(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163604
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】照明装置及び測距装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/484 20060101AFI20241115BHJP
G01S 7/4911 20200101ALI20241115BHJP
【FI】
G01S7/484
G01S7/4911
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079361
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【弁理士】
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【弁理士】
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】蔵田 雄也
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AA05
5J084AC02
5J084AD01
5J084AD02
5J084BA04
5J084BA06
5J084BA08
5J084BA49
5J084BB02
5J084BB04
5J084BB26
5J084BB28
5J084EA06
(57)【要約】
【課題】物体までの距離を高精度に計測可能とするための照明装置を提供すること。
【解決手段】照明装置は、第1の光を射出する第1の発光部と、第2の光を射出する第2の発光部と、第1の光を偏向して第1の領域を走査し、かつ第2の光を偏向して第2の領域を走査する偏向部と、第1の光の光量に対する第2の光の光量の比の値が1.2以上となるように第1及び第2の発光部を制御する制御部とを有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の光を射出する第1の発光部と、
第2の光を射出する第2の発光部と、
前記第1の光を偏向して第1の領域を走査し、かつ前記第2の光を偏向して第2の領域を走査する偏向部と、
前記第1の光の光量に対する前記第2の光の光量の比の値が1.2以上となるように前記第1及び第2の発光部を制御する制御部とを有することを特徴とする照明装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1の光の光量と前記第2の光の光量を時間的に切り替えることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記照明装置が照射する領域の第1端から第2端までを照射するために必要な最小期間が切り替わるタイミングに応じて、前記第1の光の光量と前記第2の光の光量を切り替えることを特徴とする請求項1又は2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記照明装置が照射する領域の第1端から第2端までを照射するために必要な最小期間において、前記第1の光の光量と前記第2の光の光量を切り替えることを特徴とする請求項1又は2に記載の照明装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記照明装置が照射する領域の第1端から第2端までを照射するために必要な最小期間において、前記第1の光の光量と前記第2の光の光量を切り替えると共に、前記最小期間が切り替わるタイミングに応じて前記第1の光の光量と前記第2の光の光量を切り替えることを特徴とする請求項1又は2に記載の照明装置。
【請求項6】
前記第1の発光部と前記第2の発光部の大きさは異なることを特徴とする請求項1又は2に記載の照明装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の照明装置と、
前記物体からの反射光を受光する受光部とを有することを特徴とする測距装置。
【請求項8】
前記物体からの反射光は、前記偏向部で偏向された後、前記受光部に導光され、
前記受光部は、それぞれが前記物体からの反射光を受光するように、所定の方向に沿って配置される複数の受光素子を備えることを特徴とする請求項7に記載の測距装置。
【請求項9】
前記照明光の発散角は、直交する二つの方向で異なり、
前記複数の受光素子は、前記所定の方向が、前記発散角が大きくなる方向に対応するように配置されることを特徴とする請求項8に記載の測距装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記受光部からの信号に基づく前記物体までの距離情報を取得すると共に、前記第1の光が前記物体に照射された場合の前記物体からの反射光と、前記第2の光が前記物体に照射された場合の前記物体からの反射光のそれぞれの前記受光部に受光された際の光量が所定の範囲内である場合に、前記距離情報を有効であると判定することを特徴とする請求項7に記載の測距装置。
【請求項11】
請求項7に記載の測距装置を備え、該測距装置によって得られた前記物体の距離情報に基づいて移動装置と前記物体との衝突可能性を判定することを特徴とするシステム。
【請求項12】
前記移動装置と前記物体との衝突可能性が有ると判定された場合に、前記移動装置に制動力を発生させる制御信号を出力する制御装置を備えることを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記移動装置と前記物体との衝突可能性が有ると判定された場合に、前記移動装置のユーザに対して警告を行う警告装置を備えることを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記移動装置と前記物体との衝突に関する情報を外部に通知する通知装置を備えることを特徴とする請求項11に記載のシステム。
【請求項15】
請求項7に記載の測距装置を備え、該測距装置を保持して移動可能であることを特徴とする移動装置。
【請求項16】
前記測距装置によって得られた前記物体の距離情報に基づいて前記物体との衝突可能性を判定する判定部を有することを特徴とする請求項15に記載の移動装置。
【請求項17】
前記物体との衝突可能性が有ると判定された場合に、移動を制御する制御信号を出力する制御部を備えることを特徴とする請求項16に記載の移動装置。
【請求項18】
前記物体との衝突可能性が有ると判定された場合に、前記移動装置のユーザに対して警告を行う警告部を備えることを特徴とする請求項16に記載の移動装置。
【請求項19】
前記物体との衝突に関する情報を外部に通知する通知部を備えることを特徴とする請求項15に記載の移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物に照明光を照射する照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物までの距離を計測する方法として、照明した対象物からの反射光を受光するまでの時間や反射光の位相から距離を算出するLiDAR(Light Detectionand Ranging)が知られている。特許文献1には、光量が同一の光を射出する複数の発光部が特定配列方向に沿って配列されている構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、距離や反射率が互いに異なる複数の物体を照明する場合、各物体からの反射光の光量は互いに異なることになる。このような複数の物体までの距離を測定する場合、特許文献1の構成では、受光センサの感度の範囲を超えてしまい、精度よく測距することができない。よって、このような複数の物体までの距離を高精度に測定するためには、各物体に対して光量が異なる光を照明することが必要である。
【0005】
本発明は、物体までの距離を高精度に計測可能とするための照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての照明装置は、第1の光を射出する第1の発光部と、第2の光を射出する第2の発光部と、第1の光を偏向して第1の領域を走査し、かつ第2の光を偏向して第2の領域を走査する偏向部と、第1の光の光量に対する第2の光の光量の比の値が1.2以上となるように第1及び第2の発光部を制御する制御部とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、物体までの距離を高精度に計測可能とするための照明装置を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施例1の照明光の照明パターンを示す図である。
【
図3】一般的な半導体レーザ及び射出される光束を示す模式図である。
【
図5】実施例1の各照明光の発光パターンの一例を示す図である。
【
図6】実施例1の照明パターンの一例を示す図である。
【
図7】実施例1の照明パターンと対象物の位置を示す図である。
【
図8】実施例1の照明パターンと対象物の位置を示す側面図である。
【
図9】実施例2の各照明光の発光パターンの一例を示す図である。
【
図10】実施例2の照明パターンの一例を示す図である。
【
図11】実施例2の照明パターンと対象物の位置を示す図である。
【
図12】実施例3の各照明光の発光パターンの一例を示す図である。
【
図13】実施例3の照明パターンの一例を示す図である。
【
図14】実施例3の照明パターンと対象物の位置を示す図である。
【
図15】実施例4の各照明光の発光パターンの一例を示す図である。
【
図16】実施例4の照明パターンの一例を示す図である。
【
図17】実施例4の照明パターンと対象物の位置を示す図である。
【
図18】実施例4の照明パターンの他の例を示す図である。
【
図20】実施例5の発光パターンの一例を示す図である。
【
図21】実施例5の照明パターンの一例を示す図である。
【
図22】本実施形態に係る車載システムのブロック図である。
【
図23】本実施形態に係る車両(移動装置)の模式図である。
【
図24】本実施形態に係る車載システムの動作例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
LiDARを用いた測距装置(光学装置)は、対象物(物体)を照明する照明系と対象物からの反射光や散乱光を受光する受光系とから構成される。
【0011】
各実施例の測距装置は、例えば、自動車等の車両の自動運転支援システムや、踏切や信号等の交通インフラ用の安全支援システムとして使用される。対象物は例えば、歩行者、障害物、及び車両等であり、測距装置から1~300m程度離れている。各実施例の測距装置は対象物までの距離を計測し、計測結果をもとに車両の方向や速度の制御や、安全システムの動作等が実行される。
【実施例0012】
図1は、本実施例の測距装置1の概略図である。測距装置1は、光源部10、偏向部20、受光部30、及び制御部40を有する。光源部10、偏向部20、及び制御部40により照明装置が構成される。
【0013】
光源部10は、発光部11,12,13,14を備える。発光部11,12,13,14は、特定の方向(所定の方向)に沿って配置される。また、光源部10は、各発光部に対応するコリメータレンズ15を備える。発光部11から対象物OBJに向かう際の照明光を照明光110とする。同様に発光部12,13,14から対象物OBJに向かう際の照明光をそれぞれ、照明光120,130,140とする。また、対象物OBJからの反射光を反射光150とする。
【0014】
反射光150は、偏向部20で偏向され、受光部30で受光される。制御部40は、光源部10が発光した時間から、受光部30で反射光150を受光した時間を計測し、その時間差を距離に換算し、対象物OBJまでの距離(距離情報)を取得する。
【0015】
発光部11,12,13,14として、エネルギー集中度が高く指向性のよいレーザである半導体レーザ等が用いられる。
【0016】
測距装置1を自動運転支援システムや交通インフラ用の安全支援システムに適用する場合等は、対象物OBJには、他車両等の移動体や、道路標識や道路周辺の構造物だけではなく、歩行者や自転車等に搭乗している人間が含まれる可能性がある。よって、光源としては人間の目に対する影響が少ない赤外光を射出するものを採用することが望ましい。本実施例では、光源部10が射出する照明光の波長には、近赤外域に含まれる905nm、940nm、及び1550nm等が含まれる。
【0017】
また、光源部10は、光源冷却部16を備える。光源冷却部16は、発光部11,12,13,14を冷却し、光源部10の発光効率の向上と長寿命化を実現する。光源冷却部16として、ヒートシンク、ヒートパイプ、及びペルチェ素子等を用いることが好ましい。
【0018】
発光部11,12,13,14から射出された照明光はそれぞれ、コリメータレンズ15によってコリメートされ、平行光となり、照明光110,120,130,140となる。なお、ここでの平行光は、厳密な平行光束だけではなく、弱発散光や弱収束光を含むものである。照明光110,120,130,140は、コリメータレンズ15を通過後、偏向部20に進行する。
【0019】
偏向部20は、反射部21と駆動部22を備える。偏向部20は、光源部10からの照明光110,120,130,140を偏向して測距装置1の外部に導光し、対象物OBJを照射する機能を有する。本実施例では、偏向部20としてガルバノミラーを採用しているが、MEMS(Micro Electro Mechanical System)ミラーや、ポリゴンミラー等を用いてもよい。駆動部22が反射部21を往復運動させることで、照明光110,120,130,140が所定の方向へ反射され、所定の領域を照射する。
【0020】
図2は、照明光110,120,130,140の照明パターンを示す図である。垂直方向は発光部11,12,13,14の配列方向と一致しており、水平方向は偏向部20で走査し照射する方向と一致している。
【0021】
制御部40は、偏向部20の駆動部22を回転させる。照明装置が照射する領域(以下、照明領域)の水平方向の第1端まで照明光110,120,130,140が到達すると、制御部40は、駆動部22を逆方向へ回転させ、照明領域の第1端と反対側の第2端まで照明光110,120,130,140を到達させる。以下の説明では、照明領域の第1端から第2端までを照射するために必要な最小期間をフレームと呼ぶ。フレームは、1/15秒、1/30秒、及び1/60秒等が一般的である。
【0022】
次に、照明光110,120,130,140は照射され、照明領域に対象物OBJが存在する場合、対象物OBJからの反射光150は再び偏向部20の反射部21に入射して偏向され受光部30に導かれる。
【0023】
受光部30は、集光レンズ31、光学フィルタ32、及び受光素子群33を備える。集光レンズ31は、偏向部20により導光された反射光150を受光素子群33の受光面に集光する。光学フィルタ32は、所望の光のみを通過させ、それ以外の不要光を遮光(吸収や反射)する。本実施例では、光学フィルタ32は、光源部10から射出される照明光に対応する波長帯域の光のみを透過させるバンドパスフィルタであり、照明光の波長である905nm近傍の波長の光だけを透過させる。なお、集光レンズ31と光学フィルタ32の構成は、本実施例の構成に限られるものではない。例えば、必要に応じて各部材の配置の順を入れ替えたり各部材を複数配置したりしてもよい。
【0024】
受光素子群33は、複数の受光素子群33を含み、集光レンズ31からの光を受光し、光電変換して信号を出力する。受光素子群33として、PD(Photo Diode)、APD(Avalanche Photo Diode)、及びSPAD(Singel Photon Avalanche Diode)等で構成されたものを採用することができる。
【0025】
制御部40は、光源部10、偏向部20、及び受光部30を制御する。制御部40は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の処理装置(プロセッサ)、又はそれを備える演算装置(コンピュータ)である。制御部40は、光源部10の発光部11,12,13,14をそれぞれ個別に所定の駆動電流や所定の駆動周波数で点灯制御できる。また、制御部40は、偏向部20の駆動部22を所定の駆動電圧や所定の駆動周波数で駆動する。また、制御部40は、受光部30を所定のゲインやガンマ、及び駆動周波数等で制御する。
【0026】
更に、制御部40は、各発光部が照明光を発光した時刻(発光時刻)から、受光素子群33が対象物OBJからの反射光150を受光した時刻(受光時刻)までの時間差に基づいて、対象物OBJの距離情報を取得する。このような距離の計測方法は、飛行時間計測法(ToF:Time of Flight)として知られている。このとき、制御部40は、受光素子群33からの信号を特定の周波数で取得してもよい。また、各発光部が照明光を発光した時刻から、対象物OBJからの反射光150を受光するまでの時刻の時間差ではなく、照明光の位相と対象物OBJからの反射光150の位相との差に基づいて距離情報を取得してもよい。具体的には、各照明光の信号の位相と受光素子群33から出力される信号の位相との差分(位相差)を求め、その位相差に光速を乗じることで、対象物OBJの距離情報を取得してもよい。このような距離の計測方法は、FMCW(Frequency Modulated C.W.)法として知られている。
【0027】
図3は、一般的な半導体レーザ及び射出される光束を示す模式図である。
図3に示されるように、半導体レーザ1000の活性層1100から射出される光束は発散光束であり、活性層1100の射出面(発光面)に平行なxy断面における光束の形状は楕円である。また、半導体レーザ1000は一般的に光束の偏光方向(電場の振動方向)は活性層1100の上下面に平行な方向(zx断面内の方向)となり、この方向の発散角は直交するzy断面内の方向に対して小さくなる。
【0028】
図4は、受光素子群33の構成図である。受光素子群33は、垂直方向により多数の受光素子331を含む。垂直方向において、受光素子331は、合計サイズが照明領域をカバーできる数だけ配置されている。具体的には、40画素以上配置されていることが好ましい。
【0029】
一方、水平方向に関しては、照明光は偏向部20の駆動部22が回転することにより対象物OBJを照射する。対象物OBJからの反射光150は偏向部20の反射部21により反射され受光部30に導光されるため、常に受光素子群33の同一個所に受光される。したがって、水平方向において、受光素子331は、合計サイズが照明領域をカバーできる数だけ配置されている。具体的には、1画素以上配置されていることが好ましい。
【0030】
また、
図3のzy断面内の方向の発散角の広がりが大きいため、この広がりを有効に活用するために、
図4の垂直方向と一致させておくことが望ましい。水平方向の照明領域は駆動部22の駆動範囲により任意に設定することが可能であるが、垂直方向は発光部の数とその発散角で照明領域が決まるためである。つまり、発散角が小さい発光部であれば、照明領域を広げるためには発光部の数を増やす必要があるが、発散角が大きければ少ない発光部の数で照明領域を広げることが可能となり、より小型の測距装置を構成することが可能となるためである。
【0031】
測距装置1において、対象物OBJが遠距離にある場合、又は各照明光に対する反射率が低い場合において対象物OBJからの反射光150は低下することが一般的である。
【0032】
各照明光は測距装置1から対象物OBJに照射されると、その光は拡散反射する。そして反射して拡散された光は放射線状に広がっていくため、その距離に応じて反射光150の光密度が低下していく。そのため、遠距離にある対象物OBJにより反射される反射光150はその距離に従って低下する。また、各照明光に対する反射率が低いと、反射光150が低下する。一方、対象物OBJが近距離にある場合、又は各照明光に対する反射率が高い場合において対象物OBJからの反射光150は増加する。
【0033】
対象物OBJは歩行者、障害物、及び車両等であり、それらは様々な距離に存在し、また様々な反射率の物体である。そのため、各照明光を所定の光量で照明させると、反射光150が対象物OBJの位置や反射率により大きく異なるため、受光部30で受光可能な光量の範囲を超えたものは正確な値を受光することができない。その結果、制御部40で測距距離を試算することができなくなり、測距可能な対象物OBJの距離や反射率の範囲が限られてしまう。
【0034】
例えば、受光素子331のダイナミックレンジを80dBとする。その場合の受光可能な光量の比は10000:1となる。したがって、対象物OBJが同じ距離にある場合は、反射率が1%のものと100%のものでも受光部30で受光できる光量の比は100:1である。また、反射率が0.1%のものと100%のものでも受光部30で受光できる光量の比は1000:1となる。そのため、対象物OBJの反射率の違いだけでは受光可能な光量の範囲を超えることはないものの、大きな影響を与える。
【0035】
更に大きな影響を与える要因として、対象物OBJの距離が考えられる。対象物OBJによって反射された光量は一般的には距離の2乗に反比例して減衰していく。これは反射して拡散された光は放射線状に広がっていくためである。したがって、同じ反射率の対象物OBJが3m先にある場合と、300m先にある場合では、受光部30で受光できる光量の比は10000:1と大きくなり、受光素子331のダイナミックレンジと同等となる。すなわち、両方の距離に置かれている同じ反射率の対象物OBJの距離の測定が困難になる。
【0036】
また、同じ反射率の対象物OBJが1m先にある場合と、300m先にある場合では、受光部30で受光できる光量の比は90000:1と大きくなり、受光素子331のダイナミックレンジを更に大きく上回る。すなわち、両方の距離に置かれている同じ反射率の対象物OBJを測定できない。
【0037】
自動車等の自動運転等においては、測距距離として200mや300m、更にそれ以上の距離が求められている。一方、近距離としては1m以下の距離が求められている。そのため、上述した対象物OBJの反射率の違いの影響と、距離の違いによる影響を考慮しても受光部30で受光できることが必要となる。
【0038】
そのため、受光部30として、ダイナミックレンジを大きなものを選ぶことが重要である。しかしながら、測距装置用として上述の条件を満たすダイナミックレンジを有する受光部30は存在していなかったり、存在していても測距装置用としては容易に使用できなかったりする。
【0039】
上記課題に対して、本実施例では、制御部40より、各発光部に供給する電流量を時間的に異ならせ、後述する第1の光の光量と第2の光の光量を時間的に切り替える。これにより、発光量を異なる状態で各発光部が点灯し、受光部30のダイナミックレンジを大きくすることが可能となる。以下、具体的な方法について説明する。
【0040】
一般的に測距装置で使用される光源は半導体レーザであり、その発光量は供給する電流量に応じて変化する。つまり半導体レーザに供給する電流を低下させると発光量は低下し、供給する電流を増加させると発光量は増加する。
【0041】
図5は、各照明光の発光パターンの一例を示す図である。
図6は、照明パターンの一例を示す図である。ここで、第1の発光部を発光部11,13、第2の発光部を発光部12,14とする。第1の発光部が射出する光(第1の光)の光量を第1の光量、第2の発光部が射出する第1の発光部が射出する光と光量が異なる光(第2の光)の光量を第2の光量とする。第1の発光部が第2の発光部よりも強く発光する(第1の光量が第2の光量よりも大きくなる)よう、制御部40で供給電力を制御する。その結果、
図6に示されるように、光量が大きい照明光110,130と光量が小さい照明光120,140が交互に照射される。すなわち、第1の光と第2の光は、異なる領域を照射する。
【0042】
本実施例では、上述したように、光量が大きい照明光110,130と光量が小さい照明光120,140を交互に照射する。これにより、対象物OBJが遠距離又は反射率が低い場合は、光量が大きい照明光が照射される領域に存在することで、反射光150が受光部30の受光可能な光量となるケースが増えるため測距が可能となる。また、対象物OBJが近距離又は反射率が高い場合は、光量が小さい照明光が照射される領域存在することで、反射光150が受光部30の受光可能な光量となるケースが増えるため測距が可能となる。そして、反射光150が受光部30にて受光可能となる対象物OBJに関する距離情報のみを抽出し、距離データとして扱うことで、対象物OBJの距離や反射率が著しく異なる場合においても距離情報を正確に取得することが可能となる。
【0043】
ここで、
図7と
図8を参照して、近距離に配置又は反射率が高い対象物210と、遠距離に配置又は反射率が低い対象物220を測距する場合の例について説明する。
図7は、照明パターンと対象物の位置を示す図である。
図8は、照明パターンと対象物の位置を示す側面図である。
【0044】
対象物210は、反射率が90%で距離が3mの所にあり、照明光120が照射される領域に存在している。対象物220は、反射率が10%で距離が300mの所にあり、照明光130が照射される領域に存在している。
【0045】
上記条件において、仮に照明光120,130の光量が同じ場合、受光部30で受光できる光量の比は90000:1と大きくなり、受光素子331のダイナミックレンジ80dBの10000:1を上回る。そのため、対象物210,220の一方、又は両方の測距を行うことができない。
【0046】
本実施例では、照明光120の第2光量は、照明光130の第1光量よりも小さい。ここで、第1光量と第2光量をそれぞれ、1と10とする。対象物210に1の光量の照明光120が照射されると、反射率が90%のため、0.9の光量が拡散反射される。そして、反射光は3mの距離で光が減衰率αで減衰され偏向部20を介して、受光部30に光量0.9αとして受光される。一方、対象物220に10の光量の照明光130が照射されると、反射率が10%のため、1の光量が拡散反射される。そして、反射光は300mの距離で光が減衰するため、対象物210の減衰率αに対して距離の2乗で減衰するため、α/10000で減衰され偏向部20を介して、受光部30に光量0.0001αとして受光される。したがって、対象物210,220から反射され受光部30にて受光される光量の比は、9000:1となる。受光部30のダイナミックレンジが80dBであるため、光量の比が10000:1まで検出可能である。発光部12が発する光の光量に対して10倍の光量の光を発光部13が発することで、対象物210,220からの反射光を受光し、その距離を求めることが可能となる。
【0047】
本実施例では、発光部12,13が射出する光の光量の比を10としたが、本発明はこれに限定されない。複数の光源のそれぞれが射出する光の光量の比の値は、1.2以上で10000以下であればよい。また、比の値は2.0以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましく、5.0以上であることが更に好ましい。より効果的な光量の比の値は10以上であり、より好ましくは100以上であるほうがダイナミックレンジ範囲を広げることができる。
【0048】
受光部のダイナミックレンジをD(dB)、測距距離下限をm(m)、測距距離上限をn(m)、測定対象物反射率上限をR(%)、測定対象物反射率下限をr(%)、光量の比の値をβとするとき、以下の式(1)を満足することが好ましい。
【0049】
β≧R×n2/((10(D/20)×r×m2) (1)
式(1)を満足することで、受光部30のダイナミックレンジの範囲内に受光光量を収めることが可能となる。
【0050】
ここで、測距装置1において、測距距離下限を6(m)、測距距離上限を200(m)、測定対象物反射率上限を90(%)、測定対象物反射率下限を10(%)と仮定する。このとき、受光部30のダイナミックレンジが80(dB)であれば、測距が可能となる。
【0051】
ここで、測距距離下限が6(m)である場合より近距離での測距を可能とするため、5.5(m)での測距を実現させるために必要な光量比βを算出する。
【0052】
前述した条件で測距距離下限を6(m)から5.5(m)に変更した場合、式(1)より光量の比の値βは1.2になる。このように、0.5mの測距距離を改善するためには、第1の光量と第2の光量の比を1.2:1にすることで実現できることができる。すなわち、測距装置としての性能向上効果を得るためには、光量の比の値が少なくとも1.2である必要がある。
【0053】
同様に測距距離の上限を10%のばした220(m)を可能とするために必要な光量の比の値βも1.2となる。すなわち、測距装置としての性能向上効果を得るためには、量の比の値が少なくとも1.2である必要がある。
【0054】
また、光源として用いられている半導体レーザの製造ばらつきは±5%程度であり、本発明の効果をより明確に得るためには上述した通り第1の光量と第2の光量の比の値を少なくとも1.2以上にすることが好ましい。
【0055】
測距装置1から照明される光はレーザ光であるため、IEC60825-1等に要求されているレーザ安全項目を達成できる光量にすることが求められている。光量の比の値を大きくするために、大きい方の光量をより大きくするだけでなく、小さい方の光量をより小さくする必要もある。
【0056】
本実施例では、反射光150が受光部30にて受光可能となる対象物OBJに関する距離情報のみを抽出し、距離データとして扱うことが可能となり、対象物OBJの距離や反射率が著しく異なる場合においても距離情報を正確に取得することが可能となる。
【0057】
以上説明したように、本実施例の構成によれば、制御部40より、各発光部に供給する電流量を異ならせて駆動させ、発光量を適切な範囲に異ならせて点灯させることで、受光部30のダイナミックレンジを大きくすることが可能となる。
【0058】
また、本実施例では4つの光源の例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、光源の数が他の数(1を除く)であってもよい。光源の数が多いほど、光量が大きい光が照射される領域と光量が小さい光が照射される領域の間隔を密にできることでより精度の高い測距が可能になる。また、光源の数が多いほど照明領域を大きくすることができ、より広範囲の測距が可能ともなる。
【0059】
また、照明光の大小に関して、光源の発光量を変化させる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。光源の発光パルスのパルス時間を変化させ、受光部30の受光期間の光量積分値を増加させたり、コリメータレンズ等の焦点距離等を異ならせて光密度を変化させたりしてもよい。
【0060】
また、光量に関して、大小の2パターンの例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、光源ごとに光量が異なっていてもよい。
本実施例の測距装置の基本的な構成は、実施例1の測距装置1と同じである。本実施例では、実施例1と異なる構成についてのみ説明し、同様の構成については説明を省略する。
対象物210は、反射率が90%で距離が3mの所にあり、照明光130が照射される領域に存在している。対象物220は、反射率が10%で距離が300mの所にあり、照明光120が照射される領域に存在している。
1フレームでは、第1の光量は第2の光量よりも大きく、第1光量と第2光量をそれぞれ、10と1とする。対象物210に10の光量の照明光130が照射されると、反射率が90%のため、9の光量が拡散反射される。そして、反射光は3mの距離で光が減衰率αで減衰され偏向部20を介して、受光部30に光量9αとして受光される。一方、対象物220に1の光量の照明光120が照射されると、反射率が10%のため、0.1の光量が拡散反射される。そして、反射光は300mの距離で光が減衰するため、対象物210の減衰率αに対して距離の2乗で減衰するため、α/10000で減衰され偏向部20を介して、受光部30に光量0.00001αとして受光される。したがって、対象物210,220から反射され受光部30にて受光される光量の比は、90000:1となる。受光部30のダイナミックレンジが80dBであるため、光量の比10000:1まで検出可能であるが、1フレームでは対象物210,220からの反射光の比が受光部30のダイナミックレンジを上回る。そのため、対象物210,220の一方、又は両方の測距を行うことができない。
2フレームでは、第1の光量は第2の光量よりも小さく、第1光量と第2光量をそれぞれ、1と10とする。対象物210に10の光量の照明光130が照射されると、反射率が90%のため、0.9の光量が拡散反射される。そして、反射光は3mの距離で光が減衰率αで減衰され偏向部20を介して、受光部30に光量0.9αとして受光される。一方、対象物220に10の光量の照明光120が照射されると、反射率が10%のため、1の光量が拡散反射される。そして、反射光は300mの距離で光が減衰するため、対象物210の減衰率αに対して距離の2乗で減衰するため、α/10000で減衰され偏向部20を介して、受光部30に光量0.0001αとして受光される。したがって、対象物210,220から反射され受光部30にて受光される光量の比は、9000:1となる。受光部30のダイナミックレンジが80dBであるため、光量の比10000:1まで検出可能である。発光部13が発する光の光量に対して10倍の光量の光を発光部12が発することで、対象物210,220からの反射光を受光し、その距離を求めることが可能となる。
本実施例では、フレームごとに反射光150が受光部30にて受光可能となる対象物210,220に関する距離情報のみを抽出し、距離データとして扱うことが可能となる。これにより、対象物210,220の距離や反射率が著しく異なる場合においても距離情報を正確に取得することが可能となる。
光源である半導体レーザは、その発光量が高ければ高いほど、点灯時間による光量低下が大きくなる特性を有する。そのため、特定の光源の発光量を他の光源よりも高い状態で点灯し続けることで、特定の光源は他の光源よりも発光量の低下が顕著となり、特定の光源からの光が照射されている照明領域の測距精度が低下してしまうことがある。本実施例では、各発光部の発光量の大小をフレームごとに切り替えることで、時間平均としての各発光部の発光量を略等しくしている。そのため、各発光部の劣化具合も略等しくなるため、特定の光源の光量低下が大きくなり、測距精度が低下することを回避し、長期にわたって性能の安定した測距装置1を提供することができる。
また、本実施例では照明光110,130と照明光120,140で光量を異ならせて、ストライプパターンで物体を照射するが、本発明はこれに限定されない。各照明光の光量を略等しくなるよう制御部40で供給電力を制御し、フレームごとに光量の大小を切り替えてもよい。
また、本実施例では、各発光部の発光量をフレームごとに切り替えているが、本発明はこれに限定されない。光センサにより光源の発光量を検知したり、光源の温度等により光源の発熱量を検知したりすることで各発光部の劣化具合を判定し、劣化が大きい光源の発光量を小さく、劣化が小さい光源の発光量を大きく切り替えてもよい。これにより、光源の長寿命化を実現することができる。