(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163450
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】固練り方法、電極スラリーの製造方法、電極の製造方法および電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20241115BHJP
【FI】
H01M4/139
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079051
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】591006298
【氏名又は名称】JFEテクノリサーチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】木村 豪志
(72)【発明者】
【氏名】森島 史弥
(72)【発明者】
【氏名】莇 丈史
(72)【発明者】
【氏名】松崎 晃
(72)【発明者】
【氏名】島内 優
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050DA10
5H050DA11
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA29
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】金属のコンタミネーションを低減できる固練り方法を提供する。
【解決手段】電極活物質と導電助剤とバインダーと溶媒を混練りして混練物を得る固練り工程を有する固練り方法であって、前記固練り工程における前記混練物の固形分濃度が76~87質量%である、固練り方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質と導電助剤とバインダーと溶媒を混練りして混練物を得る固練り工程を有する固練り方法であって、
前記固練り工程における前記混練物の固形分濃度が76~87質量%である、固練り方法。
【請求項2】
前記混練物を混練りする混練装置として、ステンレス製の混練装置を用いる、請求項1に記載の固練り方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の固練り方法で得られた混練物と、溶媒を混合して、電極スラリーを製造する、電極スラリーの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の電極スラリーの製造方法で製造した電極スラリーを、集電体に塗布した後、乾燥する、電極の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電極の製造方法で製造した電極を用いて、電池を製造する、電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固練り方法、電極スラリーの製造方法、電極の製造方法および電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池、ニッケル水素電池等の二次電池は、ポータブル機器、電気車両、無人航空機など幅広い製品群に用いられる電源として重要性が高まっている。特に、リチウムイオン二次電池は、軽量で、高いエネルギー密度が得られることから、その需要が高まっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、基本構成として、電極(正極、負極)と、電解質と、正極と負極を分けるセパレータを備える。電極は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な電極活物質が、銅箔、アルミ箔等の集電体上に保持されて構成される。
【0004】
電極は、電極活物質と導電助剤とこれらを結着するバインダーと溶媒を含有する電極スラリーを、集電体に塗布し、乾燥して製造される。かかる電極スラリーの製造方法として、電極活物質と溶剤等を混練して混練物とし、その後さらに前記混練物に溶剤を加えて電極スラリーとする製造方法が知られている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-161350号公報
【特許文献2】特開2000-353516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電極に、意図しない金属が異物として混入するコンタミネーションが生じると、この金属は、電池の使用(充放電)中に、電池内部でイオン化され、負極に移動して析出する。これにより電池内部で短絡が発生する場合があった。そのため、電極において、金属のコンタミネーションを低減することが求められる。
【0007】
本発明は、金属のコンタミネーションを低減できる固練り方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、電極における金属のコンタミネーションが、電極の製造工程、特に、電極スラリーを製造する際の固練り工程で生じることを見出してなされたものである。
【0009】
より具体的には、本発明は、以下のことを知見してなされてものである。電極材料には、結晶性の高い材料が含まれる場合がある。固練り工程において混練物の粘度が高いと、前記混練物に含まれる結晶性の高い材料が混練装置の部材を削り取り、これがコンタミネーションの原因となる。これを低減ないし防止するためには、固練り工程における混練物の固形分濃度に閾値を設けることが有効である。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の構成を有する。
[1]電極活物質と導電助剤とバインダーと溶媒を混練りして混練物を得る固練り工程を有する固練り方法であって、
前記固練り工程における前記混練物の固形分濃度が76~87質量%である、固練り方法。
[2]前記混練物を混練りする混練装置として、ステンレス製の混練装置を用いる、[1]に記載の固練り方法。
[3]前記[1]または[2]に記載の固練り方法で得られた混練物と、溶媒を混合して、電極スラリーを製造する、電極スラリーの製造方法。
[4]前記[3]に記載の電極スラリーの製造方法で製造した電極スラリーを、集電体に塗布した後、乾燥する、電極の製造方法。
[5]前記[4]に記載の電極の製造方法で製造した電極を用いて、電池を製造する、電池の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属のコンタミネーションを低減できる固練り方法を提供できる。
【0012】
本発明によれば、電極活物質と溶媒等を混練りして混練物とする固練り工程において、前記混練物を混練りする混練装置に由来して発生する金属のコンタミネーションを低減することができる。これにより、金属のコンタミネーションが低減された電極活物質と溶媒等の混練物が得られる。
【0013】
さらに、この金属のコンタミネーションが低減された混練物を用いることで、金属のコンタミネーションが低減された電極スラリー、電極および電池を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0015】
<固練り方法>
本実施形態の固練り方法は、電極活物質と導電助剤とバインダーと溶媒を混練りして混練物を得る固練り工程を有する。
【0016】
(電極活物質)
電極活物質としては、正極活物質、負極活物質が挙げられる。これらの電極活物質のなかには、結晶性の高い材料が含まれる。上述のように、固練り工程における混練物の粘度が高いと、前記混練物に含まれる結晶性の高い材料が、ミキサー等の混練装置の部材を削り取り、コンタミネーションの原因となる。本発明によれば、電極活物質として結晶性の高い材料を用いた場合であっても、コンタミネーションの低減効果が得られる。そのため、電極活物質として、結晶性の高い材料を用いた場合に、本発明の効果をより享受することができる。
【0017】
かかる正極活物質としては、層状岩塩構造、オリビン構造、スピネル構造の物質が挙げられる。
【0018】
層状岩塩構造の正極活物質としては、LiCoO2、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(NCM)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(NCA)等が挙げられる。NCMは、LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1)で示される三元系の材料である。NCMとしては、NCM111(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)、NCM523(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2)、NCM622(LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2)、NCM811(LiNi0.8Co0.2Mn0.2O2)が挙げられる。また、NCAは、LiNixCoyAlzO2(x+y+z=1)で示される三元系の材料である。
【0019】
オリビン構造の正極活物質としては、LiFePO4等が挙げられる。また、スピネル構造の正極活物質としては、LiMn2O4等が挙げられる。
【0020】
負極活物質としては、LiドープSiOx(0<x<2)等が挙げられる。
【0021】
(導電助剤)
導電助剤としては、アセチレンブラック、黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノチューブ(CNT)等が挙げられる。CNTは、単層CNTであってもよいし、多層CNTであってもよい。
【0022】
(バインダー)
バインダー(結着材)としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ビニル系重合体、アクリル系重合体等が挙げられる。バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましい。
【0023】
(溶媒)
溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)が好ましい。
【0024】
[固練り工程]
固練り工程では、電極活物質と導電助剤とバインダーと溶媒を混練りして混練物を得る。その際、前記混練物の固形分濃度が76~87質量%である状態で混練りを行う。固練り工程において、前記混練物の固形分濃度が87質量%超であると、前記混練物の粘度が高くなり、前記混練物に含まれる電極活物質が、混練装置の部材を削り取り、前記混練物に前記混練装置に由来する金属が混入するコンタミネーションが発生する。前記固形分濃度は、79質量%以上が好ましい。また、前記固形分濃度は85質量%以下が好ましい。なお、前記混練物の固形分濃度は、下記式により求められる。
混練物の固形分濃度(質量%)=(混練物に含まれる固形分の質量/混練物の質量)×100
【0025】
固練り工程において、電極活物質、導電助剤、バインダー、溶媒の混合順序は、特に限定されない。例えば、はじめに固形成分である電極活物質、導電助剤、バインダーを乾式混合(ドライブレンド)し、その後、溶媒を添加して混練りすることができる。また、導電助剤を分割添加してもよい。この場合、電極活物質と、導電助剤の一部と、バインダーを乾式混合(ドライブレンド)し、その後、溶媒を添加して混練りしながら、残りの導電助剤を添加してもよい。なお、溶媒の添加量(混合量)を調整することで、混練物の固形分濃度を調整できる。
【0026】
導電助剤として、アセチレンブラックを用いる場合、前者の混合順序が好ましい。すなわち、電極活物質(正極活物質)、アセチレンブラック、バインダーを乾式混合(ドライブレンド)し、その後、溶媒を添加して混練りすることが好ましい。また、導電助剤として、CNTを用いる場合、後者の混合順序が好ましい。すなわち、電極活物質(正極活物質)と、CNTの一部と、バインダーを乾式混合(ドライブレンド)し、その後、溶媒を添加して混練しながら、残りのCNTを添加して混練りすることが好ましい。
【0027】
固練り工程における電極活物質と導電助剤とバインダーの混合割合は、質量比で、電極活物質:導電助剤:バインダー=a:b:c(a+b+c=100)としたとき、好ましくは、40≦a≦99、0.5≦b≦30、0.5≦c≦30の範囲であり、より好ましくは、80≦a≦98、1≦b≦10、1≦c≦10の範囲である。
【0028】
混練りに用いる混練装置としては、プラネタリーミキサー、ディスパー、ニーダー、ホモジナイザー、ロールミル、ボールミル等が挙げられる。混練装置としては、プラネタリーミキサーが好ましい。また、混練装置としては、ステンレス製の混練装置が好ましい。本発明によれば、ステンレス製の混練装置を用いた場合においても、混練物に前記混練装置に由来するステンレス成分が混入するコンタミネーションを低減できる。また、混練装置の部材の表面をコーティングした混練装置を用いることで、さらに、前記コンタミネーションを低減できる。かかるコーティングとしては、Tiコート、DLC(diamond-like Carbon)コート、テフロン(登録商標)コート等が好ましい。
【0029】
以上説明した本発明の固練り方法によれば、固練り工程において、結晶性の高い材料が混練物に含まれる場合であっても、前記結晶性の高い材料が混練装置の部材を削り取ることで生じるコンタミネーションを低減できる。その結果、固練り工程後の、電極スラリー、電極、電池の製造工程にもちこまれるコンタミネーションを低減できる。これにより、電池の内部短絡が抑制され、電池性能が高められる。
【0030】
<電極スラリーの製造方法>
本発明の一実施形態に係る電極スラリーの製造方法は、上述した固練り方法で得られた混練物と、溶媒を混合して、電極スラリーを製造するものである。
【0031】
本実施形態の電極スラリーの製造方法では、例えば、公知の電極スラリーの製造方法を採用することができる。前記溶媒としては、上述の固練り工程で用いる溶媒と同様の溶媒を用いることができる。また、混合装置としては、上述の混練装置と同様の装置を用いることができる。
【0032】
本実施形態では、上述の固練り工程後、混練装置による混練りを継続したまま、溶媒を添加、混合して、電極スラリーを製造してもよいし、固練り工程で得た混練物を、別の混合装置に移した後、前記混練物に溶媒を添加、混合して、電極スラリーを製造してもよい。
【0033】
溶媒の添加量は、電極スラリーの塗工性等を考慮して、適宜、調整することができる。好ましくは、電極スラリーの固形分濃度が40~74質量%となるように溶媒を添加する。
【0034】
また、溶媒を添加して混合する際には、必要に応じて、ディスパーを用いてもよい。また、混合を終了した後に、脱泡してもよい。
【0035】
<電極の製造方法>
本発明の一実施形態に係る電極の製造方法は、上述した電極スラリーを、集電体に塗布した後、乾燥して、電極を製造するものである。
【0036】
本実施形態の電極の製造方法では、例えば、公知の電極の製造方法を採用することができる。例えば、上述した電極スラリーを、ダイコーター、スリットコーター等の塗布装置で、集電体の表面に塗布した後、乾燥することで電極を製造できる。乾燥後には、適宜、プレス処理を施してもよい。
【0037】
なお、正極を製造する場合には、電極活物質として正極活物質を含む電極スラリーを製造し、これを、アルミ箔等の集電体に塗布し、乾燥すればよい。また、負極を製造する場合には、電極活物質として負極活物質を含む電極スラリーを製造し、これを、銅箔等の集電体に塗布し、乾燥すればよい。
【0038】
<電池の製造方法>
本発明の一実施形態に係る電池の製造方法は、上述の電極の製造方法で製造した電極を用いて、電池を製造するものである。
【0039】
本実施形態の電池の製造方法では、例えば、公知の電池の製造方法を採用することができる。例えば、上述した電極の製造方法で製造した電極と、電解質と、セパレータを、外装体中に配置し組み立てることで電池を製造できる。
【0040】
本発明の電極スラリー、電極および電池の製造方法によれば、上述した効果と同様の効果が得られる。
【実施例0041】
以下、本発明を実施例により説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0042】
(実施例1)
電極活物質としてLiCoO2、導電助剤としてカーボンナノチューブ(CNT)、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いて、混練装置により固練りを行った。前記混練装置としては、ステンレス製のプラネタリーミキサーを用いた。はじめに、LiCoO2と、CNTの一部と、PVDFを乾式混合(ドライブレンド)した。その後、前記ブレンド物に、NMPを添加して混練しながら、残りのCNTを添加し、混練りを行い、混練物を製造した(固練り工程)。混練り工程における混練物の固形分濃度は85質量%であった。
【0043】
(実施例2)
NMPの添加量を変更し、固練り工程における混練物の固形分濃度を83質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、混練物を製造した。
【0044】
(比較例1)
NMPの添加量を変更し、固練り工程における混練物の固形分濃度を89質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、混練物を製造した。
【0045】
実施例1、2および比較例1で製造した混練物について、走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(STEM-EDX)で元素マッピングを行い、ステンレス製の混練装置に由来するFe元素、Cr元素の存在を調べた。結果を表1に示す。
【0046】
【0047】
表1に示すように、本発明の固練り方法によれば、混練り工程における混練物の固形分濃度を所定の範囲とすることで、混練装置に由来する金属のコンタミネーションを低減できる。