(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163432
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価する方法及びキット
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6869 20180101AFI20241115BHJP
C12Q 1/6888 20180101ALI20241115BHJP
【FI】
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6888 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079021
(22)【出願日】2023-05-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関連する症候・病態に対する研究」、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状の定性・定量的診断手法の開発」、委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】510192802
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立国際医療研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】杉山 真也
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QR08
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS28
4B063QS34
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価する技術を提供する。
【解決手段】B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価する方法であって、B型肝炎患者がホモ接合型でHLA-DPB1*05:01遺伝子を有し、B型肝炎患者に感染しているB型肝炎ウイルスのHBx抗原タンパク質がK130Mのアミノ酸変異を有するか、B型肝炎患者がヘテロ接合型でHLA-DPB1*05:01遺伝子を有し、B型肝炎患者に感染しているB型肝炎ウイルスのHBx抗原タンパク質がH94Yのアミノ酸変異を有することが、前記B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクが高いことを示す、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価する方法であって、
以下の(i)又は(ii)のいずれかであることが、前記B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクが高いことを示す、方法。
(i)前記B型慢性肝炎患者がホモ接合型でHLA-DPB1*05:01遺伝子を有し、且つ、前記B型慢性肝炎患者に感染しているB型肝炎ウイルスのHBx抗原タンパク質がK130Mのアミノ酸変異を有する
(ii)前記B型慢性肝炎患者がヘテロ接合型でHLA-DPB1*05:01遺伝子を有し、且つ、前記B型慢性肝炎患者に感染しているB型肝炎ウイルスのHBx抗原タンパク質がH94Yのアミノ酸変異を有する
【請求項2】
HLA-DPB1*05:01遺伝子を検出するための試薬、及び、B型肝炎ウイルスのHBx抗原タンパク質のK130M若しくはH94Yのアミノ酸変異を検出するための試薬を含む、B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価する方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
世界人口の1/3にあたる人々がB型肝炎ウイルス(HBV)に感染しているといわれている。B型肝炎は、一過性に終息する一過性感染と慢性肝炎に大別される。急性肝炎は感染後1~6か月後の潜伏期間を経て症状が出現し、数週間で回復過程に入る。しかし急性肝炎を発症した患者のうち1~2%の人は劇症肝炎を発症する危険性があり、劇症肝炎を発症した人の70~80%は死亡する。
【0003】
一方、感染したHBVが体内から排除されず6か月以上にわたって肝臓の中に住み着くことでキャリアとなる。母子感染した場合又は小児期に感染した場合は、その大半が慢性肝炎となり、年率で約0.3%が肝硬変、肝癌を発症する。成人が感染した場合、キャリアの約9割は、無症候期、一過性の肝炎期、肝炎沈静期を経て、その後は無症候キャリアのまま経過する。しかし、成人感染者の約1割は慢性肝炎に移行し、さらに、その約1%が肝硬変や肝癌へと移行する。B型慢性肝炎ウイルス患者は東南アジアや東太平洋地域に多く分布し、日本にはおよそ150万人のB型肝炎感染者がいるといわれている。
【0004】
このように、HBV感染後の経過は多岐にわたる。近年、宿主側の遺伝要因の探索が進み、日本人を含むアジア人サンプルを用いたゲノムワイド関連解析(Genome Wide Association Study:GWAS)により、B型慢性肝炎(CHB)に関連する新たな遺伝要因が報告されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、B型肝炎の慢性化に感受性のあるアリルがHLA-DPB1*05:01及びHLA-DPB1*09:01であり、B型肝炎の慢性化に抵抗性のあるアリルがHLA-DPB1*04:02、HLA-DPB1*04:01及びHLA-DPB1*02:01であり、B型肝炎の病態進展に抵抗性のあるアリルがHLA-DPB1*02:01であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、B型肝炎の病態進展に感受性のあるアリルとされるHLA-DPB1*05:01を有するB型慢性肝炎患者の中にも、B型肝癌(HCC)を発症する患者と発症しない患者が存在する。そして、B型肝癌発症群と健常対照群についての95%信頼区間におけるオッズ比は1.5程度であり、実用的な精度でB型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価できるとはいえない。
【0008】
また、B型肝炎の病態進展に抵抗性のあるアリルとされるHLA-DPB1*02:01を有するB型慢性肝炎患者の中にも、B型肝癌を発症する患者と発症しない患者が存在する。そして、B型肝癌発症群と健常対照群についての95%信頼区間におけるオッズ比は0.5程度であり、実用的な精度でB型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価できるとはいえない。
【0009】
このため、B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価することのできる、より実用性の高い方法が求められている。そこで、本発明は、B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を含む。
[1]B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価する方法であって、以下の(i)又は(ii)のいずれかであることが、前記B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクが高いことを示す、方法。
(i)前記B型慢性肝炎患者がホモ接合型でHLA-DPB1*05:01遺伝子を有し、且つ、前記B型慢性肝炎患者に感染しているB型肝炎ウイルスのHBx抗原タンパク質がK130Mのアミノ酸変異を有する
(ii)前記B型慢性肝炎患者がヘテロ接合型でHLA-DPB1*05:01遺伝子を有し、且つ、前記B型慢性肝炎患者に感染しているB型肝炎ウイルスのHBx抗原タンパク質がH94Yのアミノ酸変異を有する
[2]HLA-DPB1*05:01遺伝子を検出するための試薬、及び、B型肝炎ウイルスのHBx抗原タンパク質のK130M若しくはH94Yのアミノ酸変異を検出するための試薬を含む、B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価するためのキット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価する技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価する方法]
一実施形態において、本発明は、B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価する方法であって、以下の(i)又は(ii)のいずれかであることが、前記B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクが高いことを示す、方法を提供する。
(i)前記B型慢性肝炎患者がホモ接合型でHLA-DPB1*05:01遺伝子を有し、且つ、前記B型慢性肝炎患者に感染しているB型肝炎ウイルスのHBx抗原タンパク質がK130Mのアミノ酸変異を有する。
(ii)前記B型慢性肝炎患者がヘテロ接合型でHLA-DPB1*05:01遺伝子を有し、且つ、前記B型慢性肝炎患者に感染しているB型肝炎ウイルスのHBx抗原タンパク質がH94Yのアミノ酸変異を有する。
【0013】
B型慢性肝炎とは、HBVが持続感染している状態をいい、発症要因としては、HBV持続感染者からの母児感染(垂直感染)、乳幼児期の医療行為等が原因でHBV持続感染者の血液や体液が体内に侵入した場合、体の免疫力が低下するような免疫抑制剤や抗癌剤の使用中にHBVに感染した結果HBVを体内から排除できずに持続感染を起こす場合、健常者がジェノタイプA型という欧米型やアジア・アフリカ型等の外来種HBVに感染した場合等が挙げられる。
【0014】
成人期に感染した場合、HBV感染者の約9割が無症候キャリアとなるが、約1割はB型慢性肝炎に移行する。更にその中の一部が肝硬変や肝癌へ移行する。「肝硬変」とは、HBV感染により損傷した肝臓が修復されるときにできる線維が肝臓に拡がった状態をいい、肝臓が硬くなったために腹水や食道静脈瘤が生じたり、肝臓機能が低下するために肝性脳症や黄疸が生じたりする原因となる。B型肝癌とは、HBVの感染が原因で生じる肝細胞癌をいう。
【0015】
本実施形態の方法では、B型慢性肝炎患者のHLA-DPB1アリルの遺伝子型、及び、慢性B型肝炎患者に感染しているHBVの変異に基づいて、B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価する。
【0016】
HLAはヒトの主要組織適合性複合体(Major Histocompatibility Complex、MHC)であり、移植片や細菌、ウイルス等の外来抗原ペプチドと結合してT細胞に提示する膜タンパク質である。HLAには多くのアリルが存在することが知られており、これらの情報についてはHLA nomenclature(http://hla.alleles.org/nomenclature/naming.html)等に記載がある。なお、本明細書のアリルの表記は、HLA nomenclatureによる表記方法に基づく。
【0017】
HLA-DPB1*05:01のcDNAの塩基配列の欧州分子生物学研究所データベース(EMBL-EBI)のアクセッション番号は、AY656679等である。また、HLA-DPB1*05:01のアミノ酸配列のEMBL-EBIアクセッション番号は、AAV71026等である。
【0018】
HLA-DPB1アリルの遺伝子型の決定方法は特に限定されず、当業者にとって公知の方法から適宜選択して使用することができる。例えば、Polymerase chain reaction-sequence specific oligonucleotide probe法(PCR-SSOP法)、allele-specific oligonucleotide(ASO)法、TaqMan(登録商標)PCR法、MALDI-TOF/MS法、直接シークエンス法、RFLP法、インベーダー法、TGGE法、DGGE法、MutY酵素法、マイクロアレイ、Protein truncation test(PTT)法、Snipper法、ルミネックス法、HLA Imputation法、マイクロSSP法等が挙げられる。中でも、PCR-SSOP法、直接シークエンス法、ルミネックス法、HLA Imputation法、マイクロSSP法が好ましい。
【0019】
直接シーケンス法は、従来型の直接シーケンス法であってもよく、次世代シーケンサーを使用した直接シーケンス法であってもよい。HLA Imputation法とは、個人のHLA遺伝子型をコンピュータにより高い精度で推定する遺伝統計解析の手法である。マイクロSSP法とは、複数のプライマーを用いてPCR増幅を行い、ゲル電気泳動により特徴的な多型部分が増幅されたか否かを確認し、当該増幅のパターンに基づいてアリルを判定する手法である。
【0020】
アリルの遺伝子型の決定(タイピング)は、遺伝子レベル又はタンパク質レベルで行うことができる。B型肝癌を発症するリスクを評価する対象のB型慢性肝炎患者から採取した生物学的試料をもとに、一般的な方法でゲノムDNA又はmRNAを調製し、HLA-DPB1アリルの塩基配列を解析することにより、HLA-DPB1アリルの遺伝子型を決定することができる。
【0021】
本実施形態の方法が対象とするB型慢性肝炎患者は日本人であってもよい。また、生物学的試料としては、例えば、末梢血単核球細胞、組織、毛髪、便、尿、唾液、細胞、鼻腔粘膜からこすりとった細胞、口腔粘膜からこすりとった細胞等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0022】
慢性B型肝炎患者に感染しているHBVの変異は、患者由来のHBVの塩基配列又はそれに基づくアミノ酸配列を解析し、基準となる配列と比較することにより検出することができる。HBVの変異はDNAレベルで検出してもよいし、アミノ酸配列レベルで検出してもよい。患者由来のHBVは、例えば、患者由来の血液試料から採取することができる。本実施形態の方法が対象とするHBVの遺伝子型は、HBV/Cであってもよい。
【0023】
本実施形態においては、HBVのHBx遺伝子の塩基配列をシーケンスし、HBx抗原タンパク質のK130Mのアミノ酸変異、HBx抗原タンパク質のH94Yのアミノ酸変異を検出してもよい。あるいは、これらのアミノ酸変異に対応する遺伝子変異を検出することができるプライマー又はプローブを用いたPCR、インベーダー法等により、各変異を検出してもよい。あるいは、各アミノ酸変異を検出することができるモノクローナル抗体を使用して、タンパク質レベルで各アミノ酸変異を検出してもよい。
【0024】
HBx遺伝子のcDNAのNCBIアクセッション番号は、LC535924(gene=”X”)等である。また、HBx抗原タンパク質のアミノ酸配列のNCBIアクセッション番号は、BCD41111等である。
【0025】
実施例において後述するように、発明者らは、以下の(i)又は(ii)のいずれかである場合に、B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクが高いことを明らかにした。
(i)慢性B型肝炎患者がホモ接合型でHLA-DPB1*05:01遺伝子を有し、且つ、慢性B型肝炎患者に感染しているHBVのHBx抗原タンパク質がK130Mのアミノ酸変異を有する。
(ii)慢性B型肝炎患者がヘテロ接合型でHLA-DPB1*05:01遺伝子を有し、且つ、慢性B型肝炎患者に感染しているHBVのHBx抗原タンパク質がH94Yのアミノ酸変異を有する。
【0026】
本明細書において、B型肝癌を発症するリスクが高いとは、B型肝癌患者群と慢性B型肝炎患者群についての95%信頼区間におけるオッズ比が、2以上、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であることを意味する。
【0027】
ここでオッズ比とは、上記(i)の場合には、ホモ接合型でHLA-DPB1*05:01遺伝子を有し、且つ、感染しているHBVのHBx抗原タンパク質がK130Mのアミノ酸変異を有する患者についての、B型肝癌発症群(B型肝癌患者)のオッズと、B型肝癌非発症群(B型慢性肝炎患者)のオッズとの比である。
【0028】
また、上記(ii)の場合には、ヘテロ接合型でHLA-DPB1*05:01遺伝子を有し、且つ、感染しているHBVのHBx抗原タンパク質がH94Yのアミノ酸変異を有する患者についての、B型肝癌発症群のオッズと、B型肝癌非発症群のオッズとの比である。
【0029】
本実施形態の方法によれば、従来よりも実用的な精度でB型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価することができる。
【0030】
[B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価するためのキット]
一実施形態において、本発明は、HLA-DPB1*05:01遺伝子を検出するための試薬、及び、B型肝炎ウイルスのHBx抗原タンパク質のK130M若しくはH94Yのアミノ酸変異を検出するための試薬を含む、B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価するためのキットを提供する。
【0031】
本実施形態のキットにより、上述した、B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価する方法を好適に実施することができる。
【0032】
HLA-DPB1*05:01遺伝子を検出するための試薬としては、このアリルを検出できるものであれば特に限定されず、例えば、このアリルに特異的なプライマーセット、プローブ、デオキシヌクレオチド3リン酸(dNTPs)、DNAポリメラーゼ、緩衝液等が挙げられる。また、プライマー又はプローブは、蛍光物質、ビオチン、ジゴキシゲニン等により標識されていてもよい。
【0033】
また、HLA-DPB1アリルがホモ接合体であるかヘテロ接合体であるかを判定する観点から、本実施形態のキットは、HLA-DPB1*05:01アリル以外の遺伝子型のHLA-DPB1アリルを決定するためのプライマーセットやプローブを更に含んでいてもよい。
【0034】
B型肝炎ウイルスのHBx抗原タンパク質のK130M若しくはH94Yのアミノ酸変異を検出するための試薬は、HBx遺伝子のうち、少なくとも上記変異部分をコードする遺伝子領域を含む領域の塩基配列を決定するための試薬であってもよい。
【0035】
例えば、HBx抗原タンパク質の第130番目又は第94番目のアミノ酸をコードする遺伝子領域を増幅するためのプライマーセット、塩基配列を決定するための試薬等が挙げられる。
【0036】
あるいは、HBx抗原タンパク質のK130M若しくはH94Yのアミノ酸変異に対応するHBx遺伝子上の変異を検出可能なプライマーセット又はプローブ等であってもよい。
【0037】
あるいは、HBx抗原タンパク質上の各アミノ酸変異をタンパク質レベルで検出することができるモノクローナル抗体等であってもよい。
【0038】
[その他の実施形態]
一実施形態において、本発明は、B型肝癌を治療する方法であって、(i)B型慢性肝炎患者がホモ接合型でHLA-DPB1*05:01遺伝子を有し、且つ、前記B型慢性肝炎患者に感染しているB型肝炎ウイルスのHBx抗原タンパク質がK130Mのアミノ酸変異を有するか、(ii)B型慢性肝炎患者がヘテロ接合型でHLA-DPB1*05:01遺伝子を有し、且つ、前記B型慢性肝炎患者に感染しているB型肝炎ウイルスのHBx抗原タンパク質がH94Yのアミノ酸変異を有することが、前記B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクが高いことを示し、前記B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクが高い場合に、前記B型慢性肝炎患者のB型肝癌の発症についての検査頻度を上昇させ、B型肝癌の発症を早期発見する工程と、発見した早期B型肝癌を、内科的処置、外科的処置又は抗癌剤治療により治療する工程と、を含む方法を提供する。また、リスクが低い場合は、検査頻度を低下させることで医療経済上のメリットだけでなく、患者の受診に関わる負担の軽減につながる。
【0039】
本実施形態において、HLA-DPB1*05:01遺伝子、B型肝炎ウイルスの変異等については、上述したものと同様である。
【0040】
現在のところ、肝癌のハイリスク者を予測することはできない。小児期の感染パターンであれば、その慢性肝炎患者の約0.3%、成人期の感染であれば、その慢性肝炎患者の約1%が年間に肝癌となるとされる。肝癌となる患者規模は、感染者全体では少ないものであるが、現在のところ、肝癌のハイリスク者を予測することはできないため、全員を一定の間隔で外来にて経過観察や定期的な肝臓の状態を確認する非侵襲的な検査(超音波、MRI等の画像検査)を行っている。
【0041】
本実施形態の方法において、検査頻度を上昇させるとは、例えば、通常のB型肝癌の発症についての検査頻度が約2~3年に1回であるところ、約半年に1回以上の頻度で検査を行うことであってもよい。一方、検査頻度を低下させるとは、検査頻度を約5年に1回等に減らすことであってよい。
【0042】
検査頻度を上昇させる対象を、B型肝癌を発症するリスクが高い患者に限定することは医療経済上好ましい。また、B型肝癌を発症するリスクが低いことが示されたB型慢性肝炎患者にとっては、B型肝癌の発症に関する精神的不安やストレスを緩和することができる。
【0043】
本実施形態の方法により、B型肝癌の発症を早期に発見することが可能になり、より低侵襲なB型肝癌の治療方法を選択することが可能となる。上記の内科的処置としては、例えば、ラジオ波焼灼療法等の比較的低侵襲な治療が挙げられる。
【実施例0044】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実験例1]
(HLAアリルの検出)
日本人のB型肝癌患者及び健常者(B型肝炎の感染なし)由来の末梢血単核球細胞からゲノムDNAを調製し、HLA-DPB1アリルの遺伝子型を決定した。
【0046】
ゲノムDNAの調製には、QIAamp(登録商標)DNA Mini kit(キアゲン)を使用した。まず、マイクロチューブにQIAGEN Protease 20μL及び各試料200μLを添加した。さらにBuffer ALを加えて15秒間混和した後、56℃で10分間インキュベートして試料を溶解した。その後、マイクロチューブを数秒間スピンダウンして蓋の内側についた溶液を収集した。続いて、試料にエタノール(100%)200μLを添加し、15秒間ボルテックスした後、1.5mLマイクロチューブを数秒間スピンダウンして蓋の内側についた溶液を収集した。当該溶液をQIAamp(登録商標)Mini Spin Columnにアプライし、6,000×gで1分間遠心分離した。続いて、QIAamp(登録商標)Mini Spin Columnを開き、500μLのBuffer AW1を添加して6,000×gで1分間遠心分離した。続いて、QIAamp(登録商標)Mini Spin Columnを開き、500μLのBuffer AW2を添加して、20,000×gで3分間遠心分離した。続いて、QIAamp(登録商標)Mini Spin Columnを開き、200μLのBuffer AE又は精製水を添加した。室温で1分間インキュベートした後、6,000×gで1分間遠心分離して、各検体由来のゲノムDNAを回収した。
【0047】
調製したゲノムDNA試料を用いてPCR-SSOP法を利用したLABType SSO DPA1/DPB1 kit(ワンラムダ)、又は、WAKFlow(登録商標)HLA-DPB1 typing kit(湧永製薬)を用いて、4桁のHLAタイピングを実施した。実験は説明書にしたがって行い、xMAP(登録商標)テクノロジーを利用したマルチプレックス測定システム(Luminex社)を使用して測定した。具体的には、上記ゲノムDNA試料2μLに増幅試薬24.5μL、DNAポリメラーゼ液0.5μLを加えて以下の条件でPCR反応を行った。
変性温度:93℃(30秒)
アニーリング温度:60℃(30秒)
伸長温度:72℃(30秒)
サイクル数:40回
上記サイクル前に93℃(3分)、上記サイクル後に72℃(5分)の反応を行い、終了後は4℃で保存した。
【0048】
PCR終了後の増幅DNA5μLを、変性液5μLを分注した96ウェルPCRプレートの各ウェルに加えてボルテックスし、室温で5分間放置した。ハイブリダイゼーション溶液20μL、ビーズミックス3μL及びSAPE2μLを混合したハイブリミックス試薬25μLに上記の変性増幅DNAを加えてハイブリミックス溶液を調製し、ボルテックスで撹拌した。55℃に設定したサーマルサイクラーに上記ハイブリミックス溶液をセットして、30分間ハイブリダイゼーションを行った。洗浄液75μLを各ウェルに加え、1,000×gで1分間遠心分離を行った。その後、上清を除去して、洗浄液75μLを各ウェルに加えた。Luminex XYPのブロック温度を37℃に設定して、ビーズミックスのLot番号に対応したテンプレートファイルを用いて測定した。測定結果のCSVファイルをWAKFlow(登録商標)Typing Softwareで開き、各蛍光ビーズの陽性・陰性を判定表に記載しているカットオフ値をもとに自動判定した。自動判定では、蛍光強度がカットオフ値以上を示すビーズを陽性、カットオフ値以下を示すビーズを陰性とし、各ビーズの陽性・陰性のパターンからHLAの遺伝子型を決定した。結果を表1に示す。
【0049】
【0050】
その結果、HLA-DPB1*05:01、HLA-DPB1*09:01アリルは、B型肝癌の発症に感受性があることが示された。また、HLA-DPB1*02:01、HLA-DPB1*04:01、HLA-DPB1*04:02アリルは、B型肝癌の発症に抵抗性があることが示された。
【0051】
しかしながら、B型肝癌の発症に感受性であるアリルを有する患者の中にも、B型肝癌を発症する患者と発症しない患者が存在し、B型肝癌を発症するリスクを評価するには実用的とはいえない。また、B型肝癌の発症に抵抗性であるアリルを有する患者の中にも、B型肝癌を発症する患者と発症しない患者が存在し、B型肝癌を発症するリスクを評価するには実用的とはいえない。
【0052】
[実験例2]
(B型肝炎ウイルス集団の変異の頻度の検出1)
HLA-DPB1*05:01アリルをホモ接合型で有するB型肝癌患者及びB型慢性肝炎患者の血液試料に含まれるB型肝炎ウイルス(HBV)の遺伝子配列を解析し、比較した。
【0053】
年齢及び感染しているHBVの遺伝子型が一致する患者を解析対象とした。HBV/Cは、日本人やアジア人が多く感染しているB型肝炎ウイルスの型である。この際、肝癌の発症に関連が認められるとされる、年齢、性別、HBV遺伝子型は、ケース(肝癌あり)、コントロール(肝癌なし)間で差がないように調整した。具体的には、B型肝癌患者が平均63歳であり(99例)、B型慢性肝炎患者が平均61歳であり(101例)、全て男性であった。また、感染しているHBVの遺伝子型は、いずれもHBV/Cであった。
【0054】
抗原性が高い、HBs抗原をコードするHBs遺伝子領域、HBx抗原をコードするHBx遺伝子領域をPCR法により増幅した。続いて、高速シーケンサーにより、増幅したPCR産物のディープシークエンス解析を行った。高速シーケンサーとしては、GS Junior(ロシュ)又はMiseq(イルミナ)を使用した。
【0055】
取得した塩基配列に基づいて、HBVの変異のバリエーションをリスト化し、アミノ酸の変異のパターンを取得した。HBV/Cの一般的なアミノ酸配列を基準とした。その結果、HBx抗原の第130番目のアミノ酸配列におけるK130Mのアミノ酸変異が、B型肝癌の発症と関連性が高いことが明らかとなった。
【0056】
下記表2に、B型肝癌患者及びB型慢性肝炎患者に感染していたHBVのHBx抗原の第130番目のアミノ酸配列及びその存在割合を示す。
【0057】
【0058】
下記表3に、HLA-DPB1*05:01アリルをホモ接合型で有する患者に感染していたHBVが、HBx抗原のK130Mアミノ酸変異を有する場合の、当該患者のB型肝癌の発症のしやすさについての統計学的な指標を算出した結果を示す。
【0059】
【0060】
その結果、高いオッズ比が示され、B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価する指標として、実用的であることが示された。
【0061】
[実験例3]
(B型肝炎ウイルス集団の変異の頻度の検出2)
HLA-DPB1*05:01アリルをヘテロ接合型で有するB型肝癌患者及びB型慢性肝炎患者の血液試料に含まれるB型肝炎ウイルス(HBV)の遺伝子配列を解析し、比較した。
【0062】
年齢及び感染しているHBVの遺伝子型が一致する患者を解析対象とした。この際、肝癌の発症に関連が認められるとされる、年齢、性別、HBV遺伝子型は、ケース(肝癌あり)、コントロール(肝癌なし)間で差がないように調整した。具体的には、B型肝癌患者が平均62歳であり(26例)、B型慢性肝炎患者が平均63歳であり(52例)、全て男性であった。また、感染しているHBVの遺伝子型は、いずれもHBV/Cであった。
【0063】
抗原性が高い、HBs抗原をコードするHBs遺伝子領域、HBx抗原をコードするHBx遺伝子領域をPCR法により増幅した。続いて、高速シーケンサーにより、増幅したPCR産物のディープシークエンス解析を行った。高速シーケンサーとしては、GS Junior(ロシュ)又はMiseq(イルミナ)を使用した。
【0064】
取得した塩基配列に基づいて、HBVの変異のバリエーションをリスト化し、アミノ酸の変異のパターンを取得した。HBV/Cの一般的なアミノ酸配列を基準とした。その結果、HBx抗原の第94番目のアミノ酸配列におけるH94Yのアミノ酸変異が、B型肝癌の発症と関連性が高いことが明らかとなった。
【0065】
下記表4に、B型肝癌患者及びB型慢性肝炎患者に感染していたHBVのHBx抗原の第94番目のアミノ酸配列及びその存在割合を示す。
【0066】
【0067】
下記表5に、HLA-DPB1*05:01アリルをヘテロ接合型で有する患者に感染していたHBVが、HBx抗原のH94Yアミノ酸変異を有する場合の、当該患者のB型肝癌の発症のしやすさについての統計学的な指標を算出した結果を示す。
【0068】
【0069】
その結果、高いオッズ比が示され、B型慢性肝炎患者がB型肝癌を発症するリスクを評価する指標として、実用的であることが示された。