(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163524
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】測量情報処理方法
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
G01C15/00 103A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079221
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】396025447
【氏名又は名称】株式会社建設システム
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 義彦
(72)【発明者】
【氏名】相場 陽介
(57)【要約】
【課題】より精度良く、建設現場の画像に、建設物の三次元モデルを重畳することを可能とする、測量情報処理方法を提供する。
【解決手段】上記の測量情報処理方法は、初期重畳画像を生成する初期画像生成工程と、初期重畳画像における、所定の初期基準点を決定し、その公共座標を計測する初期基準点計測工程と、初期基準点の公共座標に対応する点が、初期重畳画像において、初期基準点に重なるように、初期重畳画像における三次元モデルの位置および/または方向を補正する初期補正工程と、端末に表示され、建設現場の画像に、建設物の三次元モデルを重畳した重畳画像における、初期基準点とは異なる基準点を決定し、その公共座標を計測する基準点計測工程と、公共座標が計測された基準点に基づき、重畳画像における三次元モデルの位置および/または方向を補正する補正工程と、を有し、基準点計測工程及び補正工程を少なくとも一回以上実行する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可搬式の端末に表示された、建設物を建設するための建設現場の画像に、当該建設物の三次元モデルを重畳した初期重畳画像を生成する初期画像生成工程と、
前記初期画像生成工程において生成された前記初期重畳画像における、所定の初期基準点を決定し、当該初期基準点の公共座標を計測する初期基準点計測工程と、
前記三次元モデルにおける、前記初期基準点の前記公共座標に対応する点が、前記初期重畳画像において、前記初期基準点に重なるように、前記初期重畳画像における前記三次元モデルの位置および/または方向を補正する初期補正工程と、
前記端末に表示され、前記建設現場の画像に、前記建設物の前記三次元モデルを重畳した重畳画像における、前記初期基準点とは異なる基準点を決定し、当該基準点の前記公共座標を計測する基準点計測工程と、
前記基準点計測工程において前記公共座標が計測された前記基準点に基づき、前記重畳画像における前記三次元モデルの位置および/または方向を補正する補正工程と、
を有し、
前記基準点計測工程及び前記補正工程を少なくとも一回以上実行することを特徴とする、測量情報処理方法。
【請求項2】
前記初期基準点計測工程および/または前記基準点計測工程において計測される前記公共座標は、前記建設現場において測量プリズムを配置し、当該測量プリズムから離れた位置にある既知の前記公共座標に設置されたトータルステーションによって、当該測量プリズムの位置を測定することによって計測されることを特徴とする、請求項1に記載の測量情報処理方法。
【請求項3】
前記初期基準点計測工程における前記初期基準点及び前記基準点計測工程における前記基準点は、前記測量プリズムに固定されたマーカーを前記端末に搭載された撮像装置で撮像することによって決定されることを特徴とする、請求項2に記載の測量情報処理方法。
【請求項4】
前記初期補正工程においては、前記三次元モデルにおける、前記初期基準点の前記公共座標に対応する点が、前記初期重畳画像において、前記初期基準点に重なるように、前記三次元モデルの位置が補正され、
前記三次元モデルの位置の補正後の前記初期基準点を中心として、前記三次元モデルにおける前記トータルステーションが設置された点の前記公共座標に対応する点が、前記初期重畳画像において前記トータルステーションが設置された点に重なるように、前記三次元モデルを回転させることで、前記三次元モデルの方向を補正することを特徴とする、請求項2に記載の測量情報処理方法。
【請求項5】
前記測量プリズムには、計測時に前記トータルステーションの方向に向けるべき第1の指標が設けられ、
前記マーカーには、前記第1の指標と同じ方向を示す第2の指標が設けられ、
前記初期補正工程においては、前記三次元モデルにおける、前記初期基準点の前記公共座標に対応する点が、前記初期重畳画像において、前記初期基準点に重なるように、前記三次元モデルの位置が補正され、
前記測量プリズムにおける前記第1の指標を前記トータルステーションの方向に向けた際に、前記端末の前記撮像装置によって撮像される、前記第2の指標が示す方向に基づいて、前記三次元モデルの方向が補正されることを特徴とする、請求項3に記載の測量情報処理方法。
【請求項6】
前記初期補正工程においては、前記三次元モデルにおける、前記初期基準点の前記公共座標に対応する点が、前記初期重畳画像において、前記初期基準点に重なるように、前記
三次元モデルの位置が補正され、
前記測量プリズム及び前記測量プリズムに結合された持ち運び用ポールを、前記初期基準点において前記トータルステーションの方向に傾けた際に、前記端末の前記撮像装置によって撮像される、前記持ち運び用ポールの方向に基づいて、前記三次元モデルの方向を補正することを特徴とする、請求項3に記載の測量情報処理方法。
【請求項7】
前記補正工程においては、
前記基準点の公共座標と、前記基準点計測工程の一回前の前記基準点計測工程において決定された前記基準点の前記公共座標について、所定の重みづけを付与した演算に基づいて、前記三次元モデルの位置および/または方向を補正することを特徴とする、請求項1に記載の測量情報処理方法。
【請求項8】
前記補正工程においては、
前記基準点の公共座標と、前記初期基準点計測工程において決定された前記初期基準点および/または過去に実行された前記基準点計測工程において決定された前記基準点の前記公共座標について、所定の重みづけを付与した演算に基づいて、前記三次元モデルの位置および/または方向を補正することを特徴とする、請求項1に記載の測量情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測量によって取得した測量情報を処理する測量情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、情報処理装置の撮像部によって工事現場を撮像するステップと、工事現場内に配置された指標の位置を示す計測情報を取得するステップと、撮像された画像内における指標の位置と取得された計測情報が示す指標の位置とを対応付けるステップと、建設物の3次元データを変換し、撮像部によって撮像された画像に変換した建設物の3次元データを重畳した画像を生成するステップとを含む情報処理方法が公知である。当該情報処理方法によって、計測器の処理負荷を抑えつつ撮像画像に対する三次元モデルのデータの重畳精度をより容易に高めることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、現実空間を撮影するステップと、撮影されている現実空間と、当該撮影されている現実空間を3次元データで示した仮想空間と重ね合わせて表示するステップと、現実空間の3次元位置を計測する位置特定機器から測定点を取得するステップと、位置特定機器を撮影し、撮影された当該位置特定機器を、画像認識により検出し、検出した当該位置特定機器の仮想空間内の位置座標を取得し、取得した当該位置特定機器の仮想空間内の位置座標を、取得した現実空間の測定点の位置座標と対応付けて、所定の変換式で、3次元データの座標を現実空間の位置座標に変換するステップと、を備える測定処理方法も公知である。当該測定処理方法によって、特別な測量技術を必要とすることなく、測量対象となる3次元データを容易に生成するために、容易な操作で、3次元データで構成する仮想空間の位置座標を、現実空間の緯度・経度・高度情報に正確に置換することができる(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
近年では、上記の特許文献1、2に記載されているような技術を活用して、例えば道路等の建設現場を映して端末の画面等に表示し、その表示に、公共建設物の完成後の予想のデザインを示す三次元モデルを重畳することによって、完成後の公共建設物を可視化する例が公知である。しかしながら、このような例において実際には、建設現場の関係者の間で、三次元モデルを前記の表示に正確に重畳することが困難な場合がある。係る問題は、例えば、関係者が建設の各施工段階における三次元モデルを予想できず、無駄な作業が生じる、あるいは、関係者が建設に係る情報を十分に理解できず、施工に瑕疵が生じる等といった不都合に繋がり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6733127号公報
【特許文献2】特許第6928217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本件開示の技術は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、より精度良く、建設現場の画像に、建設物の三次元モデルを重畳することを可能とする、測量情報処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本開示は、
可搬式の端末に表示された、建設物を建設するための建設現場の画像に、当該建設物の
三次元モデルを重畳した初期重畳画像を生成する初期画像生成工程と、
前記初期画像生成工程において生成された前記初期重畳画像における、所定の初期基準点を決定し、当該初期基準点の公共座標を計測する初期基準点計測工程と、
前記三次元モデルにおける、前記初期基準点の前記公共座標に対応する点が、前記初期重畳画像において、前記初期基準点に重なるように、前記初期重畳画像における前記三次元モデルの位置および/または方向を補正する初期補正工程と、
前記端末に表示され、前記建設現場の画像に、前記建設物の前記三次元モデルを重畳した重畳画像における、前記初期基準点とは異なる基準点を決定し、当該基準点の前記公共座標を計測する基準点計測工程と、
前記基準点計測工程において前記公共座標が計測された前記基準点に基づき、前記重畳画像における前記三次元モデルの位置および/または方向を補正する補正工程と、
を有し、
前記基準点計測工程及び前記補正工程を少なくとも一回以上実行することを特徴とする、測量情報処理方法を含む。
【0008】
すなわち、上記の測量情報処理方法について、初期画像生成工程においては、建設現場の画像に建設物の三次元モデルを重畳することによって、初期重畳画像が生成される。ここで、現場の画像における座標は、端末に固有の座標として定まり、端末の画面内の全ての位置において座標が定まっている。対して、三次元モデルにおける座標は、設計段階において予め決定された公共座標である。通常、初期画像生成工程において、これらの座標には差異が生じるため、端末において、三次元モデルは、現場の画像から位置及び方向がずれた状態で重畳して表示される。そのため、初期基準点計測工程において、所定の初期基準点の公共座標を計測し、初期補正工程において、三次元モデルにおける、初期基準点の公共座標に対応する点を、初期重畳画像において、初期基準点に重ねることによって、三次元モデルの位置を補正する。このとき、三次元モデルにおいては方向(より詳細には東西南北の方向)が定まっているが、建設現場の画像においては方向が定まっていない(例えば当該画像においてどの方向が北であるか不明確である)ため、初期重畳画像における方向を三次元モデルにおける方向に合わせる補正も併せて行ってもよい。これによって、建設現場の画像に三次元モデルを重畳する精度が向上する。なお、建設には、建物を建てることを意味する建築に加え、土木作業も含まれる。
【0009】
しかしながら、上記の初期基準点と別の位置の建設現場の画像を取得した際、端末において、三次元モデルがその画像から位置及び方向がずれた状態で重畳して表示される虞がある。これは、初期重畳画面においては、あくまで初期基準点を基準に三次元モデルの位置や方向を補正したのであり、この初期基準点から離れた点に関して、誤差が生じる場合があるからである。この誤差を低減するために、基準点計測工程において、新たに基準点を決定してその公共座標を計測し、基準点計測工程において公共座標が計測された基準点に基づき、補正工程において、三次元モデルの位置および/または方向を補正する。その結果、建設現場の画像に三次元モデルを重畳する精度をさらに向上させることが可能である。そして、基準点計測工程及び補正工程を少なくとも一回以上実行することによって、建設現場の画像に三次元モデルを重畳する精度をさらに向上させることが可能である。
【0010】
三次元モデルは、建設現場に建設予定の建設物のデザインを予想したものであるため、建設現場の画像に三次元モデルを重畳する精度は、関係者の間で正確に建設物の情報を共有する上で非常に重要である。本開示における測量情報処理方法によって、より精度良く、建設現場の画像に、建設物の三次元モデルを重畳することが可能となり、より正確に建設物の情報を共有することが可能となる。
【0011】
また、本開示においては、前記初期基準点計測工程および/または前記基準点計測工程において計測される前記公共座標は、前記建設現場において測量プリズムを配置し、当該
測量プリズムから離れた位置にある既知の前記公共座標に設置されたトータルステーションによって、当該測量プリズムの位置を測定することによって計測されることとしてもよい。これによれば、精度良く、且つ、容易に公共座標を示す計測情報を取得することが可能である。
【0012】
また、本開示においては、前記初期基準点計測工程における前記初期基準点及び前記基準点計測工程における前記基準点は、前記測量プリズムに固定されたマーカーを前記端末に搭載された撮像装置で撮像することによって決定されることとしてもよい。これによれば、マーカーを撮像することによって取得可能な端末固有の座標について、公共座標を容易に計測することが可能である。なお、測量プリズムとマーカーの各々の設置場所にはオフセットが存在し得るが、マーカーを撮像して得られる初期基準点や基準点の端末における座標を、上記のオフセットがキャンセルされるように補正することで、測量プリズムとマーカーの各々の設置場所の違いにより計測の精度が低下することは抑制される。
【0013】
また、本開示においては、前記初期補正工程においては、前記三次元モデルにおける、前記初期基準点の前記公共座標に対応する点が、前記初期重畳画像において、前記初期基準点に重なるように、前記三次元モデルの位置が補正され、前記三次元モデルの位置の補正後の前記初期基準点を中心として、前記三次元モデルにおける前記トータルステーションが設置された点の前記公共座標に対応する点が、前記初期重畳画像において前記トータルステーションが設置された点に重なるように、前記三次元モデルを回転させることで、前記三次元モデルの方向を補正することとしてもよい。これによれば、三次元モデルの方向について、建設現場の画像における座標と公共座標とを、より容易且つ高精度に対応付けることが可能である。
【0014】
また、本開示においては、前記測量プリズムには、計測時に前記トータルステーションの方向に向けるべき第1の指標が設けられ、前記マーカーには、前記第1の指標と同じ方向を示す第2の指標が設けられ、前記初期補正工程においては、前記三次元モデルにおける、前記初期基準点の前記公共座標に対応する点が、前記初期重畳画像において、前記初期基準点に重なるように、前記三次元モデルの位置が補正され、前記測量プリズムにおける前記第1の指標を前記トータルステーションの方向に向けた際に、前記端末の前記撮像装置によって撮像される、前記第2の指標が示す方向に基づいて、前記三次元モデルの方向が補正されることとしてもよい。また、本開示においては、前記初期補正工程においては、前記三次元モデルにおける、前記初期基準点の前記公共座標に対応する点が、前記初期重畳画像において、前記初期基準点に重なるように、前記三次元モデルの位置が補正され、前記測量プリズム及び前記測量プリズムに結合された持ち運び用ポールを、前記初期基準点において前記トータルステーションの方向に傾けた際に、前記端末の前記撮像装置によって撮像される、前記持ち運び用ポールの方向に基づいて、前記三次元モデルの方向を補正することとしてもよい。すなわち、三次元モデルの方向を補正する方法は複数通りあり、いずれの方法によっても上記同様、三次元モデルの方向について、建設現場の画像における座標と公共座標とを高精度に対応付けることが可能である。
【0015】
また、本開示においては、前記補正工程においては、前記基準点の公共座標と、前記基準点計測工程の一回前の前記基準点計測工程において決定された前記基準点の前記公共座標について、所定の重みづけを付与した演算に基づいて、前記三次元モデルの位置および/または方向を補正することとしてもよい。また、本開示においては、前記補正工程においては、前記基準点の公共座標と、前記初期基準点計測工程において決定された前記初期基準点および/または過去に実行された前記基準点計測工程において決定された前記基準点の前記公共座標について、所定の重みづけを付与した演算に基づいて、前記三次元モデルの位置および/または方向を補正することとしてもよい。いずれの場合においても、建設現場の画像における座標と公共座標を精度良く重ね合わせ、三次元モデルを現場の画像
に重畳する精度をより向上させることが可能である。
【0016】
なお、上記の課題を解決するための手段は、可能な限り互いに組み合わせて用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本件開示の技術によれば、より精度良く、建設現場の画像に、建設物の三次元モデルを重畳することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、例えば、測量のためにトータルステーションを用いた場合について、実施例に係る測量情報処理方法に用いる測量情報処理装置のシステム構成の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施例に係る、トータルステーションを用いる場合であって、さらに計測用プリズムを用いる場合における基準点の公共座標の計測方法の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、実施例に係る測量情報処理方法の手順を説明するための第1の図である。
【
図4】
図4は、実施例に係る測量情報処理方法の手順を説明するための第2の図である。
【
図5】
図5は、実施例に係る測量情報処理方法の手順を説明するための第3の図である。
【
図6】
図6は、実施例に係る測量情報処理方法の手順を説明するための第4の図である。
【
図7】
図7は、実施例に係る測量情報処理方法の手順を説明するための第5の図である。
【
図8】
図8は、
図3乃至
図7において説明した測量情報処理方法の手順を簡易的に示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、変形例に係る測量情報処理方法において、三次元モデルの位置及び方向を補正する方法の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔実施例〕
以下、本開示の実施例に係る測量情報処理方法について、図面を用いて詳細に説明する。なお、本開示の実施例に係る測量情報処理方法は、以下の構成に限定する趣旨のものではない。
【0020】
<システム構成>
図1は、例えば、測量のためにトータルステーション2を用いた場合について、実施例に係る測量情報処理方法に用いる測量情報処理装置1のシステム構成の一例を示す模式図である。測量情報処理装置1は、例えばタブレット端末にアプリケーションをインストールすることで実現される。そして、例えば道路等の公共建設物が建設される予定の建設現場(以降、単に「現場」ともいう)において、公共建設物を建設するにあたって必要不可欠な所定の基準点(後述の
図2に図示)の公共座標を把握し、建設物の三次元モデル4(後述の
図3に図示)を建設現場の画像に重畳させて確認可能とする目的で用いられる。ここで、公共座標とは、国の管理する座標体系上の原点を基準とした絶対的な座標である。測量情報処理装置1は、建設に携わる関係者等のユーザによって操作される。測量情報処理装置1を実現するためのアプリケーションがインストールされる機器はタブレット端末に限られず、スマートフォンやPCであってもよい。
【0021】
本実施例に係る測量情報処理装置1は、カメラ11、取得部12、RAM(Random Access Memory)13、保存部14、トータルステーション2等の外部装置との通信によってデータの送受信を行う通信部15、ユーザの操作を受け付けるタッチパネル等の操作部16、作成部17、及び現場に係る情報をユーザが視認可能に表示するディスプレイ18等を備えて構成される。
【0022】
取得部12は、カメラ11から現場の撮像画像を取得し、また、撮像画像における基準点の位置座標を示す計測情報を通信部15から取得する。なお、基準点の位置座標の計測方法については、
図2を用いて後述する。保存部14は、SDカードのように可搬式の記憶媒体を含んでいてもよい。また、保存部14に保存した情報は、クラウド上に設けられた外部のデータベースに保存することもできる。
【0023】
作成部17は、現場の外観や、トータルステーション2を用いて計測された現場の公共座標に基づき、保存部14に保存されたCADデータから、公共建設物の完成後のモデルである三次元モデル4を作成する。取得部12は、カメラ11から取得した現場の撮像画像と共に、この三次元モデル4も取得することが可能である。ディスプレイ18は、現場の撮像画像に三次元モデル4の画像(以下、これも単に三次元モデル4ともいう。)を仮想的に重畳して表示することが可能である。また、ディスプレイ18においては、現場の撮像画像に合わせて補正した三次元モデル4が表示される。詳細は後述の
図3乃至
図7を用いて説明する。
【0024】
本実施例で用いられるトータルステーション2は、CPU21、RAM22、ROM(Read-Only Memory)23、記憶部24、通信部25、操作部26、ディスプレイ27、計測部28、及びカメラ29等がバスラインで接続されて構成されている。本実施例では、地球上の位置や海面からの高さが正確に測定された電子基準点、三角点、水準点等から構成され、地図作成や各種測量の基準となる既知点の情報が予め記憶部24に記憶されている。また、現場に建設予定の公共建設物に関する三次元モデル4のデータも予め記憶部24に記憶されていてもよい。
【0025】
<測量方法>
図2は、実施例に係る、トータルステーション2を用いる場合であって、さらに計測用プリズム3を用いる場合における基準点の公共座標の計測方法の一例を示す模式図である。計測用プリズム3は、光を反射させるためにガラス等の光学的平面を有するものが一般的であり、トータルステーション2から照射された照射光を、照射された方向に反射する機能を有する。また、
図2に示す基準点以外の基準点に計測用プリズム3を持ち運び、その基準点の公共座標を計測できるように、計測用プリズム3には持ち運び用ポール31が結合している。
【0026】
基準点の公共座標の計測にあたり、まずトータルステーション2を既知点(国の測量機関によって与えられた位置座標や標高が既知である点)に設置し、既知点から離れた位置にある基準点に計測用プリズム3を固定する。次にトータルステーション2の望遠鏡(図示略)の視準先の角度情報を特定するために角度の原点位置を決定する。具体的には、望遠鏡の視準先が真北を向いている状態またはユーザが望遠鏡で基準点を視準した状態を角度の原点位置に設定すればよい。そして、トータルステーション2のディスプレイ27に表示される角度を0に設定する。これによって、既知点の位置に対する基準点の位置の方角を計測することができる。また、ディスプレイ27に表示される高度角も0に設定する。これによって、既知点の位置と基準点の位置の高低差を計測することができる。
【0027】
次にトータルステーション2の受発光部(図示略)から計測用プリズム3の光学的平面に照射光(例えばレーザー光等)を発射する。照射光は光学的平面から反射し、受発光部
は反射光を受光する。この照射光を発射してから反射光を検出するまでの飛行時間(TOF:Time Of Flight)に基づき、既知点から基準点までの距離を計測することができる。以上の既知点の位置に対する基準点の位置の方角、既知点の位置と基準点の位置の高低差、及び既知点から基準点T1までの距離を計測することによって、基準点の公共座標を計測することが可能である。なお、
図2に示す計測方法を、以降、プリズム計測と記載する。
【0028】
また、計測用プリズム3を用いる際には、ユーザは、タブレット端末としての測量情報処理装置1を併せて用いるようにしてもよい。そして、測量情報処理装置1は、人工衛星(測位衛星)を利用した全世界測位システムを稼働する機能であるGNSS(Global Navigation Satellite System)機能を有し、GNSSによる測位によって測量情報処理装置1の位置を特定することが可能であってもよい。
【0029】
<測量情報処理方法の手順>
次に
図3乃至
図7を用いて、実施例に係る測量情報処理方法の手順を説明する。各々の図においては、測量情報処理装置1のディスプレイ18の表示内容を示す。
図3乃至
図7においては、道路及びその周辺の土地を現場として例示し、新規に道路を建設する場合について説明する。
【0030】
最初に、
図3に示す様に、現場の画像をディスプレイ18に表示し、作成部17は、完成後の道路を想定した三次元モデル4を現場の画像に重畳した初期重畳画像を作成する。ここで、現場の画像における座標は、測量情報処理装置1に固有の座標として定まり、ディスプレイ18内の全ての位置において座標が定まっている。以降、この座標を現場座標ともいう。対して、三次元モデル4における座標は、設計段階において予め決定された公共座標である。
【0031】
上記の通り、測量情報処理装置1はGNSS機能を有していてもよく、また、測量情報処理装置1自体の方向の転換を検知可能なジャイロセンサを有していてもよい。この場合、GNSS機能とジャイロセンサによって、現場座標と、三次元モデル4における公共座標は、簡易的に対応付けされているが、通常、現場座標と公共座標には差異が生じるため、ディスプレイ18において、三次元モデル4は、現場の画像から位置及び方向がずれた状態で重畳して表示される。なお、現場の画像としては、測量情報処理装置1のカメラ11の撮像画像を用いているが、撮像画像から変換された点群データを代わりに用いてもよい。以降の
図4乃至
図7においても同様である。点群データを用いることによって、現場座標を容易に取得することが可能である。
【0032】
次に、
図4に示す様に、現場の画像から位置及び方向がずれた状態で重畳して表示された三次元モデル4の位置を補正する準備を行う。
図4において、現場に計測用プリズム3を設置した場所を点Aとする。点Aに設置された計測用プリズム3には、簡易コード5が設置されている。簡易コード5は、四分割した正方形の一の対角における分割領域を黒、他の対角における分割領域を白または黄色とすることで、正方形の中心点をカメラ11で撮像することによって認識可能としたものである。なお、計測用プリズム3と簡易コード5の各々の設置場所にはオフセットが存在し得るが、簡易コード5を撮像して得られる基準点の現場の画像における座標は、オフセットがキャンセルされるように決定され、計測用プリズム3と簡易コード5の各々の設置場所の違いにより計測の精度が低下することは抑制されている。ここで、簡易コード5は、本開示におけるマーカーに相当する。
【0033】
三次元モデル4の位置を補正する方法について具体的に説明する。最初に、簡易コード5を、測量情報処理装置1を用いて認識することによって、点Aの現場座標を取得することが可能である。次に、プリズム計測によって計測用プリズム3の公共座標を計測する。
この結果に基づき、点Aの現場座標と公共座標とを取得することが可能である。一方、点Bを、三次元モデル4における、点Aの公共座標に対応する点として定義する。点Bは、三次元モデル4について設計段階において予め決定された公共座標から定義することが可能である。そして、点Bが点Aに重なるように、画像上で三次元モデル4を移動させる。これによって、少なくとも、点Aにおいて、現場の画像と三次元モデル4の位置を正確に合わせることが可能となる。ここで、この点Aは、本開示における初期基準点に相当する。また、点Bの移動は、変換行列を用いた演算に基づいて行われる。
【0034】
以上の様に点Aと点Bの座標を重ねることによって、
図5に示す様に、三次元モデル4の位置を補正することが可能である。しかしながら、一点を固定しただけでは、三次元モデル4の方向について現場座標と公共座標とを高精度に対応付けることが困難である。すなわち、この時点では、例えば現場座標におけるどの方向が北であるかを正確に特定することが困難である。従って、点Aを中心に三次元モデル4を回転させ、現場座標と公共座標の方向を一致させる必要がある。
【0035】
図5を用いて、三次元モデル4の方向を現場座標の方向に一致するように補正する方法について説明する。トータルステーション2の現場座標に対応する、三次元モデル4における公共座標は、例えば
図5に示す様にディスプレイ18において星マークで表示される。現場座標における方向を補正する際には、先に固定した一点(すなわち、点Bを点Aに重ね合わせた初期基準点)を中心にして、星マークが画像上のトータルステーション2に重なり合うように、三次元モデル4を回転移動させる。これによって、三次元モデル4の方向が補正され、三次元モデル4の方向について現場座標と公共座標とを高精度に対応付けることが容易となる。なお、トータルステーション2の現場座標に対応する公共座標を示すマークは、星マークに限られない。
【0036】
なお、三次元モデル4の方向を補正する方法は上記の限りでない。他の方法として、例えば、
図6を用いて後述するが、上記の初期基準点に加え、この基準点の位置から離れた場所の撮像画像を取得し、同様に新たに基準点を決定し、これら二点の基準点に基づき、三次元モデル4の方向を補正してもよい。また、計測用プリズム3の持ち運び用ポール31をトータルステーション2が設置された方向に向けて傾けることによって、基準点からトータルステーション2が配置された既知点に向かう方向を、現場座標において求め、三次元モデル4の方向を補正してもよい。いずれの方法によっても、三次元モデル4の方向について現場座標と公共座標とを高精度に対応付けることが容易となる。
【0037】
上記の手順によって、三次元モデル4の位置と方向は補正されているが、初期基準点と離れた別の場所においては、現場座標と三次元モデル4の公共座標の間に誤差が生じる虞がある。これに対し、初期基準点とは離れた別の基準点によって、現場座標と公共座標のずれを補正する方法が考えられる。
図6に示すディスプレイ18には、
図3乃至
図5に示すディスプレイ18に表示されている現場から離れた場所の撮像画像が表示されている。この現場から離れた場所(以下、別の場所ともいう)の撮像画像は、測量情報処理装置1を移動させた後に撮像することによって取得してもよく、または、測量情報処理装置1は移動させずにカメラ11の向きのみ変えて撮像することによって取得してもよい。トータルステーション2は、別の場所における計測用プリズム3を追尾することが可能であるため、別の場所における公共座標をプリズム計測によって計測することが可能である。そして、
図4を用いて説明した方法と同様にして、三次元モデル4における点を計測用プリズム3が設置された点に移動して重ねることによって、三次元モデル4の位置を補正する。このように、別の場所において三次元モデル4の位置を補正するために新たに決定した点Cは、本開示における基準点に相当する。
【0038】
また、
図6においては、点Cを新たに決定して以降、さらに別の点を基準点として決定
してもよい。また、点Cを最終的な基準点として決定してもよい。すなわち、別の場所において三次元モデル4の位置を補正するための、異なる基準点をさらに決定し、三次元モデル4における、当該異なる基準点に対応する点が、当該異なる基準点に重なるように、三次元モデル4の位置を補正する手順は、少なくとも一回以上であれば何回実行してもよい。係る手順を異なる基準点について繰り返すことによって、例えば
図7に示す様に、三次元モデル4を現場の画像に重畳する精度を向上させることが可能である。これによって、完成後の公共建設物を予想しやすくなる。
【0039】
また、初期基準点から離れた場所において、三次元モデル4の公共座標を、その公共座標に対応する現場座標に移動させる際には、複数の基準点の公共座標について所定の重みづけを付与した上で、三次元モデル4の位置や方向の補正量を演算してもよいこの場合、例えば、最新の基準点と、最新の基準点の一回前に決定された基準点の2点を用いて、三次元モデル4の公共座標における、これら2点に対応する点を、現場座標における各々の点に重なるように移動させてもよい。この場合は、最新の基準点と、一回前に決定された基準点に、重みづけ1が付与され、過去に決定されたその他の基準点には重みづけ0が付与されたこととなる。
【0040】
他に、最新の基準点と、初期基準点を用いて、三次元モデル4の公共座標における、当該2点に対応する点を、現場座標における各々の点に重なるように移動させてもよい。この場合は、最新の基準点と、初期基準点に、重みづけ1が付与され、過去に決定されたその他の基準点には重みづけ0が付与されたこととなる。また、最新の基準点より前に決定された基準点に対して、より少ない重みづけをした上で、複数の基準点に基づいて、三次元モデル4の位置や方向の補正量を演算しても構わない。この場合は、例えば、最新の基準点に重みづけ1を付与し、過去に決定された基準点に対して、順番に0.8、0.6、0.4というように比率が下がっていくように重みづけを付与してもよい。これらによって、現場座標と公共座標を精度良く重ね、三次元モデル4を現場の画像に重畳する精度をより向上させることが可能である。なお、上記で定義した重みづけは、例えば、三次元モデル4を移動させる際の行列計算の各成分の係数として、演算に反映されてもよい。
【0041】
<フローチャート>
図8には、
図3乃至
図7において説明した測量情報処理方法の手順を、フローチャートを用いて簡易的に示す。本フローチャートでは、まずステップS10において、現場にトータルステーション2、及び計測用プリズム3を設置し、現場において公共座標を計測する準備を行う。次にステップS11において、測量情報処理装置1のカメラ11で現場を撮像し、撮像画像をディスプレイ18に表示する。なお、上記の通り、撮像画像の代わりに、撮像画像から変換された点群データを用いてもよい。次にステップS12において、作成部17が作成した、または、他の装置から取得した三次元モデル4を、現場の撮像画像に重畳して初期重畳画像を生成する。ここで、ステップS12は、本開示における初期画像生成工程に相当する。
【0042】
次にステップS13において、簡易コード5を認識することによって、且つ、プリズム計測によって、最初の基準点(初期基準点)の現場座標に加えて、公共座標を計測する。ここで、ステップS13は、本開示における初期基準点計測工程に相当する。次にステップS14において、三次元モデル4の公共座標における点を、最初の基準点に重ねることによって、三次元モデル4の位置を補正する。これによって、補正の基準となる一点が定まる。次にステップS15において、この一点を中心として、トータルステーション2の位置に対応する、三次元モデル4における公共座標が、画像上のトータルステーション2に重なり合うように、三次元モデル4を回転移動させることによって、三次元モデル4の方向を補正する。これによって、三次元モデル4の方向について現場座標と公共座標とを高精度に対応付けることが容易となる。ここで、ステップS14及びS15は、本開示に
おける初期補正工程に相当する。
【0043】
なお、ステップS15においては、上記の通り、他の方法によって三次元モデル4の方向を補正してもよく、例えば、計測用プリズム3の持ち運び用ポール31をトータルステーション2が設置された方向に傾け、カメラ11で撮像することによって、三次元モデル4の方向を補正してもよい。
【0044】
次に別の場所をカメラ11で撮像し、ステップS16において、ステップS13における方法と同様にして基準点を決定し、その公共座標を再度計測する。ここで、ステップS16は、本開示における基準点計測工程に相当する。次にステップS17において、ステップS14における方法と同様にして三次元モデル4の位置を再度補正する。これによって、現場座標と三次元モデル4の公共座標の間の誤差をさらに低減することが可能である。ここで、ステップS17は、本開示における補正工程に相当する。
【0045】
なお、上記の通り、別の場所をカメラ11で撮像し、基準点を決定してその公共座標を計測し、三次元モデル4の位置や方向を補正する手順を少なくとも一回以上実行してもよい。すなわち、ステップS18において、三次元モデル4の位置や方向の補正がこれ以上必要であるか否かに基づいて、計測を終了するか否かを判断し、計測を終了しないと判断した場合には(ステップS18:no)、再度ステップS16の手順に戻り、ステップS16及びS17の手順を少なくとも一回以上繰り返してもよい。計測を終了すると判断した場合には(ステップS19:yes)、測量情報処理方法の手順を終了する。また、ステップS17において、上記の通り、三次元モデル4の位置を再度補正する、すなわち三次元モデル4の公共座標における点を、その公共座標に対応する基準点に移動する際には、複数の基準点の公共座標について所定の重みづけを付与した演算を行ってもよい。
【0046】
〔変形例〕
次に
図9を用いて、
図8のステップS15及びS18における、三次元モデル4の方向を補正する方法について、実施例に示した方法以外の方法について説明する。なお、実施例において説明した構成と同じものについては同一の符号を付し、改めての説明は省略する。
【0047】
実施例における
図4や
図6と比較して、本変形例においては、計測用プリズム3には、プリズム計測時にトータルステーション2の方向に向けるべき第1の指標61が設置されている。また、本変形例においては、実施例に示す簡易コード5の代わりに、コード51が計測用プリズム3から一定の間隔を空けて設置されている。簡易コード5との相違点として、コード51は、現場座標を管理することが可能であることに加えて、プリズム計測時に第1の指標61と同じ方向を示す第2の指標62が設けられている。コード51は、簡易コード5と同様、分割領域を有し、第2の指標62は、分割領域の一部である。第1の指標61をトータルステーション2の方向に向けた際には、第2の指標62もトータルステーション2の方向に向いており、この状態をカメラ11で撮像する。そして、撮像画像における第2の指標62の方向に基づき、三次元モデル4の方向を補正することが可能である。なお、本変形例における、三次元モデル4の方向を補正する方法を、実施例の測量情報処理方法に適用してもよい。
【0048】
なお、上記の実施例において、初期基準点、及び基準点の公共座標を測定する際には、計測用プリズム3とトータルステーション2を用いたプリズム計測を実施した。しかしながら、本開示における基準点の公共座標の測定方法はこれに限られない。例えば、高精度GNSS機能を有する計測ポールによって、初期基準点及び、基準点の公共座標を計測しても構わない。あるいは、測量情報処理装置1のGNSS機能を用いて計測しても構わない。
【符号の説明】
【0049】
1・・・・・測量情報処理装置(タブレット端末)
11・・・・カメラ
12・・・・取得部
13・・・・RAM
14・・・・保存部
15・・・・通信部
16・・・・操作部
17・・・・作成部
18・・・・ディスプレイ
2・・・・・トータルステーション
21・・・・CPU
22・・・・RAM
23・・・・ROM
24・・・・記憶部
25・・・・通信部
26・・・・操作部
27・・・・ディスプレイ
28・・・・計測部
29・・・・カメラ
3・・・・・計測用プリズム
31・・・・持ち運び用ポール
4・・・・・三次元モデル
5・・・・・簡易コード
51・・・・コード
61・・・・第1の指標
62・・・・第2の指標