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特開2024-163567慢性肝疾患に伴う筋量や筋力低下の予測に有用な血中細胞外小胞の成分の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163567
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】慢性肝疾患に伴う筋量や筋力低下の予測に有用な血中細胞外小胞の成分の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20241115BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20241115BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6876 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079304
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100108280
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】江口 暁子
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 元雄
(72)【発明者】
【氏名】安井 隆雄
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ03
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS36
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】 慢性肝疾患に伴うサルコペニアの予測に有用な検出方法を提供すること。
【解決手段】 慢性肝疾患を有する被験者から採取した血液サンプルの細胞外小胞(EVs;Extracellular Vesicles)について、miR-483、let-7i、miR-142、miR-4488、miR-1304、miR-20a、miR-378a及びmiR-152の8個のマイクロRNA(miR)からなる群から選択される少なくとも1個以上からなるmiRを測定し、健常人の血液サンプルから得られたデータと比較することにより、慢性肝疾患がサルコペニアを伴うか否かを評価するためのデータの一つを得ることを特徴とする検出方法によって達成される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
慢性肝疾患を有する被験者から採取した血液サンプルの細胞外小胞(EVs;Extracellular Vesicles)について、miR-483、let-7i、miR-142、miR-4488、miR-1304、miR-20a、miR-378a及びmiR-152の8個のマイクロRNA(miR)からなる群から選択される少なくとも1個以上からなるmiRを測定し、健常人の血液サンプルから得られたデータと比較することにより、慢性肝疾患がサルコペニアを伴うか否かを評価するためのデータの一つを得ることを特徴とする検出方法。
【請求項2】
miR-483、let-7i、miR-142、miR-4488、miR-1304、miR-20a、miR-378a及びmiR-152の8個のマイクロRNA(miR)からなる群から選択される少なくとも1個以上からなるmiRについて、慢性肝疾患を有する被験者から採取した血液サンプル中の遺伝子発現を測定できる検査キットであって、
前記miRに特異的に結合する結合剤と、
前記miRの発現レベルを測定する試薬を含み、前記慢性肝疾患がサルコペニアを伴うか否かを評価するためのデータの一つを得ることを特徴とする検査キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性肝疾患に伴う筋量や筋力低下の予測に有用な血中細胞外小胞の成分の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、糖及び脂肪代謝を担う中心臓器であり、重症の肝疾患を患うと、遠隔臓器において合併症を併発する臓器連携(肝臓-骨格筋)が知られている。そのような臓器連携として、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)では肝線維化の進行度とサルコペニアが相関することが、複数の肝疾患ではサルコペニアを併発した群で生存率が有意に低下することが、それぞれ報告されている。
サルコペニアは国際疾病分類第10版(ICD10)に登録されており、肝疾患とサルコペニアとの連携に関する研究の重要性が増している。しかしながら、この研究は始まったばかりであり、「肝臓-骨格筋」を繋ぐ新たな液性因子の同定が期待されている。現行の技術では、慢性肝疾患からの合併症併発の有無を診断することや、骨格筋・脳・腎・肺などのいずれの臓器に合併症が生じるのかを予測することはできない。
【0003】
本発明者は先行研究において、慢性肝疾患患者の血中細胞外小胞(extracellularvesicles: EV、エクソソームも含まれる細胞から放出されるナノ粒子)の成分としてEV-microRNA(miR)の検出をMicroRNA arrayにより行うことで、肝性サルコペニアを予測できる可能性を示した。現在のところ、血中EV-miRを用いてヒトの肝性サルコペニアを予測する報告は存在しない。なお、老化マウスを用いた研究では、EV-miR-690の上昇と筋肉量の低下とが関係しているとする報告がある(非特許文献1)が、ヒト検体を用いたものではなく、同じEV-miRがヒトの肝性サルコペニアに関係するとの報告はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Atrophic skeletal muscle fibre-derived small extracellular vesiclemiR-690 inhibits satellite cell differentiation during ageing. Shao X, Gong W,Wang Q, Wang P, Shi T, Mahmut A, Qin J, Yao Y, Yan W, Chen D, Chen X, Jiang Q,Guo B. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2022 Dec;13(6):3163-3180.
【非特許文献2】日本肝臓学会、肝疾患におけるサルコペニア判定基準(第2版)<https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/sarcopenia_criterion_v2.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
サルコペニアは加齢に伴う一次性と肝疾患などに合併する二次性に分類される。現在のサルコペニア診断は、握力の計測、CTやインピーダンス法による骨格筋量の測定により行っている(非特許文献2)。サルコペニアを予測するバイオマーカーは存在しない。
我が国においては、肝疾患患者に占める高齢者の割合が極めて多く、一次性の除外も必要になってくる。また、肝疾患では、患者の高齢化が進んでいる上に、治療の進歩により生命予後が延長したため、更に高齢化に拍車がかかっている。このような現状から、加齢に伴うサルコペニアと肝性サルコペニアを鑑別する血中バイオマーカーも求められていた。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、慢性肝疾患に伴うサルコペニアの予測に有用な検出方法を提供することにある。なお、最終的な判断は、本発明により得られたデータを含む総合的な知見に基づき、医師等の専門的なライセンスを備えた者が行う。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の問題を解決するため、鋭意検討した結果、慢性肝疾患を有する被験者から採取した血液サンプル中の所定のmiRNAの増減データが、サルコペニアの増悪の評価を行うために指標として使用できることを見出し、基本的には本発明を完成するに至った。
こうして、本願発明に係る慢性肝疾患がサルコペニアを伴うか否かを評価するためのデータの一つを得ることを特徴とする検出方法は、慢性肝疾患を有する被験者から採取した血液サンプルの血中細胞外小胞(extracellular vesicles: EV)について、miR-483、let-7i、miR-142、miR-4488、miR-1304、miR-20a、miR-378a及びmiR-152の8個のマイクロRNA(miR)からなる群から選択される少なくとも1個以上からなるmiRを測定し、健常人の血液サンプルから得られたデータと比較することを特徴とする。
【0007】
別の発明に係る検査キットは、miR-483、let-7i、miR-142、miR-4488、miR-1304、miR-20a、miR-378a及びmiR-152の8個のマイクロRNA(miR)からなる群から選択される少なくとも1個以上からなるmiRについて、慢性肝疾患を有する被験者から採取した血液サンプル中の遺伝子発現を測定できる検査キットであって、
前記miRに特異的に結合する結合剤と、
前記miRの発現レベルを測定する試薬を含み、前記慢性肝疾患がサルコペニアを伴うか否かを評価するためのデータの一つを得ることを特徴とする。
【0008】
上記発明において、miR-483はUCACUCCUCUCCUCCCGUCUU(配列番号1)、let-7iはCUGGCUGAGGUAGUAGUUUGUGCUGUUGGUCGGGUUGUGACAUUGCCCGCUGUGGAGAUAACUGCGCAAGCUACUGCCUUGCUA(配列番号2)、miR-142はUGUAGUGUUUCCUACUUUAUGGA(配列番号3)、miR-4488はGGUAGGGGGCGGGCUCCGGCGCUGGGACCCCACUAGGGUGGCGCCUUGGCCCCGCCCCGCCC(配列番号4)、miR-1304はAAACACUUGAGCCCAGCGGUUUGAGGCUACAGUGAGAUGUGAUCCUGCCACAUCUCACUGUAGCCUCGAACCCCUGGGCUCAAGUGAUUCA(配列番号5)、miR-20aはUAAAGUGCUUAUAGUGCAGGUAG(配列番号6)、miR-378aはAGGGCUCCUGACUCCAGGUCCUGUGUGUUACCUAGAAAUAGCACUGGACUUGGAGUCAGAAGGCCU(配列番号7)、miR-152はUGUCCCCCCCGGCCCAGGUUCUGUGAUACACUCCGACUCGGGCUCUGGAGCAGUCAGUGCAUGACAGAACUUGGGCCCGGAAGGACC(配列番号8)の配列を持つマイクロRNAを意味する。
【0009】
本願発明において、慢性肝疾患とは、肝臓に起こる炎症が半年以上に渡って続く状態を示す疾患を意味しており、具体的には例えばウイルス性肝炎、肝硬変、脂肪肝、アルコール関連肝疾患、自己免疫性肝炎、肝臓がんなどが含まれる。
血液サンプルとは、被験者から採取された血液についての全血・血清・血漿などを意味する。
「miR」は動物や植物で発見された低分子ノンコーディングRNAのことを意味する。ヒトではmiRは約22個程度のヌクレオチドからなり、遺伝子発現の転写調節や転写後調節において機能する。miRは、真核細胞の核DNAにコードされており、mRNA分子内の相補性配列との間で塩基対合を介して機能することにより、転写抑制または標的分解を介して遺伝子のサイレンシングを生じる。
【0010】
miRを測定する方法としては、例えばイムノアッセイ(例えばELISA)、分子的または生化学的アッセイ(定量PCR、比色定量アッセイ)、分析法(例えば質量分析)、シークエンスなどの当技術分野において周知の慣用的な方法によって決定できる。
また、血液サンプルからは全RNAの測定を行うことができる。このとき、適切な内部対照(例えば公知の配列及び量のmiR(例えば線虫のmiR-39)をRNA抽出前に試料に加えても良い。定量PCRを使用することにより、Cq値が決定される。このようなアッセイを実施するために外部の検出機関を利用したり、市販のキットを利用することができる。
外部の検出機関としては、例えばCraif株式会社が例示される。
市販のキットとしては、例えばTaqman miRNA qRT-PCRアッセイ:TaqmanマイクロRNA逆転写キット、TaqManマイクロRNAアッセイ20x、及びTaqManユニバーサルマスターミックスII(アプライドバイオシステムズ社)を製造業者の説明書に従って使用できる。逆転写反応には、GeneAmp PCRシステム9700サーマルサイクラー(アプライドバイオシステムズ社)などの市販のPCRシステムを用い、適切なサイクリングパラメーター(例えば16℃で30分間、42℃で30分間及び85℃で5分間、その後4℃で保持)と共に使用できる。また、逆転写反応はマルチプレックスフォーマットで実行できる。
【0011】
次いで、定量PCR反応をCFX96 リアルタイムシステム(C1000Touch サーマルサイクラー:バイオラッド社)などの定量PCRシステムを使用して実施する。サイクリング条件としては、例えば95℃で10分間、その後95℃で15秒間及び60℃で60秒間を1サイクルとして50サイクル繰り返した後、30℃で30秒間反応する。
検査キットに用いる「結合剤」とは、標的とするmiRを認識して結合するものを意味しており、例えば標的miRに相補的な配列を備えたDNAプローブを用いることができる。このときDNAプローブをビオチンで標識しておく(ビオチン化DNAプローブ)ことができる。
「測定する試薬」とは、例えばELISAシステムを用いる場合には、miR/DNAハイブリッド鎖を特異的に認識する抗体、発色用酵素(アビジン化酵素(例えば西洋わさびパーオキシダーゼ(HRP))、及び発色用基質(例えば、TMB(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)、PNPP(p-ニトロフェニルリン酸ジナトリウム塩)、ABTS(2,2'-アジノビス[3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸]-ジアンモニウム塩)、OPD(o-フェニレンジアミン二塩酸塩)など)が含まれる。
他に、miRを検出・測定できる市販品(例えば、Mir-X miRNA qRT-PCR TB Green Kit、microRNA Enzyme Immunoassay Kit(miREIA)、TaqMan miRNA アッセイ、TaqMan miRNA アレイカード、TaqMan miRNA OpenArray パネル)を使用できる。
【0012】
ELISAシステムを用いる場合には、次の手順によって、標的とするmiRを測定できる。標的miRを含み得る血液サンプルとビオチン化DNAプローブとをハイブリダイズさせる。一方、miR/DNAハイブリッド鎖を特異的に認識する抗体をマイクロプレートのウエル中にコートしておく。このウエル内にmiR/DNAハイブリッド鎖を含み得るサンプルを滴下し、適当な時間だけインキュベートした後、ウエルを洗浄し、ストレプトアビジン結合酵素を含む溶液をウエル内に添加し、ビオチンに結合させて洗浄した後、適当な基質と反応させることにより、標的miRを測定できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、慢性肝疾患に伴い得るサルコペニアを血液サンプルから評価するためのデータの一つを検出するための方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施できる。
<試験方法及び結果>
1.血清中EV-microRNA(miR)の検出
肝細胞由来の細胞外小胞(HC-EV:Hepatocyte-derived Extracellular Vesicles)中のmiRは、次の方法で行った。
慢性肝疾患に伴う肝性サルコペニアの血中EV-miRを同定するため、サルコペニアを合併した慢性肝疾患患者とサルコペニアを伴わない慢性肝疾患患者の2グループ(男性117人、女性32人)において、血清10ulから血中EVを回収し、miR-sequencingにて全miR成分を検出した。
全miR成分の検出には、次の方法を用いた。
10μLの血清サンプルをセルロースナノファイバーシート1cm×1cmにピペットで、塗り広げた後、セルロースナノファイバーシートを7日間乾燥させた。なお、本試験では、他の試験との時間的調整を行う必要から、乾燥期間として7日間を設けたが、乾燥条件によっては、更に短時間でも問題は生じない。
次に、0.22μm フィルターで処理したPBS 1 mLで浸漬洗浄した。洗浄操作に際しては、シャーレ内にPBSを貯めておき、ピンセットで乾燥したセルロースナノファイバーシートを挟み、軽く左右に振りながら洗った。
次に、セルロースナノファイバーシートをNorgenのLysis buffer 1.5 mLに5分間浸漬した後、10秒間ボルテックスミキサーにて処理した。Lysis buffer 1 mLを取り出し、Norgenキットで精製し、microRNA溶液50 μLを得た。このmicroRNA溶液について、ライブラリを調製し、シーケンサにて解析した。
【0015】
2.EV-miRの統計解析
日本肝臓学会のサルコペニア判定基準によると、握力測定値が男性≧28kg、女性≧18kgでは「サルコペニアなし」となり、引き続いて、握力の基準を満たす(握力が弱い)患者の中で、CTと専用ソフトウエアによる筋肉量の測定値が男性>42cm2/m2、女性>38cm2/m2の基準より高い患者は「サルコペニアなし」、基準より低い患者は「サルコペニアあり」と定められている。なお、CTによる筋肉量に関しては、より簡便なmanual trace法によるPsoas muscle index (PMI)男性:6.36cm2/m2、女性:3.92cm2/m2も用いられている。本研究においてはPMIを使用した。サルコペニアの判定基準では握力を含める必要があるが、実際には握力測定が難しい施設もあり、PMI(筋肉量)のみで代用することもある。また、PMI低下と疾患の病態や重症度との関連性を示す報告も多数認められ、サルコペニアだけでなくPMIも臨床上重要な指標である。上記事情に鑑みて、本研究では「サルコペニアなし・あり」と「PMI正常・低下」という2つの区分けで解析を実施した。下記に記すように、サルコペニアという基準ではサルコペニアなしが88人であるが、PMIという基準ではPMIの正常者が42人となり大きな差が生じた。基本的には2群で統計解析を行い、有意に変動したEV-miRを用いてAI解析にて感度・特異度やロジスティック回帰によるβ係数(重み付け)を計算した。
【0016】
1)「サルコペニアなし・あり」(145人、握力数値のない4人は除外)による2群比較
145人の被験者からの血清サンプルについて、サルコペニアなし(88人)とあり(57人)の2群比較で有意に変動したEV-miRは47個であった。「サルコペニアあり」で低下したのがmiR-378a-3p、miR-30c-5p、miR-30e-5pを含む42個、上昇したものが5個 (miR-1273c, miR-196a-5p, miR-6131, miR-6746-3p, miR-6813-5p)であった。統計解析の感度は0.63、特異度は0.71であった。
113人の男性から得られた血清サンプルについて、サルコペニアなし(73人)とあり(40人)の2群比較で有意に変動したEV-miRは37個であった。「サルコペニアあり」で低下したのがmiR-378a-3p、miR-181a-5p、miR-30c-5pを含む36個で、上昇したものが1個(miR-1273c)であった。統計解析の感度は0.05、特異度は0.997であった。
32人の女性から得られた血清サンプルについて、サルコペニアなし(15人)とあり(1人)の2群比較で、「サルコペニアあり」で有意に低下したEV-miRが4個(let-7a-3p, miR-142-3p, miR-4488, miR-502-3p)であった。統計解析の感度は0.85、特異度は0.59であった。
男性の患者数が多いこともあり、全体のプロファイルと男性のプロファイルは類似していることから、全体のプロファイルでの検討が適切であると考えられた。男性で感度が低下するのは、サルコペニアありの人数が少ないことに起因すると考えられた。
表1には、AI解析によりロジスティック回帰を行い、重み付けをおこなった結果を示した。重み付けの数値が高い方がより意味があるEV-miRとして抽出された。サルコペニアありで減少したものを通常の字体で、上昇したものを太字体(hsa-mir-6131, hsa-mir-6813-5p, hsa-mir-1273c, hsa-mir-6746-3p,hsa-mir-1273c)で、それぞれ示した。
【0017】
【表1】
【0018】
2)「PMI正常・低下」(PMI正常:42人、PMI低下:107人)による2群比較
149人の被験者からの血清サンプルについて、PMI正常(42人)とPMI低下(107人)の2群比較で有意に変動したEV-miRは118個であった。「PMI低下」で低下したのがmiR-378a-3p、miR-181a-5p、miR-181d-5p、miR-30a-3p、miR-30b-5p、miR-30c-5p、miR-30d-5p、miR-30e-3p、miR-30e-5pを含む116個、上昇したものがmiR-574-5pとmiR-598-5pの2個であった。統計解析の感度は0.91、特異度は0.37であった。
117人の男性から得られた血清サンプルについて、PMI正常(33人)とPMI低下(84人)の2群比較で有意に変動したEV-miRは136個であった。「PMI低下」で低下したのがmiR-378a-3p、miR-181a-5p、miR-30a-3p、miR-30a-5p、miR-30b-3p、miR-30c-5p、miR-30d-5p、miR-30e-3p、miR-30e-5pを含む134個、上昇したものがmiR-574-5pとmiR-598-5pの2個であった。統計解析の感度は0.92、特異度は0.33であった。
32人の女性から得られた血清サンプルについて、PMI正常(9人)とPMI低下(23人)の2群比較で有意に変動したEV-miRは13個であった。「PMI低下」で低下したのがmiR-4488を含む10個、上昇したものがmiR-1290、miR-15a-5p、miR-9985の3個であった。統計解析の感度は0.93、特異度は0.38であった。
男性の患者数が多いこともあり、全体のプロファイルと男性のプロファイルは類似していることから、全体のプロファイルでの検討が適切であると考えられた。特異度が低下するのは、PMI正常の人数が少ないことに起因すると考えられた。AI解析でロジスティック回帰分析を行い、重み付けを行った結果を表2に示した。重み付けの数値が高い方がより意味があるEV-miRとして抽出された。PMI低下により減少したものを通常の字体で、上昇したものを太字体(hsa-mir-574-5p, hsa-mir-598-5p, hsa-mir-574-5p, hsa-mir-598-5p,hsa-mir-1290, hsa-mir-15a-5p, hsa-mir-9985)で、それぞれ示した。
【0019】
【表2】
【0020】
上記1)と2)の解析で一致しているEV-miRがあったことから、サルコペニアとPMIの全体のプロファイルにおいて共通するEV-miRをAI解析にて抽出したところ、表3の左側4段のカラムに示す13個のmiRが共通していた。男性と女性においても同様に解析したところ、表3の右側のカラムに示す通り、男性のサルコペニアとPMIで共通するものが10個、女性において共通するものが1個であった。これらのプロファイルを総合すると、慢性肝疾患の合併症としての肝性サルコペニアを評価できるEV-miRとして、miR-483-3p、let-7i-3p、miR-142-3p、miR-4488、miR-1304-3p、miR-20a-5p、miR-378a-3p、miR-152-3pの8個が特定された。
【0021】
【表3】
【0022】
全てを総合して検討した結果、下記EV-miRが肝性サルコペニアに有用だと考えられた。
1)本発明者らが以前に別の方法で解析したときに特定されたmiRで今回の研究でも検出されたものとして、miR-378, miR-181, miR-30の3個のもの。
2)サルコペニアありやPMIの低下で上昇したmiRとして、miR-574-5p, miR-598-5p, miR-1273c, miR-6131, miR-6813-5p,miR-6746-3pの6個のもの。
3)サルコペニアとPMIのどちらの基準でも検出されたmiRとして、miR-483-3p、let-7i-3p、miR-142-3p、miR-4488、miR-1304-3p、miR-20a-5p、miR-378a-3p、miR-152-3pの8個のもの。
【0023】
このように、本実施形態によれば、慢性肝疾患の合併症としてのサルコペニアを血液サンプルから評価するためのデータの一つを検出するための方法を提供することができた。
【配列表】
2024163567000001.xml