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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163446
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】魚介類養殖システム
(51)【国際特許分類】
   A01K 63/04 20060101AFI20241115BHJP
   A01K 63/06 20060101ALI20241115BHJP
   A23K 50/90 20160101ALI20241115BHJP
   A23K 50/80 20160101ALI20241115BHJP
   A23K 10/20 20160101ALI20241115BHJP
   A23K 10/12 20160101ALI20241115BHJP
【FI】
A01K63/04 A
A01K63/06 B
A23K50/90
A23K50/80
A23K10/20
A23K10/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079046
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】502192502
【氏名又は名称】横沢 広嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(74)【代理人】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】横沢 広嗣
【テーマコード(参考)】
2B005
2B104
2B150
【Fターム(参考)】
2B005EA03
2B005GA00
2B005JA01
2B005JA03
2B005LA07
2B104AA01
2B104CA01
2B104EB05
2B104ED15
2B150AA08
2B150AA20
2B150AB20
2B150AC24
2B150AD02
2B150BB01
2B150CD28
2B150CD34
2B150CG08
(57)【要約】
【課題】餌の残存物、排泄物の廃棄コストを低減でき、餌代を節約できる魚介類養殖システムを提供する。
【解決手段】魚介類を養殖する養殖水槽(3)と、養殖水槽(3)から魚介類の排泄物や食べ残された餌からなる排泄・残存物を分離する排泄・残存物分離手段(4)と、分離された排泄・残存物を餌として、昆虫および環形動物の少なくとも一方である排泄・残存物処理生物を飼育する排泄・残存物処理生物飼育槽(5)と、を備えた魚介類養殖システム(1)として構成する。そしてこのように飼育した排泄・残存物処理生物を魚介類の餌として与える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚介類を養殖する養殖水槽と、
前記養殖水槽から前記魚介類の排泄物や食べ残された餌からなる排泄・残存物を分離する排泄・残存物分離手段と、
分離された前記排泄・残存物を餌として、昆虫および環形動物の少なくとも一方である排泄・残存物処理生物を飼育する排泄・残存物処理生物飼育槽と、を備え、
前記排泄・残存物処理生物を前記魚介類の餌として与えるようになっている、魚介類養殖システム。
【請求項2】
前記魚介類養殖システムは排泄・残存物処理槽を備え、前記排泄・残存物は前記排泄・残存物処理槽に投入されて糸状菌及び微生物の少なくとも一方により処理され、前記排泄・残存物処理生物飼育槽には処理された前記排泄・残存物が餌として供給されるようになっている、請求項1に記載の魚介類養殖システム。
【請求項3】
前記排泄・残存物分離手段は沈殿槽と泡沫分離装置とから構成され、前記沈殿槽は前記排泄・残存物を含む前記養殖水槽の水が入れられて前記排泄・残存物を沈殿させて分離するようになっており、前記泡沫分離装置は前記排泄・残存物を含む前記養殖水槽の水が入れられると共に直径30nm~200nmの空気の気泡が供給され、浮上した前記排泄・残存物が分離されるようになっている、請求項1または2に記載の魚介類養殖システム。
【請求項4】
前記排泄・残存物処理生物飼育槽で飼育する前記排泄・残存物処理生物にはコオロギが含まれており、前記魚介類には前記排泄・残存物処理生物を加工したものが餌として与えられるようになっている、請求項1または2に記載の魚介類養殖システム。
【請求項5】
前記養殖水槽には熱交換器が設けられ、前記熱交換器には、畜産場の糞尿を発酵させる糞尿発酵設備における発酵熱、工場における排熱、あるいは太陽熱温水器を利用して加熱された熱媒体が送られると共に前記養殖水槽の水が送られ、前記熱媒体との間で熱交換して前記養殖水槽の水を加温するようになっている、請求項1または2に記載の魚介類養殖システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類を養殖する水槽を備えた魚介類養殖システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
陸上に構築される魚介類養殖システムは、海、河川、あるいは自然の湖沼と異なる人工的な設備において飼育水を貯水、循環させて魚介類を飼育するシステムである。飼育水を貯水し循環する人工的な設備は、水槽、養殖池等、いろいろな呼び名で呼ばれており、これらを総称して水槽と呼ぶことができる。魚介類養殖システムは、水槽に飼育水を貯水し、魚介類を飼育するようになっており、飼育水に酸素を供給する装置、魚介類に与える餌、魚介類から排出される糞等を除去する装置、等色々な装置が組み合わされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2023-040950号公報
【0004】
特許文献1には、魚介類を養殖する飼育水貯留槽すなわち水槽と、その下流に設けられ飼育水から固形物を除去するろ過装置と、ろ過された飼育水にエアレーションを施して汚れを除去する泡沫ろ過槽と、を備えた魚介類養殖システムが提案されている。このシステムには、微生物処理により飼育水を浄化する生物ろ過槽と、飼育水から窒素分を除去する脱窒装置とが設けられている。このように構成されているので、飼育水は汚れが適切に除去されて水質が維持され、魚介類を長期間飼育することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の魚介類養殖システムは、飼育水から汚れを除去して飼育水の水質を維持することができ優れている。しかしながら、特許文献1に記載の魚介類養殖システムだけでなく、他の従来の魚介類養殖システムには解決すべき課題が見受けられる。具体的には飼育水から除去された汚れの処理である。このような汚れには魚介類に与えた餌の残存物と、魚介類が排泄した排泄物とが含まれており、比較的大量に発生する。このような餌の残存物と排泄物は産業廃棄物として処理する必要があり、廃棄にコストが嵩む。
【0006】
餌代の問題もある。魚介類に与える餌は、鰯、小魚等の魚粉、オキアミ、環形動物等からなる。近年、これらの漁獲量の減少により餌代の価格が高騰している。餌代の高騰が養殖におけるコスト高の大きな原因になっている。
【0007】
本発明は、上記したような問題点を解決することを目的としている。すなわち、餌の残存物や排泄物の処理に要する廃棄コストを低減でき、さらには餌に要するコストを低減できる魚介類養殖システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、魚介類を養殖する養殖水槽と、養殖水槽から魚介類の排泄物や食べ残された餌からなる排泄・残存物を分離する排泄・残存物分離手段と、分離された排泄・残存物を餌として、昆虫および環形動物の少なくとも一方である排泄・残存物処理生物を飼育する排泄・残存物処理生物飼育槽と、を備えた魚介類養殖システムとして構成する。そしてこのように飼育した排泄・残存物処理生物を魚介類の餌として与えるように構成する。
【0009】
本願の他の発明は、魚介類養殖システムに排泄・残存物処理槽を備えるようにし、排泄・残存物は排泄・残存物処理槽に投入されて糸状菌及び微生物の少なくとも一方により処理する。そして排泄・残存物処理生物飼育槽には処理された排泄・残存物が餌として供給されるようにする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、魚介類の排泄物や食べ残された餌からなる排泄・残存物は排泄・残存物分離手段によって分離され、排泄・残存物処理生物を飼育する排泄・残存物処理生物飼育槽に供給される。そうすると、昆虫、環形動物等の排泄・残存物処理生物を、排泄・残存物によって飼育することができる。すなわち、従来産業廃棄物として廃棄してきた排泄・残存物を利用することができ廃棄コストを削減できる。そして、本発明によると、このように飼育した排泄・残存物処理生物は魚介類の餌として与えるようになっているので、餌代を節約して餌代に要するコストを低減することができる。
【0011】
本願の他の発明によると、排泄・残存物は排泄・残存物処理槽に投入されて糸状菌及び微生物の少なくとも一方により処理し、処理したものを排泄・残存物処理生物飼育槽に供給するようにしている。糸状菌、微生物等により処理すると、昆虫、環形動物等が代謝しやすい状態になる。そうすると、昆虫、環形動物等の排泄・残存物処理生物を効率良く飼育することができる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1の実施の形態に係る魚介類養殖システムを示す正面図である。
図2】第2の実施の形態に係る魚介類養殖システムを示す正面図である。
図3】第3の実施の形態に係る魚介類養殖システムを示す正面図である。
図4】第1の実施の形態の変形例に係る魚介類養殖システムの一部を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1の実施形態]
<陸上養殖システム>
第1の実施の形態を説明する。
第1の実施形態に係る魚介類養殖システム1が図1に示されている。魚介類養殖システム1は、飼育水が入れられ魚介類を養殖する養殖水槽3、魚介類の排泄物や餌の残存物である排泄・残存物を分離する排泄・残存物分離手段4、昆虫等を飼育する排泄・残存物処理生物飼育槽5、空気を供給する空気供給装置7、等を備えている。これらについて順次説明する。魚介類養殖システム1には飼育水の水温を調整する水温調整装置や、養殖に必要な各種装置も設けられているが、図1には示されていない。
【0014】
<水槽>
養殖水槽3はどのような形状から形成されていてもよく、例えば底面が平面状の水槽から形成することもできる。この実施の形態においては、養殖水槽3の底部は摺鉢状に形成され、排出部10が設けられている。養殖水槽3で飼育する魚介類が排出する排出物、あるいは魚介類に与える餌の残存物は比重が大きいので沈降し、底部近傍に滞留する。滞留した排泄・残存物を多く含んだ飼育水が、この排出部10から外部に排出されるようになっている。養殖水槽3には飼育水に酸素を供給する気泡発生部11が設けられている。空気供給装置7から送り込まれる空気が気泡発生部11によって微細な気泡となり、飼育水に供給される。気泡の径に限定はないが、径が100μm~200μmのようないわゆるマイクロバブルを供給してもよいし、30nm~50μmのようないわゆるナノバブルを供給してもよい。
【0015】
<排泄・残存物分離手段>
第1の実施形態において排泄・残存物分離手段4は、沈殿槽13と、泡沫分離装置14とから構成されている。沈殿槽13は、養殖水槽3の排出部10から排出された排泄・残存物を含んだ飼育水が供給されるようになっており、排泄・残存物を沈降させるようになっている。沈殿槽13には底部に開閉弁16付きの排出部が設けられている。開閉弁16を開けると排泄・残存物を排出することができる。また沈殿槽13には流出部17が設けられ、排泄・残存物が沈降した後の上澄みの飼育水が排出されるようになっている。
【0016】
泡沫分離装置14は、沈殿槽13の流出部17から排出された飼育水が供給される飼育水溜容器19と、この飼育水溜容器19に入れられている泡沫収集容器20と、気泡発生部23と、から構成されている。泡沫収集容器20は、底部が大径になっていると共に上部に向かって縮径した形状になっており、底部と上部は開口している。泡沫収集容器20にはその上部近傍に皿状の泡沫収集皿21が設けられている。気泡発生部23は、泡沫収集容器20の底部に設けられている。空気供給装置7から送り込まれる空気が気泡発生部23に供給されると、径が30nm~50μmの微細な気泡と共に、径が100μm~200μmの気泡が泡沫収集容器20内で発生する。微細な気泡は飼育水中に浮遊している微細な汚れを凝集させる効果があり、比較的径が大きい気泡は凝集した汚れ、つまり排泄・残存物を浮上させる効果がある。したがって、飼育水中に分散している微細な排泄・残存物が凝集・浮上して泡沫収集容器を上部に集められる。集められた気泡を多量に含んだ排泄・残存物は上部の開口部から排出され泡沫収集皿21に受けられることになる。微細な排泄・残存物が除去され浄化された飼育水は、出口24から排出され、養殖水槽3に戻される。
【0017】
<排泄・残存物処理生物飼育槽>
排泄・残存物処理生物飼育槽5は、昆虫および環形動物の少なくとも一方である排泄・残存物処理生物を飼育する槽になっている。昆虫としては例えばコオロギがあり、環形動物としてはワーム、ミミズ等がある。排泄・残存物処理生物飼育槽5には必要に応じて腐葉土や木屑等が入れられており、また必要に応じて太陽光が照射され、あるいはLED等により太陽光に擬した光が照射されるようになっている。排泄・残存物分離手段4つまり沈殿槽13や泡沫分離装置14において分離された排泄・残存物が排泄・残存物処理生物飼育槽5に入れられる。図1には示されていないが、脱水装置等を設けて排泄・残存物を脱水してから排泄・残存物処理生物飼育槽5に投入してもよい。投入された排泄・残存物を餌として飼育すると排泄・残存物処理生物は繁殖する。排泄・残存物処理生物飼育槽5において飼育された排泄・残存物処理生物は、定期的に捕獲して、養殖水槽3で養殖している魚介類の餌として与える。排泄・残存物処理生物は、必要に応じて練り餌等にしてもよい。排泄・残存物は、排泄・残存物処理生物の餌として処理することができ、排泄・残存物処理生物は魚介類の餌として利用できるので、廃棄コストが節約できると共に餌代の節約になる。
【0018】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係る魚介類養殖システム1Aについて、図2によって説明する。第2の実施形態に係る魚介類養殖システム1Aを構成している構成要素について、第1の実施形態と同様の構成要素については同じ参照番号を付して説明を省略する。第1の実施形態と相違している点についてのみ説明する。
【0019】
第2の実施形態に係る魚介類養殖システム1Aは、複数の点で第1の実施形態と相違している。まず、第2の実施形態に係る魚介類養殖システム1Aは、高濃度の酸素を含む空気を生成する酸素生成装置31と、これを圧縮して供給する圧縮供給装置32とを備えている。これらによって養殖水槽3の気泡発生部11に酸素を高濃度で含んだ空気が供給され、飼育水の溶存酸素濃度を高めることができるようになっている。第1の実施形態に設けられていた空気供給装置7は、この第2の実施形態においては泡沫分離装置14にのみ接続され、圧縮空気は泡沫分離装置14の気泡発生部23に供給されるようになっている。
【0020】
第2の実施形態に係る魚介類養殖システム1Aが第1の実施形態と相違している点として、飼育水を殺菌する殺菌装置35を備えている点がある。魚介類の種類によっては、飼育水を浄化するだけでなく殺菌が必要な種類があり、このような種類に対応して殺菌装置35が設けられている。泡沫分離装置14で微細な排泄・残存物が除去され浄化された飼育水は、一旦殺菌装置35に送られる。殺菌装置35は、たとえば紫外線を照射したりオゾンガスを混和するようになっており、飼育水を殺菌する。養殖水槽3には、このように殺菌された飼育水が戻される。
【0021】
第2の実施形態に係る魚介類養殖システム1Aは、排泄・残存物処理槽37を備えている点も、第1の実施形態と相違している。排泄・残存物処理槽37は、必要に応じて温調されるようになっており、沈殿槽13や泡沫分離装置14において分離された排泄・残存物が入れられる。排泄・残存物処理槽37では、キノコ等の糸状菌あるいは微生物、もしくはこれらの両方によって、排泄・残存物が処理される。そして処理された排泄・残存物が、糸状菌等と共に排泄・残存物処理生物飼育槽5に送られる。つまり排泄・残存物処理生物飼育槽5では処理された排泄・残存物が排泄・残存物処理生物の餌として与えられるようになっている。排泄・残存物は糸状菌、微生物によって処理されているので、昆虫や環形動物の飼育に適した状態になっている。したがって、効率良く排泄・残存物処理生物が飼育される。
【0022】
第2の実施形態に係る魚介類養殖システム1Aには、排泄・残存物処理生物を加工する加工装置39が設けられている点にも特徴がある。排泄・残存物処理生物飼育槽5で飼育された排泄・残存物処理生物は、加工装置39によって適宜加工される。例えば、乾燥し、粉末にされた後に練り餌にされる。あるいは、このとき必要な栄養素が添加されてもよい。
【0023】
[第3の実施形態]
第3の実施形態に係る魚介類養殖システム1Bについて、図3によって説明する。第3の実施形態に係る魚介類養殖システム1Bは、1台のコンテナ40からなり、養殖水槽3等の養殖に必要な構成要素がコンテナ40に収納されている。第3の実施形態に係る魚介類養殖システム1Bを構成している構成要素について、第1、第2の実施形態と同様の構成要素については同じ参照番号を付して詳しい説明は省略する。
【0024】
第3の実施形態に係る魚介類養殖システム1Bは、内部に太陽光が入らないコンテナ40から構成されている。したがって、養殖水槽3と排泄・残存物処理生物飼育槽5には、それぞれ照明41、41、42、42、…が設けられ、太陽光を導光した光や太陽光に擬した光が適宜照射されるようになっている。第3の実施形態に係る魚介類養殖システム1Bでは、排泄・残存物分離手段4Bは簡略的に構成されている。すなわち排泄・残存物分離手段4Bは、沈殿槽13のみから構成されている。沈殿槽13における上澄みの飼育水は流出部17から排出されて、そのまま養殖水槽3に戻されるようになっている。第3の実施形態に係る魚介類養殖システム1Bは、コンテナ40に収納されているので、トレーラ等により搬送することができ、所望の場所で養殖が実施できる。また、複数のコンテナ40を連結してもよく、集積度の高い養殖が可能になるというメリットもある。
【0025】
[変形例]
第1~3の実施形態に係る魚介類養殖システム1、1A、1Bは色々な変形が可能である。例えば、排泄・残存物処理生物飼育槽5に供給する排泄・残存物処理生物の餌として、排泄・残存物以外の他の餌も補助的に与えることができる。例えば、養豚場、養鶏場等の畜産場において発生する糞尿を発酵させる。このような発酵済みの糞尿は肥料として利用されているが、その一部を排泄・残存物処理生物の餌として追加で与えてもよい。
【0026】
糞尿の発酵においては大量の熱、すなわち発酵熱が発生する。この発酵熱を利用して養殖水槽3の飼育水を加温することもできる。あるいは近隣の工場の排熱を利用して養殖水槽3の飼育水を加温することもできる。図4には、畜産場の糞尿を発酵させる糞尿発酵施設45における発酵熱、あるいは工場46の排熱を利用するシステムが示されている。糞尿発酵施設45の発酵熱を利用する場合には、糞尿発酵施設45に溜められている糞尿に熱交換器を埋める。一方、工場46の排熱を利用する場合には、排水設備等に熱交換器を設ける。なお、糞尿発酵施設45に埋められている熱交換器や工場46に設けられている熱交換器は図4に示されていない。これら熱交換器によって水等の熱媒体を加熱し、熱媒体を養殖水槽3に設けられている熱交換器50に送る。熱交換器50には、養殖水槽3の飼育水も送られる。熱交換器50において熱媒体と飼育水とで熱交換し、飼育水を加温する。
【0027】
第1~3の実施の魚介類養殖システム1、1A、1Bは他にも変形が可能である。例えばこれらを構成するそれぞれの構成要素にセンサ、カメラ等を設けるようにすることができる。例えば養殖水槽3においてはセンサとして水温、溶存酸素濃度計、pH計、窒素計、硬度計、伝導率計、濁度計を設け、排泄・残存物処理生物飼育槽5には、温度計、湿度計等を設ける。そしてそれぞれの構成要素についてカメラを設ける。これらのセンサから得られるデータ、およびカメラから得られる映像について、経時間的に収集しコンピュータにロギングする。ロギングしたデータを元にして、養殖が適切に実施されているか否かを判断することができる。
【0028】
[実験]
第1~3の実施形態に係る魚介類養殖システム1、1A、1Bが、適切に機能することを確認するため、いくつかの実験を行った。以下、これらの実験について説明する。
【実施例0029】
第1の実験:
養殖水槽3で発生する排泄・残存物を、排泄・残存物処理生物飼育槽5に供給して、排泄・残存物処理生物が飼育できるか否かを確認する実験を行った。
実験方法:
マス養殖場において発生した排泄・残存物を採取し、自然乾燥させて排泄・残存物Aとして500gを得た。排泄・残存物Aを排泄・残存物処理生物飼育槽5に擬した飼育槽Aに供給した。飼育槽Aには、排泄・残存物処理生物としてフタホシコオロギを選定し、100gの成虫を投入し、25℃で2ヶ月間飼育した。
実験結果:
飼育により増殖したフタホシコオロギの成虫の重量を測定したところ、飼育開始時に100gだったものが、1ヶ月後には160g、2ヶ月後には220gに繁殖していた。
考察:
養殖水槽3で発生する排泄・残存物は、排泄・残存物処理生物飼育槽5における排泄・残存物処理生物の餌として利用することができ、そして排泄・残存物処理生物が繁殖することが確認できた。
【実施例0030】
第2の実験:
養殖水槽3で発生する排泄・残存物を排泄・残存物処理槽37に供給して処理した後に、処理済みの排泄・残存物を排泄・残存物処理生物飼育槽5に供給して、排泄・残存物処理生物が飼育できるか否か、そしてこれが魚介類の餌として必要な栄養を備えているか否かについて確認する実験を行った。
実験方法および実験結果:
市販の餌である魚類用ドライペレット(日清丸紅飼料株式会社製)を、コイ、フナ、クチボソ、メダカからなる魚介類に与えて糞を採取し、乾燥させた。そしてこの乾燥した糞と、魚類用ドライペレットとを3:7の比率になるように混合し、混合物を得た。
混合物300gを取り分け、多摩川より採水した河川水120ccで混練し、420gの排泄・残存物を得た。これを25℃で60日間培養し、処理済み排泄・残存物B1を得た。
混合物300gを取り分け、ドライ酵母を添加すると共に滅菌水120ccを加えて混練し、420gの排泄・残存物を得た。これを25℃で60日間培養し、処理済み排泄・残存物B2を得た。
混合物300gを取り分け、卵の殻5gと、乾燥牛糞50gと、滅菌水120ccと、牛舎近傍で採取した土壌少々を加えて混合し、500gの排泄・残存物を得た。これを25℃で60日間培養し、処理済み排泄・残存物B3を得た。
処理済み排泄・残存物B1、B2、B3をそれぞれ排泄・残存物処理生物飼育槽5に擬した飼育槽B1、B2、B3に供給して、それぞれの飼育槽B1、B2、B3に、排泄・残存物処理生物として選定したフタホシコオロギの成虫100gを投入し、飼育した。
飼育槽B1、B2、B3のそれぞれを25℃にして10日間飼育したところ、それぞれ、成虫の個体は1.5~3倍に増えていた。
飼育槽B1、B2、B3のそれぞれにおいて成虫100gを採取し、それぞれ排泄・残存物処理生物B1、B2、B3とし、これらの栄養を測定したところ以下となった。
排泄・残存物処理生物B1の栄養分は100g中、タンパク質41.7g、炭水化物3.9g、脂質11.6gであった。
排泄・残存物処理生物B2の栄養分は100g中、タンパク質56.8g、炭水化物7.8g、脂質30.8gであった。
排泄・残存物処理生物B3の栄養分は100g中、タンパク質57.4g、炭水化物8.1g、脂質32.0gであった。
考察:
養殖水槽3で発生する排泄・残存物は、排泄・残存物処理槽37に供給して処理した後に、処理済みの排泄・残存物処理生物飼育槽5における排泄・残存物処理生物の餌として利用することができることが確認できた。そしてこのようにして飼育された排泄・残存物処理生物は、魚介類の餌として十分な栄養を含んでいることが確認できた。
【実施例0031】
第3の実験:
排泄・残存物処理生物飼育槽5で飼育した排泄・残存物処理生物について、養殖水槽3で養殖している魚介類の餌として利用が可能か否かを確認するため、実験を行った。
実験方法:
市販の餌である魚類用ドライペレット(日清丸紅飼料株式会社製)を、コイに与えて糞と食べ残しの餌とを採取し、これを排泄・残存物Cとした。排泄・残存物Cを排泄・残存物処理生物として選定したミルワームに与え、排泄・残存物処理生物飼育槽5に擬した飼育槽Cで生育した。
養殖水槽3に擬した水槽C1、C2を用意し、水槽C1には魚介類としてアメリカザリガニ10匹を、水槽C2には魚介類として体長約10cm、約15gのコイを5匹入れた。水槽C1には飼育したミルワームを毎日10匹、そのままの状態で餌として与えるようにし、水槽C2には、ミルワームをミキサでペースト状にしたものを、毎日コイの合計の重量の4%に相当する量を餌として与えるようにした。
実験結果:
水槽C1、水槽C2においてそれぞれアメリカザリガニとコイとを6ヶ月飼育したところ、それぞれの重量は次のようになった。
水槽C1のアメリカザリガニは、飼育開始時の全重量が38gであったところ、3ヶ月目には55gになり、6ヶ月後には140gになっていた。
水槽C2のコイは飼育開始時の全重量が68gであったところ、3ヶ月目には91gになり、6ヶ月後には211gになっていた。
考察:
排泄・残存物処理生物飼育槽5において飼育した排泄・残存物処理生物は、養殖水槽3において養殖している魚介類の餌として利用できることが確認できた。
【符号の説明】
【0032】
1 魚介類養殖システム 3 養殖水槽
4 排泄・残存物分離手段 5 排泄・残存物処理生物飼育槽
7 空気供給装置 10 排出部
11 気泡発生部 13 沈殿槽
14 泡沫分離装置 16 開閉弁
17 流出部 19 飼育水容器
20 泡沫収集容器 21 泡沫収集皿
23 気泡発生部 31 酸素生成装置
32 圧縮供給装置 35 殺菌装置
37 排泄・残存物処理槽 39 加工装置
40 コンテナ 41 照明
42 照明
45 糞尿発酵施設 46 工場
50 熱交換器
図1
図2
図3
図4