(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163520
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】検査システム、および検査装置
(51)【国際特許分類】
G06T 5/92 20240101AFI20241115BHJP
G01N 33/204 20190101ALI20241115BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20241115BHJP
【FI】
G06T5/00 740
G01N33/204
G06T7/00 610Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079214
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌本 繁夫
【テーマコード(参考)】
2G055
5B057
5L096
【Fターム(参考)】
2G055AA03
2G055BA05
2G055EA06
2G055EA08
2G055FA02
5B057AA01
5B057CA08
5B057CA12
5B057CB08
5B057CB12
5B057CC01
5B057CE11
5B057DA03
5B057DC32
5L096BA03
5L096EA45
5L096GA08
(57)【要約】
【課題】ガンマ補正処理された補正画像を適切に逆変換することができ、補正画像に基づいて適切に検査を行うことができる技術を提供する。
【解決手段】検査システム1は、検査装置2を備える。検査装置2は、逆変換処理の前に行われる前処理を実行する処理部2aを備える。前処理は、ガンマ補正処理がなされた第1補正画像に対して第1ガンマ補正式に基づく逆変換処理がなされた第1逆変換画像と、前記第1補正画像に対して第2ガンマ補正式に基づく逆変換処理がなされた第2逆変換画像と、を得る第1処理と、組織画像と第1逆変換画像との輝度値の第1差分、および、組織画像と第2逆変換画像との輝度値の第2差分を比較することで、ガンマ補正処理において用いられたガンマ補正式が、第1ガンマ補正式または第2ガンマ補正式のいずれであるのかを特定する第2処理と、を含み、逆変換処理は、特定したガンマ補正式に基づく第1逆変換処理を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理した炭素鋼または合金鋼からなる対象部材の検査システムであって、
前記対象部材の断面を顕微鏡観察した組織画像を取得する画像取得部と、
前記組織画像に対して補正処理がなされた1または複数の補正画像と、前記組織画像と、を出力可能な画像変換装置と、
前記補正画像に基づいて前記対象部材の検査を行う検査装置と、を備え、
前記検査装置は、
前記補正画像に対して前記補正処理の逆変換を行う逆変換処理と、
前記逆変化処理によって得られた逆変換組織画像に基づいて前記対象部材の品質検査を行う品質検査処理と、
前記逆変換処理の前に行われる前処理と、
を実行する処理部を備え、
前記補正処理は、第1ガンマ補正式、および、前記第1ガンマ補正式と異なる第2ガンマ補正式のいずれかを用いて行われるガンマ補正処理を含み、
前記補正画像は、前記ガンマ補正処理がなされた第1補正画像を含み、
前記前処理は、
前記第1補正画像に対して前記第1ガンマ補正式に基づく逆変換処理がなされた第1逆変換画像と、前記第1補正画像に対して前記第2ガンマ補正式に基づく逆変換処理がなされた第2逆変換画像と、を得る第1処理と、
前記組織画像と前記第1逆変換画像との輝度値の第1差分、および、前記組織画像と前記第2逆変換画像との輝度値の第2差分を比較することで、前記ガンマ補正処理において用いられたガンマ補正式が、前記第1ガンマ補正式または前記第2ガンマ補正式のいずれであるのかを特定する第2処理と、を含み、
前記逆変換処理は、前記特定したガンマ補正式に基づく第1逆変換処理を含む
検査システム。
【請求項2】
前記補正処理は、コントラスト補正処理をさらに含み、
前記複数の補正画像は、前記コントラスト補正処理がなされた第2補正画像を含み、
前記前処理は、前記コントラスト補正処理において用いられるコントラスト補正式に含まれるコントラスト補正量の値を、前記組織画像、前記第2補正画像、および前記コントラスト補正式に基づいて演算する第3処理をさらに含み、
前記逆変換処理は、前記コントラスト補正量が前記値である前記コントラスト補正式に基づく第2逆変換処理をさらに含む
請求項1に記載の検査システム。
【請求項3】
前記複数の補正画像は、前記ガンマ補正処理、および、前記コントラスト補正処理の両方で補正された第3補正画像を含み、
前記前処理は、
前記第3補正画像に対して、前記第1逆変換処理、および、前記第2逆変換処理の順番で逆変換処理がなされた第3逆変換画像と、前記第3補正画像に対して、前記第2逆変換処理、および、前記第1逆変換処理の順番で逆変換処理がなされた第4逆変換画像と、を得る第4処理と、
前記組織画像と前記第3逆変換画像との輝度値の第3差分、および、前記組織画像と前記第4逆変換画像との輝度値の第4差分を比較することで、前記逆変換処理における前記第1逆変換処理および前記第2逆変換処理の順番を特定する第5処理と、をさらに含み、
前記逆変換処理では、前記第5処理にて特定された順番に従って、前記第1逆変換処理および前記第2逆変換処理が行われる
請求項2に記載の検査システム。
【請求項4】
熱処理した炭素鋼または合金鋼からなる対象部材の検査装置であって、
前記対象部材の断面を顕微鏡観察した組織画像に対して補正処理がなされた補正画像と、前記組織画像と、を受け付ける処理と、
前記補正画像に対して前記補正処理の逆変換を行う逆変換処理と、
前記逆変化処理によって得られた逆変換組織画像に基づいて前記対象部材の品質検査を行う品質検査処理と、
前記逆変換処理の前に行われる前処理と、
を実行する処理部を備え、
前記補正処理は、第1ガンマ補正式、および、前記第1ガンマ補正式と異なる第2ガンマ補正式のいずれかを用いて行われるガンマ補正処理を含み、
前記補正画像は、前記ガンマ補正処理がなされた第1補正画像を含み、
前記前処理は、
前記第1補正画像に対して前記第1ガンマ補正式に基づく逆変換処理がなされた第1逆変換画像と、前記第1補正画像に対して前記第2ガンマ補正式に基づく逆変換処理がなされた第2逆変換画像と、を得る第1処理と、
前記組織画像と前記第1逆変換画像との輝度値の第1差分、および、前記組織画像と前記第2逆変換画像との輝度値の第2差分を比較することで、前記ガンマ補正処理において用いられた補正式が、前記第1ガンマ補正式または前記第2ガンマ補正式のいずれであるのかを特定する第2処理と、を含み、
前記逆変換処理は、前記特定したガンマ補正式に基づく第1逆変換処理を含む
検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査システム、および検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、熱処理した炭素鋼や合金鋼からなる部材の断面の組織画像に基づいて、炭素濃度や金属組織の検査を行う検査システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属部材の組織画像は、金属顕微鏡に取り付けられたデジタルカメラ等によって取得される。デジタルカメラが取得した組織画像は、画像処理装置へ与えられることがある。
画像処理装置は、組織画像に対してコントラスト補正処理やガンマ補正処理を行うための機能を有している。
ユーザは、画像処理装置の機能を用いて、顕微鏡による目視観察に適した補正処理を組織画像に対して行い、補正画像を用いて観察を行う。
【0005】
ここで、上記検査システムは、補正処理がなされていない組織画像を教師データとした機械学習により得られた学習済みモデルを用いて検査を実行するように構成されている。
このため、例えば、補正処理を行った補正画像が上記検査システムへ与えられると、検査結果の精度が低下するおそれがある。
一方、ユーザで行われている補正処理がなされた補正画像を教師データとした学習済みモデルを構築すれば、補正画像を用いた検査結果の精度の低下を抑制することはできる。
【0006】
しかし、補正処理における補正内容は、複数のユーザで異なっていたり、画像処理装置の違いによって異っていたりすることがある。よって、補正画像を教師データとした学習済みモデルを構築する場合、ユーザごとに学習済みモデルを構築する必要が生じ、工数の増加に繋がる。
【0007】
これに対して、各ユーザから補正画像が与えられたとしても、その補正画像になされた補正を逆変換できれば、検査システムは、各ユーザの補正画像に基づいて補正処理がなされる前の組織画像に相当する画像を得ることができ、ユーザごとに学習済みモデルを構築する必要はない。
【0008】
特に、上記検査システムに対してガンマ補正を行った補正画像がユーザから与えられると、検査結果の精度低下が顕著な場合があり、ガンマ補正処理された補正画像を適切に逆変換し、適切に検査を行うことを可能にし得る方策が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態である検査システムは、熱処理した炭素鋼または合金鋼からなる対象部材の検査システムである。この検査システムは、前記対象部材の断面を顕微鏡観察した組織画像を取得する画像取得部と、前記組織画像に対して補正処理がなされた1または複数の補正画像と、前記組織画像と、を出力可能な画像変換装置と、前記補正画像に基づいて前記対象部材の検査を行う検査装置と、を備える。前記検査装置は、前記補正画像に対して前記補正処理の逆変換を行う逆変換処理と、前記逆変化処理によって得られた逆変換組織画像に基づいて前記対象部材の品質検査を行う品質検査処理と、前記逆変換処理の前に行われる前処理と、を実行する処理部を備える。前記補正処理は、第1ガンマ補正式、および、前記第1ガンマ補正式と異なる第2ガンマ補正式のいずれかを用いて行われるガンマ補正処理を含む。前記補正画像は、前記ガンマ補正処理がなされた第1補正画像を含む。前記前処理は、前記第1補正画像に対して前記第1ガンマ補正式に基づく逆変換処理がなされた第1逆変換画像と、前記第1補正画像に対して前記第2ガンマ補正式に基づく逆変換処理がなされた第2逆変換画像と、を得る第1処理と、前記組織画像と前記第1逆変換画像との輝度値の第1差分、および、前記組織画像と前記第2逆変換画像との輝度値の第2差分を比較することで、前記ガンマ補正処理において用いられたガンマ補正式が、前記第1ガンマ補正式または前記第2ガンマ補正式のいずれであるのかを特定する第2処理と、を含む。前記逆変換処理は、前記特定したガンマ補正式に基づく第1逆変換処理を含む。
【0010】
他の観点から見た実施形態は、熱処理した炭素鋼または合金鋼からなる対象部材の検査装置である。この検査装置は、前記対象部材の断面を顕微鏡観察した組織画像に対して補正処理がなされた補正画像と、前記組織画像と、を受け付ける処理と、前記補正画像に対して前記補正処理の逆変換を行う逆変換処理と、前記逆変化処理によって得られた逆変換組織画像に基づいて前記対象部材の品質検査を行う品質検査処理と、前記逆変換処理の前に行われる前処理と、を実行する処理部を備える。前記補正処理は、第1ガンマ補正式、および、前記第1ガンマ補正式と異なる第2ガンマ補正式のいずれかを用いて行われるガンマ補正処理を含む。前記補正画像は、前記ガンマ補正処理がなされた第1補正画像を含む。前記前処理は、前記第1補正画像に対して前記第1ガンマ補正式に基づく逆変換処理がなされた第1逆変換画像と、前記第1補正画像に対して前記第2ガンマ補正式に基づく逆変換処理がなされた第2逆変換画像と、を得る第1処理と、前記組織画像と前記第1逆変換画像との輝度値の第1差分、および、前記組織画像と前記第2逆変換画像との輝度値の第2差分を比較することで、前記ガンマ補正処理において用いられた補正式が、前記第1ガンマ補正式または前記第2ガンマ補正式のいずれであるのかを特定する第2処理と、を含む。前記逆変換処理は、前記特定したガンマ補正式に基づく第1逆変換処理を含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、ガンマ補正処理された補正画像を適切に逆変換することができ、補正画像に基づいて適切に検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、検査システムの一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、処理部が有する機能を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、軌道輪の断面を顕微鏡観察するための試料の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、補正処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、検査装置による検査処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、前処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、前処理において前処理用画像群に対する処理によって得られる各種情報の流れを示す図である。
【
図8】
図8(a)は、前処理用画像群に含まれる組織画像の一例を示す図、
図8(b)は、前処理用画像群に含まれる第1補正画像の一例を示す図である。
【
図9】
図9(a)は、第1逆変換画像の一例を示す図、
図9(b)は、第2逆変換画像の一例を示す図である。
【
図10】
図10(a)は、前処理用画像群に含まれる第2補正画像の一例を示す図、
図10(b)は、
図10(a)に示す第2補正画像を用いて得られた第2ヒストグラムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
最初に実施形態の内容を列記して説明する。
[実施形態の概要]
(1)実施形態である検査システムは、熱処理した炭素鋼または合金鋼からなる対象部材の検査システムである。この検査システムは、前記対象部材の断面を顕微鏡観察した組織画像を取得する画像取得部と、前記組織画像に対して補正処理がなされた1または複数の補正画像と、前記組織画像と、を出力可能な画像変換装置と、前記補正画像に基づいて前記対象部材の検査を行う検査装置と、を備える。前記検査装置は、前記補正画像に対して前記補正処理の逆変換を行う逆変換処理と、前記逆変化処理によって得られた逆変換組織画像に基づいて前記対象部材の品質検査を行う品質検査処理と、前記逆変換処理の前に行われる前処理と、を実行する処理部を備える。前記補正処理は、第1ガンマ補正式、および、前記第1ガンマ補正式と異なる第2ガンマ補正式のいずれかを用いて行われるガンマ補正処理を含む。前記補正画像は、前記ガンマ補正処理がなされた第1補正画像を含む。前記前処理は、前記第1補正画像に対して前記第1ガンマ補正式に基づく逆変換処理がなされた第1逆変換画像と、前記第1補正画像に対して前記第2ガンマ補正式に基づく逆変換処理がなされた第2逆変換画像と、を得る第1処理と、前記組織画像と前記第1逆変換画像との輝度値の第1差分、および、前記組織画像と前記第2逆変換画像との輝度値の第2差分を比較することで、前記ガンマ補正処理において用いられたガンマ補正式が、前記第1ガンマ補正式または前記第2ガンマ補正式のいずれであるのかを特定する第2処理と、を含む。前記逆変換処理は、前記特定したガンマ補正式に基づく第1逆変換処理を含む。
【0014】
上記構成によれば、ガンマ補正処理で用いられたガンマ補正式を、第1処理および第2処理によって特定することができるので、ガンマ補正処理において第1ガンマ補正式および第2ガンマ補正式のいずれのガンマ補正式が用いられたのかが不明であっても、特定したガンマ補正式に基づき適切に逆変換(第1逆変換処理)することができる。
この結果、補正画像に基づいて検査を行うことができる。
【0015】
(2)上記検査システムにおいて、前記補正処理が、コントラスト補正処理をさらに含み、前記複数の補正画像が、前記コントラスト補正処理がなされた第2補正画像を含み、前記前処理が、前記コントラスト補正処理において用いられるコントラスト補正式に含まれるコントラスト補正量の値を、前記組織画像、前記第2補正画像、および前記コントラスト補正式に基づいて演算する第3処理をさらに含む場合、前記逆変換処理は、前記コントラスト補正量が前記値である前記コントラスト補正式に基づく第2逆変換処理をさらに含んでいてもよい。
この場合、補正処理にコントラスト補正処理が含まれていたとしても、適切に逆変換することができる。
【0016】
(3)上記検査システムにおいて、前記複数の補正画像は、前記ガンマ補正処理、および、前記コントラスト補正処理の両方で補正された第3補正画像を含む場合、前記前処理は、前記第3補正画像に対して、前記第1逆変換処理、および、前記第2逆変換処理の順番で逆変換処理がなされた第3逆変換画像と、前記第3補正画像に対して、前記第2逆変換処理、および、前記第1逆変換処理の順番で逆変換処理がなされた第4逆変換画像と、を得る第4処理と、前記組織画像と前記第3逆変換画像との輝度値の第3差分、および、前記組織画像と前記第4逆変換画像との輝度値の第4差分を比較することで、前記逆変換処理における前記第1逆変換処理および前記第2逆変換処理の順番を特定する第5処理と、をさらに含み、前記逆変換処理では、前記第5処理にて特定された順番に従って、前記第1逆変換処理および前記第2逆変換処理が行われるように構成されていてもよい。
この場合、補正処理において、ガンマ補正処理およびコントラスト補正処理の順番が不明であっても、第5処理によって、第1逆変換処理および第2逆変換処理の順番を定めることができ、補正処理にガンマ補正処理およびコントラスト補正処理の両方が含まれていたとしても、その順番を考慮してより適切に逆変換することができる。
【0017】
(4)また、他の観点から見た実施形態は、熱処理した炭素鋼または合金鋼からなる対象部材の検査装置である。この検査装置は、前記対象部材の断面を顕微鏡観察した組織画像に対して補正処理がなされた補正画像と、前記組織画像と、を受け付ける処理と、前記補正画像に対して前記補正処理の逆変換を行う逆変換処理と、前記逆変化処理によって得られた逆変換組織画像に基づいて前記対象部材の品質検査を行う品質検査処理と、前記逆変換処理の前に行われる前処理と、を実行する処理部を備える。前記補正処理は、第1ガンマ補正式、および、前記第1ガンマ補正式と異なる第2ガンマ補正式のいずれかを用いて行われるガンマ補正処理を含む。前記補正画像は、前記ガンマ補正処理がなされた第1補正画像を含む。前記前処理は、前記第1補正画像に対して前記第1ガンマ補正式に基づく逆変換処理がなされた第1逆変換画像と、前記第1補正画像に対して前記第2ガンマ補正式に基づく逆変換処理がなされた第2逆変換画像と、を得る第1処理と、前記組織画像と前記第1逆変換画像との輝度値の第1差分、および、前記組織画像と前記第2逆変換画像との輝度値の第2差分を比較することで、前記ガンマ補正処理において用いられた補正式が、前記第1ガンマ補正式または前記第2ガンマ補正式のいずれであるのかを特定する第2処理と、を含む。前記逆変換処理は、前記特定したガンマ補正式に基づく第1逆変換処理を含む。
【0018】
[実施形態の詳細]
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
〔システムの全体構成について〕
図1は、検査システムの一例を示すブロック図である。
図1中の検査システム1は、熱処理品の断面組織の顕微鏡画像に基づいて熱処理品の品質検査を行うためのシステムである。
より具体的に検査システム1は、熱処理品の断面組織に基づいて、熱処理品の品質検査を行う機能を有する。検査システム1により検査可能な熱処理品の品質には、少なくとも、熱処理品の炭素濃度の推定値、熱処理品の残留オーステナイト量の推定値、および、熱処理品の断面硬さの推定値が含まれる。
検査システム1は、検査装置2と、複数のユーザ側装置4と、を備える。
【0019】
複数のユーザ側装置4は、例えば、点在する複数の工場に設置される。複数のユーザ側装置4は、それぞれ、熱処理品の検査を行う検査員(ユーザ)によって用いられる。
複数のユーザ側装置4は、それぞれ、ユーザ端末6と、カメラ8と、顕微鏡10と、を備える。
顕微鏡10は、金属断面の観察が可能な金属顕微鏡である。
カメラ8は、顕微鏡10に組み込まれる。カメラ8は、CCD素子やCMOS素子等の撮像素子およびレンズ等の光学機構を有する撮像装置である。カメラ8は、顕微鏡により観察された金属組織を撮像し組織画像を取得する機能を有する。
カメラ8は、ユーザ端末6に接続されており、取得した金属組織の組織画像をユーザ端末6へ与える。
【0020】
ユーザ端末6は、例えば、コンピュータであり、処理部6aと、記憶部6bと、入出力部6cと、を備える。
処理部6aは、例えば、CPU(Central Processing Unit)等からなる。
記憶部6bは、例えば、フラッシュメモリ、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等である。記憶部6bには、処理部6aに実行させるためのコンピュータプログラムや、必要な情報が記憶されている。処理部6aは、記憶部6bのようなコンピュータ読み取り可能な非一過性の記録媒体に記憶されたコンピュータプログラムを実行することで、処理部6aが有する各種処理機能を実現する。
入出力部6cは、ユーザによる入力を受け付けるとともに、ユーザへ情報等を出力する機能を有する。入出力部6cは、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、モニタ、スピーカ、プリンタ、インジケータ等である。
【0021】
ユーザ端末6および検査装置2は、LAN(Local Area Network)やインターネット等のネットワークNWによって、相互に通信可能に接続されている。
よって、ユーザ端末6は、カメラ8から与えられる組織画像および補正画像(後に説明する。)を検査装置2へ送信することができる。
また、ユーザ端末6は、検査装置2から送信される検査結果等の情報を受信することができる。ユーザ端末6は、入出力部6cを介して、検査結果等の情報をユーザへ出力することができる。
【0022】
検査装置2は、例えば、サーバ等のコンピュータである。なお、検査装置2は、クラウド上に設けられていてもよい。
検査装置2は、複数のユーザ端末6から送信される画像に基づいて、熱処理品の品質検査処理を行う機能を有する。
【0023】
検査装置2は、処理部2aと、記憶部2bと、を備える。
処理部2aは、例えば、CPU(Central Processing Unit)等からなる。
記憶部2bは、例えば、フラッシュメモリ、ハードディスク、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等である。記憶部2bには、処理部2aに実行させるためのコンピュータプログラムや、必要な情報が記憶されている。処理部2aは、記憶部2bのようなコンピュータ読み取り可能な非一過性の記録媒体に記憶されたコンピュータプログラムを実行することで、処理部2aが有する各種処理機能を実現する。
【0024】
また、記憶部2bは、学習済みモデル12と、設定テーブル14と、を記憶する。
学習済みモデル12は、後述する検査処理において検査対象となる試料の組織画像から得られる特徴量が与えられると、試料の品質を示す値を出力するように学習されたモデルである。
設定テーブル14は、逆変換処理(後に説明する。)に必要な設定情報が登録される。
【0025】
図2は、処理部2aが有する機能を示すブロック図である。
処理部2aは、記憶部2bに記憶されたコンピュータプログラムを実行することで、前処理2a1、逆変換処理2a2、および品質検査処理2a3を実行する。これら各処理については、後に説明する。
【0026】
〔検査処理の対象となる対象部材および対象部材の顕微鏡観察について〕
検査システム1は、対象部材の検査を行うことができる。対象部材には、炭素鋼、合金鋼等を用いた熱処理品が含まれる。炭素鋼としては、S10C、S25C、S40C、S45C等が挙げられる。合金鋼としては、SCr415、SCM415、SCM435、SNCM420、SAE5120等が挙げられる。また、対象部材対する熱処理には、浸炭焼き入れが含まれる。
【0027】
本実施形態では、対象部材が転がり軸受の軌道輪である場合について説明する。この軌道輪は、炭素鋼または合金鋼を用いて形成された部材である。軌道輪は、浸炭焼き入れの後、焼き戻しされる。
浸炭焼き入れおよび焼き戻しは、複数の軌道輪を含む1ロットごとに行われる。1ロットに含まれる複数の軌道輪のうちの1または複数個の軌道輪が対象部材として選択される。
【0028】
図3は、軌道輪の断面を顕微鏡観察するための試料の一例を示す図である。
図3中、試料100は、切断片102と、樹脂104と、を含む。
切断片102は、高速カッタ等で切り出された軌道輪の一部分である。
樹脂104は、円筒状に形成されている部材であり、切断片102が埋め込まれることで切断片102を保持する。
試料100の観察面100aは、切断片102の断面102aと、樹脂面104aと、を含む。よって、断面102aは、試料100の観察面100aにおいて露出している。
なお、断面102aは、軌道輪の軸線を含む面に沿う断面である。よって、断面102aには、軌道面102a1が表れている。
【0029】
観察面100aは、鏡面研磨の後、ナイタール(硝酸アルコール液)等の組織観察用腐食液に所定時間浸漬されている。これによって、断面102aは、腐食(エッチング)される。
対象部材として選択された軌道輪は、ユーザによって切断片102に加工され、試料100の作製に供される。
【0030】
断面102aがエッチングされた試料100は、顕微鏡10にセットされる。ユーザは、断面102aのうち、必要な箇所を顕微鏡10の視野に設定し、組織画像の撮像を行う。
本検査処理では、軌道輪の浸炭層が検査対象である。よって、ユーザは、断面102aにおける浸炭層の部分を顕微鏡10の視野に入れ、カメラ8によって組織画像を撮像する。これによって、断面102aにおける浸炭層の組織画像が撮像される。
【0031】
なお、浸炭層は、断面102aにおける軌道面102a1から、軌道面102a1の直下1mm~3mm程度の深さまでの範囲に存在している。よって、ユーザは、軌道面102a1(表面)からの位置が1mm~3mmの深さ位置(所定深さ位置)である断面領域をカメラ8によって撮像し、組織画像を得る。
このようにカメラ8は、対象部材の断面を顕微鏡観察した組織画像を取得する画像取得部を構成する。
カメラ8によって撮像された組織画像は、ユーザ端末6へ与えられる。
【0032】
〔ユーザ端末6による補正処理について〕
ユーザ端末6は、組織画像に対して補正処理を行う機能を有する。ユーザ端末6は、組織画像に対して補正処理を行うことで補正画像を得る。
補正処理には、ガンマ補正処理と、コントラスト補正処理と、が含まれる。
補正処理は、ユーザ端末6の記憶部6bに記憶された画像変換プログラムが処理部6aによって実行されることで実現される。
このように、補正画像は、組織画像に対して補正処理を行うことで得られる画像である。なお、本実施形態では、補正画像とは、ガンマ補正処理およびコントラスト補正処理の少なくとも一方がなされた画像をいう。
また、組織画像は、上述のようにカメラ8から与えられる画像であり、補正処理が行われる前の画像である。本実施形態では、組織画像とは、ガンマ補正処理およびコントラスト補正処理のいずれもなされていない画像をいう。
【0033】
図4は、補正処理の一例を示すフローチャートである。
以下、
図1中、複数のユーザ端末6のうち、ユーザ端末6Aが行う補正処理について説明する。
ユーザ端末6Aの処理部6aは、まず、カメラ8から組織画像が与えられたか否かを判定する(
図4中、ステップS21)。処理部6aは、組織画像を受信したと判定するまで、ステップS21を繰り返す。
【0034】
組織画像を受信したと判定すると、処理部6aは、組織画像に対してガンマ補正処理を行う(
図4中、ステップS22)。
ここで、ガンマ補正処理は、下記式(1)および式(2)のいずれかを用いて行われる。
【0035】
【0036】
上記式(1)および式(2)中、(x,y)は、組織画像および補正処理後の画像における各画素の座標であり、組織画像にX方向およびY方向を設定したときにおける各画素のX方向の座標およびY方向の座標を示している。
P’’(x,y)は、ガンマ補正処理後の画像に含まれる各画素の輝度値である。
P(x,y)は、ガンマ補正処理前の画像に含まれる各画素の輝度値である。
γは、ガンマ補正値である。ガンマ補正値γは、ユーザによって設定される。
【0037】
式(1)に示す第1ガンマ補正式では、ガンマ補正値γの逆数が指数として用いられ、式(2)に示す第2ガンマ補正式では、ガンマ補正値γが指数として用いられている。この点において、第1ガンマ補正式と、第2ガンマ補正式と、は互いに異なる。
【0038】
ユーザ端末6Aの処理部6aは、第1ガンマ補正式(式(1))を用いてガンマ補正処理を行うものとする。処理部6aは、組織画像にガンマ補正処理を行うことで中間補正画像を得る。
なお、ユーザ端末6A以外のユーザ端末6には、第2ガンマ補正式を用いてガンマ補正処理を行うものも含まれる。
【0039】
次いで、処理部6aは、中間補正画像に対してコントラスト補正処理を行うことで最終補正画像を得(
図4中、ステップS23)、処理を終える。
コントラスト補正処理は、下記式(3)を用いて行われる。
P
m’(x,y)=α
m(P
m(x,y)-127)+127+β
m ・・(3)
【0040】
上記式(3)中、(x,y)は、組織画像における各画素の座標である。
Pm’(x,y)は、コントラスト補正処理後の画像に含まれる各画素の輝度値である。
Pm(x,y)は、コントラスト補正処理前の画像に含まれる各画素の輝度値である。
αmは、コントラスト補正量であり、βmは、明るさ補正量である。
なお、補正処理において、ユーザ端末6は、補正量αm、βmを示す相対値の入力をユーザに求める。ユーザ端末6は、入力された相対値に対応する補正量αm、βmを用いてコントラスト補正処理を行う。このため、ユーザは、補正量αm、βmの具体的な値については判らない。
【0041】
処理部6aは、補正処理を終えることでガンマ補正処理およびコントラスト補正処理がなされた最終補正画像を得ることができる。
品質検査処理が行われる場合、処理部6aは、最終補正画像を検査装置2へ送信する。
【0042】
また、処理部6aは、組織画像に対してガンマ補正処理のみがなされた第1補正画像、および、組織画像に対してコントラスト補正処理のみがなされた第2補正画像を得る機能を有する。
さらに、処理部6aは、検査装置2からの要求に応じて、1つの組織画像に基づく第1補正画像、第2補正画像、および最終補正画像を、前記1つの組織画像とともに検査装置2へ送信する機能を有する。処理部2aは、これら画像を検査装置2へ送信する際、第1補正画像を得る際のガンマ補正値γも検査装置2へ送信する。
第1補正画像を得る際のガンマ補正値γは、中間補正画像を得る際のガンマ補正値γと同じ値である。第2補正画像を得る際の補正量αm、βmを示す相対値は、最終補正画像を得る際の相対値と同じ値である。
【0043】
このように、ユーザ端末6(の処理部6a)は、組織画像に対して補正処理がなされた1または複数の補正画像と、組織画像と、を出力可能な画像変換装置を構成する。
なお、補正処理は画像変換プログラムの実行によって実現される。また、補正処理を行うユーザ端末6は、組織画像および必要なパラメータ(ガンマ補正値γおよび補正量αm、βmを示す相対値)が与えられると、最終補正画像を出力するように構成されている。さらに、ガンマ補正処理において用いられるガンマ補正式、および、補正処理におけるガンマ補正処理およびコントラスト補正処理の順番については、画像変換プログラムによって異なることがある。
【0044】
このため、ユーザ、ユーザ端末6、および、検査装置2においては、ガンマ補正処理において用いられるガンマ補正式、および、補正処理におけるガンマ補正処理およびコントラスト補正処理の順番について不明である。
また、上述のように、コントラスト補正処理における補正量αm、βmについても、ユーザ、ユーザ端末6、および、検査装置2においては不明である。
【0045】
〔検査処理について〕
図5は、検査装置2による検査処理の一例を示すフローチャートである。
なお、ここでは、複数のユーザ端末6のうち、ユーザ端末6Aから送信される画像に基づいて検査処理を行う場合について説明する。
【0046】
検査処理において、検査装置2の処理部2aは、まず、前処理を行う(
図5中、ステップS1:
図2中、前処理2a1)。
前処理は、後に説明する逆変換処理の前に行われる処理である。前処理では、逆変換処理において必要な設定情報が取得される。前処理については、後に説明する。
【0047】
前処理の後、処理部2aは、複数のユーザ側装置4(ユーザ端末6)から送信される最終補正画像を受信したか否かを判定する(
図5中、ステップS2)。処理部2aは、最終補正画像を受信したと判定するまで、ステップS2を繰り返す。
【0048】
ユーザ端末6(6A)から最終補正画像を受信したと判定すると、処理部2aは、逆変換処理を行う(
図5中、ステップS3:
図2中、逆変換処理2a2)。
逆変換処理は、最終補正画像に対して補正処理の逆変換を行う処理である。
逆変換処理は、第1逆変換処理(
図5中、ステップS31)と、第2逆変換処理(
図5中、ステップS32)と、を含む。第1逆変換処理は、ガンマ補正処理の逆変換を行う処理である。第2逆変換処理は、コントラスト補正処理の逆変換を行う処理である。
第1逆変換処理および第2逆変換処理の処理の順番は、前処理によって定められる。
逆変換処理は、前処理で取得された情報を用いて行われる。
【0049】
処理部2aは、最終補正画像に対して逆変換処理を行うと、逆変換組織画像を得る。
処理部2aは、逆変換処理を終えると、品質検査処理を行う(
図5中、ステップS4:
図2中、品質検査処理2a3)。
【0050】
処理部2aは、品質検査処理において、逆変換組織画像を用い、逆変換組織画像に基づいて所定の特徴量を求め、特徴量に基づいて、試料の品質を示す値を出力する。処理部2aは、学習済みモデル12(
図1)に所定の特徴量を与え、試料の品質を示す値を求める。
学習済みモデル12は、組織画像から得られる所定の特徴量と、品質を示す値と、の関係を機械学習させることで得られたモデルである。つまり、学習済みモデル12は、所定の特徴量を入力とし、品質を示す値を出力とするモデルである。
【0051】
学習済みモデル12は、炭素濃度の推定値を求めるためのモデルと、残留オーステナイト量の推定値を求めるためのモデルと、断面硬さの推定値を求めるためのモデルと、を含む。
処理部2aは、学習済みモデル12を用いて、炭素濃度の推定値、残留オーステナイト量の推定値、および断面硬さの推定値を求める。
【0052】
ここで、学習済みモデル12の機械学習に用いられる教師データは、対象部材である軌道輪と同様の軌道輪(データ収集用軌道輪)を用いて収集される。
教師データは、データ収集用軌道輪から得られる所定の特徴量と、この特徴量が得られたデータ収集用軌道輪の品質を示す値と、を含む。
教師データに含まれる特徴量は、データ収集用軌道輪から切り出される切断片を用いて試料を作製し、この試料から得られる組織画像に基づいて得られる。
【0053】
よって、品質検査処理において学習済みモデル12に与えられる所定の特徴量は、組織画像から得られるべきである。
本実施形態の品質検査処理では、逆変換組織画像から得られる所定の特徴量が学習済みモデル12に与えられる。
本実施形態では、後述するように、最終補正画像を適切に逆変換することができるため、逆変換組織画像から得られる所定の特徴量を学習済みモデル12に与えたとしても、組織画像から得られる所定の特徴量を学習済みモデル12に与えた場合と同等の精度で品質を示す値を得ることができる。
【0054】
品質検査処理を終えると、処理部2aは、ステップS2へ戻る。処理部2aは、ユーザ端末6Aの最終補正画像に対する逆変換処理に必要な設定情報をすでに有している。よって、処理部2aは、ステップS2へ戻り、ユーザ端末6Aから最終補正画像が与えられるのを待つ。
以上のようにして、処理部2aは、検査処理を実行する。
【0055】
〔前処理について〕
前処理は、上述したように、逆変換処理において必要な設定情報を取得するための処理である。
図6は、前処理の一例を示すフローチャートである。
処理部2aは、まず、組織画像、並びに、この組織画像に基づく第1補正画像、第2補正画像、および最終補正画像の送信を、ユーザ端末6Aに要求する(
図6中、ステップS11)。このステップS11において要求される画像は、前処理のための画像である。
なお、以下の説明では、組織画像、並びに、この組織画像に基づく第1補正画像、第2補正画像、および最終補正画像を前処理用画像群という。また、前処理においては、最終補正画像を第3補正画像ともいう。
【0056】
次いで、処理部2aは、
図6中のステップS12へ進み、前処理用画像群を受信したか否かを判定する。処理部2aは、前処理用画像群を受信するまで、ステップS12を繰り返す。
前処理用画像群を受信したと判定すると、処理部2aは、
図6中のステップS13へ進み、第1逆変換画像および第2逆変換画像を取得する(
図6中、ステップS13:第1処理)。
【0057】
第1逆変換画像および第2逆変換画像は、前処理用画像群のうちの第1補正画像に対してガンマ補正の逆変換がなされた画像である。
第1逆変換画像は、第1補正画像に対して第1ガンマ補正式(上記式(1))に基づく逆変換がなされた画像である。
第2逆変換画像は、第1補正画像に対して第2ガンマ補正式(上記式(2))に基づく逆変換がなされた画像である。
【0058】
なお、第1ガンマ補正式(第2ガンマ補正式)に基づく逆変換とは、上記式(1)(式(2))中のP’’(x,y)に、ガンマ補正処理がなされた画像に含まれる各画素の輝度値を代入し、P(x,y)を逆変換後の画像に含まれる各画素の輝度値として求める処理である。
ガンマ補正値γは、前処理用画像群とともにユーザ端末6Aから与えられる。
【0059】
図7は、前処理において前処理用画像群に対する処理によって得られる各種情報の流れを示す図である。
処理部2aは、第1ガンマ補正式および第2ガンマ補正式を用いて第1補正画像に対して逆変換処理を行い、第1逆変換画像および第2逆変換画像を得る。
【0060】
次いで、処理部2aは、
図6中のステップS14へ進み、第1差分と、第2差分と、の比較に基づいて、ガンマ補正処理において用いられたガンマ補正式を特定する(
図6中、ステップS14:第2処理)。
このガンマ補正処理は、ユーザ端末6Aによる補正処理に含まれる処理であり、上述のように、ガンマ補正処理において第1ガンマ補正式および第2ガンマ補正式のいずれが用いられたのかは、ユーザ、ユーザ端末6、および、検査装置2においては不明である。
そこで、処理部2aは、第1差分と、第2差分と、の比較に基づいて、ガンマ補正処理において用いられたガンマ補正式を特定する。
【0061】
図7に示すように、第1差分とは、第1逆変換画像を用いて得られる値である。また、第2差分とは、第2逆変換画像を用いて得られる値である。
第1差分は、前処理用画像群のうちの組織画像の輝度値と、第1逆変換画像の輝度値と、の差分である。つまり、第1差分は、組織画像に含まれる複数の画素の複数の輝度値と、第1逆変換画像に含まれる複数の画素の複数の輝度値と、の複数の差分を含む。
第2差分は、前処理用画像群のうちの組織画像の輝度値と、第2逆変換画像の輝度値と、の差分である。つまり、第2差分は、組織画像に含まれる複数の画素の複数の輝度値と、第2逆変換画像に含まれる複数の画素の複数の輝度値と、の複数の差分を含む。
【0062】
第1差分と、第2差分と、を比較し、値の小さい方の差分に対応する逆変換画像が、組織画像により近似していると言える。
よって、処理部2aは、第1差分に含まれる複数の差分の和と、第2差分に含まれる複数の差分の和と、を比較し、和の小さい方の差分に対応する逆変換画像を特定する。
図7に示すように、第1差分と第2差分との比較の結果、処理部2aは、特定した逆変換画像に用いたガンマ補正式をガンマ補正処理において用いられたガンマ補正式と特定する。
【0063】
処理部2aは、特定したガンマ補正式を、逆変換処理のうちの第1逆変換処理で用いる。
本実施形態では、ユーザ端末6Aの処理部6aは、上述のように、第1ガンマ補正式を用いてガンマ補正処理を行う。よって、処理部2aは、第1ガンマ補正式を、ガンマ補正処理において用いられたガンマ補正式として特定する。
よって、処理部2aは、第1逆変換処理において、第1ガンマ補正式に基づいてガンマ補正処理の逆変換を行う。
【0064】
図8(a)は、前処理用画像群に含まれる組織画像の一例を示す図、
図8(b)は、前処理用画像群に含まれる第1補正画像の一例を示す図である。
また、
図9(a)は、第1逆変換画像の一例を示す図、
図9(b)は、第2逆変換画像の一例を示す図である。
処理部2aは、
図8(b)に示す第1補正画像を用いて、
図9に示す第1逆変換画像および第2逆変換画像を取得し、
図8(a)に示す組織画像の輝度値と第1逆変換画像の輝度値との差分である第1差分、および、組織画像の輝度値と第2逆変換画像の輝度値との差分である第2差分を求め、ガンマ補正処理において用いられたガンマ補正式を特定する。
【0065】
図6に示すように、ガンマ補正式を特定すると、処理部2aは、
図6中のステップS15へ進み、コントラスト補正量α
mの値を演算する(
図6中、ステップS15:第3処理)。
図7に示すように、処理部2aは、コントラスト補正量α
mを求めるために、組織画像を用いて輝度値の第1ヒストグラムを生成するとともに、第2補正画像を用いて輝度値の第2ヒストグラムを生成する。
【0066】
図10(a)は、前処理用画像群に含まれる第2補正画像の一例を示す図、
図10(b)は、
図10(a)に示す第2補正画像を用いて得られた第2ヒストグラムの一例を示す図である。
図10(b)に示す第2ヒストグラムは、第2補正画像に含まれる複数の画素の輝度値を階級(横軸)とし、階級ごとの画素数を度数(縦軸)としたヒストグラムである。
処理部2aは、第2ヒストグラムに基づいて、第2補正画像に含まれる複数の画素の輝度値のうち、最大値Pmaxおよび最小値Pminを取得する。
処理部2aは、組織画像を用いて、
図10(b)に示す第2ヒストグラムと同様の第1ヒストグラムを生成し、組織画像における最大値Pmaxおよび最小値Pminを取得する。
【0067】
なお、本実施形態では、組織画像における最大値Pmaxおよび最小値Pmin、第2補正画像における最大値Pmaxおよび最小値Pminを取得するためにヒストグラムを用いたが、他の方法によりこれら最大値Pmaxおよび最小値Pminを取得することができれば、その方法を用いてもよい。
【0068】
次いで、処理部2aは、上記式(3)を用いてコントラスト補正量αmを演算する。
より具体的に、処理部2aは、上記式(3)に組織画像の最大値Pmaxと第2補正画像の最大値Pmaxと、を代入した式と、上記式(3)に組織画像の最小値Pminと第2補正画像の最小値Pminと、を代入した式と、に基づいて、コントラスト補正量αmの値および明るさ補正量βmの値を求めることができる。
【0069】
処理部2aは、求めた補正量αm、βmの値を、逆変換処理のうちの第2逆変換処理で用いる。つまり、処理部2aは、第2逆変換処理において、求めた補正量αm、βmの値をコントラスト補正式(式(3))に代入し、代入したコントラスト補正式に基づいてコントラスト補正処理の逆変換を行う。
【0070】
図6に示すように、コントラスト補正量α
mを求めると、処理部2aは、ステップS16へ進み、第3逆変換画像および第4逆変換画像を取得する(
図6中、ステップS16:第4処理)。
第3逆変換画像および第4逆変換画像は、前処理用画像群のうちの第3補正画像に対して、ガンマ補正の逆変換およびコントラスト補正の逆変換がなされた画像である。
ステップS16におけるガンマ補正の逆変換は、ステップS14にて特定したガンマ補正式に基づく逆変換処理である。つまり、ここでのガンマ補正の逆変換は、第1逆変換処理である。
また、ステップS16におけるコントラスト補正の逆変換は、補正量α
m、β
mがステップS15にて演算した値であるコントラスト補正式に基づく逆変換である。つまり、ここでのコントラスト補正の逆変換は、第2逆変換処理である。
なお、コントラスト補正式に基づく逆変換とは、上記式(3)中のP’’(x,y)に、コントラスト補正処理がなされた画像に含まれる各画素の輝度値を代入し、P(x,y)を逆変換後の画像に含まれる各画素の輝度値として求める処理である。
【0071】
第3逆変換画像は、第3補正画像に対して、第1逆変換処理、および、第2逆変換処理の順番で逆変換がなされた画像である。
第4逆変換画像は、第3補正画像に対して、第2逆変換処理、および、第1逆変換処理の順番で逆変換がなされた画像である。
【0072】
図6に示すように、第3逆変換画像および第4逆変換画像を取得すると、処理部2aは、
図6中のステップS17へ進み、第3差分と、第4差分と、の比較に基づいて、
図5中のステップS3である逆変換処理における第1変換処理および第2変換処理の順番を特定する(
図6中、ステップS17:第5処理)。
【0073】
図7に示すように、第3差分とは、第3逆変換画像を用いて得られる値である。また、第4差分とは、第4逆変換画像を用いて得られる値である。
第3差分は、前処理用画像群のうちの第3補正画像の輝度値と、第3逆変換画像の輝度値と、の差分である。つまり、第3差分は、第3補正画像に含まれる複数の画素の複数の輝度値と、第3逆変換画像に含まれる複数の画素の複数の輝度値と、の複数の差分を含む。
第4差分は、前処理用画像群のうちの第3補正画像の輝度値と、第4逆変換画像の輝度値と、の差分である。つまり、第4差分は、第3補正画像に含まれる複数の画素の複数の輝度値と、第4逆変換画像に含まれる複数の画素の複数の輝度値と、の複数の差分を含む。
【0074】
第3差分と、第4差分と、を比較し、値の小さい方の差分に対応する逆変換画像が、第3補正画像により近似していると言える。
よって、処理部2aは、第3差分に含まれる複数の差分の和と、第4差分に含まれる複数の差分の和と、を比較し、和の小さい方の差分に対応する逆変換画像を特定する。
図7に示すように、第3差分と第4差分との比較の結果、処理部2aは、特定した逆変換画像における逆変換の順番を、逆変換処理における第1変換処理および第2変換処理の順番と特定する。
本実施形態では、ユーザ端末6Aの処理部6aは、上述のように、ガンマ補正処理の後に、コントラスト補正処理を行う。よって、処理部2aは、第3逆変換画像よりも第4逆変換画像の方がより第3補正画像に近似する、と判定する。
よって、処理部2aは、逆変換処理における処理の順番を、第2逆変換処理、および、第1逆変換処理と特定する。
【0075】
以上のように、処理部2aは、前処理において、ガンマ補正処理において用いられたガンマ補正式(ステップS14)、補正量αm、βmの値(ステップS15)、および、逆変換処理における第1逆変換処理および第2逆変換処理の順番(ステップS17)を情報として取得する。
上述のように、ステップS14にて特定されたガンマ補正式は、第1逆変換処理に用いられる。ステップS15にて求めた補正量αm、βmの値は、第2逆変換処理に用いられる。ステップS17における第1逆変換処理および第2逆変換処理の順番も逆変換処理に用いられる。
【0076】
これら情報が、逆変換処理において必要な設定情報である。
処理部2aは、これら設定情報を設定テーブル14に登録する。
設定テーブル14には、ユーザIDと、設定情報と、が対応付けて登録されている。ユーザIDは、複数のユーザ端末6それぞれに割り当てられた識別情報である。
処理部2aは、前処理の際に、前処理用画像群とともにユーザ端末6のユーザIDの送信も要求し、取得した設定情報と、ユーザIDと、を対応付けて設定テーブル14に登録する。
【0077】
本実施形態では、
図5に示す検査処理において、設定テーブル14に関する処理を省略した場合を示したが、検査処理において、複数のユーザ端末6の1つから最終補正画像が与えられると、最終補正画像を送信したユーザ端末6の設定情報が設定テーブル14に登録されているか否かを、処理部2aに判定させるように構成してもよい。
この場合、設定情報が設定テーブル14に登録されていれば、最終補正画像に対して逆変換処理および品質検査処理(
図5中、ステップS3、S4)を処理部2aに行わせる。
一方、設定情報が設定テーブル14に登録されていない場合、そのユーザ端末6に関する前処理を処理部2aに実行させる(
図5中、ステップS1)。
これにより、処理部2aは、設定テーブル14を参照することで、複数のユーザからの画像に基づいて適切に検査を行うことができる。
【0078】
図6中のステップS17において逆変換処理における処理の順番を特定すると、処理部2aは、前処置を終え、
図5中のステップS2へ戻る。
ステップS2へ戻った処理部2aは、ユーザ端末6Aからの最終補正画像を受信すると、第2逆変換処理および第1逆変換処理の順番で逆変換処理を行い(
図5中、ステップS3)、品質検査処理を行う(
図5中、ステップS4)。
【0079】
上記構成によれば、ユーザ端末6Aにおけるガンマ補正処理で用いられたガンマ補正式を特定することができるので、ガンマ補正処理において第1ガンマ補正式および第2ガンマ補正式のいずれのガンマ補正式が用いられたのかが不明であっても、特定したガンマ補正式に基づき適切に逆変換(第1逆変換処理)することができる。
また、上記構成によれば、コントラスト補正式に含まれる補正量αm、βmの値を演算することができるので、補正処理に含まれるコントラスト補正処理についても、適切に逆変換することができる。
この結果、ユーザ端末6Aからの最終補正画像に基づいて適切に検査を行うことができる。
【0080】
また、上記構成によれば、ユーザ端末6Aの補正処理において、ガンマ補正処理およびコントラスト補正処理の順番が不明であっても、第1逆変換処理および第2逆変換処理の順番を定めることができ、補正処理にガンマ補正処理およびコントラスト補正処理の両方が含まれていたとしても、その順番を考慮してより適切に逆変換することができる。
【0081】
〔検証試験について〕
次に、検査システム1について行った検証試験について説明する。
試験方法としては、組織画像、この組織画像に対してガンマ補正処理を行った補正画像(第1補正画像)、および、この補正画像に対して逆変換処理を行った逆変換組織の3つの画像を用意し、3つの画像を用いて炭素濃度の推定値を求めた。
【0082】
図11は、検証試験の結果を示す図である。
図に示すように、ガンマ補正処理においてガンマ補正値γについて2つの値(0.8、1.2)を設定し、2つのガンマ補正値γそれぞれについて炭素濃度の推定値を求めた。
図11に示すように、組織画像を用いた炭素濃度の推定値は0.707%である。
これに対して、第1補正画像を用いた炭素濃度の推定値は0.7111%、0.709%であった。このように、ガンマ補正処理を行った画像による炭素濃度の推定値には、組織画像での炭素濃度の推定値に対して誤差が表れていることが確認できる。
【0083】
逆変換組織画像を用いた炭素濃度の推定値は、2つのガンマ補正値γのいずれの場合も、0.707%であり、逆変換組織画像も用いた場合、組織画像と同等の品質値(炭素濃度の推定値)が得られることが判る。
この結果から、補正画像に対して適切に逆変換できることが判るとともに、補正画像に基づいて適切に検査を行うことができることが明らかとなった。
【0084】
〔その他〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。
本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0085】
1 検査システム
2 検査装置
2a 処理部
6 ユーザ端末(画像処理装置)
8 カメラ(画像取得部)
10 顕微鏡