(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163652
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】臨界せん断ひずみ速度の導出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 11/14 20060101AFI20241115BHJP
【FI】
G01N11/14 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079445
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 浩史
(72)【発明者】
【氏名】高淵 稔貴
(72)【発明者】
【氏名】平野 修也
(72)【発明者】
【氏名】清水 寛太
(57)【要約】
【課題】ビンガム流体物質の臨界せん断ひずみ速度をその設定根拠を明確して適切に導き、流動解析の解析結果に対して信頼性を向上させることができる臨界せん断ひずみ速度の導出方法を提供する。
【解決手段】臨界せん断ひずみ速度の導出方法は、特に、せん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図において、直線域から曲線域に乖離したあとのせん断ひずみ速度を臨界せん断ひずみ速度として選択する選択ステップを備えている。これにより、ビンガム流体物質の臨界せん断ひずみ速度をその設定根拠を明確して適切に導き、その結果、流動解析の解析結果に対して信頼性を向上させることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビンガム流体物質を流動解析する際に必要な入力値としての臨界せん断ひずみ速度を導く方法であって、
前記ビンガム流体物質に対して、回転粘度計を用いてレオロジー試験を行い、前記回転粘度計のスピンドルの回転数ごとに、当該スピンドルに負荷される前記ビンガム流体物質からのトルク値を測定する測定ステップと、
該測定ステップにより測定した、前記ビンガム流体物質の各回転数に対応する各トルク値から、前記ビンガム流体物質のせん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図を算出する算出ステップと、
該算出ステップにより算出した、せん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図において、直線域から曲線域に乖離したあとのせん断ひずみ速度を臨界せん断ひずみ速度として選択する選択ステップと、
を含むことを特徴とする臨界せん断ひずみ速度の導出方法。
【請求項2】
前記選択ステップでは、前記せん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図において、直線域から曲線域に乖離したあとの測定点におけるせん断ひずみ速度を臨界せん断ひずみ速度として選択することを特徴とする請求項1に記載の臨界せん断ひずみ速度の導出方法。
【請求項3】
前記算出ステップでは、前記スピンドルの回転数が0.01~10rpmの範囲内における、前記ビンガム流体物質のせん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の臨界せん断ひずみ速度の導出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビンガム流体物質(非ニュートン流体)を流動解析する際に必要な臨界せん断ひずみ速度を適切に導く、臨界せん断ひずみ速度の導出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、フレッシュコンクリート(固まっていないコンクリート)やモルタル、セメントペースト等のビンガム流体物質を流動解析する際には、その計算式によっては、主に、ビンガム流体物質の密度、塑性粘度、降伏値及び臨界せん断ひずみ速度の値を入力する必要がある。その際、従来では、特に、
図5に示すような、ビンガム流体物質のスランプまたはスランプフローと、臨界せん断ひずみ速度との関係を数値流体解析(パラメトリック解析)により予め設定する手法が採用されている。すなわち、パラメトリック解析により、実測値(スランプ試験やスランプフロー試験等)と、流動解析値とが略一致するように粘性パラメータ(臨界せん断ひずみ速度を含む)を設定している。
【0003】
しかしながら、粘性パラメータの、特に、臨界せん断ひずみ速度の値には、その設定根拠がなく、解析結果の精度に対して信頼できるものではなかった。要するに、従来では、ビンガム流体物質を三次元数値解析ソフト等により流動解析する際に、ビンガム流体物質の流動形態をスランプ試験やスランプフロー試験、L形フロー試験等によって予め実測する必要があり、その結果、実測値がなく、流動形態を事前に予測する目的として流動解析を実施することは不可能であった。なお、この問題を解消できるわけではないが関連技術として、特許文献1には、コンクリート評価方法として、数値計算や流動解析を行っていることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述しているように、従来では、ビンガム流体物質を流動解析する際に必要な臨界せん断ひずみ速度の値に対する設定根拠がなく、その結果、流動解析の解析結果に対する信頼性が欠けていた。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、ビンガム流体物質の臨界せん断ひずみ速度をその設定根拠を明確して適切に導き、流動解析の解析結果に対して信頼性を向上させることができる臨界せん断ひずみ速度の導出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、ビンガム流体物質を流動解析する際に必要な入力値としての臨界せん断ひずみ速度を導く方法であって、前記ビンガム流体物質に対して、回転粘度計を用いてレオロジー試験を行い、前記回転粘度計のスピンドルの回転数ごとに、当該スピンドルに負荷される前記ビンガム流体物質からのトルク値を測定する測定ステップと、該測定ステップにより測定した、前記ビンガム流体物質の各回転数に対応する各トルク値から、前記ビンガム流体物質のせん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図を算出する算出ステップと、該算出ステップにより算出した、せん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図において、直線域から曲線域に乖離したあとのせん断ひずみ速度を臨界せん断ひずみ速度として選択する選択ステップと、を含むことを特徴とするものである。
請求項1の発明では、特に、せん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図において、直線域から曲線域に乖離したあとのせん断ひずみ速度を臨界せん断ひずみ速度として選択する選択ステップを備えているので、臨界せん断ひずみ速度の設定根拠を明確にすることができ、ひいては流動解析の解析結果に対する信頼性を向上させることができる。このように臨界せん断ひずみ速度を適切に導出して入力値として採用することで、流動解析値と実測値との間において大きな差異がないことを確認している。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記選択ステップでは、前記せん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図において、直線域から曲線域に乖離したあとの測定点におけるせん断ひずみ速度を臨界せん断ひずみ速度として選択することを特徴とするものである。
請求項2の発明では、ビンガム流体物質の流動実測値を流動解析により非常に精度よく再現することが可能になり、さらに、流動解析の解析結果に対する信頼性を向上させることができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記算出ステップでは、前記スピンドルの回転数が0.01~10rpmの範囲内における、前記ビンガム流体物質のせん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図を算出することを特徴とするものである。
請求項3の発明では、ビンガム流体物質のせん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図において、直線域と曲線域とを明確に判断することができ、臨界せん断ひずみ速度の導出が容易になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る臨界せん断ひずみ速度の導出方法では、ビンガム流体物質の臨界せん断ひずみ速度をその設定根拠を明確して適切に導くことができ、その結果、流動解析の解析結果に対して信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1(a)は、回転粘度計のスピンドルの側面図であり、(b)は、スピンドルの底面図である。
【
図2】
図2は、ビンガム流体物質の回転数(rpm)と、トルク(mNm)との関係線図を示すものである。
【
図3】
図3は、ビンガム流体物質のせん断ひずみ速度と、せん断応力との関係線図を示すものである。
【
図4】
図4は、ビンガム流体物質の、流動解析値(実線)と、L型フロー試験による試験結果である実測値(点線)とを比較したものである。
【
図5】
図5は、ビンガム流体物質のスランプまたはスランプフローと、臨界せん断ひずみ速度との関係線図を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態を
図1~
図4に基づいて詳細に説明する。
ビンガム流体物質を流動解析する際には、三次元数値流体解析ソフトへの主な入力値として、ビンガム流体物質の密度、塑性粘度、降伏値、臨界せん断ひずみ速度、最小せん断速度、最大粘度、それ以外の空間(例えば空気、及び水または水溶液)の密度及び粘度が必要となる。なお、採用される三次元数値流体解析ソフトでは、ビンガム流体物質の流動状態と不動状態の境界に当たる臨界せん断ひずみ速度を粘性パラメータとして与えた式を用いている。そして、本実施形態に係る臨界せん断ひずみ速度の導出方法を以下に詳しく説明する。
【0013】
本実施形態に係る臨界せん断ひずみ速度の導出方法は、解析対象のビンガム流体物質に対して、回転粘度計1(
図1参照)を用いてレオロジー試験を行い、回転粘度計1のスピンドル3(
図1参照)の回転数ごとに、当該スピンドル3に負荷されるビンガム流体物質からのトルク値を測定する測定ステップと、該測定ステップにより測定したビンガム流体物質の各回転数に対応する各トルク値から、ビンガム流体物質のせん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図(
図3参照)を算出する算出ステップと、該算出ステップにより算出した、せん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図において、直線域から曲線域に乖離したあとのせん断ひずみ速度を臨界せん断ひずみ速度として選択する選択ステップと、を備えている。
【0014】
なお、ビンガム流体物質は、上述しているように、フレッシュコンクリートやモルタル、セメントペースト等から構成されるものである。例えば、本実施形態では、ビンガム流体物質は、モルタル(密度:2.064g/cm3)であって、材料として、上水道水または蒸留水(密度:1.00g/cm3)、石灰石微粉末(密度2.74g/cm3、比表面積3570cm2/g)、コーンシロップ(グルコースシロップ(グルコース100%))、ガラスビーズ(密度2.65g/cm3、直径1mm)を所定の配合率にて配合し、モルタルミキサーによる所定の練り混ぜ工程を経て製造されたものである。
【0015】
本実施形態に係る臨界せん断ひずみ速度の導出方法を詳しく説明する。本実施形態に係る臨界せん断ひずみ速度の導出方法では、まず、測定ステップを実施する。測定ステップでは、ビンガム流体物質に対して、キャリブレーション済みの回転粘度計1を用いてレオロジー試験を行う。
図1を参照して、回転粘度計1はスピンドル3を備えている。該スピンドル3は、例えば、所定回転数にて回転する回転軸4と、該回転軸4の外周面から周方向に沿って90°ピッチで径方向外方にそれぞれ突設される4枚の羽根部5、5と、を備える。羽根部5は所定厚みTを有する板状に形成される。羽根部5は側面視矩形状に形成される。羽根部5の厚み寸法T、羽根部5の高さ寸法L、及び羽根部5、5の回転軌跡の最大外径寸法φが管理される。例えば、本実施形態では、厚さ寸法Tは1.0mm、羽根部5の高さ寸法Lは80mm、及び羽根部5、5の回転軌跡の最大外径寸法φは40mmに設定される。なお、回転粘度計1のスピンドル3は、上述した構造(
図1に示すもの)以外のものを適用してもよい。
【0016】
そして、レオロジー試験では、回転粘度計1のスピンドル3を後述の回転数ごとに30秒間回転させて、ビンガム流体物質に外力を付与する。回転数(rpm)は、(1)5→(2)10→(3)20→(4)40→(5)20→(6)10→(7)5→(8)2.5→(9)1.0→(10)0.75→(11)0.5→(12)0.4→(13)0.3→(14)0.2→(15)0.1→(16)0.05→(17)0.01にて順次設定される。続いて、スピンドル3の各羽根部5、5に負荷されるビンガム流体物質からのトルク値を前記回転数ごとに測定して、
図2に示す、回転数(rpm)と、トルク(mNm)との関係線図を導く。なお、
図2において、〇印は直線部分(点線)であり、×印は全データである。また、
図2に示す(1)~(17)は、上述した各回転数の順番(1)~(17)に対応するものである。さらに、上記(4)の回転数(rpm)40は、
図2において範囲外のために、
図2には示されていない。
【0017】
次に、算出ステップを実施する。当該算出ステップでは、測定ステップにより導いた、回転数(rpm)と、トルク(mNm)との関係から、
図3に示す、せん断ひずみ速度(1/s)と、せん断応力(Pa)との関係線図を算出する。詳しくは、回転数0.01~10rpmの範囲における、せん断ひずみ速度(1/s)と、せん断応力(Pa)との関係線図を算出する。なお、せん断ひずみ速度(1/s)と、せん断応力(Pa)との関係線図において、直線域の傾きが塑性粘度(Pa・s)となり、直線域の切片(実線部分から延長された点線部分と縦軸との交点)が降伏値(Pa)となる。
【0018】
次に、選択ステップを実施する。当該選択ステップでは、算出ステップより算出した、せん断ひずみ速度(1/s)と、せん断応力(Pa)との関係線図において、直線域から曲線域に乖離したあとのせん断ひずみ速度を適宜臨界せん断ひずみ速度として選択する。本実施形態では、せん断ひずみ速度(1/s)と、せん断応力(Pa)との関係線図において、直線域から曲線域に乖離したあと、最初の測定点におけるせん断ひずみ速度、すなわち最初の測定点である回転数のときのせん断ひずみ速度を臨界せん断ひずみ速度として選択している。本実施形態では、最初の測定点として回転数が2.5rpmのときのせん断ひずみ速度を臨界せん断ひずみ速度(
図3のXX値)として選択している。なお、
図3の関係線図中の〇印は回転数ごとの測定点を示す。
【0019】
そして、ビンガム流体物質を、特に、上述のように導出された臨界せん断ひずみ速度を用いて流動解析して、その解析値と実測値との比較を行った。なお、実測値は、L形フロー試験により流動距離の経時変化を測定したものである。その結果、
図4に示すように、流動解析値(実線)と実測値(点線)との間において大きな差異はなく、実測値を流動解析により非常に精度よく再現することが可能になった。その結果、入力値としての臨界せん断ひずみ速度が妥当であることが解る。
【0020】
以上説明したように、本実施形態に係る臨界せん断ひずみ速度の導出方法では、特に、選択ステップにて、せん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図においてその直線域から曲線域に乖離したあと、例えば最初の測定点におけるせん断ひずみ速度を臨界せん断ひずみ速度として選択している。これにより、ビンガム流体物質の臨界せん断ひずみ速度をその設定根拠を明確して適切に導くことができる。その結果、流動解析値と実測値とを略一致させることができ、実測値を流動解析により非常に精度よく再現することが可能になり、流動解析結果に対する信頼性を向上させることができる。言い換えれば、本実施形態では、従来のように、ビンガム流体物質の流動形態の実測値を予め測定する必要はなく、非常に精度の高い流動解析結果を得ることができる。
【0021】
また、本実施形態に係る臨界せん断ひずみ速度の導出方法では、測定ステップにおけるレオロジー試験では、回転粘度計1のスピンドル3の回転数(rpm)を0.01~10の範囲において回転数ごとにトルク値を測定し、算出ステップでは、回転数(rpm)が0.01~10の範囲におけるせん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図を算出している。これにより、せん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図における直線域と曲線域とを明確に判断することができ、その結果、臨界せん断ひずみ速度の導出が容易になる。
【0022】
なお、本実施形態では、選択ステップにおいて、せん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図(
図3参照)においてその直線域から曲線域に乖離したあと、最初の測定点におけるせん断ひずみ速度を臨界せん断ひずみ速度として選択しているが、せん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図においてその直線域から曲線域に乖離したあとのせん断ひずみ速度を適宜臨界せん断ひずみ速度として選択すればよい。また、せん断ひずみ速度とせん断応力との関係線図においてその直線域から曲線域に乖離したあとの多数の測定点のうちいずれかを選択して、その測定点におけるせん断ひずみ速度を臨界せん断ひずみ速度として選択してもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 回転粘度計,3 スピンドル,4 回転軸,5 羽根部