(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163491
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】短絡検出装置、短絡検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02H 7/26 20060101AFI20241115BHJP
H02H 3/10 20060101ALI20241115BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
H02H7/26 A
H02H3/10 D
H02J3/38 120
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079131
(22)【出願日】2023-05-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-09-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行者名:株式会社 電気評論社、刊行物名:電気評論第705号、発行日:令和4年11月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000241957
【氏名又は名称】北海道電力株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597129975
【氏名又は名称】株式会社星光社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 聖
(72)【発明者】
【氏名】名和 海明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】軍司 真也
(72)【発明者】
【氏名】神田 真幹
【テーマコード(参考)】
5G004
5G066
【Fターム(参考)】
5G004AA02
5G004AB02
5G004BA03
5G004DC14
5G004EA03
5G066HA13
5G066HB06
5G066HB07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】分散型電源に由来する逆潮流が発生する場合にも電力系統の短絡を正確に検出可能な短絡検出装置、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】短絡検出装置において、処理ユニット100は、電力系統における各相の相電流の瞬時値と各相の相電圧又は各相間の線間電圧の瞬時値とを周期的に取得する取得部131と、取得部により取得された各相の相電流の瞬時値と各相の相電圧又は各相間の線間電圧の瞬時値とに基づいて、各相間の線間電圧の実効値と、各相における最新の相電流ベクトルと短絡発生前の時点における相電流ベクトルとの差分である差分ベクトルと、を演算する演算部132と、演算部により演算されたいずれかの線間電圧の実効値が低下すると共に、いずれかの相の差分ベクトルの大きさが整定値以上で、その差分ベクトルの位相が予め設定された短絡検出範囲内にある場合に、電力系統で短絡が発生していると判定する判定部133と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統における各相の相電流の瞬時値と各相の相電圧又は各相間の線間電圧の瞬時値とを周期的に取得する取得部と、
前記取得部により取得された各相の相電流の瞬時値と各相の相電圧又は各相間の線間電圧の瞬時値とに基づいて、各相間の線間電圧の実効値と、各相における最新の相電流ベクトルと短絡発生前の時点における相電流ベクトルとの差分である差分ベクトルと、を演算する演算部と、
前記演算部により演算されたいずれかの線間電圧の実効値が低下すると共に、いずれかの相の差分ベクトルの大きさが整定値以上で、その差分ベクトルの位相が予め設定された短絡検出範囲内にある場合に、前記電力系統で短絡が発生していると判定する判定部と、
を備える短絡検出装置。
【請求項2】
前記演算部は、差分ベクトルの位相を演算する相と遅れ相との間の線間電圧ベクトルを基準にして差分ベクトルの位相を演算する、
請求項1に記載の短絡検出装置。
【請求項3】
前記判定部は、いずれかの線間電圧の実効値が第1の閾値未満であり、かつ、短絡発生前の時点における線間電圧の基準値を基準にした線間電圧の実効値の低下率が第2の閾値未満である場合に線間電圧の実効値が低下していると判断する、
請求項1又は2に記載の短絡検出装置。
【請求項4】
前記演算部は、短絡の影響が最も少ない相における予め設定されたサイクル数だけ前の時点の相電圧ベクトルと最新の相電圧ベクトルとの位相差を演算し、演算された位相差に基づいて短絡している相における相電流ベクトルの位相を補正する、
請求項1又は2に記載の短絡検出装置。
【請求項5】
前記演算部は、各相の相電流及び各相間の線間電圧の瞬時値に基づいて各相の相電流ベクトルを演算し、
前記判定部は、前記演算部により演算されたいずれかの相の相電流ベクトルの大きさが整定値以上であり、その相電流ベクトルの位相が予め設定された短絡検出範囲内にある場合に、前記電力系統で短絡が発生していると判定する、
請求項1に記載の短絡検出装置。
【請求項6】
前記判定部は、いずれかの線間電圧が低下すると共に、いずれかの相の相電流絶対値が整定値以上である状態が予め設定された検出時間以上継続する場合に、前記電力系統で短絡が発生していると判定する、
請求項1に記載の短絡検出装置。
【請求項7】
前記短絡検出装置は、前記判定部により短絡が発生していると判定された場合に前記電力系統に付設された開閉器を開放させる出力部をさらに備える、
請求項1、2、5及び6のいずれか1項に記載の短絡検出装置。
【請求項8】
短絡検出装置が実行する短絡検出方法であって、
電力系統における各相の相電流の瞬時値と各相の相電圧又は各相間の線間電圧の瞬時値とを周期的に取得する工程と、
取得された各相の相電流の瞬時値と各相の相電圧又は各相間の線間電圧の瞬時値とに基づいて、各相間の線間電圧の実効値と、各相における最新の相電流ベクトルと短絡発生前の時点における相電流ベクトルとの差分である差分ベクトルと、を演算する工程と、
演算されたいずれかの線間電圧の実効値が低下すると共に、いずれかの相の差分ベクトルの大きさが整定値以上で、その差分ベクトルの位相が予め設定された短絡検出範囲内にある場合に、前記電力系統で短絡が発生していると判定する工程と、
を含む短絡検出方法。
【請求項9】
コンピュータを、
電力系統における各相の相電流の瞬時値と各相の相電圧又は各相間の線間電圧の瞬時値とを周期的に取得する手段、
取得された各相の相電流の瞬時値と各相の相電圧又は各相間の線間電圧の瞬時値とに基づいて、各相間の線間電圧の実効値と、各相における最新の相電流ベクトルと短絡発生前の時点における相電流ベクトルとの差分である差分ベクトルと、を演算する手段、
演算されたいずれかの線間電圧の実効値が低下すると共に、いずれかの相の差分ベクトルの大きさが整定値以上で、その差分ベクトルの位相が予め設定された短絡検出範囲内にある場合に、前記電力系統で短絡が発生していると判定する手段、
として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短絡検出装置、短絡検出方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
開閉器と組み合わせて用いられ、配電線や付設された機器を短絡から保護する配電系統保護装置が知られている。配電系統保護装置では、負荷側において電流値が整定値以上になると開閉器に配電線を遮断させるように構成され、分散型電源に由来する逆潮流が増加した場合にも動作することがある。このような問題を解決するために、例えば、特許文献1の配電系統保護装置では、一定時間毎の電流値及び電流の潮流方向に基づいて電流増分値を演算し、演算された電流増分値に基づいて開閉器を開閉させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の配電系統保護装置では、その仕組みから推察するに電流増分値として実効値の差分を用いていると考えられる。また、電流の潮流方向を順方向と逆方向との2パターンで表現している。このため、短絡電流の瞬時値や電圧波形を基準にした短絡電流の位相を把握できず、短絡と分散型電源に由来する逆潮流とを区別する点で改善の余地がある。このような問題は、配電系統保護装置による配電線の短絡検出のみならず、送電線を含む他の電力系統における短絡検出においても存在する。
【0005】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、分散型電源に由来する逆潮流が発生する場合にも電力系統の短絡を正確に検出可能な短絡検出装置、短絡検出方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る短絡検出装置は、
電力系統における各相の相電流の瞬時値と各相の相電圧又は各相間の線間電圧の瞬時値とを周期的に取得する取得部と、
前記取得部により取得された各相の相電流の瞬時値と各相の相電圧又は各相間の線間電圧の瞬時値とに基づいて、各相間の線間電圧の実効値と、各相における最新の相電流ベクトルと短絡発生前の時点における相電流ベクトルとの差分である差分ベクトルと、を演算する演算部と、
前記演算部により演算されたいずれかの線間電圧の実効値が低下すると共に、いずれかの相の差分ベクトルの大きさが整定値以上で、その差分ベクトルの位相が予め設定された短絡検出範囲内にある場合に、前記電力系統で短絡が発生していると判定する判定部と、
を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、分散型電源に由来する逆潮流が発生する場合にも電力系統の短絡を正確に検出可能な短絡検出装置、短絡検出方法及びプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る配電系統の構成を示す概略図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る短絡検出装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】(a)は、瞬時値記憶部のデータテーブルの一例を示す図であり、(b)は、実効値・位相記憶部のデータテーブルの一例を示す図であり、(c)は、検出条件記憶部のデータテーブルの一例を示す図である。
【
図4】波形と瞬時値のサンプリングとの関係を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施の形態1に係る短絡検出装置による検出条件1を満たすかどうかを判定する手法を説明するベクトル図である。
【
図6】本発明の実施の形態1に係る短絡検出装置による検出条件1を満たすかどうかを判定する手法を説明する他のベクトル図である。
【
図7】本発明の実施の形態1に係る短絡検出装置による検出条件2を満たすかどうかを判定する手法を説明するベクトル図である。
【
図8】(a)、(b)は、いずれも本発明の実施の形態1に係る短絡検出装置による基準値を設定する手法を説明するグラフである。
【
図9】本発明の実施の形態1に係る短絡検出処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】本発明の実施の形態2に係る1サイクル分の波形を抽出する際における周波数のずれの影響を説明するグラフである。
【
図11】(a)~(d)は、いずれも本発明の実施の形態2に係る1サイクル分の波形を抽出する際に周波数補正の手順を示すベクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態に係る短絡検出装置、短絡検出方法及びプログラムを、図面を参照しながら詳細に説明する。各図面では、同一又は同等の部分に同一の符号を付す。
【0010】
実施の形態において「電力系統」との用語は、電力を需要家の受電設備に供給する設備であり、例えば、配電系統、送電系統を含む。以下、R相、S相、T相からなる三相3線式を用いた配電線において短絡検出を行う場合を例に説明する。各相の回転方向はR相→S相→T相の順番とする。
【0011】
(実施の形態1)
以下、実施の形態1に係る短絡検出装置、短絡検出方法及びプログラムを説明する。実施の形態1に係る短絡検出装置は、対象の配電線で計測された相電流及び相電圧の瞬時値のデータに基づいて、対象の配電線で短絡が発生しているかどうかを検出する装置である。
図1に示すように短絡検出装置1は、例えば、配電線に付設された配電系統保護装置である。
【0012】
配電系統保護装置は、配電用変圧器よりも負荷側に付設されている。配電系統保護装置は、線路を遮断可能な開閉器と、開閉器に通信可能に接続され、開閉器の開閉を制御する低圧子局装置と、を備える。低圧子局装置は、配電線における短絡発生を検出した場合に開閉器に指令を与えて配電線を遮断させる。配電系統保護装置は、配電線の異なる位置にそれぞれ付設されてもよい。
【0013】
短絡検出装置1は、配電線の各相にそれぞれ設けられた3つの電流センサ及び3つの電圧センサと、電流センサ及び電圧センサにより計測された計測値に基づいて配電線における短絡の有無を判定する処理ユニットと、を備える。電流センサ及び電圧センサと処理ユニットとは、通信ケーブルを介して互いに通信可能に接続されている。
【0014】
電流センサは、相電流の瞬時値を周期的に計測し、電圧センサは、相電圧の瞬時値を周期的に計測する。電流センサ及び電圧センサは、互いに同期したタイミングで相電流の瞬時値及び相電圧の瞬時値をそれぞれ計測し、これらの瞬時値のデータを処理ユニットに送信する。
【0015】
処理ユニットは、例えば、コンピュータを備える制御機器である。処理ユニットは、配電線の状態が検出条件1~3のいずれかの条件を満たしているかどうかを常時監視し、いずれかの条件が満たされた場合に配電線で短絡が発生していると判定する。
【0016】
検出条件1は、全ての線間電圧の実効値が閾値以上であり、いずれかの相電流ベクトルの大きさが整定値以上で、その位相が短絡検出範囲内にある状態が、予め設定された検出時間以上継続する場合である。短絡検出装置1の負荷側で短絡が発生したとき、順方向に大きな遅れ力率の電流が継続して流れるため、検出条件1により短絡を検出できる。なお、短絡発生時に電流センサで計測される相電流は、負荷電流と短絡電流とをベクトル合成した相電流である。
【0017】
相電流ベクトルは、1サイクル分の相電流の瞬時値に基づいて生成され、その位相は、電圧ベクトルを基準として設定される。基準となる電圧ベクトルは、例えば、遅れ相との間の線間電圧ベクトルである。具体的には、R相の位相の演算では、R-S線間電圧を基準とし、S相の位相の演算では、S-T線間電圧基準とし、T相の位相の演算では、T-R線間電圧を基準とする。
【0018】
検出条件2は、いずれかの線間電圧の実効値が低下すると共に、線間電圧の実効値の低下前後におけるいずれかの相電流ベクトルの差分ベクトルの大きさが整定値以上で、その位相が短絡検出範囲内にある状態が、予め設定された検出時間以上継続する場合である。線間電圧低下の前後における2つの相電流ベクトルの差分ベクトルの大きさは、短絡電流の大きさに相当する。末端短絡電流が小さい配電系統で逆潮流が継続する場合には、短絡が発生したとしても相電流が順潮流に変化しないことや計測される電流値の絶対値が整定値よりも小さいままであることがあるが、このような場合にも検出条件2により短絡を検出できる。
【0019】
差分ベクトルは、最新の相電流ベクトルと短絡発生前の時点(例えば、2サイクル前の時点)で演算された相電流ベクトルとの差分を演算することで得られる。差分ベクトルの位相は、短絡発生前の電圧ベクトルを基準として設定され、例えば、短絡発生前の遅れ相との間の線間電圧ベクトルを基準として設定される。具体的には、R相の位相の演算では、短絡発生前のR-S線間電圧を基準とし、S相の位相の演算では、短絡発生前のS-T線間電圧基準とし、T相の位相の演算では、短絡発生前のT-R線間電圧を基準とする。
【0020】
検出条件3は、いずれかの線間電圧の実効値が低下すると共に、いずれかの相電流の絶対値が整定値以上である状態が、予め設定された検出時間以上継続する場合である。検出条件3では、検出条件1、2において短絡を検出できない場合、例えば、周波数変動の影響により位相を演算できないような場合にも短絡を検出できる。ただし、検出条件3は、検出に要する時間が長いため、主保護である検出条件1、2を補う後備保護として用いる。
【0021】
次に、実施の形態1に係る処理ユニット100のハードウェア構成を説明する。
図2に示すように、処理ユニット100は、通信部110と、記憶部120と、制御部130と、を備える。処理ユニット100の各部は、内部バスを介して相互に接続されている。
【0022】
通信部110は、処理ユニット100が外部の機器と通信するための通信インタフェースである。通信部110は、例えば、インターネットといった通信ネットワークやUSB(Universal Serial Bus)のような入出力端子を介して開閉器や他の外部機器と通信する。
【0023】
記憶部120は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、ハードディスクを備える。記憶部120は、制御部130で実行されるプログラムや各種のデータを記憶する。また、記憶部120は、各種の情報を一時的に記憶し、制御部130が処理を実行するためのワークメモリとしても機能する。さらに、記憶部120は、瞬時値記憶部121と、実効値・位相記憶部122と、検出条件記憶部123と、を備える。
【0024】
図3(a)に示すように、瞬時値記憶部121は、電流センサ及び電圧センサで周期的に計測された各相の相電流及び相電圧の瞬時値と、相電圧の瞬時値に基づいて演算された各相間の線間電圧の瞬時値と、をサンプリングした時間順に記憶する。瞬時値は、波形1サイクルよりも短いサンプリング周期で取得されるデータである。サンプリング周期は、例えば、
図4に示すように波形1サイクルの期間T1、T2、T3、…内で等間隔に並べられた複数のサンプリング時点t0、t1、t2、…を含むように設定される。例えば、周波数50Hzの場合には、波形1サイクルの期間は20msであり、この波形1サイクルの期間内に、例えば、128点のサンプリング点を設定すればよい。瞬時値のデータを時間順に並べることで、
図4に示すような波形データを得ることができる。
【0025】
図3(b)に示すように、実効値・位相記憶部122は、1サイクル毎に演算された相電流、相電圧及び線間電圧の実効値をサイクル順に並べて記憶する。また、実効値・位相記憶部122は、1サイクル毎に演算された遅れ相との線間電圧を基準とした各相の相電流ベクトルの位相、及び相電流ベクトルの差分ベクトルの位相をサイクル順に並べて記憶する。各ベクトルの大きさ及び位相は、瞬時値記憶部121に記憶された相電流、相電圧及び線間電圧の瞬時値のデータから抽出された1サイクル分の波形データに基づいて演算される。
【0026】
1サイクル分の波形を抽出する開始点は、各瞬時値に対し同期して行うサンプリングの開始時点とすればよい。一例として
図4に示すように瞬時値がゼロとなるゼロクロス点を開始点とすると、ゼロクロス点から1サイクル分の波形を示す128個の瞬時値のデータ群を抽出すればよい。このとき、周波数が一定であると仮定すれば、1サイクル分の波形を抽出する期間T1、T2、…は、各抽出開始点から一定の期間毎に設定すればよい。例えば、周波数50Hzの場合には、波形を抽出する期間を各ゼロクロス点から20msの期間に設定すればよい。例えば、
図4の波形をR相電圧Vrとし、ゼロクロス点を開始点とすると、S相電圧Vsは位相120°前の時点、T相電圧Vtは位相240°前の時点が開始点になる。また、R相電流Ir、S相電流Is、T相電流Itは力率によって位相がずれた時点が開始点になる。
【0027】
図3(c)に示すように、検出条件記憶部123は、検出条件1~3に関する設定値を記憶する。設定値は、例えば、相電流絶対値に関する整定値、短絡検出範囲、線間電圧の実効値の閾値、線間電圧の実効値の低下率の閾値、差分ベクトルの大きさに関する整定値、検出時間である。短絡検出範囲は、位相の上限及び下限により規定される。これらの条件の詳細については後述する。
【0028】
図2に戻り、制御部130は、プロセッサを備え、処理ユニット100の各部の制御を行う。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。制御部130は、時間をカウントする内部タイマを備える。また、制御部130は、記憶部120に記憶されているプログラムを実行することにより、
図9の短絡検出処理を実行する。
【0029】
制御部130は、機能的には、取得部131と、演算部132と、判定部133と、出力部134と、を備える。制御部130では、各機能的な構成を1つのプロセッサが記憶部120に記憶されたプログラムを実行することにより実現してもよく、それぞれの機能的な構成を個別のプロセッサが記憶部120に記憶されたプログラムを実行することにより実現してもよい。
【0030】
取得部131は、電流センサ及び電圧センサから各相の相電流及び相電圧の瞬時値を周期的に取得し、取得した各相の相電流及び相電圧の瞬時値を瞬時値記憶部121に順次記憶させる。また、取得部131は、瞬時値記憶部121に記憶された瞬時値と、実効値・位相記憶部122に記憶された実効値及び位相とを取得してもよい。
【0031】
演算部132は、取得部131により取得された各相の相電圧の瞬時値に基づいて各相間の線間電圧の瞬時値を演算し、瞬時値記憶部121に順次記憶させる。線間電圧としては、R-S線間電圧、S-T線間電圧、T-R線間電圧を演算する。
【0032】
また、演算部132は、瞬時値記憶部121に記憶された1サイクル分の各相の相電流及び相電圧、並びに各相間の線間電圧の瞬時値に基づいて、相電流ベクトルの大きさ(実効値)及び位相と、最新の相電流ベクトルと短絡発生前の時点における相電流ベクトルとの差分である差分ベクトルの大きさ及び位相と、各相の相電圧の実効値及び各相間の線間電圧の実効値とを1サイクル毎に演算し、実効値・位相記憶部122に順次記憶させる。
【0033】
相電流ベクトルの大きさ及び位相は、例えば、1サイクル分の各相の相電流の瞬時値ベクトル及び各相間の線間電圧の瞬時値ベクトルに基づいて順次演算できる。また、相電流ベクトルの差分ベクトルの大きさ及び位相は、例えば、最新の1サイクル分の各相の相電流の瞬時値ベクトル、短絡発生前の時点における1サイクル分の各相の相電流の瞬時値ベクトル、各相の相電圧の瞬時値ベクトル、各相間の線間電圧の瞬時値ベクトル、各相の相電圧の実効値、及び各相間の線間電圧の実効値に基づいて演算できる。瞬時値ベクトルは、相電流、相電圧又は線間電圧の瞬時値と、当該瞬時値のサンプリングを行うサンプリングタイミングにより表現される。瞬時値ベクトルのサンプリングタイミングは、相電流、相電圧及び線間電圧のいずれにおいても同一となるように設定され、予め設定された基準波形を基準とした位相により表現される。
【0034】
R-S線間電圧を基準としたR相電流の位相θrの演算を例に説明すると、R相の位相θrは、以下の式(1)により表現される。
θr=tan-1(Qr/Pr) …(1)
【0035】
上記の式(1)においてPrはR-S線間電圧を基準とした有効電力成分、QrはR-S線間電圧を基準とした無効電力成分であり、いずれもスカラー量である。周期をTとすると、それぞれは以下の式(2)、(3)により表現される。
Pr=1/T×Σ(ir×vrs) …(2)
Qr=1/T×Σ(ir×vrs+90°) …(3)
例えば、1サイクルを128点でサンプリングする場合、T=128である。
【0036】
ここで、irはR相電流の瞬時値ベクトル、vrsはR-S線間電圧の瞬時値ベクトル、vrs+90°はR-S線間電圧を位相90°分(周波数50Hzの場合では5ms分)遅らせたデータによるR-S線間電圧の瞬時値ベクトルである。また、式(2)、(3)における記号Σは、1サイクル分の総和を意味する。
【0037】
次に、R-S線間電圧を基準としたR相電流ベクトルの差分ベクトルの位相Δθrの演算を例に説明すると、R相電流ベクトルの差分ベクトルの位相Δθrは、以下の式(4)により表現される。
Δθr=tan-1(ΔQr/ΔPr) …(4)
【0038】
上記の式(4)においてΔPrは差分ベクトルの有効電力成分、ΔQrは差分ベクトルの無効電力成分であり、いずれもスカラー量である。周期をTとすると、それぞれ以下の式(5)、(6)により表現される。
ΔPr=1/T×Σ((ir’-ir)×vrs) …(5)
ΔQr=1/T×Σ((ir’-ir)×-vt×Vrs/Vt) …(6)
例えば、1サイクルを128点でサンプリングする場合、T=128である。
【0039】
ここで、ir’はそれぞれ最新のR相電流の瞬時値ベクトル、irは短絡が発生していない時点のR相電流の瞬時値ベクトル、vrsはir計測時のR-S線間電圧の瞬時値ベクトル、vtはir計測時のT相電圧の瞬時値ベクトルである。R相電流ベクトルの差分ベクトルIr’-Irは、1サイクル分の相電流の瞬時値ベクトルの差分べクトルir’-irから演算される大きさと、上記の式(4)により演算される位相Δθrとにより表現できる。以下、差分ベクトルIr’-Irを簡略化してΔIrのように表現することがある。
【0040】
また、上記の式(6)においてVrs/VtはT相電圧比であり、スカラー量である。VrsはR-S線間電圧の実効値、VtはT相電圧の実効値であり、いずれもR相電流ベクトルIr計測時の値である。差分ベクトルの無効電力成分ΔQrを演算するのにT相電圧比を乗算するのは、R相電流ベクトルIr計測時の電圧不平衡による位相判定の誤差を補正するためである。三相3線式の配電方式では、短絡発生前は、R-S線間電圧の実効値VrsとT相電圧の実効値Vtの位相差は90°であることから、短絡発生前の相電流及び線間電圧を固定して差分ベクトルを演算する検出条件2では、短絡発生前のT相電圧ベクトルを用いた上で波高値を合わせるためにVrs/Vtを乗算することで補正を行っている。
【0041】
判定部133は、演算部132により1サイクル毎に演算された相電流ベクトルの大きさ及びその位相と、相電流ベクトルの差分ベクトルの大きさ及びその位相と、各相間の線間電圧の実効値とに基づいて、配電線で短絡が発生しているかどうかを判定する。
【0042】
具体的には、判定部133は、全ての線間電圧の実効値が閾値以上であり、いずれかの相電流ベクトルの大きさが整定値以上で、その位相が短絡検出範囲内にある状態が、予め設定された検出時間以上継続する場合に、配電線で短絡が発生していると判定する(検出条件1)。
図5を例に説明すると、R相電流ベクトルIrの大きさが整定値を示す破線で描画された円の半径よりも大きく、R-S線間電圧ベクトルVrsを基準にして演算されたR相の位相θrが短絡検出範囲内にある。このような状態が検出時間継続すると、R相で短絡が発生していると判定できる。なお、
図5では、基準となるR-S線間電圧ベクトルVrsに対して遅れ側を正、進み側を負としてR相電流ベクトルIrを図示している。
【0043】
線間電圧の実効値の閾値は、例えば、200Vである。相電流絶対値の整定値は、線路で短絡が発生した場合の相電流の電流値の最小値(例えば、末端短絡電流の電流値)よりも小さく、負荷電流よりも大きくなるように設定される。検出時間は、配電用変電所における短絡検出を考慮して設定すればよく、例えば、8サイクルに相当する時間(周波数50Hzで0.16秒)である。
【0044】
短絡検出範囲は、各相に対して個別に設定され、相電流が順潮流である場合の位相を含む範囲である。線間電圧が互いに120°ずれているため、それぞれの短絡検出範囲も互いに120°ずらして設定される。相電流の位相を遅れ相との間の線間電圧ベクトルを基準として設定する場合、短絡検出範囲は、例えば、0°に設定された線間電圧ベクトルに対して-30°~0°~120°の範囲に設定すればよい。この範囲は、短絡電流が線間電圧に対して遅れ力率となるためであり、分散型電源による逆潮流を検出しないように設定されている。
【0045】
より詳細に説明すると、単相短絡を検出するため、基準となる線間電圧ベクトルに対して0°~90°の範囲を設定し、三相短絡を検出するため、同じく30°~120°の範囲(基準となる相電圧に対して0°~90°)を設定している。加えて、位相演算の誤差を考慮して進み側で30°の裕度を設定し、-30°~0°~120°としている。逆潮流及び短絡のいずれも位相が120°付近で発生せず、仮に120°付近となった場合に逆潮流状態で短絡を誤検出することを回避するため、遅れ側の裕度は設定していない。
【0046】
なお、検出条件1は、短絡発生前後で相電流が逆潮流から順潮流に変化する場合にも適用できる。
図6の例では、短絡発生前のR相電流ベクトルIrが短絡非検出範囲内にあるが、短絡発生後のR相電流ベクトルIr’の位相が短絡検出範囲内にあり、その大きさが整定値以上である。このような状態が検出時間継続すると、R相で短絡が発生していると判断できる。
【0047】
また、上記ではR相短絡を例に説明したが、同様の演算をS相、T相でも実施すればよい。いずれかの相で検出条件1を満たしている場合には、その相において短絡が発生していると判断できる。
【0048】
また、判定部133は、いずれかの線間電圧の実効値が低下すると共に、線間電圧の実効値の低下前後のいずれかの相電流ベクトルの差分ベクトルの大きさが整定値以上で、その差分ベクトルの位相が短絡検出範囲内にある状態が、予め設定された検出時間以上継続する場合に、配電線で短絡が発生していると判定する(検出条件2)。
図7を例に説明すると、短絡発生前後におけるR相電流ベクトルの差分ベクトルΔIrの大きさが整定値以上であり、R相電流ベクトルの差分ベクトルΔIrの位相Δθrが短絡検出範囲内に含まれている。このような状態が検出時間継続すると、R相で短絡が発生していると判定できる。なお、
図7では、
図6のR相電流ベクトル、S相電流ベクトルの差分ベクトルΔIr、ΔIsの始点を原点に移動したものである。
【0049】
検出条件2で線間電圧の実効値の低下をトリガとしているのは、短絡と分散型電源とに由来する逆潮流変動とを区別するためである。分散型電源の解列により逆潮流が減少した場合には、線間電圧の低下幅が小さいため、線間電圧の低下の度合いにより短絡と分散型電源とに由来する逆潮流変動とを区別できる。
【0050】
線間電圧の実効値が低下したかどうかは、いずれかの線間電圧の実効値が第1の閾値以上から閾値未満に変化し、かつ、その線間電圧の実効値の低下率が短絡発生前に設定された線間電圧を基準にして第2の閾値以上となった場合に線間電圧が低下したと判断すればよい。例えば、定格6600Vの場合には、全ての線間電圧の実効値が5000V以上の状態から、いずれかの線間電圧の実効値が5000V未満になり、かつ、その線間電圧の実効値の電圧低下率が短絡発生前に設定された線間電圧を基準にして10%以上となった場合に線間電圧の実効値が低下したと判断する。線間電圧の実効値の低下率も考慮しているのは、逆潮流が発生している状態で、上位系(送電系)で再閉路事故が発生すると、線間電圧が5000V未満になることがあり、この状態で配電系統の分散型電源が遅れて解列すると短絡と誤判定する可能性があるためである。
【0051】
線間電圧の実効値が低下し、短絡条件2のその他の条件も満たされた時点で検出時間が経過するかどうかを判断するカウントを開始する。その途中で全ての線間電圧の実効値が第3の閾値以上に戻ると、線間電圧の低下が中断したと判断され、カウントを終了する。第3の閾値は、検出時間のカウントにおいてヒステリシスを持たせるように第1の閾値よりも大きい。例えば、第1の閾値を5000Vとすると、第3の閾値は6000Vに設定される。以下、このような条件を復帰条件と呼ぶこととする。このような復帰条件を設けるのは、検出条件2から外れてカウントがクリアされた直後に、線間電圧が第1の閾値未満の状態となり再度の短絡が検出された場合、カウントがクリアされた直後の相電流の実効値及び線間電圧の実効値が基準値となってしまうためである。
【0052】
線間電圧の実効値の低下率や短絡発生前後における相電流ベクトルの差分ベクトルを演算するには、短絡発生前の相電流の瞬時値、相電圧の瞬時値及び実効値、線間電圧の瞬時値及び実効値を、予め基準値として設定しておく必要がある。基準値は、例えば、2サイクル前の瞬時値又は実効値であり、予め設定された条件を満たしてホールドされない限り1サイクル毎に更新する。基準値をホールドするのは、検出条件2における線間電圧の実効値に関する条件を満たした場合である。このため、線間電圧の基準値はどの時点でも第1の閾値以上となる。
【0053】
検出時間をカウントしている最中に少なくとも一部のパラメータが検出条件2における線間電圧の実効値、差分ベクトルの大きさ及び位相に関する条件から外れても、そのまま検出時間のカウントを継続させる。外れている状態が差分ベクトルの演算のために予め設定された期間よりも長い期間連続した場合には、検出時間のカウントを終了させ、基準値のホールドを解除する。例えば、基準値として2サイクル前の瞬時値又は実効値を用いる場合には、3サイクル経過した時点で検出時間のカウントを終了させる。
【0054】
以下、
図8を参照しつつ具体例を用いて説明する。
図8では、時間の経過を1サイクル毎にゼロから1つずつ進む「最新サイクル」で表現する。また、線間電圧の単位をVとする数値は、実効値であり、%値は、定格6600Vを基準とする線間電圧の低下率である。
【0055】
図8(a)の例では、最新サイクル2~4で検出条件2における線間電圧の実効値に関する条件が成立しているため、最新サイクル2~4の基準値は最新サイクル0での値である。最新サイクル5で線間電圧の実効値が条件を外れるが、最新サイクル5~7では条件を外れた時点から3サイクル未満であるため、基準値は最新サイクル0での値でホールドしている。最新サイクル8では、線間電圧の実効値が条件を外れた時点から3サイクル以上経過しているため、基準値を最新サイクル6の値に更新し、以後1サイクル毎に基準値を更新するかどうかを判断する。
【0056】
他方、
図8(b)の例では、最新サイクル2で検出条件2における線間電圧の実効値に関する条件を満たしているので、最新サイクル2~4における基準値は最新サイクル0での値でホールドする。他方で、最新サイクル2~4における相電流ベクトルの差分ベクトルの大きさが整定値未満であるため、3サイクル後の最新サイクル5では基準値を最新サイクル3の値に更新する。この時点で電圧が5000V未満であり、復帰条件を満たしていないため、最新サイクル3における値を基準値としてホールドしない。以後、1サイクル毎に基準値を更新するかどうかを判断する。
【0057】
短絡検出範囲は、各相を対象として個別に設定され、相電流が順潮流である場合の位相を含む範囲である。相電圧が互いに120°ずれているため、それぞれの短絡検出範囲も互いに120°ずらして設定される。相電流の位相を遅れ相との線間電圧ベクトルを基準として設定する場合、短絡検出範囲は、検出条件1の場合と同様にして0°に設定された線間電圧ベクトルに対して-30°~0°~120°の範囲に設定すればよい。
【0058】
検出時間は、例えば、検出条件1の場合と同様に8サイクルに相当する時間(周波数50Hzで0.16秒)である。ただし、中性点の対地電圧である零相電圧が検出され、その零相電圧が1000V以上となる場合、上記の検出時間での短絡検出を行わず、短絡遮断出力時間以内に負荷側地絡、地絡過電流又はDGI=0.0A設定で零相電圧のみを検出した場合において短絡が発生していると判断する。短絡遮断出力時間は、短絡検出装置1が短絡発生を検出した時点から開閉器に向けて線路の遮断を指示するまでの時間である。DGIは、地絡遮断電流に関する整定値であり、通常は0.2Aに設定され、地絡方向検出及び地絡遮断に用いるが、0.0Aに設定されると零相電圧のみ遮断するモードに切り替わる。
【0059】
なお、上記ではR相における短絡を例に説明したが、同様の演算をS相、T相でも行えばよい。いずれかの相で検出条件2を満たしている場合には、その相において短絡が発生していると判定できる。
【0060】
加えて、判定部133は、いずれかの線間電圧の実効値が低下すると共に、相電流絶対値が整定値以上である状態が、予め設定された検出時間以上継続する場合、配電線で短絡が発生していると判定する(検出条件3)。
【0061】
検出条件3において線間電圧の実効値が低下したかどうかは、いずれかの線間電圧の実効値が第1の閾値未満となった場合に線間電圧の実効値が低下したと判断すればよい。他方、電圧低下復帰条件は、すべての線間電圧の実効値が第3の閾値以上の場合である。検出条件3における第1の閾値、第3の閾値は、検出条件2と同様に、例えば、5000V、6000Vに設定すればよい。検出条件3における線間電圧の実効値の低下を検出する条件が検出条件2の場合よりもシンプルなのは、取りこぼすことなく短絡を検出するためである。
【0062】
検出条件3における検出時間は、検出条件1、2の場合よりも長く設定されている。上位系統の再閉路と分散型電源の逆潮流とが同時に発生する場合にも、線間電圧の実効値の低下と相電流絶対値が整定値以上となる状態がある程度継続することがあり、検出時間を長めに取ることで両者を区別できる。検出時間は、例えば、40サイクルに相当する時間(周波数50Hzで0.8秒)である。
【0063】
ただし、X時限投入後で検出がY時限中の場合、又は投入X時限=0秒設定の場合は、検出時間を8サイクル(0.16秒)とする。X時限は、短絡検出装置1に系統電源が印加されてからカウントする時間であり、このX時限を超過すると開閉器を投入する。Y時限は、開閉器が投入されてからカウントする時限であり、他の開閉器がX時限投入する前にカウントを終了させる。この時限によって、自開閉器が投入して送電した区域に事故の原因があるかを判定し、事故の原因があると判定した場合は開閉器を開放後ロックして、再度系統電圧が印加されても時限投入しないように構成されている。
【0064】
開閉器のX時限投入は、開閉器の電源側の配電線が加圧状態で、負荷側の配電線が無加圧状態(停電)のときに行われる。検出条件3は検出条件1、2で短絡を検出できない場合の後備保護であるため、通常は検出時間を長く設定しているが、X時限投入時は、分散型電源は解列状態であり影響を考慮する必要がなく、相電流絶対値で短絡が発生していると判定できるため、検出時間を短くできる。また、検出時間が40サイクルのままだと電源側の短絡検出装置1との協調が取れないため、Y時限中は短絡検出を早めている。
【0065】
また、零相電圧が1000V以上の場合、検出時間40サイクルでの短絡検出を保留とし、短絡遮断出力時間以内に負荷側地絡、地絡過電流、又はDGI=0.0A設定で零相電圧のみを検出した場合に短絡検出とする。
【0066】
なお、判定部133は、検出条件2、3を満たすかどうかを判定する際に、零相電圧発生時に負荷側地絡が発生していることも条件とするとよい。地絡を伴わない短絡では、零相電圧が発生しないのに対し、地絡を伴う負荷側短絡では、負荷側地絡を検出すると共に零相電圧が発生する。また、欠相でも零相電圧が発生する。このため、零相電圧発生時には、負荷側地絡が発生していることも条件とすることで、短絡と逆潮流下での欠相とを区別できる。なお、地絡が電源側及び負荷側のどちらで発生しているかは、零相電流及び零相電圧に基づき公知の手法で判定すればよい。
【0067】
出力部134は、判定部133により判定された短絡が発生していると判定された場合に開閉器を開放させる。具体的に説明すると、出力部134は、判定部133により検出条件1~3のいずれかが満たされていると判定された場合に短絡遮断出力時間だけ待機した後、開閉器に向けて線路を遮断するように指示する制御信号を送信する。
【0068】
検出条件1、2では、電源側の他の短絡検出装置との協調を考慮して、短絡遮断出力時間を短絡遮断時間よりも短い時間、例えば、「短絡遮断時間-0.02秒」とする。また、検出条件3では、電源側の他の短絡検出装置と協調を取れなくても短絡の確実な検出遮断を実行するために、短絡遮断出力時間を一定時間、例えば、1.78秒とする。短絡遮断時間は、整定値の1つであり、短絡が発生してから開閉器を遮断させるまでの期間のことである。
【0069】
短絡遮断出力時間のカウント中に検出条件から外れた状態になっても短絡遮断出力時間のカウントをそのまま継続させるが、条件から外れた状態が3サイクル連続したとき、短絡遮断出力時間のカウントを終了させ、開閉器の投入状態を維持させる。
以上が、処理ユニット100の構成である。
【0070】
(短絡検出処理)
以下、
図9のフローチャートを参照して、処理ユニット100が実行する短絡検出処理の流れを説明する。短絡検出処理は、配電線で計測された相電流及び相電圧の瞬時値に基づいて配電線で短絡が発生しているかどうかを検出する処理である。短絡検出処理は、系統電源からの電源電圧が印加された時点で開始される。
【0071】
まず、取得部131は、各相の相電流及び相電圧の瞬時値を取得し、瞬時値記憶部121に記憶させる(ステップS1)。
【0072】
次に、演算部132は、ステップS1の処理で取得した各相の相電圧の瞬時値に基づいて各相間の線間電圧の瞬時値を演算し、瞬時値記憶部121に記憶させる(ステップS2)。
【0073】
次に、演算部132は、瞬時値記憶部121に記憶された最新の1サイクル分の相電流の瞬時値、相電圧の瞬時値、及び線間電圧の瞬時値に基づいて、各相の相電圧の実効値と、各相間の線間電圧の実効値と、最新の1サイクルにおける相電流ベクトルの大きさ(実効値)及び位相とを演算し、実効値・位相記憶部122に記憶させる(ステップS3)。相電流ベクトルの大きさ及び位相は、1サイクル分の各相の相電流の瞬時値ベクトル及び各相間の線間電圧の瞬時値ベクトルから演算する。
【0074】
次に、演算部132は、ステップS3の処理で演算された最新の相電流ベクトルと、実効値・位相記憶部122に記憶された2サイクル前の相電流ベクトルとに基づいて、最新の相電流ベクトルの差分ベクトルを演算し、差分ベクトルの大きさ(実効値)及び位相を実効値・位相記憶部122に記憶させる(ステップS4)。相電流ベクトルの差分ベクトルの大きさ及び位相は、最新の1サイクル分の各相の相電流の瞬時値ベクトルと、短絡発生前の時点における1サイクル分の各相の相電流の瞬時値ベクトル、各相の相電圧の瞬時値ベクトル、各相間の線間電圧の瞬時値ベクトル、各相の相電圧の実効値及び各相間の線間電圧の実効値から演算する。
【0075】
次に、判定部133は、ステップS3の処理で演算された各相の相電流ベクトル及び各相間の線間電圧ベクトルと、ステップS4の処理で演算された相電流ベクトルの差分ベクトルとに基づいて、配電線の状態が検出条件1~3のいずれかの条件を満たしているかどうかを判定する判定処理を実行する(ステップS5)。
【0076】
具体的には、まず、判定部133は、いずれかの線間電圧の実効値、いずれかの相電流ベクトルの大きさ及び位相が検出条件1を満たすかどうかを判定する。また、判定部133は、検出条件1を満たすかどうかを判定する処理と並行して、いずれかの線間電圧の実効値及びその低下率、いずれかの相の差分ベクトルの大きさ及び位相が検出条件2を満たすかどうかを判定する。そして、検出条件1、2を満たすかどうかを判定する処理と並行して、いずれかの線間電圧の実効値、及びいずれかの相電流絶対値が検出条件3を満たすかどうかを判定する。
【0077】
ステップS5の処理では、配電線の状態が検出条件1~3のいずれかを満たしていると判定された場合、検出条件毎に最新のサイクルtxにおいて検出条件を満たしたことを示す検出フラグFtxを立てる。新たなサイクルにおけるステップS5の処理でも同じ検出条件を満たしていると判定された場合には、新たな検出フラグFtx+1を立て、以下のサイクルでも同様の処理を実行する。
【0078】
また、ステップS5の処理では、検出条件2における線間電圧の実効値の低下に関するトリガ条件を満たしていると判定された時点の2サイクル前の相電流、相電圧及び線間電圧の瞬時値ベクトル、並びに相電圧及び線間電圧の実効値を基準値としてホールドする。基準値がホールドされた場合には、基準値のホールドが解除されるまで、1サイクル毎の基準値の更新を一時的に停止する。
【0079】
ステップS5の処理でYesの場合、判定部133は、ステップS5の処理で検出条件1~3のいずれかが満たされた状態で検出時間が経過したかどうかを判定する(ステップS6)。ステップS6の処理では、検出フラグFtx、Ftx+1、Ftx+2、…が予め設定されたサイクル数連続して立てられているかどうかで検出時間が経過したかどうかを判断できる。他方、ステップS5の処理でNoの場合、ステップS1の処理に戻る。
【0080】
検出条件1~3のいずれかが満たされた状態で検出時間が経過したと判定された場合(ステップS6;Yes)、出力部134は、検出時間が経過した時点から短絡遮断出力時間が経過したかどうかを判定する(ステップS7)。他方、検出条件1~3のいずれかが満たされた状態で検出時間が経過していないと判定された場合(ステップS6;No)、ステップS1の処理に戻る。
【0081】
検出時間が経過した時点から短絡遮断出力時間が経過したと判定された場合(ステップS7;Yes)、出力部134は、操作対象の開閉器を開放させ(ステップS8)、ステップS1に戻る。開閉器をロックしていない場合は、あらかじめ設定した再閉路時限経過後に開閉器を再び投入させる。開閉器が再び投入された時点で、
図9に示す短絡検出処理の実行を再び開始すればよい。他方、検出時間が経過した時点から短絡遮断出力時間が経過していないと判定された場合(ステップS7;No)、ステップS1の処理に戻る。
以上が、短絡検出処理の流れである。
【0082】
以上説明したように、実施の形態1に係る短絡検出装置1は、配電線における各相の相電流及び相電圧の瞬時値を周期的に取得する取得部131と、取得部131により取得された各相の相電流及び相電圧の瞬時値に基づいて、各相間の線間電圧の実効値と、各相における最新の相電流ベクトルと短絡発生前の時点における相電流ベクトルとの差分である差分ベクトルと、を演算する演算部132と、演算部132により演算されたいずれかの線間電圧の実効値が低下すると共に、いずれかの相の差分ベクトルの大きさが整定値以上で、その差分ベクトルの位相が予め設定された短絡検出範囲内にある場合に、配電線で短絡が発生していると判定する判定部133と、を備える。このため、分散型電源に由来する逆潮流が発生する場合にも配電線の短絡を正確に検出できる。
【0083】
(実施の形態2)
以下、実施の形態2に係る短絡検出装置、短絡検出方法及びプログラムを説明する。実施の形態1では、周波数が変動しないことを前提として説明していたが、実施の形態2では、周波数が変動する場合にも検出条件2による検出を行うための手法を説明する。以下、実施の形態1の場合と相違する点を中心に説明する。
【0084】
ゼロクロス点から1サイクル分の波形を抽出する場合を例に説明すると、周波数が基準周波数である50Hzよりも小さくなる場合、
図10に示すように波形が時間方向に広がるため、ゼロクロス点が本来の位置よりも少しずつ右側に移動する。他方、周波数が基準周波数である50Hzよりも大きくなる場合、波形が時間方向に狭まるため、ゼロクロス点が本来の位置よりも少しずつ左側に移動する。このずれが積み重なると相電流ベクトルの差分ベクトルの位相が正確に演算できず、検出条件2による短絡検出が行えなくなる。
【0085】
この現象を
図11に示すベクトル図を用いて説明する。周波数が基準周波数からずれていると、短絡後のR相電流ベクトルは、その大きさは変化しないものの、50Hz未満の場合は時間の経過によりIr’、Ir’’、Ir’’’へと時計回りに移動し、短絡前のR相電流ベクトルIrとの位相差も変化する。その結果、差分ベクトルがΔIr’、ΔIr’’、ΔIr’’’へと変化し、差分ベクトルの大きさが徐々に小さくなると共に、位相も変化し、差分ベクトルΔIr’’’の時点で短絡検出範囲から外れてしまい、検出条件2による短絡検出が行えなくなってしまう。なお、
図11のベクトル図では、理解を容易にするため、短絡検出範囲をリング状の領域で図示しているが、実際には整定値を半径とする円の外側の領域である。
【0086】
このような周波数変動の影響を排除するため、周波数が50Hzよりも小さい場合には、
図10に示すように1サイクル抽出の開始点がゼロクロス点となるように開始点を遅らせ、遅らせた開始点を起点とする期間T2、T3、…の範囲のデータを1サイクルの波形として抽出すればよい。他方、周波数が50Hzよりも大きい場合には、1サイクル抽出の開始点がゼロクロス点となるように開始点を早め、早めた開始点を起点とする期間T2、T3、…の範囲のデータを1サイクルの波形として抽出すればよい。なお、上記の説明では、1サイクル抽出の開始点がゼロクロス点としていたが、1サイクル抽出の開始点は、各瞬時値のサンプリングを実施するどのサンプリング時点であってもよい。
【0087】
実施の形態2に係る短絡検出装置では、周波数カウントを行わずに上記の機能を実現するため、演算部132が、短絡の影響が最も少ない相における1サイクル毎の相電圧ベクトルに基づいて、1サイクル前の相電圧ベクトルと最新の相電圧ベクトルとの位相差を繰り返し演算し、繰り返し演算された位相差に基づいて短絡している相の相電流ベクトルの位相を補正する周波数補正を実行すればよい。三相短絡時における短絡の影響が最も少ない相は、例えば、電圧が一番大きい相である。
【0088】
以下、配電線でR-S短絡が発生した場合における周波数補正の演算を
図11の具体例を用いて説明する。周波数が基準周波数よりも大きな場合、配電線におけるR-S短絡発生後に抽出開始点から一定時間幅で繰り返し1サイクル分の波形をサンプリングすると、
図11(b)~(d)に示すようにT相電圧ベクトルVt’がVt’’、Vt’’’へと本来あるべき向きからずれる。そこで、周波数補正を実行するには、まず、nサイクル(例えば、n=1)前のサンプリング時点のT相電圧ベクトルVt’(
図11(c)に示す破線のベクトル)と最新のT相電圧ベクトルVt’’(
図11(c)に示す実線のベクトル)との位相差を演算する。
【0089】
次に、演算された相電圧ベクトルの位相差に基づいて、短絡後のR相電流ベクトルIr’’を補正し、補正した短絡後のR相電流ベクトルIr’’に基づいて差分ベクトルΔIr’’を演算する。このとき、T相電圧ベクトルVt’’ とR相電流ベクトルIr’’ とのなす角を維持したまま、T相電圧ベクトルVt’’がT相電圧ベクトルVt’に一致するようにT相電圧ベクトルVt’’ とR相電流ベクトルIr’’とを一緒に反時計回りに回転させることで、R相電流ベクトルIr’’を補正すればよい。これにより
図11(c)に示すR相電流ベクトルIr’’が本来あるべき向きに補正される。
【0090】
具体的な処理としては、サンプリング毎に演算された1サイクル前の相電圧ベクトルと最新の相電圧ベクトルとの位相差を累積し、この位相差の累積値が1サンプリングに相当する角度以上となった場合に、その角度分だけ短絡後のR相電流ベクトルIr’’を補正すればよい。ただし、サンプリング毎に演算される位相差が大きい場合には周波数変動以外の要因が存在する可能性があるため、位相差を累積するかどうかを閾値により判断するとよい。具体的には、サンプリング毎に演算される位相差が閾値未満である場合には、位相差を累積し、サンプリング毎に演算される位相差が閾値以上である場合には、位相差を累積しなければよい。このときの閾値は、例えば、3°(周波数50Hzの場合には約0.4Hzに相当)に設定すればよい。
【0091】
以上説明したように実施の形態2に係る短絡検出装置1は、短絡が発生していない相における1サイクル前の相電圧ベクトルと最新の相電圧ベクトルとの位相差を演算し、演算された位相差に基づいて短絡している相における相電流ベクトルの位相を補正する演算部132を備える。このため、周波数が変動する場合にも差分ベクトルを正確に演算でき、検出条件2による短絡検出を行うことができる。また、周波数補正において周波数カウンタやゼロクロス検出のための演算が不要であるため、演算による検出遅れを小さくでき、短絡発生時に速やかに配電線を遮断できる。
【0092】
本発明は上記実施の形態に限られず、以下に述べる変形も可能である。
【0093】
(変形例)
上記実施の形態では、各相の相電圧の瞬時値を計測し、各相の相電圧に基づいて各相間の線間電圧を演算していたが、本発明はこれに限られない。例えば、各相間に接続された電圧センサにより各相間の線間電圧の瞬時値を計測し、各相間の線間電圧に基づいて各相の相電圧を演算してもよい。
【0094】
上記実施の形態では、線間電圧を基準にして相電流の位相を設定していたが、本発明はこれに限られない。例えば、同一相の相電圧を基準にして相電流の位相を設定してもよい。
【0095】
上記実施の形態では、相電流の位相を対象にして設定される短絡検出範囲と、相電流ベクトルの差分ベクトルの位相を対象にして設定される短絡検出範囲とが同一であったが、本発明はこれに限られない。例えば、相電流の位相を対象にして設定される短絡検出範囲と、相電流ベクトルの差分ベクトルの位相を対象にして設定される短絡検出範囲と個別に設定してもよい。
【0096】
上記実施の形態では、検出条件1において全ての線間電圧の絶対値が閾値以上であるかどうかを判断していたが、本発明はこれに限られない。例えば、配電系統の形態によっては、全ての線間電圧が閾値以上であるかどうかの判断を省略してもよい。
【0097】
上記実施の形態では、検出条件1、2のそれぞれにおいて、設定された条件が満たされた状態を検出時間以上継続した場合に短絡が発生していると判定していたが、本発明はこれに限られない。例えば、設定された条件が満たされた時点で短絡が発生していると判定してもよい。
【0098】
上記実施の形態では、差分ベクトルの無効電力成分ΔQrを演算するのにT相電圧比を乗算していたが、本発明はこれに限られない。電圧不平衡による位相判定の誤差を補正する必要がなければ、差分ベクトルの無効電力成分ΔQrの演算におけるT相電圧比の乗算を省略し、電圧比として√3を乗じてもよい。また、T相電圧の瞬時値の代わりに、R-S線間電圧のサンプリングを90°(周波数50Hzの場合には5ms)遅らせたデータによるR-S線間電圧の瞬時値を使うことが可能な場合も、T相電圧比を乗算する必要が無い。
【0099】
上記実施の形態では、検出条件2における線間電圧の実効値の低下に関するトリガ条件を満たした時点から2サイクル前の相電流及び線間電圧の瞬時値、並びに相電流、相電圧及び線間電圧の実効値を基準値とし、少なくとも一部のパラメータが検出条件2から外れている状態が3サイクル連続した場合に基準値のホールドを解除していたが、本発明はこれに限られない。例えば、検出条件2における線間電圧の実効値の低下に関するトリガ条件から3サイクル前の相電流及び線間電圧の瞬時値、並びに相電流、相電圧及び線間電圧の実効値を基準値としてもよく、少なくとも一部のパラメータが検出条件から外れている状態が4サイクル連続した場合に基準値のホールドを解除してもよい。
【0100】
上記実施の形態では、検出条件2、3を満たすかどうかを判定する際に零相電圧発生時に負荷側地絡が発生していることも条件としていたが、本発明はこれに限られない。短絡検出装置1が地絡判定の機能を有していない場合や、欠相を考慮する必要が無い場合には、零相電圧発生時に負荷側地絡が発生しているかどうかの判断を省略してもよい。
【0101】
上記実施の形態では、全ての線間電圧の実効値が第3の閾値以上になる場合にも基準値のホールドを解除していたが、本発明はこれに限られない。例えば、いずれかの線間電圧の実効値が第3の閾値以上になると、第3の閾値以上になった線間電圧のみ基準値のホールドを解除してもよい。
【0102】
上記実施の形態2では、1つ前のサンプリング時点の相電圧ベクトルと最新の相電圧ベクトルとの位相差を演算していたが、本発明はこれに限られない。例えば、2つ前のサンプリング時点の相電圧ベクトルと最新の相電圧ベクトルとの位相差を演算してもよい。
【0103】
上記実施の形態2では、サンプリング毎に演算された相電圧の位相差を累積し、位相差の累積値 が1サンプリングに相当する角度以上となった場合に、その角度分だけ短絡後の相電流ベクトルを補正していたが、本発明はこれに限られない。例えば、相電流ベクトルに対して1サンプリング毎に周波数補正を行ってもよい。
【0104】
上記実施の形態2では、相電圧ベクトルの位相差に基づいて相電流ベクトルに対して周波数補正をおこなっていたが、本発明はこれに限らない。例えば、周波数カウンタやゼロクロス点を検出し、周波数カウンタやゼロクロス点に基づいて周波数補正を行ってもよい。また、単相短絡の場合には、短絡していない相の相電流ベクトルの位相差を演算し、演算された相電流ベクトルの位相差に基づいて周波数補正を行ってもよい。
【0105】
上記実施の形態2では、相電圧ベクトルの位相差を演算し、演算された位相差に基づいて相電流ベクトルに対して周波数補正を行っていたが、本発明はこれに限られない。例えば、線間電圧ベクトルの位相差を演算し、演算された位相差に基づいて相電流ベクトルに対して周波数補正を行ってもよい。また、周波数補正の対象は、相電流ベクトルに限られず、相電圧ベクトルや線間電圧ベクトルであってもよい。
【0106】
上記実施の形態では、短絡検出装置1を三相3線式の配電線における短絡検出に用いていたが、本発明はこれに限られない。短絡検出装置1を三相3線式以外の配電線、例えば、単相2線式又は三相4線式の配電線における短絡検出に用いてもよく、送電線における短絡検出に用いてもよい。
【0107】
上記実施の形態では、処理ユニット100の記憶部120に各種データが記憶されていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、各種データは、その全部又は一部が通信ネットワークを介して外部の制御装置や処理ユニットに記憶されていてもよい。
【0108】
上記実施の形態では、処理ユニット100は、それぞれ記憶部120に記憶されたプログラムに基づいて動作していたが、本発明はこれに限定されない。例えば、プログラムにより実現された機能的な構成をハードウェアにより実現してもよい。
【0109】
上記実施の形態では、処理ユニット100は、例えば、短絡検出装置1に設けられた制御機器であったが、本発明はこれに限られない。例えば、処理ユニット100は、クラウド上に設けられた処理ユニットで実現してもよい。
【0110】
上記実施の形態では、処理ユニット100が実行する処理は、上述の物理的な構成を備える装置が記憶部120に記憶されたプログラムを実行することによって実現されていたが、本発明は、プログラムとして実現されてもよく、そのプログラムが記録された記憶媒体として実現されてもよい。
【0111】
また、上述の処理動作を実行させるためのプログラムを、フレキシブルディスク、CD-ROM(Compact Disk Read-Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disk)、MO(Magneto-Optical Disk)のような処理ユニットにより読み取り可能な非一時的な記録媒体に格納して配布し、そのプログラムを処理ユニットにインストールすることにより、上述の処理動作を実行する装置を構成してもよい。
【0112】
上記実施の形態は例示であり、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の趣旨を逸脱しない範囲でさまざまな実施の形態が可能である。各実施の形態や変形例で記載した構成要素は自由に組み合わせることが可能である。また、特許請求の範囲に記載した発明と均等な発明も本発明に含まれる。加えて、特許請求の範囲に記載した発明の構成要素は、上記実施の形態に記載した構成要素と同一名称であるとしても、上記実施の形態に記載した構成要素そのものに限定されず、適宜変形、応用が可能である。
【符号の説明】
【0113】
1 短絡検出装置
100 処理ユニット
120 記憶部
130 制御部
131 取得部
132 演算部
133 判定部
134 出力部