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特開2024-16365水素貯蔵材料の使用方法及び装置並びに燃料電池システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016365
(43)【公開日】2024-02-07
(54)【発明の名称】水素貯蔵材料の使用方法及び装置並びに燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/00 20060101AFI20240131BHJP
   C01B 6/00 20060101ALI20240131BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALI20240131BHJP
【FI】
C01B3/00 A
C01B6/00 A
H01M8/0606
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022118424
(22)【出願日】2022-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】吉村 篤軌
(72)【発明者】
【氏名】栗林 高樹
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宏充
(72)【発明者】
【氏名】平田 宏治
(72)【発明者】
【氏名】宮内 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛弘
【テーマコード(参考)】
4G140
5H127
【Fターム(参考)】
4G140AA11
4G140AA22
4G140AA42
5H127AB04
5H127BA01
5H127BA02
5H127BA16
5H127BA23
(57)【要約】
【課題】水素貯蔵材料としての(HB)(n≧4)からなるホウ化水素の水素放出後の再水素化を可能にし、もって該ホウ化水素を繰り返し使えるようにし、また、その再水素化を加熱プロセスを用いずに行えるようにする。
【解決手段】水素貯蔵材料の使用方法は、(HB)(n≧4)からなるホウ化水素から水素が脱離してなる水素脱離ホウ素を4MPa以上の加圧水素下におくことにより、該水素脱離ホウ素に水素を再結合させて前記ホウ化水素にする再水素化ステップを含む。再水素化は、加熱プロセスを用いずに行うことができる。水素貯蔵材料が、曲げられる樹脂製担持体に担持されている態様を例示できる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素貯蔵材料としての(HB)(n≧4)からなるホウ化水素から水素が脱離してなる水素脱離ホウ素を4MPa以上の加圧水素下におくことにより、該水素脱離ホウ素に水素を再結合させて該水素脱離ホウ素の一部又は全部を前記ホウ化水素にする再水素化ステップを含む水素貯蔵材料の使用方法。
【請求項2】
水素貯蔵材料としての(HB)(n≧4)からなるホウ化水素に光を照射することにより、該ホウ化水素から水素を脱離させて水素脱離ホウ素とする水素放出ステップと、
該水素脱離ホウ素を4MPa以上の加圧水素下におくことにより、該水素脱離ホウ素に水素を再結合させて該水素脱離ホウ素の一部又は全部を前記ホウ化水素にする再水素化ステップとを含む水素貯蔵材料の使用方法。
【請求項3】
ホウ化水素が、曲げられる樹脂製担持体に担持されている請求項1又は2記載の水素貯蔵材料の使用方法。
【請求項4】
水素貯蔵材料としての(HB)(n≧4)からなるホウ化水素から水素が脱離してなる水素脱離ホウ素を4MPa以上の加圧水素下におくことにより、該水素脱離ホウ素に水素を再結合させて該水素脱離ホウ素の一部又は全部を前記ホウ化水素にする再水素化装置を備える水素貯蔵材料の使用装置。
【請求項5】
水素貯蔵材料としての(HB)(n≧4)からなるホウ化水素に光を照射することにより、該ホウ化水素から水素を脱離させて水素脱離ホウ素とする水素放出装置と、
該水素脱離ホウ素を4MPa以上の加圧水素下におくことにより、該水素脱離ホウ素に水素を再結合させて該水素脱離ホウ素の一部又は全部を前記ホウ化水素にする再水素化装置とを含む水素貯蔵材料の使用装置。
【請求項6】
ホウ化水素が、曲げられる樹脂製担持体に担持されている請求項4又は5記載の水素貯蔵材料の使用装置。
【請求項7】
請求項4又は5記載の水素貯蔵材料の使用装置を燃料電池と組み合わせた燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素貯蔵材料としてのホウ化水素の使用方法及び装置、並びに該装置を用いた燃料電池システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素は、燃焼又は反応により排出される物質が水であるため、クリーンエネルギーとして注目されている。例えば、水素を燃料電池の負極活物質として用い、自動車や電源設備の燃料とする技術開発が精力的にすすめられている。
【0003】
水素を蓄えておき使用時に供給する方法の一つとして、水素貯蔵材料に水素を化合(水素化)させておき使用時に脱離させて取り出す(水素放出)させる方法がある。水素貯蔵材料としては、水素吸蔵合金がよく知られているが、近年では錯体水素化物が高い貯蔵密度を有する材料として注目されている。しかし、錯体水素化物は、水素放出時及び再水素化時に加熱等多くのエネルギーを必要とし、実際に水素貯蔵システムとして用いることを想定すると、熱交換器が必要となり、システム全体としての貯蔵効率は落ちてしまう。
【0004】
特許文献1では、水素貯蔵材料としてLiHとMgBとを含む混合材料が検討され、MgB2に対して外部から加熱することなく所定のボールミルによる前処理を施しておくと、その後に、LiHとMgBとを含む混合材料を水素化する際に、従来技術の温度(400℃以上)よりも低い300~375℃の温度で水素化できることが記載されている。
しかし、水素化に外部からの加熱が必要であることに変わりはない。また、水素化したLiHとMgBとを含む混合材料から水素を脱離・放出させるときには、450℃までの加熱が必要である。
【0005】
特許文献2では、貯蔵密度の高い水素貯蔵材料として(HB)(n≧4)からなる二次元ネットワーク構造のホウ化水素が検討され、ホウ化水素に光を照射することにより、加熱プロセスを用いずに、常温・常圧で水素放出させることが記載されている。
しかし、水素貯蔵材料としてホウ化水素を繰り返し使用するためには、ホウ化水素の水素放出後の再水素化が必要となるところ、その方法が確立されていないため、現状では繰り返し使用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-148644号公報
【特許文献2】特開2019-218251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、水素貯蔵材料としての(HB)(n≧4)からなるホウ化水素の水素放出後の再水素化を可能にし、もってホウ化水素を繰り返し使えるようにし、また、再水素化を加熱プロセスを用いずに行えるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]水素貯蔵材料としての(HB)(n≧4)からなるホウ化水素から水素が脱離してなる水素脱離ホウ素を4MPa以上の加圧水素下におくことにより、該水素脱離ホウ素に水素を再結合させて該水素脱離ホウ素の一部又は全部を前記ホウ化水素にする再水素化ステップを含む水素貯蔵材料の使用方法。
【0009】
[2]水素貯蔵材料としての(HB)(n≧4)からなるホウ化水素に光を照射することにより、該ホウ化水素から水素を脱離させて水素脱離ホウ素とする水素放出ステップと、
該水素脱離ホウ素を4MPa以上の加圧水素下におくことにより、該水素脱離ホウ素に水素を再結合させて該水素脱離ホウ素の一部又は全部を前記ホウ化水素にする再水素化ステップとを含む水素貯蔵材料の使用方法。
【0010】
[3]ホウ化水素が、曲げられる樹脂製担持体に担持されている上記[1]又は[2]記載の水素貯蔵材料の使用方法。
【0011】
[4]水素貯蔵材料としての(HB)(n≧4)からなるホウ化水素から水素が脱離してなる水素脱離ホウ素を4MPa以上の加圧水素下におくことにより、該水素脱離ホウ素に水素を再結合させて該水素脱離ホウ素の一部又は全部を前記ホウ化水素にする再水素化装置を備える水素貯蔵材料の使用装置。
【0012】
[5]水素貯蔵材料としての(HB)(n≧4)からなるホウ化水素に光を照射することにより、該ホウ化水素から水素を脱離させて水素脱離ホウ素とする水素放出装置と、
該水素脱離ホウ素を4MPa以上の加圧水素下におくことにより、該水素脱離ホウ素に水素を再結合させて該水素脱離ホウ素の一部又は全部を前記ホウ化水素にする再水素化装置とを含む水素貯蔵材料の使用装置。
【0013】
[6]ホウ化水素が、曲げられる樹脂製担持体に担持されている上記[4]又は[5]記載の水素貯蔵材料の使用装置。
【0014】
[7]上記[4]又は[5]記載の水素貯蔵材料の使用装置を燃料電池に組み合わせた燃料電池システム。
【0015】
[作用]
上記[1]又は[4]において、(HB)(n≧4)からなるホウ化水素から水素が脱離してなる水素脱離ホウ素を4MPa以上の加圧水素下におくことにより、該水素脱離ホウ素に水素が再結合する。これは、ホウ化水素から水素が脱離した部位が、活性を保ったまま加圧水素と反応するためであると考えられる。もって、前述のとおりこれまで確立されていなかったホウ化水素の水素放出後の再水素化が、初めて可能となった。しかも、その再水素化は加熱プロセスを用いずに行うことができるため、簡便であり、またホウ化水素類の樹脂製担体への塗布や樹脂製容器への充填等も可能となる。
【0016】
さらに、上記[2]又は[5]によれば、水素放出も加熱プロセスを用いずに行うことができる。すなわち、水素放出と再水素化の両方を加熱プロセスを用いずに行うことができるため、非常に簡便である。
【0017】
また、上記[3]又は[6]によれば、水素貯蔵材料が担持された樹脂製担持体を曲げられるため、容器などへの取り付けの自由度が高くなり、また、光照射面の制御等も容易になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水素貯蔵材料としての(HB)(n≧4)からなるホウ化水素の水素放出後の再水素化、ひいてはホウ化水素の繰り返し使用を初めて可能とし、しかもその再水素化を加熱プロセスを用いずに行うことができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1はホウ化水素の局所構造を示す模式図である。
図2図2は本発明の概要を示す概略図である。
図3図3(a)は実施例1における水素放出装置の斜視図、(b)は水銀キセノンランプの波長スペクトル図である。
図4図4は同水素放出における水素発生量と光照射時間との関係を示すグラフ図である。
図5図5は実施例1における再水素化装置の概略図である。
図6図6は同再水素化における温度変化と圧力変化を示すグラフ図である。
図7図7は同再水素化装置によるブランク測定その1を示す概略図である。
図8図8は同再水素化装置によるブランク測定その2を示す概略図である。
図9図9は同再水素化における各圧力での水素貯蔵量を示すグラフ図である。
図10図10は実施例2の水素放出ステップと再水素化ステップを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[1](HB)(n≧4)からなるホウ化水素
(HB)(n≧4)からなるホウ化水素は、ホウ素原子(B)と水素原子(H)がモル比で1:1の割合で形成される二次元ネットワークを有するシート状物質である(特許文献2参照)。図1(a)に、ホウ化水素の局所構造の模式図を示す。
【0021】
(HB)(n≧4)からなるホウ化水素は、その誘導体であってもよく、また当該ホウ化水素とその誘導体の両方を含むものであってもよく、またこれらにドーパント等の添加剤を加えた組成物であってもよい。ここで、「その誘導体」とは、当該ホウ化水素を出発物質として他の元素を導入した化合物の他、当該ホウ化水素を出発物質とするか否かに関わらず、当該ホウ化水素を主骨格とする化合物(例えば、末端が酸化物により封止されている化合物)を含む。ここで主骨格とは、当該化合物中の当該ホウ化水素が含有される割合が80%以上である物質をいう。該ホウ化水素含有物として、当該ホウ化水素(シート状)が複数枚重なった構造でも構わない。
【0022】
[2]水素放出ステップ及び水素放出装置
ホウ化水素への光の照射条件(波長、強度、時間、照射領域等)は、下記化学式1の反応を誘起して水素を発生できる条件であればよく、限定されない。
[化1]
2HB→H2↑+2B
照射条件により所望の水素発生量に設計することが可能である。取り扱い性の観点から、照射帯域は、紫外光(240~400nm)または/および可視光(400nm越え、750nm以下)であることが好ましい。本実施形態は、常温・常圧で光照射により水素を発生できるものであるが、加熱プロセスを併用することを排除するものではない。
【0023】
上記化学式1を誘起する光の帯域は、ホウ化水素含有物により異なる。ホウ化水素含有物として二次元ホウ化水素シートのみを用いる場合は紫外光が好ましい。二次元ホウ化水素シートの誘導体を用いたり、二次元ホウ化水素シートおよびその誘導体の少なくとも一方にドーパントをドープすることにより、水素が発生する帯域を長波長側または短波長側にシフトさせることができる。太陽光や室内光を効率的に利用する観点からは可視光により分解するホウ化水素含有物が好ましい。また、可視光によって水素を生成させるため、前記ドープに加え、ホウ化水素含有物の表面に可視光を吸収する別の物質を担持させても構わない。
【0024】
[3]水素脱離ホウ素
水素脱離ホウ素は、(HB)(n≧4)からなるホウ化水素から少なくとも一部の水素が脱離してなるものであればよく、その脱離量は特に限定されない。
【0025】
[4]再水素化ステップ及び再水素化装置
水素脱離ホウ素の加圧水素による水素化は、上記のとおり加熱プロセスを用いずに行うことができるため、常温ないし常温から加圧昇温した程度の温度で行うことが好ましいが、加熱プロセスを併用することを排除するものではない。
【0026】
[5]用途
本発明の水素貯蔵材料の使用装置は、水素を利用したい用途全般に適用でき、特に燃料電池に組み合わせて好適に適用できる。
【実施例0027】
図2に概要を示すように、合成したホウ化水素について水素放出ステップと再水素化ステップを実施した。具体的には、測定を伴う実施例1と、応用である実施例2を行った。
【0028】
[実施例1]
まず、図3図9に示す実施例1について説明する。
<1>ホウ化水素の合成
特許文献2の「実施例1:合成」の項に記載された方法により、(HB)(n≧4)からなるホウ化水素を合成した。
【0029】
<2>水素放出ステップ
図3に示す水素放出装置を用い、上記<1>で合成したホウ化水素に光を照射することにより、該ホウ化水素から水素を脱離させて水素脱離ホウ素とする水素放出ステップを実施した。具体的には、水素放出ステップは次の(ア)~(ウ)のとおりであり、水素発生量の測定は次の(エ)のとおりである。
【0030】
(ア)シャーレ内(φ32mm)に粉体状のホウ化水素100mgを入れ、アセトニトリルを5滴滴下後に真空乾燥した。
(イ)アルゴン雰囲気のグローブボックス(図示略)内で、上記ホウ化水素入りのシャーレを、透明な石英ガラス製の収集容器(内容積500ml)内に入れて同内の台に載せ、該収集容器を密閉した。
(ウ)水銀キセノンランプ(ハヤシレピック製「LA-410UV 200W」、図3(b)に波長スペクトルを示す。)により、収集容器のすぐ上方から収集容器の透明な蓋を経て、シャーレ内のホウ化水素の上面に光照射した。
【0031】
(エ)光照射開始から60分及び120分経過したときの収集容器内のガスをガス採取口から採取し、バリア放電イオン化検出器(BID)付ガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所製「Tracera, BID-2010Plus」)により水素濃度を測定した。結果は、図4に示すとおり、60分のときに水素濃度7229ppm、120分のときに水素濃度7781ppmであり、光照射による水素発生と、該水素発生量の光照射時間依存性を確認した。
【0032】
ここで、収集容器(内容積500ml)内の水素濃度7781ppmを、水素発生量に換算すると0.35mgである。この水素発生量0.35mgは、ホウ化水素100mgに対する割合では0.35wt%であり、上記ホウ化水素量からの最大発生水素量(ホウ化水素に含有の水素量)8.5mgに対する割合では4.1wt%である。このように、最大発生水素量に対し水素発生量が少なかったが、これは、本実施例のホウ化水素への照射方法では、ホウ化水素の表面部でのみ水素の脱離反応が進行したためと考えられる。前述のとおり脱離量は限定されないため、本実施例でホウ化水素から一部の水素が脱離したものも水素脱離ホウ素ということとする。
【0033】
<3>再水素化ステップ
図5に示す再水素化装置としてのPCT特性測定装置((鈴木商館製「PCT-2SDWIN」、P:圧力、C:吸蔵量、T:温度))を用いた。同装置は、リザーバーに、電磁バルブV3を介してガス源(図示略)が接続され、電磁バルブV2と流路を介してサンプル管が接続され、電磁バルブV1を介して真空ポンプが接続されている。サンプル管の主要下部は電気炉で加熱可能となっているが、本実施例では加熱しない。電磁バルブV2下の流路とサンプル管のうち電気炉が出ている部分とを併せて「ライン(常時室温部分)」といい、サンプル管のうち電気炉に入っている部分を「リアクター(加熱可能部分)」という。リザーバーの温度T1と、ラインの温度T2と、リアクターの温度T3とをそれぞれ測定する熱電対が設けられている。
【0034】
同装置を用い、上記<2>で光照射(120分)後の水素脱離ホウ素を4MPa以上の加圧水素下におくことにより、該水素脱離ホウ素に水素を再結合させて前記ホウ化水素にする(戻す)再水素化ステップを実施した。具体的には、再水素化ステップは次の(ア)のとおりであり、水素再貯蔵量の測定は次の(ア)~(エ)のとおりである。なお、測定は(イ)(ウ)(ア)の順に行ったが、便宜上(ア)(イ)(ウ)の順に説明する。
【0035】
(ア)図5(a)に示すように、サンプル管にサンプルとして上記水素脱離ホウ素20mgを入れ、バルブV1,V2を閉じた状態でバルブV3を開き、リザーバーに水素ガスヘリウムガスを加圧して導入した後、バルブV3を閉じ、リザーバーの温度・圧力が平衡に達したあとの温度・圧力(T1,P)を記録した。次に、図5(b)に示すように、バルブV2を開いて、リザーバー内の水素をライン及びリアクターに導入し(室温、~8MPa程度)、各圧力において平衡状態まで十分に待ち(それぞれ30分以上)、温度変化、圧力変化を記録した(T1’,T2’,T3’,P’)。その結果を図6に示す。
【0036】
(イ)ブランク測定その1
図7に示すように、サンプル管にサンプルとして水素脱離ホウ素を入れていない状態で、導入ガスとして水素ガスに代えてヘリウムガスを用い、上記(ア)と同じ操作(a)(b)によりブランク測定その1を実施した(室温、~5MPa程度)。各圧力において平衡状態まで十分に静置し(それぞれ30分以上)、温度変化、圧力変化を記録した。
【0037】
(ウ)ブランク測定その2
図8に示すように、サンプル管に、上記(ア)と同じくサンプルとして上記水素脱離ホウ素20mgを入れ、導入ガスとして水素ガスに代えてヘリウムガスを用い、上記(ア)と同じ操作(a)(b)によりブランク測定その2を実施した(室温、~5MPa程度)。各圧力において平衡状態まで待ち(それぞれ10分程度)、温度変化、圧力変化を記録した。
【0038】
(エ)水素再結合量の算出
上記(イ)ブランク測定その1の結果から、ラインとリアクターの容積の和を算出した。
上記(ウ)ブランク測定その2の結果から、ラインとリアクターの容積の和を算出した。ヘリウムガスはサンプルへの反応性が少なく、吸蔵現象を示さないと仮定できる。
上記(イ)と(ウ)から求められた容積の差はサンプルが占める容積であるので、そこからサンプルの真密度が求められた。
HeおよびH密度はNISTデータ(https://webbook.nist.gov/chemistry/fluid/)を参照した。
上記(ア)において図5(a)と(b)で気体水素の重量に差があれば、その分は水素脱離ホウ素に再結合(貯蔵)した水素であり、下記数式1から再結合量(水素貯蔵量)を算出した。各圧力において算出した水素貯蔵量(水素脱離ホウ素100mgに対する割合)を図9に示す。7.9MPaのときの水素貯蔵量は0.41wt%であった。
【数1】
※ここで、m部位(T,P)は、温度T、圧力Pの時のある部位での気体水素の重量(g)である。
【0039】
この水素貯蔵量0.41wt%は、上記<1>における水素発生量0.35wt%と同程度であり、水素脱離ホウ素における水素が脱離した活性部位(図2)への再水素化反応が進行したことを示唆するものであり、水素脱離ホウ素がホウ化水素になった(戻った)ことを表している。
【0040】
[実施例2]
次に、図10に示す実施例2は、実施例1と同様に合成したホウ化水素を使用し、次のように水素放出ステップと再水素化ステップを実施した。
【0041】
<1>水素放出ステップ
(a)に示すように、曲げられる樹脂担持体(例えばポリプロピレン、ポリエチレンナフタレート等からなる15mm角の平板)を用意した。
(b)に示すように、ホウ化水素(100mg)をアセトニトリル5mlに溶解または分散させた液を、水平にした樹脂担持体の上面に表面張力で保持できる分まで滴下した。
(c)に示すように、真空引きによりアセトニトリルを除去して、ホウ化水素を塗膜化した。
(d)に示すように、実施例1と同じ水銀キセノンランプにより、平板のままの樹脂担持体の上のホウ化水素に光照射することにより、該ホウ化水素から水素を脱離させて水素脱離ホウ素とした。なお、放出された水素は、実施例1のように収集容器を用いて収集し利用することができる。
【0042】
<2>再水素化ステップ
(e)に示すように、上記水素脱離ホウ素付き樹脂担持体を、側壁が円筒状の水素加圧用の反応容器に入れた。このとき、樹脂担持体を円筒状に曲げることにより、同反応容器に容易に挿入することができた。
(f)に示すように、同反応容器を密閉し、同反応容器内に4MPa以上の加圧水素を導入し、水素脱離ホウ素に水素を再結合させて前記ホウ化水素にした。
【0043】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10