(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163554
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】同種抗体検出方法、検査方法、検出試薬、検出試薬の製造方法、同種抗体検出キット、及び白血病用医薬
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20241115BHJP
C07K 14/47 20060101ALI20241115BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20241115BHJP
【FI】
G01N33/53 N ZNA
C07K14/47
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079282
(22)【出願日】2023-05-12
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194283
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 大勇
(72)【発明者】
【氏名】森田 薫
(72)【発明者】
【氏名】神田 善伸
(72)【発明者】
【氏名】海野 健斗
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA86
4H045EA50
(57)【要約】
【課題】女性ドナーから男性レシピエントへの同種造血幹細胞移植を行った患者の
移植を提供する。
【解決手段】
同種抗原タンパク質及びHLA class II分子が結合した複合体を含む試料と、検出試薬とを加え、複合体に結合する試料中の同種抗体を検出する。同種抗原タンパク質は、DBYタンパク質であってもよい。また、HLA class II分子は、HLA-DR1、HLA-DR2、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR8、HLA-DR9、HLA-DR10、HLA-DR11、HLA-DR12、HLA-DR13、HLA-DR14、HLA-DR15、及びHLA-DR16からなる群から選択された少なくとも一つであってもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同種抗原タンパク質及びHLA class II分子が結合した複合体を含む試料と、検出試薬とを接触させ、
前記複合体に結合する前記試料中の同種抗体を検出する
ことを特徴とする同種抗体検出方法。
【請求項2】
前記同種抗原タンパク質は、DBYタンパク質である
ことを特徴とする請求項1に記載の同種抗体検出方法。
【請求項3】
前記HLA class II分子は、HLA-DR1、HLA-DR2、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR8、HLA-DR9、HLA-DR10、HLA-DR11、HLA-DR12、HLA-DR13、HLA-DR14、HLA-DR15、及びHLA-DR16からなる群から選択された少なくとも一つである
ことを特徴とする請求項2に記載の同種抗体検出方法。
【請求項4】
前記試料は、被験者から単離された血漿又は血清である
ことを特徴とする請求項1に記載の同種抗体検出方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の検出方法によって、前記試料中の同種抗体を検出する検出工程と、
前記検出工程における同種抗体の検出結果から、慢性移植片対宿主病の発症可能性を検査する検査工程とを含み、
慢性移植片対宿主病の発症可能性を検査する
ことを特徴とする検査方法。
【請求項6】
前記検出工程が、前記同種抗体の抗体価を測定する測定工程である
ことを特徴とする請求項5記載の検査方法。
【請求項7】
前記測定工程において、前記同種抗体の抗体価を測定する方法がフローサイトメトリーである
ことを特徴とする請求項6に記載の検査方法。
【請求項8】
前記検査工程において、前記測定工程で測定した前記同種抗体の抗体価の測定値と基準値とを比較し、前記測定値が前記基準値よりも高い場合に、前記被験者は慢性移植片対宿主病の発症可能性があるとし、
前記基準値が、男性ドナーから男性レシピエント、又は女性ドナーから女性レシピエント、又は男性ドナーから女性レシピエントへ同種造血幹細胞移植を行った患者を被験者とした前記測定値である
ことを特徴とする請求項6に記載の検査方法。
【請求項9】
前記被験者が、女性ドナーから男性レシピエントへ同種造血幹細胞移植を行った患者である
ことを特徴とする請求項8に記載の検査方法。
【請求項10】
女性ドナーから男性レシピエントへの移植において、
前記HLA class II分子として、HLA-DRB1*15:02があると慢性移植片対宿主病が発症しやすくなり、HLA-DRB1*09:01又はHLA-DRB1*12:01では慢性移植片対宿主病が発症しにくくなると判断する
ことを特徴とする請求項9に記載の検査方法。
【請求項11】
男性ドナーから女性レシピエントへの移植において、
前記HLA class II分子として、HLA-DRB1*11:01があると慢性移植片対宿主病が発症しやすくなり、HLA-DRB1*08:03があると慢性移植片対宿主病が発症しにくくなると判断する
ことを特徴とする請求項8に記載の検査方法。
【請求項12】
女性ドナーから男性レシピエントへの同種造血幹細胞移植において、
HLA class IIのアレルとして、HLA-DRB1*15:02があると慢性移植片対宿主病が発症しやすくなり、HLA-DRB1*09:01又はHLA-DRB1*12:01では慢性移植片対宿主病が発症しにくくなると判断する
ことを特徴とする検査方法。
【請求項13】
男性ドナーから女性レシピエントへの同種造血幹細胞移植において、
HLA class IIのアレルとして、HLA-DRB1*11:01があると慢性移植片対宿主病が発症しやすくなり、HLA-DRB1*08:03があると慢性移植片対宿主病が発症しにくくなると判断する
ことを特徴とする検査方法。
【請求項14】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の同種抗体検出方法において前記同種抗体を検出する際に添加される
ことを特徴とする検出試薬。
【請求項15】
請求項10に記載の検出試薬を製造する
ことを特徴とする検出試薬の製造方法。
【請求項16】
請求項10に記載の検出試薬を含む
ことを特徴とする同種抗体検出キット。
【請求項17】
同種抗原タンパク質及びHLA class II分子が結合した複合体を標的とする
ことを特徴とする白血病用医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に移植片対宿主病の同種抗体検出方法、検査方法、検出試薬、検出試薬の製造方法、同種抗体検出キット、及び白血病用医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
血液、造血器疾患において、造血細胞移植(Hematopoietic Cell Transplantation、以下「HCT」ともいう。)、特に同種造血幹細胞移植は最も強力な治療法である。しかしながら、移植片対宿主病(Graft-Versus-Host Disease、GVHD。以下、「GVHD」という。)という重篤な合併症を起こすリスクがある。移植片対宿主病はドナー由来の免疫細胞がレシピエントを異物と見なすことによって生じる病態で、移植後100日(約3ヶ月)以降を境にして急性移植片対宿主病、慢性移植片対宿主病(chronic GVHD。以下、「cGVHD」という。)に大別される。慢性移植片対宿主病は30~70%に発症するが、移植方法の多様化に伴い、発症率の増加が懸念されている。
【0003】
ここで、Human Leukocyte Antigen - DR isotype(以下、「HLA-DR」という。)は、ヒト主要組織適合抗原複合体(Major Histocompatibility complex。 以下、「MHC」という。)のClass IIに分類される抗原である。HLA-DRは、α、βの2つからなる糖タンパクの二量体で、長さが9~30アミノ酸程度のペプチドと複合体を形成する。HLA-DRは、T細胞受容体(T cell receptor。以下、「TCR」という。)のリガンドを構成し、臓器移植の適合性に関連する重要な抗原となる。
また、HLA-DRは、ヒトゲノム上では、6番染色体領域6p21.31上に存在し、その型には高度の多型性が知られている。
【0004】
従来技術として、特許文献1を参照すると、同種造血幹細胞移植において、ドナーとレシピエントとのHLAが一部ミスマッチの場合においても移植後の予後を予測する方法が記載されている。
特許文献1に記載の方法では、同種造血幹細胞移植におけるドナーとレシピエント間でHLA遺伝子のHLA-A、HLA-B、HLA-C、及びHLA-DRB1の4座における8アリルのうち、1アリル又は2アリルがミスマッチで、かつレシピエントが悪性血液疾患(骨髄異形形成症候群、myelodysplastic syndromes。以下、「MDS」という。)を除く患者の場合において、ドナー若しくはレシピエントのNLRP3遺伝子の配列番号1に示す塩基配列の26番目の塩基(rs10925027、C又はT)における一塩基多型、若しくは配列番号2に示す塩基配列の26番目の塩基(rs4612666、C又はT)における一塩基多型又はこれらの連鎖不平衡の関係にある一塩基多型、及びレシピエントの原疾患の種類を指標として移植後の予後の予測を補助する。
【0005】
一方、cGVHDにおける顕著なリスク因子は女性ドナーから男性レシピエントへの移植であり、それに関連してY染色体由来の抗原に対する同種抗体の出現が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術では、cGVHD患者の生体内での病態形成に関する実際の同種抗体の検出方法は確立されていなかった。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、上述の課題を解消することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の同種抗体検出方法は、同種抗原タンパク質及びHLAclassII分子が結合した複合体を含む試料と、検出試薬とを接触させ、前記複合体に結合する前記試料中の同種抗体を検出することを特徴とする。
本発明の同種抗体検出方法は、前記同種抗原タンパク質は、DBYタンパク質であることを特徴とする。
本発明の同種抗体検出方法は、前記HLAclassII分子は、HLA-DR1、HLA-DR2、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR8、HLA-DR9、HLA-DR10、HLA-DR11、HLA-DR12、HLA-DR13、HLA-DR14、HLA-DR15、及びHLA-DR16からなる群から選択された少なくとも一つであることを特徴とする。
本発明の同種抗体検出方法は、前記試料は、被験者から単離された血漿又は血清であることを特徴とする。
本発明の検査方法は、前記いずれか一項に記載の検出方法によって、前記試料中の同種抗体を検出する検出工程と、前記検出工程における同種抗体の検出結果から、慢性移植片対宿主病の発症可能性を検査する検査工程とを含み、慢性移植片対宿主病の発症可能性を検査することを特徴とする。
本発明の検査方法は、前記検出工程が、前記同種抗体の抗体価を測定する測定工程であることを特徴とする。
本発明の検査方法は、前記測定工程において、前記同種抗体の抗体価を測定する方法がフローサイトメトリーであることを特徴とする。
本発明の検査方法は、前記検査工程において、前記測定工程で測定した前記同種抗体の抗体価の測定値と基準値とを比較し、前記測定値が前記基準値よりも高い場合に、前記被験者は慢性移植片対宿主病の発症可能性があるとし、前記基準値が、男性ドナーから男性レシピエント、又は女性ドナーから女性レシピエント、又は男性ドナーから女性レシピエントへ同種造血幹細胞移植を行った患者を被験者とした前記測定値であることを特徴とする。
本発明の検査方法は、前記被験者が、女性ドナーから男性レシピエントへ同種造血幹細胞移植を行った患者であることを特徴とする。
本発明の検査方法は、女性ドナーから男性レシピエントへの移植において、前記HLAclassII分子として、HLA-DRB1*15:02があると慢性移植片対宿主病が発症しやすくなり、HLA-DRB1*09:01又はHLA-DRB1*12:01では慢性移植片対宿主病が発症しにくくなると判断することを特徴とする。
本発明の検査方法は、男性ドナーから女性レシピエントへの移植において、前記HLAclassII分子として、HLA-DRB1*11:01があると慢性移植片対宿主病が発症しやすくなり、HLA-DRB1*08:03があると慢性移植片対宿主病が発症しにくくなると判断することを特徴とする。
本発明の検査方法は、女性ドナーから男性レシピエントへの同種造血幹細胞移植において、HLAclassIIのアレルとして、HLA-DRB1*15:02があると慢性移植片対宿主病が発症しやすくなり、HLA-DRB1*09:01又はHLA-DRB1*12:01では慢性移植片対宿主病が発症しにくくなると判断することを特徴とする。
本発明の検査方法は、男性ドナーから女性レシピエントへの同種造血幹細胞移植において、HLAclassIIのアレルとして、HLA-DRB1*11:01があると慢性移植片対宿主病が発症しやすくなり、HLA-DRB1*08:03があると慢性移植片対宿主病が発症しにくくなると判断することを特徴とする。
本発明の検出試薬の製造方法は、前記同種抗体検出方法において前記同種抗体を検出する際に添加されることを特徴とする。
本発明の検出試薬の製造方法は、前記検出試薬を製造することを特徴とする。
本発明の同種抗体検出キットは、前記検出試薬を含むことを特徴とする。
本発明の白血病用医薬は、同種抗原タンパク質及びHLAclassII分子が結合した複合体を標的とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、同種抗原タンパク質とHLAクラスII分子とが結合してできる複合体を含む検出試薬と、試料とを接触させて同種抗体を検出することで、女性ドナーから男性レシピエントへ同種造血幹細胞移植を行った患者のcGVHD発症を、その発症前に予測することができる同種抗体検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施例に係るF-to-MコホートのcGVHDの各アレルの累積発症率を示すグラフである。
【
図2】本発明の実施例に係るF-to-MコホートのaGVHDの各アレルの累積発症率を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施例に係るドナーの性別に応じた男性レシピエントにおける全体のcGVHDの累積発生率を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施例に係るM-to-MコホートのcGVHDの各アレルの累積発症率を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施例に係るH-Y抗原の細胞表面及び細胞内発現のFACSの結果を示すグラフである。
【
図6】本発明の実施例に係るHLA-DR発現の細胞表面及び細胞内発現のFACSの結果を示すグラフである。
【
図7】本発明の実施例に係る完全長DBYとHLA-DRのタンパク質間相互作用の共免疫沈降法の結果を示す写真である。
【
図8】本発明の実施例に係る抗HLA-DR抗体と抗Myc-tag抗体によるIFによる染色の写真である。
【
図9】本発明の実施例に係るMycタグ付きDBYとHLA-DR間とのタンパク質-タンパク質相互作用を可視化するためのPLAの写真である。
【
図10】本発明の実施例に係るIiの有無による細胞表面DBY発現のFACSの結果を示すグラフである。
【
図11】本発明の実施例に係る抗DBY/HLA class II複合体抗体の検出の結果を示すグラフである。
【
図12】本発明の実施例に係る抗DBY/HLA class II複合体抗体のカットオフを示すグラフである。
【
図13】本発明の実施例に係る抗DBY/HLA class II複合体抗体の有無によるcGVHDの累積発生率を示すグラフである。
【
図14】本発明の実施例に係る抗DBY/HLA class II複合体抗体の力価と抗DBY抗体との力価の関係を示すグラフである。
【
図15】本発明の実施例に係るDBY/HLA class II複合体の解析におけるHLA-DRのMFIを示すグラフである。
【
図16】本発明の実施例に係るDBY/HLA class II複合体の解析におけるDBY/HLA class II複合体のMFIを示すグラフである。
【
図17】本発明の実施例に係るHLA-DRB1アリルのDBYエピトープに対する結合親和性をin silicoで算出した表である。
【
図18】本発明の実施例に係るDBY/HLA class II複合体の解析における抗DBY/HLA class II複合体抗体に対するMFIを示すグラフである。
【
図19】本発明の実施例に係るDBY/HLA class II複合体形成と、DBY/HLA class II複合体に結合するcGVHD患者からの同種抗体の親和性の相関係数を示すグラフである。
【
図20】本発明の実施例に係るF-to-M HCT後のcGVHD患者の皮膚生検試料のHE染色の写真である。
【
図21】本発明の実施例に係るF-to-M HCT後のcGVHD患者の皮膚生検試料のIHCの写真である。
【
図22】本発明の実施例に係るcGVHDにおけるDBYとHLA-DRのタンパク質間相互作用を可視化するためのPLAの写真である。
【
図23】
図22に示す男性患者対女性患者のPLAシグナル値のグラフである。
【
図24】本発明の実施例に係るcGVHDバイオマーカーであるBAFFのIHC染色の写真である。
【
図25】本発明の実施例に係るcGVHDバイオマーカーであるCXCL9及びCXCL10のIHC染色の写真である。
【
図26】本発明の実施例に係るCD31及びαSMAのIFの写真である。
【
図27】本発明の実施例に係るC4dのIFの写真である。
【
図28】本発明の実施例に係る抗DBY/HLA class II複合体抗体を用いたCDCの解析結果を示すグラフである。
【
図29】本発明の実施例に係る白血病細胞株のFACSを用いたHLA-DRの発現解析の結果を示すグラフである。
【
図30】本発明の実施例に係る白血病細胞株の定量的qRT-PCR分析の結果を示すグラフである。
【
図31】本発明の実施例に係る白血病細胞株におけるDBYとHLA-DRの共局在を可視化するためのPLAの写真である。
【
図32】本発明の実施例に係る白血病患者の芽球におけるDBYとHLA-DRの共局在を可視化するためのPLAの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施の形態>
慢性移植片対宿主病(cGVHD)は、一度進行すると難治性になることが多く、早期発見、早期治療が極めて重要である。
cGVHDにおける強力なリスク因子は女性ドナーから男性レシピエント(Female to Male。以下、「F-to-M」と省略する。)への同種移植である(以下、F-to-Mの同種移植を「F-to-M HCT」という。)。この同種移植は、Y染色体コード化エピトープ(以下、「H-Y抗原」という。)に対する同種抗体の出現を特徴とするB細胞の調節障害と広く関連している。
しかしながら、従来、cGVHD患者の生体内で、実際に病態形成に関わる同種抗体の同定はされていなかった。
【0013】
Y染色体にコードされるH-Y抗原への抗体(同種抗体)は、cGVHDと移植片対白血病(Graft Versus Leukemia、GVL)効果の両方に重要な役割を果たすことが知られており、疾患寛解の維持と有意に関連している。
しかしながら、H-Y抗原は、転写や翻訳に関わる細胞内機能性タンパク質であり、膜貫通領域を持たず、細胞から放出されることはない。すなわち、H-Y抗原は全て細胞内タンパクであり、それだけでは細胞外に出ないため、抗体の標的になり得ない。さらに、H-Y抗原は主に男性の生殖器や心臓等の臓器にタンパク質レベルで発現しており、これらは一般的にcGVHDの影響を受けない。
このため、従来は、H-Y抗原が罹患臓器の表面に出現する正確なメカニズムは不明であった。
【0014】
そこで、本発明者らは、H-Y抗原の一つであるDBYタンパク質とレシピエントのHLA class II分子が結合した複合タンパク(以下、「複合体」という。)が、権患臓器の血管内皮細胞上に発現することを突き止め、更にその複合体に対する抗体の出現が病態形成に直接的に寄与することを明らかにした。
【0015】
より詳しく説明すると、cGVHDは、急性GVHD(acute Graft Versus Host Disease、以下、「aGVHD」という。)とは対照的に、強皮症等の自己免疫疾患に類似したいくつかの臨床的特徴を有している。
自己免疫疾患は、HLA class II遺伝子と密接に関連している。近年、主要な自己免疫疾患において、HLA class II分子と複合化した自己抗原が、強力な自己抗体標的として働くという新しいメカニズムが報告されている。このメカニズムによれば、HLA class II分子は細胞内でミスフォールドしたタンパク質と複合体を形成し、ペプチドに断片化することなく細胞表面へと輸送することができる。疾病リスクのあるアレルのHLA class II分子と結合した分子(複合体)は、効率よく自己抗体によって認識され、標的化される。自己抗原とHLA class II分子との複合体を発現する細胞を移植すると、マウスで自己抗体の産生が誘導される。これらの知見によれば、自己免疫疾患における自己抗体産生の根底には、感受性HLA class IIアレルの重要な役割がある。
【0016】
本発明者らは、血管内皮上のHLA class II分子と複合化したDBYタンパク質が、抗体を介したcGVHDの初期段階における重要な標的であり、cGVHDがGVL効果を誘発する理由の説明となる可能性があることを明らかにした。具体的には、F-to-M HCTにおいて、HLA class II分子が、cGVHD患者において全長のH-Y抗原を細胞表面に提示し、自己抗体の標的となっていることをつきとめた。
その過程で、DBYタンパク質とHLA class II分子で構成される複合体が発現する細胞株を作成し、同種移植後3ヶ月の患者血漿に接触させることで、複合体に対する同種抗体価を測定する、同種抗体検出方法を開発した。
【0017】
この同種抗体検出方法で測定した抗体価がカットオフ値より高くなる場合、その後のcGVHDの発症率が有意に上昇する結果が得られ、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本実施形態に係る同種抗体検出方法により、女性ドナーから男性レシピエントへの同種造血幹細胞移植においてcGVHDの発症可能性を予測することが可能となる。このため、本実施形態に係る同種抗体検出方法を用いたcGVHDの検査方法を実現できる。
【0018】
また、本発明者らは、後述する実施例で示すように、HLA class II分子がDBYを輸送して同種抗体に提示する能力は、HLA class IIアレルのcGVHDに対する感受性と密接に関連していることを明らかとした。つまり、同種抗体に提示する能力の高い特定のHLA-DRアレルでは、DBYはcGVHDの皮膚血管内皮でHLA class II分子と特異的に共局在化し、補体依存性の細胞傷害性を誘発する。
このため、本実施形態に係る検査方法は、HLA class IIのアレルによるcGVHDの発症しやすさ又はしにくさを判断することも可能とした。
さらに、本発明者らは、男性由来の一部の白血病細胞株で複合体が発現していることを明らかとして、この複合体を標的とする抗体等を医薬として使用可能であることを示した。
以下、本実施形態に係る同種抗体検出方法、検査方法、検出試薬、検出試薬の製造方法、同種抗体検出キット、及び白血病用医薬(医療用組成物)について詳細に説明する。
【0019】
〔同種抗体検出方法〕
本実施形態に係る同種抗体検出方法は、同種抗原タンパク質及びHLA class II分子が結合した複合体を含む試料と、検出試薬とを接触させ、複合体に結合する試料中の同種抗体を検出することを特徴とする。
【0020】
本実施形態においては、同種抗体検出するための被験者が、女性ドナーから男性レシピエントへ同種造血幹細胞移植を行った患者であってもよく、この被験者の試料を用いてもよい。
【0021】
本実施形態に係る同種抗原タンパク質は、主にH-Y抗原であってもよい。このH-Y抗原は、例えば、DBY、EIF1AY、RPS4Y、UTY、及びZFYのタンパク質であってもよい。これらは、Y染色体の男性特異的領域にコードされるマイナー組織適合抗原の一群である。
【0022】
より具体的には、本実施形態に係るH-Y抗原は、特に、DBYタンパク質であってもよい。DBYタンパク質は、ヒトではY染色体上に存在するDDX3Y遺伝子によってコードされるATP依存性RNAヘリカーゼであり、DDX3Yとも称される。DBYタンパク質は、保存されたモチーフであるAsp-Glu-Ala-Asp(DEAD)を特徴とするDEADボックスタンパク質である。
DBYタンパク質は、上述したように、HLA-class II分子と全長で結合することで細胞膜上に運ばれ、抗体の標的になり得る。
【0023】
一方、本実施形態に係る同種抗体検出方法において、HLA class II分子は、通常は、マクロファージ、樹状細胞、B細胞棟の抗原提示細胞に発現する細胞膜貫通タンパク質であり、主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex、MHC)分子である。HLA class II分子は、α鎖とβ鎖が会合した構造を取り、細胞内の各種タンパク質の断片であるペプチドを細胞表面に提示する働きをもつ。
【0024】
本実施形態に係るHLA class II分子は、HLA-DR1、HLA-DR2、HLA-DR3、HLA-DR4、HLA-DR7、HLA-DR8、HLA-DR9、HLA-DR10、HLA-DR11、HLA-DR12、HLA-DR13、HLA-DR14、HLA-DR15、HLA-DR16からなる群から選択された少なくとも一つであってもよい。
【0025】
〔検査方法〕
本実施形態に係る検査方法は、上述の検出方法によって、試料中の同種抗体を検出する検出工程と、検出工程における同種抗体の検出結果から、cGVHDの発症可能性を検査する検査工程とを含み、cGVHDの発症可能性を検査することを特徴とする。
【0026】
このうち、この検出工程が、同種抗体の抗体価を測定する測定工程であってもよい。この抗体価の測定は、補体結合反応(Complement Fixation test。以下、「CF」ともいう。)、蛍光抗体法(Fluorescent labeled antibody method。以下、「FA」ともいう。)、酵素免疫測定法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay。以下、「ELISA」ともいう。)、化学発光免疫測定法(Chemiluminescent Enzyme Immunoassay。以下、「CLEIA」ともいう。)、蛍光活性化セルソーティング(Fluorescence-Activated Cell Sorting。以下、単にフローサイトメトリー又は「FACS」という。)等の抗体を検出する各種手法を用いることが可能である。
【0027】
より具体的に、本実施形態に係る測定工程においては、特に、同種抗体の抗体価を測定する方法がフローサイトメトリーであることが好適である。
また、検査される被験者の試料は、被験者から単離された血漿又は血清であってもよい。
【0028】
すなわち、FACSを用いて、DBYタンパク質等のH-Y抗原及びHLA class II分子が結合した複合体に結合する同種抗体の抗体価を行うことが可能である。具体的には、例えば、上述のDBYタンパク質及びHLA ClassII分子が結合した複合体を細胞表面に発現させている細胞株等を用いて、F-to-M HCT後、特定期間、例えば、100日(3ヶ月)後程度が経過した患者の血清又は血漿における血清又は血漿中のIgG抗体(同種抗体)を測定する。
これにより、cGVHD病態形成の原因となる同種抗体の抗体価の測定を行うことが可能となる。
【0029】
この測定工程で用いる細胞株は、形質が理解され、当業者に用いられる株であれば、特に限定されない。具体的に、後述する実施例では、ヒト胎児腎細胞293(Human Embryonic Kidney cells293。以下、「293T」細胞という。)を用いる一例について説明している。
または、細胞株として、例えば、男性白血病由来の白血病細胞株を用いることも可能である。具体的には、後述する実施例で示すKO52やTHP-1のような、DBYが白血病細胞でHLA class II分子と共局在化して検出されるような細胞株を用いてもよい。
【0030】
さらに具体的には、本実施形態に係る検査方法では、検査工程において、測定工程で測定した同種抗体の抗体価の測定値と基準値とを比較し、測定値が基準値よりも高い場合に、被験者はcGVHDの発症可能性があるとしてもよい。
この基準値は、男性ドナーから男性レシピエント(以下、「M-to-M」と省略する。)へのHCT、又は女性ドナーから女性レシピエント(以下、「F-to-F」と省略する。)への同種移植、又は男性ドナーから女性レシピエント(以下、「M-to-F」)と省略する。)への同種移植を行った患者を被験者とした測定値であってもよい。この同種移植は、同種造血幹細胞移植であってもよい。
【0031】
より具体的には、この基準値は、測定された発現量から統計的な有意差を検定可能な抗体価に基づく値であってもよい。たとえば、基準値は、健常者に由来する試料の発現量と比較し、例えば、5%有意(p<0.05)であるように統計検定される値であってもよい。この検定は、例えば、T検定、F検定、カイ二乗検定等の手法をデータ量やデータの性質等に対応して、適宜用いることが可能である。
【0032】
これに加えて、本実施形態に係る検査方法では、HLA-DRアレルの型により、cGVHDの発症しやすさと発症しにくさの判断を行ってもよい。これは、後述する実施例で示すように、特定のアレルに関するHLA class II分子がcGVHD発症組織の血管内皮表面に全長DBY抗原を輸送し、自己抗体を誘導してF-to-M HCT後のcGVHDの重要なリスク因子となるためである。
【0033】
具体的には、F-to-M HCTは、それ自体がcGVHDの発症リスクと広く知られている。
このため、本実施形態に係る検査方法では、F-to-M HCTにおいて、HLA class II分子として、HLA-DRB1*15:02があるとcGVHDが発症しやすくなり、HLA-DRB1*09:01又はHLA-DRB1*12:01では発症しにくくなると判断してもよい。
すなわち、F-to-M HCTにおいて、特にドナー、レシピエントともにHLA-DRB1*15:02を有する場合は、そのドナーは避けた方がよいと判断可能となる。一方で、HLA-DRB1*09:01、HLA-DRB12:01を有するドナー、レシピエントの場合は、cGVHDの発症リスクが低いので、移植を行ってもcGVHDの発症リスクは低いため、安全に移植を行えると予想できる。
【0034】
または、本実施形態に係る検査方法では、M-to-F HCTにおいて、HLA class II分子として、HLA-DRB1*11:01があるとcGVHDが発症しやすくなり、HLA-DRB1*08:03があるとcGVHDが発症しにくくなると判断してもよい。
すなわち、M-to-F HCTにおいて、ドナー、レシピエントともにHLA-DRB1*11:01を有する場合、そのドナーからの移植はcGVHDの発症率が高いので避けた方がよいと判断可能となる。一方で、HLA-DRB1*08:03を有する場合は、cGVHDの発症率が低いので、安全に移植を行えると予測できる。
【0035】
このように、HLAが適合した血縁者ドナーは同種移植のドナーの第一候補となるものの、異性間の場合は、cGVHDの発症率についての予想により、より適切なドナー選択ができる。
【0036】
これらの男性レシピエント又は女性レシピエントである被験者のHLA-DRアレルの型は、上述の検査とは別途、PCR(Polymerase Chain Reaction)、制限酵素のラダーパターン、ゲノムのシーケンシング、次世代シーケンサーによるシーケンシング等により確定されてもよい。
【0037】
〔検出試薬、検出試薬の製造方法〕
本実施形態に係る検出試薬は、上述の同種抗体検出方法において同種抗体を検出する際に添加されることを特徴とする。
このような抗体測定用の試薬としては、例えば、CF、FA、ELISA、CLEIA、又はフローサイトメトリーに必用な試薬を含んでいてもよい。加えて、上述の同種抗体を検出するための抗体、その他、上述のHLA-DRの型を測定するための試薬を含んでいてもよい。
さらに、各抗体検出用の各種酵素類、緩衝液、洗浄液、溶解液等も含まれてもよい。これに加えて、上述の方式により抗体を検出するための資材や器材等を含んでもよい。
【0038】
本実施形態に係る検出試薬の製造方法は、上述の検出試薬を製造することを特徴とする。具体的には、上述の各試薬を、検出試薬として必用な濃度や量で含まれるように調合する工程、資材や器材等を用意する工程等が含まれてもよい。これらの製造の工程においては、当業者が適宜、必用な各種化学物質、測定機器、及び計測機器等を用いて調整、パッケージング等して製造することが可能である。
【0039】
〔同種抗体検出キット〕
本発明の実施の形態に係る同種抗体検出キットは、上述の検出試薬を含むことを特徴とする。
この検出試薬に加えて、本実施形態に係る同種抗体検出キットは、更に、上述の細胞株の細胞や、検出キットのマニュアルやインストラクション等も含んでいてもよい。
さらに、本実施形態のcGVHDの検査用キットは、検査結果を得るための装置、解析するためのコンピュータ等を含んでいてもよい。このコンピュータ等は、スタンドアロンで構成されても、ネットワーク上のサーバーを用いて構成されてもよい。コンピュータ等は、検査結果を判断し、データ処理し、可視化するためのプログラム、当該コンピュータを備えた装置及びシステム等がインストールされて含んでいてもよい。このような装置及びシステム等は、当業者に一般的な技術、方式等を用いて開発可能である。
このような装置及びシステム等により、ハイスループットでの検査が可能となり、患者の診断が容易となる。
【0040】
〔cGVHD用医薬〕
本発明の実施の形態に係るcGVHD用医薬(医療用組成物)は、同種抗原タンパク質及びHLA class II分子が結合した複合体を標的とする組成物を含むことを特徴とする。
具体的には、後述の実施例で示すように、DBYタンパク質とHLA ClassII分子とが結合した複合体は、aGVHD及び急性白血病の腫瘍細胞上にも発現している。このため、この複合体に対する抗体は、今後白血病に対する治療用の標的として用いることが可能である。この抗体は、例えば、cGVHDに対する同種抗原がGVL効果を誘導するような抗体について、当業者の手法にてクローニングを行って取得してもよい。
さらに、この複合体に対する抗体そのものだけではなく、トランケートされた抗体、抗体様の化学物質、PNA、核酸、抗体の認識部位に対応する化合物、抗体に細胞毒性や抗癌作用のある薬物を結合させたもの、DDS(Drug Delivery System)を用いたもの等(以下、単に「抗体等」という。)を用いてもよい。
【0041】
また、近年、HLA class II発現のダウンレギュレーションが、白血病細胞の免疫逃避や同種移植後の再発を促進することが明らかにされている。また、移植F-to-M HCTでの白血病の再発と、H-Y抗原とは関連している。すなわち、白血病の再発は、本実施形態に係るDBYタンパク質とHLA class II分子の複合体に対する抗体による白血病の認識阻害と関連している可能性がある。
このため、本実施形態に係るH-Y抗原、特にDBY等と複合体を提示する能力を高めたHLA class II分子を発現させるような核酸等を白血病細胞に導入するように構成された遺伝子治療様の医薬も提供可能である。すなわち、例えば、H-Y抗原及びHLA class II分子の複合体を提示させられるような核酸等を白血病細胞に導入して治療用の医薬としてもよい。この核酸等は、例えば、後述する実施例で示したDBY及び/又はHLA-DRB1*15:02と同様の配列を含んでいてもよい。HLA-DRB1*15:02は、より複合体を提示させやすいアイソフォーム1であってもよい。
【0042】
さらに、この核酸等については、例えば、各種ウィルスベクター、プラスミドベクターを用いてもよく、これらを含ませる担体、リポソーム、DDS等を用いてもよい。さらに、ゲノム編集等の当業者に使用可能な手法を用いて、白血病細胞における複合体の細胞外への提示を増やすような構成も可能である。
加えて、及びHLA class II分子が結合した複合体の形成や細胞外提示に関する発現調整の対象とする遺伝子やパスウェイに対する作用を介した医薬を調製し、cGVHD用医薬として構成してもよい。
【0043】
これらを用いたcGVHD用医薬により、骨髄移植をせず又は骨髄移植と併用して白血病の治療を行うことが可能となる。
【0044】
このcGVHD用医薬としては、任意の製剤上許容しうる担体を含んでいてもよい。この担体は、例えば、リポソーム担体、コロイド金粒子、ポリペプチド、リポ多糖類、多糖類、脂質膜等であってもよい。これらの中で、機能活性調整剤の発現調整効果を向上させる担体を用いることが好適である。
【0045】
さらに、製薬上許容される担体としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等を含んでいてもよい。さらに、適当な溶解補助剤、例えばアルコール、具体的にはエタノール、ポリアルコール、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤、例えばポリソルベート80(TM)、HCO-50等と共に投与することが可能である。また、適切な賦形剤等を更に含んでもよい。
【0046】
また、本実施形態のcGVHD用医薬は、製剤上許容しうる担体を調製するために、適切な薬学的に許容可能なキャリアを含んでいてもよい。このキャリアは、シリコーン、コラーゲン、ゼラチン等の生体親和性材料を含んでもよい。また、キャリアは、乳濁液として提供されてもよい。さらには、例えば、希釈剤、香料、防腐剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、乳化剤、可塑剤等の製剤用添加物のいずれか又は任意の組み合わせを含有させてもよい。
【0047】
本発明に係る医薬組成物の投与経路は、特に限定されず、非経口的又は経口的に投与を行うことが可能である。非経口投与としては、例えば、静脈内、動脈内、皮下、真皮内、筋肉内、腹腔内の投与、又は、腎臓等への直接投与が可能である。
本発明の実施の形態に係るcGVHD用医薬は、非経口的又は経口的の投与に適した投与形態において、当該分野で周知の製剤上許容しうる担体を用いて処方され得る。
【0048】
本発明の実施の形態に係るcGVHD用医薬を上述の治療に用いる際に、投与間隔及び投与量は、疾患の状況、さらに対象の状態等の種々の条件に応じて適宜選択及び変更することが可能である。
本発明の実施の形態に係るcGVHD用医薬の1回の投与量及び投与回数は、投与の目的により、更に、患者の年齢及び体重、症状及び疾患の重篤度等の種々の条件に応じて適宜選択及び変更することが可能である。
投与回数及び期間は、1回のみでもよいし、1日1回~数回、数週間程度投与し、疾患の状態をモニターし、その状態により再度又は繰り返し投与を行ってもよい。
【0049】
加えて、本発明の組成物は、他の組成物等と併用することも可能である。また、他の組成物と同時に本発明の組成物を投与してもよく、また間隔を空けて投与してもよいが、その投与順序は特に問わない。
また、本発明の実施の形態において、疾患が改善又は軽減される期間は特に限定されないが、一時的な改善又は軽減であってもよいし、一定期間の改善又は軽減であってもよい。
【0050】
〔治療法〕
本発明の実施の形態に係るcGVHD用医薬は、動物のcGVHDと同様の疾患の治療を行う動物治療にも用いることが可能である。この動物は、特に限定されるものではなく、脊椎動物及び無脊椎動物を広く含む。脊椎動物としては、魚類、両生類、は虫類、鳥類、及び哺乳類を含む。具体的には、例えば、哺乳類は、例えば、マウス、ラット、フェレット、ハムスター、モルモット、又はウサギ等のげっ歯類、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、又は非ヒューマンのトランスジェニック霊長類等であってもよい。また、野生動物としては、哺乳類の他にも、魚類、家禽を含む鳥類、爬虫類等を含む。また、エビや昆虫等を含む甲殻類、その他のイカ等の無脊椎動物等も広く含む。
すなわち、本発明の実施の形態に係るcGVHD用医薬は、ヒトの治療の他に、各種動物の治療、家畜の発育増進等の方法にも用いることができる。
さらに、実施の形態に係るcGVHD用医薬を、cGVHD以外の自己免疫疾患に用いることが可能であってもよい。
【0051】
〔cGVHDのリスク因子となるHLA-DRアレルの同定方法〕
ここで、本実施形態に係る検査方法において、cGVHDのリスク因子となるHLA-DRアレルは、以下のような工程で解析することで、選択することが可能である。
すなわち、HLA適合の血縁者ドナーの異性間移植で、cGVHDの発症しやすさを予測するHLA-DRアレルを同定可能となる。
【0052】
(ステップS1)
HLAの型についてのデータベースにアクセスする。このデータベースは、例えば、後述する実施例で示すような日本造血幹細胞移植学会等で提供されたものであってもよい。具体的には、ドナー、レシピエントの性別で層別化した全国的な登録データを用いることが好適である。
【0053】
(ステップS2)
データベースから取得した登録データを選択する。この選択は、HLAアレルの不一致によるcGVHDへの影響を避けるため、HLA適合血縁者ドナー間の移植に限定する。これは、非血縁者ドナー移植においては、我が国の保険診療では、HLAの主な4項目であるHLA-A,B,C,DRの4項目しか測定できないためである。つまり、これらの4項目が一致していても、測定されないHLA-DP,DQ等で、不一致になる可能性がある。
【0054】
(ステップS3)
選択された登録データを、ドナーとレシピエントの性別で層別化、更に選択する。
【0055】
(ステップS4)
階層化され選択されたHLA-DRアレルとcGVHDとの関係について多変量解析する。これにより、HLA血縁者からの移植後のcGVHD感受性に寄与する特定のHLA class IIアレルを同定する。
【0056】
上述のステップS1~S4のような解析を行うことで、HLA-DRアレルの型として、HLAアレル毎のcGVHDの発症のしやすさ又はしにくさを判断することができる。
すなわち、cGVHDのリスク因子となるHLA-DRアレルを同定し、上述の検査方法に用いることが可能である。
【0057】
〔発明の効果〕
以上のように構成することで、以下のような効果を得ることができる。
cGVHDは、多形性の自己免疫疾患及び同種免疫疾患であり、同種造血幹細胞移植後の晩期疾病及び再発不能死亡率(Non Relapse Mortality。以下、「NRM」という。)の主要原因となっていた。cGVHDは、一旦進行すると難治性になることが多く、早期発見、早期治療が極めて重要であった。
しかしながら、従来、cGVHD罹患した組織の標的細胞や抗原はまだ解明されていなかった。さらに、ヒトで観察される臨床的、病理学的特徴をすべて適切に再現したcGVHDマウスモデル等も存在しなかった。このため、従来、cGVHDの発症を予測することは困難であり、従来の診断では手遅れとなることが多々あった。
【0058】
これに対して、本実施形態に係る同種抗体検出方法により、cGVHDの発症前に、その発症を予測することができる。すなわち、女性ドナーから男性レシピエントへ同種造血幹細胞移植を行った患者のcGVHD発症を、その発症前に予測することができる。よって、cGVHDの早期発見、早期治療に資することができる。
【0059】
さらに、cGVHDは、自己免疫疾患に類似した臨床的特徴を持つ多臓器症候群である。したがって、後述する実施例で示すように、免疫細胞のターゲットに着目して、cGVHDと自己免疫疾患の病態生理における疾患リスクとなるHLAアレルの存在等を理解することで、cGVHDの複雑な病態を理解し、有効な新規治療法の開発に資することができる。
【0060】
また、従来から、cGVHDにおける顕著なリスク因子は女性ドナーから男性レシピエントへの移植であり、それに関連してY染色体にコードされるH-Y抗原に対する同種抗体の出現が知られていた。
しかしながら、H-Y抗原は一般に男性の生殖器官で細胞内に局在するため、臓器レベルでどのように出現するかは不明であった。このため、cGVHD患者の生体内での、病態形成に係る実際の同種抗体は解明されていなかった。また、その検出方法も確立されていなかった。
【0061】
これに対して、本実施形態においては、後述する実施例で示すように、Y染色体にコードされているDBYタンパク質とレシピエントのHLA class II分子とが結合した複合体に対する抗体がcGVHD病態形成に直接関与していることを明らかにした。
【0062】
このため、女性ドナーから男性レシピエントへの同種造血幹細胞移植において、本実施形態に係る同種抗体検出方法により測定した抗体価が基準値より高い場合に、その後のcGVHD発症の可能性が高いと予測することが可能となる。
これにより、同種造血幹細胞移植の治療方針の決定に対して重要な情報を提供することができる。すなわち、この測定値により、高い信頼性をもってcGVHD発症及びNRMの発生の予測を医師が判定するためのデータを提供することができる。
【0063】
また、従来、cGVHDの発症に特定のHLA-DRアレルが関与していることは報告されていなかった。その理由は、ドナーとレシピエント間での性別の違いで層別化して解析されたことがないためであった。
【0064】
これに対して、本実施形態に係る検査方法により、レシピエントの特定のHLA-DRアレルを検査して、cGVHDを発症しやすいか発症しにくいかを判断することが可能となる。すなわち、特に、HLAが適合した血縁であるが、性別が異なるドナーからの同種造血幹細胞移植において、特定のHLA-DRアレルがcGVHDのリスク因子となることを判断可能となる。
このため、本実施形態の検査方法は、早期診断のために予備的な診断するための検査方法としても用いることも可能となる。いいかえると、本実施形態の検査方法により、cGVHDの発症のしやすさを早期に、正確に判断することができる。結果として、的確なドナーの選択、早期治療等を可能とし、治療効果を向上させることができる。
【0065】
また、本実施形態に係る同種抗原タンパク質及びHLA class II分子が結合した複合体を標的とする抗体等を、白血病用医薬として用いることが可能となる。
【0066】
なお、上述の実施形態においては、試料中の同種抗体を検出する検出工程を行ってから、HLA-DRアレルの型を測定し、cGVHDが発症しにくいか発症しやすいかを判断する検査方法として構成する例について記載した。
しかしながら、本発明の他の実施形態に係る検査方法として、同種抗体の検出工程を含まずに、cGVHDが発症しにくいか発症しやすいかを判断することも可能である。すなわち、検査方法として、F-to-M HCTにおいて、HLA class IIのアレルとして、HLA-DRB1*15:02があるとcGVHDが発症しやすくなり、HLA-DRB1*09:01又はHLA-DRB1*12:01では発症しにくくなると判断してもよい。
一方、M-to-F HCTにおいて、HLA-DRB1*11:01があるとcGVHDが発症しやすくなり、HLA-DRB1*08:03があるとcGVHDが発症しにくくなると判断してもよい。
【0067】
また、本発明の実施の形態に係る医薬は、他の組成物等と併用することも可能である。本発明の組成物を、他の組成物と同時に投与、散布、塗布等をしてもよい。
また、上述の実施の形態においては、被験者から取得した試料は、被験者から単離された血漿又は血清である例について記載したものの、生検で得られた皮膚サンプルや血管サンプル等であってもよい。
【0068】
加えて、本実施形態に係る医療用組成物を、医薬以外の用途に用いることも可能である。さらに、動物でのcGVHDにおける作用機序の実験やモデル等に用いることも可能である。
【実施例0069】
以下で、本発明の実施の形態に係るcGVHD特異的バイオマーカーについて、具体的な実験を基にして、実施例としてさらに具体的に説明する。しかしながら、この実施例は一例にすぎず、これに限定されるものではない。
【0070】
〔材料と方法〕
(臨床データ)
造血幹細胞移植レシピエントの臨床データは、日本の全国データベース(移植登録統一管理プログラム、以下、「TRUMP」という。)から入手し、日本移植・細胞治療学会(以下、「JSTCT」という。)及び日本造血細胞移植データセンター(以下、「JDCHCT」という。)から提供された。2001年から2019年の間にHLA同一血縁者ドナーから初回移植を受け、好中球生着を達成し、100日以上生存した成人患者(年齢18歳以上)を取得、選択対象とした。HLA-A、-B、-C、-DRアレルのデータは、すべてのドナーとレシピエントについて取得可能であった。血液疾患がない患者、又はHLAとcGVHDに関する情報が十分でない患者は除外した。cGVHD発症に対するドナー由来の抗体の影響に注目するため、移植前及び移植後も寛解に至らなかった患者も除外した。骨髄破壊条件(以下、「MAC」という。)レジメンは、総照射量8Gy超、経口ブスルファン量9mg/kg以上、静脈内ブスルファン量7.2mg/kg以上、又はメルファラン量140mg/m2以上と定義した。24グレードII~IVのaGVHDとcGVHDは、主治医が診断した。
この研究は、TRUMPのデータ管理委員会及び自治医科大学の審査委員会によって承認された。
【0071】
(ヒトの試料)
ヒトの試料として、血漿(n=143)、皮膚生検標本(n=7)、及び白血病細胞(n=14)は、自治医科大学附属病院から入手し、自治医科大学附属病院埼玉医療センターで取得された。研究は、ヘルシンキ宣言に記載された倫理原則に則り、自治医科大学疫学研究生命倫理委員会にて承認された。分析に含まれるすべての個人からインフォームドコンセントを得た。
【0072】
(細胞株)
293T細胞(RCB2202)、Raji細胞(RCB1647)、THP-1細胞(RCB1189)を理化学研究所から購入した。HEL(JCRB0062)、KasumiA-541(JCRB1411)、KHM-2B(JCRB1394)、KO52細胞(JCRB0123)は、日本研究生物資源細胞バンクから入手した。293T細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(P/S)(Gibco社製)、GlutaMAX supplement(Gibco社製)を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Gibco社製)において培養した。HEL、KHM-2B、Raji、及びTHP-1細胞は、10%FBS及び1%P/Sを含むRPMI1640培地(Sigma-Aldrich)中で維持した。KasumiA-541細胞は、20%FBS及び1%P/Sを含むRPMI1640培地で増殖させた。KO52細胞は、10%FBS及び1%P/Sを含むα-MEM(Gibco社製)中で培養した。すべての細胞株は、5%CO2インキュベーターで37℃にて培養された。
【0073】
(H-Y抗原及びHLA-DRアレルのトランスフェクション)
293T細胞を24ウェル細胞培養プレート(コーニング社製)にて24時間培養した。細胞が70~80%のコンフルーエントに達した後、製造元の指示に従い、Lipofectamine 3000(Thermo Fisher Scientific社製)を用いてプラスミドDNA(全長H-Y抗原、HLA-DRA*01:01、各HLA-DRB1アリル、GFP)でトランスフェクションした。
トランスフェクション後2日目に細胞を回収し、フローサイトメトリー、イムノブロット、免疫蛍光染色(以下、「IF」という。)、in situ Proximity Ligation Assay(以下、「PLA」という。)により解析した。
【0074】
(プラスミド)
pSI Mammalian Expression VectorはPromega社から、pCAG-GFPはAddgene社から購入した。DBY(アイソフォーム1)、EIFA1Y、RPS4Y1、UTY、及びZFYの全長cDNAは、Horizon社から入手した。フローサイトメトリーに適した市販の抗H-Y抗体がないため、これらのcDNAをPCRでクローニングし、N末端にFLAGタグ(DYKDDDDK)、C末端にMycタグ(EQKLISEDを付加した。これらのcDNAをDNA Ligation kit(Takara Bio)を用いてpSIベクターのEcoRIとNotIの部位にライゲーションした。そして、pSI-FLAGDBY-Myc、pSI-FLAG-EIFA1Y-Myc、pSI-FLAG-RPS4Y1-Myc、pSI-FLAG-UTY-Myc、pSI-FLAG-ZFY-Mycを作成した。DBYアイソフォーム2及び3は、In-FLAG-DBY(アイソフォーム1)-MycからIn-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ社製)を用いて作成した。HLA-DRA1*01:01、HLA-DRB1*15:01、HLA-DQA1*01:01、HLA-DQB1*05:01、invariant chainの遺伝子構築物はEurofins Genomics社から購入した。HLA-DRB1対立遺伝子の配列は、IMGT/HLAデータベース(https://www.ebi.ac.uk/ipd/imgt/hla/)を用いて確認された。TRUMPのF-to-Mコホートにおいて、5人以上の患者から得られたHLADRB1対立遺伝子は、In-Fusion HD Cloning Kit及びKOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社製)を用いてHLA-DRB1*15:01から作成された。これらの各HLA-DRB1及びinvariant chainの増幅断片をpSI VectorのEcoRI/NotI部位にクローニングした。これらの発現プラスミドを大腸菌DH5α(タカラバイオ社製)に形質転換し、アンピシリン(シグマアルドリッチ社製)を添加したLBブロス(シグマアルドリッチ社製)で37℃にて培養を行った。これらのプラスミドは、NucleoBond Xtra Maxi(タカラバイオ社製)を用いて、製造者の指示に従って調製した。
【0075】
(フローサイトメトリー、FACS)
トランスフェクトした細胞をHuman BD Fc block(BD Biosciences社製)とインキュベートし、非特異的抗体結合をブロックした。ブロッキング後、FVD780(eBioscience社製)を用いて死細胞を標識した。その後、トランスフェクションした細胞を特異的抗体と30分間インキュベートした。細胞内染色には、製造元のプロトコールに従って転写因子バッファーセット(BD Biosciences社製)を使用した。染色された細胞は、BD LSRFortessa(商標) X-20(BD Biosciences社製)を用い、データはFlowJoソフトウェア(Tomy Digital Biology社製)を用いて分析した。
フローサイトメトリー解析に使用した抗体は以下の通りである:APC抗ヒトHLA-DR抗体(L243、BioLegend社製)、APCマウスIgG2a、κアイソタイプCtrl抗体(MOPC-173、BioLegend社製)、APC抗ヒトHLA-DQ抗体(SK10、eBioscience社製)、PE抗DYKDDDDKタグ抗体(L5、BioLegend社製)。
【0076】
(共免疫沈降法とウェスタンブロット解析)
共免疫沈降法(Co-Immunoprecipitation assay。以下、「Co-IP」ともいう。)は、Dynabeads Co-Immunoprecipitationキット(VERITAS社製)を使用し、製造者の説明書(マニュアル)に従って実験を行った。簡単に説明すると、Dynabeads M-270 Epoxyを抗HLA-DR抗体(HL40、Thermo Fisher Scientific社製)または抗DYKDDK-Tag抗体(L5、BioLegend社製)と37℃で24時間カップリングした。トランスフェクトした細胞を、100mM NaClと0.2%フェニルメチルスルホニルフルオリドプロテアーゼ阻害剤を含む付属の抽出バッファーで氷上15分間溶解させた。抗体結合Dynabeads M-270 Epoxyを4℃で30分間、溶解液と混合した。インキュベーション後、ビーズに結合したタンパク質を付属の溶出バッファーで溶出した。溶出後、試料タンパク質を5%β-メルカプトエタノールを含む2×Laemmli sample buffer(Bio-Rad Laboratories社製)と混合し、98℃で5分間煮沸することにより変性させた。混合物を4%~20%のMini-PROTEAN TGX Precast Protein gels(Bio-Rad Laboratories社製)にロードし、iBlot Dry Blotting System(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて転写した。メンブレンは、0.05%のTween 20を含むTris緩衝生理食塩水中の5%脱脂乳で1時間ブロッキングした。ブロッキング後、メンブレンを一次抗体と室温(25℃、RT)で1時間、次いで二次抗体とRTで1時間インキュベートした。ウェスタンブロット解析には、以下の抗体を使用した: 抗DYKDDK-tag抗体(2368、Cell Signaling Technology社製)、抗Myc-tag抗体(ab9106、Abcam社製)、抗HLA-DR抗体(HL-40、Thermo Fisher Scientific社製)、抗ラビットIgG、HRP結合抗体(Cell Signaling Technology社製)、ヤギ抗マウスIgG(H+L)二次抗体、HRP(Thermo Fisher Scientific社製)。SuperSignal chemiluminescent substrate(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、免疫反応性バンドを検出した。
【0077】
(DBY/HLA class II複合体に対する抗体の解析)
全長DBY、HLA-DRA*01:01、各HLA-DRB1対立遺伝子、及びGFP、又はHLA-DRA*01:01、各HLA-DRB1対立遺伝子、及びGFPを293T細胞へトランスフェクトさせた。トランスフェクトした細胞を、0.1%ウシ血清アルブミンを含むHanks' Balanced Salt Solution(Thermo Fisher Scientific社製)で2回洗浄した。死細胞染色及びFCブロッキング後、トランスフェクトした細胞を、1:50に希釈した患者血漿とともに氷上で1時間インキュベートし、続いて1:50に希釈したAPC-ヤギ抗ヒトIgG(Jackson Immuno Research社製)で30分、RTで標識した。その後、染色した細胞を2回洗浄し、フローサイトメトリーで解析した。抗DBY/HLA class II複合体抗体価は、DBY及びHLA-DRB1*15:02でトランスフェクトしたGFP陽性細胞へのIgG結合のMFIからHLA-DRB1*15:02のみでトランスフェクトしたGFP陽性細胞へのIgG結合のMFIを差し引くことにより算出した。
【0078】
(血漿中のDBY抗体検出のためのEnzyme-linked immunosorbent assay(酵素結合免疫吸着測定法))
96ウェル平底プレート(住友ベークライト社製)に、50mM炭酸-重炭酸緩衝液中50ng/μLのDBYタンパク質(MyBioSource社製)を50μLコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。インキュベーション後、プレートをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)と0.02%Tween中の5%脱脂乳200μLで37℃で1時間ブロッキングした。洗浄後、プレートをPBS-0.02% Tween中の5%脱脂乳100μLで1:50に希釈した患者の血漿と37℃で1時間インキュベートした。その後、プレートを、PBSと0.02% Tween中の5%脱脂乳で1:1000に希釈したペルオキシダーゼゴート抗ヒトIgG抗体(Jackson Immuno Research社製)と37℃で30分インキュベートした。最後に、100μLのSureBlue(登録商標) TMB Microwell Peroxidase Substrate(LGC Clinical Diagnostics社製)をプレートに加え、100μLのTMB Stop solution(LGC Clinical Diagnostics社製)を使用して反応を停止させた。その後、Spark(TECAN社製)により、620nmの基準波長を用いて450nmの吸光度を測定した。血漿IgGのDBYへの特異的結合は、50mM炭酸水素緩衝液でコーティングしたDBYのOD値からコントロールのOD値を差し引くことにより求めた。
【0079】
(DBY/HLA class II複合体の発現量及びDBY/HLA class II複合体への抗体結合量に対する異なるHLA-DRB1対立遺伝子の影響)
全長H-Y、HLA-DRA*01:01、各HLA-DRB1対立遺伝子、及びGFPを293T細胞にトランスフェクトした。フローサイトメトリーにより、細胞表面におけるH-Y抗原の発現量を比較した。次に、同種移植後、3ヶ月で採取した男性cGVHD患者の血漿を用いて、各HLA-DRB1対立遺伝子におけるDBY/HLA class II複合体への自己抗体結合を解析した。最後に、DBY/HLA class II複合体の量とDBY/HLA class II複合体に結合する抗体との関連を、ピアソン積率相関係数を用いて評価した。
【0080】
(CDCアッセイ)
トランスフェクトした293T細胞を回収し、10%FBSを含むDMEMで2回洗浄した。洗浄後、100μLのDMEM中の1×106の細胞を、スピンカラムベースの抗体精製キット(Protein G)(コスモバイオ社製)を用いて、抗DBY/HLA class II複合体抗体を含む男性cGVHD患者の血漿から精製したIgGとインキュベートした。4℃で1時間インキュベートした後、細胞を2回洗浄し、1:6に希釈した標準ウサギ補体(Cedarlane Laboratories社製)と37℃で1時間インキュベートした。最後に、死細胞をFVD780で染色し、フローサイトメトリーで分析した。
【0081】
(IF)
細胞は4%パラホルムアルデヒドで、氷上で15分間固定した。その後、非特異的部位をPBS中の5%ロバ血清で、RTで1時間ブロッキングした。その後、細胞を抗HLA-DR抗体(HL-40、Thermo Fisher Scientific社製)及び抗Myc-tag抗体(ab9106、Abcam社製)とともにRTで1時間インキュベートし、ヤギ抗マウスIgG H&L(Alexa Fluor(登録商標)594)プレアドソーブ(Abcam社製)及びヤギ抗ラビットIgG H&L(Alexa Fluor(登録商標)488)プレアドソーブ(Abcam社製)で30分間処理してRTとした。核はDAPI(PerkinElmer社製)でカウンター染色し、Olympus BX63顕微鏡(Olympus社製)を用いて画像を得た。画像はFiji Image J Software(富士フイルム社製)を使って処理した。
【0082】
(in situ PLA)
PLAは、Duolink in Situ Red Starter kit (Sigma-Aldrich社製)を用いて、製造者の指示に従い実行した。抗HLA-DR抗体(HL-40、Thermo Fisher Scientific社製)及び抗Myc-tag抗体(ab9106、Abcam社製)はトランスフェクトした293T細胞に、抗HLA-DR抗体(ERP3692、Abcam社製)及び抗DBY抗体(B4、Santa Cruz Biotechnology社製)はホルマリン固定パラフィン包埋(formalin-fixed paraffin-embedded、FFPE)切片、ヒト白血病細胞株及び患者から採取した白血病細胞に使用された。
【0083】
(病理組織学的評価)
皮膚生検試料のFFPE切片は、cGVHDの患者から入手した。健康な皮膚生検試料は、US Biomax社及びOriGene社から購入した。切片はキシレンを用いて脱パラフィンし、段階的なエタノールシリーズで脱水した。抗原回収は、オートクレーブを用いて、ターゲット回収液(Dako社製)を用いて121℃、20分間行った。ヘマトキシリン・エオシン染色は、Mayer's Hematoxylin solution(富士フイルム社製)、Eosin Y(富士フイルム社製)を用いて行った。IHCについては、抗原回収後の切片を3%過酸化水素で15分間RT処理し、PBS中の2%ロバ血清で、30分間RTでブロックし、Avidin/Biotin Block Kit(Vector Laboratory社製)を使用して分析した。その後、切片を一次抗体とRTで1時間、対応する二次抗体とRTで30分インキュベートした。二次抗体とのインキュベーション後、VECTASTAIN ABC標準キット(Vector Laboratory社製)を製造者の説明書に従って使用した。最後に、ペルオキシダーゼ染色DABキット(Brown Stain)(ナカライテスク社製)を用いて、免疫反応性を可視化した。IFについては、抗原回収を行った切片を使用した。切片を一次抗体と37℃で1時間インキュベートした後、二次抗体とRTで30分インキュベートした。核はDAPI(PerkinElmer社製)でカウンターステインした。一次抗体は、抗DDX3抗体(C4、Santa Cruz Biotechnology社製)、抗HLA-DR抗体(HL-40、Thermo Fisher Scientific社製)、α-SMA抗体(ab5694、Abcam社製)、抗CD31抗体(H-3.Santa Cruz Biotechnology社製)、抗BAFF抗体(AF124、R&D Systems社製)、抗CXCL9抗体(A-9、Santa Cruz Biotechnology社製)、抗CXCL10抗体(1、Santa Cruz Biotechnology社製)、抗C4d抗体(ab8724、Abcam社製)、二次抗体にはビオチン化ウマ抗マウスIgG抗体(H+L)(Vector Laboratory社製)、ビオチン化ヤギ抗ウサギIgG抗体(H+L)(Vector Laboratory社製)、horse antigoat IgG antibody(H+L)、biotinylated(Vector Laboratory社製)、goat antimouse IgG H&L(Alexa Fluor(登録商標)594) preadsorbed(Abcam社製)、及びgoat antirabbit IgG H&L(Alexa Fluor(登録商標)488) preadsorbed(Abcam社製)が含まれていた。
【0084】
(qRT-PCR)
製造者のプロトコールに従って、RNeasy Micro Kit(QIAGEN社製)を用いて5×104の白血病細胞からトータルRNAを単離した。その後、単離したRNAをsuperscript IV VILO master mix (Thermo Fisher Scientific社製)を用いて逆転写させた。Quantitative real-time polymerase chain reaction(qRT-PCR)反応は、QuantiNova SYBR Green PCR Kit(QIAGEN社製)を用いて、製造者の説明書に従って実施した。インターナルコントロール(比較例)としてGAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)を使用した。
【0085】
使用したプライマーは、下記と添付する配列表に記載した通りである:
DBYプライマーF: 5′-CGTGCTTCTCTTGACCCTGTA-3′ …… 配列番号(1)
DBYプライマーR: 5′-CCTTGCTCGCTGTACTTGC-3′ …… 配列番号(2)
GAPDHプライマーF: 5′-GGATTTGTCGTATTGGG3′ …… 配列番号(3)
GAPDHプライマーR: 5′-GGAAGATGTGATGGATT-3′ …… 配列番号(4)
【0086】
(ライト・ギムザ染色)
BMスミアはライト液とギムザ液(ムトー純薬社製)を用いて染色した。
【0087】
(NetMHCIIpan 4.0を用いたペプチド結合親和性の予測)
DBYと各HLA class II対立遺伝子との結合親和性を測定するために、NetMHCIIpan 4.0を使用した。このシステムは、人工ニューラルネットワークに基づくアライメント法を用いて、ペプチド結合アッセイの結果をin silicoで予測する。ペプチド長は、初期設定である15アミノ酸と仮定した。各HLA-DRB1対立遺伝子に対するDBYの結合親和性についての%rank値を比較した。rank値が1.0未満のものを強結合体と定義した。
【0088】
(統計解析)
aGVHD及びcGVHDの累積発生率は、移植時からaGVHD及びcGVHDの発生まで、競合リスクとして再発または死亡を伴わずに測定された。aGVHDとcGVHDの累積発生率は、Grayの方法で評価した。多変量解析は、Fine-Gray法を用いて実施した。患者年齢(線形)、パフォーマンスステータス、条件レジメン、幹細胞の供給源、GVHD予防、移植年数、各HLA-DRB1対立遺伝子は多変量解析の対象となった。すべての統計解析は、EZR(バージョン1.55、自治医科大学埼玉医療センター)を用いて行った。in vitro解析は、Prism 7.0 software(グラフパッド社聖)を用いて行った。2群の平均値の比較には、Prism 7.0における対にならない両側Student's t testを使用した。すべての図において、エラーバーは平均値の標準偏差を表す。すべてのp値<0.05は統計的有意性を示す。
【0089】
〔結果〕
HLA class IIアレルは、HLA同一女性血縁者ドナーからの男性レシピエントの同種移植後のcGVHD発症に影響を与える。
本発明者らは、まず、HLA class IIアレルがF-to-M HCTにおけるcGVHDの発生に影響するかどうかを、日本の全国データベースを用いて検討した。
このHLA同一の女性の血縁者ドナーから移植を受けた男性患者(以下、「F-to-Mコホート」という。)の臨床的特徴を下記の表1に示す:
【0090】
【0091】
表1においては、cGVHDに対するHLAミスマッチの潜在的影響を排除するために、F-to-Mコホートを分析した。合計768人(n=768)の患者が評価された。患者は、骨髄(BM)移植245人、末梢血幹細胞(PBSC)移植522人、BM+PBSC移植1人であった。患者のうち、64.6%が白血病(Leukemia)と診断され、77.9%がサイクロスポリンに基づいた(Cyclosporine-based)のGVHD予防処置が行われ、71.2%がこれに伴う骨髄破壊的前処置(Myeloablative:myeloablative conditioning、MACレジメン)を受けていた。
【0092】
次に、本発明者らは、cGVHD累積発症リスクについて、上述のF-to-Mコホート(n=768)について、多変量解析を行った。具体的には、5%以上の頻度で存在するHLA-DRアレル(HLA-DRB1アレル)がcGVHDの発症に及ぼす影響を評価した。cGVHDの発症に対する各HLA-DRアレルの影響はFine-Gray法により算出された。
この解析の結果を下記の表2に示す:
【0093】
【0094】
(HLA-DRB1アレルが、cGVHD発症に与える影響)
表2に示したように、HLA-DRB1アレルによりcGVHDの発症リスクが異なっていた。多変量解析では、HLA-DRB1*15:02陽性群は、発症率が増加し、cGVHDのリスク上昇と有意に関連していた。この群のハザード比(HR)は1.28、95%信頼区間(CI)は1.03~1.58、P=0.025であった。
逆に、HLA-DRB1*09:01陽性群は、cGVHDのリスク低下と有意な相関があった。この群のHRは0.74、95%CIは0.59~0.93、P=0.010であった。
また、HLA-DRB1*12:01陽性群は、統計的有意性の境界線上にあった。この群のHRは0.63、95%CIは0.39~1.01、P=0.053であった。
【0095】
F-to-Mコホートのこれらのアレルについて、実際の発症率を算出した。
図1に、このF-to-MコホートのcGVHDの累積発症率を示す。各グラフにおいて、横軸は移植後の経過年数、縦軸はcGVHDの累積発症率を示す。いずれも、Gray検定によって比較された。
【0096】
図1(a)は、HLA-DRB1*15:02陽性(淡色線)の患者と陰性(濃色線)の患者とを比較した結果を示す。HLA-DRB1*15:02陽性群は、HLA-DRB1*15:02陰性群よりもcGVHDの累積発生率が高かった。具体的には、1年経過後で55.1%(95%CI 47.2%~62.3%)対46.6%(95%CI 42.5%~50.5%)であり、P=0.035であった。
【0097】
図1(b)は、HLA-DRB1*09:01陽性(淡色線)の患者と陰性(濃色線)の患者とを比較した結果を示す。HLA-DRB1*09:01陽性群は、HLA-DRB1*09:01陰性群と比較して、cGVHDの累積発生率が低かった。具体的には、1年経過後で40.4%(95%CI 34.0%~46.7%)対51.8%(95%CI 47.5%-56.0%)であり、P=0.009であった。
【0098】
図1(c)は、HLA-DRB1*12:01陽性(淡色線)の患者と陰性(濃色線)の患者とを比較した結果を示す。HLA-DRB1*12:01陽性群は、HLA-DRB1*12:01陰性群と比較して、cGVHDの累積発生率が低いことが示された。具体的には、1年時点で34.8%(95%CI 21.3%~48.6%)対49.3%(95%CI 45.6%~52.9%)であり、P=0.045であった。
【0099】
まとめると、HLA-DRB1*15:02、HLA-DRB1*09:01、HLA-DRB1*12:01はF-to-MコホートにおけるcGVHD発症と相関があった。具体的には、F-to-Mコホートでは、HLA-DRB1*15:02がcGVHD発症を増加させた。
一方で、HLA-DRB1*09:01、HLA-DRB1*12:01は、cGVHD発症を減少させた。
【0100】
図2は、F-to-Mコホートの急性GVHD(以下、「aGVHD」という。)累積発症率を示す。各グラフにおいて、横軸は移植後の経過日数、縦軸はcGVHDの累積発症率を示す。いずれも、
図1と同様に、Gray検定によって比較された。
【0101】
図2(a)によると、aGVHDはcGVHDの主要なリスク因子であるものの、HLA-DRB1*15:02は、グレードII~IVのaGVHDの累積発生率において、陽性群と陰性群とで差がなかった。具体的には、100日時点で34.5%(95% CI 27.4%-41.8%)対34.7%(95%CI 30.9%~38.6%)であり、P=0.795であった。
【0102】
図2(b)によると、HLA-DRB1*09:01も、aGVHDは、陽性群と陰性群とで差がなかった。具体的には、100日時点で32.2%(95%CI 26.2%~38.3%)対35.8%(95%CI 31.7%~39.8%)であり、P=0.276であった。
【0103】
図2(c)によると、HLA-DRB1*12:01も、aGVHDは、陽性群と陰性群とで差がなかった。具体的には、100日時点で37.0%(95%CI 23.2%~50.8%)対34.5%(95%CI 31.1%~38.0%)であり、P=0.522であった。
【0104】
まとめると、HLA-DRB1*15:02、HLA-DRB1*09:01、HLA-DRB1*12:01は、aGVHD発症に影響を与えなかった。
これらの結果は、HLA-DRB1*15:02、HLA-DRB1*09:01、及びHLA-DRB1*12:01が、aGVHD非依存的メカニズムを通じてcGVHDの発生に関与することを示唆した。
【0105】
次に、HLA同一性の男性血縁者ドナーからの男性レシピエント(以下、「M-to-Mコホート」という。)、女性ドナーからの女性レシピエント(以下、「F-to-Fコホート」という。)、男性ドナーからの女性レシピエント(以下、「M-to-Fコホート」という。)、に関する同様の解析を行った。
【0106】
まず、本実施例に係るM-to-Mコホート(n=848)の臨床的特徴を下記の表3に示す:
【0107】
【0108】
下記の表4に、M-to-MコホートによるcGVHD累積発症リスクの多変量解析(n=848)の結果を示す。
【0109】
【0110】
このように、F-to-Mコホートと比較して、M-to-MコホートはcGVHDの累積発生率が低かった。
【0111】
図3は、ドナーの性別に応じた男性レシピエントにおけるcGVHDの累積発生率を示す。濃色は男性ドナー(M-to-Mコホート)、淡色は女性ドナー(F-to-Mコホート)を示す。横軸は移植後の経過年数、縦軸はcGVHDの累積発症率を示す。具体的には、1年経過後で、35.7%(95% CI 32.4%-38.9%)対48.4%(95% CI 44.8%-51.9%)であり、P <0.001であった。
すなわち、男性レシピエントの場合、ドナーの性別がcGVHDのリスク因子となっていることが確かめられた。
【0112】
図4は、M-to-Mコホートにおける、HLA-DRアレルのcGVHD累積発症率を示す。
M-to-Mコホートでは、リスク因子となるHLA-DRアレルの型はなかった。
【0113】
次に、本実施例に係るF-to-Fコホート(n=615)の臨床的特徴を下記の表5に示す:
【0114】
【0115】
下記の表6に、F-to-FコホートによるcGVHD累積発症リスクの多変量解析(n=615)の結果を示す。
【0116】
【0117】
HLA-DRアレルは、F-to-FコホートにおけるcGVHDの発生率に影響を与えなかった。すなわち、F-to-Fコホートでも、リスク因子となるHLA-DRアレルの型はなかった。
【0118】
次に、本実施例に係るM-to-Fコホート(n=658)の臨床的特徴を下記の表7に示す:
【0119】
【0120】
下記の表8に、M-to-FコホートによるcGVHD累積発症リスクの多変量解析(n=658)の結果を示す。
【0121】
【0122】
M-to-Fコホートでは、HLA-DRB1*08:03が、cGVHDのリスクを減少させた。具体的には、HR 0.66、95%CI 0.46~0.96、P=0.031であった。
また、HLA-DRB1*11:01が、cGVHDのリスクを増加させた。具体的には、HR 1.74、95% CI 1.02~2.98、P=0.044であった。
【0123】
これらの知見を総合すると、F-to-M HCTにおいては、HLA-DRB1*15:02、HLA-DRB1*09:01、HLA-DRB1*12:01は、cGVHD発症と特異的な関連があり、発症しやすくなることが示された。
さらに、HLA-DRアレルとcGVHDの関連は、F-to-M HCTに限定されるものではなかった。M-to-F HCTにおいては、HLA-DRB1*11:01があるとcGVHDが発症しやすくなり、HLA-DRB1*08:03があるとcGVHDが発症しにくくなることが示された。
すなわち、F-to-M HCT及びM-to-F HCTにて、特定のHLA class IIがcGVHD発症に関連していた。
【0124】
(細胞内の全長DBYタンパク質は、HLA class II分子と複合体を形成して細胞表面に提示される)
次に、cGVHDに特異的な関連があるHLA-DRB1*15:02分子が、全長H-Y抗原の細胞表面への輸送に必須の役割を果たすかどうかを検討した。
具体的には、H-Y抗原は細胞内タンパク質であり、H-Y抗原が細胞表面に表出してcGVHD発症に関与するか不明であったため、これを明らかにした。
【0125】
図5は、FACSの結果を示す。具体的には、H-Y抗原(DBY、EIF1AY、RPS4Y、UTY、及びZFY)の細胞表面及び細胞内発現をフローサイトメトリーで測定した。Mock(網掛けヒストグラム)、H-Y抗原(濃色線)、又はHLA-DRB1*15:02を有するH-Y抗原(淡色線)を、293T細胞にトランスフェクトした。すべてのH-Y抗原は、N末端にFLAG-tagを融合させ、抗FLAG-tag抗体を用いて検出した。細胞表面(上段の5つのヒストグラム)及び細胞内(下段の5つのヒストグラム)の解析結果を示す。
【0126】
図6は、HLA-DR発現のフローサイトメトリーの測定結果を示す。Mock(灰色ヒストグラム)、DBY(濃色線)、又はHLA-DRB1*15:02を有するDBY(淡色線)を293T細胞にトランスフェクトした後、トランスフェクト細胞を抗HLA-DR抗体で染色した解析結果を示す。
【0127】
結果として、HLA-DRB1*15:02(α鎖:DRA1*01:01)を導入した293T細胞に、N末端にFLAG-tagを付けた各H-Y抗原をトランスフェクションしたところ、HLA-DRB1*15:02は、H-Y抗原の細胞表面への輸送に必須な役割を果たした。
具体的には、H-Y抗原を単独でトランスフェクトした場合、いずれの抗原も細胞表面に検出されなかった。一方、HLA-DRB1*15:02との共導入では、すべてのH-Y抗原が細胞表面に存在するようになり、DBYが最も強く発現した。
【0128】
このように、HLA class IIを遺伝子を導入することで、細胞表面にH-Y抗原が表出された。このH-Y抗原の中ではDBYが最も表出された。
血漿中のDBY抗体はcGVHDの発症と重症度の最も強力な予測因子であることが証拠によって示されている。したがって、DBYは、特定のHLA class IIアレルがcGVHDの発症と関連している理由を説明する最も高い可能性を持っている。
また、DBYには、3つの交互スプライシングアイソフォームが存在するため、これをそれぞれ測定したところ、同様の結果となった。これらのうち、本発明者らは、その後の実験で、DBYアイソフォーム1を用いた。
【0129】
図7に、完全長DBYがHLA class II分子と複合体を形成するかどうかを共免疫沈降法を用いて解析した結果を示す。完全長DBYを検出するために、DBYはN末端にFLAG-tagを、C末端にMyc-tagを融合させた。DBYとHLA-DRの両方をトランスフェクトした細胞から抗FLAG-tag抗体と抗Myc-tag抗体の両方を用いてHLA-DRとIPすることにより、73kDaの完全長のDBYタンパク質の検出が可能になった。具体的には、FLAG-DBY-MycとHLA-DRB1*15:02、FLAG-DBY-Myc、HLA-DRB1*15:02、又はMockとを、293T細胞にトランスフェクションした。トランスフェクトした細胞を溶解し、抗HLA-DR抗体(左側)及び抗FLAG-tag抗体(右側)を用いて共免疫沈降法を行った。得られた免疫沈降物(immunoprecipitate、IP)は、指定の抗体でブロットした。
【0130】
結果として、DBYは全長でHLA class IIと複合体を形成した。すなわち、HLA class II分子は、DBYタンパク質をペプチドに断片化することなく細胞表面に輸送された。
【0131】
ここで、トランスフェクトした細胞におけるHLA-DRとMyc-tag DBYの発現を確認した。
図8は、完全長DBYとHLA class IIの共局在をさらに確認するために、抗HLA-DR抗体と抗Myc-tag抗体を用いてIFによる染色を行った例を示す。各写真の原倍率は200倍、スケールバーは5μmである。
具体的には、DBYとHLA-DRB1*15:02とをトランスフェクトした293T細胞のIFを行った。DBYはC末端にMyc-tagを融合させ、抗Myc-tag抗体を用いて検出した(左上)。HLA-DRとMyc-tagとの二重免疫染色を行った(左下)。核は、DNAと結合する蛍光色素である4',6-diamidino-2-phenylindole(以下、「DAPI」という。)で染色した(右上)。これらの写真を合成した(Merge)ものを、右下に示す。
【0132】
次に、PLAを行ってタンパク質間相互作用を観察した。
図9は、Mycタグ付きDBYとHLA-DR間のタンパク質-タンパク質相互作用を可視化するためのPLAの例を示す。各写真の原倍率は400倍、スケールバーは20μmである。
【0133】
Mycタグ付きDBYとHLA-DRの共局在化によりPLAシグナル(淡色)が誘発された。モック(左側)又はHLA-DRB1*15:02(右側)を293T細胞にトランスフェクトし、解析した。核はDAPIで染色した。
PLAシグナルは、2つの抗原が40nmより近い場合に検出される。結果として、DBYとHLA-DRをトランスフェクトした細胞でPLAシグナルが検出された。
【0134】
不変性鎖(invariant chain、以下、「Ii」という。)は、新しく合成されたHLA class II分子のシャペロンとして、ペプチドやミスフォールドしたタンパク質が小胞体にロードされるのを防ぎ、HLA class II分子をエンドソームに導く役割を担っている。
【0135】
図10は、Iiの有無による細胞表面DBY発現のフローサイトメトリーの結果を示す。Mockは(灰色ヒストグラム)、DBY及びHLA class IIを有するIi(濃色線)またはHLA class IIを有するDBY(淡色線)を293T細胞にトランスフェクトした。HLA-DRB1*15:02(左側)、HLA-DRB1*15:01(中側)、HLA-DQB1*05:01(右側)の解析結果を示す。MockはpSIベクターのみである。すべてのデータは3つの独立した実験の代表値である。
【0136】
結果として、Iiの存在下でも、HLA-DRB1*15:02はDBYを効率よく細胞表面に輸送していた。同様の結果は、CD4+ T細胞にDBYペプチドを提示することが報告されているHLA-DRB1*15:01とHLA-DQB1*05:01でも見られた(図示せず)。
【0137】
これらの知見を総合すると、H-Y抗原はHLA class II(HLA-DRB1*15:02)と複合体を形成して細胞表面に表出していた。このH-Y抗原の中では、DBYがHLA-DRB1*15:02と最も複合体を形成していた。
すなわち、完全長のH-Y抗原、特にDBYはHLA-DRB1*15:02と複合体を形成することによって細胞表面に出現し、HLA class II分子に対するDBYの親和性はHLA class II分子に対するIiの親和性よりも強くなっていることが示された。
以下、このDBYタンパク質及びHLA class II分子が結合した複合体を、「DBY/HLA class II複合体」と省略して記載する。
【0138】
(抗DBY/HLA class II複合体抗体は、cGVHD発症に関与するか)
HLA class II分子と複合したDBYに対する自己抗体の存在は、cGVHDのリスクを増加させると考えられる。すなわち、抗DBY抗体の出現はcGVHD発症に関連する。
しかしながら、DBY/HLA class II複合体がcGVHDの標的抗原となるかは不明であった。このため、DBY/HLA class II複合体を認識する抗体が、cGVHD発症の病因となりうるか解明した。
【0139】
ここでは、F-to-M HCT後にcGVHDを起こした患者が、HLA class II分子と複合化したDBYに対するIgG抗体を持っているかどうかを検証した。移植患者は輸血によって抗HLA抗体を獲得する危険性があることから、血漿中のDBYに対するIgGを比較した。具体的には、293T細胞表面に発現したDBY/HLA-DRB1*15:02複合体及びHLA-DRB1*15:02単独に対する血漿中IgGを比較した。
【0140】
図11は、FACSを用いた、F-to-M移植の患者血漿中(n=73)の抗DBY/HLA class II複合体抗体の検出の結果である。すなわち、F-to-M HCT後の患者におけるHLA class II分子と複合したDBYに結合する血漿抗体のフローサイトメトリーの結果を示す。ここでは、希釈した血漿を、Mock(網掛けヒストグラム)、HLA-DRB1*15:02(濃色線)、又はDBYとHLA-DRB1*15:02(淡色線)でトランスフェクトした293T細胞とともにインキュベートした。トランスフェクトされた細胞へのIgG抗体の結合が、抗ヒトIgG抗体による染色で評価された。上段6つのヒストグラムに示す患者(Patient)1~6はcGVHDを発症しなかった。一方、下段6つのヒストグラムに示す患者(Patient)7~12は、F-to-M HCT後に、cGVHDを発症していた。
【0141】
結果として、HLA-DRB1*15:02単独に対するIgG抗体は、cGVHDの発症の有無にかかわらず、一部の患者で観察された。一方で、一部のcGVHD症例では、DBY/HLA-DRB1*15:02複合体に対するIgG抗体が検出された。
【0142】
この上で、cGVHDを発症した患者では、DBY/HLA-DRB1*15:02複合体に対する血漿中IgG抗体の平均蛍光強度(MFI)は、HLA-DRB1*15:02単独に対する抗体より高かった。
このため、cGVHDにおけるDBY/HLA class II複合体に対する特異抗体の存在が示唆された.
【0143】
次に、DBY/HLA class II複合体に対する抗体の出現がcGVHDのリスクを増加させるかどうかを検討した。具体的には、DBYとHLA-DRB1*15:02の両方を導入したGFP陽性細胞へのIgG結合のMFIから、HLA-DRB1*15:02のみを導入したGFP陽性細胞へのIgG結合のMFIを差し引くことによって、抗DBY/HLA class II複合体の抗体価を算出した。
【0144】
図12は、F-to-M HCTを受けた73名の患者を含む、自治医科大学病院で採取した143名の血漿試料を移植後3ヶ月で解析し、F-to-M移植症例以外の95%値をカットオフ値として設定した力価(抗体価)の比較結果である。具体的には、HCT後3ヵ月における、F-to-Mと、他のHCT(M-to-M、M-to-F、F-to-F)との間の抗DBY/HLA class II複合体抗体の抗体価の比較を行った。カットオフ値は、F-to-M HCTを除く患者におけるMFIの95%値で決定した。破線はMFIのカットオフ値を示す。M-to-M、M-to-F、F-to-F HCTを受けた患者は左側、F-to-M HCTを受けた患者は右側に示した。
【0145】
結果として、抗DBY/HLA class II複合体抗体のカットオフ値をF-to-M HCTを除く患者におけるMFIの95%に設定したところ、32人(43.8%)がF-to-M HCT後に陽性と同定された。
【0146】
図13は、F-to-M HCT後の抗DBY/HLA class II複合体抗体の有無によるcGVHDの累積発生率を示す。抗DBY/HLA class II複合体抗体陽性群(淡色線)又は陰性群(濃色線)の比較には、Gray検定を用いた。
注目すべきことに、抗DBY/HLA class II複合体抗体が陽性だった患者のcGVHDの累積発生率は、抗体が陰性だった患者のそれよりも高かった。具体的には、1年後の68.8%(95%CI 48.8~82.2%)、対31.7%(95%CI 17.5~46.9%)となり、P=0.002となった。
【0147】
すなわち、複合体への抗体を有する症例ではcGVHD発症率が高くなっていた。
このため、DBY/HLA class II複合体抗体の存在は、F-to-MHCTにおけるcGVHD発症のリスク因子となり得ることが示された。
【0148】
次に、同じコホート内の抗DBY/HLA class II複合体抗体の陽性率を抗DBY抗体の陽性率と比較した。
図14は、抗DBY/HLA class II複合体抗体の抗体価と抗DBY抗体の抗体価の関係を示す。すなわち、DBYのみを認識する抗体を間接法ELISAで検出した結果である。カットオフ値は、F-to-M HCTを除き、MFIと光学密度(OD)値の95%値で決定した。破線はMFIとOD値のカットオフ値を示す。丸印は個体を示す。MockはpSIベクターである。
【0149】
結果として、73人中18人(24.7%)が抗DBY/HLA class II複合体抗体及び抗DBY抗体の両方を保有していた。しかし、14人(19.1%)は抗DBY/HLA複合体抗体のみを保有し、その殆どが、後にcGVHDを発症していた。
このことから、DBY/HLA class II 複合体は、プレート結合型DBYと共通のエピトープに加え、独自の同種抗原エピトープを持っていることが示唆された。すなわち、DBY/HLA class II複合体に対する抗体は、単純なDBYを認識する抗体だけではなかった。
【0150】
まとめると、抗DBY/HLA class II複合体の出現は、cGVHD発症のリスク要因となる。
すなわち、F-to-M移植後、約40%の症例で、抗DBY/HLA class II複合体抗体が出現した。
また、抗DBY/HLA class II複合体抗体を有する症例はcGVHDの発症率が高かった。
このため、DBY/HLA class II複合体は、cGVHDの標的抗原と示唆された。
【0151】
(H-Y抗原及びHLA class II分子が結合した複合体を形成しやすいHLA class IIは、cGVHDのリスクとなる)
上述のように、DBY/HLA class II複合体に対する抗体はcGVHD発症に関与していた。
しかしながら、DBY/HLA class II複合体の形成量が、cGVHD発症に与える影響は不明である。このため、HLA class IIアレルの型の違いがDBY/HLA class II複合体に対する同種抗体の認識に影響するかどうかを検討した。すなわち、DBY/HLA class II複合体の形成がHLA class IIアレル依存性であるか解明することにした。
【0152】
まず、F-to-Mコホートの5人以上の患者から22のHLA-DRB1アレル(α鎖:DRA1*01:01)を選び、それぞれを293T細胞にトランスフェクトし、DBYを導入した。
【0153】
図15及び
図16は、各HLA-DRB1アレルにおける、DBY/HLA class II複合体の解析の結果を示す。具体的には、HLA class IIアレルがHLA-DR及びDBY/HLA class II複合体の発現量(複合体の形成量)を示す。異なるHLA-DRB1アレルとDBYを293T細胞にトランスフェクトし、フローサイトメトリーで解析した。棒グラフは、
図15が各HLA-DRであり、
図16がHLA class II分子と複合体化したDBYの蛍光値(Mean Fluorescence Intensity、MFI)を示す。MFIは、3つの独立した実験の平均±標準偏差(SD)として示される。
【0154】
MFIで示されるHLA-DRアレルの細胞表面の発現量は、互いに差がなかった。しかしながら、DBYの細胞表面での発現量はHLA-DRアレルによって著しく異なり、HLA-DRB1*15:02は、DBYの発現を最も多く誘導した。
HLA-DRB1アレルの違いは、DBY/HLA class II複合体形成とcGVHD患者の同種抗体のDBY/HLA class II複合体に対する反応性に影響を与えていた。
【0155】
加えて、HLA-DRB1アリルのDBYエピトープに対する結合親和性を、1%以下の%rankで強結合エピトープを定義するNetMHCIIpan 4.0を用いて分析した。
【0156】
この結果を、
図17に示す。各アリルについて、示されるエピトープに関する%rankを示す。HLA-DRB1*15:02とDBYペプチドとの結合力が最も高いと予測できた。
【0157】
また、cGVHD患者からの血漿中の同種抗体のDBY/HLA class II複合体への親和性を測定した。
【0158】
図18は、抗DBY/HLA class II複合体抗体に対するMFIを示す。MFIは、3つの独立した実験の平均±SDとして示された。
【0159】
図19は、DBY/HLA class II複合体形成と、DBY/HLA class II複合体に結合するcGVHD患者からの血漿中の同種抗体の親和性との間の関係を示す。具体的には、2群のMFI間でピアソンの相関係数を算出した。Rは相関係数を表す。丸印は個々のHLA-DRB1アレルである。HLA-DRB1*09:01、HLA-DRB1*12:01、及びHLA-DRB1*15:02を、それぞれ淡色で示す。
【0160】
結果として、HLA-DRB1*15:02が最も強い結合エピトープを持つことがわかった。さらに、cGVHD患者の同種抗体のDBY/HLA class II複合体に対する反応性も、HLA-DRアレルによって影響を受け、この反応性はDBYの表面発現レベルと相関していた。この相関係数は、r=0.702(95% CI、0.398~0.867)であり、P<0.001であった。
【0161】
注目すべきは、DRB1*15:02は、複合体形成量、結合親和性とも大きかったことであった。すなわち、cGVHD患者からの同種抗体は、HLA-DRB1*15:02と複合化したDBYに対して最も強い結合親和性を持ち、cGVHDのリスクを増加させていた。
【0162】
一方、DRB1*09:01及びDRB1*12:01は、複合体形成量、結合親和性が最も低かった。すなわち、HLA-DRB1*09:01とHLA-DRB1*12:01は、DBYの発現を最も低く誘導し、同種抗体によって最も認識されにくいことから、cGVHDのリスクを下げると考えられることが分かった。
【0163】
他のH-Y抗原も様々なHLA-DRアレルと複合体を形成するものの、それらの表面発現レベルはDBYよりも低く、H-Y抗原の最高発現も最低発現もHLA-DRB1*15:02、HLA-DRB1*09:01、及びHLA-DRB1*12:01とは関連がなかった。
【0164】
これらの結果は、細胞表面におけるDBY/HLA class II複合体の形成が、HLA-DRアレルによってもたらされるcGVHDへの感受性の根底にあり、cGVHDの発症に直接影響することを示していた。
このように、DBY/HLA class II複合体の形成は慢性GVHDの発症機序に重要であった。
【0165】
まとめると、DBY/HLA class II複合体の形成は、HLA class IIアレル依存性であり、HLA-DRB1*15:02において、最も複合体が形成された。さらに、HLA-DRB1*15:02は、cGVHD発症のリスク因子となるアレルであった。
一方で、HLA-DRB1*09:01及びHLA-DRB1*12:01は、DBY/HLA class II複合体形成量が少なく、慢性GVHDの発症率も低かった。
【0166】
(cGVHDにおいてDBY/HLA class II複合体はどこに出現するか)
上述のように、DBY/HLA class II複合体は慢性GVHD発症に関与していた。DBYは広く転写されているが、その翻訳は通常、精巣に限定されており、精巣はcGVHDの主要な標的臓器の一つではない。
このため、cGVHDの病態におけるDBY/HLA class II複合体の重要な役割を考慮して、DBY/HLA class II複合体が患部臓器で発現しているかどうかを検証した。すなわち、標的組織のどの部位で、DBY/HLA class II複合体が発現し、標的となっているかを調べた。
【0167】
まず、免疫染色を用いて、DBY、HLA class IIがどこに発現しているか解析した。ここでは、F-to-M HCT後のcGVHD患者(n=4)から、cGVHDの扁平苔癬様の組織学的特徴を有する皮膚生検試料を得た。
【0168】
図20は、この皮膚生検試料の代表的なヘマトキシリン・エオジン(HE)染色像を示す。写真内のスケールバーは200μm、倍率40倍である。
過角化、表皮肥厚、表皮下への炎症細胞の浸潤、及び表皮と真皮の間の炎症がみられた。
【0169】
次に、免疫組織化学(Immunohistochemistry、IHC。免疫染色)を行った。
【0170】
図21は、女性cGVHD患者(Female、n=3。以下、単に「女性患者」ともいう。)及びF-to-M HCTを受けたcGVHD男性患者(F-to-M、n=4。以下、単に「男性患者」ともいう。)のDBY及びHLA-DRの代表的なIHCの結果を示す。スケールバーは50μm、倍率は200倍である。
【0171】
結果として、DBYは、主に男性患者の真皮の血管内皮細胞に発現していた。また、HLA-DRは性別に関係なく血管内皮細胞に発現していた。
このように、DBYとHLA class II分子との複合体は、cGVHDの患者組織(皮膚)において皮膚血管内皮細胞に発現していた。
【0172】
興味深いことに、女性患者(Female)の皮膚では、血管内皮細胞にもHLA class II(HLA-DR)が発現していた。上述のNetMHCIIpan 4.0による解析では、抗DBY抗体のエピトープには、HLA class II分子に結合するペプチドが含まれていない。このため、この抗体はHLA結合部位の外側の領域を認識していることが示唆された。
【0173】
次に、PLAを用いてDBYがHLA class II分子と共局在しているかどうかを調べた。
【0174】
図22は、cGVHDにおけるDBYとHLA-DRのタンパク質間相互作用を可視化するためのPLAの結果を示す。女性患者(Female)及び男性患者(F-to-M)の顕微鏡写真(Phase contrast)及びPLAシグナルの写真を示す。核はDAPIで染色された。スケールバーは20μm、倍率は400倍である。
結果として、DBYとHLA-DRの共局在化により、男性患者(F-to-M)において、写真内で楕円の点状に示されるように、PLAシグナルが血管内皮細胞で誘発された。
【0175】
図23は、このPLAシグナルを棒グラフ化したものである。具体的には、女性患者(Female、n=9)及び男性患者(F-to-M、n=12)の皮膚からの血管あたりのPLAシグナルを示す。データは平均値±SDで示した。P値は、スチューデントのt検定を用いて計算された。「*」は、P<0.05であることを示す。
【0176】
結果として、F-to-M HCT後の男性患者の血管内皮細胞において、DBYとHLA class II分子の間にPLAシグナルが観察された(P=0.032)。
これらの結果は、男性患者(F-to-M)では、DBYが血管内皮細胞上で異所的に発現し、HLA class II分子と複合体を形成していることを示している。すなわち、DBY/HLA class II複合体は、男性患者(F-to-M)で血管内皮に発現していた。
【0177】
次に、cGVHDの標的としての血管内皮細胞の重要性をさらに検証するために、cGVHDバイオマーカーのIHC染色を行った。
このcGVHDバイオマーカーとしては、まず、血清B細胞活性化因子(B cell activating factor belonging to the TNF family、以下「BAFF」という。)を用いた。BAFFは強力なB細胞増殖因子であり、cGVHD患者では上昇し、疾患の重症度と相関することが分かっている。さらに、cGVHDマウスモデルでは、線維芽細胞網状細胞がBAFFの主要な産生因子であることが示されている。また、CXCL9、CXCL10は、CxCケモカインファミリーの一員のサイトカインであり、各種細胞から分泌される。
【0178】
図24は、健常人ドナー(Healthy donor、n=2)及びcGVHD患者(cGVHD Patient、n=7)の皮膚生検試料におけるBAFFの代表的なIHC染色の結果である。スケールバーは50μm、倍率は200倍である。
いずれも、ドナー、レシピエントの性別に関係なく、cGVHD患者の皮膚血管内皮細胞のIHCにて、BAFFの免疫反応性が観察された。
【0179】
次に、別のcGVHDバイオマーカーとして、CXCL9及びCXCL10を用いた。CXCL9及びCXCL10は、CXCR3用のT-ヘルパータイプ1関連炎症性ケモカインで、cGVHD診断及び重症度と相関している。
【0180】
図25は、
図24と同じ患者の皮膚生検試料におけるCXCL9及びCXCL10の代表的なIHC染色の結果である。スケールバーは50μm、倍率は200倍である。
cGVHD皮膚試料から、血管内皮細胞上のCXCL9とCXCL10の染色を検出した。
すなわち、ドナー、レシピエントの性別に関係なく、cGVHD患者の皮膚血管内皮細胞のIHCにて、cGVHDのマーカーの免疫反応性が観察された。
【0181】
図26は、健常人ドナー(Healthy donor、n=2)及びcGVHD患者(cGVHD Patient、n=7)の皮膚生検試料における血管内皮マーカーであるCD31及び筋線維芽細胞マーカーであるα-smooth muscle actin(以下、「αSMA」という。)のIFの代表的な結果を示す。スケールバーは50μm、倍率は200倍である。
健康な皮膚試料と比較して、cGVHD試料は、真皮血管内皮の周囲で筋線維芽細胞マーカーであるαSMAの発現が増加しており、血管周囲の筋線維芽細胞の活性化と組織の線維化の発生を示していた。
これらの知見は、cGVHDの標的としての血管内皮細胞の可能性を強調するものであった。
【0182】
次に、DBY/HLA class II複合体に対する同種抗体が、DBY/HLA class II複合体を発現している細胞に対して細胞毒性を示すかどうかを分析した。
図27は、cGVHD患者(cGVHD Patient、n=7)の皮膚生検試料において、古典的補体経路マーカーであるC4dのIFの代表的な結果を示す。核はDAPIで染色した。スケールバーは50μm、倍率は200倍である。
結果として、古典的な補体経路のマーカーであるC4dが、cGVHD皮膚試料の血管内皮細胞に局在していた。
【0183】
次に、DBYとHLA-DRB1*15:02又はHLA-DRB1*09:01又はHLA-DRB1*12:01を293T細胞にトランスフェクトし、DBY/HLA class II複合体に対する自己抗体が補体制御細胞障害(Complement-Dependent Cellular cytotoxicity。以下、「CDC」という。)を促進するか否かを分析した。
【0184】
図28は、抗DBY/HLA class II複合体抗体を用いたCDCの解析結果を示す。抗DBY/HLAクラスII複合体抗体を含むcGVHD血漿からの精製全IgGを、Mock、DBY、HLA-DRB1*09:01、HLA-DRB1*12:01、HLA-DRB1*15:02、DBYとHLA-DRB1*09:01、及び、DBYとHLA-DRB1*12:01、DBYとHLA-DRB1*15:02の順に補体でインキュベートした後、トランスフェクトした293T細胞と混合した。死細胞はフローサイトメトリーで評価した。データは3回の独立した実験の平均±SDで示した。MockはpSIベクターのみである。
結果として、DBY/HLA class II複合体の発現量に応じて、補体依存性細胞傷害が発生した。具体的には、DBY/HLA-DRB1*15:02複合体を発現する細胞では死細胞が増加したが、DBY/HLA-DRB1*09:01複合体やDBY/HLA-DRB1*12:01複合体では死細胞が増加しなかった。HLA class II分子のみを発現している細胞は死滅しなかった。
【0185】
これらをまとめると、cGVHDの皮膚病変では、DBY/HLA class II複合体は血管内皮に発現していた。実際に、血管内皮では、cGVHD関連マーカーが発現していた。さらに、血管内皮では、BAFFが発現し、B細胞の活性化に関連していると考えられた。
このため、血管内皮で、補体依存性細胞傷害が生じ、cGVHDの標的組織は血管内皮と示唆された。
【0186】
(DBY/HLA class II複合体は、cGVHDとGVL効果の共通抗原となる)
HLA class II分子と複合化したDBYは、一部の白血病細胞にも発現している。抗H-Y抗体の出現は造血器腫瘍の再発リスクを低下させ、移植片対白血病効果(Graft-versus leukemia、GVL)に関連する。
このため、白血病細胞においてDBY/HLA class II複合体が発現し、GVLの共通抗原となりうるか解析した。ここでは、本発明者らはPLAを用いて白血病細胞がHLA class II分子と複合体化したDBYを発現しているかどうかを調べた。
【0187】
図29は、白血病細胞株であるHEL、KasumiA-541、KHM-2B、KO52、Raji、及びTHP-1細胞のHLA-DR発現をフローサイトメトリーで測定した結果である。各細胞は、アイソタイプコントロール(網掛けヒストグラム)及び抗HLA-DR(淡色線)抗体で染色された。
【0188】
図30は、白血病細胞株であるHEL、KasumiA-541、KHM-2B、KO52、Raji、及びTHP-1細胞におけるDBYのmRNA発現のqRT-PCR分析の結果である。棒グラフは、コントロールのGAPDHのmRNA発現に対するDBYのmRNA発現を示す。DBYのmRNA発現、3つの独立した実験の平均±SDとして示された。
結果として、HLA-DRを発現する男性由来の白血病細胞株のうち、KasumiA-541、KHM-2B、KO52、Raji、THP-1細胞で同様のDBYの発現レベルが検出された。
【0189】
次に、PLAを用いたDBY及びHLA-DRの共局在解析を行った。
図31は、PLAにより、白血病細胞株におけるDBYとHLA-DRの共局在を可視化した結果である。白血病細胞株であるKO52(左側)及びTHP-1(右側)の結果を示す。スケールバーは20μm、倍率は400倍である。
結果として、小さなツブツブに見えるPLAシグナルが、DBYとHLA-DRの共局在化により誘発されていた。すなわち、男性の白血病細胞株であるKO52、THP-1において、DBYは白血病細胞でHLA class II分子と共局在化した。なお、HEL、KasumiA-541、KHM-2B、又はRaji細胞は、DBYとHLA class II分子との間のPLAシグナルを示さなかった。
【0190】
次に、本発明者の所属する自治医科大学病院で、2021年5月から2022年4月の間に診断された実際の男性白血病患者14名の凍結保存BM試料について、PLAを用いたDBYとHLA-DRの共局在解析を行った。これらの患者の背景を、下記の表9に示す。
【0191】
【0192】
この表9において、「Blasts(%)」は、骨髄中の芽球の割合を示す。また、「HLA-DR」は、発現をフローサイトメトリーで解析した。
「PLA signals」は、DBYとHLA-DRの共局在を可視化するためにPLAを使用した結果である。後述するように、DBYとHLA-DRの共局在でPLAシグナルが生じた。
いずれの患者も、白血病細胞におけるY染色体の消失を認めなかった。
【0193】
次に、白血病細胞でHLA-DRの表面発現を示した12人中7人の患者からPLAシグナルを観察した。
図32は、診断時の白血病患者のBMから凍結保存した単核球をPLAに使用した。患者1(Patient 1)と患者2(Patient 2)は、HLA-DR陽性の急性骨髄性白血病(AML)と診断された。上2枚の顕微鏡写真は、Wright-Giemsa染色であり、下2枚の蛍光顕微鏡写真はPLAの結果である。核はDAPIで染色された。スケールバーは20μmであり、倍率は400倍である。
このように、実際の白血病細胞の7例では、DBYとHLA-DRとが共局在していた。
【0194】
これらの結果を総合すると、HLA class II分子と複合化したDBYは、cGVHDとGVL効果の共通の標的である可能性があることが分かった。
すなわち、一部の男性の白血病細胞株であるKO52、THP-1では、DBY/HLA class II複合体が形成された。
また、実際の男性白血病検体では、約半数の症例でDBY/HLA class II複合体が形成された。
このため、DBY/HLA class II複合体は、GVHDとGVLの共通抗原となる可能性があるといえる。
【0195】
〔結論〕
データベースの解析より、F-to-M移植では、HLA-DRB1*15:02がcGVHDのリスク因子として同定された。
DBYとHLA class IIは全長で複合体を形成した。また、複合体を認識する抗体を有する症例は、cGVHDの発症率が高く、DBY/HLA class II複合体は慢性GVHDの標的抗原と考えられた。
DBY/HLA class II複合体の形成はHLA class II依存性であり、HLA-DRB1*15:02で最も形成量が多く複合体形成がcGVHD発症に直結していた。
実際の皮膚病変では、複合体は血管内皮に発現し、cGVHDの標的部位は血管内皮であった。血管内皮では、補体依存性細胞傷害が生じていると示唆された。
DBY/HLA class II複合体は、白血病細胞に発現しており、cGVHDとGVL効果の共通抗原となりうる可能性が考えられた。
【0196】
具体的には、本実施例では、ドナー・レシピエントの性別で層別化した患者群を分析し、HLA-DRB1*15:02がF-to-MコホートにおけるcGVHDのリスクに大きく影響することを見いだした。また、M-to-Fコホートでは、HLA-DRB1*08:03とHLA-DRB1*11:01がcGVHDと関連していることを示し、自己又は同種抗原/HLA class II複合体の形成がF-to-M HCTに限定されないことが示唆された。この知見を裏付けるように、HLA class IIの発現は、女性のcGVHD患者の血管内皮細胞でも観察された。
【0197】
実際に、上述したように、HLA-DRアレルの中で、DBYと複合体を最も形成しやすいものはHLA-DRB1*15:02で、最も形成しにくいものはHLA-DRB1*09:01、HLA-DRB1*12:01であることが明らかとなった。しかしながら、他のH-Y抗原とHLAアレルの関係ではこの傾向は当てはまらなかった。
これらのHLA-DRアレルはいずれもcGVHDの発症に関与することが、上述の全国規模のデータベースを基にした解析で明らかとなり、この結果はH-Y抗原の中でDBYがcGVHDの病態機序に最も強く関与していることを示していた。
【0198】
B細胞異常と同種抗体産生は、cGVHDの病態における重要な特徴である。しかし、従来、細胞内に局在する同種抗原が、どのようにして、どこで、細胞表面に異所的に出現し、抗体を介した反応を引き起こすかは、十分に理解されていなかった。
これに対して、本実施例では、女性ドナーから男性レシピエントへの移植後にcGVHDを発症した患者の皮膚病理を解析したところ、血管内皮上にDBY/HLA class II複合体が出現した。この結果もDBYがcGVHDの病態機序に重要であることを示している。すなわち、特定のHLA class IIアレルがcGVHD発症組織の血管内皮表面に全長DBY抗原を輸送し、自己抗体を誘導してF-to-M HCT後のcGVHDの重要なリスク因子となることが明らかとなった。
また、一部の白血病細胞ではDBY/HLA class II複合体が発現しており、DBY/HLA class II複合体がcGVHDとGVL効果の共通の標的として機能している可能性が示された。
【0199】
また、従来、cGVHDが内皮細胞傷害を引き起こす最初のトリガーは未解明であった。
これに対して、本実施例においては、HLA class II分子と複合化したDBYが血管内皮細胞表面に出現し、自己抗体の標的として働くことを明らかにした。さらに、cGVHD患者の同種抗体は、cGVHDリスクHLAアレルと複合化したDBYを発現する細胞に対してCDCを示すことがわかった。補体の関与は、血清C3及びC4レベルの高さが活動性cGVHDと関連することを示した以前の研究によって裏付けられている。DBYタンパク質及びHLA class II分子が結合した複合体に対する同種抗体がcGVHD発症前に検出されたことから、血管内皮がcGVHDの発症における最初の標的である可能性がある。CDCは微小血管の減少を誘発する可能性がある。その結果、低酸素が線維化を引き起こすと考えられる。
さらに、cGVHDの血管内皮細胞は、BAFF、CXCL9、CXCL10を発現していた。このため、血管内皮細胞が抗原提示細胞として働き、同種反応性B細胞を引きつけ活性化し、IL-6を産生させ、それによって線維化を引き起こす可能性がある。
【0200】
なお、上記実施の形態の構成及び動作は例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実行することができることは言うまでもない。