(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163605
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】排水用の流速測定装置、及び、排水の流速測定方法
(51)【国際特許分類】
G01P 5/24 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
G01P5/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079362
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】593213342
【氏名又は名称】株式会社日向製錬所
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】多田 裕佑
(57)【要約】
【課題】排水中の浮遊物質(SS)の濃度の変動が大きい場合においても、排水中の浮遊物質(SS)の濃度にかかわらず、安定的に当該排水の流速を測定することができる流速測定手段を提供すること。
【解決手段】取付け基盤部1と、気泡発生器2と、流速センサー3と、を備え、気泡発生器2は、水中に粒径100μm以上の気泡を吐出する装置であり、流速センサー3は、流体中の気泡及び/又は固形物の速度を測定する装置であって、気泡発生器2と流速センサー3は、取付け基盤部1に設置されていて、互いに対面する位置に配置されている、排水用の流速測定装置10とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水用の流速測定装置であって、
取付け基盤部と、
気泡発生器と、
流速センサーと、を備え、
前記気泡発生器は、水中に粒径100μm以上の気泡を吐出する装置であり、
前記流速センサーは、流体中の気泡及び/又は固形物の速度を測定する装置であって、
前記気泡発生器と前記流速センサーは、取付け基盤部に設置されていて、互いに対面する位置に配置されている、
排水用の流速測定装置。
【請求項2】
前記気泡発生器及び/又は前記流速センサーが、互いの間の距離を変動可能な構造で、前記取付け基盤部に設置されている、
請求項1に記載の排水用の流速測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の排水用の流速測定装置を用いる排水の流速測定方法であって、
前記排水に含まれる粒径100μm以上の固形物の濃度の下限値が75ppmである、
排水の流速測定方法。
【請求項4】
前記流速センサーの測定対象領域内における前記排水の粒径100μm以上の前記気泡の濃度を75ppm以上とする、
請求項3に記載の排水の流速測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水用の流速測定装置、及び、排水の流速測定方法に関する。本発明は、詳しくは、開水路を流れる排水の流速を測定する排水用の流速測定装置、及び、それを用いて行うことができる排水の流速測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼製錬、フェロニッケル等のフェロアロイ製錬及び非鉄金属製錬において、操業資材である石炭が、工場内の貯炭場において保管され、工場内で操業上必要な量が工場内の各設備へ移送されている。ここで、石炭の粒度は、通常1mm以上20mm以下程度ではあるが、上記粒度範囲の粒状物の他に、より微細な粒子、例えば、粒径100μm未満の微粒子(以下、「石炭微粒子」とも言う)も含まれている。
【0003】
操業資材として石炭を用いる上記の各金属製錬を行う工場においては、石炭の保管中又は移送中に、降雨等によって流出したり、或いは、移送設備からこぼれたりすることによって、「石炭微粒子」を浮遊物質(以下、「SS」とも言う。)として含む懸濁水が発生する。そのため、このような懸濁水を排水として工場外に排出する場合は、環境汚染を生じさせることがないように、「SS」の濃度を十分に低下させる排水処理が行われている。
【0004】
仮に、上記の排水処理を何らかの原因によって十分に行うことが困難となった場合は、即時に環境汚染を生じさせてしまうことになる。そのため、上記の各金属製錬を行う工場においては、日常的に排水の状態を監視して、排水に異常が生じたときには、即時に異常を検出できるようにしておくことが必須の要請とされている。
【0005】
排水の状態を監視する排水管理の一つに排水の流量管理がある。例えば、日々の排水管理において排水の流速の変動を管理することで、排水処理の工程内で異常が発生しているか否かを判断するための指標とすることができる。排水の流速は、流速測定装置として広く普及しているトランジットタイム式の流量計を用いて測定することもできる。ここで、トランジットタイム式の流量計とは、一般的には水路(側溝)の側壁に、水路の上流と下流の夫々に向かい合う配置で超音波の送信機と受信機を固定し、送信機から発した超音波が受信機に到達するまでの時間差から流速を測定するタイプの流量計である。
【0006】
上記のトランジットタイム式の流量計は、水路側壁において超音波を反射させることを前提としているため、排水中の「SS」の濃度が非常に低く、反射体としての固形分がほぼ含まれないケースにおいて良好に測定することができる。しかしながら、例えば排水処理に異常が生じて排の中の「SS」の濃度が急激に増加してしまうケースでは、流速を算出することができなくなる。又、水路底面からの超音波の反響の影響を避けるため、流量計を、水路底面からの鉛直距離が水路幅の10%の距離よりも大きくなるような高さ位置に取り付ける必要があり、低水位の流路での使用は難しいという制約がある。
【0007】
一方、排水が開水路を介して排出される場合には、例えば、ドップラー式の流量計(特許文献1参照)を用いることにより、排水の流速を測定することもできる。ここで、ドップラー式の流量計とは、測定対象の流体中に超音波を発信して流体中の固形物に反射させて、発信する超音波の周波数情報と、反射超音波の周波数情報に基づいて、測定対象の流体の流速を算出するタイプの流量計のことを言う。
【0008】
上記のドップラー式の流量計による排水の流速測定においては、排水中に超音波を反射する反射体が存在することが前提となる。そのため、排水中の「SS」の濃度が非常に低い場合(即ち、排水処理に異常がない場合)は、反射体としての固形分がほぼ含まれないため、十分に反射超音波を得ることができず、排水の流速を測定することができない。
【0009】
操業資材として石炭を用いる上記の各金属製錬を行う工場等で行われている排水管理においては、排水中の「SS」の濃度が大きく変動することを前提としている。そのため、上述の何れのタイプの流量計も上記の排水管理のための排水の流速を測定する手段としての適性を欠くものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、排水中の浮遊物質(SS)の濃度の変動が大きい場合においても、排水中の浮遊物質(SS)の濃度にかかわらず、安定的に当該排水の流速を測定することができる流速測定手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、取付け基盤部に気泡発生器と流速センサーとを適切に配置した構成の排水用の流速測定装置によって、上記課題を解決することができることに想到し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0013】
(1) 排水用の流速測定装置であって、取付け基盤部と、気泡発生器と、流速センサーと、を備え、前記気泡発生器は、水中に粒径100μm以上の気泡を吐出する装置であり、前記流速センサーは、流体中の気泡及び/又は固形物の速度を測定する装置であって、前記気泡発生器と前記流速センサーは、取付け基盤部に設置されていて、互いに対面する位置に配置されている、排水用の流速測定装置。
【0014】
(1)の排水用の流速測定装置によれば、排水中の浮遊物質(SS)の濃度の変動が大きい場合において、排水中の浮遊物質(SS)の濃度にかかわらず、安定的に当該排水の流速を測定することができる。
【0015】
(2) 前記気泡発生器及び/又は前記流速センサーが、互いの間の距離を変動可能な構造で、前記取付け基盤部に設置されている、(1)に記載の排水用の流速測定装置。
【0016】
(2)の排水用の流速測定装置によれば、排水中の浮遊物質(SS)の濃度の変動が大きい場合において、気泡発生器から吐出した気泡からの良好な反射超音波を得ることができない場合等に、気泡発生器と流速センサーとの距離を自在に調整することで、良好な反射超音波を得られるようにすることができる。
【0017】
(3) (1)又は(2)に記載の排水用の流速測定装置を用いる排水の流速測定方法であって、前記排水に含まれる粒径100μm以上の固形物の濃度の下限値が75ppmである、排水の流速測定方法。
【0018】
(3)の排水の流速測定方法によれば、排水中の浮遊物質(SS)の濃度の変動が大きい場合において、排水中の浮遊物質(SS)の濃度にかかわらず、安定的に当該排水の流速を測定することができる。
【0019】
(4) 前記流速センサーの測定対象領域内における前記排水の粒径100μm以上の前記気泡の濃度を75ppm以上とする、(3)に記載の排水の流速測定方法。
【0020】
(4)の排水の流速測定方法によれば、平常時においては、浮遊物質(SS)の濃度が十分に低減されていて、非常時にのみ、浮遊物質(SS)の濃度が急増するような工場排水の流速管理において、浮遊物質(SS)の濃度にかかわらず、安定的に当該排水の流速を測定することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、排水中の浮遊物質(SS)の濃度の変動が大きい場合においても、排水中の浮遊物質(SS)の濃度にかかわらず、安定的に当該排水の流速を測定することができる流速測定手段を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の排水用の流速測定装置の構成を模式的に示す平面図である。
【
図2】本発明の排水用の流速測定装置の使用方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。但し、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0024】
<排水用の流速測定装置>
本発明の「排水用の流速測定装置」は、開水路を流れる排水の流速を測定することができる排水用の流速測定装置である。本発明は、上記において例示した通り、平常時においては、浮遊物質(SS)の濃度が十分に低減されている工場排水の流速変動を検出するための装置として特に好適な流速測定装置である。
【0025】
図1は、本発明の排水用の流速測定装置の好ましい実施形態の一例である流速測定装置10の全体構成を示す図面である。流速測定装置10は、板状の部材である取付け基盤部1と、取付け基盤部1の一方の表面に設置されている気泡発生器2と、気泡発生器2の設置面と同一面において気泡発生器2に対面する位置に設置されている流速センサー3を含んで構成されている。
【0026】
[取付け基盤部]
取付け基盤部1は、気泡発生器2と流速センサー3を取り付けるための略矩形の板状体である。以下においては、本発明の好ましい実施形態として、取付け基盤部1を、
図1及び
図2に示すような略矩形の板状体とする場合の実施形態について説明する。
【0027】
但し、取付け基盤部1は、気泡発生器2と流速センサー3とを、これに取り付けることによって、取付け基盤部1が板状体である場合と同様に、両者が互いに対面する位置に配置されている相対的位置関係を安定的に保持することができる構造体であればよく、必ずしも板状体であることが必須ではない。例えば、後述するノズルガイド22(気泡発生器の取付け部)、チューブガイド24及びケーブルガイド33が一体化された棒状の構造体であって、更に、ケーブルガイド33の先端を取付け用ブラケット31(流速センサーの取付け部)の位置まで延長した形状からなる一体型の折り曲げ部を有する棒状部材からなるガイド部材を、本発明の排水用の流速測定装置の他の実施形態における取付け基盤部とすることもできる。
【0028】
板状体である取付け基盤部1の四隅には、使用時において、ワイヤー、或いは、チェーン等の吊り部材12(
図2参照)を挿通するための貫通孔11が設けられていることが好ましい。
図2に示すように、流速測定装置10の使用時には、この貫通孔11に吊り部材12を挿通し、取付け基盤部1を四隅おいて吊り部材12によって吊り下げることによって、気泡発生器2、及び流速センサー3との位置関係を所望の状態に維持しながら、流速測定装置10を排水中に浸漬することができる。
【0029】
尚、吊り部材12には、これを構成するワイヤー、或いは、チェーン等の途中に、4つの吊り部材12の夫々の長さを調整するための長さ調節機構を設けることもできる。例えば、このような長さ調節機構としてタンバックルやレバーブロック(登録商標)を挙げることができる。このような長さ調節機構によれば、所望の浸漬位置に取付け基盤部1を浸漬したときに、排水中における取付け基盤部1の深さ方向における位及び姿勢を容易に調整することができるので、流速測定装置10の使用時に、取付け基盤部1の排水中での位置及び姿勢を容易に最適な状態で保持することができる。これにより、流速センサー3の前方に乱流が発生してしまう不都合を効果的に回避して、排水の流速をより高い精度で測定することができる。
【0030】
又、取付け基盤部1を吊り部材12によって吊り下げる構成とすることにより、流速測定装置10の設置場所の移動も容易に行うことができるようになる。又、取付け基盤部1を上記構成とすることによって、例えば、流速センサー3に藻等の付着が生じた場合等においても、吊り部材12によって吊り下げられた取付け基盤部1を、排水中から引き上げることで、排水の流れを停止させることなく、流速センサー3の清掃を容易に行うことができるようにもなる。
【0031】
[気泡発生器]
気泡発生器2は、流速を測定する対象の流体である排水中に気泡を供給するためのノズル21と、ノズル21に圧縮空気を供給するための空気供給チューブ23とを含んで構成される気泡供給ユニットである。気泡発生器2は、流速センサー3から発せられる超音波の反射体となる気泡を発生させて排水中に吐出する。ノズル21は、その長手方向が取付け基盤部1の長手方向に対して平行に、尚且つ、その先端が流速センサー3に向けられている。
【0032】
ノズル21は、粒径100μm以上の気泡を発生させて水中に吐出することができるものであればよい。このために、例えば、セラミック多孔質体で作成されたノズルを本発明の流速測定装置10における気泡発生器2のノズル21として好ましく用いることができる。このようなノズル21から排水中に吐出された粒径100μm以上の気泡に対して、流速センサー3の発振部から照射される超音波を反射させることで、流速センサー3は、反射超音波を検知して排水の流速を測定することができる。超音波を用いた上記の流速の測定方法の詳細については、別途後述する。
【0033】
ノズル21を取付け基盤部1に固定するための構造は特に限定されないが、
図1に示すように、棒状のノズルガイド22に固定する構造とすることが好ましい。ノズルガイド22は、ノズル21を所定位置に固定するための部材であり、両端が同一方向に屈曲した棒状体である。
【0034】
例えば、ノズル21として円柱形状に形成されたセラミック多孔質体を用いる場合は、当該多孔質体の長手方向が、ノズルガイド22の長手方向に一致するように当該多孔質体をノズルガイド22上に固定することで、当該多孔質体の先端部を、確実に、流速センサー3の正面に配置することができる。この位置においてノズル21から反射体としての気泡を排水中に吐出すれば、気泡に対して超音波を正面から照射して、反射超音波を流速センサー3に良好な状態で受信させることができる。
【0035】
ノズルガイド22の取付け基盤部1への固定方法は特に限定されないが、例えば、結束を用いて固定することができる。このような固定方法とすることによって、ノズルガイド22の固定位置の変更(即ち、ノズル21の位置変更)を容易に行うことができる。
【0036】
又、ノズルガイド22は、その長手方向の長さが取付け基盤部1の長手方向長さに対して50%以上70%程度の長さを有していることが好ましい。これにより、ノズル21として円柱形状に形成されたセラミック多孔質体を用いる場合でも、その長手全体をノズルガイド22に固定できるので、排水中に浸漬させたときにノズル21の姿勢を安定させることができる。
【0037】
更に、流速測定装置10においては、気泡発生器2と流速センサー3とが上述の通り、互いに対面する位置にある位置関係を保持したまま、互いの間の距離を変動可能な構造で取付け基盤部1に設置されている取付け構造とすることが好ましい。そのような取付け構造は、例えば、ノズルガイド22の長さを上記程度(取付け基盤部1の長手方向長さに対して50%以上70%程度の長さ)に確保した上で、ノズル21を構成する多孔質体の位置をノズルガイド22が延びる方向に沿って移動させて所望の位置で固定することができるような構造とすることによって、実現することができる。このような取付け構造によれば、ノズル21から気泡を吐出したときに流速センサー3において良好な反射超音波を得ることができない場合にも、多孔質体の先端部(即ち気泡発生器2の気泡発生か所)と、流速センサー3との距離を調整することで、良好な反射超音波を得られるようにすることができる。尚、気泡発生器2と流速センサー3との互いの間の距離を変動可能な構造は、流速センサー3の取付け基盤部1への配置を変動可能な取付け構造とすることによっても実現することができる。
【0038】
尚、流速測定装置10においては、取付け基盤部1の幅方向に沿った2つの側縁部のうち、ノズル21の後方側となる側縁部に取付け基盤部1の幅方向に沿って立設するチューブガイド24を設けることができる。チューブガイド24は、両端が同一方向に屈曲した棒状体である。チューブガイド24に、ノズル21を構成するセラミック多孔質体に圧縮空気を供給するための空気供給チューブ23を、チューブガイド24が延びる方向に沿って安定的に固定することができる。空気供給チューブ23は、取付け基盤部1の角部から取付け基盤部1の外部へと更に延びて、空気ポンプ(図示省略)に接続されている。
【0039】
尚、上記構成からなる気泡発生器2は、測定対象となる流体の測定対象領域内における粒径100μm以上の気泡の濃度を75ppm以上とすることができるものであることが好ましい。この要件については、一例として、流速測定装置10の設置場所における、排水の流量に応じて、適切なサイズのノズル21と適切な吐出能力を持つ空気ポンプを任意に組み合わせて配置することによって、実現することができる。
【0040】
[流速センサー]
流速センサー3は、取付け基盤部1に対して所定角度で超音波を照射する発振部(図示省略)と、反射超音波を受信する受信部(図示省略)とを含んで構成されるセンサーである。流速センサー3は、流体中において移動する粒子及び気泡の速度を測定することができる。又、流速測定装置10を構成する流速センサー3としては、測定対象とする流体中に存在する反射体(気泡、及び/又は固形物)の粒径が100μm以上であって、且つ、流体中における粒径が100μm以上である上記反射体の濃度が75ppm以上である場合に、十分に高い精度で上記の速度測定を十分に高い精度で行うことができる性能を有するものを好ましく用いることができる。例えば、「関西オートメーション製AVFM6.1」等、汎用品として市場で入手可能なドップラー式のドップラー式の超音波流量計の多くは、上記の性能要求を満たすものである。
【0041】
流速センサー3において、発振部及び受信部を収容するケースは、一例として、長手方向の断面が略台形形状を有し、上記の発信部、及び上記の受信部を所定の位置関係で収容する樹脂製のホルダであり、取付け基盤部1の長手方向の一端部側の領域において、取付け基盤部1の幅方向の略中央部分に取付け用ブラケット31を介して固定されている。そして、上記のケースの台形の斜辺を形成する傾斜面には、板状体からなる取付け基盤部1の表面(上面)に対して所定角度を成す2つの開口が夫々隣り合う態様で開設されている。そして、発信部、及び、受信部の夫々が上記開口の内部に収容されている。かかる構造によれば、排水の流れ方向に対して所定角度で超音波を発信して、反射体に反射させて得た反射超音波を良好に受信することができる。
【0042】
尚、流速測定装置10においては、取付け基盤部1の長手方向に沿った一側縁部に、取付け基盤部1の長手方向に沿って立設するケーブルガイド33を設けることができる。ケーブルガイド33もチューブガイド24と同様に、両端が同一方向に屈曲した棒状体である。ケーブルガイド33には、流速センサー3(発振部、受信部)から送信されるデータを送信するための送信ケーブル32をケーブルガイド33が延びる方向に沿って安定的に固定することができる。送信ケーブル32は、取付け基盤部1の角部から取付け基盤部1の外部へと更に延びて、コントローラー(図示省略)に接続されている。コントローラーにはCPUが内蔵されており、CPUの内部には、超音波の発振周波数や、反射超音波の受信周波数の他、発振周波数と受信周波数との差周波数や、流速センサーから発信される超音波とベース上面とのなす角や、流速を求めるための演算式や、後述の演算部から出力される流速を記憶する役割を担う記憶部のほか、記憶部に格納された情報を取り出して所定のアルゴリズムに沿って演算を実行し、演算結果を出力する役割を担う演算部が割り当てられている。
【0043】
[水位センサー]
流速測定装置10は、排水の水面の位置を測定する水位センサー(図示省略)を更に備えるものとすることがより好ましい。これにより、排水の水位情報が得られるようになり、流速センサー3によって測定される排水の流速情報と、水位センサーによって測定される排水の水位情報に基づいて、後述する通り、排水の流量を求めることができる。水位センサーとして、例えば、超音波を用いて水面の位置(水位)を測定するタイプのものを好ましく用いることができる。水位センサーは、一例として、流速センサー3の発信部及び受信部を収容するケースの上面に取り付けることができる。水位センサーを、このように流速センサー3に近接した位置に取付けることによって、排水の流速を測定する際に、流速センサー3で測定される排水の流速情報を取付け基盤部1の浸漬位置情報(即ち、浸漬深さ情報)に関連付けて把握することが容易となり、排水の流量をより高い精度で求めることができる。
【0044】
[流体に対する、超音波を用いた、流速、水位、及び流量の測定について]
以下においては、本発明の排水用の流速測定装置において排水の流速を測定するために用いられる超音波を用いた流速等の測定方法の詳細について説明する。
【0045】
(流速の測定)
流速センサーの発振部における超音波の発振周波数と、流速センサーの受信部における反射超音波の受信周波数との間には、ドップラー効果により反射体の速度、即ち、排水の流速に比例した差周波を生じる。従って、超音波の発振周波数、及び、測定される反射超音波の受信周波数から、下記[式1]に基づいて排水の流速を求めることができる。
[式1]
v=c/2tcosθ・△
c;流体中の音速
v;反射体(流体)の速度
θ;流速センサーからの超音波ビームと流体の流れの方向とのなす角
t;超音波発振周波数
r;反射超音波受信周波数
Δ;差周波数(t-r)
【0046】
(水位の測定)
又、水位センサーから超音波を発振してから受信するまでの時間をtとすれば、下記[式2]に基づいて排水の水位を求めることができる。
[式2]
L=(ct/2)+D
L;水位
c;流体中の音速
D;取付け基盤部上面から開水路底面までの距離
【0047】
(流量の測定)
そして、[式2]に基づいて排水の水位Lが分かれば、その流体断面積Sは、下記[式3]で示されるため、排水の流量は、[式1]より得られる流速vと[式3]より得られる流体断面積Sとから、下記[式4]に基づいて、流量Qとして推定することができる。
[式3]
S=B×L
B;開水路幅
[式4]Q=v×S
Q;排水の流量
尚、[式1]より得られる流速vは、超音波を照射した部分の部分流速であるから、断面全体の平均流速を得るためには、流速vに補正係数kを乗算した平均流速v´を用いることが好ましい。
【0048】
<排水の流速測定方法>
開水路中を流れる排水の流速は、本発明の流速測定装置10を用いて、以下に示す手順(ステップ1~4)を実行することによって測定することができる。
【0049】
(ステップ1)
先ず、ステップ1において、流速測定装置10を、流速センサー3(発振部、受信部)が開水路を流れる流体(平常時)に対して向流となる姿勢で開水路中に浸漬する(
図2参照)。即ち、流速センサー3(発信部、受信部)が下流側となる姿勢で開水路中に浸漬する。
【0050】
ここで、流速測定装置10は、取付け基盤部1を開水路の底面に載置する態様で排水の中に沈めてもよいが、開水路の底面には微細な砂や沈積物の堆積が存在することが懸念されるため、取付け基盤部1の浸漬高さを調整し、開水路の底面から所定の距離だけ離した位置に浸漬することが好ましい。
【0051】
ここで、取付け基盤部1の浸漬高さの調節は、上述の長さ調節機構を用いて夫々の吊り部材12(例えば、4つの吊り部材)の長さを調節することによって行うことができる。この場合、取付け基盤部1の長手方向の向きが開水路を流れる流体の向きに概ね一致する向き(即ち、ほぼ平行となる向き)になるように、夫々の吊り部材12の長さを最適化することがより好ましい。これにより、排水の流れが取付け基盤部1に妨げられることに起因して流速センサー3の前方に乱流が発生してしまう不都合を効果的に回避して、ノズル21(セラミック多孔質体)から吐出される気泡に対してより良好な状態で超音波を照射することができるようになる。
【0052】
排水の流速は、開水路壁や開水路底面との摩擦や水の粘性による内部摩擦の影響を受けるため、最大流速は摩擦の影響が最も小さくなる位置、即ち、開水路壁や開水路底面から最も遠い中央水面に生じるが、空気抵抗があるため、一般的には、水面より若干下方の位置に生じることになる。取付け基盤部1は、流速の変動を適切に検出することができる限り、開水路中のいかなる位置に浸漬しても構わないが、例えば、このような最大流速が生じる位置に浸漬するようにすれば、開水路を流れる流体の流速が遅い場合であっても、より正確に流速の変動を検出することができるようになる。
【0053】
(ステップ2)
次に、ステップ2において、空気ポンプを作動させてノズル21から気泡を吐出させ、気泡の流動状態を観察する。気泡が上流から下流側に一方向に流れているか否かを確認する。気泡が上記した態様で下流側に流れていないときは、取付け基盤部1を配設した位置において流体の流速が極めて遅い状態であるか、或いは、乱流が発生した状態であるかの何れかの状態にあると考えられるため、その場合には流速を正しく検出することが困難である。そのため、上記の事態が生じた場合は、ステップ1に戻り、取付け基盤部1の浸漬位置を他の適切な位置へと変更する。
【0054】
(ステップ3)
次に、ステップ3において、コントローラーをONにして流速の測定を開始する。測定は時間の経過に対して連続的に行ってもよいし、所定の時間間隔ごとに断続的に行ってもよい。そして、開水路中を流れる流体の平常時における特性を、上記の測定によって得られる流速データから定める。特性の定め方は特に限られないが、例えば、流速データから、平均流速や、流速のばらつき等を統計的に求めることによって定めればよい。この場合、管理限界としての流速の上限値や下限値を定めておく方法を好ましく採用することができ、例えば、流速の標準偏差をσとしたとき、流速の上限値と下限値のレンジを3σとすれば、このレンジ(3σ)を超えたときに、管理限界を超えて流速に異常が生じたものと判断することができる。
【0055】
(ステップ4)
次に、ステップ4において、流速測定装置10を用いて継続的に流速を測定する。例えば、上記ステップ3において、管理限界としての流速の上限値や下限値を定めておけば、管理限界を超えた流速を検出したときに、正常な流速から異常な流速へと変動したものとして異常を即時に検出することができる。
【0056】
以上のステップを順次実行する排水の流速測定方法によれば、懸濁水の固形分濃度を十分に低減させる排水処理が行われている工場において、排水に異常が生じたときには、即時に異常を検出することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 取付け基盤部
11 貫通孔
12 吊り部材
2 気泡発生器
21 ノズル
22 ノズルガイド
23 空気供給チューブ
24 チューブガイド
3 流速センサー
31 取付け用ブラケット
32 送信ケーブル
33 ケーブルガイド
10 排水用の流速測定装置
v (排水の)流速