(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163653
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】主材ペースト、歯科用アルギン酸塩印象材、及び歯科用アルギン酸塩印象材の調製方法
(51)【国際特許分類】
A61K 6/90 20200101AFI20241115BHJP
【FI】
A61K6/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079446
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】平野 歩
(72)【発明者】
【氏名】小田 琴佳
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA14
4C089BA07
4C089BA11
4C089BA13
4C089BA16
4C089BA18
4C089BA20
4C089BC01
4C089BC05
4C089BC12
4C089BE01
4C089BE08
4C089BE16
4C089CA03
(57)【要約】
【課題】保存安定性に優れる主材ペーストを提供すること。
【解決手段】歯科用アルギン酸塩印象材に用いられる主材ペーストであって、アルギン酸塩、水、及び常温で液状の油性成分及び/又は常温で液状の脂質成分を含有する、主材ペースト。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用アルギン酸塩印象材に用いられる主材ペーストであって、
アルギン酸塩、水、及び常温で液状の油性成分及び/又は常温で液状の脂質成分を含有する、
主材ペースト。
【請求項2】
請求項1に記載の主材ペーストと、
ゲル化反応剤及び難水溶性液状化合物を含有する硬化材ペーストと、を有する、
歯科用アルギン酸塩印象材。
【請求項3】
請求項1に記載の主材ペーストと、ゲル化反応剤及び難水溶性液状化合物を含有する硬化材ペーストと、を練和する、
歯科用アルギン酸塩印象材の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主材ペースト、歯科用アルギン酸塩印象材、及び歯科用アルギン酸塩印象材の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、補綴物を作製する際に、口腔内の印象を採得する印象材として、アルギン酸塩印象材が広く用いられている。アルギン酸塩印象材としては、アルギン酸塩及び水を含有する主材ペーストと、ゲル化反応剤及び難水溶性液状化合物を含有する硬化材ペーストとを有するアルギン酸塩印象材が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2012/063618号
【特許文献2】国際公開第2014/050028号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のアルギン酸塩印象材では、経時変化により主材ペーストの粘度が低下しやすく、主材ペーストの保存安定性に課題がある。
【0005】
本発明の課題は、保存安定性に優れる主材ペーストを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る主材ペーストは、歯科用アルギン酸塩印象材に用いられる主材ペーストであって、アルギン酸塩、水、及び常温で液状の油性成分及び/又は常温で液状の脂質成分を含有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、保存安定性に優れる主材ペーストを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0009】
[主材ペースト]
本実施形態の主材ペーストは、歯科用アルギン酸塩印象材に用いられる。
【0010】
本明細書において、歯科用アルギン酸塩印象材は、水溶性のアルギン酸塩と石膏とを反応させると、不溶性のアルギン酸カルシウムが生成して硬化することを利用した、印象採得のための歯科用製剤である。また、主材ペーストは、歯科用アルギン酸塩印象材の基材を構成するペースト状の材料である。
【0011】
主材ペーストは、アルギン酸塩と、水と、常温で液状の油性成分及び/又は常温で液状の脂質成分を含む。
【0012】
アルギン酸塩としては、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム等のアルギン酸のアルカリ金属塩、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸トリエタノールアミン等のアルギン酸のアンモニウム塩等が挙げられる。これらの中でも、入手容易性、取り扱い容易性、後述する本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材の硬化体の物性等の観点から、アルギン酸のアルカリ金属塩が好ましく、アルギン酸カリウムがさらに好ましい。
【0013】
なお、アルギン酸塩は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0014】
また、アルギン酸塩の1質量%水溶液の20℃における粘度は、0.001Pa・s以上0.5Pa・s以下であることが好ましく、0.1Pa・s以上0.4Pa・s以下であることがさらに好ましい。アルギン酸塩の1質量%水溶液の20℃における粘度が0.001Pa・s以上であると、本実施形態の主材ペーストを用いた歯科用印象材を従来のアルギン酸塩印象材と併用した場合に印象が破損しにくくなる。
【0015】
また、アルギン酸塩の1質量%水溶液の20℃における粘度が0.5Pa・s以下であると、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の流動性が高くなり、本実施形態の主材ペーストをアルギン酸塩印象材と併用した場合に印象の精度が向上する。
【0016】
主材ペースト中のアルギン酸塩の含有量は、特に限定されず、例えば、0.5質量%以上30質量%以下であり、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは3質量%以上15質量%以下である。
【0017】
主材ペースト中のアルギン酸塩の含有量が、0.5質量%以上であると、本実施形態の主材ペーストを用いたアルギン酸塩印象材(以下、歯科用印象材という場合がある)を従来のアルギン酸塩印象材と併用した場合に印象が破損しにくくなり、30質量%以下であると、本実施形態の主材ペーストを用いた歯科用印象材を従来のアルギン酸塩印象材と併用した場合に印象の精度が向上する。
【0018】
水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水等を用いることができ、次亜塩素酸ナトリウム等により殺菌処理されている水を用いてもよい。
【0019】
主材ペースト中の水の含有量は、特に限定されず、例えば、75質量%以上99質量%以下であり、好ましくは80質量%以上97質量%以下であり、より好ましくは85質量%以上95質量%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
常温で液状の油性成分(以下、油性成分という場合がある)は、常温範囲内(例えば、20℃±15℃の範囲内)で油状の液体である。また、常温で液状の脂質成分(以下、脂質成分という場合がある)は、常温範囲内(例えば、20℃±15℃の範囲内)で脂質を含む液体である。
【0021】
油性成分及び/又は脂質成分の融点は、特に限定されないが、25℃以下であることが好ましく、より好ましくは21℃以下、さらに好ましくは15℃以下である。油性成分及び/又は脂質成分の融点が25℃以下であると、油性成分及び/又は脂質成分は常温で液状の状態を維持することができる。
【0022】
常温で液状の油性成分は、例えば、炭化水素化合物、脂肪酸、油脂等が挙げられる。また、常温で液状の脂質成分は、リン脂質等である。これらの油性成分及び/又は脂質成分は、単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0023】
炭化水素化合物としては、流動パラフィン等が挙げられる。
【0024】
脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられる。
【0025】
油脂としては、植物油が挙げられ、植物油としては例えば亜麻仁油、大豆油、綿実油、オリーブ油、ヒマシ油、コーン油等が挙げられる。
【0026】
リン脂質としては、大豆由来レシチン(大豆レシチン)等が挙げられる。
【0027】
油性成分及び/又は脂質成分の主材ペースト中の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5質量%以上3.5質量%以下が好ましく、1質量%以上3質量%以下がより好ましく、1.5質量%以上2.5質量%以下がさらに好ましい。油性成分及び/又は脂質成分の主材ペースト中の含有量が0.5質量%以上であると粘度低下抑制効果が得られやすく、3.5質量%以下であるとペーストの分離が起こりにくい。
【0028】
主材ペーストは、本発明の目的を損なわない限り、その他の成分を含有してもよい。主材ペーストに含まれるその他の成分としては、充填剤、着色剤、防腐剤、消毒剤、香料、pH調整剤、界面活性剤、硬化遅延剤等をさらに含んでいてもよい。
【0029】
充填剤を構成する材料としては、例えば、珪藻土、タルク、スメクタイト等の粘土鉱物、シリカ、アルミナ等の無機酸化物等が挙げられる。これらの充填剤は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0030】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0031】
硬化遅延剤としては、例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等の縮合リン酸塩等が挙げられる。これらの硬化遅延剤は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0032】
主材ペーストの20℃における粘度は、50000mPa・s以上110000mPa・s以下であることが好ましく、75000mPa・s以上105000mPa・s以下であることがより好ましく、80000mPa・s以上100000mPa・s以下であることがさらに好ましい。
【0033】
主材ペーストの20℃における粘度が50000mPa・s以上であると、保存後の主材ペーストにおいても練和性が向上し、110000mPa・s以下であると、保存後の主材ペーストにおいても歯科用印象材の硬化体の強度が向上する。
【0034】
また、本実施形態の主材ペーストは、従来からのペースト状アルギン酸塩印象材に比べ低粘度であり、連合印象法に使用可能である。
【0035】
本実施形態の主材ペーストは、上述のように、アルギン酸塩、水、及び常温で液状の油性成分及び/又は常温で液状の脂質成分を含有することで、経時変化による主材ペーストの粘度低下を抑制することができ、保存安定性の高い主材ペーストを得ることができる。
【0036】
また、本実施形態の主材ペーストは、従来からのペースト状アルギン酸塩印象材に比べ低粘度にすることができ、低粘度のまま粘度の低下を抑制することができる。そのため、本実施形態の主材ペーストは、連合印象法(未硬化の2種の材料を重ね合わせる方法)に使用することが可能である。
【0037】
[歯科用アルギン酸塩印象材]
本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材は、主材ペーストと、硬化材ペーストと、を有する。
【0038】
主材ペーストとしては、本実施形態の主材ペースト(アルギン酸塩と、水と、常温で液状の油性成分及び/又は常温で液状の脂質成分を含有する主材ペースト)が用いられる。
【0039】
硬化材ペーストとしては、上述の硬化材ペースト(ゲル化反応剤及び難水溶性液状化合物を含有する硬化材ペースト)が用いられる。
【0040】
歯科用アルギン酸塩印象材中のアルギン酸塩の含有量は、特に限定されず、例えば、0.3質量%以上20質量%以下であり、好ましくは0.6質量%以上13質量%以下、より好ましくは2質量%以上10質量%以下である。
【0041】
本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材中のアルギン酸塩の含有量が0.3質量%以上であると、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材を従来のアルギン酸塩印象材と併用した場合に、印象が破損しにくくなる。一方、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材中のアルギン酸塩の含有量が20質量%以下であると、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材を従来のアルギン酸塩印象材と併用した場合に印象の精度が向上する。
【0042】
本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材中の水の含有量は、特に限定されず、例えば、40質量%以上75質量%以下であり、好ましくは45質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは50質量%以上65質量%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材中の油性成分及び/又は脂質成分の含有量は、特に限定されず、例えば、0.3質量%以上2.5質量%以下であり、好ましくは0.6質量%以上2質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上1.5質量%以下である。
【0044】
歯科用アルギン酸塩印象材中の油性成分及び/又は脂質成分の含有量が0.3質量%以上であると、保存期間が経過しても主材ペーストの粘度低下が抑制され主材ペーストの保存安定性を向上させることができる。主材ペースト中の油性成分及び/又は脂質成分の含有量が2.5質量%以下であると、主材ペーストの粘度を低く抑制しながら、該粘度の低下を抑制することができる。
【0045】
[硬化材ペースト]
硬化材ペーストは、主材ペーストに混合され、歯科用アルギン酸塩印象材を硬化させる材料である。
【0046】
硬化材ペーストは、ゲル化反応剤と、難水溶性液状化合物を含む。
【0047】
ゲル化反応剤としては、2価以上の金属の化合物を用いることができる。
【0048】
2価以上の金属の化合物としては、特に限定されず、例えば、2価以上の金属及びその塩、酸化物、水酸化物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0049】
2価以上の金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、アルミニウム、鉄、チタン、ジルコニウム、スズ等が挙げられる。
【0050】
2価以上の金属の塩としては、例えば、硫酸カルシウム二水和物(CaSO4・2H2O)、硫酸カルシウム半水和物(CaSO4・1/2H2O)、無水硫酸カルシウム(CaSO4)等が挙げられる。
【0051】
2価以上の金属の酸化物としては、例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化スズ等が挙げられる。
【0052】
2価以上の金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化鉄等が挙げられる。
【0053】
硬化材ペースト中のゲル化反応剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは10質量%以上60質量%以下である。硬化材ペースト中のゲル化反応剤の含有量が10質量%以上であると、硬化材ペーストを用いた歯科用アルギン酸塩印象材の硬化体の強度が向上し、60質量%以下であると、該歯科用印象材の操作時間が長くなる。
【0054】
難水溶性液状化合物としては、ゲル化反応剤をペースト化することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、炭化水素化合物、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、脂肪酸、脂肪酸エステル、シリコーンオイル等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。また、難水溶性液状化合物は、上述の主材ペーストに用いられる油性成分及び/又は脂質成分と同一のものであってもよい。
【0055】
本明細書において、難水溶性とは、20℃における水100gに対する溶解度が5g以下であることを意味する。
【0056】
炭化水素化合物としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ケロシン、2,7-ジメチルオクタン、1-オクテン等の脂肪族鎖状炭化水素化合物、シクロヘプタン、シクロノナン等の脂環式炭化水素化合物、流動パラフィン等が挙げられる。
【0057】
脂肪族アルコールとしては、例えば、1-ヘキサノール、1-オクタノール等の飽和脂肪族アルコール、シトロネロール、オレイルアルコール等の不飽和脂肪族アルコール等が挙げられる。
【0058】
芳香族アルコールとしては、例えば、ベンジルアルコール、m-クレゾール等が挙げられる。
【0059】
脂肪酸としては、例えば、ヘキサン酸、オクタン酸等の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられる。
【0060】
脂肪酸エステルとしては、例えば、オクタン酸エチル、フタル酸ブチル、オレイン酸グリセリド、オリーブ油、ゴマ油、肝油、鯨油等が挙げられる。
【0061】
シリコーンオイルとしては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、ポリフェニルハイドロジェンシロキサン等が挙げられる。
【0062】
硬化材ペースト中の難水溶性液状化合物の含有量は、特に限定されないが、例えば、10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、15質量%以上30質量%以下であることがさらに好ましい。硬化材ペースト中の難水溶性液状化合物の含有量が10質量%以上であると、該硬化材ペーストを用いた本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材の操作性が向上し、50質量%以下であると、該歯科用アルギン酸塩印象材の硬化体の強度が向上する。
【0063】
硬化材ペーストは、ポリブテンをさらに含むことが好ましい。これにより、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材の硬化性が向上すると共に、該歯科用アルギン酸塩印象材の操作時間が長くなる。
【0064】
ポリブテンは、液状であることが好ましい。ポリブテンは、イソブテンと1-ブテンを共重合することにより、合成することができる。ポリブテンの数平均分子量は、300~4000であることが好ましい。
【0065】
硬化材ペースト中のポリブテンの含有量は、0.5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、1質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。硬化材ペースト中のポリブテンの含有量が0.5質量%以上30質量%以下であると、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材の操作性が向上する。
【0066】
硬化材ペーストは、充填剤、硬化遅延剤、硬化調整剤、界面活性剤、着色剤、防腐剤、消毒剤、香料、pH調整剤等をさらに含んでいてもよい。
【0067】
充填剤を構成する材料としては、例えば、珪藻土、タルク、スメクタイト等の粘土鉱物、シリカ、アルミナ等の無機酸化物等が挙げられる。これらの充填剤は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0068】
硬化遅延剤としては、例えば、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム等の縮合リン酸塩等が挙げられる。これらの硬化遅延剤は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0069】
硬化調整剤としては、例えば、フッ化チタンカリウム、ケイフッ化カリウム等が挙げられる。これらの硬化調整剤は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0070】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0071】
硬化材ペーストの稠度は、特に限定されないが、30mm以上であることが好ましい。硬化材ペーストの稠度が30mm以上であると、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の流動性が高くなる。このため、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材を従来のアルギン塩印象材と併用した場合に印象の精度が向上する。
【0072】
本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材は、上述のように、本実施形態の主材ペーストと硬化材ペーストを有することで、本実施形態の主材ペーストの効果が得られる。すなわち、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材では、含まれる主材ペーストの経時変化により粘度低下が抑制されることで主材ペーストの保存安定性が高いため、該主材ペーストを使用した際に歯科用アルギン酸塩印象材の練和性の低下を抑制することができる。そのため、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材では、印象が破損しにくくなり、印象の精度が向上する。
【0073】
また、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材では、含まれる主材ペーストが、従来からのペースト状アルギン酸塩印象材に比べ低粘度であり、しかも低粘度のまま粘度の低下が抑制される。そのため、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材は、連合印象法に使用することが可能である。
【0074】
[歯科用アルギン酸塩印象材の調製方法]
本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材の調製方法は、上述の主材ペーストと硬化材ペーストを練和して歯科用アルギン酸塩印象材を調製する方法である。
【0075】
歯科用アルギン酸塩印象材の調製方法としては、例えば、手動又は電動の押出装置を用いて、隔てられた包装容器に充填されている主材ペーストと、硬化材ペーストを押し出し、ノズルを通過することで練和された練和物を調製する。得られた練和物は、歯科用アルギン酸塩印象材として歯牙に適用することができる。
【0076】
包装容器としては、例えば、樹脂又は金属の成形品、樹脂又は金属の袋等が挙げられる。
【0077】
主材ペーストと硬化材ペーストを練和する際の硬化材ペーストに対する主材ペーストの質量比は、特に限定されず、例えば、1~5であり、好ましくは1~4であり、より好ましくは1~3である。
【0078】
本実施形態に係る歯科用アルギン酸塩印象材の調製方法では、上述の主材ペーストと硬化材ペーストとを練和することで、上述の歯科用アルギン酸塩印象材が得られるため、本実施形態に係る主材ペーストの効果が得られる。
【0079】
具体的には、本実施形態に係る歯科用アルギン酸塩印象材の調製方法により、得られた歯科用アルギン酸塩印象材に含まれる主材ペーストの経時変化により粘度低下が抑制されることで主材ペーストの保存安定性が高いため、該主材ペーストを使用した際に歯科用アルギン酸塩印象材の練和性の低下を抑制することができる。そのため、本実施形態に係る歯科用アルギン酸塩印象材の調製方法を用いることにより、得られる歯科用アルギン酸塩印象材の印象が破損しにくくなり、印象の精度が向上する。
【0080】
また、本実施形態に係る歯科用アルギン酸塩印象材の調製方法で得られる歯科用アルギン酸塩印象材は、含まれる主材ペーストが、従来からのペースト状アルギン酸塩印象材に比べ低粘度であり、しかも低粘度のまま粘度の低下が抑制される。そのため、本実施形態に係る歯科用アルギン酸塩印象材の調製方法を用いることにより、得られた歯科用アルギン酸塩印象材は、連合印象法に使用することが可能である。
【0081】
[連合印象材]
本実施形態の連合印象材は、上述した本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材を用いることができる。本明細書において、連合印象材は、連合印象法(未硬化の2種の材料を重ね合わせる方法)により印象を行うための材料である。
【0082】
本実施形態の連合印象材は、他のアルギン酸塩印象材と併用される。具体的には、歯牙等の印象採得対象に、本実施形態の連合印象材を適用した後、他のアルギン酸塩印象材を適用する。
【0083】
他のアルギン酸塩印象材としては、特に限定されないが、例えば、寒天・アルジネート連合印象法に用いられるアルギン酸塩印象材を用いることができる。
【0084】
他のアルギン酸塩印象材は、粉末タイプであってもよいし、アルギン酸塩と、水を含む主材ペーストと、ゲル化反応剤と、難水溶性液状化合物を含む硬化材ペーストを有するペーストタイプであってもよい。
【0085】
本実施形態の連合印象材と他のアルギン酸塩印象材との質量比は、特に限定されない。
【0086】
他のアルギン酸塩印象材としてペーストタイプのアルギン酸塩印象材を用いる場合、該アルギン酸塩印象材は、主材ペーストと、硬化材ペーストの練和物の稠度が36mm未満である以外は、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材と同様である。
【0087】
本実施形態の連合印象材は、上述のように、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材を用いることにより、本実施形態の歯科用アルギン酸塩印象材の効果が得られる。すなわち、本実施形態の連合印象材では、含まれる主材ペーストの保存安定性が高い(保存期間が経過しても劣化しにくい)ため、該主材ペーストを使用した際に歯科用アルギン酸塩印象材の練和性の低下を抑制することができ、得られる印象が破損しにくくなる。
【0088】
また、本実施形態の連合印象材では、歯科用アルギン酸塩印象材に含まれる主材ペーストが、従来からのペースト状アルギン酸塩印象材に比べ低粘度であり、しかも低粘度のまま粘度の低下が抑制される。これにより、本実施形態の連合印象材では、連合印象法を用いた印象の精度を向上させることができる。
【実施例0089】
以下、本発明について、更に実施例を用いて説明する。なお、以下において、単位のない数、「部」又は「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。実施例、比較例の評価は、以下の試験により行った。
【0090】
[実施例1]
<主材ペーストの調製>
アルギン酸塩としてアルギン酸カリウム7部とアルギン酸ナトリウム3部、常温で液状(液体)の油性成分としてアマニ油2部を混合し、全体が100部となるように蒸留水を加え、主材ペーストを調製した。主材ペーストの配合を表1に示す。
【0091】
<硬化材ペーストの調製>
無水硫酸カルシウム45部、流動パラフィン23部、シリカ12.5部、水酸化マグネシウム6部、ポリブテン4部、フッ化チタンカリウム3部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル3部、酸化亜鉛2部、及びリン酸三カリウム1.5部を混合して、硬化材ペーストを調製した。硬化材ペーストの配合を表2に示す。
【0092】
[実施例2]
主材ペーストの調製において、常温で液体の油性成分として流動パラフィン2部を混合した以外は、実施例1と同様に主材ペースト、硬化材ペーストをそれぞれ調製した。主材ペーストの配合を表1に示す。
【0093】
[実施例3]
主材ペーストの調製において、常温で液体の油性成分としてオレイン酸2部を混合した以外は、実施例1と同様に主材ペースト、硬化材ペーストをそれぞれ調製した。主材ペーストの配合を表1に示す。
【0094】
[実施例4]
主材ペーストの調製において、常温で液体の脂質成分として大豆レシチン2部を混合した以外は、実施例1と同様に主材ペースト、硬化材ペーストをそれぞれ調製した。主材ペーストの配合を表1に示す。
【0095】
[比較例1]
主材ペーストの調製において、常温で液状の油性成分及び常温で液状の脂質成分の何れも配合しなかった以外は、実施例1と同様に主材ペースト、硬化材ペースをそれぞれ調製した。主材ペーストの配合を表1に示す。
【0096】
[比較例2]
主材ペーストの調製において、常温で固体の油性成分としてヤシ油2部を混合した以外は、実施例1と同様に主材ペースト、硬化材ペーストをそれぞれ調製した。主材ペーストの配合を表1に示す。
【0097】
[比較例3]
主材ペーストの調製において、常温で固体の油性成分としてワセリン2部を混合した以外は、実施例1と同様に主材ペースト、硬化材ペーストをそれぞれ調製した。主材ペーストの配合を表1に示す。
【0098】
[比較例4]
主材ペーストの調製において、常温で固体の油性成分としてパルミチン酸2部を混合した以外は、実施例1と同様に主材ペースト、硬化材ペーストをそれぞれ調製した。主材ペーストの配合を表1に示す。
【0099】
[比較例5]
主材ペーストの調製において、常温で固体の脂質成分として水添レシチン2部を混合した以外は、実施例1と同様に主材ペースト、硬化材ペーストをそれぞれ調製した。主材ペーストの配合を表1に示す。
【0100】
<保存安定性>
粘度計(東機産業社製、E型粘度計RE-85)を用いて、コーン角度3°、せん断速度2(1/sec)の条件で、調製した主材ペーストの23℃における粘度を測定した。その後、50mL透明ガラス瓶に充填し密閉した該主材ペーストを、45℃の恒温層内にて7日間保存した。保存後に該主材ペーストを23℃の恒温槽内にて1時間保管した後、再度粘度を測定した。保存前後の粘度値を用いて、以下の数式に従い、粘度低下率を算出した。評価基準は、以下のとおりである。各実施例及び比較例の粘度低下率を表1に示す。
粘度低下率(%)=100-(保存後の粘度/保存前の粘度)×100
〔評価基準〕
良:粘度低下率が45%未満であった
不良:粘度低下率が45%以上であった
【0101】
<保存後の練和性>
上記の保存安定性で1時間保管した後の主材ペーストと硬化材ペーストを質量比2:1で練和用カートリッジに充填した後、ペーストを押し出し練和した。ノズルから吐出されるペースト(歯科用アルギン酸塩印象材)の外観から、保存後の練和性を評価した。評価基準は、以下のとおりである。各実施例及び比較例の保存後の練和性を表1に示す。
〔評価基準〕
良:主材ペーストと硬化材ペーストが均一に練和された状態で吐出された
不良:主材ペーストが硬化材ペーストよりも早く吐出され、練和が不均一であった。
【0102】
【0103】
【0104】
表1より、アルギン酸塩、水、及び常温で液状の油性成分又は常温で液状の脂質成分を含有する主材ペーストは、保存安定性、保存後の練和性が何れも良好であった(実施例1~4)。
【0105】
これに対して、常温で液状の油性成分及び常温で液状の脂質成分の何れも含有しない主材ペーストは、保存安定性、保存後の練和性が何れも不良(または不可)であった(比較例1~5)。
【0106】
これらの結果から、アルギン酸塩、水、及び常温で液状の油性成分又は常温で液状の脂質成分を含有する主材ペーストは、保存安定性に優れ、保存後の主材ペーストと硬化材ペーストとを練和して調製した歯科用アルギン酸塩印象材は練和性が良好であった。
【0107】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。