(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163437
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
G03G15/20 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079031
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】池上 祥一郎
(72)【発明者】
【氏名】赤松 孝亮
(72)【発明者】
【氏名】今泉 徹
【テーマコード(参考)】
2H033
【Fターム(参考)】
2H033AA24
2H033BA11
2H033BA25
2H033BA26
2H033BA27
2H033BA31
2H033BA32
2H033BB03
2H033BB04
2H033BB05
2H033BB06
2H033BB13
2H033BB14
2H033BB15
2H033BB18
2H033BB21
2H033BB22
2H033BB29
2H033BB30
2H033BB33
2H033BB34
2H033BE03
2H033CA07
2H033CA30
2H033CA45
(57)【要約】
【課題】 定着装置における非通紙部昇温を抑制するとともに、FPOTを短縮することを目的とする。
【解決手段】 均熱部材は、短手方向における幅が一定である第1の領域と、長手方向において第1の領域より端部側にあって、第1の領域の端から定着装置に搬送可能な最大サイズの記録材の端が通過する位置までの第2の領域と、第2の領域より端部側にあって、第2の領域の端から均熱部材の端までの第3の領域と、を有しており、短手方向における第2の領域および第3の領域の幅は、第2の領域から第3の領域にわたって連続して小さくなっている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の回転体と、
通電発熱抵抗層が配置されている細長いヒータであって、前記第1の回転体の内部空間に配置されるヒータと、
前記第1の回転体の外周面に接触し、前記第1の回転体を介して前記ヒータと共に記録材を挟持搬送するニップ部を形成する第2の回転体と、
前記ヒータに当接するように配置され、前記ヒータの温度分布を均す均熱部材と、を備え、前記ニップ部において記録材上の未定着のトナー像を記録材に定着させる定着装置であって、
前記ヒータにおいて、ニップ部を形成する面における記録材搬送方向を短手方向、記録材搬送方向と直交する長辺の方向を長手方向とする場合、
前記均熱部材は、前記短手方向における幅が一定である第1の領域と、
前記長手方向において、前記第1の領域より端部側にあって、前記第1の領域の端から前記定着装置に搬送可能な最大サイズの記録材の端が通過する位置までの第2の領域と、
前記長手方向において、前記第2の領域より端部側にあって、前記第2の領域の端から前記均熱部材の端までの第3の領域と、を有しており、
前記短手方向における前記第2の領域および前記第3の領域の幅は、前記第1の領域の幅より小さく、前記短手方向における前記第2の領域および前記第3の領域の幅は同じである、ことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
第1の回転体と、
通電発熱抵抗層が配置されている細長いヒータであって、前記第1の回転体の内部空間に配置されるヒータと、
前記第1の回転体の外周面に接触し、前記第1の回転体を介して前記ヒータと共に記録材を挟持搬送するニップ部を形成する第2の回転体と、
前記ヒータに当接するように配置され、前記ヒータの温度分布を均す均熱部材と、を備え、前記ニップ部において記録材上の未定着のトナー像を記録材に定着させる定着装置であって、
前記ヒータにおいて、ニップ部を形成する面における記録材搬送方向を短手方向、記録材搬送方向と直交する長辺の方向を長手方向とする場合、
前記均熱部材は、前記短手方向における幅が一定である第1の領域と、
前記長手方向において、前記第1の領域より端部側にあって、前記第1の領域の端から前記定着装置に搬送可能な最大サイズの記録材の端が通過する位置までの第2の領域と、
前記長手方向において、前記第2の領域より端部側にあって、前記第2の領域の端から前記均熱部材の端までの第3の領域と、を有しており、
前記短手方向における前記第3の領域の幅は、前記第2の領域の幅より小さく、前記短手方向における前記第2の領域の幅は、前記第1の領域の幅より小さいことを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
第1の回転体と、
通電発熱抵抗層が配置されている細長いヒータであって、前記第1の回転体の内部空間に配置されるヒータと、
前記第1の回転体の外周面に接触し、前記第1の回転体を介して前記ヒータと共に記録材を挟持搬送するニップ部を形成する第2の回転体と、
前記ヒータに当接するように配置され、前記ヒータの温度分布を均す均熱部材と、を備え、前記ニップ部において記録材上の未定着のトナー像を記録材に定着させる定着装置であって、
前記ヒータにおいて、ニップ部を形成する面における記録材搬送方向を短手方向、記録材搬送方向と直交する長辺の方向を長手方向とする場合、
前記均熱部材は、前記短手方向における幅が一定である第1の領域と、
前記長手方向において、前記第1の領域より端部側にあって、前記第1の領域の端から前記定着装置に搬送可能な最大サイズの記録材の端が通過する位置までの第2の領域と、
前記長手方向において、前記第2の領域より端部側にあって、前記第2の領域の端から前記均熱部材の端までの第3の領域と、を有しており、
前記短手方向における前記第2の領域および前記第3の領域の幅は、前記第2の領域から前記第3の領域にわたって連続して小さくなっていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
前記第2の領域の前記長手方向における長さは、20mm以上、40mm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記記録材搬送方向と前記長手方向とから成る平面の法線方向に見て、前記第1の領域において通電発熱抵抗層は前記均熱部材の内部に収まっており、前記第3の領域において通電発熱抵抗層の一部は前記均熱部材からはみ出していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式の複写機・レーザープリンタ等の画像形成装置に用いられる定着装置及びそれを用いた画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式で用いられる定着装置として、従来からフィルム加熱方式が知られている。特許文献1に示すように、フィルム加熱方式の定着装置は、セラミック製の基板上に通電発熱抵抗層を有する加熱体と、加熱体と接触しつつ加熱され回転する定着フィルムと、定着フィルムを介して加熱体とニップ部を形成する加圧ローラなどを有している。未定着トナー画像を担持する記録材はこのニップ部で挟持搬送されつつ加熱されることで記録材上のトナー画像が記録材に定着される。特許文献1には、発熱部材の裏面に熱伝導部材を設けることで、小サイズ紙の定着を続けた際に紙が通らない部分の昇温(以下、非通紙部昇温と記載する)を抑制するフィルム加熱方式の定着装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、画像形成装置の高速化に伴い、ユーザが印刷開始を指示してから、1枚目の記録材が排出されるまでの時間(ファーストプリントアウトタイム、以下、FPOTという)を短縮し、ユーザの待ち時間を削減することが求められている。定着装置の立ち上げにおいては加熱体で生成される熱エネルギーにより定着フィルムおよび加圧ローラが昇温する。ニップ部の記録材搬送方向と直交する方向の両端部にある加熱体の非発熱部は加熱体の発熱体が存在する領域から熱が伝わるまで昇温しないため、定着装置の立ち上げ時に定着に必要な温度に到達するまでに時間がかかる。記録材上のトナー像を定着させるためには、加熱体の発熱体が存在する領域の端部の温度が定着に必要な温度に上昇するまで待つ必要がある。FPOTを短縮するために昇温を早めるには、加熱体の通電発熱抵抗層を長くしたり、端部発熱量を大きくするなどが手段として挙げられる。しかし、通電発熱抵抗層を長くしたり、端部発熱量を大きくすると、非通紙部昇温が悪化する懸念がある。
【0005】
本発明は、このような状況のもとでなされたもので、定着装置における非通紙部昇温を抑制するとともに、FPOTを短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するために、本発明では、以下の構成を備える。
【0007】
第1の回転体と、通電発熱抵抗層が配置されている細長いヒータであって、前記第1の回転体の内部空間に配置されるヒータと、前記第1の回転体の外周面に接触し、前記第1の回転体を介して前記ヒータと共に記録材を挟持搬送するニップ部を形成する第2の回転体と、前記ヒータに当接するように配置され、前記ヒータの温度分布を均す均熱部材と、を備え、前記ニップ部において記録材上の未定着のトナー像を記録材に定着させる定着装置であって、前記ヒータにおいて、ニップ部を形成する面における記録材搬送方向を短手方向、記録材搬送方向と直交する長辺の方向を長手方向とする場合、前記均熱部材は、前記短手方向における幅が一定である第1の領域と、前記長手方向において、前記第1の領域より端部側にあって、前記第1の領域の端から前記定着装置に搬送可能な最大サイズの記録材の端が通過する位置までの第2の領域と、前記長手方向において、前記第2の領域より端部側にあって、前記第2の領域の端から前記均熱部材の端までの第3の領域と、を有しており、前記短手方向における前記第2の領域および前記第3の領域の幅は、前記第2の領域から前記第3の領域にわたって連続して小さくなっていることを特徴とする画像形成装置。
【0008】
また、本発明における別の構成として、以下の構成を備える。
【0009】
第1の回転体と、通電発熱抵抗層が配置されている細長いヒータであって、前記第1の回転体の内部空間に配置されるヒータと、前記第1の回転体の外周面に接触し、前記第1の回転体を介して前記ヒータと共に記録材を挟持搬送するニップ部を形成する第2の回転体と、前記ヒータに当接するように配置され、前記ヒータの温度分布を均す均熱部材と、を備え、前記ニップ部において記録材上の未定着のトナー像を記録材に定着させる定着装置であって、前記ヒータにおいて、ニップ部を形成する面における記録材搬送方向を短手方向、記録材搬送方向と直交する長辺の方向を長手方向とする場合、前記均熱部材は、前記短手方向における幅が一定である第1の領域と、前記長手方向において、前記第1の領域より端部側にあって、前記第1の領域の端から前記定着装置に搬送可能な最大サイズの記録材の端が通過する位置までの第2の領域と、前記長手方向において、前記第2の領域より端部側にあって、前記第2の領域の端から前記均熱部材の端までの第3の領域と、を有しており、前記短手方向における前記第2の領域および前記第3の領域の幅は、前記第1の領域の幅より小さく、前記短手方向における前記第2の領域および前記第3の領域の幅は同じである、ことを特徴とする画像形成装置。
【0010】
また、本発明におけるさらに別の構成として、以下の構成を備える。
【0011】
第1の回転体と、通電発熱抵抗層が配置されている細長いヒータであって、前記第1の回転体の内部空間に配置されるヒータと、前記第1の回転体の外周面に接触し、前記第1の回転体を介して前記ヒータと共に記録材を挟持搬送するニップ部を形成する第2の回転体と、前記ヒータに当接するように配置され、前記ヒータの温度分布を均す均熱部材と、を備え、前記ニップ部において記録材上の未定着のトナー像を記録材に定着させる定着装置であって、前記ヒータにおいて、ニップ部を形成する面における記録材搬送方向を短手方向、記録材搬送方向と直交する長辺の方向を長手方向とする場合、前記均熱部材は、前記短手方向における幅が一定である第1の領域と、前記長手方向において、前記第1の領域より端部側にあって、前記第1の領域の端から前記定着装置に搬送可能な最大サイズの記録材の端が通過する位置までの第2の領域と、前記長手方向において、前記第2の領域より端部側にあって、前記第2の領域の端から前記均熱部材の端までの第3の領域と、を有しており、前記短手方向における前記第3の領域の幅は、前記第2の領域の幅より小さく、前記短手方向における前記第2の領域の幅は、前記第1の領域の幅より小さいことを特徴とする画像形成装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安価かつ簡単な構成で、定着装置における非通紙部昇温を抑制するとともに、FPOTを短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1における画像形成装置の断面構成概略図
【
図3】比較例1によるヒータおよびアルミ板の寸法関係を説明する概略図
【
図4】比較例1、比較例2、実施例1におけるヒータおよびアルミ板の概略図
【
図5】比較例1、比較例2、実施例1における端部温度ダレ測定結果を説明する図
【
図7】比較例1、実施例1、実施例2における端部温度ダレ測定結果を説明する図
【
図9】比較例1、実施例2、実施例3における端部温度ダレ測定結果を説明する図
【
図10】構成A~Eにおける通電発熱抵抗層とアルミ板の位置関係に関する概略図
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施例1〕
本発明の実施例1を以下に説明する。まず、本実施例における画像形成装置の本体構成を説明し、次いで、本実施例に係る定着装置と均熱部材について詳しく説明する。
【0015】
(画像形成装置)
本実施例において用いる画像形成装置の一例を
図1に示す概略図を用いて説明する。本実施例における画像形成装置50は、感光ドラム1上のトナー像を直接記録材P上に転写する電子写真方式の画像形成装置である。像担持体である感光ドラム1の周面には、回転方向(矢印R1方向)に沿って順に、帯電器2、レーザ光Lを感光ドラム1に照射する露光手段3、現像器5、転写ローラ10、及び感光ドラムクリーナー16が配置されている。まず、感光ドラム1は、その表面が帯電器2によってマイナス極性に帯電される。次に帯電された感光ドラム1は、露光手段3のレーザ光Lにより、その表面上に静電潜像が形成(露光された部分は表面電位が上がる)される。本実施例のトナーはマイナス極性に帯電されており、トナーが入った現像器5によって感光ドラム1上の静電潜像部にのみトナーが付着し、感光ドラム1上にトナー像Tが形成される。記録材Pは給紙ローラ4によって給紙されると、搬送ローラ6によって転写ニップNtrへ搬送される。転写ローラ10に、不図示の電源からトナーの帯電極性とは逆の極性であるプラス極性の転写バイアスが印加され、感光ドラム1上のトナー像Tは、転写ニップ部Ntrにおいて記録材P上に転写される。転写後の感光ドラム1は、弾性ブレードを有する感光ドラムクリーナー16によって表面の転写残トナーが除去される。トナー像Tを担持した記録材Pは、定着装置100に搬送され、表面のトナー像Tの加熱定着が行なわれる。
【0016】
(定着装置)
本実施例の定着装置100について以下に説明する。本実施例の定着装置100は、上述のように立ち上げ時間の短縮や低消費電力化を目的としたフィルム加熱方式の定着装置である。
図2は本実施例における定着装置100の横断面図である。
【0017】
可撓性を有する円筒状の第1の回転体(定着フィルム)112の内部空間に加熱体保持部材(ヒータホルダー)119に保持された細長い加熱体(ヒータ)113が設けられた構成となっている。ヒータ113は定着フィルム112の内面に接触し、定着フィルム112を内側から加熱する。定着フィルム112の外周面に接触し、ヒータ113に対向して第2の回転体(加圧ローラ)110が定着ニップNを形成している。加圧ローラ110が図中矢印R1方向に駆動されると、定着フィルム112は定着ニップNで加圧ローラ110から動力をもらい矢印R2方向に従動回転する。未定着トナー像Tが転写された記録材Pが、図中矢印A1方向から定着ニップNに搬送されると、記録材Pにトナー像Tが定着されるようになっている。尚、ヒータ113は定着フィルム112の内面に接触していなくてもよく、例えばヒータ113と定着フィルム112の間に金属や樹脂の薄い板状の部材があってもよい。
【0018】
(定着フィルム)
ヒータ113を保持したヒータホルダー119は強度を持たせるために鉄製のステー120でヒータ113とは反対側から支えられている。この周囲に可撓性を有する円筒状の定着フィルム112が設けられた構成となっている。本実施例の定着フィルム112は変形させない円筒状の状態で外径がφ18mmであり、厚み方向には多層構成となっている。定着フィルム112の層構成としては、フィルムの強度を保つための基層125と、表面への汚れ付着低減のための離型層127からなる。基層125は、ヒータ113の熱を受けるため耐熱性が必要であり、またヒータ113と摺動するため強度も必要である。そのため基層125の材質は、SUS(Stainless Used Steel:ステンレス鋼)やニッケルなどの金属やポリイミドなどの耐熱性樹脂を用いると良い。金属は樹脂に比べると強度があるため薄肉化でき、また熱伝導率も高いため、ヒータ113の熱を定着フィルム112表面へ伝達しやすい。樹脂は金属に比べると比重が小さいため熱容量が小さく温まりやすい利点がある。また樹脂は塗工成型により薄肉のフィルムが成型できるため安価に成型できる。本実施例では、定着フィルム112の基層125の材質としてポリイミドを用い、熱伝導率と強度を向上させるためカーボン系のフィラーを添加して用いた。基層125の厚さは薄いほどヒータ113の熱を加圧ローラ110表面に伝達しやすいが強度が低下するため15μm~100μm程度が好ましく、本実施例では60μmとした。
【0019】
定着フィルム112の離型層127の材質は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン(FEP)等のフッ素樹脂を用いると好ましい。本実施例ではフッ素樹脂の中でも離型性と耐熱性に優れるPFAを用いた。離型層127は、チューブを被覆させたものでも良いが、表面を塗料でコートしたものでも良く、本実施例では、薄肉成型に優れるコートにより離型層127を成型した。離型層127は薄いほどヒータ113の熱を定着フィルム112表面に伝達しやすいが、薄すぎると耐久性が悪化するため、5μm~30μm程度が好ましく、本実施例では10μmとした。また、本実施例には使用していないが、基層125と離型層127の間に、弾性層を設けても良い。その場合、弾性層の材質としては、シリコーンゴムやフッ素ゴムなどが用いられる。
【0020】
(加圧ローラ)
本実施例の加圧ローラ110は外径φ20mmであり、φ13mmの鉄製の芯金117に発泡ゴムによる厚さ3.5mmの弾性層116が形成されている。弾性層116の上には、トナーの離型層として、PFAからなる離型層118が形成されている。離型層118は定着フィルム112の離型層127同様、チューブを被覆させたものでも表面を塗料でコートしたものでも良いが、本実施例では、耐久性に優れるチューブを使用した。離型層118の材質としては、PFAの他に、PTFE、FEP等のフッ素樹脂や、離型性の良いフッ素ゴムやシリコーンゴム等を用いても良い。加圧ローラ110の硬度は、低いほど軽圧で定着ニップNの幅が得られるが、低すぎると耐久性が悪化するため、本実施例における加圧ローラ110は、硬度はAsker-C硬度(4.9N荷重)で、50°とし、加圧力は総圧15kgfとした。加圧ローラ110は、不図示の回転手段により、図中矢印R1方向に、表面移動速度240mm/secで回転するようになっている。
【0021】
(加熱体)
図3に寸法および配置状態の説明のため、加熱体(ヒータ)113および比較例1における均熱部材(アルミ板)150の概略図を示す。本実施例では、記録材搬送方向である短手方向の幅W_h=5.9mm、記録材搬送方向と直交する長辺の方向(長手方向)の幅L_h=270mmの長方形の形状で厚さt_h=1mmのアルミナの基板113aを用いている。基板113aの表面に、Ag/Pd(銀パラジウム)の通電発熱抵抗層113bをスクリーン印刷により10μm塗工し、その上に不図示の発熱体保護層としてガラスを60μmの厚さで覆ったものを用いた。本実施例の画像形成装置の最大記録材幅はレターサイズであり、上記長手方向におけるレターサイズの記録材幅216mmを十分加熱できるように通電発熱抵抗層の長手方向の幅はレターサイズより左右1mmずつ長い218mmになっている。通電発熱抵抗層の抵抗値は立ち上がり性能を満足させるため、14Ωとした。また、本実施例において通電発熱抵抗層は部分的に抵抗値を変え局所的に発熱量を変えるということは行っていない。全域において均一な発熱を行わせている。
【0022】
(均熱部材)
均熱部材(アルミ板)150は、小サイズ紙の通紙時に非通紙部昇温によって生じる長手方向の温度むらを伝熱・拡散させることで軽減するために用いられ、本実施例ではアルミニウムを材質に用いたが良熱伝導性の物質であれば良く、銅や銀であっても良い。1部品から成る1体構成でも良いし、設計上の都合により分割された複数部品から成る構成であっても良い。アルミ板150はヒータホルダー119上に位置決めを嵌めることで取り付け、その上からさらにヒータ113を取り付けている。ヒータ113の長手中央部はアルミ板150を介してヒータホルダー119に支持され、ヒータ113の長手端部はヒータホルダー119に接触して支持されている。本実施例では、2体構造のアルミ板150のそれぞれに3点のヒータホルダー119との位置決めを設け、アルミ板150をヒータホルダー119に嵌めることで取り付けられている。アルミ板150の厚みt_aは0.3mm、短手方向幅W_aは6.0mm、長手方向長さL_aは124mmと97mmであり1mmの隙間を設け長手方向全長としては222mmの領域であり通電発熱抵抗層113bの真裏に配置している。本実施例を特徴付けるアルミ板端部の形状詳細については後述する。
【0023】
(加熱体保持部材)
加熱体保持部材(ヒータホルダー)119について説明する。上述のようにアルミ板150はヒータホルダー119上に位置決めを嵌めることで取り付けられ、その上からヒータ113をアルミ板150に当接させるように取り付けることで、ヒータホルダー119に設けた溝穴にヒータ113が嵌め込まれ保持されている。ヒータホルダー119は、ヒータ113の熱を奪い難いように低熱容量の材料が好ましく、本実施例では耐熱性樹脂である液晶ポリマー(LCP)を用いた。ステー120は長手方向両端部から不図示の加圧バネによって
図2中の矢印A2方向に加圧されるようになっている。
【0024】
(素子および制御)
ヒータ113の背面には不図示の温度検知素子が配置されており、温度検知素子はアルミ板150を介して通電発熱抵抗層の発熱により昇温するセラミック基板の温度を検知できる。この温度検知素子の信号に応じて、長手方向端部にある不図示の電極部から通電発熱抵抗層に流す電流を適切に制御することで、ヒータ113の温度を調整している。一方、ヒータ113の背面にはアルミ板150を介し不図示の安全素子も配置されている。これは万一温度検知素子が故障した場合、ヒータ113に通電され続け異常昇温した場合にヒータの割れによる発火を防止するためである。本実施例の安全素子は一般的なサーモスイッチであり、ヒータ113に通電する導線に直列に接続されている。安全素子の温度(ヒータ113の背面温度)が265℃に到達するとバイメタルの変形によりヒータ113への通電が遮断される構造となっている。温度検知素子が故障しても、ヒータ113背面の温度が265℃になると安全素子の通電遮断によりヒータ113の加熱が止まり、ヒータ割れによる発火を防止できる。
【0025】
温度検知素子により温度調整され加熱されたヒータ113の熱は、定着フィルム112の内面から表面に伝わり、定着ニップNを介して加圧ローラ110の表面を加熱する。上述のように未定着トナー像Tが転写された記録材Pが、定着ニップNに搬送されると、定着フィルム112と加圧ローラ110の熱は、未定着トナー像Tと記録材Pに伝わり、記録材Pにトナー像Tが定着されるようになっている。尚、本実施例における定着装置では、LTRサイズの記録材を45ppmの速度でプリントできる。
【0026】
(FPOTと非通紙部昇温の関係)
FPOTを短縮するにあたっては定着装置100の立ち上がり時間を短縮する必要がある。定着装置100の立ち上がりにおいては通紙領域の端部温度が定着に必要な温度に達していないことが律速になる場合が多い。これは、通電発熱抵抗層113bにより加熱されることで部材温度が上昇するが、通紙領域の端部においては非発熱部に熱が奪われることにより昇温を妨げられる為である。その結果、定着装置100の立ち上がりにおける定着ニップNにおける長手方向温度分布は通紙領域の両端部で低くなり、この現象を端部温度ダレという。
【0027】
この端部温度ダレを改善するには、「加熱時間を延ばす」「通電発熱抵抗層の長手長さを延ばす」「通電発熱抵抗層の端部発熱量を増す」などが手段として挙げられる。FPOTの短縮を目的とする場合、発熱体の長手方向の長さを延ばす、発熱体の端部発熱量を増すといった手段をとることになるが、その場合、非通紙部昇温の悪化が引き起こされる。非通紙部昇温は最大通紙領域よりも幅の狭い記録材Pを通紙させた場合に、通紙領域に比べ非通紙部領域は部材温度が高くなる現象であり、画像不良の発生や部材温度が高くなりすぎることによる部材の損傷につながる。このため非通紙部昇温を抑制する必要がある。非通紙部昇温の抑制には、通電発熱抵抗層の長手方向の長さを短くする、通電発熱抵抗層の端部発熱量を減らす、均熱部材による局所昇温の拡散などが挙げられるが、それらはFPOTの短縮に対しては相反することになる。
【0028】
(本実施例の特徴)
本実施例の特徴である、アルミ板150について
図4に基づいて説明する。
図4(a)は比較例1のアルミ板150およびヒータ113の概略構成図、
図4(b)は後述のヒータ発熱体を変更した比較例2の概略構成図、
図4(c)は本実施例におけるアルミ板150とヒータ113の概略構成を示す模式図である。
図4(a)~(c)に示すように、アルミ板150の短手方向の幅が一定である第1の領域と、第1の領域の端から最大サイズの記録材の端が通過する位置までの第2の領域と、第2の領域の端からアルミ板150の端までの第3の領域の3つの領域を定義する。第1の領域は定着装置100の立ち上がり昇温過程において端部温度ダレの見られない領域であり、
図4では記録材中央基準位置Mから80mmまでの領域としている。第2の領域は記録材中央基準位置Mに対して80mmから108mmの領域としている。第3の領域は記録材中央基準位置Mに対して108mmから111mmまでの領域となる。本実施例では、アルミ板150の短手方向幅を第2および第3の領域においては第1の領域に比べて小さくすることを特徴としている。本実施例においては、第1の領域の短手方向幅W_a1は6.0mm、第2の領域の短手方向幅W_a2は3.9mm、第3の領域の短手方向幅W_a3は3.9mmとしている。
【0029】
(本実施例の効果)
次に比較例1および比較例2と本実施例1を用いて、端部温度ダレ、FPOTの短縮と非通紙部昇温の抑制に対する作用効果を比較検証する。比較例1におけるアルミ板150は全域で短手方向幅は変わらず一定である。比較例2は
図4(b)に示すとおり、比較例1のヒータ113における通電発熱抵抗層を長手方向で左右2mmずつ長くして全長222mm、紙中心基準で片側長さ111mmに変更し、端部5mmの領域において発熱量を10%大きくしている。それぞれの構成において、端部温度ダレ、FPOTの短縮と非通紙部昇温の抑制に関して実機における比較評価を行った。
【0030】
[端部温度ダレ比較評価]
定着装置100を常温に冷却した状態から加熱回転動作を行い長手方向の温度分布を測定し、比較評価を行った。外気温23℃、湿度50%、ヒータへの供給電力1000Wの条件において、印刷指示開始から4.8秒時点における定着フィルム表面長手温度分布をサーモビューアによって測定した。結果を
図5に示す。
【0031】
比較例1は第1の領域と第2の領域の境界位置から直線的に温度が下がり、最大サイズ記録材の端部が通過する位置である第2の領域と第3の領域の境界位置においては第1の領域における定着フィルム表面温度に比べ13℃低くなっていることがわかる。本例では最大サイズ記録材の端部が通過する位置からおおよそ28mm内側の位置を端部温度ダレの開始位置と判断したが、定着フィルムの厚みや熱容量が大きいとさらに内側が開始位置となり、逆に小さいとさらに外側が開始位置となる。実験によると端部温度ダレの開始位置は最大サイズ記録材の端部が通過する位置から内側に20~40mmの範囲であった。これより、定着フィルムの厚みや熱容量の値に応じて、アルミ板150の幅を狭くし始める第1領域と第2領域の境目から最大サイズ記録材の端部が通過する位置までの長さ、すなわち第2領域の長さを20~40mmの範囲とすることで、端部温度ダレの改善を見込むことができる。
【0032】
比較例2は通電発熱抵抗層を長くして端部発熱量を増加させることで、端部温度ダレの影響を改善できている。本実施例1においても端部温度ダレが大幅に改善されており、第2の領域においては第1の領域よりも定着フィルム表面温度が高くなっている。
【0033】
[FPOT比較評価]
画像形成装置50において、定着装置100が常温に冷えた状態から印刷動作を開始し、印刷動作の開始から一枚の紙が印刷を終えて排紙されるまでの時間(排紙までの時間)を0.1秒刻みで変え、記録材全面に黒色を印刷する画像評価を行った。この評価では、定着部が画像を形成するのに十分な温度になっているかによらず排紙までの時間を変えて、画像が良好であるかを確認する評価である。排紙までの時間を変えると、定着装置100の前回転加熱時間を変えることとなり、この前回転加熱時間が短いほどユーザビリティーが向上するが、十分な昇温が成されていないと定着不良が起こることになる。外気温23℃、湿度50%、ヒータへの供給電力1000Wの条件において、Canon Multi-Purpose Paper Letter Size 20lb紙を用いて画像評価を行った。画像に剥がれが見られる場合は×、軽微な剥がれが見られる場合は△、画像良好であれば○で表す評価結果を表1に示す。
【0034】
【0035】
比較例1においては画像良好な状態で排紙される排紙までの時間(FPOT)は最短6.0秒であるが、比較例2と本実施例1においてはFPOTを5.8秒に改善できることが確認できた。比較例1においては、画像剥がれは記録材Pの記録材搬送方向と直交する方向の両端部において顕著に現れており、排紙までの時間を5.8秒や5.9秒設定における画像剥がれは両端部でのみ発生している。これは端部温度ダレにより定着可能な温度まで達していないためであり、比較例2および本実施例1は先の比較評価によっても明らかにされたように、端部温度ダレが改善されていることからFPOTを短縮することができたといえる。
【0036】
[非通紙部昇温比較評価]
非通紙部昇温の比較評価はA4サイズの坪量128g/m2のNPI上質紙(日本製紙株式会社製キヤノン注文紙)を画像形成装置50の給紙トレイ紙幅規制板を最大幅に広げ片側に寄せた状態で最大スループットにて連続200枚印刷した場合における定着フィルム112表面の最高温度を測定比較することで行った。各構成における非通紙部昇温評価結果を表2に示す。
【0037】
【0038】
非通紙部昇温に関しては、比較例1に対し、通電発熱抵抗層長を増やすことで端部温度ダレを改善した比較例2では27℃の増加になり大幅に悪化した。一方、本実施例1においては比較例1と比べ12℃の悪化にとどまり、比較例2と比べて非通紙部昇温は大幅に改善しているのが見て取れる。
【0039】
[作用メカニズム]
本提案手法における作用メカニズムについて詳述する。
【0040】
画像良好な状態で排紙される排紙までの時間の短縮にあたり律速となる要因に端部温度ダレが挙げられるが、ヒータの通電発熱抵抗層113bの長手方向両端部は、さらに端部側の熱源がない部分に熱を奪われるため、長手方向中央部と比較して温度が下がりやすい。その結果引き起こされるのが端部温度ダレであり、冷却状態の立ち上がり過程において顕著に現れる現象である。通電発熱抵抗層113bで生成された熱エネルギーQの流れに注目した場合、大別すると2つの熱流束に分けられる。具体的には、ヒータ113の平面に対して垂直な方向における加圧ローラ110側に流れる熱流束Q1とヒータホルダー119側に流れる熱流束Q2に分けられる。Q1とQ2の和は一定であるので、Q2を減らせばQ1を増すことができる。ヒータ113の裏面にアルミ板150を設けた構成においては、内側に流れる熱流束Q2はヒータ113からアルミ板150を介しヒータホルダー119に流れるため、アルミ板150の形状を変えることで制御することが可能である。長手方向端部におけるアルミ板150の短手方向長さを短くすることで内側への熱流束Q2を制限し、Q1とQ2の和は一定であるので、その分外側への熱流束Q1が大きくなり、端部温度ダレによる昇温損失を相殺することができる。
【0041】
非通紙部昇温は通電発熱抵抗層113bの存在する領域において記録材Pの通過有無で部材温度の高低が引き起こされる現象であり、アルミ板150はその熱伝導率の高さにより、長手方向の温度ムラを熱輸送により平滑化する作用をもたらす。熱輸送量はアルミ板150の断面積と熱流出先の存在に依存する。非通紙部昇温は最大サイズ記録部材よりも小さな記録材を通紙した場合に引き起こされ、温度ピークは凡そ非通紙部領域中央で発生する。そのため、比較例1および本実施例1においてA4サイズ紙の片寄せ通紙で生じる非通紙部昇温ピークは、紙中央位置基準で105mmの位置、比較例2においては106mmの位置で発生する。アルミ板150の温度も非通紙部昇温ピーク位置で最も高くなり、通紙領域においては随時供給される記録材と未定着画像が熱を奪っていくことから常に温度が低い状態に制御される。それ故にアルミ板150における熱輸送量の大部分は非通紙部領域から通紙部領域への流れとなる。アルミ板150の断面積に注目すると、比較例1に比べ、比較例2は同等、本実施例は比較例1の65%に減少している。一方、非通紙部昇温は比較例2が27℃の悪化に対し、本実施例1は12℃の悪化に留まっている。これより、同等のFPOT短縮を実現するにあたっては、通電発熱抵抗層113bの増長および端部発熱量増加よりも、アルミ板150端部形状変更の方が優れていることがわかる。
【0042】
以上、説明の通り、アルミ板150の両端部形状を変えることにより、立ち上がりにおける端部温度ダレを改善することができ、非通紙部昇温の悪化度合いを抑えながらFPOTの短縮を実現することができる。
【0043】
〔実施例2〕
本発明の実施例2を以下に説明する。実施例2では、アルミ板150の形状に関する部分のみ実施例1と異なる。それ以外の構成は実施例1と同様な為、画像形成装置および定着装置の詳細構成の説明は省略する。
【0044】
(本実施例の特徴)
本実施例の特徴であるアルミ板150の形状について
図6を用いて説明する。本実施例2においては、第1の領域における幅に対して第2の領域における幅を細くし、第2の領域の幅に対して第3の領域における幅を細くすることを特徴とする。本実施例2においては、第1の領域の短手方向幅W_a1は6.0mm、第2の領域の短手方向W_a2は4.2mm、第3の領域の短手方向幅W_a3は3.8mmとしている。尚、第2の領域の一部分のみ短手方向幅に関して細い部分があってもよい。また、第2の領域でのアルミ板150の幅は領域内で一様にすることに限らず第1の領域から第3の領域に向かっていくにつれて段々細くなるようなテーパー形状としてもよい。
【0045】
(本実施例の効果)
本実施例2の構成における効果を確認するために、実施例1と同様の手順により端部温度ダレ比較評価、FPOT比較評価、非通紙部昇温比較評価を行った。
【0046】
端部温度ダレ比較評価結果を
図7に示す。比較例1において第2の領域および第3の領域にて端部温度ダレが見られ、実施例1は第2の領域にて第1の領域以上の温度まで過剰昇温しているのに対し、実施例2は第2の領域における過剰昇温が抑えられているのが見て取れる。
【0047】
続いて、FPOT比較評価結果を表3に、非通紙部昇温比較結果を表4に示す
【0048】
【0049】
【0050】
立ち上がりにおいて、最大サイズ記録部材端部における定着性が律速であり、本実施例2では端部温度ダレが改善されたことから実施例1同様に画像良好な状態で排紙される排紙までの時間(FPOT)は比較例1に比べ0.2秒短縮することができた。また、非通紙部昇温に関しては実施例1において12℃の悪化であったのが本実施例2においては5℃の悪化まで改善していることが見て取れる。A4サイズ紙の片寄せ通紙における非通紙部昇温ピークは紙中央基準で105mmの位置で発生し、通紙により温度が相対的に低い第1の領域との間でアルミ板150による熱輸送が行われる。非通紙部昇温を平滑化する熱輸送能力はアルミ板150の断面積に依ることから、比較例1に比べ実施例1は65%の熱輸送能力であるのに対し、本実施例2においては70%の熱輸送能力があり、これにより非通紙部昇温の改善が引き起こされている。
【0051】
以上の通り、アルミ板の両端部形状を変えることにより、立ち上がりにおける端部温度ダレを改善することができ、非通紙部昇温の悪化を抑えながらFPOTの短縮を実現することができる。また、第1の領域から第3の領域にかけてアルミ板150の幅を徐々に細くしていくことにより、アルミ板150の加工を容易にできる。
【0052】
〔実施例3〕
本発明の実施例3を以下に説明する。実施例3では、アルミ板150の形状に関する部分のみ実施例1および2と異なる。それ以外の構成は実施例1および2と同様な為、画像形成装置および定着装置の詳細構成の説明は省略する。
【0053】
(本実施例の特徴)
本実施例の特徴であるアルミ板150の形状について
図8を用いて説明する。本実施例3においては、第1の領域における幅に対して第2の領域から第3の領域の最端部に向け連続して幅を小さくすることを特徴とする。本実施例3においては、第1の領域の短手方向幅W_a1は6.0mm、第3の領域における最端部の短手方向幅W_endは3.7mmとし、第1の領域端部から第3の領域最端部にかけては短手方向幅を線形減少させている。
【0054】
(本実施例の効果)
本実施例3の構成における効果を確認するために、実施例1および2と同様の手順により端部温度ダレ比較評価、FPOT比較評価、非通紙部昇温比較評価を行った。
【0055】
端部温度ダレ比較評価結果を
図9に示す。比較例1において第2の領域および第3の領域にて端部温度ダレが見られ、実施例2は第2の領域にて第1の領域以上の温度まで過剰昇温している。これに対し、実施例3では最大サイズ記録部材の通過する領域である第1の領域および第2の領域において均一な温度分布になっている。
【0056】
続いて、FPOT比較評価結果を表5に、非通紙部昇温比較結果を表6に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
本実施例3では端部温度ダレが改善されたことから実施例1および2同様に画像良好な状態で排紙される排紙までの時間(FPOT)は比較例1に比べ0.2秒短縮することができた。また、非通紙部昇温に関しては実施例2において8℃の悪化であったのが本実施例3においては比較例1同等まで改善していることが見て取れる。A4サイズ紙の片寄せ通紙における非通紙部昇温は紙中央基準における105mmの位置で最大値を取り、この位置におけるアルミ板150の短手方向幅は実施例2と本実施例3は同等である。しかし、本実施例においては長手方向の内側においては短手方向幅が増すため、端部において発生した非通紙部昇温を比較的温度が低い通紙部領域に移動させるにあたり熱輸送能力が増加している。これにより非通紙部昇温の改善が引き起こされている。
【0060】
以上の通り、アルミ板の両端部形状を変えることにより、立ち上がりにおける端部温度ダレを改善することができ、非通紙部昇温の悪化を抑えながらFPOTの短縮を実現することができる。
【0061】
〔実施例4〕
本発明の実施例4を以下に説明する。実施例4では、アルミ板150の形状に関する部分のみ実施例1、2および3と異なる。それ以外の構成は同様な為、画像形成装置および定着装置の詳細構成の説明は省略する。
【0062】
(本実施例の特徴)
本実施例の特徴であるアルミ板150の形状について
図10を用いて説明する。端部温度ダレ改善において重要なアルミ板150の両端部における通電発熱抵抗層との位置関係を示した図である。
図10(a)の構成Aは実施例3における構成であり、記録材搬送方向と長手方向とから成る平面の法線方向に見て、アルミ板150の端部における短手方向幅W_endは3.7mm、端部において通電発熱抵抗層がアルミ板150の存在領域からはみ出す。
図10(b)の構成Bは端部において通電発熱抵抗層がアルミ板150の存在領域からはみ出ない構成でありW_endは4.6mmである。
図10(c)の構成Cはアルミ板150の最端部幅W_endは3.7mmで実施例3と同じであるが短手方向幅の変化を片側削減で行った構成である。
図10(d)の構成Dはアルミ板150の最端部幅を(c)よりも大きくW_endを4.2mmにした構成であり本実施例4の形態の1つである。
図10(e)の構成Eはアルミ板150の最端部幅W_endは4.4mmで、長手方向長さを短くすることで通電発熱抵抗層がアルミ板150の存在領域からはみ出す構成であり本実施例4の形態の1つである。
【0063】
(本実施例の効果)
本実施例4の構成における効果を確認するために、実施例1および2と同様の手順により端部温度ダレ比較評価、FPOT比較評価、非通紙部昇温比較評価を行った。結果を表7に示す。
【0064】
【0065】
構成A(実施例3)に比べ、構成Bは端部温度ダレの改善効果が弱く、画像良好な状態で排紙される排紙までの時間(FPOT)に関しては劣る結果となる一方、非通紙部昇温は比較例1と等しくなった。構成Cは端部温度ダレの改善効果は構成Aよりも高くFPOTは最も早い5.7秒となったが、非通紙部昇温は僅かに悪化した。本実施例4の形態の1つである構成Dは端部温度ダレの改善効果は実施例3と同等で、非通紙部昇温は実施例3よりも僅かに改善し、比較例1と等しくなった。本実施例4のもう1つの形態である構成Eも端部温度ダレの改善効果は実施例3と同等で、非通紙部昇温は実施例3よりも僅かに改善し、比較例1と等しくなった。
【0066】
端部温度ダレの改善効果にはアルミ板150の短手方向幅が熱力学的に強く関係しているが、通電発熱抵抗層113bの真裏にアルミ板150が存在するか否かも影響していることが見てとれる。通電発熱抵抗層において熱エネルギーは生成されるため、基板113aを介してアルミ板150に伝熱するにあたり、通電発熱抵抗層の真裏が最も熱の流れが大きい。そのため、通電発熱抵抗層の真裏にアルミ板150が存在しない場合は、裏側への熱流束Q2が効果的に抑制され、その反動として表側の熱流束Q1が促進されることから端部温度ダレが改善される。
【0067】
そのため、通電発熱抵抗層端部位置におけるアルミ板150の形状および配置状態が端部温度ダレ対策として重要である。検討の結果、通電発熱抵抗層端部位置において、通電発熱抵抗層113bの少なくとも一部はアルミ板150の存在領域からはみ出る位置関係にあると、端部温度ダレの改善が顕著であることが見いだされた。アルミ板150の形状としては、構成Aのように短手方向の両側からアルミ板を削減するテーパー形状をとっても良いし、構成Dのように短手方向の片側からアルミ板を削減する片側テーパー形状をとっても良い。また、構成Eのように短手方向幅を変化させると共に長手方向長さを短くする形状をとっても良い。
【0068】
また、本実施例ではFPOTの短縮と非通紙部昇温の抑制のバランスの観点では構成Dや構成Eの検証結果が良かったが、各性能に関する要求や許容度によって最適な構成は異なる。例えば画像良好な状態で排紙される排紙までの時間(FPOT)の短縮を特に重視するのであれば構成Cが望ましく、さらにFPOTの短縮を重視するのであれば、アルミ板150の最端部W_endが小さい形状としてもよい。逆に、FPOTの短縮の要求がそれほどなければ構成Bを選択しても良い。
【0069】
以上に述べたように、アルミ板150の形状および配置を変えることで、FPOTの短縮と非通紙部昇温の抑制の関係を調整し、比較例1の構成に比べ、優れた製品性能を実現することができる。
【0070】
[付記]
上記実施形態は以下のシート処理装置を少なくとも開示する。
【0071】
(項目1)
第1の回転体と、
通電発熱抵抗層が配置されている細長いヒータであって、前記第1の回転体の内部空間に配置されるヒータと、
前記第1の回転体の外周面に接触し、前記第1の回転体を介して前記ヒータと共に記録材を挟持搬送するニップ部を形成する第2の回転体と、
前記ヒータに当接するように配置され、前記ヒータの温度分布を均す均熱部材と、を備え、前記ニップ部において記録材上の未定着のトナー像を記録材に定着させる定着装置であって、
前記ヒータにおいて、ニップ部を形成する面における記録材搬送方向を短手方向、記録材搬送方向と直交する長辺の方向を長手方向とする場合、
前記均熱部材は、前記短手方向における幅が一定である第1の領域と、
前記長手方向において、前記第1の領域より端部側にあって、前記第1の領域の端から前記定着装置に搬送可能な最大サイズの記録材の端が通過する位置までの第2の領域と、
前記長手方向において、前記第2の領域より端部側にあって、前記第2の領域の端から前記均熱部材の端までの第3の領域と、を有しており、
前記短手方向における前記第2の領域および前記第3の領域の幅は、前記第1の領域の幅より小さく、前記短手方向における前記第2の領域および前記第3の領域の幅は同じである、ことを特徴とする画像形成装置。
【0072】
(項目2)
第1の回転体と、
通電発熱抵抗層が配置されている細長いヒータであって、前記第1の回転体の内部空間に配置されるヒータと、
前記第1の回転体の外周面に接触し、前記第1の回転体を介して前記ヒータと共に記録材を挟持搬送するニップ部を形成する第2の回転体と、
前記ヒータに当接するように配置され、前記ヒータの温度分布を均す均熱部材と、を備え、前記ニップ部において記録材上の未定着のトナー像を記録材に定着させる定着装置であって、
前記ヒータにおいて、ニップ部を形成する面における記録材搬送方向を短手方向、記録材搬送方向と直交する長辺の方向を長手方向とする場合、
前記均熱部材は、前記短手方向における幅が一定である第1の領域と、
前記長手方向において、前記第1の領域より端部側にあって、前記第1の領域の端から前記定着装置に搬送可能な最大サイズの記録材の端が通過する位置までの第2の領域と、
前記長手方向において、前記第2の領域より端部側にあって、前記第2の領域の端から前記均熱部材の端までの第3の領域と、を有しており、
前記短手方向における前記第3の領域の幅は、前記第2の領域の幅より小さく、前記短手方向における前記第2の領域の幅は、前記第1の領域の幅より小さいことを特徴とする画像形成装置。
【0073】
(項目3)
第1の回転体と、
通電発熱抵抗層が配置されている細長いヒータであって、前記第1の回転体の内部空間に配置されるヒータと、
前記第1の回転体の外周面に接触し、前記第1の回転体を介して前記ヒータと共に記録材を挟持搬送するニップ部を形成する第2の回転体と、
前記ヒータに当接するように配置され、前記ヒータの温度分布を均す均熱部材と、を備え、前記ニップ部において記録材上の未定着のトナー像を記録材に定着させる定着装置であって、
前記ヒータにおいて、ニップ部を形成する面における記録材搬送方向を短手方向、記録材搬送方向と直交する長辺の方向を長手方向とする場合、
前記均熱部材は、前記短手方向における幅が一定である第1の領域と、
前記長手方向において、前記第1の領域より端部側にあって、前記第1の領域の端から前記定着装置に搬送可能な最大サイズの記録材の端が通過する位置までの第2の領域と、
前記長手方向において、前記第2の領域より端部側にあって、前記第2の領域の端から前記均熱部材の端までの第3の領域と、を有しており、
前記短手方向における前記第2の領域および前記第3の領域の幅は、前記第2の領域から前記第3の領域にわたって連続して小さくなっていることを特徴とする画像形成装置。
【0074】
(項目4)
項目1から3に記載の画像形成装置であって、
前記第2の領域の前記長手方向における長さは、20mm以上、40mm以下であることを特徴とする画像形成装置。
【0075】
(項目5)
項目1から4に記載の画像形成装置であって、
前記記録材搬送方向と前記長手方向とから成る平面の法線方向に見て、前記第1の領域において通電発熱抵抗層は前記均熱部材の内部に収まっており、前記第3の領域において通電発熱抵抗層の一部は前記均熱部材からはみ出していることを特徴とする画像形成装置。
【符号の説明】
【0076】
100 定着装置
110 加圧ローラ
112 定着フィルム
113 ヒータ
113a 基板
113b 通電発熱抵抗層
150 均熱部材(アルミ板)