(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163580
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】ロータリーダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/16 20060101AFI20241115BHJP
F16F 9/14 20060101ALI20241115BHJP
【FI】
F16F15/16 E
F16F9/14 A
F16F15/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079325
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】519184930
【氏名又は名称】株式会社ソミックマネージメントホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】志村 良太
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA42
3J069EE36
(57)【要約】
【課題】回転部の回転速度に応じたトルクを発生させることが可能な回転速度範囲を大きく確保できるロータリーダンパを提供する。
【解決手段】ロータリーダンパ1は、円筒状の壁部6を有するハウジング2と、ハウジング2に対し回転可能な回転部3と、壁部6と回転部3との間に介在される粘性流体5と、を備え、粘性流体5の粘性抵抗によりトルクを生じさせる。回転部3は、壁部6の内周部と対向する対向部20を備え、ハウジング2から一部が露出する回転体15と、対向部20と壁部6との間に介在される、回転体15とは別体の可動体16と、可動体16を壁部6から離れる方向に付勢する付勢手段35と、を有する。可動体16は、ハウジング2に対する回転部3の回転により生じる遠心力と付勢手段35による付勢力との大小関係に応じて壁部6と可動体16との隙間33を変化させるように移動可能に配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の壁部を有するハウジングと、このハウジングに対し回転可能な回転部と、前記壁部と前記回転部との間に介在される粘性流体と、を備え、この粘性流体の粘性抵抗によりトルクを生じさせるロータリーダンパであって、
前記回転部は、
前記壁部の内周部と対向する対向部を備え、前記ハウジングから一部が露出する回転体と、
前記対向部と前記壁部との間に介在される、前記回転体とは別体の可動体と、
前記可動体を前記壁部から離れる方向に付勢する付勢手段と、を有し、
前記可動体は、前記ハウジングに対する前記回転部の回転により生じる遠心力と前記付勢手段による付勢力との大小関係に応じて前記壁部と前記可動体との隙間を変化させるように移動可能に配置されている
ことを特徴とするロータリーダンパ。
【請求項2】
回転体の対向部と可動体との一方に形成された凸部と、
前記回転体の前記対向部と前記可動体との他方に形成された凹部と、を備え、
前記可動体は、回転部の回転速度に応じて前記凸部と前記凹部との接触により前記回転体に対する周方向の位置が規制されるとともに、前記凸部と前記凹部との接触位置が変わることで移動が補助される
ことを特徴とする請求項1記載のロータリーダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性流体の粘性抵抗によりトルクを生じさせるロータリーダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハウジングの内部に封じたオイルの粘性抵抗によってローターの回転時にトルクを発生させることで、回転機構における運動エネルギを減衰するロータリーダンパが知られている。このようなロータリーダンパは、例えば蓋の閉止時の落下速度を減速させたり、自動車用のシートのシートバックの起き上がり速度を減衰させたりすることに利用される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のロータリーダンパの場合、オイルの粘性抵抗を生じさせるハウジングの内周部とローターの外周部との間の隙間(クリアランス)が一定であるため、回転速度が小さい状態でトルクが上限に収束し、有効に使用できる回転速度範囲が狭い。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、回転部の回転速度に応じたトルクを発生させることが可能な回転速度範囲を大きく確保できるロータリーダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載のロータリーダンパは、円筒状の壁部を有するハウジングと、このハウジングに対し回転可能な回転部と、前記壁部と前記回転部との間に介在される粘性流体と、を備え、この粘性流体の粘性抵抗によりトルクを生じさせるロータリーダンパであって、前記回転部は、前記壁部の内周部と対向する対向部を備え、前記ハウジングから一部が露出する回転体と、前記対向部と前記壁部との間に介在される、前記回転体とは別体の可動体と、前記可動体を前記壁部から離れる方向に付勢する付勢手段と、を有し、前記可動体は、前記ハウジングに対する前記回転部の回転により生じる遠心力と前記付勢手段による付勢力との大小関係に応じて前記壁部と前記可動体との隙間を変化させるように移動可能に配置されているものである。
【0007】
請求項2記載のロータリーダンパは、請求項1記載のロータリーダンパにおいて、回転体の対向部と可動体との一方に形成された凸部と、前記回転体の前記対向部と前記可動体との他方に形成された凹部と、を備え、前記可動体は、回転部の回転速度に応じて前記凸部と前記凹部との接触により前記回転体に対する周方向の位置が規制されるとともに、前記凸部と前記凹部との接触位置が変わることで移動が補助されるものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載のロータリーダンパによれば、回転部の回転速度が小さい範囲では壁部と可動体との隙間が相対的に大きいことにより粘性流体による粘性抵抗が相対的に小さくトルクが小さくなり、回転速度が増加するにしたがって可動体の移動によって壁部と可動体との隙間が相対的に小さくなることにより粘性流体による粘性抵抗が相対的に大きくトルクが大きくなるので、回転部の回転速度が小さいうちにトルクが収束することがなく、回転部の回転速度に応じたトルクを発生させることが可能な回転速度範囲を大きく確保できる。
【0009】
請求項2記載のロータリーダンパによれば、請求項1記載のロータリーダンパの効果に加えて、凹部と凸部との嵌め合いにより回転体に対する可動体の位置を安定させることができるとともに、可動体の重量を大きくすることなく、可動体に作用する遠心力をトリガとして可動体を容易に径方向に移動させることが可能になるので、ロータリーダンパの軽量化と、回転部の高速回転時のトルクを大きくすることとを両立することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施の形態のロータリーダンパを示す縦断面図である。
【
図3】同上ロータリーダンパの一部の横断面図であり、(a)は回転部の回転速度が低速の場合を示し、(b)は回転部の回転速度が中速の場合を示し、(c)は回転部の回転速度が高速の場合を示す。
【
図6】同上ロータリーダンパと比較例のロータリーダンパとの回転速度とトルクとの関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1、
図4及び
図5において、1はロータリーダンパである。ロータリーダンパ1は、概略として、円筒状の壁部6を有するハウジング2と、このハウジング2に対して回転可能な回転部3と、を備えており、回転部3が保持体4によってハウジング2に保持されている。そして、ハウジング2の内部、すなわち、ハウジング2の壁部6と回転部3との間に、例えばシリコーンオイル等の粘性流体5が封止されている。そして、本実施の形態のロータリーダンパ1は、ハウジング2に対する回転部3の回転に伴う粘性流体5の粘性抵抗を利用してトルクを発生させ、このトルクによって回転機構における運動エネルギを減衰する粘性式ダンパである。なお、以下、説明を明確にするために、
図1を基準とし、ロータリーダンパ1(回転部3)の回転軸線Aに沿う一方向(矢印U方向)を上方向、その反対方向(矢印D方向)を下方向として説明するが、ロータリーダンパ1の使用状態での上下方向を本実施の形態の説明における上下方向のみに限定することを意図するものではない。
【0013】
ハウジング2は、保持体4とともに、回転部3を回転可能に保持しつつロータリーダンパ1の筐体を構成する部品である。ハウジング2は、例えばステンレス材等の金属部材により形成されている。
【0014】
壁部6は、ハウジング2の外周及び外殻を構成する円筒状であって、ロータリーダンパ1(回転部3)の回転軸線Aを中心軸とする。本実施の形態において、壁部6は、外径寸法よりも軸方向寸法が小さい、扁平薄型に形成されている。
【0015】
壁部6の内方には、壁部6と同軸状または略同軸状に、回転部3を回転可能に支持する円筒状の軸受け部7が形成され、壁部6の下端部と軸受け部7の下端部とが、軸直方向に平面状の閉塞部8により連なっている。壁部6の下端部には、軸方向に延びて起立部9が形成されている。起立部9は、所定の一定または略一定の厚みを有する。また、壁部6の上端部には、軸方向に延びて保持体4が取り付けられる保持体取付部10が形成されている。保持体取付部10は、例えば壁部6の上端部の内周部に形成された雌ねじ部である。起立部9が、保持体取付部10よりも小径であり、保持体取付部10と起立部9との間、すなわち、保持体取付部10の下端部と起立部9の上端部との接続部における壁部6の内周部に段差が形成され、この段差が保持体4を支持する支持面11として形成されている。
【0016】
軸受け部7は、ハウジング2の内周を構成する。軸受け部7は、壁部6の内径寸法より小さい外径寸法を有し、壁部6に対し内方に離れて位置する。軸受け部7は、閉塞部8からの立ち上がりが壁部6よりも低く設定されている。例えば図示される例では、軸受け部7は、閉塞部8からの立ち上がりが壁部6の半分未満である。
【0017】
また、壁部6の外周部には、固定側の第一被取付部材に対してハウジング2を直接または間接に取り付けるための取付部12が形成されている。取付部12は、壁部6から外方にフランジ状に突出している。本実施の形態では、取付部12は、壁部6の下端部に連なっている。取付部12は、平板状に形成されている。取付部12は、例えばロータリーダンパ1(回転部3)の回転軸線Aを基準として互いに反対側に位置している。各取付部12には、ハウジング2を取り付けるためのねじ等の取付部材が挿入される穴部13が厚み方向である上下方向に形成されている。
【0018】
回転部3は、ローター等とも呼ばれる。回転部3は、回転体15と、この回転体15とは別体の可動体16と、この可動体16を壁部6から離れる方向に付勢する付勢手段35と、を有する。
【0019】
回転体15は、ハウジング2から一部が露出して、その露出した部分が、固定側の第一被取付部材に対して回転する、回転側の第二被取付部材に取り付けられる部分である。回転体15は、概略円筒状に形成されている。回転体15は、例えば真鍮材等の金属部材により形成されている。本実施の形態において、回転体15は、ハウジング2に対して360°回転可能である。
【0020】
回転体15には、壁部6の内周部と対向する外周部に、フランジ部18が形成されている。フランジ部18は、回転体15の全周に亘り連なっている。フランジ部18は、回転体15の上下方向の中間部に位置する。回転体15の外周部において、フランジ部18の下方の部分が壁部6の内周部と対向する対向部20となっており、フランジ部18の上方の部分が壁部6の内周部と対向する外周シール部21となっている。フランジ部18の先端部が壁部6の内周部と近接または接触し、ハウジング2の壁部6及び閉塞部8と回転体15のフランジ部18及び対向部20との間に、粘性流体5が収容される流体室22が区画される。
【0021】
対向部20は、概略円筒面状に形成され、ハウジング2の壁部6に対してロータリーダンパ1(回転部3)の回転軸線A側すなわち径方向内側に離れて位置する。対向部20と壁部6との間に可動体16が介在される。
【0022】
外周シール部21は、概略円筒面状に形成され、ハウジング2の壁部6に対してロータリーダンパ1(回転部3)の回転軸線A側すなわち径方向内側に離れて位置する。外周シール部21と壁部6と保持体4との間にシール部材24が介在されて、流体室22からの粘性流体5のハウジング2上部への流出が防止される。シール部材24は、円環状に形成されており、外周部が壁部6の内周部に圧接され、内周部が外周シール部21に圧接される。シール部材24としては、例えば断面X字状のXリングが好適に用いられる。
【0023】
また、回転体15には、ハウジング2の軸受け部7が摺接可能に嵌合される嵌合部26が下端部に凹設されている。嵌合部26は、断面円形状の凹部であり、軸受け部7が下方から挿入嵌合されて、回転体15が軸受け部7に回転可能に支持される。嵌合部26の上端部が、軸受け部7の内方を介して下方に露出する。
【0024】
嵌合部26の下方かつ外方には、対向部20の背面側に位置して内周シール部28が形成されている。すなわち、嵌合部26の下端部と内周シール部28の上端部との接続部には、段差が形成されている。内周シール部28は、概略円筒面状に形成されている。内周シール部28とハウジング2の軸受け部7との間にシール部材29が介在されて、流体室22からの粘性流体5のハウジング2下部への流出が防止される。シール部材29は、円環状に形成されており、外周部が内周シール部28に圧接され、内周部が軸受け部7の外周部に圧接される。シール部材29としては、例えば断面X字状のXリングが好適に用いられる。
【0025】
さらに、回転体15には、保持体4に挿入嵌合される挿入部30が上端部に形成されている。挿入部30は、外周シール部21に対して縮径された円筒状に形成されており、外周シール部21の上部に段差状に連なっている。挿入部30は、外周シール部21に対し、同軸状または略同軸状となっている。
【0026】
そして、挿入部30には、回転側の第二被取付部材と接続される接続穴31が形成されている。接続穴31は、挿入部30において、ロータリーダンパ1(回転部3)の回転軸線Aに沿って形成されている。接続穴31は、挿入部30の上端部から下端部まで貫通し、嵌合部26と連なっている。接続穴31は、回転側の第二被取付部材と回転体15とが互いに空回りしないように断面非円形状に形成され、本実施の形態では断面四角形状(正方形状)の角穴となっている。
【0027】
また、回転体15には、回転体15の外周部から径方向外方に突出して複数の保持部32が形成される。例えば、複数の保持部32は、可動体16の数に応じて設定される。図示される例では、各保持部32は、可動体16,16間にそれぞれ配置される。また、複数の保持部32は、回転体15に対する可動体16の周方向の移動可能範囲を設定している。複数の保持部32は、壁部6の内周部と近接または接触している。
【0028】
可動体16は、ベーン等とも呼ばれる。可動体16は、ハウジング2と保持体4との間に全体が収容され、外部に露出しない。可動体16は、単数または複数設定される。本実施の形態では、可動体16は、複数、例えば3つ設定され、回転体15の周方向に等配されている。可動体16は、円弧状に形成されており、回転体15の対向部20とハウジング2の壁部6との間に介在されて流体室22内に位置する。可動体16は、少なくとも外周部、本実施の形態では全体が粘性流体5内に位置する。可動体16は、例えば真鍮材等の金属部材により形成されている。流体室22において、可動体16の外周部と壁部6の内周部との間に、粘性流体5が通過する隙間(クリアランス)33が形成される。可動体16は、回転体15の対向部20に対して径方向に接近・離反するように移動可能に配置され、この移動により隙間33の大きさを増減させるようになっている。
【0029】
可動体16は、壁部6に対して離れる方向、つまりロータリーダンパ1(回転部3)の回転軸線A側すなわち径方向内側へと、付勢手段35により付勢される。すなわち、可動体16は、回転体15の対向部20に対する径方向外側への移動が付勢手段35により弾性的に規制されている。本実施の形態において、付勢手段35は、コイルばね等の弾性部材が好適に用いられる。例えば、付勢手段35は、複数の可動体16の外周部全体に亘り巻き付けられるように配置され、可動体16をこの可動体16の外周部側から付勢する。
【0030】
図示される例では、付勢手段35は、線状の弾性材をロータリーダンパ1(回転部3)の回転軸線Aと同軸または略同軸の螺旋状に周回させて形成され、その線状の弾性材が可動体16の外周部に近接または接触して配置されている。付勢手段35により、本実施の形態では、可動体16は、回転体15の対向部20に接触した状態で保持される。すなわち、付勢手段35は、可動体16を回転体15に対して保持する保持手段の機能を有する。つまり、可動体16は、回転体15に対して非連結であり、回転体15に対して径方向及び周方向に移動可能であって、かつ、付勢手段35または回転体15の保持部32によって回転体15と同方向に回転するように保持される。付勢手段35の付勢力は、その周回部分の径寸法に応じて設定され、周回部分の径寸法が自然状態に対して大きいほど付勢力が大きくなる。付勢手段35の付勢力は、弾性材の線径及び巻き数の設定により、ロータリーダンパ1に要求される回転速度とトルクとの関係に基づき、回転部3(回転体15)の回転速度と可動体16の総重量(1つ当たりの重量×個数)とに応じて可動体16に生じる遠心力を超えないように設定される。なお、本実施の形態において、付勢手段35は、可動体16が回転体15の対向部20に密着した状態で、可動体16に対し付勢力を作用させていてもよいし、作用させていなくてもよい。
【0031】
好ましくは、付勢手段35は、
図2及び
図4に示すように、可動体16に形成された保持溝37に保持されている。保持溝37は、可動体16の外周部において、周方向に沿って可動体16の両端部に亘り連なって形成されている。保持溝37により、付勢手段35が、可動体16の外周部に対して径方向外側つまり壁部6側に突出しないように配置され、壁部6から離れて位置する。同様に、付勢手段35は、回転体15の保持部32に形成された保持溝38に保持されている。保持溝38は、各保持部32の外周部において、周方向に沿って各保持部32の両端部に亘り連なって形成されている。
【0032】
また、好ましくは、
図2に示すように、回転体15に対する可動体16の径方向の移動を補助するための移動補助手段40が形成されている。移動補助手段40は、凸部41と凹部42とからなる。凸部41は、回転体15の対向部20と可動体16との一方に形成され、凹部42は、回転体15の対向部20と可動体16との他方に形成されている。本実施の形態では、凸部41は対向部20に形成され、凹部42は可動体16に形成されている。図示される例では、凸部41及び凹部42は可動体16毎に2つずつ、周方向に離れて設定されている。
【0033】
凸部41は、外周部が円弧状に形成されて径方向に突出しており、凹部42は、凸部41の外周部の形状に応じた円弧状に窪んでいる。対向部20からの凸部41の突出量は、隙間33の最大の大きさ以下に設定されている。
【0034】
好ましくは、凸部41及び凹部42の周方向の長さは、可動体16の端部と回転体15の保持部32との周方向の距離より大きく設定されている。つまり、可動体16の端部が回転体15の保持部32に当接するまで回転体15に対して周方向に移動した位置でも凸部41と凹部42とが周方向にオーバーラップするように凸部41と凹部42との長さが設定されている。
【0035】
図1及び
図4に示す保持体4は、プラグ等とも呼ばれる。保持体4は、ハウジング2の上部に取り付けられて回転部3をハウジング2に保持する。保持体4は、円盤状に形成され、外周部に、ハウジング2の保持体取付部10に取り付けられる被取付部45が形成されている。本実施の形態において、被取付部45は、例えば保持体取付部10に螺着される雄ねじ部である。また、保持体4の中央部には、回転体15の挿入部30が挿入される円形状の開口部46が形成されている。保持体4は、例えばステンレス材等の金属部材により形成されている。
【0036】
そして、ロータリーダンパ1は、ハウジング2にシール部材29、可動体16、付勢手段35、回転体15を取り付け、粘性流体5を注入した後、シール部材24及び保持体4を取り付けて構成される。この状態で、シール部材29が内周シール部28及び軸受け部7に圧接され、シール部材24が外周シール部21、壁部6及び保持体4に圧接されて、粘性流体5が流体室22に液密に保持される。
【0037】
ロータリーダンパ1は、ハウジング2が固定側の第一被取付部材に、回転部3の回転体15が回転側の第二被取付部材に、それぞれ取り付けられて使用される。
【0038】
第二被取付部材が第一被取付部材に対し回転すると、それに応じて、回転部3の回転体15がハウジング2に対して回転軸線Aを中心として回転する。回転部3では、付勢手段35により回転体15に保持されている可動体16が回転体15と一体的に同方向に回転する。
【0039】
このとき、可動体16には、回転部3の回転により径方向外側向きに遠心力が作用し、その遠心力は回転部3の回転速度が大きいほど大きくなる。他方、可動体16には、付勢手段35により径方向内側向きに、付勢手段35から付勢力が作用する。そのため、これら遠心力と付勢力との大小関係に応じて、可動体16の径方向の位置が変化する。
【0040】
回転部3(回転体15)の回転速度が低速である場合、可動体16に作用する遠心力が相対的に小さく、
図3(a)に示すように、可動体16は回転体15の対向部20に近接または密着した状態で保持され、隙間33が相対的に広く設定される。そのため、隙間33を通過する粘性流体5の粘性抵抗が比較的抑えられ、生じるトルクが小さい。
【0041】
また、回転部3(回転体15)の回転速度が大きいほど、可動体16に作用する遠心力が付勢力に対して大きくなることにより、可動体16が付勢手段35の付勢力に抗して付勢手段35を外方に変形させつつ径方向外側へと移動する。このとき、遠心力による可動体16の移動をトリガとして、凹部42が凸部41に乗り上げ、凸部41と凹部42との接触位置が周方向に変化することで、
図3(b)、
図3(c)に示すように、回転部3(回転体15)の回転速度に応じて可動体16の径方向外側への移動が大きくなるように補助される。そこで、回転部3(回転体15)の回転速度が大きくなるにしたがい隙間33が狭くなり、隙間33を通過する粘性流体5の粘性抵抗が大きくなることで、生じるトルクが大きくなる。
【0042】
なお、
図3(a)ないし
図3(c)は、回転部3(回転体15)が時計回り方向に回転した状態を図示しているが、回転方向が反時計回り方向となった場合も同様である。また、説明を明確にするために、回転体15の1つの凸部41と1つの可動体16の1つの凹部42との位置関係のみを図示しているが、この可動体16の残りの凹部42、及び、他の凸部41及び他の可動体16の凹部42についても同様である。
【0043】
このように、回転体15の対向部20とハウジング2の壁部6との間に介在される可動体16を付勢手段35により壁部6から離れる方向に付勢し、可動体16を、ハウジング2に対する回転部3の回転により生じる遠心力と付勢手段35による付勢力との大小関係に応じて壁部6と可動体16との隙間33を変化させるように移動可能とすることで、回転部3(回転体15)の回転速度が小さい範囲では壁部6と可動体16との隙間33が相対的に大きいことにより粘性流体5による粘性抵抗が相対的に小さくトルクが小さくなり、回転速度が増加するにしたがって可動体16の移動によって壁部6と可動体16との隙間33が自動調整されて相対的に小さくなることにより粘性流体5による粘性抵抗が相対的に大きくトルクが大きくなる。そこで、隙間33が一定である比較例と比較して、回転部3(回転体15)の回転速度が小さいうちにトルクが収束することがなく、回転部3(回転体15)の回転速度に応じたトルクを発生させることが可能な回転速度範囲を大きく確保できる。例えば、本実施の形態のロータリーダンパ1では、
図6の実線に例を示すように、破線に示す従来例と比較して広い回転速度範囲に亘り、回転速度(角速度)とトルクとの関係をリニアに設定でき、使用可能な回転速度範囲全体において、回転部3(回転体15)の回転速度の増加に応じてトルクが比例的に徐々に大きくなる特性となる。そのため、本実施の形態のロータリーダンパ1は、従来例のロータリーダンパでは適用できなかった新たな用途にも使用可能になる。
【0044】
また、回転体15の対向部20と可動体16との一方に凸部41を形成し、他方に凹部42を形成して、回転部3(回転体15)の回転速度に応じて凸部41と凹部42との接触により回転体15に対する可動体16の周方向の位置が規制されるとともに、凸部41と凹部42との接触位置が変わることで可動体16の径方向への移動が補助されるので、凸部41と凹部42との嵌め合いにより回転体15に対する可動体16の位置を安定させることができるとともに、可動体16の重量を大きくすることなく、可動体16に作用する遠心力をトリガとして可動体16を容易に径方向に移動させることが可能になる。そこで、可動体16の軽量化によるロータリーダンパ1の軽量化と、回転部3(回転体15)の高速回転時のトルクを大きくすることとを両立することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、例えば回転機構における運動エネルギを減衰させる減衰装置として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0046】
1 ロータリーダンパ
2 ハウジング
3 回転部
5 粘性流体
6 壁部
15 回転体
16 可動体
20 対向部
33 隙間
35 付勢手段
41 凸部
42 凹部