(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163522
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/80 20060101AFI20241115BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
F16C33/80
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079216
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】縄田 雅未
【テーマコード(参考)】
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J216AA02
3J216AA12
3J216BA16
3J216BA30
3J216CA01
3J216CA06
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB13
3J216CC45
3J216CC68
3J701AA02
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA73
3J701FA13
3J701FA38
(57)【要約】
【課題】回転トルクが増大するのを抑制しつつ、軸受内部への異物の侵入を抑制する効果を高めることができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】転がり軸受10は、外輪11の内周に固定された第1シールド板20と、第1シールド板20の軸方向外方に配置された第2シールド板30と、を備える。第1シールド板20は、内輪12の外周面との間に第1隙間S1をあけて対向する。第2シールド板30は、内輪12の外周面に圧入された内側円筒部31と、内側円筒部31の軸方向外端部から径方向外方に延びる内側円環部32と、内側円環部32の径方向外端部から軸方向内方に延びる外側円筒部33と、外側円筒部33の軸方向内端部から外輪11の側面11cの径方向外端まで径方向外方に延び、外輪11の側面11cとの間に第2隙間S2をあけて対向する外側円環部34とを、備える。第1隙間S1及び第2隙間S2により、ラビリンス隙間Sが構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、
前記外輪の径方向内方に配置された内輪と、
前記外輪と前記内輪との間に形成されている環状空間内に配置された複数の転動体と、
前記環状空間内の軸方向外側に配置され、前記外輪の内周に固定された第1シールド板と、
前記第1シールド板の軸方向外方に配置され、前記内輪の外周に固定された第2シールド板と、を備え、
前記第1シールド板は、前記内輪の外周面との間に第1隙間をあけて対向する環状の対向面を有し、
前記第2シールド板は、
前記内輪の外周面に圧入された内側円筒部と、
前記内側円筒部の軸方向外端部から径方向外方に延びる内側円環部と、
前記内側円環部の径方向外端部から軸方向内方に延びる外側円筒部と、
前記外側円筒部の軸方向内端部から前記外輪の側面の径方向外端まで径方向外方に延び、前記外輪の側面との間に第2隙間をあけて対向する側面を有する外側円環部と、を備え、
前記第1隙間及び前記第2隙間により、ラビリンス隙間が構成されている、転がり軸受。
【請求項2】
前記外側円筒部は、前記内側円環部の径方向外端部から軸方向内方に向かうにしたがって、径方向外方に向かって傾斜している、請求項1に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な転がり軸受は、その軸受内部に異物が侵入するのを防ぐ必要がある。軸受内部への異物の侵入を防ぐ転がり軸受として、内外輪間の環状空間内の軸方向端部にシールド板が設けられた転がり軸受が知られている(例えば特許文献1の
図1参照)。
【0003】
特許文献1の
図1に示す転がり軸受は、外輪の軸方向端部から径方向内方に延び且つ内輪と非接触の円環状の外輪側シールド板と、内輪の軸方向端部から径方向外方に延び且つ外輪と非接触の円環状の内輪側シールド板と、を備えている。この転がり軸受には、外輪側シールド板と内輪側シールド板によってラビリンス隙間が形成され、このラビリンス隙間により軸受内部に異物が侵入するのを防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
外輪側シールド板と内輪側シールド板によって形成されるラビリンス隙間では、その径方向における異物の侵入経路長を長くするほど、軸受内部への異物の侵入を防ぐ効果を高めることができる。しかし、ラビリンス隙間の侵入経路長を長くするためには、外輪側シールド板及び内輪側シールド板の少なくとも一方を径方向に長くする必要がある。径方向に長くなったシールド板は、外輪又は内輪に組み付けられるときに径方向に対して傾き易くなり、他部品と接触し易くなる。シールド板が他部品と接触すると、転がり軸受の回転トルクが増大するおそれがある。
【0006】
本開示は、回転トルクが増大するのを抑制しつつ、軸受内部への異物の侵入を抑制する効果を高めることができる転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の転がり軸受は、外輪と、前記外輪の径方向内方に配置された内輪と、前記外輪と前記内輪との間に形成されている環状空間内に配置された複数の転動体と、前記環状空間内の軸方向外側に配置され、前記外輪の内周に固定された第1シールド板と、前記第1シールド板の軸方向外方に配置され、前記内輪の外周に固定された第2シールド板と、を備え、前記第1シールド板は、前記内輪の外周面との間に第1隙間をあけて対向する環状の対向面を有し、前記第2シールド板は、前記内輪の外周面に圧入された内側円筒部と、前記内側円筒部の軸方向外端部から径方向外方に延びる内側円環部と、前記内側円環部の径方向外端部から軸方向内方に延びる外側円筒部と、前記外側円筒部の軸方向内端部から前記外輪の側面の径方向外端まで径方向外方に延び、前記外輪の側面との間に第2隙間をあけて対向する側面を有する外側円環部と、を備え、前記第1隙間及び前記第2隙間により、ラビリンス隙間が構成されている。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、転がり軸受の回転トルクが増大するのを抑制しつつ、軸受内部への異物の侵入を抑制する効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る転がり軸受の要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
最初に実施形態の内容を列記して説明する。
<実施形態の概要>
(1)本開示の転がり軸受は、外輪と、前記外輪の径方向内方に配置された内輪と、前記外輪と前記内輪との間に形成されている環状空間内に配置された複数の転動体と、前記環状空間内の軸方向外側に配置され、前記外輪の内周に固定された第1シールド板と、前記第1シールド板の軸方向外方に配置され、前記内輪の外周に固定された第2シールド板と、を備え、前記第1シールド板は、前記内輪の外周面との間に第1隙間をあけて対向する環状の対向面を有し、前記第2シールド板は、前記内輪の外周面に圧入された内側円筒部と、前記内側円筒部の軸方向外端部から径方向外方に延びる内側円環部と、前記内側円環部の径方向外端部から軸方向内方に延びる外側円筒部と、前記外側円筒部の軸方向内端部から前記外輪の側面の径方向外端まで径方向外方に延び、前記外輪の側面との間に第2隙間をあけて対向する側面を有する外側円環部と、を備え、前記第1隙間及び前記第2隙間により、ラビリンス隙間が構成されている。
【0011】
上記転がり軸受によれば、ラビリンス隙間を構成する第2隙間は、第2シールド板における外側円環部の側面と外輪の側面との間において、外輪の側面の径方向外端まで形成される。これにより、ラビリンス隙間の径方向における異物の侵入経路長(第2隙間の径方向外側の開口から第1隙間までの距離)を可及的に長くすることができる。その結果、軸受内部への異物の侵入を抑制する効果を高めることができる。
【0012】
一方、ラビリンス隙間の前記侵入経路長が長くなることで、第2シールド板は径方向に長くなる。しかし、第2シールド板は、内側円筒部、内側円環部、及び外側円筒部により断面略U字形状に形成されるので、第2シールド板が径方向に真っ直ぐ延びる場合と比較して、第2シールド板の剛性を高めることができる。これにより、第2シールド板を内輪に組み付けるときに、第2シールド板が径方向に対して傾くのを抑制することができる。その結果、第2シールド板が他部品に接触しにくくなるので、転がり軸受の回転トルクが増大するのを抑制することができる。
【0013】
(2)前記(1)に記載の転がり軸受において、前記外側円筒部は、前記内側円環部の径方向外端部から軸方向内方に向かうにしたがって、径方向外方に向かって傾斜しているのが好ましい。
この場合、外側円筒部が軸方向に対して傾斜しているので、外側円筒部が軸方向に真っ直ぐ延びる場合と比較した場合、第2シールド板の内側円筒部を内輪の外周面に圧入するときに、外側円環部の径方向外端部が軸方向外方に反るように変形するのを抑制できる。これにより、第2隙間が軸方向に広がるのを抑制できるので、ラビリンス隙間による軸受内部への異物の侵入を抑制する効果をさらに高めることができる。
【0014】
<実施形態の詳細>
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
[転がり軸受]
図1は、実施形態に係る転がり軸受10を示す断面図である。本開示において、転がり軸受10の中心軸Cに沿う方向は、転がり軸受10の軸方向であり、単に「軸方向」と称する。軸方向には、中心軸Cに平行な方向も含まれる。転がり軸受10の外部(
図1の上側)から内部(
図1の下側)へ向かう側(方向)は、軸方向内側(軸方向内方)と称する。転がり軸受10の内部(
図1の下側)から外部(
図1の上側)へ向かう側(方向)は、軸方向外側(軸方向外方)と称する。
【0015】
また、本開示において、中心軸Cに直交する方向は、転がり軸受10の径方向であり、単に「径方向」と称する。中心軸Cを中心として転がり軸受10の回転輪(本実施形態では内輪12)が回転する方向は、転がり軸受10の周方向であり、単に「周方向」と称する。
【0016】
本実施形態の転がり軸受10は、例えば深溝玉軸受である。転がり軸受10は、外輪11と、内輪12と、複数の玉(転動体)13と、保持器14と、を備える。
【0017】
外輪11は、円環状に形成された固定輪である。外輪11の内周面は、軌道面11aと、肩11bと、を有する。軌道面11aは、玉13が転動する面である。軌道面11aは、径方向外方に凹むように円弧状に形成されている。肩11bは、軌道面11aの軸方向両側に位置する。肩11bは、軸方向に平坦な円筒面である。
【0018】
内輪12は、外輪11の径方向内方に配置されている。内輪12は、円環状に形成された回転輪である。内輪12の外周面は、軌道面12aと、肩12bと、を有する。軌道面12aは、玉13が転動する面であり、外輪11の軌道面11aと対向して配置されている。軌道面12aは、径方向内方に凹むように円弧状に形成されている。
【0019】
肩12bは、軌道面12aの軸方向両側に位置する。肩12bは、外輪11の肩11bと対向して配置されている。肩12bは、軸方向に平坦な円筒面である。内輪12の軸方向外側の肩12bは、外輪11の軸方向外側の側面11cよりも軸方向外方に延びている。
【0020】
玉13は、外輪11と内輪12との間に形成されている環状空間15内の軸方向内側おいて、周方向に複数配置されている。複数の玉13は、外輪11の軌道面11a及び内輪12の軌道面12aにそれぞれ接触した状態で、各軌道面11a,12a上を転動する。保持器14は、複数の玉13を周方向に間隔をあけて保持している。
【0021】
転がり軸受10は、第1シールド板20と、第2シールド板30と、をさらに備える。第1シールド板20及び第2シールド板30は、異物が転がり軸受10の軸受内部に侵入するのを抑制する部材である。第1シールド板20は、環状空間15内の軸方向外側に配置され、外輪11の内周に固定されている。第2シールド板30は、第1シールド板20及び外輪11の軸方向外方に配置され、内輪12の外周に固定されている。
【0022】
[第1シールド板]
第1シールド板20は、第1円筒部21と、第1円環部22と、第2円筒部23と、を備える。第1円筒部21、第1円環部22、及び第2円筒部23は、一体に形成されている。
【0023】
第1円筒部21は、円筒状に形成されている。第1円筒部21の外周面は、外輪11の内周面における軸方向外側の肩11bに圧入されている。第1円環部22は、円環状に形成されている。第1円環部22は、第1円筒部21の軸方向外端部から径方向内方に延びている。第1円環部22の軸方向外側の側面22aは、外輪11の側面11cと略面一に配置されている。
【0024】
第2円筒部23は、円筒状に形成されている。第2円筒部23は、第1円環部22の径方向内端部から、内輪12の外周面の肩12bに沿って軸方向内方に延びている。本実施形態では、第2円筒部23の軸方向の長さは、第1円筒部21の軸方向の長さよりも短いが、第1円筒部21の軸方向の長さ以上であってもよい。
【0025】
[第2シールド板]
第2シールド板30は、内側円筒部31と、内側円環部32と、外側円筒部33と、外側円環部34と、を備える。内側円筒部31、内側円環部32、外側円筒部33、及び外側円環部34は、一体に形成されている。
【0026】
内側円筒部31は、円筒状に形成されている。内側円筒部31の内周面は、内輪12の外周面における軸方向外側の肩12bに圧入されている。内側円環部32は、円環状に形成されている。内側円環部32は、内側円筒部31の軸方向外端部から径方向外方に延びている。内側円環部32の径方向の長さは、内側円筒部31の軸方向の長さよりも短い。
【0027】
外側円筒部33は、略円筒状に形成されている。外側円筒部33は、内側円環部32の径方向外端部から軸方向内方に延びている。外側円筒部33は、内側円環部32の径方向外端部から軸方向内方に向かうにしたがって、径方向外方に向かって傾斜している。本実施形態の外側円筒部33は、内側円環部32の径方向外端部から、外輪11の側面11cの径方向内端部付近に向かって傾斜しながら延びている。
【0028】
外側円環部34は、円環状に形成されている。外側円環部34は、外側円筒部33の軸方向内端部から、外輪11の側面11cに沿って当該側面11cの径方向外端まで径方向外方に真っ直ぐ延びている。外側円環部34の軸方向内側の側面34aは、内側円筒部31の軸方向内側の側面と面一である。また、外側円環部34の側面34aは、外輪11の側面11c全体と対向している。
【0029】
[ラビリンス隙間]
第1シールド板20の第2円筒部23の内径は、内輪12の外径よりも僅かに大きい。これにより、第2円筒部23の内周面23aは、内輪12の外周面の肩12bとの間に、微小隙間の第1隙間S1をあけて対向する環状の対向面とされている。第2シールド板30の外側円環部34の側面34aは、外輪11の側面11cとの間に、微小隙間の第2隙間S2をあけて対向している。第1隙間S1及び第2隙間S2によって、軸受内部に異物が侵入するのを抑制するラビリンス隙間Sが構成されている。
【0030】
[実施形態の作用効果]
本実施形態の転がり軸受10によれば、ラビリンス隙間Sを構成する第2隙間S2は、第2シールド板30における外側円環部34の側面34aと外輪11の側面11cとの間において、当該側面11cの径方向外端まで形成される。これにより、第2隙間S2の径方向外側の開口から第1隙間S1までの径方向の距離、すなわちラビリンス隙間Sの径方向における異物の侵入経路長L、を可及的に長くすることができる。その結果、軸受内部への異物の侵入を抑制する効果を高めることができる。
【0031】
一方、ラビリンス隙間Sの侵入経路長Lが長くなることで、第2シールド板30は径方向に長くなる。しかし、第2シールド板30は、内側円筒部31、内側円環部32、及び外側円筒部33により断面略U字形状に形成されるので、第2シールド板30が径方向に真っ直ぐ延びる場合と比較して、第2シールド板30の剛性を高めることができる。これにより、第2シールド板30を内輪12に組み付けるときに、第2シールド板30が径方向に対して傾くのを抑制することができる。その結果、第2シールド板30が他部品に接触しにくくなるので、転がり軸受10の回転トルクが増大するのを抑制することができる。
【0032】
第2シールド板30の外側円筒部33は、内側円環部32の径方向外端部から軸方向内方に向かうにしたがって、径方向外方に向かって傾斜している。このため、外側円筒部33が軸方向に真っ直ぐ延びる場合と比較した場合、第2シールド板30の内側円筒部31を内輪12の外周面に圧入するときに、外側円環部34の径方向外端部が軸方向外方に反るように変形するのを抑制できる。これにより、第2隙間S2が軸方向に広がるのを抑制できるので、ラビリンス隙間Sによる軸受内部への異物の侵入を抑制する効果をさらに高めることができる。
【0033】
[その他]
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。例えば、転がり軸受10は、深溝玉軸受以外にアンギュラ玉軸受や円筒ころ軸受等であってもよい。また、第2シールド板30の外側円筒部33は、軸方向に真っ直ぐ延びていてもよい。
【符号の説明】
【0034】
10 転がり軸受
11 外輪
12 内輪
13 転動体
15 環状空間
20 第1シールド板
23a 内周面(対向面)
30 第2シールド板
31 内側円筒部
32 内側円環部
33 外側円筒部
34 外側円環部
S ラビリンス隙間
S1 第1隙間
S2 第2隙間