(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024163662
(43)【公開日】2024-11-22
(54)【発明の名称】プラットフォームシート、熱溶解積層方式の三次元積層造形装置、および、熱溶解積層方式の三次元積層造形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/245 20170101AFI20241115BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20241115BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20241115BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20241115BHJP
【FI】
B29C64/245
B29C64/118
B33Y30/00
B33Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079471
(22)【出願日】2023-05-12
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 章太郎
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA04
4F213AA11
4F213AA13
4F213AA24
4F213AA32
4F213AJ03
4F213AJ11
4F213AR12
4F213AR15
4F213AR20
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL73
(57)【要約】
【課題】造形物を容易に剥離する。
【解決手段】プラットフォームシート130は、熱溶解積層方式の三次元積層造形装置のプラットフォームと、第1樹脂材料からなる造形物との間に介在するプラットフォームシート130であって、第1樹脂材料と異なる第2樹脂材料R2の硬化物からなるシート基材132と、シート基材132中に含まれ、第3樹脂材料R3の硬化物からなる複数の粒子134と、を備え、複数の粒子134の一部は、造形物が積層される側のシート基材132の表面132aに露出しており、造形物を形成する第1樹脂材料の硬化物と粒子134を形成する第3樹脂材料R3の硬化物との間の剥離力は、造形物を形成する第1樹脂材料の硬化物とシート基材132を形成する第2樹脂材料R2の硬化物との間の剥離力よりも大きい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶解積層方式の三次元積層造形装置のプラットフォームと、第1樹脂材料からなる造形物との間に介在するプラットフォームシートであって、
前記第1樹脂材料と異なる第2樹脂材料の硬化物からなるシート基材と、
前記シート基材中に含まれ、第3樹脂材料の硬化物からなる複数の粒子と、
を備え、
前記複数の粒子の一部は、前記造形物が積層される側の前記シート基材の表面に露出しており、
前記造形物を形成する前記第1樹脂材料の硬化物と前記粒子を形成する前記第3樹脂材料の硬化物との間の剥離力は、前記造形物を形成する前記第1樹脂材料の硬化物と前記シート基材を形成する前記第2樹脂材料の硬化物との間の剥離力よりも大きい、プラットフォームシート。
【請求項2】
前記シート基材を形成する前記第2樹脂材料の硬化物は、前記粒子を形成する前記第3樹脂材料の硬化物よりも高い耐熱性を有する、請求項1に記載のプラットフォームシート。
【請求項3】
前記粒子を形成する前記第3樹脂材料は、前記造形物を形成する前記第1樹脂材料と同じ樹脂材料である、請求項1または2に記載のプラットフォームシート。
【請求項4】
プラットフォームと、
前記プラットフォーム上に設置されるプラットフォームシートと、
ノズルによって、前記プラットフォームシート上に第1樹脂材料の硬化物の層を積層することにより、前記第1樹脂材料の硬化物からなる造形物を前記プラットフォームシート上に形成する積層装置と、
を備え、
前記プラットフォームシートは、
前記第1樹脂材料と異なる第2樹脂材料の硬化物からなるシート基材と、
前記シート基材中に含まれ、第3樹脂材料の硬化物からなる複数の粒子と、
を有し、
前記複数の粒子の一部は、前記造形物が積層される側の前記シート基材の表面に露出しており、
前記造形物を形成する前記第1樹脂材料の硬化物と前記粒子を形成する前記第3樹脂材料の硬化物との間の剥離力は、前記造形物を形成する前記第1樹脂材料の硬化物と前記シート基材を形成する前記第2樹脂材料の硬化物との間の剥離力よりも大きい、熱溶解積層方式の三次元積層造形装置。
【請求項5】
プラットフォーム上にプラットフォームシートを設置する準備工程と、
ノズルによって、前記プラットフォームシート上に第1樹脂材料の硬化物の層を積層することにより、前記第1樹脂材料の硬化物からなる造形物を前記プラットフォームシート上に形成する造形工程と、
を含み、
前記プラットフォームシートは、
前記第1樹脂材料と異なる第2樹脂材料の硬化物からなるシート基材と、
前記シート基材中に含まれ、第3樹脂材料の硬化物からなる複数の粒子と、
を有し、
前記複数の粒子の一部は、前記造形物が積層される側の前記シート基材の表面に露出しており、
前記造形工程において、前記プラットフォームシート上に積層された前記第1樹脂材料と、前記シート基材の表面に露出した前記粒子の前記第3樹脂材料とが熱接着されることによって、前記造形物と前記プラットフォームシートとの接合面において、前記造形物を形成する前記第1樹脂材料の硬化物と前記粒子を形成する前記第3樹脂材料の硬化物との間の剥離力は、前記造形物を形成する前記第1樹脂材料の硬化物と前記シート基材を形成する前記第2樹脂材料の硬化物との間の剥離力よりも大きくなる、熱溶解積層方式の三次元積層造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プラットフォームシート、熱溶解積層方式の三次元積層造形装置、および、熱溶解積層方式の三次元積層造形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元データに基づいて立体の造形物を作製する三次元プリンタとして、熱溶解積層方式(FDM:Fused Deposition Modeling)の三次元積層造形装置が普及している。熱溶解積層方式の三次元積層造形装置では、熱可塑性樹脂材料からなる造形樹脂を加熱して溶融させ、平面内で移動可能なノズルから、溶融した造形樹脂を押し出す。そして、ノズルの移動方向を制御して、押し出された溶融状態の造形樹脂をプラットフォーム上に順次積層することで立体の造形物が作製される。
【0003】
このように、熱溶解積層方式の三次元積層造形装置では、溶融状態の造形樹脂の第1層がプラットフォームに直接形成され、第2層以降の層は、積層された層の上に順次形成される。ここで、溶融状態の造形樹脂がプラットフォームに接着し難いと、溶融状態の造形樹脂が、移動するノズルに引きずられてしまい、第1層を所望する形状に形成できないという問題がある。
【0004】
そこで、造形樹脂と同じ樹脂材料からなるプラットフォームシートをプラットフォーム上に設置し、第1層をプラットフォームシート上に形成する技術が開発されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の技術では、第1層を形成する際に、溶融状態の造形樹脂が有する熱によってプラットフォームシートの表面が溶融し、第1層の底面全面とプラットフォームシートとが溶着する。そうすると、プラットフォームシートと造形物とが一体化してしまい、プラットフォームシートから造形物を剥離できないという問題が生じる。
【0007】
そこで、本開示は、このような課題に鑑み、造形物を容易に剥離することが可能なプラットフォームシート、熱溶解積層方式の三次元積層造形装置、および、熱溶解積層方式の三次元積層造形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係るプラットフォームシートは、熱溶解積層方式の三次元積層造形装置のプラットフォームと、第1樹脂材料からなる造形物との間に介在するプラットフォームシートであって、第1樹脂材料と異なる第2樹脂材料の硬化物からなるシート基材と、シート基材中に含まれ、第3樹脂材料の硬化物からなる複数の粒子と、を備え、複数の粒子の一部は、造形物が積層される側のシート基材の表面に露出しており、造形物を形成する第1樹脂材料の硬化物と粒子を形成する第3樹脂材料の硬化物との間の剥離力は、造形物を形成する第1樹脂材料の硬化物とシート基材を形成する第2樹脂材料の硬化物との間の剥離力よりも大きい。
【0009】
また、シート基材を形成する第2樹脂材料の硬化物は、粒子を形成する第3樹脂材料の硬化物よりも高い耐熱性を有してもよい。
【0010】
また、粒子を形成する第3樹脂材料は、造形物を形成する第1樹脂材料と同じ樹脂材料であってもよい。
【0011】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る熱溶解積層方式の三次元積層造形装置は、プラットフォームと、プラットフォーム上に設置されるプラットフォームシートと、ノズルによって、プラットフォームシート上に第1樹脂材料の硬化物の層を積層することにより、第1樹脂材料の硬化物からなる造形物をプラットフォームシート上に形成する積層装置と、を備え、プラットフォームシートは、第1樹脂材料と異なる第2樹脂材料の硬化物からなるシート基材と、シート基材中に含まれ、第3樹脂材料の硬化物からなる複数の粒子と、を有し、複数の粒子の一部は、造形物が積層される側のシート基材の表面に露出しており、造形物を形成する第1樹脂材料の硬化物と粒子を形成する第3樹脂材料の硬化物との間の剥離力は、造形物を形成する第1樹脂材料の硬化物とシート基材を形成する第2樹脂材料の硬化物との間の剥離力よりも大きい。
【0012】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る熱溶解積層方式の三次元積層造形方法は、プラットフォーム上にプラットフォームシートを設置する準備工程と、ノズルによって、プラットフォームシート上に第1樹脂材料の硬化物の層を積層することにより、第1樹脂材料の硬化物からなる造形物をプラットフォームシート上に形成する造形工程と、を含み、プラットフォームシートは、第1樹脂材料と異なる第2樹脂材料の硬化物からなるシート基材と、シート基材中に含まれ、第3樹脂材料の硬化物からなる複数の粒子と、を有し、複数の粒子の一部は、造形物が積層される側のシート基材の表面に露出しており、造形工程において、プラットフォームシート上に積層された第1樹脂材料と、シート基材の表面に露出した粒子の第3樹脂材料とが熱接着されることによって、造形物とプラットフォームシートとの接合面において、造形物を形成する第1樹脂材料の硬化物と粒子を形成する第3樹脂材料の硬化物との間の剥離力は、造形物を形成する第1樹脂材料の硬化物とシート基材を形成する第2樹脂材料の硬化物との間の剥離力よりも大きくなる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、造形物を容易に剥離することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る三次元積層造形装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るプラットフォームシートの断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る三次元積層造形方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、変形例に係るプラットフォームシートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0016】
[熱溶解積層方式の三次元積層造形装置100]
図1は、本実施形態に係る三次元積層造形装置100の概略構成を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態に係る三次元積層造形装置100は、熱溶解積層方式(FDM)の装置である。また、本実施形態の
図1、
図2では、垂直に交わるX軸(水平方向)、Y軸(水平方向)、Z軸(鉛直方向)を図示の通り定義している。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る三次元積層造形装置100は、プラットフォーム110と、調整部120と、プラットフォームシート130と、積層装置140とを含む。
【0018】
プラットフォーム110は、例えば、平板形状の基台である。プラットフォーム110は、ステージとも呼ばれる。本実施形態において、プラットフォーム110の上面は、水平方向に延在する平面である。平面とは、例えば、JIS B 0621:1984「幾何偏差の定義及び表示」において規定される平面度が、0.1mmであることである。プラットフォーム110は、例えば、アルミニウム、鋼鉄等の金属、または、ガラスで構成される。
【0019】
調整部120は、プラットフォーム110の高さを調整する。
【0020】
プラットフォームシート130は、プラットフォーム110上に設けられる。プラットフォームシート130とプラットフォーム110との接触面積は、プラットフォームシート130と造形物M(第1層)との接触面積よりも大きい。プラットフォームシート130については、後に詳述する。
【0021】
積層装置140は、ノズル146によって、溶融状態の第1樹脂材料R1をプラットフォームシート130上に押し付けながら供給して、第1樹脂材料R1の硬化物の層を積層することにより、第1樹脂材料R1の硬化物からなる造形物Mをプラットフォームシート130上に形成する。つまり、プラットフォームシート130は、プラットフォーム110と、造形物Mとの間に介在する。
【0022】
第1樹脂材料R1は、熱可塑性樹脂である。第1樹脂材料R1は、例えば、ポリ乳酸、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等である。
【0023】
本実施形態において、積層装置140は、例えば、ヘッド部142を含む。ヘッド部142は、不図示の移動機構によって、例えば、水平方向(
図1中、X方向、および、Y方向)に移動される。ヘッド部142は、ヒータ144と、ノズル146とを有する。
【0024】
ヒータ144は、ノズル146の外周を囲うように設けられる。ヒータ144は、ノズル146内の第1樹脂材料R1を加熱して溶融(熱溶融)させる。ノズル146は、溶融させた第1樹脂材料R1をプラットフォームシート130上に押し付けながら供給する。
【0025】
[プラットフォームシート130]
続いて、本実施形態に係るプラットフォームシート130について説明する。
図2は、本実施形態に係るプラットフォームシート130の断面図である。
図2に示すように、本実施形態に係るプラットフォームシート130は、シート基材132および複数の粒子134を備える。
【0026】
シート基材132は、シート状である。シート基材132の厚み(
図2中、Z方向の長さ)は、例えば、0.1mm以上10.0mmである。
【0027】
シート基材132は、第1樹脂材料R1とは異なる第2樹脂材料R2の硬化物からなる。第2樹脂材料R2は、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエステル、ポリビニルピロリドンである。ポリビニルピロリドンは、固形ノリの主成分である。
【0028】
複数の粒子134は、シート基材132中に含まれる。プラットフォームシート130において、複数の粒子134の一部は、造形物Mが積層される側のシート基材132の表面132aに露出している。粒子134は、第3樹脂材料R3の硬化物からなる。
【0029】
造形物Mを形成する第1樹脂材料R1の硬化物と、粒子134を形成する第3樹脂材料R3の硬化物との間の剥離力は、造形物Mを形成する第1樹脂材料R1の硬化物と、シート基材132を形成する第2樹脂材料R2の硬化物との間の剥離力よりも大きい。剥離力は、例えば、JIS K 6850「接着剤-剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法」に準拠して測定される剪断剥離力である。
【0030】
粒子134を形成する第3樹脂材料R3は、造形物Mを形成する第1樹脂材料R1と同じ樹脂材料であることが好ましい。詳しくは後述するが、第3樹脂材料R3が第1樹脂材料R1と同じ樹脂材料であることにより、ノズル146から押し出された溶融状態の第1樹脂材料R1を、粒子134に容易に溶着(融着)させることができる。
【0031】
シート基材132中の粒子134の含有率は、例えば、20体積%以上30体積%以下である。粒子134の含有率が20体積%以下であると、シート基材132の表面132aに露出する粒子134の数が少なくなってしまう。この場合、ノズル146から押し出された溶融状態の第1樹脂材料R1に熱接着(溶着)される粒子134が少なくなり、溶融状態の第1樹脂材料R1が、移動するノズル146に引きずられてしまうおそれがある。一方、粒子134の含有率が30体積%超であると、シート基材132の表面132aに露出する粒子134が多すぎてしまう。この場合、ノズル146から押し出された溶融状態の第1樹脂材料R1に熱接着される粒子134が多くなり、プラットフォームシート130からの造形物Mの剥離が困難となるおそれがある。このため、シート基材132中の粒子134の含有率を20体積%以上30体積%以下とすることにより、溶融状態の第1樹脂材料R1を好適にプラットフォームシート130に熱接着するとともに、プラットフォームシート130からの造形物Mの剥離を容易にすることが可能となる。
【0032】
粒子134の形状は、例えば、球体である。粒子134の粒径は、例えば、0.5mm以上2mm以下である。
【0033】
また、シート基材132を形成する第2樹脂材料R2の硬化物は、粒子134を形成する第3樹脂材料R3の硬化物よりも高い耐熱性を有することが好ましい。これにより、ノズル146から押し出された溶融状態の第1樹脂材料R1の熱によるシート基材132の溶融を抑制することができる。したがって、プラットフォームシート130からの造形物Mの剥離を容易にすることが可能となる。
【0034】
また、シート基材132における表面132aの逆側の裏面132bは、プラットフォーム110に接触する。このため、裏面132bは、滑らかな平面であることが好ましい。例えば、裏面132bは、ヤスリ等によって研磨されてもよい。
【0035】
[熱溶解積層方式の三次元積層造形方法]
続いて、三次元積層造形装置100を用いた熱溶解積層方式の三次元積層造形方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る三次元積層造形方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【0036】
図3に示すように、本実施形態に係る三次元積層造形方法は、準備工程S110、造形工程S120、剥離工程S130を含む。
【0037】
[準備工程S110]
準備工程S110は、プラットフォーム110上にプラットフォームシート130を設置する工程である。準備工程S110では、プラットフォームシート130のシート基材132の表面132aがヘッド部142側に配されるように、プラットフォームシート130がプラットフォーム110上に設置される。準備工程S110は、例えば、三次元積層造形装置100によって造形物Mを形成する度に行われる。つまり、三次元積層造形装置100によって1の造形物Mを形成する度に、新たなプラットフォームシート130がプラットフォーム110上に設置される。
【0038】
[造形工程S120]
造形工程S120は、ノズル146によって、溶融状態の第1樹脂材料R1をプラットフォームシート130上に押し付けながら供給して、第1樹脂材料R1の硬化物の層を積層することにより、第1樹脂材料R1の硬化物からなる造形物Mをプラットフォームシート130上に形成する工程である。
【0039】
造形工程S120では、まず、プラットフォームシート130とノズル146との間の距離が所定距離となるように、調整部120によってプラットフォーム110を鉛直方向に移動させる。そして、ヒータ144によって第1樹脂材料R1を加熱して溶融させるとともに、移動機構によりヘッド部142を水平方向に移動させ、ノズル146によって、溶融状態の第1樹脂材料R1をプラットフォームシート130上に押し付けながら供給して、溶融状態の第1樹脂材料R1からなる第1層を形成する。
【0040】
この際、プラットフォームシート130に押し付けられた溶融状態の第1樹脂材料R1が有する熱により、プラットフォームシート130の表面132aに露出した粒子134が溶融し、溶融状態の第1樹脂材料R1と溶融した粒子134とが熱接着(溶着)する。これにより、造形物M(第1層)とプラットフォームシート130の接合面MSにおいて、造形物Mを形成する第1樹脂材料R1の硬化物と粒子134を形成する第3樹脂材料R3の硬化物との間の剥離力が、造形物Mを形成する第1樹脂材料R1の硬化物とシート基材132を形成する第2樹脂材料R2の硬化物との間の剥離力よりも大きくなる。こうして、造形物Mの接合面MSがプラットフォームシート130に固定される。
【0041】
溶融状態の第1層の形成が終了したら、例えば、空冷、空気以外の冷却媒体の供給によって第1層が硬化するまで待機する。第1層が硬化したら、第1層とノズル146との間の距離が所定距離となるように、調整部120によってプラットフォーム110を鉛直方向に移動させる。
【0042】
そして、ヒータ144によって第1樹脂材料R1を加熱して溶融させるとともに、移動機構によりヘッド部142を水平方向に移動させ、ノズル146によって、溶融状態の第1樹脂材料R1を第1層上に押し付けながら供給して、溶融状態の第1樹脂材料R1からなる第2層を形成する。以降、積層された層の上に層が順次形成され、立体の造形物Mが作製される。
【0043】
[剥離工程S130]
剥離工程S130は、造形物Mをプラットフォームシート130から剥離する工程である。
【0044】
このように、準備工程S110、造形工程S120、および、剥離工程S130を行うことにより、造形物Mが製造される。
【0045】
[プラットフォームシート130による効果]
造形工程S120において、溶融状態の第1樹脂材料R1を空冷によって硬化させる際、熱収縮が生じ、第1層に引張応力が発生する。同様に、第2層以降の層においても、空冷によって硬化させる際、熱収縮が生じ、層に引張応力が発生する。ここで、第1層とプラットフォームシート130との間の剥離力F2が、第1層とプラットフォーム110との間の剥離力F1よりも小さい場合、または、プラットフォームシート130とプラットフォーム110との間の剥離力F3が、第1層とプラットフォーム110との間の剥離力F1よりも小さい場合、造形工程S120を行っている間、層に生じた引張応力により、第1層がプラットフォームシート130から剥離してしまう。
【0046】
そこで、本実施形態に係るプラットフォームシート130は、第1樹脂材料R1と異なる第2樹脂材料R2の硬化物からなるシート基材132と、シート基材132中に含まれ、第3樹脂材料R3の硬化物からなる複数の粒子134と、を備え、複数の粒子134の一部は、造形物Mが積層される側のシート基材132の表面132aに露出しており、造形物Mを形成する第1樹脂材料R1の硬化物と粒子134を形成する第3樹脂材料R3の硬化物との間の剥離力は、造形物Mを形成する第1樹脂材料R1の硬化物とシート基材132を形成する第2樹脂材料R2の硬化物との間の剥離力よりも大きい。
【0047】
粒子134は、シート基材132に埋め込まれているため、シート基材132と粒子134との間の剥離力F4は、第1層とプラットフォーム110との間の剥離力F1よりも大きい。また、上記のように、プラットフォームシート130上に第1層を形成する際、溶融状態の第1樹脂材料R1が有する熱により、プラットフォームシート130の表面132aに露出した粒子134が溶融し、溶融状態の第1樹脂材料R1と溶融した粒子134とが熱接着(溶着)する。このため、第1層と粒子134との間の剥離力F5は、第1層とプラットフォーム110との間の剥離力F1よりも大きい。したがって、第1層とプラットフォームシート130との間の剥離力F2は、第1層とプラットフォーム110との間の剥離力F1よりも大きくなる。したがって、本実施形態に係るプラットフォームシート130は、造形工程S120を行っている間、プラットフォームシート130からの第1層の剥離を抑制することが可能となる。
【0048】
また、溶融状態の第1樹脂材料R1と溶融した粒子134とが熱接着されるため、第1層に熱接着された粒子134によって第1層がシート基材132内に係止されることになる(アンカー効果)。これにより、造形工程S120において、溶融状態の第1樹脂材料R1が、移動するノズル146に引きずられてしまう事態を回避することができる。したがって、第1層を所望する形状に形成することが可能となる。
【0049】
また、上記のように、本実施形態に係るプラットフォームシート130において、第1樹脂材料R1の硬化物と第3樹脂材料R3の硬化物との間の剥離力は、第1樹脂材料R1の硬化物と第2樹脂材料R2の硬化物との間の剥離力よりも大きい。このため、第1層とプラットフォームシート130との接合面MS、つまり、造形物Mとプラットフォームシート130との接合面MSにおいて、第1樹脂材料R1の硬化物との間の剥離力が大きい領域と、第1樹脂材料R1の硬化物との間の剥離力が小さい領域とが設けられることになる。これにより、第3樹脂材料R3のみで構成される比較例のプラットフォームシートと比較して、剥離工程S130において、完成した造形物Mをプラットフォームシート130から容易に剥離させることが可能となる。
【0050】
このように、本実施形態に係るプラットフォームシート130は、造形工程S120におけるプラットフォームシート130からの造形物M(第1層)の剥離の抑制と、剥離工程S130におけるプラットフォームシート130からの造形物Mの剥離容易性とを両立することが可能となる。
【0051】
また、上記のように、粒子134を形成する第3樹脂材料R3は、造形物Mを形成する第1樹脂材料R1と同じ樹脂材料であることが好ましい。これにより、ノズル146から押し出された溶融状態の第1層(第1樹脂材料R1)を、粒子134に容易に溶着させることができる。溶着された粒子134による第1層のアンカー効果を高めることが可能となる。
【0052】
また、上記のように、シート基材132を形成する第2樹脂材料R2の硬化物は、粒子134を形成する第3樹脂材料R3の硬化物よりも高い耐熱性を有することが好ましい。これにより、ノズル146から押し出された溶融状態の第1樹脂材料R1の熱によるシート基材132の溶融を抑制することができる。したがって、剥離工程S130において、プラットフォームシート130からの造形物Mの剥離をさらに容易にすることが可能となる。
【0053】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0054】
例えば、上記実施形態において、プラットフォーム110の上面が平面である場合を例に挙げた。しかし、プラットフォーム110の上面は、縁から中央部分に向かって鉛直下方に湾曲する凹状の湾曲形状、または、縁から中央部分に向かって鉛直上方に湾曲する凸状の湾曲形状であってもよい。この場合であっても、造形物Mを形成する第1樹脂材料R1の硬化物と、粒子134を形成する第3樹脂材料R3の硬化物との間の剥離力は、造形物Mを形成する第1樹脂材料R1の硬化物と、シート基材132を形成する第2樹脂材料R2の硬化物との間の剥離力よりも大きい。プラットフォーム110の上面が湾曲形状である場合の剥離力は、例えば、JIS K 6854「接着剤-はく離接着強さ試験方法」に準拠して測定される90度剥離力、または、180度剥離力である。
【0055】
また、第1樹脂材料R1、第2樹脂材料R2、および、第3樹脂材料R3のうちのいずれか1または複数の樹脂材料には、添加剤が含まれていてもよい。添加剤は、例えば、酸化防止剤、蛍光体、可塑剤、消泡剤、揺変剤、離型剤等である。
【0056】
また、プラットフォームシート230に接着層240が設けられていてもよい。
図4は、変形例に係るプラットフォームシート230の断面図である。
図4に示すように、変形例に係るプラットフォームシート230は、シート基材132と、粒子134と、接着層240とで構成される。
【0057】
接着層240は、シート基材132における裏面132bに積層される。つまり、プラットフォームシート230は、シート基材132と、接着層240との2層構造である。
【0058】
接着層240は、シート基材132とプラットフォーム110とを接着する。接着層240とプラットフォーム110との間の剥離力は、シート基材132とプラットフォーム110との間の剥離力より大きいことが好ましい。接着層240を備えることにより、シート基材132をプラットフォーム110に固定することが可能となる。
【0059】
また、準備工程S110において、製造されたプラットフォームシート130をプラットフォーム110上に載置してもよいし、プラットフォーム110上においてプラットフォームシート130を製造してもよい。後者の場合、例えば、固形ノリ等の未硬化の第2樹脂材料R2をプラットフォーム110上に供給し、プラットフォーム110上で未硬化の第2樹脂材料R2に複数の粒子134を混合する。そして、複数の粒子134が混合された未硬化の第2樹脂材料R2を層状に広げた後、未硬化の第2樹脂材料R2を硬化させる。
【符号の説明】
【0060】
100 三次元積層造形装置
110 プラットフォーム
130 プラットフォームシート
132 シート基材
132a 表面
134 粒子
140 積層装置
230 プラットフォームシート
M 造形物
MS 接合面
R1 第1樹脂材料
R2 第2樹脂材料
R3 第3樹脂材料