IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

<>
  • -レジスト組成物及びパターン形成方法 図1
  • -レジスト組成物及びパターン形成方法 図2
  • -レジスト組成物及びパターン形成方法 図3
  • -レジスト組成物及びパターン形成方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163579
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】レジスト組成物及びパターン形成方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/004 20060101AFI20241115BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
G03F7/004
G03F7/004 531
G03F7/20 503
G03F7/20 504
G03F7/20 521
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079324
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正樹
(72)【発明者】
【氏名】橘 誠一郎
(72)【発明者】
【氏名】菊地 駿
(72)【発明者】
【氏名】半田 龍之介
【テーマコード(参考)】
2H197
2H225
【Fターム(参考)】
2H197CA09
2H197CA10
2H197CE01
2H197GA01
2H197HA03
2H197JA22
2H197JA30
2H225AB03
2H225AF24P
2H225AF53P
2H225AF67P
2H225AH19
2H225AJ13
2H225AJ48
2H225AN05P
2H225AN11P
2H225AN39P
2H225AN41P
2H225AN56P
2H225AN80P
2H225AN88P
2H225BA01P
2H225BA26P
2H225CA12
2H225CB18
2H225CC01
2H225CC03
2H225CC11
2H225CC15
2H225CD05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高エネルギー線を用いるフォトリソグラフィーにおいて、感度、解像性及びLWRに優れるレジスト組成物、並びに該レジスト組成物を用いるパターン形成方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるスズ化合物及び有機溶剤を含むレジスト組成物。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるスズ化合物及び有機溶剤を含むレジスト組成物。
【化1】
(式中、R1A~R10A及びR1B~R10Bは、それぞれ独立に、炭素数1~20のヒドロカルビル基である。
11~R14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~20のヒドロカルビル基である。
a1及びLa2は、それぞれ独立に、連結基である。)
【請求項2】
a1及びLa2が、それぞれ独立に、下記式(2a)~(2d)のいずれかで表される基である請求項1記載のレジスト組成物。
【化2】
(式中、破線は、Snとの結合手を表す。)
【請求項3】
1A~R10A及びR1B~R10Bが、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基又はベンジル基である請求項1記載のレジスト組成物。
【請求項4】
更に、界面活性剤を含む請求項1記載のレジスト組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項記載のレジスト組成物を用いて基板上にレジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜を高エネルギー線で露光する工程と、前記露光したレジスト膜を、現像液を用いて現像する工程とを含むパターン形成方法。
【請求項6】
前記高エネルギー線が、電子線又は極端紫外線である請求項5記載のパターン形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジスト組成物及びパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IoT市場の拡大とともにLSIの高集積化、高速度化及び低消費電力化が更に要求され、パターンルールの微細化が急速に進んでいる。特に、ロジックデバイスが微細化を牽引している。最先端の微細化技術として、ArF液浸リソグラフィーのダブルパターニング、トリプルパターニング及びクアドロパターニングによる10nmノードのデバイスの量産が行われており、次世代の波長13.5nmの極端紫外線(EUV)リソグラフィーによる7nmノードデバイスの検討が進められている。
【0003】
微細化の進行とともに、酸の拡散による像のボケが問題になっている(非特許文献1)。加工寸法45nm世代以降の微細パターンでの解像性を確保するためには、従来提案されている溶解コントラストの向上だけでなく、酸拡散の制御が重要であることが提案されている(非特許文献2)。しかし、化学増幅レジスト組成物は、酸の拡散によって感度とコントラストを上げているため、ポストエクスポージャーベーク(PEB)温度を低くしたり、時間を短くしたりして酸拡散を極限まで抑えようとすると、感度やコントラストが著しく低下する。
【0004】
バルキーな酸が発生する酸発生剤を添加して酸拡散を抑えることは有効である。そこで、ポリマーに重合性オレフィンを有するオニウム塩の酸発生剤を共重合することが提案されている。しかし、加工寸法16nm世代以降のレジスト膜のパターン形成においては、酸拡散の観点から化学増幅レジスト材料ではパターン形成ができないと考えられており、非化学増幅レジスト組成物の開発が望まれている。
【0005】
非化学増幅レジスト組成物用の材料として、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が挙げられる。PMMAは、電子線(EB)あるいはEUV照射によって主鎖が切断し、分子量が低下することによって有機溶剤現像液への溶解性が向上するポジ型レジスト材料であるが、環構造を有していないためにエッチング耐性が低いことと露光時のアウトガス量が多いことが欠点である。
【0006】
ハイドロゲンシルセスキオキサン(HSQ)は、EBあるいはEUV照射によって生じたシラノールの縮合反応による架橋によってアルカリ現像液に不溶となるネガ型レジスト材料である。また、塩素置換したカリックスアレーンもネガ型レジスト材料として機能する。これらのネガ型レジスト材料は、架橋前の分子サイズが小さく酸拡散によるボケが無いため、エッジラフネスが小さく解像性が非常に高く、露光装置の解像限界を示すためのパターン転写材料として用いられている。しかし、これらの材料は感度が不十分であり、更なる改善が必要である。
【0007】
EUVリソグラフィー向け材料開発を困難にさせる要因として、EUV露光におけるフォトン数の少なさが挙げられる。EUVのエネルギーはArFエキシマレーザー光に比べて遙かに高く、EUV露光のフォトン数は、ArF露光のそれの14分の1である。さらに、EUV露光で形成するパターンの寸法は、ArF露光の半分以下である。このため、EUV露光はフォトン数のバラツキの影響を受けやすい。極短波長の放射光領域におけるフォトン数のバラツキは物理現象のショットノイズであり、この影響を無くすることはできない。そのため、いわゆる確率論(Stochastics)が注目されている。ショットノイズの影響を無くすることはできないが、いかにこの影響を低減するかが議論されている。ショットノイズの影響で寸法均一性(CDU)やラインウィズスラフネス(LWR)が大きくなるだけでなく、数百万分の一の確率でホールが閉塞する現象が観察されている。ホールが閉塞すると電通不良となってトランジスタが動作しないので、デバイス全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼす。
【0008】
ショットノイズの影響をレジスト側で低減する方法として、EUVの吸収が大きい元素を核とした無機レジスト組成物が提案されている(特許文献1)。しかし、無機レジスト組成物は、比較的高感度ではあるものの未だ十分ではなく、またレジスト用溶剤に対する溶解性不足、保存安定性、欠陥等多くの課題を抱えている。
【0009】
非特許文献3には、スズ化合物を用いたネガ型レジスト組成物が提案されている。これは、EUV光吸収の高いスズ元素を主成分とした非化学増幅型レジストであり、Stochasticsが改善され、一定の感度・解像性向上を実現したものの、未だ不十分であり、さらなる改善品の開発が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2015-108781号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】SPIE Vol. 5039, p1 (2003)
【非特許文献2】SPIE Vol. 6520, p65203L-1 (2007)
【非特許文献3】SPIE Vol. 9051, p90511B-1 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記事情に鑑みなされたもので、高エネルギー線を用いるフォトリソグラフィー、特にEUVリソグラフィーにおいて、感度、解像性及びLWRに優れるレジスト組成物、並びに該レジスト組成物を用いるパターン形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有するスズクラスター化合物を主成分とするレジスト組成物が、高感度であり、優れた解像力及びLWRを示すレジスト膜を与え、精密な微細加工に極めて有効であることを知見し、本発明をなすに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、下記レジスト組成物及びパターン形成方法を提供する。
1.下記式(1)で表されるスズ化合物及び有機溶剤を含むレジスト組成物。
【化1】
(式中、R1A~R10A及びR1B~R10Bは、それぞれ独立に、炭素数1~20のヒドロカルビル基である。
11~R14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~20のヒドロカルビル基である。
a1及びLa2は、それぞれ独立に、連結基である。)
2.La1及びLa2が、それぞれ独立に、下記式(2a)~(2d)のいずれかで表される基である1のレジスト組成物。
【化2】
(式中、破線は、Snとの結合手を表す。)
3.R1A~R10A及びR1B~R10Bが、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基又はベンジル基である1又は2のレジスト組成物。
4.更に、界面活性剤を含む1~3のいずれかのレジスト組成物。
5.1~4のいずれかのレジスト組成物を用いて基板上にレジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜を高エネルギー線で露光する工程と、前記露光したレジスト膜を、現像液を用いて現像する工程とを含むパターン形成方法。
6.前記高エネルギー線が、EB又はEUVである5のパターン形成方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のレジスト組成物は、高エネルギー線を用いるフォトリソグラフィー、特にEUVリソグラフィーにおいて、高感度及び高解像性を両立し、かつLWRに優れるため、微細パターンを形成するにあたり非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】合成例1で得られたスズ化合物M-1の1H-NMRスペクトルである。
図2】合成例2で得られたスズ化合物M-1の119Sn-NMRスペクトルである。
図3】実施例2-1のEopにおけるスペース幅20nm、ピッチ40nmのラインアンドスペース(LS)パターンを示したSEM画像である。
図4】実施例3で作製したレジスト膜について、膜厚と露光量の関係をプロットした結果(コントラストカーブ及びPEBシュリンク)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[レジスト組成物]
本発明のレジスト組成物は、所定のスズ化合物及び有機溶剤を含むものである。
【0018】
[スズ化合物]
前記スズ化合物は、本発明のレジスト組成物の主成分であり、下記式(1)で表されるものである。なお、本発明において、主成分とは溶剤以外で最も含有量が多い成分を意味する。
【化3】
【0019】
式(1)中、R1A~R10A及びR1B~R10Bは、それぞれ独立に、炭素数1~20のヒドロカルビル基である。R11~R14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~20のヒドロカルビル基である。La1及びLa2は、それぞれ独立に、連結基である。
【0020】
1A~R10A、R1B~R10B及びR11~R14で表される炭素数1~20のヒドロカルビル基は、飽和でも不飽和でもよく、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。その具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、tert-ペンチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基等の炭素数1~1020のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロペンチルエチル基、シクロペンチルブチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、シクロヘキシルブチル基、ノルボルニル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デシル基、アダマンチル基、アダマンチルメチル基等の炭素数3~20の環式飽和ヒドロカルビル基;ビニル基、アリル基等の炭素数2~20のアルケニル基;フェニル基、ナフチル基等の炭素数6~20のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7~20のアラルキル基;これらを組み合わせて得られる基等が挙げられる。
【0021】
また、前記ヒドロカルビル基の水素原子の一部又は全部が、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、ハロゲン原子等のヘテロ原子を含む基で置換されていてもよく、前記ヒドロカルビル基の-CH2-の一部が、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等のヘテロ原子を含む基で置換されていてもよく、その結果、ヒドロキシ基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボニル基、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、スルホン酸エステル結合、カーボネート結合、カーバメート結合、ラクトン環、スルトン環、カルボン酸無水物(-C(=O)-O-C(=O)-)等を含んでいてもよい。
【0022】
原料が入手しやすく、製造が容易であるという点から、R1A~R10Aが同じ基であり、R1B~R10Bが同じ基であることが好ましく、R1A~R10A及びR1B~R10Bが全て同じ基であることが好ましい。
【0023】
1A~R10A及びR1B~R10Bとしては、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ベンジル基等が好ましく、n-ブチル基、t-ブチル基、ベンジル基等がより好ましい。また、R11~R14としては、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0024】
a1及びLa2で表される連結基としては、例えば、下記式(2a)~(2d)のいずれかで表される基が挙げられる。
【化4】
(式中、破線は、Snとの結合手を表す。)
【0025】
式(1)で表されるスズ化合物の具体例としては、以下に示すものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、下記式中、Bnはベンジル基であり、nBuはn-ブチル基であり、tBuはtert-ブチル基であり、iPrはイソプロピル基であり、Meはメチル基である。
【化5】
【0026】
【化6】
【0027】
【化7】
【0028】
【化8】
【0029】
【化9】
【0030】
【化10】
【0031】
【化11】
【0032】
【化12】
【0033】
式(1)で表されるスズ化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用することもできるが、成分の均一性を高める観点から、1種単独で、又は2種を組み合わせて使用することが好ましい。
【0034】
式(1)で表されるスズ化合物は、Z. Naturforsch. 2010, 65b, 1293-1300や、Inorg.Chim.Acta 357, (9), 2791-2797,2004等を参考に合成することができる。
【0035】
[有機溶剤]
本発明のレジスト組成物は、有機溶剤を含む。前記溶剤としては、式(1)で表されるスズ化合物を溶解し、成膜可能なものであれば、特に限定されない。このような有機溶剤としては、例えば、シクロヘキサノン、メチル-2-n-ペンチルケトン等のケトン類;3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジアセトンアルコール(DAA)等のアルコール類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、2-ヒドロキシイソ酪酸メチル、酢酸tert-ブチル、酢酸シクロヘキシル、プロピオン酸tert-ブチル、プロピレングリコールモノtert-ブチルエーテルアセテート等のエステル類;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸類、トルエン、キシレン、クレゾール、アニソール、ベンズトリフルオリド等の芳香族類;これらの混合溶剤等が挙げられる。
【0036】
前記有機溶剤の含有量は、式(1)で表されるスズ化合物100質量部に対し、200~20000質量部が好ましく、500~10000質量部がより好ましい。
【0037】
本発明のレジスト組成物は、いわゆる分子レジスト組成物であり、低分子化合物を主成分とし、高分子系レジスト組成物に使用されるベースポリマーを含まないレジスト組成物である。本発明のレジスト組成物は、主成分であるスズ化合物の光分解及びその後の架橋反応により、溶剤溶解性が変化し、現像液に対して不溶化するものと推測される。本反応は触媒反応ではないため、本発明のレジスト組成物は非化学増幅レジスト組成物として機能する。そのため、従来の多元系ポリマーを主成分とした化学増幅レジスト組成物と比較して、限界解像性が向上する。特にEUVリソグラフィーにおいては、スズ原子が高いEUV吸収能を有しているためStochasticsが向上し、感度やLWRにも優れたレジスト材料を提供することができる。
【0038】
前記スズ化合物は、スズの10核錯体、すなわちクラスター化合物である。熱的に安定なクラスター構造を取ることにより、保存安定性にも優れている。なお、前述した非特許文献3には、12核錯体のスズクラスター化合物が例示されており、こちらも同様に熱的な安定性に利点はあるもの、有機溶剤溶解性が低い。この場合、レジスト組成物を長期にわたって保存することで、経時での析出や成膜性の劣化が懸念される。一方、前記スズ化合物は、溶剤溶解性に優れている。これについて理由は定かではないが、式(1)中のLa1及びLa2(すなわち、リンカー部分)の存在によってクラスター構造の剛直性が緩和されていることが溶剤溶解性に寄与していると推測される。加えて、前記スズ化合物は、露光時における膜シュリンクが大きいという特徴を有する。露光により得たパターンがシュリンクにより微細化できるとともに、緻密になって細線においてもパターン倒れや断線といった欠陥が見られなくなり、限界解像性が向上すると考えられる。なお、膜シュリンクは、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上が更に好ましくい。
【0039】
本発明のレジスト組成物は、その他の成分として界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤としては、フッ素系及び/又はシリコーン系界面活性剤が好ましい。このような界面活性剤としては、米国特許出願公開2008/0248425号明細書の段落[0276]に記載の界面活性剤を使用することができる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。さらに、本発明では米国特許出願公開2008/0248425号明細書の段落[0280]に記載の、フッ素系及び/又はシリコーン系界面活性剤以外の他の界面活性剤を使用することもできる。本発明のレジスト組成物が界面活性剤を含む場合、その含有量は、前記スズ化合物100質量部に対し、0.001~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましい。前記界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
[パターン形成方法]
本発明のレジスト組成物を種々の集積回路製造に用いる場合は、公知のリソグラフィー技術を適用することができる。例えば、パターン形成方法としては、前述したレジスト組成物を用いて基板上にレジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜を高エネルギー線で露光する工程と、前記露光したレジスト膜を、現像液を用いて現像する工程とを含む方法が挙げられる。
【0041】
まず、本発明のレジスト組成物を、集積回路製造用の基板(Si、SiO2、SiN、SiON、TiN、WSi、BPSG、SOG、有機反射防止膜等)あるいはマスク回路製造用の基板(Cr、CrO、CrON、MoSi2、SiO2等)上に、スピンコート、ロールコート、フローコート、ディップコート、スプレーコート、ドクターコート等の適当な塗布方法により塗布膜厚が0.01~2μmとなるように塗布する。これをホットプレート上で、好ましくは60~150℃、10秒~30分間、より好ましくは80~120℃、30秒~20分間プリベークし、レジスト膜を形成する。
【0042】
次いで、高エネルギー線を用いて、前記レジスト膜を露光する。前記高エネルギー線としては、紫外線、遠紫外線、EB、EUV、X線、軟X線、エキシマレーザー光、γ線、シンクロトロン放射線等が挙げられる。前記高エネルギー線として紫外線、遠紫外線、EUV、X線、軟X線、エキシマレーザー光、γ線、シンクロトロン放射線等を用いる場合は、直接又は目的のパターンを形成するためのマスクを用いて、露光量が好ましくは1~200mJ/cm2程度、より好ましくは10~100mJ/cm2程度となるように照射する。高エネルギー線としてEBを用いる場合は、直接又は目的のパターンを形成するためのマスクを用いて、露光量が好ましくは0.1~5000μC/cm2程度、より好ましくは0.5~4000μC/cm2程度で描画する。なお、本発明のレジスト組成物は、特に高エネルギー線の中でも、KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、EB、EUV、X線、軟X線、γ線、シンクロトロン放射線による微細パターニングに好適であり、特にEB又はEUVによる微細パターニングに好適である。
【0043】
本発明のレジスト組成物は、光分解後の反応を促進あるいは完結させるために露光後のベーク(PEB)を行ってもよい。PEBを行う場合は、露光後、ホットプレート上又はオーブン中で、好ましくは30~200℃、10秒~30分間、より好ましくは60~180℃、30秒~20分間の条件で行うことが好ましい。
【0044】
露光後又はPEB後、有機溶剤を用いて現像を行う。現像は、3秒~3分間、好ましくは5秒~2分間、浸漬(dip)法、パドル(puddle)法、スプレー(spray)法等の常法により露光したレジスト膜に対して行われ、目的のパターンが形成される。本発明のレジスト組成物はネガ型であるので、光を照射した部分は現像液に不溶化し、露光されなかった部分は溶解する。
【0045】
現像液として用いられる有機溶剤としては、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、メチルアセトフェノン、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸ブテニル、酢酸イソペンチル、ギ酸プロピル、酢酸シクロヘキシル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、ギ酸イソペンチル、吉草酸メチル、ペンテン酸メチル、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、乳酸イソブチル、乳酸ペンチル、乳酸イソペンチル、2-ヒドロキシイソ酪酸メチル、2-ヒドロキシイソ酪酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、酢酸フェニル、酢酸ベンジル、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、ギ酸ベンジル、ギ酸フェニルエチル、3-フェニルプロピオン酸メチル、プロピオン酸ベンジル、酢酸2-フェニルエチル等が挙げられる。これらの有機溶剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0046】
現像後、必要に応じてリンスを行う。リンス液としては、現像液と混溶し、レジスト膜を溶解させない溶剤が好ましい。このような溶剤としては、炭素数3~10のアルコール、炭素数8~12のエーテル化合物、炭素数6~12のアルカン、アルケン、アルキン、芳香族系の溶剤が好ましく用いられる。
【0047】
前記炭素数3~10のアルコールとしては、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1-ブチルアルコール、2-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、tert-ペンチルアルコール、ネオペンチルアルコール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-3-ペンタノール、シクロペンタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-1-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、4-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、4-メチル-3-ペンタノール、シクロヘキサノール、1-オクタノール等が挙げられる。
【0048】
前記炭素数8~12のエーテル化合物としては、ジ-n-ブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジ-sec-ブチルエーテル、ジ-n-ペンチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジ-sec-ペンチルエーテル、ジ-tert-ペンチルエーテル、ジ-n-ヘキシルエーテル等が挙げられる。
【0049】
前記炭素数6~12のアルカンとしては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、メチルシクロペンタン、ジメチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロノナン等が挙げられる。前記炭素数6~12のアルケンとしては、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、ジメチルシクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等が挙げられる。前記炭素数6~12のアルキンとしては、ヘキシン、ヘプチン、オクチン等が挙げられる。
【0050】
前記芳香族系の溶剤としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、メシチレン等が挙げられる。
【0051】
リンスを行うことによって、レジストパターンの倒れや欠陥の発生を低減させることができる。また、リンスは必ずしも必須ではなく、リンスを行わないことによって溶剤の使用量を削減することができる。
【実施例0052】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。なお、使用した装置は、以下のとおりである。
・IR:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製NICOLET 6700
1H-NMR:日本電子(株)製ECA-500
【0053】
[1]スズ化合物の合成
[合成例1]スズ化合物M-1の合成
【化13】
(式中、Bnはベンジル基であり、Meはメチル基である。)
【0054】
ジベンジルジクロロオキシド1.6g、炭酸ジメチル1.5g、メタノール1.1g及びトルエン60gの混合物を110℃で3時間攪拌した後、室温に戻してろ過を行い、不溶分を除去した後、減圧濃縮した。得られた濃縮残渣にトルエンを加えて加熱し、溶解した後、室温に戻して再結晶精製を行うことで、目的物であるスズ化合物M-1を0.9g得た(収率55%)。
【0055】
スズ化合物M-1のIRスペクトルデータを以下に示す。また、核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR/CDCl3及び119Sn-NMR/CDCl3)の結果を図1及び2に示す。なお、1H-NMRにおいて残溶剤(トルエン)が観測された。
IR (D-ATR): 3635, 3079, 3057, 3023, 2929, 1599, 1538, 1492, 1451, 1405, 1366, 1210, 1115, 1052, 1029, 756, 731, 709, 698, 618, 518, 464, 455cm-1.
【0056】
[合成例2]スズ化合物M-2の合成
【化14】
(式中、nBuはn-ブチル基であり、Etはエチル基である。)
【0057】
ジノルマルブチルジクロロスズ1.0g、炭酸ナトリウム0.3g及び95質量%エタノール水溶液100gの混合物を60℃で一晩攪拌した後、室温に戻してろ過を行い、不溶分を取得した。この不溶分を30質量%エタノール水溶液で洗浄し、洗浄後の粉体を減圧乾燥することで、目的物であるスズ化合物M-2を0.6g得た(収率67%)。
【0058】
スズ化合物M-2のIRスペクトルデータを以下に示す。
IR (D-ATR): 2958, 2925, 2871, 2858, 1510, 1464, 1378, 1287, 1157, 1079, 1020, 965, 870, 826, 678, 640, 487cm-1.
【0059】
[合成例3]スズ化合物M-3の合成
【化15】
(式中、nBuはn-ブチル基であり、Meはメチル基である。)
【0060】
ジノルマルブチルスズオキシド2.5g、炭酸ジメチル0.9g、トルエン20g及びメタノール0.2gの混合物を110℃で1時間攪拌した。反応液を室温に戻した後、減圧濃縮を行い、濃縮残渣をメタノールで洗浄した。得られた粉体を減圧加熱乾燥させることで、目的物であるスズ化合物M-3を2.2g得た(収率83%)。
【0061】
スズ化合物M-3のIRスペクトルデータを以下に示す。
IR (D-ATR): 2956, 2922, 2871, 2855, 2801, 1541, 1463, 1419, 1376, 1068, 669, 605, 577, 534cm-1.
【0062】
[2]レジスト組成物の調製
[実施例1-1、比較例1-1~1-2]
下記表1に示す組成でレジスト材料を混合、溶解し、得られた溶液を0.2μmのテフロン(登録商標)製フィルターでろ過することで、本発明のレジスト組成物R-1、比較用レジスト組成物CR-1及びCR-2を調製した。
【0063】
【表1】
【0064】
表1中、比較例である化学増幅レジスト組成物CR-1の材料であるP-1(ベースポリマー)、PAG-1(光酸発生剤)、Q-1(感度調整剤)及び界面活性剤(SF-1)は、以下のとおりである。
【0065】
・P-1:p-ヒドロキシスチレン/メタクリル酸1-メチルシクロペンチル共重合体
【化16】
【0066】
・PAG-1:トリフェニルスルホニウム 2-(アダマンタン-1-カルボニルオキシ)-1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロパン-1-スルホネート
【化17】
【0067】
・Q-1:ラウリン酸2-モルホリノエチル
【化18】
【0068】
・SF-1:PF-636(オムノバ社製)
【0069】
表1中、比較例である非化学増幅レジスト組成物CR-2の材料であるスズ化合物CM-1は、非特許文献:Angewandte Chemie, International Edition (2017), 56(34), 10140-10144に従って合成した。その構造は、以下のとおりである。
【化19】
【0070】
表1中、PGMEAは、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートであり、DAAは、ジアセトンアルコールである。
【0071】
[3]EBリソグラフィー評価
(1)感度、LWR及び限界解像度の評価
[実施例2-1、比較例2-1~2-2]
各レジスト組成物(R-1、CR-1及びCR-2)を、日産化学(株)製の反射防止膜DUV-42を膜厚60nmで形成したSi基板上にスピンコートし、ホットプレートを用いて100℃で60秒間プリベークして膜厚40nmのレジスト膜を作製した。前記レジスト膜をエリオニクス社製EB描画装置(ELS-F125、加速電圧125kV)を用いて露光し、ホットプレート上で表2に記載の温度で60秒間PEBを行い、表2に記載の現像液で30秒間現像を行って、パターンを形成した。実施例2-1及び比較例2-2においては、露光部分のレジスト膜が残り、ネガディブトーンの特性を示した。比較例2-1においては、未露光部分のレジスト膜が残り、ポジティブトーンの特性を示した。その結果、ネガ型又はポジ型のスペース幅20nm、ピッチ40nmのラインアンドスペース(LS)パターンが得られた。得られたLSパターンについて、下記方法に従って、感度、LWR及び限界解像度を評価した。結果を表2に示す。なお、図3に、実施例2-1のEopにおけるスペース幅20nm、ピッチ40nmのラインアンドスペース(LS)パターンを示したSEM画像を示す。
【0072】
[感度評価]
前記LSパターンを電子顕微鏡にて観察し、スペース幅20nm、ピッチ40nmのLSパターンが得られる最適露光量Eop(μC/cm2)を求め、これを感度とした。
【0073】
[LWR評価]
最適露光量Eopで照射して得たLSパターンを、(株)日立ハイテクノロジーズ製CD-SEM(CG-5000)でスペース幅の長手方向に10箇所の寸法を測定し、その結果から標準偏差(σ)の3倍値(3σ)を求め、LWRとした。この値が小さいほど、ラフネスが小さく均一なスペース幅のパターンが得られる。
【0074】
[限界解像度評価]
最適露光量Eopにおいて分離しているLSパターンの最小線幅(nm)を、限界解像度とした。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示した結果より、本発明のレジスト組成物は、EBを使用した有機溶剤現像によるネガティブパターン形成において、LWR及び限界解像度に優れることがわかった
【0077】
(2)コントラストカーブ及びPEBシュリンク評価
[実施例3]
レジスト組成物R-1を、日産化学(株)製の反射防止膜DUV-42を膜厚60nmで形成したSi基板上にスピンコートし、ホットプレートを用いて100℃で60秒間プリベークして膜厚40nmのレジスト膜を作製した。前記レジスト膜をエリオニクス社製EB描画装置(ELS-F125)を用いて、加速電圧50kV、露光量3~3800μC/cm2の範囲で露光した。その後、ホットプレート上で、150℃で60秒間PEBを行い、膜厚を測定し、PEBシュリンクを算出した。さらに、2-ヘプタノンを用いて30秒間現像を行い、現像後の膜厚を測定した。膜厚と露光量の関係をプロットした結果(コントラストカーブ及びPEBシュリンク)を図4に示す。
【0078】
図4に示した結果より、露光量が増えるほど、大きなPEBシュリンクとともに膜の不溶化が進行していることがわかった。
【0079】
また、本発明のレジスト組成物の感度は、EBリソグラフィーでは低かったが、EUV光吸収能の高いスズ原子を高密度で有しているため、EUVリソグラフィーにおいては、かなり高感度となることが予想される。
図1
図2
図3
図4