(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163457
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】アルミニウム合金線材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/04 20060101AFI20241115BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20241115BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20241115BHJP
【FI】
C22F1/04 H
C22C21/00 A
C22F1/00 602
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 661A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079063
(22)【出願日】2023-05-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開日:令和5年4月12日、公開タイトル:一般社団法人軽金属学会 第144会春季大会の講演予稿集、公開URL:省略(大会参加者のみ閲覧可能なため)、公開者:赤谷 優太朗、芹澤 愛、塩田 正彦、長谷川 雄一、田内 雄一朗、那須 祐輔、西本 一恵、仲津 照人
(71)【出願人】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 愛
(72)【発明者】
【氏名】仲津 照人
(72)【発明者】
【氏名】西本 一恵
(72)【発明者】
【氏名】山本 俊
(57)【要約】
【課題】特に、線径が2mm未満の範囲において、良好な最大引張強度、伸び、および導電性を有するアルミニウム合金線材およびその製造方法を見出すこと。
【解決手段】Al-Mg-Si系のアルミニウム合金線材に対し、工程(a)溶体化処理、および、工程(b)焼き入れ処理の後、工程(c)予備時効処理を施すことで、先行してCluster(1)を生成させておく。また、工程(c)の後、工程(e)第一の伸線処理、の前に、工程(d)第一の熱処理を施すことで、Cluster(1)の生成を抑制し、さらにβ″相の析出を抑制する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al-Mg-Si系のアルミニウム合金線材に対し、
(a)溶体化処理を施す工程と、
(b)焼き入れ処理を施す工程と、
(c)予備時効処理を施す工程と、
(e)一回目の伸線処理を施す工程と、
(f)熱処理を施す工程と、
(g)二回目の伸線処理を施す工程と、
(h)熱処理を施す工程と、
を少なくとも含み、
前記工程(h)は、アルミニウム合金線材の溶体化を伴わない熱処理であることを特徴とする、
アルミニウム合金線材の製造方法。
【請求項2】
前記工程(c)と、前記工程(e)との間に、
(d)熱処理を施す工程、をさらに含み、
前記工程(d)は、Cluster(1)の生成の抑制と、β″相の析出の抑制とが行われる熱処理であることを特徴とする、
請求項1に記載のアルミニウム合金線材の製造方法。
【請求項3】
前記工程(h)の後に、
(i)熱処理を施す工程、をさらに含み、
前記工程(i)は、アルミニウム合金線材の溶体化を伴わず、かつ前記工程(h)に係る加熱温度よりも低温で行われる熱処理であることを特徴とする、
請求項2に記載のアルミニウム合金線材の製造方法。
【請求項4】
前記工程(f)において、熱処理温度は180℃以下、熱処理時間は7時間以上であり、
前記工程(h)において、熱処理温度は250~350℃、熱処理時間は5分以上であり、
前記工程(i)において、熱処理温度は130~150℃、熱処理時間は30分~10時間であることを特徴とする、
請求項3に記載のアルミニウム合金線材の製造方法。
【請求項5】
工程(i)後のアルミニウム合金線材において、線径が2mm未満、最大引張強度が150MPa以上、伸びが8%以上、導電率が50%IACS以上であることを特徴とする、
請求項4に記載のアルミニウム合金線材の製造方法。
【請求項6】
Al-Mg-Si系のアルミニウム合金線材であって、
線径が2mm未満、最大引張強度が150MPa以上、伸びが8%以上、導電率が50%IACS以上であることを特徴とする、
アルミニウム合金線材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム6000系(Al-Mg-Si系)に属するアルミニウム合金線材およびその製造方法に関し、特に、線径が2mm未満において、良好な最大引張強度、伸び、および導電性を獲得可能なアルミニウム合金線材およびその製造方法に関する。
なお、本発明において、アルミニウム6000系(Al-Mg-Si系)に属するアルミニウム合金とは、JIS規格での6000系アルミニウム合金を意味する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤーハーネス用のアルミニウム合金線材およびその製造方法として、以下の特許文献1に記載の技術が知られている。
特許文献1に係るアルミニウム合金線材は、Mg:0.10~1.00質量%、Si:0.10~1.20質量%であって、Mg/Si質量比が0.4~0.8である組成を有し、線径0.5mm以下で、引張強度(200MPa以上)、伸び(13%以上)および導電率(45%IACS以上)を確保可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、アルミニウム6000系(Al-Mg-Si系)に属するアルミニウム合金線材において、特許文献1とは異なる方法で、良好な最大引張強度、伸び、および導電性を有するアルミニウム合金線材およびその製造方法を見出すことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべくなされた本発明は、Al-Mg-Si系のアルミニウム合金線材に対し、(a)溶体化処理を施す工程と、(b)焼き入れ処理を施す工程と、(c)予備時効処理を施す工程と、(e)一回目の伸線処理を施す工程と、(f)熱処理を施す工程と、(g)二回目の伸線処理を施す工程と、(h)熱処理を施す工程と、を少なくとも含み、前記工程(h)は、アルミニウム合金線材の溶体化を伴わない熱処理であることを特徴とするものである。
また、本発明は、前記工程(c)と、前記工程(e)との間に、(d)熱処理を施す工程、をさらに含み、前記工程(d)は、Cluster(1)の生成の抑制と、β″相の析出の抑制とが行われる熱処理であるよう構成することもできる。
また、本発明は、前記工程(h)の後に、(i)熱処理を施す工程、をさらに含み、前記工程(i)は、アルミニウム合金線材の溶体化を伴わず、かつ前記工程(h)に係る加熱温度よりも低温で行われる熱処理であるよう構成することもできる。
本発明に係る方法によって得られるアルミニウム合金線材は、線径が2mm未満、最大引張強度が150Mpa以上、より好ましくは170MPa以上、伸びが8%以上、導電率が50%IACS以上の特性を有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、良好な最大引張強度、伸び、および導電性を有するアルミニウム合金線材を得ることができ、特に、線径が2mm未満でありながらも、良好な最大引張強度、伸び、および導電性を有するアルミニウム合金線材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係るアルミニウム合金線材の製造方法の工程を示すフローチャート。
【
図2】実施例2でのアルミニウム合金線材の加工および熱処理の履歴を示す図。
【
図3】実施例2に係る各試料のDSC測定結果を示す図。
【
図4】実施例2に係る各試料のIPFマップを示す図。
【
図5】実施例2に係る各試料の破断伸びおよび最大引張強度を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
【0009】
<1>全体構成(
図1)
図1は、本発明に係るアルミニウム合金線材(以下、単に「線材」ともいう。)の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図1に示すように、本発明に係るアルミニウム合金線材の製造方法は、Al-Mg-Si合金の線材に対し、工程(a)~(i)を有し、そのうち、工程(d)や工程(i)を適宜除く場合がある。
なお、工程(a)にて使用する線材を得るために、事前に、以下の公知の工程(溶解工程、線材形成工程)を実施することがある。
以下、各工程の詳細について説明する。
【0010】
<2>溶解工程(事前工程)
本工程は、アルミニウム合金を溶解する工程である。
本発明において溶解されるアルミニウム合金は、アルミニウム6000系(Al-Mg-Si系)に属するものが対象となり、例えば、0.40~0.55質量%のMgと、0.45~0.65質量%のSiを含有し、残部がAl及び不可避的不純物(0.32質量%以下のFe、0.01質量%以下のCu、0.01%以下のMn、0.01質量%以下のTi、0.003質量%以下のVなど)からなる組成を有するものが含まれる。
【0011】
<3>線材形成工程(事前工程)
本工程は、溶解工程によって溶解されたアルミニウム合金の溶湯を鋳造し、線材を形成する工程である。
線材の形成方法には、プロペルチ方式(連続鋳造圧延方式)などの圧延方式や、半連続鋳造法により鋳造したビレット(円柱状のインゴット)を、押出加工法によって線形状にする方式などを採用することができる。
本発明において、本工程によって形成される線材の線径は、例えばφ8.0~10.0mmである。
【0012】
<4>工程(a):溶体化処理(S100)
工程(a)は、線材に溶体化処理を施す工程である。
本発明において、溶体化処理とは、Al相中の溶け込んでいない合金成分(Mg、Si等)を固溶させる処理を指す。
溶体化処理によって鋳造時に形成された化合物(6000系アルミニウム合金における代表的な化合物には「Mg2Si」がある。)が、Al相中に固溶され、線材の内部組織が均一化されることになる。
本発明において、工程(a)での加熱温度および加熱時間は、概ね以下の範囲で行うものとする。
【0013】
<4.1>加熱温度
本工程における加熱温度は、好ましくは500~600℃である。
加熱温度が500℃未満だと、相分離が起こるため好ましく無い。
また、加熱温度が600℃よりも高いと、一部融解が起こるため好ましく無い。
【0014】
<4.2>加熱時間
本工程における加熱時間は、温度によって最適な時間が変化するため、特段限定しないが、例えば、加熱温度が500~600℃の場合には、概ね0.5~10時間が好ましい。
これは、10時間以上に及ぶと一部融解が起こるためである。
【0015】
<5>工程(b):焼き入れ処理(S200)
工程(b)は、溶体化処理によって加熱された線材に急冷処理(焼き入れ)を施す工程である。
この急冷処理によって、Al相中に固溶したMg、Si等が化合物として析出せず、Al相中のMg、Siの過飽和の状態が保たれる。
なお、急冷処理を行わない場合、Mg-Si系化合物が析出するだけでなく、粗大化し、引張強度や伸び等の機械的特性の低下の原因となる可能性がある。
急冷処理は、線材を常温の水中へ投入後、線材の温度が常温まで冷却されたのち引き上げる手順を取っており、本発明においても同様である。
【0016】
<6>工程(c):予備時効処理(S300)
工程(c)は、Mg2Si針状析出物(β″相)の析出の前駆体として形成される二種類のナノクラスタ(Cluster(1)、Cluster(2))のうち、Cluster(1)を生成させるための処理である。
本工程により、先行してCluster(1)を生成させておくことで、Al相中に過飽和に固溶されていたMg、Siが消費され、その後の熱処理工程において、延性の低下の要因となるβ″相の析出や、β″相の析出を促進するCluster(2)の生成を抑制することができる。
本発明において、工程(c)での加熱温度および加熱時間は、概ね以下の範囲で行うことができる。
【0017】
<6.1>保持温度
本工程における保持温度は、15℃以下、その後の工程でβ″相を析出させない観点から、好ましくは5℃未満である。
また、保持温度が15℃よりも高い場合、Cluster(2)の生成が同時に起こるため好ましく無い。
【0018】
<6.2>保持時間
本工程における保持時間は、温度によって最適な時間が変化するため、特段限定しないが、例えば7~10日間が好ましい。
【0019】
<7>工程(d):第一の熱処理(S400)
工程(d)は、工程(c)を経た線材に対して、熱処理を加える工程である。本工程は、一般的に乾燥処理とも呼ばれる場合がある。
本工程に係る熱処理を行うことにより、Cluster(1)の生成が抑制され、さらにβ″相の析出が抑制されることになる。
本発明において、工程(d)での加熱温度は、概ね50℃~200℃、加熱時間は、概ね5分~10時間の範囲で設定することができる。
【0020】
<8>工程(e):一回目の伸線処理(S500)
工程(f)は、線材を伸線し、伸線材を形成する工程である。
本工程は、例えば先細りのダイスを用いた引抜加工などを用いることができる。
本工程において得られる伸線材の線径は、例えばφ2.0~3.0mmである。
【0021】
<9>工程(f):第二の熱処理(S600)
工程(h)は、工程(e)を経た伸線材(中間伸線材)に対して熱処理を施す工程である。本工程は、一般的に中間熱処理とも呼ばれる場合がある。
本工程に係る熱処理を適宜行うことにより、工程(e)によって伸線材に導入された歪みが除去され、その後の伸線加工性が向上し、最終的に得られるアルミニウム合金線の伸びが向上する。
本工程に係る熱処理の際、β″相の析出も起こるが、前記した工程(c)予備時効処理により、Al相中に固溶されているMg、Siが消費され、減少しているため、β″相の析出量が少なくなる。
本発明において、工程(f)での加熱温度および加熱時間は、概ね以下の範囲で行うことができる。
【0022】
<9.1>加熱温度
本工程における加熱温度は、その後の工程でβ″相の析出量を少なくさせる目的から、180℃以下、好ましくは110~130℃である。
【0023】
<9.2>加熱時間
本工程における加熱時間は、温度によって最適な時間が変化するため、特段限定しないが、概ね7時間以上が好ましく、例えば、加熱温度が100~140℃の場合には、概ね7~10時間が好ましい。
【0024】
<10>工程(g):二回目の伸線処理(S700)
工程(g)は、工程(f)を経た後の伸線材を再度伸線し、最終的に所望する線径を有する伸線材を形成する工程である。
本工程は、工程(e)と同様、例えば先細りのダイスを用いた引抜加工などを用いることができる。
本工程において得られる伸線材の線径は、例えばφ0.6~0.1mmである。
【0025】
<11>工程(h):第三の熱処理(S800)
工程(h)は、工程(g)を経た後の伸線材に対して、再度熱処理を施す工程である。
本工程は、一般的に最終熱処理とも呼ばれる場合がある。
なお、本工程は、前記工程(a)に係る溶体化処理(Al相中の溶け込んでいない合金成分(Mg、Si等)を固溶させる処理)を伴うものではない。
本工程に係る熱処理を適宜行うことにより、工程(g)によって伸線材に導入された歪みが除去され、最終的に得られるアルミニウム合金線の伸びが向上する。
本工程での加熱温度および加熱時間は、概ね以下の範囲で行うことができる。
【0026】
<11.1>加熱温度
本工程における加熱温度は、200~350℃、好ましくは250~350℃、より好ましくは270~310℃である。
【0027】
<11.2>加熱時間
本工程における加熱時間は、温度によって最適な時間が変化するため、特段限定しないが、概ね5分以上が好ましく、例えば、加熱温度が300℃の場合には、概ね5~20分が好ましい。
【0028】
<12>工程(i):第四の熱処理(S900)
工程(i)は、前工程を経た後の伸線材に対して、再度熱処理を施す工程である。
本工程は、一般的に工程(h)が最終熱処理と呼ばれることから、追加熱処理と定義することができる。
なお、本工程は、前記工程(a)に係る溶体化処理(Al相中の溶け込んでいない合金成分(Mg、Si等)を固溶させる処理)を伴うものではない。
本工程に係る熱処理を適宜行うことにより、線材内の歪が回復し、伸び特性の向上を計ることができる。
本工程での加熱温度および加熱時間は、概ね以下の範囲で行うことができる。
【0029】
<12.1>加熱温度
本工程における加熱温度は、最終の機械特性(伸び、引張強度)を調整する目的から、110~160℃、好ましくは130~150℃であり、工程(h)における加熱温度よりも低温となる。
【0030】
<12.2>加熱時間
本工程における加熱時間は、温度によって最適な時間が変化するため、特段限定しないが、例えば、加熱温度が130℃~150℃の場合には、概ね0.5~10時間が好ましい。
【0031】
<12.3>線材の加工処理について
なお、本工程は、工程(h)の実施後、直ちに実施する場合に限るものではない。例えば、工程(h)の実施後の線材に対し、別途撚線の加工処理を行ったものに対して、本工程を実施してもよい。
【実施例0032】
次に、本発明に係る第1実施例について説明する。
なお、本実施例では、AlにMgとSiのみを添加した合金を使用しているが、本願発明における6000系合金は、この組成に限定されるものでなく、JIS規格の6000系合金において許容されるMg、Siおよびその他の元素の組成範囲も含まれる。
【0033】
<1>実験条件
0.5質量%のMgと0.6質量%のSiを含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を溶解し、プロペルチ方式により形成した線径φ9.5mmの線材について、各工程の実験条件を以下の通り設定した。
なお、表中の各工程において、「○」の記載があるものは当該工程を後述する固定条件で実施したことを示し、「数値」の記載があるものは、当該工程を記載の数値で実施したことを示し、「×」は、当該工程を実施しなかったことを示す。
【0034】
(1)固定条件について(表1)
固定条件である、工程(a)~(e)、および工程(g)の内容を表1に示す。
[表1]
【0035】
(2)変動条件について
変動条件である、工程(f)、工程(h)、および工程(i)に係る熱処理温度および熱処理時間は、各欄に記載の数値の通りとした。
【0036】
<2>評価方法(表2)
各実験例で得たアルミニウム合金線について、引張強さ、伸び、導電率を測定し、ワイヤーハーネスの用途としての特性を評価した。
各実験例での評価は、以下の表2の通りとした。
[表2]
【0037】
<3>実験結果(表3~表7)
各実験例の結果および評価について、表3~表7を参照しながら説明する。
【0038】
【0039】
表3に示すように、一回目の伸線処理を実施した線径がφ2.0mmの線材では、実験例3、4のように評価Aを得た線材があるものの、二回目の伸線処理(工程(g))によってφ0.31mmまで縮径した線材については、良好な伸び[%]を得ることができず、評価Aには至らなかった。
このことから、伸線処理によって線径が縮径されるに従って、伸び[%]の確保が難しくなる傾向が見られることが判る。
【0040】
【0041】
表4に示すように、線径がφ0.31mmの線材において、工程(h)を実施しなかった実験例8~18に係る線材は、良好な伸び[%]を得ることができず、評価Aには至らなかった。
このことから、工程(h)を実施せず、工程(i)において、工程(f)に係る熱処理温度と同程度の熱処理温度を、長時間に亘って加えただけでは、伸び[%]の改善に至らないことが判る。
【0042】
(3)工程(i)の有無による比較(1)(表5)
[表5]
【0043】
表5に示すように、線径がφ0.31mmの線材において、工程(h)に加えてさらに工程(i)が追加された実験例23~28では、伸び[%]の改善には至り、評価Bに至った。
また、工程(i)を除いた実験例19に対し、工程(h)の熱処理時間を長くしたもの(実験例20)や、工程(h)に係る熱処理温度を高めたもの(実験例21)についても、評価Aには至らなかった。
このことから、工程(g)に係る伸線処理後、工程(h)と工程(i)を組み合わせる態様が良好な結果を得やすいことが判る。
【0044】
(4)工程(i)の有無による比較(2)(表6)
表6は、表5における工程(f)での熱処理温度を、110℃から130℃に変更したものである。
[表6]
【0045】
表6に示すように、線径がφ0.31mmの線材において、工程(h)に加えてさらに工程(i)が追加された実験例33~38では、実験例23~28と比較して、さらに引張強さ[MPa]の向上が見られ、評価Aに至った。
また、工程(i)を除いた実験例32は、評価Bに至った。
また、工程(i)を除いた実験例29に対し、工程(h)の熱処理時間を長くしたもの(実験例30)や、工程(h)に係る熱処理温度を高めたもの(実験例31)については、評価Aには至らなかった。
【0046】
(5)工程(c)および工程(i)を除いた場合(表7)
[表7]
【0047】
表7に示すように、線径がφ0.31mmの線材において、工程(c)および工程(i)を除いた実験例39~42では何れも評価Aには至らなかったものの、実験例41、42では、評価Bを得るに至った。
【0048】
なお、実験例39~42では、工程(f)に係る熱処理温度が120℃であるところ、当該熱処理温度を110℃や130℃に変更したとしても評価Aを得るまでに至らない可能性が高いことは、表5、表6に示した、実験例19、20、29、30において既に評価Aに至っていないことからも推測できる。
これらの試料に対し、示差走査熱量測定(DSC)により時効析出挙動の解析、電子後方散乱回折法(EBSD)により集合組織および再結晶挙動の観察を行い、引張試験によって機械的性質を評価した。
さらに、直流4端子法を用いた電気比抵抗測定によって電気伝導率を算出し、評価を行った。
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
また、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。