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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163448
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】推進器制御装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   B63H 21/21 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
B63H21/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079048
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100145481
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 昌邦
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【弁理士】
【氏名又は名称】白石 卓也
(72)【発明者】
【氏名】藤村 達也
(57)【要約】
【課題】目標船速への追従性を安定させること。
【解決手段】推進器制御装置は、算出部と、制御部と、補正部とを備える。算出部は、推進器を備える船舶の対地船速を目標船速に追従させる船速フィードバック制御により前記推進器の目標推進力を算出する。制御部は、算出された前記目標推進力に従って、前記推進器を制御する。補正部は、前記対地船速に対する前記目標船速の大小関係と、前記対地船速に対する前記船舶の対水船速の大小関係と、が一致するという特定条件が満たされる場合、前記特定条件が満たされない場合よりも前記船速フィードバック制御の応答性が大きくなるように前記目標推進力を補正する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進器を備える船舶の対地船速を目標船速に追従させる船速フィードバック制御により前記推進器の目標推進力を算出する算出部と、
算出された前記目標推進力に従って、前記推進器を制御する制御部と、
前記対地船速に対する前記目標船速の大小関係と、前記対地船速に対する前記船舶の対水船速の大小関係と、が一致するという特定条件が満たされる場合、前記特定条件が満たされない場合よりも前記船速フィードバック制御の応答性が大きくなるように前記目標推進力を補正する補正部と、
を備える推進器制御装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記対地船速と前記対水船速の差分から補正量を算出し、
前記補正部は、前記船速フィードバック制御により算出した前記目標推進力に前記補正量を加えることで、前記船速フィードバック制御の応答性を補正し、
前記補正量は、前記特定条件が満たされない場合よりも前記特定条件が満たされる場合の方が大きい、
請求項1に記載の推進器制御装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記船速フィードバック制御におけるゲインを、前記特定条件が満たされない場合よりも前記特定条件が満たされる場合の方が大きくなるように補正する、
請求項1または2に記載の推進器制御装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記特定条件が満たされる場合、前記対地船速と前記対水船速との差分が大きくなるほど前記応答性が大きくなるように補正し、前記差分が小さくなるほど前記応答性が小さくなるように補正する、
請求項1または2に記載の推進器制御装置。
【請求項5】
前記推進器は、可変ピッチプロペラおよび主機を含み、
前記船速フィードバック制御では、前記対地船速と前記対水船速との差分に基づいて、前記目標推進力である前記可変ピッチプロペラの目標翼角と前記主機の目標回転数とがそれぞれ算出され、
前記補正部は、前記特定条件が満たされる場合、前記特定条件が満たされない場合よりも前記応答性が大きくなるように前記目標翼角を補正し、前記目標回転数を補正しない、
請求項1または2に記載の推進器制御装置。
【請求項6】
推進器制御装置のコンピュータを、
推進器を備える船舶の対地船速を目標船速に追従させる船速フィードバック制御により前記推進器の目標推進力を算出する算出部、
算出された前記目標推進力に従って、前記推進器を制御する制御部、
前記対地船速に対する前記目標船速の大小関係と、前記対地船速に対する前記船舶の対水船速の大小関係と、が一致するという特定条件が満たされる場合、前記特定条件が満たされない場合よりも前記船速フィードバック制御の応答性が大きくなるように前記目標推進力を補正する補正部、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進器制御装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶では、実際の船速が目標船速に近付くように、エンジンへの回転指令を制御することが行われている。例えば、実際の船速と、目標船速との差に応じて、基本エンジン回転数を補正して目標エンジン回転数に設定し、目標エンジン回転数に基づいて、実際の船速が目標船速に近づくようにエンジンを制御する技術が開示されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-088119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術では、海象や気象の影響によって、目標船速への追従性が安定しないことがある、という問題があった。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は、目標船速への追従性を安定させることができる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る推進器制御装置は、推進器を備える船舶の対地船速を目標船速に追従させる船速フィードバック制御により前記推進器の目標推進力を算出する算出部と、算出された前記目標推進力に従って、前記推進器を制御する制御部と、前記対地船速に対する前記目標船速の大小関係と、前記対地船速に対する前記船舶の対水船速の大小関係と、が一致するという特定条件が満たされる場合、前記特定条件が満たされない場合よりも前記船速フィードバック制御の応答性が大きくなるように前記目標推進力を補正する補正部と、を備える推進器制御装置である。
上記構成によれば、加減速を行う場合に、追い潮または逆潮に応じた最適な目標推進力とすることができる。したがって、海象や気象の影響にかかわらず、目標船速への追従性を安定させることができる。
【0007】
上記構成において、前記算出部は、前記対地船速と前記対水船速の差分から補正量を算出し、前記補正部は、前記船速フィードバック制御により算出した前記目標推進力に前記補正量を加えることで、前記船速フィードバック制御の応答性を補正し、前記補正量は、前記特定条件が満たされない場合よりも前記特定条件が満たされる場合の方が大きくなるようにしてもよい。
上記構成によれば、追い潮時に減速する場合や逆潮時に増速する場合に、目標船速への追従性を安定させることができる。
【0008】
上記構成において、前記補正部は、前記船速フィードバック制御におけるゲインを、前記特定条件が満たされない場合よりも前記特定条件が満たされる場合の方が大きくなるように補正するようにしてもよい。
上記構成によれば、追い潮時に減速する場合や逆潮時に増速する場合に、オーバーシュートを抑えつつ、目標推進力に最適なタイミングで追従させることができる。
【0009】
上記構成において、前記補正部は、前記特定条件が満たされる場合、前記対地船速と前記対水船速との差分が大きくなるほど前記応答性が大きくなるように補正し、前記差分が小さくなるほど前記応答性が小さくなるように補正するようにしてもよい。
上記構成によれば、海流速度に応じた最適な目標推進力に補正することができる。したがって、目標船速への追従性をより安定させることができる。
【0010】
上記構成において、前記推進器は、可変ピッチプロペラおよび主機を含み、前記船速フィードバック制御では、前記対地船速と前記対水船速との差分に基づいて、前記目標推進力である前記可変ピッチプロペラの目標翼角と前記主機の目標回転数とがそれぞれ算出され、前記補正部は、前記特定条件が満たされる場合、前記特定条件が満たされない場合よりも前記応答性が大きくなるように前記目標翼角を補正し、前記目標回転数を補正しないようにしてもよい。
上記構成によれば、翼角を変動させることによって、実船速への追従性を改善するため、エンジン111の回転数を変動させると仮定した場合と比較して、燃費の低下を回避しつつ、目標船速への追従性をより安定させることができる。
【0011】
本発明の一態様に係るプログラムは、推進器制御装置のコンピュータを、推進器を備える船舶の対地船速を目標船速に追従させる船速フィードバック制御により前記推進器の目標推進力を算出する算出部、算出された前記目標推進力に従って、前記推進器を制御する制御部、前記対地船速に対する前記目標船速の大小関係と、前記対地船速に対する前記船舶の対水船速の大小関係と、が一致するという特定条件が満たされる場合、前記特定条件が満たされない場合よりも前記船速フィードバック制御の応答性が大きくなるように前記目標推進力を補正する補正部、として機能させるプログラムである。
上記構成によれば、加減速を行う場合に、追い潮または逆潮に応じた最適な目標推進力とすることができる。したがって、海象や気象の影響にかかわらず、目標船速への追従性を安定させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、目標船速への追従性を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る船舶1の概略構成図。
図2】翼角と回転数とのコンビネーションカーブの一例を示す図。
図3】推進器制御装置100が行う、翼角についての船速フィードバック制御処理の一例を示すフローチャート。
図4A】増速時の海流フィードバック制御に係る感度特性の一例を示す図。
図4B】減速時の海流フィードバック制御に係る感度特性の一例を示す図。
図5】推進器制御装置100が行う海流フィードバック制御処理の一例を示すフローチャート。
図6】推進器制御装置100が行う、回転数についての船速フィードバック制御処理の一例を示すフローチャート。
図7】変形例2に係る推進器制御装置100が行う、回転数についての船速フィードバック制御処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、実施形態に係る船舶1の概略構成図である。図1に示すように、船舶1は、推進器制御装置100と、推進器110とを備える。推進器110は、例えば、エンジン(主機)111と、可変ピッチプロペラ112と、を備える。船舶1は、いわゆるCPP(Controllable Pitch Propeller)船である。
【0015】
エンジン(主機)111は、指令に応じた所定の回転数で可変ピッチプロペラ112を回転させる。可変ピッチプロペラ112は、指令に応じてプロペラの角度(翼角)を自在に変えることが可能である。可変ピッチプロペラ112は、翼角を変えることによって、一定の回転方向および回転数を保持しつつ、任意の前後方向の推進力を得ることが可能である。
【0016】
推進器制御装置100は、船舶1の自律運行(自動運転)を可能にする。具体的には、推進器制御装置100は、後述する船速フィードバック制御により船舶1の船速を制御する。これにより、船舶1は、運行計画に沿って、所定の到着時刻に、所定の目的地に到着するよう運行する。
【0017】
推進器制御装置100は、取得部101と、算出部102と、制御部103と、補正部104との各機能部を備える。各機能部は、CPU等のプロセッサによって実現される。すなわち、プロセッサが所定の記憶部に記憶されている推進器制御プログラムを実行することにより、各機能部を実現する。なお、各機能部のうち一部または全部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)等のカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を用いて実現されてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。このような集積回路も、プロセッサの一例に含まれる。
【0018】
取得部101は、各種船速を取得する。各種船速は、目標船速、対地船速、および対水船速を含む。目標船速は、指令船速である。目標船速は、例えば、船橋(ブリッジ)内に設けられる所定のハンドルや、機関室内のコントロールルームに設けられる所定の操作部が受け付ける速度である。所定の操作部が受け付けた目標船速は、遠隔装置によって推進器制御装置100(取得部101)へ送信される。これにより、取得部101は、目標船速を取得する。
【0019】
対地船速は、地面に対する船速(実船速)である。船舶1は、不図示の対地船速計を備える。対地船速計は、船舶1の位置情報や地図情報に基づいて、対地船速を検出する。取得部101は、対地船速計から、対地船速を取得する。
【0020】
対水船速は、海面に対する船速である。船舶1は、不図示の対水船速計を備える。対水船速計は、例えば、船舶1の船底から海底に向けて発射した超音波の反射波を検出し、当該検出結果に基づいて対水船速を検出する。取得部101は、対水船速計から、対地船速を取得する。なお、対地船速計および対水船速計は、それぞれ別の装置であってもよいし、一の装置(例えば、航海用電子海図)であってもよい。
【0021】
算出部102は、船速フィードバック制御により推進器110の目標推進力を算出する。船速フィードバック制御は、対地船速を目標船速に追従させるための制御である。目標推進力は、可変ピッチプロペラ112の目標翼角、および、エンジン111の目標回転数を含む。目標推進力は、例えば、目標船速と対地船速との差分に応じた値である。具体的には、目標推進力は、例えば、目標船速と対地船速との差分が大きければ大きくなるように算出され、一方で、目標船速と対地船速との差分が小さければ小さくなるように算出される。
【0022】
制御部103は、算出部102によって算出された目標推進力に従って、推進器110を制御する。具体的には、制御部103は、船舶1を目標船速で運転させるために、目標翼角で可変ピッチプロペラ112を回転させ、また、目標回転数でエンジン111を回転させる。
【0023】
船速フィードバック制御は、海流フィードバック制御を含む。海流フィードバック制御は、海流を考慮したフィードバック制御である。詳細については、図4A図4B図5を用いて後述するが、海流フィードバック制御は、船舶1を増速させる際または減速させる際に、それぞれ海流(追い潮または逆潮)に応じて、目標翼角に補正量を加える制御である。なお、海流フィードバック制御は、操作者からの操作に応じて、オン/オフの切替えを可能にしてもよい。
【0024】
ここで、図2を用いて、運行時における目標翼角と目標回転数とのコンビネーションカーブの一例について説明する。
図2は、目標翼角と目標回転数とのコンビネーションカーブの一例を示す図である。図2において、横軸は、船速を制御するハンドルの位置(ハンドル位置)を示す。
【0025】
図2において、縦軸は、ハンドル位置に応じた、可変ピッチプロペラ112の目標翼角とエンジン111の目標回転数とを示す。図2に示すように、翼角カーブ210は、ハンドル位置が変わると、目標翼角についても変化することを示している。一方で、回転数カーブ220は、ハンドル位置がp1~p2の範囲では目標回転数が一定(X回転)であることを示している。また、回転数カーブ220は、ハンドル位置がp1以下となった場合やp2以上となった場合に、目標回転数が変化することを示している。
【0026】
図2に示すように、ハンドル位置に変更があった場合(目標船速が変わった場合)、ハンドル位置がp1以下またはp2以上を除いたほとんどの範囲(p1~p2の範囲)で、速度変更に係る制御対象は、翼角(可変ピッチプロペラ112)である。このため、本実施形態では、海流に基づくフィードバック制御(海流フィードバック制御)における制御対象を翼角(可変ピッチプロペラ112)とする。言い換えれば、本実施形態では、回転数(エンジン111)についての海流フィードバック制御を行わないこととする。
【0027】
<海流フィードバック制御>
補正部104は、海流に基づいて船速フィードバック制御の応答性を可変にして、目標翼角を補正する。海流は、対地船速と対水船速との比較から得られ、追い潮または逆潮を示す。具体的には、「対地船速>対水船速」の関係であれば、海流は、追い潮を示す。一方で、「対地船速<対水船速」の関係であれば、海流は、逆潮を示す。
【0028】
補正部104によって補正される補正量は、算出部102によって算出される。例えば、追い潮時に増速させる場合、増速しやすいため、算出部102は、目標翼角を小さくする補正量を算出する。また、逆潮時に増速させる場合、増速しにくいため、算出部102は、目標翼角を大きくする補正量を算出する。補正部104は、船速フィードバック制御により算出した目標翼角に、算出部102によって算出された補正量を加えることで、船速フィードバック制御の応答性を補正する。
【0029】
<翼角についての船速フィードバック制御処理>
ここで、図3を用いて、翼角についての船速フィードバック制御処理について、説明する。
図3は、推進器制御装置100が行う、翼角についての船速フィードバック制御処理の一例を示すフローチャートである。図3の船速フィードバック制御は、例えば、航海中に常時実行される制御である。
【0030】
図3において、推進器制御装置100は、取得部101によって取得された目標翼角w(指令翼角)に実翼角(現在の翼角)をセットする(ステップS301)。次に、推進器制御装置100は、実船速が目標船速(指令船速)に対して遅過ぎているか否かの判断として、目標船速から対地船速を減算した値が速度閾値α1以上であるか否かを判断する(ステップS302)。目標船速から対地船速を減算した値が速度閾値α1以上である場合(ステップS302:YES)、すなわち、実船速が目標船速に対して遅過ぎている場合、算出部102は、増速に係る目標翼角w1(例えば、正の値)を算出する(ステップS303)。
【0031】
そして、算出部102は、海流速度に基づく増速補正量a1(例えば、正の値)を算出する(ステップS304)。なお、増速補正量a1は、図5の海流フィードバック制御処理において算出される値であり、海流速度に応じて大きさが変わる値である。次に、補正部104は、目標翼角w1に増速補正量a1を加えることによって補正した目標翼角(w1+a1)を目標翼角wにセットする(ステップS305)。そして、制御部103は、新たにセットされた目標翼角wに実翼角が追従するように、可変ピッチプロペラ112を増速制御する(ステップS306)。
【0032】
ステップS302において、目標船速から対地船速を減算した値が制御閾値α1以上ではない場合(ステップS302:NO)、すなわち、実船速が目標船速に対して遅過ぎてはいない場合、推進器制御装置100は、実船速が速過ぎているか否かの判断として、目標船速から対地船速を減算した値が速度閾値α2(<α1)以下であるか否かを判断する(ステップS307)。
【0033】
目標船速から対地船速を減算した値が速度閾値α2以下ではない場合(ステップS307:NO)、すなわち、実船速が目標船速に対して速過ぎても遅すぎてもいない場合(実船速が目標船速(目標船速の所定範囲内)である場合)、推進器制御装置100は、ステップS312に進む。
【0034】
一方、目標船速から対地船速を減算した値が制御閾値α2以下である場合(ステップS307:YES)、すなわち、実船速が目標船速に対して速過ぎている場合、算出部102は、減速に係る目標翼角w2(例えば、負の値)を算出する(ステップS308)。
【0035】
そして、算出部102は、海流フィードバック制御によって減速補正量a2(例えば、負の値)を算出する(ステップS309)。なお、減速補正量a2は、図5の海流フィードバック制御処理において算出される値であり、海流速度に応じて大きさが変わる値である。次に、補正部104は、目標翼角w2に減速補正量a2を加えることによって補正した目標翼角(w2+a2)を目標翼角wにセットする(ステップS310)。そして、制御部103は、新たにセットされた目標翼角wに実翼角が追従するように、可変ピッチプロペラ112を減速制御する(ステップS311)。
【0036】
次に、推進器制御装置100は、船速フィードバック制御を終了するか否かを判断する(ステップS312)。船速フィードバック制御の終了は、例えば、航海の終了を示す情報が入力されることである。当該情報は、目的地への到着を示す情報や、所定の操作入力を示す情報である。所定の操作入力は、航海の終了を示す操作入力としてもよいし、自動運転の終了を受け付ける操作入力としてもよい。
【0037】
船速フィードバック制御を終了しない場合(ステップS312:NO)、推進器制御装置100は、ステップS302に戻り、ステップS302~ステップS312の処理を繰り返す。すなわち、船舶1は、航海中では、原則、図3に示す船速フィードバック制御処理を行い、目標船速で運行することが可能である。一方、船速フィードバック制御を終了する場合(ステップS312:YES)、推進器制御装置100は、本フローチャートに示す一連の処理を終了する。
【0038】
<海流フィードバック制御に係る感度特性>
次に、海流フィードバック制御に係る感度特性について詳述する。
図4Aは、増速時の海流フィードバック制御に係る感度特性の一例を示す図である。
図4Bは、減速時の海流フィードバック制御に係る感度特性の一例を示す図である。
【0039】
図4Aおよび図4Bにおいて、横軸は、海流速度を示す。海流速度は、例えば、対地船速から対水船速を減算した値(「対地船速」-「対水船速」)である。海流速度がプラスであれば、追い潮であることを示し、海流速度がマイナスであれば、逆潮であることを示す。縦軸は、海流フィードバック制御において補正量が算出される際の感度(例えば、係数)を示す。
【0040】
補正部104は、感度に応じて、海流フィードバック制御におけるゲインを補正する。具体的には、補正部104は、海流フィードバック制御におけるゲインを、感度が大きいほど大きくなるように補正する。例えば、ゲインが大きいほど、補正量は、大きくなる。一方で、補正部104は、海流フィードバック制御におけるゲインを、感度が小さいほど小さくなるように補正する。例えば、ゲインが小さいほど、補正量は、小さくなる。
【0041】
海流フィードバック制御として、PID(Proportional-Integral-Differential)制御を採用したとすると、補正部104は、Pゲインを大きくすることにより、目標翼角に素早く制御することができる。また、補正部104は、Dゲインを大きくすることにより、ハンチングを抑えることができる。さらに、補正部104は、Iゲインを大きくすることにより、外乱に抗う力を勢いよく発生させることができる。補正部104は、Pゲイン、Dゲイン、Iゲインについて、予め実験等により得られた、上記感度に応じた値に補正すればよい。これにより、推進器制御装置100は、ゲイン補正を行わない場合と比べて、ハンチングを抑えつつ、海流速度に応じて目標翼角に早く(またはゆっくりと)追従させることができる。
【0042】
<増速させる場合について>
図4Aの感度特性410において、領域411は、逆潮時に増速させる場合の感度を示しており、感度が高いことを示している。このため、領域411に示す海流速度において、補正部104は、船速フィードバック制御の応答性が大きくなるように、ゲイン補正を行う。具体的には、補正部104は、逆潮の海流速度の大きさに応じて、海流フィードバック制御に係るゲインが大きくなるようにゲイン補正を行う。
【0043】
一方で、領域412は、追い潮時に増速させる場合の感度を示しており、感度が低いことを示している。このため、領域412に示す海流速度において、補正部104は、船速フィードバック制御の応答性が小さくなるように、ゲイン補正を行う。具体的には、補正部104は、追い潮の海流速度の大きさに応じてゲインが小さくなるようにゲイン補正を行う。
【0044】
<減速させる場合について>
図4Bの感度特性420において、領域421は、逆潮時に減速させる場合の感度を示しており、感度が低いことを示している。このため、領域421に示す海流速度において、補正部104は、船速フィードバック制御の応答性が小さくなるようにゲイン補正を行う。具体的には、補正部104は、逆潮の海流速度の大きさに応じて、海流フィードバック制御に係るゲインが小さくなるようにゲイン補正を行う。
【0045】
一方で、領域422は、追い潮時に減速させる場合の感度を示しており、感度が高いことを示している。このため、領域422に示す海流速度において、補正部104は、船速フィードバック制御の応答性が大きくなるようにゲイン補正を行う。具体的には、補正部104は、追い潮の海流速度の大きさに応じてゲインが大きくなるようにゲイン補正を行う。
【0046】
また、図4Aおよび図4Bにおいて、領域βは、海流速度が小さく、船速が海流の影響を受けにくい領域を示す。すなわち、領域βは、感度(係数)を「1.0」として、ゲイン補正を行わない領域(不感帯)を示している。すなわち、海流速度が領域βの範囲にある場合には、海流フィードバック制御において、通常のゲインよって得られる補正量で補正されることを示す。
【0047】
また、感度特性410、420において、海流速度が一定値以上(または一定値以下)になると、感度は、上限値γ1(または下限値γ2)に達するようになっている。これにより、ゲインが大きくなり過ぎてしまうことを抑えることができる。よって、補正量が大きくなり過ぎることを抑え、目標翼角への追従に係るハンチングを抑えることができる。
【0048】
<特定条件>
次に、特定条件を満たすか否かの観点から、船速フィードバック制御の応答性について説明する。特定条件は、船速フィードバック制御の応答性が大きくなるように目標翼角を補正するための条件である。具体的には、特定条件を満たす場合とは、逆潮時に増速する場合(図4Aの領域411)と、追い潮時に減速する場合(図4Bの領域422)とを含む。特定条件は、対地船速に対する目標船速の大小関係(以下「対地・目標関係」という。)と、対地船速に対する対水船速の大小関係(以下「対地・対水関係」という。)と、によって定義することが可能である。
【0049】
具体的には、図4Aの領域411に示すように、増速時(対地船速<目標船速)の感度特性410において感度が高いのは、逆潮(対地船速<対水船速)のときである。また、図4Bの領域422に示すように、減速時(対地船速>目標船速)の感度特性420において感度が高いのは、追い潮(対地船速>対水船速)のときである。すなわち、特定条件は、対地・目標関係と、対地・対水関係とが一致する、という条件である。このように、特定条件が満たされる場合、補正部104は、船速フィードバック制御の応答性が大きくなるように目標翼角を補正する。
【0050】
特定条件を満たさない場合には、船速フィードバック制御の応答性が低くなるように目標翼角が補正される。具体的には、特定条件を満たさない場合とは、追い潮時に増速する場合(図4Aの領域412)と、逆潮時に減速する場合(図4Bの領域421)とを含む。より具体的には、図4Aの領域412に示すように、増速時(対地船速<目標船速)の感度特性410において感度が低いのは、追い潮(対地船速>対水船速)のときである。また、図4Bの領域421に示すように、減速時(対地船速>目標船速)の感度特性420において感度が低いのは、逆潮(対地船速<対水船速)のときである。
【0051】
すなわち、特定条件を満たさない場合とは、対地・目標関係と、対地・対水関係と、が一致しない場合である。このように、特定条件が満たされない場合、補正部104は、船速フィードバック制御の応答性が低くなるように目標翼角を補正する。
【0052】
また、領域411、422に示すように、特定条件を満たす場合、補正部104は、対地船速と対水船速との差分が大きくなるほど、海流フィードバック制御に係るゲイン補正を大きくする。これにより、補正部104は、対地船速と対水船速との差分が大きくなるほど、船速フィードバック制御の応答性が大きくなるように、目標翼角を補正することができる。
【0053】
また、領域412、421に示すように、特定条件を満たさない場合、補正部104は、対地船速と対水船速との差分が大きくなるほど、海流フィードバック制御に係るゲイン補正を小さくする。これにより、補正部104は、対地船速と対水船速との差分が大きくなるほど、船速フィードバック制御の応答性が小さくなるように、目標翼角を補正することができる。
【0054】
<海流フィードバック制御処理>
図5は、推進器制御装置100が行う海流フィードバック制御処理の一例を示すフローチャートである。図5において、算出部102は、海流速度(「対地船速」-「対水船速」)を算出する(ステップS501)。そして、推進器制御装置100は、海流速度が範囲β内にあるか否かを判断する(ステップS502)。海流速度が範囲β内にある場合(ステップS502:YES)、すなわち、海流速度が小さく、船速が海流の影響を受けにくい場合、推進器制御装置100は、ステップS513の処理に進む。
【0055】
一方、海流速度が範囲β内にない場合(ステップS502:NO)、すなわち、海流が船速の制御に影響を及ぼす場合、推進器制御装置100は、増速制御を行うか否かを判断する(ステップS503)。増速制御を行う場合(ステップS503:YES)、推進器制御装置100は、逆潮(対地船速<対水船速)であるか否かを判断する(ステップS504)。
【0056】
逆潮である場合(ステップS504:YES)、補正部104は、船速フィードバック制御の応答性を大きくするために、海流フィードバック制御に係るゲインを大きくするゲイン補正を行う(ステップS505)。そして、算出部102は、増速補正量a1を算出し(ステップS506)、ステップS513の処理に進む。一方、ステップS504おいて、逆潮ではない場合(ステップS504:NO)、すなわち、追い潮である場合、補正部104は、船速フィードバック制御に係る応答性を小さくするために、海流フィードバック制御に係るゲインを小さくするゲイン補正を行い(ステップS507)、ステップS506の処理に進む。
【0057】
ステップS503において、増速制御を行わない場合(ステップS503:NO)、推進器制御装置100は、減速制御を行うか否かを判断する(ステップS508)。減速制御を行わない場合(ステップS508:NO)、推進器制御装置100は、ステップS513の処理に進む。一方、減速制御を行う場合(ステップS508:YES)、推進器制御装置100は、逆潮(対地船速<対水船速)であるか否かを判断する(ステップS509)。
【0058】
逆潮である場合(ステップS509:YES)、補正部104は、船速フィードバック制御に係る応答性を小さくするために、海流フィードバック制御に係るゲインを小さくするゲイン補正を行う(ステップS510)。そして、算出部102は、減速補正量a2を算出し(ステップS511)、ステップS513の処理に進む。一方、ステップS509おいて、逆潮ではない場合(ステップS509:NO)、すなわち、追い潮である場合、補正部104は、船速フィードバック制御に係る応答性を大きくするために、海流フィードバック制御に係るゲインを大きくするゲイン補正を行い(ステップS512)、ステップS511の処理に進む。
【0059】
ステップS513において、推進器制御装置100は、海流フィードバック制御を終了するか否かを判断する(ステップS513)。なお、海流フィードバック制御の終了条件は、船速フィードバック制御の終了条件と同様である。ただし、海流フィードバック制御の終了条件は、船速フィードバック制御とは別のオン/オフの切替えを可能としている場合には、当該切替えに係るオフを示す情報が入力されることとしてもよい。
【0060】
海流フィードバック制御を終了しない場合(ステップS513:NO)、推進器制御装置100は、ステップS501に戻り、ステップS501~ステップS513の処理を繰り返す。一方、海流フィードバック制御を終了する場合(ステップS513:YES)、推進器制御装置100は、本フローチャートに示す一連の処理を終了する。
【0061】
<エンジン111の制御>
次に、船速フィードバック制御におけるエンジン111(回転数)の制御について説明する。図2のコンビネーションカーブにおけるハンドル位置がp1以下またはp2以上の場合、ハンドル位置の変更に応じて、目標翼角(可変ピッチプロペラ112)および目標回転数(エンジン111)の両方が変更される。例えば、ハンドル位置がp2の場合、目標翼角はx°であり、目標回転数はX回転である。また、ハンドル位置がp3(>p2)の場合、目標翼角はy°であり、目標回転数はY回転である。
【0062】
ハンドル位置がp2からp3に変更されたとすると、船速フィードバック制御では、海流速度(対地船速と対水船速との差分)に基づいて、目標翼角と目標回転数とがそれぞれ算出される。ここで、仮に、翼角による船速フィードバック制御と、回転数による船速フィードバック制御とを同時に実行したとすると、それぞれの制御において目標推進力(目標翼角または目標回転数)が定まりにくくなり、目標船速に対してハンチングを起こすおそれがある。
【0063】
そこで、本実施形態では、制御部103は、先に、翼角について、海流フィードバック制御を含む船速フィードバック制御を行うことにより、目標翼角に制御する。そして、目標翼角に制御した後に、制御部103は、回転数について、コンビネーションカーブに基づく目標回転数になるように船速フィードバック制御を行う。これにより、ハンドル位置がp1以下またはp2以上の場合において、船速を変更する場合でも、ハンチングを抑え、目標船速への追従性を安定させることができる。なお、制御部103は、回転数についての船速フィードバック制御では、海流フィードバック制御を行わない。
【0064】
なお、制御部103は、上記の手法に限らず、先に、回転数について、船速フィードバック制御を行うことにより、目標回転数に制御し、目標回転数に制御した後に、翼角について、コンビネーションカーブに基づく目標翼角になるように船速フィードバック制御を行ってもよい。このようにしても、ハンドル位置がp1以下またはp2以上の場合において、船速を変更する場合でも、ハンチングを抑え、目標船速への追従性を安定させることができる。
【0065】
<回転数についての船速フィードバック制御処理>
次に、図6を用いて、回転数についての船速フィードバック制御処理について、説明する。
図6は、推進器制御装置100が行う、回転数についての船速フィードバック制御処理の一例を示すフローチャートである。図6の船速フィードバック制御は、例えば、航海中に常時実行される制御である。
【0066】
図6において、推進器制御装置100は、取得部101によって取得された目標回転数r(指令回転数)に実回転数(現在の回転数)をセットする(ステップS601)。次に、推進器制御装置100は、実船速が目標船速(指令船速)に対して遅過ぎているか否かの判断として、目標船速から対地船速を減算した値が速度閾値α1以上であるか否かを判断する(ステップS602)。
【0067】
目標船速から対地船速を減算した値が速度閾値α1以上である場合(ステップS602:YES)、すなわち、実船速が目標船速に対して遅過ぎている場合、算出部102は、増速に係る目標回転数r1(例えば、正の値)を算出する(ステップS603)。次に、制御部103は、算出された目標回転数(r1)を目標回転数rにセットする(ステップS604)。そして、制御部103は、新たにセットされた目標回転数rに実回転数が追従するように、エンジン111を増速制御する(ステップS605)。
【0068】
ステップS602において、目標船速から対地船速を減算した値が制御閾値α1以上ではない場合(ステップS602:NO)、すなわち、実船速が目標船速に対して遅過ぎてはいない場合、推進器制御装置100は、実船速が速過ぎているか否かの判断として、目標船速から対地船速を減算した値が速度閾値α2(<α1)以下であるか否かを判断する(ステップS606)。目標船速から対地船速を減算した値が速度閾値α2以下ではない場合(ステップS606:NO)、すなわち、実船速が目標船速に対して速過ぎても遅すぎてもいない場合(実船速が目標船速(目標船速の所定範囲内)である場合)、推進器制御装置100は、ステップS610に進む。
【0069】
一方、目標船速から対地船速を減算した値が制御閾値α2以下である場合(ステップS606:YES)、すなわち、実船速が目標船速に対して速過ぎている場合、算出部102は、減速に係る目標回転数r2(例えば、負の値)を算出する(ステップS607)。
【0070】
次に、補正部104は、算出された目標回転数(r2)を目標回転数rにセットする(ステップS608)。そして、制御部103は、新たにセットされた目標回転数rに実回転数が追従するように、可変ピッチプロペラ112を減速制御する(ステップS609)。
【0071】
次に、推進器制御装置100は、船速フィードバック制御を終了するか否かを判断する(ステップS610)。船速フィードバック制御を終了しない場合(ステップS610:NO)、推進器制御装置100は、ステップS602に戻り、ステップS602~ステップS610の処理を繰り返す。一方、船速フィードバック制御を終了する場合(ステップS610:YES)、推進器制御装置100は、本フローチャートに示す一連の処理を終了する。
【0072】
以上説明したように、本実施形態に係る推進器制御装置100は、特定条件が満たされる場合、特定条件が満たされないよりも船速フィードバック制御の応答性が大きくなるように目標翼角を補正する。これにより、加減速を行う場合に、追い潮または逆潮に応じた最適な目標翼角とすることができる。したがって、海象や気象の影響にかかわらず、目標船速への追従性を安定させることができる。
【0073】
また、本実施形態に係る推進器制御装置100は、海流速度から算出される補正量であって、特定条件が満たされない場合よりも特定条件が満たされる場合の方が大きい補正量を推進力に加えることで、船速フィードバック制御の応答性を補正する。これにより、追い潮時に減速する場合や逆潮時に増速する場合に、目標船速への追従性を安定させることができる。
【0074】
また、本実施形態に係る推進器制御装置100は、特定条件が満たされない場合よりも特定条件が満たされる場合の方が船速フィードバック制御におけるゲインを大きくなるように補正する。これにより、追い潮時に減速する場合や逆潮時に増速する場合に、オーバーシュートを抑えつつ、目標翼角に最適なタイミングで追従させることができる。
【0075】
また、本実施形態に係る推進器制御装置100は、特定条件が満たされる場合、海流速度が大きくなるほど船速フィードバック制御の応答性が大きくなるように補正し、海流速度が小さくなるほど船速フィードバック制御の応答性が小さくなるように補正する。これにより、海流速度に応じた最適な目標推進力に補正することができる。したがって、目標船速への追従性をより安定させることができる。
【0076】
また、本実施形態に係る推進器制御装置100は、船速フィードバック制御において、海流速度に基づいて目標翼角と目標回転数とをそれぞれ算出し、特定条件が満たされる場合、特定条件が満たされない場合よりも船速フィードバック制御の応答性が大きくなるように目標翼角を補正し、目標回転数を補正しない。仮に、エンジン111の目標回転数を補正したとすると、エンジン111の回転数が変動することによる燃費の低下が生じてしまうおそれが生じる。本実施形態では、翼角を変動させることによって、実船速への追従性を改善するため、エンジン111の回転数を変動させると仮定した場合と比較して、燃費の低下を回避しつつ、目標船速への追従性をより安定させることができる。
【0077】
(実施形態の変形例)
次に、実施形態の変形例について説明する。なお、以下の各変形例では、上述した実施形態で説明した内容については、適宜説明を省略する。また、以下の各変形例、および上述した実施形態は、それぞれ組み合わせることも可能である。
【0078】
<変形例1>
まず、実施形態の変形例1について説明する。上述した実施形態では、翼角および回転数の変更において、先に翼角についての船速フィードバック制御を行い、その後に、回転数についての船速フィードバック制御を行う例について説明した。変形例1では、翼角および回転数の変更において、翼角についての船速フィードバック制御と、回転数についての船速フィードバック制御とを、同時に行う例について説明する。
【0079】
変形例1において、例えば、ハンドル位置がp2(図2)からp3に変更された場合、船速フィードバック制御において、推進器制御装置100は、可変ピッチプロペラ112に対する目標翼角の制御と、エンジン111に対する目標回転数の制御とを同時(同時制御)に行う。
【0080】
ただし、上述したように、翼角についての船速フィードバック制御と、回転数についての船速フィードバック制御とを同時に実行したとすると、双方の制御において目標推進力(目標翼角および目標回転数)が定まりにくくなり、目標船速に対してハンチングを起こすおそれがある。
【0081】
そこで、変形例1では、翼角についての船速フィードバック制御における応答性を低くする。具体的には、図4A図4Bに示した感度特性410、420において、翼角について、感度の上限値γ1(または下限値γ2)の大きさを小さくする。また、感度特性410、420の傾きについても小さくする。これにより、変形例1に係る補正部104は、海流フィードバック制御に係るゲインの補正量を小さくすることができる。
【0082】
このように、変形例1では、翼角および回転数の変更を同時に行う場合、船速フィードバック制御における応答性を低くする。これにより、船速フィードバック制御におけるハンチングを抑え、目標船速への追従性を安定させることができる。
【0083】
<変形例2>
次に、本実施形態に係る変形例2について説明する。上述した実施形態では、可変ピッチプロペラ112を備える船舶1について船速フィードバック制御を適用する例について説明した。変形例2では、可変ピッチプロペラ112に代えて、固定ピッチプロペラを備える船舶1について船速フィードバック制御を適用する例について説明する。
【0084】
変形例2において、回転数についての船速フィードバック制御では、実施形態で説明した翼角についての制御と同様に、海流フィードバック制御が行われる。具体的には、逆潮時に増速させる場合や追い潮時に減速させる場合、すなわち、特定条件が満たされる場合、算出部102は、目標回転数を大きくする補正量を算出する。なお、回転数についての海流フィードバック制御においても、補正部104は、図4Aおよび図4Bに示した感度特性410、420と同様の傾向を有する感度特性(不図示)に応じてゲイン補正を行う。
【0085】
すなわち、特定条件が満たされる場合、補正部104は、対地船速と対水船速との差分が大きくなるほど、海流フィードバック制御に係るゲイン補正を大きくする。これにより、補正部104は、対地船速と対水船速との差分が大きくなるほど、船速フィードバック制御の応答性が大きくなるように、目標回転数を補正することができる。
【0086】
また、追い潮時に増速させる場合や逆潮時に減速させる場合、すなわち、特定条件が満たされない場合、算出部102は、目標回転数を小さくする補正量を算出する。また、補正部104は、特定条件が満たされない場合には、対地船速と対水船速との差分が大きくなるほど、海流フィードバック制御に係るゲイン補正を小さくする。これにより、補正部104は、対地船速と対水船速との差分が大きくなるほど、船速フィードバック制御の応答性が小さくなるように、目標回転数を補正することができる。これにより、推進器制御装置100は、ゲイン補正を行わない場合と比べて、ハンチングを抑えつつ、海流速度に応じて目標回転数に早く(またはゆっくりと)追従させることができる。
【0087】
<変形例2に係る回転数についての船速フィードバック制御処理>
次に、図7を用いて、変形例2に係る船速フィードバック制御処理について、説明する。
図7は、変形例2に係る推進器制御装置100が行う、回転数についての船速フィードバック制御処理の一例を示すフローチャートである。以下では、図6に示した船速フィードバック制御と異なる処理(ステップS701~704)について説明する。
【0088】
図7のステップS603において、算出部102は、増速に係る目標回転数r1(例えば、正の値)を算出すると(ステップS603)、海流フィードバック制御によって増速補正量b1(例えば、正の値)を算出する(ステップS701)。増速補正量b1、および、後述する減速補正量b2は、翼角についての海流フィードバック制御処理(図5)と同様に、回転数についての海流フィードバック制御処理(不図示)において算出される値である。すなわち、増速補正量b1および減速補正量b2は、海流速度に応じて大きさが変わる値であり、具体的には、特定条件が成立しているか否かに応じて、ゲイン補正が行われて大きさが変わる値である。
【0089】
次に、補正部104は、目標回転数r1に増速補正量b1を加えることによって補正した目標翼角(r1+b1)を目標回転数rにセットする(ステップS702)。そして、制御部103は、新たにセットされた目標回転数rに実回転数が追従するように、可変ピッチプロペラ112を増速制御する(ステップS605)。
【0090】
また、ステップS607において、算出部102は、減速に係る目標回転数r2(例えば、負の値)を算出すると(ステップS608)、海流フィードバック制御によって減速補正量b2(例えば、負の値)を算出する(ステップS703)。
【0091】
次に、補正部104は、目標回転数r2に減速補正量b2を加えることによって補正した目標翼角(w2+b2)を目標回転数rにセットする(ステップS704)。そして、制御部103は、新たにセットされた目標回転数rに実回転数が追従するように、可変ピッチプロペラ112を減速制御する(ステップS609)。
【0092】
変形例2に係る推進器制御装置100は、固定ピッチプロペラを備える船舶1において、特定条件が満たされる場合、特定条件が満たされないよりも船速フィードバック制御の応答性が大きくなるように目標回転数を補正する。これにより、加減速を行う場合に、追い潮または逆潮に応じた最適な目標回転数とすることができる。したがって、海象や気象の影響にかかわらず、目標船速への追従性を安定させることができる。
【0093】
<変形例3>
次に、本実施形態に係る変形例3について説明する。上述した実施形態では、CPP船において、回転数については海流フィードバック制御を行わない例について説明した。変形例3では、CPP船において、翼角および回転数の両方について海流フィードバック制御を行う例について説明する。
【0094】
変形例3に係る推進器制御装置100は、翼角および回転数のそれぞれの船速フィードバック制御において、いずれも、海流フィードバック制御を行う。翼角(可変ピッチプロペラ112)についての海流フィードバック制御は、上述した実施形態のとおりである。また、回転数(エンジン111)についての海流フィードバック制御は、変形例2のとおりである。
【0095】
また、上述したように、翼角についての船速フィードバック制御と、回転数についての船速フィードバック制御とを同時に実行したとすると、目標船速に対してハンチングを起こすおそれがある。
【0096】
このため、変形例3においても、上述した実施形態に示した別制御の態様、および変形例1に示した同時制御の態様のうち、いずれかの態様を行うようにすればよい。
具体的には、実施形態に示した別制御の態様は、先に、翼角について船速フィードバック制御(海流フィードバック制御を含む)を行い、目標翼角への制御が完了後に、回転数について、船速フィードバック制御(海流フィードバック制御を含む)を行うことである。これにより、ハンチングを抑え、目標船速への追従性を安定させることができる。
【0097】
変形例1に示した同時制御の態様は、翼角についての船速フィードバック制御と、回転数についての船速フィードバック制御とを、同時に行うことである。ただし、この場合、翼角および回転数について海流フィードバック制御における応答性を低くすればよい。具体的には、翼角については、図4A図4Bに示した感度特性410、420における感度の上限値γ1(または下限値γ2)の大きさを小さくすればよい。また、回転数についても同様に、回転数用の感度特性における感度の上限値(または下限値)の大きさを小さくすればよい。このようにしても、ハンチングを抑え、目標船速への追従性を安定させることができる。
【0098】
このように、変形例3では、CPP船において、翼角および回転数の両方について海流フィードバック制御を行う例について説明した。これにより、加減速を行う場合に、追い潮または逆潮に応じた最適な目標翼角および目標回転数とすることができる。したがって、海象や気象の影響にかかわらず、目標船速への追従性を安定させることができる。
【0099】
また、以上に説明した推進器制御装置100を実現するためのプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録し、そのプログラムをコンピュータシステムに読み込ませて実行するようにしてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0100】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0101】
本明細書で開示した実施形態及び変形例において、複数の機能が分散して設けられているものは、当該複数の機能の一部又は全部を集約して設けてもよく、逆に複数の機能が集約して設けられているものを、当該複数の機能の一部又は全部が分散するように設けることができる。機能が集約されているか分散されているかにかかわらず、発明の目的を達成できるように構成されていればよい。
【符号の説明】
【0102】
1…船舶、100…推進器制御装置1、101…取得部、102…算出部、103…制御部、104…補正部、110…推進器、111…エンジン、112…可変ピッチプロペラ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7