(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163414
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】ランスチップ、精錬装置、および、これらを備えた炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
C21C 5/46 20060101AFI20241115BHJP
C21C 5/30 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
C21C5/46 101
C21C5/46 A
C21C5/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078974
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】小関 新司
(72)【発明者】
【氏名】冨田 誠人
(72)【発明者】
【氏名】島倉 涼輔
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 吉紀
(72)【発明者】
【氏名】小澤 典子
【テーマコード(参考)】
4K070
【Fターム(参考)】
4K070BA05
4K070BE04
4K070CF02
4K070CF10
(57)【要約】
【課題】溶鉄の温度を連続的に測定できるランスチップ、精錬装置、および、これらを備えた炉の操業方法を提供する。
【解決手段】精錬装置1のランス用のランスチップ4、20、22、24であって、精錬装置1の炉内の溶鉄を撮影するために、先端部の中央部に設けられたカメラ9と、精錬用ガスが流れる流路7、14、16、21、23、25と、カメラ9の周囲に設けられた精錬用ガスの副吐出孔15とを有し、流路7、14、16、21、23、25は、複数に分岐された複数の分岐流路14、16、21、23、25を備え、複数の分岐流路14、16、21、23、25のうち、少なくとも一つの分岐流路16、21、23、25は副吐出孔15に接続されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
精錬装置のランス用のランスチップであって、
前記精錬装置の炉内の溶鉄を撮影するために、先端部の中央部に設けられたカメラと、
精錬用ガスが流れる流路と、
前記カメラの周囲に設けられた前記精錬用ガスの副吐出孔とを有し、
前記流路は、複数に分岐された複数の分岐流路を備え、
前記複数の分岐流路のうち、少なくとも一つの分岐流路は前記副吐出孔に接続されている、ランスチップ。
【請求項2】
前記流路は、前記複数の前記分岐流路のうちの一部の分岐流路の分岐元である1つの第1流路を備え、
前記副吐出孔に接続される前記少なくとも一つの分岐流路は、前記第1流路から直接分岐される直接分岐流路を含む、請求項1に記載のランスチップ。
【請求項3】
前記溶鉄に向けて精錬用ガスが噴射または吐出される主吐出孔を有し、
前記流路は、前記複数の前記分岐流路のうちの一部の分岐流路の分岐元である1つの第1流路を備え、
前記複数の前記分岐流路のうち、前記副吐出孔に接続されない他の分岐流路は前記主吐出孔に接続され、
前記副吐出孔に接続される前記少なくとも一つの分岐流路は、前記第1流路から直接分岐されずに、前記他の分岐流路から分岐されて前記副吐出孔に接続される間接分岐流路を含む、請求項1に記載のランスチップ。
【請求項4】
前記カメラを収容するハウジングを有しており、
前記副吐出孔が前記ハウジングの内部に形成されている、請求項1に記載のランスチップ。
【請求項5】
前記先端部と前記カメラとの間にスペースが形成されている、請求項1に記載のランスチップ。
【請求項6】
前記先端部における前記カメラの周囲に形成された突起部を有している、請求項1に記載のランスチップ。
【請求項7】
前記副吐出孔は、前記カメラを囲うように形成された円筒状の円筒部と、前記円筒部に接続される複数の縦孔とを備えている、請求項1に記載のランスチップ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の前記ランスチップと、
前記カメラで撮影された前記溶鉄の画像データに基づいて前記溶鉄の温度を算出する演算部とを備えている、精錬装置用の温度測定装置。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれか一項に記載の前記ランスチップが設けられたランスを備えた、精錬装置。
【請求項10】
請求項8に記載の温度測定装置によって前記炉内の前記溶鉄の温度を測定し、
測定した温度に基づいて前記溶鉄の温度の制御を行う、炉の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吹錬されている溶鉄の測温に用いられるランスチップ、精錬装置、および、これらを備えた炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転炉製鋼における吹錬プロセス等では上吹きランスを使用し、溶鉄に対して酸素ガスを吹き付けることにより溶鉄中の燐や炭素等を酸化(燃焼)させて溶鉄の成分を調整すると共に、溶鉄の温度を次工程処理に最適な温度となるように調整している。吹錬中の溶鉄温度の計測は、溶鉄の温度調整に対してだけでなく溶鉄の成分調整という観点においても重要である。
【0003】
溶鉄の温度は精錬反応の反応熱によって時々刻々と変化し、溶鉄温度の変化に応じて反応速度や生じる反応の種類が変化する。また、近年ではスクラップの利用が増加しており、常温のスクラップを炉に投入すると溶鉄の温度が低下する。以上のような背景から溶鋼の温度管理は重要性を増している。
【0004】
溶鉄温度の計測技術の一例が特許文献1に記載されている。特許文献1には、ランスチップ下部中央に設置したカメラによって溶鋼の画像を撮影し、画像を温度データに変換することによって温度管理を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
溶鋼の終点温度の的中精度を高めるには、吹錬工程の後半に少なくとも数分間の溶鋼の温度変化を連続的に把握する。特許文献1に記載された溶鉄温度の計測技術では、溶鋼に対してランスからガスを吹きつけることによって溶鋼が飛散(スプラッシュ)した場合に、溶鉄の飛沫がカメラレンズに付着する可能性がある。このような事態が生じると、カメラレンズが使用不可能になってしまう。このように、数分間に亘って溶鋼の温度変化を連続的に把握する点で、未だ改良の余地があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点を鑑みてなされたものであり、溶鉄の温度を連続的に測定できるランスチップ、精錬装置、および、これらを備えた炉の操業方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
(1)精錬装置のランス用のランスチップであって、前記精錬装置の炉内の溶鉄を撮影するために、先端部の中央部に設けられたカメラと、精錬用ガスが流れる流路と、前記カメラの周囲に設けられた前記精錬用ガスの副吐出孔とを有し、前記流路は、複数に分岐された複数の分岐流路を備え、前記複数の分岐流路のうち、少なくとも一つの分岐流路は前記副吐出孔に接続されている、ランスチップ。
(2)前記流路は、前記複数の前記分岐流路のうちの一部の分岐流路の分岐元である1つの第1流路を備え、前記副吐出孔に接続される前記少なくとも一つの分岐流路は、前記第1流路から直接分岐される直接分岐流路を含む、(1)に記載のランスチップ。
(3)前記溶鉄に向けて精錬用ガスが噴射または吐出される主吐出孔を有し、前記流路は、前記複数の前記分岐流路のうちの一部の分岐流路の分岐元である1つの第1流路を備え、前記複数の前記分岐流路のうち、前記副吐出孔に接続されない他の分岐流路は前記主吐出孔に接続され、前記副吐出孔に接続される前記少なくとも一つの分岐流路は、前記第1流路から直接分岐されずに、前記他の分岐流路から分岐されて前記副吐出孔に接続される間接分岐流路を含む、(1)に記載のランスチップ。
(4)前記カメラを収容するハウジングを有しており、前記副吐出孔が前記ハウジングの内部に形成されている、(1)ないし(3)のいずれかに記載のランスチップ。
(5)前記先端部と前記カメラとの間にスペースが形成されている(1)ないし(4)のいずれかに記載のランスチップ。
(6)前記先端部における前記カメラの周囲に形成された突起部を有している、(1)ないし(5)のいずれかに記載のランスチップ。
(7)前記副吐出孔は、前記カメラを囲うように形成された円筒状の円筒部と、前記円筒部に接続される複数の縦孔とを備えている、(1)ないし(6)のいずれかに記載のランスチップ。
(8)(1)ないし(7)のいずれかに記載の前記ランスチップと、前記カメラで撮影された前記溶鉄の画像データに基づいて前記溶鉄の温度を算出する演算部とを備えている、精錬装置用の温度測定装置。
(9)(1)ないし(7)のいずれかに記載の前記ランスチップが設けられたランスを備えた、精錬装置。
(10)(8)に記載の温度測定装置によって前記炉内の前記溶鉄の温度を測定し、測定した温度に基づいて前記溶鉄の温度の制御を行う、炉の操業方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炉内の溶鉄を撮影するカメラに溶鉄の飛沫が付着することを抑制できる。これにより、カメラによって炉内の溶鉄を連続的に撮影して画像データを得ることができ、その連続的に撮影して得た画像データに基づいて溶鋼の温度を連続的に測定できる。その結果、溶鋼の細かい温度管理を行うことが可能となり、精錬効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のランスチップを適用できる上吹きランスを備えた精錬装置の一例を示す図である。
【
図2】第1実施形態のランスチップの一例の断面図である。
【
図4】第2実施形態のランスチップの一例の断面図である。
【
図5】第3実施形態のランスチップの一例の断面図である。
【
図6】第4実施形態のランスチップの一例の断面図である。
【
図7】第4実施形態のカメラの構成の一例を示す斜視図である。
【
図8】第5実施形態のランスチップの一例の断面図である。
【
図9】第6実施形態のランスチップの一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1は本発明のランスチップを適用できる上吹きランスを備えた精錬装置の一例を示す図である。
図1に示す精錬装置は溶鉄の脱珪、脱燐、および、脱炭などを目的とした吹錬工程に適用できるものであって、一例として、転炉設備を挙げることができる。上述した精錬装置は溶鉄を貯留する耐火物によって構成された転炉1と、転炉1の内部に貯留された溶鉄に酸素ガスを吹き付ける上吹きランス2と、底吹きガスとして窒素等を吹き込んで溶鉄を撹拌する転炉1の底部に設置された底吹き羽口3とを備えている。
【0012】
上吹きランス2の先端部にランスチップ4が取り付けられる。ランスチップ4の構成については後述する。上吹きランス2は、図示しない移動装置によって転炉1の上方から転炉1の内部に挿入され、また、退出されるようになっている。上吹きランス2は一例として三重管構造となっており、図示しない中心管と、その外側に形成された2つの図示しない外管とを備えている。転炉設備である図示しない酸素ガス供給装置から上吹きランス2に酸素ガスが供給され、当該酸素ガスは中心管を流動して後述する主吐出孔から溶鉄に吹き付けられる。転炉設備である図示しない冷却水供給装置から上吹きランス2に冷却水が供給され、当該冷却水は二つの外管を通って冷却水供給装置と上吹きランス2との間で循環し、その際に上吹きランス2およびランスチップを冷却するように構成されている。
図1に、酸素ガスの流動方向に符号「5」を付してあり、冷却水の流動方向に符号「6」を付してある。
【0013】
上吹きランス2の先端部に、上述したように、ランスチップ4が取り付けられる。
図2は第1実施形態のランスチップ4の一例の断面図である。
図2に示すランスチップ4は上吹きランス2とほぼ同じ外径の円柱状の部材であって、その内部に酸素ガスが流れる第1流路7が形成されている。第1流路7はランスチップ4の高さ方向(
図2の上下方向)に延びている。上吹きランス2の先端部にランスチップ4を取り付けることによって第1流路7と上吹きランス2の中心管とが互いに接続される。また、上述した外管に連通する図示しない冷却水路が形成されており、上吹きランス2の先端部にランスチップ4を取り付けることによって外管と冷却水路とが互いに接続される。
【0014】
図2に示すランスチップ4の高さ方向で一方の端部(以下、ランスチップ4の先端部と記す。)はテーパー状に形成されている。ランスチップ4の半径方向でランスチップ4の先端部の中央部にランスチップ4の中心軸線方向に沿って凹んだ収容部8が形成されている。その収容部8は溶鉄を撮影するカメラユニット(以下、単にカメラと記す。)9が設置される部分であって、収容部8の深さは
図2に示す例では、カメラ9の長さとほぼ同じに設定されている。そして、カメラ9の図示しないレンズが溶鉄側に向くように収容部8の内部にカメラ9が設置される。カメラ9によって連続的に撮影した画像の画素値のデータ(以下、画像データと記す。)を温度に変換して溶鉄の温度を連続的に測定するようになっている。
【0015】
図1の説明に戻る。カメラ9によって生成された画像データは、
図1に示すように、中継器10を介して演算部11に伝送される。カメラ9から中継器10への画像データの伝送、および、当該中継器10から演算部11への画像データの伝送は有線による伝送であっても無線による伝送であってもよい。
【0016】
演算部11は、例えば、ワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータであってよい。演算部11はカメラ9から伝送される画像データを温度データに変換するように構成されている。画像データを温度データに変換する方法としては、例えば、画像データから輝度データを取得して輝度データから温度データに変換する方法と、画像データから分光放射輝度データを取得して分光放射輝度データから温度データに変換する方法とを挙げることができる。
【0017】
輝度データを温度データに変換する場合には、演算部11は取得した画像データから、例えば、所定のサンプリング時間内の輝度の積分値や、輝度の最大値を輝度データとして取得する。演算部11は予め黒体炉で測定された輝度データと温度との対応関係を用いて取得した輝度データを温度データに変換する。
【0018】
一方、分光放射輝度データを温度データに変換する方法としては、二色放射温度計(二色温度計、レシオ温度計とも呼ばれる。)による計測原理が適用できる。二色放射温度計では、異なる2つの波長における放射輝度を測定し、これらの比を算出して、予め測定された黒体の放射輝度の比と比較することで物体の温度に変換する。この方法は、放射率が変動しても比較的安定した温度測定が可能である。二色放射温度計と同じ原理で分光放射輝度データを温度データに変換する場合には、演算部11は画像データである赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色に基づいて、例えば赤(R)と緑(G)の分光放射輝度データを取得し、当該放射輝度データから放射輝度の比を算出する。演算部11は予め黒体輻射炉等で調べられた分光放射輝度データの強度比と温度との対応関係を用いて分光放射輝度データを温度データに変換する。
【0019】
赤外線カメラによる画像データを用いる場合には、演算部11は赤外線の波長に対応した輝度データを作成する。演算部11は予め黒体輻射炉等で調べられた輝度データの強度と温度との対応関係を用いて輝度データを温度データに変換する。画像データから求める輝度データとしては、予めその波長成分の強度と温度との関係が分かっていれば、赤外線の波長域における任意の波長成分のデータを用いることができる。
【0020】
カメラ9として、赤外線サーモグラフィカメラのように画像データの取得から温度データへの変換までの機能を含む装置を用いる場合には、演算部11は画像データを温度データに変換する機能を有しなくてもよい。演算部11は当該温度データを、例えば、ディスプレイ等の表示部12に表示する。このようにして連続的に溶鉄の液面温度を測温する。演算部11は当該温度データと共に伝送された画像データを表示部12に表示してもよい。このように、画像データを表示部12に表示することで、転炉1内の溶鉄を観察しながら測温できるので、温度データが溶鉄の温度なのか溶鉄の浴面に形成したスラグの温度なのかを判断できる。そして、溶鉄の温度であると判断された温度データを選択的に用いることで、スラグの温度を測定してしまうことを回避でき、これにより、溶鉄の測温精度が向上する。画像データを無線通信により他の表示部に伝送する場合には、表示部12を有さなくてもよい。
【0021】
図2の説明に戻る。
図2に示すように、ランスチップ4の先端部に、溶鉄に向けて酸素ガスが噴射または吐出される少なくとも一つの主吐出孔13が形成されている。本実施の形態の場合、主吐出孔13は複数であって、収容部8から少し離れた位置で、ランスチップ4の中心軸線を中心とした所定の円周上に形成されている。主吐出孔13は、具体的には、例えば、ランスチップ4の先端部の円周方向に一定の間隔で形成されることが好ましい。主吐出孔13の設置数は例えば、溶鉄に吹き付ける酸素ガスの量や酸素ガスの流速などに基づいて決めることができる。
【0022】
主吐出孔13は上述したように、酸素ガスを溶鉄に吹き付けるための部分である。その為、第1流路7から主吐出孔13までは、分岐流路14により接続されている。言い換えると、第1流路7から分岐された分岐流路14を通って、主吐出孔13から酸素ガスを噴射または吐出させることができる。即ち、第1流路7は、酸素ガスの流路であり、かつ、分岐流路の一部(本明細書では符号14を付してある分岐流路、および、後述する符号16や符号25を付してある分岐流路)の分岐元となる。また、本実施の形態において、第1流路7は1つである。
【0023】
さて、
図2に示す例では、主吐出孔13用の分岐流路14は、ラバール状に形成されている。このため、分岐流路14に流入した酸素ガスは流速が増大し、主吐出孔13から噴射または吐出するように構成されている。すなわち、主吐出孔13用の分岐流路14は、直線形状のスロート部(くびれ部)141と、スロート部141側からランスチップ4の先端部側に向けて内径が次第に増大する拡大部142とを備えている。スロート部141は、
図2に示す例では、第1流路7の半径方向で外側に接続されている。また、分岐流路14は、その中心軸線とランスチップ4の中心軸線との成す角度が鋭角になるようにランスチップ4の先端部に形成されている。つまり、分岐流路14はランスチップ4の中心軸線に対してやや外側に向いて形成されている。こうすることにより、各主吐出孔13から噴射または吐出された酸素ガスが互いに合流し、その合流した酸素ガスが溶鉄に衝突することによって溶鉄が激しく飛散することを抑制するようになっている。これは、溶鉄の飛沫がカメラ9に付着すると、カメラ9が使用不可能になる可能性があるので、これを避けるためである。
【0024】
カメラ9に対する溶鉄の飛沫の付着をより効果的に抑制するために、本発明の第1実施形態では、酸素ガスによってカメラ9の周囲にエアカーテンを形成できるようになっている。具体的には、ランスチップ4の半径方向でランスチップ4の先端部におけるカメラ9に比較的近い周辺に、酸素ガスの副吐出孔15が形成されている。この酸素ガスの副吐出孔15はエアカーテンの為に設けられており、当該副吐出孔15から酸素ガスが噴出または吐出することでカメラ9の周囲にエアカーテンが形成される。また、本実施の形態の場合は、副吐出孔15は、カメラ9と主吐出孔13との間に、設けられている。
【0025】
また、副吐出孔15の一例を
図3に示してある。本実施の形態の場合、
図3に示す形状の副吐出孔15がランスチップ4に設けられている。
図3の副吐出孔15は、円周方向に仕切りが無い状態でカメラ9の周囲を全周に亘って囲う円筒状の円筒部151と、該円筒部151に接続されランスチップ4の先端から酸素ガスを吐出できる複数の縦孔152を一組とした吐出孔群153とを備える。円筒部151では、後述する分岐流路16を通じて提供される酸素ガスの流量を均一化し、円筒部151に接続された吐出孔群153の全ての縦孔152に酸素ガスが配分される。
【0026】
なお、吐出孔群153の縦孔152は、ランスチップ4の高さ方向に延びて形成されており、軸方向断面は例えば円形とすることができる。吐出口群153の縦孔152は、ランスチップ4の円周方向に一定の間隔で形成されてもよく、または、円周方向の全周に亘って連続した円形のスリット状に形成されてもよい。円筒部151の軸方向と吐出孔群153の軸方向は、上吹きランス2の軸方向に一致していることが好ましい。また、円筒部151の厚み、円筒部151の高さ、吐出孔群153の縦孔152の内径、および、吐出孔群153の縦孔152の数は、第1流路7から酸素ガスを引き込んでカメラ9の周囲にエアカーテンを形成できる程度に設定される。その結果、カメラ9の周囲に酸素ガスのエアカーテンを形成することができる。
【0027】
上述した副吐出孔15の円筒部151と第1流路7とを接続する副吐出孔15の分岐流路16が、
図2に示すように、ランスチップ4の半径方向で収容部8と主吐出孔13との間に形成されている。副吐出孔15の分岐流路16は第1流路7から直接分岐している。そして、分岐流路16は第1流路7との接続部分からランスチップ4の半径方向で内側に向かって延び、かつ、ランスチップ4の高さ方向で第1流路7との接続部分からランスチップ4の先端部に向かって延びている。分岐流路16の内径(すなわち、断面積)は、円筒部151の幅とほぼ同じ内径であって、かつ、第1流路7やスロート部141の内径よりも小さい内径に設定されている。分岐流路16の傾斜角度と内径は、第1流路7から副吐出孔用の分岐流路16に酸素ガスを引き込んでカメラ9の周囲にエアカーテンを形成できる程度に設定されている。これらの傾斜角度や内径は設計上、決めることができる。
【0028】
なお、酸素ガスが本発明の実施形態における精錬用ガスに相当し、カメラ9、演算部11、および、表示部12などが本発明の実施形態における精錬装置用の温度測定装置に相当している。また、第1流路7と複数の分岐流路14、16、および、後述する分岐流路21、23、25が本発明の実施形態における流路に相当している。上述した分岐流路16が本実施形態の直接分岐流路に相当している。
【0029】
(第1実施形態の作用)
転炉1の内部に溶鉄が注ぎ込まれると、上吹きランス用の移動装置によって転炉1の内部に上吹きランス2が挿入される。酸素ガス供給装置から上吹きランス2に酸素ガスが供給され、当該酸素ガスは中心管を流動し、中心管に接続されたランスチップ4の第1流路7に流入する。酸素ガスは第1流路7を介して主吐出孔13用の分岐流路14に流入し、主吐出孔13から溶鉄に向けて噴射または吐出される。分岐流路14はラバール形状となっているため、スロート部141において酸素ガスが圧縮されると共にほぼ音速にまで流速が増大される。そして、圧縮された酸素ガスは拡大部142において膨張し、それに伴ってほぼ超音速にまで流速が増大される。
【0030】
また、酸素ガスの一部は第1流路7から副吐出孔15用の分岐流路16に流入する。副吐出孔用の分岐流路16の内径は第1流路7の内径よりも小さく設定されているため、副吐出孔15用の分岐流路16において酸素ガスが圧縮されると共に、その流速が増大される。そして、副吐出孔15から吐出されて膨張し、それに伴って流速が増大され、カメラ9の周囲にエアカーテンが形成される。
【0031】
したがって、第1実施形態によれば、主吐出孔13からほぼ超音速の酸素ガスが噴射または吐出されて溶鉄の界面において溶鉄の飛沫が激しく生じるとしても、その飛沫はエアカーテンを形成する酸素ガスと衝突し、カメラ9の周囲に弾き飛ばされる。そのため、カメラ9に溶鉄の飛沫が付着することを抑制できる。その結果、カメラ9に溶鉄の飛沫が付着してカメラ9が使用不可能になることを抑制できる。
【0032】
(第2実施形態)
図4は第2実施形態のランスチップの一例の断面図である。
図4に示すランスチップ20では、主吐出孔13の分岐流路14から分岐した副吐出孔15用の分岐流路21を介して副吐出孔15に酸素ガスを供給するように構成されている。具体的には、副吐出孔用の分岐流路21は、主吐出孔13の分岐流路14のスロート部141に接続されている。つまり、分岐流路21は、一部の分岐流路の分岐元である第1流路7から直接分岐していない。分岐流路21はスロート部141との接続部分からランスチップ20の半径方向で内側に向かって延び、かつ、ランスチップ20の高さ方向でスロート部141との接続部分からランスチップ20の先端部側に向かって延びている。
【0033】
副吐出孔15用の分岐流路21の傾斜角度や内径は、スロート部141から酸素ガスを引き込んでカメラ9の周囲にエアカーテンを形成できる程度の傾斜角度や内径に設定されている。他の構成は
図2に示す構成と同様であるため、
図2に示す構成と同様の構成については、
図2と同様の符号を付してその説明を省略する。上述した分岐流路21が本実施形態の間接分岐流路に相当している。
【0034】
(第2実施形態の作用)
主吐出孔13に酸素ガスが流入すると、その酸素ガスは主吐出孔13のスロート部141に接続された副吐出孔15用の分岐流路21を介して副吐出孔15に流入する。分岐流路21の内径は第1流路7の内径よりも小さく設定されている。そのため、分岐流路21において酸素ガスが圧縮されると共に、その流速が増大される。そして、副吐出孔15から吐出されて膨張し、それに伴って流速が更に増大され、カメラ9の周囲にエアカーテンが形成される。
【0035】
したがって、
図4に示す構成のランスチップ20であっても、
図2に示す構成のランスチップ4とほぼ同様に、カメラ9に向かって飛散する溶鉄の飛沫をエアカーテンによってカメラ9の周囲に弾き飛ばすことができる。こうして、溶鉄の飛沫からカメラ9を保護することができる。このように、第2実施形態であっても第1実施形態とほぼ同様の作用・効果を得ることができる。
【0036】
(第3実施形態)
図5は第3実施形態のランスチップ22の一例の断面図である。
図5に示す例は、主吐出孔13の拡大部142から分岐した副吐出孔15用の分岐流路23を介して副吐出孔142に酸素ガスを供給するように構成した例である。具体的には、副吐出孔用の分岐流路23は主吐出孔13用の分岐流路14の拡大部142に接続される。副吐出孔15用の分岐流路23は主吐出孔13用の分岐流路14の拡大部142との接続部分からランスチップ22の半径方向で内側に向かって延びて、かつ、ランスチップ22の高さ方向で拡大部142との接続部分からランスチップ22の先端部側に向かって延びている。
【0037】
分岐流路23の傾斜角度や分岐流路23の内径は、拡大部142から副吐出孔15用の分岐流路23に酸素ガスを引き込んでカメラ9の周囲にエアカーテンを形成できる程度の傾斜角度や内径に設定されている。また、分岐流路23の傾斜角度は、上述した第2実施形態での分岐流路21の傾斜角度よりも小さい。他の構成は
図2に示す構成と同様であるため、
図2に示す構成と同様の構成については、
図2と同様の符号を付してその説明を省略する。なお、第3実施形態における副吐出孔15用の分岐流路23が本発明の実施形態における複数の分岐流路や他の分岐流路に相当している。上述した分岐流路23が本実施形態の間接分岐流路に相当している。
【0038】
(第3実施形態の作用)
主吐出孔13に酸素ガスが流入すると、その酸素ガスは主吐出孔13用の分岐流路14の拡大部142に接続された副吐出孔15用の分岐流路23を介して副吐出孔15に流入する。分岐流路23の内径は第1流路7の内径よりも小さく設定されている。そのため、分岐流路23において酸素ガスが圧縮されると共に、その流速が増大される。そして、副吐出孔15から吐出されて膨張し、それに伴って流速が更に増大され、カメラ9の周囲にエアカーテンが形成される。
【0039】
したがって、
図5に示す構成のランスチップ22であっても、
図2に示す構成のランスチップ4とほぼ同様に、カメラ9に向かって飛散する溶鉄の飛沫をエアカーテンによってカメラ9の周囲に弾き飛ばすことができる。これにより溶鉄の飛沫からカメラ9を保護することができる。このように、第3実施形態であっても上述した各実施形態とほぼ同様の作用・効果を得ることができる。
【0040】
(第4実施形態)
図6は第4実施形態のランスチップ24の一例の断面図である。
図6に示す例は、ハウジング29の内部にカメラ30を収容すると共に、当該ハウジング29の内部に副吐出孔15と当該副吐出孔15に接続される分岐流路25とを形成した例である。当該副吐出孔15からは酸素ガスが噴射または吐出され、エアカーテンが形成される。
図7は第4実施形態のカメラ30の構成の一例を示す斜視図である。
図7(a)はハウジング29に収容されたカメラ30の一例を示す斜視図であり、
図7(b)はカメラ30の各構成の一例を示す斜視図である。なお、
図7では、図面を簡単にするために、副吐出孔15用の分岐流路25の記載を省略している。
図7(a)、および、
図7(b)に示すように、ハウジング29は、当該ハウジング29の長さ方向での一方の端部側に撮影用の孔が設けられた中空円筒状の容器であって、ハウジング29の外径は収容部8の内径とほぼ同じに設定されている。ハウジング29の内部に、
図7(a)、および、
図7(b)に示すようにカメラ30が収容される。上述したハウジング29が収容部8の内部に固定されることによって、ランスチップ28にカメラ30が装着される。
【0041】
上述したカメラ30は上吹きランス2の先端部分に設置されるため、高温に曝される。そのため、カメラ30を効率よく冷却するために、熱伝導率の高い金属材料によってハウジング29を構成することが好ましい。例えば、ハウジング29は銅(Cu)製であることが好ましい。銅製のハウジング29を使用すると、当該ハウジング29を介してカメラ30と上吹きランス2の内部を流動する冷却水との間で効率よく熱交換を行うことができる。こうして、カメラ30の冷却を強化して高熱からカメラ30を保護することができる。
【0042】
ここで、カメラ30の構成について説明する。
図7(b)に示すように、カメラ30はイメージセンサ32と、レンズ33と、2枚の輻射熱遮断フィルター34と、固定リング35と、バッテリー36とを有する。
【0043】
イメージセンサ32は溶鉄を撮影し、画像データを生成するセンサである。イメージセンサ32はCCDセンサと、当該CCDセンサによって生成されたデータを処理して画像データとするデータ処理回路とを含む。レンズ33の溶鉄に面する側には、2枚の輻射熱遮断フィルター34が固定リング35に固定されている。輻射熱遮断フィルター34を設けることによって溶鉄からの輻射熱によるレンズ33およびイメージセンサ32の温度上昇を抑制でき、これにより、レンズ33およびイメージセンサ32の熱による損傷や破損を抑制できる。レンズ33に2枚の輻射熱遮断フィルター34を他の手段で固定できれば、固定リング35は設けなくてもよい。イメージセンサ32としてCCDセンサを有する例を示したがこれに限らず、CCDセンサに代えてCMOSセンサを用いてもよい。
【0044】
輻射熱遮断フィルター34としては、Thorlab社製のNDフィルター(型式NDUV10B、型式NDUV20B、型式NDUV30B)、Thorlab社製のホットミラー(赤外カットフィルター)(型式M254H00)およびThorlab社製のバンドパスフィルター(型式FL532-1)の1種以上を用いることができる。
図6(b)に示す例では、輻射熱遮断フィルター34を2枚設けた例を示したが、これに限らず、輻射熱遮断フィルター34が1枚以上設けられていれば、溶鉄の輻射熱によるカメラ9の温度上昇を抑制し、熱によるカメラの損傷や破損を抑制できる。
【0045】
図6の説明に戻る。
図6に示すように、ハウジング29の内部に第1流路7に接続される副吐出孔15用の分岐流路25が形成されている。この分岐流路25は、第1流路7との接続部分からランスチップ28の半径方向で内側に向かって延び、かつ、ランスチップ24の高さ方向で第1流路7との接続部分からランスチップ24の先端部に向かって延びる。分岐流路25の内径は、第1流路7の内径よりも小さい内径に設定されている。分岐流路25の傾斜角度と内径は、第1流路7から副吐出孔15用の分岐流路25に酸素ガスを引き込んでカメラ9の周囲にエアカーテンを形成できる程度の角度や内径に設定されている。それらの傾斜角度や内径は設計上、決めることができる。他の構成は
図2に示す構成と同様であるため、
図2に示す構成と同様の構成については、
図2と同様の符号を付してその説明を省略する。上述した分岐流路25が本実施形態の直接分岐流路に相当している。
【0046】
(第4実施形態の作用)
主吐出孔13に酸素ガスが流入すると、その酸素ガスは第1流路7に接続された副吐出孔15用の分岐流路25の分岐流路25を介して副吐出孔15に流入する。分岐流路25の内径は第1流路7の内径よりも小さく設定されている。そのため、分岐流路25において酸素ガスが圧縮されると共に、その流速が増大される。そして、各副吐出孔15から吐出されて膨張し、それに伴って流速が更に増大され、カメラ30の周囲にエアカーテンが形成される。
【0047】
したがって、
図6に示す構成のランスチップ24であっても、
図2に示す構成のランスチップ4とほぼ同様に、カメラ30に向かって飛散する溶鉄の飛沫をエアカーテンによってカメラ30の周囲に弾き飛ばすことができる。こうして、溶鉄の飛沫からカメラ30を保護することができる。このように、第4実施形態であっても上述した各実施形態とほぼ同様の作用・効果を得ることができる。また、第4実施形態では、カメラ30のハウジング29の内部に酸素ガスが流動する副吐出孔用の分岐流路25を形成する。そのため、ランスチップ24の内部に形成された図示しない冷却水の冷却水路との干渉を避けることができる。
【0048】
(第5実施形態)
図8は第5実施形態のランスチップ40の一例の断面図である。
図8に示す例は、収容部8の深さをカメラ9の長さよりも深く設定し、その収容部8の内部にカメラ9を収容した例である。そのため、カメラ9の先端部はランスチップ40の先端部よりもランスチップ40の内側、つまり、
図8の上下方向でランスチップ40の先端部よりも上側に位置している。言い換えれば、
図8に示す例は、ランスチップ40の高さ方向でランスチップ40の先端部とカメラ9の先端部との間にスペースSを形成した例である。
【0049】
図8の上下方向でカメラ9の先端部とランスチップ40の先端部との間の長さh1はカメラ9の直径d以上であることが好ましい。これにより、溶鉄の液面からカメラ9を離隔させることができるため、溶鉄の飛沫を避けることが可能になる。他の構成は
図2に示す構成と同様であるため、
図2に示す構成と同様の構成については、
図2と同様の符号を付してその説明を省略する。
【0050】
(第5実施形態の作用)
ランスチップ40の第1流路7に酸素ガスが流入すると、その酸素ガスは主吐出孔13、および、副吐出孔15用の分岐流路16に流入する。そして、
図2に示す第1実施形態と同様に、酸素ガスは副吐出孔15用の分岐流路16を介して副吐出孔15から吐出され、カメラ9の周囲にエアカーテンが形成される。そのため、
図8に示す第5実施形態であっても、
図2に示す構成のランスチップ4とほぼ同様に、カメラ9に向かって飛散する溶鉄の飛沫をエアカーテンによってカメラ9の周囲に弾き飛ばすことができる。こうして、溶鉄の飛沫からカメラ9を保護することができる。また、第5実施形態では、カメラ9の先端部はランスチップ40の先端部よりもランスチップ40の内側に位置している。そのため、例えば、ランスチップ40の中心軸線に対してほぼ直交するようにつまりカメラ9の横から飛散してくる溶鉄の飛沫をランスチップ40によって遮断することができる。したがって、第5実施では第1実施形態と比較して、より効果的に溶鉄の飛沫からカメラ9を保護することができる。
【0051】
(第6実施形態)
図9は第6実施形態のランスチップ41の一例を示す断面図である。
図9に示す例は、ランスチップ41の先端部における収容部8の周囲に、転炉1側に突き出した突起部42を形成した例である。突起部42は、例えば、収容部8の周囲にランスチップ41の円周方向に一定の間隔で形成されてもよく、あるいは、収容部8の周囲の全周に亘って連続して形成されてもよい。ランスチップ41の先端部からの突起部42の高さh2はカメラ9の直径d以上であることが好ましい。これにより、溶鉄の液面からカメラ9を離隔させることができるため、溶鉄の飛沫を遮断することが可能になる。そして、ランスチップ41の半径方向で突起部42の内側に副吐出孔15が形成されている。当該副吐出孔15から酸素ガスを噴射または吐出することで、カメラ9に対するエアカーテンを形成する。他の構成は
図2に示す構成と同様であるため、
図2に示す構成と同様の構成については、
図2と同様の符号を付してその説明を省略する。
【0052】
(第6実施形態の作用)
ランスチップ41の第1流路7に酸素ガスが流入すると、その酸素ガスは主吐出孔13、および、副吐出孔15用の分岐流路16に流入する。そして、酸素ガスは副吐出孔15用の分岐流路16を介して各副吐出孔15から吐出され、また、突起部42によって酸素ガスの流動方向が上吹きランス2やランスチップ41の中心軸線に沿うように案内される。その結果、上述した各実施形態と比較して、エアカーテンを構成する酸素ガスが周囲に広がり難い。そのため、
図9に示す第6実施形態では、各実施形態よりも、カメラ9に向かって飛散する溶鉄の飛沫をエアカーテンによってカメラ9の周囲に弾き飛ばすことができる。こうして、溶鉄の飛沫からカメラ9をより効果的に保護することができる。また、ランスチップ41の中心軸線に対してほぼ直交するようにつまりカメラ9の横から飛散してくる溶鉄の飛沫を突起部42によって遮断することができる。したがって、各実施形態よりも、より効果的に溶鉄の飛沫からカメラ9を保護することができる。
【0053】
なお、第1~第6実施形態のランスチップ4、20、22、24、40、41、上吹きランス2を使用した精錬装置1において、溶鉄の温度を連続的に測定しながら溶鉄の温度を制御して精錬を行う方法が、本発明の実施形態に係る炉の操業方法に相当している。また、本発明は第1実施形態ないし第6実施形態の精錬装置つまり転炉に限定されない。すなわち、ガス上吹きと溶鉄温度管理が必要となる精錬装置であれば、本発明の実施形態に係るランスチップ、および、当該ランスチップが設けられた上吹きランスを適用できる。本発明を適用できる精錬装置は、具体的には、真空脱ガス装置(Ruhrstahl-Hausen)や電気炉などであってよい。
【実施例0054】
次に、本発明に係るランスチップの効果を検証した実施例について説明する。転炉に挿入する上吹きランスの先端部に、上述した各実施形態とほぼ同様に構成されたランスチップをそれぞれ取り付けた。そして、ランスチップに設置したカメラによって転炉内の溶鉄を連続的に撮影し、その撮影した画像データに基づいて溶鋼温度を連続的に測定した。
【0055】
実験条件1では、エアカーテンを形成していないランスチップを使用した。実験条件2では、第1実施形態と同様に、第1流路7から分岐流路16で直接酸素ガスを引き込んでカメラ9の周囲にエアカーテンを形成できるランスチップ4を使用した。実験条件3では、第2実施形態と同様に、主吐出孔13に接続された分岐流路14のスロート部141から酸素ガスを引き込んでカメラ9の周囲にエアカーテンを形成できるランスチップ20を使用した。実験条件4では、第3実施形態と同様に、主吐出孔13に接続された分岐流路14の拡大部142から酸素ガスを引き込んでカメラ9の周囲にエアカーテンを形成できるランスチップ22を使用した。第5実験条件では、第4実施形態と同様に、ランスチップの先端部よりも内側に、カメラ9の直径分だけカメラ9の先端部が位置するように、収容部にカメラ9を設置したランスチップ24を使用した。第6実験条件では、第5実施形態と同様に、収容部8の周囲に突起部42を形成したランスチップ41を使用した。
【0056】
本発明に係るランスチップ4、20、22、24、40、41による溶鉄の測温期間は、本発明に係るランスチップを工業的に利用することを考慮すると、半年以上(約180日以上)、連続して溶鉄の温度を測定できることが望ましい。そのため、半年以上、連続して溶鉄の温度を測定できた実験条件を合格として評価した。カメラの周囲にエアカーテンを形成することとした実験条件では、噴射孔は円周方向の全周に亘って連続した円形のスリット状にランスチップに形成した。噴射孔での酸素ガスの吐出流速は200m/secに調整した。各実験条件、および、各実験条件での連続測温成功日数を表1にまとめて示してある。なお、表1の「評価」欄のA、B、Cの記号は、以下の意味を示す。連続測温成功日数が、目標となる180日未満の場合は「C」、180日以上かつ400日未満の場合は「B」、400日以上の場合は「A」とした。よって、AまたはBの評価は、効果がある、つまり合格を意味している。
【0057】
【0058】
表1に示すように、エアカーテンを形成しない実験条件1では、カメラに溶鉄の飛沫が大量に付着してしまったために実験を開始してから1日目に、測温不可能となった。これに対して、カメラの周囲にエアカーテンを形成できる実験条件2ないし実験条件4では、目標となる180日以上において、溶鉄の温度を測定することができた。また、ランスチップの先端部とカメラの先端部との間にスペースを形成した第5実験条件、および、カメラの周囲に突起部を形成した実験条件6では、実験条件2ないし実験条件4よりも、溶鉄の測温日数をさらに延長することができた。
【0059】
以上の結果から、ランスチップにカメラを取り付けた場合において、カメラの周囲にエアカーテンを形成することによってカメラに対する溶鉄の飛沫の付着を防止することができ、これにより安定した連続測温が可能であることが分かった。そして、溶鉄の連続測温データを利用することにより、溶鋼の温度を細かく把握することが可能となった。また、次工程に適した温度に調整する等、溶鉄の温度管理を適切に行うことができ、鉄鋼製品の生産性を向上することができた。