(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163527
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】検査支援方法及び検査支援装置
(51)【国際特許分類】
G01N 29/44 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
G01N29/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079232
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】北岡 雅則
(72)【発明者】
【氏名】溝田 裕久
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047BA03
2G047BC07
2G047BC10
2G047EA13
2G047GG37
2G047GJ28
(57)【要約】
【課題】検査時期の最適化を課題とする。
【解決手段】検査支援装置が、きずの検出確率を算出するステップ(S2)と、データ入力部を介して入力されている検査ばらつきと、きずサイズ確率分布の初期分布と、を用いて、時間経過に伴うきずサイズ確率分布を算出するステップ(S3)と、時間経過に伴うきずサイズ確率分布と、破壊確率とが重複している領域の面積が、予め設定されている許容リスクを超えている場合、検査時期を決定するステップ(S4)と、決定された検査時期を出力するステップ(S7)と、を実行することを特徴とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査支援装置が、
きずの検出確率を算出する第1工程と、
入力部を介して入力されている検査ばらつきと、きずサイズ確率分布の初期分布と、を用いて、時間経過に伴うきずサイズ確率分布を算出する第2工程と、
前記時間経過に伴うきずサイズ確率分布と、破壊確率とが重複している領域の面積が、予め設定されている許容リスクを超えている場合、検査時期を決定する第3工程と、
決定された前記検査時期を出力する第4工程と、
を実行することを特徴とする検査支援方法。
【請求項2】
前記第1工程で算出されたきずの検出確率と、前記第2工程で算出された、前記時間経過に伴うきずサイズ確率分布と、を用いて、ベイズ推定により、検査後のきずサイズ確率分布を推定する第5工程と、
を含み、
前記検査支援装置は、
前記第5工程で算出された検査後のきずサイズ確率分布を、前記第2工程で用いられる、前記時間経過に伴うきずサイズ確率分布の初期分布とすることで、検査時期を逐次決定する
ことを特徴とする請求項1に記載の検査支援方法。
【請求項3】
第5工程で行われるベイズ推定は、以下の式(1)として計算される
ことを特徴とする請求項1に記載の検査支援方法。
p(a|検査後)=A(1-POD(a))p(a|検査前)・・・(1)
ただし、式(1)において、POD(a)はきずサイズが「a」である場合のきずの検出確率であり、p(a|検査前)は、検査直前における前記時間経過に伴うきずサイズ確率分布であり、Aは全確率が1となるように設定する正規化定数である。
【請求項4】
前記第2工程において、きずサイズ確率分布の時間変化はパリス則に従うき裂様欠陥に関する前記きずサイズ確率分布の時間変化である
ことを特徴とする請求項1に記載の検査支援方法。
【請求項5】
請求項1に記載の検査支援方法であって、
前記検査支援装置は、
前記第3工程で、所定回数、検査が行われても、検査時検出確率が所定の確率である上限検出確率に達しない場合、前記きずサイズ確率分布の初期分布を変更する第6工程を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の検査支援方法。
【請求項6】
きずサイズ確率分布は、所定の形状パラメータ、及び、尺度パラメータを有するワイブル分布であり、
前記検査支援装置は、
前記第6工程において、前記尺度パラメータを変更することで、前記きずサイズ確率分布の初期分布を更新し、前記第2工程以降の処理を再度行う
ことを特徴とする請求項5に記載の検査支援方法。
【請求項7】
前記検査時検出確率は、以下の式(2)に従う
ことを特徴とする請求項5に記載の検査支援方法。
【数1】
ただし、式(2)において、POD(a)は、前記第1工程で算出される前記きずの検出確率であり、p(a|検査前)は、検査前における前記時間経過に伴うきずサイズ確率分布である。
【請求項8】
前記検査支援装置は、
前記第2工程において、きずサイズを連続型確率変数としたきず進展式であるフォッカー・プランク方程式を解くことで、前記時間経過に伴うきずサイズ確率分布を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の検査支援方法。
【請求項9】
前記第3工程で
きずサイズ、及び、きず進展速度をランダムサンプリングすることで、前記時間経過に伴うきずサイズ確率分布が算出される
ことを特徴とする請求項1に記載の検査支援方法。
【請求項10】
きずの検出確率を算出する検出確率算出部と、
入力部を介して入力されている検査ばらつきと、きずサイズ確率分布の初期分布と、を用いて、時間経過に伴うきずサイズ確率分布を算出する進展解析部と、
前記時間経過に伴うきずサイズ確率分布と、破壊確率とが重複している領域の面積が、予め設定されている許容リスクを超えている場合、検査時期を決定する検査時期決定部と、
決定された前記検査時期を出力する出力処理部と、
を有することを特徴とする検査支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査支援方法及び検査支援装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラント、鉄道台車等に代表される社会インフラ機器を維持管理していくため、非破壊検査技術の高度化による高効率化が求められている。これらの社会インフラ機器では、定められた間隔で実施される定期的な検査によって健全性が保証されている。一般に、非破壊検査は各機器のリスクを最大限考慮した間隔で実施することが定められている。しかしながら、発電プラント等で、きずが検出されることは稀であり、過剰な検査は経済性の悪化を招くことになる。そのため、検査時期を合理的な指標で決定することが求められている。
【0003】
このような課題に対し、例えば、特許文献1には、「き裂進展解析が繰り返し実行される繰り返し回数に関する情報を受け入れるとともに、き裂進展解析の評価期間内における非破壊検査の検査期間の間隔、非破壊検査費用、補修費用、事故対応費用およびき裂検出確率算出式に関する情報を受け入れる入力部と、中性子照射を受ける構造物に生じるき裂の先端近傍の応力を算出する応力算出部と、この応力算出部で算出された応力と前記構造物に生じるき裂およびき裂進展速度に関するき裂進展情報とに基づいて、応力拡大係数を算出する応力拡大係数算出部と、前記構造物のポアソン比および縦弾性係数を含む構造物情報と前記構造物の中性子照射量を含む情報とに基づいて、破壊靱性値を算出する破壊靱性値導出部と、前記き裂進展情報と前記き裂進展解析の評価期間および評価期間における時間増分に関する時間情報とに基づいて、き裂進展量を算出するき裂進展量算出部と、前記応力拡大係数算出部で算出された応力拡大係数と前記破壊靱性値導出部で算出された破壊靱性値とを比較して破壊の有無を判定する破壊判定部と、前記時間情報と前記き裂進展解析の繰り返し回数による時間増分の総和が評価期間に達したかを判定する評価期間判定部と、前記時間増分の総和が前記検査期間の間隔に対応する時間に達したときに、き裂が検出されるかを判定するき裂検出判定部と、前記非破壊検査までの期間および最後の非破壊検査終了から評価期間終了までの期間に前記き裂検出判定部で判定されたき裂の有無の回数が、前記き裂進展解析の繰り返し回数に達したかを判定する繰り返し判定部と、 前記破壊判定部で破壊と判定された回数と前記き裂進展解析の繰り返し回数との比から前記構造物の破壊確率を算出する破壊確率算出部と、前記き裂検出判定部で検出されたき裂の比率に応じて補修費用と非破壊検査の回数および検査範囲に応じて検査費用と破壊確率に応じて事故対応費用を算出する費用算出部と、を備えることを特徴とする」破壊評価解析装置、破壊評価解析システム及び破壊評価解析方法が記載されている(請求項1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、確率論的破壊解析によって、非破壊検査によるきず検出確率と検査間隔を入力とした事故対応費用が算出される。しかし、特許文献1に記載技術は、経済合理性を考慮した検査間隔の評価を可能にしているものの、検査間隔はユーザが入力するものであって、システムが決定するものではない。
【0006】
一般に、検査間隔を決定するためには、きずの初期分布を用いた進展予測から、重大なリスクになりうる時期を予測することが必要となる。しかし、きずが検出されることが稀なために、きずの検出情報を活用してリスクを算出することは困難である。
【0007】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、検査間隔の最適化を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した課題を解決するため、本発明は、検査支援装置が、きずの検出確率を算出する第1工程と、入力部を介して入力されている検査ばらつきと、きずサイズ確率分布の初期分布と、を用いて、時間経過に伴うきずサイズ確率分布を算出する第2工程と、前記時間経過に伴うきずサイズ確率分布と、破壊確率とが重複している領域の面積が、予め設定されている許容リスクを超えている場合、検査時期を決定する第3工程と、決定された前記検査時期を出力する第4工程と、を実行することを特徴とする。
その他の解決手段は実施形態中において適宜記載する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、検査間隔を最適化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る検査支援装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る検査支援装置のハードウェア構成図である。
【
図3】第1実施形態に係る検査支援方法の手順を示したフローチャートである。
【
図4】第1実施形態におけるきずの検出確率を算出するモデルの一例を示す概念図である。
【
図5】本実施形態に係るきずの検出確率を示す概念図である。
【
図6】第1実施形態における時間経過に伴うきずサイズ確率分布の算出及び検査間隔決定の詳細を示したフローチャートである。
【
図7】第1実施形態に係る時間経過に伴うきずサイズ確率分布を示す概念図である。
【
図8A】第1実施形態に係る検査後のきずサイズ確率分布のベイズ推定の一例を示す概念図(その1)である。
【
図8B】第1実施形態に係る検査後のきずサイズ確率分布のベイズ推定の一例を示す概念図(その2)である。
【
図10】第2実施形態に係る時間経過に伴うきずサイズ確率分布を示す概念図である。
【
図11】第2実施形態に係る検査支援方法の手順を示したフローチャートである。
【
図12】第2実施形態における時間経過に伴うきずサイズ確率分布の算出及び検査間隔決定の詳細を示したフローチャートである。
【
図13】第3実施形態に係るステップS3の詳細な計算手順を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための形態(「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【0012】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る検査支援方法を
図3~
図9を用いて説明する。
【0013】
<検査支援装置1>
図1は、第1実施形態に係る検査支援装置1の構成例を示す機能ブロック図である。
図1では、データ入力部101~ベイズ推定部105が行う処理の概要を示す。データ入力部101~ベイズ推定部105が行う処理の詳細については後記する。
入力部であるデータ入力部101は、検査ばらつき、材料ばらつき、初期きずサイズ確率分布、許容リスクの入力を受け付けるインターフェースで構成される。入力された検査ばらつき、材料ばらつきは検出確率算出部102に送られる。
検出確率算出部102は、非破壊検査によるきずの検出確率(
図5の曲線301)及びきずの非検出確率(
図5の曲線302)を計算する。以下、きずの検出確率を、検出確率と適宜称し、きずの非検出確率を、適宜、非検出確率と称する。検出確率算出部102は、検出確率のみを計算してもよい。検出確率算出部102で算出された非破壊検査の検出確率(
図5の曲線301)は、ベイズ推定部105に送られる。検出確率とは、検査によってきずが検出される確率であり、非検出確率とは、検査によってきずが検出されない確率である。
【0014】
また、データ入力部101に入力された材料ばらつき、初期きずサイズ確率分布は、進展解析部103に送られる。そして、進展解析部103は、時間経過に伴うきずサイズ確率分布(
図7の曲線312)を算出する。進展解析部103で計算された時間経過に伴うきずサイズ確率分布(
図7の曲線312)は検査間隔決定部104に送られる。きずサイズ確率分布とは、生じるきずのサイズに関する確率の分布である。
【0015】
検査時期決定部、出力処理部及び更新部である検査間隔決定部104は、検査時期である検査間隔を決定する。検査間隔とは、ある検査が行われてから、次の検査が行われるまでの間隔である。なお、行われる検査が検査開始から最初の検査の場合、検査開始から、最初の検査が行われるまでの間隔である。この際、検査間隔決定部104は、きず203の検出確率(
図5の曲線301)と、時間経過に伴うきずサイズ確率分布(
図7の曲線312)を基に推定破壊確率(
図7の領域304)を算出する。そして、検査間隔決定部104は、推定破壊確率(
図7の領域304)と、データ入力部101で入力された許容リスクを比較して検査間隔を決定する。推定破壊確率とは、きずがもとで、現在、検査の対象となっている物体が破壊する確率である。
【0016】
ベイズ推定部105は、非検出確率(
図5の曲線302)と、時間経過に伴うきずサイズ確率分布(
図7の曲線312)を基に、検査後のきずサイズ確率分布(
図8Bの曲線321)をベイズ推定する。検査後のきずサイズ確率分布(曲線321)は、進展解析部103に送られる。
【0017】
そして、上記の処理が繰り返し実行され、各検査間隔の合計が検査対象物202(
図4参照)の運用期間を超えるまで繰り返し検査間隔が決定される。運用期間とは、例えば、検査対象物202から検査対象物202の保証が完了するまでの期間である。
【0018】
<ハードウェア構成図>
図2は、第1実施形態に係る検査支援装置100のハードウェア構成図である。
検査支援装置100は、RAM等で構成されるメモリ111、CPUや、GPU等で構成される演算装置112を有している。また、検査支援装置100は、HDや、SSD等で構成される記憶装置113を有している。さらに、検査支援装置100は、キーボードや、マウス等の入力装置114、ディスプレイ等の出力装置115を有している。
【0019】
そして、記憶装置113に格納されているプログラムがメモリ111にロードされ、ロードされたプログラムが演算装置112によって実行される。これによって、
図1に示す検出確率算出部102~ベイズ推定部105が具現化する。ちなみに、
図1のデータ入力部101は
図2の入力装置114に相当する。
【0020】
<フローチャート>
図3は、第1実施形態に係る検査支援方法の手順を示したフローチャートである。
図1を参照しつつ、
図3を参照して、本実施形態における検査支援方法を説明する。
図3に示すように、まず、ユーザはデータ入力部101を介して検査ばらつき、初期きずサイズ確率分布、許容リスクを入力する(S1)。これらのデータは、メモリ111(
図2参照)あるいはハードディスク上に保存され、以降のステップで使用される。検査ばらつき、初期きずサイズ確率分布の詳細は後記する。
【0021】
続いて、検出確率算出部102は、対象とするきず203の検出確率を算出する(S2:第1工程)。
【0022】
図4~
図5を参照してステップS2について説明する。
図4は第1実施形態におけるきずの検出確率を算出するモデルの一例を示す概念図である。
図4では、きず検査の具体例としてき裂様欠陥に対する超音波探傷の場合を示している。他の非破壊検査方法、例えば、渦電流探傷、放射線透過試験等でも同様の手法でモデル化できる。
【0023】
図4に示す例では、超音波探触子201が、検査対象物202の上に設置され、きず203に向かって、超音波204が送信されている。超音波204はきず203によって反射され、反射された超音波204が超音波探触子201によって受信される。このとき、きず203が検出されるか否かは、きず203のサイズと検査ばらつきによる。検査ばらつきは、
図4で示す例のように、超音波探触子201の設置位置のばらつき205、超音波送信方向のばらつき206等である。また、検査ばらつきはとして、検査対象物202の内部における音速といった材料定数のばらつきが挙げられる。
【0024】
図5は、本実施形態に係るきずの検出確率を示す概念図である。
図5に示すグラフでは横軸がきず203のサイズを示し、縦軸が確率を示している。検出確率は、きずサイズ「a」に対して、曲線301に示す曲線となる。検出確率は、「POD(a)」と表される。なお、PODはProbability of Detectionの略である。また、非検出確率は曲線302に示すような曲線となり、「1-POD(a)」と表される。
【0025】
検出確率の曲線301は、非破壊検査の物理シミュレーションや、実験結果を用いて求めることができる。例えば、
図4に例示する物理シミュレーションでは、検出確率算出部102は、きず203のサイズと、検査ばらつきの各項目について、それぞれ一つの値をランダムサンプリングする。そいて、検出確率算出部102は、その条件下で物理シミュレーションが実施される。検査ばらつきは、
図4に示す超音波探触子201の設置位置のばらつき205や、超音波送信方向のばらつき206、検査対象物202の音速といった材料定数のばらつき等である。検出確率算出部102は、ランダムサンプリングとシミュレーションを複数回実施し、算出された検出信号強度から検出確率を計算する。超音波204の検出強度から検出確率の曲線301を推定する手法として、Hit/Miss法等の最尤推定法が知られている。
【0026】
図3の説明に戻る。
ステップS2の後、進展解析部103が、時間経過に伴うきずサイズ確率分布を算出する(S3:第2工程)。具体的には、ステップS3において、進展解析部103は、検査ばらつきと、きずサイズ確率分布の初期分布(初期きずサイズ確率分布)と、を用いて、時間経過に伴うきずサイズ確率分布を算出する。ステップS3では、きず203として疲労き裂を例に説明する。一般に、安定き裂成長段階(疲労き裂進展のIib段階)では、き裂は繰り返し応力に対して、パリス則と呼ばれる式(1)に示す法則に従って進展成長することが知られている。
【0027】
da/dt=C(ΔK)m/τ ・・・(1)
【0028】
式(1)において、aはき裂サイズ、tは経過時間、τは応力の繰り返し間隔、C,mは材料定数、ΔKは応力拡大係数範囲である。ΔKは有限要素法(FEM:Finite Element Method)等の計算手法で求められる。このように、本実施形態では、きずサイズ確率分布の時間変化はパリス則に従うき裂様欠陥に関するきずサイズ確率分布の時間変化であるものとする。このようにすることで、きず203として一般的なき裂に対して、本実施形態の検査支援方法を適用することができる。
【0029】
ステップS3の後、検査間隔決定部104は、検査間隔を決定する(S4:第3工程)。
図7における曲線312(時間経過に伴うきずサイズ確率分布)と曲線305(破壊確率)とで囲まれた領域304の面積がt時間経過後の検査対象物202の推定破壊確率を表す。破壊確率とは、どのくらいのきずのサイズであれば、どのくらいの確率で検査対象物202(
図4参照)が破壊するかを示すものである。tは、前回検査からの経過時間を示す。検査間隔決定部104は、tを所定間隔で更新することで、曲線312で示される時間経過に伴うきずサイズ確率分布を更新する。そして、検査間隔決定部104は、曲線312で示されるきずサイズ確率分布が更新されるたびに、
図7の領域304で示される推定破壊確率を算出する。破壊確率とは、きずのサイズに対して、検査対象物202が破壊される確率である。なお、領域304で示される推定破壊確率は、時間経過に伴うきずサイズ確率分布と、破壊確率とが重複している領域の面積である。なお、
図7の詳細については後記する。
【0030】
(ステップS3,S4の詳細)
図6は、
図3のステップS3(時間経過に伴うきずサイズ確率分布の算出)及びステップS4(検査間隔の決定)の詳細を示したフローチャートである。
まず、評価パラメータとして、ユーザが計算時間Tmaxを入力する(S301)。
続いて、進展解析部103は、以下に示すフォッカー・プランク方程式を解き、計算時間(t)時間経過後のきずサイズ確率分布「p(a,t)」を算出する。
【0031】
進展解析部103は、t>Tmaxとなるまで本処理を繰り返す。これにより、進展解析部103は、フォッカー・プランク方程式を解き、Tmax時間後までのきずサイズ確率分布を算出する(S302)。本実施形態において、式(1)に示すパリス則のCあるいはΔKは、材料定数のばらつきあるいは繰り返し応力のばらつきを反映した超音波204の雑音成分を含む。この事実を考慮し、超音波204の雑音に関するマルコフ性を仮定して、パリス則に対応した確率微分方程式であるフォッカー・プランク方程式が得られる(式(2))。
【0032】
da=μ(a,t)dt+σ(a,t)dWt ・・・(2)
【0033】
が得られる。式(2)でμ(a,t)はパリス則(式(1))右辺の平均値、σ(a,t)はパリス則右辺の標準偏差、Wtは標準ウィーナー過程である。フォッカー・プランク方程式は伊藤積分が用いられた場合、次の式(3)のように表される。
【0034】
【0035】
また、ストラトノビッチ積分が用いられた場合、フォッカー・プランク方程式は、次の式(4)のように表される。
【0036】
【0037】
本実施形態では、いずれの積分法が用いられてもよい。
【0038】
そして、進展解析部103は、フォッカー・プランク方程式の解を、t(計算時間)時間後でのきずサイズ確率分布を出力する(S303)。
【0039】
このように、進展解析部103は、ステップS3において、きずサイズを連続型確率変数としたきず進展式であるフォッカー・プランク方程式を解くことで、時間経過に伴うきずサイズ確率分布を算出する。このようにすることで、きず伸展を解析的に解くことができる。
【0040】
次に、検査間隔決定部104は、推定破壊確率が許容リスクより大きいか否かを判定する(S401)。推定破壊確率については後記する。
推定破壊確率が許容リスク以下である場合(S401→No)、検査間隔決定部104は、計算時間(t)がTmaxより大きいか否かを判定する(S402)。
【0041】
計算時間(t)がTmax以下の場合(S402→No)、検査支援装置100は計算時間(t)を更新して、ステップS302へ処理を戻す。
計算時間(t)がTmaxより大きい場合(S402→Yes)、検査間隔決定部104は、エラーを出力し(S403)、処理を中止する。
【0042】
一方、推定破壊確率が許容リスクより大きい場合(S401→Yes)、検査間隔決定部104は、検査間隔を決定する(S404)。計算時間(t)は、
図6の処理が開始された際に、「0」に設定されている。そして、ステップS402で「No」と判定されるたびに計算時間(t)は更新される。更新幅は、検査対象物202によって変わるが、例えば、1日単位である。ステップS404において、検査間隔決定部104は、ステップS404が実行された際の計算時間(t)の値より、1減算した計算時間(t-1=T)を検査間隔として決定する。その後、検査支援装置100は
図3のステップS5へ処理を進める。
【0043】
図6の処理において、ステップS301~S303は、
図3のステップS3の処理であり、ステップS401~S404は、
図3のステップS4の処理である。
【0044】
次に、
図7を参照して、
図6の処理を説明する。
図7は、第1実施形態に係る時間経過に伴うきずサイズ確率分布を示す概念図である。
図7に示すグラフでは横軸がきずサイズを、縦軸が確率を表している。曲線311は、初期きずサイズ確率分布である。ステップS3の実行が初回である場合、曲線311で示される事前確率分布は、ステップS1で入力される初期きずサイズ確率分布である。ステップS3の実行が2回目以降の場合、曲線311で示される事前確率分布は、後記するステップS5でベイズ推定された検査後のきずサイズ確率分布である。曲線312は、
図6のステップS404の検査間隔である計算時間「T=t-1」(≦Tmax)時間経過後のきずサイズ確率分布である。ちなみに、曲線312は、曲線311で示される初期きずサイズ確率分布を初期値として、前記したフォッカー・プランク方程式を時間積分した結果、得られる曲線である。つまり、曲線312は、
図6のステップS302で出力されるきずサイズ確率分布である。そして、曲線305はきずサイズ「a」に対する検査対象物202の破壊確率である。曲線305で示される破壊確率は、きず203のサイズに対して、検査対象物202で破壊が生じる確率である。曲線303はFEM等の計算手法で求められる。なお、領域304については後記する。ちなみに、破壊確率(曲線305)は、
図5に示す検出確率(曲線301)とは別のものである。
【0045】
そして、検査間隔決定部104は、ステップS1で入力した許容リスクと、計算時間「T」時間経過後の推定破壊確率を比較する(
図6のステップS401)。この比較は、曲線312で示されるきずサイズ確率分布が更新されるたびに行われる。そして、検査間隔決定部104は、許容リスクと推定破壊確率が等しくなる計算時間、あるいは破壊確率が許容リスクを超えない最大の計算時間が第n回目の検査と、第n-1回目の検査との検査検査間隔とする(
図6のステップS404)。nは、ステップS3の処理回数である。
【0046】
つまり、領域304で示される推定破壊確率が、ステップS1で入力され、設定されている許容リスクを超えている場合、その1つ前の計算時間「T」を、検査間隔(つまり、次の検査が行われる時期)として出力する。
【0047】
図3の説明に戻る。
続いて、ベイズ推定部105は、検査後のきずサイズ確率分布をベイズ推定する(S5:第5工程)。
【0048】
図8A及び
図8Bは第1実施形態に係る検査後のきずサイズ確率分布のベイズ推定の一例を示す概念図である。検査前のきずサイズ確率分布はp(a|検査前)=p(a,T)である。なお、検査前のきずサイズ確率分布は、前記した計算時間「T=t-1」における、時間経過に伴うきずサイズ確率分布(曲線312)である。
【0049】
図8Bに示すように、検査で、きず203が非検出だった場合の検査後のきずサイズ確率分布(曲線321)は、ベイズの定理によって以下の式(5)で表される。式(5)では、
図8Aに示す、きず203の非検出確率(曲線302)と検査前のきずサイズ確率分布(曲線312)を基に、検査後のきずサイズ確率分布(曲線321)が算出されている。きず203の非検出確率(曲線302)は、
図3のステップS1で算出されるものである。
【0050】
p(a|検査後)=A(1-POD(a))p(a|検査前) ・・・(5)
【0051】
式(5)において、POD(a)はきずサイズが「a」である場合のきず203の検出確率である(
図5の曲線301)。つまり、「1-POD(a)」はきず203の非検出確率を示す(
図5の曲線301)。また、「p(a|検査前)」は検査前のきずサイズ確率分布を示す。検査前のきずサイズ確率分布とは、検査直前における時間経過に伴うきずサイズ確率分布である。さらに、Aは「p(a|検査後)」の全確率が「1」になるようにするための正規化定数である。これによって、検査後のきずサイズ確率分布は
図8Bの曲線321のようになる。
【0052】
このように、ステップS5では、ベイズ推定部105が、ベイズ推定により、検査後のきずサイズ確率分布を推定する。ベイズ推定には、ステップS2で算出されたきずの検出確率(POD(a))と、ステップS3で算出された、時間経過に伴うきずサイズ確率分布と、が用いられる。
【0053】
図3の説明に戻る。
続いて、検査支援装置1は、検査間隔の合計が対象の運用期間を超えたか否かを判定する(S6)。検査間隔の合計が対象の運用期間を超えていない場合(S6→No)、検査支援装置1は、検査後のきずサイズ確率分布(
図8Bの曲線321)を、初期きずサイズ確率分布(
図7の曲線311)とする。その後、検査支援装置1は、ステップS3に処理を戻す。初期きずサイズ確率分布は、ステップS3で用いられる、時間経過に伴うきずサイズ確率分布の初期分布である。このように、検査支援装置1は、ステップS3で算出された検査後のきずサイズ確率分布を、時間経過に伴うきずサイズ確率分布の初期分布とすることで、検査間隔を逐次決定する。
【0054】
その後、検査支援装置1は、検査後のきずサイズ確率分布(曲線321)を、初期きずサイズ確率分布(
図7の曲線311)として、ステップS3,S4,S5を実行する。これにより、検査間隔決定部104は、次の検査間隔を決定する。検査間隔の合計が対象の運用期間を超えている場合(S6→Yes)、検査間隔決定部104は、決定したすべての検査間隔を出力し(S7:第4工程)、手順を完了する。
図9は、検査間隔決定の手順を示す模式図である。
以下においてステップ番号は、
図3のステップ番号である。
図9に示されるグラフの横軸は対象物の運用開始からの経過時間、縦軸は各経過時間での推定破壊確率ある。破線401はステップS1で入力された許容リスクを示す。そして、曲線402~404は、ステップS4で算出される推定破壊確率である。また、点405~407は検査前のきずサイズ確率分布p(a|検査前)を用いて計算した推定破壊確率である。そして、点408~410は、各検査直後のきずサイズ確率分布p(a|検査前)を用いて計算した推定破壊確率を表す。点408~410で、推定破壊確率が低い値となっているのは、以下の理由による。即ち、ベイズ推定後のきずサイズ確率分布が初期きずサイズ確率分布として再設定されるため、
図7に示す領域304で示される推定破壊確率が、低い値となるためである。
【0055】
第1実施形態によれば、きず203が検出されることが稀な対象に対しても、きず203の非検出確率を活用した検査後のきずサイズ確率分布が算出される。そして、検査後のきずサイズ確率分布を基に、検査間隔が合理的な指標で決定される。つまり、第1実施形態によれば、きずの検出が稀である検査対象に対して、定期検査においてきずの検出をしなかったという情報を活用して次の検査間隔を合理的に決定することが可能となる。また、ステップS5で検査後のきずサイズ確率分布がベイズ推定され、ベイズ推定された検査後のきずサイズ確率分布が新たな初期きずサイズ確率分布となる。このようにすることで、複数回の検査間隔を決定することができる。そして、ベイズ推定されることにより、検査の結果、きずが検出されなかった事象を、次の検査に反映させることができる。
【0056】
<第2実施形態>
次に、
図10を参照して、本発明の第2実施形態に係る検査支援方法を説明する。
図10において、
図7と同様の処理については説明を省略する。
【0057】
図10は、第2実施形態に係る時間経過に伴うきずサイズ確率分布を示す概念図である。
第1実施形態ではステップS5において、ベイズ推定部105が式(5)に従って検査後のきずサイズ確率分布をベイズ推定している。これに対し、第2実施形態では、検査のタイミングごとに、所定回数、検査が行われてもきず203が非検出である場合、式(6)の尺度パラメータ「a0」を変更することで、検査後のきずサイズ確率分布を算出する。
【0058】
また、第2実施形態では、きずサイズ確率分布がワイブル分布に従うことを仮定する。
図10の曲線331はワイブル分布となる初期きずサイズ確率分布であり、式(6)で表される。ワイブル分布が用いられる理由は、きずサイズ確率分布の更新が容易であるためである。きずサイズ確率分布の更新が可能であれば、きずサイズ確率分布はワイブル分布に限らなくてもよい。
【0059】
【0060】
式(6)において、「β」は所定の形状パラメータ、「a0」は所定の尺度パラメータである。
【0061】
また、
図10において、曲線332は、曲線331で示す初期きずサイズ確率分布を初期値とする、計算時間「T」時間経過後のきずサイズ確率分布(時間経過に伴うきずサイズ確率分布)である。
【0062】
つまり、第2実施形態では、所定回数、検査が行われてもきず203が非検出であり続けるような計算結果となった場合、初期きずサイズ確率分布が誤っているとする。所定回数、検査が行われてもきず203が非検出であり続けるとは、後記する検査時検出確率が上限検出確率「α」に達しないことである。そこで、進展解析部103は、式(6)の尺度パラメータ「a0」を変更して、再度、時間経過に伴うきずサイズ確率分布の処理を行う。
図10に示す白抜き矢印は、検査時検出確率が上限検出確率「α」に達しない場合、初期きずサイズ確率分布(曲線331)を変更することを示している。なお、検査時検出確率とは、検査時においてきずが検出される確率である。
【0063】
(フローチャート)
以上の処理を、
図11を用いて説明する。
図11は、第2実施形態に係る検査支援方法の手順を示したフローチャートである。
図11において、
図3と同様の処理については、同一のステップ番号を付して、説明を省略する。
【0064】
まず、ステップS1Aでは初期きずサイズ確率分布に代えて、形状パラメータ「β」と尺度パラメータ「a0」、及び上限検出確率「α」が入力される。
そして、ステップS3A及びステップS4Aが行われる。
【0065】
図12は、
図11のステップS3A及びステップS4Aの詳細を示す図である。
ステップS301~S303までの処理は、初期きずサイズ確率分布が形状パラメータ「β」、尺度パラメータ「α0」のワイブル分布であること以外は
図6に示す処理と同じである。
そして、ステップS303の後、検査間隔決定部104は、検査時検出確率を算出する(S411)。
ステップS2で計算した検出確率(
図5の曲線301)はPOD(a)であり、検査前における、ステップS3,S4で計算した時間経過に伴うきずサイズ確率分布(曲線332)がp(a|検査前)である。すると、きず203の検査時検出確率は、以下の式(7)で表される。検査時検出確率は、検査が行われた際に、なんらかの大きさのきずが検出される確率である。
【0066】
【0067】
次に、検査間隔決定部104は式(7)で示す検査時検出確率が上限検出確率「α」より大きいか否かを判定する(S412:第6工程)。
検査時検出確率が上限検出確率「α」未満の場合(S412→No)、検査間隔決定部104は計算時間(t)がTmaxより大きいか否かを判定する(S413)。
図12に示す例では、ステップS301で入力されたTmaxが使用されているが、これに限らない。
計算時間(t)がTmax以下の場合(S413→No)、検査支援装置100はステップS302へ処理を戻す。
【0068】
計算時間(t)がTmaxより大きい場合(S413→No)、検査間隔決定部104は、尺度パラメータ「α0」を更新する(S414)。そして、検査支援装置100は、尺度パラメータ「α0」を更新したワイブル分布を初期きずサイズ確率分布として、ステップS301以降の処理を行う。
【0069】
一方、ステップS412で「Yes」が判定された場合、検査間隔決定部104は、ステップS404の処理を行う。ステップS404の処理は、
図3に示す処理と同様の処理である。
【0070】
所定回数経過しても、きず203が検出されない場合、実際はきず203の検出確率がより小さかったものと考えられる。つまり、きずサイズ確率分布の初期分布が誤っていたものと考えられる。そこで、検査間隔決定部104は、実際のきず203の検出確率を上限検出確率「α」と推定する。そして、検査間隔決定部104は、式(7)の値がαに等しくなるように、あるいは、α以上となるように、尺度パラメータ「a0」を変更しながらp(a|検査前)の算出を繰り返す。つまり、検査間隔決定部104は、ワイブル分布の尺度パラメータ「a0」を変更することで、初期きずサイズ確率分布を変更し、ステップS3以降の処理を再度行う。このようにして、進展解析部103は、きずサイズ確率分布の初期分布を更新する。この更新した初期きずサイズ確率分布を用いて、進展解析部103は、ステップS404における計算時間「T」時間経過後のきずサイズ確率分布(
図10の曲線332)を計算し、p(a|検査後)を推定する。
【0071】
このように、第2実施形態では、ステップS4で、所定回数、検査が行われても、検査時検出確率が所定の確率である上限検出確率に達しない場合、初期きずサイズ確率分布が変更される。特に、きずサイズ確率分布をワイブル分布としたことにより、形状パラメータ「a0」を変更するだけで、容易に初期きずサイズ確率分布の変更が可能となる。
【0072】
ステップS1及びステップS5以外のステップは、第1の実施形態と同様である。なお、本実施形態の応用として、ワイブル分布の代わりに、初期きずサイズ確率分布が尺度パラメータを有する他の確率分布を仮定することもできる。
【0073】
第2実施形態によれば、所定回数、検査が行われてもきず203が検出されない場合、初期きずサイズ確率分布が誤っているものとして、初期きずサイズ確率分布の変更が行われる。このように、事前知識を反映して、初期きずサイズ確率分布を生成することができる。これにより、第1実施形態より現実的な検査間隔の決定が可能となる。
【0074】
<第3実施形態>
次に、
図13を参照して本発明の第3実施形態に係る検査支援方法を説明する。
第1実施形態ではステップS3において、進展解析部103が確率微分方程式であるフォッカー・プランク方程式の解を算出する。そして、進展解析部103は時間経過に伴うきずサイズ確率分布を算出している。本実施形態ではステップS3の確率微分方程式の詳細な計算ステップがモンテカルロ計算に置き換えられる。
【0075】
図13は第3実施形態に係るステップS3の詳細な計算手順を示したフローチャートである。
まず、進展解析部103は、データ入力部101を介して計算時間「Tmax」、評価時間間隔「ΔT」、モンテカルロ計算のサンプリング数を入力する(S311)。
次に、進展解析部103は、きずサイズ確率分布に従ってきずサイズをランダムサンプリングする(S312)。用いられるきずサイズ確率分布は、予め設定されている。本実施形態では、正規分布が用いられるが、前記したワイブル分布でもよい。
【0076】
続いて、進展解析部103は、きず進展速度を確率分布に従ってランダムサンプリングする(S313)。この際、進展解析部103は、前記したように、平均μ(a,t)、標準偏差σ(a,t)の正規分布が用いられるが、正規分布に限らなくてもよい。なお、tは、第1実施形態で用いられる計算時間(t)である。
【0077】
そして、進展解析部103は、ステップS313でランダムサンプリングしたきずサイズ分布の進展速度に基づいて、きず203の進展を計算し、ΔT時間後のきずサイズを計算する(S314)。
【0078】
続いて、進展解析部103は、経過時間の合計(ΔT×S314の実行回数)が指定計算時間「Tmax」を超えたか否かを判定する(S315)。
指定計算時間「Tmax」を超えていない場合(S315→No)、進展解析部103はS313に処理を戻し、次のΔT時間後のきずサイズを順次計算する。
経過時間の合計が指定計算時間「Tmax」を超えている場合(S315→Yes)、進展解析部103は、1回のきずサンプリング計算を完了する。
【0079】
続いて、進展解析部103は、ステップS311で指定されたサンプリング回数のきずサンプリング計算(S313~S315)が完了したか否かを判定する(S316)。
未完了の場合(S316→No)、進展解析部103は、ステップS312の処理に戻り、ステップS312~S316を繰り返し実行する。
計算回数がサンプリング回数に到達し、進展解析部103によってサンプリング計算が完了したと判定された場合(S316→Yes)、進展解析部103はステップS317の処理に進む。
【0080】
ステップS317で、進展解析部103は、ΔT時間ごとのきずサイズ確率分布(経験分布)を出力する。このようにして、進展解析部103は、
図7の曲線312で示すT時間経過後のきずサイズ確率分布を算出する。なお、Tは、第1実施形態及び第2実施形態における計算時間(t-1)でに相当する。そして、検査支援装置1は、
図3のステップS3を完了し、ステップS4に処理を進める。ステップS317で出力されるΔT時間ごとのきずサイズ確率分布は、ヒストグラムとして出力されてもよいし、適当な確率分布に当てはめて出力されてもよい。
【0081】
ステップS3以外のステップは、第1の実施形態と同様である。なお、第2の実施形態と第3実施形態を組み合わせることも可能である。
【0082】
このように第3実施形態では、きずサイズ、及び、きず進展速度をランダムサンプリングすることで、時間経過に伴うきずサイズ確率分布が算出される。
【0083】
第3実施形態によれば、
図7の曲線312で示す計算時間「T」時間経過後のきずサイズ確率分布が第1実施形態のように解析的に算出されるのではなく、モンテカルロ計算によるシミュレーションで算出される。なお、計算時間「T」は、ΔTの合計値で示すことができる。これにより、高度な数学の知識がなくても計算時間「T」時間経過後のきずサイズ確率分布を算出することができる。
【0084】
[出力画面例]
図14は、本実施形態における出力画面例を示す図である。
図14に示す出力画面500は、
図3や、
図11のステップS7で出力装置115(
図2参照)に出力される画面である。
図14に示す出力画面500は、検査間隔出力部501を有している。検査間隔出力部501には、前回(あるいは検査開始時)から次の検査を行うまでの間隔が出力される。
【0085】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0086】
また、本実施形態では、きず203の例としてき裂を前提として説明しているが、きず203は、き裂に限らない。例えば、本実施形態は、穴等、時間経過とともに進展するきず一般に適用可能である。きず203としてき裂以外が用いられる場合、式(1)に示すパリス則が使用されないこと以外は、用いられる手法及び式等は、本実施形態で記載されているものが使用できる。
【0087】
また、本実施形態では、各検査間の間隔である検査間隔が出力されているが、これに限らない。例えば、前回の検査(あるいは、検査開始時)から何日後に検査を行うかや、検査開始から、それぞれの検査が何日後に行われるか、検査間隔を基に算出される検査日時といった検査タイミング(検査時期)が出力されてもよい。
【0088】
また、前記した各構成、機能、データ入力部101~ベイズ推定部105、記憶装置113等は、それらの一部又はすべてを、例えば集積回路で設計すること等によりハードウェアで実現してもよい。また、
図2に示すように、前記した各構成、機能等は、CPU等のプロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、HD(Hard Disk)に格納すること以外に、メモリ111や、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カードや、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に格納することができる。
また、各実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0089】
100 検査支援装置
101 データ入力部(入力部)
102 検出確率算出部
103 進展解析部
104 検査間隔決定部(検査時期決定部、出力処理部)
105 ベイズ推定部
115 出力装置
202 検査対象物
203 きず
205 設置位置のばらつき(検査ばらつき)
206 超音波送信方向のばらつき(検査ばらつき)
301 曲線(きずの検出確率)
302 曲線
304 領域(時間経過に伴うきずサイズ確率分布と、破壊確率とが重複している領域)
305 曲線(破壊確率)
311 曲線(きずサイズ確率分布の初期分布)
312 曲線(時間経過に伴うきずサイズ確率分布)
321 曲線(検査後のきずサイズ確率分布)
401 破線(許容リスク)
331 曲線(ワイブル分布におけるきずサイズ確率分布の初期分布)
332 曲線(ワイブル分布における時間経過に伴うきずサイズ確率分布)
S2 きずの検出確率を算出(第1工程)
S3 時間経過に伴うきずサイズ確率分布を算出(第2工程)
S4 検査間隔決定(第3工程)
S5 検査後のきずサイズ確率分布をベイズ推定(第5工程)
S7 すべての検査間隔を出力(第4工程)
S411 検査時検出確率と上限検出確率を比較(第6工程)