(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163424
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】放射性物質輸送容器
(51)【国際特許分類】
G21F 5/015 20060101AFI20241115BHJP
G21F 5/08 20060101ALI20241115BHJP
G21F 9/36 20060101ALI20241115BHJP
G21F 1/08 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
G21F5/015
G21F5/08
G21F9/36 501F
G21F9/36 501J
G21F1/08
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079009
(22)【出願日】2023-05-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】596013224
【氏名又は名称】株式会社関東技研
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 洋伸
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 洋
(72)【発明者】
【氏名】田所 孝広
(72)【発明者】
【氏名】上野 雄一郎
(57)【要約】
【課題】放射性物質の運搬時に発生した衝撃を抑制する放射性物質輸送容器を提供する。
【解決手段】放射性物質輸送容器は、内部に収納した線源の放射線を遮蔽可能な収納容器と、前記収納容器の周囲を断熱緩衝体で覆った上で密閉可能な内部容器と、前記内部容器を収容した中壕を上部スプリングと下部スプリングとで押し合うように支持し、側周を複数のテンションスプリングで引っ張り合うように支持した状態で密閉可能な外部容器と、を有し、前記上部スプリングは、上面が前記外部容器の上蓋のセンターガイドに嵌合するガイド孔が空いた上面緩衝体で、下面が前記中壕に被せる中蓋であり、前記下部スプリングは、下面が前記外部容器の底に固定され、上面が前記中壕を載せる載置台であり、前記テンションスプリングは、それぞれ前記外部容器と前記中壕の間を繋ぐように等間隔で配置される、ことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に収納した線源の放射線を遮蔽可能な収納容器と、
前記収納容器の周囲を断熱緩衝体で覆った上で密閉可能な内部容器と、
前記内部容器を収容した中壕を上部スプリングと下部スプリングとで押し合うように支持し、側周を複数のテンションスプリングで引っ張り合うように支持した状態で密閉可能な外部容器と、を有し、
前記上部スプリングは、上面が前記外部容器の上蓋のセンターガイドに嵌合するガイド孔が空いた上面緩衝体で、下面が前記中壕に被せる中蓋であり、
前記下部スプリングは、下面が前記外部容器の底に固定され、上面が前記中壕を載せる載置台であり、
前記テンションスプリングは、それぞれ前記外部容器と前記中壕の間を繋ぐように等間隔で配置される、
ことを特徴とする放射性物質輸送容器。
【請求項2】
前記収納容器は、タングステン製の容器である、
ことを特徴とする請求項1に記載の放射性物質輸送容器。
【請求項3】
前記断熱緩衝体は、珪藻土又はケイ酸カルシウムを使用した断熱材である、
ことを特徴とする請求項1に記載の放射性物質輸送容器。
【請求項4】
前記テンションスプリングは、前記中壕の周囲8方向にコイルバネが配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の放射性物質輸送容器。
【請求項5】
前記外部容器は、底の四隅に底部緩衝体が設けられる、
ことを特徴とする請求項1に記載の放射性物質輸送容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質の運搬時に発生した衝撃を抑制する放射性物質輸送容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射線治療は、がんの治療法の1つであり、患部に放射線を当ててがん細胞を殺している。放射線治療には、X線、ガンマ線、陽子線、中性子線などの放射線を体の外側から当てる外部照射と、飲み薬や注射で放射性物質を投与して体の内側から当てる内部照射がある。
【0003】
内部照射で使用される放射性物質としては、例えば、塩化ラジウム223がある。ラジウム223は、同位体であるラジウム226に中性子を当てて人工的に生成可能である。半減期11.4日でアルファ崩壊してラドン219になり、最終的には鉛207となる。
【0004】
放射性物質を含む医薬品は、国内で製造される場合もあれば、海外から原料又は製品として輸入される場合もあり、車両や航空機などで医療機関まで輸送される。運搬時に放射線によって人体が被曝しないように、鉛やタングステンなどの容器に収納して放射線を遮蔽している。
【0005】
特許文献1に記載されているように、放射性薬液を封入した放射性薬液封入容器の輸送中や保存中に放射性薬液封入容器が破損することを防ぐと共に、万一放射性薬液封入容器が破損したり、あるいは何らかの原因で液漏れを起こした場合にも収納している放射性薬液が放射線遮蔽容器外へ漏出し、放射性汚染物を増加させる危険性の無い放射性薬液封入容器用輸送容器の発明も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の発明は、放射性薬液封入容器と遮蔽体との間の衝撃力を吸収するとともに放射性薬液封入容器が破損し放射性薬液を吸収したときには膨張する吸収部材を備えている。吸収部材は、吸水性ポリマーやイオン交換樹脂などからなっており、高所からの落下による衝撃に対しては効果があると考えられる。
【0008】
しかしながら、車両や航空機が事故により炎上した場合、吸収部材は熱により燃焼又は溶解してしまい、衝撃力や放射性薬液を吸収することができなくなる。また、吸収部材が無くなることで、遮蔽体が放射性薬液封入容器内で落下又は傾倒して衝撃を受ければ、放射性物質が漏出するおそれがある。
【0009】
そのため、放射性医薬品の輸送においては、振動や落下や荷重が掛かる状況だけでなく、上空や海底のような低温の状況や、火災のような高温の状況など、過酷な状況においても外部又は内部で発生した衝撃を抑制して放射性物質の漏出を防止できる放射性物質輸送容器が求められている。
【0010】
そこで、本発明は、放射性物質の運搬時に発生した衝撃を抑制する放射性物質輸送容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明である放射性物質輸送容器は、内部に収納した線源の放射線を遮蔽可能な収納容器と、前記収納容器の周囲を断熱緩衝体で覆った上で密閉可能な内部容器と、前記内部容器を収容した中壕を上部スプリングと下部スプリングとで押し合うように支持し、側周を複数のテンションスプリングで引っ張り合うように支持した状態で密閉可能な外部容器と、を有し、前記上部スプリングは、上面が前記外部容器の上蓋のセンターガイドに嵌合するガイド孔が空いた上面緩衝体で、下面が前記中壕に被せる中蓋であり、前記下部スプリングは、下面が前記外部容器の底に固定され、上面が前記中壕を載せる載置台であり、前記テンションスプリングは、それぞれ前記外部容器と前記中壕の間を繋ぐように等間隔で配置される、ことを特徴とする。
【0012】
前記放射性物質輸送容器において、前記収納容器は、タングステン製の容器である、ことを特徴とする。
【0013】
前記放射性物質輸送容器において、前記緩衝体は、珪藻土又はケイ酸カルシウムを使用した断熱材である、ことを特徴とする。
【0014】
前記放射性物質輸送容器において、前記テンションスプリングは、前記中壕の周囲8方向にコイルバネが配置される、ことを特徴とする。
【0015】
前記放射性物質輸送容器において、前記外部容器は、底の四隅に底部緩衝体が設けられる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、放射性物質を含む医薬品の運搬時に火災など高熱によって緩衝体が燃焼又は溶解したとしても放射性物質の輸送容器の外部又は内部で発生した衝撃を抑制し、放射性物質の漏出を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明である放射性物質輸送容器の正面を示す縦断面図である。
【
図2】本発明である放射性物質輸送容器の上蓋を外した状態を示す縦断面図である。
【
図3】本発明である放射性物質輸送容器の上蓋を外した状態を示す平面図である。
【
図4】本発明である放射性物質輸送容器から中壕を取り出した状態を示す縦断面図である。
【
図5】本発明である放射性物質輸送容器の中壕から内部容器を取り出した状態を示す縦断面図である。
【
図6】本発明である放射性物質輸送容器の内部容器を示す縦断面図である。
【
図7】本発明である放射性物質輸送容器の内部容器から収納容器を取り出した状態を示す縦断面図である。
【
図8】本発明である放射性物質輸送容器の収納容器を示す縦断面図である。
【
図9】本発明である放射性物質輸送容器の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【実施例0019】
まず、本発明である放射性物質輸送容器について説明する。
図1は、放射性物質輸送容器の正面を示す縦断面図である。
図2は、放射性物質輸送容器の上蓋を外した状態を示す縦断面図である。
図3は、放射性物質輸送容器の上蓋を外した状態を示す平面図である。
図4は、放射性物質輸送容器から中壕を取り出した状態を示す縦断面図である。
図5は、放射性物質輸送容器の中壕から内部容器を取り出した状態を示す縦断面図である。
【0020】
図1に示すように、放射性物質輸送容器100は、内部に収納した線源の放射線を遮蔽可能な収納容器900、収納容器900の周囲を断熱緩衝体(軟質緩衝体830と硬質緩衝体840)で覆った上で密閉可能な内部容器800、内部容器800を収容した中壕700を上部スプリング400と下部スプリング500とで押し合うように支持し、側周を複数のテンションスプリング600で引っ張り合うように支持した状態で密閉可能な外部容器200等を有する。
【0021】
外部容器200は、ステンレス等の中空の容器であり、空いた上面に上蓋300を被せることで密閉可能である。なお、上蓋300の縁に沿って樹脂等のパッキン320でシールする。また、内部に重いものを収容するので、持ち運ぶために外側面に把手220が設けられる。さらに、落下時や衝突時の衝撃に対し、それ自体が塑性変形することで外部容器200の内部へ荷重が掛からないように、底面四隅に底部緩衝体210が設けられる。
【0022】
図2に示すように、外部容器200の内部に配置された中壕700と、上蓋300の間には、上部スプリング400を介在させる。上部スプリング400は、縦向きの複数(例えば、4本)のコイルバネを並置し、外部容器200の上蓋300のセンターガイド310に嵌合するガイド孔410が空いた上面緩衝体420を上面に設け、中壕700に被せる中蓋430を下面に設けたものである。
【0023】
センターガイド310は、上蓋300の内面中央に下方へ突出するように設ければ良い。上蓋300と上部スプリング400とは接しているのみで、上蓋300の内面に対して上面緩衝体420で面として当てつつ、センターガイド310をガイド孔410に嵌めることでほぼ中央に位置を保持する。
【0024】
上部スプリング400と中壕700とは、中蓋430を中壕500の上側に嵌め込むように被せているのみで、上蓋300を外部容器200に被せたときに、上部スプリング400は上蓋300と中壕700に挟まれて押圧状態になり収縮する。
【0025】
図3に示すように、外部容器200の内側壁に中壕700が通過可能なサイズの円形の孔が空いた中板610が取り付けられる。中壕700は、中板610とは接触しないように、外部容器200のほぼ中央に配置され、中壕700の側周面に沿って突出させたフランジ710と、中板610の縁枠620とを、複数のテンションスプリング600で連結する。
【0026】
テンションスプリング600は、中壕700の周囲にそれぞれ外部容器200と中壕700の間を繋ぐように等間隔(例えば、60°ごと3方向、90°ごと4方向、45°ごと8方向など)で配置されたコイルバネで、互いに引っ張られて伸長状態になる。
【0027】
図4に示すように、中壕700は、テンションスプリング600を外すことで、外部容器200から取り出すことが可能である。なお、中壕700と外部容器200の内底面との間には、下部スプリング500を介在させている。
【0028】
下部スプリング500は、縦向きの複数(例えば、4本)のコイルバネを並置し、下面は外部容器200の底に固定され、上面に中壕700を載せる載置台510を設けたものである。中壕700は、平坦な載置台510に置かれているだけであり、下部スプリング500は中壕700の重量により押圧状態になり収縮する。
【0029】
中壕700と外部容器200とは、上部スプリング400、下部スプリング500、及び複数のテンションスプリング600の弾力部材を介して連結しており、それら伸縮の復元力を利用して中壕700の位置が外部容器200の内部中央に保持される。外部容器200が受けた衝撃は、これら弾力部材に吸収されて、中壕700にはほとんど伝達されない。
【0030】
中壕700と外部容器200の間には、ウレタンスポンジ等の緩衝体を介在させても良い。火や熱で緩衝体が燃焼又は溶解しても、上部スプリング400、下部スプリング500、及びテンションスプリング600によって中壕700の姿勢は維持され、内部は熱の影響や外部から受けた衝撃に対して保護される。
【0031】
図5に示すように、中壕700は、ステンレス等の中空の容器であり、空いた上面に中蓋430を被せることが可能である。中壕700には、内部容器800を収容可能である。収容した内部容器800と中蓋430の間の空間には上部緩衝体720を介在させる。上部緩衝体720には、ウレタンスポンジ等を用いれば良い。
【0032】
図6は、放射性物質輸送容器の内部容器を示す縦断面図である。
図7は、放射性物質輸送容器の内部容器から収納容器を取り出した状態を示す縦断面図である。
図8は、放射性物質輸送容器の収納容器を示す縦断面図である。
【0033】
図6に示すように、内部容器800は、ステンレス等の中空の容器であり、空いた上面に内部蓋810を被せることで密閉可能である。なお、内部蓋810の縁に沿って銅などの金属パッキン820でシールする。
【0034】
内部容器800の側周面の上端から外方に向かって、把持用の容器フランジ850が突出しており、容器フランジ850に合わせて内部蓋810を重ね、容器フランジ850の位置に沿って複数の蓋取付ボルト860で間欠的に締結する。また、ロープ等を係止して持ち上げるためにアイボルト870を取り付けても良い。
【0035】
図7に示すように、内部容器800は、収納容器900の上下及び周囲を覆うための断熱緩衝体を有する。内部容器800の底部には硬質緩衝体840を入れておいて収納容器900を載せ、内部容器800の内周部には軟質緩衝体830を入れて収納容器900が中央に配置されるようにし、内部容器800の上部には収納容器900に上側緩衝体910を載せた上で、内部蓋810で封止する。
【0036】
例えば、軟質緩衝体830には、無数の細孔により耐熱温度が約1000℃の珪藻土などを使用し、硬質緩衝体840には、耐熱温度が約1000℃のケイ酸カルシウム等(酸化カルシウムや二酸化ケイ素などを含む)を使用すれば良い。上側緩衝体910には、ウレタンスポンジ等を用いれば良い。また、ガイドなどを使用して収納容器900が中央で保持されるようにしても良い。
【0037】
図8に示すように、収納容器900は、タングステンや鉛などの容器であり、内部に放射性医薬品などの線源930を収納した上で、容器蓋920で密閉される。タングステンは、鉛より放射線を遮蔽する能力が高く環境負荷が小さい。
【0038】
タングステンは、鉛より比重が大きいため、放射線を遮蔽するために容器の壁を厚くすると重量もかなり大きくなる。運搬時は、放射線遮蔽および衝撃抑制するために内部容器800と外部容器200に収容して多重に保護する。
放射性物質輸送容器100においては、一般試験よりも特別に厳しい条件で試験される。例えば、38℃の環境に1週間放置して太陽の放射熱を加える、50mm/hの雨量に相当する水を1時間吹き付ける、9mの高さから最大破損を及ぼすように落下させる、自重の5倍に相当する荷重を24時間掛ける、直径15cmで長さ20cmの丸棒に対して1mの高さから落下させて弱い部分に突き刺す、800℃で30分耐火させる、15mの水中に8時間浸漬させる、-40~50℃の環境で亀裂が入らない等をクリアさせる。
本発明によれば、放射性物質を含む医薬品の運搬時に火災など高熱によって緩衝体が燃焼又は溶解したとしても放射性物質の輸送容器の外部又は内部で発生した衝撃を抑制し、放射性物質の漏出を防止することができる。