(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163427
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】通信システム、方向決定装置、通信制御方法、方向決定方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20241115BHJP
H01Q 3/26 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
H04B7/06 956
H04B7/06 150
H01Q3/26 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079012
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181135
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 正憲
(72)【発明者】
【氏名】安西 睦
【テーマコード(参考)】
5J021
【Fターム(参考)】
5J021AA05
5J021AA09
5J021AA12
5J021DB02
5J021DB03
5J021FA13
5J021GA02
5J021GA03
5J021HA05
(57)【要約】
【課題】アレイアンテナが送信するビームの指向方向を、比較的短時間で決定できるようにする。
【解決手段】通信システムが、アレイアンテナである送信アンテナと、前記送信アンテナからの電波を受信する受信アンテナと、前記送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、前記送信アンテナに送信させる調整用電波送信指示手段と、前記ヌルが形成される電波を前記受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定する方向決定手段と、決定されたずらすべき方向にビーム方向をずらすように、前記送信アンテナからの電波の送信を制御する送信制御手段と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイアンテナである送信アンテナと、
前記送信アンテナからの電波を受信する受信アンテナと、
前記送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、前記送信アンテナに送信させる調整用電波送信指示手段と、
前記ヌルが形成される電波を前記受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定する方向決定手段と、
決定されたずらすべき方向にビーム方向をずらすように、前記送信アンテナからの電波の送信を制御する送信制御手段と、
を備える通信システム。
【請求項2】
前記方向決定手段は、前記受信電波の強度に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向をずらすべき量を決定する、
請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記調整用電波送信指示手段は、第1のタイミングでは、前記送信アンテナの各素子からの電波の強め合いによるピークが形成される電波を前記送信アンテナに送信させ、第2のタイミングでは、前記ヌルが形成される電波を前記送信アンテナに送信させ、
前記方向決定手段は、前記第1のタイミングでの前記受信アンテナの受信電波の位相と、前記第2のタイミングでの前記受信アンテナの受信電波の位相との比較に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向をずらすべき方向を決定する、
請求項1または請求項2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記方向決定手段は、前記第1のタイミングでの前記受信アンテナの受信電波の強度と、前記第2のタイミングでの前記受信アンテナの受信電波の強度との比較に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向をずらすべき量を決定する、
請求項3に記載の通信システム。
【請求項5】
アレイアンテナである送信アンテナが送信する、前記送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定する方向決定手段
を備える方向決定装置。
【請求項6】
コンピュータが、
アレイアンテナである送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、前記送信アンテナに送信させ、
前記ヌルが形成される電波を受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定し、
決定されたずらすべき方向にビーム方向をずらすように、前記送信アンテナからの電波の送信を制御する、
ことを含む通信制御方法。
【請求項7】
コンピュータが、
アレイアンテナである送信アンテナが送信する、前記送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定する
ことを含む方向決定方法。
【請求項8】
コンピュータに、
アレイアンテナである送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、前記送信アンテナに送信させることと、
前記ヌルが形成される電波を受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定することと、
決定されたずらすべき方向にビーム方向をずらすように、前記送信アンテナからの電波の送信を制御することと、
を実行させるためのプログラム。
【請求項9】
コンピュータに、
アレイアンテナである送信アンテナが送信する、前記送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定すること
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システム、方向決定装置、通信制御方法、方向決定方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
通信における電波の指向性を調整する方法の1つに、アレイアンテナ(Array Antenna)によるビームフォーミング(Beamforming)がある。
例えば、特許文献1には、ハンドヘルド型の通信装置が、通信装置自らの向きの変化に基づいて、ビームパターンの更新をトリガすることが記載されている。この通信装置は、通信装置自らの向きを検出するセンサを備え、アダプティブアレイアンテナのビームパターンを更新した際の通信装置自らの向きを記憶しておく。そして、この通信装置は、記憶している向きからの向きの変化に基づいて、ビームパターンの更新をトリガする。
【0003】
また、アンテナの指向方向の制御に関連して、特許文献2には、放送衛星に搭載した放送用アンテナの指向方向を、地球上の同一ビーコン局から送信した、同一周波数でそれぞれ異なる偏波をなす複数のビーコン波に基づいて制御する電波センサ方式が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-053780号公報
【特許文献2】特開昭62-211576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アレイアンテナが送信するビームの指向方向を、なるべく短時間で決定できることが好ましい。
【0006】
本発明の目的の一例は、上述の課題を解決することのできる通信システム、方向決定装置、通信制御方法、方向決定方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、通信システムは、アレイアンテナである送信アンテナと、前記送信アンテナからの電波を受信する受信アンテナと、前記送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、前記送信アンテナに送信させる調整用電波送信指示手段と、前記ヌルが形成される電波を前記受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定する方向決定手段と、決定されたずらすべき方向にビーム方向をずらすように、前記送信アンテナからの電波の送信を制御する送信制御手段と、を備える。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、方向決定装置は、アレイアンテナである送信アンテナが送信する、前記送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定する方向決定手段を備える。
【0009】
本発明の第3の態様によれば、通信制御方法は、コンピュータが、アレイアンテナである送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、前記送信アンテナに送信させ、前記ヌルが形成される電波を受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定し、決定されたずらすべき方向にビーム方向をずらすように、前記送信アンテナからの電波の送信を制御する、ことを含む。
【0010】
本発明の第4の態様によれば、方向決定方法は、コンピュータが、アレイアンテナである送信アンテナが送信する、前記送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定することを含む。
【0011】
本発明の第5の態様によれば、プログラムは、コンピュータに、アレイアンテナである送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、前記送信アンテナに送信させることと、前記ヌルが形成される電波を受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定することと、決定されたずらすべき方向にビーム方向をずらすように、前記送信アンテナからの電波の送信を制御することと、を実行させるためのプログラムである。
【0012】
本発明の第6の態様によれば、プログラムは、コンピュータに、アレイアンテナである送信アンテナが送信する、前記送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定することを実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アレイアンテナが送信するビームの指向方向を、比較的短時間で決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態に係る通信システムの構成の例を示す図である。
【
図2】実施形態に係る第一アンテナの構成の例を示す図である。
【
図3】実施形態に係る第一アンテナが、各素子からの電波の強め合いによるピークが形成される電波を送信しているときの、各素子が送信する電波のパターンの例を示す図である。
【
図4】実施形態に係る各素子からの電波が強め合って形成されるピークにおける電波の例を示す図である。
【
図5】実施形態に係る第一アンテナがピーク形成電波を送信しているときの、電波観測地点の、第一アンテナの平面の中央の正面からのずれの量と電波強度との関係の例を示す図である。
【
図6】実施形態に係る第一アンテナが、各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を送信しているときの、各素子が送信する電波のパターンの第1の例を示す図である。
【
図7】実施形態に係る各素子からの電波の打ち消し合いによって形成されるヌルにおける電波の例を示す図である。
【
図8】実施形態に係る第一アンテナがヌル形成電波を送信しているときの、電波観測地点の、第一アンテナの平面の中央の正面からのずれの量と電波強度との関係の例を示す図である。
【
図9】実施形態に係る第一アンテナがヌル形成電波を送信しているときの、電波観測地点における各素子からの電波の例を示す図である。
【
図10】実施形態に係る第一アンテナがヌル形成電波を送信しているときの、各素子が送信する電波のパターンの第2の例を示す図である。
【
図11】実施形態に係る各素子からの電波のベクトル表現による足し合わせの例を示す図である。
【
図12】実施形態に係るずれデータを生成する処理の手順の例を示す図である。
【
図13】実施形態に係る第一アンテナがヌル形成電波を送信しているときの、各素子111が送信する電波のパターンの第3の例を示す図である。
【
図14】実施形態に係る第一通信システムが調整用電波を送信するタイミングの例を示す図である。
【
図15】実施形態に係る第一通信システムが第二通信システムへデータを送信する処理の手順の例を示す図である。
【
図16】実施形態に係る通信システムの構成の、もう1つの例を示す図である。
【
図17】実施形態に係る方向決定装置の構成の例を示す図である。
【
図18】実施形態に係る通信制御方法における処理の手順の例を示す図である。
【
図19】実施形態に係る方向決定方法における処理の手順の例を示す図である。
【
図20】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下の実施形態は請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
図1は、実施形態に係る通信システムの構成の例を示す図である。
図1に示す構成で、通信システム1は、第一通信システム100と、第二通信システム200とを備える。第一通信システム100は、第一アンテナ110と、調整用電波送信指示部120と、第一受信処理部130と、方向決定部140と、第一送信制御部150とを備える。第二通信システム200は、第二アンテナ210と、第二受信処理部220と、調整用情報抽出部230と、第二送信制御部240とを備える。
【0017】
また、第一通信システム100は、第一上位層910とデータのやり取りを行う。第一上位層910は、第一通信システム100から第二通信システム200への送信データ(第一上位層910から第二上位層920への送信データ)を第一送信制御部150へ出力する。また、第一上位層910は、第一通信システム100の受信データ(第二上位層920からの受信データ)を第一受信処理部130から取得する。第一上位層910が、第一通信システム100の外部の構成となっていてもよいし、第一通信システム100の一部として構成されていてもよい。
【0018】
また、第二通信システム200は、第二上位層920とデータのやり取りを行う。第二上位層920は、第二通信システム200から第一通信システム100への送信データ(第二上位層920から第一上位層910への送信データ)を第二送信制御部240へ出力する。また、第二上位層920は、第二通信システム200の受信データ(第一上位層910からの受信データ)を第二受信処理部220から取得する。第二上位層920が、第二通信システム200の外部の構成となっていてもよいし、第二通信システム200の一部として構成されていてもよい。
【0019】
通信システム1は、第一通信システム100と第二通信システム200との間で無線通信を行う。これにより通信システム1は、第一上位層910と第二上位層920との間でデータを伝送する。第一通信システム100と第二通信システム200とは、それぞれ通信システム1のサブシステムである。
以下では、第一通信システム100が第二通信システム200へ送信する電波の指向方向の決定について説明する。第二通信システム200が第一通信システム100へ送信する電波についても、以下で説明するのと同様に指向方向を決定するようにしてもよい。
【0020】
第一アンテナ110は、アレイアンテナとして構成され、第二通信システム200の第二アンテナ210との間で電波を送受信する。
第一アンテナ110は、送信アンテナの例に該当する。
【0021】
図2は、第一アンテナ110の構成の例を示す図である。
図2の例で、第一アンテナ110は、平面に4行4列に配置された16個の素子111を備える。
素子111の4つの行を、図の上側から順に第1行、第2行、第3行、第4行と称する。素子111の4つの列を、図の左側から順に第1列、第2列、第3列、第4列と称する。素子111の各々を、111-(行番号)-(列番号)による符号を用いて識別する。例えば、図の最も上かつ最も左に位置する素子111を、素子111-1-1とも称する。
【0022】
ただし、第一アンテナ110が備える素子111の個数および配置は、特定の個数および配置に限定されない。第一アンテナ110が備える素子111の個数および配置は、ビームフォーミングを行うことができ、かつ、調整用電波を送信可能な、いろいろな個数および配置とすることができる。
【0023】
素子111が配置されている平面を、第一アンテナ110の平面とも称する。第一アンテナ110の平面上で、素子111の配置の中央を、第一アンテナ110の平面の中央とも称する。
図2の例では、点P11が、第一アンテナ110の平面の中央に相当する。
【0024】
第一アンテナ110は、第一送信制御部150の制御に従って、素子111ごとに設定された位相にて各素子111から電波を送信することで、指向性を有する電波を送信する。
指向性を有する電波をビームとも称する。電波の指向性の方向をビーム方向、または、ビームの指向方向とも称する。
【0025】
また、第一アンテナ110は、第一アンテナ110自らのビーム方向を決定するための電波を送信する。ビーム方向を決定するための電波を調整用電波とも称する。
特に、第一アンテナ110は、各素子111からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波と、各素子111からの電波の強め合いによるピークが形成される電波とを含む調整用電波を送信する。
【0026】
図3は、第一アンテナ110が、各素子111からの電波の強め合いによるピークが形成される電波を送信しているときの、各素子111が送信する電波のパターンの例を示す図である。
ここでいうピークは、電波の送信源から等距離にある位置のうちで電波強度が最も強くなること、そのときの電波強度、またはその位置である。各素子111からの電波の強め合いによるピークが形成される電波を、ピーク形成電波とも称する。
【0027】
図3の例で、全ての素子111が同じ位相かつ同じ電波強度で電波を送信している。フェージング(Fading)など、電波の位相および強度に対する通信環境の影響を無視できる場合、第一アンテナ110の平面の中央の正面で、各素子111からの電波が重ね合わせによって強められ、ピークを形成する。
【0028】
以下、
図3から
図5の例では、電波の位相および強度に対する通信環境の影響を無視できる場合を想定する。
なお、ピークを形成するためには全ての素子111が同じ位相で電波を送信すればよく、素子111が送信する電波の位相は特定の位相に限定されない。
【0029】
図4は、各素子111からの電波が強め合って形成されるピークにおける電波の例を示す図である。
図4の例では、複素平面に電波の位相および強度が示されている。
図4のグラフの横軸は実軸を示し、縦軸は虚軸を示す。
ベクトルB111は、ピークの位置における電波(全ての素子111からの電波の合成波)の位相および強度の例を表す。横軸(実軸)の正の向きから反時計回りでのベクトルB111の角度が電波の位相を表す。横軸の正の向きからの、反時計回りの角度が大きいほど、位相が遅れていることを表すものとする。
【0030】
また、ベクトルB111の長さが電波の強度を表す。
線L111は、第一アンテナ110の平面の中央からの距離が、第一アンテナ110の平面の中央と
図4の例における電波観測地点との距離に等しい地点での、第一アンテナ110からの電波の強度の最大値を示す。ベクトルB111は、線L111に達しており、第一アンテナ110の平面の中央から電波観測地点までの距離を一定に保った場合の最大の電波強度を示している。
【0031】
図5は、第一アンテナ110がピーク形成電波を送信しているときの、電波観測地点の、第一アンテナ110の平面の中央の正面からのずれの量と電波強度との関係の例を示す図である。電波観測地点の、第一アンテナ110の平面の中央の正面からのずれの量は、角度で表される。
図5のグラフの横軸は電波強度を示し、縦軸は角度を示す。線L211は、第一アンテナ110の平面の中央の正面からのずれの量と電波強度との関係の例を示す。
【0032】
電波観測地点が第一アンテナ110の平面の中央の正面からずれた場合、各素子111と電波観測地点との距離が変化することで、観測される電波(全ての素子111からの電波の合成波)の強度が弱くなる(小さくなる)ことが考えられる。
例えば、
図3の例で、電波観測地点が第一アンテナ110の平面の中央の正面から図の右側へずれた場合について考える。
【0033】
この場合、図の右側に位置する3列目の素子111-1-3から111-4-3まで、および、4列目の素子111-1-4から111-4-4までは、電波観測地点までの距離が比較的短くなり、これらの素子からの電波の位相が進むことが考えられる。一方、図の左側に位置する1列目の素子111-1-1から111-4-1まで、および、2列目の素子111-1-2から111-4-2までは、電波観測地点までの距離が比較的長くなり、これらの素子からの電波の位相が遅れることが考えられる。
【0034】
これら位相の進みおよび遅れによって、各素子111から電波観測地点に到達する電波の位相がばらつき、観測される、各素子111からの電波の合成波の電波強度が、第一アンテナ110の平面の中央の正面の場合との比較において弱まることが考えられる。
第一アンテナ110の平面の中央から電波観測地点までの距離を一定に保った場合、線L211で示す例のように、第一アンテナ110の平面の中央の正面で電波強度が最も強くなり、第一アンテナ110の平面の中央の正面からのずれの角度の大きさが大きくなるにつれて電波強度が弱くなることが考えられる。
第一アンテナ110がピーク形成電波を送信しているときの第二アンテナ210の受信電波強度は、第一アンテナ110の平面の中央の正面からの、第二アンテナ210の方向のずれの量を算出するためのデータの1つとして用いることができる。
【0035】
図6は、第一アンテナ110が、各素子111からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を送信しているときの、各素子111が送信する電波のパターンの第1の例を示す図である。ここでいうヌルは、電波強度が0となること、そのときの電波強度、またはその位置である。各素子111からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、ヌル形成電波とも称する。
図6の例で、各素子111は、第一アンテナ110の平面の中央の正面から見た場合のその素子の方向に応じた位相で電波を送信している。また、全ての素子111が同じ電波強度の電波を送信している。
【0036】
電波の位相および強度に対する通信環境の影響を無視できる場合、第一アンテナ110の平面の中央の正面では、各素子111からの電波が打ち消し合ってヌルが形成される。
例えば、
図6例で、素子111-1-1と、素子111-4-4とは、同じ電波強度で位相が180度異なる電波を送信している。第一アンテナ110の平面の中央の正面では、これら2つの素子111からの距離が同じであり、これら2つの電波が打ち消し合って合成波の電波強度は0になる。このように、第一アンテナ110の平面の中央の正面では、第一アンテナ110の平面の中央を中心として点対称の位置にある素子111からの電波が打ち消し合い、全ての素子111からの電波の合成波の電波強度は0になる。
以下、
図6から
図8の例では、電波の位相および強度に対する通信環境の影響を無視できる場合を想定する。
【0037】
図7は、各素子111からの電波の打ち消し合いによって形成されるヌルにおける電波の例を示す図である。
図7の例では、複素平面に電波の位相および強度が示されている。
図7のグラフの横軸は実軸を示し、縦軸は虚軸を示す。
図7の例では、電波強度が0であるため、電波を表すベクトルの長さが0になっている。
線L311は、第一アンテナ110の平面の中央からの距離が、第一アンテナ110の平面の中央と
図7の例における電波観測地点との距離に等しい地点での、第一アンテナ110からの電波の強度の最大値を示す。
【0038】
図8は、第一アンテナ110がヌル形成電波を送信しているときの、電波観測地点の、第一アンテナ110の平面の中央の正面からのずれの量と電波強度との関係の例を示す図である。
図8のグラフの横軸は電波強度を示し、縦軸は角度(ずれの量)を示す。線L411は、第一アンテナ110の平面の中央の正面からのずれの角度と電波強度との関係の例を示す。
【0039】
電波観測地点が第一アンテナ110の平面の中央の正面からずれた場合、各素子111と電波観測地点との距離が変化することで、観測される電波の強度が0でなくなることが考えられる。
例えば、
図6の例で、電波観測地点が第一アンテナ110の平面の中央の正面から図の右側へずれた場合について考える。
【0040】
この場合、図の右側に位置する3列目の素子111-1-3から111-4-3まで、および、4列目の素子111-1-4から111-4-4までは、電波観測地点までの距離が比較的短くなり、これらの素子からの電波の位相が進むことが考えられる。一方、図の左側に位置する1列目の素子111-1-1から111-4-1まで、および、2列目の素子111-1-2から111-4-2までは、電波観測地点までの距離が比較的長くなり、これらの素子からの電波の位相が遅れることが考えられる。
【0041】
これら位相の進みおよび遅れによって、第一アンテナ110の平面の中央を中心として点対称の位置にある素子111からの電波の位相差が180度からずれ、観測される、各素子111からの電波の合成波の電波強度が0よりも大きくなることが考えられる。
第一アンテナ110の平面の中央から電波観測地点までの距離を一定に保った場合、線L411で示す例のように、第一アンテナ110の平面の中央の正面で電波強度が最小値の0となり、第一アンテナ110の平面の中央の正面からのずれの角度の大きさが大きくなるにつれて電波強度が強くなる(大きくなる)ことが考えられる。
【0042】
図9は、第一アンテナ110がヌル形成電波を送信しているときの、電波観測地点における各素子111からの電波の例を示す図である。
図9は、第一アンテナ110の各素子111が、
図6に示される電波を送信したときに、第一アンテナ110の平面の中央の正面から、図の右側へややずれた位置の電波観測地点に到達する、各素子111からの電波の例を示している。
【0043】
電波観測地点が、第一アンテナ110の平面の中央の正面から、図の右側へずれることで、図の右側の素子111と電波観測地点との距離は短くなり、これらの素子が送信する電波の位相は進む。一方、図の左側の素子111と電波観測地点との距離は長くなり、これらの素子が送信する電波の位相は遅れる。
【0044】
図9の例では、第4列の素子(素子111-1-4から素子111-4-4まで)が送信する電波の位相は、
図6の例と比較して進んでいる。一方、第1列の素子(素子111-1-1から素子111-4-1まで)が送信する電波の位相、および、第2列の素子(素子111-1-2から素子111-4-2まで)が送信する電波の位相は、
図6の例と比較して遅れている。
【0045】
上述したように、これら位相の進みおよび遅れによって、第一アンテナ110の平面の中央を中心として点対称の位置にある素子111からの電波の位相差が180度からずれ、観測される、各素子111からの電波の合成波の電波強度が0よりも大きくなることが考えられる。
【0046】
第一アンテナ110がヌル形成電波を送信しているときの第二アンテナ210の受信電波の位相は、第一アンテナ110から見た第二アンテナ210の方向を算出するためのデータとして用いることができる。したがって、第一アンテナ110がヌル形成電波を送信しているときの第二アンテナ210の受信電波の位相は、第一アンテナ110の送信電波のビーム方向を向けるべき方向を算出するためのデータとして用いることができる。
第一アンテナ110がヌル形成電波を送信しているときの第二アンテナ210の受信電波強度は、第一アンテナ110の平面の中央の正面からの、第二アンテナ210の方向のずれの量を算出するためのデータの1つとして用いることができる。
【0047】
調整用電波送信指示部120は、第一アンテナ110に調整用電波を送信させる。具体的には、調整用電波送信指示部120は、第一送信制御部150を介して第一アンテナ110を制御し、あるタイミングでピーク形成電波を送信させ、別のあるタイミングでヌル形成電波を送信させる。調整用電波送信指示部120は、調整用電波送信指示手段の例に該当する。
第一アンテナ110がピーク形成電波を送信するタイミングを第1のタイミングとも称する。第一アンテナ110がヌル形成電波を送信するタイミングを第2のタイミングとも称する。
【0048】
第一受信処理部130は、第一アンテナ110の受信電波を処理する。具体的には、第一受信処理部130は、第一アンテナ110の受信電波から、第二上位層920からの送信データを復元した受信データを生成し、第一上位層910へ出力する。また、第一受信処理部130は、第二通信システム200が第一通信システム100へ送信する調整用情報を、第一アンテナ110の受信電波から抽出し、方向決定部140へ送信する。
調整用情報は、第一アンテナ110が調整用電波を送信しているときの、第二アンテナ210の受信電波の位相および強度を示す情報である。
【0049】
方向決定部140は、第一アンテナ110が調整用電波を送信しているときの、第二アンテナ210の受信電波の位相および強度に基づいて、第一アンテナ110のビーム方向を、第一アンテナ110の平面の中央の正面からずらすべき方向および量(角度)を決定する。これにより、方向決定部140は、第一アンテナ110のビーム方向を決定する。
方向決定部140は、方向決定手段の例に該当する。第一アンテナ110の平面の中央の正面は、基準方向の例に該当する。方向決定部140を備える装置は、方向決定装置の例に該当する。
【0050】
方向決定部140が、第一アンテナ110が調整用電波を送信しているときの、第二アンテナ210の受信電波の位相および強度と、第一アンテナ110から見た第二アンテナ210の、基準方向からのずれの方向および量(角度)との関係を示すデータを予め記憶しておくようにしてもよい。そして、方向決定部140が、このデータを参照して、第一アンテナ110のビーム方向を、第一アンテナ110の平面の中央の正面からずらすべき方向および量を決定するようにしてもよい。
第一アンテナ110が調整用電波を送信しているときの、第二アンテナ210の受信電波の位相および強度と、第一アンテナ110から見た第二アンテナ210の、基準方向からのずれの方向および量との関係を示すデータを、ずれデータとも称する。
【0051】
ずれデータは、机上の計算で予め生成しておくことができる。
例えば、第二アンテナ210の位置を設定し、第一アンテナ110の素子111ごとに、第二アンテナ210までの距離を算出して、その素子111が送信する電波の、第二アンテナ210での位相および強度を算出する。そして、各素子111からの電波をベクトルで表現し、ベクトルの足し合わせによって、全ての素子111からの電波の合成波のベクトル表現を、第二アンテナ210の受信電波として算出することができる。
第二アンテナ210の位置をいろいろに設定して、上記のように、第二アンテナ210の受信電波の位相および強度を算出することで、ずれデータを生成することができる。
【0052】
各素子111からの電波のベクトル表現による足し合わせの例について、図を見易くするために、第一アンテナ110が2行2列に配置された4個の素子111を備える場合を例に説明する。
【0053】
図10は、第一アンテナ110がヌル形成電波を送信しているときの、各素子111が送信する電波のパターンの第2の例を示す図である。
図10は、2行2列に配置された4個の素子111を備える第一アンテナ110がヌル形成電波を送信しているときの、各素子111が送信する電波のパターンの例を示している。
図10の例で、第一アンテナ110は、素子111b-1-1、111b-1-2、111b-2-1、および、111b-2-2の4つの素子111を備える。また、点P21は、第一アンテナ110の平面の中央の位置を示している。
【0054】
素子111b-1-1は、135度の位相で電波を送信すると想定されている。素子111b-1-1、111b-1-2、111b-2-1、および、111b-2-2は、同じ強度の電波を送信すると想定されている。素子111b-1-2は、45度の位相で電波を送信すると想定されている。素子111b-2-1は、225度の位相で電波を送信すると想定されている。素子111b-2-2は、315度の位相で電波を送信すると想定されている。
【0055】
第一アンテナ110の平面の中央の正面では、素子111b-1-1からの電波と、素子111b-2-2からの電波とが打ち消し合い、素子111b-1-2からの電波と、素子111b-2-1からの電波とが打ち消し合って、合成波の強度は0と算出される。
【0056】
図11は、各素子111からの電波のベクトル表現による足し合わせの例を示す図である。
図11の例では、複素平面に電波の位相および強度が示されている。
図11のグラフの横軸は実軸を示し、縦軸は虚軸を示す。
【0057】
図11は、第一アンテナ110が
図10の例における電波を送信しているときに、第一アンテナ110の平面の中央の正面から
図10の右側にずれた位置で第二アンテナ210が受信する電波の例を示している。
ベクトルB511は、素子111b-1-1からの電波を第二アンテナ210が受信する受信電波の位相および強度を表す。ベクトルB512は、素子111b-1-2からの電波を第二アンテナ210が受信する受信電波の位相および強度を表す。ベクトルB513は、素子111b-2-1からの電波を第二アンテナ210が受信する受信電波の位相および強度を表す。ベクトルB514は、素子111b-2-2からの電波を第二アンテナ210が受信する受信電波の位相および強度を表す。
【0058】
ベクトルB511からB514までで示される、各素子111からの電波の位相および強度は、各素子111における送信電波の位相および強度と、その素子111から第二アンテナ210までの距離とに基づいて算出することができる。
図11の例では、第二アンテナ210が第一アンテナ110の平面の中央の正面から
図10の右側にずれていることで、ベクトル511とB513とが示す位相が、送信時の位相から遅れている。
【0059】
ベクトルB521は、第二アンテナ210が受信する、各素子111からの電波の合成波の位相および強度を表す。ベクトルB521で示される、第二アンテナ210の受信電波の位相および強度は、ベクトルB511からB514までを足し合わせることで算出することができる。
さらに、第二アンテナ210が電波を受信する際の電波の減衰率など、第二アンテナ210が電波を受信することによる電波への影響を、ベクトルB521で示される第二アンテナ210の受信電波の位相および強度の計算値に反映させるようにしてもよい。
【0060】
第一アンテナ110から見た第二アンテナ210の方向が変化すると、各素子111から第二アンテナ210までの距離が変化し、ベクトルB511からB514で示される各素子111からの電波の位相も変化する。これにより、ベクトルB521で示される第二アンテナ210の受信電波の位相および強度も変化する。
【0061】
このことから、方向決定部140は、第一アンテナ110がヌル形成電波を送信しているときの第二アンテナ210の受信電波の位相をずれデータに照らし合わせて、第一アンテナ110から見た第二アンテナ210の、基準方向からのずれの方向を推定することができる。方向決定部140は、推定した方向を、第一アンテナ110のビーム方向を基準方向からずらすべき方向に決定することができる。
【0062】
あるいは、方向決定部140は、第一アンテナ110がヌル形成電波を送信しているときの第二アンテナ210の受信電波の位相および強度と、第一アンテナ110がピーク形成電波を送信しているときの第二アンテナ210の受信電波の強度と組み合わせをずれデータに照らし合わせて、第一アンテナ110から見た第二アンテナ210の、基準方向からのずれの方向および量を推定することができる。方向決定部140は、推定した方向および量を、第一アンテナ110のビーム方向を基準方向からずらすべき方向および量に決定することができる。
【0063】
図12は、ずれデータを生成する処理の手順の例を示す図である。方向決定部140が
図12の処理を行うなど、通信システム1が
図12の処理を行うようにしてもよい。あるいは、通信システム1以外の装置またはシステムが
図12の処理を行うようにしてもよい。あるいは、
図12の処理を人手で行うようにしてもよい。
以下では、方向決定部140が
図12の処理を行う場合を例に説明する。
【0064】
図12の処理で、方向決定部140は、予め設定されている電波受信位置ごとに処理を行うループL11を開始する(ステップS101)。ループL11で処理の対象となっている電波受信位置を、対象位置とも称する。
ループL11の処理で、方向決定部140は、第一アンテナ110が備える素子111ごとに処理を行うループL12を開始する(ステップS102)。ループL12で処理の対象となっている素子111を対象素子とも称する。
【0065】
ループL12の処理で、方向決定部140は、第二アンテナ210が対象素子からの電波を対象位置で受信する場合の、受信電波の位相および強度を計算する(ステップS103)。上述したように、方向決定部140は、対象素子における送信電波の位相および強度と、対象素子から対象位置までの距離とに基づいて、受信電波の位相および強度を算出することができる。
【0066】
次に、方向決定部140は、ループL12の終端処理を行う(ステップS104)。具体的には、方向決定部140は、第一アンテナ110が備える全ての素子111についてループL12の処理をおこなったか否かを判定する。ループL12の処理をおこなっていない素子111があると判定した場合、方向決定部140は、ループL12の処理をおこなっていない素子111について、引き続きループL12の処理を行う。一方、第一アンテナ110が備える全ての素子111についてループL12の処理をおこなったと判定した場合、方向決定部140は、ループL12を終了する。
【0067】
ループL12を終了した場合、方向決定部140は、第一アンテナ110が備える全ての素子111について、素子111ごとの受信電波を合成する(ステップS105)。具体的には、方向決定部140は、上述したように、全ての素子111について、素子111ごとの受信電波を示すベクトルを足し合わせる。
【0068】
次に、方向決定部140は、ループL11の終端処理を行う(ステップS106)。具体的には、方向決定部140は、予め設定されている全ての電波受信位置についてループL11の処理をおこなったか否かを判定する。ループL11の処理をおこなっていない電波受信位置があると判定した場合、方向決定部140は、ループL11の処理をおこなっていない電波受信位置について、引き続きループL11の処理を行う。一方、予め設定されている全ての電波受信位置についてループL11の処理をおこなったと判定した場合、方向決定部140は、ループL11を終了する。
【0069】
ループL11を終了した場合、方向決定部140は、ずれデータを生成する(ステップS107)。
例えば、方向決定部140が、第一アンテナ110から見た第二アンテナ210の、基準方向からのずれの方向と、そのときの、第一アンテナ110が送信しているヌル形成電波を第二アンテナ210が受信した受信電波の位相とが組み合わせられたずれデータを生成するようにしてもよい。
【0070】
あるいは、方向決定部140が、第一アンテナ110から見た第二アンテナ210の、基準方向からのずれの方向および量と、そのときの、第一アンテナ110が送信するヌル形成電波を第二アンテナ210が受信した受信電波の位相および強度、および、第一アンテナ110が送信するピーク形成電波を第二アンテナ210が受信した受信電波の強度とが組み合わせられたずれデータを生成するようにしてもよい。
【0071】
ここで、第一アンテナ110がヌル形成電波を送信しているときの第二アンテナ210の受信電波の強度は、第一アンテナ110から見た第二アンテナ210の、基準方向からのずれの量に応じて変化するだけでなく、第一アンテナ110と第二アンテナ210との距離に応じても変化する。このため、方向決定部140は、第一アンテナ110がヌル形成電波を送信しているときの第二アンテナ210の受信電波の強度を参照するだけでは、第一アンテナ110から見た第二アンテナ210の、基準方向からのずれの量を特定することはできない。
【0072】
そこで、方向決定部140が、上記のように、第一アンテナ110が送信するヌル形成電波を第二アンテナ210が受信した受信電波の位相および強度、および、第一アンテナ110が送信するピーク形成電波を第二アンテナ210が受信した受信電波の強度を含むずれデータを生成するようにしてもよい。
【0073】
第一アンテナ110が送信するヌル形成電波を第二アンテナ210が受信した受信電波の強度と、第一アンテナ110が送信するピーク形成電波を第二アンテナ210が受信した受信電波の強度とでは、第二アンテナ210の基準方向からのずれの量に応じた変化が異なる。例えば、第一アンテナ110の平面の中央の正面付近では、第二アンテナ210の基準方向からのずれの量が大きくなるほど、第一アンテナ110が送信するヌル形成電波を第二アンテナ210が受信した受信電波の強度が大きくなるのに対し、第一アンテナ110が送信するピーク形成電波を第二アンテナ210が受信した受信電波の強度は小さくなる。
【0074】
これにより、方向決定部140は、第一アンテナ110がヌル形成電波を送信しているときの第二アンテナ210の受信電波の強度と、第一アンテナ110がピーク形成電波を送信しているときの第二アンテナ210の受信電波の強度とを参照することで、第一アンテナ110から見た第二アンテナ210の、基準方向からのずれの量を特定し得る。
【0075】
方向決定部140が、第一アンテナ110がヌル形成電波を送信しているときの第二アンテナ210の受信電波の強度と、第一アンテナ110がピーク形成電波を送信しているときの第二アンテナ210の受信電波の強度との組み合わせに代えて、これらの電波強度の比に基づいて、第一アンテナ110から見た第二アンテナ210の、基準方向からのずれの量を特定するようにしてもよい。
【0076】
方向決定部140が、ずれデータを表形式のデータとして生成するようにしてもよいが、これに限定されない。
ステップS107の後、方向決定部140は、
図12の処理を終了する。
【0077】
あるいは、方向決定部140が、第二アンテナ210の受信電波に応じて第一アンテナ110のビーム方向を示すモデルを用いて、第一アンテナ110のビーム方向を決定するようにしてもよい。このモデルを、ずれ算出モデルとも称する。
ずれ算出モデルは、例えば、第一アンテナ110が送信するヌル形成電波を第二アンテナ210が受信した受信電波の位相および強度、および、第一アンテナ110が送信するピーク形成電波を第二アンテナ210が受信した受信電波の強度の入力を受けて、第一アンテナ110から見た第二アンテナ210の、基準方向からのずれの方向および量を出力する。
【0078】
ずれ算出モデルは、例えば、上述したずれデータを生成するための、第一アンテナ110が送信するヌル形成電波を第二アンテナ210が受信した受信電波の位相および強度、および、第一アンテナ110が送信するピーク形成電波を第二アンテナ210が受信した受信電波の強度と、第一アンテナ110から見た第二アンテナ210の、基準方向からのずれの方向および量との組み合わせの計算データを訓練データとして用いた機械学習にて得られる。
【0079】
ずれデータ、または、ずれ算出モデルの生成では、電波の位相および強度に対する通信環境の影響がない場合を想定して、ずれデータ、または、ずれ算出モデルを生成することができる。電波の位相および強度に対する通信環境の影響がある場合、ずれデータ、または、ずれ算出モデルを用いて算出されるビーム方向と、第一アンテナから見た第二アンテナ210の実際の方向との差は、通信環境の影響によって補正される。
【0080】
第一送信制御部150は、第一アンテナ110からの電波の送信を制御する。特に、第一送信制御部150は、第一上位層910が出力する第二通信システム200への送信データを、方向決定部140が決定したビーム方向によるビームフォーミングにて第一アンテナ110に送信させる。また、第一送信制御部150は、調整用電波送信指示部120からの指示に従って、第一アンテナ110に調整用電波を送信させる。
第一送信制御部150は、送信制御手段の例に該当する。
【0081】
方向決定部140が、第一アンテナ110のビーム方向を基準方向からずらすべき方向および量を決定した場合、第一送信制御部150は、方向決定部140が決定したビーム方向に向けたビームフォーミングにて、第一アンテナ110に電波を送信させる。
【0082】
あるいは、方向決定部140が、第一アンテナ110のビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定し、ずらすべき量は決定していない場合、第一送信制御部150が、方向決定部140が決定したずらすべき方向にビーム方向をずらし、ビーム方向をずらす量を変化させながら、ビームフォーミングにて第一アンテナ110に電波を送信させるようにしてもよい。そして、方向決定部140または第一送信制御部150が、第二アンテナ210の受信電波の強度が最も強くなるずれ量(角度)を検出し、ビーム方向をずらすべき量に決定するようにしてもよい。
【0083】
第二アンテナ210は、第一通信システム100の第一アンテナ110との間で電波を送受信する。第二アンテナ210が、アレイアンテナとして構成されていてもよいが、これに限定されない。第二アンテナ210は、第一アンテナ110との間で電波を送受信可能ないろいろな種類のアンテナとすることができる。
【0084】
第二受信処理部220は、第二アンテナ210の受信電波を処理する。具体的には、第二受信処理部220は、第二アンテナ210の受信電波から、第一上位層910からの送信データを復元した受信データを生成し、第二上位層920へ出力する。また、第二受信処理部220は、第一アンテナ110が調整用電波を送信しているときの受信信号を調整用情報抽出部230へ出力する。ここでいう受信信号は、受信電波を電気信号に変換したものである。
【0085】
調整用情報抽出部230は、第二受信処理部220から取得する受信信号に基づいて調整用情報を生成し、第二送信制御部240へ出力する。上記のように、調整用情報は、第一アンテナ110が調整用電波を送信しているときの、第二アンテナ210の受信電波の位相および強度を示す情報である。
【0086】
第二送信制御部240は、第二アンテナ210からの電波の送信を制御する。特に、第二送信制御部240は、第二上位層920が出力する通信システム1への送信データを第二アンテナ210に送信させる。また、第二送信制御部240は、調整用情報抽出部230が生成した調整用情報を第二アンテナ210に送信させる。
【0087】
上記のように、第一上位層910と第二上位層920とは通信システム1を介してデータをやり取りする。第一上位層910と第二上位層920とは特定のものに限定されず、少なくとも第一上位層910から第二上位層920へデータを送信するものであればよい。
上記のように、第一上位層910が、第一通信システム100の外部の構成となっていてもよいし、第一通信システム100の一部として構成されていてもよい。また、第二上位層920が、第二通信システム200の外部の構成となっていてもよいし、第二通信システム200の一部として構成されていてもよい。
【0088】
また、方向決定部140が受信側に設けられていてもよい。すなわち、第二通信システム200が方向決定部140を含んでいてもよい。この場合、方向決定部140が、調整用情報抽出部230から調整用情報を取得して、第一アンテナ110のビーム方向を第一アンテナ110の平面の中央の正面からずらすべき方向および量を決定するようにしてもよい。そして、方向決定部140が、決定した方向および量を、第二アンテナ210を介して第一通信システム100へ送信するようにしてもよい。
【0089】
第一アンテナ110がヌル形成電波を送信するときの、各素子111における位相のパターンは特定のものに限定されない。
図13は、第一アンテナ110がヌル形成電波を送信しているときの、各素子111が送信する電波のパターンの第3の例を示す図である。
【0090】
図13の例では、素子111-1-1、111-1-2、111-2-1および111-2-2は、何れも135度の位相の電波を送信している。素子111-1-3、111-1-4、111-2-3および111-2-4は、何れも45度の位相の電波を送信している。素子111-3-1、111-3-2、111-4-1および111-4-2は、何れも225度の位相の電波を送信している。素子111-3-3、111-3-4、111-4-3および111-4-4は、何れも315度の位相の電波を送信している。また、全ての素子111が、同じ強度の電波を送信している。
【0091】
例えば、
図13の例で、素子111-1-1と、素子111-4-4とは、同じ電波強度で位相が180度異なる電波を送信している。第一アンテナ110の平面の中央の正面では、これら2つの素子111からの距離が同じであり、これら2つの電波が打ち消し合って合成波の電波強度は0になる。このように、第一アンテナ110の平面の中央の正面では、第一アンテナ110の平面の中央を中心として点対称の位置にある素子111からの電波が打ち消し合い、全ての素子111からの電波の合成波の電波強度は0になる。
【0092】
第一アンテナ110が、あるタイミングでは
図6の例のパターンによるヌル形成電波を送信し、別のあるタイミングでは
図13の例のパターンによるヌル形成電波を送信するというように、異なるパターンによるヌル形成電波を送信するようにしてもよい。また、第一アンテナ110が、あるタイミングでは第1の周波数でヌル形成電波を送信し、別のあるタイミングでは第2の周波数でヌル形成電波を送信するというように、異なる周波数によるヌル形成電波を送信するようにしてもよい。
【0093】
このように、第一アンテナ110が、複数通りのヌル形成電波を送信することで、ヌル形成電波ごとに、第二アンテナ210の位置の変化に応じた受信電波の位相の変化が異なることが考えられる。方向決定部140が、複数通りのヌル形成電波の受信状況に基づいて第二アンテナ210の方向を推定することで、第二アンテナ210の方向をより高精度に推定できることが期待される。第二アンテナ210の方向を推定することは、第一アンテナ110のビーム方向を、第一アンテナ110の平面の中央の正面からずらすべき方向を決定すること、と捉えることができる。
【0094】
図14は、第一通信システム100が調整用電波を送信するタイミングの例を示す図である。
図14の例で、第一通信システム100は、フレームシンボルと、データシンボルと、調整用電波とを含むフレームを生成し、送信している。フレームシンボルは、フレームのヘッダを表すシンボルである。データシンボルは、第一上位層910から第二上位層920への送信対象のデータ(実データ)を表すシンボルである。また、
図14の例では、各フレームの末尾に、ヌル形成電波とピーク形成電波との組み合わせによる調整用電波が配置されている。
【0095】
図14の例で、第一通信システム100は、フレームごとに調整用電波を送信することで、調整用電波を繰り返し送信する。
ここで、第一通信システム100が第一アンテナ110のビームを向けるべき方向は、フェージングにより時間に応じて変化することが考えられる。これに対し、第一通信システム100が、調整用電波を繰り返し送信して第一アンテナ110のビーム方向を時間ごとに調整することで、第二通信システム200への電波の送信の状態を比較的良好に維持できることが期待される。
例えば、
図14の例では、第一通信システム100は、フレームの末尾で送信した調整用電波の第二通信システム200での受信状況に基づいて、次のフレームでのビーム方向を調整することができる。
【0096】
ただし、第一通信システム100が調整用電波を送信するタイミングは、特定のタイミングに限定されない。例えば、第一通信システム100が、調整用電波を複数のフレームごとに1回送信するようにしてもよい。あるいは、第一通信システム100が、1フレーム内で調整用電波を複数回送信するようにしてもよい。
【0097】
また、第一通信システム100が調整用電波を送信するタイミングが、フレーム外のタイミングとして扱われていてもよい。第一通信システム100が調整用電波をフレームに含めて送信する場合、フレーム内での調整用電波の位置は、特定の位置に限定されない。
また、第一通信システム100が、ヌル形成電波を送信してからピーク形成電波を送信するようにしてもよいし、ピーク形成電波を送信してからヌル形成電波を送信するようにしてもよい。
【0098】
また、ヌル形成電波の送信タイミングとピーク形成電波の送信タイミングとは、時間的に近いことが好ましいが、連続している必要は無い。例えば、第一通信システム100が、ヌル形成電波を送信した後、1つ以上のデータシンボルを送信してからピーク形成電波を送信するようにしてもよい。
方向決定部140が、第一アンテナ110のビーム方向を基準方向からずらすべき方向および量のうち方向のみを決定する場合、第一通信システム100が、ヌル形成電波とピーク形成電波のうちヌル形成電波のみを調整用電波として送信するようにしてもよい。
【0099】
図15は、第一通信システム100が第二通信システム200へデータを送信する処理の手順の例を示す図である。
図15の処理で、第一通信システム100は、第二通信システム200へ調整用電波を送信する(ステップS201)。
調整用電波を受信した第二通信システム200では、調整用情報抽出部230が、受信電波の位相および強度を示す調整用情報を生成し、第二送信制御部240へ出力する(ステップS202)。
【0100】
第二送信制御部240は、調整用情報抽出部230から取得した調整用情報を、第二アンテナ210から第一通信システム100へ送信する(ステップS203)。
第一通信システム100では、方向決定部140が、得られた調整用情報に基づいて、第一アンテナ110のビーム方向を決定する(ステップS204)。
【0101】
第一アンテナ110は、第一送信制御部150の制御に従って、方向決定部140が決定したビーム方向によるビームフォーミングにて、実データを送信する(ステップS205)。ここでは、実データは、第一上位層910から第二上位層920への送信対象のデータである。
第一通信システム100と第二通信システム200とは、
図15に示されるビーム方向の決定(ステップS201からS204)と、決定したビーム方向によるビームフォーミングでの通信(ステップS205)とを繰り返す。
【0102】
以上のように、第一アンテナ110は、アレイアンテナとして構成されている。第二アンテナ210は、第一アンテナ110からの電波を受信する。調整用電波送信指示部120は、ヌル形成電波を第一アンテナ110に送信させる。ヌル形成電波は、第一アンテナ110の各素子111からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波である。方向決定部140は、ヌル形成電波を第二アンテナ210が受信した受信電波の位相に基づいて、第一アンテナ110のビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定する。第一送信制御部150は、決定されたずらすべき方向にビーム方向をずらすように、第一アンテナ110からの電波の送信を制御する。
【0103】
通信システム1によれば、アレイアンテナのビーム方向(アレイアンテナが送信するビームの指向方向)を、比較的短時間で決定することができる。
ここで、アレイアンテナのビーム方向を決定する方法として、上述した調整用電波を用いる方法以外に、ビーム方向をランダムに動かして、受信電波の強度が最も強くなる方向を探索する、という方法も考えられる。この方法を、ビーム方向をランダムに探索する方法と称する。
【0104】
しかしながら、ビーム方向をランダムに探索する方法では、適切なビーム方向を検出するまでに時間を要することが考えられる。
また、ビーム方向をランダムに探索する方法では、ビーム方向を適切な方向と逆の方向に動かす場合が考えられ、この場合、受信電波の強度が弱まる。例えば、ビーム方向を変化させながら実データを送信することを考えると、実データ(を示す電波)の受信レベルが低下し、通信に失敗する可能性がある。
【0105】
また、ビーム方向をランダムに探索する方法で、ビーム方向を変化させたことによる電波受信強度の変化と、フェージングの影響による電波受信強度の変化とを区別することは困難である。このため、ビーム方向の探索中にフェージングによって電波受信強度が変化すると、適切なビーム方向の検出に失敗する可能性がある。この場合、ビーム方向の探索をやり直す必要が生じ、適切なビーム方向を検出するまでに特に時間を要することが考えられる。
【0106】
これに対し、通信システム1では、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を、ヌル形成電波を用いて決定することができ、ビーム方向をランダムに探索する必要がない。通信システム1によれば、この点で、ビーム方向を比較的短時間で決定することができる。
また、通信システム1では、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を、ヌル形成電波を用いて決定することで、ビーム方向を適切な方向と逆の方向に動かすことを回避できる。通信システム1によればこの点で、ビーム方向を変化させながら実データを送信する場合に、実データ(を示す電波)の受信レベルが低下して通信に失敗することを回避できると期待される。
【0107】
また、通信システム1によれば、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を、ヌル形成電波を用いて決定することで、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を探索する必要がない。通信システム1によれば、この点で、フェージングの影響によって適切なビーム方向を検出するまでに時間を要することを回避または軽減できる。
【0108】
また、方向決定部140は、第二アンテナ210がヌル形成電波を受信した受信電波の強度に基づいて、第一アンテナ110のビーム方向をずらすべき量を決定する。
通信システム1によれば、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向だけでなくその量も、探索の必要なしに決定することができる。通信システム1によれば、この点で、アレイアンテナのビーム方向を、さらに短時間で決定することができる。
【0109】
また、調整用電波送信指示部120は、第1のタイミングではピーク形成電波を第一アンテナ110に送信させ、第2のタイミングではヌル形成電波を第一アンテナ110に送信させる。ピーク形成電波は、第一アンテナ110の各素子111からの電波の強め合いによるピークが形成される電波である。
通信システム1によれば、ヌル形成電波の受信強度を、ピーク形成電波の受信強度との比較によって評価することができる。通信システム1によれば、この点で、ビーム方向を基準方向からずらすべき量をより高精度に決定できると期待される。
通信システム1によれば、ヌル形成電波の受信強度に加えてピーク形成電波の受信強度に基づいて、ビーム方向を基準方向からずらすべき量を決定することができる。通信システム1によれば、この点で、ビーム方向を基準方向からずらすべき量をより高精度に決定できると期待される。
【0110】
また、方向決定部140は、第1のタイミングでの第二アンテナ210の受信電波の強度と、第2のタイミングでの第二アンテナ210の受信電波の強度との比較に基づいて、第一アンテナ110のビーム方向をずらすべき量を決定する。
通信システム1によれば、ヌル形成電波の受信強度を、ピーク形成電波の受信強度との比較によって評価することができ、この点で、ビーム方向を基準方向からずらすべき量をより高精度に決定できると期待される。
【0111】
また、通信システム1によれば、ヌル形成電波の受信強度とピーク形成電波の受信強度との比を計算するといった比較的簡単な処理で、ヌル形成電波の受信強度とピーク形成電波の受信強度とを、ビーム方向を基準方向からずらすべき量の決定に反映させることができる。通信システム1によれば、この点で、比較的軽い計算負荷で、ビーム方向を基準方向からずらすべき量を比較的高精度に決定することができる。
【0112】
図16は、実施形態に係る通信システムの構成の、もう1つの例を示す図である。
図16に示す構成で、通信システム610は、送信アンテナ611と、受信アンテナ612と、調整用電波送信指示部613と、方向決定部614と、送信制御部615とを備える。
【0113】
かかる構成で、送信アンテナ611は、アレイアンテナとして構成されている。受信アンテナ612は、送信アンテナ611からの電波を受信する。調整用電波送信指示部613は、ヌル形成電波を送信アンテナ611に送信させる。ヌル形成電波は、送信アンテナ611の各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波である。方向決定部614は、ヌル形成電波を受信アンテナ612が受信した受信電波の位相に基づいて、送信アンテナ611のビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定する。送信制御部615は、決定されたずらすべき方向にビーム方向をずらすように、送信アンテナ611からの電波の送信を制御する。
調整用電波送信指示部613は、調整用電波送信指示手段の例に該当する。方向決定部614は、方向決定手段の例に該当する。送信制御部615は、送信制御手段の例に該当する。
【0114】
通信システム610によれば、アレイアンテナのビーム方向(アレイアンテナが送信するビームの指向方向)を、比較的短時間で決定することができる。
特に、通信システム610では、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を、ヌル形成電波を用いて決定することができ、ビーム方向をランダムに探索する必要がない。通信システム610によれば、この点で、ビーム方向を比較的短時間で決定することができる。
また、通信システム610では、ヌル形成電波を用いてビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定することで、ビーム方向を適切な方向と逆の方向に動かすことを回避できる。通信システム610によればこの点で、ビーム方向を変化させながら実データを送信する場合に、実データ(を示す電波)の受信レベルが低下して通信に失敗することを回避できると期待される。
【0115】
また、通信システム610によれば、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を、ヌル形成電波を用いて決定することで、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を探索する必要がない。通信システム610によれば、この点で、フェージングの影響によって適切なビーム方向を検出するまでに時間を要することを回避または軽減できる。
【0116】
図17は、実施形態に係る方向決定装置の構成の例を示す図である。
図17に示す構成で、方向決定装置620は、方向決定部621を備える。
かかる構成で、方向決定部621は、アレイアンテナである送信アンテナが送信するヌル形成電波を受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定する。ヌル形成電波は、送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波である。
方向決定部621は、方向決定手段の例に該当する。
【0117】
方向決定装置620によれば、アレイアンテナのビーム方向(アレイアンテナが送信するビームの指向方向)を、比較的短時間で決定することができる。
特に、方向決定装置620では、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を、ヌル形成電波を用いて決定することができ、ビーム方向をランダムに探索する必要がない。方向決定装置620によれば、この点で、ビーム方向を比較的短時間で決定することができる。
また、方向決定装置620では、ヌル形成電波を用いてビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定することで、ビーム方向を適切な方向と逆の方向に動かすことを回避できる。方向決定装置620によればこの点で、ビーム方向を変化させながら実データを送信する場合に、実データ(を示す電波)の受信レベルが低下して通信に失敗することを回避できると期待される。
【0118】
また、方向決定装置620によれば、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を、ヌル形成電波を用いて決定することで、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を探索する必要がない。方向決定装置620によれば、この点で、フェージングの影響によって適切なビーム方向を検出するまでに時間を要することを回避または軽減できる。
【0119】
図18は、実施形態に係る通信制御方法における処理の手順の例を示す図である。
図18に示す通信制御方法は、ヌル形成電波を送信させること(ステップS611)と、方向を決定すること(ステップS612)と、電波の送信を制御すること(ステップS613)とを含む。
【0120】
ヌル形成電波を送信させること(ステップS611)では、コンピュータが、アレイアンテナである送信アンテナにヌル形成電波を送信させる。ヌル形成電波は、送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波である。
方向を決定すること(ステップS612)では、コンピュータが、ヌル形成電波を受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定する。
電波の送信を制御すること(ステップS613)では、コンピュータが、決定されたずらすべき方向にビーム方向をずらすように、送信アンテナからの電波の送信を制御する。
【0121】
図18に示す通信制御方法によれば、アレイアンテナのビーム方向(アレイアンテナが送信するビームの指向方向)を、比較的短時間で決定することができる。
特に、
図18に示す通信制御方法では、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を、ヌル形成電波を用いて決定することができ、ビーム方向をランダムに探索する必要がない。
図18に示す通信制御方法によれば、この点で、ビーム方向を比較的短時間で決定することができる。
また、
図18に示す通信制御方法では、ヌル形成電波を用いてビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定することで、ビーム方向を適切な方向と逆の方向に動かすことを回避できる。
図18に示す通信制御方法によればこの点で、ビーム方向を変化させながら実データを送信する場合に、実データ(を示す電波)の受信レベルが低下して通信に失敗することを回避できると期待される。
【0122】
また、
図18に示す通信制御方法によれば、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を、ヌル形成電波を用いて決定することで、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を探索する必要がない。
図18に示す通信制御方法によれば、この点で、フェージングの影響によって適切なビーム方向を検出するまでに時間を要することを回避または軽減できる。
【0123】
図19は、実施形態に係る方向決定方法における処理の手順の例を示す図である。
図19に示す方向決定方法は、方向を決定すること(ステップS621)を含む。
方向を決定すること(ステップS621)では、コンピュータが、アレイアンテナである送信アンテナが送信するヌル形成電波を受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定する。ヌル形成電波は、送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波である。
【0124】
図19に示す方向決定方法によれば、アレイアンテナのビーム方向(アレイアンテナが送信するビームの指向方向)を、比較的短時間で決定することができる。
特に、
図19に示す方向決定方法では、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を、ヌル形成電波を用いて決定することができ、ビーム方向をランダムに探索する必要がない。
図19に示す方向決定方法によれば、この点で、ビーム方向を比較的短時間で決定することができる。
また、
図19に示す方向決定方法では、ヌル形成電波を用いてビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定することで、ビーム方向を適切な方向と逆の方向に動かすことを回避できる。
図19に示す方向決定方法によればこの点で、ビーム方向を変化させながら実データを送信する場合に、実データ(を示す電波)の受信レベルが低下して通信に失敗することを回避できると期待される。
【0125】
また、
図19に示す方向決定方法によれば、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を、ヌル形成電波を用いて決定することで、ビーム方向を基準方向からずらすべき方向を探索する必要がない。
図19に示す方向決定方法によれば、この点で、フェージングの影響によって適切なビーム方向を検出するまでに時間を要することを回避または軽減できる。
【0126】
図20は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
図20に示す構成で、コンピュータシステム700は、CPU710と、主記憶装置720と、補助記憶装置730と、インタフェース740と、不揮発性記録媒体750とを備える。
【0127】
上記の第一通信システム100、第二通信システム200、通信システム610、および、方向決定装置620のうち何れか1つ以上またはその一部が、コンピュータシステム700に実装されてもよい。その場合、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置730に記憶されている。CPU710は、プログラムを補助記憶装置730から読み出して主記憶装置720に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU710は、プログラムに従って、上述した各記憶部に対応する記憶領域を主記憶装置720に確保する。各装置と他の装置との通信は、インタフェース740が通信機能を有し、CPU710の制御に従って通信を行うことで実行される。また、インタフェース740は、不揮発性記録媒体750用のポートを有し、不揮発性記録媒体750からの情報の読出、および、不揮発性記録媒体750への情報の書込を行う。
【0128】
第一通信システム100がコンピュータシステム700に実装される場合、調整用電波送信指示部120と、第一受信処理部130と、方向決定部140と、第一送信制御部150との動作は、プログラムの形式で補助記憶装置730に記憶されている。CPU710は、プログラムを補助記憶装置730から読み出して主記憶装置720に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。
【0129】
また、CPU710は、プログラムに従って、第一通信システム100が処理を行うための記憶領域を主記憶装置720に確保する。第一アンテナ110による電波の送受信は、インタフェース740がアレイアンテナを有し、CPU710の制御に従って動作することで実行される。第一通信システム100とユーザとのインタラクションは、インタフェース740が入力デバイスおよび出力デバイスを有し、CPU710の制御に従って出力デバイスにて情報をユーザに提示し、入力デバイスにてユーザ操作を受け付けることで実行される。
【0130】
第二通信システム200がコンピュータシステム700に実装される場合、第二受信処理部220と、調整用情報抽出部230と、第二送信制御部240との動作は、プログラムの形式で補助記憶装置730に記憶されている。CPU710は、プログラムを補助記憶装置730から読み出して主記憶装置720に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。
【0131】
また、CPU710は、プログラムに従って、第二通信システム200が処理を行うための記憶領域を主記憶装置720に確保する。第二アンテナ210による電波の送受信は、インタフェース740がアンテナを有し、CPU710の制御に従って動作することで実行される。第二通信システム200とユーザとのインタラクションは、インタフェース740が入力デバイスおよび出力デバイスを有し、CPU710の制御に従って出力デバイスにて情報をユーザに提示し、入力デバイスにてユーザ操作を受け付けることで実行される。
【0132】
通信システム610がコンピュータシステム700に実装される場合、調整用電波送信指示部613と、方向決定部614と、送信制御部615との動作は、プログラムの形式で補助記憶装置730に記憶されている。CPU710は、プログラムを補助記憶装置730から読み出して主記憶装置720に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。
調整用電波送信指示部613と、方向決定部614と、送信制御部615とが、1つのコンピュータシステム700に実装されていてもよいし、複数のコンピュータシステム700に実装されていてもよい。
【0133】
また、CPU710は、プログラムに従って、通信システム610が処理を行うための記憶領域を主記憶装置720に確保する。送信アンテナ611による電波の送受信(または電波の送信)は、インタフェース740がアレイアンテナを有し、CPU710の制御に従って動作することで実行される。受信アンテナ612による電波の送受信(または電波の受信)は、インタフェース740がアレイアンテナを有し、CPU710の制御に従って動作することで実行される。通信システム610とユーザとのインタラクションは、インタフェース740が入力デバイスおよび出力デバイスを有し、CPU710の制御に従って出力デバイスにて情報をユーザに提示し、入力デバイスにてユーザ操作を受け付けることで実行される。
【0134】
方向決定装置620がコンピュータシステム700に実装される場合、方向決定部621の動作は、プログラムの形式で補助記憶装置730に記憶されている。CPU710は、プログラムを補助記憶装置730から読み出して主記憶装置720に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。
【0135】
また、CPU710は、プログラムに従って、方向決定装置620が処理を行うための記憶領域を主記憶装置720に確保する。方向決定装置620と他の装置との通信は、インタフェース740が通信機能を有し、CPU710の制御に従って動作することで実行される。方向決定装置620とユーザとのインタラクションは、インタフェース740が入力デバイスおよび出力デバイスを有し、CPU710の制御に従って出力デバイスにて情報をユーザに提示し、入力デバイスにてユーザ操作を受け付けることで実行される。
【0136】
上述したプログラムのうち何れか1つ以上が不揮発性記録媒体750に記録されていてもよい。この場合、インタフェース740が不揮発性記録媒体750からプログラムを読み出すようにしてもよい。そして、CPU710が、インタフェース740が読み出したプログラムを直接実行するか、あるいは、主記憶装置720または補助記憶装置730に一旦保存して実行するようにしてもよい。
【0137】
なお、第一通信システム100、第二通信システム200、通信システム610、および、方向決定装置620が行う処理の全部または一部を実行するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0138】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0139】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0140】
(付記1)
アレイアンテナである送信アンテナと、
前記送信アンテナからの電波を受信する受信アンテナと、
前記送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、前記送信アンテナに送信させる調整用電波送信指示手段と、
前記ヌルが形成される電波を前記受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定する方向決定手段と、
決定されたずらすべき方向にビーム方向をずらすように、前記送信アンテナからの電波の送信を制御する送信制御手段と、
を備える通信システム。
【0141】
(付記2)
前記方向決定手段は、前記受信電波の強度に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向をずらすべき量を決定する、
付記1に記載の通信システム。
【0142】
(付記3)
前記調整用電波送信指示手段は、第1のタイミングでは、前記送信アンテナの各素子からの電波の強め合いによるピークが形成される電波を前記送信アンテナに送信させ、第2のタイミングでは、前記ヌルが形成される電波を前記送信アンテナに送信させ、
前記方向決定手段は、前記第1のタイミングでの前記受信アンテナの受信電波の位相と、前記第2のタイミングでの前記受信アンテナの受信電波の位相との比較に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向をずらすべき方向を決定する、
付記1または付記2に記載の通信システム。
【0143】
(付記4)
前記方向決定手段は、前記第1のタイミングでの前記受信アンテナの受信電波の強度と、前記第2のタイミングでの前記受信アンテナの受信電波の強度との比較に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向をずらすべき量を決定する、
付記3に記載の通信システム。
【0144】
(付記5)
アレイアンテナである送信アンテナが送信する、前記送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定する方向決定手段
を備える方向決定装置。
【0145】
(付記6)
コンピュータが、
アレイアンテナである送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、前記送信アンテナに送信させ、
前記ヌルが形成される電波を受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定し、
決定されたずらすべき方向にビーム方向をずらすように、前記送信アンテナからの電波の送信を制御する、
ことを含む通信制御方法。
【0146】
(付記7)
コンピュータが、
アレイアンテナである送信アンテナが送信する、前記送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定する
ことを含む方向決定方法。
【0147】
(付記8)
コンピュータに、
アレイアンテナである送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、前記送信アンテナに送信させることと、
前記ヌルが形成される電波を受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定することと、
決定されたずらすべき方向にビーム方向をずらすように、前記送信アンテナからの電波の送信を制御することと、
を実行させるためのプログラム。
【0148】
(付記9)
コンピュータに、
アレイアンテナである送信アンテナが送信する、前記送信アンテナの各素子からの電波の打ち消し合いによるヌルが形成される電波を、受信アンテナが受信した受信電波の位相に基づいて、前記送信アンテナのビーム方向を基準方向からずらすべき方向を決定すること
を実行させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0149】
1、610 通信システム
100 第一通信システム
110 第一アンテナ
120、613 調整用電波送信指示部
130 第一受信処理部
140、614 方向決定部
150 第一送信制御部
200 第二通信システム
210 第二アンテナ
220 第二受信処理部
230 調整用情報抽出部
240 第二送信制御部
611 送信アンテナ
612 受信アンテナ
615 送信制御部
910 第一上位層
920 第二上位層