(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163322
(43)【公開日】2024-11-21
(54)【発明の名称】汚損物質量算出装置および汚損物質量算出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20241114BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024159175
(22)【出願日】2024-09-13
(62)【分割の表示】P 2021154641の分割
【原出願日】2021-09-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茶円 豊
(72)【発明者】
【氏名】長 広明
(72)【発明者】
【氏名】原口 智
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 広崇
(72)【発明者】
【氏名】水出 隆
(57)【要約】
【課題】汚損物質の付着量を精度よく測定することができる汚損物質量測定装置および汚損物質量測定方法を提供することである。
【解決手段】実施形態によれば、筐体は、上面に開口を有する。第1水晶振動子は、第1水晶板と第1電極対を持つ。第1電極対は、第1水晶板を挟む第1金属からなる。第1水晶振動子は、筐体の内部に第1電極対の一方が開口に対向するように設けられる。第2水晶振動子は、第2水晶板と第2電極対を持つ。第2電極対は、第2水晶板を挟む第2金属からなる。第2金属は第1金属よりイオン化傾向が低い。第2水晶振動子は、筐体の内部に第2電極対の一方が開口に対向するように設けられる。第1周波数計測回路は、第1水晶振動子の共振周波数を出力する。第2周波数計測回路は、第2水晶振動子の共振周波数を出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に開口を有する筐体と、
第1水晶板と前記第1水晶板を挟む第1金属からなる第1電極対を備え、前記筐体の内部に、前記第1電極対の一方が前記開口に対向するように設けられる第1水晶振動子と、
第2水晶板と前記第2水晶板を挟む、前記第1金属よりイオン化傾向が低い第2金属からなる第2電極対を備え、前記筐体の内部に、前記第2電極対の一方が前記開口に対向するように設けられる第2水晶振動子と、
前記第1水晶振動子の共振周波数を出力する第1周波数計測回路と、
前記第2水晶振動子の共振周波数を出力する第2周波数計測回路と
を備える汚損物質検出センサを用いて汚損物質量を算出する汚損物質量算出装置であって、
前記第1水晶振動子と前記第2水晶振動子の周波数変動差と汚損物質量との関係を規定する検量線関数に基づいて、汚損物質量を算出する汚損物質量演算部
を備える汚損物質量算出装置。
【請求項2】
前記第2水晶振動子の近傍の相対湿度の計測データを保存する計測データ保存部と、
前記相対湿度と前記検量線関数の勾配との関係を規定する導出関数に基づいて、前記検量線関数の勾配を算出する検量線決定部と
を備える請求項1に記載の汚損物質量算出装置。
【請求項3】
前記汚損物質量が閾値以上である場合に、アラームを発する報知部を備える
請求項1または請求項2に記載の汚損物質量算出装置。
【請求項4】
前記汚損物質量の変化量が閾値以上である場合に、アラームを発する報知部を備える
請求項1または請求項2に記載の汚損物質量算出装置。
【請求項5】
前記第1水晶振動子の共振周波数が閾値以上である場合に、アラームを発する報知部を備える
請求項1または請求項2に記載の汚損物質量算出装置。
【請求項6】
前記第1水晶振動子と前記第2水晶振動子の周波数変動差が閾値以上である場合に、アラームを発する報知部を備える
請求項1または請求項2に記載の汚損物質量算出装置。
【請求項7】
前記汚損物質量演算部は、前記第1水晶振動子と前記第2水晶振動子の周波数変動差が閾値以上になった場合に、前記第1水晶振動子の共振周波数と、前記第1水晶振動子と前記第2水晶振動子の周波数変動差から算出された汚損物質量との関係に基づいて、前記第1水晶振動子の共振周波数から汚損物質量を算出する
請求項1から請求項6の何れか1項に記載の汚損物質量算出装置。
【請求項8】
前記第1金属は金であり、前記第2金属は銅である
請求項1から請求項7の何れか1項に記載の汚損物質量算出装置。
【請求項9】
上面に開口を有する筐体と、
第1水晶板と前記第1水晶板を挟む第1金属からなる第1電極対を備え、前記筐体の内部に、前記第1電極対の一方が前記開口に対向するように設けられる第1水晶振動子と、
第2水晶板と前記第2水晶板を挟む、前記第1金属よりイオン化傾向が低い第2金属からなる第2電極対を備え、前記筐体の内部に、前記第2電極対の一方が前記開口に対向するように設けられる第2水晶振動子と、
前記第1水晶振動子の共振周波数を出力する第1周波数計測回路と、
前記第2水晶振動子の共振周波数を出力する第2周波数計測回路と
を備える汚損物質検出センサを用いて汚損物質量を算出する汚損物質量算出方法であって、
前記第1水晶振動子と前記第2水晶振動子の周波数変動差と汚損物質量との関係を規定する検量線関数に基づいて、汚損物質量を算出するステップ
を有する汚損物質量算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、汚損物質量算出装置および汚損物質量算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力設備は社会インフラストラクチャを支える重要な設備であり、長期にわたり安定して稼動できることを求められる。安定稼動のためには、電力設備の劣化状態を把握し、保全・更新を計画的に実施する必要がある。電力設備の導体支持またはバリヤなどに用いられる絶縁材料は材料自体の経年劣化や、設置環境に浮遊する塵埃または水分の付着などで絶縁特性が低下する。絶縁特性が低下すると放電やトラッキングを生じて設備停止に至る虞もあることから、絶縁材料の状態は電力設備の劣化を診断するためのバロメータになる。
【0003】
設置環境が絶縁材料の劣化に及ぼす影響は、塵埃や水分の付着だけとは限らない。絶縁材料の成分と化学反応する環境因子が存在する環境では、通常の経年劣化を上回る速度で、絶縁材料が劣化する場合がある。例えば炭酸カルシウムは、絶縁材料の無機充填材として多く使用される。炭酸カルシウムが塩素系ガスや窒素酸化物ガスなどと反応すると、絶縁材料表面に塩化カルシウムまたは硝酸カルシウムが形成される。これらの物質は相対湿度40%RH以下の低湿度であっても大気中の水分を吸入して潮解するので、低湿度条件であっても絶縁材料の表面が結露し、絶縁材料の表面を漏れ電流が流れることがある。これが甚だしくなると絶縁が破壊され、最悪の場合には設備停止に至ることもある。
【0004】
電力設備に使われている絶縁材料の絶縁抵抗値を、フィールドで直接測定することは可能である。しかしながらその測定値は測定場所の雰囲気、具体的には湿度に大きく影響される。例えば乾燥した環境下では絶縁抵抗値は現状よりも高くなることが多く、絶縁材料の劣化が見逃されるケースがある。また、電力設備が絶縁不良で停止するのは、ほとんど梅雨時の高温多湿の時期である。このように抵抗値を直接測定することは実地の運用には向いているといえない。
【0005】
そこで、多変量解析などの数値的な演算により絶縁材料の絶縁抵抗を推定する方法が提案されている。つまり、絶縁抵抗と相関を持ち測定場所の雰囲気に影響されない項目を測定し、その項目の値に基づいて絶縁抵抗値を算出する方法である。この方法ではフィールドで使用されている絶縁材料、および強制劣化させた絶縁材料について、絶縁抵抗と相関のあるデータを取得し、多変量解析により診断指標である絶縁抵抗の推定式を策定する。絶縁診断では、推定式を策定した項目を測定し、絶縁抵抗推定式から、任意の温度や湿度の絶縁抵抗を推定するようにする。
【0006】
絶縁抵抗と相関のあるデータとして、大きく分類すると、材料そのものの特性、及び設置個所周囲の大気環境による因子が挙げられる。これらの項目の測定に関しては、従来は検査員が実際に対象機器そのものを測定し、対象機器からサンプリング作業を実施する必要がある。そのため、連続的な材料特性及び環境因子の監視は不可能であり、離散的な評価となってしまうという課題があった。近年の計測技術の進歩により、材料特性、大気環境因子を連続的に測定することが可能となってきており、例えば材料特性を絶縁材料の分光反射率から推定する技術や、大気環境に含まれるイオン性の汚損物質を計測する技術を適用することで、連続的な絶縁性能の監視を実現可能となってきている。そこで、塵埃や水分などによる通常の経年劣化を上回る速度で絶縁材料を劣化させる汚損物質量を精度よく測定することができる技術が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5951299号公報
【特許文献2】特許第5836904号公報
【特許文献3】特許第5872643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、汚損物質の付着量を精度よく測定することができる汚損物質量算出装置および汚損物質量算出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の汚損物質検出センサは、筐体と、第1水晶振動子と、第2水晶振動子と、第1周波数計測回路と、第2周波数計測回路とを持つ。筐体は、上面に開口を有する。第1水晶振動子は、第1水晶板と第1電極対をもつ。第1電極対は、第1水晶板を挟む第1金属からなる。第1水晶振動子は、筐体の内部に、第1電極対の一方が筐体の開口に対向するように設けられる。第2水晶振動子は、第2水晶板と第2電極対をもつ。第2電極対は、第2水晶板を挟む第2金属からなる。第2金属は第1金属よりイオン化傾向が低い。第2水晶振動子は、筐体の内部に、第2電極対の一方が筐体の開口に対向するように設けられる。第1周波数計測回路は、第1水晶振動子の共振周波数を出力する。第2周波数計測回路は、第2水晶振動子の共振周波数を出力する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係る汚損物質量測定装置の構成を示す概略図。
【
図2】第1の実施形態に係る汚損物質検出センサの構造を示す分解斜視図。
【
図3】第1の実施形態に係る汚損物質検出センサの筐体の断面図。
【
図4】第1の実施形態に係る汚損物質量測定装置の第1水晶振動子及び第2水晶振動子に汚損物質と非汚損物質が付着した直後の状態を示す断面図。
【
図5】第1の実施形態に係る汚損物質量測定装置の第1水晶振動子及び第2水晶振動子に汚損物質と非汚損物質が付着してから時間が経過した後の状態を示す断面図。
【
図6】銅電極に付着する塩分の量と銅電極の腐食生成物の増加速度との関係を示す図。
【
図7】塩分噴霧試験において銅電極に付着した塩分量と時間当たりの銅電極の共振周波数の変動との関係を示す図。
【
図8】塩分噴霧試験において環境の相対湿度別の塩分量と時間当たりの銅電極の共振周波数の変動との関係を示す図。
【
図9】第1の実施形態の相対湿度と塩分検量線の傾きとの関係を示す勾配導出関数の一例。
【
図10】第1の実施形態に係る汚損物質量算出装置の構成を示す概略ブロック図。
【
図11】第1の実施形態における第1水晶振動子に対する第2水晶振動子の周波数差分の時間変化を示す図。
【
図12】第1の実施形態に係る汚損物質量測定装置による対象物の汚損状況の監視方法を示すフローチャート。
【
図13】第2の実施形態に係る汚損物質検出センサの構成を示す図。
【
図14】第3の実施形態に係る汚損物質量算出装置の構成を示す概略ブロック図。
【
図15】第3の実施形態に係る汚損物質量測定装置による対象物の汚損状況の監視方法を示すフローチャート。
【
図16】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態の汚損物質検出センサ、汚損物質量算出装置および汚損物質量算出方法を、図面を参照して説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る汚損物質量測定装置10の構成を示す概略図である。
汚損物質量測定装置10は、汚損物質検出センサ20と、汚損物質量算出装置30とを有する。なお、第1の実施形態の汚損物質量測定装置10では、汚損物質検出センサ20と汚損物質量算出装置30が有線で接続している。なお、汚損物質検出センサ20と汚損物質量算出装置30とは無線で接続していてもよいし、インターネットなどのネットワークを介して接続していてもよい。汚損物質検出センサ20は、汚損状態を推定する対象物Oの近傍に設置される。汚損物質量算出装置30は、汚損物質検出センサ20に付着した塩分量を算出し、対象物Oの汚損状態を推定する。
【0013】
図2は、第1の実施形態に係る汚損物質検出センサ20の構造を示す分解斜視図である。汚損物質検出センサ20は、第1水晶振動子21と、第2水晶振動子22と、温湿度センサ23と、筐体24とを備える。第1水晶振動子21と第2水晶振動子22は互いに隣接していて、同一の環境に配置される。
【0014】
第1水晶振動子21は、第1金電極211と、第2金電極212と、水晶板213と、支持板214と、発振回路215と、周波数計測回路216とを備える。第1金電極211及び第2金電極212は、金で構成される電極である。水晶板213は、第1金電極211と第2金電極212とで挟まれる。第1金電極211の端子と第2金電極212の端子は、支持板214に差し込まれて支持される。支持板214は、第1金電極211が上面を向くように筐体24に固設される。発振回路215は、第1金電極211と第2金電極212との間に電圧を印加する。第1金電極211と第2金電極212との間に電圧が印加されることで、水晶板213が振動し、電気信号を出力する。周波数計測回路216は、第1水晶振動子21が出力する電気信号の周波数を計測する。
【0015】
第2水晶振動子22は、第1銅電極221と、第2銅電極222と、水晶板223と、支持板224と、発振回路225と、周波数計測回路226とを備える。第1銅電極221及び第2銅電極222は、銅で構成される電極である。水晶板223は、第1銅電極221と第2銅電極222とで挟まれる。第1銅電極221の端子と第2銅電極222の端子は、支持板224に差し込まれて支持される。支持板224は、第1銅電極221が上面を向くように筐体24に固設される。発振回路225は、第1銅電極221と第2銅電極222との間に電圧を印加する。第1銅電極221と第2銅電極222との間に電圧が印加されることで、水晶板223が振動し、電気信号を出力する。周波数計測回路226は、第2水晶振動子22が出力する電気信号の周波数を計測する。
【0016】
温湿度センサ23は、第2水晶振動子22の近傍に設けられ、第2水晶振動子22の周囲の温度及び相対湿度を計測する。
【0017】
図3は、第1の実施形態に係る汚損物質検出センサ20の筐体24の断面図である。筐体24は、汚損物質検出センサ20の外殻をなす。筐体24は、本体部241と蓋部242とを備える。本体部241は上面が開口し、底面を有する箱である。蓋部242は、本体部241の開口を覆うように設けられる。蓋部242のうち、第1金電極211に対向する部分と第1銅電極221に対向する部分とにはそれぞれ貫通孔242aが設けられる。これにより、対象物Oの近傍に浮遊する微粒子が貫通孔242aを介して筐体24内に侵入する。貫通孔242aの直下には第1金電極211及び第1銅電極221が設けられるため、微粒子は第1金電極211または第1銅電極221に付着する可能性が高い。貫通孔242aは、上面が広く下面が狭いテーパ上に構成される。貫通孔242aの下面は、対向する電極の円盤部分と同じ大きさに設計されてよい。または、貫通孔242aは、側壁の延長線上に電極の縁部が位置するように設計されてもよい。貫通孔242aがテーパ上に構成されることで、空気中を浮遊する微粒子を貫通孔242aの上縁でトラップせずに筐体24内部へ案内することができる。
【0018】
筐体24の本体部241の底面のうち第2金電極212の外縁に対向する部分と、水晶板213の外縁に対向する部分と、第2銅電極222の外縁に対向する部分と、水晶板223の外縁に対向する部分とには、それぞれ管状の突起部241aが形成されている。突起部241aは、第1水晶振動子21及び第2水晶振動子22が振動しても、第1水晶振動子21及び第2水晶振動子22と接触しない程度の高さを有する。突起部241aが設けられることで、貫通孔242aから侵入し、第1金電極211または第1銅電極221に付着しなかった微粒子をトラップし、当該微粒子が第2金電極212または第2銅電極222に付着することを防ぐことができる。筐体24の底部にたまった微粒子が第2金電極212または第2銅電極222に付着すると、第1水晶振動子21及び第2水晶振動子22の共振周波数が急に変動し、検出精度の低下が生じる可能性がある。なお、突起部241aの形状は
図2に示すようなリング状でなくてもよく、正方形や六角形などの閉じた中空管状であればよい。
【0019】
第1水晶振動子21および第2水晶振動子22は、例えば、QCM(水晶振動子マイクロバランス)である。第1水晶振動子21および第2水晶振動子22は、初期状態において、電極の質量変化が同じである場合、周波数の変動が等しくなるように予め校正されている。つまり、第1水晶振動子21および第2水晶振動子22は、初期状態において同じ共振周波数を有する。
【0020】
銅は、金よりもイオン化傾向(標準電極電位)が低い。すなわち、銅は、金と比較して、塩などのイオン性の汚損物質によって腐食が起こりやすい金属である。そのため、第1水晶振動子21の第1金電極211と、第2水晶振動子22の第1銅電極221の両者に塩分が付着したときは、第1銅電極221に腐食生成物が生成されやすい。そして、その腐食生成物の生成量による第1銅電極221の質量の変化に応じて第2水晶振動子22の共振周波数が第1水晶振動子21の共振周波数に対して変化する。第1銅電極221は、イオン性の汚損物質が付着することで、第2水晶振動子22の共振周波数を第1水晶振動子21の共振周波数に対して変化させる作用を有する。
【0021】
ここで、第1水晶振動子21と第2水晶振動子22に、汚損物質(塩分)及び非汚損物質(塵埃など)が付着したときの挙動を、
図4と
図5を用いて説明する。
図4は、第1の実施形態の汚損物質量測定装置10の第1水晶振動子21及び第2水晶振動子22に汚損物質と非汚損物質が付着した直後の状態を示す断面図である。
図4の(a)は、第1水晶振動子21の第1金電極211に汚損物質Aと非汚損物質Bが付着した直後の状態である。
図4の(b)は、第2水晶振動子22の第2金電極212に汚損物質Aと非汚損物質Bが付着した直後の状態である。汚損物質Aは、イオン性物質である。イオン性物質は、例えば、塩素系ガスや窒素酸化物ガスである。非汚損物質Bは、例えば、塵埃や水である。
図4(a)と(b)に示すように、汚損物質Aと非汚損物質Bが付着することによって、第1金電極211と第2金電極212の質量が変化する。このため、第1水晶振動子21の共振周波数と第2水晶振動子22の共振周波数は、それぞれ変動する。ただし、汚損物質Aと非汚損物質Bが付着した直後の状態では、第2金電極212は腐食しておらず、第1金電極211と第2金電極212とに質量の差は生じない。このため、電極の質量増加による共振周波数と共振周波数の変動量は同じである。よって、第1水晶振動子21の共振周波数に対する第2水晶振動子22の共振周波数は変動しない。
【0022】
図5は、本実施形態の汚損物質量測定装置10の第1水晶振動子21及び第2水晶振動子22に汚損物質と非汚損物質が付着してから時間が経過した後の状態を示す断面図である。
図5の(a)は、第1水晶振動子21の第1金電極211に汚損物質Aと非汚損物質Bが付着してから時間が経過した状態を示す断面図である。
図5の(b)は、第2水晶振動子22の第2金電極212に汚損物質Aと非汚損物質Bが付着してから時間が経過した状態を示す断面図である。
図5(a)に示すように、第1水晶振動子21の第1金電極211は、汚損物質Aと非汚損物質Bが付着してから時間が経過しても変化しない。一方、
図5(b)に示すように、第2水晶振動子22の第2金電極212は、非汚損物質Bが付着した部分は変化しないが、汚損物質Aが付着した部分は腐食して、腐食生成物Cが生成する。腐食生成物Cの生成量の変化に伴う第2金電極212の質量の変化によって、第2水晶振動子22の共振周波数は変動する。すなわち、第1水晶振動子21の共振周波数に対する第2水晶振動子22の共振周波数が変動する。よって、本実施形態の汚損物質量測定装置10は、非汚損物質Bの付着量の影響を受けずに、第2水晶振動子22の共振周波数の変動に基づいて、腐食生成物Cの生成量、すなわち汚損物質Aの付着量を測定することができる。
【0023】
第1銅電極221はイオン性物質である塩分の付着により腐食が促進される。
図6は、銅電極に付着する塩分の量と銅電極の腐食生成物の増加速度との関係を示す図である。
図6に示すように、銅電極に付着する塩分の量と腐食生成物の増加速度とは強い相関がある。
図6に示す関係は、銅電極への塩分噴霧試験により確認されている。
図7は、塩分噴霧試験において銅電極に付着した塩分量と時間当たりの銅電極の共振周波数の変動との関係を示す図である。
図7に示すように、塩分噴霧試験では、塩分量と時間当たりの周波数変動に相関があることが確認された。第1の実施形態に係る汚損物質量算出装置30は、共振周波数と塩分量との関係を表す一次関数である検量線関数を用いて、第2水晶振動子22の共振周波数から付着塩分量を導出する。
【0024】
第2水晶振動子22の共振周波数は環境の温度の影響を受ける。これは、第2水晶振動子22が温度特性を有するためである。そのため、予め第2水晶振動子22の温度特性を特定しておき、汚損物質量算出装置30がこれを用いて第2金電極212の腐食速度を補正する。なお、第2水晶振動子22の温度特性として、公知のATカット水晶の温度特性(温度と周波数偏差との関係)を用いてもよい。一般的なATカット水晶の温度特性は、25℃に変曲点を持つ三次関数で表される。
【0025】
銅電極の腐食速度は環境の相対湿度の影響を受ける。環境の相対湿度が高いほど、銅電極の腐食が早く進む。
図8は、塩分噴霧試験において環境の相対湿度別の塩分量と時間当たりの銅電極の共振周波数の変動との関係を示す図である。
図8に示すように、予め塩分噴霧試験等を行うことにより、相対湿度と塩分検量線の傾きとの関係を求めておく。
図9は、相対湿度と塩分検量線の傾きとの関係を示す勾配導出関数の一例である。汚損物質量算出装置30は勾配導出関数を用いて検量線関数の勾配を特定する。第1の実施形態に係る勾配導出関数は、
図9に示すように指数関数に近似される。なお、他の実施形態においては、勾配導出関数は、二次関数に近似されてもよい。
【0026】
図10は、第1の実施形態に係る汚損物質量算出装置30の構成を示す概略ブロック図である。
汚損物質量算出装置30は、データベース31、計測データ保存部32、温度補正部33、平滑化部34、変動量演算部35、検量線決定部36、塩分量演算部37、対象物診断部38、センサ診断部39および報知部40を有する。
【0027】
データベース31には、第2水晶振動子22の温度特性関数と、
図9に示す勾配導出関数とが記録される。
【0028】
計測データ保存部32は、汚損物質検出センサ20から計測データを一定の時間ステップで読み出し、記憶する。時間ステップは、特に制限はないが、例えば1分である。具体的には、計測データ保存部32は、周波数計測回路216が計測した第1水晶振動子21の共振周波数、周波数計測回路226が計測した第2水晶振動子22の共振周波数、並びに温湿度センサ23が計測した温度および相対湿度を記憶する。
【0029】
温度補正部33は、計測データ保存部32に記録された温度と、データベース31に記録された温度特性関数とに基づいて、計測データ保存部32に記録された第1水晶振動子21および第2水晶振動子22の共振周波数を補正する。具体的には、温度補正部33は、温度特性関数に温度を代入することで周波数偏差を求め、共振周波数を基準温度(例えば25℃)の共振周波数に補正する。以下、温度補正部33によって補正された共振周波数を補正周波数という。
【0030】
平滑化部34は、第1水晶振動子21および第2水晶振動子22の補正周波数、並びに相対湿度の単位時間ごとの移動平均値を求める。例えば、平滑化部34は、1分間隔の時系列データについて、12時間を窓として移動平均値を求める。
【0031】
変動量演算部35は、第1銅電極221の腐食に起因する第2水晶振動子22の周波数の変動量の時間微分を求める。具体的には、変動量演算部35は、以下の手順で周波数の変動量を求める。まず変動量演算部35は、第2水晶振動子22の補正周波数の移動平均値から第1水晶振動子21の補正周波数の移動平均値を減算することで、第1水晶振動子21に対する第2水晶振動子22の周波数差分を求める。変動量演算部35は、得られた周波数差分と一定時間前(例えば、1時間前)の時刻に係る周波数差分との差を、一定時間で除算することで、周波数の変動量を求める。
【0032】
検量線決定部36は、平滑化部34が算出した相対湿度の移動平均値をデータベース31が記憶する勾配導出関数に代入することで検量線の勾配を決定する。
【0033】
塩分量演算部37は、検量線決定部36が決定した勾配に係る検量線と変動量演算部35が算出した周波数の変動量とに基づいて、第2水晶振動子22に付着した塩分量を判定する。
【0034】
対象物診断部38は、塩分量演算部37が算出した塩分量に基づいて、対象物Oの汚損状況を診断する。具体的には、対象物診断部38は、塩分量演算部37が算出した塩分量が第1閾値未満である場合に対象物Oが清浄状態であると判定し、塩分量が第1閾値以上第2閾値未満である場合に対象物Oが軽汚損状態であると判定し、塩分量が第2閾値以上第3閾値未満である場合に対象物Oが中汚損状態であると判定し、塩分量が第3閾値以上第4閾値未満である場合に対象物Oが重汚損状態であると判定し、塩分量が第4閾値以上である場合に対象物Oが超重汚損状態であると判定する。また、対象物診断部38は、塩分量演算部37が算出した塩分量に基づいて、一定時間における塩分量の増加速度を算出し、当該増加速度が第5閾値を超える場合に、対象物Oの環境の急激な変化が生じたと判定する。つまり、対象物診断部38は、経時的に測定した塩分量からみられる汚損傾向から大きく外れた塩分量が計測された場合に、短期間で急激な汚損が発生したと判定する。
【0035】
センサ診断部39は、平滑化部34が算出した第1水晶振動子21の補正周波数の移動平均値および変動量演算部35が算出した第1水晶振動子21に対する第2水晶振動子22の周波数差分とに基づいて、汚損物質検出センサ20の状態を診断する。具体的には、センサ診断部39は、第1水晶振動子21の共振周波数の初期値と第1水晶振動子21の補正周波数の移動平均値との差が第6閾値を超えた場合に、汚損物質検出センサ20に多くの塵埃が堆積していると判定する。塵埃の体積は、汚損状態の検出精度に影響する。またセンサ診断部39は、第1水晶振動子21に対する第2水晶振動子22の周波数差分が第7閾値を超えた場合に、第1銅電極221の腐食が進行して飽和状態に近づいていると判定する。
図11は、第1水晶振動子21に対する第2水晶振動子22の周波数差分の時間変化を示す図である。
図11に示すように第1銅電極221の腐食が進行し、飽和状態に近づくと、腐食が進行しづらくなるため、汚損状態の検出精度が低下する。
【0036】
報知部40は、対象物診断部38およびセンサ診断部39の診断結果を出力する。具体的には、対象物Oが中汚損状態であると判定された場合、報知部40は、対象物Oの汚損が進行している旨を報知するメッセージを出力する。対象物Oが重汚損状態または超重汚損状態であると判定された場合、報知部40は、対象物Oの交換時期が近い旨を報知するアラームを出力する。また、塩分量の増加速度によって対象物Oの環境の急激な変化が生じたと判断された場合に、報知部40は対象物Oの状態を確認を推奨するアラームを出力する。また、汚損物質検出センサ20に塵埃が堆積していると判定された場合に、報知部40は、汚損物質検出センサ20の清掃を促すアラームを出力する。第1銅電極221の腐食が飽和状態に近づいていると判定された場合に、報知部40は、汚損物質検出センサ20の交換を促すアラームを出力する。アラームは、ディスプレイへの出力によってなされてもよいし、音声によって出力されてもよいし、他の端末への通信によってなされてもよい。
【0037】
図12は、第1の実施形態に係る汚損物質量測定装置10による対象物Oの汚損状況の監視方法を示すフローチャートである。作業者が、対象物Oの近傍に汚損物質検出センサ20を設置し、汚損物質量算出装置30を起動すると、汚損物質量算出装置30は対象物Oの汚損状況の監視を開始する。
【0038】
まず、計測データ保存部32は、汚損物質検出センサ20から第1水晶振動子21の共振周波数、第2水晶振動子22の共振周波数、温度および相対湿度を読み出し、読み出し時刻に関連付けて記憶する(ステップS1)。温度補正部33は、ステップS1で記録された温度と、データベース31に記録された温度特性関数とに基づいて、計測データ保存部32に記録された第1水晶振動子21および第2水晶振動子22の共振周波数を補正した補正周波数を、ステップS1の計測データに関連付けて計測データ保存部32に記録する(ステップS2)。
【0039】
平滑化部34は、計測データ保存部32に記録された第1水晶振動子21および第2水晶振動子22の補正周波数、並びに相対湿度の移動平均値を求め、ステップS1の計測データに関連付けて計測データ保存部32に記録する(ステップS3)。つまり、平滑化部34は、計測データ保存部32から現在時刻から一定時間前までの時刻に関連付けられた第1水晶振動子21および第2水晶振動子22の補正周波数、並びに相対湿度を読み出し、その平均値を算出する。変動量演算部35は、ステップS3で算出した第2水晶振動子22の補正周波数の移動平均値から第1水晶振動子21の補正周波数の移動平均値を減算することで、第1水晶振動子21に対する第2水晶振動子22の周波数差分を求め、ステップS1の計測データに関連付けて計測データ保存部32に記録する(ステップS4)。変動量演算部35は、ステップS4で得られた周波数差分と、現在時刻から一定時間前の時刻に関連付けて計測データ保存部32に記録された周波数差分との差を、一定時間で除算することで、周波数の変動量を求める(ステップS5)。
【0040】
検量線決定部36は、ステップS3で算出した相対湿度の移動平均値をデータベース31が記憶する勾配導出関数に代入することで検量線の勾配を決定する(ステップS6)。塩分量演算部37は、ステップS6で決定した勾配に係る検量線と、ステップS5で算出した周波数の変動量とに基づいて、第2水晶振動子22に付着した塩分量を算出する(ステップS7)。
【0041】
対象物診断部38は、ステップS7で算出した塩分量と閾値とを比較することで、対象物Oの汚損状態を推定する(ステップS8)。対象物診断部38は、対象物Oの汚損状態が重汚損状態以上であるか否かを判定する(ステップS9)。対象物Oの汚損状態が重汚損状態以上である場合(ステップS9:YES)、報知部40は、対象物Oの汚損の進行を報知するアラームを出力する(ステップS10)。例えば、報知部40は、「対象機器の交換時期が近づいています。」などのアラームを出力する。
【0042】
また、対象物診断部38は、ステップS7で算出した塩分量の増加速度が第5閾値を超えるか否かを判定する(ステップS11)。塩分量の増加速度が第5閾値を超える場合(ステップS11:YES)、報知部40は、対象物Oの状態を確認を推奨するアラームを出力する(ステップS12)。例えば、報知部40は、「急激な汚損が確認されました。異常の有無を確認してください。」などのアラームを出力する。
【0043】
センサ診断部39は、計測データ保存部32に記録された最も古い時刻に係る第1水晶振動子21の補正周波数と、ステップS3で算出した第1水晶振動子21の補正周波数の移動平均値との差が第6閾値を超えるか否かを判定する(ステップS13)。補正周波数の移動平均値との差が第6閾値を超える場合(ステップS13:YES)、報知部40は、汚損物質検出センサ20の清掃を促すアラームを出力する(ステップS14)。例えば、報知部40は、「盤内清掃を推奨します。」などのアラームを出力する。
【0044】
センサ診断部39は、ステップS4で算出した周波数差分が第7閾値を超えるか否かを判定する(ステップS15)。周波数差分が第7閾値を超える場合(ステップS15:YES)、報知部40は、汚損物質検出センサ20の交換を促すアラームを出力する(ステップS16)。例えば、報知部40は、「電極交換(銅)の時期が近づいています」などのアラームを出力する。そして、汚損物質量算出装置30は処理をステップS1に戻し、対象物Oの監視を継続する。
【0045】
このように、第1の実施形態に係る汚損物質検出センサ20は、2つの水晶振動子を備え、その電極を構成する金属のイオン化傾向が異なる。具体的には、汚損物質検出センサ20は、金電極を有する第1水晶振動子21と銅電極を有する第2水晶振動子22とを備える。これにより、汚損物質検出センサ20に付着する微粒子のうち、汚損物質の付着量が第1水晶振動子21と第2水晶振動子22との振動数の差として現れる。これにより、汚損物質検出センサ20を用いることで、汚損物質の付着量を精度よく測定することができる。
【0046】
第1の実施形態に係る汚損物質検出センサ20において、第1金電極211および第1銅電極221は筐体24の開口に対向するように配置される。これにより、汚損物質検出センサ20は第1金電極211および第1銅電極221から付着した微粒子が脱落する可能性を低減することができる。
【0047】
また、第1の実施形態に係る汚損物質検出センサ20の筐体24は、下面のうち第2銅電極222に対向する部分に、第2銅電極222の外縁と同じ径を有する管状の突起部241aと、第2銅電極222の外縁より大きい径を有する管状の突起部241aとを有する。これにより、筐体24内部に侵入した汚損物質が突起部241aによってトラップされ、第2銅電極222に当該汚損物質が付着することを防ぐことができる。
【0048】
また、第1の実施形態に係る汚損物質検出センサ20の筐体24の上面には、上方に向かって広がるテーパ状をなす貫通孔242aが設けられ、第1金電極211および第1銅電極221は当該貫通孔242aに対向するように設けられる。これにより、汚損物質検出センサ20は、大気中に漂う微粒子を第1金電極211および第1銅電極221に案内しつつ、第1金電極211および第1銅電極221に付着せずに筐体24の内部に侵入することを防ぐことができる。
【0049】
(第2の実施形態)
第1の実施形態に係る汚損物質検出センサ20は、
図11に示すように第1銅電極221の腐食が飽和すると検出精度が低下するため、一定期間使用するごとに第2水晶振動子22を交換する必要がある。これに対し、第2の実施形態に係る汚損物質検出センサ20は、長期間の使用を可能とする。
【0050】
図13は、第2の実施形態に係る汚損物質検出センサ20の構成を示す図である。第2の実施形態に係る汚損物質検出センサ20は、第2水晶振動子22を複数備える。第2の実施形態に係る第2水晶振動子22の数をNとおく。筐体24には、N個の第2水晶振動子22のうち1つだけを貫通孔242aから露出させ、残りを外気から遮蔽するためのN-1個の保護カバー242bが設けられる。各保護カバー242bは、第2水晶振動子22に対向する貫通孔242aを横断するように蓋部242に設けられたレール232cに沿って摺動可能に設けられる。各保護カバー242bには図示しないアクチュエータが設けられ、レール232cに沿って保護カバー242bを摺動させる。
【0051】
第2の実施形態に係る汚損物質検出センサ20は、露出している第2水晶振動子22について共振周波数を計測する。第2の実施形態に係る汚損物質量算出装置30の報知部40は、変動量演算部35が算出した周波数差分が第7閾値を超える場合、すなわち露出している第2水晶振動子22の腐食が一定度合いまで進行した場合、保護カバー242bのアクチュエータに駆動信号を出力する。これにより、保護カバー242bを摺動させて露出している第2水晶振動子22を切り替えさせる。計測データ保存部32は、第2水晶振動子22の切替タイミングについて、第1水晶振動子21および第2水晶振動子22の共振周波数を計測し、記録しておく。このように、第2の実施形態に係る汚損物質検出センサ20は、第2水晶振動子22の劣化が一定度合いまで進行するたびに使用する第2水晶振動子22を切り替えることで、長期間の使用を可能とする。
【0052】
(第3の実施形態)
第1の実施形態に係る汚損物質検出センサ20は、一定期間使用するごとに第2水晶振動子22を交換する必要がある。これに対し、第3の実施形態に係る汚損物質量測定装置10は、第2水晶振動子22を交換することなく長期間の使用を可能とする。なお、第3の実施形態に係る汚損物質検出センサ20の構成は第1の実施形態と同様である。
【0053】
図14は、第3の実施形態に係る汚損物質量算出装置30の構成を示す概略ブロック図である。第3の実施形態に係る汚損物質量算出装置30は、第1の実施形態の構成に加え、さらに検量線生成部41を備える。
検量線生成部41は、平滑化部34が算出した第1水晶振動子21の共振周波数の移動平均値と、塩分量演算部37が演算した塩分量とに基づいて、第1水晶振動子21の共振周波数から塩分量を求めるための第二検量線関数を生成する。
【0054】
図15は、第3の実施形態に係る汚損物質量測定装置10による対象物Oの汚損状況の監視方法を示すフローチャートである。
まず、計測データ保存部32は、汚損物質検出センサ20から第1水晶振動子21の共振周波数、第2水晶振動子22の共振周波数、温度および相対湿度を読み出し、読み出し時刻に関連付けて記憶する(ステップS51)。温度補正部33は、ステップS51で記録された温度と、データベース31に記録された温度特性関数とに基づいて、計測データ保存部32に記録された第1水晶振動子21および第2水晶振動子22の共振周波数を補正した補正周波数を、ステップS51の計測データに関連付けて計測データ保存部32に記録する(ステップS52)。
【0055】
平滑化部34は、計測データ保存部32に記録された第1水晶振動子21および第2水晶振動子22の補正周波数、並びに相対湿度の移動平均値を求め、ステップS51の計測データに関連付けて計測データ保存部32に記録する(ステップS53)。変動量演算部35は、ステップS53で算出した第2水晶振動子22の補正周波数の移動平均値から第1水晶振動子21の補正周波数の移動平均値を減算することで、第1水晶振動子21に対する第2水晶振動子22の周波数差分を求め、ステップS51の計測データに関連付けて計測データ保存部32に記録する(ステップS54)。
【0056】
センサ診断部39は、ステップS54で算出した周波数差分が第7閾値を超えるか否かを判定する(ステップS55)。周波数差分が第7閾値を超えない場合(ステップS55:NO)、変動量演算部35は、ステップS54で得られた周波数差分と、現在時刻から一定時間前の時刻に関連付けて計測データ保存部32に記録された周波数差分との差を、一定時間で除算することで、周波数の変動量を求める(ステップS56)。
【0057】
検量線決定部36は、ステップS53で算出した相対湿度の移動平均値をデータベース31が記憶する勾配導出関数に代入することで検量線の勾配を決定する(ステップS57)。塩分量演算部37は、ステップS57で決定した勾配に係る検量線と、ステップS56で算出した周波数の変動量とに基づいて、第2水晶振動子22に付着した塩分量を算出する(ステップS58)。塩分量演算部37は、算出した塩分量を、ステップS51の計測データに関連付けて計測データ保存部32に記録する(ステップS59)。
【0058】
他方、周波数差分が第7閾値を超える場合(ステップS55:YES)、検量線生成部41は、計測データ保存部32に記録された、第1水晶振動子21の補正周波数の移動平均値と塩分量との組み合わせに基づいて、第1水晶振動子21の共振周波数から塩分量を求めるための第二検量線関数を生成する(ステップS60)。検量線生成部41は、第二検量線関数をデータベース31に記録する。
【0059】
塩分量演算部37は、ステップS60で生成した第二検量線関数と、ステップS54で算出した第1水晶振動子21の補正周波数の移動平均値とに基づいて、第2水晶振動子22に付着した塩分量を算出する(ステップS61)。
【0060】
対象物診断部38は、ステップS58またはステップS61で算出した塩分量と閾値とを比較することで、対象物Oの汚損状態を推定する(ステップS62)。対象物診断部38は、対象物Oの汚損状態が重汚損状態以上であるか否かを判定する(ステップS63)。対象物Oの汚損状態が重汚損状態以上である場合(ステップS63:YES)、報知部40は、対象物Oの状態を確認を推奨するアラームを出力する(ステップS64)。
【0061】
また、対象物診断部38は、ステップS58またはステップS61で算出した塩分量の増加速度が第5閾値を超えるか否かを判定する(ステップS65)。塩分量の増加速度が第5閾値を超える場合(ステップS65:YES)、報知部40は、対象物Oの状態を確認を推奨するアラームを出力する(ステップS66)。
【0062】
センサ診断部39は、計測データ保存部32に記録された最も古い時刻に係る第1水晶振動子21の補正周波数と、ステップS53で算出した第1水晶振動子21の補正周波数の移動平均値との差が第6閾値を超えるか否かを判定する(ステップS67)。補正周波数の移動平均値との差が第6閾値を超える場合(ステップS67:YES)、報知部40は、汚損物質検出センサ20の清掃を促すアラームを出力する(ステップS68)。そして、汚損物質量算出装置30は処理をステップS51に戻し、対象物Oの監視を継続する。
【0063】
このように、対象物Oの環境における微粒子に対する汚損物質が占める割合が略一定である場合、第1水晶振動子21の共振周波数の変化、すなわち汚損物質および非汚損物質の堆積による重量変化から、汚損物質量を推定することができる。したがって、第3の実施形態に係る汚損物質量測定装置10によれば、第1銅電極221の飽和後にも、第1水晶振動子21のみを用いて汚損物質量を推定することができる。
【0064】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、汚損物質検出センサ20は、2つの水晶振動子を備え、その電極を構成する金属のイオン化傾向が異なる。これにより、汚損物質検出センサ20に付着する微粒子のうち、汚損物質の付着量が第1水晶振動子21と第2水晶振動子22との振動数の差として現れる。これにより、汚損物質検出センサ20を用いることで、汚損物質の付着量を精度よく測定することができる。
【0065】
〈コンピュータ構成〉
図16は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
コンピュータ50は、プロセッサ51、メインメモリ53、ストレージ55、インタフェース57を備える。
上述の汚損物質量算出装置30は、
図16に示すコンピュータ50に実装される。上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ55に記憶されている。プロセッサ51は、プログラムをストレージ55から読み出してメインメモリ53に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、プロセッサ51は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域をメインメモリ53に確保する。プロセッサ51の例としては、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、マイクロプロセッサなどが挙げられる。
【0066】
プログラムは、コンピュータ50に発揮させる機能の一部を実現するためのものであってもよい。例えば、プログラムは、ストレージに既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせ、または他の装置に実装された他のプログラムとの組み合わせによって機能を発揮させるものであってもよい。なお、他の実施形態においては、コンピュータ50は、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサ51によって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。このような集積回路も、プロセッサの一例に含まれる。
【0067】
ストレージ55の例としては、磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ55は、コンピュータ50のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インタフェース57または通信回線を介してコンピュータ50に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ50に配信される場合、配信を受けたコンピュータ50が当該プログラムをメインメモリ53に展開し、上記処理を実行してもよい。少なくとも1つの実施形態において、ストレージ55は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0068】
また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、当該プログラムは、前述した機能をストレージ55に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0070】
例えば、第1水晶振動子21の電極は金であり、第2水晶振動子22の電極は銅であるが、これに限られない。第2水晶振動子22の電極は、第1水晶振動子21の電極よりもイオン化傾向(標準電極電位)が低い金属であればよい。すなわち、第2水晶振動子22の電極は、第1水晶振動子21の電極と比較して、イオン性の汚損物質によって腐食が起こりやすい金属であることが好ましい。
【0071】
例えば、第1水晶振動子21の電極は、銀(標準電極電位:+0.799V)又は白金(標準電極電位:+1.188V)であってよい。第2水晶振動子22の電極は、アルミニウム(標準電極電位:-1.68V)であってもよい。
【符号の説明】
【0072】
10…汚損物質量測定装置 20…汚損物質検出センサ 21…第1水晶振動子 211…第1金電極 212…第2金電極 213…水晶板 214…支持板 215…発振回路 216…周波数計測回路 22…第2水晶振動子 221…第1銅電極 222…第2銅電極 223…水晶板 224…支持板 225…発振回路 226…周波数計測回路 23…温湿度センサ 232c…レール 24…筐体 241…本体部 241a…突起部 242…蓋部 242a…貫通孔 242b…保護カバー 30…汚損物質量算出装置 31…データベース 32…計測データ保存部 33…温度補正部 34…平滑化部 35…変動量演算部 36…検量線決定部 37…塩分量演算部 38…対象物診断部 39…センサ診断部 40…報知部 41…検量線生成部 50…コンピュータ 51…プロセッサ 53…メインメモリ 55…ストレージ 57…インタフェース A…汚損物質 B…非汚損物質 C…腐食生成物 O…対象物