(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163412
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】含窒素化合物用の可溶化剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/18 20170101AFI20241115BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241115BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20241115BHJP
A61K 31/4045 20060101ALI20241115BHJP
A61K 31/13 20060101ALI20241115BHJP
A61K 31/137 20060101ALI20241115BHJP
A61K 31/155 20060101ALI20241115BHJP
A61K 8/41 20060101ALI20241115BHJP
A61K 8/55 20060101ALI20241115BHJP
A61P 21/02 20060101ALI20241115BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20241115BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20241115BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20241115BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241115BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20241115BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241115BHJP
A61P 25/06 20060101ALI20241115BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
A61K47/18
A61K45/00
A61K47/24
A61K31/4045
A61K31/13
A61K31/137
A61K31/155
A61K8/41
A61K8/55
A61P21/02
A61P25/08
A61P25/16
A61P25/18
A61P25/28
A61P25/14
A61P43/00 111
A61P25/06
A61K9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078966
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本白水 崇光
(72)【発明者】
【氏名】中村 正孝
【テーマコード(参考)】
4C076
4C083
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076CC01
4C076CC09
4C076DD49E
4C076DD63E
4C076FF15
4C076GG41
4C083AC691
4C083AC891
4C083BB60
4C083CC01
4C083DD23
4C084AA17
4C084MA17
4C084NA02
4C084ZA02
4C084ZA06
4C084ZA08
4C084ZA15
4C084ZA18
4C084ZA94
4C084ZC20
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC13
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA17
4C086NA02
4C086ZA02
4C086ZA06
4C086ZA08
4C086ZA15
4C086ZA18
4C086ZA94
4C086ZC20
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA10
4C206FA14
4C206FA29
4C206HA31
4C206KA01
4C206KA09
4C206MA02
4C206MA05
4C206MA37
4C206NA02
4C206ZA02
4C206ZA06
4C206ZA08
4C206ZA15
4C206ZA18
4C206ZA94
4C206ZC20
(57)【要約】
【課題】医薬品、医薬部外品又は化粧品の有効成分として用いられる含窒素化合物を高濃度に溶解可能な可溶化剤を提供する。
【解決手段】本発明の含窒素化合物用の可溶化剤は、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンと、カルボキシレートイオンとを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンと、カルボキシレートイオンとを含む、含窒素化合物用の可溶化剤。
【請求項2】
前記含窒素化合物は、塩基性化合物又はその塩若しくは水溶性化合物である、請求項1記載の可溶化剤。
【請求項3】
以下の式1を満たす、請求項1又は2記載の可溶化剤。
可溶化剤層の含窒素化合物濃度/層分離前の混合溶液の含窒素化合物濃度≧5 ・・・式1
【請求項4】
以下の式2を満たす、請求項1~3のいずれか一項記載の可溶化剤。
可溶化剤層の含窒素化合物濃度/液体層の含窒素化合物濃度≧2 ・・・式2
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項記載の可溶化剤と、含窒素化合物を有する医薬組成物。
【請求項6】
前記可溶化剤は、下記一般式(I)又は一般式(II)で示されるアニオンと、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンとを含むイオン液体であり、
前記含窒素化合物は、骨格筋弛緩剤、抗てんかん剤、パーキンソン病治療薬、抗精神病薬、認知症治療薬、注意欠如・多動性治療薬、ヤヌスキナーゼ阻害剤、片頭痛治療薬及びホスホジエステラーゼ4阻害剤からなる群から選択される塩基性薬物である、請求項5記載の医薬組成物。
【化1】
(式(II)中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子、スルホ基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
【請求項7】
外用剤である、請求項5又は6記載の医薬組成物。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項記載の可溶化剤と、含窒素化合物を有する医薬部外品又は化粧品。
【請求項9】
前記可溶化剤は、下記一般式(I)又は一般式(II)で示されるアニオンと、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンとを含むイオン液体であり、
前記含窒素化合物は、グルタチオン、パントテン酸、トラネキサム酸、L-システイン、トリプトファン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、アラニン、γ-アミノ酪酸及びそれらの誘導体並びにそれらの薬理学上許容される塩からなる群から選択される、請求項8記載の医薬部外品又は化粧品。
【化2】
(式(II)中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子、スルホ基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
【請求項10】
含窒素化合物、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンと、カルボキシレートイオンとを含む可溶化剤及び前記可溶化剤と混和可能な液体を混合し混合溶液を作成する混合工程と、
前記混合溶液を層分離させる分離工程を有する、薬物の溶解方法。
【請求項11】
分離工程後の前記可溶化剤層の含窒素化合物濃度が式1を満たす、請求項10記載の薬物の溶解方法。
可溶化剤層の含窒素化合物濃度/層分離前の混合溶液の含窒素化合物濃度≧5 ・・・式1
【請求項12】
前記分離工程後の前記可溶化剤層の含窒素化合物濃度が式2を満たす、請求項10記載の薬物の溶解方法。
可溶化剤層の含窒素化合物濃度/液体層の含窒素化合物濃度≧2 ・・・式2
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含窒素化合物用の可溶化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、医薬部外品及び化粧品は、基剤と有効成分からなり、必要に応じて機能を付与するための添加剤を混合して製剤化したものである。
【0003】
有効成分の安定性や吸収性を考慮して、有効成分は中性分子又はその塩の形態で利用されるが、有効成分の溶解度が低いために、目的の投与経路の製剤化が難しい、製剤中での有効成分の濃度を高濃度にできないといった課題があった。
【0004】
近年、特徴的な溶解性を示す化合物としてイオン液体が登場し、医薬品等の有効成分に対する可溶化剤としての利用が報告されている。例えば、特許文献1では、脂溶性カルボン酸であり、水に溶けないエトドラクがイオン液体を用いることで水に可溶化できることが記載されている。非特許文献1にはスルホン酸系の温度応答性イオン液体を用いることで、一部の水溶性タンパク質をイオン液体へ溶解できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】AUST.J. CHEM. 2012, 65, 1548-1553.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、エトドラクのような特定の有効成分を可溶化できることが開示されているに過ぎなかった。非特許文献1には、イオン液体へ溶解するかどうかは、たんぱく質により異なると書いてあり、特定のたんぱく質の溶解度を向上させることが開示されているに過ぎなかった。
【0008】
そこで本発明は、医薬品、医薬部外品又は化粧品の有効成分として広く利用される含窒素化合物に対しての可溶化剤又は溶媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の(1)~(11)の発明を見出した。
(1) テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンと、カルボキシレートイオンとを含む、含窒素化合物用の可溶化剤。
(2) 上記含窒素化合物は、塩基性化合物又はその塩若しくは水溶性化合物である、(1)記載の可溶化剤。
(3) 以下の式1を満たす、(1)又は(2)記載の可溶化剤。
可溶化剤層の含窒素化合物濃度/層分離前の混合溶液の含窒素化合物濃度≧5 ・・・式1
(4) 以下の式2を満たす、(1)~(3)のいずれか記載の可溶化剤。
可溶化剤層の含窒素化合物濃度/液体層の含窒素化合物濃度≧2 ・・・式2
(5) (1)~(4)のいずれか記載の可溶化剤と、含窒素化合物を有する医薬組成物。
(6) 上記可溶化剤は、下記一般式(I)又は一般式(II)で示されるアニオンと、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンとを含むイオン液体であり、上記含窒素化合物は、骨格筋弛緩剤、抗てんかん剤、パーキンソン病治療薬、抗精神病薬、認知症治療薬、注意欠如・多動性治療薬、ヤヌスキナーゼ阻害剤、片頭痛治療薬及びホスホジエステラーゼ4阻害剤からなる群から選択される塩基性薬物である、(5)記載の医薬組成物。
【化1】
(式(II)中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子、スルホ基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
(7) 外用剤である、(5)又は(6)記載の医薬組成物。
(8) (1)~(4)のいずれか記載の可溶化剤と、含窒素化合物を有する医薬部外品又は化粧品。
(9) 上記可溶化剤は、下記一般式(I)又は一般式(II)で示されるアニオンと、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンとを含むイオン液体であり、上記含窒素化合物は、グルタチオン、パントテン酸、トラネキサム酸、L-システイン、トリプトファン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、アラニン、γ-アミノ酪酸及びそれらの誘導体並びにそれらの薬理学上許容される塩からなる群から選択される、(8)記載の医薬部外品又は化粧品。
【化2】
(式(II)中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子、スルホ基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
(10) 含窒素化合物、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンと、カルボキシレートイオンとを含む可溶化剤及び上記可溶化剤と混和可能な液体を混合し混合溶液を作成する混合工程と、上記混合溶液を層分離させる分離工程を有する、薬物の溶解方法。
(11) 分離工程後の上記可溶化剤層の含窒素化合物濃度が式1を満たす、(10)記載の薬物の溶解方法。
可溶化剤層の含窒素化合物濃度/層分離前の混合溶液の含窒素化合物濃度≧5 ・・・式1
(12) 上記分離工程後の上記可溶化剤層の含窒素化合物濃度が式2を満たす、(10)記載の薬物の溶解方法。
可溶化剤層の含窒素化合物濃度/液体層の含窒素化合物濃度≧2 ・・・式2
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、医薬品、医薬部外品又は化粧品に用いられる含窒素化合物を広く溶解させることが可能な可溶化剤を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における含窒素化合物用の可溶化剤は、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンと、カルボキシレートイオンとを含むことを特徴とする、含窒素化合物用の可溶化剤である。本発明の可溶化剤は含窒素化合物を直接溶解させるものであってもよく、他の溶媒と合わせて使用してすることで、含窒素化合物を溶解させるものでもよい。
【0012】
本発明の可溶化剤は、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンとカルボキシレートイオンを含む。このカチオンとアニオンの組み合わせにすることで、可溶化剤が含窒素化合物の相互作用しやすくなり、含窒素化合物の物性に関わらず良好な溶解性を示す。また、本発明の可溶化剤は、医薬品、医薬部外品又は化粧品等に使用される他の溶媒等とも親和性が高いことから、他の溶媒や基剤等に対して含窒素化合物を可溶化させることができる。
【0013】
本発明の可溶化剤に含まれるカチオンが有する4つのアルキル基の合計の炭素数は、13以上35以下であることが好ましく、13以上25以下であることがより好ましい。テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、テトラオクチルアンモニウムイオン又はトリオクチルメチルアンモニウムイオンが挙げられる。また、テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、例えば、テトラブチルホスホニウムイオン、テトラペンチルホスホニウムイオン、テトラヘキシルホスホニウムイオン、テトラオクチルホスホニウムイオン、トリブチルヘキシルホスホニウムイオン、トリブチルヘプチルホスホニウムイオン、トリブチルオクチルホスホニウムイオン、トリブチルドデシルホスホニウムイオン、トリブチルトリデシルホスホニウムイオン、トリブチルペンタデシルホスホニウムイオン、トリブチルヘキサデシルホスホニウムイオン又はトリヘキシルテトラデシルホスホニウムイオンが挙げられる。なお、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンが有する、4つのアルキル基は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。また、アルキル基には、ベンジル基等の芳香族アルキル基も含む。
【0014】
本発明の可溶化剤に含まれるアニオンは、カルボキシレートイオン(カルボン酸イオン)であり、例えば、脂肪族カルボキシレートイオン(脂肪酸イオン)、芳香族カルボキシレートイオン(芳香族カルボン酸イオン)、ヒドロキシカルボキシレートイオン(ヒドロキシカルボン酸イオン)、アミノ酸イオン等が挙げられ、これらは1価のイオンであってもよく、2価以上の多価カルボン酸イオンであってもよい。
【0015】
脂肪酸イオンの例としては、ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酪酸イオン、吉草酸イオン、カプロン酸イオン、エナント酸イオン、カプリル酸イオン、ぺラルゴン酸イオン、カプリン酸イオン、ウンデシル酸イオン、ラウリン酸イオン、トリデシル酸イオン、ミリスチン酸イオン、ペンタデシル酸イオン、パルミチン酸イオン、マルガリン酸イオン、ステアリン酸イオン、ノナデシル酸イオン、アラキジン酸イオン、ヘンイコシル酸イオン、ベヘン酸イオン、トリコシル酸イオン、リグノセリン酸イオン、セロチン酸イオン、モンタン酸イオン若しくはメリシン酸イオン等の飽和脂肪酸イオン、又は、α-リノレン酸イオン、ステアリドン酸イオン、エイコサテトラエン酸イオン、エイコサペンタエン酸イオン、ドコサペンタエン酸イオン、ドコサヘキサエン酸イオン、リノール酸イオン、γ‐リノレン酸イオン、アラキドン酸イオン、ドコサテトラエン酸イオン、ドコサペンタエン酸イオン、パルミトレイン酸イオン、バクセン酸イオン、パウリン酸イオン、オレイン酸イオン、エライジン酸イオン、エルカ酸イオン、ネルボン酸イオン、サピエン酸イオン、ソルビン酸イオン若しくはゲラン酸イオン等の不飽和脂肪酸イオン等が挙げられる。
【0016】
ヒドロキシカルボン酸イオンの例としては、グリコール酸イオン、乳酸イオン、タルトロン酸イオン、グリセリン酸イオン、ヒドロキシ酪酸イオン、リンゴ酸イオン、酒石酸イオン、クエン酸イオン、イソクエン酸イオン、シトラマル酸イオン、シトロネル酸イオン、ロイシン酸イオン、メバロン酸イオン、パントイン酸イオン、リシノール酸イオン、キナ酸イオン又はシキミ酸イオン等が挙げられる。
【0017】
本発明の可溶化剤に含まれるアニオンとして、好ましくは芳香族カルボキシレートイオンであり、より好ましくはサリチル酸又はサリチル酸誘導体由来のアニオンが挙げられる。
【0018】
芳香族カルボキシレートイオンの例としては、置換又は無置換の安息香酸イオン、例えば、安息香酸イオン、トルイル酸イオン若しくはトリフルオロメチル安息香酸イオン等で置換されていてもよいアルキル基で置換された安息香酸イオン、フルオロ安息香酸イオン、クロロ安息香酸イオン、ブロモ安息香酸イオン若しくはヨード安息香酸イオン等のハロゲン化安息香酸イオン、ホルミル安息香酸イオン若しくはアセチル安息香酸イオン等のアシル化安息香酸イオン、ヒドロキシ安息香酸イオン、アミノ安息香酸イオン、メトキシ安息香酸イオン等のアルコキシ化安息香酸イオン若しくはスルホ安息香酸イオン、又は、置換又は無置換の多環芳香族カルボン酸イオン、例えば、ナフタレンカルボン酸イオン若しくはアントラセンカルボン酸イオン等が挙げられる。
【0019】
芳香族カルボキシレートイオン上の置換基の位置については、任意の位置にあって構わず、置換基の数や種類も特に制限はない。置換基としてヒドロキシ基やアミノ基等を含む場合は、該ヒドロキシ基や該アミノ基等はアシル基等でさらに置換されていてもよい。
【0020】
サリチル酸又はサリチル酸誘導体由来のアニオンにおけるサリチル酸誘導体としては、例えば、サリチル酸のベンゼン環上に置換基を有する化合物やフェノール性水酸基に置換基を有する化合物が挙げられる。一実施形態では、上記可溶化剤に含まれるアニオンは、例えば、下記の一般式(I)又は一般式(II)で示されるアニオンである。
【化3】
(式(II)中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子、スルホ基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
【0021】
本発明の可溶化剤はイオン液体であることが好ましい。イオン液体とは、100℃以下に融点を有し、カチオン又はアニオンの片方若しくは両方が有機物である塩と定義される(イオン液体の科学‐新世代液体への挑戦-、7ページに記載)。
【0022】
本発明の可溶化剤がイオン液体を含む場合、一般的なイオン液体の合成法に準じて合成することができる。例えば、イオン液体がアンモニウム塩である場合、(1)アミンをハロゲン化アルキル化合物等と反応させて得られるアンモニウム塩に対して、金属塩を用いたアニオン交換を行い、精製処理を行うことで、目的のアンモニウム塩を得る方法(アニオン交換法)や、(2)アミン又はアンモニウムヒドロキシドと酸を直接反応させて中和することで目的のアンモニウム塩を得る方法(中和法)が挙げられる。イオン液体がホスホニウム塩である場合にも、上記のアニオン交換法と中和法のいずれの方法でも合成することができる。中和法の場合は、ホスホニウムヒドロキシドと酸を直接反応させて中和することで目的のホスホニウム塩を得ることができる。
【0023】
本発明に用いるイオン液体の合成には、1種類のカチオンと2種類以上のアニオン、2種類以上のカチオンと1種類のアニオン又は2種類以上のカチオンと2種類以上のアニオンを使用してもよい。例えば、カチオンであるテトラブチルホスホニウムヒドロキシド1モルに対して、アニオンであるサリチル酸と4-メトキシサリチル酸との合計が1モルになるように両者を任意の割合で混合することで、1種類のカチオンと2種類のアニオンを含むイオン液体を得ることができる。
【0024】
本発明の可溶化剤に含まれるイオン液体は、温度応答性イオン液体であることが好ましい。温度応答性イオン液体とは、イオン液体のうち、温度応答性を示すものをいう。温度応答性イオン液体を用いることで、より高濃度に含窒素化合物をイオン液体に溶解させることができる。
【0025】
ここで、温度応答性とは、温度(熱)変化に応答し、形状及び/又は性質等が変化する性質をいう。イオン液体の温度応答性としては、例えば、膨張と収縮等の体積変化、下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature:以下「LCST」という)及び上限臨界溶液温度(Upper Critical Solution Temperature:以下「UCST」という)といった疎水性の変化等がある。
【0026】
温度応答性イオン液体の中でも、含窒素化合物の溶解度を向上させる観点から、LCSTを有する温度応答性イオン液体であることが好ましい。溶解時に含窒素化合物の分解を防ぐ観点から、LCSTは50℃以下が好ましく、より好ましくは40℃以下である。
【0027】
温度応答性イオン液体の例としては、上記一般式(I)又は一般式(II)で示されるアニオンと、テトラアルキルアンモニウムイオン(例えば、テトラブチルアンモニウムイオン)又はテトラアルキルホスホニウムイオン(例えば、テトラアルキルホスホニウムイオン)とを含む温度応答性イオン液体が挙げられる。
【0028】
上記一般式(I)又は一般式(II)で示されるアニオンと、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンとを含む温度応答性イオン液体としては、例えば、テトラブチルアンモニウム=サリチレート、テトラブチルアンモニウム=4-(トリフルオロメチル)サリチレート、テトラブチルホスホニウム=サリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-(トリフルオロメチル)サリチレート、テトラブチルホスホニウム=アセチルサリチレート、テトラブチルホスホニウム=5-ブロモサリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-クロロサリチレート、テトラブチルホスホニウム=5-クロロサリチレート、テトラブチルホスホニウム=5-ヨードサリチレート、テトラブチルホスホニウム=3-メチルサリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-メチルサリチレート、テトラブチルホスホニウム=5-スルホサリチレート、テトラブチルアンモニウム=4-メトキシサリチレート、テトラブチルアンモニウム=4-フルオロサリチレート、テトラブチルアンモニウム=6-フルオロサリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-メトキシサリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-フルオロサリチレート、テトラブチルホスホニウム=6-フルオロサリチレート又はテトラブチルホスホニウム=3-フェニルサリチレート等が挙げられる。
【0029】
本発明の可溶化剤は、含窒素化合物を有する医薬組成物、医薬部外品又は化粧品に配合して利用することができる。含窒素化合物には特に制限はなく、公知の化合物の中から適宜選択して用いることができる。
【0030】
医薬組成物に用いられる含窒素化合物としては、例えば、ロクロニウム等のアミノステロイド、インドメタシン、ジクロフェナク、フルフェナム酸、ケトロラク、プラノプロフェン等の非ステロイド系抗炎症剤若しくはそのエステル誘導体、トラニラスト、アゼラスチン、ケトチフェン、イブジラスト、オキサトミド若しくはエメダスチン等の抗アレルギ-剤、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、プロメタジン若しくはトリペレナミン等の抗ヒスタミン剤、クロルプロマジン、ニトラゼパム、ジアゼパム、フェノバルビタ-ル、レセルピン等の中枢神経作用薬、インシュリン等のホルモン剤、クロニジン若しくは硫酸グアネチジン等の抗高血圧症剤、塩酸プロプラノロール、塩酸プロカインアミド、アジマリン、ピンドロール若しくは塩酸ツロブテロール等の抗不整脈用剤、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、塩酸パパベリン若しくはニフェジピン等の冠血管拡張剤、リドカイン、ベンゾカイン、塩酸プロカイン若しくはテトラカイン等の局所麻酔剤、モルヒネ、コデイン、トラマドール、プレガバリン、ミロガバリン、アセトアニリド若しくはアミノピリン等の鎮痛剤、エペリゾン、チザニジン、トルペリゾン、イナペリゾン若しくはメシル酸プリジノール等の骨格筋弛緩剤、アセトフェニルアミン、ニトロフラゾン、ペンタマイシン、ナフチオメート、ミコナゾール、オモコナゾール、クロトリマゾール、塩酸ブテナフィン若しくはビフォナゾール等の抗真菌剤、5-フルオロウラシル、アクチノマイシン、ブレオマイシン若しくはマイトマイシン等の抗悪性腫瘍剤、塩酸テロジリン若しくは塩酸オキシブチニン等の排尿障害剤、ニトラゼパム若しくはメプロバメート等の抗てんかん剤、ロチゴチン、ロピニロール、クロルゾキサゾン若しくはレボドパ等のパ-キンソン病治療薬、ベンラファキシン、ブロナンセリン、アリピプラゾール、ブレクスピブラゾール若しくはミルタザピン等の抗精神病薬、メマンチン、ドネペジル若しくはリバスチグミン等の認知症治療薬、メチルフェニデート、アンフェタミン、モダフィニル、アトモキセチン若しくはグアンファシン等の注意欠如・多動症治療薬、バリシチニブ、トファシチニブ、ルキソリチニブ、ペフィシチニブ、フィルゴチニブ、デルゴシチニブ若しくはアブロシチニブ等のヤヌスキナーゼ阻害剤、スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン若しくはナラトリプタン等の片頭痛治療薬、ジファミラスト、ロフルミラスト若しくはアプレミラスト等のホスホジエステラーゼ4阻害剤、ニコチン等の禁煙補助剤、ビタミン類等が挙げられ、この中でも外用剤に好適に使用できることから、骨格筋弛緩剤、抗てんかん剤、パーキンソン病治療薬、抗精神病薬、認知症治療薬、注意欠如・多動性治療薬、ヤヌスキナーゼ阻害剤、片頭痛治療薬及びホスホジエステラーゼ4阻害剤からなる群から選択される塩基性薬物であることが好ましい。また、これらの薬物は、その薬理学上許容される塩やそれらの溶媒和物であっても構わない。
【0031】
医薬部外品、化粧品に用いられる含窒素化合物としては、例えば、グルタチオン、パントテン酸、トラネキサム酸、L-システイン、トリプトファン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、アラニン、γ-アミノ酪酸等のアミノ酸並びにそれらの誘導体、カイネチン、チオタウリン、尿素、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ミノキシジル、D-グルコサミン、N-アセチル-D-グルコサミン、アラントイン、L-カルニチン及びビオチン等が挙げられ、この中でもグルタチオン、パントテン酸、トラネキサム酸、L-システイン、トリプトファン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、アラニン、γ-アミノ酪酸等のアミノ酸及びそれらの誘導体並びにそれらの薬理学上許容される塩が好ましい。また、これらの有効成分は、それらの溶媒和物であっても構わない。
【0032】
ここで、薬理学上許容される塩としては、例えば、無機酸との塩又は有機酸との塩が挙げられる。無機酸との塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩又はリン酸塩が挙げられる。有機酸との塩としては、例えば、シュウ酸塩、マロン酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、グルコン酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、グルタル酸塩、マンデル酸塩、フタル酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩又はケイ皮酸塩が挙げられる。溶媒和物としては、例えば、水和物が挙げられる。
【0033】
含窒素化合物として好ましくは、塩基性化合物又はその塩、水溶性化合物である。塩基性化合物は、例えばアミン類のような塩基性を示す化合物であれば特に制限はない。塩基性化合物又はその塩、水溶性化合物の方が好ましい理由としては、イオン液体との相互作用が起こりやすく、可溶化剤としての効果を発揮しやすいためである。
【0034】
医薬組成物としては、上記可溶化剤は、下記一般式(I)又は一般式(II)で示されるアニオンと、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンとを含むイオン液体であり、上記含窒素化合物は、骨格筋弛緩剤、抗てんかん剤、パーキンソン病治療薬、抗精神病薬、認知症治療薬、注意欠如・多動性治療薬、ヤヌスキナーゼ阻害剤、片頭痛治療薬及びホスホジエステラーゼ4阻害剤からなる群から選択される塩基性薬物である組合せの医薬組成物が好ましい。
【化4】
(式(II)中、R
1は、水素原子又はアシル基を表しR
2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子、スルホ基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
【0035】
本発明の可溶化剤は、以下の式1を満たす可溶化剤であることが好ましい。
可溶化剤層の含窒素化合物濃度/層分離前の混合溶液の含窒素化合物濃度≧5 ・・・式1
【0036】
上記の式1を満たすことで、可溶化剤(B)層により高濃度に含窒素化合物を溶解させることができる。また、式1で得られる値が高いほど、より高濃度の含窒素化合物が溶解した可溶化剤層を得ることができる。そのため、有効成分を高濃度に含有する医薬組成物、医薬部外品又は化粧品に好適に用いることができる。
【0037】
また、本発明の可溶化剤は、以下の式2を満たすことが好ましい。
可溶化剤層の含窒素化合物濃度/液体層の含窒素化合物濃度≧2 ・・・式2
【0038】
上記の式2を満たすことで、層分離後の可溶化剤(B)層に高濃度に溶解させることができる。そのため、有効成分を高濃度に含有する医薬組成物、医薬部外品又は化粧品に好適に用いることができる。
【0039】
上記式1及び式2における含窒素化合物濃度は、後述する分離工程前後の含窒素化合物濃度をそれぞれ測定することで算出する。
【0040】
本発明の可溶化剤を有する医薬組成物は、含窒素化合物の薬物を高濃度に配合させることができるため、経口投与や経鼻投与、経粘膜投与、静脈内投与、経肺投与又は経皮投与等の非経口投与といった一般に知られる投与経路を用いることができ、経口投与、経粘膜投与又は経皮投与を用いることが好ましい。
【0041】
本発明の可溶化剤を含む医薬組成物を経口投与する場合の剤形としては、例えば、錠剤(糖衣錠及びフィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤及びマイクロカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤又は懸濁剤が挙げられる。
【0042】
経口投与製剤の調製は、製剤分野で一般的に用いられている公知の製造方法に従って行うことができ、製剤分野において一般的に用いられる、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、甘味剤、界面活性剤、懸濁化剤又は乳化剤等の薬理学的に許容しうる添加剤を適宜含有させて製造することができる。
【0043】
本発明の吸収制御剤を含む医薬組成物を非経口投与する場合の剤形としては、例えば、経鼻剤、点眼剤、注射剤、注入剤、点滴剤、外用剤又は坐剤が挙げられる。本発明の吸収制御剤を含む医薬組成物は、皮膚の状態に関わらず有効成分の吸収を制御できることから、非侵襲な投与方法である外用剤が好ましい。
【0044】
上記外用剤は、従来使用されている任意の剤形、例えば、軟膏、クリーム、ゲル、ゲル状クリーム、ローション、スプレー、パップ剤、テープ剤又はリザーバー型パッチ等を使用することができる。
【0045】
上記外用剤の調製は、製剤分野で一般的に用いられている公知の製造方法に従って行うことができ、製剤分野において一般的に用いられる薬理学的に許容しうる添加剤を適宜含有させて製造することができる。以下に代表的な剤形であるパップ剤とテープ剤について説明するが、これらに限定されるものではない。
【0046】
パップ剤の調製には、薬理学的に許容しうる添加剤として、例えば、水溶性高分子又は多価アルコールを用いることができる。
【0047】
水溶性高分子としては、例えば、ゼラチン、カゼイン、プルラン、デキストラン、アルギン酸ナトリウム、可溶性デンプン、カルボキシデンプン、デキストリン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルエーテル、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、イソブチレン無水マレイン酸共重合体、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルアセトアミドとアクリル酸又はアクリル酸塩共重合体等が挙げられる。
【0048】
多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、イソブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン又はソルビトール等が挙げられる。
【0049】
テープ剤の調製には、薬理学的に許容しうる添加剤として、例えば、粘着性基剤又は粘着付与剤を用いることができる。
【0050】
ここで、粘着性基剤としては、皮膚安全性、薬効成分放出性、皮膚への付着性等を考慮して公知のものより適宜選択でき、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤又はシリコーン系粘着剤等が挙げられる。
【0051】
アクリル系粘着剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単独重合体若しくは共重合体又は上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとその他の官能性モノマ-との共重合体等が挙げられる。
【0052】
ゴム系粘着剤としては、例えば、天然ゴム、合成イソプレンゴム、ポリイソブチレン、ポリビニルエーテル、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体又はスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0053】
シリコーン系粘着剤としては、例えば、ポリオルガノシロキサン又はポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0054】
粘着付与剤としては、ロジン系のものとしてロジン若しくは水添、不均化、重合、エステル化されたロジン誘導体、α-ピネン若しくはβ-ピネン等のテルペン樹脂、テルペン-フェノール樹脂、脂肪族系、芳香族系、脂環族系若しくは共重合系の石油樹脂、アルキル-フェニル樹脂又はキシレン樹脂等が挙げられる。
【0055】
本発明の可溶化剤を含む医薬部外品や化粧品は、公知の製造方法に従って行うことができる。有効成分と本発明の吸収制御剤の他に、粉末成分、油性成分、紫外線吸収剤、各種水性溶媒、金属イオン封鎖剤、単糖、オリゴ糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、アルコール類、pH調整剤、分散剤、酸化防止剤、香料、防腐剤又は安定化剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0056】
本発明の可溶化剤を含む医薬部外品や化粧品は、従来使用されている任意の剤形、例えば、軟膏、クリーム、ゲル、ゲル状クリーム、ローション、スプレー、パッチ、テープ等を使用することができる。具体的な製品としては、化粧水、乳液、美容液又はスキンケア用のクリーム等が挙げられる。
【0057】
医薬部外品又は化粧品としては、上記可溶化剤は、下記一般式(I)又は一般式(II)で示されるアニオンと、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンとを含むイオン液体であり、上記含窒素化合物は、グルタチオン、パントテン酸、トラネキサム酸、L-システイン、トリプトファン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、アラニン、γ-アミノ酪酸及びそれらの誘導体からなる群から選択される組合せの医薬部外品又は化粧品が好ましい。
【化5】
(式(II)中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子、スルホ基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
【0058】
本発明は、含窒素化合物の溶解方法を提供する。具体的には、含窒素化合物(A)、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンと、カルボキシレートイオンと、を含む可溶化剤(B)及び上記可溶化剤と混和可能な液体(C)を混合し混合溶液を作成する混合工程と、上記混合溶液を層分離させる分離工程を有する、薬物の溶解方法である。
【0059】
混合工程における含窒素化合物(A)、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンと、カルボキシレートイオンと、を含む可溶化剤(B)及び可溶化剤と混和する液体(C)を混合する混合工程の際に得られる溶液は、均一な溶液であることが好ましいが、層分離していなければ含窒素化合物が分散している分散液でも良い。
【0060】
分離工程における層分離の方法としては、含窒素化合物(A)、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンと、カルボキシレートイオンと、を含む可溶化剤(B)及び可溶化剤と混和する液体(C)を混合した溶液が層分離する方法であれば、特に制限はないが、操作の簡便性から加熱又は冷却による方法が好ましい。
【0061】
本発明の含窒素化合物の溶解方法に用いる可溶化剤(B)は、温度応答性イオン液体であることが好ましい。温度応答性イオン液体を用いることで、加熱又は冷却により簡単に層分離させることができ、可溶化剤(B)層に含窒素化合物を高濃度に溶解させることができる。
【0062】
本発明の含窒素化合物の溶解方法として好ましくは、層分離後の可溶化剤(B)層の含窒素化合物濃度が以下の式1を満たす溶解方法である。
可溶化剤層の含窒素化合物濃度/層分離前の混合溶液中の含窒素化合物濃度≧5 ・・・式1
【0063】
上記の式1において、含窒素化合物濃度は、分離工程後の分離した可溶剤化剤(B)層中と、分離工程前の混合溶液中のそれぞれの含窒素化合物濃度を測定する。具体的には、含窒素化合物(A)、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンと、カルボキシレートイオンと、を含む可溶化剤(B)及び前記可溶化剤と混和可能な液体(C)を混合して、混合溶液を作成した後、前記混合溶液を層分離させる。分離した可溶化剤(B)層中と層分離前の混合溶液中それぞれの含窒素化合物濃度を測定する。含窒素化合物濃度の測定方法としては、HPLC-UV、LC/MS、LC/MS/MSなど公知の手法を用いることができる。また、蛍光物質の場合には、蛍光プレートリーダーや蛍光分光光度計を用いることができる。
【0064】
式1を満たすことで、可溶化剤(B)層により高濃度に含窒素化合物を溶解させることができる。また、式1で得られる値が高いほど、より高濃度の含窒素化合物が溶解した可溶化剤層を得ることができる。
【0065】
本発明の含窒素化合物の溶解方法として好ましくは、層分離後の可溶化剤(B)層の含窒素化合物濃度が以下の式2を満たす溶解方法である。
可溶化剤層の含窒素化合物濃度/液体層の含窒素化合物濃度≧2 ・・・式2
【0066】
上記の式2を満たすことで、層分離後の可溶化剤(B)層に高濃度に溶解させることができる。
【0067】
上記の式2において、含窒素化合物濃度は、分離工程後の分離した可溶剤化剤(B)層中と液体(C)層中それぞれの含窒素化合物濃度を測定する。具体的には、含窒素化合物(A)、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンと、カルボキシレートイオンと、を含む可溶化剤(B)及び前記可溶化剤と混和可能な液体(C)を混合して、混合溶液を作成した後、前記混合溶液を層分離させる。分離した可溶化剤(B)層中と液体(C)層中それぞれの含窒素化合物濃度を測定する。含窒素化合物濃度の測定方法としては、HPLC-UV、LC/MS、LC/MS/MSなど公知の手法を用いることができる。また、蛍光物質の場合には、蛍光プレートリーダーや蛍光分光光度計を用いることができる。
【0068】
上記の式1又は式2を満たす含窒素化合物の溶解方法を用いることで、含窒素化合物が高濃度に溶解した可溶化剤(B)層を得ることができるため、含窒素化合物が高濃度に溶解した可溶化剤(B)層を取り出した後、他の成分を配合することで、含窒素化合物が高濃度に溶解した医薬組成物、医薬部外品又は化粧品を製造することができる。
【0069】
また、溶解方法において、分離工程後に、本発明の可溶化剤と混和する液体(C)を例えば減圧除去する除去工程を経ることで、含窒素化合物が高濃度に溶解した可溶化剤(B)層を得ることができる。得られた含窒素化合物と可溶化剤(B)の混合物に対して、他の成分を配合することで、含窒素化合物が高濃度に溶解した医薬組成物、医薬部外品又は化粧品を製造することができる。
【0070】
含窒素化合物(A)として好ましくは、塩基性化合物又はその塩若しくは水溶性化合物である。塩基性化合物は、例えばアミン類のような塩基性を示す化合物であれば特に制限はない。塩基性化合物又はその塩若しくは水溶性化合物の方が好ましい理由としては、本発明の可溶化剤との相互作用が起こりやすく、可溶化剤としての効果を発揮しやすいためである。
【0071】
可溶化剤と混和する液体(C)は、可溶化剤と混和する液体であれば特に制限はなく、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール又はプロパンジオール等のアルコール類や、一般に入手できる有機溶媒であってもよい。
【実施例0072】
以下、実施例により本発明を具体的に詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。また、実施例及び比較例の化合物の合成に使用される化合物で合成法の記載のないものについては、市販の化合物を使用した。なお、試薬は特に断りのない限り、市販のものを精製することなく反応に用いた。まず、測定方法及び試験方法を以下に示す
【0073】
(合成例1)可溶化剤の合成:
カチオン成分として、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40質量%水溶液6.91g(10mmol)、アニオン成分として、サリチル酸1.38g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、サリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=サリチレートと水の混合溶液(以下「サンプル1」という)を定量的に得た。含窒素化合物の溶解試験には、サンプル1を希釈して用いた。
【0074】
(実施例1)含窒素化合物を用いた可溶化剤への溶解試験
ガラススクリュー瓶内で、10%可溶化剤の水溶液に対し、含窒素化合物濃度が1mg/mLになるように含窒素化合物を溶解させた溶液を調製した。溶液1.4mLを1.5mLチューブに移し、40℃のインキュベータ内に3時間静置し、イオン液体層と水層に分離させる分離工程を行った。可溶化剤(B)層及び水である液体(C)層をシリンジで採取し、LC/MS/MSを用いて、各層に溶解している含窒素化合物の濃度を測定した。
【0075】
なお、可溶化剤の水溶液としては、サンプル1を希釈して上記の濃度に調製したものを使用した
【0076】
(LC/MS/MS分析条件)
液体クロマトグラフ(LC):Prominence UFLC(島津製作所社製)
質量分析計(MS/MS):QTRAP(登録商標)3200(Sciex社製)
又は
LC:Exiоn LC(Sciex社製)
MS/MS:TripleQuad(登録商標)7500(Sciex社製)
カラム:CAPCELL PAK C18 MGIII,5μm,2.0mm ID×50mm(株式会社大阪ソーダ)
移動相:A:0.1質量%ギ酸水溶液 B:0.1質量%ギ酸含有アセトニトリル
グラジエント条件:A:B=95:5→10:90
カラム温度:40℃
流速:0.5mL/分
測定時間:5分
サンプル注入量:10μL(Prominence UFLCの場合)
1μL(Exiоn LCの場合)
【0077】
(比較例1)窒素を含まない化合物を用いた可溶化剤への溶解試験
窒素を含まない化合物としてフルオレセインナトリウムを用いて、化合物濃度を0.5mg/mLとした以外は、実施例1と同様に試験を行った。なお、フルオレセインナトリウムの濃度は、蛍光プレートリーダーを用いて測定した
【0078】
【0079】
含窒素化合物であるスマトリプタンコハク酸塩、メマンチン塩酸塩、ベンラファキシン塩酸塩、アトモキセチン塩酸塩及びグアンファシン塩酸塩については、いずれも含窒素化合物の液体(C)層中の濃度に対する可溶化剤(B)層中の濃度が48.1倍~275.8倍と大幅に高くなっているのに加え、分離前の混合溶液の濃度に対する可溶化剤(B)層中の濃度も8.8~9.9倍に高くなっていることから、本発明の可溶化剤は、含窒素化合物の優れた可溶化剤として使用できることを確認した。一方で、窒素を含まない化合物であるフルオレセインナトリウムの場合には、液体(C)層に対する可溶化剤(B)層中の濃度は1.2倍であり、分離前の混合溶液の濃度に対する可溶化剤(B)層中の濃度も1.2倍とほとんど変わらなかった。