(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163516
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】ボールペン、及びボールペンレフィル
(51)【国際特許分類】
B43K 7/02 20060101AFI20241115BHJP
B43K 24/12 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
B43K7/02
B43K24/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079208
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】390039734
【氏名又は名称】株式会社サクラクレパス
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】富田 尚利
【テーマコード(参考)】
2C350
2C353
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350KC05
2C350NA07
2C350NC04
2C350NC20
2C353HA02
2C353HA09
2C353HE01
2C353HE14
(57)【要約】
【課題】インキ内の気泡発生が抑制されるとともに、操作性にも優れる出没式ボールペン及びボールペンレフィルを提供する。
【解決手段】ボールペンレフィル1(レフィル1)は、円筒状のインキ収容筒2とチップ3とインキ5を備えている。インキ収容筒2はポリオレフィン製である。インキ収容筒2の外周面には円筒状の被覆層6が設けられている。被覆層6は、ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物を含むガス不透過性の塗膜である。圧縮ばねによって付勢及び保持されたレフィル1と、レフィル1を軸方向に動かす操作部とを備え、前記操作部を操作することによりレフィル1を出没させるボールペンにおいて、被覆層6の厚みをAマイクロメートル、ボールペンレフィル1を突出させた状態における前記圧縮ばねの圧縮時荷重をBニュートンとしたとき、A/Bの値が1.0以上である構成とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮ばねによって付勢及び保持されたボールペンレフィルと、前記ボールペンレフィルを軸方向に動かす操作部とを備え、前記操作部を操作することにより前記ボールペンレフィルを出没させるボールペンであって、
前記ボールペンレフィルは、円筒状のインキ収容筒と、前記インキ収容筒の先端部に装着されたチップと、前記インキ収容筒内に収容されたインキとを備え、
前記インキ収容筒はポリオレフィン製であり、
前記インキ収容筒の外周面には円筒状の被覆層が設けられており、
前記被覆層は、ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物を含むガス不透過性の塗膜であり、
前記被覆層の厚みをAマイクロメートル、前記ボールペンレフィルを突出させた状態における前記圧縮ばねの圧縮時荷重をBニュートンとしたとき、A/Bの値が1.0以上であることを特徴とするボールペン。
【請求項2】
前記ヒドロキシ基含有樹脂がポリビニルアルコール又はエチレン-ビニルアルコール共重合体であり、前記無機層状化合物が粘土鉱物であることを特徴とする請求項1に記載のボールペン。
【請求項3】
前記圧縮時荷重が0.29ニュートン以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のボールペン。
【請求項4】
前記被覆層の厚みが0.5マイクロメートル以上7.5マイクロメートル以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のボールペン。
【請求項5】
前記インキは、20℃で、せん断速度1s-1として測定した粘度が0.05Pa・s~8Pa・sの水性インキであることを特徴とする請求項1又は2に記載のボールペン。
【請求項6】
前記ボールペンレフィルを複数備え、前記ボールペンレフィルを選択的に出没させる複式筆記具であることを特徴とする請求項1又は2に記載のボールペン。
【請求項7】
前記圧縮時荷重が0.29ニュートン以上であり、
前記被覆層の厚みが0.5マイクロメートル以上7.5マイクロメートル以下であり、
前記インキは、20℃で、せん断速度1s-1として測定した粘度が0.05Pa・s~8Pa・sの水性インキであり、
前記ボールペンレフィルを複数備え、前記ボールペンレフィルを選択的に出没させる複式筆記具であることを特徴とする請求項2に記載のボールペン。
【請求項8】
ボールペンに装着して用いられるボールペンレフィルであって、
前記ボールペンは、圧縮ばねによって付勢及び保持された前記ボールペンレフィルと、前記ボールペンレフィルを軸方向に動かす操作部とを備え、前記操作部を操作することにより前記ボールペンレフィルを出没させるものであり、
円筒状のインキ収容筒と、前記インキ収容筒の先端部に装着されたチップと、前記インキ収容筒内に収容されたインキとを備え、
前記インキ収容筒はポリオレフィン製であり、
前記インキ収容筒の外周面には円筒状の被覆層が設けられており、
前記被覆層は、ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物を含むガス不透過性の塗膜であり、
前記被覆層の厚みが0.5マイクロメートル以上7.5マイクロメートル以下であることを特徴とするボールペンレフィル。
【請求項9】
前記ヒドロキシ基含有樹脂がポリビニルアルコール又はエチレン-ビニルアルコール共重合体であり、前記無機層状化合物が粘土鉱物であることを特徴とする請求項8に記載のボールペンレフィル。
【請求項10】
前記インキは、20℃で、せん断速度1s-1として測定した粘度が0.05Pa・s~8Pa・sの水性インキであることを特徴とする請求項8又は9に記載のボールペンレフィル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペン及びボールペンレフィルに関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮ばねで付勢したレフィルをボールペンの軸筒内に配し、軸筒から外部に突出する操作部を操作してレフィルの出退動作を行う出没式ボールペンが知られている(例えば特許文献1、2)。レフィルを出没させる機構としては、軸筒から外部に突出する操作部材(ノック棒等)を押下(ノック)することでレフィルの出退動作を行うノック式や、前後方向に摺動可能な部材を軸筒の側面に設け、当該部材をスライド操作することでレフィルの出退動作を行うスライド式などがある。
【0003】
ボールペンに装着されるレフィル(ボールペンレフィル)として、例えば、ポリオレフィン製のインキ収容筒の内部にインキが収容され、先端部にチップが装着されたものが知られている。ポリオレフィン製のインキ収容筒は、金属製とは異なって、収容されたインキの色を外部から容易に判別できる利点がある。
【0004】
ボールペンレフィルにおいては、収容されているインキの溶媒の蒸発防止や、インキの劣化防止等を目的として、インキ収容筒のガスバリア性を高める方策が検討されている。特許文献3には、筆記具用インク(インキ)を収容するためのインク収容管において、インク収容管の全面に、ガス透過性の低い樹脂からなるバリア樹脂層を設ける構成が記載されている。特許文献4には、ポリプロピレン製の軸本体を使用した塗布具において、軸本体の表面に、ガスバリア性を備えたラベル、シール、又は収縮フィルムを設けた構成が記載され、当該塗布具としてボールペンが例示されている。特許文献5には、ボールペンのチップホルダー部分にガス透過性の低い樹脂層を設ける構成が記載されている。特許文献3~5のいずれの方策においても、インキが収容等される部材のガスバリア性を高めることにより、インキ(溶媒)の蒸発防止、インキの劣化防止といった効果が得られている。ガスバリア性を付与する材料としては、ポリ塩化ビニリデンが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-117274号公報
【特許文献2】特開2020-104339号公報
【特許文献3】特開2019-31077号公報
【特許文献4】特開平9-141180号公報
【特許文献5】特開2013-136165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ボールペンにおいては、ボールペンレフィル内のインキに気泡が生じると、筆記時にカスレが生じる原因となる。そのため、インキ内の気泡をできるだけ抑える方策が求められる。ここで、インキ内に気泡が生じる原因の一つとして、レフィル外部から空気が侵入することが考えられる。例えば、インキ収容筒がポリオレフィン等のガス透過性材料からなる場合には、インキ収容筒の表面から空気が侵入することが考えられる。また、ノック式等の出没式ボールペンの場合には、操作時(ノック時)の衝撃によってインキに微小な気泡が発生し、これが経時的に成長して気泡を形成することがある。この点において、ノック式ボールペンに装着されたボールペンレフィルは、より気泡が発生しやすい条件下にある。
【0007】
ガス透過性材料からなるインキ収容筒の表面からの空気の侵入を抑制する方策としては、インキ収容筒の厚みを大きくすることが挙げられる。しかし、この方策ではインキ収容筒の透明性が損なわれ、インキの色を外部から判別しにくくなるおそれがある。インキ収容筒の表面にポリ塩化ビニリデンからなるガス不透過層を設ける方策では、空気の侵入を高効率で抑えることができるが、インキ収容筒表面の滑り性が悪く、レフィル自体の取扱い性が低下するおそれがある。ノック式ボールペンの場合には、レフィルを付勢する圧縮ばねの圧縮時荷重を弱めて操作時の衝撃を緩和することも考えられるが、この方策ではノック時の戻りが悪くなり、ノック式ボールペンの操作性を損ねるおそれがある。
【0008】
そこで本発明は、インキ内の気泡発生が抑制されるとともに、操作性にも優れる出没式ボールペン及びボールペンレフィルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ボールペンレフィル表面にガス不透過性の被覆層を設ける方策について検討した。その結果、特定の成分を含む被覆層を用いることにより、その厚みを非常に小さくできることを見出した。さらに、ボールペンレフィルを付勢する圧縮ばねの圧縮時荷重に対する被覆層の厚みを特定範囲とすることにより、出没式ボールペンにおける上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
本発明の一つの態様は、圧縮ばねによって付勢及び保持されたボールペンレフィルと、前記ボールペンレフィルを軸方向に動かす操作部とを備え、前記操作部を操作することにより前記ボールペンレフィルを出没させるボールペンであって、前記ボールペンレフィルは、円筒状のインキ収容筒と、前記インキ収容筒の先端部に装着されたチップと、前記インキ収容筒内に収容されたインキとを備え、前記インキ収容筒はポリオレフィン製であり、前記インキ収容筒の外周面には円筒状の被覆層が設けられており、前記被覆層は、ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物を含むガス不透過性の塗膜であり、前記被覆層の厚みをAマイクロメートル、前記ボールペンレフィルを突出させた状態における前記圧縮ばねの圧縮時荷重をBニュートンとしたとき、A/Bの値が1.0以上であることを特徴とするボールペンである。
【0011】
本態様はボールペンレフィルを突出及び没入させる出没式ボールペンに係るものである。本態様では、インキ収容筒の外周面に設けられた被覆層が、ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物を含むガス不透過性の塗膜からなる。そのため、ポリ塩化ビニリデンからなる塗膜に比べて、レフィル表面の滑り性がよく、かつ塗膜の厚みを非常に小さくできる。また、塗工時に速乾しないので被覆層を容易に設けることができる。さらに本態様では、被覆層の厚みをAマイクロメートル、前記ボールペンレフィルを突出させた状態(筆記可能な状態)における圧縮コイルばねの圧縮時荷重をBニュートンとしたときのA/Bの値が、特定値以上である。本態様によれば、インキの気泡抑制、レフィルの取扱い性、レフィルの透明性、及びレフィル出没時の操作性に優れた、ノック式等の出没式ボールペンを提供することができる。
【0012】
好ましくは、前記ヒドロキシ基含有樹脂がポリビニルアルコール又はエチレン-ビニルアルコール共重合体であり、前記無機層状化合物が粘土鉱物である。
【0013】
好ましくは、前記圧縮時荷重が0.29ニュートン以上である。
【0014】
好ましくは、前記被覆層の厚みが0.5マイクロメートル以上7.5マイクロメートル以下である。
【0015】
好ましくは、前記インキは、20℃で、せん断速度1s-1として測定した粘度が0.05Pa・s~8Pa・sの水性インキである。
【0016】
好ましくは、前記ボールペンレフィルを複数備え、前記ボールペンレフィルを選択的に出没させる複式筆記具である。
【0017】
好ましくは、前記圧縮時荷重が0.29ニュートン以上であり、前記被覆層の厚みが0.5マイクロメートル以上7.5マイクロメートル以下であり、前記インキは、20℃で、せん断速度1s-1として測定した粘度が0.05Pa・s~8Pa・sの水性インキであり、前記ボールペンレフィルを複数備え、前記ボールペンレフィルを選択的に出没させる複式筆記具である。
【0018】
本発明の一つの態様は、ボールペンに装着して用いられるボールペンレフィルであって、前記ボールペンは、圧縮ばねによって付勢及び保持された前記ボールペンレフィルと、前記ボールペンレフィルを軸方向に動かす操作部とを備え、前記操作部を操作することにより前記ボールペンレフィルを出没させるものであり、円筒状のインキ収容筒と、前記インキ収容筒の先端部に装着されたチップと、前記インキ収容筒内に収容されたインキとを備え、前記インキ収容筒はポリオレフィン製であり、前記インキ収容筒の外周面には円筒状の被覆層が設けられており、前記被覆層は、ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物を含むガス不透過性の塗膜であり、前記被覆層の厚みが0.5マイクロメートル以上7.5マイクロメートル以下であることを特徴とするボールペンレフィルである。
【0019】
本態様は出没式ボールペンに装着して用いられるボールペンレフィルに係るものである。本態様では、インキ収容筒の外周面に設けられた被覆層が、ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物を含むガス不透過性の塗膜からなる。そして、被覆層の厚みが0.5マイクロメートル以上7.5マイクロメートル以下である。本態様によれば、インキの気泡抑制、取扱い性、及び透明性に優れる、出没式ボールペンに好適なボールペンレフィルを提供することができる。
【0020】
好ましくは、前記ヒドロキシ基含有樹脂がポリビニルアルコール又はエチレン-ビニルアルコール共重合体であり、前記無機層状化合物が粘土鉱物である。
【0021】
好ましくは、前記インキは、20℃で、せん断速度1s-1として測定した粘度が0.05Pa・s~8Pa・sの水性インキである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、インキの気泡抑制と取扱い性の両方に優れた出没式ボールペンと、それに適したボールペンレフィルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係るボールペンレフィルを表す図であり、(a)は正面図、(b)は(a)の縦断面図、(c)は(a)のA-A断面の拡大図である。
【
図2】
図1のボールペンレフィルを備えた出没式ボールペンの外観を表す斜視図であり、(a)はノック式ボールペン、(b)はスライド式ボールペンの例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、発明の理解を容易にするために、各図面において、各部材の大きさや厚みについては一部誇張して描かれており、実際の大きさや比率等とは必ずしも一致しないことがある。また、以下の説明における上下方向と左右方向は、
図1(a)、
図1(b)の姿勢を基準とする。
図1(a)、
図1(b)の下側がボールペンレフィルの先端側、上側がボールペンレフィルの後端側に相当し、上下方向が軸方向に相当する。また、
図1(b)ではハッチングを一部省略している。
【0025】
図1(a)~
図1(c)に示す本発明の一実施形態に係るボールペンレフィル(以下、レフィルと略記する)1は、例えば、複数のレフィル1を選択的に出没させる複式筆記具(多色ボールペン)に用いられるものである。レフィル1は、インキ収容筒2と、インキ収容筒2の先端部に装着されたチップ3と、インキ収容筒2内に収容されたインキ5とを備えている。
【0026】
インキ収容筒2は、インキ5を収容するための部材であり、レフィル1の大部分を占めている。インキ収容筒2は細長い円筒状である。またインキ収容筒2は細長の管であり、その内部は空洞である。インキ収容筒2の外径は2.6mm~3.5mm程度、好ましくは2.6mm程度、内径は1.2mm~2.7mm程度、好ましくは1.6mm程度、厚みは0.4mm~0.7mm程度、好ましくは0.5mm程度、である。インキ収容筒2はポリオレフィン製であり、ガス透過性を有する。ポリオレフィンの具体例としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、等が挙げられる。
【0027】
チップ3はインキ収容筒2の先端部に装着されている。具体的には、インキ収容筒2の一方の端部にチップ3の一部が挿入され、接合されている。チップ3の中には筆記用ボール(図示せず)が回転可能に保持されており、インキ収容筒2内のインキ5を筆記用ボールに導き、筆記用ボールの回転に応じてインキ5を紙等に付着させる。チップ3は、例えばステンレススチール等の金属からなる一般的なものである。
図1(b)ではチップ3の断面は描いていない。
【0028】
インキ5はインキ収容筒2に収容されている。インキ5はインキ収容筒2の全長の60~80%程度を占めるように充填されている。インキ5の先端はチップ3の後端と接触している。インキ5は、油性インキ、水性インキのいずれでもよい。1つの実施形態では、インキ5は、20℃で、せん断速度1s-1として測定した粘度が0.05Pa・s~8Pa・sの水性インキである。好ましくは、前記粘度は3.5Pa・s~4.5Pa・sの範囲である。
インキ5の後端には、インキ5の蒸発防止用の逆流防止剤8が収容されている。
【0029】
図1(a)~
図1(c)に示すように、インキ収容筒2の外周面には、円筒状の被覆層6が設けられている。被覆層6は、インキ5が充填された部分の外周面を全て覆うことが好ましく、本実施形態ではインキ収容筒2の外周面の略全体に設けられている。
【0030】
被覆層6は、ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物を含むガス不透過性の塗膜で構成されている。
【0031】
ヒドロキシ基含有樹脂の例としては、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアミン-ビニルアルコール共重合体、(メタ)アクリル酸-ビニルアルコール共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、多糖類、及びこれらの誘導体が挙げられる。好ましくは、ポリビニルアルコール又はエチレン-ビニルアルコール共重合体である。ヒドロキシ基含有樹脂は、金属アルコキシド加水分解物を含んでいてもよい。金属アルコキシド加水分解物は、好ましくはテトラエトキシシラン加水分解物の縮合物及び/又はトリイソプロポキシアルミニウム加水分解物の縮合物であり、より好ましくはテトラエトキシシラン加水分解物の縮合物である。これらのヒドロキシ基含有樹脂は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0032】
無機層状化合物の例としては、粘土鉱物が挙げられる。粘土鉱物の例としては、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチーブンサイト、ヘクトライト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、タルク、バーミキュライト、金雲母、ザンソフィライト、緑泥石、ハイドロタルサイト、等が挙げられる。好ましくは、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ソーコナイト、スチーブンサイト、ヘクトライト等のスメクタイト族粘土鉱物であり、より好ましくはモンモリロナイトである。これらの無機層状化合物は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0033】
被覆層6を構成する塗膜は、ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物を含む塗工液を用いて形成させることができる。塗工液の例としては、STRADER NOH3000(住友化学株式会社)が挙げられる。
【0034】
被覆層6の厚みは特に限定されないが、例えば、0.5μm(マイクロメートル)以上であり、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm程度である。本実施形態では、被覆層6をヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物を含む塗膜で構成しているので、0.5μmのような極薄でも空気の侵入を十分阻止できる。被覆層6の厚みの上限は特にないが、例えば100μm以下とすることができ、好ましくは10μm以下、より好ましくは7.5μm以下である。なお、
図1(b)、
図1(c)では被覆層6の厚みを誇張して描いている。
被覆層6の厚みが大きすぎると、透明性が低下してインキ色を外部から判別しにくくなるおそれがある。被覆層6の厚みが小さすぎると、十分なガスバリア性を発揮できないおそれがある。
【0035】
本実施形態では、レフィル1が出没式ボールペンに内蔵されている。具体的には、レフィル1は、ノック式やスライド式の出没式ボールペンの軸筒内に圧縮ばね(図示せず)によって付勢及び保持されている。そして、ボールペンが備える操作部を操作することにより、レフィル1を軸方向に動かすことができ、これによりレフィル1のチップ3を突出及び没入させることができる。
【0036】
図2(a)、
図2(b)にレフィル1を備えた出没式ボールペンの例を示す。
図2(a)に示すボールペン10はノック式ボールペンであり、ボールペン本体(軸筒)11の内部にレフィル1を備えており、レフィル1が圧縮ばね(図示せず)によって付勢及び保持されている。そしてボールペン本体11の後端部から突出した操作部材12を押圧(ノック)することで、レフィル1の出没操作を行うことができる。
【0037】
図2(b)に示すボールペン20は、複数のレフィルを選択的に出没させる複式筆記具であり、ボールペン本体21の内部に複数のレフィル1を備えており、各レフィル1が圧縮ばね(図示せず)によって付勢及び保持されている。ボールペン本体21の側面には、各レフィル1に対応した複数のスライド部材22が設けられている。そして、スライド部材22をスライドさせることにより、対応するレフィル1を出没させることができる。
【0038】
本実施形態では、レフィル1を突出させた状態(筆記可能な状態)における圧縮ばねの圧縮時荷重が30gf(0.29N)以上であり、好ましくは35gf(0.34N)以上、より好ましくは40gf(0.39N)以上、さらに好ましくは70gf(0.69N)程度である。前記圧縮時荷重が30gf未満であると、レフィル1を没入させるときの戻りが悪くなり、操作性が低下するおそれがある。圧縮時荷重の上限としては、通常は100gf(0.98N)程度であるが、250gf(2.45N)程度であっても実用上差し支えない。
前記圧縮時荷重が大きすぎると、操作部を操作する際に強い力が必要となり、レフィルの出没操作をしにくくなるおそれがある。前記圧縮時荷重が小さすぎると、突出したレフィルを没入させる際に戻りが悪くなるおそれがある。その他、ボールペン本体からレフィルが外れやすくなるおそれがある。
【0039】
本実施形態では、被覆層6の厚みをAマイクロメートル(μm)、レフィル1を突出させた状態における圧縮ばねの圧縮時荷重をBニュートン(N)としたときのA/Bの値(AをBで除した値)が、1.0以上である。A/B値は、好ましくは1.2以上である。A/B値の上限については特にないが、例えば14以下、好ましくは11以下に設定することができる。A/B値が大きすぎると、圧縮ばねの圧縮時荷重が不足し、突出したレフィルを没入させる際に戻りが悪くなるおそれがある。また、ボールペン本体からレフィルが外れやすくなるおそれがある。また、被覆層の厚みが過大となり、透明性が低下してインキ色を外部から判別しにくくなるおそれがある。A/B値が小さすぎると、被覆層の厚みが不足し、十分なガスバリア性を発揮できないおそれがある。また、圧縮ばねの圧縮時荷重が過大となり、操作部を操作する際に強い力が必要となり、レフィルの出没操作をやりにくくなるおそれがある。
【0040】
本実施形態のレフィル1は、レフィルが物理的衝撃を受けやすい出没式ボールペンに特に好適に用いられるが、キャップ式ボールペンにも好適に用いられる。
【0041】
前述したように、レフィル1は、複数のレフィルを選択的に出没させる複式筆記具(多色ボールペン)にも好適に用いられる。多色ボールペンの場合には、ボールペン本体内のスペースが限られていることから、内蔵する各レフィルの外径はできるだけ小さい方が好ましい。ここで本実施形態では被覆層6の厚みを非常に薄くできるので、レフィルの外径を小さくできる利点がある。また多色ボールペンは、通常、複数の貫通孔を有するガイド部材を含む。そして、各貫通孔に各ボールペンレフィルを貫通させることにより、ガイド部材を、ボールペンレフィルを前後に移動させるためのガイドとして機能させる。ここで本実施形態では、被覆層6にポリ塩化ビニリデンを用いないので、レフィル表面の滑りがよい。その結果、ボールペンレフィルが前後移動する際に、ガイド部材に対する引っ掛かりが小さく、さらにレフィル同士の干渉も小さく、よりスムーズな前後移動を実現できる。
【実施例0042】
1.インキの調製
下記の組成(単位:重量部)からなるボールペン用インキを調製した。
<組成>
防腐・防カビ剤:0.44
水溶性有機溶剤:6.00
イオン交換水:68.26
増粘剤:0.26
安息香酸ソ-ダ:0.26
苛性ソーダ:0.34
リン酸系界面活性剤:0.75
湿潤剤:14.0
カ-ボンブラック:8.01
分散剤:1.60
防錆剤:0.08
【0043】
2.ボールペンレフィルの作製
インキ収容筒として、円筒状のポリプロピレン製パイプ(全長85mm、内径1.6mm、肉厚0.5mm)を準備した。ヒドロキシ基含有樹脂と無機層状化合物を含むガスバリアコーティング剤(以下、新規コーティング剤と称する)として、STRADER NOH3000(住友化学株式会社)を準備した。対照のガスバリアコーティング剤として、ポリ塩化ビニリデンをテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、ポリ塩化ビニリデンの20%溶液を調製した。
【0044】
ポリプロピレン製パイプに先栓とチップを装着した。パイプに上記インキを充填し、さらに、インキの後端に逆流防止剤を充填した。遠心処理により、インキと逆流防止剤をチップ側に寄せた。コーティング剤を密着させるために、予めパイプに表面処理(プラズマ照射処理、フレーム処理、アンカー剤の塗布、接着層の塗布など)を行った。パイプ部分にガスバリアコーティング剤(新規コーティング剤又はポリ塩化ビニリデン溶液)を塗布し、乾燥させてボールペンレフィルを作製した。これにより、新規コーティング剤又はポリ塩化ビニリデンからなる塗膜からなり、所定の厚みを有する被覆層が設けられた各種のボールペンレフィルが作製された。実験例1~6、10~11は新規コーティング剤からなる被覆層を設けたもの、実験例7~9は被覆層を設けないもの、実験例12~13はポリ塩化ビニリデンからなる被覆層を設けたものとした。
【0045】
3.ボールペンの作製
ボールペンレフィルを圧縮ばねと共にノック式ボールペンの軸筒に装着し、各種のノック式ボールペンを作製した。ボールペンレフィルを突出させた状態における圧縮ばねの圧縮時荷重は、20gf(0.20N)、40gf(0.39N)、70gf(0.69N)、又は100gf(0.98N)とした。
【0046】
4.レフィルの戻り良さの評価方法
ノック式ボールペン本体にレフィルを装着し、ノックを実施した。この時、引っ掛かりなく戻れば「A」(優良)、引っ掛かったり完全に戻らないものは「C」(不良)とした。
【0047】
5.気泡発生抑制効果の評価方法
レフィルを10℃の環境下に一夜以上静置した。ノック式ボールペン本体にレフィルを装着し、ノックを10回繰り返した。レフィルを取り外し、50℃の環境下で7日間静置した。静置後、X線照射撮影装置(SOFTEX M-60、ソフテックス株式会社)で気泡の有無を確認した。各10本を試験に供し、下記式にて気泡発生率(%)を算出した。
気泡発生率(%)=気泡発生した本数/試験に使用した本数×100
評価は3段階で行い、気泡発生率20%未満を「A」(優良)、20%以上40%未満を「B」(良)、40%以上を「C」(不良)とした。
【0048】
6.インキ減量抑制効果の評価方法
充填したインキ重量及びインキ充填後のレフィルの重量を予め測定しておき、レフィルを50℃で3日間保存した。保存後、レフィルの重量を測定した。減量したインキの重量を算出し、被覆層を設けなかったレフィルの場合と比較した。インキ減量率(%)を下記式にて算出した。
インキ減量率(%)=被覆層ありのインキ減量重量/被覆層なしのインキ減量重量×100
評価は2段階で行い、インキ減量率80%未満を「A](優良)、80%以上を「C」(不良)とした。
【0049】
7.コーティング剤の乾きムラの評価方法
レフィルをコーティング剤でコートした後、温風(ドライヤー)で乾燥させた。乾燥後の表面が透明であり、レフィルがそのまま見えるものを「A](優良)、白い筋や塊が認められ透明性が失われる箇所があるものを「C」(不良)とした。
【0050】
8.総合評価
上記4項目が全て「A」である場合を総合評価「A」(優良)、1つでも「C」がある場合を総合評価「C」(不良)、その他の場合を総合評価「B」(良)とした。
【0051】
9.結果
結果を表1に示す。表1中、「ばね強度」は、ボールペンレフィルを突出させた状態における圧縮ばねの圧縮時荷重を示す。
【0052】
新規コーティング剤からなる被覆層を設けた実験例1~6は、全ての項目で性能が優れていた(総合評価A)。特に、被覆層の厚みが0.5μmの極薄である実験例4でも優れたガスバリア性を発揮し、ばね強度を適切に設定することにより、気泡発生率とインキ減量率について高い評価が得られた。実験例1~6のばね強度は40~100gf(0.39~0.98N)、A/B値(μm/N)は1.3~7.3の範囲であった。
【0053】
新規コーティング剤からなる被覆層の厚みを0.5μm、ばね強度を70gfに設定した実験例10では、インキに気泡が発生した(評価C)。実験例4と実験例10との比較から、被覆層の厚みとばね強度とのバランスが重要であることが分かった。
【0054】
新規コーティング剤からなる被覆層の厚みを10μmとした実験例11では、気泡発生率とインキ減量率について高い評価が得られた(評価A)。しかし、コーティングのムラが発生した(評価:C)。
【0055】
被覆層を設けなかった実験例7~9は、いずれもインキに気泡が発生した(評価B、C)。またインキ減量率の評価も低かった(評価C)。ばね強度を20gf(0.20N)まで低くした実験例7でも、気泡の発生を完全に抑えることができなかった(評価B)。むしろ実験例7では、ばね強度が不足し、レフィルの戻り良さの評価が低く、操作性が悪かった(評価C)。
【0056】
ポリ塩化ビニリデンからなる被覆層を設けた実験例12~13では、コーティング剤の乾きムラが発生した(評価C)。具体的には、被覆層が白色を呈し、透明性が失われる部分があった。また被覆層の厚みが10μmである実験例12では、ガスバリア性が不十分で、インキに気泡が発生した(評価C)。
【0057】
実験例4のA/B値が1.3で、実験例10のA/B値が0.73であったことから、A/B値の好ましい下限の一例は1.0程度と考えられた。また実験例3のA/B値が7.3で、実験例11のA/B値が15であったことから、A/B値の好ましい上限の一例は11程度と考えられた。
【0058】
以上より、レフィル表面に新規コーティング剤からなる被覆層を設け、被覆層の厚みとばね強度を適切に選択することで、インキの気泡発生抑制、インキの減量抑制、レフィルの透明性、及び操作性に優れたノック式等の出没式ボールペンを提供できることが示された。特に、A/B値を1.0以上とすることで優れた性能を有する出没式ボールペンを提供できることが示された。
【0059】
【0060】
10.塗膜の摩擦抵抗
新規コーティング剤又はポリ塩化ビニリデンで形成した塗膜について、摩擦抵抗を調べた。試験は、同一材料の上を滑らせて、JIS K7125に準拠した方法で行った。その結果、静止摩擦係数は、新規コーティング剤の塗膜では0.335、ポリ塩化ビニリデンの塗膜では0.722であった。これにより、新規コーティング剤の塗膜は、ポリ塩化ビニリデンの塗膜よりも滑り性が良いことが確認された。なお、動摩擦係数は、新規コーティング剤の塗膜では0.147、ポリ塩化ビニリデンの塗膜では0.139であり、大きな差はなかった。