(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163513
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】超音波検査装置及び超音波検査方法
(51)【国際特許分類】
G01B 17/00 20060101AFI20241115BHJP
G01N 29/26 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
G01B17/00 A
G01N29/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079205
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 博之
【テーマコード(参考)】
2F068
2G047
【Fターム(参考)】
2F068AA21
2F068BB19
2F068FF12
2F068LL03
2F068QQ16
2G047AA06
2G047AB07
2G047BA03
2G047BC18
2G047DB02
2G047GB02
2G047GB17
2G047GF18
2G047GH06
(57)【要約】
【課題】溶接部の未溶着やノッチと呼ばれる溶け残りの初期長さを測定するのに好適な超音波検査装置及び超音波検査方法を提供する。
【解決手段】本発明の超音波検査装置600は、複数の超音波素子を持つ超音波探触子200により溶接部の超音波探傷を行う超音波検査装置であって、溶接構造物の開先位置、開先形状と周辺構造が分かる溶接情報と、許容未溶着長さと、を取得する溶接部情報入力部608と、溶接情報と許容未溶着長さに基づいて、超音波ビームを出射するとともに溶接部の反射エコーを受信する超音波探触子の動作条件を設定するビーム走査条件設定部612と、超音波探傷を行って探傷画像を取得し、探傷画像から未溶着長さを検出する制御部601と、を備えるようにした。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超音波素子を持つ超音波探触子により溶接部の超音波探傷を行う超音波検査装置であって、
溶接構造物の開先位置、開先形状と周辺構造が分かる溶接情報と、許容未溶着長さと、を取得する溶接部情報入力部と、
前記溶接情報と前記許容未溶着長さに基づいて、超音波ビームを出射するとともに溶接部の反射エコーを受信する前記超音波探触子の動作条件を設定するビーム走査条件設定部と、
超音波探傷を行って探傷画像を取得し、前記探傷画像から未溶着長さを検出する制御部と、
を備えることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記制御部は、前記許容未溶着長さと検出した前記未溶着長さとから溶接施工の合否判定を行う
ことを特徴とする超音波検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記ビーム走査条件設定部は、溶接構造物の開先を超音波ビームの走査位置とし、前記開先形状と前記許容未溶着長さから未溶着始端と未溶着終端を設定し、未溶着終端から未溶着始端に向かうに従い超音波ビームの強度を弱める
ことを特徴とする超音波検査装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波検査装置において、
前記ビーム走査条件設定部は、未溶着終端と未溶着始端の間の未溶着部に超音波ビームを走査する際には、溶接構造部の底面で超音波ビームが反射して未溶着部に入射するように超音波ビームを出射する前記超音波探触子の動作条件を設定するとともに、溶接部の反射エコーを受信する前記超音波探触子の動作条件を設定する
ことを特徴とする超音波検査装置。
【請求項5】
請求項3に記載の超音波検査装置において、
前記ビーム走査条件設定部は、未溶着始端の超音波ビームの走査をする際には、未溶着始端の散乱波を反射エコーとして受信するように前記超音波探触子の動作条件を設定する
ことを特徴とする超音波検査装置。
【請求項6】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記ビーム走査条件設定部は
前記溶接情報に基づいて開先を超音波ビームの焦点の走査位置とするとともに、前記許容未溶着長さに基づいて未溶着始端の位置に対応する超音波ビームの焦点の走査位置を算出するビーム走査位置算出部と、
前記開先形状と前記許容未溶着長さから未溶着始端と未溶着終端を設定し、未溶着始端から未溶着終端に向かうに従い超音波ビームの強度が強くなるように超音波ビームの出力強度を調整するビーム強度算出部と、
前記ビーム走査位置算出部で算出した超音波ビームの焦点の走査位置と、前記溶接情報における構造材の底面の位置情報とから、前記超音波探触子の設置位置と超音波の出射と入射における超音波ビームの経路位置を算出し、前記超音波探触子の動作条件を求めるとともに、前記ビーム強度算出部で算出した超音波ビームの出力強度に応じて前記超音波探触子の動作条件を設定する探触子動作条件設定部と、
から成ることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項7】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記溶接部は、I字開先における部分溶け込み溶接で行われた部分であり、
前記超音波探触子は、溶接金属側に設けられる
ことを特徴とする超音波検査装置。
【請求項8】
複数の超音波素子を持つ超音波探触子により溶接部の超音波探傷を行う超音波検査方法であって、
溶接構造物の開先位置、開先形状と周辺構造が分かる溶接情報と、許容未溶着長さと、を取得するステップと、
前記溶接情報と前記許容未溶着長さに基づいて、超音波ビームを出射するとともに溶接部の反射エコーを受信する前記超音波探触子の動作条件を設定するステップと、
超音波探傷を行って探傷画像を取得し、前記探傷画像から未溶着長さを検出するステップと、
を含むことを特徴とする超音波検査方法。
【請求項9】
請求項8に記載の超音波検査方法において、
前記超音波探触子の動作条件を設定するステップは、
溶接構造物の開先を超音波ビームの走査位置とするステップと、
前記開先形状と前記許容未溶着長さから未溶着始端と未溶着終端に設定するステップと、
未溶着終端から未溶着始端に向かうに従い超音波ビームの強度を弱めるステップと、
を含むことを特徴とする超音波検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接構造物の溶接部の超音波検査装置及び超音波検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、様々な溶接構造物の溶接部の施工状態は、非破壊検査法の一つである超音波探傷法が用いられることが多い。超音波探傷による施工状態の確認は、構造や溶け込み先端などの音響的不連続の部位において、超音波が反射する現象を利用している。詳しくは、超音波を送信・受信する超音波探触子を被検査体の表面に配置し、超音波探触子から超音波パルスを送信し、その反射エコーを超音波探触子で受信する。この受信した反射エコーを信号処理することで、溶接部の溶け込み深さなどの施工状態を判定する。
【0003】
例えば、特許文献1には、溶接によってつないだ中空円筒配管の溶接部を超音波検査する方法が開示され、管の肉厚方向(表面~内面方向,溶接の深さ方向)を検査する際に,どの深さであっても,常に超音波を深さ方向に対し垂直な方向から当てたい。かつ,各深さ位置で音の強さを最大にしている。
【0004】
そこで,配管表面に超音波を入射する際に,音響シミュレーションにより設計した音響レンズを用いて,各深さで音がフォーカスするようにする。この時、深さ方向に関して連続的にフォーカスを変えるのではなく、肉厚tと音のフォーカスサイズφからtをφで除算し、除算結果に近い整数Nを求め、深さ方向をN分割して、分割位置毎にフォーカスさせる。
【0005】
また、特許文献2には、探傷用の超音波とは別に超音波を打ち溶接ビード表面の形状を把握し、把握した形状に基づきフォーカス位置を調整することで、探触子を配置した溶接ビードの凹凸形状によるフォーカス位置がずれを低減する、溶接部を超音波探傷する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-038361号公報
【特許文献2】特開2007-170877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
溶接には、母材を厚さ方向の全長にわたって溶け込ます施工(完全溶け込み)と、母材を厚さ方向の途中まで溶け込ます施工がある。
【0008】
前者の施工(完全溶け込み)において、何らかの理由で溶け込み量が不足し、未溶着やノッチと呼ばれる溶け残りが発生する場合がある。この時、溶け残りが存在しても、製品の使用中に溶け残りからき裂が進展しない、もしくは、進展したとしても、製品を使用する期間内(想定寿命内)で問題となる長さまで進展しない場合には、不合格とせず、合格としたいというニーズがある。き裂が進展しない、もしくは、許容される進展長さであるか否かは、未溶着やノッチの溶け残りの初期長さに依存する。
【0009】
後者の施工においても、溶接部に応力が加わる構造体では、母材の厚さに対する溶け残りやノッチの高さ(母材の厚さ方向の長さ)の初期長さの割合で、溶接部の静強度や疲労強度が変わってくる。
【0010】
本発明の目的は、溶接部の未溶着やノッチと呼ばれる溶け残りの初期長さを測定するのに好適な超音波検査装置及び超音波検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために、本発明の超音波検査装置は、複数の超音波素子を持つ超音波探触子により溶接部の超音波探傷を行う超音波検査装置であって、溶接構造物の開先位置、開先形状と周辺構造が分かる溶接情報と、許容未溶着長さと、を取得する溶接部情報入力部と、前記溶接情報と前記許容未溶着長さに基づいて、超音波ビームを出射するとともに溶接部の反射エコーを受信する前記超音波探触子の動作条件を設定するビーム走査条件設定部と、超音波探傷を行って探傷画像を取得し、前記探傷画像から未溶着長さを検出する制御部と、を備えるようにした。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶接部の未溶着やノッチと呼ばれる溶け残りの初期長さを測定するのに好適な超音波検査装置及び超音波検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態の超音波検査装置が検査対象とする溶接構造物の構成を示す断面図である。
【
図2】完全溶け込みと呼ばれる溶接部の状態を示す図である。
【
図3】I字開先の一部が残った溶接部の状態を示す図である。
【
図4】従来の超音波検査装置を使用した超音波探傷システムの構成図である。
【
図5】セクタスキャンにより走査する場合を示す図である。
【
図6】リニアスキャンにより走査する場合を示す図である。
【
図7】未溶着部の超音波探傷の概要を説明する図である。
【
図8】未溶着始端の超音波探傷の概要を説明する図である。
【
図9】実施形態の超音波検査装置の未溶着部の超音波探傷を説明する図である。
【
図10】実施形態の超音波検査装置の全体構成を示す図である。
【
図11】実施形態の超音波検査装置の未溶着長さの検知動作を説明するフロー図である。
【
図12】超音波探触子の超音波探傷条件を設定する画面の例を示す図である。
【
図13】超音波探触子の他の超音波探傷条件を設定する画面の例を示す図である。
【
図14】探傷画像から算出された未溶着長さを表示する画面例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、実施形態の超音波検査装置が検査対象とする溶接構造物の構成を示す断面図である。溶接構造物は、構造材1と構造材2とが、I字開先3で、アーク溶接、電子ビーム溶接、レーザ溶接、摩擦撹拌接合、またはろう接されて、構成する。
【0015】
以下に説明する実施形態では、
図1に示すように、開先の形状としてI字開先を例に説明するが、開先形状は、I字に限らず、V形、レ形、J形、U形でもよい。
また、溶接構造物が、構造材1と構造材2とを突合せ溶接する場合でも同様に実施できる。
【0016】
つぎに、
図1に示した溶接構造物の溶接施工した後の溶接部(I字開先3)の状態を、
図2と
図3により説明する。溶接施工は、
図1のI字開先3の紙面上部側をアーク溶接、電子ビーム溶接、レーザ溶接、または、摩擦撹拌接合する。
【0017】
図2は、溶接施工により、I字開先3において構造材1、2の裏面(紙面の下部側)まで溶接金属4が溶け込んでいる完全溶け込みと呼ばれる溶接部の状態を示している。
【0018】
図3は、I字開先3における溶接金属4の溶け込みが不十分で、I字開先3の一部が残った部分溶け込み溶接の溶接部の状態を示している。本明細書では、溶け残ったI字開先3の部分を、未溶着部8やノッチと呼び、未溶着部8における溶接金属4との境界部を未溶着始端6(未溶着部8の上側)、未溶着部8における未溶着始端6と反対の端部を未溶着終端5(未溶着部8の下側)と呼ぶ。また、未溶着始端6から未溶着終端5までの距離(未溶着部8の長さ)を未溶着長さ7と呼ぶ。
【0019】
つぎに、従来の超音波検査装置の構成と動作の概要を
図4、
図5、
図6により説明する。
図4は、従来の超音波検査装置600を使用した超音波探傷システムの構成図である。
【0020】
超音波検査装置600は、超音波探触子200により超音波ビームを検査対象609に出射し、検査対象609から反射した超音波を超音波探触子200により取得する。
【0021】
超音波検査装置600は、超音波探触子200から所定の屈折角・強度で超音波ビームを出射するとともに、検査対象609の反射エコー(検査対象609で反射した超音波)を受信する超音波送受信部611と、受信した超音波を検査対象609の内部情報として収集するデータ収集部607と、検査対象609の反射エコーや探傷画像を表示する表示部500と、超音波ビームの屈折角・強度を超音波送受信部611に設定するとともに、データ収集部607で収取した反射エコーを表示部500の表示情報に処理する制御部601と、から構成する。
【0022】
超音波探触子200は、超音波を発生し、検査対象609で反射した超音波(反射エコー)を受信する複数個の超音波素子201(
図9に図示)で構成され、フェーズドアレイ方式により超音波ビームを出射する。そして、検査対象609の探傷面に設置された後、超音波送受信部611から供給される駆動信号により超音波を発生し、これを検査対象609に伝播させ、これにより現れる反射・散乱波(反射エコー)を検知して受信信号を超音波送受信部611に入力する。
【0023】
超音波送受信部611は、所定の超音波ビームを出射するように超音波素子201の駆動タイミングを制御する遅延時間制御部604と、複数個の超音波素子201のそれぞれを駆動するパルサー605と、反射エコーを受信した複数個の超音波素子201の受信信号を入力するレシーバ606と、から構成し、フェーズドアレイ方式により超音波探触子200を駆動するとともに、反射エコーを受信する。
【0024】
制御部601は、複数個の超音波素子201により所定の入射角度(屈折角度)の超音波ビームが出射するように遅延時間制御部604を設定して超音波ビームを生成するとともに、超音波ビームの焦点深さと入射角度(屈折角度)を所定のタイミングで変えて、超音波ビームの走査を行う。
【0025】
データ収集部607は、レシーバ606に入力した複数個の超音波素子201の反射エコーの受信信号を、入力タイミング(複数個の超音波素子201の遅延時間に相当)を制御して合成し、超音波ビームの焦点位置の反射エコーの受信信号とする。
制御部601は、超音波ビームの各入射角度(屈折角度)におけるデータ収集部607で処理した反射エコーの受信信号を画像化処理して表示部500に供給し、探傷画像として表示する。
【0026】
つぎに、従来の超音波検査装置の超音波ビームの走査方法により
図3のI字開先の一部が残った溶接部を走査する場合を、
図5と
図6により説明する。
【0027】
図5は、超音波ビームをある距離に収束させ、超音波ビームを扇形にスキャンするセクタスキャンにより走査する場合を示す図である。
図5のセクタスキャンでは、超音波探触子200の超音波素子201のパルスを制御することにより、円弧状のビーム走査202を行う。
【0028】
図6は、超音波探触子200の一部の超音波素子201により超音波ビームを出射し、駆動する超音波素子201を順次移動してスキャンするリニアスキャンにより走査する場合を示す図である。
図6のリニアスキャンでは、直線状のビーム走査203は、超音波ビームをある深さに収束させ、その深さで保ったまま探傷面と平行に超音波ビームを走査する。
【0029】
図5や
図6に示すように、超音波ビームのセクタスキャンやリニアスキャンでは、探傷角度、もしくは、探傷位置毎に入射ビームの強さや、取り込みタイミングを変更することはなく、また、I字開先の溶接部に沿って効率よく超音波ビームを走査できない。
以下、実施形態の超音波検査装置600の超音波ビームの走査について説明する。
【0030】
まず、
図7により、未溶着部8の超音波探傷の概要を説明する。超音波探触子200は、構造材1、2のI字開先(溶接金属4)から所定距離離れた溶接金属側に設置され、超音波ビームが、所定の入射角(屈折角)で構造材1に入射する。
【0031】
構造材1に入射した超音波ビームである入射波204は、
図7に示すように、I字開先の未溶着部8は、構造材1の底面(裏面)によりL字形状をしているので、入射波204は、一度、構造材1の裏面で反射し、続いて、溶け残ったI字開先の未溶着部8で反射し、反射波206となって超音波探触子200に戻る。つまり、実施形態の超音波検査装置600は、入射波204を構造材1の底面で反射させて未溶着部8に入射し、未溶着部8の反射波206を得る。なお、未溶着終端5からの反射波206は、得ることができない。
【0032】
図7に示すように入射波204と反射波206は異なる経路となるため、超音波探触子200は、異なる超音波素子201のセットによる超音波の出射と入射、または、複数個の超音波素子201の異なる遅延時間制御によって、入射波204の超音波ビームの出射と反射波206の超音波ビームの入射を行う。
【0033】
未溶着始端6では、超音波ビームは散乱して、散乱波の一部が超音波探触子200に戻る。未溶着始端6に入射する入射波205は、
図8に示すように、入射波205が構造材1の裏面で反射して未溶着始端6に向かう経路と、入射波205が直接未溶着始端6に向かう経路とがあり、未溶着始端6の散乱波207の一部が、反射波206として、超音波探触子200に戻る。
【0034】
実施形態の超音波検査装置600では、入射波205が構造材1の裏面で反射して未溶着始端6に向かう経路と入射波205が直接未溶着始端6に向かう経路の少なくともいずれかの経路で入射した入射波205の散乱波207を、未溶着始端6の反射波206(反射エコー)とする。
【0035】
図7で示した未溶着部8から入射した反射波206の受信強度に比べると、
図8で示した未溶着始端6から入射した反射波206(散乱波207の一部)の受信強度は弱い。
【0036】
未溶着部8の長さ(未溶着長さ7)が長ければ(未溶着始端6と未溶着終端5の距離が離れていれば)、両者は分離して検出できるが、未溶着部8の長さが短くなると、未溶着始端6からの反射波206(散乱波207の一部)が、未溶着部8からの反射波にまぎれたり、そもそも十分な散乱強度が得られず、未溶着始端6からの反射波206(散乱波207の一部)が検出されなかったりして、未溶着部8の長さを求められない事態が発生する。
【0037】
そこで、実施形態の超音波検査装置600は、
図9で説明するように、構造材1、2のI字開先(溶接金属4)に超音波ビームを走査して反射波206を取得し、溶接部の未溶着始端6と未溶着終端5の位置を検出し、未溶着長さ7を取得する。なお、
図9は、超音波検査装置600が、未溶着部8のビーム走査209の焦点深さを変えてセクタスキャンする様子を示している。
【0038】
詳細は後述するが、まず、実施形態の超音波検査装置600は、構造材1と構造材2との接合部であるI字開先3(
図1参照)の位置情報と、許容される未溶着長さ7(
図3参照)の大きさとを設計情報として取得し、I字開先3の位置を超音波ビームの焦点の走査位置(ビーム走査209)とする。
【0039】
そして、構造材1の底面で反射し、ビーム走査209の少なくとも未溶着終端5から未溶着始端6まで位置が焦点となる超音波ビーム(入射波204)を出射する超音波探触子200の動作条件を求める。つまり、I字開先3(
図1参照)の位置情報と、許容される未溶着長さ7(
図3参照)の大きさとの設計情報から、超音波探触子200の設置位置と出射する超音波ビームの屈折角を求める。
【0040】
また、実施形態の超音波検査装置600は、未溶着部8の反射エコーである反射波206(不図示)を検出するために、超音波素子201の反射エコーの受信信号の入力タイミング(複数個の超音波素子201の遅延時間に相当)を求める。入力タイミングは、超音波探触子200の設置位置と出射する超音波ビームの屈折角で決まる入射波204と、構造材1とI字開先3の設計情報とから求めた反射波206の経路により決める。
【0041】
さらに、未溶着始端6から入射した反射波206(散乱波207の一部)の受信強度は弱いことを補償するため、未溶着終端5から未溶着始端6に向かうに従い、ビーム走査209の入射波204の強度を弱める(超音波ビームの強度を弱める)。逆に、未溶着始端6から未溶着終端5に向かうに従い、ビーム走査209の入射波204の強度を強めてもよい。
【0042】
未溶着始端6には、直接入射する入射波204と、構造材1で反射して入射する入射波204とがあり、超音波検査装置600は、それぞれの入射波204で、未溶着始端6で発生した散乱波だけを取り込むように取り込みタイミングを制御する。
【0043】
つぎに、実施形態の超音波検査装置600の構成を説明する。
図10は、実施形態の超音波検査装置600の全体構成を示す図である。
【0044】
実施形態の超音波検査装置600は、
図4で説明した超音波検査装置に、溶接部情報入力部608と、ビーム強度算出部610と、ビーム走査位置算出部602と、探触子動作条件設定部603とを追加して構成する。なお、本明細書では、ビーム強度算出部610とビーム走査位置算出部602と探触子動作条件設定部603とを合わせてビーム走査条件設定部612と呼ぶことがある。
【0045】
溶接部情報入力部608は、溶接構造物の開先位置や開先形状、周辺構造が分かる溶接情報(例えば、CADデータ等の設計情報)と、許容未溶着長さの入力部である。ここで、許容未溶着長さは、当該部位に発生する応力下に置いて、所望の使用期間においても亀裂が進展しない、もしくは、進展したとしても製品信頼性上、許容される長さまでしか亀裂が進展しないという初期長さのことであり、解析や実験などで求めることができる。
【0046】
この許容未溶着長さは、超音波ビームを走査する未溶着始端6(溶着部と未溶着部の境界点)の位置を決めるとともに、検出した未溶着長さと比較し、溶接作業の合否判定の判定値とする。つまり、実施形態の超音波検査装置600は、後述するように設定した許容未溶着長さに応じて超音波ビームの出力調整を行うので、作業バラツキが生じても精度良く、溶接作業の合否判定を行える。
【0047】
ビーム走査位置算出部602は、溶接部情報入力部608で入力された溶接情報に基づいて、I字開先の位置を超音波ビームの焦点の走査位置(
図9のビーム走査209)として算出する。さらに、溶接部情報入力部608で入力された許容未溶着長さに基づいて、未溶着始端6(
図9参照)の位置に対応する超音波ビームの焦点の走査位置を算出する。
【0048】
ビーム強度算出部610は、試験体による評価や、超音波シミュレーションなどで、未溶着部8の各位置での反射エコーの受信強度を評価し、超音波ビームの出力強度を算出する。この際、
図9に示したように、未溶着始端6から未溶着中間9、未溶着終端5へと進むにつれて超音波の強度が強くなるように、走査位置(屈折角)毎に超音波ビームの出力強度を調整する。超音波の強さは、例えば、未溶着終端5での強さを100として、未溶着始端6での強さを10として、走査位置(屈折角)毎に一次関数に従い変更してもよい。
【0049】
探触子動作条件設定部603は、ビーム走査位置算出部602で算出した超音波ビームの焦点の走査位置と、溶接部情報入力部608で入力された溶接情報における構造材1の底面(裏面)の位置情報とから、超音波探触子200の設置位置と超音波の出射と入射における超音波ビームの経路位置を算出し、フェーズドアレイ方式の超音波ビームにおける超音波探触子200の動作条件を求める。
【0050】
言い換えれば、探触子動作条件設定部603は、図宇7、8に示したように、未溶着終端5と未溶着始端6の間の未溶着部8に超音波ビームを走査する際には、構造材1の底面で超音波ビーム(入射波204)が反射して未溶着部8に入射するように超音波ビームを出射する超音波探触子200の動作条件を設定するとともに、溶接部8の反射エコー(反射波206)を受信する超音波探触子200の動作条件を設定する。そして、超音波の出力強度は、ビーム強度算出部610で算出した超音波ビームの出力強度に応じた動作条件とする。
【0051】
制御部601は、探触子動作条件設定部603で求めた超音波探触子200の動作条件に基づいて、
図4と同様に、遅延時間制御部604とパルサー605、レシーバ606、それにデータ収集部607を制御し、必要な動作が得られるようにし、まず遅延時間制御部604、パルサー605から出力される駆動信号のタイミングとレシーバ606による受信信号の入力タイミングの双方を制御し、これによりフェーズドアレイ方式による超音波探触子200の超音波探傷の動作が得られるようにする。
【0052】
データ収集部607は、レシーバ606に入力した複数個の超音波素子201の反射エコーの受信信号を、入力タイミング(複数個の超音波素子201の遅延時間に相当)を制御して合成し、超音波ビームの焦点位置の反射エコーの受信信号とする。未溶着始端6の反射・散乱波も同様に、複数個の超音波素子201の受信信号を、入射角に対応する遅延時間に応じて合成処理して、反射エコーとする。
【0053】
制御部601は、データ収集部607で合成した反射エコーに基づいて超音波探傷画像を取得し、探傷画像から未溶着始端と未溶着終端を抽出し、抽出した未溶着始端から未溶着終端までの距離を未溶着長さとして検出する。そして、制御部601は、検出した未溶着長さと許容未溶着長さを比較し、溶接施工の合否判定を行う。つまり、検出した未溶着長さが許容未溶着長さより短ければ、溶接施工を合格と判定する。
【0054】
図10では、溶接部情報入力部608と、ビーム走査条件設定部612(ビーム強度算出部610とビーム走査位置算出部602と探触子動作条件設定部603)とを、超音波検査装置600の外部に設ける構成を示したが、制御部601の内部機能として実現してもよい。
【0055】
つぎに、
図11のフロー図により実施形態の超音波検査装置600の未溶着長さの検知動作を説明する。
【0056】
ステップS100で、溶接部情報入力部608が、溶接構造物の開先位置や開先形状、周辺構造が分かる溶接情報と、許容未溶着長さとを取得する。
【0057】
ステップS101で、ビーム走査位置算出部602が、溶接部情報入力部608で入力された溶接情報に基づいて、I字開先の位置を超音波ビームの焦点の走査位置として算出し、さらに、溶接部情報入力部608で入力された許容未溶着長さに基づいて、未溶着始端6の位置に対応する超音波ビームの焦点の走査位置を算出する。
【0058】
ステップS102で、ビーム強度算出部610が、未溶着始端6から未溶着終端5へと進むにつれて超音波の強度が強くなるように、走査位置(屈折角)毎に超音波の出力を調整する。
【0059】
ステップS103で、探触子動作条件設定部603が、ステップS101で求めた超音波ビームの焦点の走査位置に基づいて、超音波探触子200の設置位置と超音波の出射と入射における超音波ビームの経路位置と超音波ビームの出力強度を算出し、フェーズドアレイ方式の超音波ビームにおける超音波探触子200の動作条件を設定する。
【0060】
ステップS104で、ステップS103で求めた設置位置に、超音波探触子200を設置する。
【0061】
ステップS105で、制御部601が、ステップS101で算出した走査位置に、ステップS103で設定した動作条件に従って超音波ビームを出射し、反射ビームを取得して、溶接構造物の溶接部の超音波探傷を行う。
【0062】
ステップS106で、制御部601が、ステップS105で取得した反射ビームに基づいて、溶接部の超音波探傷画像を取得する。
【0063】
ステップS107で、制御部601が、ステップS106で取得した超音波探傷画像から、未溶着始端を抽出する。
【0064】
ステップS108で、制御部601が、ステップS106で取得した超音波探傷画像から、未溶着終端を抽出する。
【0065】
ステップS109で、制御部601が、ステップS107で抽出した未溶着始端とステップS108で抽出した未溶着終端とから、未溶着長さを検出する。
【0066】
ステップS110で、制御部601が、ステップS100で取得した許容未溶着長さと、ステップS109で算出した未溶着長さを比較して溶接施工の合否判定を行う。制御部601は、未溶着長さが許容未溶着長さより短い場合に、合格とする。
合否判定の結果は、ステップS106で取得した超音波探傷画像とともに、表示部500(
図10)に表示する。
【0067】
上記では、ステップS103で探触子動作条件設定部603により超音波探触子200の動作条件を設定することを説明したが、
図12、
図13に示すように、手動設定してもよい。
図12、
図13は、タブ形式で超音波探触子200の動作条件(超音波探傷条件)を設定する画面の例を示している。
【0068】
「条件設定a」のタブを選択すると、
図12のウィンドが表示される。
図12のウィンドでは、使用する超音波探触子を選択するプルダウンメニューが表示され、超音波探触子を選択すると、使用する超音波の周波数や、超音波素子の素子数、サイズ、ピッチなどが表示される。
【0069】
つぎに、同時励振数を入力する。超音波探触子が選択された時に自動で設定するようにしてもよい。
つぎに、検査対象の材料に応じた音速を入力する。数値を直接入力してもよいし、プルダウンメニューやポップアップメニューで材料を選択し、予め準備された材料と音速のデータベースから音速を読み取ることでもよい。
【0070】
つぎに、出射する超音波ビームの屈折角の最小値、最大値、ピッチを入力する。これは電子走査の走査範囲、及び走査の細かさに相当する。溶接部の走査ピッチを入力して、自動的に計算するようにしてもよい。
【0071】
併せて、参考情報として、未溶着終端5と未溶着始端6(許容未溶着長さに対する始端)に相当する屈折角を表示する。さらに、未溶着終端位置での焦点距離や、取り込み路程(超音波探触子200と未溶着終端5との距離)を表示する。なお、焦点距離や取り込み路程は、未溶着終端5の位置ではなく、未溶着始端6(許容未溶着長さに対する始端)での数値を表示してもよい。
【0072】
「条件設定b」のタブを選択すると、
図13のウィンドが表示される。
図13のウィンドで、まず、探傷時の感度を設定するためのゲインを入力する。探傷時の感度は、例えば底面エコーのエコー高さが80%となるように設定した状態から、6dBあげた状態に設定する。自動入力してもよいが、通常、超音波探傷では、校正作業と呼ばれる、底面エコーや試験体を持いて感度を確認したうえで探傷を行うのが一般的(規格で規定されている)なので、校正結果に基づき入力する。
【0073】
併せて、超音波のパルス幅やバースト回数を入力する。パルス幅やバースト回数は、既定の数値で使うことが多いため、デフォルト値を自動表示(設計)するようにしてもよい。未溶着終端位置でのパルス電圧(入射超音波の強さに相当)は、デフォルト値を自動表示(設計)したうえで、校正作業を通して調整(入力し直し)してもよい。最後に、探傷画像の表示方法を設定する。
【0074】
「未溶着長さ測定」のタブを選択すると、
図14のウィンドが表示される。
図14のウィンドでは、溶接施工の合否が判るように、探傷画像から算出された未溶着長さが表示される。
【0075】
詳しくは、未溶着終端エコー700は、構造材形状を示す線701(下側)の位置に発生する。未溶着始端エコー702は、設計上の未溶着発生位置を示す線703上に発生する。ここで、マウスポインタ705でガイド線706を動かし未溶着始端エコー702の位置に合わせると、未溶着長さ707が表示されるようにしておくことも可能である。
【0076】
また、設計上の許容未溶着長さを示す線704を表示させておくと、未溶着始端エコー702が設計上の許容未溶着長さを示す線704より上にあれば、発生した未溶着の長さが許容値を超えているので不合格であることが分かる。未溶着始端エコー702が設計上の許容未溶着長さを示す線704より下にあれば、発生した未溶着の長さが許容値を超えていないので合格であることが分かる。
【0077】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明で分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0078】
1、2 構造材
3 I字開先
4 溶接金属
5 未溶着終端
6 未溶着始端
7 未溶着長さ
8 未溶着部
200 超音波探触子
500 表示部
600 超音波検査装置
601 制御部
602 ビーム走査位置算出部
603 探触子動作条件設定部
604 遅延時間制御部
605 パルサー
606 レシーバ
607 データ収集部
608 溶接部情報入力部
609 検査対象
610 ビーム強度算出部
611 超音波送受信部
612 ビーム走査条件設定部