(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163617
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】ドリフト低減装置およびドリフト低減方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/74 20120101AFI20241115BHJP
【FI】
G03F1/74
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079382
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】591012668
【氏名又は名称】株式会社ホロン
(74)【代理人】
【識別番号】100089141
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 守弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 恵三
【テーマコード(参考)】
2H195
【Fターム(参考)】
2H195BD32
2H195BD33
2H195BD36
(57)【要約】
【目的】本発明は、ドリフト低減装置およびドリフト低減方法に関し、フォトマスク上の修復対象のチャージによるドリフトを低減することを目的とする。
【構成】フォトマスク上の修復しようとする修復パターンについて、修復最小単位のドットの整数倍からなるドットパターンに変換するドットパターン変換手段と、修復パターンについて、変換されたドットパターンが形成できるように、各ドットが離散的に形成された複数のレイヤーに分割するレイヤー分割手段と、分割されたレイヤー毎に順次修復し、修復パターンを形成する修復手段とを備え、分割されたレイヤー毎に順次修復してドットに照射される電子ビームのチャージによるドリフトを低減するように構成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトマスク上の修復対象のチャージによるドリフトを低減するドリフト低減装置において、
フォトマスク上の修復しようとする修復パターンについて、修復最小単位のドットの整数倍からなるドットパターンに変換するドットパターン変換手段と、
前記修復パターンについて、前記変換されたドットパターンが形成できるように、各ドットが離散的に形成された複数のレイヤーに分割するレイヤー分割手段と、
前記分割されたレイヤー毎に順次修復し、前記修復パターンを形成する修復手段と
を備え、
前記分割されたレイヤー毎に順次修復して前記ドットに照射される電子ビームのチャージによるドリフトを低減したことを特徴とするドリフト低減装置。
【請求項2】
前記各ドットが離散的に形成されたとして、縦2ドットと横2ドットからなる合計4ドット矩形で前記ドットパターンを分割し、レイヤー1を4ドット矩形の左上のドット、レイヤー2を4ドット矩形の右下のドット、レイヤー3を4ドット矩形の右上あるいは左下のドット、レイヤー4を4ドット矩形の左下あるいは右上のドットの集合からなる、分割したドットパターン1から4としたことを特徴とする請求項1に記載のドリフト低減装置。
【請求項3】
前記レイヤー分割手段が、前記修復するドットパターンの外周部を前記複数のレイヤーに分割し、内部をレイヤーに分割することなく、電子ビームで照射して修復することを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載のドリフト低減装置。
【請求項4】
前記変換されたドットパターンが線分の場合には、当該線分の始端および終端から、当該線分の中心に向けて電子ビームを順次照射して修復し、発生するチャージを対称にし、ドリフトを低減したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のドリフト低減装置。
【請求項5】
前記変換されたドットパターンが面の場合には、当該面の左上および右下から、当該面の中心に向けて電子ビームを順次照射して修復し、発生するチャージを対称にし、ドリフトを低減したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のドリフト低減装置。
【請求項6】
前記分割されたレイヤー毎に順次修復した修復パターンと修復しようとする修復パターンとを比較し、差が所定閾値以上の場合にはドリフト発生警告する、あるいは偏向装置に補正信号を出力して補正する、ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のドリフト低減装置。
【請求項7】
フォトマスク上の修復対象のチャージによるドリフトを低減するドリフト低減方法において、
フォトマスク上の修復しようとする修復パターンについて、修復最小単位のドットの整数倍からなるドットパターンに変換するドットパターン変換ステップと、
前記修復パターンについて、前記変換されたドットパターンが形成できるように、各ドットが離散的に形成された複数のレイヤーに分割するレイヤー分割ステップと、
前記分割されたレイヤー毎に順次修復し、前記修復パターンを形成する修復ステップと
を有し、
前記分割されたレイヤー毎に順次修復して前記ドットに照射される電子ビームのチャージによるドリフトを低減したことを特徴とするドリフト低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスク上の修復対象のチャージによるドリフトを低減するドリフト低減装置およびドリフト低減方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フォトマスク上のパターンの修復は、修復目標パターンを人間が作成、選択あるいは既存のパターンをコピーするなどして決め、ガスを噴射しつつ電子ビームを照射してデポジションあるいはエッチングし、修復していた。
【0003】
この際、電子ビームの照射位置の制御性の観点から電子ビームの照射(走査)方法はラスタースキャンが利用されていた。この方法では数十ピコアンペアーから数十ナノアンペアーの電子ビームをナノメートルオーダーの領域に数分間に渡って連続的に隣接するピクセルに対して照射してマスクを修復する。
【0004】
このため、隣接するピクセルに局所的に大量に照射し続けることが原因で修復箇所の近傍が帯電し、その蓄積電荷の影響で電子ビームが所望の場所に照射出来ないことにより、観察像(修復パターン)が元の位置からずれた場所に生じる所謂ドリフト現象が生じる。
【0005】
このドリフトが生じると目的とする欠陥を正常に修復できなくなるばかりか、間違った場所を修正してしまい新たな欠陥を生成してしまう危険があり、これらを避ける対策が取られていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来のフォトマスクの修復は、人が修復すべき図形を作成、選択、既存の図形をコピーなどして決め、これにガスを噴射すると共に電子ビームをラスタースキャンなどで照射して修復(切除、堆積)していたため、修復箇所の近傍が帯電してその蓄積電荷により修復箇所がずれてしまうチャージによるドリフトが発生してしまい、所望の修復パターンを修復できないばかりか、新たな欠陥を生成しまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するために、フォトマスク上の修復対象のチャージによるドリフトを低減するドリフト低減装置において、フォトマスク上の修復しようとする修復パターンについて、修復最小単位のドットの整数倍からなるドットパターンに変換するドットパターン変換手段と、修復パターンについて、変換されたドットパターンが形成できるように、各ドットが離散的に形成された複数のレイヤーに分割するレイヤー分割手段と、分割されたレイヤー毎に順次修復し、修復パターンを形成する修復手段とを備え、分割されたレイヤー毎に順次修復してドットに照射される電子ビームのチャージによるドリフトを低減するようにしている。
【0008】
この際、各ドットが離散的に形成されたとして、縦2ドットと横2ドットからなる合計4ドット矩形でドットパターンを分割し、レイヤー1を4ドット矩形の左上のドット、レイヤー2を4ドット矩形の右下のドット、レイヤー3を4ドット矩形の右上あるいは左下のドット、レイヤー4を4ドット矩形の左下あるいは右上のドットの集合からなる、分割したドットパターン1から4とするようにしている。
【0009】
また、レイヤー分割手段が、修復するドットパターンの外周部を複数のレイヤーに分割し、内部をレイヤーに分割することなく、電子ビームで照射して修復するようにしている。
【0010】
また、変換されたドットパターンが線分の場合には、線分の始端および終端から、線分の中心に向けて電子ビームを順次照射して修復し、発生するチャージを対称にし、ドリフトを低減するようにしている。
【0011】
また、変換されたドットパターンが面の場合には、面の左上および右下から、面の中心に向けて電子ビームを順次照射して修復し、発生するチャージを対称にし、ドリフトを低減するようにしている。
【0012】
また、分割されたレイヤー毎に順次修復した修復パターンと修復しようとする修復パターンとを比較し、差が所定閾値以上の場合にはドリフト発生警告する、あるいは偏向装置に補正信号を出力して補正するようにしている。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、フォトマスク上の修復しようとする修復パターンについて、修復最小単位のドットの整数倍からなるドットパターンに変換し、変換されたドットパターンが形成できるように、各ドットが離散的に形成された複数のレイヤーに分割し、分割されたレイヤー毎に順次修復して修復パターンを形成し、ドットに照射される電子ビームのチャージによるドリフトを低減すると共に、新たな欠陥の発生を低減することが可能となった。
【0014】
これにより、下記が可能となった。
1 1台の装置内で完全自動マスク修復の際に、フォトマスクのチャージによるドリフトを低減し、高精度のフォトマスクパターンの修復を実現できる。
2 また、フォトマスクのチャージによるドリフトを低減したことで、新たな欠陥の発生を防止できる。
【実施例0015】
図1は、本発明の1実施例構成図を示す。この
図1は、フォトマスク12の上に形成されたパターンの欠陥を修復する装置の構成図であって、フォトマスクにガスを噴射しつつ電子ビームを照射し、その電子ビームの反応範囲について、エッチングあるいはデポジションを行って欠陥を修復する装置の構成図を示す。以下詳細に説明する。
【0016】
図1において、コラム1は、1次電子ビームを発生し、集束し、更に細く絞り、フォトマスク12の上に照射するためのものであって、電子銃2などから構成されるものである。
【0017】
電子銃2は、電子を発生するものである。
【0018】
ブランキング電極3は、電子銃2で発生された1次電子ビームをnsのオーダーで高速に通過あるいは遮断するものであって、原理的には平行平板電極であり、高電圧を印加するものである。ブランキングした1次電子ビームが帯電してドリフトさせないように工夫されている。
【0019】
U-MCP4は、上側(電子銃2に近い方)に配置したMCP(電子検出器)であって、電子を増倍して高感度に検出するものであり、ここでは主に反射電子を検出・増倍するものである。検出された信号はAD変換装置によりデジタルデータに変換された後、PCに送られ画像化されたり、終点判定に必要な元素分析に利用される。
【0020】
D-MCP5は、下側(対物レンズ7に近い方)に配置したMCP(電子検出器)であって、電子を増倍して高感度に検出するものであり、ここでは主に2次電子を検出増倍するものである。検出された信号はAD変換装置によりデジタルデータに変換された後、PCに送られ画像化される。
【0021】
偏向器6は、1次電子ビームを2段偏向(X,Y方向)し、フォトマスク12上の所望の位置に細く絞った電子ビームを照射しつつ走査するものである。
【0022】
対物レンズ7は、1次電子ビームを細く絞ってフォトマスク12の上に照射するものである。ここでは、必要に応じて図示外の収差補正装置(球面、色収差補正装置)を合わせて使用し、球面および色収差を最小限に低減する。
【0023】
差動排気装置8は、中心に1次電子および2次電子が通過する穴を設けた2段の円盤からなる差動排気装置の中間部分から排気し、試料室21に排出されたガスがコラム1の側に行かないように排気するものである。
【0024】
輻射熱シールド9は、ノズル10に接続された配管などの熱がフォトマスク12に輻射熱として行かないように遮断する薄い板であって、中心部分に1次電子ビーム、ノズル10あるいはノズル10からのガスが通る穴を設けたものである。
【0025】
ノズル10は、ガスをフォトマスク12の所定領域に噴射するものであって、通常所定温度(例えば80~100°程度)に加熱されたガスを噴射するものである。
【0026】
Zセンサー11は、フォトマスク12のZ方向の距離(WD)を精密に測定するものである。
【0027】
フォトマスク12は、欠陥を修復する対象のフォトマスクであって、図示外の設計データ(CADデータ)をもとに所定のパターンを形成したフォトマスクである。フォトマスク12は、設計データを参照し、修復対象のパターンに容易かつ高精度に1次電子ビームを照射しつつノズル10からガスを噴射し、エッチングおよびデポジションを行い欠陥パターンを設計データなどから生成した修復目標パターンに一致するように修復している。
【0028】
加熱・冷却コントローラ13は、フォトマスク12の背面側に配置し、フォトマスク12を加熱、冷却して所定温度に制御し、フォトマスクのドリフトを低減するものである。
【0029】
支持台14は、フォトマスク12,加熱・冷却コントローラ13などを保持するものである。
【0030】
温度センサー15は、支持台14あるいはフォトマスク12の温度を検出するものである。
【0031】
XYZステージ16は、温度センサー15,支持台14,加熱・冷却コントローラ13,フォトマスク12を搭載し、X,Y,Z方向に精密に所定位置に移動するものであって、レーザーをステージ上のバーミラーなどに照射してリアルタイムに精密に測定(レーザ干渉計で測定)しつつ移動するステージである。
【0032】
TMP17は、オイルレス真空排気装置である。
【0033】
ドライポンプ18は、オイルレスの真空排気装置である。
【0034】
コントローラ19は、輻射熱シールド9,支持台14などの温度を所定温度に自動制御するものである。
【0035】
除振装置20は、試料室21、コラム1などを搭載し、外部からの振動を除振する装置である。
【0036】
試料室21は、フォトマスク12などを配置する真空排気する容器である。
【0037】
ガス温度調整装置22は、ノズル10からフォトマスク12に噴射するガスの温度を調整するものであって、所定温度に加熱して昇華などしてガスを生成し、更に、所定圧力に調整して供給するものである。
【0038】
ガスコントローラ23は、ガス温度調整装置22を制御し、所定温度のガスを生成、生成したガスの流量、圧力などをマスフローコントローラにより調整し、ノズル10からガスをフォトマスク12に噴射させるものである。
【0039】
高圧電源31は、電子銃2の印加する直流高電圧を発生するものである。
【0040】
BLコントローラ32は、ブランキング電極3に所定の高電圧を印加し、1次電子ビームの通過、遮断を高速に制御するものである。
【0041】
反射信号処理装置33は、U-MCP4で検出・増幅した反射信号を、更に増幅などし、フォトマスクの修復領域の反射電子画像などを生成するものである。
【0042】
2次信号処理装置34は、D-MCP5で検出・増幅した2次信号を、更に増幅などし、フォトマスクの修復領域、基準パターンなどの2次電子画像などを生成するものである。
【0043】
偏向制御装置35は、偏向器6に高電圧の偏向電圧を印加し、フォトマスク12上に細く絞って照射した1次電子ビームをXY方向に高速走査制御するものである。
【0044】
ステージ位置制御装置36は、XYZステージ16に搭載されたフォトマスク12の所定位置に1次電子ビームが照射されるように、レーザー干渉計からのリアルタイム測定信号を受信し、かつ設計データ(CADデータ)を参照し、位置づけるものである(公知)。
【0045】
PC37は、パソコンであって、プログラムに従い各種処理、制御を統括制御するものである。このパソコンには基準パターンを自動選択するためのデータベースや選択ソフト、修正対象となるフォトマスクの設計データ(CADデータ)あるいはドリフトベクトル関数を演算するための演算装置やドリフトの学習を行うための装置あるいは推論演算のためのデータベースや推論エンジン等も搭載されている。その他、終点判定のために利用される元素推定のための画像演算や推論に必要とされるデータベースやソフトが搭載されている。
【0046】
表示装置38は、ディスプレイであって、フォトマスク12の修復対象領域の2次電子画像、反射電子画像、更に、基準パターンの2次電子画像、フォトマスク温度などを表示するものである。
【0047】
【0048】
図1のマスク修復装置では、0.5から1KV程度のエネルギーを持つ1次電子ビームが利用される。典型的な反応ガスはエッチング用としてフッ化キセノン、デポジション用としてトリメチル白金、補助ガスとして水蒸気や酸素、窒素などである。反応ガスは100℃程度に加温された状態でノズル10からフォトマスク12に向けて噴射される。噴射量は0から数十SCCM程度の微量である。必要に応じて異種のガスが同時に注入されることもある。
【0049】
電子ビーム励起ガス反応の活性化エネルギーは数エレクトロンボルトであるため数エレクトロンボルトのエネルギーを有する2次電子が反応を支配する。1次電子ビームの数nm以下の小さなスポットサイズでは無く、フォトマスク12に衝突して散乱した際に生じる2次電子の飛程範囲が反応領域と成る。電子ビームマスク修復装置の最小修復分解能は加速電圧に大きく依存する。反応領域は1次電子ビームのエネルギーが低いほど小さくなる傾向があり、例えば1KVの時は20nm、0.5KVの時は6nm程度の直径になる。
【0050】
電子ビーム照射電流は0から100pA程度が利用される。電子ビームとガスによる反応速度は照射電流に比例するため照射電流が大きいほど早く反応が進む。1次電子ビームは偏向器6にて偏向可能領域内の任意の位置に照射することが出来る。任意の時間照射することも出来る。例えばラスタースキャンを用いて一定方向に電子ビームを一定速度で走査しながら所望のタイミングでオンオフすることで電子ビームをフォトマスク12上の任意の場所のみに照射することが出来る。ピクセルクロックは1KHzから100MHz位が利用される。ゆっくりと走査して1回の走査で修復プロセスを完結させることも出来るし、高速に複数回走査して修復プロセスを完結させることも出来る。
【0051】
電子ビームとガスの反応速度は電子ビーム照射電流が一定の時、フォトマスク12の表面に吸着しているガス濃度に依存する。ガス供給速度と電子ビーム量が旨くバランスした時に最大効率が得られる。ガス表面濃度はガス吸着量に比例するためフォトマスク12の表面温度が重要な制御パラメータと成る。反応ガスの吸着は物理吸着なので、一般的に高温にするとガスの吸着能は小さくなり、低温にすると吸着能は大きくなる。速度向上には低温化が望ましいが、反応ガスの多くが固体ソースを加熱してガス化した材料なので、気化温度よりもフォトマスク12の表面温度を低くし過ぎるとガスが霜あるいは雪の様に空洞が空いた状態でフォトマスク12の表面に積もるため、堆積した膜がポーラスに成ることもある。
【0052】
以上のように、フォトマスク12の表面温度は反応速度やプロセス結果に影響を与えるので、所望の温度に成るように制御することが望ましい。フォトマスク12の温度測定はフォトマスク12を汚染しないように赤外線を用いた非接触温度センサーを利用することが望ましい。
【0053】
電子ビームガス反応を行う際のピクセルクロックとSEM観察する際のピクセルクロックは同じにすることも出来るし、それぞれ独立に設定することも出来る。例えばSEM観察する時は高速(10ns毎ピクセル)に設定し、ガス反応を行うときは遅くする(1ms毎ピクセル)など使い分けることが出来る。電子ビーム照射範囲も必要に応じて任意に決めることが出来る。同様に電子ビームガス反応を行う際の電子ビームスポットサイズとSEM観察する場合のスポットサイズは同じにも異なった値にも設定することが出来る。
【0054】
電子ビームマスク修復装置の試料室21は装置設置環境からの電磁ノイズを防ぐために純鉄あるいはインバー等で出来ており、内面は耐腐食性のある無電解ニッケルメッキなどで被覆されている。試料室21はTMP17およびドライポンプ18で真空に引かれており、10のマイナス3乗パスカル程度の高真空に維持されている。コラム1内は10のマイナス5乗パスカル、電子銃室は10のマイナス7乗パスカル以上の高真空に維持されている。
【0055】
コラム(電子ビームコラム)1は腐食性ガスにさらされるので、パーマロイや純鉄からなる通常のコラムは腐食により寿命が短くなる恐れがある。本実施例では腐食ガスに直接さらされるガス供給用のノズル10、コラム1の先端の対物レンズ7の開口部はハステロイC等の金属、ニッケルリンメッキ、あるいは帯電防止したテフロン(登録商標)等の耐腐食材料で被覆する。電子ビームコラム1が試料室21と接続される対物レンズ7の側には差動排気装置8が導入されている。2つの差動排気アパチャーとアパチャー間に接続された図示外のTMPによる強力な排気システムによって、フォトマスク12の表面にノズル10から注入されたフッ化キセノン、塩素、ヨウ素等の腐食ガスはコラム1の内部に侵入する前に外部に排気される。このシステムによりコラム内部の部品が腐食されるのを防止できる。
【0056】
電子ビームによるフォトマスク12の修復は凡そ次のように行われる。フォトマスクポートにフォトマスクを置く。ロード指令を送出するとフォトマスク搬送ポートに連動した搬送装置(ローダー)がフォトマスクをサブチャンバーついでメイン真空チャンバー(試料室21)に自動搬送する。別途設置してあるフォトマスク欠陥検査装置から欠陥位置情報を取得する。OMあるいはSEM画像パターンマッチングを用いてステージ座標とマスク上座標を一致させるアライメントを行う。XYZステージ16をもちいてフォトマスク12上の修復対象欠陥位置が1次電子ビームの軸上に来るように移動する。1次電子ビームを走査して修復対象欠陥をSEM観察(2次電子画像観察)する。SEM画像を用いて修復対象位置を測定し、より正確な位置つまり画像中心に移動させる。この際、深層学習AIを用いて欠陥を自動認識させ自動的に中央に配置することも出来る。
【0057】
次に、反応ガスをフォトマスク12の上の修復箇所表面にガス注入用のノズル10を用いて注入しながら、修復箇所に1次電子ビームを照射する。修復箇所では1次電子ビームとガスの反応が起こる。修復前のSEM画像に修復中にリアルタイムで得られるSEM画像および反射画像を重ね合わせ表示し修復プロセスをリアルタイム観察する。最後に反応ガスを除去した状態で修復箇所をSEM観察し所望の修復が実行されたか否かを確認する。あるいは反射電子でプロセス進行による材質変化を検出する。修復不足であれば再びガスを注入して電子ビームを照射し修復を続ける。
【0058】
修復形状が目的形状と一致していれば終了判定して修復終了する。フォトマスク上に存在する全ての修復対象箇所の修復が終了した後にフォトマスクは搬送装置により修復装置外部に取り出される。
【0059】
以上のように、1次電子ビームによるマスク修復作業は実行される。
【0060】
しかしながら、実際には1次電子ビームを数分間に渡って局所的に大量照射し続けることやガスを吹き付けることなどが原因でフォトマスク12上の電子ビームを照射して修復する部分(ドット)がチャージし、観察像(修復パターン)が元の位置からずれた場所に生じるチャージによるドリフト現象が生じる。このチャージによるドリフトが生じると目的とする欠陥を正常に修復できなくなるばかりか、間違った場所を修復してしまい新たな欠陥を生成してしまう危険がある。
【0061】
以下に、フォトマスク上の電子ビームの照射部分(ドット)のチャージによるドリフトを低減する装置、方法を順次詳細に説明する。
【0062】
図2は、本発明の説明図(その1)を示す。この
図2は、フォトマスク12上の目的とする図示の修復パターン41,42を電子ビームで照射しつつガスを噴射して修復する様子を模式的に示したものである。
【0063】
図2の(a)は従来の修復パターン41を示し、
図2の(b)は本発明の修復パターン42を示す。
【0064】
図2の(a)の従来の修復パターン41は、電子ビームを図示のように上から下の方向にラスタースキャンを繰り返し、全体を塗りつぶすように照射し、修復していた。このため、電子ビームを修復パターン41の左端の上から下にラスタスキャンを行い、次に、右に隣接するドットに上から下にラスタースキャンを行うことを繰り返し、修復パターン41の右端までラスタースキャンを行っていたため、電子ビームをラスタースキャンする左側のドットにチャージした場合には電子ビームは負の電荷を持つため電子ビームが右側(負にチャージした場合)、あるいは左側(正にチャージした場合)にドリフト(シフト)してしまう事態が発生する。
【0065】
尚、チャージは、電子ビームを照射した修復パターンのドットの部分で1以上の電子を放出すれば結果として正にチャージし、1以下の電子を放出すれば負にチャージする(公知)。
【0066】
一方、
図2の(b)の本発明の修復パターン42は、下記のようになる。
【0067】
・(b-1)のレイヤー1の修復パターン42(縦2ドットと横2ドットの矩形のうちの左上のドットの集合)
・(b-2)のレイヤー2の修復パターン42(縦2ドットと横2ドットの矩形のうちの右下(XY方向にずらす)のドットの集合)を、レイヤー1に追加
・(b-3)のレイヤー3の修復パターン42(縦2ドットと横2ドットの矩形のうちの下(Y方向にずらす)のドットの集合)を、レイヤー2に追加
・(b-1)のレイヤー1の修復パターン42(縦2ドットと横2ドットの矩形のうちの右(X方向にずらす)のドットの集合)を、レイヤー3に追加
ここで、1回目の電子ビームの走査で、(b-1)のレイヤー1のドットを、電子ビームで左端の上から下の方向に照射し、次に右のドットについて上から下の方向に照射することを繰り返し、図示の全ドットを照射する。
【0068】
次に、2回目の電子ビームの走査で、(b-2)のレイヤー2で追加したドットを、電子ビームで左端の上から下の方向に照射し、次に右のドットについて上から下の方向に照射することを繰り返し、図示の全ドットを照射し、レイヤー1とレイヤー2で追加した照射を合算し、図示の(b-2)のレイヤー2の照射となる。
【0069】
同様に、3回目、4回目の電子ビームの走査で、(b-3)のレイヤー3で追加、(b-4)のレイヤー4で追加したドットを照射して合算し、全体として図示の(b-4)のレイヤー4の照射となる。これにより、従来の
図2の(a)の修復パターン41と、同一の修復パターンのドットを全部、照射して修復できる。
【0070】
この際、本発明のレイヤー1,2,3,4の順番で順次照射することにより、電子ビームの照射するドットが、周囲の他の電子ビームで照射されてチャージするドットから離れた距離(離散的)となり、チャージによる電子ビームのドリフト(シフト)を大幅に低減できる。以下説明する。
【0071】
(1)フォトマスク12の上に修復しようとする修復パターンのドットの間隔を広く開けてデポジションした場合、周辺が広く空いているためチャージの蓄積が起こりにくく、かつ、デポジションに利用される反応ガスが非常に均一に流れるため背の高い真っ直ぐな針状構造物をアレイ状に作ることが出来ることが知られている。つまりチャージによるドリフトを起こさずにエッチングやデポジションをすることが可能であることが実証されている。
【0072】
(2)この現象を利用したのが本発明である。従来は
図2の(a)に示す修復パターン41を電子ビームを照射して行う際に、隣接するピクセルに対して連続的(アナログ的)に小さなスポットサイズに絞った電子ビームを照射してデポジションやエッチングを実施する。この方法を用いると次第にチャージによるドリフトが生じ目的とする形状に修復することは出来ないという不具合が存在した。
【0073】
(3)本発明は従来とは異なり、点描画のように離れたピクセルドットとして、
図2の(b-1)のレイヤー1,(b-2)のレイヤー2,(b-3)のレイヤー3,(b-4)のレイヤー4に示すように、次々と離散的に形成して追加していくことで、最終的に目的とする修復パターン42((b-4)のレイヤー4の修復パターン42)を極めて安定に得ることができる。
【0074】
(4)また、マスク修復装置で利用されるピクセルクロックは数KHzから数100MHz間にある。反応ガスを変更あるいは停止するためには、ガスバルブの開け閉めのほかパイプやノズルに存在するガスが完全に取り除かれるまでの時間がかかる。この時間は最短でも1秒近くかかる。従って、従来のように、連続的にピクセル形成している最中にガス条件を変更することは技術的に無理があった。本発明では一連のプロセスに区切りがあるため各レイヤー処理して次のレイヤーを処理するまでに1秒よりも長い時間をかけることが出来る、本実施例では各レイヤー毎にガス濃度や種類などを弁やマスフローメーターを用いて自由に切り変えることが可能である。フォトマスク修復では必ずしも1種類の材料で修復することが最良とは限らない。材料を色々変えることで密度を変えることが可能で修正部の高さや光学特性を微妙に調整することも出来る。
【0075】
次に、
図3のフローチャートを用いて詳細に説明する。
【0076】
図3は、本発明の動作説明フローチャート(その1)を示す。これは、既述した
図2の(b-1)、(b-2)、(b-3)、(b-4)の動作説明フローチャートである。
【0077】
図3において、S1は、修復したいパターンを最適なサイズおよびスペースからなるドットに変換する。これは、修復しようとする修復パターンについて、例えば修復最小単位のドット、あるいはその整数倍からなるドットパターンに変換する。
【0078】
S2は、修復パターンをドットが形成できるレイヤーに分割する。これは、S1でドットパターンに変換された後の修復パターン42、例えば
図2の(b-4)に示す修復パターン42について、
図2の(b-1)のレイヤー1の修復パターン42,(b-2)のレイヤー2でレイヤー1に追加した部分、(b-3)のレイヤー3でレイヤー2に追加した部分、(b-4)のレイヤー4でレイヤー3に追加した部分のドットパターンの4つに分割する。
【0079】
S3は、レイヤー毎に修復する。これは、S2で分割したレイヤー毎、例えば
図2の(b-1)のレイヤー1、(b-2)のレイヤー2で追加、(b-3)のレイヤー3で追加、(b-4)のレイヤー4で追加した部分のドットパターン毎に、順次電子ビームを照射して修復する。
【0080】
S4は、最終的に修復すべきパターンが形成される。
図2の(b-4)のレイヤー4で追加された部分を修復することにより、最終的に当該(b-4)に示す修復パターン42が修復されることとなる。ここでは、4回のレイヤー1,2,3,4の修復で全体の修復パターン42が修復されることとなる(レイヤー分割デジタル修復法)。
【0081】
以上のように、
図2の(b-1)から(b-4)で各追加された4レイヤーに分割して順次電子ビームを照射して修復することにより、各修復が離散的に離れた位置のドットについて修復を行い、電子ビームのチャージによるドリフトを低減し、かつ新たな欠陥の発生を防止できる。レイヤーの数はドット間スペースに依存して変化する。スペースを空けるとレイヤー分割数は増加する。修正すべきパターンをレイヤーに分割する方法としては予めレイヤーとしてドット描画を行うべきパターンを任意サイズのパターンとして決めておき、そのパターンに対して例えばAND演算を行うことで修正に必要とされる各レイヤーパターンを得ることが出来る。
【0082】
図4は、本発明の説明図(その2)を示す。この
図4は、フォトマスク12上の目的とする図示の修復パターン43を電子ビームで照射しつつガスを噴射して修復する際に、周辺(エッジ)のドット照射の1周目の修復、次に、ドット照射の2周目の修復を行い、その後に、内部の修復を行い、エッジ部分(周辺の部分)をチャージによるドリフトを低減して修復した例を模式的に示す。
【0083】
図4の(a-1)はドット照射の1周目の修復を示し、
図4の(a-2)はドット照射の2周目の修復を示し、
図4の(a-3)は内部の修復を示す。
【0084】
図4の(a-1)のドット照射の1周目の修復は、修復しようとする修復パターン43の周辺(エッジ)の部分のドットについて、ここでは、1ドット毎に空白を設けたドット照射の1周目のパターン(レイヤー1のドットパターン)を作成し、このパターンについて1周に渡って電子ビームで照射し、ガスを噴射して修復する様子を示す。
【0085】
図4の(a-2)のドット照射の2周目の修復は、1周目の修復に追加して、当該1周目の空白のドットの部分のパターン(レイヤー2のドットパターン)を作成し、このパターンについて1周に渡って電子ビームで照射し、ガスを噴射して修復する様子を示す。
【0086】
以上により、修復パターン43の周辺のドット部分がチャージによるドリフトを低減した状態で、正確な修復をすることが可能となり、かつ新たな修復を発生させることを防止できる。
【0087】
次に、
図4の(a-3)の内側の修復は、修復しようとする修復パターン43の内部のドットについて、ここでは塗りつぶす態様で電子ビームを照射し、ガスを噴射して修復する様子を示す。ここでは、高速に塗りつぶす。つまり、最適な修正速度が得られるように周辺部と内部では別々のピクセルクロックを利用しても良い。
【0088】
次に、
図5のフローチャートを用いて
図4の修復の動作を詳細に説明する。
【0089】
図5は、本発明の動作説明フローチャート(その2)を示す。これは、既述した
図4の(a-1)、(a-2)、(a-3)の動作説明フローチャートである。
【0090】
図5において、S11は、修復したいパターンの周辺部を最適なサイズおよびスペースのドットに変換する。ドリフト許容度の高い内部は通常照射する。これは、修復したい修復パターンについて、周辺部分を例えば修復最小単位のドット、あるいはその整数倍からなるドットパターンに変換する。
【0091】
S12は、修復パターンをドットが形成できるレイヤーに分割、および連続照射するレイヤーに分割する。これは、S11でドットパターンに変換された後の修復パターン43,例えば
図4の(a-3)に示す修復パターン43について、
図4の(a-1)のドット照射の1週目の修復に示すレイヤー1のドットパターン、次に、レイヤー1のドットパターンに、
図4の(a-2)のドット照射の2週目の修復で追加したレイヤー2のドットパターンに分割する。更に、
図4の(a-3)の内側の修復に示す、当該内部の連続したレイヤー3のドットパターン(内部の左側の上から下に照射、次に右隣りのドットの上から下に照射することを繰り返し、内部の右側にたどり着くまで繰り返し照射した連続のドットパターン)に分割する。
【0092】
S13は、レイヤー毎に修復する。これは、S12で分割したレイヤー毎、例えば
図4の(a-1)のレイヤー1のドットパターン、(a-2)のレイヤー2で追加したドットパターン、(a-3)のレイヤー3の連続したドットパターン毎に、順次電子ビームを照射し、ガスを噴射して修復する。
【0093】
S14は、最終的に修復すべきパターンが形成される。最終的に
図4の(a-3)に示す修復パターン43が修復されることとなる。ここでは、3回のレイヤー1,2,3の修復で全体の修復パターン43が修復されることとなる。それぞれのレイヤーを形成する速度は最適な修復結果が得られるように別々に定めることが出来る。
【0094】
以上のように、
図4の(a-1)から(a-3)の3レイヤーに分割して順次電子ビームを照射して修復することにより、修復パターン43の周辺部分(エッジ部分)の修復が離散的に離れた位置のドットについて修復を行い、電子ビームのチャージによるドリフトを低減し、かつ新たな欠陥の発生を防止できる。以下詳細に説明する。
【0095】
(1)
図5はチャージによるドリフトに対してフォトマスク性能が大きく影響を受けるエッジ部分をチャージによるドリフトを低減して精密な修復を行い、チャージなどによるドリフトが多少生じても問題の無い内側は連続した修復を行った例を示す。
【0096】
(2)フォトマスクはエッジつまりパターン境界の位置や形状が性能に大きく影響する。エッジの位置がチャージによるドリフトによって移動してしまうと修復後のフォトマスクは本来の性能を出すことが出来なくなる。一方、エッジから遠く離れた内側は多少ドリフトが起こっても塗りつぶしているだけなのでフォトマスクの光学特性に対して影響は小さい。
【0097】
(3)チャージによるドリフトを低減することは非常に有効であるが、ドリフトをより小さくするためには間隔を大きく空け、ドット形成の時間間隔を長く取ることが必要である。全ての修復領域を行うとレイヤーの形成に無理が出たり、スループットが下がる可能性がある。これを解決するために、精度が必要な部分(例えば修復パターン43のエッジ部分)をチャージによるドリフトを低減し、その内部を連続照射したものである。本実施例ではデポジションの例を示したが、エッチング等を行ってパターンを除去する場合にも同様に応用できる。
【0098】
図6は、本発明の説明図(その3)を示す。この
図6は、フォトマスク12上の目的とするライン(線分)の修復パターン44を電子ビームで照射しつつガスを噴射して修復する際に、チャージによるドリフトを低減するために、ラインの両端のドットから交互に中点に向かって電子ビームを照射しつつ、ガスを噴射し、ラインを正確に修復する様子を模式的に示す。
【0099】
図6の(a)は従来の照射例を示し、
図6の(b)は本発明の照射例を示す。
【0100】
図6の(a)の従来の照射例は、ラインの修復パターン44について、左端から右端までドット1,2,3,4,5,6の順番に電子ビームで照射しつつ、ガスを噴射してラインを修復する様子を模式的に示す。
【0101】
以上のように、ラインの修復パターン44を左端から右端に向けて順次電子ビームで照射して修復すると、電子ビーム照射の位置から左側にチャージがたまり、右側にはチャージがなく、結果として、電子ビームの照射の位置が図示のドリフト量の方向、つまり、図示では右側にチャージによる電子ビームのドリフトが発生することとなる(チャージは負にチャージすると仮定する)。
【0102】
図6の(b)の本発明の照射例は、ラインの修復パターン44について、左端と、右端とから交互に中心に向かって順番に電子ビームで照射しつつ、ガスを噴射してラインを修復する様子を模式的に示す。ここでは、
・1点目はラインの左端
・2点目はラインの右端
・3点目はラインの右端から2番目
・4点目はラインの左端から2番目
・5点目はラインの左端から3番目
・6点目はラインの右端から3番目
という順番に電子ビームで照射しつつ、ガスを噴射してラインを修復する。
【0103】
以上のように、ラインの修復パターン44を左端と、右端とから中心に向けて交互に順次電子ビームで照射して修復すると、電子ビーム照射の位置から左側にたまるチャージと、右側にたまるチャージとがほぼ対称となり、結果として、電子ビームの照射の位置のドリフトが発生しない、もしくは低減できることとなる(チャージは負、正のいずれにチャージしても同じである)。
【0104】
次に、
図7のフローチャートを用いて
図6の修復の動作を詳細に説明する。
【0105】
図7は、本発明の動作説明フローチャート(その3)を示す。これは、既述した
図6の(b)の動作説明フローチャートである。
【0106】
図7において、S31は、照射順番を電界の影響を受けにくいように配列する。これは、既述した
図6の(b)のライン(線分)の修復パターン44について、電子ビームの照射順番を電界の影響を受けにくいように配列、例えば
図6の(b)に示すように、ラインの修復パターン44について、両端のドットから交互に、中心に向かって順番に配列する。
【0107】
S32は、修復パターンの両端から内側に向かって交互に修復する。これは、S31で配列した既述した
図6の(b)に示すようにライン(線分)の修復パターン44について、両端から中心に向かった交互に図示のように電子ビームを照射しつつ、ガスを噴射してラインを修復する。
【0108】
以上により、ラインの修復パターン44を両端のドットから中心に向かって交互に電子ビームで照射して修復することにより、電子ビームの照射点の左右に対称にチャージが発生し、中心ではキャンセルされ、チャージによる電子ビームのドリフトを無くし、あるいは低減し、正確なラインを修復することが可能となる。以下に説明する。
【0109】
(1)チャージを原因とする電子ビームの照射点のドリフトはチャージが電子ビームの軸に対して偏ってチャージすることにより生じる。例えば一次元の代表であるライン(線分)に沿って修復を行う場合、例えば従来の
図6の(a)のように連続的に電子ビームを左から右に照射して修復を行う場合、電子ビームの着地点に対して常にフォトマスク表面のチャージは左側に沢山存在する。つまり、左側に沢山の負電荷がチャージするためそのチャージの影響を受けて電子ビームは右側(負にチャージした場合)にドリフトする。 逆に言えば、フォトマスク上にチャージが大量に蓄積したとしても電子ビームの着地点に対して対称性が維持されていれば、電子ビームは何も影響を受けないということになる。
【0110】
図8は、本発明の説明図(その4)を示す。この
図8は、フォトマスク12上の目的とする面(2次元図形)の修復パターン45を電子ビームで照射しつつガスを噴射して修復する際に、チャージによるドリフトを低減するために、面の両端のドットから交互に中点に向かって電子ビームを照射しつつ、ガスを噴射し、面を正確に修復する様子を模式的に示す。
【0111】
図8の(a)は従来の照射例を示し、
図8の(b)は本発明の照射例を示す。
【0112】
図8の(a)の従来の照射例は、面の修復パターン45について、当該面の1段目の左端を始点に、左端から右端まで電子ビームを照射し、次に、面の2段目、3段目と同様に、電子ビームを照射し、面を修復する様子を模式的に示す。
【0113】
以上のように、面の修復パターン45の1段目の左端から右端に向けて電子ビームで照射し、同様に、2段目、3段目と電子ビームで照射して修復すると、電子ビーム照射の位置から左側と上側にチャージがたまり、右側と下側にはチャージがなく、結果として、電子ビームの照射の位置が図示のドリフト方向、つまり、図示では右下の方向にチャージによる電子ビームのドリフトが発生することとなる(チャージは負にチャージすると仮定する)。
【0114】
図8の(b)の本発明の照射例は、面の修復パターン45について、
・面の1段目の左端を1点目
・面の最下段(ここでは3段目)の右端を2点目
・面の最下段(ここでは3段目)の左端を3点目
・面の1段目の右端を4点目
以下同様、
という順番に電子ビームで照射しつつ、ガスを噴射して面を修復する。
【0115】
以上のように、面の修復パターン45の1点目、2点目、3点目、4点目・・・という順番で電子ビームを照射して修復することにより、電子ビーム照射の位置から左側、上側、右側、下側にそれぞれたまるチャージがほぼ全方向(上、右、下、左の方向)に対称となり、結果として、電子ビームの照射の位置のドリフトが発生しない、もしくは低減できることとなる(チャージは負、正のいずれにチャージしても同じである)。
以上を言い換えると電子ビームを照射した際に生じるサンプル上の電荷分布が現在電子ビーム照射を行おうとする点に対して対称になるように電子ビーム照射を行うことに等しいことがわかる。
【0116】
図9は、本発明の動作説明フローチャート(その3)を示す。この
図9は、修復に利用される修復パターン自身を基点に、各種ドリフトを補正する方法を示したものである。
【0117】
図9において、S41は、最初に修復したレイヤーに存在するドットを基点とする。これは、修復パターンを形成するドットパターンを、複数のレイヤーのドットパターンに分割した場合、最初に修復したレイヤーのドットパターンに存在するユニークなドットパターンの部分を基点として選択する。
【0118】
S42は、ドリフト補正する。これは、S41で選択した、基点をもとに、レイヤーのドットパターンを順番に電子ビームで照射して修復する際に、取得した2次電子画像、反射電子画像のドリフト(単位時間当たりのドリフト量)を算出し、当該ドリフトがゼロになるように補正(例えば電子ビームを照射する位置を、
図1の偏向器6に補正信号として供給して補正する。これにより、選択した基点を基準に、各種ドリフト(温度変化によるドリフト、チャージによるドリフトなど)を補正できる。
【0119】
S43は、そのまま構造物として残る。これは、S41で選択した最初のレイヤーのユニークなドットパターンを基点としたものであり、フォトマスクの修復後も構造物として残っても、フォトマスクに悪影響を与えるものではない。
【0120】
以上のように、最初に修復したレイヤー中のユニークなドットパターンを基点として選択し、この基点を基準に電子ビームの照射位置の補正を行うことにより、ドリフト(残余のチャージによるドリフト、更に、温度によるドリフトなど)を補正することが可能となる。以下詳細に説明する。
【0121】
(1)修復中に形成されるレイヤーのユニークなドットパターン(基準パターン)は、温度ドリフトを含めた種々のドリフト補正用の基準として用いることもできる。ドリフト補正用のパターンを新たに作製する必要がなく、フォトマスクの光学特性に悪影響を与えないようなパターンを選択する。また、基準パターンをどこに設置すべきかを予め計算して求める必要がある。また、修復パターンそのものがドリフト補正用の基準パターンとなるため従来のような光学特性や配置場所を考慮する必要が無い。
【0122】
(2) また、ピクセルドットをある間隔で形成していた場合、ドリフトが全くなければ修正途中で得られる2次電子画像や反射電子像はドットが均等に並んだものが得られる。ドリフトが生じると得られたドット画像にはドット間隔が一定ではないなど歪が生じるためドリフトが生じていることが分かる。この歪量を
図1の偏向器6にフィードバックしてドットが一定間隔に成るように制御することでドリフトを補正できる。