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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163413
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】吸収制御剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/12 20060101AFI20241115BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241115BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20241115BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20241115BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20241115BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241115BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20241115BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241115BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20241115BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 31/455 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 31/401 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 31/197 20060101ALI20241115BHJP
   A61K 31/405 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
A61K47/12
A61K45/00
A61P21/02
A61P25/08
A61P25/16
A61P25/00
A61P25/18
A61P25/28
A61P25/06
A61P43/00 111
A61K9/08
A61K38/06
A61K31/198
A61K31/455
A61K31/401
A61K31/197
A61K31/405
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078967
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本白水 崇光
(72)【発明者】
【氏名】中村 正孝
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA94
4C076BB31
4C076CC01
4C076CC09
4C076CC29
4C076DD43M
4C076FF31
4C076FF68
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA17
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA15
4C084BA23
4C084MA05
4C084MA17
4C084MA63
4C084NA10
4C084NA12
4C084ZA022
4C084ZA062
4C084ZA082
4C084ZA152
4C084ZA182
4C084ZA942
4C084ZC202
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC07
4C086BC14
4C086BC19
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA63
4C086NA10
4C086NA12
4C086ZA02
4C086ZA06
4C086ZA08
4C086ZA15
4C086ZA18
4C086ZA94
4C086ZC20
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA51
4C206FA53
4C206MA02
4C206MA05
4C206MA37
4C206MA83
4C206NA10
4C206NA12
4C206ZA02
4C206ZA06
4C206ZA08
4C206ZA15
4C206ZA18
4C206ZA94
4C206ZC20
(57)【要約】
【課題】皮膚や粘膜等において、バリア機能に関わらず有効成分の透過量を一定に制御できる吸収制御剤を提供すること。
【解決手段】イオン液体を含む、有効成分の吸収制御剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体を含む、有効成分の吸収制御剤。
【請求項2】
前記有効成分が以下の式1を満たす、請求項1記載の吸収制御剤。
(電気抵抗値が2.5kΩ以下のヘアレスマウス皮膚における有効成分の24時間累積透過量) ÷ (電気抵抗値が7.0kΩ以上のヘアレスマウス皮膚における24時間累積透過量) ≧5 ・・・式1
【請求項3】
請求項1又は2記載の吸収制御剤と有効成分を有する医薬組成物。
【請求項4】
以下の式2を満たす、請求項3記載の医薬組成物。
(電気抵抗値が1.3kΩ以上4.0kΩ未満のヘアレスマウス皮膚に対する有効成分の24時間累積透過量) ÷ (電気抵抗値が7.0kΩ以上10.0kΩ以下のヘアレスマウス皮膚に対する有効成分の24時間累積透過量) ≦5 ・・・式2
【請求項5】
前記吸収制御剤は、下記一般式(I)又は(II)で示されるアニオンを有するイオン液体であり、
前記有効成分は、骨格筋弛緩剤、抗てんかん剤、パーキンソン病治療薬、抗精神病薬、認知症治療薬、注意欠如・多動性治療薬、ヤヌスキナーゼ阻害剤、片頭痛治療薬及びホスホジエステラーゼ4阻害剤からなる群から選択される塩基性薬物である、請求項3又は4記載の医薬組成物。
【化1】
(式(II)中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子、スルホ基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
【請求項6】
外用剤である、請求項3~5のいずれか一項記載の医薬組成物。
【請求項7】
請求項1又は2記載の吸収制御剤と有効成分を有する医薬部外品又は化粧品。
【請求項8】
以下の式2を満たす、請求項7記載の医薬部外品又は化粧品。
(電気抵抗値が1.3kΩ以上4.0kΩ未満のヘアレスマウス皮膚に対する有効成分の24時間累積透過量) ÷ (電気抵抗値が7.0kΩ以上10.0kΩ以下のヘアレスマウス皮膚に対する有効成分の24時間累積透過量) ≦5 ・・・式2
【請求項9】
前記吸収制御剤は、下記一般式(I)又は(II)で示されるアニオンを有するイオン液体であり、
前記有効成分は、グルタチオン、L-システイン、トリプトファン、ヒスチジン、ニコチン酸アミド、ヒドロキシプロリン、セリン、アルギニン、アラニン、γ-アミノ酪酸及びそれらの誘導体並びにそれらの薬理学的に許容される塩からなる群から選択される、請求項7又は8記載の医薬部外品又は化粧品。
【化2】
(式(II)中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子、スルホ基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
【請求項10】
請求項1又は2記載の吸収制御剤と有効成分を有する、角層損傷を伴う疾患に対する治療剤又は予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体を含む吸収制御剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品の投与経路としては、経口投与、静脈内投与及び経皮投与等が知られており、有効成分の物性や特性等に合わせて適宜開発されている。
【0003】
なかでも経皮投与は、高齢者や認知症患者等の嚥下困難な患者でも服薬が容易であること、経口・注射投与による医薬品の血中濃度上昇に起因する副作用を避けられること、更に、食事による影響を受けにくいため多忙で食生活が乱れがちな患者にも安定した薬効を得やすいこと等の患者の薬に関わるコンプライアンスを向上させるといったメリットがある。しかしながら、一般的に水溶性薬物や分子量の大きい薬物は、高いバリア機能を持つ皮膚の角質層に阻まれるために皮膚透過性が低く、経皮投与に適用できる薬物は限定的であった。
【0004】
経皮投与での薬物の皮膚透過性を向上させる技術としては、経皮吸収促進剤を用いる方法が知られており、実際に貼付剤をはじめとする皮膚外用剤に使用されている。しかしながら、経皮吸収促進剤の使用により薬物の経皮吸収性を高めることで、高齢者や小児、皮膚疾患の患者等の皮膚バリア機能が弱い又は低下している患者に対しては、過剰投与になる可能性がある。一方で、皮膚バリア機能の弱い患者に対して最適な薬物投与量になるよう製剤設計を行うと、皮膚バリア機能が正常な患者や治療により皮膚バリア機能が正常になった患者に対しては薬物投与量が不十分となるといった課題があった。
【0005】
例えば、非特許文献1には、代表的な経皮吸収促進剤である界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸エステルを用いた場合における、マンニトール等の親水性薬物やエストラジオール等の脂溶性薬物それぞれの薬物の透過係数と皮膚の電気抵抗値の関係について記載されている。
【0006】
また、特許文献1には、芳香族カルボキシレートイオン及び芳香族スルホネートイオンを含む温度応答性イオン液体を用いることで皮膚や粘膜等での薬物の透過性を向上させた医薬組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2021/070893号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】JOURNAL OF CONTROLLED RELEASE 110 (2006) 307-313.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1には、吸収促進剤がある条件下においても、皮膚の電気抵抗値と薬物の透過係数には負の相関があると記載されている。このように界面活性剤や脂肪酸といった既存の吸収促進剤を用いた場合には、皮膚の状態によって薬物の透過量が大きく変動するという課題があった。
【0010】
また、特許文献1には、温度応答性イオン液体を用いることで、皮膚や粘膜に対する薬物の透過量を向上させる技術が開示されているが、皮膚や粘膜のバリア機能の強さにかからず薬物等の有効成分の透過量を一定範囲に制御する技術については、示唆も記載もない。
【0011】
そこで本発明は、皮膚や粘膜等生体膜のバリア機能の強さに関わらず、有効成分の透過量を一定範囲に制御するための、イオン液体を含む吸収制御剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下の(1)~(10)の発明を見出した。
(1) イオン液体を含む、有効成分の吸収制御剤。
(2) 上記有効成分が以下の式1を満たす、(1)記載の吸収制御剤。
(電気抵抗値が2.5kΩ以下のヘアレスマウス皮膚における有効成分の24時間累積透過量) ÷ (電気抵抗値が7.0kΩ以上のヘアレスマウス皮膚における24時間累積透過量) ≧5 ・・・式1
(3) (1)又は(2)記載の吸収制御剤と有効成分を有する医薬組成物。
(4) 以下の式2を満たす、(3)記載の医薬組成物。
(電気抵抗値が1.3kΩ以上4.0kΩ未満のヘアレスマウス皮膚に対する有効成分の24時間累積透過量) ÷ (電気抵抗値が7.0kΩ以上10.0kΩ以下のヘアレスマウス皮膚に対する有効成分の24時間累積透過量) ≦5 ・・・式2
(5) 上記吸収制御剤は、下記一般式(I)又は(II)で示されるアニオンを有するイオン液体であり、上記有効成分は、骨格筋弛緩剤、抗てんかん剤、パーキンソン病治療薬、抗精神病薬、認知症治療薬、注意欠如・多動性治療薬、ヤヌスキナーゼ阻害剤、片頭痛治療薬及びホスホジエステラーゼ4阻害剤からなる群から選択される塩基性薬物である、(3)又は(4)記載の医薬組成物。
【化1】
(式(II)中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子、スルホ基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
(6) 外用剤である、(3)~(5)のいずれか記載の医薬組成物。
(7) (1)又は(2)記載の吸収制御剤と有効成分を有する医薬部外品又は化粧品。
(8) 以下の式2を満たす、(7)記載の医薬部外品又は化粧品。
(電気抵抗値が1.3kΩ以上4.0kΩ未満のヘアレスマウス皮膚に対する有効成分の24時間累積透過量) ÷ (電気抵抗値が7.0kΩ以上10.0kΩ以下のヘアレスマウス皮膚に対する有効成分の24時間累積透過量) ≦5 ・・・式2
(9) 上記吸収制御剤は、下記一般式(I)又は(II)で示されるアニオンを有するイオン液体であり、上記有効成分は、グルタチオン、L-システイン、トリプトファン、ヒスチジン、ニコチン酸アミド、ヒドロキシプロリン、セリン、アルギニン、アラニン、γ-アミノ酪酸及びそれらの誘導体並びにそれらの薬理学的に許容される塩からなる群から選択される、(7)又は(8)記載の医薬部外品又は化粧品。
【化2】
(式(II)中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子、スルホ基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
(10) (1)又は(2)記載の吸収制御剤と有効成分を有する、角層損傷を伴う疾患に対する治療剤又は予防剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、医薬品、医薬部外品及び化粧品に用いられる有効成分の吸収量について、有効成分に対してイオン液体が相互作用することにより、皮膚のバリア機能の影響を受けにくい状態へと有効成分を変化させることで、皮膚や粘膜等の生体膜のバリア機能の強さに寄らず一定範囲に制御することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明における吸収制御剤とは、皮膚や粘膜等の生体膜からの有効成分の吸収において、生体膜のバリア機能の強さに寄らず、有効成分の吸収量を一定範囲に制御することができるものである。一方で、吸収促進剤は有効成分の吸収を促進するためのものであり、本発明の吸収制御剤とは機能が異なる。
【0015】
本発明の吸収制御剤はイオン液体を含むことを特徴とする。有効成分に対してイオン液体が相互作用することにより、皮膚のバリア機能の影響を受けにくい状態へと有効成分を変化させることで、皮膚への透過量を制御していると考えられる。また、皮膚と同じく消化管や鼻に存在する粘膜等の脂溶性の生体膜に対しても同様の作用で吸収量を制御できる。吸収促進剤の場合は、皮膚に作用してその構造を変化させることから、吸収制御剤とは作用機序が異なると考えられる。
【0016】
上記のメカニズムの違いから、例えば、経皮投与の場合、吸収促進剤は主に皮膚バリア機能が正常な患者への投与において有効であるが、本発明の吸収制御剤は、皮膚バリア機能が低下した患者、正常な患者いずれにおいても有効成分の吸収量を一定範囲に収めることができるため、皮膚バリア機能が低いとされる高齢者、小児又は皮膚バリア機能が変動しやすいアトピー性皮膚炎等の皮膚疾患患者への投与において好ましく使用することができる。
【0017】
イオン液体とは、100℃以下に融点を有し、カチオン又はアニオンの少なくとも一方が有機物である塩と定義される(イオン液体の科学‐新世代液体への挑戦-、7ページに記載)。
【0018】
本発明のイオン液体を構成するカチオンとしては、例えば、窒素原子をイオン中心とするもの、リン原子をイオン中心とするもの、硫黄原子をイオン中心とするもの又はイオン中心として窒素原子と硫黄原子とを持つもの等が挙げられる。
【0019】
窒素原子をイオン中心とするカチオンとしては、例えば、イミダゾリウムイオン、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、キノリニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、ピペラジニウムイオン、モルホリニウムイオン、ピリダジニウムイオン、ピリミジニウムイオン、ピラジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、チアゾリウムイオン、オキサゾリウムイオン、トリアゾリウムイオン、グアニジウムイオン又は4-アザ-1-アゾニア-ビシクロ-[2,2,2]オクタニウムイオン等が挙げられる。また、これらのカチオンにおいては任意の位置にアルキル基等の置換基を有していてもよく、置換基の数は複数でもよい。
【0020】
窒素原子をイオン中心とするカチオンとしては、入手や構造変換が容易であるためイミダゾリウムイオン、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン又はピペリジニウムイオンが好ましい。
【0021】
イミダゾリウムイオンとしては、例えば、1-メチルイミダゾリウムイオン、1-エチルイミダゾリウムイオン、1-プロピルイミダゾリウムイオン、1-ブチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-アリル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,3-ジアリルイミダゾリウムイオン、1-ベンジル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウムイオン、1-エチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムイオン、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムイオン、1-シアノプロピル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,3-ビスシアノメチルイミダゾリウムイオン、1,3-ビス(3-シアノプロピル)イミダゾリウムイオン、1-(2-ヒドロキシエチル)-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-メトキシエチル-3-メチルイミダゾリウムイオン、1-[2-(2-メトキシエトキシ)-エチル]-3-メチルイミダゾリウムイオン、1,3-ジエトキシイミダゾリウムイオン、1,3-ジメトキシイミダゾリウムイオン、1,3-ジヒドロキシイミダゾリウムイオン、1-メチル-3-(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチルイミダゾリウムイオン又は1-メチル-3-[(トリエトキシシリル)プロピル]イミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0022】
アンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラへキシルアンモニウムイオン、若しくはトリヘキシルテトラデシルアンモニウムイオン等のテトラアルキルアンモニウムイオン、(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムイオン、N,N-ジエチル-N-(2-メトキシエチル)-N-メチルアンモニウムイオン、トリス(2-ヒドロキシエチル)メチルアンモニウムイオン、トリメチル(1H,1H,2H,2H-ヘプタデカフルオロデシル)アンモニウムイオン、トリメチル-(4-ビニルベンジル)アンモニウムイオン、トリブチル-(4-ビニルベンジル)アンモニウムイオン、2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムイオン、ベンジルジメチル(オクチル)アンモニウムイオン又はN,N-ジメチル-N-(2-フェノキシエチル)-1-ドデシルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0023】
ピリジニウムイオンとしては、例えば、1-エチルピリジニウムイオン、1-ブチルピリジニウムイオン、1-(3-ヒドロキシプロピル)ピリジニウムイオン、1-エチル-3-メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-3-メチルピリジニウムイオン、1-ブチル-4-メチルピリジニウムイオン又は1-(3-シアノプロピル)ピリジニウムイオン等が挙げられる。
【0024】
ピロリジニウムイオンとしては、例えば、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムイオン、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムイオン、1-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルピロリジニウムイオン又は1-エチル-1-メチルピロリジニウムイオン等が挙げられる。
【0025】
ピペリジニウムイオンとしては、例えば、1-メチル-1-プロピルピペリジニウムイオン、1-ブチル-1-メチルピペリジニウムイオン、1-(2-ヒドロキシエチル)-1-メチルピペリジニウムイオン又は1-エチル-1-メチルピペリジニウムイオン等が挙げられる。
【0026】
リン原子をイオン中心とするカチオンは、一般的にホスホニウムイオンと呼ばれ、例えば、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、テトラヘキシルホスホニウムイオン、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムイオン、トリフェニルメチルホスホニウムイオン、トリイソブチルメチルホスホニウムイオン、トリエチルメチルホスホニウムイオン、トリブチルメチルホスホニウムイオン、若しくはトリブチルヘキサデシルホスホニウムイオン等のテトラアルキルホスホニウムイオン、(2-シアノエチル)トリエチルホスホニウムイオン、(3-クロロプロピル)トリオクチルホスホニウムイオン、トリブチル(4-ビニルベンジル)ホスホニウムイオン又は3-(トリフェニルホスホニオ)プロパン-1-スルホン酸イオン等が挙げられる。
【0027】
硫黄原子をイオン中心とするカチオンは、一般的にスルホニウムイオンと呼ばれ、例えば、トリエチルスルホニウムイオン、トリブチルスルホニウムイオン、1-エチルテトラヒドロチオフェニウムイオン又は1-ブチルテトラヒドロチオフェニウムイオン等が挙げられる。
【0028】
様々な有効成分に対しての吸収制御効果を示す観点から、本発明の吸収制御剤に含まれるイオン液体のカチオンは、アンモニウムイオン又はホスホニウムイオンであることが好ましく、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンであることがより好ましい。
【0029】
また、カチオンが有する4つのアルキル基の合計の炭素数は、13以上35以下であることが好ましく13以上25以下がより好ましい。テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、テトラオクチルアンモニウムイオン、トリオクチルメチルアンモニウムイオンが挙げられ、テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、例えば、テトラブチルホスホニウムイオン、テトラペンチルホスホニウムイオン、テトラヘキシルホスホニウムイオン、テトラオクチルホスホニウムイオン、トリブチルヘキシルホスホニウムイオン、トリブチルヘプチルホスホニウムイオン、トリブチルオクチルホスホニウムイオン、トリブチルドデシルホスホニウムイオン、トリブチルトリデシルホスホニウムイオン、トリブチルペンタデシルホスホニウムイオン、トリブチルヘキサデシルホスホニウムイオン又はトリヘキシルテトラデシルホスホニウムイオンが挙げられる。なお、テトラアルキルアンモニウムイオン又はテトラアルキルホスホニウムイオンが有する4つのアルキル基は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0030】
イオン液体のアニオンとしては、例えば、ハロゲン化物イオン、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド等のイミド系イオン、カルボン酸イオン、スルホン酸イオン、リン酸イオン、ホスホン酸イオン、ホスフィン酸イオン又はアミノ酸イオン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、これらのアニオンにおいては、任意の位置にアルキル基やアリール基に代表される置換基を有していてもよく、置換基の数は複数でもよい。
【0031】
様々な有効成分に対しての吸収制御効果を示す観点から、本発明の吸収制御剤に含まれるイオン液体のアニオンはカルボキシレートイオン(カルボン酸イオン)であることが好ましく、より好ましくは芳香族カルボキシレートイオンであり、さらに好ましくはサリチル酸又はサリチル酸誘導体由来のアニオンが挙げられる。
【0032】
芳香族カルボキシレートイオンの例としては、置換又は無置換の安息香酸イオン、例えば、安息香酸イオン、トルイル酸イオン若しくはトリフルオロメチル安息香酸イオン等に置換されていてもよいアルキル基で置換された安息香酸イオン、フルオロ安息香酸イオン、クロロ安息香酸イオン、ブロモ安息香酸イオン若しくはヨード安息香酸イオン等のハロゲン化安息香酸イオン、ホルミル安息香酸イオン若しくはアセチル安息香酸イオン等のアシル化安息香酸イオン、ヒドロキシ安息香酸イオン、アミノ安息香酸イオン、メトキシ安息香酸イオン等のアルコキシ化安息香酸イオン若しくはスルホ安息香酸イオン、又は、置換又は無置換の多環芳香族カルボン酸イオン、例えば、ナフタレンカルボン酸イオン若しくはアントラセンカルボン酸イオン等が挙げられる。
【0033】
温度応答性イオン液体となる組み合わせであれば、芳香族カルボキシレートイオン上の置換基の位置については、任意の位置にあって構わず、置換基の数や種類も特に制限はない。置換基としてヒドロキシ基やアミノ基等を含む場合は、該ヒドロキシ基や該アミノ基等はアシル基等でさらに置換されていてもよい。
【0034】
サリチル酸又はサリチル酸誘導体由来のアニオンにおけるサリチル酸誘導体としては、例えば、サリチル酸のベンゼン環上に置換基を有する化合物やフェノール性水酸基に置換基を有する化合物が挙げられる。一実施形態では、上記イオン液体を構成するアニオンは、例えば、下記の一般式(I)又は一般式(II)で示されるアニオンである。
【化3】
(式(II)中、Rは、水素原子又はアシル基を表し、Rは、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子、スルホ基、アリール基又はアルコキシ基を表す。)
【0035】
本発明の吸収制御剤に含まれるイオン液体は、一般的なイオン液体の合成法に準じて合成することができる。例えば、イオン液体がアンモニウム塩である場合、(1)アミンをハロゲン化アルキル化合物等と反応させて得られるアンモニウム塩に対して、金属塩を用いたアニオン交換を行い、精製処理を行うことで、目的のアンモニウム塩を得る方法(アニオン交換法)や、(2)アミン又はアンモニウムヒドロキシドと酸を直接反応させて中和することで目的のアンモニウム塩を得る方法(中和法)が挙げられる。イオン液体がホスホニウム塩である場合にも、上記のアニオン交換法と中和法のいずれの方法でも合成することができる。中和法の場合は、ホスホニウムヒドロキシドと酸を直接反応させて中和することで目的のホスホニウム塩を得ることができる。
【0036】
本発明に用いるイオン液体の合成には、1種類のカチオンと2種類以上のアニオン、2種類以上のカチオンと1種類のアニオン、又は2種類以上のカチオンと2種類以上のアニオンを使用してもよい。例えば、カチオンであるテトラブチルホスホニウムヒドロキシド1モルに対して、アニオンであるサリチル酸と4-メトキシサリチル酸との合計が1モルになるように両者を任意の割合で混合することで、1種類のカチオンと2種類のアニオンを含むイオン液体を得ることができる。
【0037】
本発明に用いるイオン液体は、温度応答性イオン液体であることが好ましい。温度応答性イオン液体とは、イオン液体のうち、温度応答性を示すものをいう。温度応答性イオン液体は、親水性と疎水性のバランスが好適であるため、幅広い有効成分に対して吸収制御剤として機能することができる。
【0038】
ここで、温度応答性とは、温度(熱)変化に応答し、形状及び/又は性質等が変化する性質をいう。イオン液体の温度応答性としては、例えば、膨張と収縮等の体積変化、下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature:以下「LCST」という)又は上限臨界溶液温度(Upper Critical Solution Temperature:以下「UCST」という)といった疎水性の変化等がある。
【0039】
温度応答性イオン液体の中でも、薬物の透過量を制御する観点から、LCSTを有する温度応答性であることが好ましく、LCSTは40℃以下であることが好ましい。
【0040】
温度応答性イオン液体の例としては、上記一般式(I)又は一般式(II)で示されるアニオンと、アンモニウムイオン(例えば、テトラアルキルアンモニウムイオン)又はホスホニウムイオン(例えば、テトラアルキルホスホニウムイオン)とを含む温度応答性イオン液体が挙げられる。
【0041】
上記の温度応答性イオン液体としては、例えば、テトラブチルアンモニウム=サリチレート、テトラブチルアンモニウム=4-(トリフルオロメチル)サリチレート、テトラブチルホスホニウム=サリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-(トリフルオロメチル)サリチレート、テトラブチルホスホニウム=アセチルサリチレート、テトラブチルホスホニウム=5-ブロモサリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-クロロサリチレート、テトラブチルホスホニウム=5-クロロサリチレート、テトラブチルホスホニウム=5-ヨードサリチレート、テトラブチルホスホニウム=3-メチルサリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-メチルサリチレート、テトラブチルホスホニウム=5-スルホサリチレート、テトラブチルアンモニウム=4-メトキシサリチレート、テトラブチルアンモニウム=4-フルオロサリチレート、テトラブチルアンモニウム=6-フルオロサリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-メトキシサリチレート、テトラブチルホスホニウム=4-フルオロサリチレート、テトラブチルホスホニウム=6-フルオロサリチレート又はテトラブチルホスホニウム=3-フェニルサリチレート等が挙げられる。
【0042】
本発明の吸収制御剤は、有効成分を含む医薬組成物、医薬部外品又は化粧品として利用することができる。有効成分には特に制限はなく、公知の有効成分の中から適宜選択して用いることができる。
【0043】
有効成分としてより好ましくは、塩基性化合物、アミノ酸又はそれらの塩である。塩基性化合物は、例えばアミン類のような塩基性を示す化合物であれば特に制限はない。これらの化合物は、イオン液体との相互作用が起こりやすいことから、吸収制御効果が十分に発揮されやすいため好ましい。
【0044】
本発明の吸収制御剤に対する有効成分に用いられる具体的な薬物としては、例えば、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、フルオシノロンアセトニド、吉草酸ベタメタゾン、ジプロピオン酸ベタメタゾン、酪酸クロベタゾン若しくはコハク酸プレドニゾロン等のステロイド系抗炎症剤、インドメタシン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ケトプロフェン、フルフェナム酸、ケトロラク、フルルビプロフェン、フェルビナク、スプロフェン、プラノプロフェン、チアプロフェン若しくはロキソプロフェン等の非ステロイド系抗炎症剤及びこれらのエステル誘導体、トラニラスト、アゼラスチン、ケトチフェン、イブジラスト、オキサトミド若しくはエメダスチン等の抗アレルギ-剤、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、プロメタジン若しくはトリペレナミン等の抗ヒスタミン剤、クロルプロマジン、ニトラゼパム、ジアゼパム、フェノパルビタ-ル若しくはレセルピン等の中枢神経作用薬、インシュリン、テストステロン、ノルエチステロン、メチルテストステロン、プロゲステロン若しくはエストラジオール等のホルモン剤、クロニジン、レセルピン若しくは硫酸グアネチジン等の抗高血圧症剤、ジギトキシン若しくはジゴキシン等の強心剤、塩酸プロプラノロール、塩酸プロカインアミド、アジマリン、ピンドロール若しくは塩酸ツロブテロール等の抗不整脈用剤、ニトログリセリン、硝酸イソソルビド、塩酸パパベリン若しくはニフェジピン等の冠血管拡張剤、リドカイン、ベンゾカイン、塩酸プロカイン若しくはテトラカイン等の局所麻酔剤、モルヒネ、アスピリン、コデイン、トラマドール、プレガバリン、ミロガバリン、アセトアニリド、アミノピリン若しくはエトドラク等の鎮痛剤、エペリゾン、チザニジン、トルペリゾン、イナペリゾン若しくはメシル酸プリジノール等の骨格筋弛緩剤、アセトフェニルアミン、ニトロフラゾン、ペンタマイシン、ナフチオメート、ミコナゾール、オモコナゾール、クロトリマゾール、塩酸ブテナフィン若しくはビフォナゾール等の抗真菌剤、5-フルオロウラシル、ブスルファン、アクチノマイシン、ブレオマイシン、マイトマイシン等の抗悪性腫瘍剤、塩酸テロジリン若しくは塩酸オキシブチニン等の排尿障害剤、ニトラゼパム若しくはメプロバメート等の抗てんかん剤、ロチゴチン、ロピニロール、クロルゾキサゾン若しくはレボドパ等のパ-キンソン病治療薬、ベンラファキシン若しくはブロナンセリン等の抗精神病薬、メマンチン、ドネペジル若しくはリバスチグミン等の認知症治療薬、メチルフェニデート、アンフェタミン、モダフィニル、アトモキセチン若しくはグアンファシン等の注意欠如・多動症治療薬、バリシチニブ、トファシチニブ、ルキソリチニブ、ペフィシチニブ、フィルゴチニブ、デルゴシチニブ若しくはアブロシチニブ等のヤヌスキナーゼ阻害剤、スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタン、リザトリプタン若しくはナラトリプタン等の片頭痛治療薬、ジファミラスト、ロフルミラスト若しくはアプレミラスト等のホスホジエステラーゼ4阻害剤、ニコチン等の禁煙補助剤、ビタミン類又はプロスタグランジン類等が挙げられ、この中でも外用剤に好適に使用できることから、骨格筋弛緩剤、抗てんかん剤、パーキンソン病治療薬、抗精神病薬、認知症治療薬、注意欠如・多動性治療薬、ヤヌスキナーゼ阻害剤、片頭痛治療薬及びホスホジエステラーゼ4阻害剤からなる群から選択される塩基性薬物であることが好ましい。また、これらの薬物は、その薬理学上許容される塩やそれらの溶媒和物であっても構わない。
【0045】
医薬部外品又は化粧品に用いられる具体的な有効成分としては、例えば、アルブチン、L-アスコルビン酸、ハイドロキノン、グルタチオン、パントテン酸、トラネキサム酸、コウジ酸、L-システイン、エラグ酸、ルシノール、レゾルシン、アスタキサンチン及びそれらの誘導体、ルチン、コレステロール及びその誘導体、トリプトファン、ヒスチジン、クエルセチン及びクエルシトリン等のフラボノイド類、カテキン及びその誘導体、没食子酸及びその誘導体、カイネチン、α-リポ酸、エリソルビン酸及びその誘導体、チオタウリン、尿素、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ヒドロキシプロリン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、アラニン、ミノキシジル、D-グルコサミン、N-アセチル-D-グルコサミン、ヒアルロン酸、ラフィノース、アゼライン酸、γ-アミノ酪酸、アラントイン、L-カルニチン又はビオチン等が挙げられ、この中でもアミン類又はアミノ酸である、グルタチオン、L-システイン、トリプトファン、ヒスチジン、ニコチン酸アミド、ヒドロキシプロリン、セリン、アルギニン、アラニン、γ-アミノ酪酸及びそれらの誘導体並びにそれらの薬理学上許容される塩からなる群から選択されることが好ましい。また、これらの有効成分は、それらの溶媒和物であっても構わない。
【0046】
ここで、薬理学上許容される塩としては、例えば、無機酸との塩又は有機酸との塩が挙げられる。無機酸との塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩又はリン酸塩が挙げられる。有機酸との塩としては、例えば、シュウ酸塩、マロン酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、グルコン酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、グルタル酸塩、マンデル酸塩、フタル酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩又はケイ皮酸塩が挙げられる。溶媒和物としては、例えば、水和物が挙げられる。
【0047】
有効成分は、以下の式1を満たす有効成分であることが好ましい。
(電気抵抗値が2.5kΩ以下のマウス皮膚における有効成分の24時間累積透過量) ÷ (電気抵抗値が7.0kΩ以上のマウス皮膚における24時間累積透過量) ≧5 ・・・式1
【0048】
ここで、該電気抵抗値は、皮膚のバリア機能の指標であり、電気抵抗値が低いほど皮膚のバリア機能が低いことを示している。したがって、式1を満たす有効成分は、バリア機能が高い皮膚に対しては透過しにくく、バリア機能が低い皮膚に対しては透過しやすい性質であることから、皮膚の状態に関わらず透過量を一定にするために、本発明の吸収制御剤が必要とされる有効成分である。
【0049】
電気抵抗値の測定は次の方法で行うことができる。縦型フランツセルに解凍したヘアレスマウス皮膚(商品名:ラボスキン、星野試験動物飼育所から入手)をセット後、レシーバーセルにりん酸緩衝生理食塩水((Ca、Mg不含)(以下、PBS(-))を充填し、ドナーセル側にもPBS(-)を充填する。50分間静置した後、角層インピーダンスメータ(AS-TZ1、日本アッシュ社製)を用いて、マウス皮膚の電気抵抗値を測定することができる。
【0050】
24時間累積透過量の測定は、次の方法で行うことができる。縦型フランツセルに回答したヘアレスマウス皮膚(商品名:ラボスキン)を、角層側を上にしてセットした。レシーバーセル側に、りん酸緩衝生理食塩水(PBS(-))を空気が入らないように充填した。その後、ドナーセルを皮膚の上に載せてクランプで留めた後、ドナーセルにPBS(-)を充填して、ヘアレスマウス皮膚の水和を開始し、1時間経過後にドナーセルのPBS(-)を除去する。その後、有効成分を含む組成物をドナーセルに添加して、透過試験を開始した。試験開始から、1,2,3,4,5,6,7,8、24時間経過時にそれぞれレシーバー溶液を500μLサンプリングし、同量(500μL)のPBS(-)を補充した。サンプリング液中の有効成分の濃度測定し、その値を式3に代入することで、有効成分の24時間累積透過量を算出した。
【数1】
(式3中、Q:n番目のサンプリング時点tにおける単位面積当たりの有効成分の累積透過量(ng/cm)、C:n番目に採取したレシーバー液中有効成分濃度(ng/mL)、V:レシーバー体積(mL)、v:サンプリング体積(mL)、S:透過面積(cm)をそれぞれ示す)
【0051】
本発明の吸収制御剤を含む医薬組成物は、皮膚だけでなく粘膜に対する薬物の透過性を制御できるため、経口投与、経鼻投与等の経粘膜投与、経肺投与又は経皮投与等の非経口投与といった一般に知られる投与経路を用いることができ、経粘膜投与又は経皮投与を用いることが好ましい。
【0052】
本発明の吸収制御剤を含む医薬組成物を経口投与する場合の剤形としては、例えば、錠剤(糖衣錠及びフィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤及びマイクロカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤又は懸濁剤が挙げられる。
【0053】
経口投与製剤の調製は、製剤分野で一般的に用いられている公知の製造方法に従って行うことができ、製剤分野において一般的に用いられる、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、甘味剤、界面活性剤、懸濁化剤又は乳化剤等の薬理学的に許容しうる添加剤を適宜含有させて製造することができる。
【0054】
本発明の吸収制御剤を含む医薬組成物を非経口投与する場合の剤形としては、例えば、経鼻剤、点眼剤、注射剤、注入剤、点滴剤、外用剤又は坐剤が挙げられる。本発明の吸収制御剤を含む医薬組成物は、皮膚の状態に関わらず有効成分の吸収を制御できることから、非侵襲な投与方法である外用剤が好ましい。
【0055】
上記外用剤は、従来使用されている任意の剤形を用いることができ、例えば、軟膏、クリーム、ゲル、ゲル状クリーム、ローション、スプレー、パップ剤、テープ剤又はリザーバー型パッチ等を使用することができる。
【0056】
上記外用剤の調製は、製剤分野で一般的に用いられている公知の製造方法に従って行うことができ、製剤分野において一般的に用いられる薬理学的に許容しうる添加剤を適宜含有させて製造することができる。以下に代表的な剤形であるパップ剤とテープ剤について説明するが、これらに限定されるものではない。
【0057】
パップ剤の調製には、薬理学的に許容しうる添加剤として、例えば、水溶性高分子又は多価アルコールを用いることができる。
【0058】
水溶性高分子としては、例えば、ゼラチン、カゼイン、プルラン、デキストラン、アルギン酸ナトリウム、可溶性デンプン、カルボキシデンプン、デキストリン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルエーテル、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、イソブチレン無水マレイン酸共重合体、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルアセトアミドとアクリル酸又はアクリル酸塩共重合体等が挙げられる。
【0059】
多価アルコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、イソブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン又はソルビトール等が挙げられる。
【0060】
テープ剤の調製には、薬理学的に許容しうる添加剤として、例えば、粘着性基剤又は粘着付与剤を用いることができる。
【0061】
ここで、粘着性基剤としては、皮膚安全性、薬効成分放出性及び皮膚への付着性等を考慮して公知のものより適宜選択でき、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤又はシリコーン系粘着剤等が挙げられる。
【0062】
アクリル系粘着剤としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単独重合体若しくは共重合体又は(メタ)アクリル酸アルキルエステルとその他の官能性モノマ-との共重合体等が挙げられる。
【0063】
ゴム系粘着剤としては、例えば、天然ゴム、合成イソプレンゴム、ポリイソブチレン、ポリビニルエーテル、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体又はスチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0064】
シリコーン系粘着剤としては、例えば、ポリオルガノシロキサン又はポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0065】
粘着付与剤としては、ロジン系のものとしてロジン若しくは水添、不均化、重合、エステル化されたロジン誘導体、α-ピネン、β-ピネン等のテルペン樹脂、テルペン-フェノール樹脂、脂肪族系、芳香族系、脂環族系若しくは共重合系の石油樹脂、アルキル-フェニル樹脂又はキシレン樹脂等が挙げられる。
【0066】
本発明の医薬部外品や化粧品は、吸収制御剤と有効成分を有する。ここで、医薬部外品や化粧品は、公知の製造方法に従って行うことができる。上記医薬部外品及び上記化粧品は、有効成分と吸収制御剤の他に、粉末成分、油性成分、紫外線吸収剤、各種水性溶媒、金属イオン封鎖剤、単糖、オリゴ糖、アミノ酸、有機アミン、高分子エマルジョン、アルコール類、pH調整剤、分散剤、酸化防止剤、香料、防腐剤又は安定化剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0067】
上記医薬部外品や化粧品は、従来使用されている任意の剤形、例えば、軟膏、クリーム、ゲル、ゲル状クリーム、ローション、スプレー、パッチ又はテープ等を使用することができる。具体的な製品としては、化粧水、乳液、美容液又はスキンケア用のクリーム等が挙げられる。
【0068】
本発明の医薬組成物、医薬部外品又は化粧品は、吸収制御剤と有効成分を有し、皮膚のバリア機能の強さに関わらず有効成分の透過量を一定に制御できる。皮膚のバリア機能の強さは、角層インピーダンスメータを用いて皮膚電気抵抗値を測定することで評価でき、皮膚電気抵抗値が低いほど皮膚のバリア機能が低いと判断できる。
【0069】
一実施形態では、以下の式2を満たす医薬組成物、医薬部外品又は化粧品である。
(電気抵抗値が1.3kΩ以上4.0kΩ未満のヘアレスマウス皮膚に対する有効成分の24時間累積透過量) ÷ (電気抵抗値が7.0kΩ以上10.0kΩ以下のヘアレスマウス皮膚に対する有効成分の24時間累積透過量) ≦5 ・・・式2
【0070】
上記医薬組成物、医薬部外品又は化粧品が式2を満たすことで、皮膚バリア機能が低い皮膚と高い皮膚のいずれにおいても透過量を一定にすることができるため、皮膚外用剤、皮膚に使用する医薬部外品又は化粧品として好適に使用することができる。
【0071】
上記医薬組成物は、角層損傷を伴う疾患に対する治療剤又は予防剤として利用できる。角層は皮膚の再表層に位置し、皮膚における最大のバリアとして機能しているが、例えば、アトピー性皮膚炎のように角層損傷を伴う疾患に対する治療の際に、治療初期では皮膚バリア機能の低下により有効成分の透過量が過剰になる可能性がある一方で、治療が進み皮膚バリア機能が正常化してきた際には、十分な量の有効成分が皮膚を透過せず、治療の効果が不十分となる課題がある。本発明の吸収制御剤を含む治療用組成物は、皮膚バリア機能に関わらず有効成分の透過量を一定に制御できることから、上記のように皮膚の状態によって有効成分の過剰投与や投与量不足となる状態を解決することができる。
【実施例0072】
以下、実施例により本発明を具体的に詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。また、実施例及び比較例の化合物の合成に使用される化合物で合成法の記載のないものについては、市販の化合物を使用した。なお、試薬は特に断りのない限り、市販のものを精製することなく反応に用いた。まず、測定方法及び試験方法を以下に示す
【0073】
(合成例1)イオン液体の合成:
カチオン成分として、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド40質量%水溶液6.91g(10mmol)、アニオン成分として、サリチル酸1.38g(10mmol)をそれぞれ計量し、ガラス製のバイアル瓶に仕込んだ。室温で2時間攪拌し、サリチル酸が完全に溶解していることを確認して、反応を終了することで、テトラブチルホスホニウム=サリチレートと水の混合溶液(以下「サンプル1」という)を定量的に得た。有効成分の透過試験には、サンプル1を希釈して用いた。
【0074】
(実施例1)ヘアレスマウス皮膚を用いたスマトリプタンコハク酸塩の皮膚透過試験における吸収制御剤の効果の確認:
恒温水槽を32℃に設定し、シリコンチューブで恒温水槽とフランツセル同士を直列に繋ぎ、レシーバー溶液が一定温度に保たれるようにした。縦型フランツセル(レシーバー容量:6mL、有効透過面積:1.77cm)に室温で解凍した後に、セルの大きさに切り出したヘアレスマウス皮膚(商品名:ラボスキン)を、角層側を上にしてセットした。レシーバーセル側に、PBS(-)を空気が入らないように充填した。その後、ドナーセルを皮膚の上に載せてクランプで留めた後、ドナーセルに1mLのPBS(-)を充填して、ヘアレスマウス皮膚の水和を開始した。水和開始から50分経過時点で、角層インピーダンスメータ(AS-TZ1、日本アッシュ社製)を用いて試験に用いた皮膚の電気抵抗値を測定した。水和開始から1時間経過後にドナーセルのPBS(-)を除去した後、試験溶液として1mg/mLのスマトリプタンコハク酸塩を含む5%のイオン液体水溶液500μLをドナーセルに添加して、透過試験を開始した。試験開始から、1,2,3,4,5,6,7,8、24時間経過時にそれぞれレシーバー溶液を500μLサンプリングし、同量(500μL)のPBS(-)を補充した。サンプリングしたレシーバー液中の有効成分の濃度をLC/MS/MSを用いて測定し、その値を式3に代入することで、有効成分の24時間累積透過量を算出した。
【数2】
(式3中、Q:n番目のサンプリング時点tにおける単位面積当たりの有効成分の累積透過量(ng/cm)、C:n番目に採取したレシーバー液中有効成分濃度(ng/mL)、V:レシーバー体積(mL)、v:サンプリング体積(mL)、S:透過面積(cm)をそれぞれ示す)
【0075】
イオン液体水溶液としては、サンプル1を希釈して5%に調製したものを使用した。
【0076】
(LC/MS/MS分析条件)
液体クロマトグラフ(LC):Prominence UFLC(島津製作所社製)
質量分析計(MS/MS):QTRAP(登録商標)3200(サイエックス社製)
又は
LC:Exiоn LC(Sciex社製)
MS/MS:TripleQuad(登録商標)7500(Sciex社製)
カラム:CAPCELL PAK C18 MGIII,5μm,2.0mm ID×50mm(株式会社大阪ソーダ)
移動相:A:0.1質量%ギ酸水溶液 B:0.1質量%ギ酸含有アセトニトリル
グラジエント条件:A:B=95:5→10:90
カラム温度:40℃
流速:0.5mL/分
測定時間:5分
サンプル注入量:10μL(Prominence UFLCの場合)
1μL(Exiоn LCの場合)
【0077】
(比較例1)吸収制御剤を使用しない場合のヘアレスマウス皮膚を用いたスマトリプタンコハク酸塩の透過試験:
試験溶液を1mg/mLのスマトリプタンコハク酸塩の水溶液にした以外は、実施例1と同様に行った
【0078】
(実施例2、比較例2)ヘアレスマウス皮膚を用いたメマンチン塩酸塩の透過試験:
実施例2では試験溶液を1mg/mLのメマンチン塩酸塩を含む5%イオン液体水溶液に変更し、比較例2では試験溶液を1mg/mLのメマンチン塩酸塩の水溶液に変更した。また、実施例2及び比較例2では、恒温水槽の温度を37℃にした以外は、実施例1と同様に試験を行った。
【0079】
LC/MS/MSの分析条件はスマトリプタンコハク酸塩と同じ条件を使用した。
【0080】
(実施例3、比較例3)ヘアレスマウス皮膚を用いたベンラファキシン塩酸塩の透過試験:
実施例3では試験溶液を1mg/mLのベンラファキシン塩酸塩を含む5%イオン液体水溶液に変更し、比較例2では試験溶液を1mg/mLのベンラファキシン塩酸塩の水溶液に変更した。また、実施例3及び比較例3では、恒温水槽の温度を37℃にした以外は、実施例1と同様に試験を行った。
【0081】
LC/MS/MSの分析条件はスマトリプタンコハク酸塩と同じ条件を使用した。
【0082】
【表1】
【0083】
実施例1~3では、本発明の吸収制御剤を使用していることから、皮膚の電気抵抗値が変動しても有効成分の透過量は一定範囲に収まっており、イオン液体が吸収制御剤として機能していることが確認できた。一方で、比較例1~3では皮膚の電気抵抗値の変動に応じて有効成分の透過量が大きく変動してしまうことがわかった。
【0084】
具体的には、電気抵抗値が高い皮膚を用いた場合の有効成分の透過量に対する電気抵抗値が低い皮膚を用いた場合の有効成分の透過量の変動倍率は、実施例1~3ではそれぞれ、0.82倍、1.1倍、1.0倍に収まっているのに対して、比較例1~3では、33倍、11倍、2倍となった。この結果から、本発明の吸収制御剤を用いることで、皮膚の電気抵抗値の強さ、つまりバリア機能の強さが変動しても、有効成分の透過量を制御できることがわかった。
【0085】
(実施例4、比較例4)ヘアレスマウス皮膚を用いたフルオレセインナトリウムの透過試験:
実施例4では試験溶液を1mg/mLのフルオレセインナトリウムを含む5%のイオン液体水溶液に変更し、比較例4では試験溶液を1mg/mLのフルオレセインナトリウムの水溶液に変更した以外は、実施例1と同様に試験を行った。なお、フルオレセインナトリウムの透過量は、蛍光プレートリーダーで測定した。
【0086】
【表2】
【0087】
電気抵抗値が高い皮膚を用いた場合の有効成分の透過量に対する電気抵抗値が低い皮膚を用いた場合の有効成分の透過量の変動倍率は、実施例4では10倍であったのに対し、比較例4では68倍であったことから、フルオレセインナトリウムに対しても本発明の吸収制御剤は、薬物透過量を制御する機能を示すことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の吸収制御剤は、皮膚や粘膜のバリア機能に関わらず有効成分の透過量を一定に制御できることから、外用剤等の医薬品、医薬部外品、化粧品として利用できる。