに好ましい。
なお、Smpのバラツキが小さすぎると、表示素子の画素との組み合わせでモアレを生じる可能性がある。このため、Smpのバラツキは0.05μm以上であることが好ましく、0.10μm以上であることがより好ましく、0.15μm以上であることがさらに好ましい。
【0029】
本発明の防眩フィルムは、Sa/Smpが0.05以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、0.13以上であることがさらに好ましい。Sa/Smpを0.05以上とすることにより、防眩フィルムの凹凸表面において、標高の高い山が狭い間隔で存在する傾向をより高めることができ、上述した効果(防眩性、反射散乱光の抑制、漆黒感)をより発揮しやすくすることができる。
Sa/Smpが大きくなりすぎると、上述したSaが大きすぎる場合の作用、及び、上述したSmpが小さすぎる場合の作用が生じる可能性がある。このため、Sa/Smpは0.50以下であることが好ましく、0.40以下であることがより好ましく、0.25以下であることがさらに好ましい。
【0030】
《Sz/Sa》
本発明の防眩フィルムは、凹凸表面の三次元十点平均粗さSzと、Saとの比(Sz/Sa)が5.0以上であることが好ましく、5.5以上であることがより好ましく、6.0以上であることがさらに好ましい。Sz/Saを5.0以上とすることにより、凹凸表面に一定のランダム性が付与され、凹凸表面に傷等の欠陥が生じた場合に目立ちにくくすることができる。
なお、Sz/Saが大きすぎると、凹凸表面に特異的な箇所が存在することによって、ギラツキ(映像光に微細な輝度のばらつきが見える現象)が生じたり、局所的に漆黒感が低下したりする可能性がある。このため、Sz/Saは、10.0以下であることが好ましく、8.0以下であることがより好ましく、7.5以下であることがさらに好ましい。
【0031】
《Ssk》
本発明の防眩フィルムは、凹凸表面の三次元スキューネスSskが0.60以下であることが好ましく、0.20以下であることがより好ましく、0以下であることがさらに好ましい。Sskが小さいことは、凹凸表面には標高の低い箇所の割合が少ないことを意味する。このため、Sskを0.60以下とすることにより、上記(z3)及び(z4)の作用が生じやすくなり、上述した効果(防眩性、反射散乱光の抑制、漆黒感)をより発揮しやすくすることができる。
Sskが小さくなりすぎると、上記(z5)の作用により反射散乱光が増加する傾向がある。また、Sskが小さくなりすぎると、隣接する山の下部が重なり、角度の大きな斜面が消失し、上記(z2)の作用が低下する可能性がある。このため、Sskは-1.00以上であることが好ましく、-0.80以上であることがより好ましく、-0.70以上であることがさらに好ましい。
【0032】
Sskは、測定面全体の標高の平均値を基準として、標高の分布のプラス方向及びマイナス方向への偏りの度合いを示す指標である。標高の分布が正規分布の場合、Sskは0を示す。標高の分布がマイナス方向に偏ると、Sskはプラスの値を示し、マイナス方向への偏りの度合いが大きくなるほど、Sskの値はプラス方向に大きくなる。一方、標高の分布がプラス方向に偏ると、Sskはマイナスの値を示し、プラス方向への偏りの度合いが大きくなるほど、Sskの値はマイナス方向に大きくなる。
【0033】
《傾斜角》
防眩フィルムの凹凸表面は、所定の傾斜角分布を有することが好ましい。
具体的には、防眩フィルムの凹凸表面の傾斜角に関して、0度超1度未満の傾斜角をθ1、1度以上3度未満の傾斜角をθ2、3度以上10度未満の傾斜角をθ3、10度以上90度未満の傾斜角をθ4と定義する。そして、θ1、θ2、θ3及びθ4の合計を100%とした際に、θ1、θ2、θ3及びθ4の割合が下記の範囲であることが好ましい。θ1、θ2、θ3及びθ4が下記の範囲であることにより、上記(z1)~(z5)の作用を生じやすくできるとともに、解像度の低下を抑制しやすくできる。
θ1≦3.0%
0.5%≦θ2≦15.0%
7.0%≦θ3≦40.0%
50.0%≦θ4≦90.0%
【0034】
θ1の割合は、2.0%以下であることがより好ましく、1.5%以下であることがさらに好ましく、1.2%以下であることがよりさらに好ましい。θ1の割合の下限は特に限定されないが、通常0.1%以上である。
θ2の割合は、12.0%以下であることがより好ましく、10.0%以下であることがさらに好ましく、8.0%以下であることがよりさらに好ましい。θ2の割合の下限は1.0%以上であることがより好ましく、1.5%以上であることがさらに好ましく2.0%以上であることがよりさらに好ましい。
θ3の割合は、8.5%以上であることがより好ましく、10.0%以上であることがさらに好ましく12.0%以上であることがよりさらに好ましい。また、θ3の割合は、35.0%以下であることがより好ましく、32.0%以下であることがさらに好ましく、30.0%以下であることがよりさらに好ましい。
θ4の割合は、55.0%以上であることがより好ましく、57.5%以上であることがさらに好ましく60.0%以上であることがよりさらに好ましい。また、θ4の割合は、88.0%以下であることがより好ましく、86.5%以下であることがさらに好ましく、85.0%以下であることがよりさらに好ましい。
【0035】
本明細書において、三次元算術平均粗さSaはJIS B0601:1994に記載されている2次元粗さパラメータであるRaを3次元に拡張したものであり、基準面に直交座標軸X、Y軸を置き、粗さ曲面をZ(x,y)、基準面の大きさをLx、Lyとすると、下記式(i)で算出される。なお、式(i)中、A=Lx×Lyである。
【0036】
【数1】
【0037】
本明細書において、三次元平均山間隔Smpは次のように求める。3次元粗さ曲面から基準面より高い部分で一つの領域で囲まれた部分を一つの山としたきの山の個数をPsとし、測定領域全体(基準面)の面積をAとすると、Smpは下記式(ii)で算出される。
【0038】
【数2】
【0039】
本明細書において、三次元十点平均粗さSzは、JIS B0601:1994に記載されている2次元粗さパラメータである十点平均粗さRzを3次元に拡張したものである。
基準面上に基準面の中心を通る直線を、全域を網羅するように360度放射状に多数置き、3次元粗さ曲面から各直線に基づいて切断した断面曲線を得て、該断面曲線における十点平均粗さ(最高の山頂から高い順に5番目までの山高さの平均と最深の谷底から深い順に5番目までの谷深さの平均との和)を求める。そのようにして得られた多数の十点平均粗さのうち、上位50%を平均することにより、Szが算出される。
【0040】
本明細書において、三次元スキューネスSskは、JIS B0601:1994に記載されている2次元粗さパラメータの粗さ曲線のスキューネスRskを3次元に拡張したものであり、基準面に直交座標軸X、Y軸を置き、測定された表面形状曲線をz=f(x,y)、基準面の大きさをLx、Lyとすると、下記式(iii)で算出されるものである。式(iii)において、「Sq」は下記式(iv)で定義される表面高さ分布の二乗平均平方根偏差である。
【0041】
【数3】
【0042】
【数4】
【0043】
本明細書において、凹凸表面の傾斜角度分布は三次元粗さ曲面から算出できる。三次元粗さ曲面のデータは基準面(横方向をx軸、縦方向をy軸とする)において間隔dで格子状に配置した点と、その点の位置における高さで表される。x軸方向にi番目、y軸方向にj番目の点の位置(以降(i,j)と表記する)における高さをZi,jとすると、任意の位置(i,j)において、x軸に対するx軸方向の傾きSx、y軸に対するy軸方向の傾きSyは、以下のように算出される。
Sx=(Zi+1,j-Zi-1,j)/2d
Sy=(Zi,j+1-Zi,j-1)/2d
さらに、(i,j)における基準面に対する傾きStは、下記式(v)として算出される。
【0044】
【数5】
【0045】
そして(i,j)における傾斜角度はtan-1(St)と算出される。各点につき上記の計算を行うことにより、三次元粗さ曲面の傾斜角度分布を算出することができる。
【0046】
上記Sa、Smp、Sz、Ssk及び傾斜角分布は、干渉顕微鏡を用いて測定することが好ましい。このような干渉顕微鏡としては、Zygo社の「New View」シリーズ等が挙げられる。また、前述の干渉顕微鏡「New View」シリーズに付属の測定・解析アプリケーションソフト「MetroPro」を用いることにより、Sa、Smp、Sz、Ssk及び傾斜角分布を簡易に算出することができる。
【0047】
《標高の振幅スペクトル》
本発明の防眩フィルムは、凹凸表面の標高の振幅スペクトルが所定の条件を満たすことが好ましい。
凹凸表面の標高の振幅スペクトルに関して、空間周波数がそれぞれ0.005μm-1、0.010μm-1、0.015μm-1に対応する振幅の合計をAM1、空間周波数0.300μm-1における振幅をAM2と定義する。
上記の前提において、AM1は0.070~0.400μmであることが好ましい。また、AM2は0.0050μm以上であることが好ましい。また、AM2<AM1であることが好ましい。
また、上記の前提において、AM1が0.070~0.400μmであり、AM2が0.0050μm以上であり、かつ、AM2<AM1であることがより好ましい。
【0048】
上記のように、AM1は、3つの空間周波数の振幅の合計であり、下記の式で表される。
AM1=空間周波数0.005μm-1における振幅+空間周波数0.010μm-1における振幅+空間周波数0.015μm-1における振幅
なお、空間周波数は一辺の長さに依存した離散的な値になるため、0.005μm-1、0.010μm-1、0.015μm-1、及び0.300μm-1に一致した空間周波数が得られない場合がある。前記値に一致する空間周波数がない場合は、前記値に最も値が近い空間周波数の振幅を抽出すればよい。
【0049】
本明細書において、「凹凸表面の標高」とは、凹凸表面上の任意の点Pと、凹凸表面の平均高さにおいて当該高さを有する仮想的な平面M(標高は基準として0μm)との、防眩フィルムの法線Vの方向(上記仮想的な平面Mにおける法線方向)における直線距離を意味する(図4参照)。任意の点Pの標高が平均高さよりも高い場合には、標高はプラスとなり、任意の点Pの標高が平均高さよりも低い場合には、標高はマイナスとなる。
また、本明細書において、「標高」を含む文言は、特に断りがない限り、上記平均高さを基準とした標高を意味するものとする。
【0050】
空間周波数及び振幅は、凹凸表面の三次元座標データをフーリエ変換して得ることができる。凹凸表面の三次元座標データからの空間周波数及び振幅を算出する手法の詳細は後述する。
【0051】
《AM1、AM2》
凹凸表面の標高の振幅スペクトルに関して、空間周波数は「凸部と凸部との間隔の逆数」、振幅は「所定の間隔を備えた凸部の標高の変化量」に概ね相関するといえる。なお、空間周波数0.005μm-1は、間隔が200μm程度であることを示し、空間周波数0.010μm-1は、間隔が100μm程度であることを示し、空間周波数0.015μm-1は、間隔が67μm程度であることを示し、空間周波数0.300μm-1は、間隔が3μm程度であることを示している。また、「所定の間隔を備えた凸部の標高の変化量」は、概ね、所定の間隔を備えた凸部の個々の高さの絶対値に比例するといえる。
よって、AM1が0.070~0.400μmであり、AM2が0.0050μm以上であり、かつ、AM2<AM1である凹凸表面は、下記のi及びiiの凸部群を備えることが間接的に規定されているといえる。
<iの凸部群>
複数の凸部iが間隔67~200μm程度に配置され、凸部iの高さの絶対値が所定の範囲であるもの。
<iiの凸部群>
複数の凸部iiが間隔3μm程度に配置され、凸部iiの高さの絶対値が所定値以上かつiの凸部の高さの絶対値未満のもの。
【0052】
上記のi及びiiの凸部群を備えた凹凸表面は、まず、上記のiの凸部群により、上述した(z1)~(z5)の作用を奏すると考えられる。さらに、上記のi及びiiの凸部群を備えた凹凸表面は、隣接する山の間の略平坦な領域に、上記のiiの凸部群による凸部を形成できるため、略平坦な領域で反射した反射光に占める正反射光の割合を軽減することができる。このため、上記のi及びiiの凸部群を備えた凹凸表面は、防眩性、反射散乱光の抑制、漆黒感を良好にしやすいと考えられる。
【0053】
AM1は、上述した効果を発揮しやすくするため、0.090~0.390μmであることが好ましく、0.130~0.380μmであることがより好ましく、0.150~0.370μmであることがさらに好ましい。
AMが小さすぎると、特に防眩性が不足しやすい。
一方、AM1が大きくなりすぎると、映像の解像度が低下する傾向がある。また、AM1が大きくなりすぎると、凹凸表面とは反対側から入射した光(主として映像光)の中で、凹凸表面で全反射する光の割合が増加し、透過率が低下する傾向がある。また、AM1が大きくなりすぎると、高さの絶対値の大きい凸部が増加し、観測者側に反射する光の割合が増加し、反射散乱光が目立ちやすくなる場合がある。よって、AM1を大きくし過ぎないことは、解像度及び透過率の低下を抑制する観点、及び反射散乱光をより抑制する観点からも好適である。
【0054】
AM2は、上述した効果を発揮しやすくするため、0.0055~0.0550μmであることが好ましく、0.0060~0.0500μmであることがより好ましく、0.0070~0.0450μmであることがさらに好ましく、0.0080~0.0400μmであることがよりさらに好ましい。
なお、AM2が大きくなりすぎると、映像の解像度が低下する傾向がある。よって、AM2を大きくし過ぎないことは、解像度の低下を抑制する観点からも好適である。
【0055】
本実施形態では、AM1を、3つの空間周波数の振幅の合計としている。すなわち、AM1では、凸部の間隔として、3つの間隔を考慮している。本実施形態では、AM1において複数の間隔を考慮しているため、凸部の間隔が揃うことによる反射光の増加を抑制しやすくできる。
【0056】
本実施形態では、空間周波数がそれぞれ0.005μm-1、0.010μm-1、0.015μm-1に対応する振幅の平均をAM1aveと定義した際に、AM1aveが0.023~0.133μmであることが好ましく、0.030~0.130μmであることがより好ましく、0.043~0.127μmであることがさらに好ましく、0.050~0.123μmであることがよりさらに好ましい。AM1aveは、下記式で表すことができる。
AM1ave=(空間周波数0.005μm-1における振幅+空間周波数0.010μm-1における振幅+空間周波数0.015μm-1における振幅)/3
【0057】
本実施形態では、空間周波数0.005μm-1に対応する振幅をAM1-1、空間周波数0.010μm-1に対応する振幅をAM1-2、空間周波数0.015μm-1に対応する振幅をAM1-3と定義した際に、AM1-1、AM1-2、AM1-3が下記の範囲であることが好ましい。AM1-1、AM1-2、AM1-3を下記の範囲とすることにより、凸部の間隔が揃うことが抑制されやすくなるため、反射光の増加を抑制しやすくできる。
AM1-1は、0.020~0.150μmであることが好ましく、0.030~0.140μmであることがより好ましく、0.040~0.130μmであることがさらに好ましく、0.050~0.120μmであることがよりさらに好ましい。
AM1-2は、0.020~0.145μmであることが好ましく、0.030~0.135μmであることがより好ましく、0.040~0.125μmであることがさらに好ましく、0.050~0.120μmであることがよりさらに好ましい。
AM1-3は、0.020~0.145μmであることが好ましく、0.030~0.135μmであることがより好ましく、0.040~0.125μmであることがさらに好ましく、0.050~0.120μmであることがよりさらに好ましい。
【0058】
本発明の防眩フィルムは、周期の異なる凸部のバランスを良好にして、上記(z1)~(z5)の作用を生じやすくする観点から、AM1/AM2が1.0~60.0であることが好ましく、2.0~50.0であることがより好ましく、3.0~40.0であることがさらに好ましく、4.0~30.0であることがよりさらに好ましい。
【0059】
-AM1及びAM2の算出手法-
本明細書において、AM1は、凹凸表面の標高の振幅スペクトルに関して、空間周波数がそれぞれ0.005μm-1、0.010μm-1、0.015μm-1に対応する振幅の合計を意味し、AM2は、前記振幅スペクトルに関して、空間周波数0.300μm-1における振幅を意味する。以下、AM1及びAM2の算出手法を説明する。
【0060】
まず、上述したように、本明細書において、「凹凸表面の標高」とは、凹凸表面上の任意の点Pと、凹凸表面の平均高さにおいて当該高さを有する仮想的な平面M(標高は基準として0μm)との、防眩フィルムの法線Vの方向(上記仮想的な平面Mにおける法線方向)における直線距離を意味する(図4参照)。
【0061】
防眩フィルムの凹凸表面内の直交座標を(x,y)で表示すると、防眩フィルムの凹凸表面の標高は、座標(x,y)の二次元関数h(x,y)と表すことができる。
【0062】
凹凸表面の標高は、干渉顕微鏡を用いて測定することが好ましい。干渉顕微鏡としては、Zygo社の「New View」シリーズ等が挙げられる。
測定機に要求される水平分解能は、少なくとも5μm以下、好ましくは1μm以下であり、また垂直分解能は、少なくとも0.01μm以下、好ましくは0.001μm以下である。
標高の測定面積は、空間周波数の分解能が0.0050μm-1であることを考慮すると、少なくとも200μm×200μm以上とするのが好ましい。
【0063】
次に、二次元関数h(x,y)より標高の振幅スペクトルを求める方法について説明する。まず、二次元関数h(x,y)より、下記式(1a)及び(1b)で定義されるフーリエ変換によってx方向の振幅スペクトルHx(fx)、およびy方向の振幅スペクトルHy(fy)を求める。
【0064】
【数6】
【0065】
ここでfx及びfyはそれぞれx方向およびy方向の周波数であり、長さの逆数の次元を持つ。また、式(1a)及び(1b)中のπは円周率、iは虚数単位である。得られたx方向の振幅スペクトルHx(fx)、およびy方向の振幅スペクトルHy(fy)を平均することによって、振幅スペクトルH(f)を求めることができる。この振幅スペクトルH(f)は防眩フィルムの凹凸表面の空間周波数分布を表している。
【0066】
以下、防眩フィルムの凹凸表面の標高の振幅スペクトルH(f)を求める方法をさらに具体的に説明する。上記の干渉顕微鏡によって実際に測定される表面形状の三次元情報は、一般的に離散的な値、すなわち、多数の測定点に対応する標高として得られる。
図5は、標高を表す関数h(x,y)が離散的に得られる状態を示す模式図である。図5に示すように、防眩層の面内の直交座標を(x,y)で表示し、投影面Sp上にx軸方向にΔx毎に分割した線およびy軸方向にΔy毎に分割した線を破線で示すと、実際の測定では凹凸表面の標高は投影面Sp上の各破線の交点毎の離散的な標高値として得られる。
【0067】
得られる標高値の数は測定範囲と、Δx及びΔyによって決まる。図5に示すように、x軸方向の測定範囲をX=(M-1)Δxとし、y軸方向の測定範囲をY=(N-1)Δyとすると、得られる標高値の数はM×N個である。
【0068】
図5に示すように、投影面Sp上の着目点Aの座標を(jΔx,kΔy)(ここでjは0以上M-1以下であり、kは0以上N-1以下である。)とすると、着目点Aに対応する凹凸表面上の点Pの標高は、h(jΔx,kΔy)と表すことができる。
【0069】
ここで、測定間隔ΔxおよびΔyは測定機器の水平分解能に依存し、精度良く微細凹凸表面を評価するためには、上述したとおりΔxおよびΔyともに5μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。また、測定範囲XおよびYは上述したとおり、ともに200μm以上が好ましい。
【0070】
このように実際の測定では、凹凸表面の標高を表す関数は、M×N個の値を持つ離散関数h(x,y)として得られる。測定によって得られた離散関数h(x,y)をx方向、y方向それぞれに、下記式(2a)、(2b)で定義される離散フーリエ変換することによってN個の離散関数Hx(fx)、M個の離散関数Hy(fy)が求まり、下記式(2c)により、それらの絶対値(=振幅)を求めた上で全てを平均することによって振幅スペクトルH(f)が求められる。なお、本明細書においてはM=NかつΔx=Δyである。下記式(2a)~(2c)において、「l」は-M/2以上M/2以下の整数であり、「m」は-N/2以上N/2以下の整数である。また、ΔfxおよびΔfyはそれぞれx方向およびy方向の周波数間隔であり、下記の式(3)及び式(4)で定義される。
【0071】
【数7】
【0072】
【数8】
【0073】
【数9】
【0074】
上記のように算出した振幅スペクトルの離散関数H(f)は、防眩フィルムの凹凸表面の空間周波数分布を表している。図6、7に、実施例1及び比較例1の凹凸表面の標高の振幅スペクトルの離散関数H(f)を示す。図中、横軸は空間周波数(単位は「μm-1」)、縦軸は振幅((単位は「μm」)を示す。
【0075】
<防眩層>
防眩層は、反射散乱光の抑制、及び防眩性の中心を担う層である。
【0076】
《防眩層の形成手法》
防眩層は、例えば、(A)エンボスロールを用いた方法、(B)エッチング処理、(C)型による成型、(D)塗布による塗膜の形成等により形成できる。これら方法の中では、安定した表面形状を得やすくする観点からは(C)の型による成型が好適であり、生産性及び多品種対応の観点からは(D)の塗布による塗膜の形成が好適である。
塗布により塗膜(防眩層)を形成する場合、例えば、バインダー樹脂及び粒子を含む塗布液を塗布して、粒子により凹凸を形成する手段(d1)、任意の樹脂と、前記樹脂と相溶性の悪い樹脂を含む塗布液を塗布して、樹脂を相分離させて凹凸を形成する手段(d2)が挙げられる。(d1)は、(d2)よりもSa及びSmp等の表面形状のバラツキを抑制しやすい点で好ましい。また、(d1)は、(d2)よりもAM1とAM2とのバランスを良好にしやすい点で好ましい。
【0077】
《厚み》
防眩層の厚みTは、カール抑制、機械的強度、硬度及び靭性とのバランスの観点から、2~10μmであることが好ましく、4~8μmであることがより好ましい。
防眩層の厚みは、例えば、走査型透過電子顕微鏡(STEM)による防眩フィルムの断面写真の任意の箇所を20点選び、その平均値により算出できる。STEMの加速電圧は10kv~30kV、STEMの倍率は1000~7000倍とすることが好ましい。
【0078】
《成分》
防眩層は、主として樹脂成分を含み、必要に応じて、有機粒子及び無機微粒子等の粒子、屈折率調整剤、帯電防止剤、防汚剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、粘度調整剤及び熱重合開始剤等の添加剤を含む。
防眩層は、バインダー樹脂及び粒子を含むことが好ましい。粒子は有機粒子及び無機粒子が挙げられ、有機粒子が好ましい。すなわち、防眩層は、バインダー樹脂及び有機粒子を含むことがより好ましい。
【0079】
―粒子―
有機粒子としては、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリル-スチレン共重合体、メラミン樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ベンゾグアナミン-メラミン-ホルムアルデヒド縮合物、シリコーン、フッ素系樹脂及びポリエステル系樹脂等からなる粒子が挙げられる。無機粒子としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア及びチタニア等が挙げられ、シリカが好ましい。
有機粒子は、比重が軽いため、後述する無機微粒子と併用することによって防眩層の表面付近に有機粒子が浮かび上がりやすくなり、Sa、Smp及びSsk等の表面形状を上述した範囲としやすくできる点で好ましい。また、有機粒子と無機微粒子とを併用することによって、有機粒子が周期の長い凹凸を形成し、無機微粒子が周期の短い凹凸を形成しやすくなり、AM1及びAM2を上述した範囲としやすくできる。
また、粒子として有機粒子のみを用いる場合、Sa及びSmp等の表面形状を上述した範囲としやすくするためには、防眩層中の有機粒子の含有割合を高くすることが好ましい。防眩層中の有機粒子の含有割合を高くすることにより、有機粒子が一面に敷き詰められたような形状となってSmpを小さくしやすくなり、さらに、当該形状の中に有機粒子が段積みされた形状が部分的に形成されることによってSaを大きくしやすくできる。また、有機粒子の含有割合を高くすることにより、有機粒子が一面に敷き詰められたような形状となって有機粒子による周期の短い凹凸(AM2)を形成し、さらに、有機粒子が一面に敷き詰められたような形状の中に有機粒子が段積みされた形状が部分的に形成されることによって周期の長い凹凸(AM1)を形成することができる。
【0080】
有機粒子及び無機粒子等の粒子の平均粒子径Dは、1.0~5.0μmであることが好ましく、1.5~3.5μmであることがより好ましく、1.7~2.5μmであることがさらに好ましい。
平均粒子径Dを1.0μm以上とすることにより、Saを0.30μm以上にしやすくできるとともに、AM1が小さくなりすぎることを抑制しやすくできる。また、平均粒子径Dを5.0μm以下とすることにより、Smpを10.00μm以下にしやすくできるとともに、AM1が大きくなりすぎることを抑制しやすくできる。
【0081】
有機粒子及び無機粒子等の粒子の平均粒子径は、以下の(A1)~(A3)の作業により算出できる。
(A1)防眩フィルムを光学顕微鏡にて透過観察画像を撮像する。倍率は500~2000倍が好ましい。
(A2)観察画像から任意の10個の粒子を抽出し、個々の粒子の粒子径を算出する。粒子径は、粒子の断面を任意の平行な2本の直線で挟んだとき、該2本の直線間距離が最大となるような2本の直線の組み合わせにおける直線間距離として測定される。
(A3)同じサンプルの別画面の観察画像において同様の作業を5回行って、合計50個分の粒子径の数平均から得られる値を粒子の平均粒子径とする。
【0082】
防眩層の厚みTと、粒子の平均粒子径Dとの比(D/T)は、0.20~0.96であることが好ましく、0.25~0.90であることがより好ましく、0.30~0.80であることがさらに好ましく、0.35~0.70であることがよりさらに好ましい。D/Tを前記範囲とすることにより、凹凸表面の山の高さ及び山の間隔を適切な範囲にしやすくなり、Sa及びSmp等の表面形状を上述した範囲としやすくできる。また、D/Tを前記範囲とすることにより、AM1及びAM2を上述した範囲としやすくできる。
【0083】
有機粒子及び無機粒子等の粒子の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、40~200質量部であることが好ましく、55~170質量部であることがより好ましく、60~150質量部であることがさらに好ましい。
粒子の含有量を40質量部以上とすることにより、Saを0.30μm以上、Smpを10.00μm以下、Sskを0.40以下にしやすくできる。また、粒子の含有量を40質量部以上とすることにより、AM1が小さくなりすぎることを抑制しやすくできる。
粒子の含有量を200質量部以下とすることにより、防眩層からの粒子の脱落を抑制しやすくできる。
なお、後述する無機微粒子を用いない場合、上述した「段積み」を発現しやすくするため、粒子の含有量は、上記範囲において比較的多い量とすることが好ましい。
【0084】
―無機微粒子―
防眩層は、バインダー樹脂及び粒子に加えて、さらに無機微粒子を含むことが好ましい。特に、防眩層は、バインダー樹脂及び有機粒子に加えて、さらに無機微粒子を含むことが好ましい。
防眩層が無機微粒子を含むことにより、相対的に比重の軽い有機粒子が防眩層の表面付近に浮かび上がりやすくなり、Sa、Smp及びSsk等の表面形状を上述した範囲としやすくできる。さらに、防眩層が無機微粒子を含むことにより、凹凸表面の山と山との間に微細な凹凸が形成され、正反射光を低減しやすくできる。さらに、防眩層が無機微粒子を含むことにより、凹凸表面の山と山との間に微細な凹凸が形成され、AM1及びAM2を上述した範囲にしやすくできる。
また、防眩層が無機微粒子を含むことにより、有機粒子の屈折率と、防眩層の有機粒子以外の組成物の屈折率差との差が小さくなり、内部ヘイズを小さくしやすくできる。
【0085】
無機微粒子としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア及びチタニア等からなる微粒子が挙げられる。これらの中でも、内部ヘイズの発生を抑制しやすいシリカが好適である。
【0086】
無機微粒子の平均粒子径は、1~200nmであることが好ましく、2~100nmであることがより好ましく、5~50nmであることがさらに好ましい。
【0087】
無機微粒子の平均粒子径は、以下の(B1)~(B3)の作業により算出できる。
(B1)防眩フィルムの断面をTEM又はSTEMで撮像する。TEM又はSTEMの加速電圧は10kv~30kV、倍率は5万~30万倍とすることが好ましい。
(B2)観察画像から任意の10個の無機微粒子を抽出し、個々の無機微粒子の粒子径を算出する。粒子径は、無機微粒子の断面を任意の平行な2本の直線で挟んだとき、該2本の直線間距離が最大となるような2本の直線の組み合わせにおける直線間距離として測定される。
(B3)同じサンプルの別画面の観察画像において同様の作業を5回行って、合計50個分の粒子径の数平均から得られる値を無機微粒子の平均粒子径とする。
【0088】
無機微粒子の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、40~200質量部であることが好ましく、50~150質量部であることがより好ましく、60~100質量部であることがさらに好ましい。
無機微粒子の含有量を40質量部以上とすることにより、上述した無機微粒子に基づく効果を得やすくすることができる。また、無機微粒子の含有量を200質量部以下とすることにより、防眩層の塗膜強度の低下を抑制しやすくできる。
【0089】
―バインダー樹脂―
バインダー樹脂は、機械的強度をより良くする観点から、熱硬化性樹脂組成物の硬化物又は電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物等の硬化性樹脂の硬化物を含むことが好ましく、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物を含むことがより好ましい。
【0090】
熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも熱硬化性樹脂を含む組成物であり、加熱により、硬化する樹脂組成物である。
熱硬化性樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂組成物には、これら硬化性樹脂に、必要に応じて硬化剤が添加される。
【0091】
電離放射線硬化性樹脂組成物は、電離放射線硬化性官能基を有する化合物(以下、「電離放射線硬化性化合物」ともいう)を含む組成物である。電離放射線硬化性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等のエチレン性不飽和結合基、及びエポキシ基、オキセタニル基等が挙げられる。電離放射線硬化性化合物としては、エチレン性不飽和結合基を有する化合物が好ましく、エチレン性不飽和結合基を2つ以上有する化合物がより好ましく、中でも、エチレン性不飽和結合基を2つ以上有する、多官能性(メタ)アクリレート系化合物が更に好ましい。多官能性(メタ)アクリレート系化合物としては、モノマー及びオリゴマーのいずれも用いることができる。
なお、電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋し得るエネルギー量子を有するものを意味し、通常、紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線などの電磁波、α線、イオン線などの荷電粒子線も使用可能である。
【0092】
多官能性(メタ)アクリレート系化合物のうち、2官能(メタ)アクリレート系モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラエトキシジアクリレート、ビスフェノールAテトラプロポキシジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート等が挙げられる。
3官能以上の(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性トリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、上記(メタ)アクリレート系モノマーは、分子骨格の一部を変性しているものでもよく、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、カプロラクトン、イソシアヌル酸、アルキル、環状アルキル、芳香族、ビスフェノール等による変性がなされたものも使用することができる。
【0093】
また、多官能性(メタ)アクリレート系オリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等のアクリレート系重合体等が挙げられる。
ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、多価アルコール及び有機ジイソシアネートとヒドロキシ(メタ)アクリレートとの反応によって得られる。
また、好ましいエポキシ(メタ)アクリレートは、3官能以上の芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる(メタ)アクリレート、2官能以上の芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等と多塩基酸と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる(メタ)アクリレート、及び2官能以上の芳香族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等とフェノール類と(メタ)アクリル酸とを反応させて得られる(メタ)アクリレートである。
【0094】
また、防眩層塗布液の粘度を調整するなどの目的で、電離放射線硬化性化合物として、単官能(メタ)アクリレートを併用してもよい。単官能(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記電離放射線硬化性化合物は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0095】
電離放射線硬化性化合物が紫外線硬化性化合物である場合には、電離放射線硬化性組成物は、光重合開始剤や光重合促進剤等の添加剤を含むことが好ましい。
光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、α-ヒドロキシアルキルフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾイルベンゾエート、α-アシルオキシムエステル、チオキサントン類等から選ばれる1種以上が挙げられる。
光重合促進剤は、硬化時の空気による重合阻害を軽減させ硬化速度を速めることができるものであり、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0096】
バインダー樹脂が電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物を含む場合、下記(C1)又は(C2)の構成であることが好ましい。
【0097】
(C1)バインダー樹脂として、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物に加えて、熱可塑性樹脂を含む。
(C2)バインダー樹脂として、実質的に電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物のみを含み、かつ、電離放射線硬化性樹脂組成物に含まれる電離放射線硬化性化合物として、実質的にモノマー成分のみを含む。
【0098】
上記C1の実施形態の場合、熱可塑性樹脂によって防眩層塗布液の粘度が上がるため、有機粒子が沈みにくくなり、さらには、山と山との間にバインダー樹脂が流れ落ちにくくなる。このため、上記C1の実施形態の場合、Sa及びSmp等の表面形状を上記範囲にしやすくできる。さらに、上記C1の実施形態の場合、AM1及びAM2が小さくなりすぎることを抑制しやすくできる。
【0099】
熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂(耐熱ABS樹脂を含む)、AS樹脂、AN樹脂、ポリフェニレンオキサイド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリブチレンテフタレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、およびポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられ、透明性の観点からアクリル系樹脂が好ましい。
【0100】
熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、2万~20万であることが好ましく、3万~15万であることがより好ましく、5万~10万であることがさらに好ましい。
本明細書において、重量平均分子量は、GPC分析によって測定され、かつ標準ポリスチレンで換算された平均分子量である。
【0101】
上記C1の実施形態において、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物と熱可塑性樹脂との質量比は、60:40~90:10であることが好ましく、70:30~80:20であることがより好ましい。
電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物90に対して熱可塑性樹脂を10以上とすることにより、上述した防眩層塗布液の粘度が上がることによる効果を発揮しやすくできる。また、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物60に対して熱可塑性樹脂を40以下とすることにより、防眩層の機械的強度が低下することを抑制しやすくできる。
【0102】
上記C2の実施形態の場合、防眩層の底部に有機粒子が敷き詰められ、かつ、一部の領域では有機粒子が段積みされた状態となり、これらの有機粒子を薄皮状のバインダー樹脂が覆ったような形状となる傾向がある。このため、上記C2の実施形態の場合、段積みされた有機粒子によってSaを上記範囲にしやすくでき、敷き詰められた有機粒子によってSmpを上記範囲にしやすくできる。また、C2の実施形態では、段積みされた有機粒子によって周期の長い凹凸(AM1)が形成され、段積みされない有機粒子による周期の短い凹凸(AM2)が周期の長い凹凸の間に形成されることになる。このため、上記C2の実施形態の場合、AM1及びAM2を上記範囲にしやすくできる。
なお、上記C2の実施形態の場合、バインダー樹脂を薄皮状にしやすくするために、上記C1の実施形態に比べて、有機粒子に対するバインダー樹脂の量を少な目にすることが好ましい。
【0103】
上記C2において、バインダー樹脂の全量に対する電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物の割合は90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。
また、上記C2において、電離放射線硬化性化合物の全量に対するモノマー成分の割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。なお、当該モノマー成分は、多官能性(メタ)アクリレート系化合物であることが好ましい。
【0104】
防眩層塗布液には、通常、粘度を調節したり、各成分を溶解または分散可能としたりするために溶剤を用いる。溶剤の種類によって、塗布、乾燥した後の防眩層の表面形状が異なるため、溶剤の飽和蒸気圧、透明基材への溶剤の浸透性等を考慮して溶剤を選定することが好ましい。
具体的には、溶剤は、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン等)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサン等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタン等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等)、アルコール類(イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール等)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、グリコールエーテル類(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート等)、セロソルブアセテート類、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)等が例示でき、これらの混合物であってもよい。
【0105】
防眩層塗布液中の溶剤は、蒸発速度が速い溶剤を主成分とすることが好ましい。溶剤の蒸発速度を速くすることにより、有機粒子が防眩層の下部に沈降することを抑制し、さらには、山と山との間にバインダー樹脂が流れ落ちにくくなる。このため、溶剤の蒸発速度を速くすることにより、Sa及びSmp等の表面形状を上記範囲にしやすくできる。また、溶剤の蒸発速度を速くすることにより、AM1及びAM2を上記範囲にしやすくできる
主成分とは、溶剤の全量の50質量%以上であることを意味し、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。
【0106】
本明細書において、蒸発速度が速い溶剤は、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした際に、蒸発速度が100以上の溶剤を意味する。蒸発速度が速い溶剤の蒸発速度は、120~300であることがより好ましく、150~220であることがさらに好ましい。
蒸発速度が速い溶剤としては、例えば、メチルイソブチルケトン(蒸発速度160)、トルエン(蒸発速度200)、メチルエチルケトン(蒸発速度370)が挙げられる。
【0107】
防眩層塗布液中の溶剤は、蒸発速度が速い溶剤に加えて、少量の蒸発速度が遅い溶剤を含むことも好ましい。蒸発速度が遅い溶剤を含むことにより、有機粒子を凝集させ、Sa及びSmp等を上記範囲にしやすくできる。また、蒸発速度が遅い溶剤を含んで有機粒子を適度に凝集させることにより、AM1及びAM2を上記範囲にしやすくできる。
蒸発速度が速い溶剤と、蒸発速度が遅い溶剤との質量比は、99:1~80:20であることが好ましく、98:2~85:15であることがより好ましい。
【0108】
本明細書において、蒸発速度が遅い溶剤は、酢酸ブチルの蒸発速度を100とした際に、蒸発速度が100未満の溶剤を意味する。蒸発速度が速い溶剤の蒸発速度は、20~60であることがより好ましく、25~40であることがさらに好ましい。
蒸発速度が遅い溶剤としては、例えば、シクロヘキサノン(蒸発速度32)、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(蒸発速度44)が挙げられる。
【0109】
また、防眩層塗布液から防眩層を形成する際には、乾燥条件を制御することが好ましい。
乾燥条件は、乾燥温度及び乾燥機内の風速により制御することができる。具体的な乾燥温度としては、30~120℃、乾燥風速では0.2~50m/sとすることが好ましい。また、乾燥により防眩層の表面形状を制御するために、電離放射線の照射は塗布液の乾燥後に行うことが好適である。
【0110】
<光学特性>
防眩フィルムは、JIS K7361-1:1997の全光線透過率が70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。
なお、全光線透過率、及び、後述するヘイズを測定する際の光入射面は、凹凸表面とは反対側とする。
【0111】
防眩フィルムは、JIS K7136:2000のヘイズが60~98%であることが好ましく、66~86%であることがより好ましく、70~80%であることがさらに好ましい。
ヘイズを60%以上とすることにより、防眩性を良好にしやすくできる。また、ヘイズを98%以下とすることにより、映像の解像度の低下を抑制しやすくできる。
【0112】
防眩フィルムは、映像の解像度及びコントラストを良好にしやすくするために、内部ヘイズが20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
内部ヘイズは汎用の手法で測定することができ、例えば、凹凸表面上に透明粘着剤層を介して透明シートを貼り合わせるなどして、凹凸表面の凹凸を潰すことにより測定することができる。
【0113】
<その他の層>
防眩フィルムは、上述した防眩層及び透明基材以外の層を有していてもよい。その他の層としては、反射防止層、防汚層及び帯電防止層等が挙げられる。
その他の層を有する好適な実施形態としては、防眩層の凹凸表面上に反射防止層を有し、反射防止層の表面が前記凹凸表面である実施形態が挙げられる。なお、前記反射防止層が防汚性を備えることがより好ましい。すなわち、防眩層上に防汚性反射防止層を有し、防汚性反射防止層の表面が前記凹凸表面である実施形態がより好ましい。
【0114】
《反射防止層》
反射防止層は、例えば、低屈折率層の単層構造;高屈折率層と低屈折率層の2層構造;3層構造以上の多層構造;が挙げられる。低屈折率層及び高屈折率層は、汎用のウェット法又はドライ法等により形成することができる。ウェット法の場合は前記単層構造又は2層構造が好ましく、ドライ法の場合は前記多層構造が好ましい。
【0115】
―単層構造又は2層構造の場合―
単層構造又は2層構造は、ウェット法により好ましく形成される。
低屈折率層は、防眩フィルムの最表面に配置することが好ましい。反射防止層に防汚性を付与する場合、低屈折率層中に、シリコーン系化合物及びフッ素系化合物等の防汚剤を含ませることが好ましい。
【0116】
低屈折率層の屈折率は、下限は、1.10以上が好ましく、1.20以上がより好ましく、1.26以上がより好ましく、1.28以上がより好ましく、1.30以上がより好ましく、上限は、1.48以下が好ましく、1.45以下がより好ましく、1.40以下がより好ましく、1.38以下がより好ましく、1.32以下がより好ましい。
【0117】
低屈折率層の厚みは、下限は、80nm以上が好ましく、85nm以上がより好ましく、90nm以上がより好ましく、上限は、150nm以下が好ましく、110nm以下がより好ましく、105nm以下がより好ましい。
【0118】
高屈折率層は、低屈折率層よりも防眩層側に配置することが好ましい。
高屈折率層の屈折率は、下限は、1.53以上が好ましく、1.54以上がより好ましく、1.55以上がより好ましく、1.56以上がより好ましく、上限は、1.85以下が好ましく、1.80以下がより好ましく、1.75以下がより好ましく、1.70以下がより好ましい。
【0119】
高屈折率層の厚みは、上限は、200nm以下が好ましく、180nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましく、下限は、50nm以上が好ましく、70nm以上がより好ましい。
【0120】
―3層構造以上の多層構造の場合―
ドライ法により好ましく形成される多層構造は、高屈折率層と低屈折率層とを交互に合計3層以上積層された構成である。多層構造においても、低屈折率層は、防眩フィルムの最表面に配置することが好ましい。
【0121】
高屈折率層は、厚みは10~200nmであることが好ましく、屈折率は2.1~2.4であることが好ましい。高屈折率層の厚みは20~70nmであることがより好ましい。
低屈折率層は、厚み5~200nmであることが好ましく、屈折率は1.33~1.53であることが好ましい。低屈折率層の厚みは20~120nmであることがより好ましい。
【0122】
<大きさ、形状等>
防眩フィルムは、所定の大きさにカットした枚葉状の形態でもよいし、長尺シートをロール状に巻き取ったロール状の形態であってもよい。また、枚葉の大きさは特に限定されないが、最大径が2~500インチ程度である。「最大径」とは、防眩フィルムの任意の2点を結んだ際の最大長さをいうものとする。例えば、防眩フィルムが長方形の場合は、該領域の対角線が最大径となる。また、防眩フィルムが円形の場合は、直径が最大径となる。
ロール状の幅及び長さは特に限定されないが、一般的には、幅は500~3000mm、長さは500~5000m程度である。ロール状の形態の防眩フィルムは、画像表示装置等の大きさに合わせて、枚葉状にカットして用いることができる。カットする際、物性が安定しないロール端部は除外することが好ましい。
また、枚葉の形状も特に限定されず、例えば、多角形(三角形、四角形、五角形等)や円形であってもよいし、ランダムな不定形であってもよい。より具体的には、防眩フィルムが四角形状である場合には、縦横比は表示画面として問題がなければ特に限定されない。例えば、横:縦=1:1、4:3、16:10、16:9、2:1等が挙げられるが、デザイン性に富む車載用途やデジタルサイネージにおいては、このような縦横比に限定されない。
【0123】
防眩フィルムの凹凸表面とは反対側の表面形状は特に限定されないが、略平滑であることが好ましい。略平滑とは、Saが0.03μm未満であることを意味し、好ましくは0.02μm以下である。
【0124】
[画像表示装置]
本発明の画像表示装置は、表示素子上に上述した本発明の防眩フィルムの前記凹凸表面側の面が前記表示素子とは反対側を向くように配置してなり、かつ前記防眩フィルムを最表面に配置してなるものである(図3参照)。
【0125】
表示素子としては、液晶表示素子、EL表示素子(有機EL表示素子、無機EL表示素子)、プラズマ表示素子等が挙げられ、さらには、マイクロLED表示素子等のLED表示素子が挙げられる。これら表示素子は、表示素子の内部にタッチパネル機能を有していてもよい。
液晶表示素子の液晶の表示方式としては、IPS方式、VA方式、マルチドメイン方式、OCB方式、STN方式、TSTN方式等が挙げられる。表示素子が液晶表示素子である場合、バックライトが必要である。バックライトは、液晶表示素子の防眩フィルムが配置されている側とは反対側に配置される。
【0126】
また、本実施形態の画像表示装置は、表示素子と防眩フィルムとの間にタッチパネルを有するタッチパネル付きの画像表示装置であってもよい。この場合、タッチパネル付きの画像表示装置の最表面に防眩フィルムを配置し、かつ、防眩フィルムの凹凸表面側の面が表示素子とは反対側を向くように配置すればよい。
【0127】
画像表示装置の大きさは特に限定されないが、有効表示領域の最大径が2~500インチ程度である。
画像表示装置の有効表示領域とは、画像を表示し得る領域である。例えば、画像表示装置が表示素子を囲う筐体を有する場合、筐体の内側の領域が有効画像領域となる。
なお、有効画像領域の最大径とは、有効画像領域内の任意の2点を結んだ際の最大長さをいうものとする。例えば、有効画像領域が長方形の場合は、該領域の対角線が最大径となる。また、有効画像領域が円形の場合は、該領域の直径が最大径となる。
【実施例0128】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準とする。
【0129】
1.測定及び評価
以下のように、実施例及び比較例の防眩フィルムの測定及び評価を行った。なお、各測定及び評価時の雰囲気は、温度23±5℃、湿度40~65%とした。また、各測定及び評価の開始前に、対象サンプルを前記雰囲気に30分以上晒してから測定及び評価を行った。結果を表1又は2に示す。
【0130】
1-1.表面形状の測定
実施例及び比較例の防眩フィルムを10cm×10cmに切断した。切断箇所は、目視でゴミや傷などの異常点がない事を確認の上、ランダムな部位から選択した。切断した防眩フィルムの透明基材側をパナック社の光学透明粘着シート(商品名:パナクリーンPD-S1、厚み25μm)を介して、縦10cm×横10cmの大きさのガラス板(厚み2.0mm)に貼り合わせたサンプル1を作製した。
白色干渉顕微鏡(New View7300、Zygo社)を用いて、計測ステージにサンプル1が固定かつ密着した状態となるようにセットしたのち、以下の測定条件1及び解析条件1にて、防眩フィルムの表面形状の測定及び解析を行った。なお、測定・解析ソフトにはMetroPro ver9.0.10(64-bit)のMicroscope Applicationを用いた。
【0131】
(測定条件1)
対物レンズ:50倍
ImageZoom:1倍
測定領域:218μm×218μm
解像度(1点当たりの間隔):0.22μm
・Instrument:NewView7000 Id 0 SN 073395
・Acquisition Mode:Scan
・Scan Type:Bipolar
・Camera Mode:992x992 48 Hz
・Subtract Sys Err:Off
・Sys Err File:SysErr.dat
・AGC:Off
・Phase Res:High
・Connection Order:Location
・Discon Action:Filter
・Min Mod(%):0.01
・Min Area Size:7
・Remove Fringes:Off
・Number of Averages:0
・FDA Noise Threshold:10
・Scan Length:15um bipolar (6 sec)
・Extended Scan Length:1000 μm
・FDA Res:High 2G
【0132】
(解析条件1)
・Removed:None
・Data Fill:On
・Data Fill Max:10000
・Filter:HighPass
・FilterType:GaussSpline
・Filter Window Size:3
・Filter Trim:Off
・Filter Low wavelength:800μm
・Min Area Size:0
・Remove spikes: On
・Spike Height(xRMS):2.5
なお、Low wavelengthは粗さパラメータにおけるカットオフ値λcに相当する。
【0133】
Surface Map画面上に「Ra」、「SRz」、「Rsk」を表示させ、それぞれの数値を各測定領域のSa、Sz、Sskとした。
次に、上記Surface Map画面中に「Save Data」ボタンを表示させ、解析後の3次元曲面粗さデータを保存した。そして、Advanced Texture Applicationにて、前記の保存データを読み込み以下の解析条件2を適用した。
(解析条件2)
・High FFT Filter:off
・Low FFT Filter:off
・Calc High Frequency:On
・Calc Low Frequency:On
・Filter Trim:On
・Remove spikes: Off
・Spike Height(xRMS):5.00
・Noise Filter Size:0
・Noise Filter Type:2 Sigma
・Fill Data:Off
・Data Fill Max:25
・Trim:0
・Trim Mode:All
・Remove:Plane
・Reference Band:0μm
・Mim Peaks/Valleys Area:0μm
・Max Peaks/Valleys Area:0μm
【0134】
次いで、「Peaks/Valleys」画面を表示させ、「Reference Band:0μm」「Mim Peaks/Valleys Area:0μm」「Max Peaks/Valleys Area:0μm」にて解析を実施し、「Peak Spacing」に表示される数値を各測定領域のSmpとした。
【0135】
次に、上記解析ソフト(MetroPro ver9.0.10(64-bit)のMicroscope Application)にてSlope Mag Map画面を表示し、前記画面中で横軸をValue(μm/mm)、縦軸をCountsとしてヒストグラムを表示させ、横軸をアークタンジェントで角度に換算することにより三次元表面傾斜角度分布のヒストグラムデータを得た。なお、各々の測定サンプルにおいて、いずれも換算後の傾斜角度が1度刻み以下の角度分布ヒストグラムが得られるように、nBinsの数値を変えて調整した。得られたヒストグラムデータに基づき、0度超1度未満の傾斜角(θ1)、1度以上3度未満の傾斜角(θ2)、3度以上10度未満の傾斜角(θ3)、10度以上90度未満の傾斜角(θ4)を算出した。
【0136】
1-2.全光線透過率(Tt)及びヘイズ(Hz)
実施例及び比較例の防眩フィルムを10cm四方に切断した。切断箇所は、目視でゴミや傷などの異常点がない事を確認の上、ランダムな部位から選択した。ヘイズメーター(HM-150、村上色彩技術研究所製)を用いて、各サンプルのJIS K7361-1:1997の全光線透過率、及びJIS K7136:2000のヘイズを測定した。
なお、光源が安定するよう事前に装置の電源スイッチをONにしてから15分以上待ち、入口開口(測定サンプルを設置する箇所)に何もセットせずに校正を行い、その後に入口開口に測定サンプルをセットして測定した。また、光入射面は透明基材側とした。
【0137】
1-3.防眩性1(正反射方向の防眩性)
実施例及び比較例の防眩フィルムを10cm×10cmに切断した。切断箇所は、目視でゴミや傷などの異常点がない事を確認の上、ランダムな部位から選択した。切断した防眩フィルムの透明基材側をパナック社の光学透明粘着シート(商品名:パナクリーンPD-S1、厚み25μm)を介して、縦10cm×横10cmの大きさの黒色板(クラレ社、商品名:コモグラス DFA2CG 502K(黒)系、厚み2mm)に貼り合わせたサンプル2を作製した。
サンプル2を高さ70cmの水平な台に凹凸表面が上になるように設置し、明室環境下で、照明光の正反射方向となる角度から、下記の評価基準で凹凸表面への照明光の映り込みを評価した。なお、評価の際は、照明の中央から出射する光のサンプル2に対する入射角が10度となるように、照明に対するサンプル2の位置を調整した。また、照明は、Hf32形の直管三波長形昼白色蛍光灯を用い、照明の位置は水平台から鉛直方向2m上方の高さとした。また、サンプルの凹凸表面上の照度が500~1000luxとなる範囲で評価した。また、観測者の目線は床から160cm前後とした。観測者は、視力0.7以上の健康な30歳台の人とした。
<評価基準>
◎:照明の輪郭がなく、位置も分からない
〇:照明の輪郭はないが、位置がぼんやりと分かる
△:照明の輪郭と位置がぼんやりと分かる
×:照明の輪郭のぼやけが弱く、位置もはっきりと分かる
【0138】
1-4.防眩性2(様々な角度の防眩性)
1-3で作製したサンプル2を両手で持ち、サンプル2の高さ及び角度を変更(但し、照明の中央から出射する光のサンプル2に対する入射角が10~70度の範囲で変更)しながら評価する点を変更した以外は、1-3と同様にして、凹凸表面への照明光の映り込みを評価した。
【0139】
1-5.反射散乱光(≒漆黒感)
1-3で作製したサンプル2を高さ70cmの水平な台に凹凸表面が上になるように設置した。照明からの出射光のうち、最も強い出射角の光がサンプル2にギリギリ入射しないように、照明に対するサンプル2の位置を調整した。当該調整により、観測者を基準としたサンプルの位置は、1-3のサンプルの位置よりも観測者より遠い側に配置されている。
上記の位置にサンプル2を配置し、下記の評価基準で反射散乱光(≒漆黒感)の程度を評価した。観測者の目線は床から160cm前後とした。観測者は、視力0.7以上の健康な30歳台の人とした。
<評価基準>
◎:散乱光の白さが感じられず、十分に黒い
〇:散乱光の白さが僅かに感じられるが、気にならないレベル
×:散乱光の白さが気になるレベルで感じられる
【0140】
1-6.AM1及びAM2の測定
白色干渉顕微鏡(New View7300、Zygo社)を用いて、計測ステージに1-1で作製したサンプル1が固定かつ密着した状態となるようにセットしたのち、以下の条件にて、防眩フィルムの凹凸表面の標高を測定し、AM1及びAM2を算出した。標高を測定する際の測定条件及び解析条件は、上記1-1の測定条件1及び解析条件1と同一とした。なお、測定・解析ソフトにはMetroPro ver9.0.10のMicroscope Applicationを用いた。
【0141】
(AM1及びAM2の算出手順)
Surface Map画面上に「Save Data」ボタンを表示させ、解析後の3次元曲面粗さデータを「XYZ File(*.xyz)」形式で保存した。次に、Microsoft社のExcel(登録商標)に書き出しを行い、標高の二次元関数h(x,y)を得た。得られる生データの数は縦992行×横992列=984064点で一辺の長さ(MΔxもしくはNΔy)が218μmであるが、外周データの削除を41回繰り返し実施することにより、縦910行×横910列=828100点で前記一辺の長さが200μmのデータを得た。次に統計解析ソフトR(ver3.6.3)を用いて、標高の二次元関数(縦910行×横910列)における、各行および各列の標高の一次元振幅スペクトルHx’(fx)、Hy’(fy)をそれぞれ計算し、各々の空間周波数の値に対応する振幅の値を平均することで標高の一次元振幅スペクトルH”(f)を得た。各サンプルにつき16箇所の表面に対して標高の一次元関数H”(f)を測定し、各々の空間周波数の値に対応する振幅の値を平均した結果を標高の一次元振幅スペクトルH(f)とした。
次いで、得られたデータから、AM2(空間周波数0.300μm-1における振幅)を抽出するとともに、AM1(空間周波数がそれぞれ0.005μm-1、0.010μm-1、0.015μm-1に対応する振幅の合計)を計算した。また、空間周波数0.005μm-1に対応する振幅であるAM1-1、空間周波数0.010μm-1に対応する振幅であるAM1-2、空間周波数0.015μm-1に対応する振幅であるAM1-3の値を表2に示す。なお、比較例5及び6は、AM1及びAM2の測定対象から外した。
図6~7に、実施例1及び比較例1の防眩フィルムの凹凸表面の標高の振幅スペクトルの離散関数H(f)を示す。図中、横軸は空間周波数(単位は「μm-1」)、縦軸は振幅(単位は「μm」)を示す。
【0142】
2.防眩フィルムの作製
[実施例1]
透明基材(厚み80μmトリアセチルセルロース樹脂フィルム(TAC)、富士フイルム社、TD80UL)上に、下記処方の防眩層塗布液1を塗布し、70℃、風速5m/sで30秒間乾燥した後、紫外線を窒素雰囲気(酸素濃度200ppm以下)下にて積算光量が100mJ/cmになるように照射して、防眩層を形成し、実施例1の防眩フィルムを得た。防眩層の厚みは5.0μmであった。なお、防眩フィルムの防眩層とは反対側のSaは0.012μmであった。
【0143】
<防眩層塗布液1>
・ペンタエリスリトールトリアクリレート 58.2部
(日本化薬社、商品名:KAYARAD-PET-30)
・ウレタンアクリレートオリゴマー 18.2部
(DIC社、商品名:V-4000BA)
・熱可塑性樹脂 23.6部
(アクリルポリマー、三菱レイヨン社、分子量75,000)
・有機粒子 63.6部
(積水化成品社、球状ポリアクリル-スチレン共重合体)
(平均粒子径2.0μm、屈折率1.515)
(粒子径1.8~2.2μmの粒子の割合が90%以上)
・無機微粒子分散液 230部
(日産化学社、表面に反応性官能基が導入されたシリカ、溶剤:MIBK、固形分:35.5%)
(平均粒子径12nm)
(無機微粒子の有効成分:81.9部)
・光重合開始剤 5.5部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Omnirad184)
・光重合開始剤 1.8部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Omnirad907)
・シリコーン系レベリング剤 0.2部
(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社、商品名:TSF4460)
・溶剤(トルエン) 346.8部
・溶剤3 17.9部
(シクロヘキサノン)
【0144】
[実施例2~7]、[比較例1~6]
防眩層塗布液1を、表1に記載の番号の防眩層塗布液に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~7、及び、比較例1~6の防眩フィルムを得た。防眩層塗布液2~13の組成を以下に示す。
【0145】
<防眩層塗布液2>
防眩層塗布液1の有機粒子を、「平均粒子径4.0μm、屈折率1.515(積水化成品社、球状ポリアクリル-スチレン共重合体、粒子径3.8~4.2μmの粒子の割合が90%以上)」である有機粒子に変更した以外は、防眩層塗布液1と同様の組成からなる塗布液。
【0146】
<防眩層塗布液3>
・ペンタエリスリトールトリアクリレート 100部
(日本化薬社、商品名:KAYARAD-PET-30)
・有機粒子 129.8部
(積水化成品社、球状ポリアクリル-スチレン共重合体)
(平均粒子径2.0μm、屈折率1.515)
(粒子径1.8~2.2μmの粒子の割合が90%以上)
・光重合開始剤 6.4部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Omnirad184)
・光重合開始剤 1.0部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Omnirad907)
・シリコーン系レベリング剤 0.1部
(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社、商品名:TSF4460)
・溶剤(トルエン) 498.4部
・溶剤(シクロヘキサノン) 55.4部
【0147】
<防眩層塗布液4>
・ペンタエリスリトールトリアクリレート 100部
(日本化薬社、商品名:KAYARAD-PET-30)
・有機粒子 99.6部
(積水化成品社、球状ポリアクリル-スチレン共重合体)
(平均粒子径2.0μm、屈折率1.515)
(粒子径1.8~2.2μmの粒子の割合が90%以上)
・シリカ粒子 10部
(平均粒子径:4.1μm)
(富士シリシア化学社製、ゲル法不定形シリカ)
・光重合開始剤 6.1部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Omnirad184)
・光重合開始剤 1.1部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Omnirad907)
・溶剤(トルエン) 452.9部
・溶剤(シクロヘキサノン) 50.3部
・溶剤(酢酸エチル) 2.6部
【0148】
<防眩層塗布液5>
防眩層塗布液1において、有機粒子の添加量を63.6部から50.0部に変更し、無機微粒子分散液の添加量を230部から187部に変更した以外は、防眩層塗布液1と同様の組成からなる塗布液。
【0149】
<防眩層塗布液6>
・ペンタエリスリトールトリアクリレート 100部
(日本化薬社、商品名:KAYARAD-PET-30)
・シリカ粒子 14部
(平均粒子径:4.1μm)
(富士シリシア化学社製、ゲル法不定形シリカ)
・光重合開始剤 5部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Omnirad184)
・シリコーン系レベリング剤 0.2部
(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社、商品名:TSF4460)
・溶剤(トルエン) 150部
・溶剤(MIBK) 35部
・溶剤(酢酸エチル) 5.2部
【0150】
<防眩層塗布液7>
・ペンタエリスリトールトリアクリレート 91.5部
(日本化薬社、商品名:KAYARAD-PET-30)
・ウレタンアクリレートオリゴマー 8.5部
(DIC社、商品名:V-4000BA)
・有機粒子 2部
(積水化成品社製、球状ポリアクリル-スチレン共重合体)
(平均粒子径5.0μm、屈折率1.550)
・シリカ粒子 15部
(平均粒子径:4.1μm)
(富士シリシア化学社製、ゲル法不定形シリカ)
・光重合開始剤 1.9部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Omnirad184)
・光重合開始剤 7部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Omnirad907)
・シリコーン系レベリング剤 0.1部
(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社、商品名:TSF4460)
・溶剤(トルエン) 161.1部
・溶剤(シクロヘキサノン) 69部
・溶剤(酢酸エチル) 3.9部
【0151】
<防眩層塗布液8>
・ペンタエリスリトールトリアクリレート 50.6部
(日本化薬社、商品名:KAYARAD-PET-30)
・ウレタンアクリレートオリゴマー 49.4部
(DIC社、商品名:V-4000BA)
・有機粒子 3部
(積水化成品社、球状ポリアクリル-スチレン共重合体)
(平均粒子径2.0μm、屈折率1.545μm)
・シリカ粒子 1部
(平均粒子径:12nm
(日本アエロジル社製、フュームドシリカ)
・光重合開始剤 1部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Omnirad184)
・光重合開始剤 0.2部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Omnirad907)
・光重合開始剤 1.5部
(Lamberti社、ESACUREONE)
・シリコーン系レベリング剤 0.1部
(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社、商品名:TSF4460)
・溶剤(トルエン) 98.6部
・溶剤(シクロヘキサノン) 38.7部
・溶剤(イソプロピルアルコール) 44.1部
・溶剤(MIBK) 2.4部
【0152】
<防眩層塗布液9>
・ペンタエリスリトールトリアクリレート 65部
(日本化薬社、商品名:KAYARAD-PET-30)
・ウレタンアクリレートオリゴマー 35部
(DIC社、商品名:V-4000BA)
・有機粒子 14部
(積水化成品社、球状ポリアクリル-スチレン共重合体)
(平均粒子径3.5μm、屈折率1.550)
・シリカ粒子 6部
(平均粒子径:12nm)
(日本アエロジル社製、フュームドシリカ)
・光重合開始剤 5部
(IGM Resins B.V.社、商品名:Omnirad184)
・シリコーン系レベリング剤 0.025部
(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社、商品名:TSF4460)
・溶剤(トルエン) 100部
・溶剤(シクロヘキサノン) 20部
・溶剤(イソプロピルアルコール) 55部
【0153】
<防眩層塗布液10>
防眩層塗布液3の有機粒子の平均粒子径を3.5μmに変更した以外は、防眩層塗布液3と同様の組成からなる塗布液。
【0154】
<防眩層塗布液11>
防眩層塗布液3において、有機粒子の平均粒子径を1.5μmに変更し、さらに、有機粒子の添加量を160部に変更した以外は、防眩層塗布液3と同様の組成からなる塗布液。
【0155】
<防眩層塗布液12>
防眩層塗布液3において、有機粒子の平均粒子径を3.5μmに変更し、さらに、有機粒子の添加量を160部に変更した以外は、防眩層塗布液3と同様の組成からなる塗布液。
【0156】
<防眩層塗布液13>
防眩層塗布液3において、有機粒子の平均粒子径を1.0μmに変更し、さらに、有機粒子の添加量を160部に変更した以外は、防眩層塗布液3と同様の組成からなる塗布液。
【0157】
【表1】
【0158】
【表2】
【0159】
表1の結果から、実施例の防眩フィルムは、防眩性に優れ、かつ、反射散乱光を抑制し、漆黒感に優れることが確認できる。
【符号の説明】
【0160】
10:透明基材
20:防眩層
21:バインダー樹脂
22:有機粒子
100:防眩フィルム
110:表示素子
120:画像表示装置
200:観測者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7