(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163562
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】抗原検出システム、装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
G01N33/543 541A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079296
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】本波 優介
(72)【発明者】
【氏名】原頭 基司
(57)【要約】
【課題】磁性粒子を利用したサンドイッチ法において、センサ面に結合した磁性粒子の計数精度を向上すること。
【解決手段】 抗原検出システムは、検査カートリッジ、撮影部、磁場発生部、制御部、生成部及び計数部を有する。検査カートリッジは、検体に含まれる抗原に結合する1次抗体が固定された磁性粒子が導入される反応槽と、抗原に結合する2次抗体が固定されたセンサ面と、を有する。撮影部は、2次抗体を介してセンサ面に結合された磁性粒子を撮影可能である。磁場発生部は、センサ面に結合された磁性粒子に印加する磁場を発生可能である。制御部は、磁場の空間分布を変化させて、センサ面に結合された磁性粒子が映し出された複数の画像を順次に生成する。生成部は、複数の画像の合成画像を生成する。計数部は、合成画像に基づいてセンサ面に結合された磁性粒子を計数する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体に含まれる抗原に結合する1次抗体が固定された磁性粒子が導入される反応槽と、前記反応槽に設けられ、前記抗原に結合する2次抗体が固定されたセンサ面と、を有する検査カートリッジと、
前記2次抗体を介して前記センサ面に結合された前記磁性粒子を撮影可能な撮影部と、
前記センサ面に結合された前記磁性粒子に印加する磁場を発生可能な磁場発生部と、
前記撮影部と前記磁場発生部とを制御して、前記磁場の空間分布を変化させて、前記センサ面に結合された前記磁性粒子が映し出された複数の画像を順次に生成する制御部と、
前記複数の画像の合成画像を生成する生成部と、
前記合成画像に基づいて前記センサ面に結合された前記磁性粒子を計数する計数部と、
を具備する抗原検出システム。
【請求項2】
前記磁場発生部は、前記磁場を発生する磁石と前記磁石を移動する移動装置を有し、
前記制御部は、前記移動装置を制御して前記磁石を移動させることにより前記センサ面における前記磁場の空間分布をさせる、
請求項1記載の抗原検出システム。
【請求項3】
前記移動装置は、前記センサ面に対して前記2次抗体が固定されている側の第1の空間において前記磁石を移動し、
前記撮影部は、前記センサ面に対して前記磁石とは反対側の第2の空間に設けられたイメージセンサを有する、
請求項2記載の抗原検出システム。
【請求項4】
前記移動装置は、前記磁石を、前記センサ面に対して略平行の面内にある前記第1の空間を移動する、請求項3記載の抗原検出システム。
【請求項5】
前記磁石による前記磁性粒子の吸引力は、前記磁石が前記磁性粒子の直上に配置されている場合において前記センサ面に前記2次抗体を介して結合された前記磁性粒子が前記センサ面から引き離されない磁力に設定される、請求項2記載の抗原検出システム。
【請求項6】
前記生成部は、前記合成画像として、前記複数の画像の加算画像又は加算平均画像を生成する、請求項1記載の抗原検出システム。
【請求項7】
前記計数部は、前記合成画像を画像処理して、前記センサ面に結合された前記磁性粒子に関する画像領域を抽出し、抽出された前記画像領域を、前記センサ面に結合された前記磁性粒子として計数する、請求項1記載の抗原検出システム。
【請求項8】
前記計数部は、前記合成画像に、前記センサ面に結合された第1の磁性粒子と前記センサ面に結合されていない第2の磁性粒子とを区別するための画素値に基づく閾値処理を施して処理後画像を生成し、前記処理後画像に含まれる前記画像領域を、前記第1の磁性粒子として計数する、請求項7記載の抗原検出システム。
【請求項9】
前記計数部は、前記処理後画像に含まれる1個以上の前記画像領域から、閾値未満の幅を有する前記画像領域を除去する、請求項8記載の抗原検出システム。
【請求項10】
検体に含まれる抗原に結合する1次抗体が固定された磁性粒子が導入される反応槽と、前記反応槽に設けられ、前記抗原に結合する2次抗体が固定されたセンサ面と、を有する検査カートリッジが装着される撮影台と、
前記センサ面に結合された前記磁性粒子に印加する磁場の空間分布が変化するように当該磁場を発生する磁場発生部と、
前記2次抗体を介して前記センサ面に結合された前記磁性粒子を複数回に亘り撮影する撮影部と、
を具備する抗原検出装置。
【請求項11】
検体に含まれる抗原に結合する1次抗体が固定された磁性粒子が導入される反応槽と前記反応槽に設けられ前記抗原に結合する2次抗体が固定されたセンサ面とを有する検査カートリッジと、前記2次抗体を介して前記センサ面に結合された前記磁性粒子を撮影可能な撮影部と、前記センサ面に結合された前記磁性粒子に印加する磁場を発生可能な磁場発生部と、を有する抗原検出装置を使用する抗原検出方法であって、
前記撮影部と前記磁場発生部とを制御して、前記磁場の空間分布を変化させて、前記センサ面に結合された前記磁性粒子が映し出された複数の画像を順次に生成し、
前記複数の画像の合成画像を生成し、
前記合成画像に基づいて前記センサ面に結合された前記磁性粒子を計数する、
ことを具備する抗原検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、抗原検出システム、装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高感度免疫検査システムは、基質を磁性粒子と読み換えた場合のサンドイッチ法を利用するもので、センサ面に結合した磁性粒子だけをイメージセンサで撮影し、その画像に含まれる磁性粒子の面密度から抗原の濃度を推定している。サンドイッチ法としては、例えば、ELISA法(Enzyme-Linked Immuno-sorbent Assay)が知られている。高感度免疫検査システムは、センサ面の下方から磁性粒子を撮影し、得られた画像に二値化や中心点検出等の画像処理を行い、且つ「中心点がセンサ面に結合した磁性粒子に対応する」という仮定の元に磁性粒子を計数している。この方法では、計数された磁性粒子がセンサ面に結合していることの確証はなく、磁性粒子の計数が誤差を含むおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-25930号公報
【特許文献2】特表2022-516556号公報
【特許文献3】国際公開第2017/187744号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、磁性粒子を利用したサンドイッチ法において、センサ面に結合した磁性粒子の計数精度を向上することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る抗原検出システムは、検査カートリッジ、撮影部、磁場発生部、制御部、生成部及び計数部を有する。前記検査カートリッジは、検体に含まれる抗原に結合する1次抗体が固定された磁性粒子が導入される反応槽と、前記反応槽に設けられ、前記抗原に結合する2次抗体が固定されたセンサ面と、を有する。前記撮影部は、前記2次抗体を介して前記センサ面に結合された前記磁性粒子を撮影可能である。前記磁場発生部は、前記センサ面に結合された前記磁性粒子に印加する磁場を発生可能である。前記制御部は、前記撮影部と前記磁場発生部とを制御して、前記磁場の空間分布を変化させて、前記センサ面に結合された前記磁性粒子が映し出された複数の画像を順次に生成する。前記生成部は、前記複数の画像の合成画像を生成する。前記計数部は、前記合成画像に基づいて前記センサ面に結合された前記磁性粒子を計数する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る抗原検出システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、検査カートリッジの外観を示す図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す検査カートリッジのA-A´断面を示す図である。
【
図4】
図4は、抗原検出装置における反応槽、センサ面、撮影機器及び磁場発生器の配置例を示す図である。
【
図5】
図5は、本実施形態に係るシミュレーションにおけるセンサ面、撮影機器、磁場発生器及び磁性粒子の位置関係を示す図である。
【
図6】
図6は、第1のシミュレーションにおける撮影機器、磁場発生器及び磁性粒子の位置関係を示す図である。
【
図7】
図7は、第1のシミュレーションにおける12枚の光学画像と当該12枚の光学画像に基づく加算平均画像とを示す図である。
【
図8】
図8は、加算平均画像の生成過程を例示する図である。
【
図9】
図9は、第1のシミュレーションにおける加算平均画像(左図)と当該加算平均画像の3次元輝度値分布マップ(右図)とを示す図である。
【
図10】
図10は、第2のシミュレーションにおける撮影機器、磁場発生器及び磁性粒子の位置関係を示す図である。
【
図11】
図11は、第2のシミュレーションにおける加算平均画像(左図)と当該加算平均画像の3次元輝度値分布マップ(右図)とを示す図である。
【
図12】
図12は、第3のシミュレーションにおける撮影機器、磁場発生器及び磁性粒子の位置関係を示す図である。
【
図13】
図13は、第3のシミュレーションにおける加算平均画像(左図)と当該加算平均画像の3次元輝度値分布マップ(右図)とを示す図である。
【
図14】
図14は、第4のシミュレーションにおける撮影機器、磁場発生器及び磁性粒子の位置関係を示す図である。
【
図15】
図15は、第4のシミュレーションにおける12枚の光学画像と当該12枚の光学画像に基づく加算平均画像とを示す図である。
【
図16】
図16は、第4のシミュレーションにおける加算平均画像(左図)と当該加算平均画像の3次元輝度値分布マップ(右図)とを示す図である。
【
図17】
図17は、センサ面の中心に磁性粒子が固定されている場合におけるN極が位置する角度毎の吸引力のシミュレーション結果を表す図である。
【
図18】
図18は、センサ面の中心に磁性粒子が固定され且つN極中心が円軌道を周回する場合における、N極が位置する角度毎の吸引力のシミュレーション結果を表す図である。
【
図19】
図19は、センサ面中心外及びROI内に磁性粒子が固定され、且つN極中心が円軌道を周回する場合における、N極が位置する角度毎の吸引力のシミュレーション結果を表す図である。
【
図20】
図20は、センサ面中心外及びROI外に磁性粒子が固定され、且つN極中心が円軌道を周回する場合における、N極が位置する角度毎の吸引力のシミュレーション結果を表す図である。
【
図21】
図21は、抗原検出システムによる抗原検出の処理手順を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係る抗原検出システム、装置及び方法について詳細に説明する。
【0008】
図1は、本実施形態に係る抗原検出システム1の構成例を示す図である。抗原検出システム1は、検体に含まれる抗原に結合する磁性粒子を計数することにより抗原を検出するシステムである。抗原は、抗原検出システム1により検知可能な物質であれば、特に限定されないが、一例として、インフルエンザウイルス、アデノウイルス及びRS(respiratory syncytial)ウイルス、コロナウイルス(COVID-19等)等を想定する。
【0009】
図1に示すように、抗原検出システム1は、検査カートリッジ2、抗原検出装置3、処理回路4、入力機器5、表示機器6及び記憶装置7を有する。
【0010】
図2は、検査カートリッジ2の外観を示す図である。
図3は、
図2に示す検査カートリッジ2のA-A´断面を示す図である。
図2及び
図3に示すように、検査カートリッジ2は、筐体21を有する。筐体21は、例えば、ABS(acrylonitrile butadiene styrene)等の樹脂により、略直方体形状に形成されている。筐体21は、一例として、遮光目的で黒色等に着色される。筐体21の表面には滴下穴22が形成されている。滴下穴22は、筐体21内部の反応槽23に連絡する。なお、筐体21における滴下穴22の位置及び個数は、図示した例に限定されない。
【0011】
反応槽23は、検体溶液10と共に、検体溶液10に含まれる抗原11に結合する1次抗体12が固定された磁性粒子13が導入される容器である。検体溶液10は、検体が懸濁された緩衝液である。センサ面24は、反応槽23の底面に設けられる。センサ面24には、抗原11に結合する2次抗体14が固定されている。2次抗体14の固定化は、例えば、センサ面24に対する疎水性相互作用や化学結合により行われる。センサ面24は、透光性を有する素材により形成され、例えば、フェノール樹脂やエポキシ樹脂、アクリル樹脂のような熱硬化性樹脂から形成することができ、又は、光硬化性樹脂若しくは無アルカリガラスから形成することができる。
【0012】
図2及び
図3に示すように、本実施形態において、検査カートリッジ2を基準にしたXYZ直交座標系を定義する。Z軸は反応槽23の厚みを規定する軸であり、X軸は反応槽23の幅を規定する軸であり、Y軸は反応槽23の奥行きを規定する軸である。
図2及び
図3においてXYZ直交座標系の原点位置は特に限定しない。
【0013】
図1に示すように、抗原検出装置3は、撮影台31、撮影機器32及び磁場発生器33を有する。撮影台31は、検査カートリッジ2を着脱可能に支持する機構を有する。撮影台31に対する検査カートリッジ2の着脱は、電気的又は機械的に、図示しない検知器(以下、開閉検知器)により検知される。
【0014】
撮影機器32は、2次抗体を介してセンサ面24に結合された磁性粒子を撮影可能な機械装置である。撮影機器32は、2次抗体を介してセンサ面24に結合された磁性粒子が映し出された光学画像のデータを生成する。撮影機器32としてはイメージセンサが使用される。イメージセンサは、2次元状に稠密に配置された複数の光学変換素子(画素)を有している。イメージセンサの方式は、特に限定されないが、フォトダイオードやCCD(charge-coupled device)、CMOS(complementary metal-oxide semiconductor)等が使用可能である。なお、本実施形態に係る「センサ面24に結合された磁性粒子」とは、センサ面24に固定された2次抗体に結合された磁性粒子を意味し、当該磁性粒子に磁力で結合された磁性粒子を含まないものとする。
【0015】
磁場発生器33は、センサ面24に結合された磁性粒子に印加する磁場を発生可能な機械装置である。具体的には、磁場発生器33は、磁場を発生する磁石と、当該磁石を移動する磁石移動装置とを有する。磁石としては、処理回路4により磁場のON(印加)とOFF(遮断)とを切り替え可能であれば、如何なる方式でもよい。例えば、磁石としては、電磁石が使用されてもよいし、永久磁石と軟磁性体との組合せが使用されてもよい。磁石移動装置は、磁石を移動する機械装置である。具体的には、磁石移動装置は、磁石を移動可能に支持する支持機構と、当該支持機構を駆動する駆動装置とを有する。
【0016】
処理回路4は、抗原検出装置3の制御中枢として機能するプロセッサである。処理回路4は、抗原検出装置3とは別体のコンピュータに実装されていることを想定するが、抗原検出装置3に実装されてもよい。処理回路4は、記憶装置7等の非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶されているプログラムを実行することにより、当該プログラムに対応する機能、すなわち、撮影制御機能41、画像取得機能42、合成機能43、計数機能44、判定機能45及び出力制御機能46を実現する。なお、本実施形態では、単一の物理プロセッサによって機能41~46が実現される場合を説明するが、これに限定されない。例えば、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能41~46を実現してもかまわない。
【0017】
撮影制御機能41の実現により、処理回路4は、磁場発生器33と撮影機器32とを制御して、磁場の空間分布を変化させて、センサ面24に結合された磁性粒子に関する複数の光学画像を順次に生成する。具体的には、処理回路4は、所定の制御シーケンスに従い磁場発生器33と撮影機器32とに指令を供給する。処理回路4からの指令に従い磁場発生器33は、センサ面24に結合された磁性粒子に印加する磁場の空間分布を変化させつつ当該磁場を発生する。一例として、処理回路4は、磁石移動装置を制御して磁石を移動することにより、センサ面24に対する磁場の空間分布を変化させる。処理回路4からの指令に従い撮影機器32は、磁場発生器33が磁場の空間分布を変化させている間に、2次抗体を介してセンサ面24に結合された磁性粒子を複数回に亘り撮影する。
【0018】
画像取得機能42の実現により、処理回路4は、撮影制御機能41より生成された複数の光学画像を撮影機器32から取得する。取得された複数の光学画像は、記憶装置7に記憶されてもよいし、処理回路4に供給されてもよい。
【0019】
合成機能43の実現により、処理回路4は、画像取得機能42により取得された複数の光学画像の合成画像を生成する。一例として、処理回路4は、合成画像として、複数の光学画像の加算画像又は加算平均画像を生成する。
【0020】
計数機能44の実現により、処理回路4は、合成機能43により生成された合成画像に基づいて、センサ面24に結合された磁性粒子を計数する。具体的には、処理回路4は、合成画像を画像処理して、センサ面24に結合された磁性粒子に関する画像領域を抽出し、抽出された画像領域を、センサ面に直接的に結合された磁性粒子として計数する。
【0021】
判定機能45の実現により、処理回路4は、計数機能44により計数された磁性粒子の個数に基づいて、抗原について陽性又は陰性を判定する。
【0022】
出力制御機能46の実現により、処理回路4は、種々の情報を表示機器6に出力する。一例として、処理回路4は、画像取得機能42により取得された光学画像や計数機能44による磁性粒子の個数、判定機能45による陽性/陰性の判定結果を表示機器6に表示する。
【0023】
入力機器5は、操作者から各種の入力操作を受け付け、受け付けた入力操作を操作信号に変換する。当該操作信号は、処理回路4に供給される。入力機器5は、一例として、物理スイッチやタッチパネル、タッチパッド、ジョイスティック、キーボード等が利用可能である。入力機器5として、マイクにより感知した操作者の発話を認識して操作信号に変換する音声入力装置が用いられてもよい。
【0024】
表示機器6は、出力制御機能46により各種情報を表示する。表示機器6としては、一例として、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、有機ELディスプレイ(OELD:Organic Electro Luminescence Display)、プラズマディスプレイ又は他の任意のディスプレイが適宜使用可能である。また、表示機器6は、プロジェクタでもよい。
【0025】
記憶装置7は、種々の情報を記憶するROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、集積回路記憶装置等の記憶装置である。また、記憶装置7は、フラッシュメモリ、CD-ROM、またはDVDなどの可搬性記憶媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置などであってもよい。なお、記憶装置7は、必ずしも単一の記憶装置により実現される必要は無い。例えば、記憶装置7は、複数の記憶装置により実現されてもかまわない。記憶装置7は、本実施形態に係る一つ以上のプログラムなどを記憶している。このプログラムは、例えば、記憶装置7に予め記憶されていてもよい。また、例えば、非一過性の記憶媒体に記憶されて配布され、非一過性の記憶媒体から読み出されて記憶装置7にインストールされてもよい。また、プログラムは、例えば、ネットワークからダウンロードされて記憶装置7にインストールされてもよい。
【0026】
次に、
図4を参照しながら、抗原検出装置3における反応槽23、センサ面24、撮影機器32及び磁場発生器33の配置について説明する。
図4は、抗原検出装置3における反応槽23、センサ面24、撮影機器32及び磁場発生器33の配置例を示す図である。
図4に示すように、抗原検出装置3は、開閉可能に接続された上部筐体34と下部筐体35とを有する。上部筐体34は、磁場発生器33が位置する第1空間36を形成する。磁場発生器33は、上記の通り、磁石331と磁石移動装置332とを有する。磁石移動装置332は、XY平面内において磁石331を移動自在に支持するステージ(支持機構)と図示しない駆動装置とを有している。当該ステージは、センサ面24に略平行するように設けられている。
【0027】
下部筐体35は、検査カートリッジ2が装着される撮影台31を収容し、撮影台31の下部(-Z方向)において、撮影機器32が位置する第2空間37を形成する。第2空間37は、センサ面24に対して磁石331とは反対側に位置することとなる。撮影台31は、検査カートリッジ2を電気的又は機械的に固定する機構を有してもよいし、単に検査カートリッジ2を載置可能な形状を有してもよい。センサ面24は、センサ面24に対して撮影機器32の反対側に位置する磁性粒子13を撮影可能なように、透明である。撮影機器32は、センサ面24に結合された磁性粒子13を撮影可能な被写界深度を有している。撮影機器32の画角は、センサ面24のうちの有効領域(ROI:Region Of Interest)をカバーするように設計される。本実施形態に係るROIは、センサ面24のうちの2次抗体14が固定されている領域をカバーする。換言すれば、ROIは、磁性粒子13の計数対象領域を意味する。
【0028】
撮影機器32は、具体的には、イメージセンサ321と対物レンズ322とを有している。イメージセンサ321は、2次元状に稠密に配列された複数の光学変換素子を有し、センサ面24に固定された2次抗体14に結合する磁性粒子13に関する光学画像データを生成する。対物レンズ322は、センサ面24に固定された2次抗体14に結合する磁性粒子13からの可視光をイメージセンサ321に集光する光学素子である。センサ面24と撮影機器32とを結ぶ光路に撮影台31が位置していてもよい。この場合、撮影台31のうちの光路に交わる部分は、可視光を透過可能な素材により形成されるとよい。あるいは、撮影台31のうちの光路に交わる部分には、可視光を透過可能に切り欠きが形成されてもよい。なお、撮影機器32にはケーラー照明等の任意の照明系が設けられてもよい。
【0029】
次に、本実施形態に係る抗原検出処理の幾つかのシミュレーションについて説明する。まず、
図5を参照しながら、本実施形態に係るシミュレーションにおける各種要素の幾何学的配置について説明する。
図5は、本実施形態に係るシミュレーションにおけるセンサ面24、撮影機器32、磁場発生器33及び磁性粒子13の位置関係を示す図である。なお、
図5においてXYZ座標の原点はセンサ面24の中心に設定されている。
【0030】
図5に示すように、磁石331としては鉄心に巻かれた電磁コイルを有する電磁石が採用されている。磁石331のN極がセンサ面24に向けられている。N極とS極とを結ぶ軸がZ軸に平行するように磁石331が配置される。ステージ333は磁石331をXY平面において移動自在に支持している。ステージ333の中心O1のXY座標はセンサ面24の中心O3のXY座標に一致する。本実施例において磁石331は、ステージ333の中心O1をZ軸回りに円軌道を描いて周回する。N極の円軌道334の中心O2はZ軸上に位置することとなる。N極の円軌道334の、センサ面24への垂直投影軌道335は、中心O3を中心とする円軌道を描く。垂直投影軌道335の内側領域にROIが設定される。
【0031】
センサ面24には、センサ面24に結合した磁性粒子131が配置される。幾つかのシミュレーションにおいて磁性粒子131の配置は異なる。
図4の場合、磁性粒子131はセンサ面24の中心O3に配置される。センサ面24に結合した磁性粒子131は磁石331による磁場で磁化し、磁性粒子131に他の磁性粒子132、133及び134が吸引され、数珠つなぎの磁性粒子131、132、133及び134は磁性粒子の連鎖体を構成する。磁性粒子132、133及び134は、センサ面24に間接的に結合していると表現することも可能である。
【0032】
撮影機器32は、センサ面24を挟んで磁場発生器33の反対側に配置される。イメージセンサ321及び対角レンズ322が構成する光学系の光軸中心O4がZ軸上に位置するように、撮影機器32が固定される。イメージセンサ321は、N極の位置に同期してセンサ面24を-Z方向から撮影する。イメージセンサ321の被写界深度は、磁性粒子131、132、133及び134を撮影可能に設定される。
【0033】
図6は、第1のシミュレーションにおける撮影機器32、磁場発生器33及び磁性粒子13の位置関係を示す図である。
図6に示すように、第1のシミュレーションにおいて磁性粒子131はセンサ面24の中心O3に配置された。N極が原点O2回りの円軌道334を1周する間、30度回転する毎に撮影機器32により行われた。これにより12枚の光学画像が生成された。N極が原点O2回りに1周することにより、磁石331の磁力により磁性粒子131~134の連鎖体も磁性粒子131を中心にして旋回することとなる。
【0034】
図7は、第1のシミュレーションにおける12枚の光学画像と当該12枚の光学画像に基づく加算平均画像とを示す図である。
図7に示す各光学画像は、グレーレベルで表現する輝度値の分布画像を表している。ROIは、
図6に示すN極の円軌道334の、センサ面24への垂直投影軌道335に対応する。各光学画像には、磁性粒子を表す画像領域I13が映し出されている。各光学画像を比較すれば分かるように、磁石331の磁力による磁性粒子の連鎖体の旋回に伴い、光学画像において画像領域I13も中心点回りに旋回することとなる。12枚の光学画像を加算平均処理することにより加算平均画像が生成される。
【0035】
図8は、加算平均画像の生成過程を例示する図である。
図8では、3枚の光学画像A(i,j)、B(i,j)及びC(i,j)に基づいて加算平均画像D(i,j)が生成される。画像A、B、C及びD各々の画素数は、例示的に5×5であるとしている。処理回路4は、光学画像A、B及びCの同一座標にある画素(i,j)の画素値を加算し、当該加算値を光学画像A、B及びCの枚数である「3」で除することにより、加算平均画像D(i,j)を生成する。当該処理を数式で表現すると下記の通りである。
【0036】
D(i,j)={A(i,j)+B(i,j)+C(i,j)}/3
【0037】
なお、
図8では、光学画像の枚数は3枚であり、画素数は5×5であるとしたが、本実施形態はこれに限定されず、同様の手法により、如何なる画像枚数及び画素数に対しても適用可能である。
【0038】
図9は、第1のシミュレーションにおける加算平均画像(左図)と当該加算平均画像の3次元輝度値分布マップ(右図)とを示す図である。なお
図9において黒値が輝度値「0」に対応し、白値が輝度値「255」に対応する。加算平均画像において、センサ面24に結合された磁性粒子131に対応する画像領域I131が元の輝度値を維持し、センサ面24に結合されていない磁性粒子132~134に対応する画像領域I135の輝度値は分散及び/又は平均化され相対的に低くなる。換言すれば、画像領域I131は画像領域I135に比して強調されている。加算平均画像を、適切な閾値に基づき二値化することにより、センサ面24に結合された磁性粒子131に対応する画像領域I131のみを抽出することが可能である。
【0039】
図10は、第2のシミュレーションにおける撮影機器32、磁場発生器33及び磁性粒子13の位置関係を示す図である。
図10に示すように、第2のシミュレーションにおいて磁性粒子131は、センサ面24の中心O3ではなく、且つ垂直投影軌道335の内側に位置する。具体的には、磁性粒子131は、垂直投影軌道335の内側であって、X軸上の180度の位置に配置されている。
【0040】
図11は、第2のシミュレーションにおける加算平均画像(左図)と当該加算平均画像の3次元輝度値分布マップ(右図)とを示す図である。
図11に示すように、磁性粒子131が中心O3に配置されていなくても、垂直投影軌道335の内側に配置されていれば、画像領域I131は、画像領域I135に比して有意に画素値が大きいといえる。したがって加算平均画像において画像領域I131を抽出することが可能である。
【0041】
図12は、第3のシミュレーションにおける撮影機器32、磁場発生器33及び磁性粒子13の位置関係を示す図である。
図12に示すように、第3のシミュレーションにおいて磁性粒子131は、センサ面24の中心O3ではなく、且つ垂直投影軌道335の外側に位置する。具体的には、磁性粒子131は、垂直投影軌道335の外側であって、X軸上の180度の位置に配置されている。
【0042】
図13は、第3のシミュレーションにおける加算平均画像(左図)と当該加算平均画像の3次元輝度値分布マップ(右図)とを示す図である。
図13に示すように、磁性粒子131が垂直投影軌道335の外側に配置されている場合、加算平均画像には、画像領域I131が描画されない。したがって加算平均画像において画像領域I131を抽出することができない。
【0043】
図14は、第4のシミュレーションにおける撮影機器32、磁場発生器33及び磁性粒子13の位置関係を示す図である。
図14に示すように、第4のシミュレーションにおいて1個の磁性粒子136が、センサ面24の中心O3に位置する。磁性粒子136は、センサ面24に結合していない。第4のシミュレーションでは、1個の磁性粒子136は、軌道334を旋回するN磁に引き寄せられながら上昇することとなる。
【0044】
図15は、第4のシミュレーションにおける12枚の光学画像と当該12枚の光学画像に基づく加算平均画像とを示す図である。
図16は、第4のシミュレーションにおける加算平均画像(左図)と当該加算平均画像の3次元輝度値分布マップ(右図)とを示す図である。
図15及び
図16に示すように、磁性粒子136が、軌道334を旋回するN極に引き寄せられながら上昇する場合であっても、磁性粒子131の何れかの部分が常にZ軸に重畳するので、加算平均画像では、中心O3に高い輝度値を有する画像領域I136が存在し、その周辺に輝度値の低い画像領域I137が存在することとなる。このような画像領域I136は磁性粒子1個分の幅よりも狭い幅を有する傾向がある。
【0045】
処理回路4は、加算平均画像に含まれる画像領域から、閾値未満の幅を有する画像領域を除去する。これにより、センサ面に結合されていないが偶然にも高い画素値を生じさせた磁性粒子を計数対象から除外することができる。
【0046】
磁石331を移動する場合、センサ面24と磁性粒子13との結合力を超える吸引力が働き、磁性粒子13がセンサ面24から剥がれることが懸念される。そこで、磁性粒子13に働く吸引力の大きさがシミュレーションされた。なお、吸引力は、磁石331が発生する磁場が及ぼす磁性粒子13に働く吸引力を意味する。
【0047】
図17は、センサ面中心O3に磁性粒子が固定されている場合におけるN極が位置する角度毎の吸引力のシミュレーション結果を表す図である。
図18は、センサ面の中心O3に磁性粒子が固定され且つN極が円軌道を周回する場合における、N極が位置する角度毎の吸引力のシミュレーション結果を表す図である。
図19は、センサ面中心O3外及びROI内に磁性粒子が固定され、且つN極が円軌道を周回する場合における、N極が位置する角度毎の吸引力のシミュレーション結果を表す図である。
図20は、センサ面中心O3外及びROI外に磁性粒子が固定され、且つN極が円軌道を周回する場合における、N極が位置する角度毎の吸引力のシミュレーション結果を表す図である。吸引力は、N極と磁性粒子の中心とを結ぶ直線に平行な方向に働き、その大きさはN極と磁性粒子の中心との距離dの二乗にほぼ反比例する。具体的には、吸引力は(1/d
2)/(1/10
2)に比例する。
【0048】
図17~
図20に示すように、最大の吸引力は磁性粒子13の直上に磁石331が位置するときに発生する。当該直上位置から磁石331を移動してもセンサ面24と磁性粒子13との結合力を超える吸引力は働かず結合は切断されないことが分かる。したがって、磁石331による磁性粒子13の吸引力は、磁石331が磁性粒子13の直上に配置されている場合においてセンサ面24に結合された磁性粒子13がセンサ面24から引き離されない磁力に設定されるとよい。
【0049】
次に、
図21を参照しながら、抗原検出システム1による抗原検出の処理手順について説明する。
図21は、抗原検出システム1による抗原検出の処理手順を例示する図である。
図21に示すように、まず、作業者は、検体を採取して検体処理液チューブに入れる(ステップS1)。本実施形態に係る検体の種類や採取方法は特に限定されない。検体の種類としては、鼻水や唾液、痰、血液、リンパ液その他人体から採取可能な如何なる物質が利用可能である。検体処理液チューブは、検体処理液を含む容器である。検体処理液としては、一例として、界面活性剤を含む緩衝液が用いられる。検体処理液に検体が懸濁される。一例として、検体が鼻腔拭い液の場合、滅菌綿棒(スワブ)により鼻咽頭を擦過して鼻腔拭い液を採取し、検体処理液チューブ内の検体処理液に滅菌綿棒を浸して撹拌する。これにより検体が検体処理液に懸濁される。
【0050】
ステップS1が行われると作業者は、検体処理液チューブにノズルを装着する(ステップS2)。ノズルには、測定対象物質に特異的に結合する第2抗体が結合された磁性粒子が固着されている。より詳細には、ノズルの内部にフィルタが設けられており、当該フィルタに磁性粒子が固相化されている。
【0051】
ステップS2が行われると作業者は、検査カートリッジ2を抗原検出装置3に装着する(ステップS3)。より詳細には、抗原検出装置3の撮影台31に検査カートリッジ2が装着される。
【0052】
ステップS3が行われると作業者は、検査カートリッジ2に検体溶液を滴下する(ステップS4)。より詳細には、作業者は、検査カートリッジ2の滴下穴22に、検体処理液チューブに装着されたノズルから、検体が懸濁された検体処理液(懸濁液)を滴下する。この際、検体処理液チューブ内の懸濁液がノズルのフィルタを通過すると、当該フィルタに固相化されていた磁性粒子が懸濁液に溶出する。したがって、検体と検体処理液と磁性粒子との混合液である検体溶液が検査カートリッジ2の滴下穴22に滴下されることとなる。滴下穴22に滴下された検体溶液は、反応槽23に導入される。
【0053】
ステップS4が行われると作業者は、抗原検出装置3の蓋を閉める(ステップS5)。蓋が閉められたことは、抗原検出装置3に設けられた開閉検知器により検知される。処理回路4は、蓋が閉められたことが検知されたことを契機として抗原検出処理を開始する。なお、抗原検出処理は、蓋が閉められたことを契機として開始することに限定されず、任意のタイミングで開始されればよい。一例として、蓋を閉めてから予め設定していた時間の経過後又は作業者が開始ボタンを押下したことを契機として抗原検出処理が開始されてもよい。
【0054】
ステップS5が行われると処理回路4は、撮影制御機能41の実現により、所定時間(以下、待機期間)に亘り待機する(ステップS6)。待機期間において検体溶液に含まれる磁性粒子13は、重力によりセンサ面24に向けて沈降し、センサ面24に2次抗体を介して結合する。この際、磁性粒子13の沈降の過程において、検体溶液に含まれる抗原は、1次抗体を介して磁性粒子13に結合する。磁性粒子13が数珠繋がりして連鎖体を形成するものもある。待機期間は、磁性粒子13の自然沈降に十分な時間が予め設定されればよい。
【0055】
ステップS6が行われると処理回路4は、撮影制御機能41の実現により、磁場を印加する(ステップS7)。ステップS4において処理回路4は、磁場発生器33の磁石331から磁場を印加させる。磁場は、上記の通り、磁石331と磁性粒子13とが最短距離にある場合において、センサ面24に結合する磁性粒子13がセンサ面24から引き離されない程度に設定されるとよい。磁場の印加により、センサ面24に直接的又は間接的に結合する磁性粒子13は、磁石33による吸引力を受ける。
【0056】
ステップS7が行われると処理回路4は、撮影制御機能41の実現により、磁石331を移動させながら撮影機器32でセンサ面24を複数回に亘り撮影する(ステップS8)。一例として、処理回路4は、センサ面24に平行なXYステージにおいて磁石331を円軌道に沿って周回させる。なお周回数や磁石331の軌道の形状は、矩形軌道や渦巻き軌道など任意の形状に設定可能である。また、1周回あたりの撮影回数は2以上であれば特に制限されない。撮影機器32により生成された複数の光学画像は、処理回路4に転送される。
【0057】
ステップS8が行われると処理回路4は、合成機能43の実現により、合成画像を生成する(ステップS9)。ステップS9において処理回路4は、上記の通り、ステップS8において生成された複数の光学画像に加算平均処理又は加算処理を施すことにより合成画像を生成する。
【0058】
ステップS9が行われると処理回路4は、計数機能44の実現により、磁性粒子を計数する(ステップS10)。ステップS10において処理回路4は、ステップS9において生成された合成画像を画像処理して、センサ面に結合された磁性粒子に関する画像領域(以下、粒子領域)を抽出する。粒子領域は、互いに隣接する、磁性粒子に相当する画素値を有する画素同士を繋ぎ合わせることにより形成される領域である。処理回路4は、抽出された粒子領域を、センサ面に結合された磁性粒子として計数する。具体的には、処理回路4は、合成画像に、センサ面に結合された第1の磁性粒子と当該第1の磁性粒子を介して間接的にセンサ面に結合された第2の磁性粒子とを区別するための画素値に基づく閾値処理を施す。閾値処理により生成された画像(以下、閾値処理後画像)においては、加算平均画像に含まれる粒子領域のうちの、第2の磁性粒子に関する粒子領域が除去され、第1の磁性粒子に関する粒子領域(以下、第1粒子領域)のみが残存する。処理回路4は、閾値処理後画像に含まれる第1粒子領域を、第1の磁性粒子として計数する。
【0059】
上記の通り、処理回路4は、第1粒子領域の中には、Z軸付近で旋回する、センサ面24に結合していない磁性粒子に関する画像領域(以下、浮遊粒子領域)が含まれ得る。そこで、処理回路4は、閾値処理後画像に含まれる1個以上の第1粒子領域の中から、閾値未満の幅を有する画像領域を浮遊粒子領域と見做して除去してもよい。
【0060】
ステップS10が行われると処理回路4は、判定機能45の実現により、陽性又は陰性の判定を行う(ステップS11)。ステップS11において処理回路4は、ステップS10において計数された磁性粒子の個数に基づいて、抗原に関する陽性又は陰性を判定する。例えば、処理回路4は、磁性粒子の個数に基づいて磁性粒子の面密度を算出し、算出された面密度に基づいて抗原濃度を算出し、抗原濃度が所定値以上であれば陽性、所定値未満であれば陰性であると判定する。
【0061】
ステップS11が行われると処理回路4は、出力制御機能46の実現により、ステップS11における判定結果を出力する(ステップS12)具体的には、処理回路4は、陽性又は陰性の判定結果を、表示機器6に表示する。これにより作業者は、判定結果を確認することができる。なお、処理回路4は、判定結果を記憶装置7に記憶してもよいし、他のコンピュータに転送してもよい。
【0062】
以上により、抗原検出システムによる抗原検出が終了する。
【0063】
(変形例1)
上記実施形態において磁場発生器33は、1個の磁石331を移動させることにより、センサ面24に印加される磁場の空間分布を変化させるものとした。しかしながら、センサ面24に印加される磁場の空間分布を変化可能であれば、その方式は上記態様のみに限定されない。変形例1に係る磁場発生器33は、センサ面24の上方(+Z方向)においてセンサ面24に平行する面内に固定された複数の磁石を有してもよい。この場合、磁場発生器33は、複数の磁石を個別にON/OFFを切り替え可能な制御回路を有し、当該制御回路は、複数の磁石を1個ずつ又は所定個数ずつ順番にONとOFFとを切り替えることにより、センサ面24に印加される磁場の空間分布を変化させることが可能である。
【0064】
(変形例2)
上記実施形態において抗原検出装置3は、センサ面24の上方(+Z方向)に配置された磁場発生器33を有するものとした。しかしながら、変形例2に係る抗原検出装置3は、センサ面24の上方の磁場発生器33(以下、上方磁場発生器)の他、センサ面24の下方(-Z方向)に配置された磁場発生器(以下、下方磁場発生器)も有してもよい。
【0065】
下方磁場発生器は、磁性粒子をセンサ面24に引き寄せるための磁場(以下、下磁場)を発生する磁石(以下、下方磁石)と、当該磁石のON/OFFを制御する制御回路とを有する。下方磁場発生器は、
図21における自然沈降工程(S6)における自然沈降に代えて下磁場を印加するとよい。すなわち、下方磁場発生器は、所定時間(自然沈降の期間とは独立)に亘り下磁場をセンサ面24に印加することにより磁性粒子をセンサ面24に迅速に沈降させることが可能になる。
【0066】
撮影機器32に対する下方磁石の位置関係は特に限定されない。一例として、下方磁石は、撮影機器32に比して、センサ面24に対して遠くに配置されるとよい。撮影機器32に対して磁場の影響を軽減又は遮断する必要がある場合、撮影機器32を軟磁性体で覆う等の磁場の遮蔽手段が適宜導入されるとよい。他の例として、下方磁石は、撮影機器32に比して、センサ面24に対して近くに配置されてもよい。具体的には、撮影機器32の視野外に下方磁石が配置されるとよい。この場合においてセンサ面24に対して空間的に均一な下磁場を印加するため複数の下方磁石が配置されてもよい。なお、撮影機器32の視野内に下方磁石が配置されてもよい。この場合、
図21における撮影工程(S8)において撮影機器32の視野から下方磁石を退避させる必要がある。例えば、下方磁石を撮影機器32の視野の内と外との間で移動可能な移動装置が設けられるとよい。
【0067】
(変形例3)
上記の実施形態において、処理回路4は、撮影機器32と磁場発生器33とを制御して、磁場の空間分布を変化させつつ、センサ面24に結合された磁性粒子が映し出された複数の光学画像を順次に生成するものとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。すなわち、光学画像に映し出される、センサ面24に結合しない磁性粒子の位置が複数時点で異なるのであれば、磁場の印加をしていないタイミングで撮影機器32により光学撮影が行われてもよい。一例として、変形例3に係る処理回路4は、磁場発生器33による磁場の印加と撮影機器32による光学撮影とを交互に行ってもよい。他の例として、変形例3に係る処理回路4は、磁場発生器33により磁場の印加と遮断とを行い、磁場の遮断期間であってセンサ面24に結合しない磁性粒子が移動している期間に、撮影機器32による光学撮影を複数回行ってもよい。
【0068】
(変形例4)
上記の実施形態においては、処理回路4が、抗原検出装置3の撮影機器32と磁場発生器33とを制御する撮影制御機能41を実現するものとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されない。変形例4に係る抗原検出装置3は、撮影機器32と磁場発生器33とを制御する制御回路を有する。制御回路は、撮影制御機能41を実現するCPU等の任意のプロセッサにより構成されればよい。制御回路は、撮影機器32と磁場発生器33とを制御して、磁場の空間分布を変化させて、センサ面24に結合された磁性粒子が映し出された複数の光学画像を順次に生成する。変形例4によれば、抗原検出装置3単独で上記複数の光学画像を生成することが可能である。
【0069】
(総括)
上記の通り、本実施形態に係る抗原検出装置3は、撮影台31、磁場発生器33及び撮影機器32を有する。撮影台31は、検体に含まれる抗原に結合する1次抗体が固定された磁性粒子が導入される反応槽23と、反応槽23に設けられ、抗原に結合する2次抗体が固定されたセンサ面24と、を有する検査カートリッジ2が装着される。磁場発生器33は、センサ面24に結合された磁性粒子に印加する磁場の空間分布が変化するように当該磁場を発生する。撮影機器32は、2次抗体を介してセンサ面24に結合された磁性粒子を複数回に亘り撮影する。
【0070】
本実施形態に係る抗原検出システム1は、検査カートリッジ2、撮影機器32、磁場発生器33及び処理回路4を有する。検査カートリッジ2は、検体に含まれる抗原に結合する1次抗体が固定された磁性粒子が導入される反応槽23と、反応槽23に設けられ、抗原に結合する2次抗体が固定されたセンサ面24と、を有する。撮影機器32は、2次抗体を介してセンサ面24に結合された磁性粒子を撮影可能である。磁場発生器33は、センサ面24に結合された磁性粒子に印加する磁場を発生可能である。処理回路4は、撮影機器32と磁場発生器33とを制御して、磁場の空間分布を変化させて、センサ面24に結合された磁性粒子が映し出された複数の光学画像を順次に生成する。処理回路4は、複数の光学画像の合成画像を生成する。処理回路4は、合成画像に基づいてセンサ面24に結合された磁性粒子を計数する。
【0071】
ここで、倒立金属顕微鏡類似の仕組みを使用し、光学画像からセンサ面に結合した磁性粒子を抽出する方法である二値化・中心点検出法が知られている。当該方法では、本実施形態のように磁場発生器33を有していないため、センサ面に結合していない磁性粒子も光学画像に映り込んでしまうため、「中心点がセンサ面に結合した磁性粒子に対応する」という仮定を設け、そのうえでセンサ面に結合した磁性粒子だけを抽出している。そのため、光学画像から計数した磁性粒子の個数には必ず誤差が含まれてしまう。これに対し、本実施形態の上記構成によれば、センサ面24に結合された磁性粒子が他の磁性粒子に比して強調される合成画像が生成されるので、上記仮定を設けることなく、センサ面24に結合された磁性粒子を合成画像において容易に計数することが可能である。
【0072】
別法として、エバネッセント光を照明として使用する方法があるが、検査カートリッジ毎にプリズムを設けることが必須になる。当該方法に対し、本実施形態の上記構成によれば、検査カートリッジ毎にプリズムを設ける必要はないので、本実施形態はエバネッセント光を使用する方法に比して構成を簡便にすることが可能である。また、本実施形態によれば、磁場印加のない抗原検出システムでは必要であった、センサ面に結合していない磁性粒子を洗い流すB/N分離が不要である。
【0073】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、磁性粒子を利用したサンドイッチ法において、センサ面に結合した磁性粒子の計数精度を向上することができる。
【0074】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU、GPU、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。一方、プロセッサが例えばASICである場合、プログラムが記憶回路に保存される代わりに、当該機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、
図1における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0075】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0076】
1 抗原検出システム
2 検査カートリッジ
3 抗原検出装置
4 処理回路
5 入力機器
6 表示機器
7 記憶装置
10 検体溶液
11 抗原
12 1次抗体
13 磁性粒子
14 2次抗体
21 筐体
22 滴下穴
23 反応槽
24 センサ面
31 撮影台
32 撮影機器
33 磁場発生器
34 上部筐体
35 下部筐体
36 第1空間
37 第2空間
41 撮影制御機能
42 画像取得機能
43 合成機能
44 計数機能
45 判定機能
46 出力制御機能
131,132,133,134,136 磁性粒子
321 イメージセンサ
322 対角レンズ
331 磁石
332 磁石移動装置
333 ステージ
334 軌道
335 垂直投影軌道