(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163422
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】P型窒化物半導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/336 20060101AFI20241115BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20241115BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
H01L29/78 658A
H01L29/78 652T
H01L29/78 655A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079007
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【弁理士】
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【弁理士】
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】藤井 慧
(72)【発明者】
【氏名】吉本 晋
(72)【発明者】
【氏名】青木 健志
(72)【発明者】
【氏名】冬木 琢真
(72)【発明者】
【氏名】有方 卓
(72)【発明者】
【氏名】高田 賢志
(57)【要約】
【課題】十分な濃度のP型半導体領域を効率的に形成することができるP型窒化物半導体の製造方法を提供する。
【解決手段】P型窒化物半導体の製造方法は、窒化物半導体から構成される基板上にII族原子を含むSOG液を塗布する工程と、II族原子を含むSOG液を塗布した基板を焼成してSOG膜を形成する工程と、SOG膜を形成した基板に不活性ガス雰囲気下でアニール処理を行い、基板中にII族原子を拡散させる工程と、II族原子を拡散させる工程の後に、SOG膜を基板上から除去する工程と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物半導体から構成される基板上にII族原子を含むSOG液を塗布する工程と、
前記II族原子を含むSOG液を塗布した前記基板を焼成してSOG膜を形成する工程と、
前記SOG膜を形成した前記基板に不活性ガス雰囲気下でアニール処理を行い、前記基板中に前記II族原子を拡散させる工程と、
前記II族原子を拡散させる工程の後に、前記SOG膜を前記基板上から除去する工程と、を含む、P型窒化物半導体の製造方法。
【請求項2】
窒化物半導体から構成される基板上に絶縁膜を形成する工程と、
前記基板上に形成された前記絶縁膜の一部を除去して前記基板の表面の一部を露出させる工程と、
露出させた前記基板の表面上および前記絶縁膜上にII族原子を含むSOG液を塗布する工程と、
前記II族原子を含むSOG液を塗布した前記基板を焼成してSOG膜を形成する工程と、
前記SOG膜を形成した前記基板に不活性ガス雰囲気下でアニール処理を行い、前記基板中に前記II族原子を拡散させる工程と、
前記II族原子を拡散させる工程の後に、前記SOG液を前記基板上から除去する工程と、を含む、P型窒化物半導体の製造方法。
【請求項3】
前記II族原子を拡散させる工程の後に、前記II族原子を活性化させる工程をさらに含む、請求項1または請求項2に記載のP型窒化物半導体の製造方法。
【請求項4】
前記II族原子を拡散させる工程の後であって前記II族原子を活性化させる工程の前に、前記基板上に前記基板の構成元素の離脱を抑制する保護膜を形成する工程をさらに含む、請求項3に記載のP型窒化物半導体の製造方法。
【請求項5】
前記II族原子を含むSOG液を塗布する工程は、前記基板上において前記II族原子を含むSOG液をスピンコートして塗布する工程を含む、請求項1または請求項2に記載のP型窒化物半導体の製造方法。
【請求項6】
前記II族原子は、Mgである、請求項1または請求項2に記載のP型窒化物半導体の製造方法。
【請求項7】
前記アニール処理の温度は、1100℃以上1300℃以下である、請求項1または請求項2に記載のP型窒化物半導体の製造方法。
【請求項8】
前記絶縁膜は、SiN、SiO2およびSiONのうちの少なくともいずれか1つを含む、請求項2に記載のP型窒化物半導体の製造方法。
【請求項9】
前記SOG膜を前記基板から除去する工程は、バッファードフッ酸を用いて前記SOG液を前記基板から除去する工程を含む、請求項1または請求項2に記載のP型窒化物半導体の製造方法。
【請求項10】
前記保護膜は、ダイアモンドライクカーボン、SiN、SiO2およびSiONのうちの少なくともいずれか1つを含む、請求項4に記載のP型窒化物半導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、P型窒化物半導体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GaN系のトランジスタといったGaN系のデバイスに関する技術が開示されている(例えば、特許文献1、特許文献2および非特許文献1参照)。特許文献1に開示のGaN系トランジスタにおいては、ゲート電極直下の半導体層を、他の半導体層を形成する半導体材料よりもバンドギャップの大きい半導体材料により形成することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-320042号公報
【特許文献2】特開2020-25056号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H.Sakurai et al.、“Highly effective activation of Mg-implanted p-type GaN by ultra-high-pressure annealing”、Appl.Phys.Lett.115,142104(2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電力変換器といった半導体を利用するデバイスにおいて、高効率化を図る観点から、トランジスタのオン抵抗の低減が求められる。ここで、GaNといった破壊電圧の大きい窒化物半導体を用いると、オン抵抗を大きく低減することができるため有利である。高耐圧や大電流を流す観点からすると、MOSFETやIGBTといった縦型のトランジスタが好適に用いられる。このような縦型のトランジスタについては、局所的にP型半導体の領域を形成する必要がある。例えばイオン注入によりP型の半導体領域を形成する場合、選択的に十分な濃度のP型半導体領域を形成することは極めて困難である。
【0006】
そこで、十分な濃度のP型半導体領域を効率的に形成することができるP型窒化物半導体の製造方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に従ったP型窒化物半導体の製造方法は、窒化物半導体から構成される基板上にII族原子を含むSOG液(Spin on glass)を塗布する工程と、II族原子を含むSOG液を塗布した基板を焼成してSOG膜を形成する工程と、SOG膜を形成した基板に不活性ガス雰囲気下でアニール処理を行い、基板中にII族原子を拡散させる工程と、II族原子を拡散させる工程の後に、SOG膜を基板上から除去する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0008】
このようなP型窒化物半導体の製造方法によると、十分な濃度のP型半導体領域を効率的に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態1におけるP型窒化物半導体の製造方法の代表的な工程を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、準備された基板を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、絶縁膜を形成した状態を示す概略断面図である。
【
図4】
図4は、基板の表面の一部を露出させた状態を示す概略断面図である。
【
図5】
図5は、基板に焼成行程を実施した状態を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、II族原子拡散工程を実施する際の概略断面図である。
【
図7】
図7は、Mg原子を基板内に拡散させた状態を示す概略断面図である。
【
図8】
図8は、SOG膜および絶縁膜を除去した状態を示す概略断面図である。
【
図9】
図9は、保護膜を形成した状態を示す概略断面図である。
【
図10】
図10は、Mg原子を活性化処理する際の概略断面図である。
【
図11】
図11は、実施の形態1におけるP型窒化物半導体の製造方法を用いて製造されたP型窒化物半導体を適用したデバイスの一例であるトランジスタの一部を示す概略断面図である。
【
図12】
図12は、実施の形態2におけるP型窒化物半導体の製造方法の代表的な工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示に係るP型窒化物半導体の製造方法は、
(1)窒化物半導体から構成される基板上にII族原子を含むSOG液(Spin on glass)を塗布する工程と、II族原子を含むSOG液を塗布した基板を焼成してSOG膜を形成する工程と、SOG膜を形成した基板に不活性ガス雰囲気下でアニール処理を行い、基板中にII族原子を拡散させる工程と、II族原子を拡散させる工程の後に、SOG膜を基板上から除去する工程と、を含む。
【0011】
P型窒化物半導体においてP型半導体領域を形成する際に、例えばイオン注入法を用いる場合がある。しかし、イオン注入法によると、基板を構成する結晶にダメージを与え、デバイス特性を悪化させるおそれがある。特に局所的に十分な濃度のP型半導体領域を形成する場合には、結晶へのダメージが多大となり、その後のアニール処理によってもダメージを受けた結晶が回復しきれない。上記P型窒化物半導体の製造方法によると、II族原子を含むSOG液を塗布して焼成し、SOG膜を形成した後、アニール処理によりII族原子を基板中に拡散させているため、局所的に十分な濃度のP型半導体領域を形成することができる。この場合、結晶へダメージを与えることはないため、デバイス特性が劣化することを防止することができる。また、熱拡散によるP型半導体領域の形成であり、比較的簡便なプロセスである。したがって、上記P型窒化物半導体の製造方法によると、十分な濃度のP型半導体領域を効率的に形成することができる。
【0012】
また、本開示に係るP型窒化物半導体の製造方法は、
(2)窒化物半導体から構成される基板上に絶縁膜を形成する工程と、基板上に形成された絶縁膜の一部を除去して基板の表面の一部を露出させる工程と、露出させた基板の表面上および絶縁膜上にII族原子を含むSOG液を塗布する工程と、II族原子を含むSOG液を塗布した基板を焼成してSOG膜を形成する工程と、SOG膜を形成した基板に不活性ガス雰囲気下でアニール処理を行い、基板中にII族原子を拡散させる工程と、II族原子を拡散させる工程の後に、SOG液を基板上から除去する工程と、を含む。
【0013】
このようなP型窒化物半導体の製造方法によると、基板上に絶縁膜を形成した後に一部を露出させることとしている。そして、露出した領域に対してP型半導体領域を形成することとしている。このようにすることにより、露出した領域以外の領域は絶縁膜により覆われているため、SOG液が塗布されるおそれを大きく低減することができ、より確実に所望する位置にP型半導体領域を形成することができる。
【0014】
(3)上記(1)または(2)において、P型窒化物半導体の製造方法は、II族原子を拡散させる工程の後に、II族原子を活性化させる工程をさらに含んでもよい。このようにすることにより、形成されたP型半導体領域においてII族原子を活性化させて、デバイスに適用する際に有効活用することができる。
【0015】
(4)上記(3)において、P型窒化物半導体の製造方法は、II族原子を拡散させる工程の後であってII族原子を活性化させる工程の前に、基板上に基板の構成元素の離脱を抑制する保護膜を形成する工程をさらに含んでもよい。このようにすることにより、基板の構成元素が基板から離脱することに起因する、基板を構成する結晶の損傷を抑制して、P型窒化物半導体を適用したデバイスの特性が劣化するおそれを低減することができる。
【0016】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、II族原子を含むSOG液を塗布する工程は、基板上においてII族原子を含むSOG液をスピンコートして塗布する工程を含んでもよい。このようにすることにより、SOG液を基板上に効率的に均一に、すなわち、各領域における厚さの差をできるだけ小さくしながら塗布することができる。したがって、より高精度にP型半導体領域を形成することができる。
【0017】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、II族原子は、Mg(マグネシウム)であってもよい。このようなII族原子は、P型半導体領域を形成する際に、有効に利用される。
【0018】
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、アニール処理の温度は、1100℃以上1300℃以下であってもよい。このようにすることにより、より確実にII族原子の基板内への熱拡散を促進して、確実にP型半導体領域を形成することができる。
【0019】
(8)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、絶縁膜は、SiN(窒化珪素)、SiO2(二酸化ケイ素)およびSiON(酸窒化ケイ素)のうちの少なくともいずれか1つを含んでもよい。このような材料は、比較的強度が高く、窒化物半導体から構成される基板上に強固に接合することができるため、好適に用いられる。
【0020】
(9)上記(1)から(8)のいずれかにおいて、SOG液を基板から除去する工程は、バッファードフッ酸を用いてSOG液を基板から除去する工程を含んでもよい。このようにすることにより、基板からSOG膜をより確実に除去することができる。したがって、より高精度にP型半導体領域を形成することができる。
【0021】
(10)上記(4)から(9)のいずれかにおいて、保護膜は、ダイアモンドライクカーボン、SiN、SiO2およびSiONのうちの少なくともいずれか1つを含んでもよい。このような材料は、基板からN(窒素)が脱離するのを抑制する保護膜として有効に利用される。
【0022】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示のP型窒化物半導体の製造方法の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0023】
(実施の形態1)
本開示の実施の形態1におけるP型窒化物半導体の製造方法について説明する。
図1は、実施の形態1におけるP型窒化物半導体の製造方法の代表的な工程を示すフローチャートである。
【0024】
図1を参照して、実施の形態1におけるP型窒化物半導体の製造方法では、まず工程(S11)として、窒化物半導体から構成される基板を準備する基板準備工程が実施される。
図2は、準備された基板を示す概略断面図である。
図2および以下に示す図面において、矢印Tで示す方向で基板の厚さ方向を示す。
図2を参照して、この工程では、基板としてエピタキシャル結晶成長させたGaNから構成される基板が準備される。すなわち、本実施形態においては、窒化物半導体として、GaN(窒化ガリウム)が選択される。基板1の厚さ方向に位置する表面2の平坦性および清浄性は、研磨工程や洗浄工程を実施することにより確保されている。
【0025】
次に、工程(S12)として、絶縁膜形成工程が実施される。
図3は、絶縁膜を形成した状態を示す概略断面図である。
図3を参照して、この工程では、基板1の表面2上に絶縁膜3が形成される。本実施形態においては、具体的には基板1の表面2を全て覆うように絶縁膜3が形成される。この場合、基板1においては、絶縁膜3の表面4が露出している状態となる。絶縁膜3は、SiN(窒化ケイ素)、SiO
2(二酸化ケイ素)およびSiON(酸窒化ケイ素)のうちの少なくともいずれか1つを含む。すなわち、絶縁膜3の材質として、SiN、SiO
2およびSiONのうちの少なくともいずれか1つが選択される。絶縁膜3の表面4は平坦である。絶縁膜3の形成は、例えば、PECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition(プラズマ励起化学気相成膜))により実施される。絶縁膜3の厚さについては、必要に応じて適宜選択される。
【0026】
次に、工程(S13)として、露出行程が実施される。
図4は、基板1の表面2の一部を露出させた状態を示す概略断面図である。
図4を参照して、この工程では、基板1の表面2上に形成された絶縁膜3の一部が除去される。除去される領域は、P型半導体領域を形成する領域である。具体的には、絶縁膜3が形成された基板1に対してフォトリソグラフィを用いてパターンを形成する。そして、基板1に対してドライエッチングまたはウェットエッチングを施して、絶縁膜3の一部を除去する。このようにして、基板1の表面2の一部を露出させる。もちろん、他の手法により絶縁膜3の一部を除去することにしてもよい。
【0027】
次に、工程(S14)として、SOG液塗布工程が実施される。この工程では、表面2の一部を露出させ、その他の領域を絶縁膜3で覆った基板1上に、II族原子を含むSOG液を塗布する。本実施形態においては、II族原子としてMgが選択される。すなわち、II族原子は、Mg(マグネシウム)である。このようなII族原子は、P型半導体領域を形成する際に、有効に利用される。
【0028】
ここで、SOG液の塗布については、スピンコートにより実施される。具体的には、例えばMgを含むSOG液を用い、表面2の一部を露出させた基板1を主回転数4000rpmで回転させてスピンコートしてSOG液を塗布する。この場合、絶縁膜3の表面4および露出した基板1の表面2も全て、SOG液によって覆われる。なお、この主回転数や塗布の時間等については、用いられるSOG液の状態、基板1の大きさ等により適宜選択される。
【0029】
次に、工程(S15)として、焼成行程が実施される。
図5は、基板1に焼成行程を実施した状態を示す概略断面図である。
図5を参照して、この工程では、例えばSOG液のスピンコートによる塗布後、温度を200℃とした電気炉を用い、30分間焼成することにより実施される。この工程はプリベーク行程とも呼ばれ、この工程により、基板1の表面2上および絶縁膜3の表面4上にSOG膜5が形成される。
【0030】
次に、工程(S16)として、II族原子拡散工程が実施される。本実施形態においては、II族原子拡散工程として、Mg原子拡散工程が実施される。
図6は、II族原子拡散工程を実施する際の概略断面図である。
図6を参照して、この工程では、不活性ガス雰囲気、本実施形態においては、窒素雰囲気としたアニール処理装置6が用いられ、アニール処理が実施される。具体的には、例えば、熱拡散炉として用いるアニール処理装置6内にSOG膜5を形成した基板1を配置し、1100℃以上1300℃以下の温度、さらに具体的には1200℃の温度として10分間アニール処理を行う。アニール処理の時間としては、数十分行ってもよい。この場合のMg原子の基板1内への拡散は、固相拡散となる。このようにすることにより、より確実にII族原子、すなわち、Mgの基板1内への熱拡散を促進して、確実に十分な濃度のP型半導体領域を形成することができる。
【0031】
このようにして、基板1内にMg原子を拡散させる。
図7は、Mg原子を基板1内に拡散させた状態を示す概略断面図である。
図7を参照して、基板1のうちの露出した領域において、表面2から内部に至って破線で示す領域7には、Mg原子が拡散されている。このMg原子が拡散された領域7が、後にP型半導体領域を形成する。
【0032】
次に、工程(S17)として、SOG膜除去工程が実施される。この工程では、例えば、バッファードフッ酸(B-HF)を用いて基板1の表面からSOG膜を除去する。この時、絶縁膜3も一緒に除去してもよい。
図8は、SOG膜5および絶縁膜3を除去した状態を示す概略断面図である。
図8を参照して、基板1には、一部の表面2から内部に至ってMg原子が拡散した領域7が形成されている。
【0033】
次に、工程(S18)として、保護膜形成行程が実施される。この工程では、例えば、保護膜としてダイアモンドライクカーボン(DLC)が用いられる。保護膜は、基板1上に基板1の構成元素、本実施形態においては、具体的にはN(窒素)の離脱を抑制する。
図9は、保護膜を形成した状態を示す概略断面図である。
図9を参照して、Mg原子が拡散された領域7を含む基板1の表面2上に、保護膜8が形成される。保護膜8は、領域7を含む基板1の表面2の全域にわたって形成される。
【0034】
次に、工程(S19)として、II族原子活性化処理工程が実施される。本実施形態においては、II族原子活性化処理工程として、Mg原子活性化処理工程が実施される。
図10は、Mg原子を活性化処理する際の概略断面図である。
図10を参照して、この工程では、例えば、基板1内に拡散されたMg原子をアニール処理により活性化させる。具体的には、
図10に示すように、アニール処理装置6内に保護膜8を形成した基板1を配置する。そして、上記したII族原子拡散工程(S16)よりも高い温度、例えば温度を1400℃としてMg原子の活性化処理を行う。このようにして、Mg原子の活性化処理を施して、P型窒化物半導体を製造する。
【0035】
製造されたP型窒化物半導体については、例えば、トランジスタ、具体的にはMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field Effect Transistor)や絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor))を製造する際に、有効に利用される。
【0036】
このようなP型窒化物半導体の製造方法によると、Mg原子を含むSOG液を塗布して焼成し、SOG膜を形成した後、アニール処理によりMg原子を基板中に拡散させているため、局所的に十分な濃度のP型半導体領域を形成することができる。この場合、結晶へダメージを与えることはないため、デバイス特性が劣化することを防止することができる。また、熱拡散によるP型半導体領域の形成であり、比較的簡便なプロセスである。したがって、上記P型窒化物半導体の製造方法によると、十分な濃度のP型半導体領域を効率的に形成することができる。
【0037】
本実施形態においては、基板1上に絶縁膜3を形成した後に一部を露出させることとしている。そして、露出した領域に対してP型半導体領域を形成することとしている。よって、露出した領域以外の領域は絶縁膜3により覆われているため、SOG液が塗布されるおそれを大きく低減することができ、より確実に所望する位置にP型半導体領域を形成することができる。
【0038】
本実施形態においては、P型窒化物半導体の製造方法は、II族原子を拡散させる工程の後であってII族原子を活性化させる工程の前に、基板上に基板の構成元素の離脱を抑制する保護膜を形成する工程を含む。よって、基板の構成元素が基板から離脱することに起因する、基板を構成する結晶の損傷を抑制して、P型窒化物半導体を適用したデバイスの特性が劣化するおそれを低減することができる。
【0039】
なお、上記の実施の形態においては、SOG膜除去工程(S17)において、SOG膜と共に絶縁膜を除去することとしたが、これに限らず、絶縁膜を残してSOG膜のみを除去し、絶縁膜を後の製造工程において有効に活用することとしてもよい。
【0040】
また、上記の実施の形態においては、保護膜形成工程(S18)において保護膜を形成することとしたが、これに限らず、必要に応じて保護膜を形成しなくともよい。
【0041】
なお、上記した実施の形態1におけるP型窒化物半導体の製造方法を用いて製造されたP型窒化物半導体を適用したデバイスの構造の一例について簡単に説明する。
図11は、実施の形態1におけるP型窒化物半導体の製造方法を用いて製造されたP型窒化物半導体を適用したデバイスの一例であるトランジスタの一部を示す概略断面図である。
図11は、基板の厚さ方向に垂直な平面で切断した場合の断面図である。
【0042】
図11を参照して、トランジスタ11は、ドレイン電極12と、GaN基板13と、ゲート絶縁膜15と、ゲート電極16と、層間絶縁膜17と、ゲートパッド(図示せず)と、ソースパッド20と、を含む。GaN基板13には、窒化物半導体14が形成される。本実施形態におけるトランジスタ11は、プレーナゲート構造を有する。窒化物半導体14は、ドレイン電極12側に配置されるn
-ドリフト領域23と、ゲート絶縁膜15側に配置されるp
+コンタクト領域24と、を含む。また、窒化物半導体14のトランジスタセル22には、p
-ボディ領域25と、n
+ソース領域26と、p
+コンタクト領域27とが形成されている。p
-ボディ領域25は、チャネル領域21を含む。
【0043】
トランジスタ11においては、ゲート電極16に電圧を印加してチャネル領域21に電界を生じさせ、ソースパッド20からトランジスタセル22のn+ソース領域26、p-ボディ領域25、n-ドリフト領域23を通り、ドレイン電極12に至る電流を制御する。このようなトランジスタ11において、P型窒化物半導体を製造する際に、上記した実施の形態1における製造方法を採用する。
【0044】
(実施の形態2)
他の実施の形態である実施の形態2について説明する。
図12は、実施の形態2におけるP型窒化物半導体の製造方法の代表的な工程を示すフローチャートである。
【0045】
図12を参照して、実施の形態2におけるP型窒化物半導体の製造方法は、窒化物半導体から構成される基板を準備する基板準備工程(S21)と、準備した基板上にII族原子であるMg原子を含むSOG液を塗布するSOG液塗布工程(S22)と、II族原子を含むSOG液を塗布した基板を焼成してSOG膜を形成する焼成工程(S23)と、SOG膜を形成した基板に不活性ガスである窒素雰囲気下でアニール処理を行い、基板中にII族原子を拡散させるII族原子拡散工程(S24)と、II族原子を拡散させる工程の後に、SOG膜を基板上から除去するSOG膜除去工程(S25)と、を含む。工程(S21)は、実施の形態1の製造方法における工程(S11)に対応する。工程(S22)は、実施の形態1の製造方法における工程(S14)に対応する。工程(S23)は、実施の形態1の製造方法における工程(S15)に対応する。工程(S24)は、実施の形態1の製造方法における工程(S16)に対応する。工程(S25)は、実施の形態1の製造方法における工程(S17)に対応する。本実施形態においては、例えば、II族原子は、Mg原子である。すなわち、工程(S24)は、Mg原子拡散工程となる。
【0046】
このようなP型窒化物半導体の製造方法によっても、十分な濃度のP型半導体領域を効率的に形成することができる。
【0047】
なお、実施の形態2において、II族原子拡散工程(S24)については、レジストを成膜した後、SOGをフォトリソグラフィでパターニングしてアニール処理によりII族原子を拡散するようにしてもよいし、アニール処理により全面にII族原子を拡散させた後、SOG膜を除去し、さらに物理的に基板を削ってパターニングを施してもよい。
【0048】
(他の実施の形態)
なお、上記の実施の形態においては、保護膜としてダイアモンドライクカーボンを用いることとしたが、Nを一部に含むSiN、SiO2およびSiONであってもよい。また、保護膜は、ダイアモンドライクカーボン、SiN、SiO2およびSiONのうちの少なくともいずれか1つを含んでもよい。このような材料は、基板からNが脱離するのを抑制する保護膜として有効に利用される。
【0049】
また、上記の実施の形態においては、II族原子としてMgを用いることとしたが、これに限らず、II族原子として、例えば、Be(ベリリウム)、Ca(カルシウム)を用いてもよい。また、不活性ガスとして窒素ガスを用いることとしたが、これに限らず、不活性ガスとして、Ar(アルゴン)等を用いることとしてもよい。
【0050】
なお、上記の実施の形態においては、バッファードフッ酸を用いてSOG膜を基板から除去することとしたが、これに限らず、他の手法、例えば、フッ酸によりSOG膜を基板から除去することとしてもよい。また、上記の実施の形態においては、窒化物半導体として、GaNを用いることとしたが、これに限らず、他の窒化物半導体、例えば、AlN(窒化アルミニウム)を採用することにしてもよい。
【0051】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0052】
1,13 基板
2,4 表面
3 絶縁膜
5 SOG膜
6 アニール処理装置
7 領域
8 保護膜
11 トランジスタ
12 ドレイン電極
14 窒化物半導体
15 ゲート絶縁膜
16 ゲート電極
17 層間絶縁膜
20 ソースパッド
21 チャネル領域
22 トランジスタセル
23 ドリフト領域
24,27 p+コンタクト領域
25 p-ボディ領域
26 n+ソース領域
T 矢印