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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163640
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】移動距離推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 22/00 20060101AFI20241115BHJP
   G01C 21/28 20060101ALN20241115BHJP
【FI】
G01C22/00 E
G01C21/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079428
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】坂元 優太
【テーマコード(参考)】
2F129
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB02
2F129BB03
2F129BB19
2F129BB34
2F129BB35
2F129BB45
(57)【要約】
【課題】タイヤの外径変化に関わらず、車両の移動距離を高精度に推定することができる移動距離推定装置を提供する。
【解決手段】移動距離推定装置10は、タイヤ7の回転数及び回転速度を検出する回転センサ3と、車両2の位置情報を取得するGPS受信機4と、タイヤ7の回転速度と車両2の位置情報とに基づいて、タイヤ7の回転速度に対応する基準距離を複数点算出する基準距離算出部12と、複数点におけるタイヤ7の回転速度及び基準距離に基づいて、タイヤ7の回転速度と基準距離との関係を表す予測関数を生成する予測関数生成部13と、予測関数を用いて、タイヤ7の回転速度に応じた基準距離を決定する基準距離決定部14と、タイヤ7の回転数と決定された基準距離とに基づいて、車両2の移動距離を算出する移動距離算出部15とを備える。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両がタイヤの1回転当たりに走行する基準距離を用いて、前記車両の移動距離を推定する移動距離推定装置であって、
前記タイヤの回転数及び回転速度を検出する回転検出部と、
前記車両の位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記回転検出部により検出されたタイヤの回転速度と前記位置情報取得部により検出された車両の位置情報とに基づいて、前記タイヤの回転速度に対応する前記基準距離を複数点算出する基準距離算出部と、
前記複数点における前記タイヤの回転速度及び前記基準距離に基づいて、前記タイヤの回転速度と前記基準距離との関係を表す予測関数を生成する予測関数生成部と、
前記予測関数生成部により生成された予測関数を用いて、前記回転検出部により検出されたタイヤの回転速度に応じた基準距離を決定する基準距離決定部と、
前記回転検出部により検出されたタイヤの回転数と前記基準距離決定部により決定された基準距離とに基づいて、前記車両の移動距離を算出する移動距離算出部とを備える移動距離推定装置。
【請求項2】
前記予測関数は、前記基準距離の下限値及び上限値に対して漸近するように変化するロジスティック方程式の解曲線で近似して表される関数である請求項1記載の移動距離推定装置。
【請求項3】
外気温度を検出する温度検出部を更に備え、
前記基準距離算出部及び前記予測関数生成部は、前記温度検出部により検出された外気温度が前回の前記予測関数の生成時よりも予め決められた規定量以上変化したときに実行される請求項1または2記載の移動距離推定装置。
【請求項4】
前記タイヤの空気圧を検出する空気圧検出部を更に備え、
前記基準距離算出部及び前記予測関数生成部は、前記空気圧検出部により検出されたタイヤの空気圧が前回の前記予測関数の生成時よりも予め決められた規定量以上変化したときに実行される請求項1または2記載の移動距離推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動距離推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、車両の向き変位及び回転速度毎の回転速度の補正量が記述された補正テーブルを格納しておき、車輪の回転速度及び車体のヨー軸周りの回転角度を算出し、回転速度及び回転角度の双方により特定される補正量を補正テーブルから取り出し、回転速度に補正量を加算し、補正された回転速度を回転角度と共に送信する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-118994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自律航法において車両の移動距離を推定する際には、例えばタイヤの回転数と車両の基準距離(タイヤ1回転当たりの車両の走行距離)とに基づいて、移動距離が算出される。しかし、外気温度、車速、タイヤの物理的個体差(例えば空気圧)等によって、タイヤの外径変化が生じる。タイヤの外径が変化すると、基準距離も変動する。このため、基準距離について上記実施形態のように単一の補正テーブルを使用した場合には、基準距離の誤差により移動距離の推定精度の低下を招いてしまう。車両の自動運転においては、移動距離の推定精度の低下は、車両の自己位置の推定精度の低下につながる。
【0005】
本発明の目的は、タイヤの外径変化に関わらず、車両の移動距離を高精度に推定することができる移動距離推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、車両がタイヤの1回転当たりに走行する基準距離を用いて、車両の移動距離を推定する移動距離推定装置であって、タイヤの回転数及び回転速度を検出する回転検出部と、車両の位置情報を取得する位置情報取得部と、回転検出部により検出されたタイヤの回転速度と位置情報取得部により検出された車両の位置情報とに基づいて、タイヤの回転速度に対応する基準距離を複数点算出する基準距離算出部と、複数点におけるタイヤの回転速度及び基準距離に基づいて、タイヤの回転速度と基準距離との関係を表す予測関数を生成する予測関数生成部と、予測関数生成部により生成された予測関数を用いて、回転検出部により検出されたタイヤの回転速度に応じた基準距離を決定する基準距離決定部と、回転検出部により検出されたタイヤの回転数と基準距離決定部により決定された基準距離とに基づいて、車両の移動距離を算出する移動距離算出部とを備える。
【0007】
このような移動距離推定装置においては、タイヤの回転速度と車両の位置情報とに基づいて、タイヤの回転速度に対応する基準距離が複数点算出され、複数点におけるタイヤの回転速度及び基準距離に基づいて、タイヤの回転速度と基準距離との関係を表す予測関数が生成される。そして、予測関数を用いて、タイヤの回転速度に応じた基準距離が決定される。そして、タイヤの回転数と当該基準距離とに基づいて、車両の移動距離が算出される。基準距離は、タイヤの外径に応じて変化する。このようなタイヤの外径変化が生じても、タイヤの回転速度とタイヤの外径に対応する基準距離との関係を表す予測関数が再度生成され、その新しい予測関数を用いて、タイヤの回転速度に応じた基準距離が決定されることになる。これにより、タイヤの外径変化に関わらず、車両の移動距離が高精度に推定される。また、予測関数を用いて、タイヤの回転速度に応じた基準距離を決定することにより、タイヤの回転速度と基準距離との関係を表す補正テーブルが不要となるため、補正テーブルの作成にかかる負担が軽減される。
【0008】
予測関数は、基準距離の下限値及び上限値に対して漸近するように変化するロジスティック方程式の解曲線で近似して表される関数であってもよい。このような構成では、ロジスティック方程式の解曲線で近似して表される予測関数を生成することにより、タイヤの回転速度に応じた適切な基準距離が得られる。
【0009】
移動距離推定装置は、外気温度を検出する温度検出部を更に備え、基準距離算出部及び予測関数生成部は、温度検出部により検出された外気温度が前回の予測関数の生成時よりも予め決められた規定量以上変化したときに実行されてもよい。このような構成では、外気温度が前回の予測関数の生成時よりも規定量以上変化したときは、タイヤの回転速度に対応する基準距離の算出処理と予測関数の生成処理とが自動的に実行される。
【0010】
移動距離推定装置は、タイヤの空気圧を検出する空気圧検出部を更に備え、基準距離算出部及び予測関数生成部は、空気圧検出部により検出されたタイヤの空気圧が前回の予測関数の生成時よりも予め決められた規定量以上変化したときに実行されてもよい。このような構成では、タイヤの空気圧が前回の予測関数の生成時よりも規定量以上変化したときは、タイヤの回転速度に対応する基準距離の算出処理と予測関数の生成処理とが自動的に実行される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タイヤの外径変化に関わらず、車両の移動距離を高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る移動距離推定装置を備えた自己位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図2】タイヤが高速回転になるほどタイヤの外径が大きくなる様子を示す概念図である。
図3】タイヤの回転速度とタイヤの外径との関係の一例を示すグラフである。
図4図1に示された演算処理ユニットにより実行される関数生成処理の手順を示すフローチャートである。
図5】タイヤの回転速度と基準距離との関係を表すフィッティング関数を用いて、タイヤの回転速度から基準距離を予測する様子を示すグラフである。
図6図1に示された演算処理ユニットにより実行される距離算出処理の手順を示すフローチャートである。
図7】車両の走行速度と基準距離との関係を表した補正テーブルの一例を示す表である。
図8】基準距離から車両の移動距離が算出される様子を示す概念図である。
図9】外気温度の条件によりフィッティング関数のロジスティック曲線が変化する様子を示すグラフである。
図10】本発明の他の実施形態に係る移動距離推定装置を備えた自己位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図11図10に示された演算処理ユニットにより実行される関数生成処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、図面において、同一または同等の要素には同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る移動距離推定装置を備えた自己位置推定装置の構成を示すブロック図である。図1において、自己位置推定装置1は、車両2に搭載されている。車両2は、自動車や、フォークリフト等の産業車両である。自己位置推定装置1は、車両2の自動運転時に、車両2の自己位置の推定を行う装置である。
【0015】
自己位置推定装置1は、回転センサ3と、GPS受信機4と、入力器5と、演算処理ユニット6とを備えている。
【0016】
回転センサ3は、車両2のタイヤ7(図2参照)の回転数及び回転速度を検出する回転検出部である。回転センサ3としては、例えばロータリーエンコーダ等が使用される。回転センサ3は、検出値を電流値等の電気信号値で出力する。
【0017】
GPS受信機4は、複数のGPS衛星からの電波信号を受信し、車両2の現在位置を位置情報として測定する。GPS受信機4は、車両2の位置情報を取得する位置情報取得部である。
【0018】
入力器5は、車両2の自己位置推定に関するデータを入力する機器である。入力器5としては、カーナビゲーションまたは専用のタッチパネル等が使用される。
【0019】
演算処理ユニット6は、CPU、RAM、ROM及び入出力インターフェース等により構成されている。演算処理ユニット6は、回転センサ3により検出されたタイヤ7の回転数及び回転速度とGPS受信機4により測定された車両2の位置情報とに基づいて、所定の処理を実行し、オドメトリによる車両2の自己位置の推定を行う。
【0020】
ここで、タイヤ7が1回転するときに車両2が走行する距離は、基準距離と定義される。基準距離は、タイヤ7の外径に依存する。タイヤ7の空気圧が変わると、タイヤ7の外径が物理的に変化する。また、車両2の走行速度及びタイヤ7の温度が変わっても、タイヤ7の外径が物理的に変化する。
【0021】
例えば図2に示されるように、車両2の走行速度が高い場合(図2(b)参照)には、車両2の走行速度が低い場合(図2(a)参照)に比べて、タイヤ7が高速で回転するため、遠心力によりタイヤ7が膨張しやすくなり、タイヤ7の外径rが大きくなる。
【0022】
図3に示されるように、タイヤ7の外径rには、物理的な上限値Lu及び下限値Llが存在する。タイヤ7の外径rの上限値Luは、タイヤ7がこれ以上膨張変化できない限界値である。車両2の走行速度が高くなるほど、タイヤ7の外径rが上限値Luに近づく。タイヤ7の外径rの下限値Llは、タイヤ7がこれ以上収縮変化できない限界値である。車両2の走行停止時には、タイヤ7の外径rが下限値Llとなる。
【0023】
タイヤ7の外径変化は、図3に示されるように、タイヤ7の回転速度に対して、シグモイド曲線等のロジスティック方程式の解曲線Pで近似予測することが可能である。つまり、タイヤ7の回転速度に対するタイヤ7の外径変化は、タイヤ7の外径の上限値Lu及び下限値Llに対して漸近するように変化することになる。なお、タイヤ7の回転速度は、単位時間当たりのタイヤ7の回転数であり、車両2の走行速度に比例する。
【0024】
そこで、演算処理ユニット6は、車両2の走行速度、外気温度及びタイヤ7の空気圧等によるタイヤ7の変化特性を考慮して、車両2の走行中におけるタイヤ7の外径rをロジスティック方程式の解曲線に基づき予測することにより、車両2の基準距離を決定する。そして、演算処理ユニット6は、その基準距離を用いて、車両2の移動距離を算出し、車両2の自己位置推定を行う。
【0025】
演算処理ユニット6は、走行情報取得部11と、基準距離算出部12と、予測関数生成部13と、基準距離決定部14と、移動距離算出部15と、自己位置推定部16とを有している。
【0026】
走行情報取得部11は、入力器5による指示入力に応じて、回転センサ3により検出されたタイヤ7の回転速度とGPS受信機4により測定された車両2の位置情報とを取得する。タイヤ7の回転速度及び車両2の位置情報は、車両2の走行情報である。
【0027】
基準距離算出部12は、走行情報取得部11により取得されたタイヤ7の回転速度と車両2の位置情報とに基づいて、タイヤ7の回転速度に対応する基準距離を複数点算出する。
【0028】
予測関数生成部13は、複数点におけるタイヤ7の回転速度及び基準距離に基づいて、タイヤ7の回転数と基準距離との関係を表す予測関数を算出する。基準距離は、タイヤ7の外径に対応する。
【0029】
基準距離決定部14は、予測関数生成部13により生成された予測関数を用いて、タイヤ7の回転速度に応じた基準距離を決定する。
【0030】
移動距離算出部15は、回転センサ3により検出されたタイヤ7の回転数と基準距離決定部14により決定された基準距離とに基づいて、車両2の移動距離を算出する。
【0031】
自己位置推定部16は、移動距離算出部15により算出された車両2の移動距離に基づいて、車両2の自己位置を推定する。
【0032】
回転センサ3、GPS受信機4、入力器5、演算処理ユニット6の走行情報取得部11、基準距離算出部12、予測関数生成部13、基準距離決定部14及び移動距離算出部15は、本実施形態の移動距離推定装置10を構成している。移動距離推定装置10は、車両2がタイヤ7の1回転当たりに走行する基準距離を用いて、車両2の移動距離を推定する。
【0033】
図4は、演算処理ユニット6により実行される関数生成処理の手順を示すフローチャートである。関数生成処理は、走行情報取得部11、基準距離算出部12及び予測関数生成部13により実行される。
【0034】
図4において、演算処理ユニット6は、まず入力器5により関数生成の指示入力が行われたかどうかを判断する(手順S101)。演算処理ユニット6は、関数生成の指示入力が行われたと判断したときは、回転センサ3により検出されたタイヤ7の回転速度とGPS受信機4により測定された車両2の位置情報とを取得する(手順S102)。
【0035】
そして、演算処理ユニット6は、図5に示されるように、タイヤ7の回転速度及び車両2の位置情報に基づいて、タイヤ7の回転速度に応じた基準距離を算出する(手順S103)。基準距離は、車両2の位置情報の履歴から算出される。
【0036】
続いて、演算処理ユニット6は、タイヤ7の回転速度に応じた基準距離が規定点数分だけ算出されたかどうかを判断する(手順S104)。規定点数は、例えば3点である(図5参照)。演算処理ユニット6は、タイヤ7の回転速度に応じた基準距離が規定点数分だけ算出されていないと判断したときは、上記の手順S102,S103を再度実行する。
【0037】
演算処理ユニット6は、タイヤ7の回転速度に応じた基準距離が規定点数分だけ算出されたと判断したときは、図5に示されるように、最小二乗法を用いて、規定点数におけるタイヤ7の回転速度及び基準距離をシグモイド曲線等のロジスティック曲線Q(解曲線)にフィッティングし、フィッティング関数(予測関数)を生成する(手順S105)。ロジスティック曲線Qは、規定点を全て通るように設定される。
【0038】
フィッティング関数は、下記式で表される。
【数1】

r:ロジスティック曲線QのS字の傾き
x:タイヤの回転速度
【0039】
図5に示される例では、タイヤ7が単位時間当たり10回転した時の基準距離は1.30mであり、タイヤ7が単位時間当たり60回転した時の基準距離は1.35mであり、タイヤ7が単位時間当たり80回転した時の基準距離は1.36mである。
【0040】
ここで、走行情報取得部11は、手順S101,S102を実行する。基準距離算出部12は、手順S103を実行する。予測関数生成部13は、手順S104,S105を実行する。
【0041】
図6は、演算処理ユニット6により実行される距離算出処理の手順を示すフローチャートである。距離算出処理は、基準距離決定部14及び移動距離算出部15により実行される。
【0042】
図6において、演算処理ユニット6は、まず回転センサ3により検出されたタイヤ7の回転数及び回転速度を取得する(手順S111)。続いて、演算処理ユニット6は、図5に示されるフィッティング関数を用いて、タイヤ7の回転速度Vに応じた基準距離の予測値を求める(手順S112)。
【0043】
続いて、演算処理ユニット6は、タイヤ7の回転数と基準距離の予測値とに基づいて、車両2の移動距離を算出する(手順S113)。車両2の移動距離は、基準距離の予測値とタイヤ7の回転数との乗算により算出される。
【0044】
ここで、基準距離決定部14は、手順S111,S112を実行する。移動距離算出部15は、手順S111,S113を実行する。
【0045】
ところで、従来では、図7に示されるような補正テーブルを用いて、車両2の走行速度に応じた基準距離を決定していた。補正テーブルは、車両2の走行速度と基準距離との関係を表しており、予め用意されている。車両2の走行速度は、タイヤ7の回転速度に対応している。
【0046】
しかし、タイヤ7の温度等の条件によってタイヤ7の外径が変化すると、基準距離が変化してしまう。例えば図8に示されるように、基準距離が100cmである場合、タイヤ7が5回転すると、走行距離は500cmである。タイヤ7の温度上昇によりタイヤ7の外径が大きくなることで、基準距離が103cmになった場合には、タイヤ7が5回転すると、走行距離は515cmとなる。つまり、タイヤ7が5回転するだけでも、車両2の走行距離が15cmずれるため、車両2の自己位置推定値として15cmの誤差が発生する。そのような自己位置推定誤差は、自動運転にとっては致命的である。
【0047】
自己位置推定誤差を抑制するためには、タイヤ7の温度毎に車両2の走行速度と基準距離との関係を表した補正テーブルを使用することが考えられる。しかし、その場合には、タイヤ7の温度毎の補正テーブルが必要となるため、補正テーブルの作成にかかる負担が増大してしまう。
【0048】
そのような課題に対し、本実施形態では、タイヤ7の回転速度に応じた基準距離が複数点算出されると、複数点におけるタイヤ7の回転速度及び基準距離に基づいて、フィッティング関数(予測関数)が生成される。このとき、タイヤ7の温度が変化することでタイヤ7の外径が変化しても、タイヤ7の温度に適したフィッティング関数が生成される。例えば図9に示されるように、タイヤ7の温度が高い状態(図9(b)参照)では、タイヤ7の温度が低い状態(図9(a)参照)に比べて、ロジスティック曲線Qの上限値Lu及び下限値Llが高くなるようなフィッティング関数が生成される。従って、タイヤ7の温度変化に関わらず、最適な基準距離が得られることとなる。
【0049】
以上のように本実施形態によれば、タイヤ7の回転速度と車両2の位置情報とに基づいて、タイヤ7の回転速度に対応する基準距離が複数点算出され、複数点におけるタイヤ7の回転速度及び基準距離に基づいて、タイヤ7の回転速度と基準距離との関係を表す予測関数が生成される。そして、予測関数を用いて、タイヤ7の回転速度に応じた基準距離が決定される。そして、タイヤ7の回転数と当該基準距離とに基づいて、車両2の移動距離が算出される。基準距離は、タイヤ7の外径に応じて変化する。このようなタイヤ7の外径変化が生じても、タイヤ7の回転速度とタイヤ7の外径に対応する基準距離との関係を表す予測関数が再度生成され、その新しい予測関数を用いて、タイヤ7の回転速度に応じた基準距離が決定されることになる。これにより、タイヤ7の外径変化に関わらず、車両2の移動距離が高精度に推定される。その結果、車両2の自己位置の推定精度を向上させることができる。また、予測関数を用いて、タイヤ7の回転速度に応じた基準距離を決定することにより、タイヤ7の回転速度と基準距離との関係を表す補正テーブルが不要となるため、補正テーブルの作成にかかる負担が軽減される。
【0050】
また、本実施形態では、基準距離の下限値及び上限値に対して漸近するように変化するロジスティック方程式の解曲線で近似して表される予測関数を生成することにより、タイヤ7の回転速度に応じた適切な基準距離が得られる。
【0051】
図10は、本発明の他の実施形態に係る移動距離推定装置を備えた自己位置推定装置の構成を示すブロック図である。図10において、自己位置推定装置1Aは、上記の回転センサ3と、上記のGPS受信機4と、温度センサ21と、空気圧センサ22と、演算処理ユニット6Aとを備えている。
【0052】
温度センサ21は、外気温度を検出する温度検出部である。外気温度が高くなると、タイヤ7の温度が高くなる。空気圧センサ22は、タイヤ7の空気圧を検出する空気圧検出部である。
【0053】
演算処理ユニット6Aは、上述した実施形態における走行情報取得部11に代えて、走行情報取得部11Aを有している。
【0054】
走行情報取得部11Aは、温度センサ21により検出された外気温度と空気圧センサ22により検出されたタイヤ7の空気圧とに応じて、回転センサ3により検出されたタイヤ7の回転速度とGPS受信機4により測定された車両2の位置情報とを取得する。
【0055】
回転センサ3、GPS受信機4、温度センサ21、空気圧センサ22、演算処理ユニット6Aの走行情報取得部11A、基準距離算出部12、予測関数生成部13、基準距離決定部14及び移動距離算出部15は、本実施形態の移動距離推定装置10Aを構成している。
【0056】
図11は、演算処理ユニット6Aにより実行される関数生成処理の手順を示すフローチャートであり、図4に対応している。なお、初回のフィッティング関数の生成は、例えば上記の入力器5により関数生成指示が入力されると行われる。
【0057】
図11において、演算処理ユニット6Aは、まず温度センサ21の検出値に基づいて、前回のフィッティング関数の生成時からの外気温度の変化量が温度規定量よりも小さいかどうかを判断する(手順S107)。温度規定量は、予め決められている。
【0058】
演算処理ユニット6Aは、前回のフィッティング関数の生成時からの外気温度の変化量が温度規定量よりも小さいと判断したときは、空気圧センサ22の検出値に基づいて、前回のフィッティング関数の生成時からのタイヤ7の空気圧の変化量が圧力規定量よりも小さいかどうかを判断する(手順S108)。圧力規定量は、予め決められている。
【0059】
演算処理ユニット6Aは、前回のフィッティング関数の生成時からのタイヤ7の空気圧の変化量が圧力規定量よりも小さいと判断したときは、上記の手順S107を再度実行する。
【0060】
演算処理ユニット6Aは、手順S107で前回のフィッティング関数の生成時からの外気温度の変化量が温度規定量以上であると判断したとき、または手順S108で前回のフィッティング関数の生成時からのタイヤ7の空気圧の変化量が圧力規定量以上であると判断したときは、上述した実施形態と同様に、手順S102~手順S105を実行する。
【0061】
ここで、走行情報取得部11Aは、手順S107,S108,S102を実行する。このため、基準距離算出部12及び予測関数生成部13は、温度センサ21により検出された外気温度が前回のフィッティング関数の生成時よりも予め決められた温度規定量以上変化したとき、及び空気圧センサ22により検出されたタイヤ7の空気圧が前回のフィッティング関数の生成時よりも予め決められた圧力規定量以上変化したときに実行される。
【0062】
以上のような本実施形態においては、外気温度が前回の予測関数の生成時よりも温度規定量以上変化したときは、タイヤ7の回転速度に対応する基準距離の算出処理と予測関数の生成処理とが自動的に実行される。
【0063】
また、本実施形態では、タイヤ7の空気圧が前回の予測関数の生成時よりも圧力規定量以上変化したときも、タイヤ7の回転速度に対応する基準距離の算出処理と予測関数の生成処理とが自動的に実行される。
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態には限定されない。例えば上記実施形態では、タイヤ7の回転数及び回転速度を検出する回転センサ3は、検出値を電気信号値で出力しているが、回転センサ3としては、特にその形態には限られず、検出値をパルス信号で出力するロータリーエンコーダ等を使用してもよい。この場合、基準距離は、回転センサ3の1パルス当たりの走行距離である。
【0065】
また、上記実施形態では、回転センサ3によりタイヤ7の回転数及び回転速度が検出されているが、特にその形態には限られず、回転センサ3はタイヤ7の回転数のみを検出し、タイヤ7の回転速度については、演算処理ユニット6,6Aにより算出してもよい。この場合、回転センサ3と演算処理ユニット6,6Aの一部の機能とが回転検出部を構成する。
【0066】
また、上記実施形態では、GPS受信機4を用いた衛星測位システム(GNSS)によって車両2の位置情報が取得されているが、車両2の位置情報を取得する手法としては、特にその形態には限られず、例えばLIDAR(light detection and ranging)を用いたSLAM(simultaneous localization andmapping)手法等を採用してもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、オドメトリによる車両2の自己位置の推定が行われているが、本発明は、例えばGNSSまたはSLAMによる車両2の自己位置の推定を主として行う際に、オドメトリによる車両2の自己位置の推定を補完的に実施する場合にも適用可能である。
【0068】
また、上記実施形態では、車両2の自動運転時に、車両2の移動距離が算出されて、車両2の自己位置の推定が行われているが、本発明は、例えば車両2の手動運転時に、車両2の移動距離を算出する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0069】
2…車両、3…回転センサ(回転検出部)、4…GPS受信機(位置情報取得部)、7…タイヤ、10,10A…移動距離推定装置、11,11A…走行情報取得部、12…基準距離算出部、13…予測関数生成部、14…基準距離決定部、15…移動距離算出部、21…温度センサ(温度検出部)、22…空気圧センサ(空気圧検出部)、Q…ロジスティック曲線(解曲線)。
図1
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図11