(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163608
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】パネル解体システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/35 20220101AFI20241115BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20241115BHJP
H01L 31/048 20140101ALI20241115BHJP
B09B 101/16 20220101ALN20241115BHJP
B09B 101/50 20220101ALN20241115BHJP
【FI】
B09B3/35
B09B5/00 Z ZAB
H01L31/04 560
B09B101:16
B09B101:50
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079366
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮城 雅徳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 将宏
(72)【発明者】
【氏名】小松 正明
【テーマコード(参考)】
4D004
5F251
【Fターム(参考)】
4D004AA23
4D004AA50
4D004BA05
4D004BA06
4D004CA02
4D004CA12
4D004CA22
4D004CA29
4D004CA43
4D004DA01
4D004DA02
4D004DA06
5F251AA02
5F251BA11
5F251FA06
5F251FA14
5F251JA02
5F251JA03
(57)【要約】
【課題】第1部材に第2部材が設けられたパネルへレーザ光を照射して、第1部材と第2部材を分離可能にすること。
【解決手段】パネル解体システム1は、第1部材81に第2部材82が設けられたパネル8を解体するパネル解体システムであって、第2部材を透過して第1部材へレーザ光を照射するレーザ光照射システム3と、第1部材の画像に基づいて、第1部材の構造を検出する構造検出部211と、検出された第1部材の構造に基づいて、レーザ光の照射経路と前記照射経路の領域ごとの照射条件とを算出するレーザ光照射制御部21と、を備え、算出された照射経路および照射条件にしたがって、レーザ光照射装置から第2部材を透過して第1部材へレーザ光を照射させることにより、第1部材と第2部材とを分離可能にする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材に第2部材が設けられたパネルを解体するパネル解体システムであって、
前記第2部材を透過して前記第1部材へレーザ光を照射するレーザ光照射装置と、
前記第1部材の画像に基づいて、前記第1部材の構造を検出する構造検出部と、
前記検出された第1部材の構造に基づいて、レーザ光の照射経路と前記照射経路の領域ごとの照射条件とを算出するレーザ光照射制御部と、
を備え、
前記算出された照射経路および照射条件にしたがって、前記レーザ光照射装置から前記第2部材を透過して前記第1部材へレーザ光を照射させることにより、前記第1部材と前記第2部材とを分離可能にさせる
パネル解体システム。
【請求項2】
前記構造検出部は、前記第1部材の構造として、前記第1部材を構成する各部材の位置、形状、材質を検出し、
前記レーザ光照射制御部は、前記第1部材の温度が所定温度になるように、前記照射経路の領域ごとの前記第1部材の材質に応じて前記照射条件を算出する
請求項1に記載のパネル解体システム。
【請求項3】
前記レーザ光照射装置により前記第1部材に照射されるレーザ光の照射状態を検出する照射状態検出部をさらに備え、
前記照射状態検出部により検出された照射状態から前記第1部材の温度を算出し、算出された温度を前記レーザ光照射制御部へフィードバックする温度制御部をさらに備える
請求項2に記載のパネル解体システム。
【請求項4】
前記照射状態検出部により検出された照射状態に基づいて、前記第1部材から前記第2部材を分離させた場合の品質を検査する検査部をさらに備える
請求項3に記載のパネル解体システム。
【請求項5】
前記構造検出部が前回検出した構造と今回検出した構造とが同一の場合、
前記レーザ光照射制御部は、前回算出された照射経路および照射条件を使用して、前記レーザ光照射装置から前記第2部材を透過して前記第1部材へレーザ光を照射させることにより、前記第1部材と前記第2部材とを分離させる
請求項1に記載のパネル解体システム。
【請求項6】
前記第1部材から前記第2部材を分離して取り外す分離部をさらに備える
請求項1に記載のパネル解体システム。
【請求項7】
前記第1部材から取り外された前記第2部材の外観を検査する第2検査部をさらに備え、前記レーザ光照射制御部は前記第2検査部からの検査結果に基づいて前記照射条件を制御する
請求項1に記載のパネル解体システム。
【請求項8】
前記パネルをあらかじめ加熱する予熱部をさらに備える
請求項1に記載のパネル解体システム。
【請求項9】
前記パネルは太陽光パネルであり、
前記第1部材は、太陽光を受光して発電する太陽電池セルであり、
前記第2部材は、少なくとも可視光に対して透明なガラスである
請求項1に記載のパネル解体システム。
【請求項10】
第1部材に第2部材が設けられたパネルをレーザ光を用いて解体するパネル解体方法であって、
前記第2部材を透過して前記第1部材へレーザ光を照射するレーザ光照射装置と、
前記第1部材の画像に基づいて、前記第1部材の構造を検出する構造検出部と、
前記検出された第1部材の構造に基づいて、レーザ光の照射経路と前記照射経路の領域ごとの照射条件とを算出するレーザ光照射制御部と、
を備え、
前記算出された照射経路および照射条件にしたがって、前記レーザ光照射装置から前記第2部材を透過して前記第1部材へレーザ光を照射させることにより、前記第1部材と前記第2部材とを分離可能にさせる
パネル解体方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パネル解体システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電は、再生可能エネルギの一種として今後も広く普及すると予測される。一方で、使用後の太陽光パネルの廃棄が社会問題になりつつある。太陽光パネルの廃棄量は2030年代に急激に増加することが予測されている。現状は、太陽光パネルの一部の部品をリサイクルし、その他の部位は埋め立てられることが多い。大量廃棄時代を迎える前に、太陽光パネルのリサイクル技術を確立する必要がある。しかしながら、太陽光パネルはガラス、金属、樹脂などの複数の材料が混在したシステムであるため、高効率かつ高品質に解体したり分離したりすることが難しい。太陽光パネルのリサイクルコストは高いため、リサイクル率が向上しない。
【0003】
太陽光パネルのリサイクル方法として、特許文献1,2が知られている。特許文献1は、ガラス板と太陽電池素子とが封止材を介して積層された太陽電池モジュールのリサイクル方法であって、前記ガラス板を破砕する破砕工程を備え、前記破砕工程は、前記封止材との界面付近の前記ガラス板を残した状態で前記ガラス板を破砕する。
【0004】
特許文献2は、太陽電池パネルのリサイクルに於いて、太陽電池パネルの保護ガラス、太陽電池素子並びに配線部材、及び裏面保護材と封止材であるEVA樹脂の分離を、光ビームを近距離より特定の出力にて照射することによって、EVA樹脂を炭化させることなく沸騰状態にして、EVA樹脂の流動性を著しく高め、EVA樹脂と、保護ガラス、太陽電池素子並びに配線部材、及び裏面保護材を分離させる工程を有する太陽電池パネルのリサイクル方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-86651号公報
【特許文献2】特開2015-217372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ガラス板と太陽電池素子とが封止材を介して積層された太陽電池モジュールに対して、封止材との界面付近のガラス板を残しながら破砕する。しかしながら、この方法では、ガラスと封止材とを完全に分離することが難しく、ガラス板のリサイクル率が低い。
【0007】
特許文献2では、太陽電池パネルに対して、近くから光ビームを照射することで、EVA樹脂を沸騰状態にして、EVA樹脂(エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂)とガラス板とを分離する。しかし、光ビームを吸収する太陽電池素子は、複数種類の材料から構成されており、材質および形状などによって光ビームの吸収率は異なる。したがって、この方法では、太陽電池パネルを均一に加熱することができず、EVA樹脂とガラス板とをきれいに分離することは難しい。したがって、この方法もガラス板のリサイクル率を高めることは難しい。
【0008】
本発明は、第1部材に第2部材が設けられたパネルへレーザ光を照射して、第1部材と第2部材を分離可能にするパネル解体システムおよび方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明の一つの観点に従うパネル解体システムは、第1部材に第2部材が設けられたパネルを解体するパネル解体システムであって、第2部材を透過して第1部材へレーザ光を照射するレーザ光照射装置と、第1部材の画像に基づいて、第1部材の構造を検出する構造検出部と、検出された第1部材の構造に基づいて、レーザ光の照射経路と前記照射経路の領域ごとの照射条件とを算出するレーザ光照射制御部と、を備え、算出された照射経路および照射条件にしたがって、レーザ光照射装置から第2部材を透過して第1部材へレーザ光を照射させることにより、第1部材と第2部材とを分離可能にさせる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パネルを解体することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】太陽光パネルリサイクルシステムの全体構成図。
【
図5】材質に応じてレーザ光の出力を制御するためのテーブル例。
【
図6】太陽光パネルをリサイクルする処理を示すフローチャート。
【
図7】太陽光パネルの温度に応じてレーザ光照射を制御する様子を示すグラフ。
【
図8】第2実施例に係り、太陽光パネルリサイクル処理を示すフローチャート。
【
図9】第3実施例に係り、太陽光パネルリサイクルシステムの全体構成図。
【
図10】第4実施例に係り、太陽光パネルリサイクルシステムの全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態では、第1部材と第2部材を重ね合わせて形成されるパネルにレーザ光を照射することにより、第1部材と第2部材を分離可能とするパネル解体システムを提供する。本実施形態は、例えば、太陽光パネルの解体に適用することができる。ただし、本実施形態に係るパネル解体システムは、太陽光パネルに限らず、不透明な第1部材に透明な第2部材が重ねられたパネルであれば適用可能である。例えば、不透明な第1部材と透明な第2部材とが接着剤によって固定されたパネルであって、レーザ光を第1パネルの表面に照射したときに生じる熱により接着剤が溶け、第1部材と第2部材とが分離可能になるパネルであれば、本実施形態のパネル解体システムを用いることができる。
【0013】
第1部材と第2部材の形状および大きさは問わない。第1部材の表面の一部に第2部材が設けられてもよいし、逆に、第2部材の一部に第1部材が設けられてもよい。第1部材と第2部材は、同一形状でもよいし、異なる形状でもよい。本実施形態のパネル解体システムは、主に、第1部材から第2部材を分離させて、第2部材をリサイクルするが、これに限らず、第2部材の取り外された第1部材もリサイクルすることができる。
【0014】
本実施形態のパネル解体システムは、次のように表現することもできる。「少なくともガラス、セル、封止材から構成される太陽光パネルに対して、レーザ光を照射しガラス板を分離する太陽光パネルのリサイクルシステムにおいて、レーザ光照射装置と、レーザ光制御手段と、セルおよびセル上の配線位置を計測・認識する画像取得装置と、セル配線情報(位置、形状、材質等)から各領域のレーザ光照射条件を特定し、それに基づくレーザ光走査プログラムを導出する演算手段を有する太陽光パネルのリサイクルシステム」。
【0015】
本実施形態のパネル解体システムによれば、第1部材の構造(例えばセルの配線構造)に基づいて適切な出力のレーザ光を入射させることにより、第1部材と第2部材(例えば保護ガラス板)とを接着して封止する封止材(例えばEVA樹脂)を溶かし、第2部材から引き離すことができる。したがって、第1部材と第2部材とを分離させて、第2部材を高品質に取り外すことができ、リサイクルすることができる。高品質に取り外すとは、第2部材の両面のうち第1部材に対向する面に封止材などがほぼ付着していない状態で取り外すという意味である。
【実施例0016】
図1~
図7を用いて第1実施例を説明する。
図1は、「パネル解体システム」の例としての太陽光パネルリサイクルシステム1の全体構成を示す。
【0017】
太陽光パネルリサイクルシステム1は、例えば、リサイクルシステム制御部2、レーザ光照射システム3、搬送装置4、分離装置5、カメラ6および受光装置7を備える。太陽光パネルリサイクルシステム1は、後述のように、太陽光パネル8へレーザ光LLを照射することにより、セル81からガラス板82を取り外し、取り外されたガラス板82を次工程(図示せず)へ送る。
【0018】
太陽光パネル8は、例えば、太陽電池セル(以下、セルと略記する場合がある。)81と、セル81の両面のうち第1面(
図1中の上面、表面とも呼ぶ。)側に設けられたガラス板82と、セル81とガラス板82との間に設けられた封止材83と、セルの両面のうち第2面(
図1中の下面)に設けられたバックシート84を備える。本実施例の太陽光パネル8は、例えばSi単結晶型の太陽光パネルである。
【0019】
バックシート84も図示せぬ封止材を介してセル81に取り付けられている。太陽光パネル1は、太陽光パネル8の外側に取り付けられた金属製のフレーム80(
図3参照)、セル81と電気的に接続されたケーブル85(
図3参照)などもさらに備える。
【0020】
レーザ光LLがセル81の表面に照射されると、セル81の表面の構造などに応じて発熱部HPが発生し、発熱部HPの熱が周辺の封止材83を間接的に加熱し、封止材83を溶融させる。セル81とガラス板82とが接触する領域に所定エネルギのレーザ光LLを照射することにより、セル81とガラス板82を分離可能とし、分離装置5によってガラス板82を取り外すことができる。以下の説明では、レーザ光LLをレーザ光と略記する場合がある。
【0021】
リサイクルシステム制御部2は、太陽光パネルリサイクルシステム1の全体を制御する制御部である。以下、システム制御部2と略記する場合がある。システム制御部2は、一つまたは複数のコンピュータを用いて形成される。
【0022】
システム制御部2は、例えば、レーザ光照射制御部21、全体制御部22、搬送制御部23、分離制御部24、ユーザインターフェース部25、通信部25を備える。
【0023】
レーザ光照射制御部21は、レーザ光照射システム3の動作を制御する。レーザ光照射制御部21は、例えば、配線構造検出部211と、照射状態検出部212を備える。配線構造検出部211は、「構造検出部」の例であり、セル81の配線構造(配線の位置および形状など)をカメラ6で撮影した画像から解析する。照射状態検出部212は、例えば、レーザ光照射システム30のレーザ光照射口(不図示)近くに設けられた受光装置7により検出された信号に基づいて、レーザ光が照射された領域の温度などを推定する。
【0024】
搬送制御部23は、搬送装置4により、太陽光パネル1をレーザ光照射ステージへ搬送し、さらに、レーザ光の照射された太陽光パネル1を分離ステージへ送る。レーザ光照射ステージとは、レーザ光照射システム3から太陽光パネル1へレーザ光を照射する場所である。分離ステージとは、太陽光パネル1からガラス板82を取り外す場所である。搬送装置4は、太陽光パネル1を搬送できる装置であればよく、種類を問わない。搬送装置4は、例えば、コンベア装置、搬送ロボットなどで構成されてもよい。
【0025】
分離制御部24は、分離装置5により、ガラス板82をセル81から引き離して取り外させる。取り外されたガラス板82は、図外の次工程へ送られ、再利用される。ガラス板82は、取り外されたときの状態でそのまま再利用されてもよいし、切断または粉砕されて再利用されてもよい。いずれの場合でも、ガラス板82には封止材83などが付着しておらず、一枚のガラスとして取り外されるため、ガラス板82を無駄なく高品質に再利用することができる。分離装置5は、例えば、真空引きされてガラス板82に吸着する吸着部51と、吸着部51を操作する操作部(図示せず)などを備えることができる。これ以外の構成を備える分離装置5でもよい。
【0026】
ユーザインターフェース部25は、太陽光パネルリサイクルシステム1を管理する管理者が太陽光パネルリサイクルシステム1との間で情報を交換する装置である。図中、ユーザインターフェースを「UI」と略記する。ユーザインターフェース装置25は、情報を太陽光パネルリサイクルシステム1へ入力する入力装置と、太陽光パネルリサイクルシステム1から管理者へ情報を提供させる出力装置を備える。入力装置には、例えば、キーボード、タッチパネル、音声指示装置、ポインティングデバイスなどがある。出力装置には、例えば、モニタディスプレイ、プリンタ、音声合成装置などがある。ユーザインターフェース部25は、独立したコンピュータ端末として構成されてもよい。この場合、管理者は、デスクトップ型コンピュータ、ラップトップ型コンピュータ、タブレット型コンピュータ、ウェアラブル型コンピュータをコンピュータ端末として用い、太陽光パネルリサイクルシステム1との間で情報を入出力できる。
【0027】
通信部26は、通信ネットワークCNを介して、太陽光パネルリサイクルシステム1の外部にある情報処理システムC1と通信する。外部の情報処理システムC1としては、例えば、生産管理システム、出荷管理システム、在庫管理システムなどがある。なお、情報処理システムC1は、
図1でのみ図示されるが、他の実施例でも用いることができる。
【0028】
全体制御部22は、リサイクルシステム制御部2の全体を制御する。全体制御部22は、所定のタイミングで太陽光パネル1を照射ステージへ送り、レーザ光照射システム3からのレーザ光を太陽光パネル1へ照射させ、封止材83の溶けた太陽光パネル1を分離ステージへ送り、ガラス板82を取り外させる。
【0029】
なお、制御構造は
図1に示す例に限らない。複数の制御装置が一つのコンピュータとして構成されてもよいし、複数の制御装置がそれぞれ一つずつのコンピュータとして構成されてもよい。全体制御部22の中にレーザ光照射制御部21を含めてもよい。
【0030】
図2は、レーザ光照射システムの概略を示す。リサイクル対象の太陽光パネル1は、搬送装置4によって照射ステージへ搬送される。レーザ光照射システム3は、照射ステージに搬送された太陽光パネル1上を所定の照射経路にしたがって所定速度で移動しながら、所定エネルギのレーザ光を照射する。
【0031】
レーザ光照射システム3は、例えば、レーザ光ヘッド30、レーザ光発振器31、レーザ光ヘッド移動機構32を備えている。レーザ光発振器31は、光ファイバケーブル33を介してレーザ光ヘッド30へレーザ光を供給する。レーザ光照射制御部21は、レーザ光ヘッド30、レーザ光発振器31、カメラ6および受光装置7にそれぞれ別々のケーブル34を介して電気的に接続されている。
【0032】
レーザ光発振器31で生成されたレーザ光LLは、光ファイバケーブル33およびレーザ光ヘッド30を通じて、太陽光パネル8へ照射される。本実施例では、例えば、1070nmの波長のファイバレーザ光を用いる。これ以外の波長のレーザ光を用いてもよい。例えば、350-3000nmの波長範囲のレーザ光を用いることができる。
【0033】
レーザ光ヘッド30は、ガルバノスキャナを有する。ガルバノミラーを使って、レーザ光を左右に走査させながら、太陽光パネル8へレーザ光を照射する。太陽光パネル8は、搬送装置4によって、レーザ光の走査方向と同一面上で直交する方向へ移動するため、レーザ光LLを太陽光パネル8の全面に照射させることができる。
【0034】
カメラ6は、太陽光パネル8を撮影し、撮影した画像をレーザ光照射制御部21へ送信する。カメラ6は、レーザ光ヘッド30と同軸または平行に設けてもよいし、そうでなくてもよい。例えば、図示せぬロボットハンドにカメラ6を取り付けて、太陽光パネル8を撮影することもできる。
【0035】
受光装置7は、例えばフォトダイオードであり、レーザ光ヘッド30の内部に設けられている。受光装置7は、レーザ光の照射口と同軸または平行に設けられてもよいし、そうでなくてもよい。本実施例の受光装置7は、例えば、1100-1800nmの赤外線を計測し、計測データをレーザ光照射制御部21へ送る。後述のように、レーザ光照射制御部21は、温度の計測データとあらかじめ設定された温度閾値とを比較することにより、レーザ光ヘッド30から照射されるレーザ光の出力をPID制御する。なお、受光装置7は、1100-1800nmの赤外線に代えて、可視光線を検出してもよい。
【0036】
図3は、太陽光パネル8の平面図である。
図4は、一つのセル81を拡大して示す平面図である。太陽光パネル8には、複数のセル81がマトリクス状に配置されており、各セル81は、バスバー電極811およびフィンガー電極812によって電気的に接続されている。太陽光パネル8がリサイクルされる前の時点では、各電極811,812で集められた直流電流は、ケーブル85を介して取り出され、PCS(Power Conditioning Subsystem)などの装置へ送られる。
【0037】
バスバー電極811は、例えば、銅を錫または銀でコーティングして形成される。フィンガー電極812は、銀から形成される。なお、セル81はシリコンから形成され、バックシート84は合成樹脂から形成される。
【0038】
図5は、太陽光パネル8の材質ごとのレーザ光出力比率を管理するテーブルT1の例である。単結晶型シリコンに対するレーザ光の出力比率を「1」とした場合、フィンガー電極812を形成する銀に対するレーザ光の出力比率は「1.4」となる。銀は反射率および熱伝導率が高いため、単結晶型シリコンへ照射するレーザ光の出力よりも大きくする必要がある。バスバー電極811を形成する錫メッキされた銅に対しては、「0.8」のレーザ光出力比率が使用される。バックシート84を形成する樹脂に対しては、「0.7」のレーザ光出力比率が使用される。錫メッキされた銅および樹脂は、単結晶型シリコンに比べて、レーザ光が照射されたときの温度上昇が早いためである。
【0039】
図6のフローチャートを用いて、太陽光パネルをリサイクルする処理を説明する。最初に、家庭や太陽光発電所などから回収された使用済み太陽光パネル8からフレーム80およびケーブル85を取り外す、前処理を実行する(S11)。前処理は、作業員が手作業で実行してもよいし、ロボットまたは機械が実行してもよいし、作業員とロボットまたは機械が連携して実行してもよい。前処理を終えた太陽光パネル8は、セル81、ガラス板82、封止材83、バックシート84が重ね合わされた積層体となる。
【0040】
そして、カメラ6によって太陽光パネル8を撮影し、撮影された画像を配線構造検出部211が画像処理して解析することにより、太陽光パネル8の各部材の配置および形状を特定する。各部材とは、セル81、バスバー電極811、フィンガー電極812のように、セル81からガラス板82を引き離すために必要な部材である(S12)。本実施例では、各部材の配置および形状を配線構造と呼ぶことがある。
【0041】
本実施例では、カメラ6で撮影した画像から、各部材の色に基づいて、セル81、バスバー電極811、フィンガー電極812、バックシート84を認識する。色の判別には、各部材のRGB値を用いればよい。配線の線幅から、フィンガー電極812とバスバー電極811を区別することができる。フィンガー電極812の幅よりもバスバー電極811の幅の方が大きいため、線幅の違いから各電極811,812を区別できる。
【0042】
太陽光パネル8を撮影した画像から太陽光パネル8の寸法を算出し、レーザ光を照射する走査軌道を算出することができる。本実施例では、レーザ光走査軌道は、直線の往復軌道とするが、これに限らない。レーザ光を直線往復軌道とし、搬送装置4で太陽光パネルを搬送させることにより、太陽光パネルの全面にレーザ光を照射できる。なお、搬送装置4の移動速度は、レーザ光LLのビーム径から算出することができる。
【0043】
レーザ光照射制御部21は、検出された配線構造に基づいて、レーザ光ヘッド30の移動する経路(走査軌道)を算出する(S13)。レーザ光照射制御部21は、セル81に付着する封止材83を溶融させるために必要な経路を計算して記憶する。
【0044】
ここで、レーザ光の照射出力は、部材の材質に応じて決定されるが、短い距離の中で材質の異なる複数部材へレーザ光を照射する場合、それら複数部材のそれぞれの材質に応じた照射出力の平均値を用いることもできる。これにより、レーザ光の照射出力を変化させるための時間を短縮することができ、太陽光パネル8を解体するスループットを高めることができる。
【0045】
レーザ光照射制御部21は、検出された配線構造に基づいて、レーザ光の照射条件を生成する(S14)。レーザ光照射制御部21は、照射対象の材質に応じたレーザ光出力比率を用いて、レーザ光を太陽光パネル8へ照射するように、レーザ光照射条件を生成し、記憶する。レーザ光照射条件は、レーザ光の走査軌道および各部材の配置と対応して生成されており、各部材に合わせてレーザ光出力が変化するようになっている。
【0046】
レーザ光の照射が開始されると、太陽光パネル8の表面のうち、レーザ光が照射された領域は発光する。照射状態検出部212は、太陽光パネル8の発光を受光装置7で検出し、その発光の情報からレーザ光照射領域の温度Tpを推定する(S15)。
【0047】
レーザ光照射制御部21は、推定された温度Tpとあらかじめ設定された温度閾値とを比較し、推定された温度が所定の温度範囲にあるか判定する(S16)。所定の温度範囲とは、温度の下限を示す閾値と温度の上限を示す閾値との間の範囲である。
【0048】
閾値は、あらかじめ各部材に対してレーザ光を照射し、赤外線の強度と封止材83の剥離状態とを比較観察して決定することができる。温度の上限閾値は、封止材83以外の部材が溶融したり焦げ付ついたりしない値を選ぶことができる。温度の下限閾値は、封止材83が加熱不足となり、充分に溶融しない値を選ぶことができる。
【0049】
太陽光パネル8の温度Tpが所定の温度範囲にある場合(S16:YES)、レーザ光照射制御部21は、レーザ光の照射出力を維持して、ステップS17へ移る。太陽光パネル8の温度Tpが所定の温度範囲から外れる場合(S16:NO)、レーザ光照射制御部21は、レーザ光を照射する際の出力を調整し(S18)、ステップS17へ移る。すなわち、レーザ光照射制御部21は、太陽光パネル8の温度Tpが下限温度の閾値よりも低い場合、レーザ光の出力を所定量だけ上昇させ、太陽光パネル8の温度Tpが上限温度の閾値よりも高い場合、レーザ光の出力を所定量だけ低下させる。太陽光パネル8が所定の温度範囲を保つことにより、封止材83は溶融し、セル81からガラス板82を分離可能な状態になる。
【0050】
レーザ光照射制御部21は、レーザ光を太陽光パネル8へ照射する照射ステージを終了するか判定する(S17)。レーザ光照射制御部21は、照射ステージを終了しない場合(S17:NO)、ステップS15へ戻る。
【0051】
レーザ光照射制御部21がレーザ光照射ステージを終了させると(S17:YES)、太陽光パネル8は搬送装置4により分離ステージへ送られる。分離装置5は、ガラス板82をセル81から引き離し、次工程へ送る(S19)。
【0052】
太陽光パネルリサイクルシステム1は、ガラス板82の取り除かれたセル81などをリサイクルのために粉砕する(S20)。太陽光パネルリサイクルシステム1は、ガラス板82を検査し、検査に合格したガラス板82を出荷工程へ送る(S21)。ガラス板82は、そのままの形状で、あるいは分割されて、再利用される。
【0053】
図7のグラフは、太陽光パネル8の温度Tpに応じてレーザ光の照射を制御する様子を示す。
【0054】
本実施例では、太陽光パネル8の温度Tpは、受光装置7で計測される赤外線の強度から推定される。本実施例では、1100-1800nmの赤外線の強度を計測する。
図7に示すように、温度Tpが高くなると、レーザ光照射制御部21は、PID制御により、レーザ光の照射出力を調整する。
【0055】
このように構成される本実施例では、封止材83または金属などがほぼ付着していないガラス板82を、太陽光パネル8から取り外すことができる。
【0056】
本実施例では、受光装置7により、太陽光パネル8へ照射されるレーザ光の状態を検出するため、太陽光パネル8の温度を所定範囲に維持することができ、封止材83を充分に溶融させることができる。
【0057】
本実施例の太陽光パネルリサイクルシステム1は、受光装置7の検出する信号に基づいて、太陽光パネル8から取り外されたガラス板82の品質を判定することもできる。温度の上限閾値を超えた領域では、部材の溶融または焦げ付きが発生するため、金属またはバックシートの焦げ付きがガラス板82に付着する。これに対し、温度が下限閾値を下回る領域では、入熱不足により封止材83が十分に溶融蒸発しないため、ガラス82に封止材83が付着する。したがって、レーザ光を太陽光パネル8へ照射したときに生じる赤外線の計測データを使用すれば、取り外されたガラス板82の品質(外観、美観)をあらかじめ判定することができる。
【0058】
カメラ6と受光装置7とを共用してもよい。すなわち、カメラ6によって太陽光パネル8の表面温度を計測する構成としてもよい。
本処理では、ステップS12とステップS13との間に、新規なステップS21およびS22が追加されている。配線構造検出部211がセル81の配線構造を検出すると(S12)、レーザ光照射制御部21は、前回処理した太陽光パネル8と同一構造の太陽光パネル8であるか判定する(S21)。
前回処理した太陽光パネル8と同一構造の太陽光パネル8である場合(S21:YES)、レーザ光照射制御部21は、前回処理した太陽光パネル8で用いたレーザ光照射条件を読込み(S22)、ステップS15へ移る。前回処理した太陽光パネル8と今回処理する太陽光パネル8とが別の構造を持つ場合(S21:NO)、レーザ光照射制御部21は、ステップS13へ移る。
このように構成される本実施例も第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例の太陽光パネルリサイクルシステム1Aは、前回処理した太陽光パネル8と今回処理する太陽光パネル8とが同一構造の場合は、前回処理した太陽光パネル8で算出されたレーザ光照射条件を使用するため、太陽光パネルの処理速度(太陽光パネルリサイクルのスループット)をさらに改善することができる。