(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163545
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】エンジン装置、及びエンジン装置のアンモニア漏洩検知方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20241115BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20241115BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20241115BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20241115BHJP
F02D 19/06 20060101ALI20241115BHJP
F02M 25/00 20060101ALI20241115BHJP
F01P 11/00 20060101ALI20241115BHJP
F01P 11/14 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
F02D45/00 345
F02D19/02 A ZAB
F02M37/00 J
F02M21/02 F
F02D19/06 B
F02M21/02 N
F02M21/02 V
F02M25/00 F
F01P11/00 C
F01P11/14 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079264
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】503116899
【氏名又は名称】株式会社IHI原動機
(71)【出願人】
【識別番号】000232818
【氏名又は名称】日本郵船株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592007519
【氏名又は名称】京浜ドック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】増田 裕
(72)【発明者】
【氏名】眞島 豊
(72)【発明者】
【氏名】戸田 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】亀高 秀也
【テーマコード(参考)】
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G092AB19
3G092AC08
3G092AC10
3G092FB06
3G092HE09Y
3G384AA14
3G384AA16
3G384AA22
3G384AA26
3G384BA11
3G384BA41
3G384BA47
3G384DA44
3G384FA00B
(57)【要約】
【課題】アンモニアを燃料として使用するレシプロエンジンの安全性を高めることを目的とする。
【解決手段】エンジン装置1は、アンモニアを燃料として使用するエンジン本体2と、エンジン本体2を冷却水で冷却する冷却水系統25と、冷却水へのアンモニアの混入を検出するセンサ120と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアを燃料として使用するエンジン本体と、
前記エンジン本体を冷却水で冷却する冷却水系統と、
前記冷却水へのアンモニアの混入を検出するセンサと、を備える、
エンジン装置。
【請求項2】
前記冷却水系統は、前記冷却水が滞留する滞留部を備え、
前記センサとして、前記滞留部の気相中に発生したアンモニアガスを検出するガスセンサを備える、
請求項1に記載のエンジン装置。
【請求項3】
前記滞留部は、前記冷却水を貯留するバッファタンクである、
請求項2に記載のエンジン装置。
【請求項4】
前記滞留部は、前記エンジン本体よりも高い位置に設けられている、
請求項2または3に記載のエンジン装置。
【請求項5】
前記冷却水は、アルカリ性のインヒビターを含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載のエンジン装置。
【請求項6】
前記センサとして、前記冷却水のpHを測定するpHセンサを備える、
請求項1~3のいずれか一項に記載のエンジン装置。
【請求項7】
前記pHセンサは、前記エンジン本体を冷却した直後の冷却流路に設けられている、
請求項6に記載のエンジン装置。
【請求項8】
前記センサとして、前記冷却水に含まれるアンモニウムイオンを検出するイオンセンサを備える、
請求項1~3のいずれか一項に記載のエンジン装置。
【請求項9】
前記イオンセンサは、前記エンジン本体を冷却した直後の冷却流路に設けられている、
請求項8に記載のエンジン装置。
【請求項10】
前記エンジン本体は、アンモニアを燃料として使用する第1運転モードと、アンモニア以外の燃料を使用する第2運転モードと、に運転モードを切り替え可能であり、
前記エンジン本体が前記第1運転モードで運転しているときに、前記センサが前記冷却水へのアンモニアの混入を検出した場合、前記運転モードを前記第1運転モードから前記第2運転モードに切り替える、
請求項1~3のいずれか一項に記載のエンジン装置。
【請求項11】
アンモニアを燃料として使用するエンジン本体と、前記エンジン本体を冷却水で冷却する冷却水系統と、を備えるエンジン装置に、前記冷却水へのアンモニアの混入を検出するセンサを設置し、前記センサの検出結果に基づいてアンモニアの漏洩を検知する、
エンジン装置のアンモニア漏洩検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン装置、及びエンジン装置のアンモニア漏洩検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、アンモニアを燃料とするアンモニア燃焼内燃機関において、機関にアンモニアを供給するためのアンモニア噴射弁又はアンモニア噴射弁にアンモニアを供給するためのアンモニア供給管からアンモニアが漏洩したときに漏洩したアンモニアが流通すると推測される空間領域内にアンモニア濃度センサを配置し、該アンモニア濃度センサにより検出されたアンモニア濃度に基づいてアンモニアが漏洩したか否かが判断されるアンモニア燃焼内燃機関が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、地球温暖化対策として、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)の排出を削減することが求められている。アンモニア(NH3)は、燃焼時に二酸化炭素を発生しない新たな燃料として注目されている。
しかしながら、アンモニアには毒性があり、水に溶けやすい性質を持っているため、上記従来の技術による、アンモニアが漏洩すると推測される空間領域以外に、水を媒介してアンモニアが漏洩したりすると、安全性について課題が生じる場合がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、アンモニアを燃料として使用するエンジン装置の安全性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るエンジン装置は、アンモニアを燃料として使用するエンジン本体と、前記エンジン本体を冷却水で冷却する冷却水系統と、前記冷却水へのアンモニアの混入を検出するセンサと、を備える。
【0007】
上記エンジン装置において、前記冷却水系統は、前記冷却水が滞留する滞留部を備え、前記センサとして、前記滞留部の気相中に発生したアンモニアガスを検出するガスセンサを備えてもよい。
【0008】
上記エンジン装置において、前記滞留部は、前記冷却水を貯留するバッファタンクであってもよい。
【0009】
上記エンジン装置において、前記滞留部は、前記エンジン本体よりも高い位置に設けられていてもよい。
【0010】
上記エンジン装置において、前記冷却水は、アルカリ性のインヒビターを含んでもよい。
【0011】
上記エンジン装置において、前記センサとして、前記冷却水のpHを測定するpHセンサを備えてもよい。
【0012】
上記エンジン装置において、前記pHセンサは、前記エンジン本体を冷却した直後の冷却流路に設けられていてもよい。
【0013】
上記エンジン装置において、前記センサとして、前記冷却水に含まれるアンモニウムイオンを検出するイオンセンサを備えてもよい。
【0014】
上記エンジン装置において、前記イオンセンサは、前記エンジン本体を冷却した直後の冷却流路に設けられていてもよい。
【0015】
上記エンジン装置において、前記エンジン本体は、アンモニアを燃料として使用する第1運転モードと、アンモニア以外の燃料を使用する第2運転モードと、に運転モードを切り替え可能であり、前記エンジン本体が前記第1運転モードで運転しているときに、前記センサが前記冷却水へのアンモニアの混入を検出した場合、前記運転モードを前記第1運転モードから前記第2運転モードに切り替えてもよい。
【0016】
本発明の一態様に係るエンジン装置のアンモニア漏洩検知方法は、アンモニアを燃料として使用するエンジン本体と、前記エンジン本体を冷却水で冷却する冷却水系統と、を備えるエンジン装置に、前記冷却水へのアンモニアの混入を検出するセンサを設置し、前記センサの検出結果に基づいてアンモニアの漏洩を検知する。
【発明の効果】
【0017】
上記本発明の一態様によれば、アンモニアを燃料として使用するエンジン装置の安全性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】一実施形態に係るエンジン装置の構成図である。
【
図2】一実施形態に係るエンジン装置のディーゼル運転モードの動作を説明する説明図である。
【
図3】一実施形態に係るエンジン装置のアンモニア運転モードの動作を説明する説明図である。
【
図4】一実施形態に係るエンジン本体の断面構成図である。
【
図5】一実施形態に係る冷却水系統の系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
図1は、一実施形態に係るエンジン装置1の構成図である。
図1に示すように、エンジン装置1は、エンジン本体2と、制御装置3と、を備えている。このエンジン装置1は、直接的または間接的にプロペラを駆動する舶用エンジン(レシプロエンジン)である。なお、エンジン装置1は、発電機を駆動する発電エンジンであってもよい。
【0021】
エンジン装置1は、燃焼室10を形成するシリンダ11と、シリンダ11内を往復移動するピストン12と、ピストン12に連結されたクランク13と、クランク13の回転を検出する回転検出センサ14と、クランク13のトルクを検出するトルク検出センサ15と、を概略備えている。クランク13のシャフトは、例えば、船舶のプロペラに連結されている。
【0022】
シリンダ11のシリンダヘッド16には、吸気路20と排気路30とが接続されている。また、シリンダヘッド16には、吸気路20を開閉する吸気弁21と、排気路30を開閉する排気弁31とが設置されている。また、シリンダヘッド16には、燃焼室10に液体補助燃料を噴射する液体燃料噴射弁53及び着火装置55が設置されている。着火装置55は、例えば、マイクロパイロット油噴射弁であり、後述するアンモニア運転モード(第1運転モード)で使用される。
【0023】
吸気路20は、燃焼用の空気を圧縮するコンプレッサ22と、コンプレッサ22の下流側に設置されたエアクーラ23と、コンプレッサ22とエアクーラ23との間に設置された空気加熱装置24と、エアクーラ23よりも下流側に設置された燃料ガス噴射弁43と、を備えている。燃料ガス噴射弁43は、吸気路20の内部に燃料となる気体アンモニアを噴射する。気体アンモニアは、吸気路20において、圧縮空気と予混合されて混合気となり、シリンダ11内に供給される。
【0024】
エアクーラ23は、冷水で空気を冷やす機能を有する。空気加熱装置24は、エンジン本体2と熱交換した冷却水を熱源として用いる冷却水系統25を有している。
【0025】
排気路30は、燃焼室10から排出された排ガスによって回転するタービン33と、タービン33の下流側に設置され、排ガスに含まれる物質を処理する触媒処理装置60と、を備えている。タービン33の回転軸は、コンプレッサ22に接続されており、排ガスを回転源としてコンプレッサ22を回転させる。つまり、タービン33及びコンプレッサ22は、過給機4を構成している。
【0026】
触媒処理装置60は、アンモニアと液体補助燃料の燃焼によって発生する、窒素酸化物(NOx)、亜酸化窒素、未燃アンモニア等の特定物質を、触媒を用いて処理する。触媒処理装置60には、当該特定物質を検出する検出センサ60aが取り付けられている。
【0027】
エンジン本体2は、シリンダ11内に、アンモニアを供給するアンモニア燃料供給装置40と、シリンダ11内に、アンモニアを着火させる液体補助燃料を供給する液体補助燃料供給装置50と、を備えている。アンモニア燃料供給装置40は、アンモニアタンク41と、気化装置42と、燃料ガス噴射弁43と、を概略備えている。
【0028】
アンモニアタンク41は、液体アンモニアを収容している。気化装置42は、アンモニアタンク41から排出された液体アンモニアを気化し、気体アンモニアを生成する。気化装置42は、気体アンモニアを加圧する加圧ポンプを含んでもよい。気化装置42は、アンモニア供給路44を介して燃料ガス噴射弁43に接続されている。アンモニア供給路44は、レギュレータ44aと、レギュレータ44aの下流側に設置された圧力センサ44bと、を備えている。
【0029】
また、アンモニア供給路44は、レギュレータ44aの上流側で分岐したアンモニア第2供給路45を備えている。アンモニア第2供給路45は、上述した触媒処理装置60と接続されている。アンモニア第2供給路45は、レギュレータ45aと、レギュレータ45aの下流側に設置された圧力センサ45bと、を備えている。
【0030】
排ガスは、未燃アンモニアや、窒素酸化物を含む。触媒処理装置60において、未燃アンモニアは、窒素酸化物から酸素を奪う還元剤として働く。未燃アンモニアの発生割合が、窒素酸化物の発生割合に対し不足する場合、不足分の気体アンモニアがアンモニア第2供給路45から触媒処理装置60内に噴射される。これにより、窒素酸化物が未燃アンモニアによって還元処理され、未燃アンモニアが排ガス中の酸素によって酸化処理され、無害化される。
【0031】
液体補助燃料供給装置50は、液体補助燃料タンク51と、第1液体燃料供給ポンプ52と、液体燃料噴射弁53と、第2液体燃料供給ポンプ54と、着火装置55と、を備えている。液体補助燃料タンク51は、重油、軽油、ガソリンなどの液体補助燃料を収容している。第1液体燃料供給ポンプ52は、液体補助燃料タンク51に収容された液体補助燃料を液体燃料噴射弁53に供給する。
【0032】
液体燃料噴射弁53は、例えば、後述するディーゼル運転モード(第2運転モード)で使用する機械式燃料噴射装置である。第2液体燃料供給ポンプ54は、液体補助燃料タンク51に収容された液体補助燃料を着火装置55に供給する。着火装置55は、例えば、アンモニア運転モードで使用するコモンレール式燃料噴射装置である。
【0033】
制御装置3は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサが、記憶部に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。また、制御装置3は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)などのハードウェアにより実現されてもよい。
【0034】
記憶部は、例えば、HDD(Hard Disc Drive)、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)、ROM(Read Only Memory)、またはRAM(Random Access Memory)などにより実現される。記憶部には、ファームウェアやプロセッサが実行するプログラムなどが記憶される。
【0035】
制御装置3においては、例えば、回転検出センサ14により検出された回転速度と、トルク検出センサ15により検出されたトルクとに基づいて、現時点での負荷に対する出力(仕事量[kW])を導出し、この現時点での出力と、予め記憶部に記憶させておいた定格出力とに基づいて、負荷率を導出する。負荷率は、例えば、現時点での出力を定格出力で除算することで導出される。
【0036】
制御装置3は、導出したエンジン本体2の負荷率に基づく給気圧目標値と、図示しない圧力計により測定された給気圧力とに基づいて、給気圧力をフィードバック制御する。給気圧目標値導出情報とは、予め定められた負荷率および給気圧目標値の関係を示した情報である。この情報は、例えば、マップや関数として予め記憶部に記憶されている。これにより、制御装置3は、稼動中の内燃機関の負荷率に基づいて、燃料を供給する。
【0037】
上記構成のエンジン装置1は、アンモニアを燃料として使用するアンモニア運転モード(第1運転モード)と、アンモニア以外の燃料(重油など)を使用するディーゼル運転モード(第2運転モード)と、に切り替え可能である。なお、アンモニアは液体補助燃料(重油など)と比べて燃焼し難いため、アンモニア運転モードでは、アンモニアと液体補助燃料による混焼運転を行う。このため、アンモニア運転モードは、混焼運転モードとも言う。
【0038】
なお、アンモニア運転モード(混焼運転モード)において、最大出力付近のアンモニアの最大の混焼率は熱量比で80%以上である。
【0039】
図2は、一実施形態に係るエンジン装置1のディーゼル運転モードの動作を説明する説明図である。
図2に示すように、ディーゼル運転モードのときは、液体燃料噴射弁53から液体補助燃料を燃焼室10に噴射させ、ピストン12で圧縮された圧縮空気中で着火・燃焼させる。このとき、燃料ガス噴射弁43は、停止している。
【0040】
図3は、一実施形態に係るエンジン装置1のアンモニア運転モードの動作を説明する説明図である。
図3に示すように、アンモニア運転モードのときは、燃料ガス噴射弁43から気体アンモニアを吸気路20内に噴射させ、燃焼室10の手前で空気と予混合させる。次に、着火装置55から着火用の液体補助燃料を燃焼室10に噴射させ、ピストン12で圧縮された混合気を着火・燃焼させる。このとき、液体燃料噴射弁53は、停止している。
【0041】
図4は、一実施形態に係るエンジン本体2の断面構成図である。
図4に示すように、エンジン本体2は、シリンダ11及びシリンダヘッド16を冷却する冷却水系統25を備えている。
【0042】
シリンダ11は、冷却水系統25の流路を形成する流路形成部材11a,11bを備えている。流路形成部材11a,11bは、シリンダ11の上端部の外側に取り付けられている。流路形成部材11a,11bは、燃焼室10の周囲を囲う冷却水流路を形成している。シリンダヘッド16の内部には、当該冷却水流路に連通する内部流路が形成されている。シリンダヘッド16の内部流路は、燃焼室10の上面側を覆っている。
【0043】
シリンダヘッド16には、上述した液体燃料噴射弁53及び着火装置55が貫通して設置されている。液体燃料噴射弁53及び着火装置55の貫通部分は、気密シール部材17によってシールされている。また、シリンダ11とシリンダヘッド16との合わせ面の隙間は、気密シール部材18及び液密シール部材19によって二重にシールされている。
【0044】
また、流路形成部材11a,11bと、シリンダ11またはシリンダヘッド16との隙間は、液密シール部材19によってシールされている。なお、気密シール部材17,18としては、ガスケットを例示できる。また、液密シール部材19としては、Oリングを例示できる。
【0045】
上記構成のエンジン装置1において、仮に、シリンダ11とシリンダヘッド16との合わせ面の隙間の二重シールが破られると、燃焼室10内のアンモニアが、冷却水系統25の冷却水に混入する可能性がある。このため、冷却水系統25は、以下の構成を備える。
【0046】
図5は、一実施形態に係る冷却水系統25の系統図である。
冷却水系統25は、
図5に示すように、第1循環流路80と、第2循環流路90と、冷却水返送流路100と、バッファタンク101と、冷却水供給流路102と、を備えている。
【0047】
第1循環流路80は、上述した空気加熱装置24と、第1熱交換器81と、第1ポンプ82と、を備えている。第1循環流路80において、冷却水は、空気加熱装置24、第1熱交換器81、第1ポンプ82の順に循環する。第1熱交換器81は、第1循環流路80を流れる冷却水と、外部冷却水流路110を流れる外部冷却水と、を熱交換させる。外部冷却水流路110を流れる外部冷却水は、例えば、海水である。
【0048】
第1循環流路80における第1熱交換器81より上流側且つ空気加熱装置24より下流側には、三方弁83が設けられている。三方弁83は、第1循環流路80を流れる冷却水を第1熱交換器81に供給するかしないかを切り替える。第1ポンプ82は、第1熱交換器81より下流側に設けられ、冷却水を循環させる。
【0049】
第1循環流路80は、第1ポンプ82の下流側において複数の枝管80aに分岐し、エンジン本体2の各気筒(本実施形態では4本のシリンダ11)を冷却する。複数の枝管80aは、各気筒を冷却した後、一本の冷却流路80bに合流する。冷却流路80bは、空気加熱装置24を通り、各気筒から得た熱で、
図1に示す吸気路20を流れる燃焼用の空気を加熱する。
【0050】
第2循環流路90は、上述したエアクーラ23と、第2熱交換器91と、第2ポンプ92を備えている。第2循環流路90において、冷却水は、エアクーラ23、第2熱交換器91、第2ポンプ92の順に循環する。第2熱交換器91は、第2循環流路90を流れる冷却水と、外部冷却水流路110を流れる外部冷却水と、を熱交換させる。第2熱交換器91は、外部冷却水流路110において第1熱交換器81よりも上流側に設けられ、第1熱交換器81よりも温度が低い外部冷却水が流入する。
【0051】
第2循環流路90における第2熱交換器91より上流側且つエアクーラ23より下流側には、三方弁93が設けられている。三方弁93は、第2循環流路90を流れる冷却水を第2熱交換器91に供給するかしないかを切り替える。第2ポンプ92は、第2熱交換器91より下流側に設けられ、冷却水を循環させる。冷却水は、エアクーラ23を通る過程で、
図1に示す吸気路20にてコンプレッサ22で圧縮された空気を冷却する。
【0052】
図5に示すように、第2循環流路90におけるエアクーラ23より下流側且つ第2熱交換器91(三方弁93)より上流側には、冷却水を系外に排出する冷却水排出流路94が設けられている。冷却水排出流路94は、バルブによって開度を調整可能とされている。なお、冷却水排出流路94は、後述する冷却水返送流路100と同様にバッファタンク101と接続されてもよい。
【0053】
冷却水返送流路100は、第1循環流路80を流れる冷却水の一部をバッファタンク101に返送する。本実施形態の冷却水返送流路100は、第1循環流路80において第1ポンプ82より下流側且つ複数の枝管80aに分岐する位置より上流側に接続されている。冷却水返送流路100は、バルブによって開度を調整可能とされている。
【0054】
バッファタンク101は、冷却水を貯留する。バッファタンク101は、冷却水が滞留する滞留部ともいう。このバッファタンク101は、エンジン本体2よりも高い位置に設けられている。バッファタンク101の天井部には、冷却水の温度によって、内部の気相中のガスが膨張した場合に、その一部を系外に放出し、また、バッファタンク101の内部の気相中のガスが収縮した場合に、系外から空気を取り込む吸排気管101aが設けられている。
【0055】
バッファタンク101の底部には、冷却水供給流路102が接続されている。冷却水供給流路102は、第1循環流路80及び第2循環流路90と接続されている。冷却水供給流路102は、バッファタンク101の水頭差によって、第1循環流路80及び第2循環流路90に冷却水を供給する。
【0056】
なお、本実施形態では、冷却水供給流路102が第1循環流路80及び第2循環流路90と接続されているが、冷却水供給流路102が第1循環流路80のみと接続されていてもよい。つまり、第2循環流路90は、第1循環流路80の冷却水系統25とは別の冷却水系統であってもよい。
【0057】
冷却水系統25には、冷却水へのアンモニアの混入を検出するセンサ120が設けられている。本実施形態のセンサ120は、アンモニアガスを検出するガスセンサ121と、冷却水のpHを測定するpHセンサ122と、冷却水に含まれるアンモニウムイオンを検出するイオンセンサ123と、を備えている。
【0058】
ガスセンサ121は、冷却水が滞留するバッファタンク101(滞留部)の気相中に設けられている。これにより、バッファタンク101の気相中に発生したアンモニアガスを検出することができる。なお、ガスセンサ121は、冷却水系統25においてバッファタンク101以外に冷却水が滞留する場所があれば、その場所の気相中に設置してもよい。
【0059】
pHセンサ122は、第1循環流路80及びバッファタンク101の液相中に設けられている。純水のpHは、約7.0である。ここにアンモニアが混入するとpHは、アルカリ性に移動し、アンモニア濃度がわずか10ppmでpHは、7.0から8.6へと変化する。そのため、冷却水系統25にpHセンサ122を設置することで、アンモニアの冷却水への漏洩を検知することが可能となる。
【0060】
イオンセンサ123は、第1循環流路80及びバッファタンク101の液相中に設けられている。冷却水がインヒビター(防錆剤などの抑制剤)を含んでいると、インヒビターの種類にもよるが、防錆剤であれば、pHはアルカリ性に移動する。そのため、純水の冷却水のようにpHセンサ122でアンモニアの冷却水への漏洩を検知するのは困難な場合がある。アンモニアは、冷却水(インヒビター有無に関わらず)に混入することで、一部がアンモニア(NH3)からアンモニウムイオン(NH4
+)となる。そこで、冷却水中のNH4
+の濃度を計測することで、冷却水へのアンモニア漏洩を検知することが可能となる。
【0061】
また、冷却水がインヒビターを含んでいると、pHがアルカリ性に移動すると共に、アンモニアがNH4
+として溶解しづらくなり,冷却水中にNH3として存在する。そのため、冷却水系統25に設けたバッファタンク101などで冷却水中のNH3が放出されて、バッファタンク101内でガス状態として存在し易くなる。このため、冷却水がインヒビターを含んでいる場合、バッファタンク101にガスセンサ121を設置することで、アンモニアの冷却水への漏洩を効果的に検知し易くなる。
【0062】
なお、センサ120の少なくとも一つが、冷却水へのアンモニアの混入を検出した場合、エンジン装置1を停止させ、エンジン装置1の点検・メンテナンスを行うとよい。また、仮に、エンジン本体2がアンモニア運転モードで運転しているとき(航行中)に、センサ120の少なくとも一つが冷却水へのアンモニアの混入を検出した場合、運転モードをアンモニア運転モードからディーゼル運転モードに切り替えるとよい。これにより、海上の船舶を、エンジン装置1の点検・メンテナンスが可能な港まで安全に寄港させることができる。
【0063】
以上のように、本実施形態に係るエンジン装置1は、アンモニアを燃料として使用するエンジン本体2と、エンジン本体2を冷却水で冷却する冷却水系統25と、冷却水へのアンモニアの混入を検出するセンサ120と、を備える。この構成によれば、冷却水を媒介したアンモニアの漏洩を検知することができ、アンモニアを燃料として使用するエンジン装置1の安全性を高めることができる。
【0064】
また、本実施形態において、冷却水系統25は、冷却水が滞留する滞留部を備え、センサ120として、滞留部の気相中に発生したアンモニアガスを検出するガスセンサ121を備える。冷却水へ漏洩したアンモニアは、その一部が気体状態として存在し、冷却水とともに流動するが、冷却水が滞留する場所では、その滞留部の上部に集積する。そこにガスセンサ121を備えれば、冷却水に混入したアンモニアの検知が可能となる。
【0065】
また、本実施形態において、滞留部は、冷却水を貯留するバッファタンク101である。ガスセンサ121を設置する場所として、シリンダ11やシリンダヘッド16を冷却する冷却水系統25に接続されたバッファタンク101が好適である。これにより、シリンダヘッド16付近から漏出したアンモニアを早期に検知できる。
【0066】
また、本実施形態において、滞留部は、エンジン本体2よりも高い位置に設けられている。気体状態として存在するアンモニアは、冷却水系統25においてより高い位置に集積する。エンジン本体2より高い位置にバッファタンク101を設置し、そこにガスセンサ121を設ければ、アンモニア漏洩の初期の段階での検出が可能となる。
【0067】
また、本実施形態において、冷却水は、アルカリ性のインヒビターを含む。エンジン装置1の冷却水には、防錆等のためにアルカリ性のインヒビターを用いる場合がある。冷却水をアルカリ性とした場合には、冷却水中に漏出したアンモニアがアンモニウムイオンとして溶解せずに、アンモニア分子として存在する割合が高くなる。このようなアンモニアは気体状態で集積しやすいため、ガスセンサ121による検知がより有効となる。
【0068】
また、本実施形態において、センサ120として、冷却水のpHを測定するpHセンサ122を備える。このように、ガスセンサ121と別のセンサ120として、冷却水のpHを測定するpHセンサ122を用いることもできる。特に、冷却水のpHが中性に近い場合には、わずかなアンモニア混入によってもpHが大きくアルカリ側に変化するので、アンモニアの漏出を早期に検知できる。
【0069】
また、本実施形態において、pHセンサ122は、エンジン本体2を冷却した直後の冷却流路80bに設けられている。この構成によれば、エンジン本体2のシリンダヘッド16付近から漏出したアンモニアを早期に検知できる。
【0070】
また、本実施形態において、センサ120として、冷却水に含まれるアンモニウムイオンを検出するイオンセンサ123を備える。このように、また別のセンサ120として、冷却水中のアンモニウムイオン(NH4
+)を測定するイオンセンサ123を用いることもできる。冷却水のpHが中性から酸性寄りの場合には、冷却水中のアンモニアの多くはアンモニアイオンとして存在するので、イオンセンサ123によってアンモニアの漏出を早期に検知できる。
【0071】
また、本実施形態において、イオンセンサ123は、エンジン本体2を冷却した直後の冷却流路80bに設けられている。この構成によれば、エンジン本体2のシリンダヘッド16付近から漏出したアンモニアを早期に検知できる。
【0072】
また、本実施形態において、エンジン本体2は、アンモニアを燃料として使用するアンモニア運転モード(第1運転モード)と、アンモニア以外の燃料を使用するディーゼル運転モード(第2運転モード)と、に運転モードを切り替え可能であり、エンジン本体2がアンモニア運転モードで運転しているときに、センサ120が冷却水へのアンモニアの混入を検出した場合、運転モードをアンモニア運転モードからディーゼル運転モードに切り替える。この構成によれば、航行中にアンモニア漏洩を検知した場合に、海上の船舶を、エンジン装置1の点検・メンテナンスが可能な港まで安全に寄港させることができる。
【0073】
また、本実施形態に係るエンジン装置1のアンモニア漏洩検知方法は、アンモニアを燃料として使用するエンジン本体2と、エンジン本体2を冷却水で冷却する冷却水系統25と、を備えるエンジン装置1に、冷却水へのアンモニアの混入を検出するセンサ120を設置し、センサ120の検出結果に基づいてアンモニアの漏洩を検知する。この構成によれば、冷却水を媒介したアンモニアの漏洩を検知することができ、アンモニアを燃料として使用するエンジン装置1の安全性を高めることができる。
【0074】
以上、本発明の好ましい実施形態を記載し説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。好ましい実施形態として4ストロークのエンジンを例に上げて説明したが、2ストロークのエンジンについても同じ原理が適用される。従って、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、特許請求の範囲によって制限されている。
【符号の説明】
【0075】
1…エンジン装置、2…エンジン本体、3…制御装置、4…過給機、10…燃焼室、11…シリンダ、11a…流路形成部材、11b…流路形成部材、12…ピストン、13…クランク、14…回転検出センサ、15…トルク検出センサ、16…シリンダヘッド、17…気密シール部材、18…気密シール部材、19…液密シール部材、20…吸気路、21…吸気弁、22…コンプレッサ、23…エアクーラ、24…空気加熱装置、25…冷却水系統、30…排気路、31…排気弁、33…タービン、40…アンモニア燃料供給装置、41…アンモニアタンク、42…気化装置、43…燃料ガス噴射弁、44…アンモニア供給路、44a…レギュレータ、44b…圧力センサ、45…アンモニア第2供給路、45a…レギュレータ、45b…圧力センサ、50…液体補助燃料供給装置、51…液体補助燃料タンク、52…第1液体燃料供給ポンプ、53…液体燃料噴射弁、54…第2液体燃料供給ポンプ、55…着火装置、60…触媒処理装置、60a…検出センサ、80…第1循環流路、80a…枝管、80b…冷却流路、81…第1熱交換器、82…第1ポンプ、83…三方弁、90…第2循環流路、91…第2熱交換器、92…第2ポンプ、93…三方弁、94…冷却水排出流路、100…冷却水返送流路、101…バッファタンク、101a…吸排気管、102…冷却水供給流路、110…外部冷却水流路、120…センサ、121…ガスセンサ、122…pHセンサ、123…イオンセンサ