(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163406
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂組成物の製造方法、難燃性樹脂成形品、難燃性樹脂筐体、及び電子機器
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241115BHJP
C08L 1/16 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078952
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安川 裕之
(72)【発明者】
【氏名】間簔 雅
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼村 友男
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002AB012
4J002AC021
4J002BB011
4J002BB061
4J002BB241
4J002BC021
4J002BD031
4J002BD121
4J002BE031
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4J002CF161
4J002CG011
4J002CH091
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4J002CL001
4J002CM041
4J002CN011
4J002CN031
4J002FB072
4J002FD132
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、靱性と弾性を兼備し、環境負荷の低い難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂組成物の製造方法、難燃性樹脂成形品、難燃性樹脂筐体、及び電子機器を提供することである。
【解決手段】本発明の難燃性樹脂組成物は、少なくとも、熱可塑性樹脂及び粒子を含有する難燃性樹脂組成物であって、前記粒子が、多糖類と、リン酸基を有する化合物との反応生成物を含有し、前記粒子の平均一次粒径が、1~1000nmの範囲内であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、熱可塑性樹脂及び粒子を含有する難燃性樹脂組成物であって、
前記粒子が、多糖類と、リン酸基を有する化合物との反応生成物を含有し、
前記粒子の平均一次粒径が、1~1000nmの範囲内である
ことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記多糖類が、酸性多糖類である
ことを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記多糖類が、塩基性多糖類である
ことを特徴とする請求項1に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記反応生成物が、糖骨格を構成する原子上に、少なくとも、酸性官能基、前記酸性官能基の塩、又は前記酸性官能基由来の基を有する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
前記酸性官能基が、前記リン酸基である
ことを特徴とする請求項4に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂の軟化点が、200℃以下である
ことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
前記多糖類の数平均分子量が、1,000~1,000,000の範囲内である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物の製造方法であって、
前記多糖類を、前記リン酸基を有する化合物に溶解し、その液中で反応させる工程、及び
有機溶媒中に添加することで、前記反応生成物を析出させる工程、を有する
ことを特徴とする難燃性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とする難燃性樹脂成形品。
【請求項10】
請求項9に記載の難燃性樹脂成形品を含むことを特徴とする難燃性樹脂筐体。
【請求項11】
請求項9に記載の難燃性樹脂成形品を具備することを特徴とする電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂組成物の製造方法、難燃性樹脂成形品、難燃性樹脂筐体、及び電子機器に関する。より詳しくは、靱性と弾性を兼備し、環境負荷の低い難燃性樹脂組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷を軽減させる観点から、バイオマス由来の材料で構成された樹脂組成物を用いることが推進されている。また、バイオマス由来の材料を主原料とすることを、「バイオベース」という。バイオベースの質量含有率は、高いほど好ましく、バイオベースの質量含有率が100%の樹脂組成物であることが最も好ましい。このような樹脂組成物を材料として用いた後、最終的にサーマルリサイクルする際に、二酸化炭素の排出量を増やさずに、かつ少ない燃焼残渣量でエネルギーが得られる。また、海洋プラスチック問題を起こしにくくし、樹脂材料を生分解させるコストも不要である。
【0003】
バイオベースの樹脂材料の開発や生産拡大が進められている。バイオベースの樹脂材料を電子機器の筐体に用いる場合、難燃剤を添加して難燃性を付与する必要がある。難燃剤のうち、高性能なハロゲン系難燃剤や、その助剤として用いられることの多いアンチモン化合物は、環境負荷が高く、廃絶することが求められている。
一方、金属水和物やリン系難燃剤は、環境負荷が低い。しかし、これらは難燃効果が弱いため、樹脂材料における含有率を高める必要があるが、含有率を高めると、樹脂材料の強度(靱性や弾性)が低下してしまう問題があった。つまり、環境負荷が低い樹脂材料において、難燃性と樹脂材料の強度を兼備させることは難しい問題であった。また、金属水和物は、サーマルリサイクル時に、排出が必要な燃焼残渣を生じるという問題があった。
【0004】
特許文献1では、天然多糖類の側鎖にリン酸エステルを付加してなるリン含有多糖類を難燃剤として含有する難燃性樹脂組成物についての技術が開示されている。しかし、難燃性樹脂組成物の衝撃強度への要求は高まる一方であり、更なる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、靱性と弾性を兼備し、環境負荷の低い難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂組成物の製造方法、難燃性樹脂成形品、難燃性樹脂筐体、及び電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討した結果、少なくとも、熱可塑性樹脂及び粒子を含有する難燃性樹脂組成物において、前記粒子が、多糖類と、リン酸基を有する化合物との反応生成物を含有し、前記粒子の平均一次粒径が、1~1000nmの範囲内であることにより、靱性と弾性を兼備し、かつ環境負荷を低くすることができることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0008】
1.少なくとも、熱可塑性樹脂及び粒子を含有する難燃性樹脂組成物であって、
前記粒子が、多糖類と、リン酸基を有する化合物との反応生成物を含有し、
前記粒子の平均一次粒径が、1~1000nmの範囲内である
ことを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【0009】
2.前記多糖類が、酸性多糖類である
ことを特徴とする第1項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0010】
3.前記多糖類が、塩基性多糖類である
ことを特徴とする第1項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0011】
4.前記反応生成物が、糖骨格を構成する原子上に、少なくとも、酸性官能基、前記酸性官能基の塩、又は前記酸性官能基由来の基を有する
ことを特徴とする第1項又は第2項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0012】
5.前記酸性官能基が、前記リン酸基である
ことを特徴とする第4項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0013】
6.前記熱可塑性樹脂の軟化点が、200℃以下である
ことを特徴とする第1項から第3項までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0014】
7.前記多糖類の数平均分子量が、1,000~1,000,000の範囲内である
ことを特徴とする第1項又は第2項に記載の難燃性樹脂組成物。
【0015】
8.第1項から第3項までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物の製造方法であって、
前記多糖類を、前記リン酸基を有する化合物に溶解し、その液中で反応させる工程、及び
有機溶媒中に添加することで、前記反応生成物を析出させる工程、を有する
ことを特徴とする難燃性樹脂組成物の製造方法。
【0016】
9.第1項から第3項までのいずれか一項に記載の難燃性樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とする難燃性樹脂成形品。
【0017】
10.第9項に記載の難燃性樹脂成形品を含むことを特徴とする難燃性樹脂筐体。
【0018】
11.第9項に記載の難燃性樹脂成形品を具備することを特徴とする電子機器。
【発明の効果】
【0019】
本発明の上記手段により、靱性と弾性を兼備し、環境負荷の低い難燃性樹脂組成物、難燃性樹脂組成物の製造方法、難燃性樹脂成形品、難燃性樹脂筐体、及び電子機器を提供することができる。
【0020】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0021】
分子中に多くのヒドロキシ基を有する多糖類は、バイオマス由来の材料である。多糖類は、高温下で脱水反応を生じさせやすく、燃焼時に、断熱性とガスバリア性によって燃焼の継続を阻害する炭化層を形成しやすい。特に、多糖類の分子に、酸性官能基などを有する酸触媒が近接すると、炭化が促進されるため、特定量の多糖類の添加により、樹脂組成物に難燃性を付与できる。ただし、十分な難燃性を得るには、多糖類の添加量は少なくなく、多糖類の添加量が多いために、応力集中点が発生し、衝撃強度が低下すると考えられる。
【0022】
ほとんどの多糖類の市販品は、その粒径がおよそ10μm以上と大粒径であり、かつ強固である。そのため、樹脂との混練では、多糖類は分割されにくく、多糖類は、大粒径のまま、樹脂組成物に含有される。この場合、多糖類とマトリクスである樹脂との界面の総面積は、比較的小さくなり、強度の観点で不十分である。特に、多糖類の含有量が多い場合、多糖類の粒子同士の接触点が生じてしまう。この接触点は、応力が集中しやすく、応力集中点が発生する原因の一つであると考えられる。つまり、多糖類と樹脂との界面の総面積が小さいことにより、その界面で剥離しやすく、衝撃強度や曲げ強度が低下しやすいと考えられる。
【0023】
接触点の発生を抑制する方法としては、多糖類の粒子同士の接触点を少なくする方法が挙げられる。すなわち、相溶化剤等の可塑作用を有する添加剤を添加して、樹脂と多糖類を均一に混ぜ合わせる方法が挙げられる。しかし、相溶化剤等を添加すると、その可塑作用により樹脂組成物の曲げ強度は低下しやすい。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、多糖類と、リン酸基を有する化合物(リン酸)との反応生成物、を含有する。すなわち、多糖類と酸触媒を近接させることにより、脱水縮合反応による炭化が促進され、難燃性を向上できると考えられる。また、多糖類分子内に取り込まれたリン酸は、燃焼時に脱水して架橋に組み込まれ、炭化層を強化し、衝撃強度を向上できると考えられる。さらに、ハロゲンを含有せずに難燃性を向上できるため、環境負荷を低減できる。加えて、難燃性が向上することにより、リン系難燃剤や金属水和物等の併用量を低減できるため、これらの難燃剤の併用による衝撃強度の低下を抑制できる。
【0025】
そして、この反応生成物を含有する粒子を小粒径とする。具体的には、平均一次粒径を、1~1000nmの範囲内とする。これにより、炭化層のムラが低減、すなわち炭化層の均一性が向上し、難燃性をより向上できると考えられる。小粒径とすることにより、大粒径と比較して少量で同程度の難燃性を発揮できるため、樹脂組成物への含有量を低減できる。また、小粒径とすることにより、多糖類と樹脂との界面の総面積が著しく増大し、界面での剥離を抑制でき、衝撃強度と曲げ強度を向上できると考えられる。
【0026】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、ハロゲンを用いず、かつバイオベース含有率が高い材料を用いながらも、難燃性と、靱性(衝撃強度)と、弾性(曲げ強度)のトリレンマを解消できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の難燃性樹脂成形品の適用例としての大型複写機の概略斜視図
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の難燃性樹脂組成物は、少なくとも、熱可塑性樹脂及び粒子を含有する難燃性樹脂組成物であって、前記粒子が、多糖類と、リン酸基を有する化合物との反応生成物を含有し、前記粒子の平均一次粒径が、1~1000nmの範囲内であることを特徴とする。
この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0029】
本発明の実施形態としては、燃焼時の脱水縮合反応によりチャーの形成が促進され、その炭化層が熱を遮断し、可燃性ガスの拡散を遮るため、難燃性が向上する観点から、前記多糖類が、酸性多糖類であることが好ましい。
【0030】
本発明の実施形態としては、燃焼時の脱水縮合反応によりチャーの形成が促進され、その炭化層が熱を遮断し、可燃性ガスの拡散を遮るため、難燃性が向上する観点から、前記多糖類が、塩基性多糖類であることが好ましい。
【0031】
本発明の実施形態としては、燃焼時の脱水縮合反応によりチャーの形成が促進され、その炭化層が熱を遮断し、可燃性ガスの拡散を遮るため、難燃性が向上する観点から、前記反応生成物が、糖骨格を構成する原子上に、少なくとも、酸性官能基、前記酸性官能基の塩、又は前記酸性官能基由来の基を有することが好ましい。
【0032】
本発明の実施形態としては、燃焼時の脱水縮合反応によりチャーの形成が促進され、その炭化層が熱を遮断し、可燃性ガスの拡散を遮るため、難燃性が向上する観点から、前記酸性官能基が、前記リン酸基であることが好ましい。
【0033】
本発明の実施形態としては、容易に成形できる観点から、前記熱可塑性樹脂の軟化点が、200℃以下であることが好ましい。
【0034】
本発明の実施形態としては、難燃性、靱性及び弾性いずれも優れる観点から、前記多糖類の数平均分子量が、1,000~1,000,000の範囲内であることが好ましい。
【0035】
本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法は、前記難燃性樹脂組成物の製造方法であって、前記多糖類を、前記リン酸基を有する化合物に溶解し、その液中で反応させる工程、及び有機溶媒中に添加することで、前記反応生成物を析出させる工程、を有することを特徴とする。
【0036】
本発明の難燃性樹脂成形品は、前記難燃性樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とする。
本発明の難燃性樹脂筐体は、前記難燃性樹脂成形品を含むことを特徴とする。
本発明の電子機器は、前記難燃性樹脂成形品を具備することを特徴とする
【0037】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0038】
1.難燃性樹脂組成物の概要
本発明の難燃性樹脂組成物は、少なくとも、熱可塑性樹脂及び粒子を含有する難燃性樹脂組成物であって、前記粒子が、多糖類と、リン酸基を有する化合物との反応生成物を含有し、前記粒子の平均一次粒径が、1~1000nmの範囲内であることを特徴とする。
【0039】
「難燃性」とは、耐熱性の一つであり、燃焼する速さは遅いが、ある程度は燃焼し続ける性質のことをいう。
具体的には、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94規格において合格基準を満たす、詳しくは、UL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)において、UL94HBで合格基準を満たすことをいう。加えて、UL94VでV-2の基準を満たすことが好ましく、V-1の基準を満たすことがより好ましく、V-0の基準を満たすことが更に好ましい。
【0040】
「燃焼」とは、光と熱の発生を伴う酸化反応のことをいい、燃焼するためには、可燃物、酸素供給源及び点火源の三要素が必要である。
樹脂(可燃物)においては、いったん火を点ける(点火源)と、下記のア~ウの現象が繰り返され、燃焼が継続する。
ア)高温により樹脂(可燃物)が溶融及び分解し、多量の可燃性ガスが発生する。
イ)高温環境下により、可燃性ガスがラジカル化し、空気中の酸素(酸素供給源)との化学反応が促進されるため、相当量の光と熱が発生する。
ウ)発生した熱により高温が維持されるため、樹脂の分解が継続する。
【0041】
したがって、温度を下げる、酸素の供給を断つ、可燃性ガスを除去する、のいずれかを行うことにより、燃焼を止めることができる。そして、火を点けた際にこのような現象が生じるよう樹脂を設計することで、樹脂に難燃性を付与することができる。
【0042】
具体的には、例えば、樹脂の内部から水蒸気を発生させて温度を下げる、すなわち、多量の吸熱による冷却を行うことが挙げられる。樹脂の内部から多量の不燃性ガスを発生させ酸素濃度を下げて酸素の供給を断つことが挙げられる。樹脂の表面を炭化させてバリヤー層を形成し酸素の供給を断つことなどが挙げられる。なお、「バリヤー層」は、「チャー」又は「炭化層」ともいう。
【0043】
本発明においては、樹脂組成物が多糖類を含有することにより、上記現象を発現させることができ、難燃性を付与することができると考えられる。また、多糖類を、リン酸基を有する化合物との反応生成物の状態で含有することにより、難燃性を向上できると考えられる。つまり、多糖類を、リン酸基を有する化合物との反応生成物の状態で含有することにより、多糖類の難燃性と、リンの難燃性の相乗効果が得られると考えられる。さらに、この反応生成物を含有する粒子の平均一次粒径を、1~1000nmの範囲内とすることにより、炭化層の均一性が向上し、難燃性をより向上できると考えられる。
【0044】
樹脂組成物は、適当な形態及び形状に成形することにより、電子機器等における筐体や部品としても使用できる。
【0045】
2.難燃性樹脂組成物の構成
本発明の難燃性樹脂組成物は、少なくとも、熱可塑性樹脂及び粒子を含有する。また、必要に応じて、その他の難燃剤等を更に含有してもよい。
【0046】
以下、難燃性樹脂組成物を構成する各材料について説明する。なお、環境負荷の低減の観点から、本発明の難燃性樹脂組成物に用いられる材料は、バイオマス材料であることが好ましいが、バイオマス材料以外の材料を用いてもよい。
【0047】
難燃性樹脂組成物を構成する材料は、エネルギー分散型X線分光法(EDS)により、分析できる。EDSでは、試料に電子線を当て、試料に含有される原子から出てきた特性X線を半導体検出器で検出し、そのエネルギーレベルと強度から、試料に含有される元素の種類及び含有率を求めることができる。
【0048】
難燃性樹脂組成物が、ハロゲン難燃剤やアンチモン難燃剤を含有するかどうかは、波長分散型X線分光法(WDS)により分析できる。
【0049】
バイオベース質量含有率は、全原材料に占めるバイオマス材料の含有率(質量%)のことをいい、ISO 16620-4に準拠して算出できる。難燃性樹脂組成物のバイオベース質量含有率は、原材料から算出できる。その他、放射性炭素分析又は元素分析によって測定できる。
【0050】
本発明において、多糖類とリン酸基を有する化合物との反応生成物は、平均一次粒径が、1~1000nmの範囲内の粒子の形態で、難燃性樹脂組成物に含有される。なお、当該粒子は、反応生成物のみで構成されていても、反応生成物とその他の成分で構成されていてもよい。以下、当該粒子を、「多糖類含有ナノ粒子」ともいう。
【0051】
(1)多糖類含有ナノ粒子
本発明に係る多糖類含有ナノ粒子は、多糖類と、リン酸基を有する化合物との反応生成物を含有し、平均一次粒径が、1~1000nmの範囲内である。
【0052】
本発明において、「多糖類と、リン酸基を有する化合物との反応生成物」とは、多糖類と、リン酸基を有する化合物とを反応させ、最終的に得られる化合物全体のことをいう。以下、多糖類と、リン酸基を有する化合物との反応生成物のことを、単に、「反応生成物」ともいう。
【0053】
反応生成物には、リン酸基が導入された多糖類、多糖類とリン酸基を有する化合物との塩、未反応の多糖類とリン酸基を有する化合物等が含まれると考えられる。
リン酸基が導入された多糖類としては、多糖類が有するヒドロキシ基とリン酸基が反応して得られるリン酸エステルが考えられる。また、多糖類が有するヒドロキシ基以外の官能基とリン酸基が反応して得られる化合物が考えられる。また、カルボキシ基とリン酸基からなる酸無水物も形成されると考えられる。
多糖類とリン酸基を有する化合物との塩としては、多糖類が有する塩基性の官能基とリン酸基により生成する塩が考えられる。
【0054】
難燃性、靱性及び弾性の観点から、多糖類含有ナノ粒子の含有量は、難燃性樹脂組成物の全質量に対して、5~50質量%の範囲内であることが好ましく、10~35質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0055】
(1.1)多糖類含有ナノ粒子の構成
多糖類、多糖類とリン酸基を有する化合物との反応生成物について、順に説明する。
【0056】
(1.1.1)多糖類
本発明において、「多糖類」とは、多数の単糖が、グリコシド結合により脱水縮合した物質のことをいい、その総称である。多糖類の構成単位となる単糖の種類は、一種単独であっても、二種以上併用してもよい。
【0057】
本発明において、「単糖」とは、それ以上加水分解できない糖のことをいい、その総称である。構造としては、アルデヒド基又はケトン基をもつ鎖式ポリヒドロキシ化合物であり、通常、分子内でヘミアセタール化した環状の形で存在する。当該単糖としては、五炭糖(ペントース)又は六炭糖(ヘキソース)であることが好ましく、六炭糖であることがより好ましい。また、本発明において、「糖骨格」とは、単糖の骨格構造のことをいう。
【0058】
多糖類の重合度は、50~20000の範囲内であることが好ましく、200~1500の範囲内であることがより好ましく、200~1100の範囲内であることが更に好ましい。
【0059】
多糖類の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で求められるポリスチレン基準の重量平均分子量において、1万~25万の範囲内であることが好ましく、2万~8万の範囲内であることがより好ましい。
【0060】
多糖類は、酸性多糖類であっても、塩基性多糖類であっても、中性多糖類であってもよい。本発明では、多糖類の分子中において、酸性官能基等を有するものを「酸性多糖類」とする。塩基性官能基等を有し、かつ酸性官能基等を有さないものを「塩基性多糖類」とする。酸性官能基等及び塩基性官能基等を両方とも有さないものを、「中性多糖類」とする。つまり、酸性官能基等及び塩基性官能基等を両方有する多糖類は、酸性多糖類に該当する。なお、上記酸性官能基及び塩基性官能基には、多糖類が有するヒドロキシ基は含まれない。
【0061】
(1.1.1.1)酸性多糖類
本発明において、酸性官能基、酸性官能基の塩、又は酸性官能基由来の基を有する多糖類のことを、「酸性多糖類」ともいう。本発明では、酸性官能基、酸性官能基の塩、及び酸性官能基由来の基のことを、まとめて、「酸性官能基等」ともいう。酸性多糖類分子において、酸性官能基等を一種単独で有していてもよいし、二種以上有していてもよい。
【0062】
多糖類が、酸性多糖類であることにより、難燃性が更に向上すると考えられる。
その発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、酸性多糖類は、酸性官能基等を有しているため、プロトン(H+)が離脱しやすい。また、当該プロトンと多糖類に含まれるヒドロキシ基との距離が比較的近い。そのため、脱水縮合反応がより促進されると考えられる。加えて、水蒸気の発生により樹脂の温度を下げることができると考えられる。
【0063】
本発明において、「酸性」とは、「酸として機能する」ことをいい、「酸として機能する」とは、結合に関与する電子対を受け取る受容体(アクセプター)として機能することをいう(ルイスの定義)。当該機能には、プロトン(H+)の供与体としての機能も含まれる(ブレンステッドの定義)。
【0064】
例えば、多糖類の構成単位となる単糖の種類が一種(A)のみである場合、糖骨格には、単糖Aの骨格構造が該当する。この場合、単糖Aの骨格構造を構成する原子上に、酸性官能基、酸性官能基の塩、又は酸性官能基由来の基を有することが好ましい。
【0065】
多糖類の構成単位となる単糖の種類が二種(A及びB)である場合、糖骨格には、単糖A及びBの骨格構造が該当する。この場合、単糖A又は単糖Bの骨格構造のいずれかにおいて、構成する原子上に、酸性官能基、酸性官能基の塩、又は酸性官能基由来の基を有することが好ましい。
【0066】
多糖類の構成単位となる単糖の種類が三種以上である場合も同様に、糖骨格には、各単糖の骨格構造が該当する。そして、各単糖の骨格構造のいずれかにおいて、構成する原子上に、酸性官能基、酸性官能基の塩、又は酸性官能基由来の基を有することが好ましい。
なお、多糖類は、必ずしも繰り返し単位を有する構造である必要はない。
【0067】
本発明において、バイオマス材料を用いることが好ましい観点から、多糖類は、天然の多糖類を用いることが好ましい。ただし、本発明に係る多糖類は、天然由来のものに限定されない。また、天然の多糖類の一部を改質したものであってもよい。具体的には、酸性官能基等を有さない多糖類に、酸性官能基等を導入してもよく、また、必要に応じて、誘導体としてもよい。
【0068】
多糖類の誘導体としては、ある部位の原子を異なる原子や置換基で置き換えた化合物が挙げられる。具体的には、多糖類における水素原子を、ハロゲノ基(ハロゲン原子)又は炭化水素基等の置換基で置き換えた化合物等が挙げられる。
また、官能基を介して他の化合物又は当該多糖類の他の分子と結合して得られる化合物が挙げられる。具体的には、多糖類におけるヒドロキシ基と、ヒドロキシ基との反応性を有する官能基を有する化合物と、を反応させて得られるエステル誘導体、エーテル誘導体等、及び後述する架橋多糖類が挙げられる。
【0069】
酸性官能基としては、例えば、カルボキシ基(-COOH)、スルホ基(-SO3H)、チオカルボキシ基(-CSOH)、スルフィノ基(-SO2H)、スルフェノ基(-SOH)、ホスホ基(-OP(=O)(OH)2)、ホスホノ基(-P(=O)(OH)2)、ボロノ基(-B(OH)2)等が挙げられる。中でも、難燃性の観点から、カルボキシ基又はスルホ基であることが好ましい。なお、酸性官能基は、スルホ基を有する酸性官能基、例えば、スルホ基が酸素原子に結合した酸性官能基(-O-SO3H)であってもよい。
【0070】
酸性官能基の塩としては、Li、Na、K等のアルカリ金属との塩、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属との塩、及びアルキルアンモニウム塩が挙げられる。アルキルアンモニウム塩は、「R4N+-」で表され、Rはそれぞれ独立に、水素原子、又は炭素数が1~3の範囲内であるアルキル基である。ただし、4つのRのうちの少なくとも1つはアルキル基である。
【0071】
中でも、二価以上のカチオンとの塩であることが好ましい。二価以上のカチオンとの塩であることにより、分子内又は分子間において架橋構造が形成され、剛直な構造となる。そして、耐熱性が飛躍的に向上し、溶融混練時や成形時において樹脂組成物の変形を防ぐことができ、耐衝撃性や外観に優れる。
【0072】
また、更に難燃性に優れる観点から、酸性多糖類における単糖単位当たりの酸性官能基等の合計数が、0.20~1.50の範囲内であることが好ましく、0.60~1.20の範囲内であることがより好ましく、0.60~1.00の範囲内であることが更に好ましい。以下、酸性多糖類における単糖単位当たりの酸性官能基等の合計数を、単に、「酸性官能基数」ともいう。
【0073】
酸性官能基数が0.20以上であることにより、脱水縮合反応が生じやすく、難燃性を向上させることができる。また、1.50以下であることにより、樹脂組成物中における酸性多糖類の分散性の低下を抑制できるため、樹脂組成物の表面に均一に炭化層を形成でき、難燃性を向上させることができる。
【0074】
酸性多糖類は、一種単独で用いても、二種以上併用してもよい。酸性多糖類を二種以上併用する場合は、酸性多糖類全体としての酸性官能基数が上記範囲内であることが好ましい。ただし、組み合わせる個々の酸性多糖類の酸性官能基数は、必ずしも上記範囲内である必要はない。組み合わせて得られる酸性多糖類全体において、酸性官能基数が上記範囲内となるように、個々の酸性多糖類を選択すればよい。
【0075】
つまり、酸性多糖類が二種以上の酸性多糖類の組み合わせからなる場合、組み合わせる個々の酸性多糖類は、必ずしも酸性官能基数が0.20~1.50の範囲内である必要はない。組み合わせて得られる酸性多糖類全体において、酸性官能基数が0.20~1.50の範囲内となるように、個々の酸性多糖類を選択すればよい。酸性官能基数は、酸性官能基等を適宜導入又は分離することにより、調整できる。
【0076】
酸性多糖類は、環境負荷を低減する観点から、天然に存在する酸性多糖類であることが好ましい。また、天然に存在する多糖類に、酸性官能基等を適宜導入又は分離することにより、好適な酸性官能基数に調整してもよい。
【0077】
酸性官能基を有する単糖、具体的には、カルボキシ基を有する単糖としては、例えば、グルクロン酸、イズロン酸、マンヌロン酸、カラクツロン酸等のウロン酸が挙げられる。また、スルホオキシ基を有する単糖としては、ガラクトース-3-硫酸等が挙げられる。
酸性官能基及び塩基性官能基を両方有する単糖としては、例えば、ムラミン酸、N-アセチルグルコサミン-4-硫酸、N-アセチルガラクトサミン-4-硫酸、ノイラミン酸、N-アセチルノイラミン酸等が挙げられる。
なお、酸性官能基の塩を有する単糖としては、これらの塩が挙げられる。酸性官能基由来の基を有する単糖としては、これらの誘導体が挙げられる。
【0078】
多糖類の構成単位となる単糖の種類は、特に制限されないが、単糖の種類が二種以上である場合、少なくとも一種が上記単糖であることが好ましい。その他の単糖については、上記単糖に該当するものであっても、該当しないものであってもよい。
【0079】
上記単糖に該当しないその他の中性の単糖としては、例えば、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、キシルロース、リブロース、デオキシリボース、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガトース、フコース、フクロース、ラムノース等が挙げられる。
【0080】
また、その他の単糖としては、塩基性官能基等を有する単糖であってもよい。塩基性官能基を有する単糖としては、例えば、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン等が挙げられる。塩基性官能基の塩を有する単糖としては、これらの塩が挙げられ、塩基性官能基由来の基を有する単糖としては、これらの誘導体が挙げられる。
【0081】
誘導体としては、硫酸等の無機塩や酢酸等の有機酸によるN置換体又は塩が挙げられる。中でも、有機酸によるN置換体であることが好ましく、N-アシル置換体であることがより好ましい。
【0082】
N-アシル置換体としては、例えば、N-ホルミル置換体、N-アセチル置換体、N-プロピオニル置換体、N-ブチリル置換体、N-イソブチリル置換体、N-バレリル置換体、N-イソバレリル置換体、N-ピバロイル置換体等が挙げられる。中でも、N-アセチル置換体であることが好ましく、N-アセチル置換体としては、例えば、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルマンノサミン等が挙げられる。
【0083】
上記単糖により構成される酸性多糖類としては、例えば、ペクチン、アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、アラビアガム、カラヤガム、オオバコ、キシラン、アラビン酸、トラガカント酸、ハバ(khava)ガム、亜麻仁酸、セルロン酸、リケニンウロン酸、ジェランガム、ラムザンガム、ウェランガム、カラギーナン、グリコサミノグリカン類(例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン-4-硫酸塩、コンドロイチン-6-硫酸塩、デルマタン硫酸塩、ケラチン硫酸塩、及びヘパリン)及びその塩が挙げられる。
【0084】
中でも、天然の酸性多糖類である観点から、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム又はジェランガムであることが好ましく、さらに、難燃性及び耐衝撃性が向上する観点から、アルギン酸カルシウムであることがより好ましい。
【0085】
酸性多糖類における単糖単位当たりの酸性官能基数は、分子構造式からの算出や、中和滴定法による測定及び算出により求められる。
以下、アルギン酸及びカラギーナンにおける分子構造式と、分子構造式から酸性官能基数を算出する方法について説明する。
【0086】
例えば、アルギン酸は下記式(A)で分子構造が示される。式(A)のとおり、アルギン酸が有する酸性官能基はカルボキシ基(-COOH)である。式(A)における分子構造からアルギン酸の酸性官能基数は、1.00とすることができる。
【0087】
【0088】
また、例えば、カラギーナンとしては、下記式(C1)で分子構造が表されるκカラギーナン、下記式(C2)で分子構造が表されるιカラギーナン、下記式(C3)で分子構造が表されるλカラギーナンの3種類がある。式(C1)~(C3)のとおり、カラギーナンが有する酸性官能基は、スルホ基、より詳細には、スルホ基が酸素原子に結合した酸性官能基(-O-SO3H)である。式(C1)~(C3)においては、当該酸性官能基が電離した状態(-OSO3-)で記載されている。
【0089】
式(C1)における分子構造からκカラギーナンの酸性官能基数は、0.50とすることができ、式(C2)における分子構造からιカラギーナンの酸性官能基数は、1.00とすることができる。式(C3)中、典型的には、RはH(30%)又はSO3-(70%)とされ、式(C3)における分子構造からλカラギーナンの酸性官能基数は、1.35とすることができる。
【0090】
【0091】
また、酸性多糖類が二種以上の酸性多糖類の組合せからなる場合の酸性官能基数は、各酸性多糖類における単糖単位当たりの酸性官能基数とモル数比から、次式(1)及び(2)を用いて求めることができる。
式(1):酸性官能基数=A1×R1+A2×R2+B3×R3+…An×Rn
式(2):Rn=Bn/(B1+B2+B3+…Bn)
【0092】
ただし、各記号については、以下のとおりである。
An:各酸性多糖類における単糖単位当たりの酸性官能基数
Bn:各酸性多糖類における単糖単位当たりのモル数(各酸性多糖類の含有質量を、単糖の平均分子量で割って算出したもの)
Rn:各酸性多糖類における単糖単位当たりのモル数比
なお、nは、酸性多糖類の種類数に対応する。
【0093】
また、酸性官能基数は、以下の方法でも求めることができる。
難燃性樹脂組成物中に含有された酸性多糖類について酸性官能基数を求める場合は、まず、適当な方法で難燃性樹脂組成物から酸性多糖類を抽出する。抽出された酸性多糖類について、熱重量分析、赤外分光法(IR)等にて分子構造を特定する。
【0094】
〔酸性官能基数の測定方法〕
酸性多糖類における単糖単位当たりの酸性官能基数は、例えば中和滴定法により測定できる。中和滴定法による測定では、抽出された酸性多糖類を約1g精秤した後スラリーとし、強酸性イオン交換樹脂で処理する。次いで、0.1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHの変化を観察し、滴定曲線を得る。滴定開始から滴定曲線の変曲点までに必要とした水酸化ナトリウムのモル数が、滴定に使用した酸性多糖類の酸のモル数と等しくなる。得られた酸のモル数と分子構造から単糖単位当たりの酸性官能基数を算出できる。
【0095】
また、カルボキシメチルセルロースにおいては、カルボキシメチル基の置換度を測定することにより、酸性官能基数を算出できる。
カルボキシメチルセルロースは、セルロースにカルボキシメチル基を導入して酸性多糖類としたものである。また、カルボキシメチルセルロースは、製造条件を調整することで、酸性官能基数を好適な範囲内に調整することができる。
【0096】
カルボキシメチルセルロースは、公知の製造方法で製造することができる。具体的には、特開2000-34301号公報に記載された、セルロースとアルカリとを温度20~50℃の範囲内で反応させてアルカリセルロースを生成させる工程と、アルカリセルロースとモノクロロ酢酸との反応によりカルボキシメチルセルロースを生成させる工程とを有する方法により製造できる。
【0097】
また、別の方法でも製造できる。例えば、特開2012-12553号公報に記載された、セルロースとアルカリ剤とモノハロ酢酸又はその塩とを混合した後、40~90℃の範囲内で加熱して反応させる方法により製造できる。
【0098】
いずれの方法においても、セルロースに対するモノクロロ酢酸又はモノハロ酢酸の添加量を調整することで、得られるカルボキシメチルセルロースの酸性官能基数を調整できる。
【0099】
カルボキシメチルセルロースの構造式は、例えば、下記一般式(CMC)で表すことができる。式(CMC)中、Rは、それぞれ独立に、H又はCH2COOHを表す。例えば、分子内で平均した際に、式(CMC)中のRの0.2~1.5個がCH2COOHとなるように調整することにより、より難燃性に優れたカルボキシメチルセルロースとすることができる。
【0100】
【0101】
セルロースに酸性官能基等を導入した酸性多糖類として、カルボキシメチルセルロース以外に、カルボキシアルキル(例えば、炭素数が2~3の範囲内)セルロース、スルホエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート等が挙げられる。また、本発明においては、セルロース以外の酸性官能基等を有しない多糖類、例えば、デンプン、アガロース、グァーガム等に、酸性官能基等を導入した酸性多糖類を用いることもできる。
【0102】
〔カルボキシメチル基の置換度の測定方法〕
カルボキシメチルセルロースにおいては、カルボキシメチル基の置換度を測定することにより、酸性官能基数を算出することができる。以下に、その方法を示す。なお、他の酸性多糖類についても、以下の方法を参考にして酸性官能基数を算出することができる。
【0103】
カルボキシメチル基の置換度は、試料中のカルボキシメチルセルロースを中和するのに必要な水酸化ナトリウム等の塩基の量を測定して、算出できる。なお、カルボキシメチルエーテル基が塩の形態である場合には、測定前に予めカルボキシメチルセルロースに変換しておく。
【0104】
(カルボキシメチルセルロースへの変換)
試料約2.0gを精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。三角フラスコに、硝酸メタノール(メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液)100mLを加える。混合物を、室温で3時間振とうし、カルボキシメチルセルロース塩をカルボキシメチルセルロースに変換する。
【0105】
(カルボキシメチルセルロースの置換度の測定)
絶乾したカルボキシメチルセルロースを約1.5g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れ、80%メタノール15mLでカルボキシメチルセルロースを湿潤させる。その後、三角フラスコに、0.1Nの水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を100mL加え、室温で3時間振とうする。この溶液について、指示薬としてフェノールフタレインを用いて、0.1Nの硫酸(H2SO4)で過剰のNaOHを逆滴定する。
【0106】
カルボキシメチルセルロースの置換度を、次式(i)及び(ii)を用いて算出する。
式(i):A=(100×f1-a×f2)/試料の質量(g)
式(ii):置換度=(162×A)/(10000-58×A)
【0107】
ただし、各記号及び数値については、以下のとおりである。
A:試料(絶乾したカルボキシメチルセルロース)1gの中和に要する0.1Nの水酸化ナトリウム溶液の量(mL)
a:0.1Nの硫酸の滴定量(mL)
f1:0.1Nの水酸化ナトリウム溶液のファクター
f2:0.1Nの硫酸のファクター
100:0.1Nの水酸化ナトリウム溶液の使用量(mL)
162:無水グルコース(C6H10O5)の分子量
58:CH2COOH(分子量59)とH(分子量1)との分子量の差
【0108】
酸性多糖類の分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で求められるポリスチレン基準の数平均分子量において、1,000~1,000,000の範囲内であることが好ましく、1000~80万の範囲内であることがより好ましい。数平均分子量が、1,000以上であることにより、難燃性樹脂組成物に強度を付与できる。また、1,000,000以下であることにより、多糖類分子のヒドロキシ基と、リン酸基が隣接し、十分な難燃性が得られる。
【0109】
酸性多糖類は、市販品を用いてもよい。
酸性多糖類の市販品としては、例えば、「キミカアシッドSA」(アルギン酸、キミカ社製)、「スノーアルギンSAW-80」(アルギン酸カルシウム、キミカ社製)、「キミカアルギンI-3G」(アルギン酸ナトリウム、キミカ社製)、「カラギーナンWG-108」(カラギーナン、三晶社製)、「ペクチン,かんきつ類由来」(ペクチン、富士フイルム和光純薬社製)、「キサンタンガム」(キサンタンガム、東京化成工業社製)、「ゲランガム」(ジェランガム、富士フイルム和光純薬社製)、「Aqualon(登録商標)CMC」(カルボキシメチルセルロース、ASHland社製)等が挙げられる。
【0110】
(1.1.1.2)塩基性多糖類
本発明において、塩基性官能基、塩基性官能基の塩、又は塩基性官能基由来の基を有する多糖類のうち、酸性多糖類には該当しないもののことを、「塩基性多糖類」ともいう。本発明では、塩基性官能基、塩基性官能基の塩、及び塩基性官能基由来の基のことを、まとめて、「塩基性官能基等」ともいう。塩基性多糖類分子において、塩基性官能基等を一種単独で有していてもよいし、二種以上有していてもよい。
【0111】
多糖類が、塩基性多糖類であることにより、難燃性が更に向上すると考えられる。
その発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、塩基性官能基等を有することにより、燃焼時に発生する不活性ガスによる燃焼阻害作用と、脱水縮合反応の促進作用があることによると考えられる。
【0112】
塩基性官能基を有する単糖としては、例えば、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミン等が挙げられる。塩基性官能基の塩を有する単糖としては、これらの塩が挙げられ、塩基性官能基由来の基を有する単糖としては、これらの誘導体が挙げられる。
【0113】
誘導体としては、硫酸等の無機塩や酢酸等の有機酸によるN置換体又は塩が挙げられる。中でも、有機酸によるN置換体であることが好ましく、上記N-アシル置換体であることがより好ましい。
【0114】
塩基性多糖類の構成単位となる単糖の種類が二種以上である場合、少なくとも一種が上記塩基性官能基等を有する単糖であることが好ましい。その他の単糖については、上記塩基性官能基等を有する単糖に該当するものであっても、該当しないものであってもよい。上記塩基性官能基等を有する単糖に該当しないその他の単糖としては、上記中性の単糖が挙げられる。
【0115】
上記塩基性官能基等を有する単糖により構成される塩基性多糖類としては、例えば、キトサン、キチン等が挙げられる。
【0116】
(1.1.1.3)中性多糖類
本発明において、酸性官能基等及び塩基性官能基等を両方とも有さない多糖類のことを「中性多糖類」ともいう。
中性多糖類の構成単位となる単糖としては、上記中性の単糖が挙げられる。
中性多糖類としては、セルロース、タマリンドシードガム、グァーガム、ローカストビーンガム、デンプン、プルラン等が挙げられる。
【0117】
(1.1.2)多糖類とリン酸基を有する化合物との反応生成物
本発明において、「多糖類と、リン酸基を有する化合物との反応生成物」とは、多糖類と、リン酸基を有する化合物とを反応させ、最終的に得られる化合物全体のことをいう。
【0118】
リンの難燃性の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
燃焼により、リンが、空気中の酸素と水と結合して、リン酸が生成し、炭化した多糖類とリン酸が混ざり、チャーを形成する。それが断熱層を形成するため燃焼阻害作用を及ぼす。
【0119】
また、本発明においては、多糖類とリン酸基を有する化合物との反応生成物として用いる。つまり、多糖類含有ナノ粒子において、多糖類とリン酸基が比較的近接している。そのため、リンと多糖類による難燃性の相乗効果が得られると考えられる。
【0120】
(1.1.2.1)リン酸基を有する化合物
リン酸基を有する化合物としては、後述する多糖類含有ナノ粒子の作製において、粒径を1~1000nmの範囲内に調整できるものであれば、特に制限されない。
【0121】
リン酸基を有する化合物としては、リン酸及びその塩、亜リン酸及びその塩、脱水縮合リン酸及びその塩、無水リン酸(五酸化二リン)などが挙げられる。リン酸としては、種々の純度のものを使用でき、例えば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用できる。ただし、前述のとおり、溶媒を用いずに反応させることが好ましい観点から、純度は高いことが好ましい。亜リン酸としては、99%亜リン酸(ホスホン酸)が挙げられる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により2分子以上縮合したものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等が挙げられる。
【0122】
リン酸塩、亜リン酸塩、脱水縮合リン酸塩としては、リン酸、亜リン酸又は脱水縮合リン酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。これらは種々の中和度とすることができる。中でも、リン酸基の導入効率が高い観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、又はリン酸のアンモニウム塩であることが好ましく、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、又はリン酸二水素アンモニウムであることがより好ましい。
【0123】
(1.1.2.2)反応生成物
詳しくは後述するが、リン酸基を有する化合物に、多糖類を溶解して反応させる。
反応生成物には、リン酸基が導入された多糖類、多糖類とリン酸基を有する化合物との塩、未反応の多糖類とリン酸基を有する化合物等が含まれると考えられる。
【0124】
リン酸基が導入された多糖類としては、多糖類が有するヒドロキシ基とリン酸基が反応して得られるリン酸エステルが挙げられる。また、多糖類が有するヒドロキシ基以外の官能基とリン酸基が反応して得られる化合物が挙げられる。具体的には、多糖類が有するカルボキシ基とリン酸基が反応して得られる酸無水物が挙げられる。
【0125】
燃焼時に酸性官能基と多糖類が作用しやすい観点から、反応生成物が、糖骨格を構成する原子上に、少なくとも、酸性官能基、前記酸性官能基の塩、又は前記酸性官能基由来の基を有することが好ましい。また、当該酸性官能基がリン酸基であることにより、リンと多糖類が作用しやすい。
【0126】
多糖類とリン酸基を有する化合物との塩としては、多糖類が有する塩基性の官能基とリン酸基により生成する塩が挙げられる。
多糖類とリン酸基が近接する観点から、反応生成物は、リン酸基が導入された多糖類、又は多糖類とリン酸基を有する化合物との塩を、より多く含有することが好ましい。
【0127】
(1.2)多糖類含有ナノ粒子の平均一次粒径
本発明に係る多糖類含有ナノ粒子の平均一次粒径は、1~1000nmの範囲内であることが好ましく、5~1000nmの範囲内であることがより好ましく、10~500nmの範囲内であることが更に好ましい。上記範囲内であることにより、燃焼時に形成される炭化層の均一性が向上する。
【0128】
多糖類含有ナノ粒子の平均一次粒径は、下記の方法で測定できる。
難燃性樹脂組成物のサンプルを準備する。倍率1000倍に設定した走査型電子顕微鏡(SEM)「JSM-7401F」(日本電子株式会社製)を用いて撮影し、写真画像をスキャナーにより取り込む。そして、画像処理解析装置「LUZEX(登録商標)AP」(株式会社ニレコ製)を用いて、当該写真画像の多糖類含有ナノ粒子について二値化処理する。100個の多糖類含有ナノ粒子をランダムに選択し、その水平方向のフェレ径をそれぞれ算出し、その平均値を平均一次粒径とする。
なお、SEMの代わりに、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてもよい。
【0129】
(2)熱可塑性樹脂
本発明の難燃性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含有する。
熱可塑性樹脂を含有することにより、公知の溶融混練法を用いて所望の形状に成形することができ、取り扱いが容易である。
【0130】
環境負荷の削減の観点から、本発明に係る樹脂は、バイオマス樹脂であることが好ましいが、本発明は、バイオマス樹脂以外の樹脂においても適用できる。また、バイオマス樹脂とバイオマス樹脂以外の樹脂とを組み合わせて用いてもよい。
【0131】
熱可塑性樹脂の含有量は、難燃性樹脂組成物の全質量に対して、30~95質量%の範囲内であることが好ましく、40~90質量%の範囲内であることがより好ましく、50~80質量%の範囲内であることが更に好ましい。
【0132】
熱可塑性樹脂の種類は、特に制限されないが、多糖類の分解を抑制でき、難燃性に加えて、強度や外観に優れる観点から、樹脂の軟化点は200℃以下であることが好ましい。
【0133】
なお、本発明において、「軟化点」とは、温度の上昇によって軟化し、変形を始めるときの温度のことをいう。具体的には、「JIS K 2207 6.4軟化点試験方法(環球法)」に準拠した方法で測定される温度のことをいう。
【0134】
熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、ポリカーボネート、芳香族ポリエステル、ポリフェニレンサルファイト、オレフィン系樹脂、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、アクリル系樹脂、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、1,2-ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー、塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
これらは、一種単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0135】
また、熱可塑性樹脂としては、熱可塑性のバイオマス樹脂を用いてもよい。熱可塑性のバイオマス樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、脂肪族ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコール及びこれらを含む共重合体が挙げられる。また、熱可塑性のバイオマス樹脂と、熱可塑性のバイオマス樹脂以外の樹脂を組み合わせ、両者の有する利点を併せ持つ熱可塑性樹脂として用いてもよい。
【0136】
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)等が挙げられる。
【0137】
芳香族ポリエステルとしては、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル誘導体成分と、脂肪族ジオールや脂環族ジオール等のジオール成分とがエステル反応により連結した構造を有する芳香族ポリエステルが挙げられる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレン-1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4´-ジカルボキシレートなどのほか、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレートなどの共重合ポリエステルが挙げられる。
【0138】
脂肪族ポリエステルとしては、オキシ酸の共重合体であるポリオキシ酸及び脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸の重縮合体が挙げられる。ポリオキシ酸としては、例えば、ポリ-L-乳酸(PLLA)、ポリ-D-乳酸(PDLA)、L-乳酸とD-乳酸とのランダム共重合体、L-乳酸とD-乳酸とのステレオコンプレックス等のポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシ吉草酸等が挙げられる。脂肪族ジオールと脂肪族ジカルボン酸の重縮合体としては、例えば、ポリエチレンスクシネート、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンアジペート等が挙げられる。
【0139】
強度及び取り扱いの容易性の観点から、熱可塑性樹脂は、芳香環を有する樹脂であることが好ましい。芳香環を有する樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、ポリカーボネート、芳香族ポリエステル等が挙げられ、中でもスチレン系樹脂であることが好ましい。
【0140】
熱可塑性樹脂の市販品としては、「パンライト(登録商標)」(ポリカーボネート、帝人化成社製)、「ジュラネックス(登録商標)」(ポリブチレンテレフタレート、ポリプラスチック社製)、「クラペット(登録商標)」(ポリエチレンテレフタレート、クラレ社製)、「アラミン」(ポリアミド、東レ社製)、「レイシア(登録商標)」(ポリ乳酸、三井化学社製)、「テラマック(登録商標)」(ポリ乳酸、ユニチカ社製)等が挙げられる。
【0141】
スチレン系樹脂の市販品としては、「クリアレン(登録商標)」(SBC樹脂:スチレン-ブタジエン共重合体、電気化学工業社製)、「アサフレックス(登録商標)」(SBC樹脂、旭化成ケミカルズ社製)、「Styrolux(登録商標)」(SBC樹脂、BASF社製)、「PSJ(登録商標)-ポリスチレン」(スチレン系樹脂、PSジャパン社製)、「トヨラック(登録商標)」(ABS樹脂、東レ社製)等が挙げられる。
また、スチレン系樹脂を含む混合樹脂の市販品として、「マルチロン(登録商標)」(ポリカーボネート/ABS樹脂の混合樹脂、帝人社製)等が挙げられる。
【0142】
(3)その他の難燃剤
本発明の難燃性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記多糖類含有ナノ粒子以外のその他の難燃剤を含有してもよい。本発明では、上記多糖類含有ナノ粒子の難燃性が非常に高いため、その他の難燃剤を含有させたとしても、その含有量を低減できる。
【0143】
その他の難燃剤としては、例えば、多糖類含有ナノ粒子以外の多糖類、リン系難燃剤、金属水酸化物、イントメッセント系難燃剤等が挙げられる。中でも、多糖類含有ナノ粒子の難燃性を高める観点、また、石油資源の含有量が少ない観点から、リン系難燃剤であることが好ましい。
【0144】
リン系難燃剤の含有量は、難燃性樹脂組成物の全質量に対して、5~20質量%の範囲内であることが好ましく、5~10質量%の範囲内であることがより好ましい。上記範囲内であることにより、得られる成形品において、高い難燃性と高い強度を両立できる。
【0145】
リン系難燃剤としては、ホスファゼン化合物、リン酸塩、リン酸エステル、ポリリン酸塩、ホスフィン酸塩、ホスフィン酸エステル、ホスホン酸塩、ホスホン酸エステル等が挙げられる。
これらは、一種単独で用いても、二種以上併用してもよい。
【0146】
(4)その他の添加剤
本発明の難燃性樹脂組成物は、目的に応じて、本発明の効果を損なわない程度で、その他の添加剤を含有してもよい。
【0147】
添加剤としては、例えば、酸化防止剤、フィラー、結晶核剤等が挙げられる。添加剤の含有量は、難燃性樹脂組成物の全質量に対して、0~30質量%の範囲内であることが好ましく、0~20質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0148】
3.難燃性樹脂組成物の製造方法
本発明の難燃性樹脂組成物の製造方法は、上記難燃性樹脂組成物の製造方法であって、前記多糖類を、前記リン酸基を有する化合物に溶解し、その液中で反応させる工程、及び有機溶媒中に添加することで、前記反応生成物を析出させる工程、を有することを特徴とする。
【0149】
(3.1)多糖類含有ナノ粒子の作製方法
本発明に係る多糖類含有ナノ粒子の作製方法は、特に制限されないが、前述のとおり、従来技術では、ナノサイズの粒子を得ることは極めて難しい。
そのため、多糖類を、リン酸基を有する化合物に溶解し、その液中で反応させる工程、及び有機溶媒中に添加することで、反応生成物を析出させる工程、を有することが好ましい。
【0150】
ナノサイズの粒子が得られる発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0151】
例えば、特許文献1で用いられるリン含有多糖類は、溶媒を用いてリン酸エステル化反応を行い、水中で析出させる。詳しくは、セルロース誘導体を溶媒中に溶解し、そこに反応試薬を滴下する。得られる反応液を蒸留水に滴下し、反応物を析出させる。
【0152】
一方、本発明に係る多糖類含有ナノ粒子は、溶媒を用いずに多糖類とリン酸基を有する化合物を反応させ、有機溶媒中に添加することで析出させる。詳しくは、多糖類を、リン酸基を有する化合物中に溶解し、その液中で反応させる。この液中において、多糖類の濃度はより高い方が好ましい。そして、得られる反応液を、よく撹拌した大量の有機溶媒中に滴下し、反応物を析出させる。
【0153】
最終的に得られる粒子をナノ粒子とするためには、凝集を抑制しながら、反応物を生成、析出し、溶媒の除去、洗浄、単離等を行う必要がある。特に多糖類は、ヒドロキシ基等の極性基を多数有するため、水との親和性が高く、水分子を取り込みやすい。そして、多糖類は、水分子を取り込むと、柔らかくなりやすく凝集しやすい。
【0154】
そのため、反応物を生成する工程において、溶媒を用いないことにより、得られる粒子に溶媒が残留し、粒子が凝集するのを抑制できる。また、反応生成物を析出させる工程において、水を用いないことにより、粒子が凝集するのを抑制できると考えられる。
【0155】
多糖類含有ナノ粒子は、下記の手順で作製できる。ただし、これに制限されない。
1)多糖類を、リン酸基を有する化合物に溶解し、その液中で反応させる工程
2)有機溶媒中に添加することで、反応生成物を析出させる工程
3)析出した反応生成物を洗浄する工程
4)反応生成物を乾燥する工程
【0156】
1)の工程において、溶媒を用いない観点から、多糖類とリン酸基を有する化合物は、多糖類がリン酸基を有する化合物に溶解する組み合わせとすることが好ましい。
【0157】
2)の工程において、粒子の凝集を抑制する観点から、有機溶媒中に添加することで、反応生成物を析出させることが好ましい。
【0158】
本発明に係る多糖類含有ナノ粒子の作製方法の一例として、カルボキシメチルセルロースとリン酸の反応生成物を含有する粒子の作製方法について説明する。
【0159】
カルボキシメチルセルロース(1質量部)を、撹拌したリン酸(3質量部)に加えて、100℃に加熱する。昇温していくうちに、カルボキシメチルセルロースはリン酸に溶解する。この反応液を、100℃で8時間加熱撹拌し、反応を進行させる。反応終了後、この反応液を、室温まで十分冷却する。エタノール(10質量部)中に、冷却した反応液をよく撹拌しながら注ぎ、結晶を析出させる。析出した結晶をろ取し、純水(10質量部)を加えて、室温で撹拌する。この混合液から、結晶をろ取し、エタノールで洗浄する。結晶を、60℃で、一晩、乾燥機で乾燥させた後、着色結晶(1質量部)を得る。
【0160】
当該作製方法では、カルボキシメチルセルロースとリン酸との組み合わせとすることにより、溶媒を用いずとも、カルボキシメチルセルロースをリン酸に溶解できる。そして、溶液を加熱することにより、カルボキシメチルセルロースとリン酸を反応させることができる。
【0161】
その後、反応液をエタノール中に注いで結晶を析出させることにより、反応生成物の粒子の内部への水分子の取り込みを抑制できる。また、水に溶解しやすい成分を粒子の内部に取り込むことができる。つまり、多糖類とリン酸基を有する化合物との塩も、粒子の内部に取り込むことができる。そして、析出した結晶を純水で洗浄することにより、粒子の表面に存在する水に溶解しやすい成分が一部除去される。粒子をエタノールで洗浄し、乾燥させる。
【0162】
得られる粒子は、ナノサイズの粒子の凝集体である。ただし、この凝集体は比較的解砕しやすく、熱可塑性樹脂との混練により、ナノサイズに解砕できる。解砕の程度は、熱可塑性樹脂の種類や溶融混練の条件により異なり、適宜調整できる。つまり、熱可塑性樹脂の種類や溶融混練の条件により、粒子の大きさを調整できる。
【0163】
(3.2)材料の混合
多糖類含有ナノ粒子、熱可塑性樹脂及びその他添加剤を混合し、難燃性樹脂組成物を製造する方法は、特に制限されない。中でも、多糖類含有ナノ粒子を解砕でき、所望の粒径に調整できる観点から、溶融混練法を用いることが好ましい。溶融混練法は、公知の方法を用いることができる。
以下、溶融混練法を用いて、本発明の難燃性樹脂組成物を製造する方法について説明する。
【0164】
溶融混練法としては、例えば、熱可塑性樹脂、多糖類含有ナノ粒子及びその他添加剤を、タンブラーやヘンシェルミキサーとして知られた高速ミキサー等の各種混合機を用いて予備混合した後、バンバリミキサー、ロール、プラストグラフ、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー等の混練装置で溶融混練する方法が挙げられる。
【0165】
中でも、生産効率の観点から、押出機を用いることが好ましく、二軸押出機を用いることがより好ましい。押出機を用いて材料を溶融混練し、混練物をストランド状に押し出した後、混練物をペレット状やフレーク状等の形状に加工することができる。
【0166】
なお、予め材料を混合する予備混合を行う前に、各材料を十分に乾燥しておくことが好ましい。乾燥温度は、特に制限されないが、60~120℃の範囲内であることが好ましい。乾燥時間は、特に制限されないが、2~6時間の範囲内であることが好ましい。また、乾燥がより進行しやすい観点から、減圧下で乾燥することが好ましい。上記乾燥は、予備混合の後に行ってもよい。
【0167】
溶融混練の温度は、特に制限されないが、用いる樹脂の種類等に応じて適宜選択することが好ましく、具体的には150~280℃の範囲内であることが好ましい。ここで、溶融混練の温度は、例えば、二軸押出機等の混練装置におけるシリンダ温度に相当する。また、シリンダ温度とは、混練装置のシリンダにおいて複数の温度設定がなされる場合には、最も高いシリンダ部の温度のことをいう。混練圧力は、特に制限されないが、1~20MPaの範囲内であることが好ましい。
【0168】
溶融混練に押出機を用いる場合、スクリュー回転数は、特に制限されないが、100~500rpmの範囲内であることが好ましい。
【0169】
混練装置からの吐出量は、特に制限されないが、溶融混練が十分に行われる観点から、10~100kg/hrの範囲内であることが好ましく、20~70kg/hrの範囲内であることがより好ましい。
【0170】
上記の方法で混練装置により溶融混練された混練物は、混練装置から押し出された後、冷却処理されることが好ましい。冷却処理の方法は、特に制限されず、例えば、混練物を0~60℃の範囲内の水に浸漬して水冷する方法、-40~60℃の範囲内の気体で冷却する方法、-40~60℃の範囲内の金属に接触させる方法等が挙げられる。
【0171】
本発明の難燃性樹脂組成物の形態及び形状は、特に制限されず、例えば、粉末状、顆粒状、タブレット(錠剤)状、ペレット状、フレーク状、繊維状等の固体状であっても、液体状であってもよい。
【0172】
4.難燃性樹脂成形品
本発明の難燃性樹脂成形品は、上記難燃性樹脂組成物を用いて形成されたことを特徴とする。
本発明の難燃性樹脂成形品は、上記難燃性樹脂組成物を用いて形成されることにより、樹脂成形品に難燃性を付与することができ、かつ十分な靱性及び弾性が得られる。
【0173】
本発明の難燃性樹脂成形品は、上記難燃性樹脂組成物を各種成形機内で溶融し、成形することにより得られる。成形方法としては、成形品の形態及び用途に応じて適宜選択することができ、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、インフレーション成形等が挙げられる。また、押出成形、カレンダー成形等で得られたシート状又はフィルム状の成形品について、真空形成や圧空成形等の二次成形を行ってもよい。
【0174】
難燃性樹脂成形品としては、特に制限されず、例えば、家電製品及び自動車等の分野における部品(電気電子部品、電装部品、外装部品、内装部品等)、各種包装資材、家庭用品、事務用品、配管、農業用資材等が挙げられる。
【0175】
5.難燃性樹脂筐体及び電子機器
本発明の難燃性樹脂筐体は、上記難燃性樹脂成形品を含むことを特徴とする。また、本発明の電子機器は、上記難燃性樹脂成形品を具備することを特徴とする。
すなわち、上記難燃性樹脂成形品は、電子機器等において、当該電子機器を収容する筐体として用いても、部品として用いてもよい。
なお、本発明において、「電子機器」とは、電子工学の技術を応用した電気製品のことをいう。
【0176】
本発明の難燃性樹脂筐体が収容する物品は特に制限されないが、電子機器等を収容することが好ましい。その他、一般的に難燃性の樹脂で製造されることが好ましい筐体においても、本発明の難燃性樹脂筐体を適用することができる。
【0177】
電子機器としては、特に制限されず、例えば、コンピューター、スキャナー、複写機、プリンター、ファクシミリ装置、これらの機能を兼ね備えたMFP(Multi Function Peripheral)と称される複合機等のOA機器、商業印刷用のデジタル印刷システム等が挙げられる。
【0178】
図1に、本発明の電子機器の具体例を示す。
図1は、本発明の難燃性樹脂成形品を外装部品とする大型複写機10の概略斜視図である。
図1に示すように、大型複写機10は、外装部品G1~G9で外装されている。このような外装部品に、本発明の難燃性樹脂成形品を用いることができる。
【実施例0179】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
また、下記実施例において、特記しない限り操作は室温(25℃)で行われた。
【0180】
1.樹脂組成物の作製
(1)多糖類含有粒子の作製
(1.1)多糖類含有粒子A1の作製
カルボキシメチルセルロース(1質量部)を、撹拌したリン酸(3質量部)に加えて、100℃に加熱した。昇温していくうちに、カルボキシメチルセルロースはリン酸に溶解した。この反応液を、100℃で8時間加熱撹拌し、反応を進行させた。反応終了後、この反応液を、室温まで十分冷却した。エタノール(10質量部)中に、冷却した反応液をよく撹拌しながら注ぎ、結晶を析出させた。析出した結晶をろ取し、純水(10質量部)を加えて、室温で撹拌した。この混合液から、結晶をろ取し、エタノールで洗浄した。結晶を、60℃で、一晩、乾燥機で乾燥させた後、着色結晶(1質量部)の多糖類含有粒子A1を得た。
なお、カルボキシメチルセルロースは、キミカ社製、数平均分子量75万のものを使用した。
【0181】
(1.2)多糖類含有粒子A2の作製
多糖類含有粒子A1の作製において、カルボキシメチルセルロースの数平均分子量を450に変更した以外は同様の手順で、多糖類含有粒子A2を作製した。
【0182】
(1.3)多糖類含有粒子A3の作製
多糖類含有粒子A1の作製において、結晶を析出する際のエタノールの使用量を3質量部に変更した以外は同様の手順で、多糖類含有粒子A3を作製した。
【0183】
(1.4)多糖類含有粒子A4の作製
多糖類含有粒子A1の作製において、カルボキシメチルセルロースの数平均分子量を180万に変更した以外は同様の手順で、多糖類含有粒子A4を作製した。
【0184】
(1.5)多糖類含有粒子A5の作製
多糖類含有粒子A1の作製において、カルボキシメチルセルロースの数平均分子量を1000に変更した以外は同様の手順で、多糖類含有粒子A5を作製した。
【0185】
(1.6)多糖類含有粒子A6の作製
多糖類含有粒子A1の作製において、カルボキシメチルセルロースの数平均分子量を100万に変更した以外は同様の手順で、多糖類含有粒子A6を作製した。
【0186】
(1.7)多糖類含有粒子A7の作製
多糖類含有粒子A1の作製において、カルボキシメチルセルロース(酸性多糖類)を、ιカラギーナン(酸性多糖類)、数平均分子量75万のものに変更した。それ以外は、同様の手順で、多糖類含有粒子A7を作製した。
【0187】
(1.8)多糖類含有粒子B1の作製
多糖類含有粒子A1の作製において、カルボキシメチルセルロースを、キトサン(塩基性多糖類)、数平均分子量75万のものに変更した。それ以外は、同様の手順で、多糖類含有粒子B1を作製した。
【0188】
(1.9)多糖類含有粒子C1の作製
多糖類含有粒子A1の作製において、カルボキシメチルセルロースを、セルロース(中性多糖類)、数平均分子量75万のものに変更した。それ以外は、同様の手順で、多糖類含有粒子C1を作製した。
【0189】
(2)樹脂組成物1~17の作製
混練前の事前乾燥として、熱可塑性樹脂、多糖類含有粒子及びリン系難燃剤を、それぞれ80℃で4時間乾燥させた。そして、表Iに示される成分比(質量%)で秤量し、ドライブレンドした。次いで、ドライブレンドして得られた混合物を、二軸押出混練機「Thermo Scientific HAAKE Rheomex PTW 16 OS 二軸スクリューエクストルーダー」(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)の原材料供給口(ホッパー)から供給した。そして、シリンダ温度180℃、スクリュー回転数400rpmの条件で溶融混練を行った。混練後の溶融樹脂を、冷却後にペレタイザーにてペレット化して、樹脂組成物1~17を得た。
【0190】
なお、使用した熱可塑性樹脂及びリン系難燃剤は、下記のとおりである。
PC(50):バイオベース質量含有率が50質量%であるポリカーボネート
PC(60):バイオベース質量含有率が60質量%であるポリカーボネート
PLA:ポリ乳酸
ABS:アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体
PA-6:ナイロン6(軟化点225℃)
リン系難燃剤:芳香族縮合リン酸エステル難燃剤「PX-200」(大八化学工業株式会社製)
【0191】
下記表Iに、樹脂組成物の組成及びバイオベース質量含有率を示す。
多糖類含有粒子Cf1は、多糖類含有粒子A1の作製に用いたカルボキシメチルセルロースを、そのまま使用した。
表内の「-」は、該当する成分を含有していないことを示す。
表内の「樹脂比率」とは、熱可塑性樹脂の全質量に対する該当する成分の含有量[質量%]のことをいう。
表内の「バイオベース質量含有率」は、ISO 16620-4に準拠して算出した。
【0192】
【0193】
2.測定
【0194】
(1)臭素(Br)、塩素(Cl)、アンチモン(Sb)の検出
得られたペレットを粉砕し、圧縮成形してサンプルを作製した。そして、波長分散型蛍光X線分析装置(WDX)「ZSX PrimusIV」(株式会社リガク社製)で半定量分析を行った。
【0195】
(2)多糖類含有粒子の平均一次粒径
後述する衝撃強度の評価後において得られる、樹脂組成物の破断面をサンプルとした。倍率1000倍に設定した走査型電子顕微鏡(SEM)「JSM-7401F」(日本電子株式会社製)を用いて、破断面を撮影し、写真画像をスキャナーにより取り込んだ。そして、画像処理解析装置「LUZEX(登録商標)AP」(株式会社ニレコ製)を用いて、当該写真画像の多糖類含有ナノ粒子について二値化処理した。100個の多糖類含有ナノ粒子をランダムに選択し、その水平方向のフェレ径をそれぞれ算出し、その平均値を平均一次粒径とした。
【0196】
3.評価
(1)難燃性
得られたペレット状の樹脂組成物のそれぞれを、80℃で4時間乾燥させた。その後、射出成形機「Babyplast」(Rambaldi社製)を用いて、シリンダ温度180℃、金型温度50℃として成形し、長さ125mm、幅13mm、厚さ1.6mmの短冊型試験片を得た。
【0197】
得られた試験片を、温度23℃、湿度50%の恒温室の中で48時間調湿した。そして、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)が定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼試験)に準拠して難燃性試験を行った。試験方法は、UL94V試験法を採用し、難燃性を、下記の基準により評価した。なお、A~AAAを実用上問題がないとした。
【0198】
AAA:V-0(合格)
AA:V-1(合格)
A:V-2(合格)
B:規格外
【0199】
(2)衝撃強度
得られたペレット状の樹脂組成物のそれぞれを、80℃で4時間乾燥させた。その後、射出成形機「Babyplast」(Rambaldi社製)を用いて、シリンダ温度180℃、金型温度50℃として成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの大きさの試験片を得た。
試験片は、10ショットを捨てショットとした後、連続15ショットを成形した。得られた15個の試験片について、JIS K7110:1999に準拠して、アイゾット衝撃強度を測定し、下記の基準により評価した。なお、A~AAを実用上問題がないとした。
【0200】
AA:10kJ/m2以上である。
A:8kJ/m2以上、10kJ/m2未満である。
B:8kJ/m2未満である。
【0201】
(3)曲げ強度
得られたペレット状の樹脂組成物のそれぞれを、80℃で4時間乾燥させた。その後、射出成形機「J55ELII」(株式会社日本製鋼所製)を用いて、シリンダ温度180℃、金型温度50℃として成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの大きさの試験片を得た。
【0202】
試験片は、10ショットを捨てショットとした後、連続15ショットを成形した。得られた15個の試験片について、曲げ強度のバラツキXTS[%]を、下記式から求め、下記の基準により評価した。なお、A~AAAを実用上問題がないとした。
(式)XTS[%]=(TRmax-TRmin)/(TRav)×100
なお、上記式中、TRmaxは、15個の成形品の曲げ強度の最大値[MPa]を表す。TRminは、15個の成形品の曲げ強度の最小値[MPa]を表す。TRavは、15個の成形品の曲げ強度の平均値[MPa]を表す。成形品の曲げ強度は、JIS K7171:2022に準拠して測定された値である。
【0203】
AAA:TRavが20MPa以上であり、かつXTSが0.5%未満である。
AA:TRavが20MPa以上であり、かつXTSが0.5%以上、5%未満である。
A:TRavが20MPa以上であり、かつXTSが5%以上、15%未満である。
B:TRavが20MPa未満である。又は、XTSが15%以上である。
【0204】
下記表IIに、測定結果及び評価結果を示す。
表内の「Br、Cl、Sb検出」における「無」とは、Br、Cl及びSbのいずれも検出されなかったことを示す。
樹脂組成物12については、成形温度(シリンダ温度)が200℃と、比較的高く、多糖類含有ナノ粒子が焦げて変形してしまうため、粒径を測定できなかった。
多糖類含有粒子の平均一次粒径が、表IIに記載のとおりとなるよう、各種材料の組成を表Iに記載のとおりに変更した以外に、混練時間を適宜変更した。
【0205】
【0206】
上記評価結果より、本発明の難燃性樹脂組成物は、難燃性、衝撃強度及び曲げ強度に優れることがわかる。
【0207】
樹脂組成物1、15~17の比較から、多糖類が、酸性多糖類又は塩基性多糖類であることにより、難燃性が向上することがわかる。
【0208】
樹脂組成物1、6及び9~11の比較から、酸性多糖類(カルボキシメチルセルロース)の数平均分子量が、1,000~1,000,000の範囲内であることにより、難燃性、衝撃強度及び曲げ強度いずれも優れることがわかる。