(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163548
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】デファレンシャル装置
(51)【国際特許分類】
F16H 48/22 20060101AFI20241115BHJP
F16H 48/40 20120101ALI20241115BHJP
F16H 48/08 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
F16H48/22
F16H48/40
F16H48/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079269
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】517175611
【氏名又は名称】ジーケーエヌ オートモーティブ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】石渡 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】若松 睦
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA36
3J027FB02
3J027HA01
3J027HA03
3J027HB07
3J027HC07
3J027HD01
3J027HE03
3J027HF06
3J027HG03
(57)【要約】
【課題】大型化することなく、多板クラッチの断続特性を向上することができるデファレンシャル装置を提供する。
【解決手段】デフケース9と、ピニオンシャフト11と、ピニオンギヤ13と、一対の出力ギヤ15,17と、デフケース9と一対の出力ギヤ15,17のうち一方の出力ギヤ17とに一体回転可能で軸方向に移動可能に配置された多板クラッチ5とを備えたデファレンシャル装置1において、デフケース9に、ピニオンシャフト11を内部に挿入可能な孔部27と、多板クラッチ5に対して、ピニオンシャフト11を挟んで軸方向の反対側に配置され、駆動力が入力されるフランジ部23とを設け、フランジ部23に、孔部27と連通され、ピニオンシャフト11を孔部27に挿入可能な切欠部49を設けた。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に配置されたデフケースと、
前記デフケースと共に回転可能に前記デフケースに収容されたピニオンシャフトと、
前記ピニオンシャフトに自転可能に支持され、前記デフケースの回転によって公転するピニオンギヤと、
前記ピニオンギヤと噛み合い、相対回転可能な一対の出力ギヤと、
前記デフケースと一対の前記出力ギヤのうち一方の前記出力ギヤとに一体回転可能で軸方向に移動可能に配置された多板クラッチと、
を備え、
前記デフケースには、前記ピニオンシャフトを内部に挿入可能な孔部と、前記多板クラッチに対して、前記ピニオンシャフトを挟んで軸方向の反対側に配置され、駆動力が入力されるフランジ部とが設けられ、
前記フランジ部には、前記孔部と連通され、前記ピニオンシャフトを前記孔部に挿入可能な切欠部が設けられているデファレンシャル装置。
【請求項2】
前記フランジ部には、動力伝達部材を固定する固定部が周方向に複数設けられ、
前記切欠部は、周方向に隣り合う前記固定部の間に配置されている請求項1に記載のデファレンシャル装置。
【請求項3】
前記デフケースの軸方向一側には、一側端壁が形成され、
前記フランジ部における前記切欠部の軸方向背面側には、前記一側端壁から前記フランジ部にかけて、前記デフケースの軸心側から放射方向に厚肉部が設けられている請求項1又は2に記載のデファレンシャル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デファレンシャル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デファレンシャル装置としては、回転可能に配置されたデフケースと、デフケースと共に回転可能にデフケースに収容されたピニオンシャフトと、ピニオンシャフトに自転可能に支持され、デフケースの回転によって公転するピニオンギヤとを備えている。また、ピニオンギヤと噛み合い、相対回転可能な一対の出力ギヤと、デフケースと一対の出力ギヤのうち一方の出力ギヤとに一体回転可能で軸方向に移動可能に配置された多板クラッチとを備えたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このデファレンシャル装置では、多板クラッチを接続することにより、デフケースと一方の出力ギヤとの差動が制限され、一対の出力ギヤの差動が制限される。このようなデファレンシャル装置では、デフケースに、ピニオンシャフトを内部に挿入可能な孔部が設けられている。また、デフケースには、多板クラッチに対して、ピニオンシャフトを挟んで軸方向の反対側に配置され、駆動力が入力されるフランジ部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1のようなデファレンシャル装置では、多板クラッチにおけるクラッチ板の枚数を増大させれば、多板クラッチの断続特性(クラッチの締結トルク)を向上することができる。しかしながら、クラッチ板の枚数を、単に増やしてしまうと、多板クラッチが軸方向に長大化し、装置が大型化してしまう。
【0006】
そこで、この発明は、大型化することなく、多板クラッチの断続特性を向上することができるデファレンシャル装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係るデファレンシャル装置は、回転可能に配置されたデフケースと、前記デフケースと共に回転可能に前記デフケースに収容されたピニオンシャフトと、前記ピニオンシャフトに自転可能に支持され、前記デフケースの回転によって公転するピニオンギヤと、前記ピニオンギヤと噛み合い、相対回転可能な一対の出力ギヤと、前記デフケースと一対の前記出力ギヤのうち一方の前記出力ギヤとに一体回転可能で軸方向に移動可能に配置された多板クラッチとを備え、前記デフケースには、前記ピニオンシャフトを内部に挿入可能な孔部と、前記多板クラッチに対して、前記ピニオンシャフトを挟んで軸方向の反対側に配置され、駆動力が入力されるフランジ部とが設けられ、前記フランジ部には、前記孔部と連通され、前記ピニオンシャフトを前記孔部に挿入可能な切欠部が設けられている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、大型化することなく、多板クラッチの断続特性を向上することができるデファレンシャル装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係るデファレンシャル装置の正面図である。
【
図2】本実施形態に係るデファレンシャル装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本実施形態に係るデファレンシャル装置について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係るデファレンシャル装置1は、例えば、エンジンや電動モータなどの駆動源(不図示)と、左右の車輪(不図示)との間に配置されている。駆動源からの駆動力は、トランスミッション(不図示)を介してデファレンシャル装置1に伝達され、一対の出力軸(不図示)を介して左右の車輪に駆動力が配分される。
【0012】
図1~
図4に示すように、デファレンシャル装置1は、差動機構3と、多板クラッチ5と、アクチュエータ7とを備えている。
【0013】
差動機構3は、デフケース9と、ピニオンシャフト11と、ピニオンギヤ13と、一対の出力ギヤ15,17とを備えている。
【0014】
デフケース9は、一側端壁9aを備えると共に後述するフランジ部23を一体に形成された円筒状部9cを有する本体9Aと、他側端壁9bを備えたカバー9Bとの2ピース構造となっている。本実施形態において、デフケース9は、本体9Aの円筒状部9cの端部内周にカバー9Bの外周面を組付けて溶接により一体に形成されている。デフケース9は、軸方向両側に形成されたボス部19,21のそれぞれの外周でベアリング(不図示)を介してキャリアなどの静止系部材(不図示)に回転可能に支持されている。
【0015】
デフケース9には、リングギヤなどの動力伝達部材(不図示)が固定されるフランジ部23が形成されている。フランジ部23には、動力伝達部材がボルトなどの固定部材(不図示)を介して固定される固定部25が設けられている。固定部25は、フランジ部23の周方向に離間して複数設けられている。固定部25を介して固定された動力伝達部材は、例えば、駆動源から駆動力を伝達する動力伝達ギヤ(不図示)と噛み合い、駆動力が入力されてデフケース9を回転駆動させる。なお、フランジ部23には、動力伝達部材が溶接により、直接、固定されてもよい。
【0016】
デフケース9には、内部にピニオンギヤ13と、一対の出力ギヤ15,17と、多板クラッチ5とを収容可能な収容開口(不図示)が設けられている。デフケース9には、内部に収容されたピニオンギヤ13に対して、外部からピニオンシャフト11を組付可能な孔部27が設けられている。孔部27は、デフケース9の周方向等間隔に複数(ここでは4つ)設けられている。孔部27は、フランジ部23の複数の固定部25に対して、周方向に隣り合う固定部25,25の間に配置されている。なお、デフケース9には、潤滑油が流通可能な複数の孔29が設けられている。
【0017】
ピニオンシャフト11は、1本の長尺のピニオンシャフトと、2本の短尺のピニオンシャフトとを有する。長尺のピニオンシャフトは、両端部がデフケース9の孔部27に係合されて抜け止めされ、デフケース9と一体に回転駆動される。短尺のピニオンシャフトは、一端部が長尺のピニオンシャフトの中間に形成された孔部に係合され、他端部がデフケース9の孔部27に係合されて抜け止めされ、デフケース9と一体に回転駆動される。ピニオンシャフト11の外端部側には、ピニオンギヤ13がそれぞれ支承されている。なお、1本の長尺のピニオンシャフトと、2本の短尺のピニオンシャフトとは、それぞれデフケース9に対して棒状のピン(不図示)などの固定手段で、抜け止めと回り止めがなされている。
【0018】
ピニオンギヤ13は、デフケース9の周方向等間隔に複数(ここでは4つ)配置されている。複数のピニオンギヤ13は、それぞれピニオンシャフト11の端部側に支承されてデフケース9の回転によって公転する。ピニオンギヤ13は、噛み合っている一対の出力ギヤ15,17に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオンシャフト11に自転可能に支持されている。ピニオンギヤ13は、デフケース9に入力された駆動力を一対の出力ギヤ15,17に伝達する。
【0019】
一対の出力ギヤ15,17は、デフケース9内に相対回転可能に収容されている。一対の出力ギヤ15,17は、それぞれピニオンギヤ13と噛み合っている。一対の出力ギヤ15,17の内周側には、一対の出力ギヤ15,17に伝達された駆動力を出力するスプライン形状の出力部31,33が設けられている。出力部31,33には、左右の車輪に一体回転可能に接続される一対の出力軸(不図示)が一対の出力ギヤ15,17と一体回転可能に連結される。
【0020】
駆動源からの駆動力は、動力伝達部材を介してデフケース9に入力される。デフケース9に入力された駆動力は、差動機構3のピニオンギヤ13を介して一対の出力ギヤ15,17に伝達される。一対の出力ギヤ15,17に伝達された駆動力は、一対の出力軸を介して左右の車輪に分配して出力される。差動機構3における差動回転は、多板クラッチ5によって断続制御される。
【0021】
多板クラッチ5は、デフケース9と一方の出力ギヤ17との径方向間に配置されている。多板クラッチ5は、複数の外側クラッチ板と、複数の内側クラッチ板とを備えている。
【0022】
複数の外側クラッチ板は、デフケース9の円筒状部9cの内周に形成されたスプライン形状の係合部に軸方向移動可能でデフケース9と一体回転可能に係合されている。複数の内側クラッチ板は、複数の外側クラッチ板に対して軸方向に交互に配置され、出力ギヤ17のボス部の外周に形成されたスプライン形状の係合部に軸方向移動可能で出力ギヤ17と一体回転可能に係合されている。
【0023】
多板クラッチ5は、滑り摩擦を伴い伝達トルクを中間制御可能な制御型の複数のクラッチ板からなる摩擦クラッチとなっている。多板クラッチ5は、締結量に応じて、デフケース9と出力ギヤ17とを接続し、差動機構3における差動を制限する。多板クラッチ5は、アクチュエータ7によって軸方向に押圧されて締結される。
【0024】
アクチュエータ7は、カム機構35と、押圧部材37と、電動モータ(不図示)とを備えている。
【0025】
カム機構35は、移動部材39と、回転部材41と、カムボール43とを備えている。
【0026】
移動部材39は、環状に形成され、デフケース9のボス部21の外周に配置されている。移動部材39は、例えば、キャリアに固定される固定部材などの静止系部材(不図示)に対して回り止めされ、軸方向移動可能に配置されている。移動部材39には、回転部材41と軸方向に対向する対向面に、カム面が周方向に複数形成されている。
【0027】
回転部材41は、環状に形成され、デフケース9のボス部21の外周に移動部材39と隣接して配置されている。回転部材41は、ベアリングを介して回転可能に配置され、ベアリングによって軸方向外側への移動が規制されている。回転部材41の外周には、ギヤ部が形成されている。回転部材41には、移動部材39と軸方向に対向する対向面に、移動部材39と同一傾斜のカム面が周方向に複数形成されている。
【0028】
カムボール43は、移動部材39と回転部材41との軸方向間に配置された環状の保持部材45に回転可能に複数保持されている。複数のカムボール43は、移動部材39と回転部材41とのカム面間に介在される。カムボール43は、回転部材41の回転によって、移動部材39と回転部材41との間に相対的な差回転が生じることにより、移動部材39を多板クラッチ5側へ軸方向移動させるカムスラスト力を発生させる。
【0029】
押圧部材37は、環状に形成され、デフケース9のボス部21の外周にスラストベアリング40を介して移動部材39と隣接して配置されている。押圧部材37は、移動部材39の軸方向移動により、軸方向移動可能に配置されている。押圧部材37には、デフケース9に形成された複数の孔を挿通し、多板クラッチ5を押圧する複数の押圧部47が設けられている。なお、押圧部47は、環状に形成された移動部材39と一体に形成されても、或いは分割形成した後に当接可能に組み合わされてもよい。
【0030】
押圧部材37は、カム機構35で生じるカムスラスト力によって、多板クラッチ5側に軸方向移動され、押圧部47を介して多板クラッチ5を押圧し、多板クラッチ5を締結させる。なお、押圧部材37とデフケース9との軸方向間には、押圧部材37を多板クラッチ5の締結解除方向に付勢する環状のリターンスプリング42が配置されている。
【0031】
電動モータは、例えば、キャリアに固定される固定部材などの静止系部材(不図示)に固定されている。電動モータは、モータ軸が、回転部材41との間に配置された複数のギヤ部からなるギヤ機構(不図示)のギヤ部と噛み合っている。電動モータは、モータ軸の回転により、ギヤ機構を介して回転部材41を回転させる。回転部材41の回転により、カム機構35でカムスラスト力が発生される。
【0032】
このようなアクチュエータ7は、電動モータが、車両の各機構の作動を制御するコントローラ(不図示)に電気的に接続されている。アクチュエータ7は、多板クラッチ5における締結トルクに応じて、コントローラによって電動モータへの通電が制御される。アクチュエータ7の作動により、多板クラッチ5が締結され、一対の出力ギヤ15,17の差動が制限される。
【0033】
このような多板クラッチ5において、クラッチ板の枚数を増やすことにより、締結部分(クラッチの摩擦面数)が増大し、多板クラッチ5の断続特性(クラッチの締結トルク)を向上することができる。しかしながら、クラッチ板の枚数を、単に増やしてしまうと、多板クラッチ5が軸方向に長大化し、装置が大型化してしまう。
【0034】
デフケース9を大型化せずに、クラッチ板の枚数を増大させるために、ピニオンシャフト11を、フランジ部23側に配置させることが考えられる。しかしながら、ピニオンシャフト11を、フランジ部23側に配置させようとすると、ピニオンシャフト11を挿入させるための孔部27が、フランジ部23と重なってしまい、ピニオンシャフト11を組付けることができない。
【0035】
そこで、フランジ部23には、切欠部49が設けられている。切欠部49は、複数(ここでは4つ)の孔部27に対応して、複数(ここでは4つ)設けられている。切欠部49は、フランジ部23に対して、フランジ部23の軸方向の肉厚を、複数枚のクラッチ板と同等の厚さで減じるように形成されている。切欠部49は、径方向から見たときに、孔部27と連通するように形成されている。
【0036】
このため、ピニオンシャフト11を、径方向から切欠部49に沿って、孔部27に挿入することができる。フランジ部23に切欠部49を設けることにより、デフケース9を大型化せずに、ピニオンシャフト11を、フランジ部23側に配置することができる。このため、多板クラッチ5の枚数を増大することができ、多板クラッチ5の断続特性を向上することができる。
【0037】
切欠部49は、フランジ部23の周方向において、隣り合う固定部25,25の間に配置されている。このため、フランジ部23において、固定部25の肉厚が減じることがなく、固定部25の剛性を保持することができ、フランジ部23における動力伝達部材の固定を安定化することができる。
【0038】
デフケース9の軸方向一側の一側端壁9aには、フランジ部23における切欠部49の軸方向背面側に位置する厚肉部9dが設けられている。厚肉部9dは、一側端壁9aからフランジ部23にかけて、デフケース9の軸心側に位置するボス部19の外周側から放射方向(径方向に開くよう)に設けられている。厚肉部9dを設けることにより、差動機構3が軸方向一側にオフセットした場合においても、切欠部49を設けたことによる一側端壁9aとフランジ部23の強度低下を抑制することができ、大型化することなく、多板クラッチ5の断続特性を向上することができる。
【0039】
このようなデファレンシャル装置1では、回転可能に配置されたデフケース9と、デフケース9と共に回転可能にデフケース9に収容されたピニオンシャフト11とを備えている。また、ピニオンシャフト11に自転可能に支持され、デフケース9の回転によって公転するピニオンギヤ13と、ピニオンギヤ13と噛み合い、相対回転可能な一対の出力ギヤ15,17とを備えている。さらに、デフケース9と一対の出力ギヤ15,17のうち一方の出力ギヤ17とに一体回転可能で軸方向に移動可能に配置された多板クラッチ5を備えている。また、デフケース9には、ピニオンシャフト11を内部に挿入可能な孔部27と、多板クラッチ5に対して、ピニオンシャフト11を挟んで軸方向の反対側に配置され、駆動力が入力されるフランジ部23とが設けられている。そして、フランジ部23には、孔部27と連通され、ピニオンシャフト11を外部から孔部27に挿入可能な切欠部49が設けられている。
【0040】
フランジ部23の切欠部49は、孔部27と連通されているので、ピニオンシャフト11を、径方向から切欠部49に沿って、孔部27に挿入することができる。フランジ部23に切欠部49を設けることにより、デフケース9を大型化せずに、ピニオンシャフト11を、フランジ部23側に配置することができる。このため、多板クラッチ5の枚数を増大することができ、多板クラッチ5の断続特性を向上することができる。
【0041】
従って、このようなデファレンシャル装置1では、大型化することなく、多板クラッチ5の断続特性を向上することができる。
【0042】
また、フランジ部23には、動力伝達部材を固定する固定部25が周方向に複数設けられている。そして、切欠部49は、周方向に隣り合う固定部25,25の間に配置されている。
【0043】
このため、フランジ部23において、固定部25の肉厚が減じることがなく、固定部25の剛性を保持することができ、フランジ部23における動力伝達部材の固定を安定化することができる。
【0044】
また、デフケース9の軸方向一側には、一側端壁9aが形成されている。そして、フランジ部23における切欠部49の軸方向背面側には、一側端壁9aからフランジ部23にかけて、デフケース9の軸心側から放射方向に厚肉部9dが設けられている。
【0045】
このため、厚肉部9dによって、切欠部49を設けたことによる一側端壁9aとフランジ部23の強度低下を抑制することができ、大型化することなく、多板クラッチ5の断続特性を向上することができる。
【0046】
以上、本実施形態を説明したが、本実施形態はこれらに限定されるものではなく、本実施形態の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0047】
例えば、本実施形態に係るデファレンシャル装置では、ピニオンギヤが4つ設けられているが、これに限らず、ピニオンギヤを2つとしてもよい。この場合には、2つのピニオンギヤを支持するピニオンシャフトは1本でよく、孔部と切欠部とはそれぞれ2つ設ければよい。また、ピニオンギヤを3つにした場合には、切欠部を周方向で均等に3箇所設けることが好ましい。
【0048】
また、アクチュエータは、電動モータ式アクチュエータとなっているが、これに限らず、電磁式アクチュエータ、油圧式アクチュエータなどであってもよく、多板クラッチを作動できるものであれば、どのようなアクチュエータであってもよい。
【0049】
また、デフケース9の構造に関しては、一側端壁が形成されたカバーに、フランジ部と円筒状部と他側端壁を一体に形成した本体を組み合わせた2ピース構造でもよい。或いは、本体とカバーとにそれぞれフランジ部を形成した2ピース構造でもよい。さらには、一側端壁とフランジ部と円筒状部と他側端壁とを一体に形成した1ピース構造であってもよい。
【0050】
また、本実施形態においては、デフケースと一方の出力ギヤとの間に多板クラッチを配置しているが、許容される寸法上の許容スペースが確保されていれば、デフケースと両方の出力ギヤとの間にそれぞれ多板クラッチを配置してもよい。この場合にも、切欠部を設けることにより、デファレンシャル装置を大型化することなく、多板クラッチの断続特性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 デファレンシャル装置
5 多板クラッチ
9 デフケース
9a 一側端壁
9d 厚肉部
11 ピニオンシャフト
13 ピニオンギヤ
15,17 出力ギヤ
23 フランジ部
25 固定部
27 孔部
49 切欠部